昨今の経済・産業、文化の現状においては、イノベーション(Innovation)(技術革新・創新)が重要で、イノベーションにおいては、いわゆる、オープンイノベー ション(Open Innovation)が強く期待されている。オープンイノベーション下においては、知的財産の活用について、共同研究開発契約、クロスライセンス契 約を含む知的財産契約を考慮することが重視される。特に、戦略的知的財産契約が重要である。要は、オープンイノベーション重視の昨今、知的財産、知的財産契約の重要性が...
連 載
知的財産契約の実務(第13回)
オープンイノベーションと知的財産契約
─知的財産契約の多様な展開の確認を考慮して─
青山学院大学法学部特別招聘教授
石田 正泰
目 次
はじめに
Ⅰ オープンイノベーションの意義、形態、位置づけ、選択理由
1.オープンイノベーションの意義、形態
2.企業経営におけるオープンイノベーションの位置づけ、選択理由
Ⅱ オープンイノベーションと知的財産法・契約
1.オープンイノベーションの観点からの知的財産法
2.オープンイノベーションの観点からの知的財産契約
Ⅲ オープンイノベーションと知的財産契約
1.アウトソーシング契約
1-1 知的財産(権)譲渡契約
1-2 研究開発委託契約
1-3 M&A
1-4 未完成・未実証技術の完成委託、研究開発委託契約
1-5 ライセンシングイン契約、技術援助(導入)契約
2.相互補完契約
2-1 共同研究開発契約
2-2 クロスライセンス契約
2-3 パテントプール、マルチプルライセンス
3.ライセンシングアウト契約(分身論)
3-1 ライセンス契約の概要
3-2 ライセンス契約の種類
3-3 標準必須特許ライセンス契約の問題
4.オープンイノベーション対応の基本、応用、戦略
4-1 基本:法的根拠、原則
4-2 応用:知的財産契約の方針、考え方
4-3 戦略:戦略的選択、補完
5.オープンイノベーションと知的財産契約の戦略まとめ
はじめに
昨今の経済・産業、文化の現状においては、イノベーション(Innovation)(技術革新・創新)が重要で、イノベーションにおいては、いわゆる、オープンイノベーション(Open Innovation)が強く期待されている。オープンイノベーション下においては、知的財産の活用について、共同研究開発契約、クロスライセンス契約を含む知的財産契約を考慮することが重視される。特に、戦略的知的財産契約が重要である。要は、オープンイノベーション重視の昨今、知的財産、知的財産契約の重要性が再認識されている。そのポイントは次の通りである。
① 企業経営の目的、企業経営理念の基本は、持続的発展、競争力である。
② 企業の持続的発展のためには、イノベーションが必要不可欠である。
③ イノベーションは、知的財産法制度に下支えされて実効性が期待できる。
④ 知的財産関係法は、イノベーション促進の制度設計が期待される。なお、知的財産法制度は、イノベーションとの関係においては目的ではなく、イノベーションの成果を、法的にガードする補完的、手段的位置づけである。
⑤ イノベーションの効率最大化のためには、オープンイノベーションを選択的、補完的に位置づけ、実施することが有益である。従って、オープンイノベーションは、イノベーションとの関係においては、目的ではなく手段である。
⑥ オープンイノベーションの実施においては、戦略的知的財産契約が必要不可欠である。オープンイノベーションは、知的財産戦略、特に、知的財産契約に戦略的に対応することにより、イノベーションの効率最大化の機能を有し、発揮する。
Ⅰ オープンイノベーションの意義、形態、位置づけ、選択理由
1.オープンイノベーションの意義、形態
① | A | → | B | アウトイノベーション | 例:ライセンシングアウト、知的財産譲渡 |
② | A | ← | B | インイノベーション | 例:ライセンシングイン、研究開発委託 |
③ | A | ↔ | B | クロスイノベーション | 例:クロスライセンシング、共同研究開発 |
オープンイノベーションの意義、形態については、現段階においては、一定不変ではない。本稿においては、他との共同、協力をも考慮し、知的財産を核にした知を集合、集大成、融合したイノベーションと解する。なお、知的財産の観点からのオープンイノベーションの形態については、次のように把握する。
2.企業経営におけるオープンイノベーションの位置づけ、選択理由
⑴ 企業経営におけるオープンイノベーションの位置づけ
企業経営におけるイノベーション対応においては企業が独立した組織体であり、企業目的が独立している以上、オリジナルイノベーションが基本であり、オープンイノベーション対応は、イ
知的財産契約の実務(第13回)
ノベーションの効率のために選択的、補完的に必要となる手段であり、従って、しっかりしたオープンイノベーションポリシーを策定し、その下において戦略的知的財産契約を踏まえて実行していくことが望まれる。
① イノベーションは知的財産の下支えが必要不可欠である。
知的財産制度(排他権)がなければイノベーションはない。少なくとも最先端情報の開示
(公開)はない。イノベーションは知的財産制度に下支えされてこそ実効性が担保される。
イノベーション → 実効性(持続的発展)
↑
知的財産制度
② 産学連携、特に基礎研究成果の実用化連携においては知的財産が必要不可欠である。安心して実用化投資ができる。実用化しても知的財産(競争優位)がなければ、投資回収ができない。少なくともコストパフォーマンスが図れない。
③ オープンイノベーションの促進においては、知的財産が多くの場合有益である。
オープンする内容について客観的評価ができ安心して対応できる。知的財産制度設計は、イノベーション促進のための制度設計及びその施行策が期待される。
オープンイノベーション → さらなるイノベーション
↑ ① 安心してオープン対応 ② 客観的評価要素 ③ 競争優位確保知的財産の存在:知的財産契約
↑
イノベーション
イノベーション効率を最大化するためのオープンイノベーション選択においては、次のように適切な手段、ステップを履行する必要がある。
① オープンイノベーションの必要性確認:オープンイノベーションの形態、システム確認
② オープンイノベーションにおける知的財産契約戦略:イノベーションの効率のためにオープンイノベーションを選択する場合には、知的財産契約に戦略的に対応することが必要不可欠である。いわんやオープンイノベーション対応において知的財産(権)の制限・放棄の考え方は論外である。
③ イノベーションにおける知的財産の機能確認:企業経営において、知的財産は目的ではなく、イノベーションを下支えするための手段である。さりとて、イノベーションには知的財産が必要不可欠である。即ち、開発された技術・製品は知的財産により排他力・競争力が付与されるからである
④ オープンイノベーションポリシー策定:オープンイノベーションに戦略的に対応するためには、オープンイノベーションポリシーの策定及びそれに基づく実行が必要となる。
⑵ 企業経営におけるオープンイノベーションの選択理由
企業経営におけるオープンイノベーションは、イノベーションの効率を最大化するための選択的、補完的手段である。そのような観点からオープンイノベーションの選択理由を整理する。
・経済・経営環境:経営、技術革新のスピード化、技術、システムの複雑化
・知的財産法制度:知的財産ポートフォリオの必要性、他社権利の存在、相互補完
・経営戦略:時間を買う、垂直立上げ、コストパフォーマンス
Ⅱ オープンイノベーションと知的財産法・契約
1.オープンイノベーションの観点からの知的財産法
例えば、特許制度は、基本的にイノベートを図った者に排他権を認め、その実施効果による産業の発達を考慮した制度である。しかし、特許発明に係る技術は、常に陳腐化し、また特許権は常に完全無欠ではないので、権利の利活用をも考慮した制度、いわば、オープンイノベーション的制度設計を付加することが期待される。即ち、イノベーション(技術革新・創新)は、知的財産制度に下支えされて実効性が期待できるのであるが、イノベーションの趣旨・目的は技術革新・創新そのものだけではなく、その結果が産業の発展に帰結することにある。従って、そのことを考慮した場合、オープンイノベーション的制度設計が必要不可欠となる。
