界線は既設杭・鋲ラインより北側に45cmないし80cm物件内に後退したポイントを直線で結んだ線(以下「後退ライン」という。)とされ、面積が約9.68裃(公簿面 積の約4.77%に相当)減少していた。
盧 -筆界と所有権界-
筆界と異なる所有権界による引渡が売主の債務不履行とされた事例
(東京地判 平21・3・24 ウエストロージャパン) xx xx
土地を売却した売主が、買主が決済期限までに代金を支払わなかったとして、契約解除による違約金の請求を行ったが、買主は、売買代金を支払わなかったのは同時履行の抗弁権を行使したものであるとして、売買契約を解除した上で、売主に対し違約金等の支払を求めた事案において、売主が隣地所有者らとの間で合意した公法上の境界と異なる境界線を、本件売買契約における境界線と扱うことは出来ないことから、売主は買主に対する本件土地の引渡義務を果たしたとはいえないとして、売主の請求を棄却し、買主の請求を認容した事例(東京地裁 平21年3月24日判決売主請求棄却、買主請求認容 ウエストロージャパン)
1 事案の概要
平成19年12月28日、XY間で、X所有地につき、Xを売主、Yを買主、売買代金2億2千万円、実測清算条項付の売買契約を締結し、 Yは手付金1千万円を支払った。決済日は20年7月31日とし、中間金として1千万円の支払いがなされた。なお、売買契約に先立ち、売主は、昭和48年当時の測量図を示したが、この測量図では、南側の境界線は、既設の杭・鋲のあるポイントを直線で結んだ線(以下「既設杭・鋲ライン」という。)となっていた。
平成20年7月23日、Xは「現況地積測量図」をYに交付したが、この図面では、南側の境
界線は既設杭・鋲ラインよりxxに45cmないし80cm物件内に後退したポイントを直線で結んだ線(以下「後退ライン」という。)とされ、面積が約9.68裃(公簿面積の約4.77%に相当)減少していた。
Yは7月28日、Xに対し、南側境界線を既設杭・鋲ラインとした測量図を改めて作成し、また、所在不明なxx隣接私道の所有者を含む隣接地所有者全員が了承した境界確認書を同月31日までに交付するよう催告した。
7月31日、Xは、Yに対して本件売買契約の残代金2億円の支払いを要求し、これに対し、Yは、本件土地全部の引渡と所有権移転登記債務が履行されていないと、同時履行の抗弁を主張して残代金の支払をしなかった。平成20年8月4日、YはXに対し、Xの債 務不履行に基づいて本件売買契約を解除する旨を通知するとともに、支払い済みの金員及
び違約金4400万円を支払うよう請求した。 平成20年9月1日、XはYに対し、Yの債
務不履行に基づいて本件売買契約を解除する旨を通知し、手付金・中間金は違約金の一部に充当し、違約金残金を支払うよう請求した。
2 判決の要旨
裁判所は次のとおり判示した。
盧 土地売買契約における境界の取り扱い
① 売買契約の対象が土地である場合、表示登記に基づいた地番をもってこれを特定することが多いところ、これら地番ごとに特定さ
れる土地は公法上の境界ないし筆界(以下
「筆界」という。)によって区画されるもので あるから、このような場合に用いられる「境界」とは、本来、筆界を指すものと解される。かかる筆界は、国家が形成した公的な性質を有し、これを変更するには合筆・分筆等の手続きを行うことが必須であって、私人の合意等によって自由に変更することは出来ない。他方、筆界とは区別されるものとして、所 有権などの私権の境目としての土地の境界を指す私法上の境界(以下「所有権界」という。)がある。かかる所有権界は、一筆の土地の一部について所有権が処分され、あるいは時効取得の完成によって、合筆・分筆等の手続きの無いまま変動することがあり得ることから、必ずしも筆界と一致するとは限らないし、法的ないし論理的には筆界と区別されるものである。しかし、所有権界は元々は筆界と一致していたし、一致することが望ましいと考えられる上、実際に一致する例も多いこと、法的にはともかく、一般にはこれらを明確に区別する考え方が普及しているとも言い難いことなどに照らすと、売買契約等にいう「境界」とは、本来は筆界を指すものの、筆界と一致するはずの所有権界をも併せて示す用語として用いられていることが多いものと解さ
れる。
② 売主が隣接地所有者等との協議をして境界について合意をしても、それは所有権界についての合意であり、筆界を定める効力を有するものではないものの、上記のとおり、筆界と所有権界とは一致することも多いこと、仮にかかる合意によって定められた所有権界と筆界が相違していても、特段の事情のない限り、所有権界と筆界とに挟まれた土地は一方から他方へ譲渡されるとの暗黙の合意をしたものと認められることから(大阪高裁昭和 38年11月29日判決)、隣接地所有者等との紛
