産業としてのビジネスモデル化を図っている。そして, かかる装置の取引の相手方に対する法的表現が約款である。約款を用いる企業は, かかる膨大な投資および設備を準備し, その背景の下で約款によることを条件に契約締結の意思表示を行っているものともいえる。それを軽々に否定されると, それが約款の中心的部分に関する場合には, ビジネスモデルの根幹が崩壊しかねない。また, 約款の付随的部分の問題であっても, 業態によっては, 相当の時間と投資を経ないとその変更に対応することができないものも数多い。そこで,...
xxx教授の約款論の現代的意義 論
民法改正とフランチャイズ契約に関する議論を中心に
説
x x x x
第 1 章 は じ め に
第1節 本稿の目的
本稿では, 恩師でもあり, xxxx先生のもとで民法を学んだ兄弟子でもあるxxx教授の民法理論が, 日本の民法xxにおいて果たした役割を検討すべく「普通約款の拘束力に関する一考察」関学24巻2号255 頁 (1973年)/xxx『法律行為・約款論の現代的展開─フランス法と日本法の比較研究』(法律文化社, 1995年) 所収, および「地震約款の拘束力についての一試論─最近の下級審判例を素材として─」関学49巻4号389頁 (1998年), 「生命保険契約における無催告失効条項の効力」関学66巻
2号15頁 (2015年) を分析し検討をする。
第2節 xxxxの問題意識
最初に, xxx『法律行為・約款論の現代的展開─フランス法と日本法の比較研究』(法律文化社, 1995年) の「はしがき」からxxxxの御研究における問題意識を分析する。
xxxxは, そのはしがきで,「現在 (1995年), 契約法の領域においては,「契約責任の拡大」や「契約への公権力の介入」といった伝統的市
民法の枠を越える諸現象を前にして,「契約の衰退」,「契約の再生」,「意
x x主義の復権」といった諸理論が活発に唱えられており, 今後の契約法の
井 あるべき姿が模索されている。それでは, 現代あるいは今後の契約法はど
x
授
教 のようなものとして捉えられるべきなのだろうか。また, そこにおける基
約
論
現
の 本原理は何に求めるべきなのであろうか。特に, 古典的市民法理論の中核款 であった「意思」は, なお契約法原理の中心たりうるのだろうか。」と,の 問題意識を述べられている。すなわち, xxxxは契約法の基本原理を探
代
的 るべく, 古典的市民法理論の中核であった「意思」が契約法理論の中核で
意
義 あり続けられるのか, 意思の役割について分析をされている。そして, そ
こから, 解釈学の議論を社会構造的・歴史的背景との関連で捉える, すなわち社会科学として民法学を研究することの重要性を主張されている。xxxxの問題意識の中核となるものは契約法理論における意思の役割であり, その解釈学の理論を社会構造的・歴史的背景との関連で捉えることである。
そこで本稿では, xxxxの御主張をふまえ, xxxxの約款を分析したい。
第3節 本稿の対象
第4章以降で詳細に取り上げるが, 現在,「民法改正 (債権関係) の改正に関するxxxx (以下, xxxxとする)」の約款論で議論されているのは, 約款による契約の法的拘束力の問題, 採用規制 (組入れ要件と不意打ち条項規制), 内容規制 (不当条項規制) である。
xxxxでは, 約款による契約の法的拘束力の根拠を(1)約款を包括的に用いることの合意, (2)契約締結より前に約款の内容を認識する機会が相手方に与えられていることとしている。
そこで, 本稿ではxx説に従って包括的合意と認識機会の確保を法的拘
束力の根拠とするのは正しいのかという組入要件の問題について検討した
い。そして, その上で, xxxxで議論のある不意打ち条項は必要か否か 論
について, さらには不意打ち条項規制と不当条項規制の関係についてもxx説に従って分析したい。xxxxでは, 不意打ち条項は, 組入れの合意
が及んでいないため, 契約の内容とはならないとしている。そして, 不意 説
打ち条項にあたるか否かは, 内容の不当性にかかわらず当該条項が当該契約類型において予測できるものであるか否かによって定まる点で, 不当条項にあたるか否かとは概念的に異なる。しかし, 不意打ち条項と不当条項は内容面で重なる点も多く, 不意打ち条項不要論も根強い。さらには, 採用規制の強調は必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう可能性があるという意見もある。果たして, xxxxは, これらの点をどのように評価しているであろうか。
なお, 2015年2月に取りまとめられた「民法 (債権関係) の改正に関する要綱 (以下, 民法改正要綱とする)」では, xxxxで個別の項目で取り上げられていた不意打ち条項や不当条項に関する条文は削除されており, 改正された民法において個別の項目として規定されることは, 現時点では無くなった。しかし, これは決して不意打ち条項や不当条項に関する規定が不要であるということではなく, 今後さらなる議論が求められてい
るという意味であると考える。この意思重視の傾向に対して, 経済界から
(1)
は民法典に約款の規定を設けることに対して慎重な意見もある。従って,
(1) 詳細は第5章参照。
なお,「近時の約款論は, 検討委員会の改正提案全般を含め, 当事者の個別具体的意思を重視する傾向に回帰していると感じられている。約款を用いて取引をする企業側からみれば, わが国の消費者を含む取引の相手方の高い要求水準とさまざまな技術水準が高まる中, 長引くデフレ傾向の経済環境下で合理化を図る一方, 莫大な投資によるシステム化により, 装置
これらの規制に関する議論はますます盛んになることが予想される。この
安 問題に関する議論を分析することは非常に意義のあることであろう。
x そして, 本稿の最後にxxxxの約款論の現代的意義を評価すべく, 筆
x
授
教 者の研究テーマであるフランチャイズ契約に対して, xx説が如何なる役
約
論
現
の 割を果たすのかを検討してみたい。我々の恩師であるxxxx先生は「約款 款による契約では, 個人 (附合者) は自分自身の要求・判断に基づいて,の 自己決定的に締結するとしても, 個々人のおかれた社会的状況, 全社会的
代
的 つながりからして, 自己の要求・判断自体ははじめから「社会」に組み込
意
義 まれている。個別契約と大量契約の差違は, 単に量的な違いではなく, そ
の背後には社会構造の質的変化があり, それは契約 (関係) 自体の一つの (質的) 変化に影響している。したがって, このような差違の質を十分に評価せずに契約をもって約款を説明するとき, 却ってその契約概念が抽象
(2)
的な内容のものとなり, 現実の法現象の一面しか把握し得なくなる。」と
産業としてのビジネスモデル化を図っている。そして, かかる装置の取引の相手方に対する法的表現が約款である。約款を用いる企業は, かかる膨大な投資および設備を準備し, その背景の下で約款によることを条件に契約締結の意思表示を行っているものともいえる。それを軽々に否定されると, それが約款の中心的部分に関する場合には, ビジネスモデルの根幹が崩壊しかねない。また, 約款の付随的部分の問題であっても, 業態によっては, 相当の時間と投資を経ないとその変更に対応することができないものも数多い。そこで, このような重みを背負った上で, 約款の使用を大前提の条件として約款使用者が行っている契約締結の意思と現実をもっと直視かつ重視してもらいたい。」という意見もある。xxxx「第1回 約款の総論的な問題について」NBL 934号10頁以下 (2010年)。
(2) xxxx「約款と法律行為論」関学39巻4号52頁以下 (1988年)。 xx先生は,「約款法の法的問題は, 基本的には, 約款使用者 (企業)
の一方的設定に対する社会的国家的な内容規制にあるといってよい。個々の顧客の契約を重視するとしても, それは顧客という社会的類型においての契約であり, しかも, 約款内容に対する規制と関連して, 企業における
約款による契約の問題の所在を分析されている。この点を鑑みながら, 現
代的な約款規制のあり方を考えるためにも, 民法改正の動き以外の現代的 論
な課題として, フランチャイズ契約における約款規制の問題を取り上げたい。xxxxの等価交換説が現在問題となっている契約法の様々な課題に
対して如何なる役割を果たしているのか, 各論的に考えるためである。 説
以上の通り, 民法学の現代的な課題に対してxxx教授の説がいかなる役割を果たすかについて考えることを本稿の目的とする。
第2章 わが国の判例通説と最近の裁判例
第1節 わが国の判例通説
まずは, xxx教授の分析に依拠して, 判例の立場である意思推定説が
(3)
形成されるまでを見ていく。
xxxxによると, 市民法的契約概念にxxに立脚しその法的拘束力を否定したのは, わずかに最初の約款判決である東京控訴院大正4年3月17日判決新聞1011号22頁である。本判決では「保険契約者はその知ると否とにかかわらず普通保険契約に拘束される」という保険会社の主張に対し,裁判所は保険会社が「契約締結前に被保険者に保険約款を公布し, また, 免責条項の存在を告知した事実がない」ことを重視して, 当該免責条項の
(4)
拘束力を否定した。
種々の付随義務, 社会的責任の強化への要求をまとう契約である。」と主張されている。
(3) xxx『法律行為・約款論の現代的展開』12頁以下 (法律文化社, 1995年)
(4) xxxxは, この大審院大正4年3月17日判決について,「具体的な約款内容に関する顧客の現実の認識を外しながらも, 顧客による約款使用の了解があったと推定する前提に, 約款の存在の開示を求めた点で, 一応の縛りはかけられていたが, それが約款の内容の開示までは不要とし, し
しかし, この見解は大審院で採用されていない。この東京控訴院大正4
安 年3月17日判決の上告審である大審院大正4年12月24日判決民録21巻
井 2185頁では,「いやしくも当事者双方が特に普通保険約款によらざる旨の
x
授
教 意思を表示せずして契約したる時は反証なき限りその約款によるの意思を
約
論
現
の もって契約したるものと推認すべきとす」と判示して当該約款の拘束力を款 認定している。すなわち, 保険契約が, 特別の場合を除いては, 保険会社の の定める普通保険約款により, また, 通常はその普通保険約款も内容を認
代
的 識されることになしに契約内容とされている世間一般の実情, および, 普
意
義 通保険約款による旨の記載がある申込書に保険契約者の任意の調印がある
ことをその理由として, 申込者の意思を推定し約款の拘束力を認定してい
(5)
る。これが意思推定説と呼ばれる現在の判例の立場である。
本判決の判旨は詳細であり, その影響は著しく, その後の判例は多かれ
(6)
少なかれその判旨を援用している。例えば, 運送契約においては約款の慣
かもそれを原則とした点で, 約款の採用規制が緩やかにしか機能しない構図は既にスタート時点から定まっていた。」と分析している。xxxx
「UCC 第二編改正作業における約款の「採用」規制の試み (1)」新潟37巻3・4号97頁 (2005年)
(5) xxxxは, この大審院大正15年6月12日判決について,「具体的な 当該条項の内容が契約締結前に開示されていなかったにもかかわらず, 顧 客が署名した申込書に約款による旨の記載がある (すなわち, 約款の存在 が開示されていた) ことで, 約款の採用規制を断念し, 専ら内容規制から のみこれにアプローチした。」と分析している。xx・前掲注(4), 97頁。
(6) この点につき, xxxxは「この判決の理論に対しては, 賛成の学説と反対の学説が対立していたが, その後の多くの学説は, 意思主義的かつ個人主義的であり, 他方で, 約款によらないで契約したことの反証が許されるとすることは法的安全性を害するという批判のもとに「意思の推定」理論の克服が目指された。」とその後の学説の動きを分析されている。xxxx「普通保険約款論(1)─その法的性格と内容的規制について─」法協96 巻9号1133 頁以下 (1979年)。学説の分類についてはxxxx「普通
用が世間一般に承認されていることを理由として, あるいは, 特に運送約
款に関してはその公示が法によって義務づけられていることを理由として, 論
判例は当事者の合意を推定ないし擬制し, 当該運送約款の拘束性を肯定している。
このように判例は, 約款使用の合意を推認ないし擬制している。 説
第2節 わが国の裁判例
次に, 最近 (1998年 (平成10年) 以降) の裁判例で示された規範を項目ごとに見ていく。
1 約款の拘束力
(1) 函館地判平成12年3月30日 (判例時報1720号33頁)
本判決において裁判所は,「本件のような普通保険約款が付された火災保険契約を締結するに際し, 当事者双方が特に普通保険約款によらない旨の意思を表示しないで契約を締結した時は, 反証の無い限り, その約款による意思をもって契約したものと推定される。」と意思推定説に従い, 本件においても,「原告らは, 本件各火災保険契約締結に当たり, 同契約に付された普通保険約款によらない旨の表示をせず, 普通保険約款による意思で契約を締結したものと推定され, 本件においては, その反証はないものというべきである。」と判断している。本件は, 意思推定説を採用している。
(2) 神戸地判平成14年3月26日 (LEX / DB 文献番号28071007)
本判決において裁判所は,「原告らは, 約款の開示論を主張し, 地震免
取引約款に関する類型的考察」法研39号127頁 (1998年) が詳しい。
責条項のように重大かつ不合理な条項は, 書面のみならず, 口頭でその内
x xを保険ないし共済契約申込者である原告らに説明し, 理解させない以上,
井 契約条項とならない旨」主張しているが, しかし,「被告らが主張するx
x
授
教 り火災保険契約ないし火災共済契約は収支相当の原則, 給付反対給付の原
約
論
現
の 則が働く, 技術的, 団体的な性質を有し, 画一化, 合理化に馴染む契約で款 あるから, 約款による附合契約によるべき典型的な契約類型というべきでの ある。また, 約款の個別条項である地震免責条項自体はともかく, 保険契
代
的 約ないし共済契約は普通保険約款や各団体規約等に従って契約内容が定ま
意
義 ることは一般に知られていて, かつ, 上記普通保険約款や各団体規約等の
内容が合理的であると一般に信頼されていることが推認される。」とし,
「したがって, 上記普通保険約款や各団体規約等に従って保険契約ないし共済契約がされた場合は, 特段の事情がない限り, 保険契約ないし共済契約の申込者は, 上記普通保険約款や各団体規約等に従う旨の意思を有すると推認するのが相当である (大正4年大審院判決)。」と判断している。以上の通り, 本件は, 意思推定説によっている。
(3) 神戸地判平成14年9月3日 (LEX / DB 文献番号28080062)
本判決において裁判所は,「火災保険契約は, 附合契約によるべき典型的な契約類型というべきであり, 約款の個別条項である地震免責条項自体を知っているか否かはさておき, 保険契約は普通保険約款に従って契約内容が定まることは一般に知られているところであり, かつ, 上記普通保険約款が合理的であると一般に知られていることは強く推定されるものである。したがって, 上記普通保険約款に従う旨の意思を有するものと推認するのが相当である。」と判例理論である意思推定説を採用している。
2 不意打ち条項
(1) 神 戸 地 判 平 成 14 年 3 月 26 日 (LEX / DB 文 献 番 号 28071007) 論
本判決において裁判所は「顧客の合理的期待を超えた「不意打ち条項」には, 約款によるとの意思の推定が及ばず, 契約内容とならないこと, 当
該規定が内容的に「異例」で,「不意打ち要因」がある場合に, 不意打ち 説
条項となると主張した上, 地震免責条項を免責とする部分は不意打ち条項であるから, 火災保険契約や火災共済契約とならず, 原告らを拘束しない旨」の原告の主張に対して, 次のように判断している。原告らの主張する不意打ち条項に関する一般的な見解を採用するとしても,「異例」と判断されるためには, その条項が, 約款による契約全体からして, 合理的な一般人において, 想定することを期待することが不可能であることが必要と解されるところ, 火災保険において, 異常危険について免責条項があること, 地震が異常危険に該当することを想定することは合理的な一般人に期待することが不可能とは言い難いこと, 地震によって, 直接, 間接に延焼,拡大が助長されることも想定され, それが地震との関連を有するとの見解が異例とも言い難いことからすると, 地震免責条項が不意打ち条項に該当するとは言い難い。」と判断している。
(2) 神戸地判平成14年9月3日 (LEX / DB 文献番号28080062)
本件において, 原告は, 地震免責条項は「不意打ち条項」に該当し, 約款の拘束力が否定されると主張したことに対して, 裁判所は,「約款の拘束力及び地震免責条項の有効性は, 火災保険発足時から認められてきたものであり, 地震免責条項の有効性の判断は, 約款中の条項を保険契約者の主観面における知, 不知を問題とするのではなく, 客観的合理性によって判断され, 客観的合理性がある限り, 約款の拘束力が認められているのである。」としたうえで,「不意打ち条項論は, 契約の外形から, 条項内容が
異常で非慣行的な場合に, その条項の拘束力を否定しようとするものであ