具体的には、昨今における状況においては、多くの製品は、単一技術、単一知的財産により製造できるものは少ない。従って、特許法第92条所定の「自己の特許発明の実施のための通常実施権の設定の裁定」は「自己の特許発明の実施に係る製品の製造のための通常実施権の設定の裁定」で多くの場合実効性が高まる。また、昨今における技術開発は、① 内容的な広さ、複雑さ、②時間的にスピードを要すること、③ 費用的にリスクが大きいこと、④ 知的財産問題が存在すること等により相互補完的に共同研究開発契約の必要性が顕著になっている。さらに、時間を買う、コストパフォーマンス、ヘッドスターター、垂直立ち上げ等の観点からのライセンスシングインや開発費の回収、知的財産の有効活用、企業評価の改善等の観点からのライセンシングアウトがある。自前主義、オープンリソース、アウトソーシング、蓄積から活用へ、アウトソーシングからオープンソース、M&A等である。
なお、オープンイノベーションに必要な基本的対応としては、次の事項がある。
① 経済・産業の発展のためのオープンイノベーション考慮の知的財産制度の総合戦略的制度設計の在り方を整理すること。
② 経済・産業政策法制度としての知的財産各法の制度改正の内容と順序が重要
③ 知的財産問題の経済・産業上の実効性のためには、法制度に依拠した対応、契約等による補完、先端走り切り対応が有益である。
⑴ 持続的発展とイノベーション
企業経営の基本的理念は、持続的発展である。その実現のためには、イノベーションが必要不可欠である。そして、イノベーションは知的財産に下支えされて,実効性が期待できる。知的財産の本当の機能は、イノベーションを促進し、企業の持続的発展に寄与することである。従って、企業毎に機能は、内容が異なる。
⑵ イノベーション担保機能
企業経営においては、継続的イノベーションが必要不可欠である。しかし、継続的イノベーションは、知的財産保護制度により適切に担保、下支えしなければ、達成不可能である。即ち、知的財産保護制度は、イノベーションの成果たる発明等を一定の条件のもとに排他的権利を与えて保護するものであるから、結果的にイノベーションを担保、下支えする機能を有する。イノベーションは、知的財産権に担保されてはじめて企業経営戦略の基本的位置づけができる。
知的財産契約の実務(第13回)
⑶ オープンイノベーションと知的財産
知的財産制度は、創作・イノベーションに対し経済・産業、文化政策的に一定の条件の下に排他権を認め、創作を奨励し、経済・産業、文化の発展を期待する。
昨今オープンイノベーションがキーワードとなっているが、オープンイノベーション対応は、知的財産がインフラであり、必要不可欠である。即ち、知的財産の存在により① 安心してオープン対応が可能であり、② 客観的評価要素となり、③ 競争優位が確保できるからである。
オープンイノベーションの理念は、制度設計面から独占禁止法(競争促進、消費者利益)、知的財産法によるイノベーション(リサーチツール等)考慮制度、戦略面から知的財産の不完全性、比較優位を考慮した対応を指摘することができる。具体的には、自由・活発なイノベーション、成果の保護(インセンティブ)、排他権(原則)制度的ガード(特許法第104条の3)、リサーチツール、ライセンスオブライト、公益(特許法第93条等)、契約による対応を指摘することができる。要は、知的財産制度は、絶対的・相対的排他権、行為規制保護制度であり、知的財産契約は、権利化・保護、活用ごとに共同研究開発契約、譲渡契約、ライセンス契約等が存在する。そして、オープンイノベーションの観点からの知的財産制度及びオープンイノベーションの観点からの知的財産契約の問題が重要である。
⑷ オープンイノベーションの観点からの知的財産法制の課題
オープンイノベーションの観点からの知的財産法制の課題については、包括的ライセンス契約における通常実施権登録制度(産業活力再生特別措置法改正)、ライセンシーの保護制度(通常実施権登録の法的効果)、差止請求権の濫用禁止制度(特許法第104条の3、ADR前置制度)、技術標準ライセンス契約における累積ライセンス料の上限制度(必須特許、FRAND)、特許法第 93条(公共の利益のための通常実施権の設定の裁定)、特許法第83条(不実施の場合の通常実施権の設定の裁定)、LOR(License of Right)制度特許法第73条(共有に係る特許権)の改訂等について検討、整理することにより把握する必要がある。
2.オープンイノベーションの観点からの知的財産契約
知的財産契約の対象としての知的財産の分類方法は、一定不変ではなく、いろいろな考え方がある。また、知的財産契約の種類についても、一定不変ではなくいろいろの考え方がある。
⑴ 知的財産契約の対象
知的財産契約の対象としての知的財産の分類方法は、一定不変ではなく、いろいろな考え方がある。
知的財産権に関する法律が知的財産権法であり、現在のわが国における知的財産権法には、特定の知的財産権に関し独立・特別に制定された法律と、不特定・多数の知的財産権に関し適用される共通・一般的な法律とがある。前者の例としては、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、著作権法、半導体集積回路の回路配置に関する法律、種苗法等があり、後者の例としては、民法、商法、不正競争防止法等がある。
⑵ 知的財産契約の種類、分類
知的財産契約の種類はいろいろ区分ができるが、知的創造サイクル的観点からは、知的財産創出型契約(共同研究開発契約等)、知的財産保護・権利化型契約(知的財産譲渡契約等)、知的財産活用型契約(知的財産ライセンス契約等)を挙げることができる。
① 知的財産創出契約…共同研究開発契約等
知的財産は、単独で創出する場合と他と共同で創出する場合がある。共同で創出する場合としては、共同研究開発契約が重要である。共同研究開発契約とは、当事者双方が共同で新技術の研究開発等をすることを目的とする契約をいい、さらに、各当事者の提供する役務が同種の場合と異種の場合に分けられる。
共同研究開発契約の主なチェックポイントは、研究開発の目的、対象、情報・資料の相互開示、開発業務及び費用の分担、定期的打ち合せ、秘密保持、開発成果の取扱い等である。
② 知的財産、知的財産権譲渡契約
知的財産、知的財産権は、多種多様である。特許を受ける権利は、原始的には自然人のみが享有でき、著作者の権利は、自然人及び法人(法人格のない社団を含む)も享有できる。なお、営業秘密(ノウハウ)は、「保有」概念の下に譲渡契約の対象となるか必ずしも明確ではない。実務的に最も重要なものは職務発明に関する予約承継を含む譲渡契約である。
特許権等譲渡契約は、当事者の一方(譲渡人)が特許権等を相手方(譲受人)に移転することを直接の目的とする契約をいい、そのうち有償の譲渡は特に売買と呼ばれる。譲渡の対象となっている特許権等を明確にする必要がある。
③ ライセンス契約等知的財産活用契約
知的財産活用契約としてライセンス契約が重要である。ライセンス契約とは、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約で、民法上の13種類の典型契約、有名契約ではなく、非典型契約、無名契約である。
ライセンス契約とは、当事者の一方(ライセンサー)が、相手方(ライセンシー)に対して、特許発明、ノウハウ等ライセンスの対象について、一定の対価(実施料、使用料、利用料)により、ライセンス(実施権、使用権、利用権)を許諾する契約をいう。特許等のライセンス契約は、当事者の一方(ライセンサー)が相手方(ライセンシー)に対し、ある特許につきライセンスを許諾する契約をいい、この場合ライセンシーは、ライセンサーとは別個独立の事業として自己のために当該特許等を実施する権利を有する。従って、下請者が、下請委託者の一機関として技術の実施をなしうるにすぎない下請契約と区別される。
ノウハウライセンス契約は、ノウハウ(Know-How)の利用権を許諾することを内容とする契約である。ノウハウは非公知性が本質的要素であり、契約を締結しなければ、それにアクセスできないのが通常である。
⑶ 知的財産契約の実務
知的財産契約の実務は、知的財産契約の種類ごとに多種多様である。オープンイノベーションの観点から、キーワードとして次の諸点を挙げることができる。