争予防に有効な方法として採用されているものと解される。
ただし、売買対象物たる土地が、あくまでも筆界(あるいはこれと一致する所有権界)によって画される範囲の土地として特定されている以上、売主においては、筆界に一致する所有権界を合意することが予定されているのであって、買主の承諾があるなどの特段の事情のない限り、筆界とは明らかに異なる所有権界を合意し、売買対象物たる土地の範囲をいたずらに変動させることまで認められているものとはいえない。
盪 本件売買契約における「境界」の意義本件売買契約が、Xに対し、隣接地所有者 等との協議によって所有権界を明らかにする方法によって境界を明らかにすることを認め
ていても、その範囲には自ずと限界があり、本来の筆界に沿った所有権界を合意することが予定されているといわなければならない。南側境界線を後退ラインとした場合、分筆 登記を行わなければ、xx部分の所有権移転登記手続きを行うことも出来ないと考えられることからすると、かかるラインで合意することが売主たるXに与えられた裁量の範囲内
で処理できるものであるとは言い難い。
蘯 以上によれば、Xは、本件売買契約の売主としての本件土地の所有権移転登記義務の履行を怠ったものと認められる。
3 まとめ
本判決は、筆界と所有権界の異同をわかりやすく論じたものである。
旧測量図と新測量図で境界線が大きく異なりそうな場合は、売主は、買主に早めに報告し、トラブルを避けることが必要である。
(調査研究部調査役)
盪 -媒介③者の説明義務-
xx③者は買主に将来所有権紛争等が起きる可能性があることを説明する義務があるとされた事例
(東京地判 平22・3・9 ウエストロー・ジャパン) xx xx
いわゆる公図混乱地域における土地を購入した買主が公図上の土地所有者から土地明渡しを求められたことから、売主及び仲介業者に対し契約解除、損害賠償等を求めた事案において、将来所有権をめぐる紛争が生じる可能性が存することは瑕疵であるとして、仲介業者に対する説明義務違反を理由とする損害賠償請求の一部を認め、売主に対する契約解除及び損害賠償請求等は、当該瑕疵は売買目的を達成できない程ではなく、また損害賠償請求権は除斥期間経過により消滅しているとしてその請求を棄却した事例(東京地裁 平 22年3月9日判決 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
売主Y1は昭和36年に購入し使用していた本件土地「地番 イ 」(概略図参照)について、平成12年5月に仲介業者Y2の媒介にて買主
Ⅹに2,200万円で売却した。
ところが、平成19年7月、本件土地の隣地
「地番ロ 」を平成19年1月に購入したAより、本件土地の大部分が公図上「地番ロ 」に含まれているとして、本件土地の明渡し及び同年2月より本物件明渡しまで月15万円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める通知書がX宛てに送付された。
XはY1に対し、「①本件売買は詐欺である。②本件土地の登記移転義務の債務不履行がある。③本件土地は全部他人物又は一部他
人物であり担保責任がある。④本件土地において公図と現況に齟齬があることは瑕疵である。」を理由として本件契約を取消し又は解除をしたとし、Y2に対しては、本件売買において本件土地の権利関係に問題があること等をⅩに説明する仲介業者としての義務を怠ったとして、売買代金相当額その他の取引費用合計2,298万円余の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。
2 判決の要旨
裁判所は以下のように判示し、XのY1に対する請求を棄却し、Y2に対する請求を一部容認した。
x Y1の本件売買に係る欺罔行為・債務不履行の有無、他人物売買か否か Y1は、本件土地を「地番イ 」の土地で
あるとして購入し本件売買に至るまで、約40年間にわたり周辺土地所有者との所有権紛争もなく本件土地を使用していたと認められる。周辺の状況により本件土地は「地番 イ 」 か「地番ロ 」のいずれかの可能性が高いが、
公図、住宅地図、航空写真を比べると、公図上の「地番イ 」及び「地番ロ 」の土地の形状は、現在の土地使用状況と明らかに異なっており、公図上の土地の位置関係及び形状がその権利関係を正確に反映しているとはいい難い。また、本件土地の地番がイ ではなく Y1が本件土地の所有権を有していなかったとする証拠はない。