安 るところ, 地震免責条項は, 内容において異常でも非慣行的でもなく, 不
井 意打ちとはいえないから, 地震免責条項の拘束力が否定されることにはな
x
授
教 らない。」としている。
約
論
現
の 具体的には次のように述べている。「現行地震免責条項は, 約款変更の款 際 (昭和50年) に監督官庁により変更が認可され, 合理性を有しているの ものであるし, わが国においても, 立法あるいは約款上, 世界的に認めら
代
的 れているのである。また, 不意打ち条項論にいう「異常」と判断されるた
意
義 めには, その条項が約款による契約全体からして, 合理的な一般人におい
て想定することを期待することが不可能であることが必要と解されるところ, 火災保険において, 異常危険について免責条項があること, 地震が異常危険に該当することを想定することは, 合理的な一般人に期待することが不可能とはいいがたいことからすると, 地震免責条項が不意打ち条項に該当するとはいえない。」
3 約款開示論
(1) 函館地判平成12・3・30 (判例時報1720号33頁)
本判決において裁判所は, 地震免責条項及び地震保険についての一般的な情報開示説明義務の存否について, 次のように述べている。「火災保険契約の地震免責条項及び地震保険に係る情報について, 書面に分かりやすく明確に記載して, 契約申込書に交付した上で, 十分に説明して, その十分な理解を得て, 地震保険加入・不加入の意思決定の機会を与えるべき要請は高いのであるが, 他方では, 原告らが主張している一般的な情報開示説明義務の存在の法的評価の成立について, 消極に働く事情もあり・・・被告ら保険会社において, 右の情報提供の要望を右のような法的義務として直ちに把握することは困難な状況にあったことを指摘することができる。」
とし, 裁判所は, 少なくとも, 本件各火災保険契約締結時においては, 保
険会社ないし保険代理店の当該違反行為が損害賠償責任に直結するような 論
「一般的な情報開示説明義務」として, 右の情報提供の要望を捉えることは困難であるとした。このうえで裁判所は,「保険会社において, 火災保
険契約における地震免責条項及び地震保険に係る情報について, 火災保険 説
契約締結時に, 契約申込者に対して, 書面を交付して情報を開示し, 十分に説明して, 十分な理解を得るべき要請は強いのではあるが, この要請が損害賠償責任に直結する一般的な法的義務を構成すると解することは, 少なくとも, 平成5年7月発生の本件地震の以前における本件各火災保険契約締結時においては, 困難であるというべきであろう。したがって原告らの本件各火災保険契約締結時において一般的な情報開示説明義務が存在するという主張は, 採用することができない。」と判断している。
(2) 神戸地判平成14年3月26日 (LEX / DB 文献番号28071007)
本判決において裁判所は,「原告らが主張する開示論は, 約款等の個別的内容についての契約者の知, 不知を問題とし, 結局, 約款等に基づく附合契約を個別契約と同視するものであって相当でないから, 採用できない。」とし, さらには「原告らは, 普通約款の開示が要求される理由として, (1)商品内容の特定や(2)消費者の商品選択の自由の保障を挙げ, 特に, 地震免責条項の開示が必要な理由として, (3)旧募取法16条1項, (4)地震保険との関係を挙げるが, それらが, 直ちに, 原告らが主張する開示論ないし不意打ち論を裏付けるものではない。」と判断している。
(3) 神戸地判平成14年9月3日 (LEX / DB 文献番号28080062)
本判決において裁判所は,「被告保険会社は原告 (焼失不動産所有者である火災保険契約者) に対し, 火災保険約款中の地震免責条項につき, 被
告の解釈によれば地震による地盤の揺れが治まった後発生した火災で本件
安 建物が延焼した場合にも, 火災保険金が支払われないというような内容で
井 ある旨を開示したことはなく, このような場合には地震免責条項の拘束x
x
授
教 は否定される。」という原告の主張は約款の個別的内容についての契約者
約
の の知, 不知を問題とし, 結局, 約款に基づく附合契約を個別契約と同視す
論
款 るので採用できない」とした。
現
の そして, さらに次のように続ける。「火災保険契約は, 附合契約による
代
的 べき典型的な契約類型というべきであり, 約款の個別条項である地震免責
意
義 条項自体を知っているか否かはさておき, 保険契約は普通保険約款に従っ
て契約内容が定まることは一般に知られているところであり, かつ, 上記普通保険約款が合理的であると一般に知られていることは強く推定されるものである。したがって, 上記普通保険約款に従う旨の意思を有するものと推認するのが相当である。」とした。すなわち, 判例の理論である意思推定説を採用している。
結論的には, 裁判所は「本件地震免責条項の適用についても同様と解すべきであって, 保険者側が, 地震による火災についても保険金が出る旨の積極的な説明をした, ないし, それと同視し得る特段の事情が無い以上,普通保険約款に含まれる本件地震免責条項の適用があると解すべきである。」としている。
4 情報提供義務
(1) 神戸地判平成14年3月26日 (LEX / DB 文献番号28071007)
本判決において裁判所は,「原告らが, 被告会社らは, 原告ら及び亡甲
2に対して, xxx上, 地震免責条項及び地震保険に関する情報提供義務を負担しているのに, その義務を懈怠し, 原告らの地震保険の付帯を妨げたことによって, 同様に, 地震保険金相当額の損害賠償義務を負う旨主張
した」ことに対して次のように判断している。「確かに, 被告会社らは普
通保険約款の作成者であって, その内容を熟知しており, 事業者として, 論
その内容を火災保険契約申込者である原告らに開示する社会的責任を負うものではあるが, 他方, 火災保険契約が普通保険約款に基づく附合契約で
あることは一般に知られていること, 原告らが重大であると主張する保険 説
金の支払に関する免責条項などの条項は地震免責条項以外にも多数あり,その全てを, 保険契約締結前に, 保険契約申込者に文書のみならず口頭も交え説明することを法的義務とするならば, 取引を約款によって行う意義は低下すること, 保険契約申込者側も, 約款による取引の利便性及びそれに基づく保険商品コストの削減の利益を享受していることを総合考慮すると, 原告らの主張するように, 被告会社らが, 地震免責条項や地震保険について積極的に説明しなかったことのみから, 直ちに不法行為などによって損害賠償義務を負うものとは解し難い。」
(2) 神戸地判平成14年9月3日 (LEX / DB 文献番号28080062)
本判決において裁判所は,「保険会社の地震保険に関する情報提供は,地震保険の契約漏れを防ぎ, 地震保険の普及を図るために要請されるものであって, 保険会社に一般的な情報開示義務 (説明) 義務が存在するものと解することはできない。」とし,「したがって, 保険会社である被告が契約締結に際し, 原告に地震免責条項や地震保険について積極的に説明しなかったからといって, 直ちに損害賠償責任を基礎付ける一般的な法的義務違反を構成すると解することはできない。」としている。
第3節 裁判例の分析
1 裁判例における約款の拘束力の根拠
裁判例であるが, そのすべてが, 約款の拘束力の根拠を大判大正4年12
月24日民録21輯2182頁の意思推定説に依拠している。すなわち, 神戸地
安 判平成14年3月26日のように「上記普通保険約款や各団体規約等に従っ
井 て保険契約ないし共済契約がされた場合は, 特段の事情がない限り, 保険
x
授
教 契約ないし共済契約の申込者は, 上記普通保険約款や各団体規約等に従う
約
の 旨の意思を有すると推認するのが相当である。」との考えが採用されてい
論
款 る 。
の現代
的 2 裁判例における不意打ち条項
意 (7)
義 不意打ち条項が成立することについては, 裁判例では否決されている。
そして, 神戸地判平成14年3月26日と神戸地判平成14年9月3日の双方で示されているとおり, 不意打ち条項が成立するためには, 契約の外形から, 条項内容が異常で非慣行的な場合に, その条項の拘束力を否定しようとするものであるとされている。これら裁判例で示されているとおり, 約款の不意打ち条項論は, 民法理論として裁判例で使われているのである。なお, これらの裁判例ともこの不意打ち条項論にいう異常と判断されるためには, その条項が約款による契約全体からして, 合理的な一般人において想定することを期待することが不可能であることが必要と解されるとしている。
3 裁判例における約款開示論と情報提供義務
裁判例においては, 約款論開示論と情報提供義務や説明義務は一緒に議論されているようである。約款の開示とは約款を提示することであり, 約款の開示がなされたというためには, 相手方が現実に約款の内容を認識し
(7) xx弁護士は, xxxxは, 地震免責条項の事例を適用対象として想定はしていないと主張されている。xxx「約款」金法1959号18頁以下 (2012年)。
(8)
ようとすれば容易に認識できる状態に相手方をおくことである。一方で,
情報提供義務・説明義務は,「当事者は, 契約の交渉に際して, 当該契約 論
に関する事項であって, 契約を締結するか否かに関し相手方の判断に影響を及ぼすべきものにつき, 契約の性質, 各当事者の地位, 当該交渉におけ
る行動, 交渉過程でなされた当事者間の取り決めの存在およびその内容に 説
照らして, xxxxの原則に従って情報を提供し, 説明をしなければならないと定義されている。すなわち, 約款の開示義務と情報提供義務・説明義務は別物である。従って, (1)約款が開示されるべきかどうかの論点と (2)約款の内容について情報提供や説明されるべきかどうかの論点があるはずである。
函館地判平成12年 3 月30日では, 約款の開示と説明義務はセットで扱われている。函館地判平成12年 3 月30日では, 地震免責条項及び地震保険についての一般的な情報開示説明義務について, 次のように述べている。
「火災保険契約の地震免責条項及び地震保険に係る情報について, 書面に分かりやすく明確に記載して, 契約申込書に交付した上で, 十分に説明して, その十分な理解を得て, 地震保険加入・不加入の意思決定の機会を与えるべき要請」としている。神戸地判平成14年9月3日では,「被告保険会社は原告 (焼失不動産所有者である火災保険契約者) に対し, 火災保険約款中の地震免責条項につき, 被告の解釈によれば地震による地盤の揺れが治まった後発生した火災で本件建物が延焼した場合にも, 火災保険金が支払われないというような内容である旨を開示したことはなく, このような場合には地震免責条項の拘束力は否定される。」という原告の主張は
「約款の個別的内容についての契約者の知, 不知を問題とし, 結局, 約款
(8) 民法 (債権法) 改正検討委員会編『詳解 債権法改正の基本方針』87頁 (商事法務, 2009年)
に基づく附合契約を個別契約と同視するので採用できない」とされており,
安 約款の開示義務は否定され, 約款の意思推定論が採用された。約款による
井 契約と個別契約の違い, すなわち, 約款の機能性が重視されている結果だ
x
授
教 といえる。神戸地判平成14年3月26日は,「原告らが主張する開示論は,
約
論
現
の 約款等の個別的内容についての契約者の知, 不知を問題とし, 結局, 約款款 等に基づく附合契約を個別契約と同視するものであって相当でないから,の 採用できない。」と約款の開示論は採用されず, さらには「確かに, 被告
代
的 会社らは普通保険約款の作成者であって, その内容を熟知しており, 事業
意
義 者として, その内容を火災保険契約申込者に開示する社会的責任を負うも
のではある」としつつも, 下記の点から, 被告会社らが地震免責条項や地震保険について積極的に説明しなかったことのみから, 直ちに不法行為などによって損害賠償義務を負うものとは解し難いと本件契約が約款による契約ゆえに情報提供義務は認められないとした。それは, (1)火災保険契約が普通保険約款に基づく附合契約であることは一般に知られていること, (2)保険金の支払に関する免責条項などの条項は地震免責条項以外にも多数あり, その全てを, 保険契約締結前に, 保険契約申込者に文書のみならず口頭も交え説明することを法的義務とするならば, 取引を約款によって行う意義は低下すること, (3)保険契約申込者側も, 約款による取引の利便性及びそれに基づく保険商品コストの削減の利益を享受していることの
3点である。神戸地判平成14年3月26日では, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能性が重視されたゆえに約款の開示論は採用されず, 情報提供義務は否定されたと言える。神戸地判平成14年9月
3日は, 約款の開示論は否定されているが, 情報提供義務についても「保険会社の地震保険に関する情報提供は, 地震保険の契約漏れを防ぎ, 地震保険の普及を図るために要請されるものであって, 保険会社に一般的な情報開示義務 (説明) 義務が存在するものと解することはできない。」とし,
「したがって, 保険会社である被告が契約締結に際し, 原告に地震免責条
項や地震保険について積極的に説明しなかったからといって, 直ちに損害 論
賠償責任を基礎付ける一般的な法的義務違反を構成すると解することはで
(9)
きない。」と否定されている。神戸地判平成14年9月3日では, 約款によ
る契約には, 一般的な情報提供義務 (説明) 義務が存在しないとまでして 説
いる。
以上の点をまとめる。
約款の開示論については, 神戸地判平成14年9月3日や神戸地判平成14年3月26日では,「約款の開示論は, 約款等の個別的内容についての契約者の知, 不知を問題とし, 結局, 約款等に基づく附合契約を個別契約と同視するものであって相当でないから, 採用できない。」とされているように, 約款による契約と個別契約の違いが強調されている。すなわち, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能性が重視されているため, 裁判例では, 約款の開示論は採用されていない。
情報提供義務については, 神戸地判平成14年3月26日では, 本件契約が約款による契約ゆえに情報提供義務は認められないとされており, 神戸地判平成14年9月3日でも「保険会社の地震保険に関する情報提供は,
(9) xxxxは免責条項の内容規制の基準を「債務者側の帰責事由の軽重により場合を分けて(1)故意・重過失による責任については, 原則としてその免責は許容されないと解すべきではないか, 仮に免責が許容されるべき場合があるとしても, それは履行補助者の重過失によって人身事故以外の事故が生じた場合に限り, しかも, 相当厳格な要件の下で例外的にのみ許容されると解すべきではないかとし, (2)軽過失免責については, これを一概に不合理に断ずることはできない。けだし, 軽過失行為とは, それのみを取り出してみれば回避しえた過誤には違いないのであるが, 大量の取引を処理する過程においては不可避的に生ずる誤謬であるとの側面を有することを否定し得ないからである。」と分析をされている。xxx『不当条項規制と自己責任・契約xx』152頁 (1997年, 有斐閣)。
地震保険の契約漏れを防ぎ, 地震保険の普及を図るために要請されるもの
であって, 保険会社に一般的な情報開示義務 (説明) 義務が存在するもの
安 (10)
井 と解することはできない。」と情報提供義務は否定されている。これらは,
宏
授
教 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能性からの帰結で
約
の あ ろ う 。
論
現
款 すなわち, (詳しくは第3章で分析するが) xxxxが主張されているの 通り, 約款の開示論や情報提供義務は, 個別契約を認めることになり, xx
的 量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう危険性が
意
義 あるが故に, 裁判例において認められていないといえる。
第3章 xx説
本章では約款に関するxxxxの説を分析する。
第1節 xx説の分析
xxxxは拘束力に対する問題意識, あるいは契約意識に対する問題意識から基本的には契約説に立つことを前提としている。そして, 契約説に
(11)
立つ理由をxxxxは, 次のように説明している。
(10) 最三判平成15年12月19日では, 地震保険に関する不十分・不適切な説明と慰謝料請求の可否について,「地震保険に加入するか否かについての意思決定に関し, 保険会社側からの情報提供や説明に何らかの不十分, 不適切な点があったとしても, 意図的な情報秘匿等の特段の事情が存しない限り, これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできない。」と判示されている。本件の評釈として, xxx「地震保険に関する不十分・不適切な説明と慰謝料請求の可否について」NBL 795号68頁以下 (2004年) がある。
(11) xxx『法律行為・約款論の現代的展開』41頁以下 (法律文化社, 1995年)
約款法における中心問題は約款に対する法律理論であるより先に契約の双務意識性の問題である。xxxxの指摘するように, 契約の双務性に対する
問題意識のない約款理論が結果的にわが国にいまだ残存する「権力行使とx x
