Contract
消費者契約法・期待される役割と具体的機能
―インターネット・オークションを題材に―
目
次
Ⅰ.はじめに:本稿の趣旨
Ⅱ.規制改革の進展と
消費者契約法に期待される役割
Ⅲ.消費者契約法の具体的内容
-期待される役割に即して
Ⅳ.消費者契約法の現時点での機能
Ⅴ.インターネット・オークション市場における消費者契約法の機能
Ⅵ.市場環境整備としての消費者契約法
研究員 xxxxx 研究員 xx x政
要 約
Ⅰ.はじめに:本稿の趣旨
本稿では、2001 年 4 月の施行から 1 年近く経過した消費者契約法が、制定にあたって期待された役割を果たし得るかを、経団連と国民生活センターの報告書、関係者ヒアリング、およびインターネット・オークションに関するケーススタディにより、具体的に検討する。
Ⅱ.規制改革の進展と消費者契約法に期待される役割
90 年代に入り、規制改革が進展する中、消費者契約法には、従来の「消費者被害防止・救済」のみでなく、「市場機能を活用する基盤整備としての、自己責任にもとづくxxなルール作り」という新たな役割も求められるようになった。
Ⅲ.消費者契約法の具体的内容-期待される役割に即して
消費者契約法では適用除外となる業界はなく、あらゆる消費者取引に隙間なく適用される。また、不適切な事業者の行為や契約内容が類型化して明示されており、事業者の行為を適正化して紛争を抑止し、また、実際に紛争が起こったときの解決の指針となり得る。
Ⅳ.消費者契約法の現時点での機能
経団連のアンケートによると、多くの事業者・事業者団体が、消費者契約法制定に際して勧誘実務や契約内容の見直しなどの対応を行っており、同法は事業者の行動の適正化による紛争抑止の方向で機能している。また、消費者相談の現場では、これまで救済が難しかったが同法により問題が解決した事例が見られ、実際の紛争解決にも役立っている。
Ⅴ.インターネット・オークション市場における消費者契約法の機能
インターネット・オークション市場では、事業者が経験を経て作り出した様々な安全策・利用者の被害救済策が、市場の健全化に大きく寄与している。消費者契約法は、利用約款上の事業者の責任制限条項を無効とするなど、消費者救済の途を広げる可能性を持ち、新規の市場でも自生的秩序とあいまって市場を健全化する方向に機能し得る。
Ⅵ.市場環境整備としての消費者契約法
消費者契約法は、現時点では事業者の行動の適正化、紛争解決の指針として、消費者被害の救済に寄与している。また、新規の市場において、市場参加者の試行錯誤を経て秩序が自生的に形成されて行く中、消費者契約法は市場環境整備の役割を果たし得る。
Ⅰ.はじめに:本稿の趣旨
消費者契約法は、94 年から 6 年にわたる検討・
審議を経て、2000 年 4 月に両院の全会一致をもって成立し、2001 年 4 月に施行された。
制定から 2 年弱、施行から 1 年弱を経て、消
費者契約法については既に、経済企画庁や日本弁護士連合会による解説書、法理論的な議論、実務での対応策、消費者相談の現場での活用方法など様々な切り口での論考が公表されている。本稿では、同法が制定にあたって期待された役割を、制定以降これまでに果たしているか、今後果たし得る か に つ き 、 経 済 団 体 連 合 会 ( 以 下 「 経 団 連」)・国民生活センターの報告書、およびインターネット・オークションを題材としたケーススタディにより、具体的場面に即して検討する。
まずⅡ.では、わが国での規制改革の進展と、 その中での消費者契約法に期待される役割につい て、政府の規制改革推進機関、および国民生活審 議会(以下「xxx」)の答申、報告書により、 政策当局および立法関係者の議論を辿る。Ⅲ.で は、期待される役割を消費者契約法がどのように 果たすかを、条文に照らして見ていく。次に、Ⅳ.で、経団連の事業者アンケート、および国民生活 センターでとりまとめた消費生活相談事例から、 消費者契約法がこれまで期待された役割を果たし ているかを、具体的に検証する。Ⅴ.では、法の 制定時に明確に想定されていなかった新たなサー ビス形態であるインターネット・オークションを 取り上げてケーススタディを行い、消費者契約法 が今後ニュービジネスの市場においてどのように 機能し得るかを検討する。最後にⅥ.で、消費者 契約法が当初の制定目的にかなった役割を果たし うるかについて、総括を行う1。
Ⅱ.規制改革2の進展と消費者契約法に期待される役割
消費者契約法の制定が促された背景には、消費者契約をめぐるトラブルの増加がある。とくに、xx商事事件に代表されるような悪徳商法の被害防止・被害者救済の観点から、消費者取引の適正化の必要性については、xxxでは 1971 年から議論が行われていた。
90 年代に入り、規制改革が進展する中、消費者契約法には、従来の「消費者被害防止・救済」
のみでなく、「市場機能を活用する基盤整備としての、自己責任にもとづくxxなルール作り」という新たな役割も求められるようになった。
本章では、政府の規制改革推進機関、およびxxxでの消費者契約法の制定にxxx答申・報告書から、規制改革の流れの中で消費者契約法に期待される新たな役割について、導き出す。
1.90 年代以降の規制改革の意義
90 年代以降の規制改革の特徴として、バブル経済崩壊後の景気低迷の長期化を背景に、規制緩和が「内需拡大と経済活性化」のための手段として、経済対策の主要な柱とされるようになったことがある。この姿勢は、政府の規制改革推進機関である規制改革委員会や臨時行政改革審議会の答申・報告書にあらわれている。
(1)経済対策としての規制改革
90 年代以降の規制改革が目指すものは、規制改革委員会3が 2000 年 12 月に公表した「規制改革についての見解」序文において端的に述べられているように、「市場原理を積極的に活用し、才能、能力の発揮や努力が報われる競争社会の構築」である。
この目的は、規制緩和委員会の前身である行政改革委員会の第一次意見「規制緩和に関する意見
~光り輝く国を目指して(95 年 7 月)」におい て、以下のように、より具体的に記述されている。
「規制の緩和・撤廃と市場における内外無差別で
xx有効な競争条件が整備されるならば、新規ビジネスへの参入や新サービス開拓による競争が促進され、生産の効率化、価格低下、内外価格差の縮小、消費者の選択肢の拡大といった国民にとっての利便性が向上し、それに伴い市場や雇用の拡大が図られることを期待する。」
(2)基盤整備としての消費者契約法への期待
このような 90 年代以降の規制改革の方針は、
93 年公表の臨時行政改革推進審議会(第 3 次行革審:90 ~93 年)最終答申を基礎としている。この答申では、内外の社会・経済情勢の変化を受けて「これまで以上に民間の創意工夫、自己責任を基本とした市場重視の経済運営へと転換することが必要となっている」と指摘し、行政システム
の変革の方向の基本方向として、従来の提言に加 え、「官主導から民自律への転換」を挙げている。
そして、規制緩和を進めるための基盤的条件のひとつである「国民・企業の自己責任原則の徹底等」の手段として、「自らの選択に責任を持ち得るよう市場条件に関する情報の提供、消費者教育の充実などの環境整備を進めるとともに、我が国社会に受け入れられるような製造物責任制度の導入に向けた検討を促進し、年内に結論を得る」ことを挙げている。
この最終答申の公表された 93 年当時、消費者
施策の最優先課題は製造物責任法の制定であり、ここでは消費者契約法については言及されていない。しかし、具体的な消費者契約法制定の議論が煮詰まり、法律制定のめどが立った 99 年には、
「規制緩和推進 3 ヵ年計画(改定)」に、以下のように明記された。「(6)消費者契約の適正化規制改革の一環として、消費者・事業者双方の 自己責任に基づいた経済活動を促すxxなルールを確立するという観点から、消費者と事業者との間で締結される契約に広く適用される民事ルールの検討を推進する」。このように、消費者契約法も「自己責任原則を徹底し、市場原理を活用するための環境整備」の一環と位置付けられている。
2.国民生活審議会での検討
消費者契約法の制定に向けての本格的検討が開始されたのは、製造物責任法に関する議論が一段落した 94 年である。このときには、90 年代の規制改革政策を受け、消費者契約法には直接的な消費者の救済だけではなく、市場機能の活用のための基盤整備という新たな役割が求められるようになっていた。
(1)消費者契約法の目的
消費者契約法の制定の本格的検討は、94 年の
第 14 次xxx消費者政策部会において設置され た行政問題検討委員会で始められた。同委員会は 同年 11 月に「今後の消費者行政の在り方につい て」と題した報告書において、「情報提供の推進、契約条項の内容規制の検討、事後規制の活用の検 討」を、消費者契約適正化の方向として示した。
これを受け、第 15 次xxx( 95-96 年)では消費者政策部会のもとに消費者取引検討委員会を
設置し、検討内容を消費者政策部会報告「消費者取引の適正化に向けて」(96 年 12 月)として公表、消費者取引の適正化の基本的な方向性を提言した。
同報告では、消費者・事業者の情報・交渉力格差の存在を、消費者取引をめぐるトラブル急増の要因として、「消費者・事業者が自己責任に基づき行動することが促進されるような環境整備を図ることの必要性が高まっている」と指摘し、消費者契約の適正化策として、立法、紛争解決手段の整備充実、情報提供・消費者教育の推進の 3 点を挙げている
このうち立法については、「消費者取引における業種や取引形態を問わずに隙間なく対応することが可能で、かつ、予見可能性を高めうるようなルール作り、すなわち具体的かつ包括的な民事ルールの立法化が必要である。こうした民事ルールにより、不適正な行為を抑止し紛争発生が事前に防止されるとともに、紛争が発生した場合に解決の際の具体的な指針として、事後の救済が図られることが期待される」との提言を行っている。すなわち、消費者取引の適正化にかかる立法の 機能としては、「隙間なく対応」でき、「不適正な行為を抑止し紛争発生が事前に防止される」こと、「紛争が発生した場合に解決の際の具体的な指針として、事後の救済が図られる」ことの 3
つが求められることになる。
(2)具体的内容の提言
xxxでは、この部会報告を受けて消費者政策 部会の下に消費者契約適正化委員会を設け、「 あ らゆる消費者取引に隙間なく対応可能」で、「 不 適正な行為を抑止し紛争発生が事前に防止され」、また「紛争が発生した場合に解決の際の具体的な 指針として事後の救済」を図る効果を持つ、具体 的かつ包括的な民事ルールとして、消費者契約適 正化のための法律案の作成を開始した。
同委員会では、98 年 1 月 21 日に中間報告
「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」を公表した。その後、これを基に産業界、消費者団体をはじめとする各界からの意見を聴取した上でさらに議論を行った上で変更を加え4、とりまとめた最終報告、「消費者契約法(仮称)の制定に向けて」(99 年 1 月 28 日)が、消費者契約法
案の基礎となっている。
(3)中間報告「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」の概要
1998 年 1 月の中間報告は、その後の各界から
の意見聴取や意見調整を経て一部内容が変更されたが、大枠としては最終的に成立した消費者契約法の基礎となっている。ここでは、中間報告の提言のうち、中心的な部分を概観する。
①消費者契約法の目的
中間報告では、消費者契約法の制定の背景について、以下の 2 点を挙げている。
A. 消費者・事業者の情報格差
現在、消費者が必要な情報、知識、交渉力等について、事業者との間に大きな格差が存在する。このため、真に対等な関係の下での消費者の自由な意思形成がなされないままに契約が締結され、トラブルが大幅に増加している。
B. 従来の対応の問題点
