資料 東京都中央卸売市場ホームページhttp://www.shijou.metro.tokyo.jp/
平成 15 年度
契約取引実態調査報告書
平成16年3月
独立行政法人 農畜産業振興機構
は じ め に
本報告書は、当機構が株式会社農林中金総合研究所に委託している契約取引推進円滑化事業に係る調査(契約取引実態調査)について、前年度に課題となった事項等を調査し、その結果を取りまとめたものである。
平成 14 年度には、契約取引における野菜産地の実態及び意向、代金回収リスクへの対応や契約取引に係る業務代行への要望等を、アンケート調査及び聞き取り調査によって明らかにし、卸売市場の代金決済機能の実情について分析した上で、代金回収リスクの軽減等に関して利用可能な金融サービスの紹介と利用する条件等について検討した。
本年度は、実際にある程度の規模で契約取引を行っている産地に対象を絞って、代金回収リスク対応策の実情をより詳細に分析し、また、卸売市場についても、契約取引も含め流通形態や取引方法が多様化している実態と制度改正による影響について把握した。また代金回収リスク軽減のための体制に限界のある産地で、リスク管理業務の一部外部化が可能になる与信管理サービスの状況を明らかにした。本調査結果が、野菜の契約取引円滑化の一助に資することになれば幸いである。
調査の実施にあたっては、東京農業大学藤島廣二教授を座長とし、生産者団体、実需者および学識経験者から構成する「契約取引円滑化協議会」を設置し、ご指導いただいた。
最後に、本調査の実施にあたって協力いただいた協議会委員をはじめ関係各位に厚くお礼を申し上げる次第である。
平成16年3月
独立行政法人 農畜産業振興機構
目 次
第1部 総括報告
Ⅰ 調査の概要
1 調査の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2 調査の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
3 事務局・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
4 報告書の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
5 調査結果の要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
Ⅱ 産地における野菜契約取引と代金回収リスク管理の実情
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要
(1) 聞き取り調査のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(2) 調査先の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2 産地における契約取引の実情
(1) 産地における契約取引導入の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(2) 契約当事者間で行われる契約内容を超える微調整・・・・・・・・・・・・・7
(3) 農協、経済連・全農県本部における契約出荷と市場出荷・・・・・・・・・・8
3 契約取引における代金回収リスク管理の実情
(1) 信頼できる相手から取引先を紹介してもらう・・・・・・・・・・・・・・・8
(2) 契約書の締結・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(3) 決済サイトを短くする・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(4) 販売先の信用調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(5) 前受け金、保証金等を受ける、保証人をつける・・・・・・・・・・・・・・12
(6) 販売先を分散する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(7) 取引信用保険等の外部金融サービスの利用・・・・・・・・・・・・・・・・14
(8) 産地が代金回収リスク軽減において必要としているもの・・・・・・・・・・15
(補論)アンケート結果の再分析
~産地の契約取引への取組は、販売額規模によってどう異なるか~
(1) 再分析の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
(2) 契約取引実態アンケート調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
(3) 野菜生産法人における販売額格差の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・19
(4) 農協における野菜販売額格差の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
Ⅲ 卸売市場における流通の多様化と契約取引の現状
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要
(1) 聞き取り調査のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
(2) 調査先の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2 卸売市場における流通の多様化と契約取引
(1) 卸売業者からみた流通の多様化と契約取引・・・・・・・・・・・・・・・・28
(2) 仲卸業者からみた流通の多様化と契約取引・・・・・・・・・・・・・・・・32
3 卸売市場の代金決済機能の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
4 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
Ⅳ 与信管理サービス
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
2 産地における与信管理と外部サービスの利用・・・・・・・・・・・・・・・・・36
3 サービス内容
(1) 企業信用調査レポート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
(2) 倒産確率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
(3) 与信判断資料(格付、与信限度額、適正利益率等) ・・・・・・・・・・・39
(4) 変化情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
(5) 取引先管理ファイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
(6) ポートフォリオ分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
(7) 取引信用保険と与信管理サービス等の複合商品・・・・・・・・・・・・・・42
4 産地における与信管理サービスの利用可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・43
第 2 部 聞き取り調査結果
第 1 部 総括報告
Ⅰ 調査の概要
1 調査の目的
平成 14 年度調査では、野菜生産者、農業生産法人、農協に対して野菜の契約取引の実態についてのアンケート調査を実施し、また聞き取り調査により、生産者団体等による代金回収リスクへの対応、卸売市場の代金決済の現状と課題、代金回収リスク軽減のための金融サービスの現状について調査を行った。
平成 15 年度は 14 年度調査を受け、生産者団体等が契約取引上の代金決済のリスク軽減に適切な手段を選択できるよう、必要な情報を可能な限り収集・提供することを念頭に調査を進めた。
2 調査の方法
(1)契約取引円滑化協議会
本調査では、生産者団体、実需者及び学識経験者から構成する「契約取引円滑化協議会」を設置した。協議会委員は以下のとおりである。
<生産者団体>
加藤 文男 | 氏 | 全国農業協同組合連合会 園芸販売部 園芸流通課長 |
下山 久信 | 氏 | 山武郡市農業協同組合 直販開発部 審議役 |
<実需者> | ||
田代 佳巳 | 氏 | 株式会社 マルエツ 商品本部青果部 コントローラー |
設楽 國男 | 氏 | 株式会社 したら 代表取締役社長 |
<学識経験者> | ||
藤島 | 廣二 | 氏(座長)東京農業大学 国際食料情報学部 教授 |
藤澤 | 研二 | 氏 有限会社 藤澤流通・マーケティング研究所 代表取締役 |
草苅 | 耕造 | 氏 関東学園大学 法学部 教授 |
田中 | 久義 | 株式会社 農林中金総合研究所 常務 |
(2)聞き取り調査
① 対象
野菜生産法人( 6 社)、農協(7 組合)、経済連・全農県本部(4 連合会)、卸売業者( 8 社)、仲卸業者(1 社)、仲卸子会社(1 社)精算会社(1 社)、仲卸組合(1 組合)、信用調査会社
(2社)、与信管理サービス会社(2 社)、損害保険会社(1 社)、債権管理回収会社(1社)
② 調査項目
・産地における野菜契約取引の実情
・契約取引における代金回収リスク管理の実情
・卸売市場流通の現状と契約取引への取組み、代金決済制度の現状
・与信管理サービス
3 事務局
農林中金総合研究所が事務局として調査を実施した。
佐々木 隆 (調査第一部長) 全体総括、聞き取り調査に参加
小野澤 康晴(主任研究員) 総括報告第Ⅱ章・聞き取り調査結果執筆尾高 恵美 (研究員) 総括報告第Ⅱ章・聞き取り調査結果執筆内田 多喜生(主任研究員) 総括報告第Ⅲ章・聞き取り調査結果執筆斉藤 由理子(部長代理) 総括報告第Ⅳ章・聞き取り調査結果執筆
4 報告書の構成
第1部 総括報告
Ⅰ 調査の概要
Ⅱ 産地における野菜契約取引と代金回収リスク管理の実情
Ⅲ 卸売市場における流通の多様化と契約取引の現状
Ⅳ 与信管理サービス第2部 聞き取り調査結果
5 調査結果の要約
(1)産地における野菜契約取引と代金回収リスク管理の実情
聞き取り調査を行った野菜生産法人(野菜を生産している農業生産法人)においては、取引相手や帳合先となる市場業者等との信頼感を醸成して取引を継続する中で、業界内部情報を共有化することや、青果流通業界に精通した人材の内部育成を通じて、代金回収リスクに備えるという例があり、そのような法人では、外部情報や外部サービスへのニーズはさほど高くなかった。ただし、このような内部情報、内部人材中心のリスク管理体制のもとで、仮に大きな代金回収事故にみまわれた場合には、信用リスク管理手法の見直しが迫られ、何らかの外部の信用リスク管理サービス等を利用するようになることも十分考えられる。また家族経営の範疇に入るような野菜生産法人では、内部人材育成にも限界があ
るから、取引先を拡大していく場合には、外部信用情報等を利用する等の外部サービス必要度が高いことが考えられ、実際に、聞き取り調査した野菜生産法人でも、そのような例がみられた。外部情報やサービスをどの程度利用するかは、その法人内部における情報収集力や人的資源の蓄積度合い等によって変わってくる。
一方農協では、契約取引を行う場合も、予約相対取引や、経済連・全農県本部に決済・精算を委託することで代金回収リスクを転嫁している場合が多い。実需者と直接取引する場合には、外部信用情報を利用した上で、保証金等何らかの保全措置をとる等、リスク情報の不足を補う措置がとられていたが、あくまで個別の保全というレベルであって、独自で販売先を拡大するための一般的なリスク管理体制のようなものは、未整備のようである。
農協が直接販売を積極的に拡大しようとすれば、販売に関わる何らかの信用リスク管理体制を整えていく必要があるが、総合事業体という組織形態や一般に低い販売手数料率等により、専門的人材の育成とその十分な配置に限界がある場合も多いとみられる。そのようなケースでは、急速に拡大しつつある外部金融サービス(例えば後述の与信管理サービス等)を活用して信用リスク管理業務の一部をアウトソーシングし、ある程度の専門性を備えた内部人材による営業推進・リスク管理体制と併用することが、現実的な選択となるのではないか。
実需者への直接販売を拡大しようとしている経済連・全農県本部にとっては、自らが契約者となる取引に加え、農協主導のケースで帳合機能として精算・代金回収を受託する場合を含め、内部管理が必要な信用リスク量は急速に増大しているとみられる。債権管理規定によって個別の与信限度を設ける等、信用リスク管理の体制は既に構築されているものの、信用リスクを全て内部で抱えて代金回収事故発生に応じて負担するよりも、保険をかけて負担の平準化を図るのは合理的選択であり、そのような観点から取引信用保険の活用が既に始まっている。今後とも、直接取引への取組が高まる中では、そのような動きは広範なものになってくると考えられる。
(3)卸売市場における流通の多様化と契約取引の現状
今回の聞き取り調査からは、卸売市場法の枠内での卸売業者の買付集荷や仲卸業者の直荷引き等卸売市場流通の多様化が進んでいるものの、産地に強いニーズがある価格安定のための契約取引への取り組みは、流通の多様化の取り組みのなかで一部みられるものの、卸売業者として積極的に拡大することは現状では難しいことがうかがえた。これは、市場環境が厳しくなるなかで、事務処理コストや実需者の確保、また産地との直接契約の場合に卸売業者の価格変動リスクが大きいこと等が影響しているとみられる。
ただし流通の多様化をさらに進める方向での今回の卸売市場制度改正は、産地と卸売業者、産地と仲卸業者の契約取引を促進するものとみられ、とくに買付集荷の自由化が進めば、産地と卸売業者の間で、市場経由の契約取引への取り組みが増えることも予想される。一方、契約取引を含む取引の多様化により、従来の委託を中心とする取引に比べ卸売業者
や仲卸業者は、価格変動・売り先の確保・代金回収等のリスクを自ら抱えることになり、業者間の経営格差はさらに拡大することが予想されるため、卸売業者や仲卸業者の再編・統合が進む可能性もある。その過程では、産地が市場出荷を指向する大きな理由の一つである代金決済機能への影響や販売先の減少等も考えられ、市場流通のリスクも大きくなることが予想される。今後産地は、卸売市場制度改正等を通じ、契約取引においても、市場流通の枠内で多様なチャネルで取組めるようになるとみられるが、規制緩和とともに市場流通における代金回収のリスクも高まってくるとみられ、卸売市場においても販売先のリスク管理が重要になってこよう。
(3)販売代金回収リスク軽減サービス
産地で販売代金回収リスク軽減のために利用している外部サービスは信用調査会社の企業信用調査レポートが中心であり、取引信用保険も含め、それ以外の外部サービスの利用は低い割合にとどまっている。
一方、不況の長期化により取引先の信用リスク判断が難しくなり与信管理サービスのニーズが高まっていることなどを背景に、大手信用調査会社や、商社の与信管理ノウハウを活用した与信管理サービス会社から与信管理サービスが提供されている。与信管理サービスには、企業信用調査レポートの他、倒産確率、与信判断資料(格付、与信限度額、適正利益率等)、変化情報、取引先管理ファイル、ポートフォリオ分析の提供などがあり、現在、産地で行われている与信管理への取り組みに対応する様々な機能が提供されている。
産地において与信管理サービスを利用にあたっては、①自前の与信管理の状況が十分であるか、②サービス利用によって生じるコストが利益で賄える範囲であるか、抱えているリスクに見合うものか、自前のリスク管理コストの削減につながるかなどが判断材料となろう。また、取引高や取引先数が拡大する、取引内容が明確化する、取引による利益で保険料を賄えるなどの条件が整えば、取引信用保険やファクタリングの利用が可能であるが、それらの条件を満たすことが難しい場合には、与信管理サービスの利用も選択肢の一つとなろう。
Ⅱ 産地における野菜契約取引と代金回収リスク管理の実情
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要
(1)聞き取り調査のねらい
昨年度のアンケートによれば、契約取引に関わる代金回収リスク軽減手段としては、「信頼できる人に取引先の紹介を依頼」「売買契約書の締結」「信用調査会社の格付けを元に販売先を選定」「販売先を分散」「供託金(保証金)」等が主だったものだった(図表Ⅱ-1 )。
図表 Ⅱ-1 現在行っている代金回収リスク軽減方法
サンプル数
農協 79
引信先頼ので紹き介るを人依に頼取
21.5
を付信選け用定を調
元査に会販社売の先格
27.8
限販度売額先をご設 と定に
取引
11.4
売買契約書の締結
50.6
供託金
(
)
保証金
15.2
保証人
3.8
入払保
、
っ
険て料保 険保等証に料加を
2.5
販売先を分散
6.3
その他
12.7
特にない
21.5
野菜生産法人 101
27.7
2.9
5.0
18.8
5.0
1.0
4.0
41.6
6.9
30.7
生産者
274
30.3
3.6
6.2
9.9
2.2
0.7
6.9
12.8
2.6
49.3
資料 平成14年度に実施した「契約取引実態アンケート調査
(注)網掛けは、それぞれの主体における上位3位までにあることを示す。
今年度は、野菜の契約取引を実際に行っている野菜生産法人、農協、経済連・全農県本部を訪問し、契約取引の実情、代金回収リスクへの対応、その効果、代金回収リスク軽減サービスへのニーズ等を聞き取り調査した。
(2)調査先の概要
今回聞き取り調査を行った調査先は、野菜生産法人6社、農協7組合、経済連・全農県本部4会である(それぞれの聞き取り調査の概要は第2部「聞き取り調査結果」を参照)。野菜生産法人は販売額数千万円規模から最大で50 億円とばらつきも大きく、経営形態や業務についても、個人経営に近い法人から、何戸かの農家が集まった農事組合法人、数十戸の農家を組織する集出荷業務中心の法人等多様である。農業法人協会のホームページを参照したり、販売その他の経営手法が新聞・雑誌記事等で紹介されているような法人を中心に対象先を選定した。農協については、昨年度のアンケート結果により、野菜の販売額が大きく(50 億円以上)、契約取引(予約相対1含む)の割合が2割以上ある農協を中心に聞き取り調査の対象とし、実際に聞き取り調査した農協の野菜販売額は 30 億円~180 億円と
1 なお、この章で使っている予約相対(取引)は、産地側からみた位置付けであり、卸売市場で届け出を行っている厳密な意味での予約相対取引とは必ずしも一致しないことに留意する必要がある。
なっている。経済連・全農県本部については、野菜の産地を中心に対象を選び、野菜の販売額の規模は 500 億円弱~1000 億円を上回る額までの分布となっている。
2 産地における契約取引の実情
(1) 産地における契約取引導入の経緯
聞き取り調査を実施した野菜生産法人には、農家が最初は市場出荷をしていたが、価格が不安定な中では経営の効率化も困難であることから、安定的な価格と出荷量の確保が可能な契約取引に取り組んだ例があった。また、ある程度出荷の規模が大きくないと実需者のニーズに応じられないことから、契約取引を行っていた農家が考え方の近い農家を組織化して、集出荷の法人を設立した例もあった。また、安全・安心を重視して有機JASといった「こだわり」農産物を提供したいという考えから、収穫量が低下する分、価格で評価してもらえる販売先と直接取引を拡大してきた法人もあった。今回聞き取り調査した野菜生産法人では、安定的に農業経営を維持するためには、出荷価格や出荷量がある程度見込める契約取引が不可欠と考えている法人が多く、出荷の大半を契約出荷していた。
農協、経済連・全農県本部においては、市場での委託販売中心に販売事業を行ってきたものの、輸入野菜の増加等の影響も受けて、野菜の価格下落傾向が続く中、組合員の手取りを少しでも高めるために、産地が価格、量に対して関与できる予約相対取引に取り組んできた経緯がある。また聞き取り調査をした中には、市場出荷だけでなく、契約取引や直売所、イン・ショップ等、様々な販路を作ることによって、経営レベルの異なる様々な組合員のニーズに応えられるようにしたいという考えの農協が複数あった。それによって、従来独自に出荷していた農家が、農協を利用するきっかけにしたいとする農協もあった。
また卸売市場での価格形成が、量販店等の大口の実需者主導になっているのではないかとの生産者からの不満もあり、農産物の正当な評価を把握する意味でも、市場を通さない実需者との取引を拡大してきたとする例や、市場関係者を通さずに実需者(更に消費者)のニーズを直接把握したいという組合員の要望に応えるために、市場外での契約取引を拡大してきたという例もあった。これらは、市場機能の効率性に対する組合員の不信感を背景に市場を「中抜き」する動き、とまとめることができる。