x服従」の関係を肯定し,「庶民の独占私企業に対する奉仕を合理化した」ことから, 約款法における中心問題は約款に対する法律理論であるよりも先
に契約の双務意識性の問題であると考えられるからであり, かかる問題意識 説
を前提とすれば当然契約説的見解をとらざるを得ないからである。
基本的に契約説の立場に立つことを前提とすると, そこにおいては契約説に特有な擬制性が最大の問題点となるが, xxxxは「かかる難問も,擬制における真の問題点を抽出し, かつ約款の各条項を合理的条項と非合理的条項に分類し, 非合理的条項の拘束力を否定することによって, その解決の糸口が見出される。」としている。すなわち, 合理条項については,
(12)
xxxxは次のように述べ, 合意を推定しても良いとされている。
合理条項に関しては附合者の一括承諾にその拘束力の根拠を求めても, なんらの擬制の問題を生じない。かかる見解は, 擬制における真の問題は附合契約に存在する経済的, 社会的格差にあるという考え方を基礎とする。かかる約款においては, その条項のすべてについて厳正な意味における両当事者の合意が存在しないことは明らかである。しかし, この場合, そこに当事者の意思の擬制があるとは誰もいわない。なぜなら, かかる場合には一般に両当事者は対等であり, それゆえ, その内容もおおむね妥当であると考えられるので, そこに両当事者の合意ありと推定しても何ら問題とならないからである。
そして, 不合理条項については次のように述べ, 擬制性を問題視し, 不合理条項の法的拘束力に疑問を示している。すなわち, 不合理条項に拘束
(13)
力を与えるために擬制を行うことに反対しているのである。
x
x 従来の契約説においてその擬制性が問題となったのは, そこにxx, 合意
x が存在しないからでなく, その合意が附合者の了知しなかった不合理条項に
教
授 拘束力を与えるからであり, あるいは了知していても附合者が締約を欲しな
約
の い不合理条項についての締約の事実上の強制をカモフラージュし, それを法
款 的に正当化するからである。つまり, 不合理条項の拘束力を認めようとした
論
の ところに擬制の問題が生じたのであり, 合理的条項に関してはそこに附合者
代
現 の合意を推定してもなんら擬制の問題は生じないのである。
的意
義 第2節 約款の機能
xxxxは, 約款の機能として, (1)取引技術の合理化としての技術的機能, (2)法律的手段による経済力の維持強化を目的とする経済的機能の
2種類があるとしている。(1)技術的機能に対応する約款の課題として,契約技術の発達としての約款の「よりよき機能」をいかに確保するかの要請があり, (2)法律的手段による経済力の維持強化を目的とする経済的機能に対応する約款の課題としては, 約款を媒介とする企業の支配への対抗としての弱者保護の要請があるとxxxxはしている。そして, 合理的条項は契約技術発達の例として評価しうるものであり, 一括承諾を根拠とするその拘束力の機械的, 一律的認定は, 約款法における「よりよき機能」
確保の要請を十分に充たしうるものであるとの分析をxxxxはされてい
(14)
る。
(13) xx・前掲注(11), 42頁以下。
(14) この点につき, xxxxは,「業務約款の制定は, 一般には企業者の側で決定するものであるだけに, 企業者の利益擁護, 利益確保を第一とし,企業活動を利用する相手方大衆の利益利便を考慮することが二の次にされる傾向が必然である。」との分析をされている。xxxx「業務約款の公示の確保」法政26巻1号2頁 (1959年)。
また, xxxxは,「このような約款利用の驚異的普及は, (中略) 約款
xxxxは以上の前提に立った上で, 従来の諸学説において, かかる二
つの機能の分類が自覚的でなかったことに難点があるとしている。すなわ 論
ち, xxxxは,「従来の諸学説ではかかる「よりよき機能」としての技術的機能の確保が至上命令とされ, すべての条項にわたって一律にその拘
束力を認めてきたのであり, かかる不合理条項に対する拘束力の認定が現 説
(15)
実追随性あるいは擬制性をもたらした。」との分析をされている。xx教
(16)
授は, この点につき, 次のように述べている。
というものが, 各種の業界における「合理化の企図」と, 自己の「経済的地位の維持・強化の企図」に適合するものであったからに他ならない。とりわけ, 制定法の宿命である法の抽象性と固定性からくる実務上の弊害が,約款によって克服されようとした点に注意すべきである。約款は, 抽象的な法規範を具体化し, 寄り予測可能な形に明確化することができる。このことは, 取引上のあらゆるリスクに計算可能性を与える点で, 経営上の大きなメリットとなる。さらに, 法の不備や立ち遅れに対して, 現実に適合した規範を設定することも可能となった。「経済の自成法」とも呼ばれる約款は, かような合理化に徹する限り, いらざる紛争を予防し, 取引時間を節約し, 企業内部の管理・事務処理を簡素化することで, 商品の製造・流通・管理等の諸費用を節減することになり, 窮極的には顧客にも奉仕しうるものである。」としている。xxxx「約款とその私法的規制(1)」法協102巻4号625頁 (1985年)。
(15) このxxxxのお考えに対し, xxxxは「そこにxxの合意が存在しないにもかかわらず, あたかも合意が存在するかの如くに扱う点に擬制が見られると言うべきではなかろうか。」と批判をされている。そして,
「約款の拘束力の根拠や約款本質論から, 直接に約款内容の限界を見出す必要はないのであって, ただ不xxな条項は一定の判断基準に基づいて法的に不当であるとの評価を経てはじめて, 当該拘束力を結果的に奪われるにすぎないのである。人が「不当な約款条項にも拘束力があるのか」と問う時, それは既に拘束力の根拠を問うているのではなくて, 内容的規制の問題を論じているのである。」としている。xxxx「約款とその私法的規制(2)」法協102巻6号1187頁, 1192頁 (1985年)。
従来の諸学説では約款の拘束力の自明性が前提とされてきたが, それは取引の合理化としての技術的機能のみが約款の機能として極端に重視されてき
安 た結果である。そして, それ故, 従来の諸学説ではかかる「よりよき機能」
x
x としての技術的機能の確保が至上命令とされ, すべての条項にわたって一律
授
教 にその拘束力を認めてきたのであり, かかる不合理条項に対する拘束力の認
の 定が現実追随性あるいは擬制性をもたらした。
約
款論
現
の 第3節 xx説による不合理条項の拘束力
的
代 結論として, xxxxは, 不合理条項の拘束力は一般に認められないと
意
義 解すべきであるとした。その理由として, xxxxは, 不合理条項に関し
ては, 附合者の合意の存在が明白であり, またそれは法律的手段による経済力の維持, 強化を目的とする約款の経済的機能を媒介するものであって,そこには市民法的合意が包含し, かつ前提とするところのxxが存在しないからであるとしている。
(17)
さらに, xxxxは次のような分析を加えられている。
不合理条項は約款法における弱者保護の課題の直接の対象であり, それ故,それに無批判的に拘束力を認めることは現実に進行している独占大企業の大衆支配をより促進することになるからである。
ところで, かかる見解に対しては, 近代市民法においては各人の利益追求は暴利行為として法で禁止されていない限り認められているのではないか,とする反論もありうるであろう。また, 一部の制度論者も企業の全体主義,つまり企業の維持, 発展のために個々の交換xxを犠牲にせよと主張する。しかし, 利益追求の自由は各人の自由な判断と競争によりxxが確保されるというイデーを基礎とするのであり, 独占大企業の大衆支配という現代社会の実態を直視するのならば, それは到底認められないところの自由である。
xxxxは, 下記の通り, 何が合理的条項であり, 不合理条項であるか
(18)
は, 下記の通り等価交換の観点から定められるべきであろうとしている。 論
これがxxxxの結論である。
市民社会は等価交換をその原則とする。つまり, 不合理条項とは等価交換 説の原則を破壊する条項なのである。なお, 判例はしばしば民法90条を援用し, 不合理条項を公序良俗違反として処理する。しかし, そこにおける判断基準
は暴利行為の観念であり, 現実の約款問題に関してはほとんど実効性を有しない。これに反し, 等価交換の観点はよりxxな範囲をカバーしうると思われる。しかし, その適用に関しては, どれが等価交換を破壊する条項か, というきわめて困難な問題が生じる。
第4節 約款の組入れ要件と開示説明義務-xxxxの説から
1 は じ め に
民法 (債権関係) の改正に関するxxxxでは,「約款使用の合意」と
「約款の内容を知ることができる機会の確保」を約款による契約の法的拘束力の根拠とし, 約款への組入れ要件としている。約款の開示を不要とする立場である。
また民法改正要綱では,「定型取引を行うことの合意をした者は, 次に掲げる場合には, 定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。」として,「定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。」または,「定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とす
(18) xx・前掲注(11), 43頁以下。
この点につき, xxxx「xxxx自らが認められるように, どれが等価交換を破壊する条項か, つまり, いずれかの条項, どのような条項群が不合理条項かということは明らかにされていない。」と指摘されている。xxxx「普通取引約款に関する類型的考察」慶応法学研究科論集39号 138頁 (1998年)。
る旨を相手方に表示していたとき。」として,「合意」または「約款を契約
安 内容とする旨の表示」を約款の法的拘束力の根拠としており, 約款の契約
井 内容そのものの開示は求められていない。
宏
授
教 それでは, 約款の開示義務や情報提供義務・説明義務をxxxxはどの
約
の ように捉えているであろうか。
款論
現
の 2 開示・説明義務の位置づけ
代
的 xxxxは, 開示・説明義務の位置づけという問題に関しては, それを
意 (19)
x x次的・補充的な規制手段と考えられている。すなわち, 約款の規制につ
いては, 開示・説明義務のような契約の成立, すなわち附合者の意思決定 の段階に着目した規制 (以下, 成立コントロールとする) よりも, 約款の 内容=その合理性に着目した規制 (以下, 合理性コントロールとする) の ほうがより合理的であって, 成立コントロールは, 必要かつ有用であるが,合理性コントロールに比すると二次的・補充的なものであると主張される。
このように, xxxxが, 開示・説明義務論のような成立コントロールを二次的・補充的なものと考える理由は, 以下の二点にある。
(1) 開示・説明義務論のような成立コントロール, 特に説明義務違反の強調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の
機能を損なう可能性があること。
(20)
この点について, xxxxは次のように述べている。
約款を附合者にとって本質的かつ全面的に不利益なものとして捉える「約
(19) xxx「地震約款の拘束力についての一試論─最近の下級審判例を素材にして─」関学49巻4号50頁以下 (1998年)。
款性悪説」的な態度はとるべきではないと思っている。現在, 約款がそのような使われ方をしていることは否定しないし, そのことに対する問題意識も
十分にあるつもりであるが, しかし, 他方, 約款には, 大量取引の画一的・ 論
安定的・迅速的処理という一定の合理性があることは否定できない。そして,しばしば指摘されるように, 現代社会においては大量取引が不可避になって
いることを考えると, 約款の現代社会における有用性は明らかである。また, 説
このような大量取引の合理的処理という面だけではなく, 約款には, 附合者
保護のために活用されうる可能性がある。それは, 例えば, 事業者と附合者の双方が協力して消費協約を作成する場合であるが, このような場合には,その協約 (約款) によって, 消費者が個々的に交渉するよりも, より有利な条件で契約内容が確定されうる可能性がある。
したがって, 楽観的すぎるとの批判があると思うが, 私は, 現在のところは, 約款には一定の合理性や附合者側の武器となりうる可能性があるので,約款論としては, 約款のこれらのメリットをできるだけ生かす方向をとるべきであると考えている。そして, このような観点からすると, 個々の附合者の意思形成過程に着目する成立コントロールには, 例えば開示・説明義務の範囲をどのように考えるかにもよるが, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の合理的機能を損なう可能性があるし, また, 実際的にも,約款の個々の条項すべてについての合意は不可能であるので, 約款規制の重点は, 約款の合理的機能を損なわず, かつ同時に約款の問題点の中心である不合理条項を規制し得る合理性コントロールにおかれるべきことになる。
(2) 開示や説明が附合者の約款条項に対する合意の存在を根拠づける危険性があること。
(21)
この二点目について, xxxxは次のように説明される。
開示や説明が附合者の約款条項に対する合意の存在を根拠づける危険性は,かつての開示義務がもっぱら論議されていた時点においてもすでに指摘されていたが, 最近のように, 説明義務が強調されてくるようになると, その問
(21) xx・前掲注(19), 52頁以下。
題はより顕著となってくる。その合理性に問題がある条項について事業者の説明があった場合にも, 附合者は, その条項の拘束力を否定しうるかについ
安 て, 学説には, 開示は附合者を拘束せず, その効果は附合者にとってのみx
x
x xな片面的なものであるべきだとするものがある。
教授の
約 そして, その上でxxxxは, 例えば地震約款のように, 契約締結に際
款
の
論 して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明があっ
代
意
現 ても, それについての附合者の合意が確実に存在したとはいえないと考え的 ている旨を主張されている。選択の自由がない場合における開示や説明は,義 実際には単なる「通告」に過ぎず, そこには選択の自由ないし契約の自由
がないので, 附合者の真の合意があるとはいえないからである。
xxxxは, 上記のように主張されつつも, 次のような危険性を指摘さ
(22)
れている。
理論上, 開示・説明と附合者の合意を切り離すことが可能であるとしても,例えば, 最近の変額保険についての判例においては, 保険会社による一定の説明があったことが保険会社の責任を否定する論拠の一つとされていることが当初は多かったのであるから, 裁判所が, このような切り放しを認めるかという点については一抹の不安が残る。リスクを理解して契約したのであるから, その者がリスクを負担するべきであるとする傾向がまだまだ強い。従って, 開示・説明がなくても附合者の意思の推定というテクニックを使って約款の拘束力を認めているわが国の約款判決の現状からすると, 当該条項についての説明があった場合にもなお, 裁判所が, 当該条項の拘束力を否定しうるのはいささか疑問であり, 危険性はなお残ると思われる。
このようにxxxxは, 契約締結に際して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明があっても, それについての附合者の合
意が確実に存在したとはいえない旨を主張されている。
3 xx説による開示義務の有用性
論
(23)
一方で, xxxxは開示義務の有用性を次のように説明されている。
説
(1) 「約款による契約」もあくまで契約なのであるから, 附合者がその各条項, 特に重要条項を了知し, 理解して契約することが望ましいのは当然だからである。約款に対する附合者の不満の多くが当該条項について知らされていなかったという点にあることを考えると, 重要事項についての開示・説明義務の必要性は強調されて然るべきであろう。
(2) 開示・説明義務論には, 解釈論的な有用性・実効性が大きい。何故なら, 実際の裁判においては, 合理性コントロールよりも開示・説明義務論によるそれのほうがxxxに援用されやすい。
このようにxxxxは開示義務の有用性を, ある程度, 認めているようである。
第5節 xx説における不当条項規制と有効性判断基準
xxxxは,「生命保険契約における無催告失効条項」の有効性の判断基準に関して, 約款外の実務 (xx論文で論じられたのは, 契約の失効前に保険者が保険料の督促を行うという実務) を考慮することに反対をされ
(24)
ている。すなわち, 大量取引を迅速・画一的に処理することを目的とする
約款取引では, 約款外の事情によってその条項が有効になったり無効になったりすることは避けなければならないからである。
(23) xx・前掲注(19), 54頁以下。
(24) xxx「生命保険契約における無催告失効条項の効力」関学66巻2号 40頁以下 (2015年)
失効条項が大量取引処理型の保険契約中の条項であり, 多数の契約において定型的に使用されるものであるところから, その有効性の判断に際し, 約
x x外の実務を考慮することには基本的に反対である。約款は, 大量取引を迅
x
x 速・画一的に処理することを目的としているのであるから, 約款外の事情に