① 知的財産権化中心、排他権中心主義(プロパテント)から活用重視へ
② 自前主義、侵害回避(迂回開発)からオープン化、相互補完、時間を買うへ
③ 契約自由の原則、公正性が前提、Win-Winが重要
④ 評価は当方、相手方及び社会
⑤ 知的財産活用(オープンイノベーション)の観点からの知的財産法、知的財産このことをオープンイノベーションの形態ごとに整理すると次の通りである。
① アウトイノベーション:知識の活性化、ライセンシーの改良発明の取扱い
② インイノベーション:時間を買う、コストパフォ -マンス、保証、Head Start
③ クロスイノベーション:相互補完、特許法第73条問題、Win-Win
知的財産契約の実務(第13回)
Ⅲ オープンイノベーションと知的財産契約
イノベーションの効率化等の観点からオープンイノベーションを選択、補完する場合には、知的財産契約への戦略的対応が必要不可欠である。
その場合のキーワードとして、次の事項を挙げることができる。
① 時間を買う:研究開発委託、技術購入、アウトソーシング
② パートナーとの相互補完:共同研究開発、クロスライセンス、産学官連携重視の時代、特許法第73条の特約(米国特許法262条、中国特許法15条)
③ 知的財産ポートフォリオ:ライセンシング、改良の取扱、不争義務、競合忌避
④ ライセンシング(ライセンシングアウト、ライセンシングイン):ライセンス契約の評価
…自方、相手方、社会(独占禁止法等)
⑤ 新しい事業の創出:技術提携、ジョイントベンチャー、産学官連携、M&A
⑥ フェアユース:リバースエンジニアリング、公正競争の促進
⑦ 事業の切り出し:スピンアウト、スピンオフ、カーブアウト そして、その場合の基本的理念としては、次の諸点が重要である。
① 知的財産保護制度の基本的趣旨・目的を踏まえた建て方が前提、知的財産には、公信力がなく、現実には不完全・不確定なものがある。無効審判制度、特許法第104条の3、独占禁止法による制限、強制実施権制度、権利の制限制度
② また、知的財産は、常に絶対優位の地位が約束されているわけではない。従って、これからの時代は、クローズ、オープンイノベーションの使い分け、組合せが必要、有益な戦略となる。その場合、戦略的知的財産契約を実行して行くことが必要不可欠である。容易に迂回可能な権利、知的財産の網の必要性、コストパフォマンス、陳腐化のスピード、権利の幅を考慮した対応が必要等
③ 要は、オープンイノベーション下において、知的財産の現実的、効率的活用を戦略的に対応することが肝要である.
オープンイノベーションの各形態ごとの知的財産契約に戦略的に対応するための基本的戦略は、形態ごとに多様であるが、次のように検討することが期待される。
① 知的財産契約におけるオープンイノベーション面における法的側面から整理、共同発明は共同出願(特許法第38条)、持分譲渡の制約(特許法第33条3項)
② 各知的財産契約条項をオープンイノベーション面から戦略的検討整理する。例えば、譲渡契約における対象権利の価値評価、共同研究開発契約における成果の帰属と利用、ライセンス契約におけるライセンサーの特許保証・ライセンシーの改良技術・発明の取扱い、技術標準対応における必須特許・FRAND・競争の促進等
③ 各知的財産契約の内容を契約書作成における具体的課題を検討整理する。
1.アウトソーシング契約
アウトソーシングの趣旨は、イノベーションの効率化を考慮した自前主義の補完である。具体的な契約形態として、知的財産権の譲受、M&A、研究開発委託契約、技術援助(導入)契約、ライセンシングイン契約、未完成・未実証技術の完成委託等があるが、それらの場合のキーワードとしては、時間を買う、コストパフォーマンス、交渉時に秘密保持契約・Escrow Agreementの利用、委託条件・委託目的・委託内容、成果の帰属と利用、改良技術の取扱い、競合技術の取扱い制限、サブライセンス許諾権、技術的効果の保証、第三者権利に対する保証等である。
1-1 知的財産(権)譲渡契約
知的財産、知的財産権は、多種多様である。特許を受ける権利は、原始的には自然人のみが享有でき、著作者の権利は、自然人及び法人(法人格のない社団を含む)も享有できる。なお、営業秘密(ノウハウ)は、不正競争防止法第2条6項に規定し、「保有」概念の下で実務的に重要である。産業財産権等方式主義保護、著作権等無方式主義保護、営業秘密等行為規制保護主義ごとに適切な対応が必要不可欠である。知的財産の種類ごとの帰属、譲渡条件等についての約定が重要である。
この契約は、特許権と特許を受ける権利等を対象とする。特許法には、特許権の移転については、直接的な規定はないが、移転することができることを前提に、移転は登録が効力発生要件であることを規定している(第98条1項)。また、特許を受ける権利は移転することができる旨を規定している(第33条)。
特許(権)譲渡契約は、いずれの側にとっても最も重要で、関心事は譲渡対象特許(権)の価値評価である。特許(権)の価値評価については、一般的には一定不変の公式的基準はなく、個別具体的な評価要素の総合的判断によって決定される。そして、個別具体的要素としては、それぞれのニーズ等を前提して決定される。
これからの知的財産業務は、知的財産の戦略的活用が最大の課題となる。知的財産を戦略的に活用する目的とは何か。それはいうまでもなく、知的財産の価値を極大化することに尽きる。企業価値評価と知的財産の関係においては、どうすれば知的財産の価値を極大化できるのか。そして、これからの企業経営においては、権利を取得・保有することに加えて、というより多くの重要性は、取得保有権利の戦略的活用にある。知的財産権の価値評価要素は、権利自体の要素、技術的優位性の要素、市場性の要素、経営寄与の要素である。
特許権や特許を受ける権利の譲渡契約は、いわゆる売買契約であるので契約条項や契約の履行は、一般的にはシンプルである。対象となる特許権等の価値が客観的に把握し難い点が問題である。従って、譲渡契約締結に際しての重要な点は、対象となる発明を評価することにある。
アウトソーシングによるオープンイノベーションとしての特許権等の譲渡契約においては、譲り受ける特許権等の価値評価が最大の課題である。なお、譲渡契約の対象が特許を受ける権利、著作権(著作者人格権は含まない)、ノウハウ等の場合,それぞれの権利の法的性格を考慮した対応が必要不可欠である。例えば、著作権の譲渡の場合、著作権の対象である著作物について、その利用における著作者人格権の取扱いをどのように対応するかが、著作権譲渡契約の条件として極めて重要である。
著作者人格権は、著作者に一身専属の権利であるので、著作物の利用契約の締結においては、同一性保持権等の対応が重要な課題となる。著作者人格権は放棄できないので、不行使又は承認条件の内容が検討される。オープンイノベーションを考慮した、著作物の適切かつ活発な活用においては、著作者人格権についての適切な対応が必要不可欠なことである。
1-2 研究開発委託契約
研究開発委託契約は、時間を買う、コストパフォマンス、ヘッドスターター、垂直立ち上げ等の観点からのアウトソーシング対応の契約である。即ち、イノベーションをアウトソーシングで対応するインイノベーションの一形態である。
研究開発委託契約について検討すべき事項は、次の通りである。研究開発を委託する場合、委託内容、レベルには、① 研究開発内容が詳細に示されており、その確認的レベル、② 研究開発内容がある程度具体的に示されており、委託者と受託者共同で仕上げるレベル、③ 依託内容は
知的財産契約の実務(第13回)
趣旨等概要のみが示され、受託者により実質的に全て研究開発するレベルには次の3段階がある。研究開発成果は、研究開発依託内容のレベルにより原始的に、① 委託者単独、② 委託者、受託者の共同、③ 受託者単独に帰属する。特許法、著作権法の判定、判断基準は、それぞれ次の通りである。
発明の場合、委託者側に権利を譲渡する契約内容とした場合、発明者の相当の対価問題が、また、著作物については、著作者人格権の取り扱いが難点となる。