従来、我が国では、消費者取引の契約締結過程および契約内容の適正化は、個別業法や民法等での対応が一定の成果をあげている。しかし、個別業法では、様々なニュービジネスが登場する中、業種や取引形態を問わない対応が困難である。民法は対等の当事者が前提となっており、上に述べた格差を勘案していない。また、民法で用いられる一般条項は抽象的な規定であり、消費者・事業者の双方にとって、紛争解決の指針とはなりにくい。
このような問題認識から、新たに制定される消費者取引の適正化のための法律は、「取引における消費者と事業者の関係をより対等なものとし、消費者、事業者双方の自己責任に基づく行動を促す」ものとすることが必要であるとしている。
②消費者契約法の対象
消費者契約の適正化の対象となる「消費者契 約」の範囲を明確化するためには、消費者契約法 において「保護に値する取引を定義する方法」と、
「行為主体を定義して両者を当事者とした契約を適用範囲とした上で、必要に応じ適用除外を設ける」方法が考えられる。
取引を定義する方法では、将来どういった形態
のものが出現するか予想が困難であり、その形態自体が非常に変化しやすいものであるため、新しい取引形態の出現や取引形態の変化に際して柔軟に対応できない懸念がある。このため、行為主体を定義する形式とすることで、より機動的な対応が可能となる。
以上から、中間報告では、「消費者契約」の定 義として、消費者契約法の趣旨を鑑み、包括的な、消費者と事業者の間のすべての契約を適用対象と するものとすべきであり、「消費者と事業者の間 で締結されるすべての契約」とすることが適切で あるとしている。
③消費者契約適正化のためのルール
前述の「情報格差」による消費者トラブルを防止する、消費者契約を適正化するためのルールとして、中間報告では以下の提言を行っている。
A. 契約締結過程の適正化のためのルール
消費者に契約を締結した結果としての自己責任 を負わせるためには、消費者が十分な情報の下で 自発的な意思決定をすることが必要である。しか し、事業者と消費者の間には情報面で大きな格差 が存在しており、事業者から消費者に適切な情報 が迅速に伝達されているとは言いがたい現状にあ る。また、事業者からの脅迫まがいの態度や長時 間の拘束等の不適切な働きかけを行う場合もある。
このような状況では、消費者が自発的な意思決定をすることができず、事業者との間でトラブルが生じ、不利益を被ることとなる。これを是正するため、契約締結の過程において、「重要な事項について、情報提供義務に違反したり、不実のことを告げた場合」、「事業者からの脅迫まがいの言動や拘束などの強い働きかけ」があった場合には、消費者からの契約の取消を認める。また、
「交渉の経緯から消費者が予測することができな
いような契約条項(不意打ち条項)」は無効とする5。
B. 契約内容の適正化のためのルール
消費者取引では、事業者があらかじめ用意した定型化された契約条項に対し、消費者が自己責任に基づき交渉し納得して合意することがなされないまま契約が結ばれるケースが多くなっている。そのため、契約条項の中に消費者に一方的に不利な条項が入り込むことがある。
このような不当な条項は、その全部または一部について効力を生じないこととする。
Ⅲ.消費者契約法の具体的内容
-期待される役割に即して
消費者契約法は 4 章 12 条および附則から成る
法律で、第 1 章「総則」では適用範囲と定義、事業者および消費者の努力義務を定める。契約締結過程にかかる第 2 章「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消」では事業者の不適切な行為により締結された消費者契約の取消、契約内容にかかる第 3 章「消費者契約の無効」では、不当な内容の消費者契約の無効を規定する。以下では、消費者契約法の概要を条文に沿って 見たあと、前述の 3 つの期待に対応する各規定
の機能を述べる。
1.消費者契約法の概要
(1)目的
「1 条 目的」は、「この法律は、消費者と事 業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差 にかんがみ」という文言で始まる。次に、同条で は、交渉力の格差を修正するための法的手段とし て、「事業者の一定の行為により消費者が誤認し、または困惑した場合について契約の申し込み又は その承諾の意思表示を取り消すことができること にするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除 する条項その他の消費者の利益を不当に害するこ ととなる条項の全部又は一部を無効とする」と、 明確に規定している。この「誤認、困惑による契 約の申込み又はその承諾の意思表示の取消」と、
「消費者の利益を不当に害する条項の無効」という 2 つの手段によって、消費者と事業者の間の情報・交渉力格差を修正することが、消費者契約法の目的である。
本条は「消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と結ばれており、これが本法の究極的な目的となる。
(2)適用範囲
消費者契約法の対象となる「消費者契約」とは、
「消費者と事業者との間で締結される契約をいう」と定義されている(2 条)。
12 条で、労働協約については適用しない旨定 められているが、これ以外は適用除外はなく、消 費者が事業者と締結する契約はすべて対象となる。
(3)情報提供義務
消費者契約法では、3 条 1 項で事業者に「契約内容を明確かつ平易になるよう配慮する義務」および「勧誘に際して必要な情報を提供するよう努めなければならない」義務を課している。
同条 2 項では「消費者は、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解する」努力義務を負うと規定され、情報提供義務は事業者・消費者双方の努力義務とされている。
(4)契約締結過程にかかる規定
4 条では、契約締結過程において事業者が不適切な行為を行い、それにより消費者が誤認、もしくは困惑して消費者契約を締結した場合には、消費者はその契約を取消すことができる旨を規定する。不適切な行為とそれによる誤認・困惑には、具体的には以下の 5 類型がある。
①不実告知による消費者の誤認 重要事項について事実と異なることを告げ、消費者がそれを事実と誤認した場合。 |
②将来の事実についての断定的判断による消費者の誤認 将来が不確実な事項につき断定的判断を提供 し、消費者がそれを確実であると誤認した場合。 |
③不利益事実の故意の不告知による消費者の誤認 重要事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつその重要事項について消費者の不利益になる事実につき故意に告げずに、消費者がその不利益となる事実が存在しないと誤認 した場合。 |
④不退去による消費者の困惑 事業者が、消費者の住居または業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したに もかかわらず、退去しない場合。 |
⑤監禁による消費者の困惑 消費者が退去する旨の意思を表示したにもかかわらず、事業者が勧誘の場所から退去させ ない場合。 |
(5)契約内容にかかる規定
8 条、9 条、10 条では、消費者に不当に不利益、な条項の類型を掲げ、そのような条項の全部また は一部を無効とする。
①事業者の損害賠償を免除する条項(第 8 条) A.事業者の債務不履行により消費者が被った損害の賠償責任のすべてを免除する条項。 B.事業者の故意または重過失に起因する債務 不履行により消費者が被った損害の賠償責任の一部を免除する条項。 C.事業者が債務の履行に際してなした不法行為により消費者が被った損害の賠償責任のすべてを免除する条項。 D.事業者が債務の履行に際して故意または重過失によりなした不法行為により消費者が被った損害の賠償責任の一部を免除する条項。 E.有償契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき、その瑕疵により消費者が被った損害の賠 償責任をすべて免除する条項。 |
②損害賠償額の予定条項の無効(第 9 条) A.消費者の損害賠償または違約金、遅延利息が下記の金額を上回る場合、その上回る部分。 B.消費者からの解除に伴う損害賠償または違約金の規定が、その事業者に通常生ずべき損害の平均的な額を上回る場合。 C.消費者の支払が支払期日に遅れた場合の損 害賠償または違約金の利息が 14 . 6 %を上回る場合。 |
③消費者不利益条項の無効(第 10 条) 8 条、9 条に定める以外の、消費者の利益を一方的に害する、以下の 2 点に該当する条項は無効。 ・民法、商法その他の法律の公の秩序に関しな い規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限、または消費者の義務を加重するものであること。 ・民法第 1 条第 2 項に規定する基本原則(信 xx)に反して消費者の利益を一方的に害するものであること。 |
2.消費者契約法への期待と対応する規定
ここでは、1 .で見た消費者契約法の規定が、具体的にどのような形でⅡ.2 .(1) で掲げられた期待される 3 つの役割、「隙間ない対応」、
「事業者の不適正な行為の抑止」、「紛争解決の指針」を果たすかを検討する。
(1)隙間ない対応
消費者契約法は、事業者と消費者が当事者となる、労働契約を除くすべての契約を対象とする。消費者契約法の制定過程では、多くの事業者団 体からその事業について「個別業法による規制が
あるので適用除外とすべき」との意見があったが、
「包括的な民事ルールとする」という当初からの方針に従い、一部業種についての適用除外規定は設けなかった。
したがって消費者契約法は、事業者と消費者の間で締結される、あらゆる業種の、あらゆる形態の契約に、隙間なく対応できる。
(2)事業者の不適正な行為の抑止
消費者契約法では事業者の不適切な行為により締結された契約の取消(4 条)、および消費者に不当に不利益な条項の無効( 8 条、9 条、10 条)を認めているが、この原因となる事業者の行動、契約内容の類型を明示している。
事業者がこれらの規定や裁判例、消費生活相談事例等を基準として自らの行動を見直し、不適切な行動・契約条項を適正化することで、紛争を未然に防ぐことが期待できる。
とくに、契約の取消および無効に関する規定は、事業者の行為や契約内容がこれらの類型にあては まる場合、取消や無効という強い効果が認められ ることとなるため、適正な行動を行うことは事業 者にとって切実な課題となる。
3 条の情報提供義務は努力規定であり、事業者に違反があった場合でも直接的には契約の取消や無効、賠償責任といった私法的効果は生じない。ただし、本条違反が裁判で不法行為責任の違法性の根拠と認定される可能性があり6、情報提供義務が法律に明記されたことは、事業者が消費者への情報提供をより重視する契機となろう。
(3)紛争解決の指針
実際に紛争があった場合には、 4 、8 、9 、10 条の類型は、従来の裁判例や実務よりも明確な紛 争解決の指針として機能する。また「取消」また は「無効」という強い私法的効果をもたらすこと で、消費者の損害回復を容易にすると考えられる。
Ⅳ.消費者契約法の現時点での機能
本章では、経団連による事業者アンケート、および国民生活センターおよび各地消費生活センターが取り扱った消費生活相談を題材に、施行から 1 年弱を経た現時点での消費者契約法の機能を見る。
1.経団連・事業者アンケート
経団連では、消費者契約法施行に先立つ 2000
年 11 月から 2001 年の 3 月にかけて、会員の
151 社 33 事業者団体に対し、「消費者契約法の施行準備等に関するアンケート」を実施した7。消費者契約法が「事業者の不適正な行為の抑止」に寄与しているかを見る手がかりとして、法の内容を事業者がどの程度意識し、具体的にどのような対応を行っているかを、このアンケート結果から紹介する。