また安全・安心への関心が高まる中で、特別栽培農産物等付加価値をつけた野菜生産を振興するために、それを評価する実需者に対して直接販売していく必要があるとする農協もあった。ただし、特別栽培農産物については、基準が厳しくなったことの影響で生産が減るのではと懸念する農協もあった。また特別栽培を行って一般に収量が減る分を、価格で評価する販売先の確保が難しいこと、トレーサビリティ確保や「顔のみえる」農産物であれば、慣行栽培であっても、安心・安全と評価されるような販売環境(消費者の嗜好)等もあり、特別栽培農産物に関しては、生産・販売の両面で、拡大が難しいとする農協、経済連・全農県本部もあった。
また、経済連・全農県本部の中には、輸入野菜の利用が増加している業務用需要で国内農産物利用を促進するために、業務用需要の多い特定品目に絞って、輸入野菜に対抗できるような戦略的な価格設定で実需者との契約をとりまとめるケースもあった。その場合、価格条件は厳しいものの、量的には確実でまとまった需要が見込めることが生産者のメリットとなる。外食・中食等による野菜の消費が拡大する中では、実需者の中でも業務用需要が増える傾向にあり、条件の合う産地をとりまとめて需給をマッチングさせていくことで、拡大する業務用需要にも対応していくという考えであった。
(2)契約当事者間で行われる契約内容を超える微調整
聞き取り調査をした野菜生産法人では契約出荷が販売額の大半を占める法人が多かったが、そのような法人では、契約出荷量を守る(欠品を出さない)ために、必要作付量の2
~3割程度多めに作付を行うことが通常であるため、余剰分を何らかのルートで販売する必要がある。
聞き取り調査した法人ではこの調整について、①余剰分は市場出荷するという法人と、
②契約取引先との交渉で当初の計画購入量よりも少しずつ多めに購入してもらう、契約関係のある量販店と交渉して一時的には価格を下げても販売量を多くしてもらう等、契約販売の範囲内で取引先に調整をお願いする(それでも調整できない分は農家が独自に市場出荷する)という例、③催事での販売やスポット販売に応じる等(特別な栽培方法のため市場出荷向きではない)で調整するといった例がみられた。中でも、②の契約取引先との交渉で販売量を微調整するという野菜生産法人では、取引先からの要望による受注量の調整にも柔軟に応じる集荷・出荷体制をつくっていて、取引先との信頼関係を強めていることが、そのような調整を可能にしているという。
契約取引のメリットは、一定の価格・数量の取引の約束を事前に確定できることであるが、それは、外部環境(需要等)の変化への微妙な対応が難しいという弱点にもなる。その調整を市場で行う(足りない分は市場で買う、余った分は市場で売る)という方法もあるものの、ある程度の価格と量を取り決めた契約当事者間で、更に出荷直前に柔軟に調整が可能ならば、双方にとってメリットとなる可能性があることを②のケースは示していると考えられる。
また信頼できる産地として契約を続けていくためには、取引先からの新たな作物の提案にも応えたり、産地側からも契約取引先に新たな作物を提案する等、既存の契約内容だけにとどまらずに、出荷物に関する実需者のニーズ変化にも柔軟に対応することが必要とする野菜生産法人もあった。実需者も、新たな作物を買うために新たな産地を見出して契約するのが良い場合と、既存契約産地に新たな作物を作付してもらうのが良い場合があろうが、信頼できる産地の発見や契約までの様々な事務コスト等を考えれば、既に取引のある産地に作付してもらうのが効率的というケースも多いと考えられる。契約という確定した取引を行いながら、その範囲を超えて、変化の激しい消費者の嗜好に柔軟に対応できるこ
とを示すことが、実需者からの信頼感を高めることにつながるという。
(3)農協、経済連・全農県本部における契約出荷と市場出荷
農協、経済連・全農県本部における契約取引の場合、特定の生産者と出荷契約を結ぶ例や契約出荷のために特別な生産部会を組織して集荷体制を整える例を除けば、多くみられるのは予約相対取引やその延長上の契約取引であり、具体的には実需者ニーズに応じて、市場出荷の慣行栽培品の中から、一定の等階級のものを一定の価格(月決め、週決め等)で一定の量販売するという取引である。その場合は生産部会や生産者のレベルまでは個別の契約出荷という意識が浸透しづらいため、特定等階級の品物を特定日に欠品なく納めることができるかという点で不確定要因が大きい。聞き取り調査の中では、天候のリスクや市況変化に伴う等階級ごとの集荷率変化も考慮すると、契約形態での出荷額は、全体の2
~3割が限界という農協が複数あった(ただし集荷率の安定・不安定には、作物による相違や栽培方法による相違もある)。
昨年度のアンケート調査でも、契約取引を行っている農協の 8 割で、販売額に占める契約取引の比率は 20%未満となっており、契約取引の割合が 80~100 %の比率が4割もある野菜生産法人と著しい対照をなしている。これは、経営条件の異なる多くの生産者を擁する農協の場合、契約取引の合意や契約意識の浸透を図るのが難しく、そのことが、契約取引の量的な拡大にとって、大きなネックになっていることを示していると考えられる。
3 契約取引における代金回収リスク管理の実情
次に聞き取り調査に基づいて、野菜生産法人、農協、経済連・全農県本部における、代金回収リスク管理の実情を、リスク管理手法ごとにとりまとめる。
(1)信頼できる相手から取引先を紹介してもらう
今回聞き取り調査をした野菜生産法人の場合、一旦契約取引を開始して、きちんとした実績(要求された質のものを欠品無く出荷する等)をあげ、その実績に基づいて取引先が新たな取引相手を紹介するような形で、取引先を拡大してきた法人の例(販売額が10 億円以上の集出荷法人)がみられた。その法人では、営業等によって無理に販売拡大をするのではなく、既存の契約を着実に履行することが「信頼できる産地」としての評判を高め、取引先を通じた新たな取引相手の紹介につながって、次第に販売金額が拡大してきたという経過をたどってきた。
そのような法人では、代金回収リスクを軽視しているわけではないものの、取引開始にあたって外部信用情報の利用もしていないし、取引相手の決算報告書等の入手もしていない。その中の一法人では、営業担当者が取引先等から青果業界の情報をこまめに収集して、懸念があったら早めに対応することが、今のところのリスク管理であるという。これらの法人においては、取引先と信頼関係を築くことによる業界内情報の共有の方が、外部情報
よりも重視されていると考えられる。そして信頼関係醸成のためには、前述のような、契約を超えた微調整にも応じる集出荷体制を整えたり、専門性の高い営業担当者(青果流通業者としてだけでなく、出荷する農家についての情報蓄積も必要とのこと)を育成して顧客担当として配置し、顧客との意思疎通を良くする、等に配慮がされていた。
ただそれらの法人では、過去に大きな代金回収事故を経験していないということであり、仮に現状の体制の中で代金回収事故があった場合には、何らかの別のリスク管理手法が必要との認識が生じる可能性もある。実際、取引金額や取引先拡大を背景に、出荷農業者の中から農事組合法人としての事業リスクにも責任を持つ会員を増やしていく必要があるのではないかと考え始めている法人もあった。
一方で、家族経営の延長という範囲の他の野菜生産法人の場合は、経営者自身は青果業界に精通していたとしても、専門的人材の育成の面では限界もあり、外部信用情報を利用することで、業界内部情報の不足を補うというケースもみられた。
(2)契約書の締結
野菜生産法人においては、大口・長期の場合はおおむね契約書を結んでいるという法人
(小口・短期等では、条件書・確認書程度)がある一方、相当数の取引先がありながらほとんど基本契約書を結んでいない法人まであり、一般的な傾向をとらえることは難しい。昨年度のアンケート調査によれば、野菜生産法人においては、「全ての取引先と契約書を締結」が14.5%、「一部の取引先と締結」が 43.6 %、「全く締結していない」が 41.8 %と法人によって状況が異なっている。聞き取り調査の結果からいえることは、野菜生産法人の場合、契約書締結に対するこだわりは小さいということである。
基本契約書をほとんど交わしていない法人で、なぜ契約書を交さないかを尋ねたところ、天候等のリスクから厳密な出荷量を確約することが難しいこと、また買い手側も、市場での価格変化の中で、必ずしも確定した価格・量を守ることが困難になる可能性もあることが、基本契約書が交わされないという慣習につながったのではないかとしていた。
ただ基本契約書を交わさなくても、口頭ないし取引条件書、商談での合意事項等についてはきちんと守ることや、当初の合意を越えた範囲での調整にも場合によっては応じることを通じて、お互いの信頼感が高まって取引継続につながり、良く知った取引先との契約取引を継続してきたことで、これまでのところ代金回収でも大きな問題は発生していないとのことだった。
つまり、仮に契約書を締結したとしても、いつまで契約関係が続くかは多くのケースで不確定であり、契約の継続には相互の信頼が条件になるが、取引の実績に基づいて相互の信頼感が高くなると、あえて成文化した契約書は必要ないということになり、結果的に契約書の無い取引先が増えるということになるようである。
ただし、この法人でも、唯一基本契約書を結んでいるのが、最近取引を開始した相手とのことであり、近年では次第に、基本契約書を交わす取引が広まりつつある可能性はある。
別の野菜生産法人では、取引先のうち生協に対しては生協様式の基本契約書があるために基本契約書を結んでいるが、仲卸業者を経由して取引先を拡大した場合には、新たに基本契約書を結ぶことはないとしていた。外食ベンダーとの契約取引も、仲卸を経由しているものに関しては、基本契約書は交さないとしていた。その結果、この法人では取引先のうち基本契約書を交しているのは1/5 程度となっている。そのような取引相手による相違や仲介業者が入るか入らないかによって、野菜生産法人における基本契約書の締結割合は異なってくることが考えられる。
また、他の野菜生産法人では、基本契約書を結ぶかどうかは別として、販売を開始する際、トラブルの原因になりそうなことについては、売り手と買い手の双方できちんと確認しておくことが、契約取引継続にとって重要であるという。具体的には、天候要因等による作物の質の悪化に対する許容範囲や、商品に問題があった場合の返品の基準やその場合の運送費用、販売代金の入金が遅れた場合の対応等ということだった。それに加えて何かあった場合には、早めに報告、連絡、相談と意思疎通を良くすることが、契約取引をスムーズに持続させるためには必要とのことであった。野菜のような農産物の場合は、工業製品と異なって厳密な規格化が困難であることはいうまでもないが、だからこそ、許容範囲についての相互理解を高めておくことや、問題があった時にはすぐに対応する(生鮮野菜の場合は特に時間の経過が品質劣化と直結することが多い)ことが、相互信頼の維持に重要であることは事実であろう。
一方農協の中には、市場を通した契約である予約相対取引では契約書を交すことは無いが、実需者と直接に販売契約を結ぶ場合には、当該農協の様式による契約書を必ず締結するというケースが複数あった。そのうち一つの農協では、市場を通さない場合でも、決済サイトの問題(農家に対しては他の市場出荷品と同様に支払うことになっている)や代金回収リスク回避のために、経済連・全農県本部を通した契約出荷が多いが、農協と実需者間の直接取引の要請があった時には、決済サイトも短めで、想定される売掛金相当の保証金を差し入れることが盛り込まれた農協様式の基本契約書を締結することを条件に取引を行うという。実需者は、経済連・全農県本部や市場経由で購入するか、保証金を差し入れて直接取引きするかを選択することになるが、取引額が大きくなれば、中間マージンを除いた直接購入のメリットも拡大するから、メリットがある場合に、直接取引を行うのだろうと農協ではみていた。
このような農協では、直接取引に関しては全ての契約先と売買基本契約書を結ぶことになる。昨年度のアンケート調査によっても、農協の場合、「全ての取引先と契約書を締結」が 30.8 %と野菜生産法人(14.5 %)の倍以上の比率になっているが、それにはこのような例が反映しているものとみられる。
経済連・全農県本部では、短期間(4か月以内)で単品の取引の場合以外は、基本的に独自様式の基本契約書を結ぶことにしているところや、先方様式の契約書で契約している生協以外は全て独自様式の基本契約書を締結しているというところがあったが、全農県本
部の場合は、全農の債権管理規定上、原則的には全ての取引先と売買基本契約書を結ぶことになっているとのことであった。
(3)決済サイトを短くする
決済サイトを短くすることが、売掛金の累積額を抑えて代金回収リスク軽減に役立つことはいうまでもない。実際、業界内部情報が不足してやや不安な取引相手に対しては、取引当初は通常サイトよりも短めのサイトで支払ってもらい、取引状況をみながらサイト条件を調整することで、代金回収リスクを軽減させている野菜生産法人があり、経済連・全農県本部でも、与信限度額管理との関連で、サイトの短縮化を要請したこともあるとしていた。
契約取引における支払サイトとしては、最も多いとみられるのが、月末締めの翌月末払いというサイトであった。一部には月末締め翌々月末払いというサイトもあるとのことだったが、サイトの長い決済が増えているという見方は無かった。仲卸等の帳合先が、サイトの短縮化機能を果たしている可能性があろう。
月末締め翌月末払いという決済サイトに関して、特に不満をもつ野菜生産法人は無かった。逆に決済サイトが短すぎると、入金のたびに為替手数料(出荷者が負担)がかかることや、請求書の発送や入金額の確認事務等の事務処理回数が増えて事務コスト増加になるとの指摘もあった。
ただし農協の場合は、市場出荷を中心にしていて契約出荷のウエイトがまだ小さいことや、市場並の早期決済が組合員との了解事項という考えが強いために、農協が直接販売する場合も、一時的に立て替えて組合員に支払うケースがあった。また、農協が独自に開拓した取引先でも、決済サイト短縮化や代金回収リスク負担転嫁のために経済連・全農県本部に決済・精算を委託するケースも多いようだった。その場合の手数料は、必ずしも一律ではなく、個別交渉であるという農協があった。
決済サイトの問題との関連では、契約取引において、入金状況を常にチェックして、期 日からの遅れがあればすぐ連絡して相手先の状況を確認することが重要との指摘があった。代金回収事故の原因になる経営破綻には、何らかの兆候がみられるもので、入金遅れもそ の一つになる場合があるから、懸念があったら早めに対応(場合によっては出荷停止等) することが重要とのことであった。
(4)販売先の信用調査
野菜生産法人の中では、代金回収事故の経験のあるB野菜生産法人では、取引開始に際して外部の信用調査情報を入手していたものの、それ以外の法人では、「取引先が大手企業のみ」「信頼できる相手から取引先を紹介してもらっている」といった理由で、信用調査情報を利用していなかった。それらの法人では、信用調査情報の存在を知らないのではなく、前述のように、より青果業界に詳しいと思われる信頼できる取引先からの情報等を重視し
ているとみられた。昨年度のアンケート調査によっても、代金回収リスク軽減方法として
「信用調査会社の格付けを基に販売先を選定」を選択しているのは野菜生産法人の1割以下と低い水準にとどまっている。
それに対して農協では、直接取引を行う場合には帝国データバンクや東京商工リサーチの信用情報を入手し、それを取引開始の判断材料の1つとしていた。昨年度のアンケート調査でも、代金回収リスク軽減方法として「信用調査会社の格付けを基に販売先を選定」を選択しているのは回答農協の3割弱と野菜生産法人に比べ高い比率であった。
ただし、近年の景気低迷長期化を受けて、取引開始時点では健全とみられた取引先が期中に破綻する例もみられ、そのような期中の変化については、財務諸表等のデータだけでは判断が難しい部分もあり、取引先等からの業界の風評情報等に注意することも重要であるという。聞き取り調査をした農協では、信用情報を利用した上で、風評情報にも気を付けていたものの、一昨年度に代金回収事故にみまわれた例もあった。
数少ない事例調査から一般化は難しいものの、農協は総合事業体であるために、販売事業担当者といっても必ずしも青果業界に精通した専門家ばかりとは限らないようである。また事例調査の限りでは、農協の販売事業手数料率は、直接販売の場合でも、集出荷業務を行う野菜生産法人の手数料率に比べて一般に低く、販売事業に多くの人員は割けないのが現状のようである。聞き取り調査をした野菜生産法人の一部にみられたような、ある程度の数の専門担当者を擁して青果の生産販売に特化し、法人によっては何十年も青果の契約販売を行ってきたというような例に比べれば、業界内情報の収集が十分ではない農協も多いのではないかと考えられる。業界内部情報の入手や分析に限界がある農協等で、外部信用情報によって足りない部分を補うのは合理的な行動といえよう。
経済連・全農県本部においては、債権管理規定上、取引先に対して基本的には外部信用情報を利用して信用度の確認をしているということだった。中には、独自の信用審査モデルで独自に格付けをしているところもあったし、卸売業者の決算書を毎年入手し、独自の手法でリスクを判断、一定の基準を下回った卸売業者に対しては、担保を徴求するようにしている経済連・全農県本部もあった。
(5)前受け金、保証金等を受ける、保証人をつける
聞き取り調査をした野菜生産法人では、保証金等を取引先から受ける例は無かった。そもそも信頼できる取引先経由で紹介された相手を中心に販売拡大する中では、保証金等はそぐわないということであった。
農協においては、前述のように、中間マージンを払って購入するか、農協に保証金を預けて直接取引するかという選択で、実需者が保証金を差し入れる場合にのみ、実需者と直接契約を行うというケースがあり、その場合には、確実に保証金や保証人の確保ができるとのことだった。しかし昨年度のアンケート調査によれば、契約取引の代金回収リスク軽減方法として保証金を得ている農協は全体の 15%程度と、野菜生産法人の5%に比べれば
相対的に高いものの、絶対水準は低い。
今回聞き取り調査を行った先のような農協は、出荷時にマーケットシェアの高い野菜を持っていたり、特色のある野菜(品種登録されているようなもの)がある等、実需者の買入れニーズが強く、「実需者が買いに来る」ために、そのような保全手段をとることが可能だと考えられるが、全国的には、そのような農協は限られるのではないだろうか。
また、こういった「実需者が買いに来る」ケースを除けば、G農協の例でみられるように、自ら販売先を拡大した場合には、保証金等の確保は難しく、別途信用リスクに対する備えが必要になる。G農協の場合は、販売代金から一定の比率で内部で積立金を積み立てて、代金回収事故に対する備えとしていた。
経済連・全農県本部では、債権管理規定によって取引先ごとの与信限度を決め、担保を必要とする場合は、保証金、定期預金証書、銀行保証、保証人保証のいずれかで保全するという会があった。取引先の経営内容や信用度合い等によって、担保が確保できる場合とできない場合があるとの会もあったが、基本的には債権管理規定に則って決裁を得るというルール化がなされていた。
(6)販売先を分散する
今回聞き取り調査を行った農協、経済連・全農県本部、野菜生産法人では、契約販売先を増やしたいという意向はほとんどの場合でうかがわれた(契約販売の条件悪化で、現状は積極的に取引先を拡大する状況にないとする野菜生産法人も1社あり)が、野菜生産法人で販売先の分散をリスク管理の一つとして意図的に進めている事例は、E野菜生産法人のみであった。
その法人における販売先分散の考え方は具体的には、一つの取引先との販売額を全体の販売額の2割以下に抑えようというものだった。その主なねらいは、①天候変動等による需給過不足の調整をしやすくすること(取引先が少数であると、過不足調整の負担が集中してしまうが、取引先が多数あると1社あたりの過不足調整負担は少なくなる)、②あまりに大口の取引先ができると、その取引先に対して対等な立場からの取引がしづらくなることの2つであり、③代金回収に失敗した時の損害を相対的に小さくできるというのは、結果的にはそういう効果もあるという位置付けだった。
契約販売を行う場合、個別の取引先に関しては契約打ち切りというリスクは常にあるから、販売先を増やすことは個別契約が打ち切られた時のショックを和らげる面からも重要であるし、量販店や業務用等、様々な取引先を持つことによって、規格外の野菜についても販売可能になることが期待できる。ただし、契約取引で販売先を増やす場合、それぞれに規格や荷姿を変える必要があり、受発注や精算事務も増え、配送手段の確保も必要で、場合によっては営業担当の職員を増やす必要が生じる等、事務負担の増加も避けられない点は留意する必要があるとのことだった。
また、経済連・全農県本部では、個別取引先ごとに与信限度を設定するため、与信限度
との関連で、取引先によっては販売額を抑えるケースもあるという。このようなケースは、販売額を拡大するためには取引先数を増やさなければならないという意味で、取引先分散につながる面がある。
しかし、取引先が拡大することは、それだけ個別取引先に対する業界内部情報入手やきめ細かなリスク管理が難しくなることを意味している。加えて、経済連・全農県本部が契約取引をとりまとめた場合の手数料率は、事例を調査した限りでは野菜生産法人の集出荷業務にかかる手数料率に比べて低く、契約取引拡大のために多くの人員を割けない現状がある。例えば、P経済連・全農県本部の直接販売専門部門は、70 億円の販売額、120 社の取引先(その全てで売掛債権が発生)を抱えるが、正職員は 13 人とのことだった。一方で