授
教 よって, その条項が有効になったり無効になったりすることは避けなければ
の ならないからである。
約
款論
現
の このようにxxxxは, 約款取引の機能面を重視されている。そのため,
的
代 画一性が担保されている場合には, 有効性の判断基準として良いとされて
意 (25)
義 い る 。
約款条項の有効性の画一的・統一的判断の必要性という観点から問題を考えると, 本件で問題となっている督促の実務は全保険契約者に共通に適用されている場合には, 画一性が担保されるので消費者契約法10条後段の有効性の判断要素として考慮して良いということになろう。
第6節 本章のまとめ (xx説の概要)
以上, xxxxの学説をまとめると次のようになろう。
1 等価交換説
xxxxは基本的には契約説に立つことを前提としている。そして, 約款の各条項を合理的条項と非合理的条項に分類し, 非合理的条項の拘束力を否定する。すなわち, 合理条項については合意を推定し, そして, 不合理条項については擬制性を問題視し, 不合理条項の法的拘束力を否定している。
xxxxは, 不合理条項の拘束力は一般に認められないと解すべきであ
るとした。その理由として, xxxxは, 不合理条項に関しては, 附合者
の合意の存在が明白であり, またそれは法律的手段による経済力の維持, 論
強化を目的とする約款の経済的機能を媒介するものであって, そこには市民法的合意が包含し, かつ前提とするところのxxが存在しないからであ
るとしている。xxxxは, 何が合理的条項であり, 不合理条項であるか 説
は, 等価交換の観点から定められるべきであろうとしている。これがxxxxの結論である。
xx説の特徴は, 従来の諸学説において約款の拘束力論, 解釈論, 規制論がある程度の関連性と不連続性をもって論じられはしているものの, 約款の拘束力論と規制論との関係が自覚されていなかったこととは逆に, 約款の規制的観点をもその拘束力根拠の裡に見出そうとしている点である。擬制の問題を約款の各条項の合理的条項と非合理的条項の区別に基づいて説明されているのであるが, 拘束力根拠をも約款条項の合理不合理の分類にしたがって論じようとされている。要するに, 擬制における真の問題性を指摘し, 合理的条項と不合理的条項に区分し, 不合理条項に拘束力を否
定することによって,「法学上の謎」から脱し得る手掛かりを得ようと試
(26)
みているのである。xx説において評価されるべき点は, 合理性の観点を
拘束力論との関係のなかで考えようとしている点, すなわち拘束力根拠そのもののうちに消費者保護ないし弱者保護の観点が窺われ得る点である。さらに, 擬制における真の問題を適確に示し, 約款論における「意思」の
(27)
位置付けと限界付けにとって示唆に富んだものと思われる点である。
しかし, この説で示されているところの「等価交換」とは具体的にどのようなものであり, 現実の個別具体的な約款の条項のどこに見出されうる
(26) xxxx「我が国における約款論の展開と現状─約款論の問題性格と約款論へのアプローチを中心として─」関学33巻4号770頁以下 (1982年)
(27) xx・前掲注(26), 770頁以下。
(28)
のであろうかが不明である点が問題とされている。
x
x 2 約 款 の 機 能
宏
授
教 さらに, xxxxは, 約款の機能として, (1)取引技術の合理化として
約
論
現
の の技術的機能, (2)法律的手段による経済力の維持強化を目的とする経済款 的機能の2種類があるとしている。(1)技術的機能に対応する約款の課題の として, 契約技術の発達としての約款の「よりよき機能」をいかに確保す
代
的 るかの要請があり, (2)法律的手段による経済力の維持強化を目的とする
意
義 経済的機能に対応する約款の課題としては, 約款を媒介とする企業の支配
への対抗としての弱者保護の要請があるとxxxxはしている。そして, 合理的条項は契約技術発達の例として評価しうるものであり, 一括承諾を 根拠とするその拘束力の機械的, 一律的認定は, 約款法における「よりよ き機能」確保の要請を十分に充たしうるものであるとの分析をxxxxは されている。xxxxは以上の前提に立った上で, 従来の諸学説において,かかる二つの機能の分類が自覚的でなかったことに難点があるとしている。すなわち, xxxxは,「従来の諸学説ではかかる「よりよき機能」とし ての技術的機能の確保が至上命令とされ, すべての条項にわたって一律に その拘束力を認めてきたのであり, かかる不合理条項に対する拘束力の認 定が現実追随性あるいは擬制性をもたらした。」との分析をされている。
3 開示・説明義務の位置づけ
xxxxは, 開示・説明義務の位置づけという問題に関しては, それを二次的・補充的な規制手段と考えられている。すなわち, 約款の規制については, 開示・説明義務のような契約の成立, すなわち附合者の意思決定
(28) xx・前掲注(26), 769頁以下。
の段階に着目した規制 (以下, 成立コントロールとする) よりも, 約款の
内容=その合理性に着目した規制 (以下, 合理性コントロールとする) の 論ほうがより合理的であって, 成立コントロールは, 必要かつ有用であるが, 合理性コントロールに比すると二次的・補充的なものであると主張される。
このように, xxxxが, 開示・説明義務論のような成立コントロール 説
を二次的・補充的なものと考える理由は, 以下の二点にある。
(1) 開示・説明義務論のような成立コントロール, 特に説明義務違反の強調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう可能性があること。
(2) 開示や説明が附合者の約款条項に対する合意の存在を根拠づける危険性があること
4 開示義務と約款の拘束力
xxxxは, 例えば地震約款のように, 契約締結に際して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明があっても, それについての附合者の合意が確実に存在したとはいえないと考えている主張されている。選択の自由がない場合における開示や説明は, 実際には単なる「通告」に過ぎず, そこには選択の自由ないし契約の自由がないので, 附合者の真の合意があるとはいえないからである。
第4章 民法改正 (債権関係) の改正に関するxxxxと民法 (債権関係) の改正に関する要綱
最近の約款に関する議論は, 約款の法的拘束力に関する議論ではなく, 採用規制, 内容規制, 開示説明義務の議論が中心となっている。それでは
「民法 (債権関係) 改正のxxxx (本稿では, xxxxとしている)」
および「民法 (債権関係) の改正に関する要綱 (本稿では, 民法改正要綱
安 としている)」において, 約款の法的拘束力, 採用規制, 内容規制はどの
井 ように規定されているであろうか。
宏
教授
約
の 第1節 民法改正 (債権関係) の改正に関するxxxx
論
款 1 約款に関する規定
の (29)
現 xxxxにおいて, 約款は次のように規定されている。
代的意
義 1 約 款 の 定 義
約款とは, 多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって, それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。
このようにxxxxでは, 約款は目的によって定義されている。この目的とは「現代社会においては, 大量の定型的取引を迅速かつ効率的に行うことが求められる場面が多い。これを実現するため, 契約の一方当事者があらかじめ一定の契約条項を定めたいわゆる約款を準備して, 個別の交渉を省き画一的な内容の契約を結ぶことが必要だといわれている。」と説明されている。
そして, ここから約款の法的拘束力について,「契約の拘束力は当事者の合意に根拠があると考えられているのに対し, 約款を用いた契約においては, 約款を構成する条項について交渉がされず, そもそも相手方が条項の内容を認識していないことも多いため, 約款に含まれる契約条項に契約
(29) xxxxに至るまでの約款に関する議論の経緯は, TMI 総合法律事務所債権法改正検討ワーキンググループ「債権法改正の主要論点に関する議論の経緯」金法1970号19頁以下 (2013年) が詳しい。
としての拘束力が認められるか疑問が生じ得る。」との問題点を指摘して
いる。すなわち, 約款の相手方が約款の条項を認識していないにもxxx x
らず, 約款による契約に法的拘束力が認められることへの疑問を投げかけている。一方で,「契約条項に拘束力を与えるために常に当事者がその条
項一つ一つについて合意しなければならないとすると, 取引の迅速性等の 説
要請に対応することができない。」と約款における取引には現代社会における経済的な有用性が認められるとしている。
約款の定義の補足説明の部分では, 次のように説明がなされている。
「契約の拘束力は当事者の合意に根拠があると考えられているのに対し, 約款を用いた契約においては, 約款を構成する条項について交渉がされず,そもそも相手方が条項の内容を認識していないことも多いため, 約款に含まれる契約条項に契約としての拘束力が認められるか疑問が生じ得る。他方で, 契約条項に拘束力を与えるために常に当事者がその条項一つ一つについて合意しなければならないとすると, 取引の迅速性等の要請に対応することができない。」
それでは, どのような場合に約款に含まれる契約条項に拘束力が認められるか。これについては, xxxxでは組入れ要件が規定されているが,その意図を次のように説明している。すなわち, xxxxは「組入要件の規定に関してまず問題になるのは, 契約内容についての認識と合意を厳格に要求すれば拘束力を正当化することが困難な場合について, どのような要件で契約内容としての拘束力を認めるかということである。これは, 情報や交渉力の格差をどのように是正するかとは別の, 契約内容がどのように決定されるかという私法上の権利義務に関する一般的な問題であり, 本文ではこのような意味での組入要件を設けることを意図している。」と述べている。そして, 組入要件の規定に関してまず問題になるのは, 契約内容についての認識と合意を厳格に要求すれば拘束力を正当化することが困
難な場合について, どのような要件で契約内容としての拘束力を認めるか
安 ということである。これは, 情報や交渉力の格差をどのように是正するか
井 とは異なり, 契約内容がどのように決定されるかという私法上の権利義務
x
授
教 に関する一般的な問題であり, 本文ではこのような意味での組入要件を設
約
の けることを意図している。
款論
現
の 2 約款の組入要件の内容
意
代 契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意し, かつ, その約款を準的 備した者 (以下「約款使用者」という。) によって, 契約締結時までに, 相義 手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保され
ている場合には, 約款は, その契約の内容となるものとする。
概要による法的拘束力の根拠 (組み入れ要件) は,「約款使用の合意」と「約款の内容を知ることができる機会の確保」であり, この要件が満たされれば, 約款が契約に組み入れられ拘束される。開示を明確に求めない理由は, 開示を厳格に求めるのは, 相手方にとって煩雑でメリットが乏しい反面, 約款使用者にとっては取引コストを不必要に高めることになるからである。約款の内容を知ることができる機会の合理的な確保がなされれば十分であるとされた。すなわち, 法的拘束力の根拠 (組み入れ要件) は
「約款使用の合意+約款の内容を知ることができる機会の確保」であり,これが充たされれば, 約款が契約に組み入れられ拘束されるとしている。
そして, 不意打ち条項については, 下記のように規定し, 組入の合意が及んでいないため, 契約の内容とはならないとしている。
3 不意打ち条項
約款に含まれている契約条項であって, 他の契約条項の内容, 約款使用者の説明, 相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らし,相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは,
上記2によっては契約の内容とはならないものとする。
論
約款使用者の相手方が, 約款に含まれていると合理的に予測できない条項が不意打ち条項になるが, ある契約条項の総体が約款に該当する場合で
あっても, 結果的に個別の契約条項について当事者が合意をした場合には, 説
その契約条項は, 不意打ち条項には当たらない。この場合は,その契約条項は当該合意によって契約の内容になったと考えられるからである。不意打ち条項が契約の内容とはならないのは, 組み入れの合意が及んでいないためである。また, 不意打ち条項にあたるか否かは, 内容の不当性にかかわらず当該条項が当該契約類型において予測できるものであるか否かによって定まる点で, 不当条項にあたるか否かとは概念的に異なる。
xxxxにおいて不当条項規制は次のように規定されている。
5 不当条項規制
前記2によって契約の内容となった契約条項は, 当該条項が存在しない場合に比し, 約款使用者の相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重するものであって, その制限又は加重の内容, 契約内容の全体, 契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には, 無効とする。
xxxxでは, 不当条項であるか否かの判断基準については, これを明確にする観点から, 比較対象とすべき標準的な内容を条文上明らかにすることとしている。具体的には, その条項がなかったとすれば適用され得たあらゆる規律, すなわち, xxの規定に限らず, 判例等によって確立しているルールや, xxx等の一般条項, xxのない基本法理等を適用した場合と比較して, 当該条項が相手方の権利を制限し又は義務を加重し, その結果相手方に過大な不利益を与えているかどうかという観点から判断する
ものとしている。本文に「当該条項が存在しない場合と比し」とあるのは,
安 このことを表現するものである。すなわち,「当該契約条項がなければそ
井 の当事者に認められていたはずの権利義務を不利に変更しているかどうか
x
授
教 を問題とするのであれば, 比較の対象をxxの任意規定に限定する必要は
約
論
現
の ないと考えられる。そこで, 本文では, 当該契約条項が存在しない場合の款 当事者の権利義務を比較対象とすることとしている。本文では, 契約条項の の不当性を判断するに当たって「契約内容の全体」を考慮することとし,
代
的 かつ, それが「過大な不利益を与える」ものであることを要するとしてい
意
義 る。すなわち, 問題となる契約条項だけではなく, 他の契約条項を含めて
契約全体でどのような権利義務が定められているかを勘案し, それが相手方に過大な不利益を与えているかを判断することとしている。例えば, ある一つの契約条項が, 当該条項が存在しない場合に比して相手方にとって不利益なものであっても, 他の契約条項にはその不利益を補うような相手方に有利な定めがあるために, 契約内容の全体を見れば不利益が相手方にとって過大ではないと判断される場合には, その契約条項は不当条項ではないことになる。」と説明されている。
そして, さらに不当条項の意図を次のように説明する。「従来, 契約は当事者の合意があって初めて当事者を拘束するということが前提とされてきたが, 契約の締結過程において相手方が契約の内容を明確に認識した上でそれに拘束されることを合意する限り, その内容の合理性も一定程度確保されると考えることが可能である。これに対して, 約款による契約は相手方が個別の契約条項についてそれを受け入れるか否かを判断しておらず,内容の合理性が必ずしも確認されていない点で異なる。そのため, 本文では, 約款について, 内容の不当性の判断に当たって個別合意がある契約条項とは別に規定を設けることとしている。」
そして補足説明では, 従来, 契約は当事者の合意があって初めて当事者
を拘束するということが前提とされてきたが, 契約の締結過程において相
手方が契約の内容を明確に認識した上でそれに拘束されることを合意する 論限り, その内容の合理性も一定程度確保されると考えることが可能である。 これに対して, 約款による契約は相手方が個別の契約条項についてそれを
受け入れるか否かを判断しておらず, 内容の合理性が必ずしも確認されて 説
いない点で異なる。そのため, 本文では, 約款について, 内容の不当性の判断に当たって個別合意がある契約条項とは別に規定を設けることとしている。当該契約条項がなければその当事者に認められていたはずの権利義務を不利に変更しているかどうかを問題とするのであれば, 比較の対象をxxの任意規定に限定する必要はないと考えられる。そこで, 本文では,当該契約条項が存在しない場合の当事者の権利義務を比較対象とすることとしている。本文では, 契約条項の不当性を判断するに当たって「契約内容の全体」を考慮することとし, かつ, それが「過大な不利益を与える」ものであることを要するとしている。すなわち, 問題となる契約条項だけではなく, 他の契約条項を含めて契約全体でどのような権利義務が定められているかを勘案し, それが相手方に過大な不利益を与えているかを判断することとしている。例えば, ある一つの契約条項が, 当該条項が存在しない場合に比して相手方にとって不利益なものであっても, 他の契約条項にはその不利益を補うような相手方に有利な定めがあるために, 契約内容の全体を見れば不利益が相手方にとって過大ではないと判断される場合には, その契約条項は不当条項ではないことになる。