したがって、X主張の欺罔行為、債務不履行があったとは認められないし、他人物売買であったとも認められない。
盪 土地瑕疵の存否とY1の瑕疵担保責任 本件土地の地番がイ かロ か確定できない
こと、Xが「地番ロ 」の土地の登記を有するAから本件土地の明渡し等を請求されていることから、本件売買当時、本件土地は将来所有権紛争が生じる可能性があったものであり、売買取引をするについて通常有すべき性能を備えていないものであったといえるから、本件土地には瑕疵があったものと認められる。
しかし、Xは本件土地において駐車場業を営み収益を得ていること、本件土地の所有権紛争は本件売買から7年が経過しAがXに前記通知書を送付したころから顕在化したものであることから、当該瑕疵は売買目的を達成できない程のものとまでは認め難い。
また、平成17年9月の本件土地の隣地建物の裁判所執行官の現況調査において、Xは公図との齟齬を認識したと認められ、その後1年以内に損害賠償の請求をしなかったのであるから、除斥期間経過により損害賠償請求権は消滅したものといわざるを得ない。
蘯 Y2の説明義務違反の存否 Y2は、本件売買の仲介業務を受託した不
動産業者であるから、本件土地の権利関係に疑義が生じるおそれのあることを認識した場合、これをXに説明する注意義務を負っていたと認められる。Y2は、Xに本件土地周辺の公図及び現況求積図を手渡したものの、将来所有権をめぐる紛争が生じる可能性が存することを説明しなかったのであるから、仲介契約に基づく注意義務を怠ったものと認められる。
盻 Xの損害及び結論 Xは本件土地の所有権紛争に直面してお
り、建物の建築、本件土地の転売等の行為を一定の限度で事実上制限されるという損害を被っている一方、売買後約7年間にわたり本件土地を使用し現在も駐車場として収益をあげていることを考慮すると、Y2の債務不履行によるXの損害額は、本件売買代金の3割に相当する660万円であると認められる。
以上により、XのY1に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、XのY2に対する請求は、660万円及び遅延損害金についてこれを認める。
3 まとめ
公図が混乱している地域の不動産仲介は、本裁判例のように買主が将来権利関係の紛争に巻き込まれる可能性があることから、「売主に公図の訂正・隣地との境界確定などを求め、権利関係が明確であることを確認して取引をする。やむを得ず当該状況での取引とする場合は、紛争対応可能な買主に限り、重要事項説明書等で紛争の危険性について十分説明した上での取引とする」など慎重に対応することが必要であろう。
(調査研究部調査役)
<概略図>
公園
地番 イ(本件土地)地番 ロ
公図上の地番 イ
公図上の地番 ロ
蘯 -土地の瑕疵責任-
分譲地の地盤が軟弱であるのは瑕疵に当たるとして、瑕疵担保責任に基づき、土地改良費用の請求を認容した事例
(名古屋高判 平22・1・20 ウエストロー・ジャパン) xx xx
xxから本件土地を購入した買主らが、本件土地の地盤が軟弱で、建物建築に適さず、地盤改良工事が必要であったとして、本件地盤の軟弱性等に関する説明義務違反又は瑕疵担保責任に基づき、売主に対し、土地改良工事費用及び遅延損害金を請求した事案につき、地盤が軟弱であって、土地の隠れた瑕疵に当たるとして、請求の全部を認容した事例
(名古屋高裁 平成22年1月20日判決 取消、認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
x xxYは、平成16年12月22日買主Xらに対し、A団地内の1区画である本件土地を、宅地分譲の方式で、代金2,226万円で販売し、 Xらは、その上に本件建物を建築した。同契約に先立ちXが受領した本件パンフレットには「造成地のため地盤調査後、地盤改良が必要となる場合があります。」との本件記載がある。
盪 本件は、Xらが、Yから本件土地を購入したが、本件土地の地盤が軟弱で、建物建築に適さず(以下、それぞれ「本件地盤」、「本件瑕疵」という。)、地盤改良工事が必要だった旨主張して、本件地盤の軟弱性及びA団地内の他の区画の地盤改良工事の実施状況に関する説明義務違反又は瑕疵担保責任に基づき、Yに対し、湿式柱状改良工法で実施した本件工事費用合計252万円及び遅延損害金の支払いを求めて訴訟を提起した。
蘯 これに対し、Yは、①本件瑕疵の存在及び本件工事の必要性を否認するほか、②仮に本件瑕疵があるとしても、Yは本件パンフレットに本件記載をしていた等と主張して説明義務違反を争うとともに、③Xらは、本件地盤についてYに詳しく確認せず、独自の調査等もしていないから、本件瑕疵を知らなかった点につき過失がある旨主張して瑕疵担保責任等を争った。