E野菜生産法人は 12 億円の販売額、約 50 社の取引先(そのうち売掛債権が発生するのは
約 30 社とのこと)だが、営業専任担当者だけで7人を擁している。経済連・全農県本部の中には、手数料率の関係で職員1人当り5億円の販売額が無いと直販事業を運営できないという見方もあったが、E野菜生産法人では営業担当者当りの販売額は 2 億円弱であり、手数料率の高さが、手厚い人員配置を可能にしている。経済連・全農県本部では、相対的には少ない人員で契約取引金額、取引先数を拡大しており、野菜生産法人に比べれば、個別取引先に対する情報入手やきめ細かなリスク管理は難しいのが現状であろう。そういった事情が後述するような取引信用保険の利用等につながっていると考えられる。
また、本稿の課題からずれるが、農協では、直接販売は拡大しようとしているが、一方で出荷する卸売市場の数は減らしつつあり、今後も更に減らす計画であるとするケースが多かった。例えば、卸売業者に対する信用リスク懸念から、一定の財務基準を設定して出荷する卸売業者を選別して管理を強化するケースや、野菜の販売額が減少傾向(価格下落が大きい)をたどる中で、より有利に販売するために出荷する市場を絞って、その市場においてある程度のシェアを確保するという考え方もあった。産地におけるこのような動きは、卸売市場改革の中で市場間競争をより激化させる要因となり、卸売業者の再編を加速させる要因になると考えられる。
(7)取引信用保険等の外部金融サービスの利用
今回聞き取り調査をした先の中では、経済連・全農県本部で2会、取引信用保険の利用がなされていた。その中の一会では、最近10 年ほど直接販売拡大方針のもとに取引先数・取引額を拡大してきたが、取引先数増加の中で万が一の備えとして2年前から取引信用保険を利用しているという。代金回収リスクは極力小さくしたいものの、取引の拡大もしなければならず、少ない人員で取引先情報入手やリスク管理を行う状況では、外部金融サービスを利用することによって、顧客ごとのきめ細かいリスク管理の一部をアウトソースするというインセンティブも大きかったと考えられる。経済連・全農県本部では、相手先別に与信限度を設定し、必要に応じて保証金・保証人等の担保措置を講ずるということになっているが、与信限度内の信用リスクは内部的に抱えているわけであり、取引先拡大の中
で、保険の利用によってリスクに対する負担を平準化するのは合理的選択といえよう。
聞き取り調査の結果では、取引先(売掛債権発生先)120 社中、全農他県本部・集配センター向け取引と、生協グループ向け取引を除いた、半分程度の取引先との取引を保険の対象としたという事例と、ほぼ全ての取引先を保険の対象としたという事例があった。
聞き取り調査によれば、従来から契約書締結や販売先の計数管理、債権管理規定の設置と運用等、与信管理のルール化、システム化ができていたこともあって、取引信用保険契約に関わる事務作業はさほど煩雑ではなかったとのことである。取引信用保険の内容は取引相手や金額変化を受けて、年1回見直されるとのことだった。
(8)産地が代金回収リスク軽減において必要としているもの
これまでみてきた通り、今回聞き取り調査を行った野菜生産法人においては、取引相手や帳合先となる市場業者等との信頼感を醸成して取引を継続する中で、業界内部情報を共有化することや、青果流通業界に精通した人材の内部育成を通じて、代金回収リスクに備えるという例があり、そのような法人では、外部情報や外部サービスへのニーズはさほど高くなかった。ただし、このような内部情報、内部人材中心のリスク管理体制のもとで、仮に大きな代金回収事故にみまわれた場合には、信用リスク管理手法の見直しが迫られ、何らかの外部の信用リスク管理サービス等を利用するようになることも十分考えられることである。
一般に、業界内部情報活用、内部人材育成によるリスク管理では、人材流出等によって、組織としてのリスク管理能力が大幅に下がる場合もあるという弱さが内包されている。そのような潜在的な脆弱さを、外部信用情報の活用や、保険等を利用したリスク負担の平準化で補完するという選択肢も考慮に値しよう。
また家族経営の範疇に入るような野菜生産法人では、内部人材育成にも限界があるから、取引先を拡大していく場合には、外部信用情報等を利用する等の外部サービスの必要度が高いことが考えられ、実際に、聞き取り調査した野菜生産法人でも、そのような例がみられた。外部情報やサービスをどの程度利用するかは、その法人内部における情報収集力や人的資源の蓄積度合い等によって変わってくることはいうまでもない。
一方農協では、契約取引を行う場合も、市場を通した契約である予約相対取引や、経済連・全農県本部に決済、精算を委託することで代金回収リスクを転嫁している。実需者と直接取引きする場合には、外部信用情報を利用した上で、保証金等何らかの保全措置をとる等、リスク情報の不足を補う措置がとられていたが、あくまで個別の保全というレベルであって、独自に販売先を拡大するための一般的なリスク管理体制のようなものは、未整備のようである。
農協が直接販売を積極的に拡大しようとすれば、販売に関わる何らかの信用リスク管理体制を整えていく必要がある。また現時点では代金決済について信頼感の高い卸売市場出荷(予約相対含む)も、規制緩和・市場間競争激化の中で、将来にわたって安定的な決済
機構として考えられるかという問題もあろう。
農協が独自の信用リスク管理体制を整えていく場合、内部に人材を育成して業界内部情報を活用するという野菜生産法人のようなリスク管理を目指すのも一つの考え方ではあるが、総合事業体という組織形態もあって、専門的人材の育成に限界がある農協も多いとみられることや、直接販売の手数料率が野菜生産法人に比べて低く、十分な人員を割けない場合もあるようである。そのようなケースでは、急速に拡大しつつある外部金融サービス
(例えば後述の与信管理サービス等)を活用して信用リスク管理業務の一部をアウトソーシングし、ある程度の専門性を備えた内部人材による営業推進・リスク管理体制と併用することが、現実的な選択となるのではないか。
外部サービスを利用するメリットは、組織内部の体制整備の水準に応じて、その時々で最も効率的な外部サービスの中から選択ができるということであり、組合せ方次第では、より低コストで、人材流出等による潜在的な脆弱性も小さい、営業推進・リスク管理体制構築も可能になる。
経済連・全農県本部は、もともと個別農協の市場販売業務を集中的に代位する機関であり、販売業務に関する専門性をもった人材の蓄積や、販売先管理においては、既に一定の実績をもっている。近年拡大してきた実需者との直接取引においても、実需者と農協・生産者を結びつける企画立案者、契約当事者としての役割だけでなく、農協が個別契約に取り組んだ場合に抱える信用リスクや精算事務の負担を代位する機能も果たしている。
実需者への直接販売を拡大しようとしている経済連・全農県本部にとっては、自らが契約者となる取引に加え、農協主導のケースで帳合機能として精算・代金回収を受託する場合を含め、内部管理が必要な信用リスク量は急速に増大しているとみられる。債権管理規定によって個別の与信限度を設ける等、信用リスク管理の体制は既に構築されているものの、信用リスクを全て抱えて代金回収事故に応じて負担するよりも、保険をかけて負担の平準化を図るのは合理的選択であり、そのような観点から取引信用保険の活用が既に始まっている現状である。今後とも、直接取引への取組が高まる中では、そのような動きは広範なものになってくると考えられる。
図表Ⅱ-2 聞き取り調査を行った産地の契約取引の事例要約
契約取引の事例 | 代金回収リスク軽減方法の事例 | 決済サイトの事例 | |
・営業担当者が取引先等から入る業界内部情報に注意して、何かあれば早期対応 | |||
野菜生産法人 | ①契約出荷の着実な実行等で取引先の信頼感を得る と、取引先を通じて新たな取引先が紹介される等で取引拡大 | ・取引開始時に外部信用調査情報を参照 ・情報不足の取引先とは当初短いサイトで決済 ・情報不足の取引先とは直接取引を避け、市場流通業者を介する | ・取引先との間では、月末締めの翌月末払いが多い ・出荷農家に対する決済サイト短期化機能は限定的 |
②契約取引の実績をもとに法人自ら新たな取引先を開拓 | ・契約書締結に関するこだわりはさほど無い ・保証金等を受入れている事例無し | ||
農協 | ①経済連・全農県本部~市場を通した予約相対取引 | ①市場を通した契約なので代金回収リスクは転嫁 | ①市場と同じ決済サイト |
②実需者側からの要望で直接販売 | ②信用調査情報でチェックし、想定売掛金にみあった保証金を受け、契約書を結ぶ事例 | ②なるべく短めのサイトで契約し、農家には市場出荷品と同様に決済している例 | |
③農協が独自に販売先をさがす | ③-(1)精算、代金回収を経済連・全農県本部に委託 | ③-(1)経済連・全農県本部がサイト短期化 | |
③-(2)経済連・全農県本部通さ ず、代金回収リスクに備えて、積立金を設置している例 | ③-(2)農協がサイトを短期化している例 | ||
①予約相対取引のとりまとめ | ①市場を通した契約なので代金回収リスクは転嫁 | ①市場と同じ決済サイト | |
経済連・全農県 本部 | ②自らが企画して取引先と契約、債権管理を行い、農協に集荷を委託する場合 | ・債権管理規定により、取引先別に与信限度を設定。必要に応じて何らかの保全措置(保証金、保証人等)をとる | ・農協に対して支払いサイト短期化機能を担っている事例も |
③農協が開拓した顧客との取引で精算、代金回収を行う場合 | ・取引先が多くなり、販売拡大の方針の場合、取引信用保険を利用しているケースもある | ・取引によっては価格変動リスクを負っている事例も |
(注)聞き取り調査による事例の紹介であって、その事例が一般的であることを示すものではないことに留意
(補論)アンケート結果の再分析
~産地の契約取引への取組は、販売額規模によってどう異なるか~
(1)再分析の目的
本年度の聞き取り調査は、契約取引を実際に行っている野菜生産法人、農協、経済連・全農県本部に対して、契約取引における代金回収リスクにどう対応しているか実情をさぐるというものだったため、ある程度の数の実需者と契約取引を行っているとみられる産地を聞き取り対象とした。
というのも、数社程度の取引先としか契約をしていないのであれば、代金回収リスクといっても個別取引先の健全性如何に帰着してしまい、リスクにどう対応しているかという視点からは、あまり重要な情報を得られないのではないかと判断したためである。結果的に、調査先は野菜生産法人では販売額が 6,000 万円~50 億円、農協の場合は野菜販売額が
30 億円~180 億円と、全体の中では大規模な野菜生産法人、農協にならざるを得なかった。仮に契約取引への取組や代金回収リスクへの対応方法について、規模の違いが大きいの であれば、よりサンプルの多いアンケートに基づいた全体的な結果と照らし合わせること
によって、聞き取り調査の結果を補正する必要があることになる。
そこでここでは、昨年度行った「契約取引実態アンケート調査」を野菜販売額の規模別に再度分析することによって、野菜生産法人、農協における、契約取引への取組や代金回収リスクへの対応が規模によってどう異なるかを確認し、聞き取り調査の結果を全体の中で位置付けることにする。
(2)契約取引実態アンケート調査の概要
昨年度行った、契約取引実態アンケート調査の概要は以下のとおりである。
調査実施時点は平成 14 年10 月で、調査対象品目は基本的に野菜、配布数は農協が 1,033部、野菜生産法人が 602 部であり、集計率は農協が 17.9%、野菜生産法人が 28.7 %となっている。
図表Ⅱ-3 アンケート調査の概要
農協 | 野菜生産法人 | |
配布方法 | 郵送 | |
回収方法 | 郵送 | |
実施時期 | 平成14年10~11月 | |
回答者 | 販売担当者 | 代表者 |
調査対象作物 | 野菜 | |
調査対象期間 | とくに断らない限り平成13年度 | |
配布数 | 1,033 | 602 |
集計数 | 185 | 173 |
集計率(%) | 17.9 | 28.7 |
(3)野菜生産法人における販売額格差の影響
a 規模別にみた契約取引の実施状況、取引先数等
まず、野菜生産法人に関して、販売額の差が、契約取引への取組や、代金回収リスク管理のありかたにどのような相違をもたらしているかをみる。
野菜生産法人を野菜販売金額 2,000 万円未満、2,000 万円~5,000 万円未満、5,000 万円以上の3つに分けると、契約取引を実施した割合は販売額規模が拡大するほど高まっている(図表Ⅱ-4)。
図表Ⅱ-4 野菜販売額別にみた契約取引への取組状況(野菜生産法人)
契約取引の実施 状況 | 契約取引実施 法人の販売先 | 販売金額に占める契約取引の割合 | |||||||||
サンプル数 | 契約取引を実施 | サンプル数 | 平均取引先数 | サンプル数 | 20%未満 | 20~ 40%未満 | 40~ 60%未満 | 60~ 80%未満 | 80~ 100% | ||
合計 | 170 | 65.9 | 99 | 8.8 | 110 | 11.8 | 14.5 | 10.9 | 20.9 | 41.8 | |
野菜の販売額 | 2,000万円未満 | 61 | 52.5 | 29 | 5.0 | 31 | 16.1 | 9.7 | 9.7 | 25.8 | 38.7 |
2,000~5,000 万円未満 | 41 | 68.3 | 26 | 6.1 | 28 | 10.7 | 21.4 | 14.3 | 25.0 | 28.6 | |
5,000万円以上 | 61 | 78.7 | 44 | 13.2 | 48 | 10.4 | 12.5 | 10.4 | 16.7 | 50.0 |
資料 「契約取引実態アンケート調査」
(注)網掛けは、合計を10ポイント以上上回ることを示す。
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
産地での聞き取り調査等から判断すれば、販売金額が小さい野菜生産法人で契約取引を実施する比率が低下するのは、ロットや安定的出荷の面から、実需者のニーズに合わないケースも相当程度あることが原因と考えられる。実際にも、ロットをまとめるために契約取引を志向する農家がまとまって法人化している例が今回聞き取り調査を行った中でも複数あった。販売額規模が小さいと平均取引先数が少ないのも、小規模生産者では多数の実需者ニーズには応えられないという点から自然な傾向といえる。
販売金額に占める契約取引の割合は、小規模な野菜生産法人でも総じて高い。これは、もともと野菜生産法人が市場外販売を志向しているケースが多いことに加え、小規模野菜生産法人といえども、一定の経営規模がある専業農家や専業農家のグループが法人を形成していれば、契約出荷に必要な量の2~3割増しで作付すれば、通常は欠品なく納めることができるという状況を反映しているとみられる。
b 契約取引の何が問題か
次いで、野菜生産法人が契約取引のどのような点が問題と考えているかを、販売規模別に分けてみる。どの販売額規模においても、「天候による供給不足」「過剰生産時の出荷先に困る」といった契約取引に伴う産地での需給調整の難しさを大きな問題としてとらえていることには変わりが無い。また「代金回収に不安」は、大規模法人で若干高いものの、
全体としては不安を感じている比率は低い(図表Ⅱ-5)。
図表Ⅱ-5 契約取引の問題点(野菜生産法人
サンプル数 | 契約取引を行う野菜生産法人の契約取引の問題点 | |||||||
天候等による供給不 足 | 過剰生産時の出荷先に困る | 市場価格と契約価格の差が 大きい | 出荷前日の数量変更への対 応が難しい | 取引の継続性 | 代金回収に不安 | |||
合計 | 100 | 60.0 | 48.0 | 24.0 | 23.0 | 21.0 | 11.0 | |
野菜の販売額 | 2,000万円未満 | 26 | 53.8 | 50.0 | 19.2 | 15.4 | 11.5 | 11.5 |
2,000~5,000万 円未満 | 28 | 57.1 | 42.9 | 28.6 | 25.0 | 21.4 | 3.6 | |
5,000万円以上 | 43 | 62.8 | 48.8 | 25.6 | 27.9 | 25.6 | 16.3 |
資料 「契約取引実態アンケート調査
(注)質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない
これは、聞き取り調査の結果から判断すると、信頼できる取引先からの紹介によって取引を拡大したり、青果業界に詳しい流通業者等から業界の内部情報等を得られるような立場にある野菜生産法人が、規模にかかわらず多いことを示しているのではないかと考えられる。
c 規模別にみた代金未回収事故の経験の有無
次いで、野菜生産法人における代金未回収事故の有無と野菜販売額の関係については、販売額が大きくなると、代金未回収事故の経験割合が高まっている(図表Ⅱ-6)。これは、販売規模が拡大すると契約取引先の数も増加する(前掲図表Ⅱ-4)ために、代金未回収事故を経験する確率が高くなることを示しているとみられる。
図表Ⅱ-6 過去5年間の契約取引における代金未回収事故の経験(野菜生産法人
サンプル数 | 過去5年間の代金未回収事故の経験 | ||||||
一度もない | ある | ||||||
1~5件 | 6~10件 | 10件以上 | |||||
合計 | 105 | 66.7 | 33.3 | 29.5 | 2.9 | 1.0 | |
野菜の販売額 | 2,000万円未満 | 30 | 80.0 | 20.0 | 13.3 | 3.3 | 3.3 |
2,000~5,000 万円未満 | 26 | 69.2 | 30.8 | 30.8 | 0.0 | 0.0 | |
5,000万円以上 | 45 | 57.8 | 42.2 | 37.8 | 4.4 | 0.0 |
資料 「契約取引実態アンケート調査
(注)質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
d 規模別にみた野菜生産法人の代金回収リスク軽減策
それでは、野菜生産法人が行っている代金回収リスク軽減策は、販売規模別にどのような違いがあるのだろうか。
(
図表Ⅱ-7 契約取引における代金回収リスク軽減策(野菜生産法人)
サンプル数 | 何 | 特に実施していない | ||||||||||
ら かの軽減策を実施 | 販 売先を分散 | の信 紹頼介でをき依る頼人 に取引 先 | 売 買契約書の締結 | を信 元用に調販査売会先社をの選格定付 け | 額販 を売設先定ご とに取引限 度 | 供 託金 保証金 | 保 証人 | そ の他 | ||||
合計 | 101 | 69.3 | 41.6 | 27.7 | 18.8 | 8.9 | 5.0 | 5.0 | 1.0 | 6.9 | 30.7 | |
野菜の販売額 | 2,000万円未満 | 27 | 48.1 | 22.2 | 14.8 | 14.8 | 3.7 | 0.0 | 3.7 | 0.0 | 7.4 | 51.9 |
2,000~5,000 万円未満 | 27 | 70.4 | 44.4 | 40.7 | 11.1 | 3.7 | 11.1 | 3.7 | 3.7 | 7.4 | 29.6 | |
5,000万円以上 | 44 | 81.8 | 54.5 | 25.0 | 25.0 | 15.9 | 4.5 | 6.8 | 0.0 | 6.8 | 18.2 |
)
資料 「契約取引実態アンケート調査」
(注)網掛けは、合計を10ポイント以上上回ることを示す。
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
野菜生産法人の代金回収リスク軽減策の規模別の相違で目立つのは、2,000 万円未満の法人では「特に実施していない」が半数を超えることである。これは取引先の数も平均 5 社と限定的で、(おそらくは)その内容も良く分かっていることから、特別な対策を講じていないのだろうと考えられる。その他には、「販売先を分散」が規模が拡大するにつれて、回答割合が高まるが、これは、販売額が小さい場合は、取引先の数を増やせないという限界があることを反映していると思われる。その他は、大規模になると信用調査会社の格付け情報の利用度が高まるという違いはあるが、格付け情報の利用度合いの絶対水準は低い。保証金や保証人に関しては、規模如何にかかわらず総じて低い(図表Ⅱ-7)。
以上をまとめれば、野菜生産法人の場合、聞き取り調査を行わなかった小規模な法人においては、契約取引を行っていない生産法人の割合が増え、契約取引を行っている場合も数少ない取引先との間での契約にとどまっているため、代金回収事故の経験も少なく、従って、代金回収リスクに対しても、特別な対策をとっていないというケースが多くなるものと想定される。