第2節 民法 (債権関係) の改正に関する要綱
1 約款に関する規定
民法改正要綱では, 不意打ち条項に関する規定は削除されている。民法改正要綱では約款は次のように定義されている。
1 定型約款の定義
定型約款の定義について, 次のような規律を設けるものとする。
安 定型約款とは, 定型取引 (ある特定の者が不特定多数の者を相手方としてx
x
x う取引であって, その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方に
授
教 とって合理的なものをいう。以下同じ。) において, 契約の内容とすること
の を目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。
約
款論
の そして, 法的拘束力については,「契約内容の合意」または「約款を契約
現
的
代 内容とする旨の表示」としている。不当条項についての規定は削除された
義
意 ものの, 定型約款のみなし合意の規定の(2)において, xxxxにおける不当条項規制の一部が採用されている。すなわち,「相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重する条項であって, その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては, 合意をしなかったものとみなす。」とし, 不当条項にあたるものは,合意がされなかった, すなわち, 約款に組入れられないとされた。
2 定型約款についてのみなし合意
定型約款についてのみなし合意について, 次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行うことの合意 (3において「定型取引合意」という。) をした者は, 次に掲げる場合には, 定型約款の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
ア 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
イ 定型約款を準備した者 (以下「定型約款準備者」という。) があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
(2) (1)の規定にかかわらず, (1)の条項のうち, 相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重する条項であって, その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては, 合意を
しなかったものとみなす。
論
そして表示については, 具体的に次のように規定している。
3 定 型 約 款 の x x の 表 示 説
定型約款の内容の表示について, 次のような規律を設けるものとする。
(1) 定型取引を行い, 又は行おうとする定型約款準備者は, 定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には, 遅滞なく, 相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし, 定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し,又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは, この限りでない。
(2) 定型約款準備者が定型取引合意の前において(1)の請求を拒んだときは,
2の規定は, 適用しない。ただし, 一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は, この限りでない。
第3節 本章のまとめ
xxxxによる法的拘束力の根拠 (組み入れ要件) は,「約款使用の合意」と「約款の内容を知ることができる機会の確保」であり, この要件が満たされれば, 約款が契約に組み入れられ拘束される。そして, 不意打ち条項については, 組入の合意が及んでいないため, 契約の内容とはならないとしている。
民法改正要綱では, 約款の法的拘束力の要件は,「契約内容の合意」または「約款を契約内容とする旨の表示」としている。すなわち, xxxxでは約款の内容を当事者が知ることが必要とされているが, 民法改正要綱では約款を契約内容とする旨の表示で良く, 契約の当事者が約款の内容を知ることまでは必要とされていない。
以下では, さらにxxxxについて分析を加える。
1 xxxxにおける法的拘束力の根拠 (組み入れ要件)
安 xxxxにおける法的拘束力の根拠 (組み入れ要件) は,「約款使用の
井 合意」と「約款の内容を知ることができる機会の確保」であり, この要件
x
授
教 が満たされれば, 約款が契約に組み入れられ拘束される。開示を明確に求
約
論
現
の めない理由は, 開示を厳格に求めるのは, 相手方にとって煩雑でメリット款 が乏しい反面, 約款使用者にとっては取引コストを不必要に高めることにの なるからである。約款の内容を知ることができる機会の合理的な確保がな
代
的 されれば十分であるとされた。
意義
2 xxxxにおける不意打ち条項
そして, 不意打ち条項については, 組入の合意が及んでいないため, 契約の内容とはならないとしている。また, 不意打ち条項にあたるか否かは,内容の不当性にかかわらず当該条項が当該契約類型において予測できるものであるか否かによって定まる点で, 不当条項にあたるか否かとは概念的
(30)
に異なるとしている。
3 xxxxにおける不当条項
不当条項であるか否かの判断基準については, その条項がなかったとすれば適用され得たあらゆる規律, すなわち, xxの規定に限らず, 判例等によって確立しているルールや, xxx等の一般条項, xxのない基本法
(30) この点につき, xxxx「不意打ち要因は具体的事情や主観的意思から判定されるのではなくて一般的観点から判定されるべきであるとされるが, 便益的約款においては, 保険約款をはじめとする本質的約款とは異なり, 約款の便益性を採用せずに当該契約の締結過程における全事情を考慮することが理論的に可能であるので, 具体的事情や主観的意思が考慮される。」とされている。xxxx「約款に関する錯誤および不意打ち条項」法学政治学論究50号187頁以下 (2001年)。
理等を適用した場合と比較して, 当該条項が相手方の権利を制限し又は義
務を加重し, その結果相手方に過大な不利益を与えているかどうかという 論
観点から判断するものとしている。
注目すべき点の一つ目は, 契約条項が不当条項にあたるかどうかの判断
基準として, 当該契約条項が存在しない場合の当事者の権利義務を比較対 説
象とすることとしている点である。本文に「当該条項が存在しない場合と比し」とあるのは, このことを表現するものである。
二つ目は, 契約条項の不当性を判断するに当たって「契約内容の全体」を考慮することとし, かつ, それが「過大な不利益を与える」ものであることを要するとしている点である。すなわち, 問題となる契約条項だけではなく, 他の契約条項を含めて契約全体でどのような権利義務が定められ
ているかを勘案し, それが相手方に過大な不利益を与えているかを判断す
(31)
ることとしている。
4 xxxxの特徴
このようにxxxxにおいては, 約款が契約内容として拘束力を認められるかについては, 組入要件と「不意打ち条項」の規律, さらには内容規制について「不当条項規制」が併せて設けられ, 全体としてセットになった規律である。すなわち,「不意打ち条項」は組入要件により組み入れられる外延を画するもので, 内容の当否以前の問題として, 約款によるという同意の範囲を示す。「不当条項規制」については, 組入要件において希
(31) 例えば, ある一つの契約条項が, 当該条項が存在しない場合に比して相手方にとって不利益なものであっても, 他の契約条項にはその不利益を補うような相手方に有利な定めがあるために, 契約内容の全体を見れば不利益が相手方にとって過大ではないと判断される場合には, その契約条項は不当条項ではないことになる。
薄な意思で組入れが認められるからこそ合意内容への介入となる内容規制
安 が通常の契約や中核的な合意よりも広く認められると言えるし, 不当条項
井 規制による内容の合理性の担保があるからこそ組入要件のもとでの意思で
x (32)
授
教 契約内容化が認められる。
の
款
約 第5章 xx説とxxxxそして民法改正要綱との異同
論
現
の 本章ではxxxxの説とxxxxの異同について分析する。
代的意
義 第1節 xx説とxxxxの違い
1 組 入 要 件
xx説は, 条項を等価交換の観点から合理条項と不合理条項に分け, 不
(33)
合理条項については, 拘束力を持たないとしている。等価交換説といわれ
るゆえんである。
一方でxxxxは, 組入要件を「約款使用の合意」と「約款の内容を知
(34)
ることができる機会の確保」としている。
(32) 「特集:民法 (債権関係) の改正に関するxxxxをめぐって (xxxxとxx弁護士の対談, 聞き手xxxxx)」ジュリスト1456号32頁以下 (2013年)。
(33) この点につき, xxxxは「xxxx自身「どれが等価交換を破壊する条項か」の具体的分析を今後の課題とされているので, 実質的内容は不明であるが, 少なくとも筆者 (xxxx) には面前の様々な条項の内容的合理性を「等価交換の観点」から判定せよと言われても不可能である。この基準の利用のためには, 特定の条項と対価とが明確な相関関係を持つことの解明が前提になるのではないか。」と批判されている。xxxx「約款とその司法的規制(4)」法協102巻10号1885頁 (1985年)。
(34) 約款の組入れ要件の規定を設けること自体にも賛否両論の議論があった。TMI 総合法律事務所債権法改正検討ワーキンググループ 「債権法改正の主要論点に関する議論の経緯」金法1970号19頁以下 (2013年)。経済界からも様々な意見が出されている。例えば, 日本クレジット協会は「約款
なお, 民法改正要綱では, 約款の法的拘束力の要件は,「契約内容の合
意」または「約款を契約内容とする旨の表示」としている。すなわち, 中 論
xxxでは約款の内容を当事者が知ることが必要とされているが, 民法改正要綱では約款を契約内容とする旨の表示で良く, 契約の当事者が約款の
内容を知ることまでは必要とされていないというように約款の組入れ要件 説
はさらに緩和されている。
約款が組み入れられるかどうかに関して, xxxxは条項の内容を考慮に入れず, 内容を知ることができるか否かを判断基準としているが, これに対して, xx説は, 約款が拘束力を持つ判断基準として, 条項の合理性を考慮している点に特徴があるといえる。
2 不意打ち条項
xxxxでは, 不意打ち条項にあたるか否かは,内容の不当性にかかわらず当該条項が当該契約類型において予測できるものであるか否かによって定まる。
この不意打ち条項については, 様々な業界団体から反対する意見が出さ
(35)
れている。この一つは, 説明義務違反で十分であるとする意見である。そ
の変更要件が明確化される必要性が大きいため, 民法典に組入れ要件の規定を設けることは反対しない。」としている。xxxx「民法 (債権関係)改正の中間論点整理に対する日本クレジット協会の意見の概要」金法1932号84頁 (2011年)。
また, xxxxは,「約款が個別契約の内容となるには, (1)当該契約は約款が適用される旨の指定, (2)相手方に内容認識の可能性の確保, (3)相手方の附合行為が必要である。」とされている。xxx『約款による契約論』151頁以下 (信山社, 2006年)。
(35) 日本証券業協会はそのパブリックコメントで「当事者にとって不意打ちとなるような条項が存在する場合は, 契約締結時の説明義務又は情報提供義務違反の問題として処理することができるから, あえて不意打ち条項
(36)
の他, 内容規制で十分とする意見や約款の機能から不意打ち条項を不要と
(37)
安 する意見があった。
xx
x に関する規定を設ける必要はない。」と主張している。授
の (36) 経営法友会は, そのパブリックコメントで, 不意打ち条項は実際の紛
款
約 争案件では, 契約内容がxxxに反する場合と多くは重複するとして, 仮
現
論 に約款に関する規律を民法に設ける場合であっても, 不意打ち条項は不要の であると主張している。
意
代 一般社団法人日本貿易会法務委員会は, そのパブリックコメントで, 不的 当条項規制と不意打ち条項規制の境界が不明であるとして不意打ち条項規義 制を不要としている。
なお, 民法 (債権関係) 改正の中間論点整理に対する経団連の考え方については, xxxx, xxxx「民法 (債権関係) 改正の中間論点整理に対する経団連の考え方」金法1932号69頁以下 (2011年) を参照。
(37) 経営法友会は, そのパブリックコメントにおいて,「不意打ち条項に関する規律が設けられた場合には, たとえ, 一定程度, 類型化された相手方が想定されるとしても, 約款取引の相手方が予測する内容次第で契約の内容が異なってしまうという可能性が出てくることになるため, 企業にとっては, 約款を利用した大量の定型的取引を迅速かつ効率的に行うことができなくなる。したがって, このような規定を設ける必要はないと考える。」と主張している。
一般社団法人全国銀行協会は, 約款の機能からxxxxに反対する。特に, 不意打ち条項に該当するかどうかの判断を相手方の個別事情や主観的事情を考慮して判断するという考え方に強く反対している。
一般社団法人日本経済団体連合会は,「約款は広く不特定多数の顧客に平等に適用することを目的に利用しているものであって, あらゆる相手方の知識, 経験をはじめいっさいの事情に照らし合理的に予測できない条項は契約にならないとすると, 約款を利用する意味が無くなる。」と主張している。
一般社団法人信託協会は, そのパブリックコメントにおいて, 実際にどういった条項が不意打ち条項に該当するのか合理的に予測できないためにxxxxに反対している。
日本商工会議所は, 不意打ち条項に関する規定は約款が有する利便性を大きく損ねる可能性があるため, 導入するべきではないとしている。
民法改正要綱では, このように反対論が強かった不意打ち条項について
(38)
は 規 定 さ れ な か っ た 。 論
xxxxは不意打ち条項については具体的な明言をされていない。そこで, xxxxの開示義務や説明義務に関する御主張から推察する。
xx説は開示・説明義務を二次的・補充的な規制手段と考えられている。説この開示・説明義務論のような成立コントロール, 特に説明義務違反の強
調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう可能性があることとしている。これは, 不意打ち条項に反対する意見が根拠としている「説明義務違反で十分とする説」や「約款取引の相手方が予測する内容次第で契約の内容が異なってしまうという可能性が出てくることになるとする意見」と同じくしており, このようにxx説は不意打ち条項に反対する意見に共通する点が多くあるといえる。
そして, xxxxは例えば地震約款のように, 契約締結に際して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明があっても, それ
一般社団法人日本共済協会基本政策委員会は,「xxxxの不意打ち条項に示された要件によると, 相手方が約款に含まれていることを合理的に予測し得た条項だけが効力を有する結果となり,「契約時に予測できなかったから拘束されない」という趣旨の濫訴に道を開きかねず, 契約の安定性を損なう懸念がある。」と主張している。
その他, 損害保険労働組合連合会は, そのパブリックコメントにおいて,不意打ち条項に該当するか否か等の判断に難しさをともなうことから, 条項の説明に関する情報量が過大となるおそれがあるため, 不意打ち条項に反対している。
(38) 銀行業界からの意見については, xxxx「民法 (債権関係) の改正に関する要綱仮案」と「民法 (債権関係) の改正に関するxxxx」の相違点―パブリックコメントはどこまで反映されたか― (特別企画)」金法 2005号10頁 (2014年) 参照。
についての附合者の合意が確実に存在したとはいえないため, 拘束力を持
安 つことに反対をされている。すなわち, xxxxは不意打ち条項規制や説
x x義務などの成立 (採用) 規制よりは内容規制に重点を置くべしとの主張
x
授
教 にも思える。「開示や説明が附合者の約款条項に対する合意の存在を根拠
約
の づける危険性があること」というxxxxの御主張からしてもxxxxの
論
款 内容規制重視のお考えを読み取ることができる。
現
の しかし, xxxxは不合理条項すなわち等価交換になっていない条項に
代
的 ついては契約に組み入れらないとの考えを示されており, 不意打ち条項が
意
義 不合理条項である場合には約款には組み入られないとの考えを示されてい