(1)契約締結段階に関する取組
アンケートの結果報告によると、有効回答のあった 54 社、10 団体のうち、消費者契約にかかわるほとんどの企業が、消費者契約法の施行にあたって何らかの対応を行っている。
契約締結段階については、企業は下記のような取組を行っている。
《表1》企業の主な取組
営業員、販売員、系列販売会社等に対 しての周知 | 20 社 |
マニュアル、 Q& A、ガイドライン等 を策定・改定 | 17 社 |
契約締結過程について点検したが新た な取組の必要はなかった | 7 社 |
消費者用の「重要事項」についての説 明資料の作成 | 4 社 |
商品説明パンフレットの見直し | 4 社 |
(注)その他、申込書や契約書を読みやすくなるよう見直した、商品のリスク等に関する情報提供や消費者の契約意思などについて確認のための書面を作成・保存することにした、など。
(出所)経済団体連合会経済本部「企業及び事業者団体の消費者契約法施行にあたっての対応状況等について~ 『消費者契約法の施行準備等に関するアンケート』の集計結果」(2001 年 4 月 20 日)
(2)契約内容に関する取組
契約内容に関する取組としては、「製造業など消費者との直接の契約がない企業、あるいはチェーンストアなど消費者との契約にあたって契約書を使用していない企業を除くほとんどの企業が、自社の契約条項について消費者契約法に沿ったレビューを行っている」とある。ただし、契約内容を見直した結果問題となる点が見当たらず、とくに契約条項を改定する必要がなかった事業者が多数を占めた。とくに法律に抵触しないが、見直しを契機に契約内容の平易・明確化を行う企業も見られた。
また、事業者団体として「当局と『重要事項』等法律の解釈について検討し、当局と確認した」者が 4 団体、「情報提供や販売方法についてガ
イドラインを策定した」者が 2 団体ある。
(3)消費者契約法の事業者への働きかけ
以上のように、結果的に実務や契約条項の変更 といった具体的な行動をとらない事業者も多いが、多くの事業者・業界が、消費者契約法の規定を意 識して、自社および各々の業界の実務の見直しを 行っている8。また、約款文言の消費者契約法に 抵触する部分について修正を行うなど、実際に事 業者が行動を消費者契約法に沿って是正している 例も見られる。
このほか、消費者に対する情報提供や、消費者相談窓口での対応も、消費者契約法施行への対策として強化された例が目立つ。
このように、消費者契約法が事業者の行動の適正化に寄与していることがわかる。
2.消費者契約法に関連する消費者相談事例
国民生活センターでは、全国の都道府県の消費生活センターに寄せられた相談を集約し、消費者契約法に関る相談についての報告を公表している
(「消費者契約法に関連する消費生活相談」9)。ここでは、消費者契約法が消費生活相談の現場
での実際にどのように機能するか、どのような場面で有効かを、同報告および安田総合研究所が行った消費者相談員に対するヒアリングの結果から検討する。
(1)相談件数と内訳
2001 年 4 月 1 日から 9 月 30 日までの半年間で、国民生活センターが把握した消費者契約法に関る消費生活相談は、499 件であった。これは、消費者契約法を相談処理に利用した相談を集計している。内訳は、第 4 条(契約締結過程)関連
が 395 件(79.2% )、第 8 ~10 条関連(条項)が 77 件( 15.4% )となっており、4 条関係中
「不実告知」にかかわる相談が 207 件と、目立って多い。また、「困惑」に該当する可能性が高い「不退去・監禁」にかかる相談も、各々67 件、108 件あった。
相談件数の偏りは、実際に生じているトラブル の量のみでなく、条文の使いやすさにも左右され ると考えられる。国民生活センター相談部、消費 者契約法相談分析・支援室長、角田真理子氏10か らは、「消費者相談員にとっては、4 条の各項目、特に『困惑』については要件が比較的明確である ため、事業者に対して主張を行いやすい。一方、
4 条中の『不利益事実の不告知』や『不当条項』は、民法の解釈が必要など内容がわかりにくく、また条項を無効とした後当該条項についてどのように取り扱うかの指針がないため、相談員は活用しづらいのではないか」とのコメントがあった。
(2)相談内容
「不実告知」に係る相談のうち、相談の多い商品・サービスは、「自動車」、「資格取得用教材」、「浄水器」、「資格講座」、「アクセサリー」、「教養娯楽教材」であり、勧誘方法としては「家庭訪販」の 4 割を筆頭に、「電話勧誘販売」、「アポイントメントセールス」が多い。
「不退去」では「ふとん」、「電気掃除機」、
「浄水器」、「新聞」で、家庭訪問販売がほとんどである。「監禁」では、「アクセサリー」、
「和服」、「絵画」、「教養娯楽教材」で、勧誘方法の約半数が「アポイントメントセールス」であり、次いで「キャッチセールス」、「展示販売」をあわせて全体の約 8 割を占める。
「不当条項」の事例は 77 件あり、「パソコン・ワープロ教室」、「賃貸アパート」、「自動車」、「ペット」が多く、事業者の賠償責任を制限する条項が例として挙げられている。
(3)消費者契約法による解決
これらの消費者生活相談の現場に寄せられた相談の一部は、消費者契約法に基づく取消により解決している。また、事業者側で販売方法に問題があったことを認めて、無条件解約や一部解約料の負担による解約で解決したケースも見られる。訪問販売、電話勧誘販売などで悪質勧誘がなされた場合、特定商取引に関する法律によりクーリング・オフが可能だが、同法で定められたクーリング・オフ期間の経過後に消費者契約法による取消を主張して解決したケースも多い。また、中にはクーリング・オフによる取消よりも有利な条件での取消ができた例も報告されている11。
(4)消費者契約法が機能する場面
国民生活センターの報告からは、消費者契約法にかかる消費生活相談として多いのはいわゆる
「悪質商法」に関するものであることがうかがわ れる。安田総合研究所の実施したヒアリング12で、ある消費者相談員は、「一部の悪質な事業者は自 分が不適切な行動をしていることを認識している ので、消費者契約法を示せば引き下がる」とコメ ントしている。このように、消費者契約法が事業 者の不適切な行動の類型を示すことで、従来は消 費者の主張を受け入れなかった事業者が取消を認 めるなど、消費者トラブルの解決に寄与している。
なお、同相談員からは、海外先物オプションなど既存の規制の対象とならない取引や、クーリング・オフ期間経過後の契約の取消などに機能することを期待している、とのコメントがあった。国民生活センターの報告からも、消費者契約法が具体的に機能するのは、従来の規制の網にかかっていない部分であると考えられる。
Ⅴ.インターネット・オークション市場における消費者契約法の機能
国生審の報告書で指摘されているように、規制改革の進展はニュービジネスの発生を促進することが期待されている。消費者契約法は、業種にかかわらず適用される民事ルールであり、従来の業種毎の規制の枠に入らない業態や、新たに登場した業態にも機動的に対応できるよう、定義規定を包括的なものとし、適用除外を設けていない。
ここでは、消費者契約法の内容の議論が行われ
ていた時点で生まれていなかった新規の消費者向けサービス業態である「インターネット・オークション」を題材に、消費者契約法がニュービジネスにも隙間なく機能するか、新たな市場においてどのように機能するかにつき、従来の取引形態にはない特徴から生じる消費者契約上の問題を中心に、ケーススタディを行う。
1.インターネット・オークションの概要
(1)インターネット・オークションを構成する二つの契約
インターネット・オークションは、出品者(売り手)が販売を希望する商品に対し、購入を希望する者が希望価格を入札し、一定の時間内にもっとも高い購入希望価格を提示した者が購入の権利を得る(落札)という、オークション(競売)をインターネット上で行う仕組みである。インターネット・オークション取引での売買は、基本的にはインターネットを通信手段とした売買契約である。インターネット・オークションは 1998 年に
米国で爆発的に成長し、日本でも約 1 年遅れて急速に普及した。
インターネット・オークション取引における契
約関係は、サイトを利用して成立した利用者同士の売買契約と、インターネット・オークションに参加するための利用者とサイト管理者の契約の、二つの契約が基本となる。
《図表2》インターネット・オークションにおける契約
サイト管理者
サイト利用契約
サイト利用契約
個人
個人
売買契約
(2)サイト利用契約-B to C
まず、インターネット・オークションに参加するためには、出品者、入札者双方とも、サイト運営者がサイト上に掲示する「利用規約」を読み、
それに同意することが求められる。この同意がなければ、サイトを利用することはできない。この利用規約が、サイト運営事業者と利用者の間の契約内容を定める約款であり、規約への同意により事業者と利用者の間に契約が成立する。このような方式により締結される契約は、「クリックラップ契約」と呼称される。これは、消費者である利用者と事業者であるサイト管理者の間で締結される、消費者契約である。
(3)利用者間の売買契約-C to C
インターネット・オークションでの個別の取引の契約関係は、出品者(売り手)と落札者(買い手)の間の売買契約であり、サイト運営事業者は個別の売買の契約当事者とはならない。
消費者契約法 2 条に定める「事業者」とは、
「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であり、営利の目的をもってなされるかどうかを問わないとされる。オークションに出品している個人の中には、反復継続的に出品をしている者も含まれる反面、初回出品者やごく稀にしか出品しない者も存在する。「反復継続」の判断が難しいが、数十回にも及ぶ出品を行っている者は「事業者」と判断され、消費者対消費者の取引であっても、消費者契約法の適用対象となる可能性はある。
2.インターネット・オークション事業者の現状
(1)パーソナル型とショップ型
-トラブルの多いパーソナル型
インターネット・オークションは、出品者の性質により、パーソナル型とショップ型に分けられる。パーソナル型は個人が商品を出品するものであり、落札者が決定するとサイトから自動的に出品者、落札者にその旨を記されたメールが送られる。その後の商品や代金のやりとりには、サイト管理者は関与しない。
ショップ型は、単独または複数の業者が出品するオークションである。サイト管理者が出店者の審査・選別を行っていることが多く、利用者は商品の品質や入手について、比較的安心して取引を行うことができる。
米国や日本ではこのうちパーソナル型のオークションサイトが主流であるが、トラブルが多いの
もパーソナル型である。本稿では、パーソナル型 のインターネット・オークションに焦点をあてる。
現在、日本でインターネット・オークションサービスを提供しているサイトは多数あるが、以下に述べるように参加の容易さや参加費・手数料の有無、エスクロウ(第三者寄託制度)サービス13 等の安全対策や補償制度14の充実度などに差があ る。本稿では大手 4 社の業務、約款をとりあげる。
(2)安全対策とサイトの人気
現在、日本で最大のオークションサイト、A 社では、事業者からの出品もあるが、中心は個人販売である。サービス開始当初、個人出品にかかる手続きが簡単で手数料も無料であり、これが人気の理由となって多くの利用者を獲得、日本最大のオークションサイトとなった。現在でも、出品数は他のサイトを大きく上回っている。A社のオークションは人気が高い反面、2001 年 7 月にクレジットカード等による登録制を導入する以前は、詐欺や違法商品の出品、商品不達、代金不払いなどのトラブルが多いと言われていた。
同社では、99 年のオークションサービス開始以来、トラブルに対応して、随時安全対策の拡充を行ってきた。サービスが開始された早い時期から、利用者による出品者・入札者の評価15やトラブル情報の公開16は行われてきたが、サービス開始後に追加された安全対策としては、2000 年 9