アウトソーシング契約の一つとしての他から知的財産に関するライセンスを取得する契約、すなわち、ライセンシングイン契約においては、ライセンシーとしては、ライセンサーの特許保証問題、例えば、ライセンス許諾特許の実施に対して第三者から権利主張された場合にライセンサーから経済的、手続的保証を受けたいが、どのような内容で保証を受けられるかが、法的な問題として、また契約条件として極めて重要な事項である。一方、ライセンサーからライセンシーに対して、ライセンシーの改良技術に対するグラントバックの要求、許諾特許に関する不争義務の要求、ライセンシー保有の知的財産権に関する非係争義務の要求等がされる場合がある。これらの問題については、法的、戦略的に、Win-Win的に対応することが望まれる。
1-3 M&A
M&A(Mergers and Acquisition)は、いわゆる、既存の企業の買収で、典型的なヘッドスターター、垂直立ち上がりのオープンイノベーション手段であるといえる。M&Aで最も重要なことは、買収対象企業の評価である。即ち、精査(Due Diligence)において経済的、法的価値評価を適切に行うことである。
昨今活発に行われ、一般化しているM&Aにおいてエスクロウ契約(Escrow Agreement)が検討、締結されることがある。M&Aの実務において、売り手側としては、売買契約調印までの交渉において、トレード・シークレット等を考慮してより高値で売却しようと試みる。即ち、秘密保持契約(Secrecy Agreement)を締結していても真に価値ある情報、例えば、製造ノウハウ、顧客リスト等については売買契約締結以前には開示したがらない。もし売買契約が不調に終わった場合には、以後のビジネスに重大な悪影響を及ぼしかねないからである。特に、交渉相手が同業又は競合関係にある場合には、それが顕著である。
そこで、売り手側は、エスクロウ契約の締結とエスクロウ金を要求する。このエスクロウ金はトレード・シークレットの開示料等である。
M&Aは、いわゆる「企業買収」で、類型としては、買収企業の株式を購入する株式買収方式
(Stock Purchase方式)と買収企業の資産の中から必要なものを購入する資産買収方式(Asset Purchase 方式)がある。M&A契約書の主要事項としては、買収基本条件、精査、クロージング(Closing)等である。
M&A契約における法制度上、戦略上の検討課題は多種、多様に存在する。知的財産問題の観点からは、買収対象企業が第三者と締結していた知的財産契約の承継問題、そのことも含めて買収対象企業が保有している知的財産の価値評価問題、暖簾(Good-Will)の価値評価、及びその償却処理問題等が重要である。
一方、戦略上の視点からは、エスクロウ金をどのように設定し、M&A取引が不成立となった原因についても、その責任主体を明確に定めておく必要がある。売り手側の責任により取引が不成立となった場合は、エスクロウ金は預託者である買い手側に帰属することとしておく必要がある。
1-4 未完成・未実証技術の完成委託、研究開発委託契約
未完成・未実証技術の完成委託、研究開発委託契約は時間を買う、コストパフォマンス、ヘッドスターター、垂直立ち上げ等の観点からのアウトソーシング対応の契約である。研究開発委託契約について研究開発成果は、研究開発依託内容のレベルにより原始的に、① 委託者単独、②委託者、受託者共同、③ 受託者単独に帰属する。
1-5 ライセンシングイン契約、技術援助(導入)契約
アウトソーシング契約の一つとしての他から知的財産に関するライセンスを取得する契約、即ち、ライセンシングイン契約においては、ライセンシーとしては、ライセンサーの特許保証問題、例えば、ライセンス許諾特許の実施に対して第三者から権利主張された場合にライセンサーから経済的、手続的保証を受けたいが、どのような内容で保証を受けられるかが、法的に、また契約条件として極めて重要な事項である。技術援助(導入)契約はライセンシングイン契約と同趣旨の契約である。
2.相互補完契約
2-1 共同研究開発契約
共同研究開発契約とは、当事者双方が新技術又は新製品の研究開発行為を共同で遂行することを約する契約をいう。当事者の一方のみが研究開発行為のすべてを遂行することを約する研究開発委託(受託)契約と区別される。共同開発契約の3要素は、契約当事者、研究開発の対象、共同遂行ということである。
知的財産は、単独で創出する場合と他と共同で創出する場合がある。共同で創出する場合としては、共同研究開発契約が重要である。共同研究開発契約における、成果の帰属と利用に関する諸問題、特許法の原則と契約での約定等である。共同研究開発契約の内容で最も重要な事柄は、共同研究開発の成果の帰属と利用問題である。特に、知的財産問題が重要で、知的財産問題は、共同研究開発契約を法的に検討する場合の中心的な問題であり、特許だけでなく著作物やノウハウについても重要である。
共同研究開発契約では秘密保持が基本的義務になる。開発成果の帰属について、課題の設定と課題の解決という形で象徴的に整理してみる。例えば、A社とB社による契約において、課題の解決に当たるのは役割分担によりB社だけである。A社は発明者要件となる課題の解決には従事しない。その場合、B社単独で特許出願できるのだろうか。特許法の原則ではそれが許される。しかし、仮にその発明の内容について、課題設定の段階でお互いにディスクローズした情報を 含むような場合、日本の現在の制度では特許出願後1年6カ月後に公開されることになる。その事情を考慮すると秘密保持義務あるいは基本的な義務として、パートナーの了解を得ておく必要
がある。
従って、単独発明であるから特許を受ける権利が単独帰属という規定があるからといって、特許出願するときには、秘密保持義務の観点から注意を要するわけである。いずれにしても、開発成果の帰属、出願等について重要事項を明確に規定した内容にしておかなければならない。
共同研究開発契約は、研究開発成果の事業化が目的であり、共同研究開発契約締結の段階で、成果の事業化についても取り決めておくことが一般的には望まれる。従って、共同研究開発契約に事業化契約を添付するか、少なくとも事業化についての基本的事項を共同研究開発契約に規定しておくべきである。
日本の企業間においては、開発成果は特許法の原則を遵守しなければならない。共同で成果を
知的財産契約の実務(第13回)
出したもの、即ち共同発明である場合、特約をしなければ事業化は各自自由にできる。ただし、事業化の段階で、子会社、関係会社も含め、第三者にライセンス許諾する場合にはパートナーの了解が必要になる。
共同研究開発のメリット・デメリットは必ずしも固定的ではないが、一般的に次の諸点を挙げることができる。メリットとしては、① 研究開発の効率化、② 当事者の技術力、人力の相互補完、③ 研究開発費用の軽減、④ 研究開発期間の短縮、⑤ 研究開発の成果の事業化における相互補完・新規分野への参入等が、また、デメリットとしては、① 研究開発戦略の複雑化、② 研究開発成果の非独占化、③ 研究開発成果の利用についての法的諸制約、④ 研究開発成果の事業化の複雑化、⑤ 研究開発成果の管理面の複雑化等が挙げられる。
企業と企業の共同研究開発契約の場合において、共同研究開発の成果たる特許を受ける権利
(発明)が両企業の従業員の共同発明であるような場合に、各企業の職務発明規程がどのように適用されるか、また、両企業の従業員から特許を受ける権利をどのような手続(契約)で、どのような内容(帰属、対価等)で処しておくかを明確にしておく必要がある。要するに、特許法第 35条の問題と、契約の問題を総合的に対処しておく必要がある。なお、共同研究開発の成果は発明のほかにノウハウ、著作物もあり、それらについても検討整理する必要がある。
現段階における日本の産学官連携、特に、産学間の共同研究開発契約においては、企業と大学の立場の相異から、いくつかの重要な課題がある。即ち、通常企業は、直接的に企業の経営に寄与することを主目的として、また、大学は研究成果の達成を主目的とすること等から、① 費用負担と成果の帰属、② 不実施補償問題、③ 単独ライセンス許諾権等が議論されている。
そして、これらの諸問題についてガイドラインの必要性も云々されるところである。しかし、教育基本法、学校教育法に大学の社会貢献の使命が規定されたこともあり、また、産学間連携による産学間の共同研究契約も個性的な当事者間による契約自由の原則に基づいて可能な限り活性化すべきであるという観点からは、固定的な対応は必ずしも好ましくはないだろう。