野菜生産法人においては、販売額が拡大すると契約販売の実施比率が高まって、販売先数も増えるが、信頼できる取引先を通じて販売先数が増えること自体が、販売先分散で代金回収リスクへの対応になっている。外部の信用調査情報や保証金受入れ等は、規模の大小にかかわらずさほど利用されているわけではなく、基本的に内部情報利用を中心とし、外部情報等を補完的に(ないし併用して)利用するリスク管理であるという前述の結論には、変わりはないといえる。
(4)農協における野菜販売額格差の影響
a 規模別にみた契約取引の実施状況、取引先数等
次に農協に関して、野菜販売額の差が契約取引への取組や、代金回収リスク管理のありかたにどのような相違をもたらしているかをみる。
農協を野菜の販売金額 5 億円未満、5~20 億円未満、20 億円以上の3つに分けると、契
約取引を実施した割合は 5 億円未満の農協で大きく低下している(図表Ⅱ-8)。
図表Ⅱ-8 野菜販売額別にみた契約取引への取組状況(農協
契約取引の実施状況 | 農協の販売先数 | 販売金額に占める契約取引の割合 | |||||||||
サンプル数 | 契約取 引を実施 | サンプル数 | 平均取引先数 | サン プル数 | 20%未満 | 20~ 40%未満 | 40~ 60%未満 | 60~ 80%未満 | 80~ 100% | ||
合計 | 181 | 50.3 | 86 | 9.2 | 92 | 79.3 | 14.1 | 4.3 | 0.0 | 2.2 | |
野菜の販 売額 | 5億円未満 | 75 | 26.7 | 19 | 2.3 | 19 | 78.9 | 15.8 | 0.0 | 0.0 | 5.3 |
5~20億円 | 59 | 66.1 | 36 | 5.7 | 39 | 79.5 | 10.3 | 10.3 | 0.0 | 0.0 | |
20億円以上 | 47 | 68.1 | 31 | 17.5 | 32 | 81.3 | 15.6 | 0.0 | 0.0 | 3.1 |
資料 契約取引実態アンケート調査
(注)網掛けは、合計を10ポイント以上上回ることを示す。
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
販売額の小さな農協で契約取引を実施する比率が低下するのは、野菜生産法人の場合と同様、ロットや安定的出荷の面から、実需者のニーズに合わないケースが相当程度あることが原因と考えられる。販売額 5 億円というのは、野菜生産法人の規模との比較では大規模だが、野菜の種類も多様であることや、生産を行う農家も、野菜生産法人を構成する農家に比べれば副業的な小規模農家が多いであろうから、契約に必要な安定集荷の面で、実需者ニーズに合わないことは十分考えられる。
販売額規模が小さいと平均取引先数が少ないのは、野菜生産法人の場合同様、小規模農協では多数の実需者ニーズには応えられないという点から自然な傾向といえる。
野菜生産法人と異なるのは、規模が拡大しても、「販売金額に占める契約取引の割合」がほとんど高まらないことである。本文中でも触れたが、農協の契約販売の大半は市場出荷する慣行栽培品の一部を特定顧客向けに価格、量を決めて販売するものだから、農家における契約意識の浸透度が低いとみられ、その結果、集荷に関する不確実性が高いために、契約販売の量を増やせないという限界があるとみられる。そしてその問題は、販売規模が拡大しても、ほとんど改善しないということが、アンケート結果から読み取れる。
b 契約取引の何が問題か
次いで、農協が契約取引のどのような点が問題と考えているかを、販売規模別に分けてみる。「天候による供給不足」はどの規模においても最も問題となっているが、「上位・特定等級だけを要求される」「代金回収に不安」は大規模な野菜販売農協において高まる傾向
がみられる(図表Ⅱ-9)。
図表Ⅱ-9 契約取引の問題点(農協
サンプル数 | 契約取引を行っている農協の契約取引の問題点 | ||||||
天候等による供給不足 | 上位・特定 等級だけを要求される | 代金回収に不安 | 卸売市場との関係維持 | 過剰生産時 の出荷先に困る | |||
合計 | 88 | 67.0 | 40.9 | 30.7 | 35.2 | 35.2 | |
野菜 の販売額 | 5億円未満 | 18 | 55.6 | 27.8 | 16.7 | 33.3 | 44.4 |
5~20億円 | 38 | 76.3 | 26.3 | 15.8 | 28.9 | 36.8 | |
20億円以上 | 30 | 63.3 | 63.3 | 60.0 | 43.3 | 30.3 |
資料 契約取引実態アンケート調査
(注)網掛けは、合計を10ポイント以上上回ることを示す。
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
この原因として考えられるのは、まず「上位・特定等級だけを要求される」のは一般的には量販店との取引においてであるから、野菜販売額の大きい農協になると、大規模量販店との契約販売も可能になるが、その条件を満たす集荷体制を確保することが難しいという実態を表しているのではないかと考えられる。「代金回収に不安」の比率が高まるのは、販売先数の増加の中で、個別の情報の入手が難しくなってくる等、販売先が拡大する割には、リスク管理体制が整わないということを示しているとみられる。
c 規模別にみた代金未回収事故の経験の有無
次いで、農協における代金未回収事故の有無と野菜販売額の関係については、販売額が大きくなると、代金回未収事故の経験割合が若干高まっている(図表Ⅱ-10)。これは、野菜生産法人同様、契約取引先の数が増加する中で、代金未回収事故を経験する確率が高くなることを示しているとみられる。
図表Ⅱ-10 過去5年間の契約取引における代金未回収事故の経験(農協
サンプル数 | 過去5年間の代金未回収事故の経験 | |||||
一度もない | ある 1~5件 6件以上 | |||||
合計 | 90 | 93.3 | 6.7 | 6.7 | 0.0 | |
野菜の販売額 | 5億円未満 | 20 | 100.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
5~20億円 | 38 | 94.7 | 5.3 | 5.3 | 0.0 | |
20億円以上 | 30 | 86.7 | 13.3 | 13.3 | 0.0 |
資料 契約取引実態アンケート調査
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
d 規模別にみた野菜生産法人の代金回収リスク軽減策
それでは、農協が行っている代金回収リスク軽減策は、販売規模別にどのような違いが
あるのだろうか。
(
図表Ⅱ-11 契約取引における代金回収リスク軽減策(農協
サンプル数 | 何 | 特に実施していない | ||||||||||
らかの軽減策を実施 | 売 買契約書の締結 | を信 元用に調販査売会先社をの選格定付 け | の信 紹頼介でをき依る頼人 に取引 先 | 供 託金 保証金 | 額販 を売設先定ご とに取引限 度 | 販 売先を分散 | 保 証人 | そ の他 | ||||
合計 | 79 | 78.5 | 50.6 | 27.8 | 21.5 | 15.2 | 11.4 | 6.3 | 3.8 | 12.7 | 21.5 | |
野菜の販売額 | 5億円未満 | 16 | 62.5 | 31.3 | 12.5 | 6.3 | 0.0 | 0.0 | 12.5 | 0.0 | 18.8 | 37.5 |
5~20億円 | 32 | 78.1 | 50.0 | 18.8 | 28.1 | 12.5 | 12.5 | 3.1 | 6.3 | 6.3 | 21.9 | |
20億円以上 | 29 | 86.2 | 62.1 | 44.8 | 20.7 | 27.6 | 17.2 | 6.9 | 3.4 | 17.2 | 13.8 |
)
資料 契約取引実態アンケート調査
(注)網掛けは、合計を10ポイント以上上回ることを示す。
質問ごとの回答率の相違により、販売額別サンプル数と合計サンプル数は必ずしも一致しない。
農協の代金回収リスク軽減策の規模別の相違で目立つのは、20 億円以上の野菜販売額のある農協では、「売買契約書の締結」や、「信用調査会社の格付けを元に販売先を選定」、「供託金(保証金)」の回答割合が、大幅に高まることである(図表Ⅱ-11 )。聞き取り調査の結果等から判断すると、組合員手取りの増加を目指して直接契約の取引先数を増やすと、個別先ごとのリスク管理が不十分になるために、外部の信用調査会社の情報利用率が高まることがあろう。保証金については、野菜販売額が大きな農協というのは野菜の有力な産地である場合もあろうから、本文中で述べたような「実需者が買いに来る」ケースも増えて保証金を受けられるということも考えられる。ただし、「売買契約書の締結」の回答率が
6割を上回るのに比べて、「供託金(保証金)」の回答率が3割以下にとどまっていることに示されるように、保証金を受けるという条項の入った契約書を結べるのは、そう多くないと考えられる。ましてや産地から実需者に拡販に行った場合は、通常は保証金は受けられないだろう。その結果、契約取引を行っている 20 億円以上の野菜販売額の農協の6割が
「代金回収に不安」を抱えることになる。
一方で、販売額5億円未満の農協では、取引先数も平均 2.3 社だから、おそらくは良く知った相手との取引で、リスク管理をする必要もないという状況とみられる。
以上のように、農協の場合、野菜販売額が増加するにつれて、農協自身の取組に加え、実需者側からのニーズもあって、契約取引は増える傾向にあるが、内部でのリスク管理体制や人材育成の面は取引拡大に追いつかず、外部信用情報等の利用は進むものの、それ以上のリスク管理体制は必ずしも十分にはできていないというのがアンケート結果から読み取れる状況である。聞き取り調査を行っていない小規模な農協においては、契約取引の実
施率が低下し、契約取引を行っている場合も取引先が少ないから、リスク管理についても特段の軽減策を講じていないというケースが増えることになると想定される。
聞き取り調査の対象農協では、保証金受入れを前提とした売買基本契約書を結ぶ農協があったが、アンケート結果によれば、そのような農協は(大規模農協の中でも)さほど多くない。有力な野菜産地中心に聞き取り調査を行った影響が出ていると考えられ、その点で留意が必要であろう。
Ⅲ 卸売市場における流通の多様化と契約取引の現状
本章では、卸売業者等への聞き取り調査から、卸売市場における契約取引の取り組みを市場流通の多様化の動きも含め、みていくことにしたい。これは市場流通の多様化の動きが、産地の卸売市場を利用した契約取引の動きとも密接に関連しているためである。
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要
(1)聞き取り調査のねらい
聞き取り調査におけるねらいとしては、卸売業者、仲卸業者及び仲卸子会社については、
①契約取引(予約相対取引等)への取り組み、②市場流通の多様化(買付集荷、商物分離取引等)と卸売市場制度改正の影響(手数料の弾力化、第三者販売・直荷引きの弾力化、買付集荷の自由化等(契約取引への影響を含む))、③代金決済制度の現状等を中心とし、さらに精算会社及び仲卸組合については、代金決済制度の現状とその課題を中心に聞き取り調査を行った。
(2)調査先の概要
卸売業者の調査先としては、比較的規模の大きな卸売業者(売上高規模 200 億円以上)を対象とし、地域的には、関東・東山6社、近畿2社を対象とした。またうち2社は制度上の違いを考慮し地方卸売市場の卸売業者を含めた。さらに卸売市場の代金決済に関連して、精算会社と仲卸組合各 1 社、さらに仲卸業者の業務に関連して、仲卸業者、仲卸子会
社各 1 社を聞き取り調査対象にした。聞き取り調査内容の詳細については第 2 部聞き取り調査結果を参照。
2 卸売市場における流通の多様化と契約取引
まず、各卸売業者の現在の卸売市場への基本認識について触れておくと、各卸売業者ともに、現在の卸売市場は農協合併等による産地の大型化が高値販売の圧力となる一方で、スーパー等の大型化と競争の激化に伴う安値買取への圧力も強まり、さらに輸入の増加によるデフレの進行等も加わることで利幅が縮小しているという、非常に厳しい見方が主であった。
そして、こうした厳しい環境下で、卸売市場においては、従来の委託集荷による取引(産地から委託集荷によって卸売業者が集荷し仲卸業者が買って仲卸業者が実需者へ販売)とは異なる様々な取引形態がみられている。市場流通の多様化の動きは、産地・実需者の大型化等に伴って多様化したニーズに対して、既存の市場流通では十分に対応できなくなっているため進んできたとみられ、産地と卸売市場間の契約取引についても同様の流れのなかで取り組まれるようになったとみられる。例えば図表Ⅲ-2にみられるように、今回の聞き取り調査でも、従来の産地と卸売市場間の契約取引である予約相対取引(出荷者と卸
売業者、仲卸業者(買参人)が契約を結ぶ取引、なお本来予約相対取引にすべきであるが,通常の相対取引として処理するものもあるとの卸売業者の回答もみられた)の他に、産地と卸売業者、産地と仲卸業者の間で、価格、量等を長期の契約(口頭も含む)で交わす取引きや、産地と実需者の契約取引を帳合いのみ市場経由にする取引等もみられた。
またこうした流通の多様化の動きには、現在取り組まれている卸売市場制度の改正も大きな影響があるとみられる。そこで、以下では契約取引を含む卸売市場における流通の多様化の現状をみていくとともに、それらの取り組みの卸売市場制度改正との関係についてもみていきたい。
なお第 159 回通常国会に卸売市場法改正案が提出されており、そこでは卸売業者の買付集荷、仲卸業者の直荷引きに関する規制の緩和や、電子情報処理組織を使用する取引方法等による生鮮食料品等の場外での卸売を可能にすること(商物一致規制の緩和)等が盛り込まれている。
図表Ⅲ-1
流通の多様化について(実線は通常の市場流通
商物分離(帳合いは卸・仲卸経由)
第3者販売
買付
転送・買付
直荷引き
市場外流通
仲卸業者
他市場
仲卸業者
買参人
卸売業者
実需者
産地・出荷者
委託
図表Ⅲ-2
産地側 | 相手側 | 主な取引き形態 | 契約書の有無等 | 値決め期間 |
出荷団体・農家等 | 卸売業者・仲卸業者(買参人) | 予約相対取引(買付・委託)・相対取引の一部 | 覚え書、契約書 | 週間値決め |
卸売業者のみ | 買付集荷 | 口頭、覚え書 | 週間値決め、シーズン値決め、年間値決め | |
仲卸業者のみ | 直荷引き・市場外流通 | 口頭 | シーズン値決め、年間値決め | |
実需者 | 商物分離(卸・仲卸が帳合い、買付・委託) | - | 週間値決め |
聞き取り調査でみられた産地と卸売市場間の契約取引
(1)卸売業者からみた流通の多様化と契約取引 a 卸売業者の買付集荷について
まず、卸売業者の買付集荷についてである。今回の聞き取り調査では、産地との契約取引に買付集荷で取り組んでいる卸売業者も一部にみられた。
卸売業者によれば、輸入品・加工品等については従来から買付が多かったが、近年市場全体として買付集荷のウエイトが上昇してきており、その主たる要因として、他市場からの買付・転送の増加があるということである。背景としては、多くの卸売業者が産地の大型化による出荷市場の絞り込みをあげている。農協合併等により産地の大型化が進んでいるが、大型化した産地では市場への出荷コストの低減と有利販売等を指向するために、それまでの出荷市場(指定市場)を見直し、出荷市場の数を減らす動きがある。そのため、出荷市場からはずれた市場では、他市場からの転送や買参権を持っている市場からの買付による集荷が増加することになる。さらに、情報化が進み市場間での価格差が縮小し分荷メリットが小さくなっていることがこうした動きを加速させているという指摘もあった。また産地の大型化による指値(再生産価格等)での販売要求も強まっており、そのことも買付集荷の増加(市場の値段と指値が折り合わない場合、買付集荷で対応する)につながっていると指摘する卸売業者もみられた。
受託販売手数料率7.99%
図表Ⅲ-3
卸売市場における卸売会社の委託手数料率と買付販売損益率について(青果
(%)
部卸売業者11社)
9.0
完納奨励金部分
8.0
1.01
7.0
出荷奨励金部分
1.18
6.0
5.0
4.0
5.80
完納奨励金・出荷奨励金を除いた委託手数料率部分
1.01
3.0
2.0
3.37
1.0
0.27
-
委託手数料率
買付販売損益率
当期利益/売上高合計
資料 東京都中央卸売市場ホームページhttp://www.shijou.metro.tokyo.jp/
「東京都中央卸売市場卸売業者総合財務諸表(14年度)」
(注)完納奨励金は、販売金額に応じて、委託と買付で按分した。
買付販売損益率4.38%
図表Ⅲ-3にみられるように、一般に買付集荷の利益率は、委託手数料率よりは低いとされている。今回の聞き取り調査先では、規模が比較的小さい市場で、これら買付集荷の水準が高まっていることがうかがえ、こうした動きは卸売業者間の経営格差が広がる一つ
の要因にもなっているとみられる。
卸売市場制度改正にも買付集荷の自由化が盛り込まれており、卸売市場における買付集荷が自由化されればこれまで以上に産地からの高値買付の要望が強まり、それにより買付集荷が増えれば卸売業者の利益率が落ち込むため、体力のない卸売業者には大きな影響が生じるという意見があった。その一方、買付集荷の自由化により、体力のある卸売業者は産地との契約取引を積極的に拡大するだろうし当社も取り組みを考えなければいけないとする意見もあった。
このように買付集荷の自由化は、卸売業者の集荷競争を激しくさせ、結果として業者間の経営格差を生じさせる可能性が高いが、その一方で、卸売業者の集荷競争のなかで、産地と卸売業者の間で長期の値決めを行う契約取引が拡大していくことも考えられる。
b 商物分離取引について
次に商物分離取引についてであるが、ここでは、産地と実需者が契約取引等直接取引を行う際に、卸売市場の代金決済機能や出荷奨励金の受け取り等を目的として、商流のみ卸売業者、仲卸業者を通す取引である。
規模としては小さいものの、いくつかの卸売業者で取り組みの事例がみられ、例えば、買付集荷の形をとり、利益率は市場の委託手数料率8.5 %よりは小さい 4.5~5%程度で取引を行うケースがあるということである。こういったケースの場合、産地としては、卸売市場の代金決済機能を利用するために、4.5~5%を負担することになり、いわば機能別手数料の一つとみることもできよう。このように、流通機能に応じて、手数料率を実質的に変動させる動きは、かなり広がっているようである。
なお機能別手数料については、分荷、帳合いのみの手数料率なら可能とする意見もある一方で、機能別に手数料を取るには卸売業者が会計の仕組みをそれにあった形(契約取引なら契約期間の帳合い等のコスト把握が必要)に整備する必要があるが、現状ではそういう仕組みになっていないとの意見や、仲卸業者の目利きや代払制度が一体となって卸売市場を形成しており、機能別に分解するのは難しいのではないかとの意見もあった。
商物一致規制の緩和も制度改正に盛り込まれており、産地と実需者との間の契約取引についても、こうした商流のみ卸売市場を経由する形の取引が増加することも考えられる。ただし市場を経由する理由の一つである卸売市場の代金決済の確実性は、後にみるように仲卸業者の経営が厳しくなるなかで、将来に渡って維持されるかどうかについては、不透明な情勢になりつつあることに留意する必要があろう。
c 卸売業者の第三者販売について
次に、卸売業者が場外の実需者に直接売る第三者販売についてである。第三者販売については代金回収リスクが大きいため取り組みに慎重な姿勢の卸売業者が多かったが、いくつかの卸売業者では物が売れない状況であり、売り先の確保も重要なので、市場外に売る
ケースは増加しているとの回答があった。ただし取り組みのある卸売業者は、いずれもリスクは高いので十分な与信管理が必要とし、信用調査や保証金の確保、保証限度額の設定等により、代金回収リスクの低減を図っていた。また第三者販売の弾力化についても制度改正に盛り込まれており、卸売業者のみが仲介する形での産地と実需者間の取引きが拡大し、その中での契約取引への取り組みが増加していくことも予想される。ただし第三者販売の増加は卸売業者の経営リスクを高めるとともに、場内の仲卸業者の取扱高縮小により、仲卸業者に支払う完納奨励金が減少することから、代払制度への影響も考えられる。
なお聞き取り調査のなかの産地地方卸売市場では、元々仲卸業者がいない状況で、県外スーパー等への販売を積極的に行って取扱高を伸ばしている卸売業者がみられた。卸売業者が仲卸機能を備えているわけであるが、代金回収リスクは卸売業者が負うので、信用調査や保証限度額の設定等取引先の管理には、非常に大きな注意が払われていた。
d その他の多様化の動きについて
従来からの延長線上ではなく、産地に対するアピールも含め、新たな取り組みに卸売業者が乗り出す事例もあり、例えば卸売業者がEコマースの会社と分荷、納品、保管業務について提携したケースや、産地と卸売業者がインターネットで予約相対、契約取引などの商談ができるシステムを、卸売業者数社が共同で開発し実際に産地7県との間で実験段階に入っているケースもみられた。後者については、商物一致規制の緩和が進めば、産地と卸売業者の契約取引の促進をもたらすものになるとみられる。