月のエスクロウ・サービス、2001 年 7 月からの手数料徴収を含む参加者の身元確認制度17、同時に開始された、商品の不着・代金の不払いなどによる損害の補償制度がある。
B社はA社と対照的な行動を取ってきた。99 年 11 月のサービス開始当初には、出品者に郵送による18事前登録を義務付けたり、出品物を審査するなど、安全性、信頼性を売り物にしている。 2000 年 12 月には補償制度を、国内の他社に先
駆けて導入している。ただし、出品数は 12 万点程度と、 A 社の約 360 万点に比して少なく
(2001 年 1 月時点19)、サービス開始時に出品の際の審査が厳格であったことが、利用者拡大の制約となっていた様子がうかがえる。B 社は、のちに登録の簡素化などの変更を行っている。
3.インターネット・オークションにおける消費者トラブル
(1)典型的なトラブル事例
①新聞、雑誌
新聞や雑誌等で、インターネット・オークションに関してさまざまなトラブル事例が報道されているが、消費者取引にかかる主なトラブルには、以下のようなものがあげられる。報道の多くは、犯罪として検挙された事例である。
・酒類やわいせつ物、著作権を侵害するものなど、違法な物品の販売。
・落札者が代金を支払わない、あるいは代金支払いの極端な遅延。
・出品者が商品を送らない。
・商品がサイトでの掲示内容と大きく異なる。
②国民生活センター
国民生活センターは、2000 年 10 月 26 日に公表した報告書(「インターネット消費者トラブルの現状と改善策-インターネット消費者取引を中心として」 20 )で、「インターネット・オークションの利用者は年々増加しているが、管理者が明確でなく、売り手と買い手の間に信頼のおける第三者が介在した方が取引の安全性が向上する場合が多い。代金や商品の引き渡しの明確化はもとより届いた商品に瑕疵が存在したりする場合の返金や抗弁もその第三者に行い得るような信頼ある決済等の代行システムが求められる」と問題を指摘している。
また、消費者へのアドバイスとして、「オークション決済は、確実な商品引き渡し、代金決済を考える。商品が届かないとか代金が振り込まれないといったインターネット上のオークションに関するトラブルを防止するために、オークションの利用者は、出品者、購入者との取引が安全に行われる方法(信頼できる決済等代行業者21(エスクロウ会社)の利用等)を活用する必要がある。取引相手が消費者の場合も同様のことが言える」としている。
③警察
2000 年に警察庁に寄せられたハイテク犯罪に
関する相談 11,135 件22 のうち、インターネッ
ト・オークションに関する相談は 1,301 件であっ
た。インターネット・オークションのトラブルに関する相談は、2000 年 1 月から 12 月にかけて際だって増加している23 。また、インターネット・オークションを利用した犯罪の検挙件数は、 2000 年24は詐欺が 31 件、著作権法違反が 7 件で
あり、2001 年には25、上半期だけで詐欺が 32 件
とほぼ倍増、この他わいせつ図画販売が 21 件など、依然として多発傾向にある。
(2)トラブル発生の背景
インターネット・オークションのトラブルには、取引の相手方の信頼性、実在の有無、商品の質等 を自分で確認することができないという、一般の 通信販売やインターネット通販と共通の背景があ る。しかし、パーソナル型オークションでは販売 者が一般個人であるため、通常の通信販売事業者 に対する規制26が及ばない。
さらに、出品者の身元確認を行わないサイトも存在し得るが、このようなサイトでは無料メールアドレス等を利用すれば完全に身分を隠して取引を行うことができる。インターネット・オークションにおけるこのような「匿名性」は、参加者の取引における不正な行為や、犯罪にあたる行為を助長する最大の要因であると言われる。
4.新規の事業形態としてのインターネット・オークションの特徴
インターネット・オークションには、従来の売買 や通信販売契約にはない以下のような特徴がある。
①取引の当事者が双方とも消費者である場合が多いこと。
②売買の当事者が、自らの個人情報を一切隠して
取引に入ることが比較的容易であること。
③売買契約の前提として、利用者である消費者とオークション事業者の間に「利用契約」が結ばれていること。
④通常の売買契約と異なり、遠隔地の取引が一般的であること。また、国際間取引が容易に行われること。
前述の通り、このうち②が詐欺などの犯罪行為を誘発しやすい要因となっている。また、①の通り基本的に個人間取引であるため、インターネットを通じた通信販売事業に対する既存の規制の対象とはならない。この 2 つの特徴からは、すで
に、商品の不達や代金不払いといった形で、トラブルが顕在化している。
③、④の特徴からも、従来の売買にはない問題が生じうる。たとえば、取引の場を提供するインターネット・オークション事業者という、第三者の義務・責任は明確ではない。また、国際的な取引であるため、紛争解決の場も問題となる。
5.インターネット・オークションにかかる問題インターネット・オークション取引は、前述の 通り、従来の消費者契約にはない特徴がある。ここでは、このような特徴から生じる問題に、消費者契約法はどのように機能するか、また、市場は
どのように反応するかを見ていく。
まず、現時点で問題が生じている個人間取引における詐欺や詐欺的行為について、消費者契約法がどのように機能するかを見る。前述の通り、通常は個人間取引は消費者契約法の対象とならないが、一方当事者がインターネット・オークションでの取引を「反復継続」しており、消費者契約法上「事業者」と認められる場合は、同法の適用の可能性がある。
次に、インターネット・オークション利用約款
中、「サイト管理者の全部免責条項」および「準拠法と裁判管轄」について検討する。この 2 つの問題は、これまでは大きな紛争には結びついておらず、また、個人間のトラブルには基本的に介入しないという事業者の姿勢を反映し、これまであまり議論がなされていない。しかし、インターネット・オークションの利用者が増加し、取引が地域的にも広がる中、事業者の関与の在り方も利用者の被害救済に大きな意味を持つ。
(1)個人間取引-商品についての欠陥の隠匿
商品に重大な欠陥がある(傷がある・シミがある・破損している等)にもかかわらず、それを告知しないで取引を行った場合は、売主がインターネット・オークションでの商品販売を反復継続的に行っている場合、消費者契約法 4 条 1 項 3号にいう「不利益事実の故意の不告知」に該当して、取消が認められる可能性がある。
(2)個人間取引-詐欺
A 社のホームページ記載のトラブル事例で最も
多いのは、商品を所有していないにもかかわらず、あたかも所有しているかのように勧誘を行う悪意 の出品者が、取引相手から代金の支払いをさせた 上で商品を送らないというケースであり、民法
96 条の詐欺に該当する。このような出品者が反復継続的に出品をしている場合、消費者契約法 4条 1 条 1 号「重要事項の不実告知」による契約の取消も可能となり得る。
しかし、実際には相手方の当事者との連絡がとれない場合なども多く、搾取された金品を取り戻すためには、消費者契約法の取消が機能するかは疑問が残る。
(3)事業者の責任
-サイト管理者の全部免責条項
①サイト管理者の責任とは
消費者契約法 8 条 1 項 1 号は「事業者の債務不履行により」消費者に生じた損害の賠償責任に関する規定である。したがって、この条項を適用するには、契約により事業者が消費者に対して負う債務の内容が問題となる。
サイト利用契約の内容には、インターネット・ オークション取引を行うことのできる取引の場と システムをインターネット上で提供することであ ると考えられる。ただし、その「場とシステムの 提供」がどの程度ものであるか、場とシステムの 安全性の維持までが事業者の債務に含まれるかは、必ずしも明らかではない。
今回検討した A、B、C 社の約款では、サイト利用契約における各事業者の債務についての明記がない。D 社ではユーザー同意書で、「D は単なる場に過ぎません」と規定している。いずれも債務の内容について不分明であるが、各社とも利用者に対して個人情報の提供や手数料負担など何らかの義務を課していること、インターネット・オークションサイトの提供を事業として行い利潤を得ていることなどから、場の安全性についてまったく何らの責任も消費者に対して負わないとは考えにくい。
②消費者契約法上無効とされる全部免責条項
消費者がインターネット・オークション取引に起因して損害をこうむった場合、消費者が何らかの責任を事業者に求める場合が考えられる。し
かし、サイト管理者の約款には、「事業者が一切の責任を負わない」旨の規定がしばしば見られる
(資料 1 「インターネット・オークション運営事業者の利用規約(免責条項等)」参照)。
このような各約款での免責規定は、本来サイト
運営事業者が負うべき責任をすべて免除する趣旨の規定であり、消費者契約法 8 条 1 項 1 号の
「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害
を賠償する責任の全部を免除する条項」として無効であると判断できる27。
なお、前述の通りインターネット・オーク
ションサイトの利用契約における事業者の債務に場の安全性の維持等が含まれていないと考える場合、サイト利用者同士の取引でのトラブルが生じたとしても、事業者にはそもそも契約上の責任が発生しない。そのため、「事業者は一切の責任を負わない」旨の規定は、当然責任が生じていない旨を改めて明記したと解釈され、免責規定ではないこととなる。
(4)事業者の責任-準拠法と裁判管轄
① 4 社の約款による規定
A、B、C 社のオークション利用約款では、準拠法は日本法、利用者の紛争の第一審裁判管轄は東京地方裁判所としている。D 社のユーザー同意書による契約の当事者は、サイト利用者と、米国カリフォルニア州に本拠を置く d 社の日本法人である D 社である。この同意書に関しては、カリフォルニア州法に準拠し、アメリカ仲裁協会
(AAA)の定める規定に従って仲裁処理を行う旨明記されている(資料 2 「D 社ユーザー同意書
(裁判管轄・準拠法等)」参照)。
A 社は米国に本拠を置く a 社とのフランチャ イズ契約により日本における業務を行っているが、前述の通り、A 社のサイトでのオークション利用 に関して準拠法は日本法、裁判管轄も日本国内と されている。他方、D 社の利用規約では、カリフォルニア州法に準拠し、アメリカ仲裁協会
(AAA)の定める規定に従って仲裁処理を行う旨明記されている。この違いは、A 社の市場は原則的に日本国内のユーザーを対象に、日本で管理されているのに対し、d 社は日本語のサイトとして作られているものの、全世界の出品や利用登録などの管理は本国で一元管理しており、市場が国
ごとにわかれていないという認識で運営されてい るという、事業形態の相違に起因するものである。
A、B、C 、D 社の合意管轄の規定は、いずれも消費者にとって不利となりうる規定であるが、とくに日本の消費者にとっては準拠法をカリフォルニア州法、裁判管轄をカリフォルニア州内の裁判所とするという裁判管轄条項の規定が問題となる。以下、D 社の場合を中心に検討する。
②日本法の適用の可否
D 社の利用規約は、「ユーザー同意書」という形でサイトに掲示されており、利用者は「同意する」をクリックしなければ、サイトを利用できない仕組みとなっている。準拠法および免責、責任制限の文言は、この同意書の中に盛り込まれている。利用者が「同意」をクリックしてサイトのサービスの利用を開始することにより、準拠法および裁判管轄に係る条項を含む同意書の内容に、利用者が「同意した」ことになるため、日本の民法および消費者契約法の適用の余地はないこととなる。