盻 原審は、①買主Xは、売主Yの担当者から本件記載を読み上げて説明され、本件土地が造成地であることを知っており、代金 2,226万円を高額と考えていなかったことが窺われるから、本件土地の購入の適否を判断するのに必要な情報は提供されていた旨認定して、Yの説明義務違反を否定し、②本件地盤は強度が不十分といえなくはないが、Xは軟弱地の可能性が高いことを甘受して本件土地を購入しており、本件建物にはペントハウスやエレベーターがあり基礎をより強固にする必要性が窺われるうえ、より高度なDIP工法ではなく湿式柱状改良工法による地盤改良でも不具合は生じていないから、本件土地の地盤強度は、Xの想定範囲内にあった旨認定して、Yの瑕疵担保責任を否定し、Xらの請求を棄却した。これに対し、Xらが控訴した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示し、原判決を取消し、Xらの請求を認容した。
盧 本件地盤の強度等
① 本件土地の調査については、平成18年5月と10月、SS試験の方式で貫入試験を実施し、地盤の長期地耐力等を調査した。
② 上記の測定結果によれば、本件地盤には、特に砂質土の部分に、自沈ないし無回転といった支持力ゼロの箇所が、垂直方向にも水平方向にも相当程度の厚さと広さで広がっていることが推認され、地盤改良工事を実施しないままこれらの箇所に建物の荷重がかかると、地盤沈下が発生する可能性が高いと認められる。また、建物の荷重によって、本件土地各部の沈下量が異なり、不均等に沈下する不同沈下の現象が発生し、建物が傾斜したり、各部が歪んで損傷する可能性が高く、これを避けるためには、地盤改良工事を実施することが必要であったことが認められる。
盪 本件土地の瑕疵の有無
本件地盤には、支持力ゼロの部分を含む強度の軟弱な箇所が、垂直方向にも水平方向にも相当程度の厚さと広さで広がっており、そのまま本件土地上に建物を建築した場合には、不同沈下等が発生する可能性が高く、現に本件では、特に大規模大重量ではない通常の範囲内の建物(木造枠組工法による2階建居宅)を建築するに当たり、湿式柱状改良工法で地盤改良を行なう必要があったと認められる。また、地盤が軟弱である可能性等を勘案して、一定の減額がなされたような形跡は窺うことができない。したがって、本件土地は、地盤改良を要するという瑕疵があったというべきである。
蘯 隠れた瑕疵か否か
買主Xらが本件売買契約時に本件パンフレットの本件記載に十分留意しなかった面はあるものの、その記載自体、本件土地に地盤改良工事を要するような瑕疵があることを明示するものではなく、売主Yすら、地盤改良工
事を要するかもしれない程度のあいまいな認識しか有していなかったことを踏まえると、 Xらが、本件土地に地盤改良を要するような瑕疵があることを知らなかったことに過失があるということはできず、上記の瑕疵は隠れたものであったと認められる。
盻 瑕疵担保責任の有無・内容
そうすると、本件土地には、その性状に隠れた瑕疵があるというのが相当であり、売主 Yには、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、買主Xに対し、本件工事費用252万円及び遅延損害金の支払義務があるというのが相当である。
3 まとめ
本件は、被告である売主が最高裁への上告を断念したため、「売主に土地改良工事を負担する責任がある」とした高裁判決が確定した。本判決では、パンフレットの記載内容が取り上げられており、裁判長は、「本件記載の内容があいまい」であるとし、「本件記載は、『造成地のため地盤調査後、地盤改良が必要となる場合があります。』というだけの簡単な記載であって、地盤改良の必要性が高いことを窺わせる具体的記載はないし、また
『買受後、買主において地盤改良をして下さい。』等の買主に地盤調査を依頼し、あるいはこれを義務づける旨や、地盤改良が必要となった場合の費用が買主負担となるから、販売価格が低額になっている旨や瑕疵担保請求権の放棄を意味する旨の記載もない。」と判示している。Yの主張のためには、「本件土地は、地盤改良工事を必要とする」旨を明示することを求めており、そういう意味で留意を要する。
(調査研究部xx調整役)
盻 -土地の瑕疵責任-
売買契約の目的物である土地の土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことが瑕疵にあたらないとされた事例