一般論として、産学連携における共同研究開発契約においては、契約締結前に① 研究開発の役割分担、② 研究開発費用の分担、③ 研究開発成果の帰属と利用、④ 第三者への実施許諾等について、的確に確認しておく必要がある。その場合、特許法の規定に基づけば、発明者中心の考え方と、特約中心の考え方がある。しかし、共同研究開発は、相互補完性、効率的研究開発実施の必要性等の観点から、契約締結前に成果の帰属と利用について特約条件を明確に規定すべきである。その内容はWin-Winになる内容が前提であり、前述した基本認識を踏まえたものであるべきである。要は、特許法の原則と特約について明確に判断、対処しておくべきである。もっとも、共同研究開発の成果がどのように評価されるかが確認できない契約締結前に、成果の帰属と利用について具体的に明確に規定することは、困難な点が多いのも確かである。
産学間の共同研究開発契約における事前取決めでポイントとなるのは、共同研究開発成果の帰属と利用である。
大学は、教育基本法により、「…成果を広く社会に提供し、社会の発展に寄与するものとする。」(第7条1項)役割を有する。大学で研究開発された基礎技術成果は、企業と産学連携による応用研究開発を行う等して、産業上利用可能な技術成果として、社会貢献することが期待される。なお、産学連携により、企業と大学が共同発明を行った結果、共有の特許を受ける権利、特許権を取得した場合、特許法第73条等による規制があるので、共同研究開発契約締結段階で、不実施補償、単独ライセンス許諾権等について規定しておくことが期待される。産学間の共同研究開発の開発成果については、大学側としては、一般的に事業化対応がないため、企業との共有知的財産について、特許法第73条の原則に対して次の検討課題がある。① 不実施補償、② 第三者
に対する実施許諾、③ 持ち分の第三者への譲渡等である。
2-2 クロスライセンス契約
クロスライセンスとは、技術に権利を有する複数の者が、それぞれの権利を、相互にライセンスをすることをいう。クロスライセンスは、パテントプールやマルティプルライセンスに比べて、関与する事業者が少数であることが多い。
関与する事業者が少数であっても、それらの事業者が一定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、当該製品の対価、数量、供給先等について共同で取り決める行為や他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は、後記のパテントプールと同様の効果を有することとなるため、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。
技術の利用範囲としてそれぞれが当該技術を用いて行う事業活動の範囲を共同して取り決める行為は、技術又は製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。
クロスライセンス契約(Cross License Agreement)は、契約当事者双方の知的財産、技術を合わせてさらなるイノベーションを期待することができ双方にとって、オープンイノベーション効果を有する。ライセンス契約の当事者がそれぞれ保有する特許・ノウハウ等について、互いにそれらについてライセンスを許諾し合うことをいう。ライセンシーの改良技術や発明をライセンサーにグラントバック(Grant Back)する条項を含む契約については、通常はクロスライセンスとはいわない。電気機械分野や精密機械分野などでは、一つに製品に多くの特許が関係し、従って、クロスライセンス対応が多いのが実態である。クロスライセンスは、権利侵害回避、コスト低減等リスクマネジメント対応としても重要である。なお、クロスライセンス契約に伴う実務的な問題として、発明者としての社員に対する職務発明に関する「相当な利益」の計算が複雑になる問題がある。
知的財産権ライセンス契約の法的諏旨は、知的財産権の権利者が契約相手に対して侵害排除権等の権利を行使しない約定であり、クロスライセンスは、当事者双方が各自の有する知的財産権について侵害排除権等の権利を行使しないことを相互に約定する契約である。クロスライセンス契約の検討、締結の背景、諏旨は、① 契約当事者双方が相手の知的財産権について、侵害回避・迂回が困難と判断している場合、② 侵害回避・迂回の可能性はあるが相互補完、コストパフォーマンスの観点からオープンイノベーション対応としてクロスライセンス契約を選択・検討、締結する場合、③ パテントプール的観点から戦略的にオープンイノベーション対応としてクロスライセンス契約とする場合等がある。
クロスライセンス契約の有効期間の定め方は、ライセンスの対象知的財産の種類及び当事者の戦略・方針等によって決定される。但し、ライセンスの対象がノウハウの場合は、契約の有効期間及び契約終了後のノウハウの使用可能性、対価の必要性、秘密保持義務等について他の知的財産を対象とする場合と異なるのが通常である。
2-3 パテントプール、マルチプルライセンス
パテントプール(Patent Pool)とは、ある技術に権利を有する複数の者が、それぞれが有する権利又は当該権利についてライセンスをする権利を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセン
知的財産契約の実務(第13回)
スを受けるものをいう。
パテントプールは、事業活動に必要な技術の効率的利用に資するものであり、それ自体が直ちに不当な取引制限に該当するものではない。なお、標準化に伴うパテントプールについては「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の指針(」平成17年6月29日公表)参照。しかしながら、一定の技術市場において代替関係にある技術に権利を有する者同士が、それぞ れ有する権利についてパテントプールを通じてライセンスをすることとし、その際のライセンス条件(技術の利用の範囲を含む。)について共同で取り決める行為は、当該技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。また、これらの事業者が、プールしている技術の改良を相互に制限する行為や、ライセンスをする相手先を相互に制限する行為は、当該技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当
する。
マルティプルライセンス(Multiple License)とは、ある技術を複数の事業者にライセンスをすることをいう。マルチィプルライセンスにおいて、ライセンサー及び複数のライセンシーが共通の制限を受けるとの認識の下に、当該技術の利用の範囲、当該技術を用いて製造する製品の販売価格、販売数量、販売先等を制限する行為は、これら事業者の事業活動の相互拘束に当たり、当該製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当する。
また、同様の認識の下に、当該技術の改良・応用研究、その成果たる技術(改良技術)についてライセンスをする相手方、代替技術の採用等を制限する行為も、技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当するので要注意である。
3.ライセンシングアウト契約(分身論)
ライセンス契約は、ライセンサーとライセンシーの間における交渉、調整に基づき、諸条件につき合意に達した結果、締結されるものである。ライセンス契約のうち、ライセンサーの立場からの契約がライセンシングアウト契約である。
知的財産の活用は、自己実施、ライセンシング、信託等多様であり、知的財産の有する広い機能を、企業経営の知的財産ポリシー、知的財産戦略に従って、適切に対応することが望まれる。ライセンシングにおいては、当事者の立場によって、方針、戦略が異なり多様な論点が存在す る。例えば、ライセンシーの改良発明等の取扱い問題、ライセンサーのライセンシーに対する特許保証問題等である。戦略的知的財産ライセンス契約が重要視される中で、ライセンサーとしては、ライセンシーの許諾特許に関する改良発明等の取扱い等、ライセンシーとしては許諾特許の
実施による事業利益等戦略的事項に適切に対応することが重要である。