ただし、日本の裁判所に訴訟が提起された場合、この合意の有無・契約内容の有無効は日本の裁判所の判断にかかることとなる。D 社に対して日本の利用者が提起する訴訟について、日本の裁判所が管轄権の存在28および日本法の適用29 を認めた場合、消費者契約法に基づく主張が認められる余地は残る。
③日本法が適用される場合
-消費者契約法 4 条による取消は認められるか日本国内で消費者取引の勧誘を行うインター ネット・オークション事業者は、契約締結過程における消費者契約法の規制に服するものと考えられる。したがって、重要事項の不実告知、あるいは利益のみ告知し不利益事実を故意に告げないことは、4 条による取消の根拠となる。また、3 条により、事業者は利用規約を単に掲示するだけでなく、とくに重要な部分や、通常の取引では考えにくく消費者に不測の不利益をもたらすおそれのある内容について、わかりやすく掲示する義務を
負う。
裁判管轄・準拠法については、A、B 、C、D
社のいずれも約款に明記されているため、4 条 1
項 1 号の「不実告知」にはあたらない。また、裁判管轄・準拠法の規定を「不利益事実」ととらえても、やはり約款への記載があるため、同項 3号の「不利益事実の故意の不告知」とは言いがたい。したがって、4 条による取消は難しいと考えられる。
ただし、D 社については、日本で D 社のサイトを日本語で利用する利用者が通常認識し得るとは考えにくい裁判管轄・約款内容について、利用者の理解を促す十分な情報提供が行われていないという見方ができ、これは 3 条の情報提供義務違反にあたると考えることができる。
④日本法が適用される場合
-消費者契約法 10 条により無効となるか
約款の規定自体が、消費者契約法第 10 条により無効であるとの、利用者からの主張も考えられる。
この場合、まず、10 条の「民法、商法その他の法律」にあたる法律の存否が問題となる。準拠法については、準拠法についての当事者の意思が不分明な場合は行為地法に依るとする法令 7 条 2項30、裁判管轄については、外国法人管轄に関する民事訴訟法 4 条31、5 条32が該当すると考えられる。
これらの規定が消費者契約法 10 条の「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」に該当すると考える場合、準拠法を外国法とし、裁判管轄を外国の裁判所とすることは、これらの規定に比し「消費者の権利を制限」するものと考えられる。
次に、これらの条項が「信義則に反して消費者の利益を一方的に害する」ものであれば、10 条により無効とされる。具体的には、消費者契約の類型や提供されるサービスの内容、消費者の不利益の程度等を総合的に判断することとなる。
従来の裁判例や地方公共団体の条例等の取扱いでは、約款の事業者の本拠地を合意管轄とする条項は不当であると解釈されている例が多い33。また、第 16 次国生審の中間報告、「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」34で提示された消費者契約法の内容案では、不当条項をリスト化して法文に盛り込むことが検討されていたが、
「リストに掲げるべき不当条項」の提案には、
「消費者に不利な専属的合意管轄を定めた条項」が含まれている。このことから、一般的には、消費者契約における消費者に不利な合意管轄の定めは、10 条に該当する可能性が高い。
具体的に D 社の例を見ると、米国に本拠を置きつつも海外ではフランチャイズが独自にサイトを運営する A 社と異なり、D 社では世界中の出品登録、セキュリティ管理を、米国の本社が一元管理をする仕組みとなっている。また、国毎での訴訟対応が困難であるという点から、現実的な対応として準拠法、裁判管轄を一本化するという方策は、合理的な部分もあり、「一方的に消費者を害する」ものとは断じがたい。
しかし、裁判管轄および準拠法をそれぞれ米国のカリフォルニア州裁判所、カリフォルニア州法とすることは、日本の消費者が事業者に対して訴訟を提起するにあたって負担が大きく、従来のわが国での取扱いから考えると、消費者契約法上不当と判断されると考えられる。
⑤約款による裁判管轄の合意をめぐる議論
約款による国際専属的裁判管轄の合意につい て、わが国では「それがはなはだしく不合理で公 序に違反する場合のほかは、原則として有効であ る」との裁判例がある35。インターネット・オー クションの「国境を超えた取引」という特性を勘 案すると、同様の解釈は成り立ちうる。しかし、 これは、双方が対等の立場で契約について交渉可 能である商事分野における判決であり、消費者契 約では情報・交渉力格差に配慮する必要があろう。
また、米国においては、クリックラップ契約における裁判管轄の規定は、観光船のチケット記載の約款に規定された合意管轄を有効と判断した連邦最高裁判決36と同様の解釈から、有効であるとの見方もある37。
前述の通り、わが国のこれまでの消費者契約 にかかる判例や条例での取扱いを見ると、日本国 内での訴訟では、消費者に不利な裁判管轄を定め る約款規定は無効とされると考えられる。しかし、インターネットを通じて消費者の国際取引が活発 化していく上で、消費者が海外の裁判所において、海外の法に基づく訴訟を提起される可能性は増し ていくと考えられ、この部分については消費者契 約法による救済は困難となる。
6.インターネット・オークションをめぐるトラブルと事業者の対応
オークションサイト運営事業者は、基本的に自らの立場を「あくまでも個人取引の場を提供しているだけであり、取引当事者間のトラブルには責任を負わない問題」と認識していると見られる38 。しかし、予期せぬトラブルが次々と生じたことに対応し、これらを回避するために徐々にセキュリティ手段を充実させてきているサイトもある39。
オークションサイトでの消費者問題としては、
主として違法な出品や詐欺等が問題視され、 2000 年 4 月には警察庁から大手オークション事業者三社に対して、出品内容や身元の確認を強化するよう要請があった。また、落札者が代金を支払わない、あるいは出品者が商品を送らない等の報告も件数が多い。参加の自由さを売り物にしていた A 社で、身元確認の徹底などのセキュリティを充実させ、それまでの人気の要因であった参加の簡便さを結果的に犠牲としたことは象徴的である(2001 年 7 月実施)。これらの取組の結果、インターネット・オークションにおけるトラブルは大きく減少したといわれている40。
ここでは、各オークションサイトで行われているセキュリティ対策を紹介する。
(1)エスクロウ・サービス(第三者寄託制度)インターネット・オークションのサイトでは、 外部の事業者による「エスクロウ・サービス」と呼ばれる代金/商品の回収サービスが、簡易に利用手続きができるような形で紹介されていることが多い。エスクロウ・サービスとは、出品者と購
入者の間に第三者が入り、代金の収受と品物の受
け渡しを確実に行う仕組みである。出品者は代金が購入者から第三者に支払われたことを確認してから品物を送り、第三者は購入者が品物を確認してから出品者に送金を行うため、代金・商品の不着というトラブルを回避できる。
エスクロウ・サービスの提供事業者は、運送事業者やクレジット会社、銀行などで、手数料の額や負担者は事業者によって異なるが、購入者が負担する場合が多い。
基本的なサービスの流れは次の通りである。
①落札者が、エスクロウ・サービス提供会社の指
定口座に送金。
②エスクロウ・サービス提供会社は入金を確認し、その旨を出品者へ通知。
③出品者は、エスクロウ・サービス提供会社より入金確認の通知をもらったら、エスクロウ・サービス提供会社の物流サービスを利用して購入した商品を落札者へ発送。
④届けられた商品を特に返品する意志がなければ、落札者はそのまま商品を使用する。
⑤ここで商品が破損していた、商品が届かない等のトラブルがあれば、落札者はエスクロウ・サービス提供会社へ連絡する。
⑥無事、商品到着を確認したら、エスクロウ・サービス提供会社は出品者に代金を送金する。 もし仮に、商品破損や商品未到着等のトラブルがあれば、エスクロウ・サービス提供会社はトラブルが解決されるまで、出品者へ送金しない。
(2)身元確認
身元確認として、出品の際に利用者にクレジッ トカード番号の登録を行わせるサイトが多い。こ れは、クレジットカード会社による信用調査によ り、利用者の身元の確認を行うということとなる。身元確認の厳格さは当初事業者によりまちまちで あったが、A 社が 2001 年 7 月にクレジットカー ドによる身元確認制度を導入して利用の際の身元 確認を厳格化し、大手事業者はすべて、クレジッ トカードの登録により参加者の身元確認を行うよ うになった。
(3)補償制度の導入
オークション利用者向けの、詐欺などによる商品不達に対する補償を提供するサイトが増えている。補償制度は、損害保険会社の提供する保険により裏づけされている場合が多いが、独自に補償を提供している事業者もある。
D 社では、日本進出以前にすでに制度を導入済みであった。国内では B 社が先行して 2001 年 2 月に制度を導入し、C 社もやや遅れて補償制度
を開始した。A 社では 2001 年 7 月、クレジットカードによる身元確認制度および出品料徴収の開始と同時に、補償制度の提供を開始した。
(4)(双方)評価制度
A 社では、取引終了後、出品者が落札者を、落札者が出品者を評価する制度が導入されている。それぞれが相手に対して「良い」、「どちらでもない」、「悪い」という評価を下し、その内容やコメントが全ての者に参照可能となっている。この評価内容が悪い者については、取引相手から除外するなど注意することによって、取引の安全性を高めることが可能となる。
(5)トラブル情報の利用者への提供・公開
A 社では、同社に報告のあったトラブル事例をサイト内で詳細に公開し、利用者の注意を喚起している41。
A 社のサイトで公開されているトラブル事例には、以下のようなものがある。
・インターネットカフェを利用して、所有して
いないパソコンを売るという虚偽の情報を掲載。自分の携帯電話番号やパスポートコピーを送って信用させた上で、銀行口座に 22 万円を振り込ませて騙し取った。同様の手口で約 50 人から約 1,000 万円を騙し取った。
・偽造(カラーコピー)したテレビの公開音楽番組の入場整理券(抽選で無料配布されたもの)合計 6 枚を販売し、計 12 万円を騙し取った。
・カーナビのカタログ写真を掲示して、実際には所有していないカーナビを偽装出品。落札者から 19 万を騙し取った。
・パソコンを使って国民健康保険証や住民票を偽造し、偽名で 5 つの銀行口座を開設し、約
140 人から約 1,600 万円を詐取した。
(6)紛争処理支援
今回調査を行った 4 社のうち、D 社では利用 者から利用規約違反があるとの報告を受けた場合、専門のスタッフが調査を行い、状況により違反者 に対し警告から利用停止まで、その悪質性に応じ た措置をとる旨、サイト上に明示している。 D 社のように前面に打ち出してはいないが、B、C
社も同様に、悪質な違反者は利用停止などの措置を行う旨表示している。A 社では、詐欺などの可能性があるとの報告を受けた場合、その報告は犯罪捜査当局への協力に用いるが、独自の調査は行
わない42。
また、欧米のインターネット・オークション事業者の中には、利用者間で紛争が生じた際、外部の紛争処理事業者によるオンライン上での紛争処理を行うサービスを、基本的に無料で提供している例がある。
インターネットを通じた取引は物理的な場所の制約を越えて行われるものであり、とくに国際取引の場面では裁判などの既存のシステムでの公平な紛争処理が難しい場面も考えられる。このような、インターネット・オークションの特性を踏まえた調査や紛争処理手段の提供は、不正な取引の防止や個人間のトラブルの解消に役立つと考えられる。
7.インターネット・オークションにかかるトラブルと消費者契約法
以上では、インターネット・オークションをめぐる問題につき、消費者契約法がどのように機能するか、そして事業者はこれまでどのような対策を取っているかを見てきた。ここから、規制が変質する中での消費者契約法の機能という観点から興味深い問題として、次の 4 点があげられる。