(最高裁 平22・6・1 ウエストロー・ジャパン) xx xx
売買契約の目的物である土地の土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから、このことが民法570条の瑕疵担保にあたると主張して、瑕疵担保による損害賠償を求めた事案において、瑕疵が認められないとした事例(最高裁第三小法廷 平成22年6月1日 破棄自判 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
xxxが建設中の舎人・ライナーに必要な用地の所有者Aに対して代替地を提供することとなり、その事務を受託した土地開発公社 X(原告・被上告人)は、平成3年3月15日、ふっ素機能商品の製作・販売を業とするY社
(被告・上告人)から本件土地を総額23億
3572万円余で買い受けた。 Xが平成3年2月20日に実施した土壌調査
の結果では、本件売買契約締結時には、本件土地の表層土にxxxの定める公用地取得に係る重金属等による汚染土壌の処理基準値を超える量の鉛、砒素及びカドミウムが含有されている部分があることが判明した。
xxxは、平成13年4月1日から施行された都民の健康と安全を確保する環境に関する条例で有害物資を定義した上、鉛、砒素、カドミウム、ふっ素、PCB等26種類の物質を当該有害物質として掲げ、当該土地の改変時に
おける改変者の義務について規定した。
そこでXが平成17年10月に追加調査した結果、平成3年調査で判明した物質以外にふっ素、PCBが含有されていることが判明した。 Xは平成18年7月5日、以上の事実を知っ たAが本件土地を代替地として受領することを拒否したため、汚染された土壌の掘削除去及び封じ込めを行った後、本件土地を公園用地として利用することとした。Xは、本件土地に隠れた瑕疵があったため損害を被ったと主張して、Yに対し、4億6000万円余の賠償を求めたところ、1審判決はこれを認めなかったので、控訴したところ、控訴裁判所はXの請求をほぼ全部認容した。これに対し、Yが上告受理申し立てをし、第三小法廷は、Y
敗訴部分を破棄し、Xの控訴を棄却した。
2 判決の要旨
x xxは、次のとおり判断して、被上告人の請求を一部認容した。
居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に、人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは、上記土地が通常備えるべき品質、性能に当たるというべきであるから、売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が、売買契約締結当時の取引観念上は有害であると認識されていな
かったが、その後、有害であると社会的に認識されたため、新たに法令に基づく規制の対象となった場合であっても、当該物質が上記の限度を超えて上記土地の土壌に含まれていたことは、民法570条にいう瑕疵に当たると解するのが相当である。したがって、本件土地の土壌にふっ素が上記の限度を超えて含まれていたことは、上記瑕疵に当たるというべきである。
盪 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ、前記事実関係によれば、本件売買契約締結当時、取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず、被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり、ふっ素が、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として、法令に基づく規制の対象となったのは、本件売買契約締結後であったというのである。そして、本件売買契約の当事者間において、本件土地が備えるべき属性として、その土壌に、ふっ素が含まれていないことや、本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず、人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると、本件売買契約締結当時の取引観念上、それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について、本件売買契約の当事者間において、
それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず、本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても、そのことは、民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。
3 まとめ
東京高裁において、平成20年9月25日に売買契約の目的物である土地の土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことが、民法570条の瑕疵にあたるとの判決がなされた(RETIO 74号参照)ことから、最高裁の判断が俟たれた事例である。
学説上、通説では、民法570条の瑕疵については、「何が欠陥かは、当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか、契約の趣旨によっても決まる。つまり、契約当事者がどのような品質・性能を予定しているかが重要な基準を提供することになる。…このように当事者の合意を重視する考え方を主観説といい、当該目的物の客観的な品質・性能基準で判断する客観説と対比されるが、主観説が妥当である」(「民法Ⅱ(第2版)」 P132 xxx)とされ、判例も主観説を採っているとされているところである。本判決も同様の観点からなされていることから、最高裁があらためて、民法570条の瑕疵の考え方を明らかにしたものとして重要な意義を有する。
(研究理事・調査研究部長)
眈 -建物の瑕疵責任-
残金支払前の建物調査でシロアリ被害等が発見されたことについて、売主と仲介③者に対する買主の損害賠償請求を否定した事例
(東京地裁 平22・3・10 ウエストロー・ジャパン) xx x
戸建の売買契約において、建物に修復困難なシロアリ被害等が残金前に発見されたにもかかわらず、売主は買主に対する保護義務あるいはxxx上の義務に違反したとして、買主が売主に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求し、同時に仲介業者に対しても媒介契約の債務不履行等に基づく損害賠償を請求した(本訴)。一方、売主は、売買契約の違約金条項に基づき違約金の支払いを求めた
(反訴)。判決は、建物が無価値と評価される程のシロアリ被害を認めるに足りる的確な証拠はなく、売主および仲介業者に債務不履行は認められないとして、買主の本訴請求を棄却し、売主の反訴請求を認容した事例 (東京地裁 平成22年3月10日判決 本訴請求棄却 反訴認容 ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Xと売主Y1は、仲介業者Y2の仲介で、平成20年11月29日に中古戸建の売買契約を下記の内容で契約した。
①代金:7400万円、②支払方法:契約時に
300万円、平成21年1月9日限り7100万円、
③引渡日:売買代金全額支払時、④違約金:上記代金の10%相当額
同年12月20日、X並びにX依頼に係るシロアリ業者及び建築士は、Y2担当者立会の下建物の調査を行い、シロアリ被害が判明した。
平成21年1月9日、Xは残金決済に応じな かった。そこで、Y1は同日ころ、Xに対し、
同月30日までに残代金を支払うよう請求するとともに、支払いがない場合には売買契約を解除する旨の意思表示をした。
同月15日ころ、XはY1に対し、Y1の債務不履行を理由に売買契約を解除する旨の意思表示をした。
以上のような経緯から、XはY1に対し 1040万円及び遅延損害金の支払いと、Y2に対しては、259万円及び遅延損害金の支払いを求める訴訟を提起し、一方Y1はXに対し、 440万円及び遅延損害金の支払いを求める訴訟(反訴)を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のとおり判示した。
x 本訴について
①Y1に対する損害賠償請求に関して Xは、ひどい雨漏りと修復困難なシロアリ
被害が発見され、被害の程度は、建物として無価値と評価される程に達していると主張する。しかし、雨漏りについてはそれを認めるに足りる的確な証拠はない。また、シロアリ被害は、建物の躯体外壁材を固定する際に釘を受ける材(同縁)がシロアリに食われていたというにすぎず、基礎や柱等に全く被害が発生していない等の事情に照らすと、シロアリ被害の程度が建物として無価値と評価されるほどに達していたとは到底言えない。
Xは、Y1がシロアリ被害等の程度を確認した上、その被害が補修可能なものであるか