e 卸売業者の取り組む契約取引について
以上のように卸売業者における市場流通の多様化の動きは、産地・実需者ニーズを受け、拡大してきているが、その一方で、産地ニーズの高い価格安定のための契約取引については、現状では取り組みを積極的に進めるという状況にはないようである。
(a)予約相対取引について
卸売市場において、数量、価格を決めて取引を行う契約取引としては、制度上予約相対取引があるが、同取引きについては、各市場とも予約相対取引は縮小傾向にあるという回答が多く、またほとんどないとする卸売業者も複数あった(なお、予約相対取引の形式は取っていないが、産地、実需者が決まっている取引のウエイトは依然より増加しているとする卸売業者もあった)。
背景としては、いずれの市場でも手続き上の許可・承認申請の事務処理が煩雑であることが挙げられ、その他にも、価格の値下がり傾向が続き量販店等が価格リスク(市場のセリ価格との乖離)を負わなくなっていること、市場の開設時間が 24 時間となったこと(量販店等の実需者側が予約を組まなくても荷を確保できる)、天候変動リスクへの産地対応が困難等があげられている。
産地の安定価格での取引の要求は強いものの、予約相対取引での対応は難しいというの
が各卸売業者の現状とみられる。
なお予約相対取引に取り組んでいる事例のなかには、昨年度契約野菜供給安定制度の対象になっていたある全農県本部と漬物加工業者との間のきゅうりの予約相対取引があった。これは韓国産きゅうりを利用していた漬物加工業者が、原産地表示の問題もありできるだけ国産を使いたいということで、契約取引に協力してくれる産地を探していたところ、その全農県本部が引き受けたものである。販売価格を一定にすることは、スーパー等では他社との競争があるため難しかったが、この取り組みの場合、実需者が漬物加工業者であり、加工業者は売値が一定のため取り組みが進んだということである。
(b)卸売業者と産地の契約取引について
上記の予約相対取引とは別に、卸売業者と産地との間での契約取引に取り組む事例もいくつかみられた。
その一つは、卸売業者と産地の間での集荷促進を図るための契約取引で、シーズン前に卸売業者が産地と価格及び量を決めて長期契約(口頭の場合も)を結ぶケースである。ただし、これらの取引については、価格変動リスクを卸売業者が負うことになる。そのため産地との間で年間値決め、シーズン値決め等前もって価格を決める契約的な取引は増えているという卸売業者がある一方で、量的にわずかなため取り組んでいるが多くなれば難しいという意見や、既に社内で縮小の方向で見直しを行っているという卸売業者もあり、対応はまちまちであった。全体的には、産地の価格安定ニーズは強いものの、産地と卸売業者との間で長期の契約取引を結ぶことには、価格変動リスクが大きいとみる卸売業者が多いようである。
なお産地の価格安定ニーズに答えるのではなく、新たな商品の産地化を図るための契約取引の事例もみられた。地方卸売市場の卸売業者が、パプリカの契約取引に取り組んだケースであり、輸入品に対抗するために卸売業者が産地に栽培を働きかけ、卸売業者が買取り価格を決め県連・農協との間で覚え書を結んだものである。国産品としての評価も高まり、取り組みは順調に進んでいる。卸売業者によれば、産地に価格を提示し特定品目を栽培してもらう取引は、口頭による取引も含め増えている。こうした取引は、卸売業者がリスクを負うものの、オリジナル商品があればスーパー等に対しセールスしやすく、それを目玉にして他の品目の取引を広げることができるという営業面でのメリットが大きいようである。
(c)卸売業者の契約取引の評価と今後の取り組み意向等について
今回の聞き取り調査では、卸売業者が関わる契約取引については、現状では、①卸売市場を経由する正式な予約相対取引は事務手続きが煩雑、②実需者であるスーパー等量販店では販売価格が常に変動するため契約による価格の固定が困難、③産地と卸売業者が契約取引を行うと卸売業者が負う価格変動リスクが大きい、④産地と実需者を結ぶ契約取引に
卸売業者が取り組むと仲卸業者との競合となる、等の理由で、取り組みは難しいという意見が多かった。
その一方で今後の取り組みについては、①産地・実需者とも取引コスト削減のため安定的な取引を望む傾向にあり、そうした要望に答えるため、卸売業者が仲卸業者とスーパー、加工業者等に働きかけ短期的な取引を長期的な取引に切り替え、契約的な取引に取り組む、との意見や、②卸売市場制度改正で今後買付集荷が容易になるならば契約取引にも取り組んでいく必要がある、という意見もみられた。卸売業者としては、事務処理コストや実需者の確保、さらに自ら価格変動リスクを抱えること等を考えると契約取引への取り組みを積極的に行うことは現状では難しいものの、産地の価格安定ニーズは高く、今後の業務展開を考える上で、契約取引の取り組みは必要であるとの認識であろう。
(2)仲卸業者からみた流通の多様化と契約取引 a 仲卸業者の直荷引きについて
仲卸業者における市場流通の多様化の動きとしては、卸売業者の買付集荷とも関連する動きであるが、仲卸業者が品揃えのため他市場等からの直荷引きを行うケースがある。
卸売業者への聞き取り調査においては、上記のように産地による指定市場の絞込みの動きもあり、ほとんどの市場でこの動きは以前よりも強まっているとの回答だった。最も典型的なのが、仲卸業者が入場している市場が指定市場になっていない場合、仲卸業者が指定のある他市場の卸売業者・仲卸業者から仕入れるケースである。
またスーパー等の大型化と仲卸業者の系列化が進む中で、仲卸業者がセンター・店舗納入等を任される場合に、その市場だけでは対応が難しく、他市場からの仕入れ、さらには産地を仲卸業者自らが開拓することで対応していくケースもある。とくに経営体力のある大手の仲卸業者のなかで、そうした産地開拓を進める動きがあるということである。制度改正にも、仲卸業者の直荷引きの弾力化が盛り込まれており、こうした傾向はさらに強まることが予想される。そして仲卸業者がこうした独自の仕入れルートを開拓する動きが強まれば、産地と仲卸業者の契約取引も拡大する可能性がある。
その一方、卸売業者にとっては、こうした動きが強まれば委託手数料が得られず経営面ではマイナスであり、また場外での取引きで回収事故等が生じれば、間接的に卸売市場の代金決済機能への影響が考えられる。さらに市場外からの仕入れが増えることにより、卸売業者にとって、仲卸業者の経営内容の把握が難しくなるという影響もでてこよう。
b 市場外での仲卸業者・仲卸子会社の産地との契約取引について
今回の聞き取り調査では、仲卸業者が農家と口頭による契約を行い、年間値決めで外食産業等に場外で業務用野菜を納入し、またその子会社であるカット野菜生産会社に対しても、契約農家からの野菜を納入している事例があった。これらの取り組みでは、スーパー等との取り組みでは取引価格を一定に設定することが難しいが、外食産業、加工業者等業務用への納入では販売価
格が決まっているので、契約取引が成立しやすいという見方であった。
なおこのように仲卸業者が場外で仕入れを行い、直接市場関係者以外の者に売ることになれば、市場流通における既存の代金決済の仕組みにはのらず、その場合出荷者にとって、市場関係者との取引ではあるが、代金回収リスクは、通常の市場外出荷と変わらないことになる。
以上のように、卸売市場においても、産地及び実需者サイドのニーズにこたえるかたちで従来の委託による市場流通とは異なる様々な取引形態が、卸売業者、仲卸業者ともに見られるが、聞き取り調査からは、卸売業者における契約取引への取り組みは、産地サイドの要望はあるものの、事務処理の問題や実需者の確保に加え、販売環境が厳しいなかで価格変動リスクを卸売業者が取ることは難しく、十分な取り組みに至っていないようである。しかしながら今後については、卸売業者のなかにも買付集荷の自由化を受け契約取引に取組むという意見がみられ、制度改正等を受けた形で流通の多様化の動きに積極的に対応した事業展開を図る卸売業者と仲卸業者も多いとみられる。そのため産地側からみると、卸売市場を通じた価格安定のための契約取引の拡大等産地ニーズに応えるかたちでの取引が多くなり、これまで以上に卸売市場の利用価値が高まる可能性もある。
ただし、こういった多様化の方向は、卸売業者と仲卸業者の経営リスクを高めるものであり、卸売業者間、仲卸業者間の経営格差の拡大にもつながる。そしてそのことは、同質の市場参加者を前提にした代金決済制度の維持も難しくする可能性もある。
以下にみるように、既に現在の卸売市場の代金決済制度についても、そうした経営格差の拡大による影響がみられている。
3 卸売市場の代金決済機能の現状
産地が卸売市場の機能のなかで最も重要と考えている代金決済機能の現状及びその評価について、卸売業者等に対して聞き取り調査を行ったが、まず代払制度の評価については、代払制度のある市場ではいずれの卸売業者も高く評価しており、産地からの集荷の上でも、非常に重要な役割を担っているという認識であった。代金決済が産地に対して3~4 日目に行われるのも代払制度があり、卸売業者への入金が早期に確実に行われることによるもので、市場への産地の信頼の源泉になっているということである(そのため、制度改正に手数料の弾力化の方向がみられているが、卸売市場における代金決済制度維持のためにも、完納奨励金については残すべきとの意見がほとんどであった)。
一方で代払制度を支える仲卸業者については、収支の悪化と業者間の経営格差の拡大やスーパー等の仲卸業者への支払いサイト長期化による運転資金確保の問題、経営状況が悪化しても合併がなかなか進まない等多くの問題があり、さらにその将来についても、高齢化が進んでおり廃業の増加等で減少が避けられないとする卸売業者が多かった。
そして、このような仲卸業者の経営状況の悪化を受け、卸売業者への支払い条件の見直
しを仲卸組合が行う動きもみられた。これらは、仲卸組合からの働きかけによるものとみられるが、卸売業者としても、仲卸組合が行っている卸売業者への支払い代金の保証を維持するために、そうした変更に応じる場合があり、例えば、今回の聞き取り調査でも、仲卸組合による卸売業者への代払い保証額に上限を設けたケースがみられた。
このように市場環境が厳しくなるなかで仲卸業者の経営が悪化していけば、仲卸組合等において、卸売業者への支払い条件の変更等をせざるをえないケースが増えると予想され、そうした動きが広がっていけば、従来のような卸売市場の代金決済制度に対する信頼性に影響を与える可能性もある。
なお卸売市場の代金決済システムとして、組合代払方式と並んで、精算会社方式があり、前年度調査では代払組合のみを調査対象としたため、今回の聞き取り調査では精算会社にも調査を行った。聞き取り調査によれば、精算会社方式でも個々の仲卸業者、青果商が支払いできない場合は、仲卸組合・青果商組合が保証による代位弁済を行うことになっており、代金回収リスクは、仲卸組合・青果商組合も分担している。これは他の精算会社の多くも同様で、仲卸業者、青果商の経営状況が悪くなれば、精算会社の代金決済機能の維持に問題が生じる可能性があるということである。
このように今回の聞き取り調査からは、卸売市場の代金決済制度については、市場環境の厳しさにより、仲卸業者の経営が全般に厳しくなるなかで、その経営格差も拡大しており、市場参加者が連帯して代金決済の安全性・確実性を支える仕組みの維持が難しくなりつつあることが示唆されている。
4 まとめ
今回の聞き取り調査からは、卸売市場法の枠内での卸売業者の買付集荷や仲卸業者の直荷引き等卸売市場流通の多様化が進んでいるものの、産地に強いニーズがある価格安定のための契約取引への取り組みは、流通の多様化の取り組みのなかで一部みられるものの、卸売業者として積極的に拡大することは現状では難しいことがうかがえた。これは、市場環境が厳しくなるなかで、事務処理コストや実需者の確保、また産地との直接契約の場合に卸売業者が価格変動リスクが大きいこと等が影響しているとみられる。
ただし、流通の多様化をさらに進める方向での今回の卸売市場制度改正は、産地と卸売業者、産地と仲卸業者の契約取引を促進するものであり、産地にとっては、より多様な卸売市場の活用方法が生まれることも考えられる。とくに卸売業者のなかには、買付集荷の自由化が進めば、産地との契約取引に取り組んでいかなければならないという意見もあり、産地と卸売業者の間で、市場経由の契約取引への取り組みが増えることが予想される。
しかし、契約取引を含む取引の多様化は、卸売業者や仲卸業者にとっては、従来の委託を中心とする取引に比べ、価格変動・売り先の確保・代金回収等のリスクを自ら抱えることになり、より一層経営能力が問われることになる。そのため、既に相当程度進んでいる業者間の経営格差はさらに拡大することが予想され、卸売業者や仲卸業者の再編・統合が
進む可能性もある。そしてその過程では、産地が市場出荷を指向する大きな理由の一つである代金決済機能についても、今回の聞き取り調査でみられたように、従来のような確実性・安全性の維持が徐々に難しくなる可能性もある。また競争に伴って卸売業者、仲卸業者の統合や再編が進めば販売先の減少も予想されるため(さらに競争力のある市場が産地を選別することも考えられる)、その場合市場外での販路の確保も重要になってこよう。
卸売市場制度改正を通じ、産地は、契約取引においても、市場流通の枠内で多様なチャネルで取組めるようになるとみられるが、規制緩和とともに市場流通における代金回収のリスクも高まってくるとみられ、卸売市場においても販売先のリスク管理が重要になってこよう。
Ⅳ 与信管理サービス
1 聞き取り調査のねらいと調査先の概要
14 年度調査においては、販売代金回収リスク軽減のための金融サービスとして主に取引信用保険、ファクタリング、電子商取引向け決済与信サービスについて調査を実施したが、アンケート結果では産地で利用している外部サービスは企業信用調査レポートの利用が中心であった。そこで、15 年度は企業信用調査レポートを含む与信管理サービスについて調査を実施した。
聞き取り調査先は、大手信用調査会社 2 社、与信管理サービス会社 2 社、与信管理サー
ビスと取引信用保険を複合的に提供している損害保険会社1社と債権管理回収会社 1 社である。
2 産地における与信管理と外部サービスの利用
第2章のとおり、聞き取り調査及びアンケート調査(14 年度実施)によれば、農業者、農協、経済連・全農県本部などの産地においては、契約取引にかかる販売代金回収リスクを軽減するための様々な取り組みが行われている。信頼できる相手から取引先を紹介してもらう、契約書の締結、決済サイトを短くする、販売先の信用調査、前受け金や保証金等を受ける、保証人をつける、販売先を分散する、取引信用保険等の外部金融サービスの利用等である。
このなかには、販売代金回収リスク軽減のために外部サービスを利用する事例も含まれていた。産地、特に農協、経済連・全農県本部で比較的多く利用されている外部サービスは前述のとおり信用調査会社の企業信用調査レポートであり、それ以外の外部サービスの利用は取引信用保険も含め低い割合にとどまっている。また、企業信用調査レポートの利用方法については、聞き取り調査によれば、契約取引の開始時に取引の可否を判断するための参考資料の一つとして利用するケースが大半であり、アンケート調査では、回答した農協の約 3 割が「信用調査会社の格付を基に販売先を選定」を選択していた。
一方、販売代金回収リスク軽減のためにどのような外部サービスが利用できるかというと、14 年度調査で中心的に調査した取引信用保険、ファクタリング、電子商取引向け決済与信サービスのほか、従来企業内部で行われてきた与信管理について、企業信用調査レポートを含めて様々な与信管理サービスが提供されている。
大手の信用調査会社からは企業信用調査レポートだけでなく、倒産確率予測など新規のサービスが提供されるようになっている。また商社の与信管理ノウハウを利用して、従来企業内で行ってきた与信管理業務をサービスとして提供するというビジネスモデルの与信管理サービス会社が相次いで設立された。
与信管理サービスには、企業情報、企業格付、倒産確率、適正与信限度額、適正利益率、信用変化情報などの提供や、取引先情報の一括管理などがあり、インターネットを媒体と
して提供されるものが中心となっている。
こうした与信管理サービスは、取引信用保険やファクタリングでも、例えば利用者に取引先ごとの保証引受けの可否や保証限度額が示されることにより、付随的に提供されるサービスでもある。加えて最近では、損害保険会社によって取引信用保険と取引先信用情報を組み合わせたサービスや、債権管理回収会社から取引先信用情報と取引信用保険、債権管理回収サービスが総合的に提供されるなど、与信管理サービスが別途料金を設定され、取引信用保険とともに複合的に提供される事例もみられる。
このように各社から与信管理サービスが提供されるようになった背景には、まず不況の長期化によって取引先の信用リスクの把握が難しくなっていることや経費削減のなかで審査体制の効率化が求められていることなどから、企業側において与信管理サービス利用のニーズが高まっていることがあげられよう。そうしたニーズの拡大に、商社が自社業務で培ってきた与信管理ノウハウをサービスとして提供する動きが対応したといえよう。また、信用調査会社は、企業信用調査レポートの作成により蓄積した企業情報データを与信管理サービス会社のインフラとして提供するともに、利用者に対しては企業信用調査レポートという素材の提供だけでなく、その企業データを加工したサービスも提供するようになっている。これらの与信管理サービスはインターネットを中心に提供されており、IT技術の発展もこうした与信管理サービスが比較的提供されやすく、また利用しやすくなっている要因の一つであろう。
3 サービス内容
(1)企業信用調査レポート
企業信用調査レポートは、調査担当者が当該企業の現地調査、登記の確認、取引先からの情報入手等の現地確認に基づき作成している。
大手信用調査会社A社、B社には上場企業から個人企業までを対象として約 160 万から
170 万社の企業情報(詳細なレポートだけでなく企業概要などの簡易情報を含む)が蓄積されているが(聞き取り調査によれば両社で重複していない企業が数十万社)、総務省「事業所・企業統計調査」によれば 13 年の会社企業数は 161 万 8 千社であり、国税庁「税務統計
からみた法人企業の実態」によれば 13 年 1 月~14 年 1 月に税務申告書が提出された法人
企業は 254 万 9 千社であるので、これらの企業情報は日本の法人、会社のかなりの部分をカバーしているといえよう。また、企業信用調査レポートには企業の総合的信用度を表す企業評価が点数化されて掲載されており、これが産地で取引開始の可否を検討する際の参考とされることもある。
企業信用調査レポートは郵送、FAXでも入手可能であるが、インターネットでの利用が拡大している。詳細なレポートだけでなく、企業概要や業績など報告書の一部のみを利用することも可能である。
<A社>
① 調査レポートの内容
企業概要、登記事項、設備概要、代表者、沿革、業績、営業状態、金融状況、現況と見通し、財務諸表などに関する全 80 数項目からなる。
② 企業数
全体で 170 万社の企業情報を蓄積。うち調査レポートとして 123 万社がデータベース化されている。
③ 評価
報告書には、企業の総合的な信用度(企業の格)を表す「評価」が付されている。「評価」は①業暦(5 点満点)、②資本構成(12 点)、③規模(19 点)、④損益(10 点)、⑤資金現況
(20 点)、⑥経営者(15 点)、⑦企業活力(19 点)⑧加点(+1~+5)、⑨減点(-1~-5)の計 100 点満点。
④ 種類
詳細な調査報告書のほか、企業概要や業績など調査報告書の一部分も提供。
⑤ 提供媒体
郵送、FAX、インターネット等
<B社>
① 調査報告書の内容
企業情報(概要及び企業診断、所見)、経営者・役員・株主、事業目的・設備労務状況、取扱品・取引先・決済条件、資金・営業現況・企業特性、借入金月商対比、不動産明細表、路線価格、財務諸表/財務分析/決算書3期等。
② 企業数
全体で 160 万社の報告書を蓄積。
③ 企業診断(評点)
報告書には企業診断(評点)が付されている。「評点」は①経営者能力(20 点満点、以下
同様)、②成長性(25 点)、③安定性(45 点)、④公開性・総合世評(10 点)の 4 項目で計
100 点満点。
④ 種類
詳細な調査報告書の他、インターネットで提供する 1 ページの簡易レポート、顧客のニーズに応じて必要な部分を抜き出しカスタマイズしたレポートも提供。
⑤ 提供媒体
郵送、FAX、インターネット等
(2)倒産確率
信用調査会社が、企業の倒産する確率を自社の企業情報を利用し統計的手法を用いて算出している。企業評価(企業診断)が一般的な信用度を示すものであるのに対して、倒産確率
は倒産だけに絞った指標である。また、与信管理サービス会社においても、格付ごとの倒産確率を算出している。
<A社>
① 手法
1年以内に企業が倒産する確率の予測値をロジスティック回帰モデルの手法を用い、個別企業ごとに算出。定性情報(企業信用調査の評点と社内信用情報)のみによるモデルと定性情報と定量情報(決算書等財務データ)を融合させたモデルの2種類がある。
② 倒産確率の表示
モデル構築時の倒産発生率を基準として、算出された倒産予測値がその基準の何倍かにより 10 段階で表示。
<B 社>