3-1 ライセンス契約の概要
ライセンス契約は、一方当事者であるライセンサーと他方当事者であるライセンシーの間における交渉、調整に基づき、諸条件につき合意に達した結果、締結されるものであり、両当事者のライセンシングポリシー(Licensing Policy)実現の結果である。すなわち、ライセンス契約は、知的財産の活用、投資回収の最重要課題であり、戦略である。
ライセンス契約は、ライセンシングアウト(Licensing-out)の視点からのライセンサーの立場とライセンシングイン(Licensing-in)の視点からのライセンシーの立場によって、それぞれ検討、実行される。もちろん、客観的指標であるライセンス契約に関する法的制度、ガイドラインを確認する方法で最終的調整がされるべきことは当然のことである。要するに、ライセンス契約の目的は、ライセンサーにとっては、対価の取得、場合によってはライセンシーの改良発明に関
する実施権の取得等であり、ライセンシーにとっては安全な事業活動、コストパフォーマンス
(時間を買う)等である。ライセンス契約は、知的財産・知的財産権の実施・使用・利用に関する契約であり、知的財産の経済的価値、知的財産権の独占排他権を考慮して締結される契約である。
従って、ライセンス契約においては、知的財産・知的財産権が極めて重要な対象、要素であり、役割を果たすことになる。ライセンス契約は、物の取引より不確定、不安定要素が多いので、当事者間に信頼関係があり、かつ、そのライセンスに関し、方針がはっきりしており、ライセンス契約の常識を持ち、形式より実質を重視する対応が成功のポイントとなる。
ライセンス契約の対象は、元来、契約自由の原則の考え方に基づいて、契約当事者の合意によって選択・決定される。従って、特許法、商標法、半導体集積回路法等のように実施権制度、使用権制度、利用権制度、いわゆる法律上のライセンス制度が用意されている知的財産権だけでなく、出願中の発明、ノウハウ(Know How)、コンピュータ・プログラム、キャラクター、植物新品種等についても自由にライセンス契約の対象として選択できる。
昨今、ライセンス契約の対象である知的財産・知的財産権は拡大し、多様化しているが、ライセンス契約の実務においては、特許(発明)、著作物、ノウハウが特に重要である。
3-2 ライセンス契約の種類
ライセンス契約の種類をどのように分類し、定義するかの方法は、必ずしも定着しているとはいえない。ここでは、ライセンス契約の契機、目的を考慮した観点からの種類と、ライセンスの対象による種類を中心に概説することとする。
⑴ ライセンスの契機、形態等による種類
① 自由意思に基づくライセンスと強制ライセンス
一般的に、ライセンス契約を締結するか否かは、契約自由の原則に基づいて、ライセンス契約当事者の自由意思によって決定される。
企業経営において、ライセンス契約に対する方針、戦略は、ライセンシングポリシーとして、各企業によって異なるのが通常である。自由意思に基づくライセンスは、いわば許諾によるライセンスである。
一方、特許権は特許発明を独占的に支配する権利、即ち、独占的排他権を有する権利である。また、特許発明に排他権を認める趣旨は、それによって結果的に産業の発達に寄与することを目的とするのであるから、産業の発達を妨げるような場合には、排他権に制限を加えることがある。我が国には、排他権を制限するライセンス制度(強制ライセンス:Compulsory License制度)として、公共の利益のためのライセンス(特許法第93条)などの3種類の裁定ライセンスと、職務発明の場合のライセンス(特許法第35条)、先使用の場合のライセンス(特許法第79条)などの5種類の法定ライセンス制度がある。
② 積極的ライセンスと消極的ライセンス
ライセンス契約は、ライセンサーがその意思に基づいて、積極的に他社にライセンスを許諾する積極的ライセンスとライセンサーの積極的意思に基づかない消極的ライセンスがある。ライセンス契約の実務においては、前者のライセンスが通常であり、知的財産ビジネス、ライセンシングビジネスにおけるライセンスはその典型である。なお、イギリスで定着しているライセンス・オブ・ライト(License of Right)の制度及びこれに類する制度も積極的ライセンスに関するものといえる。
知的財産契約の実務(第13回)
一方、消極的ライセンスの例としては、紛争の和解に基づくライセンスや強制ライセンスが含まれるほか、いわゆる黙示のライセンス(Implied License)も含まれる。 もっとも、実質的にライセンスが許諾されていると判断されるか否かについては、当該ライセンス契約の趣旨、その他関係事項を総合的に参酌して決定されるものである。
③ ライセンス契約の当事者のライセンシングポリシー等によって区別される種類
1)単一ライセンスと複数ライセンス
2)一方的ライセンスとクロスライセンス
3)有償ライセンスと無償ライセンス
4)無制限ライセンスと限定ライセンス
5)独占ライセンスと非独占ライセンス
6)主たるライセンスとサブライセンス
⑵ ライセンスの対象による種類
① 特許等ライセンス契約
特許法は、特許権のみについてライセンスの許諾をなしうる旨規定しているが(特許法第77条、78条)、ライセンス契約の実務においては特許発明以外の技術(特許を受ける権利等)についても同様にライセンス許諾の対象とされている。なお、ライセンシーが他人にライセンス(サブライセンス)を許諾する場合には、ライセンサーの承諾を要する(特許法第77条4項等)。
② ノウハウライセンス契約
ノウハウは、その本質が非公知性にあるのでライセンス契約の実務においては、契約の締結交渉におけるライセンス条件の決定プロセスが、特許等ライセンス契約と異なるのが通常である。即ちライセンス契約締結以前に、秘密保持契約又はオプション(Option)契約の締結が必要になったりノウハウの開示、秘密保持、契約期間、契約終了後の実施・特許出願等の規定が必要になり、かつ重要である。
オプション契約(Option Agreement)とは、当事者の一方が相手方に対し、ある技術の企業化可能性の評価・検討に必要な情報・資料等を提供・使用させるとともに、約定の期間(オプション期間)内に当該技術につきライセンスを受けるか否かの選択権(オプション)を与える契約をいう。従って、相手方は、オプション行使期間内に限り、上記目的のためにのみ当該情報・資料等を使用する権利を有し、オプション行使期間経過後は原則としてその権利を失う。
オプション契約は、その締結時にすでに、将来締結さるべきライセンス契約(本契約)の内容がすべて確定している場合と、確定していない場合に分けられる。前者の場合には、将来締結さるべき本契約(ライセンス契約)の内容を記載した書面がオプション契約に添付され、相手方がオプションを行使すれば直ちに本契約は成立するが、後者の場合には、本契約の内容が確定していないために、オプションの行使のみでは足らず、さらに当事者間の交渉により本契約の内容を確定しなければならない。
オプション契約の主なチェックポイントは、提供する評価用情報・資料等の範囲、秘密保持、使用制限、対価、オプション行使の期間と方法、オプション不行使の場合の措置などである。
③ その他のライセンス契約
1)意匠権ライセンス契約 2)商品化権ライセンス契約
3)商標権、商標登録出願によって生じた権利に関するライセンス契約
4)国際的ライセンス契約
現在、経済・経営環境は極めて厳しく、またグローバルな企業間の国際競争が繰り広げられて
いる。このような状況の中において、ベンチャービジネス等によるわが国産業の再活性化が強く期待されている。とりわけ、地域振興、新事業育成という観点からは、ベンチャー企業並びに中小企業振興が急務となっている。
技術革新のスピード化・業際化の進展等により、企業の規模の大小をとわず、各企業は自社開発、自社技術だけでは不十分な場合が多くなっている。
このような状況下において、自社開発、自社技術を補完するための技術導入(ライセンス イン)、及び他社技術支援、経営戦略のための技術供与(ライセンス アウト)の必要性が生じている。即ち、現在は、特に技術移転の必要性が高まっている状況である。