否か、補修工事の意思や資力があるかをXに対して示すべき保護義務あるいはxxx上の義務を負っていたにもかかわらず、それを怠ったと主張する。しかし、Y1は平成20年12月23日、費用がどれだけかかろうとも、建物を修復してXに引き渡す意向を明らかにし、 Y2担当者が、同日発送の手紙でXに対し上記意向を伝えた等の事情を鑑みれば、Y1が保護義務ないしxxx上の義務を負うものと解すべきか否かはさておき、少なくとも、Y
1は、売買契約に基づく債務の履行に向けて誠実に対応しており、Xに対する債務の不履行と目すべき事情は、特に見出し得ない。
シロアリ駆除及び建物修復工事の見積金額
(211万8900円)は平成21年1月16日に明らかになっていたが、Y2担当者がXに対し伝えなかったことをもって、Y1のXに対する債務不履行とみることもできない。以上から、 XのY1に対する請求に理由はない。
②Y2に対する請求に関して Xは、Y2担当者は、i)Xが、シロアリ
検査の実施後に売買契約を締結するように望んでいたのに、同検査の実施前に売買契約を締結させたとか、ii)契約締結を急がず慎重に行いたいと希望したXに対して平成20年11月中に契約しないと価格が上がるなどと述べて契約締結を急がせた等、Y2は債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害賠償債務を免れない旨主張する。しかし、i)の点については、シロアリ検査実施にあたっては、床下が15cm程しかないため、建物外壁を破壊し、点検口を新たに設けなければならない事情を鑑みれば、売買契約に先立って同検査実施を断念させたからといって、それをもって、Xに対する債務不履行に当たるとみることはできない。さらに、ii)の点について、たとえY2担当者から契約を急がされたとしても、それに応じなければ良いことなので、
これもXに対する債務不履行に当たるものとみることはできない。上記i)ii)以外にも、 XはY2の債務不履行責任や不法行為責任を問う事実がある旨証言するが、そのxxを裏付けるに足りる的確な証拠は見当たらないから、その証言はにわかに信用し難い。以上から、XのY2に対する請求に理由はない。
盪 反訴について Y1のXに対する契約解除は無効であり、
XがY1に対して残代金の支払いを怠ったことは債務不履行に当たるというべきである。これに対し、Xは、ひどい雨漏りと修復困難なシロアリ被害が発見され、その補修の可否やY1の修理代の支払い能力等が明らかにならない以上、残金支払いをしなくても債務不履行にはならないと主張する。しかし、シロアリ被害は建物の価値が無価値と評価されるほどに達しているものではなく、また、Y1は売買契約の履行に向けて誠実に対応していたのであり、それにもかかわらずXが上記残代金の支払いを拒んだのは、シロアリ被害が発生していていることが判明した平成20年12月20日以降、X自身が本件売買契約を履行する意思を喪失したからであって、Xの上記主張は、採用できない。以上から、Y1の反訴請求は理由がある。
3 まとめ
判決資料からは、Xがシロアリ検査を契約前に希望していたことは事実のようであり、それがかなわないことに関して、関係者の間で、明確な説明や合意、書面化等が十分なされなかったことが窺われる。このようなトラブルを防止するためには、仲介業者は依頼者に対して、依頼者から要望を受けた場合、できることできないことを、その都度、理由とともに回答し、依頼者に誤解やいらぬ期待を抱かせないよう留意が必要であろう。
眇 -心理的瑕疵-
居住者が居室で睡眠薬による自殺を図り約2週間後に病院で死亡した不動産の売主の瑕疵担保責任が一部認められた事例
(東京地判 平21・6・26 ウェストロー・ジャパン) xx xx
本件は、売主から土地及び建物を2億2千万円で購入した買主が、購入後、建物内で自殺をした者がいることが判明したため、隠れた瑕疵が存在する又は、事前に売主から何の説明もなかったとして、売主に対して4400万円の損害賠償を請求した事案において、売買金額の1%にあたる220万円の損害額が認められた事例(東京地裁 平成21年6月26日判決 一部認容 ウェストロー・ジャパン)
1 事案の概要
買主Xは、平成17年12月2日、売主Yから、代金2億2千万円で、土地及び建物(以下、
「本件不動産」、建物だけを指すときは「本件建物」という。)を買い受けた(以下「本件売買契約」という。)が、Xが調査したところ、本件建物の7、8階に住んでいた元所有者(訴外C、以下「元所有者」という。)の娘が居室で睡眠薬を多量に飲んで病院に搬送され、約2週間後に病院で死亡したこと(以下「本件事故」という。)が判明したため、隠れたる瑕疵が存在していた又は、事前にYから何の説明もなかったとして、Yに対し、本件売買契約条項や民法570条等に基づき、 4400万円の損害賠償の支払いを求めたものである。