① 手法
1 年以内に企業が倒産する確率をロジスティック回帰モデルの手法を用い、個別企業ごとに算出。変数は企業情報(業種、業暦、従業員数、代表者の在任暦、地域、法人格、取引銀行など)と財務情報(自己資本比率、純利益、当座比率、流動比率、決算期、負債、売上高など)及び当社への情報照会回数。分析モデルは従業員規模で 2 種類、財務データの
有無で 2 種類、計4種類からなる。
② 倒産確率の表示
1(最も高いリスク)~100(最も低いリスク)の 100 段階で表示される。1~5の 5 段
階、1001 から1700 の 700 段階も特注品として提供。
(3)与信判断資料(格付、与信限度額、適正利益率等)
与信管理サービス会社は、企業信用調査会社の企業データベースを利用し、また商社の与信管理ノウハウを活用し、①取引先企業の格付、②適正与信限度額、③適正利益率を算出し、与信判断資料として提供している。
<C社>
① 格付
企業信用調査会社が提供する企業データベースを独自のスコアリングモデルによってA
~Fの 6 段階に「格付」。(格付不能先をGと分類)
与信先企業自体の信用度分析、過去の倒産先内容と比較、与信先企業のタイムリーな信用情報分析などにより、総合的に格付判定する
② 適正与信限度額
以下の3つのうち最小値を「与信限度額」として提供
・顧客の財務体力(自己資本等)に応じた格付ごとの「基本許容金額」
・売り先の仕入債務のシェアを考慮した「売込限度額」:シェア3割が上限
・顧客の決裁権限に応じた「決裁限度金額」:例 本店部長決裁限度額、支店限度額等。
③ 目標粗利益率
販売管理費・資金調達コストをカバーする売買利益率に対象与信先の倒産リスクもカバーした目標粗利益率を提示。
<D社>
① 格付 D社の主要株主である商社の与信判断ロジックと信用調査会社の企業情報により取引先
企業をS1(超優良)~S9(問題)の 9 段階に「格付」。
② 適正与信金額
顧客の収益力、財務体力、売上債権金額、債権の回転率、取引先審査方針などを勘案して顧客専用の「与信判断基準」を作成。格付と与信判断基準を用いて、顧客の取引先企業ごとに「適正与信金額」を算出する。
③ 適正利益率
格付に応じた倒産確率から算出される予想損失金額に販売管理費等を加え、適正利益率を提示。
(4)変化情報
大手企業信用調査会社や与信管理サービス会社では、あらかじめ登録した取引先企業の信用情報等に変化があった場合に、顧客に電子メールやインターネット画面等でそのつど通知するサービスを実施している。
<A社>
指定した企業について、企業概要(申込み時に提供:以下同様)、詳細な調査報告書(年 2 回)、調査報告書変動情報(登録企業の調査により内容が変更した都度)、経営環境情報(入手次第)・与信管理上重要な情報(入手次第)を提供するサービスを提供。
<B社>
① 指定した企業について、半年又は四半期に1回等の頻度で役員や社長交代、不良債権の発生などの変化を報告するサービスを提供。
② 指定した企業について、毎日リスク状況の変化について報告するサービスを提供。
<C社>
指定した企業について、信用情報の変化や登録データに変更があった場合電子メールで通知する。取引先管理ファイルのサービスの 1 つである。
<D社>
指定した企業について、顧客は信用情報の検索を日次で行うことができるとともに、信用状況に変動があった場合に Web 画面及び電子メールで通知する。取引先管理ファイルにも表示される。
(5)取引先管理ファイル
与信管理サービス会社では、顧客が取引先に関する各種情報を一元的かつ動態的(自動的にデータ更新するという意味で)に管理することを可能とするために、Web上に取引先管理ファイルを提供している。
<C社>
取引先一括動態管理のために、格付変動時のアラーム機能、取引先企業全体のリスク構成(格付分類ごとの希望取引限度額とそれに見合ったリスク(必要自己資本の目安))と、格付変遷確認をWeb画面上の取引先ファイルで提供。
<D社>
取引先毎に適正与信金額、信用格付、倒産確率、与信フォローアップ、企業情報、財務情報を一括してWeb画面上の取引先ファイルに保管し、一元管理するもの。全取引先の取引先ファイルを一括してダウンロード(EXCEL 又はCSV 形式)することも可能。
図表Ⅳ-1 各社の与信管理サービス
調査先 | 信用調査会社A社 | 信用調査会社B社 | 与信管理サービス会社C社 | 与信管理サービス会社D社 | |
調査先の概要 | ・1900創業、1987設立 | ・1892創業、1933設立 | ・2000.9設立 | ・2000.12設立 ・株主:商社、損保、銀行、信用調査会社等 ・顧客:225社(2003.12) ・取引信用保険、電子商取引向決済サービスも提供 | |
・従業員数3200名 | ・従業員1586名 | ・従業員43名 | |||
・国内事業所83ヶ所 | ・国内事業所90ヶ所 | ・株主:商社、信用調査会社等 | |||
・顧客:1500社(2003.11) | |||||
与信管理サービス | 企業信用調査レポート | ・企業信用調査レポート160万件 ・評価: ①業暦、②資本構成、 ③規模、④損益、⑤資金現況、 ⑥経営者、⑦企業活力等による | ・企業信用調査レポート160万件 ・企業診断(評価):①経営者能力、②成長性、③安定性、④公開性・総合世評による | ・信用調査会社のレポートをインターネットで提供 | ・信用調査会社のレポートをインターネットで提供 |
倒産確率 | ・倒産予測値:1年以内に企業が倒産する確率、定性情報によるモデルと定量情報を加味したモデル | ・リスクスコア(倒産確率):1年以内の企業の倒産リスク、定量情報(企業情報や財務情報)による | ・格付ごとに倒産確率を算出 (標準ケースで3年間の倒産確率:顧客の要望により期間の変更可能) | ||
与信判断資料 | ・取引先1社ごとに、格付(6段階)、適正与信限度額、目標粗利益率、格付の変遷、与信管 理アドバイスをWeb上に提供 | ・取引先1社ごとに、格付(9段階)、適正与信金額(顧客専用の与信判断基準に基づき算 出)、適正利益率等をWeb上の | |||
に提供 | |||||
変化情報 | ・企業定点観測サービス:年2回報告書と重要な変化の報告 | ・ウォッチャー:年数回変化報告 ・アラーム:毎日変化報告 | ・信用情報・の変化を電子メールで通知 | ・信用状況の変化をWeb画面及び電子メールで通知 | |
取引先管理ファイル | ・Web上の管理ファイルで登録企業の与信状況一覧、信用変化情報、リスク構成を提供 | ・Web上の管理ファイルで、与信判断資料と企業情報の一括保管 | |||
ポートフォリオ分析 | ・取引先を評点と取引額で分類しグラフ化 | ・取引先全体のリスク(格付・与信限度額等)の一覧表 | |||
媒体 | ・インターネット ・電子媒体(CD-R,FD,MO,MT) ・郵送 ・FAX | ・インターネット ・郵送 ・FAX | ・ASPサービス | ・ASPサービス |
資料 聞き取り調査及び各社資料による
(6)ポートフォリオ分析
取引先への与信状況を総合的に把握するためのサービスとして、取引先の評点や格付、取引額等による顧客企業のポートフォリオ分析を提供している。
<B社>
回収リスクの全体のバランスを把握するために、取引先を評点と取引額でA~Dに区分し、グラフ化するサービス。コンサルティングの導入部分の商品として提供。
<C社>
取引先全体のリスク(格付、与信限度額等)を一覧表にしたものを導入段階でのサービスとして提供。
パターン①:取引先リストの格付、パターン②:①+与信限度額、パターン③:②+与信指標+取引先リスク構成
(7)取引信用保険と与信管理サービス等の複合商品
損害保険会社や債権管理回収会社から、取引信用保険と取引先情報等の与信管理サービスを複合的に提供するサービスが提供されている。
<E社>
① 概要
損害保険会社E社は取引先ごとの支払限度額を低く抑えるとともに、大手企業信用調査会社の評点があれば原則として付保の対象とする取引先を広くカバーする取引信用保険を提供。この取引信用保険に加えて、取引先情報と顧客のポートフォリオについてのアドバイスを提供している。この与信管理サービスを合わせて提供することで、顧客の与信管理を支援し、損害保険会社と顧客の両者がリスクを負担する仕組みとなっている。
② 取引先情報
支払限度額見直しのための事前準備として、対象取引先の経営状況や信用状況の変化により支払限度額の変化が見込まれる場合に電子メールにより連絡するもの。
③ ポートフォリオについてのアドバイス
提携信用リスクコンサルティング会社により、顧客の取引先及びポートフォリオについてのレポートを年1回提供する。
<F 社>
① 概要
組合方式の債権回収を業務執行者として請け負っているF社は、債権管理組合の会員に対して、取引先信用情報、取引先信用保険、債権管理・回収を総合的に提供している。
② 信用取引情報
組合の会員から提供された延滞債権情報をインターネット経由で会員に提供するもの。
③ 取引信用保険
取引信用保険をF社が代理店となって販売している。
④ 債権管理・回収サービス
定期的な支払状況の管理、延滞債権の督促、債権回収の代行を行う。債権管理・回収中の売掛債権の買取も行っている。
4 産地における与信管理サービスの利用可能性
以上のとおり、様々な与信管理サービスが提供されている。図表Ⅳ-2にまとめてみると、産地で現在行われている与信管理の取り組みに対応する、様々な機能が提供されていることがわかる。
産地が販売代金回収リスク軽減のためにこのような与信管理サービスを利用するか否かは、まず、自前の与信管理の状況が十分であるかという点がポイントとなろう。取引先の情報の入手や取引についての判断が自前の体制において容易な状況であるか、全体的な与信管理は十分であるかなどが考慮すべき点であろう。一方で与信管理サービスにも限界があり、例えば取引先が近隣であるとか、取引先をよく知っている情報源(組織内部、外部等)があるような場合には、企業信用調査レポートや、そのデータベースと財務情報に基づいて作成された与信判断資料が、風評やそうした情報源からの情報などに完全に代替することは難しいだろう。
図表Ⅳ-2 産地の与信管理と外部サービス
産地における与信管理 | 外部サービス | |
取引先の情報収集 | 取引先との面談、 信頼できる人からの取引先紹介・情報入手風評に気をつける | 企業信用調査レポート企業評価 財務情報 |
与信判断 | 与信基準の設定 | 倒産確率 |
与信基準等に基づき判断 | 格付 | |
与信限度の設定 | 適正与信金額の提示 | |
新規の取引は少額から開始 | ||
個別管理 | ||
継続的な監視 | 取引先を継続的にチェック(入金チェック等)風評情報に気をつける | 変化情報の伝達 信用調査レポートの継続的利用 |
取引先全体管理 | 全体の与信状況の把握 | 取引先ファイル等の利用 |
信用リスクの回避 | サイトを短くする | 取引信用保険 |
販売先の分散-取引先ごとの取引額の抑制 | ファクタリング電子商取引向け決済サービス | |
販売先を絞る | ||
積立金 卸売市場の利用 | ||
前受け金、保証金、保証人 | ||
契約内容の明確化 | 売買契約書の締結 | |
内部管理体制の整備 | 債権管理規定、管理部門の設置 |
資料 聞き取り調査及び各社資料による
したがって、特に取引を拡大していく過程や新規に契約取引に取り組むような場合に、内部の人材中心のリスク管理だけでは不足となり、それを与信管理サービスが補完することが考えられる。昨年度のアンケート調査によれば、農協で債権管理規定を設置している
割合は 33.9%であり、その債権管理規定の内容をみると、そのなかでも、契約書の義務付けは 77.2 %、取引先の選定方法は 57.9 %と比較的高い割合で含まれているが、取引限度額は 14.0%、債権管理責任者の設置は10.5%と 1 割程度にとどまっている。
また、外部サービスによって生じるコストが、取引で生じた利益で賄える範囲であるか、抱えているリスクに見合ったものか、又は自前のリスク管理コストの削減につながるかと いうことも利用を決めるポイントとなろう。ちなみに、与信管理サービスの料金体系をみ ると、企業信用調査レポートについては産地で比較的よく利用されているとみられる詳細 なレポートだけでなく、信用調査会社からは比較的安い料金で企業概要が提供されている。またC社、D社の取引先の格付や適正与信限度額、信用状況変化通知などの与信管理サー ビスを幾つか組み合わせても、詳細な企業信用調査レポートに比べ、取引先 1 社当たりでは低い金額で利用可能である。(図表Ⅳ-3)。
一方で、取引高や取引先数が一定程度以上に拡大する、また契約書締結などの取引内容が明確化する、取引によって生じる利益によって保険料が賄えるなどの条件が整えば、取引信用保険やファクタリングの利用が可能となる。反対に、これらの条件が整わない場合には、与信管理サービスの利用も選択肢の一つとなろう。
図表Ⅳ-3 与信管理サービスの料金体系
ー
(単位 円
1社あたり | 10社の場合 | ||
会信 | ①企業信用調査レポート(詳細、調査2ヶ月以内 | 30,000 | 300,000 |
②会社情報 | 480 | 4,800 | |
社用 | |||
③変動情報 | 48,000 | 480,000 | |
A 調 | |||
④倒産確率 | 12,000 | 120,000 | |
社査 | |||
⑤取引先ポートフォリオ分析 | 15,200 | 17,000 | |
サ 社 与 C ビ信社ス管 会理 | ①入会金 | *30,000 | *30,000 |
②基本料金(年額) | *48,000 | *48,000 | |
③与信判断資料 | 1,000 | 10,000 | |
④取引先管理ファイル | 50,000(40社まで) | ||
⑤ポートフォリオサービス | 500~2500 | 5,000~25,000 | |
①~⑤の合計 | 14,300~16,300 | 143,000~163,000 | |
会サ与 | ①入会金 | *50,000 | *50,000 |
②基本料金(年額) | *10,000 | *10,000 | |
社 信 | |||
③与信判断資料 | 2,000 | 20,000 | |
D ビ管 | |||
④取引先ファイル管理 | 2,400 | 24,000 | |
社ス理 | |||
①~④の合計 | 10,400 | 104,000 |
ー
資料 各社資料による
(注)1.A社の①は企業情報データベースの利用の場合の料金。
2.A社の②はA社ホームページで検索可能な最も安価な企業情報。
3.A社の④は調査会員のみ利用可能であり、かつ調査報告書又は③との同時申込。
4.C社の①,②は④を利用可能なレギュラー会員の場合。
5.D社の①~④は取引先数が少ない企業向けのAプランの料金体系による。
6.C社、D社の入会金、基本料金は対象社数に関係なく一律。
7.C社の①~⑤の合計とD社の①~④の合計の1社あたり金額は、10社計の10分の1。
第2部 聞き取り調査結果
目次
Ⅰ 野菜生産法人・農協・経済連・全農県本部
A野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45
B野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48
C野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
D野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54
E野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
F野菜生産法人・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63
G農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67
H農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70
I農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74
J農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
K農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80
L農協(販売連)・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
M農協・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85
N経済連・全農県本部・・・・・・・・・・・・・・ 89
O経済連・全農県本部・・・・・・・・・・・・・・ 93
P経済連・全農県本部・・・・・・・・・・・・・・ 97
Q経済連・全農県本部・・・・・・・・・・・・・・ 101
Ⅱ 卸売市場関係者
卸売業者A社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104
卸売業者B社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106
卸売業者C社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 108
卸売業者D社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110
卸売業者E社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 112
卸売業者F社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114
卸売業者G社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116
卸売業者H社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118
仲卸業者I社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120
仲卸子会社J社・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122
精算会社K社・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
仲卸組合L組合・・・・・・・・・・・・・・・・・ 126
Ⅲ 金融サービス会社
信用調査会社A社・・・・・・・・・・・・・・・・ 128
信用調査会社B社・・・・・・・・・・・・・・・・ 131
与信管理サービス会社C社・・・・・・・・・・・・ 133
与信管理サービス会社D社・・・・・・・・・・・・ 135
損害保険会社E社・・・・・・・・・・・・・・・・ 137
債権管理回収会社F社・・・・・・・・・・・・・・ 139
A野菜生産法人(販売部門)
区分:野菜生産法人(販売部門)所在地:関東・東山
テーマ:野菜生産法人(販売部門)の契約取引調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 当社は野菜生産法人の子会社として平成 7 年に設立された。親会社の野菜生産法人の販売部門を分離させる形で活動を始めた。
・ 親会社の野菜生産法人の生産と販売を分離させた理由は、得意先との年間供給の仕組み作りを進める中で、レタスを例にとると、親会社の野菜生産法人の収穫期間は春と秋で、夏は高冷地域、冬は温暖地域の農家から契約で仕入れるといった具合に、農業指導した全国の農家からの仕入・販売が拡大し、産地管理、物流管理等の販売業務が増え、生産現場と販売現場を独立させた方が管理上良いことと、後述するが、基本理念を共にする企業との連携を進めるためである。
・ 当社のコンセプトは、市場経由とは異なる流通ルートを作ること。外食業者大手2~3社が当社に出資している。設立時に、外食業者である出資者との話の中で、安心・安全がキーワードだった。しかし、農協・卸売市場ルートでは、安心・安全をトレースすることが難しい。そこで、当社が意思疎通可能な農家と作付・買取の契約を締結し、販売先とも契約するという卸売市場経由とは異なる流通ルートを作ることを考えた。
・ 従業員は 50 人で、うち正社員は 15 人。従業員の内訳は、本社は常勤役員を含めて 7
人、物流センターは 15 人。営業担当は 5 人で、内訳は外食担当 3 人、スーパー(イン
ショップ)担当 1 人、加工業者担当 1 人。
・ 本年の売上高は 50 億円弱になる見込み。
2 仕入
(1)仕入先
・ 仕入のうち、契約による仕入が7割で、残りの3割は市場調達で仕入れている。市場から仕入れているものは、パプリカや柑橘系果実。当社がメインの納入先から、物流の関係で一括して輸入品も同時に納めてほしいとの要望があるため。
(2)農家との契約
・ 各農家との契約数量は収穫予定量の7割以下で契約することと、1品目に複数の地域の農家と契約することにより、作柄によるリスクを回避している。