(1)新サービスの普及と自生的な秩序の生成
従来見られなかった新しいサービスの提供を 開始するに際しては、事業者が厳格なルールを採 用せず、自由な取引を促進することによって、新 サービスの普及を図ろうとする方法が取られるこ ともある。A 社がその典型的事例と言える。ただ し、取引過程における安全性の確保と、トラブル 発生時における事後的救済方法を整備することは、事業者にとって消費者対応上不可欠であり、A 社 の場合問題が起きるとそれに応じて対応してきた という経緯がある。一方、B 社のように、取引の 安全性を重視して事業展開を図る方法もある。
A 社の方法は普及が早く、その規模の大きさにより消費者が安い新しいサービスを享受できる可能性がある。B の方法では、普及は遅く、規模の点では消費者の利益の増大の可能性は A 社より小さいが、安全性について消費者の信頼を得ることができる。
新サービスの普及と安全性確保やセイフティネットの構築を、どのような時間軸でバランスを
とりながら実現していくかの選択が、事業者の対消費者戦略上の大きな課題となっている。我が国のインターネット・オークション・サービス事業の市場では、当初 A 社が緩やかなルール、B 社が厳格なルールでサービスの提供を開始したが、消費者の行動やトラブルの発生状況に応じ、A 社はルールの厳格化、B 社は緩和の方向に動いており、現時点では大手事業者のトラブル対策の内容は似通ったものとなっている。業界の発展の過程で、自生的に秩序が生じてきたと見ることができる。
(2)個人間取引と公的規制
インターネット・オークションを含む電子商取引分野は、従来の産業に比して事業者に対する規制が強くない分野である。
消費者の側から見ると、A 社のようなリスクも 高いが自由度が高いオークションサイトと、B 社 のような制約は大きいが安心して取引ができるサ イトという選択肢を持つことができるメリットは、公的規制がなく事業者の裁量の余地が大きい事業 分野でのみ生じるものであり、リスクの増大は公 的規制による制約を受けないため享受できる自由 とトレードオフの関係にあるといえる。
パーソナル型のインターネット・オークションは、オークションサイトという場における個人間の取引であり、公的規則の対象とはならない。しかし、消費者契約法で定義する「事業者」は、営利の目的を必要とされないかなり幅広い概念のものである。したがって、個人間取引であっても、一方当事者が「事業としてまたは事業のために」取引をおこなっていれば、消費者契約法の対象となり得、従来の事業者規制では直接働きかけることのできなかった悪質なオークション参加者から相手方を保護する手段となる可能性がある。個人間取引は、消費者契約法立法時には想定されていなかった分野であるが、このような分野にも消費者契約法は機能する余地がある。
(3)消費者被害の具体的な救済策
インターネット・オークションによるトラブルにより消費者が被る損害の救済策としては、典型的には以下のようなものが考えられる。 A.代金支払後、商品が到着しなかった場合、契
約の取消および支払った代金の返還。
B.受け取った商品が表示と異なる場合、あるいは欠陥がある場合、商品の交換、または契約の取消および支払った代金の返還。
C.商品を送付後代金が支払われなかった場合の、契約の取消および送付した商品の返還。
D.出品物が違法であったため、入手後に没収された場合の、契約の取消および支払った代金の返還。
このうち、消費者契約法による対応が有効に働くと考えられるのは契約の取消の部分である。しかし、取引の相手方が実際に代金や商品の返還に応じるとは限らず、また、相手方の所在がつかめなくなる事例も多く報告されている。このような場合には、取消が認められても、被害の救済には結びつかない。
このような場合、個別の取引にかかる事業者の責任を免除する「全部免責」、および、利用者側に時として不利に働く「準拠法・裁判管轄」の規定が無効とされ、消費者が事業者に対して何らかの救済を求める途が広がることは、損害を被った消費者の実質的な救済に大きく影響する。また、消費者契約法により条項が無効となる可能性がある場合、事業者が約款文言を見直し、消費者・事業者にとってより合理的なものとするインセンティブとなり得る。
(4)国際取引と準拠法、裁判管轄
インターネットを通じた取引では、日本にい ながらにして世界中の事業者が提供するサイトを 利用でき、また、世界中の相手方との取引が可能 となるという利用者のメリットは大きい。しかし、当事者が二国以上にまたがる取引では、トラブル が生じた場合の対応が一般的に困難であり、また、従来の消費者取引ではあまり想定されていなかっ た準拠法や国際裁判管轄をめぐる問題が生じる。
現在の我が国の判例や消費者相談実務等を見 ると、消費者契約の約款に消費者に不利な裁判管 轄の規定があっても、消費者の訴訟遂行の可能性 等を勘案し、約款の合意管轄を専属的合意管轄と せず、裁判所への移送を認めている43。消費者契 約法でもこの流れから、消費者に不利な裁判管轄 の規定は 10 条により無効とされることとなろう。
ただし、米国では、判例上、約款による合意
管轄の規定の有効性判断は、消費者契約においても、合意管轄条項を推定的に有効と認め、その上で約款の合理性を総合的に判断される44こととなる。このような状況には、紛争解決ルールや、オンライン紛争処理システムなど、実質的な紛争解決ルールの国際的な調整が望まれる45。
Ⅵ.市場環境整備としての消費者契約法
1.消費者契約法の現時点での機能
本稿では、経団連の実施した事業者アンケートおよび国民生活センターの報告、消費者相談員へのヒアリングから得た消費者相談事例を紹介し、現時点での消費者契約法の機能を見てきた。これを、期待される役割に沿って、あらためて整理する。
(1)隙間ない対応
「隙間ない対応」ができるか、という点については、国民生活センターの報告や消費者相談員へのヒアリングにより、従来個別法の対象とされていなかった契約形態や、脱法的な悪質商法について、事業者の行動の適正化、および消費者被害救済の実例が見られる。また、インターネット・オークションのケーススタディでは、新規の事業についても消費者契約法が機能し得ることがわかる。このように、消費者契約法は、個別の業態や取引形態を対象とした従来の枠組みに収まらない消費者取引についても対象に包含し、隙間なく有効に機能し得る。
(2)事業者の行動の適正化
「事業者の行動の適正化」を見ると、経団連のアンケートから、ほとんどの企業が消費者契約法の条文に照らしての勧誘過程や約款文言の見直しなどの対応を行っていることがわかる。また、事業者にとっては、不当な行為や契約内容の類型が法に明記されたことで、自らの行動の適正化のための明確な指針ができたと言える。多くの企業・事業者団体で、消費者契約法の制定を機に消費者対応窓口の充実を行っているが、これは 3 条により情報提供を行う重要性があらためて認識されたことの現れであろう。このように、消費者契約法は「事業者の不適正な行為の抑止による紛争発生の事前防止」に寄与していると考えられる。
(3)紛争処理
「紛争処理機能」に関しては、消費者相談の現場ですでに事業者が消費者契約法による取消を認めた事例が存在しており、消費者が損害を回復できる手段を新たに手にしたことがうかがえる。消費者契約法は、経済界の反対や利害調整の結果、中間報告での案よりも後退した内容での法律となり、具体的に機能する場面が限定されたとの批判がある46。また、理論ベースで考えると、消費者契約法の立法を待たなくても、旧来の民法理論でも対応できる部分が少なからずあるとの指摘もある47。しかし、これまで取消、無効を認めていた事例を定型化・明文化したことで、事業者の不適切な行動に対する消費者被害の救済が容易となったことは、消費者相談の場での事業者の対応からうかがえ、同法の制定は紛争処理に有効に機能していると考えられる。
以上から、消費者契約法は、当初の期待に沿った機能をしているといえる。ただし、裁判などでの具体的な適用の場面においては、8 条の不利益事項の不告知における「告知」の内容や、10 条の「信義則」など、一義的に判断ができない事項も多い。実際にどの程度有効に機能するものとなるかは、今後の裁判実務での運用の蓄積にかかる部分が大きい。
2.新規の市場における消費者契約法の機能
インターネット・オークションのケーススタ ディでは、消費者契約法が制定当時想定されてい なかったニュービジネスの市場においても「隙間 なく」期待された役割を果たすか、また、規制緩 和 3 ヵ年計画に記載された「消費者・事業者双 方の自己責任に基づいた経済活動を促す公正な ルール」としてどのように機能するかを検討した。
(1)インターネット・オークション市場における市場秩序の生成
この 1 、2 年のインターネット・オークショ
ン事業者の動きは、事業者および利用者の自己責任に基づく行動の相互作用により、事業者による安全策の充実や利用者の安全な取引に対する意識の向上など、市場に自生的に秩序が生み出されてきた好例と言える。
利用者は、問題は多いが利便性が高い事業
者と、取引の安全性は高いが比較的利用手続 きが複雑な事業者の間で複数の選択肢を持ち、安全性と利便性と勘案して利用する事業者を 決定してきた。また、自分の、あるいは他の 参加者のトラブルを前例として、不当な取引 による被害を受けることのないよう、相手方 が取引相手として妥当かを判断する情報収集 や、確実に商品と代金の交換が行われる手段
(エスクロウ・サービス)の利用など、自ら情報を収集して取引相手の信頼性を判断し、安全対策を講じるようになってきた。
一方事業者は、利用者の評判や他社の動向などを見、あるいは警察からの指導を受け、より多くの利用者を惹きつけるという企業存続の観点から、自らの行動を修正してきた。 A社が経験を経て様々な安全対策を充実させていったことが顕著な例である。また、国際紛争の処理については、事業者の間で国際的に検討が進められており、ここでも新たな市場の秩序が生じつつあるといえる。
(2)インターネット・オークション市場における消費者契約法に期待された役割
インターネット・オークション市場における現 時点での消費者契約法の機能を見ると、個人の利 用者間の紛争には、反復継続的にオークションに 参加している場合に例外的に適用され得るのみで、また、利用者と事業者の関係でも適用が想定され る場面は多くない。しかし、消費者契約法の適用 により、消費者である利用者を不当な取引による 損害から救済する可能性が広がる場面は、いくつ か存在する。以下では、消費者契約法はインター ネット・オークション市場において制定時に期待 された役割をはたし得るかを整理する。
①隙間ない対応
消費者契約法制定時の関心事のひとつとして、ニュービジネスも含めあらゆる消費者取引に隙間なく対応できる法とすることが挙げられている。インターネット・オークションを構成する 2 つの契約について見ると、オークション事業者と利用者の間の利用契約は、問題なく消費者契約法の対象となる。しかし、個人間取引は原則として
同法の適用対象とはならない。
ただし、個人間取引であっても、たとえば利用者の一方が反復して継続的にオークションに参加しているなど、経験や情報の収集力、判断力において一般参加者と同視できない格差が存在する場合などは、消費者契約法上の「事業者」として取り扱うことができる。
したがって、消費者契約法は法の制定当初想定されていなかった、事業者と同視できる情報を持った消費者による取引にかかるトラブルについても対象となり得、従来の法制では対象とならなかった部分の隙間を埋める対応ができると考えられる。
②事業者の行動の適正化
事業者の行動の適正化という観点から見ると、インターネット・オークション事業者の多くは
「取引は利用者同士が個人の責任で行う」との立
場を取っており、消費者契約法の存在を自らの行動の適正化に直接は結び付けていない場合が多いと考えられる。現在使われている約款に消費者契約法上無効となる可能性の高い条項が含まれており、将来的にはこの条項の見直しが消費者契約法に沿った形で行われる可能性はあるが、現時点では直接に事業者の行動の適正化には寄与していないと見られる。