現在国レベルで、技術取引市場(Technomart)、TLO(Technology Licensing Organization)等が推進されており、ベンチャー企業、中小企業支援施策が実施されている。ところで、技術移転は多くの場合「ライセンス契約」の形で成立する。技術移転を成功させるためには、ライセンス契約実務の常識と留意点を押さえておく必要がある。知的財産契約の業務は、文書的対応業務、法律業務的対応を基本として行われるが、最も重要なのは、戦略業務的対応である。そして、事前調査、交渉が極めて重要である。
3-3 標準必須特許ライセンス契約の問題
標準必須特許ライセンス契約の場合、一般の特許ライセンス契約と比較した場合、契約当事者、契約対象、ライセンス対価、交渉対応等に差異があることが多いのが現状である。標準必須特許ライセンス契約の実務においては、技術標準化組織におけるパテントポリシーの基本理念は、「標準化組織が、標準と定めた技術に必須と考えられる技術が特許権で保護されているときは、当該特許権者は、その実施をFRAND条件で許諾する」ということである。
必須特許の定義は、厳密に言えば「かかる技術標準を実施するために必要不可欠な特許」ということになるが、「現実的な代替物がない場合は、その特許は必須である」という解釈も許されるし、「その特許が実質的な意味において必要である」という解釈も成り立つ。これは、技術標準を実施するだけでなく、その技術を採用した製品生産などにおいて、必要な特許であるということを指している。
4.オープンイノベーション対応の基本、応用、戦略
イノベーションの効率化のために選択的、補完的にオープンイノベーションに対応する必要性が顕著となった昨今、知的財産の重要性、特に戦略的知的財産契約の重要性が明確に認識されることとなった。このことは、知的財産を重視する経営、すなわち、知的財産経営において大変貴重なことである。
知的財産契約の実務(第13回)
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オープンイノベーションは、知的財産戦略、特に、知的財産契約に戦略的に対応することにより、イノベーションの効率最大化の機能、効果を有し、発揮する。従って、昨今においては、オープンイノベーション対応における基本的考え方、特に、戦略的知的財産契約の考え方を整理しておくことが喫緊の課題となっている。なお、オープンイノベーション対応においては、① 知的財産の存在、② 人材、③ 戦略が基本的要素であり、必要不可欠である。
オープンイノベーション対応における基本的形態が共同研究開発である。共同研究開発の実際においては、共同研究開発契約において、役割分担、共同研究開発の成果の帰属と利用等を約定するが、共同研究開発は、研究開発戦略の複雑化、研究開発成果の非独占化・利用についての法的諸制約・事業化の複雑化・管理面の複雑化等多くの課題が存在する。日本の特許法を中心に検討する。
4-1 基本:法的根拠、原則…この欠如は知的財産契約の業務の緒に着けない。
企業経営、技術経営におけるイノベーション対応は、オリジナルイノベーションが基本である。オリジナルイノベーション、即ち、独自に、主体的にイノベーションを実施していくことが基本である中で、適宜、合理的に次のような施策を組み合わせて実施することも選択する。①戦略的アウトイノベーション、② 相互補完的クロスイノベーション、③ 知的財産ポートフォリオ的オープンイノベーション等である。
① 契約に基づく成果の帰属
共同研究開発の成果は、発明だけではなく、いわゆるノウハウ(Know-How)等重要である。また発明については、「特許を受ける権利は、移転することができる」(特許法第33条1項)。従って、共同研究開発の成果の帰属については、契約によって定めることができる。なお、特許法第33条3項は「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。」と規定している。
従って、法人間の共同研究開発契約において、両者の従業員たる研究員による研究成果が共同発明である場合、各研究者の所属会社の職務発明規程に基づく、持分の所属会社への帰属には、所属法人に原始的に帰属する職務発明規程等がある場合以外は、共同発明者の同意が必要となる。法人間の共同研究開発契約においては、職務発明規程があっても、そのことについて配慮しておく必要がある。
② 共同発明の特許出願
共同発明について特許法は、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない」と規定している(特許法第38条)。従って、共同発明の場合発明者の1人が、コストパフォ-マンス、技術革新のスピード、パテンタビリティ-等を考慮して特許出願を拒否する場合には、その共同発明は特許出願することができない。
③ 成果の自己実施
特許法は、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」と規定している(第73条2項)。この場合、「契約での別段の定め」による各自自由実施に対する制約をどのような条件の基に定めるかが極めて重要である。例えば、企業と大学、また、製品メーカーと部品・材料メーカーにおける共同研究開発契約においては、共同研究開発契約を締結する段階で各自の立場、状況を考慮して適切に対応しておくことが必要不可欠なことである。
4-2 応用:知的財産契約の方針、考え方…この欠如は、契約が組立たない。
イノベーションの効率性を考慮してオープンイノベーションを選択する。また、経済・経営のスピード、コストリスク、知的財産問題を考慮して、オープンイノベーションで補完する。しかし、例えば、共同研究開発を行う場合においても、特許出願、権利の活用等について色々の問題がある。例えば、共同研究開発の成果について特許出願するかノウハウキープにするかについては、当事者間それぞれ、技術の陳腐化速度、コストパフォマンス、特許性、知的財産戦略等を考慮して判断することになる。
① 第三者への実施許諾
共同研究開発契約当事者の共有に係る特許権については、特許法は、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、その持分を目的として質権を設定し、その特許権について専用実施権を設定し、又は通常実施権を許諾することができない」と規定している(第73条3項)。従って、例えば、当事者が共同研究開発の成果に関する事業を関係会社に託す予定があるような場合には、共有特許権に関し、関係会社に実施許諾できることを共同研究開発契約締結の段階で規定しておくことが望まれる。
<参考> 中国特許法第15条
「特許出願権又は特許権の共有者は権利の行使に関する約定がある場合、その約定に従う。約定がない場合共有者は、単独で当該特許を実施するか、または他人に当該特許の通常実施権を許諾することができる。他人に当該特許の実施権を許諾する場合、実施料を共有者に分配しなければならない。
前条に規定する場合を除き、共有の特許出願権又は特許権を行使する場合、すべての共有者の同意を得なければならない。」
② 利益配分
共有特許権に関して、当事者の一方が単独で第三者に実施権を許諾する場合、又は共有者の一方が共同研究開発の成果を実施しない場合等においては、利益配分について、各自の立場、状況を考慮して適切に対応することが重要である。
③ 産学間の共同研究開発
産学間の共同研究開発契約については、次のような諸点が指摘される。
1)産学間の共同研究開発については、お互いの立場の特性、相異を適切に認識する(Win- Win)。
知的財産契約の実務(第13回)
2)また、産学間の共同研究開発は、国レベルで技術立国を考慮する。
3)しかし、企業は産学間共同研究開発契約に対して経営判断に基づく対応が必要不可欠である。そのために成果の事業化まで考慮した事前取決めを可能な限り詳細に行う必要がある。
④ 日本再生のための産学間の連携
日本再生のためには産学間の戦略的連携が期待される。一般論として、産学連携における共同研究開発契約においては、契約締結前に研究開発の役割分担、研究開発費用の分担、研究開発成果の帰属と利用、第三者への実施許諾等について、的確に確認しておく必要がある。産学間の知的財産戦略については、大学側としては、一般的に事業化対応がないため、特許法第73条の原則に対しては、不実施補償、第三者に対する実施許諾、持ち分の第三者への譲渡等が課題である。