・ 農家とは、シーズン終了後の反省会と計画前の打ち合わせの年2回以上の打ち合わせを
行っている。収穫前の打ち合わせでは、出荷する商品の基準を、農家・当社・納入先の三者が産地で打合せする目合わせを行っている。
・ 契約内容は、品目、数量、価格(物流センターまでの着値)の他、栽培履歴の記帳に及ぶ。
・ 荷姿については、例えば市場でのほうれんそうは袋詰が当たり前になっているが、納入先での使用方法を確認する中で、バラ出荷でコストとゴミの軽減を行っている。
・ 契約は、個々の農家とではなく、農業生産法人、出荷組合、農家グループなどと行っている。取引している農家グループの口座数は 200 口座程度。地域は北海道から沖縄まで。
当社が技術指導している農家戸数は 1,300 戸程度になる。
・ 物流は、農家から当社の物流センターに直送され、センターで各販売先に分荷し出荷している。
(3)産地との信頼関係
・ 産地との信頼関係は、①技術指導、②互いに契約を忠実に守ることにより形成してきた。
・ 契約を厳格に守ることは、天候異変があるので難しい。臨機応変に対応している。2年前、九州で冷害のため冬レタスの収穫が減少し、卸売市場では価格が平年の 10 倍になった。契約産地でも収量が5分の1に減少し、当初の契約価格のままでは農家は生活できなくなるので、買付価格を引上げ、納入先にも協力をお願いして対応した。
・ 当社は、数量の減少の原因が天候によるものか、生産者の管理によるものかを判断し、原因を特定して解決するための技術指導も行っている。
3 販売
(1)売上構成
・ 業態別の売上構成は外食業者 78%、スーパー14%、加工業者(カット野菜、コンビニ弁当のベンダー)8%。形態別にみると、ホール 85%、加工(カット野菜)15%。
(2)取引先数
・ 取引先数は、外食業者 40 社、スーパー3 社、加工業者数社。スーパーへの売上や取引先が少ないのは、当社が親会社の野菜生産法人から分離したときにスーパーとの取引を一旦中止したため。理由は、スーパーは外見の形状を重視するので、当社の「汎用的なおいしい野菜」という考え方と異なる部分があり、販売を進めるとリスクになるため。現在取引しているスーパーには、ぶどう、桃、レタスを契約で販売している。
・ 加工は当社の原料を業者(コンビニエンス・ストアに納品している業者)で加工して、帳合先の大手卸を経由して大手スーパーに販売している。帳合先を入れているのは、大手スーパーは、代金決済や安定供給のために仕入の窓口を特定の卸にまとめたいため。
・ 販売先はほとんど関東圏。
(3)取引先の選定
・ 当社に様々な業者から取引のアプローチがある。その中で価格の話から始める業者とは取引しないことにしている。理由は、価格を重視する業者と取引しても行き詰まるため。
・ 物流の問題があるので、ある程度取引量が多いところと取引している。
(4)今後の意向
・ 宅配:以前、関心があって宅配事業について調査したことがある。大規模に宅配事業を行っている業者はいずれも果物や特定産地のブランド野菜を扱っており、粗利益率が高い。逆にいえば粗利益率が高い商品でないと事業化できないということ。当社は汎用野菜を扱っているので現在は宅配事業化は考えていない。
・ スーパー:外見を重視するというデメリットはあるが、市況が上がっても売価に転嫁できるので、価格リスクを負担しなくてよいというメリットもあると考えている。
・ 加工業者:良質の農産物は、量が少なく、まねできないので、惣菜商品の差別化のポイントになる。加工業者との取引は増えているし、今後も増えるだろう。
(5)販売先との契約
・ 販売先とは「基本商品取引契約書」を文書で締結。契約期間は短い取引先で1年間。
・ 価格や数量は週・月単位で決めている。価格は著しい天候異変の場合には別途協議して、価格の変動も認めることになっている。
・ 品目別にはレタスとトマトの取引数量が多い。一般的にレタスは時期によって品質に波がでることを説明し、仕入担当者に産地を見に行ってもらう。
・ 最近外食業者の売上が減少しており、取引先からの要求が厳しくなっているが、農家の再生産価格を守っていきたい。販売先とは、再生産価格に流通マージンをのせて交渉している。
5 契約の流れ
・ 外食業者では、年に数回メニューの変更を行う。メニューから 3~4 か月前に予定単価・数量がわかる。この段階で産地との調整を進め、1~3 か月前に外食業者と調整する。
6 代金回収・決済サイト
・ 優良な取引先がほとんどであり、代金回収リスクは少ないと考えている。
・ 販売先との決済サイトは、一般的に外食業者は長いようであるが、当社の場合には農家への支払いサイトが短いことを考慮してもらい、月末締め翌月末以内の支払いにしてもらっている。
・ 農家からは短くしてほしいとの要望があり、農家への支払いサイトは 15 日締め15 日後払いが増えてきているので、立て替え払いの形が多くなりつつある。
B野菜生産法人
区分:野菜生産法人所在地:九州
テーマ:野菜生産法人の契約取引調査時期:平成 15 年 11 月
1.ヒアリング先の概要
・ 紫蘇の契約栽培が出荷額の 85~90 %を占める。紫蘇は夏の作物だが、電照や暖房で周年出荷している。年間売上は 6000 万円程度。契約出荷できないようなものを中心として、紫蘇ジュースに加工する加工品の売上が残りの10~15%。
・ 農園を始めたのは 20 年ほど前。東京で働いていたが、Uターンして、農園経営。最初の 10 年は市場出荷のきゅうり(促成栽培)を中心に青果を生産していたが、経営が安定しなかった。経営安定のために選んだのが青紫蘇。
・ 無農薬の有機栽培を行うことで、スーパーとの契約を行っている。
・ 紫蘇生産は 30~35aで始め、当初は市場にも出荷したり、すし店に配送したりもして販路を拡大し、経営規模を拡大しようとした。しかし、販売先ごとの原価計算もしなければならないし、市況が良くて設備投資を行って生産を増やすと翌年は市況低迷で負債返済や設備償却に苦しむ等といったことがあったため、契約中心に、契約の販路が決まってから規模を拡大するようにした。
・ 現在では紫蘇の生産で 150 a程度。総経営面積は現在借地含め2ha(阿蘇に野菜の農園も持っている)。経営面積は増やそうと思えば増やせるが、利益率重視で規模拡大してきた。
・ 加工品も販売しているが、加工品の販売では商談会や展示会等の機会が増えて、生産の方がおろそかになる懸念もあった。現在では農場の責任者を決めて、分業体制を敷いている。
・ 社員は、家族5人に、常雇 5 人、パートが 40 名ほど。研修生の受入れも積極的に行っている。
2.契約取引の概要
(1)相手先の変遷
・ 平成6~8年に、まずある量販店と契約を行った。これは 2 年で停止したが、契約自体が、価格を決めて、数量は契約していなかったため、市場価格が安くなると注文が減り、市場価格が高いときには契約での注文が増える、と買い手有利の契約で、経営が難しかった。数量、価格の両方の契約にしようとしたが、折り合わずに契約が終了。
・ その量販店との取引が口コミで広まり、他の量販店とも取引開始。仲卸業者が間に入り、
数量と価格を両方決める年間契約。しかし、実需者との間に中間業者がいくつか入っているようで、代金決済が遅れたときに、実需者にクレームをつけたら、既に支払い済みだと言われた。中間の段階で支払が滞っていたのである。そのようなトラブルが起きてから、その業者を仲介にしていた実需者との取引を止めた。
・ ついで別の量販店と契約取引を行った。これは間には1業者のみで、透明性の高い取引。同取引は、年間出荷数量、出荷時期、価格等を取り決めたもの。取引に問題は無かったが、先方の方針で、調達先を一元化することになって、契約は終了。しかし、契約終了 2~3か月前にはその旨連絡があり、こちらの資材等の在庫が終わるまでは取引を継続してもらう等、円満な終了となったため、その後も連絡をとるような関係は続いている。
・ その後は、まず地元の有名な量販店に出荷することでブランド力を高めようと、地域の大手スーパー、生協等と契約取引をしている。ホテル等からも契約取引の話がきている。
(2)契約出荷の場合の価格等の条件設定
・ 単価の目安としては、原価計算して、製造原価が 1/3 程度になるように売値を設定したいということ。夏場は航空便で出荷する等も行っているので、年間通じてこの率を達成するのは容易ではない。価格も現状では年間値決めしているが、場合によっては四半期程度でも良いかとは思う。
・ 生産規模は、1つの量販店との契約で 10aぐらいで十分。契約出荷量の3割増しの生産を行い(生産の 7 割程度の契約出荷量となるように生産)、余った分は市場にも出している。その部分の単価は下がっても、契約量を守るためには、天候等も考えると、ある程度の余裕が必要。
・ 台風等の大きな被害にあった時は、すぐに連絡して対応する。
・ POP広告等も生産者が自ら作る。
・ 契約取引で最も注意しているのは、高品質のものを欠品なく納めること。周年で出荷しているので、生産管理は大変。半年先までの出荷計画や 1 年先の生産計画の提出を求められる。しかし、品質にこだわる店に安定的に出荷をすることで、製品のブランド力が高まる。
(3)販売先調査の際に利用する情報
・ 新規取引先については、帝国データバンクの信用情報によってチェックする。
・ 相手先の情報入手ルートとしては、その他に、経営コンサルタントをお願いしている人から業界内部事情等が入ることもある。
(4)販売先の開拓、今後の意向
・ 販売先はまず社長自ら開拓し、あらかた条件が固まったところで、子供に任せるような形で、後継者育成にも努めている。
・ 有力量販店との取引は、取引していること自体がブランドを高めることになる点を重視している。地域の量販店とはおおむね取引関係ができたので、今後は都市部の量販店で
「高品質」というブランド力のあるところと取引をしていきたい。
・ 今後は、紫蘇の合間にパセリを低農薬有機栽培で生産し、販売する構想を持っている。
(5)加工品販売
・ 加工品(紫蘇ジュース、そうめん)のギフトも行っているが、受注が小口で配送の手間等を要するために、あまり拡大する気も無い。今後は製法の特許を生かして、OEMのような形で大口供給することも考えている。ジュースの生産数量は1日に 1000 本が限界だが、その範囲でなるべく効率的な出荷先を探している。そうめんも同様。
・ 加工品を全農を通じて販売することも考えている。
3.契約書、代金回収サイト、代金回収リスク回避の方法
(1)契約書締結の有無
・ 契約書は作る場合と作らない場合がある。相手先に口座をつくらないようなケースでは契約書は作らないことが多い。口座を作る場合は、契約を取交す。口座を作るかどうかは、長期的な関係を作りたいかどうかによる。
・ 口座を作ると信頼関係が形成されて、様々な便宜をはかったりする。例えば、紫蘇以外でも、当地で値段が安く良いものが入手できるときに、市場で仕入れて遠隔地まで送ったこともある。
(2)支払サイト
・ 支払は、月末締めの翌月末支払や 15 日締めの月末払い等、相手によって様々。決済サイトが短ければよいというものでもない。請求書を発行する事務コストもばかにならない。
(3)代金回収リスク回避の方法
・ 代金回収に不安がある先(個人等)に対しては、現金か市場を通す。相手をみて、市場経由で行うかどうかを決める。
・ 優良スーパーに対しては口座取引。保証金をとるようなことはしていない。
・ 12 月の値上がり等を見越した業者が直接買い付けにくることもあるが、そのような業者に対しては、現金で売る。
(4)代金回収に関する事故
・ 代金回収に問題が発生したのは、量販店との取引で、間に複数の業者が入っていた場合。
2~3か月かかったが、直接業者に出向き、何とか回収した。近隣では量販店の倒産も
あったが、いずれも倒産時点では取引が無く、取引しているスーパーは逆に売上が伸びた。
4.その他
・ 農協に出荷するだけの農家ではものたりなかった。自分の親も自ら出荷しており、それを見ていたために農協に頼る気はしなかった。10 年程度外の社会で生活したが、普通の会社では販売先は自分で探す。農産物も同様だという感覚が最初からあった。農協もも自ら売る努力をしなければならないだろう。農協との付き合いは、資材等も半分は農協から仕入れている。価格は高いが、クレームがつけられるし、アフターサービスも充実している。何かあった時の保険としては重要。農協とも一定程度の付き合いはしていく。
・ 生産、加工、販売、回収のすべてを行って、農家の仕事は完結すると考えるべき。難しい販売を人まかせにしているのが日本の農家の現状。販売を自ら行って、価格付けができないと、農業も成立しない。販売して回収して、日次の決算ができて初めて農業経営者といえるのではないか。
C野菜生産法人
区分:野菜生産法人所在地:九州
テーマ:野菜生産法人の販売方法調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 昭和 48 年に設立した農事組合法人。構成員 6 名、女性構成員 6 名、常雇用従業員 32
名。
・ 施設面積は設立当時は 3 ヘクタールだったが現在は9.0 ヘクタール。
2 取引の概要
・ 売上高は平成 15 年度決算で約4億円。内訳は、トマト2億円、メロン1億円、その他の花苗・ハーブ加工品1億円。
・ 現在のトマト・メロンの出荷先は95%が卸売市場、5%が組合の直売所。
・ 卸売市場出荷分のうち何割かは予約相対取引を行っている。特売用等として、卸売業者と直接交渉して、再生産価格を上回る価格ならば販売している。卸売市場を介しているので契約書は締結していない。
・ 卸売業者経由の分は、農協と経済連を経由しており、計 3~4%の販売手数料を支払っている。
・ 農協系統を介さずに、直接、卸売業者と取引することもできないわけではない。しかし農協を離れてはいけないというのが持論。理由は、1つは農協が地域に貢献しているためであり、もう1つは代金回収事故を防ぐため。現在の販売先は東京であり、営業所を置いたり人員を配置したりということを考えると、代金回収の手数料とすれば農協系統の手数料は割安。代金回収の事故は過去 30 年間1度もない。
・ 系統を経由しているが、卸売業者の選択権、分荷権、業者との交渉権は組合がもっている。また、他の生産者とはプール計算しておらず、別に精算されている。
・ 農水省のモデル事業で施設を導入し、多額の借入金を抱えた。償還のために、高品質の農産物をつくり、より高く販売する必要があった。メロン1個は、地元では 800 円だが
東京では 1,200 円で売れる。このため東京方面への出荷が中心である。
3 取引先の変遷
・ 組合設立から 3 年目までは東京、大阪、名古屋、九州の卸売業者 12 社に出荷していたが、現在の出荷先は2社。
・ 出荷先を絞った理由は、ブランド化するために、大ロット、安定供給、一定の品質とい
う条件を満たすようにするため。当時の出荷量は日量 1,000 ~1,500 ケース。例えば、スーパーから秀品のMサイズを 500 ケースの注文が入ると、他への出荷量が減ってしまい、同じ秀品のMサイズがほしい他の出荷先からクレームが来る。また。多くの卸売業者に細分化して出荷するという方法では、卸売業者の要求や組合のブランド化に対応できなくなった。
4 卸売業者との関係
・ 通常は 10 時半ごろに卸売業者から市況情報が入ってきて、翌日の出荷量を打ち合わせる。ただ、過剰で売れ残っていると情報が入る時間が遅くなる。これは卸売業者の担当者が苦労しているということ。そのようなときに、他の市場ではいくらだったとは道義上いえない。そこで、卸売業者を天秤にかけるような取引はしないようにしている。
・ 卸売市場への荷物を積載したトラック便は当組合を 15 時半ごろ出発する。その時点で送り状を卸売業者に FAX する。これを受けて、卸売業者の担当者が売り先を決めている。このような取引は品質が安定しているという信頼関係があることが前提(嘘、ごまかしが許されない)。
・ 卸売市場では、同じ商品でも売る順番によって値段が違ってくる。不足時は徐々に上がるので最後に売る商品は最初に売った商品より高めになり、逆に過剰時は徐々に下がるので最初に売った商品の方が高い。
・ 年間を通じて高値を追求するばかりでは取引は長続きしない。卸売業者との関係は、8勝 7 敗くらいで共存していくのが最適と考え、実践している。
D野菜生産法人
区分:野菜生産法人所在地:関東・東山
テーマ:野菜生産法人の契約取引調査時期:平成 16 年 1 月
1 調査先の概要
・ 農家約30 戸を組織。直営農場の生産分をあわせて、作付面積は 300ha くらい。レタス
(140ha )、ハクサイ(50~60ha )、キャベツ(50~60ha )が主。
・ 販売先は、外食、量販店、漬物製造販売店、カット野菜会社等。
・ 社員は 20 名程度。販売関係は4人。
・ 売上は、ピーク 18 億円(5年ほど前)。現在 15 億円程度に減った。輸入品との競合の等による価格下落が大きいとのこと。
2 契約取引のこれまでの経緯
・ 20 年前くらいから契約取引を始める。出荷する農家との契約も同じくらいに長い。
・ 代表者も最初は個人農家。収入不安定等の問題を抱えているところに、契約栽培(生協)の話があり、ほうれん草を周年栽培。他の実需者からほうれん草を大量に必要という話があり、個人では供給できなかったために、4~5人さそって一緒に生産開始。
3 販売の現状
(1) 主要取引先
・ 現在の取引先数は、末端まで入れると 70~80 社。卸売市場にはほとんど出荷していない。90 数パーセント以上契約販売。ねぎの一部を市場出荷しているが、それは生産開始して 3 年で、まだ技術未熟で契約にまでつなげないもの。
・ 量販店は7~8社。量販店はほとんど帳合先をもっている。外食は、大きな先としては
3社。帳合が入っている。つけもの製造販売会社は 5 社くらい。その他業務用カット野菜業者や、コンビニエンスストアに出荷している食品製造業者等様々。
・ それぞれの取引先とは長い取引で、お互いに良く知っている。市況が高くなっても、必ず出荷するために、信頼関係がある。小さい農家の場合とは違う。実需者も産地のものをきちんと売ろうという姿勢や、産地情報に対するニーズはある。実需者やその帳合先も、様々な産地情報を入手するのも手間がかかるため、既に契約をして継続している産地と実需者との関係は密になる。
(2) 各業態別の取引概要
・ スーパーでは週間のおおよそ予定数量が流れてくる。当日、予定数量にプラス数量が流れてきて、それに対応していく。農家は固定数量だろうが、当社は柔軟に対応している。
・ 量販店の帳合先が集配送を手配。配送からすべて請け負っている。様々なところから集荷するルートに当社も組み込まれている。量販店向けは、当社が店まで持っていくことはない。帳合を通すが、情報は量販店と直接交換。代金は、量販店→帳合先→当社。
・ 量販店とは価格は週決めだが、来週は多く出荷できそうだから、安くしても多く販売してほしい、来週は出荷量が少なそうだから、高くして販売量を抑えてほしい等の微調整がある。スーパーが量の需給調節している。量販店に関しては価格の基準は、市場価格。高ければ数量は売れない。
・ 外食、業務用は値段一定。量も安定している。外食はシーズン値決め。毎年さほど変わらないが、値下げの時だけ要請がある。外食・業務用は、実需者のキャパシティ・処理能力が決まっている。スーパーは不特定多数に売るから、値段を下げて4倍5倍と売ることができるが、外食・業務用はそのような販売力は無い。
・ 外食の納入価格は年々下がってはいるが、価格面での条件の良さは外食・業務用→スーパー→市場の順。外食等を増やしたいが、契約出荷を行いたい産地が増えており、なかなか入り込めない。業務用は価格安定で相対的には条件が良いが、需要量は限られる。
・ 漬物製造販売店とは直接取引しているところもある。自社便ではこぶこともある。カット野菜等も帳合を通さずに直取引のところもある。
・ スーパーは形のそろったものに対して値打ちを出し、等階級が絞られる。業務用は、歩留まりが価値になる。当社は、量販店、外食・業務用の両方の取引先を確保することで、規格外品の販売や需給調節が可能な体制になっている。
(3) 取引先開拓
・ 契約取引の歴史が古いせいか、買い手の方から来る。または帳合先が紹介してくる。
・ 現在は守りに入っており、新規顧客開拓はせず。従来からの取引先を中心に、規模を少しずつ減らしている。
・ 口頭での約束であっても守ることは当然。市場価格が下がると市場で買い、価格が上がると注文が増えるような実需者とは、信頼関係が保てなくて、取引をやめたところもある。業務用等でも、あまりに低い値段のところとは取引を停止した。
(4)帳合先の機能
・ 当社は、直営農場や契約農家の農業生産を重視しており、周年供給の要請には基本的に応えられない。周年供給の確保は帳合先である仲卸等の仕事と割り切っている。実需者の周年供給要請に対しては、仲卸等の帳合先がそれに対応しているのだろう。帳合先が最初から入る場合と、実需者の要請で帳合先を入れなければならないこともある。
・ 販売価格に対する帳合先のマージンは個別に異なるが、5%程度等と分かっている。年
間4か月供給します、では現在は契約できない。周年供給が求められており、それを仲卸等が組織している。10 年前なら、年間4か月でも契約できたが、現在では無理。帳合を通さない直の取引を量販店等としようとすると、集荷関係の営業の人数を増やしたり、出荷責任を負ったりと大変になる。