る。すなわち, xxxxは, 不当条項は規制されるべきであるが, それは不当条項を無効とするという内容規制ではなく, 不当条項は約款に組み入れられないとする採用規制の方法で規制すべきであるとしている。これもxx説の特徴の一つである。
第2節 xxxxのねらい
次にxxxxのねらいについてふれる。
(39)
xxxxのねらいは次のように考えることができよう。一つ目は, 不透
(39) 対談xxxx+xxxx聞き手xxxxx・前掲注(32), 32頁以下。なお, xxxxは,「ルールとしての明確化を考えるのなら, むしろ約
款条項の個別契約への積極的採用要件とセットに, 包括的同意の例外 (消極的要件) として, 不意打ち条項の禁止を規定して顧客の包括同意の及び得る射程を明らかにしておくべきであった。このルールは, 約款が適正に開示され, 消費者がその適用に (明示・黙示に) 同意することによってアン・ブロックに契約内容の一部を構成することへの最小限の防波堤であって, 契約締結に至る具体的事情や交渉の経緯を勘案した結果, 顧客の合理的予想を逸脱する不意打ち的あるいは非慣行的で異常な条項は, その内容の当否を問わず包括的同意の対象外として, 最初から契約内容に組み込まれ得ないと考えることは, 拘束力の根拠を裏側から支えるものとして, 判
明であった約款の拘束力の根拠を明らかにすることである。組入要件を明
文化し, 約款による取引全般に法的な基礎付けを与えることである。 論
二つ目は,「組入要件」「不意打ち条項」「不当条項規制」を併せて規定
(40)
し, この3点をセットとして約款を規律することが狙われている。すなわ
ち, 約款の拘束力が契約に求められ, 契約内容を構成することがその拘束 説
力を基礎付けるというのが近時の一般的な見解であり, xxxxもそれを基礎としている。約款を用いることについての包括的な合意と知る機会とが組入要件であるが, 契約の拘束力という観点から, 通常想定される契約に比べれば約款使用者の相手方の意思は希薄である。そのような希薄な同意で契約内容として拘束力を認められる前提として, 同意の及ぶ範囲は合
例における「意思推定説」の前提とも調和する考え方である。(中略) したがって不当条項を無効化する規制手段があれば, 不意打ち条項禁止規定は不要であるということにはならない。」と主張されている。xxxx
「約款による取引」法時86巻12号98頁以下 (2014年)。
(40) 約款規制は, 支配的な見解に従うと, 大別して, ①約款を介して契約に組み込まれる約款条項の範囲を確定する「採用」規制と, ②こうして組み込まれた約款条項の中で不当な内容のものを排除する「内容」規制の二つから成る。約款条項の内容の当否の判断はそれが契約内容となっていることを前提に行われるので, 理論上, ①は②に先行する前提問題である。しかし, 判例は, 大審院大正4年12月14日判決以来, 概して,「約款による」との意思を推定し, 消費者が条項全てを「まるごと呑み込んだ」ものとして包括的同意を緩やかに認定することで, 実際上, この①採用規制に,これまで規制としてあまり実効的な役割を与えてこなかったように思われる。むしろ, 約款規制において大きな機能を果たすよう期待されてきたのは, 公序良俗違反やxxxの名の下で公然となすか, 解釈の名の下で隠れてなすかは別にせよ, どちらかというと, 契約条項の内容の不当性を契機に介入する②内容規制のほうであろう。言ってみれば, 入口の①では間口を広げ, 出口の②で絞り込もうとするのが一般的なスタンスである。xxxx「UCC 第二編改正作業における約款の「採用」規制の試み(1)─「内容」規制との関係を念頭に」新潟37巻3・4号81頁 (2005年)。
理的に予期できる範囲の事項にとどまるということ, また, 内容において
合理的な内容であるということが手当てされて, 組入要件の程度での同意
安 (41)
井 で契約としての拘束力が基礎づけられるという構造である。
宏
授
教 したがって,「不意打ち条項」は組入れ要件により組入れられる外延を
約
論
現
の 画するもので, 内容の当否以前の問題として, 約款によるという同意の範款 囲を示すものである。合理的に予測することができたかを基準とし, 契約の 内容とならないというのが効果であることは, このような「不意打ち条項」
代 (42)
的 の性格を示している。
意
義 また,「不当条項規制」については, 組入要件において希薄な意思で組
入れが認められるからこそ合意内容への介入となる内容規制が通常の契約や中核的な合意よりも広く認められているといえるし, 不当条項規制による内容の合理性の担保があるからこそ組入要件のもとでの意思で契約内容
(43)
化が認められるともいえる。
(41) 対談xxxx+xxxx聞き手xxxxx・前掲注(32), 32頁以下。
(42) 対談xxxx+xxxx聞き手xxxxx・前掲注(32), 32頁以下。
(43) 対談xxxx+xxxx聞き手xxxxx・前掲注(32), 32頁以下。なお,「債権法改正の方針」においては,「不意打ち条項」の規定は設け られていない (「不意打ち条項」の規定は設けないとの結論が示されている) が, 組意入要件と不当条項の規定は設けられており, この2者の関係は次のように考えることができる。すなわち, 約款の拘束力と, 不xxな契約条項の排除との関係については, 従来の裁判例等では, 一体として議論されることが多かったが, 本来, 区別して議論されるべきとの意見もあり, こうした意見によれば,「債権法改正の基本方針」の約款についての
規制は,
・ 約款の拘束力について:約款の組入要件により対応
・ 不xxな契約条項の排除について:不当条項規制等により対応
と整理することができるものと考えられる。xxxx「約款の開示について─約款を契約内容とするための要件─」インシュアランス生保版 4400号4頁 (2010年)
以上の考え方からすると,「組入要件」「不意打ち条項」「不当条項規制」
は三位一体のものであり, これらがセットになって約款を規制していると 論
いえる。
第3節 xxxxの論点に対するxxxxの回答
説
(44)
この節では, xxxxで示された論点をxx説から考えて行く。
1 約款の組入れ要件と開示論
xxxxでは, 約款を用いることの合意及び約款を知ることができる機
(45)
会の確保が約款の組入れ要件となっている。そこで, 約款の組入れ要件に,
約款の開示が必要となるかどうかが問題となる。
xxxxはこの開示に対してどのように答えるだろうか。xxxxは約
(44) 本稿では, xxxxの内容規制の論点にはふれないが, この点については, 金融法委員会「債権法改正に関する論点整理 (約款に関する内容規制)」NBL 949号16頁以下 (2011年) が詳しい。不当条項規制をめぐる日本の議論については, xxx『不当条項規制をめぐる日本の議論』73頁以下 (有斐閣, 2010年) が詳しい。
(45) ちなみに「債権法改正の基本方針」では, 約款の組入要件として, 約款の開示を原則とし, 例外的に約款を用いる旨の表示と約款を相手方が知りうる状態に置いた場合にも約款が契約内容としている。
xxxxは, 西ドイツ約款規制法を検討され,「(1)最小限度の開示さえもなされず, したがって, 問題の契約条項がそもそも契約の構成部分にならないと考えられる場合, (2)最小限度の開示はなされたものの, なお当然に契約条項が当事者を拘束するとは認められない場合。この場合には,契約条項の内容の実質的評価の問題が生じ, それが不当ないし不合理であると評価されるときには, 当事者は当該契約条項に拘束されない。(3)当事者の契約交渉が一定の密度に達し, 原則として内容のいかんを問わず契約条項の拘束力が認められる場合」の3種類に場合分けをされ, 企業と消費者間の取引は, 原則として (2)に属するとされている。xxx『不当条項規制と自己責任・契約xx』75頁以下 (1997年, 有斐閣)。
款の拘束力・組入要件に約款の開示は不要と考えている。xxxxは不合
x x条項に約款の拘束力を認めておらず, 内容面で約款の合理性を保とうす
井 る考えである。すなわち, 開示による成立コントロールは2次的なもので
x
授
教 あり, 約款の機能の面と合意の存在の面からも, xxxxはその効果を認
約
論
現
の めていないのである。xxxxは, 開示・説明義務論のような成立コント款 ロールの強調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ごとの個別的の 解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理とい
代
的 う約款の機能を損なう可能性があること, そして, 開示や説明が附合者の
意
義 約款条項に対する合意の存在を根拠づける危険性があること, すなわち,
選択の自由がない場合における開示や説明は, 実際には単なる「通告」に過ぎず, そこには選択の自由ないし契約の自由がないので, 附合者の真の合意があるとはいえないことを理由として, 約款の開示の必要性に疑問を投げかけている。
民法改正要綱では, 約款の法的拘束力の要件は,「契約内容の合意」ま
たは「約款を契約内容とする旨の表示」としており, これはxxxxのい
(46)
う約款の機能性が重視された結果であると言える。
しかし, 約款の開示の法定の動きについては,「当事者の個別具体的意思を重視する傾向に回帰している」とした上で,「実定法として, 約款論の拘束力の議論に終止符を打つ大きな前進」として評価する意見があり,当事者間の合意に, 契約内容の了知を前提とする考え方として, 妥当なものと考えられる。もしこのような民法改正が行われて, 約款の開示が組入
(46) この点について, xxxxは,「開示を要件とすることについては,少なくとも相手方が, その内容を確認しようと思えば確認できる合理的手段で自己の設定した約款内容を適切に開示しておくことは, 当事者間でそれを契約内容とするための最低限の法的要請であり, 重要な条項であればあるほど実質的開示が必要となることは明らかである。」と主張されている。xx・前掲注(39), 97頁以下。
要件に加えられた場合, 約款の組入要件はすべての約款を用いる契約に適
用されることとなり, 少なくとも, 契約内容の知・不知を問わず,『約款 論
による』という意思が推定されれば拘束力の発生を認めてきた状況は, 約
(47)
款の」開示によって, 新たな局面を迎えることになるからである。しかし
ながら, 民法改正要綱では, 約款の開示は組入要件に加えられず, 約款を 説
(48)
用いることの表示のみで良いとされることになった。
2 不意打ち条項
(49)
xxxxでは不意打ち条項の規定が設けられている。すなわち, 合理的に予測不可能な条項は組み入れられず, 約款の内容とはならない。
すでに述べた通り, xxxxは, 直接には, この不意打ち条項について言及していない。xxxxは開示・説明義務を二次的・補充的な規制手段と考え, この開示・説明義務論のような成立コントロールは必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう可能性があるとして否定的な立場を採っている。そして, xxxxは例えば地震約款のように, 契約締結
(47) xx・前掲注(43), 7頁。
(48) この点について, xxxx「約款の開示は, 契約当事者の合意によりはじめて契約が成立するという考え方の前提として, 保険契約のみならず,すべての約款を用いる取引に適用されるべきもの」としている。xx・前掲注(43), 7頁。
筆者はこの点につき, やはりこの点については, xxxxが指摘された通り, 単なる通告に過ぎない開示や説明ではなく, 契約の当事者が契約内容を了知することができるレベルの開示が必要であるといえるのではないだろうかと考える。
(49) 不意打ち条項については債権法改正の基本方針とxxxxの見解が分かれている。債権法改正の基本方針では不意打ち条項に関する規定は設けないとされていた。
に際して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明が
安 あっても, それについての附合者の合意が確実に存在したとはいえないた
井 め, 拘束力を持つことに反対をされている。すなわち, xxxxは不意打
x
授
教 ち条項規制や説明義務などの成立 (採用) 規制よりは内容規制に重点を置
約
の くべしとの主張にも思える。
論
現
款 もっともxxxxは不合理条項すなわち等価交換になっていない条項にの ついては契約に組み入れらないとの考えを示されており, 不意打ち条項が代
的 不合理条項である場合には約款には組み入られないとの考えである。xx
x
x 教授は約款の被使用者が約款の内容を知ることや理解することよりは, 約
款の内容の合理性を重視しているといえる。したがって, 不意打ち条項による規制にはあまり効果を期待されないのではないだろうか。
第4節 xx説と民法改正要綱の共通点
民法改正要綱では,「相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重する条項であって, その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては, 合意をしなかったものとみなす」というように不当条項は約款に組入れられないとの規定が設けられている。民法改正要綱では, 相手方の利益を一方的に害する不当条項はその内容ゆえに「無効」となるのではなくて,「合意をしなかった」, すなわち, 約款に組入れられないと規定されている。これは, xx説である等価交換となっていない不合理条項は約款に組入れられないとする等価交換説と理論的には同じである。
xx説に対しては,「等価交換になっていない条項とは何か」という点に疑問が示されているが, 民法改正要綱では, (1)相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項, (2)その定型取引の態様及びその実情
並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則
に反する条項, (3)相手方の利益を一方的に害すると認められる条項の3 論
つの要件を満たすものが不当条項となるというようにその要件が少し具体化されていることが特徴的である。民法改正後, この規定に関する判例が
積み重なることによって, より具体的に類型化がされていくであろう。 説
いずれにせよ, 民法改正要綱では, 約款の組入要件についてxx説の考えが取り入れられ, 等価交換とは何かというxx説の問題点は, 今後, この規定に関する判例が積み重なることによって, 具体的に明らかになっていくと思われる。
第6章 約款とフランチャイズ契約
この章では, フランチャイズ契約における約款の問題をコンビニ会計に焦点をあてて, xxxxの約款論をもとにして検討してみたい。xxxxの等価交換説が現在問題となっている契約法の様々な課題に対して如何なる役割を果たしているのかを考えるためである。
第1節 民法改正におけるフランチャイズ契約の扱い
民法 (債権法) 改正検討委員会が債権法改正の基本方針をまとめる際には, フランチャイズ契約に関する紛争の多さに鑑みて, 民法典の中に行為規範としての規律を置くことが議論された。しかし, 契約の多様性, 規律すべき内容が多くの法分野に及ぶことから, 民法典に典型契約としてのフランチャイズ契約の規定を置くことには, 困難が予測された結果, フランチャイズ契約については, 独立した典型契約とすることはせず, 新たに設けられた継続的契約の章において, 多数当事者型継続的契約に関する規定
(50)
の提案をするにとどまった。
その後, xxxx, 民法改正要綱においてもフランチャイズ契約は規定
されていない。
x
x 第2節 フランチャイズ契約と約款
x
授
教 このように規律すべき内容が多いフランチャイズ契約であるが, フラン
約
論
現
の チャイズ契約をする場合, 通常はフランチャイズ本部が用意した契約書を款 もとに契約の締結がなされる。すなわち, フランチャイズ契約は約款によの る契約である。したがって, 民法改正において約款がいかに規律されるか
代
的 という点は, フランチャイズ契約に対して多大な影響があると思われる。
意
義 例えば,「売上総利益-{売上原価-(廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)}」
として算出されたものに, 一定の率を乗じたものを加盟店が本部に支払うというロイヤルティ算定方式, いわゆるコンビニ会計であるが, これは多くのコンビニ本部が作成したフランチャイズ契約約款の条項の一つであ
(51)
る。このコンビニ会計については, 最二小判平成19年6月11日 (1980号69
頁) において, コンビニ業界最大手のセブン-イレブン・ジャパンが用い
(52)
ていることが確認されている。
(50) 民法 (債権法) 改正検討委員会編『詳解 債権法改正の基本方針Ⅳ各種の契約(1)』10頁 (2010年, 商事法務), xxx『債権法の新時代「債権法改正の基本方針」の概要』222頁以下 (2009年, 商事法務)。
(51) 各コンビニエンスストアの契約書は公開されていないが, 契約内容については, 情報開示書面により確認することができる。情報開示書面については, JFA フランチャイズガイド情報開示書面参照, xxxx://xx-x.xxx-xx.xx. jp/article/article_36.html accessed 2016.2.1.