4-3 戦略:戦略的選択、補完…この欠如は、経営戦略として役に立たない。
企業経営の実務においては、知的財産契約に戦略的に対応して初めて実効性が期待できる。
① ライセンサーとしては、ライセンシーの改良発明のフィードバック(Feed back)、グラントバック(Grant back)によって、新たなイノベーションが期待できる。
但し、アサインバック(Assign back)については独占禁止法上問題がある。
② 知的財産(権)譲渡による対価取得し、他のテーマに関しイノベーション促進を図る。
③ 共同研究開発により新たなイノベーションを協創の形で対応する。但し、その成果の帰属と利用に関し、例えば、企業と大学、製品メーカーと部品・材料メーカー、日本企業と外国企業による共同研究開発契約の場合、法制度上、戦略上の問題が多い。
④ 自社の現状を補完し、また、知的財産ポートフォリオを考慮して、戦略的に対応する。
⑤ 自前イノベーションだけではなく、他社権利侵害回避等の戦略的コストパフォーマンスにより自社レベルを補完することを図る。
5.オープンイノベーションと知的財産契約の戦略
オープンイノベーション対応においては、知的財産、戦略的知的財産契約対応が必要不可欠である。
⑴ オープンイノベーションと知的財産契約を検討する場合のキーワード
① 時間を買う:研究開発委託、技術購入、アウトソーシング
② パートナーとの相互補完:共同研究開発、クロスライセンス、産学官連携重視の時代、特許法第73条の特約(中国特許法15条参照)
③ 知的財産ポートフォリオ:ライセンシング、改良の取扱、不争義務、競合忌避
④ ライセンシング(ライセンシングアウト、ライセンシングイン):ライセンス契約の評価
…自方、相手方、社会(独占禁止法等)
⑤ 新しい事業の創出:技術提携、ジョイントベンチャー、産学官連携、M&A
⑥ フェアユース:リバースエンジニアリング、公正競争の促進
⑦ 事業の切り出し:スピンアウト、スピンオフ、カーブアウト
⑵ オープンイノベーションと知的財産契約を検討する場合の基本的理念・戦略
① 基本的理念
1)知的財産保護制度の基本的趣旨・目的を踏まえた建て方が前提、知的財産には、公信力がなく、現実には不完全・不確定なものがある。無効審判制度、特許法第104条の3、独占禁
止法による制限、強制実施権制度、権利の制限制度等である。
2)また、知的財産は、常に絶対優位の地位が約束されているわけではない。従って、これからの時代は、クローズ、オープンイノベーションの使い分け、組合せが必要、有益な戦略となる。その場合、戦略的知的財産契約を実行して行くことが必要不可欠である。
3)要は、オープンイノベーション下において、知的財産の現実的、効率的活用を戦略的に対応することが肝要である。
② 基本的戦略
オープンイノベーションの各形態ごとの知的財産契約に戦略的に対応するための基本は、形態ごとに多種多様であるが、次のように検討することが期待される。
1)知的財産契約におけるオープンイノベーション面における法的側面から整理する。例えば、共有発明は共同出願(特許法第38条)、持分譲渡の制限(特許法第33条3項)等
2)知的財産契約条項をオープンイノベーション面から戦略的検討整理する。例えば、譲渡契約における対象権利の価値評価、共同研究開発契約における成果の帰属と利用、ライセンス契約におけるライセンサーの特許保証・ライセンシーの改良発明等の取扱い、技術標準における必須特許・FRAND・競争の促進等である。
3)各知的財産契約の内容を契約書作成における具体的課題を検討整理する。
③ 戦略的基本契約
オープンイノベーション下における知的財産戦略においては、知的財産契約が重要であり、必要不可欠である。従って、知的財産の機能を基本、応用、戦略に分けて把握し、戦略的に活用することが期待される。戦略的知的財産契約においては、知的創造サイクル、即ち、創造段階、保護・権利化段階、活用段階毎に、基本的事項、応用的事項、戦略的事項に仕分けした適切な対応が必要不可欠となる。そのためには、オープンイノベーションポリシーが必要不可欠である。
また、グローバル・ボーダレス化がますます進展する中において、オープンイノベーション対応が必要不可欠である。企業経営におけるオープンイノベーション対応においては、受益主義に加えて与益主義をも考慮する対応、即ち、自前主義、独自主義にこだわることなく、相互補完的に他との共同、協力をも考慮することであるから、いわばWin-Winが大前提である。
⑶ オープンイノベーション下における知的財産契約戦略
企業経営においてイノベーションの効率化は極めて重要な課題である。イノベーションの効率化等の観点からオープンイノベーションが選択されることが多い。オープンイノベーション対応においては、知的財産契約への戦略的対応が必要不可欠である。
オープンイノベーションの各形態ごとの知的財産契約に戦略的に対応するための基本的施策は、形態ごとに多種多様であるが、各種知的財産契約を次のように検討することが期待される。
① 知的財産契約におけるオープンイノベーション面における法的側面から整理、② 各知的財産契約条項をオープンイノベーション面から戦略的検討整理する、③ 各知的財産契約の内容を契約書作成における具体的課題を検討整理する。
イノベーションの概念・趣旨は技術革新、そのシステム、成果の活用、社会貢献効果等の創新全体である。従って、オープンイノベーション下における知的財産契約論としては、知的財産制度の基本的機能、役割、即ち、絶対的排他権、相対的排他権、行為規制保護の制度設計を総合的に把握、評価した上で、単独でのイノベーションから共同研究開発、単独活用から分身活用(ライセンシング)又は相互補完活用(クロスライセンシング)等が重要であり、知的財産各法にオープンイノベーション対応の制度が間接的に設定されており、さらに独占禁止法の運用において
知的財産契約の実務(第13回)
技術に関する知的財産権の権利の行使については、一定の条件に従ってオープンイノベーションが考慮される。
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まとめ
イノベーションの効率化のために選択的、補完的にオープンイノベーションに対応する必要性が顕著となった昨今、知的財産の重要性、特に戦略的知的財産契約の重要性が明確に認識されることとなった。このことは、知的財産を重視する経営、即ち、知的財産経営において大変貴重なことである。
オープンイノベーションは、知的財産戦略、特に、知的財産契約に戦略的に対応することにより、イノベーションの効率最大化の機能、効果を有し、発揮する。従って、昨今においては、オープンイノベーション対応における基本的考え方、特に、戦略的知的財産契約の考え方を整理しておくことが喫緊の課題となっている。なお、オープンイノベーション対応においては、① 知的財産の存在、② 人材、③ 戦略が基本的要素であり、必要不可欠である。
オープンイノベーションの基本的形態には ① アウトイノベーション、② インイノベーション、③ クロスイノベーションの3種がある。そして、オープンイノベーション対応においては、知的財産契約への戦略的対応が必要不可欠である。知的財産契約は、知的創造サイクル的に創造、権利化・保護、活用ごとに共同研究開発契約、譲渡契約、ライセンス契約等が存在する中で、その場合のキーワードとして、自前主義の補完、時間を買う、コストパフォーマンス、パートナーとの相互補完、知的財産ポートフォリオ、ライセンシング(ライセンシングアウト、ライセンシングイン)等を挙げることができる。オープンイノベーションの各形態ごとの知的財産契約に戦略的に対応するための基本的施策は、形態ごとに多種多様であるが、各種知的財産契約を
① 法的保護を限界まで求めた対応、② 契約による法的保護の補完的対応、③ 先端を走り切る対応を考慮する。即ち、イノベーションにより、先端を走り切る対応である。
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なお、本稿は、石田正泰著「技術経営(MOT)におけるオープンイノベーション論
―戦略的知的財産契約により実効性確保―」(社団法人発明協会:現一般社団法人発明推進協会発行)を参考にしている。
以 上