③紛争解決
前述の通り、個人間の取引のトラブルについては、一方が反復継続的な利用者である場合、紛争の解決に一定の指針を与える。
また、事業者の全部免責規定や利用者に不利な合意管轄の規定が無効とされる場合、利用者が損害について事業者に賠償を求めることが可能となり、救済の途を広げることとなる。
以上から、紛争処理の機能はインターネット・
オークション市場でも限定的ではあるが果たし得ると考えられる。
④インターネット・オークション市場における消費者契約法の役割
以上で見たように、現時点でインターネッ
ト・オークション市場における消費者契約法の適用される場面は限定的である。
しかし、従来の規制の枠組みでは「対等」と
扱われている「反復的なオークション参加者」が、情報力や交渉力において劣ると考えられる相手方 に対して不当な取引を行った場合、一定の法的責 任を生じさせる根拠とはなり得る。
また、事業者が一切の責任を負わない、あるいは、消費者に不利な裁判管轄・準拠法を定める条項は、消費者契約法上の不当条項として無効とされる可能性が高く、これにより事業者に対する消費者からの被害救済の請求の可能性が生じる。事業者が実際に、個別取引による被害について責任を負うとは限らないが、このことは事業者が安全対策を講じる大きなインセンティブとなる。
このように、消費者契約法はインターネッ ト・オークション取引による消費者被害の救済に直接機能する場面はあまり多くないと考えられるが、今後、市場参加者の行動を適正化し、不当な取引による被害の救済の途を開いて、市場の環境を整備することには寄与する可能性は高い。
3.市場環境整備としての消費者契約法
消費者契約法は事業者が守るべき最低水準の指針を示すことで、現在もしくは将来にわたって事業者の行動を適正化し得る。また、従来の法制で保護の対象とならなかった部分や、悪質事業者による脱法的な行動による消費者の被害を救済することを可能とした。
しかし、Ⅳ.2 で見たように、消費者相談の現場で消費者契約法が取消や無効の根拠とされ、具体的に機能する場面は、主として不退去や監禁を繰り返したり、意図的に不実な告知を行う悪質な事業者に関わるトラブルである。また、インターネット・オークション市場においても、現時点では消費者契約法が具体的に機能する場面は限定的である。消費者契約法が実際に登場する場面は、ごく限られることとなろう。消費者契約法の制定によって劇的に消費者保護の水準が向上するわけではない。
しかし、規制改革の中での消費者契約法の位置付けを考えると、登場する場面が少ないこと自体が法の趣旨にかなっているといえよう。Ⅱ. で述べたように、消費者契約法には、規制改革の目指す「市場原理を積極的に活用し、才能、能力の発揮や努力が報われる競争社会の構築」に資することが求められている。したがって、市場の自由な
動きをできるだけ妨げないことも、消費者契約法 に求められる重要な性質のひとつであるといえる。市場の中で事業者や消費者の活動の相互作用から 生まれてくる市場の自生的な秩序を妨げないこと も、自生的秩序のみでは消費者にとって不当に不 利益な状況が生じる場合にそのような状況を是正 することと同様、「市場原理を積極的に活用」す るための法律とされる重要な要素であろう。
消費者契約法は、既存の売買契約においても、 事業者と利用者の活動の相互作用により秩序が形 成されつつあるインターネット・オークション市 場においても、必要以上に介入せずに市場の自由 な動きを妨げない一方で、市場で自生的に生まれ るルールでは十分に対応できていない部分や、一 般的に適正であると支持される市場秩序を著しく 逸脱した悪質な事業者による消費者紛争の防止、 解決に資する。市場環境整備のための手段として、当初の目的に添った形で効率的に機能していると いえるだろう。
<参考文献>
・落合誠一著「消費者契約法」(有斐閣、 2001
年 10 月)
・経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編
「逐条解説 消費者契約法」(商事法務研究
会、2000 年 12 月)
・日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編
「コンメンタール消費者契約法」(商事法務研究会、2001 年 4 月)
・「 座 談 会 消 費 者 契 約 法 の 役 割 と 展 望 」
(ジュリスト No.1200 、2001 年 5 月 1・15 日合併号)
・経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編
「消費者契約法(仮称)の制定に向けて-国民生活審議会消費者政策部会報告と関連資料
-」(大蔵省印刷局、1999 年 3 月)
・総務庁編「20 00 年版規制緩和白書-これまでの規制緩和の歩みと規制改革の将来展望」
(大蔵省印刷局、2000 年 12 月)
・「[弁護士が見たアメリカ]クリックラップ契約中の合意管轄条項または仲裁条項の執行力」寺澤幸裕弁護士
(http://www.asia -links.com/japanese/ terasawa/ clip/htm, visited Dec. 26, 2001 )
・大澤恒夫「IT 事業と競争法 独禁法・知的財
産法・消費者契約法の今日的課題」(日本評論社、2001 年 11 月)
・牧野和夫「ネットビジネスの法律知識」(日本
経済新聞社、2001 年 6 月)
資料 1 インターネットオークション運営事業者の利用規約(免責条項等)
<A 社利用規約>
17. A 社の賠償責任の制限
ユーザーは、(1 )サービスを利用したこと、または利用できなかったこと、(2 )サービスを通 じて取引を行ったり情報を入手した商品を交換しもしくは役務を代替させるために費用を要したこと、
(3 )ユーザーの送信(発信)やデータへの不正アクセスや不正な改変がなされたこと、(4 )サー
ビス中の第三者による発言、送信(発信)や行為、(5 )その他サービスに関連する事項、に起因または関連して生じた一切の損害について、A が賠償責任を負わないことに同意します。
<B 社会員規約>
第 16 条 当社の責任
1. 当社は、オークションに出品された商品等に関する一切の事情について何らの責任を負いません。
2. 当社は、オークションにおける出品者、入札者、落札者に関する一切の事情について何らの責任を負いません。
3. 会員は法律の範囲内でオークションをご利用下さい。オークションの利用に関して会員が日本およ
び外国の法律に触れた場合でも、当社は一切責任を負いません。
4. 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由により会員に損害が生じた場合、当社は、会員が過去 12 ヶ月に支払った料金の総額または 1 万円の大きいほうを上限として賠償します。
<C 社オークション規約>
13. 免責
1)オークションに関する免責
C は、出品者が登録した商品情報の内容、出品された商品の品質、数量、真贋、合法性、出品者及び入札者の資力、信用性など、商品の売買契約に関する事項につき保証するものでなく、利用者に対してこれらの事項につき一切の責任を負いません。また、C オークションに出品される商品は C が推奨するものでもありませんので、入札者は自己責任においてオークションに参加してください。
2) 商品情報、入札情報に関する免責
利用者は、商品情報、入札情報、自己紹介ページ、評価コメントなどを含む C オークションにおいて登録、表示される掲載内容につき一切の責任を負うものとし、利用者がこれらを表示したことにより C が損害を受けた場合には、その利用者は、C に対してその損害を賠償するものとします。
3)サービス中断等に関する免責
C は、C オークションにおけるサービスの中断、遅滞または中止等によって利用者に発生する損害につき責任を負わないものとします。
<D 社 ユーザー同意書>
3. D は単なる場にすぎません。
3.3 免責私共は、買主および売主間の実際の取引には関与いたしませんので、利用者の皆様と一人または複数の他の利用者との間で紛争が起きた場合には、利用者の皆様は、D 及び d(および両社の役員、取締役、代理人、子会社および従業員)を、その種類および性質、既知か未知か、予測されているかいないか、開示されているかいないかを問わず、このような紛争から生じるあるいは如何なる形であれそれに関連するクレーム、要求および損害賠償(現実的および派生的)から免責するものとします。利用者の皆様のうちカリフォルニアに居住されている方に関しては、下記を規定するカリフォルニア州民法第 1542 条を放棄するものとします:「一般的な免責は、免責を発効させた当時、債権者が知らないあるいはその存在を想像もしていない、同人に有利な請求であり、同人が知っていたならば債務者と同人が和解するのに重要な影響を与えていたに違いない請求には及ばない。」
12. 責任の制限 私共あるいは私共のサプライヤーは、私共のサイト、私共のサービスあるいは本同意書から生じる、あるいはそれに関連する逸失利益あるいは特別損害、付随的損害若しくは派生的損害に対し、一切責任を負うことはありません(これは発生の原因を問わず、過失の場合を含みます)。いかなる状況においても、あなたあるいは第三者に対する私共の責任および私共のサプライヤーの責任は、下記の何れか多額の方を上限として限定されます: (A) 責任を生じさせている行為の前の 12 ヶ月間にあなたが私共に対して支払った料金総額、あるいは (B)10,000 円。
資料 2 D 社ユーザー同意書(裁判管轄・準拠法等)
<D 社 ユーザー同意書>
18. 一般
本同意書は、あらゆる点について、カリフォルニア州法を準拠法とします。私共は、私共のサービス
への継続的な、妨害されない、あるいは安全なアクセスを保証するものではなく、また、私共のサイ トのオペレーションは、私共のコントロール外にある様々な要因により妨害される可能性があります。本同意書の何らかの規定が無効あるいは権利行使不可能とされた場合には、そのような規定は削除さ れるが、残りの規定はなお適用されるものとします。本同意書の各表題は参考のためだけのものであ り、如何なる形であれその項目の射程範囲を定義し、制限し、解釈しあるいは説明するものではあり ません。あなたまたは他者による違反に関して、私共が何の行動も起こさないことは、後のあるいは 類似の違反に関して私共が行動を起こす権利を放棄するものではありません。本同意書は、本同意書 の内容に関する理解及び合意の全てを示すものです。
1 (財)安田火災記念財団は、国生審消費者契約法検討委員会委員長落合誠一東大教授を座長に、森田修東大教授、小塚荘一郎上智大助教授と実務家による「消費者契約法と規制緩和」研究会を
98 年 10 月に組織した。研究会は、(株)安田総 合研究所を事務局として、98 年から 99 年にか けて規制緩和による市場メカニズム重視の社会に おける消費者契約法の基本的意義を検討してきた。 2000 年からは具体的な消費者契約の場面を想定 したケーススタディを中心に研究会を継続してい る。我々は事務局として本研究会に参加する機会 を得、大いに勉強させて頂いた。この場を借りて 諸先生方に感謝申し上げたい。
2 公的規制の見なおし、改廃については、従来
「規制緩和」の語が用いられることが多かった。これは、わが国における規制の見なおしが当初
「許・認可の撤廃」として開始されたことによるものと考えられる。規制の見なおしの内容がより広範となり、多様化するにつれ、「緩和」という語が必ずしも適切ではなくなっている。政府の規制改革推進の中核を担う委員会も 99 年 4 月、
「規制緩和委員会」から「規制改革委員会」に名称変更されている。本稿では、引用部分を除き、
「規制改革」の語を用いる。
3 全閣僚を構成員とする政府の規制改革推進機関、行政改革推進本部の下に設置された委員会。
