Contract
17. 契約総論
(1) 契約の成立
1)契約自由の原則
契約締結、契約内容、契約方式について契約当事者間で自由に決めることができるのは私法の基本原則ですが、旧法にxxの規定がなかったため新法はこれを明文化しました(契約締結の自由につき新法 521 条 1 項、契約内容の自由につき新法 521 条 2
項、契約方式の自由につき新法 522 条 2 項)。 2)成立要件
契約は、法律に特別の定めがない限り契約内容を示した申込みの意思表示に対し相手方が承諾の意思表示をしたときに成立するものと解されていますが、旧法にxxの規定がなかったため新法はこれを明文化しました(新法 522 条 1 項)。
承諾の期間の定めのある申込みについて、旧法は撤回することができないとしていますが(旧法 521 条)、新法は撤回することができないことを原則としつつ申込みを
撤回する権利を留保したときは撤回できることとしました(新法 523 条)。
承諾の期間の定めのない申込みについて、旧法は隔地者間の場合には申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは撤回することができないとしていますが(旧法 524 条)、新法は旧法同様相当な期間を経過するまでは申込みを撤回することができないとしつつ、申込者が撤回する権利を留保したときは撤回を認めました(新法 525 条 1 項)。また、対話者間での承諾の期間の定めのない申込みについて
は対話が継続している間はいつでも申込みを撤回できることとしました(同条 2 項)。対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときはその申込みは効力を失いますが、申込者が対話終了後も申込みの効力を失わない旨表示したときは効力を失いません(同条 3 項)。
旧法は、隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、または行為能力を喪失したときであっても有効であるとしつつ(旧法 97 条 2 項)、申込者が反対の意思を表示した場合、またはその相手方が申込者の死亡もしくは行為能力喪失の事実を知っていた場合には申込みは効力を有しないとしています(旧法 525 条)。新法は旧法の場合に加え、申込者が意思能力を有しない状況にある者となったとき、行為能力が制限された場合において申込者がその事実が生じたとすればその申込み は効力を有しない旨の意思を表示していたとき、または相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、申込みは効力を有しないこととしました(新法 526 条)。
3)契約成立の時期
旧法は意思表示の効力は到達時を基準とする到達主義を原則とし、例外的に隔地者間の契約の成立については承諾の発進時を基準とする発信主義をとっています(旧法 526 条 1 項)。しかし、旧法制定当時はともかく、迅速、確実な通信手段がある今日
でも例外的に発信主義を維持することには合理性がなく、新法は旧法 526 条 1 項の規定を削除し、意思表示については到達主義に一本化しました。承諾の通知の発信と申
込みの撤回の通知の到達の先後が問題となることがなくなるため、新法は申込みの撤回の通知が延着した場合について規定する旧法 527 条の規定も削除しました。
(2) 契約の効力 1)危険負担
双務契約において債務者の責めに帰すべき事由によらず履行不能となったとき、それと対価的関係にある債務も消滅するか否か(危険負担)という問題があります。対価的関係にある債務を消滅させてリスクを債務者に負担させることを債務者主義、消滅させずにリスクを債権者に負担させることを債権者主義と呼びます。旧法は債務者主義を原則としつつ(旧法 536 条 1 項)、特定物に関する物権の設定または移転を目
的とする双務契約においては例外的に債権者主義をとっています(旧法 534 条 1 項)。旧法によれば売買契約の目的物が買主に引き渡される前に滅失した場合、債権者主義により買主は売買代金を支払わなければなりません。しかし、契約当事者の意思としてはこのような場合に買主は売買代金を支払う必要はないとするのが通常であると解されることから、新法は債権者主義に関する規定(旧法 534 条、535 条)を削除しました。
新法は債務者主義をとることになりましたが、反対給付債務は消滅するのではなく、債権者が履行を拒絶することができることとされ(新法 536 条)、その結果、債権者 が契約を解除できない場合であっても債務の履行を拒絶できることになりました。
2)第三者のためにする契約
第三者のためにする契約とは、当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約する契約であり、旧法は第三者のためにする契約について規定を置いています
(旧法 537 条)。新法も第三者のためにする契約を許容しており、契約成立時に利益を享受する第三者が現に存在しない場合または第三者が特定していない場合であっても契約は有効に成立することを明文化しました(新法 537 条)。
新法は、第三者のためにする契約において、第三者の権利が発生した後に債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合に契約の相手方が契約を解除するには、第三者の承諾を要することとしました(新法 538 条 2 項)。
3)契約上の地位の移転
契約上の地位を第三者に移転させることについ旧法には規定がありませんが、実務上は問題なくできるものと解されます。新法は契約上の地位の移転についての規定を新設し、契約当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨を合意した場合において、その契約の相手方その譲渡を承諾したときに契約上の地位が第三者に移転することとしました(新法 539 条の 2)。
(3) 定型約款
新法は、定型取引について定型約款による合意についての規定を新設しました(新法 548 条の 2)。
定型取引とは、特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいい、定型約款とは定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体を指します(新法 548 条の 2 第 1 項)。身近な定型約款の具体例と
しては、鉄道、バスの運送取引における運送約款や、電気、ガスの供給契約における供 給約款、保険取引における保険約款などが挙げられます。労働契約は、相手方の個性が 重視されることから、契約書のひな形を使って契約したとしてもそのひな形は定型約款 には当たりません。定型取引の内容の一部について別段の合意をすることは可能であり、その別段の合意の部分については以下に挙げる定型約款に関する規律が適用されませ ん。
定型約款を契約の内容とする旨の合意があったとき、または定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたときは、定型取引をすることに合意した当事者は定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなされます(新法 548 条の 2 第 1 項各号)。ただし、定型約款の個別の条項のうち相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、定型取引の態様およびその実情ならびに取引上の社会通念に照らしてxxxに反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては合意をしなかったものとみなされます(同条 2 項)。
定型約款を準備した者は、定型取引合意の前または定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法xxx定型約款の内容を示さなければなりません(新法 548 条の 3 第 1 項)。定型約款準備者がその請求を拒んだと
きは、定型約款の個別の条項についてのみなし合意が否定されます(同条 2 項)。
定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合し、定型約款の変更が契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款を変更することがある旨の定めの有無およびその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、定型約款準備者は定型約款を変更することにより、変更後の定型約款の条項についても合意があったものとみなし、個別の相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができます(新法 548 条の 4 第 1 項)。定型約款準備者が定型約款を変更するときは、その効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨と変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならず(同条 2 項)、周知しなければ定型約款の内容変更の効力は生じま
せん(同条 3 項)。