2 判決の要旨
裁判所は以下のとおり判示した。
①隠れた瑕疵の有無について
証拠によれば、平成16年1月ころ、本件不動産の元所有者の娘が睡眠薬を多量に飲んで救急車で病院に搬送され、入院して、その約
2週間後に同病院で死亡したという事実を認めることができる。
睡眠薬を多量に服用して病院に搬送され、病院で死亡したような場合には、社会的には自殺を試みたものと考えられるのが当然のことであり、死亡そのものは病院であったとしても、一般的には、死亡の原因となった行為がなされた場所で自殺したといわれることがあり、本件建物内で睡眠薬自殺があったといわれても、誤りとまではいえない。
問題は、本件睡眠薬自殺が本件建物の隠れた瑕疵に当たるか否かである。
ア 一般的に、民法570条が前提としている
「瑕疵」とは、客観的に目的物が通常有すべき性質、性能を有していないという物理的な欠陥だけではなく、目的物の通常の用法に従って利用することが心理的に妨げられるような主観的な欠陥をも含むものと理解するのが相当である。
イ 本件建物は、Xがこれを第三者に賃貸して賃料収入を得ることを目的として購入したものであるから、本件建物を賃貸する際に妨げとなったり、当然に得られるはずの賃料収入が得られないなどの原因となる欠陥があれば、それは本件建物の「瑕疵」に該当すると
いうべきところ、本件建物で自殺があったという事実は、賃貸を前提とする本件建物にとって「瑕疵」に該当するというべきである。ウ 本件においては自殺といっても、睡眠薬の服用によるもので、病院に搬送された後、約2週間程度は生存していたというのであって、本件建物内で直接死亡したというものではないから、瑕疵の程度としては軽微なものということができる。しかも、一般的には時間の経過とともに、心理的な抵抗感は薄れるものであるところ、Xが本件建物を取得した平成17年12月2日時点において、本件自殺から既に1年11か月が経過していたのであるから、「瑕疵」としては極めて軽微なものになっていたと認めるのが相当である。
②Yの調査説明義務違反の有無について
認定したとおり、本件自殺の事実は、限られた者だけが知っていた事実で、誰も公になるのを望まなかったため、いわば密に近い事実であったと考えるのが相当である。
上記の諸事情を勘案すれば、本件売買契約当時において、Yだけが本件自殺について当然に知り得たとするのは妥当ではなく、Yにおいて調査義務違反や説明義務違反があったとするXの主張を採用することはできない。そうすると、本件においてYに債務不履行 はないというべきであるから、本件売買契約
に基づく違約金の請求は理由がない。
③隠れた瑕疵に基づく担保責任について
本件売買契約書13条1項では「売主は、本物件の隠れたる瑕疵について責任を負う。」とされ、同4項では「売主は、本契約締結時に第1項の瑕疵の存在を知らなくても、本条の責任を負う。」と規定されているから、Yが本件売買契約当時、本件建物内で本件自殺があったことを知らなかったとしても、Xに対して、瑕疵担保責任を負うものとされていることは明らかである。
しかし、本件売買契約を解除するとのXの主張が当然に認められるというものではない。
本件では、過去に本件建物内で本件自殺があったという瑕疵が存在することによって、本件不動産を賃貸し賃料を取得して利益を上げるという本件売買契約の目的を達することができないとまで認めるに足りる証拠はないから、Xにおいて本件売買契約を解除することはできないというべきである。
Xは、本件売買金額2億2千万円は収益還元方式で決定されたものであるとした上、本件瑕疵ある不動産としての適正価格との差額や本件売買契約においてXが負担した金員等の合計4400万円が損害であると主張しているが、その計算根拠が明確ではなく、結局のところ、瑕疵の存在による適正な損害賠償を求めるということに帰着するものと考えられる。
認定事実を総合的に勘案すれば、本件自殺があったという本件建物の瑕疵は極めて軽微なものと判断されるから、これに基づく本件不動産の減価による損害額は、本件不動産の売買代金額の1パーセントに相当する220万円と認めるのが相当である。
3 まとめ
本件は、賃貸収入を目的とした投資用不動産の居室で、売買契約の1年11カ月前に睡眠薬自殺(約2週間後病院で死亡)があったケースにおける売主の瑕疵担保責任が一部認められた事例である。
本件では、瑕疵は極めて軽微とされ、不動産の減価による損害額を売買金額の1%と判断されたものであり、事例判決として実務上参考になると思われる。
(調査研究部xx調整役)