(52) 本件において, チャージを定めた本件条項は,「乙は, 甲に対して, A店経営に関する対価として, 各会計期間ごとに, その末日に, 売上総利益 (売上高から売上商品原価を差し引いたもの。) にたいし, 付属明細書 (ニ)の第3項に定める率を乗じた額 (以下, A・ チャージという。) をオープンアカウントを通じ支払う。」と規定しているが, 本件条項所定の「売上商品原価」には, 廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は含まれないと判断された。すなわち, チャージ算定方式はコンビニ会計であると本判決では判
第3節 コンビニ会計と約款
1 コ ン ビ ニ 会 計 論
最二小判平成19年6月11日の補足意見においては,「本件契約である加盟店基本契約は, 上告人が一方的に定めたものであって, 加盟店となるに
は, これを承諾するしかなく」と本件が約款による契約であるゆえの問題 説
点が示されている。さらに,「チャージは, 加盟店に対する店舗経営に関するサービス等に対して支払われる対価であることから, 加盟店としては,店舗経営により生じた利益の一定割合をチャージとして支払うというのが,一般的な理解であり, 認識でもあると考えられるのである。ところが, 廃棄ロスや棚卸ロスは, 加盟店の利益ではないから, これが営業費として加盟店の負担となることは当然としても, 本件契約書においては, これらの費用についてまでチャージを支払わなければならない・・・」として, コンビニ会計が採用されていることによるフランチャイズ契約の問題点が示されている。
2 コンビニ会計と説明義務
コンビニ会計と説明義務については, 多くの裁判例で争われている。最近の裁判例であるxxx判平成26 年11 月7日 (LEX / DB 文献番号 (25505337) では, このコンビニ会計についての説明義務について,「フランチャイズ契約は, 民法上に規定される典型的な契約とは異なり, 業務内容や経営方針等により多項目かつ複雑な契約内容となることが多く, フ
断されている。拙稿「フランチャイズ契約における廃棄ロスとチャージ,そして見切り販売(2)」愛法189号83頁 (2011年), 拙稿「コンビニ・フランチャイズ契約におけるチャージ算定方式と廃棄ロス」法時82巻7号100頁以下 (2010年)。コンビニ会計の問題については, 拙稿「フランチャイズ契約における廃棄ロスとチャージ, そして見切り販売(1)」愛法187号47頁 (2010年) を参照。
ランチャイザーの用意した契約書や約款に応じるかたちで契約を締結する
x xxが想定されるところ, 一般に, フランチャイジーになろうとする者は,
x xxxxxxxxと比較して, 当該フランチャイズ契約に関する知識・情
x
授
教 報に乏しく, フランチャイズ契約を締結する際に, 豊富な知識・情報を有
約
論
現
の するフランチャイザーが提供する情報に頼らざるを得ないことから, フラ款 ンチャイザーは, xxx上, 契約締結の際, フランチャイジーになろうとの する者に対し, 契約内容に関する説明義務ないし情報提供義務を負うとい
代
的 うべきである。」とし, フランチャイズ契約は約款による契約であること,
意
義 および本部に説明義務が課せられていることが確認されている。そして,
裁判所は,「本部が採用しているチャージの算定方法について, 加盟店オーナーが認識し理解しうるような説明を行う義務があるというべきである。」として, この説明義務の中にはチャージ算定方法 (コンビニ会計) が含まれているとされた。しかし, 本判決では,「一審原告 (加盟店) は, 店舗運営管理委託の際の解説, 加盟店契約の記載, スクールトレーニング, 提供された資料やマニュアルの記載, 損益計算書等によって, 一審被告の採用するチャージの算定方法について説明を受けたことを認めることができる。これらの説明により本件算定式の詳細は理解できなくとも, 一審原告は, 少なくとも廃棄ロス原価等が営業費として全額加盟店オーナー負担となることを認識し, そうであればこれが売上原価に含まれないということを理解し得るだけの説明を受けていたものと認められる。以上によれば,一審原告について, 一審被告の説明義務違反は認められない。」というように説明義務違反は認められていない。
そして, 本件で注目すべき点は, 説明義務の内容である。一つ目の説明義務内容として「チャージ算定の基礎となる売上総利益の算出において売上高から控除される『売上商品原価』には廃棄ロス及び棚卸ロスとなった商品の原価が含まれないこと」までも加盟店は求めているが, この点は
「一審被告方式のチャージの算定方法が説明されることにより分かること
であるから, 敢えて説明義務の内容として掲げる必要は認められず, この 論
点の一審原告らの主張は採用すべきものとはいえない。」として否定されていることである。そして, 二つ目の説明義務内容として,「廃棄ロスが
発生した場合の加盟店の最終利益, チャージに及ぼす影響に関する具体的 説
な説明が必要である」という点についても,「チャージの算定方法, 特に廃棄ロス原価等が営業費として全額加盟店オーナー負担であることが分かれば, 廃棄ロスの多寡がチャージ金額に影響を及ぼすものではなく, 営業費として加盟店オーナーが負担することにより, 加盟店オーナーの最終的な利益の増減につながることが理解でき, その検討が可能となるから, チャージの算定方法の説明としては, 一審被告に上記の事項を説明する義務を負わせる必要は認められない。」と否定されている。すなわち, 本部は(1)チャージ算定の基礎となる売上総利益の算出において売上高から控除される『売上商品原価』には廃棄ロス及び棚卸ロスとなった商品の原価が含まれないことや(2)廃棄ロスが発生した場合の加盟店の最終利益, チャージに及ぼす影響に関する具体的な説明について, 説明義務を負わないとされているのである。
この点, xxx判平成25年3月28日 (LEX / DB 文献番号25502591) でも,「(本部が) xxx上負う説明義務の程度としては・・・チャージの算定方法の詳細について正確な理解を得るまで説明する義務があるとまでは直ちにいうことはできず・・・一般に必要と認められる程度で足りるものであり, 十分な説明を果たしたものと認められる。」とされており, コンビニ会計についての詳細を加盟店が正確な理解を得るまでの説明義務は本部に課せられていないとされている。
この説明義務について詳細に検討することは, 本稿の目的ではないため,後の検討課題とするが, いずれにせよ, 裁判例においては, 本部には一般
認められる程度の説明義務しか課せられておらず, 詳細な説明をする義務
安 は課せられていないのである。したがって, コンビニ会計に関して言えば,
x 本部の説明義務は加盟店保護の役にはたっていない。
宏
授
教 そこで, 以下では, 約款による規制の方法で加盟店を保護するべく, フ
約
の ランチャイズ契約におけるコンビニ会計と約款の問題について検討する。
款論
現
の 第4節 コンビニ会計と民法改正要綱における約款規定
代
的 民法改正要綱では, すでに述べた通り, 約款の組入れ要件は, (1)定型
意
義 約款を契約の内容とする旨の合意をしたこと, または(2)定型約款準備者
があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示したことである。
コンビニ会計がフランチャイズ契約の約款に含まれており, 本部が約款の組入要件にしたがって, 契約内容とする旨の合意または, 約款を契約内容とする旨の表示をしていれば, 民法改正要綱の約款の規定がコンビニ会計に関して問題となることはないといえる。
もっとも, 民法改正要綱では,「相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重する条項であって, その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては, 合意をしなかったものとみなす。」と規定している。したがって, コンビニ会計が
「相手方の権利を制限し, 又は相手方の義務を加重する条項」であるとして, 約款に組入れられない可能性はある。しかし, コンビニ会計がxxx違反とされた裁判例は, 今のところ無いため, 民法改正要綱の約款規定の内容によって, コンビニ会計に何ら規制が加えられるとは考えにくい。すなわち, 民法改正要綱の約款規定では, 加盟店を保護することはできないといえる。
第5節 コンビニ会計と民法改正xxxxにおける約款規定
1 約 款 の 組 入 れ 要 件 論
民法改正xxxxでは, 約款の組入れ要件は, (1)契約に約款を用いることの合意および(2)相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知るこ
とができる機会の確保が必要とされている。コンビニ会計がフランチャイ 説
ズ契約の約款に含まれており, 本部が約款の組入れ要件にしたがって,(1)契約に約款を用いることの合意および(2)相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会の確保がされていれば, 民法改正中間思案の約款の規定による組入れ要件はみたされていることになる。
2 不意打ち条項
xxxxでは, 不意打ち条項が規定されている。それでは, コンビニ会計の条項は不意打ち条項にあたるだろうか。第4章で分析をした通り, xxxxの概要および補足説明では, 不意打ち条項とは「その約款中に含まれているとは合理的に予測できない条項」であり,「不意打ち条項にあたるか否かは, 内容の不当性にかかわらず当該契約類型において予測できるものであるか否かによって定まる」とされている。
これに従えば,「加盟店としては, 店舗経営により生じた利益の一定割合をチャージとして支払うというのが, 一般的な理解であり, 認識でもあると考えられる」にもかかわらず,「廃棄ロスや棚卸ロスについてまでチャージを支払わなければならない」コンビニ会計は不意打ち条項である可能性
がある。コンビニ会計は, 一般的な会計とは異なり, コンビニ独自の会計
(53)
方法であり, 合理的に予測できない可能性があるからである。
(53) フランチャイズシステムにおけるコンビニ会計については, 拙稿「フランチャイズシステムとフランチャイズ契約締結準備段階における売上予測(1)」大阪学院29巻2号176 頁以下 (2003 年)。コンビニ会計の問題点に
しかしながら, 第2章で検討した通り, 我が国の約款による取引におい
安 て多くの裁判例が出ている「地震免責条項」では, 地震免責条項が不意打
井 ち条項であることは認められていない。神戸地判平成14年9月3日では,
x
授
教 不意打ち条項と言えるには「契約の外形から, 条項内容が異常で非慣行的」
約
論
現
の であることが必要であるが,「地震免責条項は内容においても異常でも非款 慣行的でもなく不意打ちとはいえない」と判断されている。不意打ち条項の にいう「異常」と判断されるためには,「その条項が約款による契約全体
代
的 からして, 合理的な一般人において想定することを期待することが不可能
意
義 であることが必要」であると判断されている。また, 最二小判平成19年
6月11日では, 本件契約条項によるチャージ算定方式がコンビニ会計なのかどうかが争われているが, 本件契約条項が異常かどうかは争われていない。このようにコンビニ会計が「異常」であるとか「非慣行的である」とまで判断された判例や裁判例は今のところ存在していない。
コンビニ会計が「異常」であり,「非慣行的」であるかどうかについては, コンビニ会計は, 一般的な会計方式とは異なるため,「非慣行的」であり不意打ち条項に該当する可能性はある。しかしながら, xxxxの補足説明で示されているとおり, 個別の条項について当事者が明確に合意をしている場合には, 不意打ち条項にはならないとされている。すなわち,コンビニ本部がコンビニ会計について加盟店希望者に対して, 説明義務を果たしたうえで合意が結ばれていれば, 個別の条項について当事者が明確に合意をしているとされ, 不意打ち条項に該当することは回避されることになる。しかも, 本部には詳細な説明義務は課せられていないというのが裁判例である。したがって, フランチャイズ契約におけるコンビニ会計に
ついては, 拙稿「フランチャイズ契約における廃棄ロスとチャージ, そして見切り販売(1)」愛法187号47頁 (2010年) を参照。
ついては, 説明義務の問題に集約され, 不意打ち条項の果たす役割はそれ
(54)
ほど期待できないといえる。この点についてxxxxは「開示や説明が附 論
合者の約款条項に対する合意の存在を根拠づける危険性がある」と指摘されている。xxxxが懸念されていたことは, フランチャイズ契約に関し
ても生じている。xxxxが指摘された通り, 単なる通告に過ぎない開示 説
や説明ではなく, 契約の当事者が契約内容を了知することができるレベルの開示や説明義務がフランチャイズ契約においても課せられるべきであると言える。
3 不 当 条 項
xxxxでは, 不当条項が規定されている。それでは, コンビニ会計の条項は不当条項にあたるだろうか。
xxxxの不当条項規制は, 約款に含まれる個別の契約条項のうち約款
(54) 注(35)で紹介したxxxxに対する反対意見である「当事者にとって不意打ちとなるような契約条項は, 同時に不当条項であると評価される場合が多く, 不当条項に該当しない場合であっても, 従来から判例おいて認められている説明義務・情報提供義務の違反の問題として処理することができるので, 敢えて不意打ち条項に関する規定を設ける必要はない」との考えも, これと同様の理由であると考える。
フランチャイズ契約における説明義務や情報提供義務については, 拙稿
「フランチャイズシステムとフランチャイズ契約締結準備段階における売上予測 (2・ 完)」大阪学院第30巻1・2号50頁 (2004年), 拙稿「フランチャイズ契約締結準備段階におけるフランチャイザーによる売上予測情報とフランチャイジーによる店舗経営」愛法170号59頁 (2006年) を参照。
また, フランスにおける情報提供義務の問題は, 合意の瑕疵として議論がされているようである。フランスにおけるフランチャイズ契約については, xxxx「フランスにおけるフランチャイズ契約(1)」関学64巻3号 357頁 (2013年),「フランスにおけるフランチャイズ契約 (2・ 完)」関学
64巻4号233頁 (2014年) が詳しい。
使用者の相手方に過大な不利益を与えると認められるものを無効とする規
安 律を設けるものである。xxxxに従えば,「当該条項が存在しない場合
井 に比べて, 約款使用者の相手方の権利を制限し, 義務を加重するものであ
x
授
教 ること」であって,「相手方に過大な不利益を与えるものであること」が
約
の 必要である。当該条項が相手方の権利を制限し又は義務を加重し, その結
論
款 果相手方に過大な不利益を与えているかどうかという観点から判断するも
の (55)
現 のとしている。コンビニ会計は一般的な会計方式と異なり, 廃棄ロスにま
代的意
義 (55) xxxxの補足説明では, この点について「契約自由の原則は無制限
なものではなく, 契約に含まれる条項の内容が, 一方の当事者に対して不当に不利益を与えるものである場合には, その条項の適用が否定される場合があるとされている。」とし, さらに「公序良俗違反は, 当初は国家秩序や道徳秩序に反するという限定的な意味で理解されてきたが, その後の判例・学説の展開を通じて, 一方の当事者にとって不当な不利益を与えるという類型も公序良俗違反に含まれると理解されるに至っている。」との説明をしている。
なお, この点について, xxxxは, 諸外国で形成された不当条項リスト等を参考に不当と評価される要素を分析すると, 概ね(1)顧客を不当に契約関係に引き込み拘束することを可能にする条項, (2)顧客に不相当に重い義務を課する条項, (3)事業者の法律上の責任を不当に排除・制限する条項, 免責・責任制限条項, (4)契約締結時の給付間の不安定・不均衡,清算段階での不均衡をもたらす条項, (5)顧客の権利実現の手段を著しく制約する条項等の5点であるとし, 一般的に不当条項の共通因子は, (1)契約関係における相互性を無視していること, (2)通常の相手方顧客の能力に照らすと過大な要求や義務を伴っていること, (3)相手方顧客を長期にわたって不安定な状態におく結果となること, (4)結果として両当事者に著しい対価的不均衡をもたらすおそれが高いこと, (5)相手方顧客の無知・無経験・無思慮に乗じるおそれが高いこと, (6)相手方顧客の交渉・権利主張・被害救済の可能性を阻害する結果となること, などであり, 無効とすべき約款条項規制の一般条項にはこれらの要素が過不足なく考慮されていることが望ましいとされている。xxxx「約款による取引」法時 86巻12号101頁 (2014年)。
でxxxxがかかるという義務をコンビニ加盟店に負わせ, コンビニ加盟
(56)
店に不利益を与えるものであるから, 不当条項に該当する可能性は高い。 論
しかし, xxxxでは,「ある一つの契約条項が, 当該条項が存在しない場合に比して相手方にとって不利益なものであっても, 他の契約条項に
はその不利益を補うような相手方に有利な定めがあるために, 契約内容の 説
全体を見れば不利益が相手方にとって過大ではないと判断される場合には,
(57)
その契約条項は不当条項ではないことになる。」としている。フランチャ
(56) xxxxの概要や補足説明によれば,「ある契約条項の総体が約款に当てはまる場合であっても, それに含まれる条項のうち当事者が個別に合意したものについては, 合意の過程において一定の合理性を確保されているものと考えられるため, 本文の規律の対象とならない。」とし,「個別の合意がある条項を本文の適用対象から除外し, あくまで約款の組入要件の規定を通じて契約内容となった条項に適用対象を限定しようとするものである。」としている。すなわち, 個別の合意があれば, 不当条項規制の対象から外れるとされている。
この点について, xxxxは,「契約が約款を用いて締結された場合にも, 当事者間に個別的な合意が存在する時には, その合意は通常の契約と同じ方法で解釈され, その合意内容が約款条項と抵触する場合には, 個別的合意が優先することは, 約款による契約の解釈に関する相異なる見解の間でも一致して認められているように思われる。また約款条項を補充しあるいは変更する個別的合意が存在する場合に, そのような合意と抵触せず契約内容になった約款についても個別的合意と一体をなす一つの契約として, 個別的合意と調和するように解釈すべきであろう。」とされている。xxxxx『契約解釈の限界と不明確条項解釈準則』274頁 (日本評論社, 2003年)。