4 大きな変更としては、以下の諸点がある。①契約締結過程のルールのうち、当初違反の場合条項無効としていた「事業者の情報提供義務」を、消費者との相互の努力規義務とした。②契約締結過程における不当な行為、および不当な契約内容の範囲を当初案に比し限定した。
5 不意打ち条項の無効は、最終報告では契約締結過程に関する規定には盛り込まれなかった。ただ
し、契約内容にかかる規定により不当条項の一形態と解釈され、無効となる余地は残る。
6 落合誠一「消費者契約法」(有斐閣、 2001 )
P.66 他
7 経団連経済本部「企業及び事業者団体の消費者契約法施行にあたっての対応状況等について~
『消費者契約法の施行準備等に関するアンケート』の集計結果」(2001 年 4 月 20 日)
8なお、安田総合研究所では 2001 年 11 月に、事業者に対して消費者契約法に関する意識調査を行ったが、ヒアリングを行った事業者すべてが同法を念頭においた約款の見直しを行っている(信託銀行、損害保険、不動産、旅行業)。
9 URL:http://www.kokusen. go.jp/cgi -bin/byteserver. pl/pdf/n -20011205_2.pdf (visited Dec. 26, 2001 )
10 2002 年 2 月に角田氏をお招きして開催した
「消費者契約法と規制緩和研究会」席上での発言。
11 角田氏のコメントによる。特定商取引に関する法律では、クーリング・オフ対象となる商品の期間中の解約であっても、商品が政令指定の「消耗品」である場合、消費者は費消した分について代金を負担する。報告の事例では消費者契約法を根拠に全額の返金を求め、事業者が応じた。
12 200 1 年 11 月実施。
13 後出(Ⅴ.6.(1))
14 後出(Ⅴ.6.(3))
15 後出(Ⅴ.6.(4))
16 後出(Ⅴ.6.(5))
17 後出(Ⅴ.6.(2))
18 利用者の登録した住所に事業者が書類を郵送し、その受領が確実に行われることを利用者の確認とする方式。
19 「オークション統計ページ(仮)」掲載の 2002年 1 月 21 日 カ ウ ン ト デ ー タ に よ る 。 http://www16.big.or.jp/~shumaru/site_count.ht
ml(visited Jan. 24, 2002 )
20 http://www .kokusen.go.jp/cgi -bin/byteserver. pl/pdf/n -20001026.pdf
21 後出(Ⅳ.7.(1))。
22 警察庁「平成 12 年中のハイテク犯罪等に関する相談受理状況」(警察庁ホームページより: http://www.npa.go.jp/police_j.htm, visited Dec. 26, 2001 )
23警察庁「平成 12 年中のハイテク犯罪等に関する相談受理状況について」(同上)
24 警察庁「平成 12 年中のハイテク犯罪検挙状況等について」(同上)
25 警察庁「平成 13 年上半期のハイテク犯罪検挙
状況等について」(同上)
26 インターネット通信販売の販売業者には、訪問販売法 8 条により、売り手の責任者の氏名や支払い時期、方法等の表示が義務付けられる。
なお、インターネット・オークション事業者に 対する規制としては、警察庁が 2002 年 2 月 7 日、インターネット・オークションでの盗品売買対策 として、古物営業法改正案の骨子を公表した。今 後、2003 年春の施行を目指して作業が行われる。改正後は、インターネット・オークションの開 設・運営は届け出制となり、無届での開設には罰 金が課せられることとなる(日本経済新聞 2002
年 2 月 8 日朝刊)。
27 約款での責任範囲規定の文言によって、消費者契約法の適用の可否は結論が分かれる可能性がある。たとえば、D 社の規定からは、個別の取引の安全性については D 社の責任の範囲外であるとする趣旨を読み取ることも可能であろう。このような解釈のもとでは、D 社の免責条項は無効とならないこととなる。さらに、より明確に事業者の責任範囲を制限する約款文言とすれば、8条 1 項 1 号の適用の余地がなくなることもあり得る。同趣旨の内容の契約でありながら、文言の操作により消費者契約法の適用の可否が左右されることは妥当ではなく、契約の内容と免責規定の関係について、なんらかの解釈の指針が必要となろう。
28民事訴訟法第 4 条 1 項「訴えは、被告の普通裁
判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。」同条 4 項「法人その他の社団又は財団の普
通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主 たる業務担当者の住所により定まる。」同条 5 項
「外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により(中略)定まる。」民事訴訟法第 5条 1 項「次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。(中略)五 事務所又は営業所を有する者に対する訴えでその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所の所在地」
29法例 7 条 1 項「法律行為ノ成立及ヒ効力ニ付テハ当事者ノ意思ニ従ヒ其何レノ国ノ法律ニ依ルヘキカヲ定ム」同条 2 項「当事者ノ意思ガ分明ナラサルトキハ行為地法ニ依ル」。準拠法について争いとなった場合、この規定により「当事者の意思が不分明」として、利用者の行為地である日本の法律が準拠法と判断される可能性がある。
30 脚注 29 。
31 脚注 28 。
32 脚注 28 。
33広島高裁決昭 56.12.2. 判時 1047 号 88 号(約款に基づく専属的管轄の合意の主張を、信義則を根拠として排斥)他。1998 年の民事訴訟法改正にあたっては、専属管轄に係る移送の制限から専属合意管轄を除外し、また、移送を認める条件を緩和した。
34 消費者政策部会中間報告「消費者契約法の具体的内容について」(平成 10 年 1 月 21 日)
35オランダの裁判所を第一審の専属的合意管轄裁
判所と指定する国際海上物品運送約款について、有効と認めた(最判昭和 50 年 11 月 28 日)。
36 Carnival Cruse Lines, Inc. v. Shute, 499 U.S. 585(1991) 。本判決では、The Bremen v. Zapata Off-Shore Co (407 U.S. 1 (1972) )の「現在の商取引の現実や拡大する国際取引に鑑み、合意管轄条項を推定的に有効と認める」という考えを踏襲し、裁判地を制限することで事業者が得る特別な利益、裁判防御のための費用と混乱の制約、以上
2 点による利用者の反射的利益の存在から、合意 管轄条項の合理性を認め、これを有効としている。
37 寺澤幸裕「クリックラップ契約中の合意管轄
条項または仲裁条項の執行力([弁護士が見たアメリカ] http://www.asia -links.com/ J apanese / terasawa/clip.htm, visited Dec. 26, 2001 )
38安田総合研究所が 2001 年 5 月に実施した、イ ンターネット・オークションと消費者契約法にか かるヒアリングで、インターネット・オークショ ン事業者の責任について、ある事業者の最高業務 執行責任者(COO) による以下のコメントがあった。
「当社はあくまでシステム会社あるいはインフラ会社というスタンスを貫いています。電話勧誘で詐欺が発生しても NTT が罪に問われないのと同じ発想です。」
39 米国に本拠を置く D 社は、商品・サービスの 管理をすべて米国で集中管理しており、日本に進 出した際には米国の経験からある程度セキュリ ティの体制は整っていた。これらのセキュリティ 対策も、事業を行っていく際、顧客の要望やトラ ブル対応としてひとつずつ築き上げたものである。同社 D 氏は、これらのセキュリティ対策を「お 客様と我々の協力の賜物(masterpiece of the cooperation betweene D and its users )」と呼ん でいる。
40 インターネット上でのトラブルのメールによる相談等の活動を行う N P O 法人「シロガネ・サイバーポール( http://www.scyberpol.org/ )」で 2001 年 4 月から 12 月に受け付けた相談 169 件のうち、インターネット・オークション等に分類されているものは 28 件である。ただし、「傾向としては、最初はオークション関係が多かったのですが、これは夏以降ぱったりやんでいます」
(メールマガジン 21 号、2001 年 12 月 25 日、
http://www.scyberpol. org/f_new.htm )との記載がある。これについては、「A社の身元確認導入の成果であろう」との、サイバーポールのメンバーによるコメントがあった。
また、インターネット・オークションで多発した、架空のメールアドレスでの落札などの不正行為(ネット荒らし)の対策情報を掲載したサイト、「ネットオークション 110 番」には、「愉快犯としてのネット荒らしは、A 社の本人認証後は基本的になくなりました」とのコメントが掲載されている(http://www. teleca.co.jp/index2.html, visited Jan. 18, 2002 )。
41 2001 年 5 月の時点では、トラブル事例の紹介ページにはトップページから入ることができた。トラブルが沈静化した 2002 年 1 月時点では、 トラブル事例の公開のページは「Q & A」ページ の回答からリンクされている。http://auction.
yahoo.co.jp/ phtml/auc/jp/notice/instances00.ht ml(visited Jan. 18, 2001 )
42 A 社の Q& A では、「明らかに詐欺と思われる 取引」についての報告の取扱いについて「A 社は、犯罪の捜査機関ではありませんので独自に犯罪を 捜査する権限はありませんが、警察署からの照会 に対してすみやかに協力するために、ご報告いた だいている内容を利用させていただきます」、利 用停止等の判断について「A 社の ID の削除だけ では効果がありません。逆にマイナス評価者に対 する他のユーザーの評価を残すことによって注意 を促す効果などがあると考えています。但し、当 局に逮捕・起訴された場合など A 社の判断によ り、A 社の利用の停止措置や削除をする場合があ ります」としており、個人間のトラブルに関与し ない姿勢をとっている。
43 従来から裁判ではクレジットカード等の案件で、合意管轄条項を「競合的合意管轄」であるとして、移送を認めていた。1998 年の民事訴訟法改正により、従来「訴訟の著しい遅滞」または
「著しい損害を避けるとき」とされていた移送の条件が「当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」に緩和された。
44 脚注 36 。
45 インターネットを通じた通信販売については、日米欧の主要企業が参加する「電子商取引に関す る国際ビジネス会議(GBDe )」が、世界的な電 子商取引ルール作りのための各国政府への提言を まとめており、最終的には世界的なルール作りを 目指している。また、事業者団体が主体となって、国際 ADR 等の紛争解決手段に関する国際的提携 交渉もすすめられている。
46 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「コ
ンメンタール消費者契約法」p. 2 他。
47 京都大学 潮見佳男教授の座談会での発言
(「座談会 消費者契約法の役割と展望」p.3 、ジュリスト 1200 号、2001 年 5 月 1・15 日合併号)。