(57) この点について, xxxxは,「ある約款条項の内容規制の際に契約全体との関連を考慮する場合, 他の条項との間で相互に補償作用を及ぼすことがあり得る。ある条項に基づく契約相手方の著しい不利益が, 別の有利な約款条項によって, 不利益が不当でないほどまで補償されるというのが補償作用である。この補償の要件としては, 約款使用者の契約相手方の不利益と, 別の条項によってもたらされる利益とが, 少なくとも等価値であることがあげられる。補償措置を講じることによって不利益の埋め合わ
イズ契約は, 成功を売るビジネスである。契約の内容全体を見れば, フラ
安 ンチャイズ本部の経営指導があることで, 加盟店には多大なメリットがあ
井 る。会計処理についてだけみてもコンビニの会計処理システムとオープン
x
授
教 アカウント制度は, 営業開始時の資金や経営にかかわる資金で不足金が生
約
の じた場合に, 資金調達に奔走する必要なく融資が受けられること, 煩雑な
論
款 簿記会計記録を本部が作成してくれ, 確定申告は税理士に依頼すること自
の (58)
現 分でできることなど, 加盟店には大きなメリットがある。したがって, x
x
的 xxxの不当条項規制では, このコンビニ会計を規制することはできない。
意義
4 ま と め
以上の通り, xxxxに従えば, コンビニ会計は不意打ち条項でも不当条項でもないことになってしまう。
すなわち, コンビニ会計は, 一般的な会計方式とは異なるため,「非慣行的」であるが, xxxxでは, 個別の条項について当事者が明確に合意をしている場合には, 不意打ち条項にはならないとされている。すなわち,コンビニ本部がコンビニ会計について加盟店希望者に対して, 説明義務を果たしたうえで合意が結ばれていれば, 不意打ち条項に該当することは回避されることになる。
コンビニ会計がxxxxの不当条項になるかという点についても, コンビニ会計は一般的な会計方式と異なり, 廃棄ロスにまでチャージがかかるという義務をコンビニ加盟店に負わせ, コンビニ加盟店に不利益を与える
せが可能となるという補償理念は, 約款条項の適正化のための基準としても有用である。」と主張されている。xxxx「約款の内容規制と約款全体・契約全体との関連性」広島法学21巻1号87頁以下 (1997年)。
(58) 拙稿・前掲注(53),「フランチャイズシステムとフランチャイズ契約締結準備段階における売上予測(1)」大阪学院29巻2号176頁以下。
ものであるから, 不当条項に該当する可能性は高いが, しかし, xxxx
では,「契約内容の全体を見れば不利益が相手方にとって過大ではないと 論
判断される場合には, その契約条項は不当条項ではない」ので, コンビニの会計処理システムとオープンアカウント制度は, 加盟店には大きなメリッ
トがある会計方式であり, したがって, xxxxの不当条項規制では, こ 説
のコンビニ会計を規制することはできない。
第6節 コンビニ会計とxx説
約款に関するxx説に従うと, このコンビニ会計はどのように判断されるであろうかを検討したい。
1 等価交換説
既に第3章で検討したようにxx説は等価交換説である。すなわち, xxxxは, 等価交換となっていない約款の不合理条項の拘束力は一般に認められないと解すべきであるとしている。
コンビニ会計に限っていえば, コンビニ会計は, 一般的な会計方式と異なり, 廃棄ロスにもチャージがかかる等, 明らかに本部にとって有利であり, コンビニ加盟店のみが不利となる会計方式である。一般会計方式によれば, 加盟店が収益を得られる場合であっても, コンビニ会計によって収益を得られない場合がある。しかも, コンビニ会計が採用されれば, 全く商品が売れなくても, 廃棄が出さえすれば, 本部は必ずチャージ (ロイヤルティ) を得ることができる本部にとっては非常に有利となる会計方式である。このようにコンビニ会計に関する条項は, その条項だけを見れば,等価交換とはなっていない。したがって, xx説に従えば, コンビニ会計に関する条項は不合理条項となって, 拘束力は認められないことになる。
2 xx説における開示論と説明義務
x xxxxは, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能
井 を重視されるがゆえに,「開示・説明義務論のような成立コントロール,
x
授
教 特に説明義務違反の強調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ご
約
論
現
の との個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速款 的処理という約款の機能を損なう可能性がある」として, 開示・説明義務の の位置づけという問題に関しては, それを二次的・補充的な規制手段と考
代
的 えられている。すなわち, 約款の規制については, 開示・説明義務のよう
意
義 な契約の成立, すなわち附合者の意思決定の段階に着目した規制よりも,
約款の内容=その合理性に着目した規制のほうがより合理的であって, 成立コントロールは, 必要かつ有用であるが, 合理性コントロールに比すると二次的・補充的なものであると主張される。
xxxxは, 例えば地震約款のように, 契約締結に際して実質的に選択の自由が存在しない条項については, 開示や説明があっても, それについての附合者の合意が確実に存在したとはいえないと考えていると主張されている。選択の自由がない場合における開示や説明は, 実際には単なる
「通告」に過ぎず, そこには選択の自由ないし契約の自由がないので, 附合者の真の合意があるとはいえないからである。開示や説明によって附合者の約款条項に対する合意の存在は根拠づけられないというのがxxxxのお考えである。
xx説に従えば, 約款に関する開示や説明は問題とはならず, 約款の条項の合理性に規制の重点が置かれる。したがって, xx説に従って, コンビニ会計の問題を考えると, 約款の開示やコンビニ会計についての説明の有無はコンビニ会計に関する条項の有効性に影響を与えない。xx説ではコンビニ会計の合理性, すなわち, コンビニ会計が等価交換となっているかどうかが, この条項の約款への組入れの判断基準である。したがって,
xx説に従うと, 等価交換となっていないコンビニ会計は約款に組入れら
れないのではないだろうか。すなわち, xxxxの等価交換説に従えば, 論
コンビニ会計は約款に組み込まれることはないため, 加盟店がコンビニ会
(59)
計に拘束されることはない。
第 7 章 結 び に か え て 説
第1節 各章のまとめ
本稿では, xxxxの民法理論が民法xxにおいて果たした役割を検討した。
第1章では, xxxxの問題意識の中核となるものは契約法理論における意思の役割であり, その解釈学の理論を社会構造的・歴史的背景との関連で捉えることであると紹介を行った。
第2章では, xxxxの分析に依拠して, 判例の立場である意思推定説が形成されるまでを概観し, 最近の裁判例の分析を行った。裁判例における約款の拘束力の根拠は, そのすべてが, 約款の拘束力の根拠を大判大正
4年12月24日民録21輯2182頁の意思推定説に依拠している。そして, 不 意打ち条項が成立することについては, 裁判例の事案では否決されている。また, 裁判例においては, 約款論開示論と情報提供義務や説明義務は一緒 に議論されているが, 約款の開示論や情報提供義務は, 個別契約を認める ことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を 損なう危険性があるために認められていないとの分析結果となった。
第3章では, xx説の分析を行った。xxxxは基本的には契約説に立つことを前提としている。そして, 約款の各条項を合理的条項と非合理的
(59) フランチャイズ法の制定によって, コンビニ会計を無効とすべき意見もある。xxxx「「フランチャイズ規制法要綱」の発表」法律時報82巻
3号80頁以下 (日本評論社, 2010年)
条項に分類し, 非合理的条項の拘束力を否定する。xxxxは, 何が合理
安 的条項であり, 不合理条項であるかは, 等価交換の観点から定められるべ
井 きであろうとしている。これが, 等価交換説と言われるxxxxの約款論
x
授
教 である。さらに, xxxxは, 約款の機能として, (1)取引技術の合理化
約
論
現
の としての技術的機能, (2)法律的手段による経済力の維持強化を目的とす款 る経済的機能の2種類があるとしている。また, xxxxは, 開示・説明の 義務の位置づけという問題に関しては, それを二次的・補充的な規制手段
代
的 とし, 例えば地震約款のように, 契約締結に際して実質的に選択の自由が
意
義 存在しない条項については, 開示や説明があっても, それについての附合
者の合意が確実に存在したとはいえない主張されている。これらがxx説の特徴である。
第4章では, xxxxおよび民法改正要綱において, 約款の法的拘束力,採用規制, 内容規制はどのように規定されているかについて分析を行った。xxxxによる法的拘束力の根拠 (組み入れ要件) は,「約款使用の合意」 と「約款の内容を知ることができる機会の確保」である。民法改正要綱では, 約款の法的拘束力の要件は,「契約内容の合意」または「約款を契約 内容とする旨の表示」としている。すなわち, xxxxでは約款の内容を 当事者が知ることが必要とされているが, 民法改正要綱では約款を契約x xとする旨の表示で良く, 契約の当事者が約款の内容を知ることまでは必 要とされていない。そして, xxxxでは, 不意打ち条項については, 組 入の合意が及んでいないため, 契約の内容とはならないとしている。xx xxでは, 不当条項につき, 契約条項が不当条項にあたるかどうかの判断 基準として, 当該契約条項が存在しない場合の当事者の権利義務を比較対 象とすることとしている。また, xxxxでは, 契約条項の不当性を判断 するに当たって「契約内容の全体」を考慮することとし, かつ, それが
「過大な不利益を与える」ものであることを要するとしている。このよう
にxxxxにおいては, 約款が契約内容として拘束力を認められるかにつ
いては, 組入要件と「不意打ち条項」の規律, さらには内容規制について 論
「不当条項規制」が併せて設けられ, 全体としてセットになっている。 第5章では, xx説とxxxx, 民法改正要綱との異同について分析を
した。分析の結果, 約款の開示論や説明義務については, xxxxが指摘 説
された通り, 単なる通告に過ぎない開示や説明ではなく, 契約の当事者が契約内容を了知することができるレベルの開示が必要であるとの結論を示した。不意打ち条項については, すなわち, xxxxは不意打ち条項規制や説明義務などの成立 (採用) 規制よりは内容規制に重点を置くべしとの主張であり, xxxxは不意打ち条項による規制にはあまり効果を期待されないのではないかとの仮説を示した。そして, 民法改正要綱では, 相手方の利益を一方的に害する不当条項はその内容ゆえに「無効」となるのではなくて,「合意をしなかった」, すなわち, 約款に組入れられないと規定されている。これは, xx説である等価交換となっていない不合理条項は約款に組入れられないとする等価交換説と理論的には同じであるとの結論を示した。
第6章では, フランチャイズ契約における約款の問題をコンビニ会計に焦点をあてて, xxxxの約款論をもとにして検討した。フランチャイズ契約約款におけるコンビニ会計条項については, 民法改正要綱における約款規定では約款に組入れられることになり, これを規制することはできない。民法改正xxxxにおける約款規定に従えば, コンビニ会計は不意打ち条項でも不当条項でもないことになり, 加盟店保護に益することはできない。
しかし, xx説に従うと, この問題は解決できる。xx説は等価交換となっていない不合理条項の拘束力は一般に認められないと解すべきであるとする等価交換説である。xx説に従えば, 約款に関する開示や説明は問
題とはならず, 約款の条項の合理性に規制の重点が置かれる。したがって,
安 コンビニ会計の合理性, すなわち, コンビニ会計が等価交換となっている
井 かどうかが組入れの判断基準である。xxxxの等価交換説に従えば, x
x
授
教 ンビニ会計は約款に組み込まれることはできない。xxxxの等価交換説
約
の に従えば, 加盟店保護が実現できる。
款論
現
の 第2節 xxxxの約款論の現代的意義
代
的 以上の通り, 本稿では, xxxxの約款論について, その現代的意義を
意
義 探るべく分析を行った。
xxxxのお考えで注目すべき点は, xxxxは不意打ち条項規制や説明義務などの成立 (採用) 規制よりは内容規制に重点を置くべしとの主張である点である。xxxxは, 開示・説明義務論のような成立コントロールの強調は, その範囲にもよるが, 必然的に個々の契約ごとの個別的解決をもたらすことになり, 大量取引の画一的・安定的・迅速的処理という約款の機能を損なう可能性があることを理由の一つとしてあげられている。民法改正要綱では, 約款の法的拘束力の要件は,「契約内容の合意」ま たは「約款を契約内容とする旨の表示」としており, これはxxxxのいう約款の機能性が重視された結果である。そして, 民法改正要綱では, 相手方の利益を一方的に害する不当条項はその内容ゆえに「無効」となるのではなくて,「合意をしなかった」, すなわち, 約款に組入れられないと規定されている。これは, xx説である等価交換となっていない不合理条項は約款に組入れられないとする等価交換説と理論的には同じである。このように民法改正要綱ではxx説の考えが取り入れられており, 現在でも非常に意義のある学説である。xxxxは, この考えを1973年の時点で発
表をされている。
このxxxxの等価交換説は, フランチャイズ契約におけるコンビニ会
計の問題に対しても活かされる。xxxxの等価交換説では, コンビニ会
計の合理性, すなわち, コンビニ会計が等価交換となっているかどうかが 論有効性ないしは組入れの判断基準である。xxxxの等価交換説に従えば, コンビニ会計は約款に組み込まれることはできず, コンビニ会計を無効と
す る こ と が で き る 。 説
第3節 おわりに
以上, 本稿では, xxxxの約款論についての現代的意義について検討した。xxxxの約款論は, 現代の契約法の問題に対してもその問題解決に有意義なものである。
xxxxには, 兄弟子としてそして師匠として, 現在まで厳しくも暖かいご指導をいただいてきた。ここに心からの感謝の意をこめて, 御礼を申し上げることで結びとさせていただく。
xx先生, ご退職を迎えられました事, 大変お喜び申し上げます。xxに渡りご指導頂いた御礼は筆舌に尽くし難く, 感謝の言葉もありません。本当に長い間お疲れ様でした。
The Significance of Professor Xxxxx’x Theory
x
x About Basic Terms and Conditions
教
宏 for Standard Form Contract at the Present Time-
の
授 Discussing Revising Civil Code
款
約 in Japan and Franchise Contract
論
現
の Xxxxxxxxx XXXXXX
代的
意 This paper discusses the significance of Professor Xxxxx’x theory about
義 basic terms and conditions for standard form contract at the present time. Professor Xxxxx has an idea that basic terms and conditions for standard form need exchange of equal value and unfair terms and conditions are not incor- porated in the part of contract. The outline of Revised Civil Code prescribe that unfair terms and condition are not incorporated in the part of contract. At this point, Xxxxx’x theory about basic terms and conditions for standard form contract is the same idea as the outline of Revised Civil Code.
And also, Xxxxx’x theory is useful for Franchise Contract. Someone says that the accounting system which uses at convenience store in Japan is not fair and this causes the conflict between headquarters of convenience store chain and a member store. If we use Xxxxx’x theory, this conflict is solved. Xxxxx’x theory regards the terms and conditions about accounting system of Franchise Contract in Japan as the exchange of equal value. According to Xxxxx’ theory, this terms and conditions are not incorporated in the part of contract. Xxxxx’x theory is also useful for Franchise Contract in Japan at the present time.