・ 漬物製造販売店向けのハクサイは、北海道の知り合いに声をかけて年間供給を可能にして、直で販売しているものもある。
・ バイヤーは値段によって、販売量もある程度見通すことができ、シーズン前の大まかな話し合いで、例年、計画作付をする。
・ 昨年の秋は価格暴落がきつく、特売しても、どうしても売り切れなかった。
・ 帳合先の手数料は売値から引かれる場合と、上乗せされる場合とある。帳合先を通すことで、当社の事務負担も軽減され、生産に専念できる。手数料分は止むを得ない。
(5) 出荷する農家との関係
・ 選果は農家が行う。箱詰めまで行う。
・ 契約農家との信頼関係が大事だから、新規の参加者については、仕事が増えた場合にのみ、新しい農家を募っている。これまでの長い付き合いのある農家で対応できる範囲でまず対応する。
・ 種の品種や、肥料等当社でコントロール。それができないと契約できない。毎日出荷できるようにしている。防除等への要請としては、農薬は極力減らす等がある。
・ 契約先の農家は、若い人が経営しているところも多い。経営はこれまで他の農家に比べて安定している。
・ 契約農家との間での支払関係は、品目による。10 日プール、15 日プール等でプールして、手数料を引いて支払う。入金は月末締めの翌月末払いが中心だから、支払の方が早くくる。
(6) 特別栽培作物への取組
・ 当社はずっと特栽をやっていた。トレーサビリティも既に対応している。
・ かつては慣行栽培と特別栽培で価格差があった。現在では価格差がない。コストもかけてきたが、メリットがなくなってきた。
4 代金回収リスクへの対応
(1)契約書について
・ 70~80 社くらいある取引先のうち、契約書を取り交しているのは、1か所。最近契約した取引先のみ。契約書も、基本的なお互いの確認事項で、価格とか量とかはこれからの交渉。契約出荷を始めたころは、契約書を取り交す習慣が無かった。
・ 相手方も、数量契約はできない。先の需要見通しができず、売れ行きを見ながら買って
いくしかない。農家も自然条件のために出荷できない場合のリスクまで負いたくないため、契約できない。これが当初契約書が進まなかった理由ではないか。
・ 代金決済は、月締めの翌月末払い。文書では取交さず、口約束。契約書を取交していなくても、支払はきちんと行われる。
(2)代金回収事故経験や代金回収リスクへの考え方、具体的対応
・ これまで資金回収ができなかった例は1件だけ。
・ 自社での営業を行わず、取引先から、信頼のおける安全な先を紹介してもらって取引を始めていることが、こげつきの少ない理由ではないか。
・ 外部信用情報は買っていない。
・ 取引先に対して信用リスクを感じることはないか?→信用リスク以上に、価格引下げの要請にどう対応するかがまず問題。業務用は横並びで価格づけしているため、一つの先に下げると全て下げなければならなくなる。価格低下を極力抑えているので、出荷量が落ちている。取引先数は維持しているが、量が減らされている。市場外でも価格競争が激化している。
・ 契約出荷している農業法人等もコスト原価計算して価格提示しているところが少なく、市場価格に対して多少でも上積みできれば、損益分岐点以下の価格を提示しているところもあるのではないか。
・ 保証金、前渡し金等は、全く考えられない。どこもそのような条件では取引してくれない。
・ 入金サイトは月末締めの翌月末払いが中心。外食等のサイトも、帳合先からは月末締めの翌月末払い。
5 契約取引をめぐる環境変化
(1)輸入増大等により契約取引の条件悪化
・ ここ3年くらい、値下げ要求が強まり、利益が出なくなっている。このままではどうなるか不安。競争相手も増えて価格引き下げ競争。農家側が争って値段を下げている状況。昨年秋の野菜価格下落は30年野菜を作っていて、経験しなかった暴落。赤字をどれだけ食い止めるかの問題だった。
・ 食の安全から日本の野菜が見直されたら、こだわり野菜や国内品を前面に出した外食も増えようが、現在では輸入野菜が国内野菜を圧倒して安値競争をしている。
・ このような価格情勢が続けば、当社のように、従業員も雇って大規模に事業を行っている方が先にだめになる。固定費が高く、損益分岐点が高いから。
・ 中国からネギの輸入は、昨年は国内価格が安かったにもかかわらず、前年比119%増だった。そしてそれは、市場出荷の統計上ではほとんど出てこない。大半が市場外で業務用に商社が流している。業務需要は拡大しているが、輸入品の利用が増えて、小さくな
っている市場流通に国産が集中し、値崩れが進んでいる。中国の人民元がもう少し高くなれば別だが、現在の価格では価格競争は無理。
・ このままでは農業をやめざるを得なくなる。そうなってから将来日本円が安くなって、中国から輸入できなくなっても、そのときには、もう農業基盤は失われているということにならないか。
(2)契約取引と市場取引
・ 大きい需要者ほど契約で購入するようになり、市場で買わなくなっている。市場が不活発になり、価格低迷が続く要因にもなり、活力が低下した市場で形成された価格が、契約取引の基準にもなるという問題があるのではないか。
・ 理屈上は、流通マージンを除けば、農家手取りが増えるだろうということだが、それ以上に農産物価格下落は大きい。
6 その他
国内農産物の安全性アピールを
・ 食の安全という観点から、国内品の安全性をアピールしてほしい。中国からの安価な輸入品を抑えるには、安全性を強調するしかないのではないか。
E野菜生産法人
区分:野菜生産法人所在地:関東・東山
テーマ:野菜生産法人の契約取引調査時期:平成 16 年 1 月
1 調査先の概要
・ 農事組合法人としては平成 10 年設立。農事組合法人は生産物の流通販売組織だが、代表者が関連する有限会社がリサイクル事業や冷凍野菜事業等を行っている。パッケージセンターも運営。
・ 現在出荷してくる会員(出荷会員という)は 90 名弱。出荷会員を、協賛金を出している正会員と出していない準会員に分けている。現在正会員、準会員が半々程度。ここ数年、会員数は 10~15 名程増えている。特に 20 才代の若い生産者の加入が多い。
・ 2002 年度の販売額は消費税抜きで 10.6 億円。2003 年度は同11.4 億円程度(消費税込
みで約 12 億円)。
・ 生産者の生産規模は、平均的農家よりは大きい農家が中心。近隣の2倍~3倍くらいの経営面積か。
2 契約取引の概要
(1) 契約取引拡大の経緯
・ 法人代表者が独自に、カットごぼうの生協への契約出荷、量販店向けの無農薬ホウレンソウの契約出荷等、実需者ニーズに着目して市場経由以外の流通ルートで販売を拡大してきた経緯があった。
(2) 販売部門の体制、品目、取引先等
・ 職員組織は営業、経理、受発注、生産管理、荷受、品質管理、資材管理等に分かれ、総勢 24 名。営業担当者7名。担当は取引先ごとについている。
・ 出荷している野菜は 40 種類以上。冬場の野菜産地として特徴がある。
・ 主な販売先は 50 社くらい。法人としては市場出荷は全くない。
・ 取引先別の販売額構成は、生協と宅配会員組織が 5 割前後。外食関係ベンダー向けが3
~3.5 割。スーパーは仲卸経由で2割弱。
・ 生協その他宅配会員制組織向けは直接取引。量販店向けは基本的に仲卸を通している。仲卸を通すが、情報は直接スーパーの担当バイヤーと話す。仲卸は帳合と運送。外食ベンダーとの取引では、直接代金が支払われる場合と、仲卸経由の場合がある。
・ 卸売会社にも出荷しているが、それは市場外扱いで帳合と物流機能を利用するもの。大田市場でも、直接仲卸に販売するため市場手数料はかからない。
(3)仲卸の機能
・ 量販店への出荷で仲卸を通す理由の一つは、量販店への個配ができないため。代金回収対応もある。また、生産出荷が予定通りいかないときには、仲卸の責任で他産地から調達してもらうようなことも、場合によっては相談できる。
・ 仲卸の手数料にはかなりの幅がある。どこまでの業務を行うかによる。物流までやるか、伝票通しだけか等。物流がからむかからまないかで、手数料率が 10%を超えるかどうか分かれるのではないか。
・ 仲卸を通している取引を中抜きするのは難しい。商習慣上のルールのようなもの。
・ 外食ベンダー等を通じていくつかの外食企業がある。ベンダーが小分けしたり他の産地からのものと組み合わせたりして、外食企業に納めている。
(4)取引先の拡大について
・ 取引先開拓は紹介が多い。ある仲卸グループとは長い取引で生協も紹介してくれた。一つ取引を行うと評判を聞いて他の生協も取引の要請にきた。現在はこちらから販売にいかなくても要請が来るが、供給体制との関係で、すぐには対応できない場合もある。
・ 営業担当者は新規取引先の情報収集や日々の取引のマッチングを行い、1社当りの販売額の拡大等に努めている。
(5)契約取引の契約内容
・ 契約書(基本契約書)を締結している先は、生協とは全て結んでいるが、仲卸とはあらためて契約書を結ばないところもある。外食ベンダーも、仲卸経由の場合は直接ではないので契約書はない。全体では 50 社中 10 社前後と基本契約書を締結。
・ 生協とは基本契約書を結んでいるが、価格、数量等は載らない。
・ 契約で決めた価格があっても、市況が大幅に下落して、市場に合わせざるを得ない場合もある。価格を維持しようとすれば販売量が落ちるから。そのあたりは、生産者も理解している。昨年秋のような市況暴落時にも、日ごろから信頼関係を作っている取引先の販売努力もあって売れ残りは無かった。バイヤーさんも、毎年複数回畑に顔を出して生産者とつながりをつくっており、信頼関係の基礎となっている。
・ 契約書に具体的に価格と数量が載ってくるのは、1社(会員制宅配業者)のみ。
(6)実需者との商談の進め方
・ 出荷野菜の大枠での値段を決めるのは生産者。実需者の営業会議に生産者も同行する。最終的な値段の決定は生産者グループの責任者(品目別の担当者)が行い、実需者の要
望も直接聞いてくる。
・ 量販店からの条件はだいたい月決めで出荷計画と基本価格を決めて、それをもとに、週ごとに微調整する。生協の場合は、半期ぐらい単位で値段を決めていく。実需者からの要望があったら、生産者に聞いてみて、価格の決定はその後行う。外食は、大まかには
1年の量と価格を決めて、その年の作柄や生産量を勘案して、3か月ごとに微調整し、量と価格を決める。最初の契約で大枠を決めるときには生産者に参加してもらって、微調整は営業担当が行う。
(7)需給調節
・ 生産者に対しては、完全発注制。日時、注文数量を指定して持ってきてもらい、出荷が終われば法人の在庫はゼロ。法人としては市場出荷は全くない。ただし、生産者は自分の責任で、超過生産分や規格外等は地場の市場に出している可能性はある。
・ 生産者は契約出荷に必要な生産量の2~3割増しで作付している。その余剰分を売る努力はするが、上乗せ部分は売れないこともある。その場合は生産者の責任で販売してもらう。
・ 農産物は天候等のリスクがあるので、取引先を増やして需給調整をやり易くしたり、仲卸との間で需給調節のリスク分散をしている。多くできすぎたときは、50 社の取引先にすこしづつ多めに買ってもらうようにお願いする。少ない時は謝って、少しずつ減らしてもらっている。窓口を広げているから、このような対応ができる。ただし取引先が多いと営業の人数も増やさざるを得ないという大変な面もある。
・ 現状程度の規模になると、需給調整は逆に比較的やりやすい。出荷会員も増えて品目別にも生産農家は複数いるので、集荷のリスク分散も可能。
(8)生産者との関係
・ 完全発注制だが、出荷されなかったときのペナルティは無い。各農家の出荷予定表を土日に集計し、毎週月曜日に営業担当者が販売会議を行い、取引先別・品目別に割振りを行い取引先に翌週の出荷について提案する。
・ 生産者からは委託が原則。取引先への納入価格から手数料を差し引いたものが出荷会員の手取り。買取は原則していない。手数料は 18%。事務経費、物流費全て含める。売り先、作物によって差はつけていない。重量野菜を栽培している人を支援するという意味もある。18%のうち、物流経費は7%台。
・ 選果は個選が中心だが、共選、個選は生産者に選んでもらっている。きゅうりは生産者の方から共選して欲しいという希望があり、パッケージセンターで共選。共選所の利用については、利用料ではなく、原料納品という考えで、仕切り単価を決めている。
・ 生産物ごとに、生産者グループの責任者は一人。生産者グループの最大のものは、トマトで 18 名程度。一般的には 5 名前後が多い。品目グループで基本的栽培基準は作る。
農薬等は統一農薬(品目別)を毎年決めている。施肥設計や土壌分析も法人が行う。専任者を置いて組合で土壌分析をする。
・ 出荷会員数としては、この程度が適当かとも考えている。生産者も 100 名は越えたくない。完全発注制をとっているので、生産者が増えるとコントロールが難しくなる。
3 代金回収リスク管理の実情
(1)取引先への信用リスクに関する考え方、代金回収リスク対策
・ 供給力の不足で契約の希望に応じられなかったことはあったが、紹介してくれる人も自らの取引経過の中で、大丈夫だという考えで紹介してくれているので、信用力の問題で取引を断ったことはない。保証金をもらうこともない。
・ やや不安な先は、当初3か月間半月締めにする等、サイトを短くすることがある。3か月過ぎて大丈夫そうだとなったら月末締め等。不安な取引先というのは、業界でもあまり情報が入ってこないような相手。
・ 取引先の情報は、営業が常にアンテナをはって情報収集している。青果業界は狭い業界なので、情報は入ってくる。毎年決算書等を入手するまではしていない。帝国データバンクや東京商工リサーチの調査も使っていない。
・ 売上の2割以上を1つの売り先に頼らないという方針でやっている。ただし、取引先を増やすのは、農産物の収穫変動のリスクをなんとか緩和したいというのが主なねらい。また、あまり大口の取引先ができると、主従の関係になってしまって、対等に取引できなくなるため。代金回収リスクの軽減にも結果的にはつながっているという程度。
・ 万が一の場合は早期に情報を得て早期に対応するだけ。保険への加入は理事会がどう考えるかによる。
(2)代金回収に失敗した例
・ 販売代金のこげつきは今まで1つもない。こげつき等あった時には、額にもよるが、農事組合法人としての内部留保等では対応が難しい場合もある。出荷組合なので、利益が出たら出荷会員に還元している。リスク対応も含めて、事業会員(事業に対して責任を持つ)を作るという考え方がでてきた。
(3)決済サイト、会員への精算
・ 実需者からの決済サイトは月末締め翌月末払いが中心で、月末締め 60 日後払いも含めれば 95 %以上。生産者に対しては、月末締め 40 日払いで統一。月末締め 60 日払いの分はサイトを短縮化しているが、短めの支払サイトの実需者もある。法人としては運転資金が無いためサイト短縮化には限界がある。
F野菜生産法人
区分:野菜生産法人所在地:北海道・東北
テーマ:野菜生産法人の契約取引調査時期:平成 16 年2月
1 調査先の概要
・ グループ結成は平成9年4月。現在構成メンバーは8戸。
・ 有機JAS法に基づく有機農産物栽培にこだわる農家が、自らの農産物を自らより良い条件で販売することを目的に集まって結成したもの。
・ それぞれ個別に有機農産物の直接販売をしていた農家だったが、取引先のアドバイスもあって、ロットをまとめた方が良いとグループ化し、取引先に信頼されるということで法人格を取得。
・ メンバーとなっている農家が有機栽培で作ったものは農事組合法人を通じて出荷。慣行ものは農協を通じて出荷。
・ 平成 15 年の法人の販売実績は、7000 万円。資本金は160 万円。
・ メンバー農家の経営規模は 10~30ha 程度まで。
・ 専従の事務職員はいない。営業等は、一応グループ農家の中から担当者を決めているが、農業をやりながらなので、合間をみて、全員で対応する。
2 販売先等の概要
(1)販売額、販売先
・ 販売額の内訳は、米が 1000 万円、大豆 500 万円、卵1000 万、野菜がそれ以外(4500万円程度)。野菜のなかではレタスと軟白長ねぎが多い。
・ 販売ルートは、外食が4割。スーパーが2割、市場(仲卸への直接販売)が2~2.5 割。
1.5 割が庭先販売やイベント販売等。
・ 販売先の数は、小額(10~20 万円の取引先もある)のものも含めると、現在19 社程度。
・ 外食では大手外食チェーンと契約。ダイコン、レタス、軟白長ねぎ、ミニトマト等サラダ系商材。仲卸は札幌の有機にこだわっている仲卸数社に出荷(市場外扱いで市場手数料は払っていない)。仲卸を通じて量販店等、様々な先に販売。仲卸への販売も、相場ではなく値段を決めている。年間値決め。
(2)取引先拡大や取引先変化の経緯
・ 組合設立以来取引先は拡大傾向。当初は半分程度の取引先、2000 万円程度の売上から開始した。
・ 近隣出身者で、安全安心や有機農業へのこだわりをもった人とのつながりがあって、その人を通じて外食チェーンに出荷。
・ 取引先の拡大は、マスコミが取り上げる等もあって、バイヤーの方から問い合わせてくる。
・ 需要は増えているが生産が追いつかない状況。大手量販店からバイヤーが来たが、注文量が多すぎてお断りしたこともある。
(3)需給調整、生産出荷の組織化
・ 欠品しそうな時には、早めに連絡して謝る。有機JASだから、他から買って納品というわけにはいかない。欠品しないように、10 トン生産なら7トン契約というような生産にしている。
・ 生産する仲間は増やしたいと思っているが、有機農業という志を一緒にしなければならない。また、あまり増えると組織運営の問題もある。農事組合法人では組合員は平等の権利をもっており、人数が増えすぎると組合としての意思決定が難しくなる。
・ 生産、出荷については、随時集まってミーティングしている。シーズン初めには取引業者との間で、生産計画を作る。
(4)販売の条件、契約内容等
・ 有機栽培は膨大な手間がかかる。化学肥料と農薬を使わないで、代わるものとして堆肥、ぼかしで補っているが、それでも収量が落ちる。草取り等の手作業も多い。これを消費者がどれだけ評価してくれるか。2割程度収量が落ちるから、2割くらいは高く買ってくれといっており、そのような先と取引をしようとしている。
・ 価格については年間1本で決める。再生産コストもあるので、あまり安い場合には、値上げを要求する場合もある。価格は全体に安定している。品物が悪い等のクレームはある。
・ 外食チェーンとは契約書を交わしている。米の販売も一部契約書を交わしている。その他、仲卸への出荷は計画書を細かく取交すことが、契約書代わり。契約書は交わさない先も、契約書以上の信頼関係がある。
・ 「有機JAS法に基づく農産物」となれば、それ以上の条件は言われない。ただし、栽培履歴を送ってくれという業者はある。
(5)契約取引継続のポイント
・ 契約当初に、双方の利害対立が発生しそうなことがらについては、納得のいくように相互理解を高めておくことが必要。例えば、作物の出来不出来があって、必ずしも予定通り出荷できないこともあることや、商品に問題があって返品になる時の条件やその場合の運送料をどうするか、等。また販売代金入金が遅れた場合の手続きや出荷停止等の条
件もきちんと相手と了解しておくことが必要。最初はなかなか難しかったが、現在ではある程度生産者の都合も相手に言えるようになってきた。それに加えて、報告、連絡、相談を早めにやらないとトラブルの原因になる。
・ 商品のクレームは法人に来て、個人に伝える。
・ 出荷最中にスポットで売ってくれといわれる場合もあるが、高い値段を言われても契約先を優先する。
・ 契約を果たすためには、余裕を持って作るが、余った分は直売やイベント等で売っている。大量に余りそうな時には、飛び込み需要にも応ずるが、そういうケースは少ない。
・ 全く知らない先ならば、新規先として販売できるが、仲卸業者等を介した先の顧客に直接販売するという考えは無い。契約書を交わしているわけではないので、中抜きしてはならないというような法律的な義務があるわけではないが、契約書を交わす以上の信頼関係で取引しており、信頼関係を崩すわけにはいかない。
・ 実需者からのニーズは年度の出荷計画の時にすり合わせる。生産量を増やせないかというニーズがある。
・ また、他の農産物も有機JASで作ってくれないかというようなニーズもある。農産物によっては、手間の割に売上があがらないものもあり、慣行栽培で買うように要請する場合もあるが、取引関係の中で、新たな作物の栽培に取り組むこともある。作るメリットがあまり無いものは仲間で話し合ってみんなで平均して作ったりしている。取引先からの要望は、多様なものを作ってくれというニーズが多い。
(6)デリバリーについて
・ 有機JAS法なのでシールを貼って出荷。
・ 生産物は、東京横浜は運送会社で出荷。札幌も運送会社に委託。集荷に来るケースは少なく、通常は先方まで運ぶ運賃込みの値段。
(7)インターネットを通じた直接販売
・ インターネットでの通販等は考えているが、なかなか広まらない。会員組織を考えているが、インターネット販売や個人売りは、代金回収やトラブルの問題も多いと聞く。10 kgのお客さんのトラブルも、数千万円のお客さんのトラブルも、クレーム対応の事務コストは同じだから、小額販売でトラブルが発生すると、相対的にはコストが大きくなるから、効率的な方法を考えなければならない。代金も前払い方式等が安全ではないか。
3 代金回収リスク管理の実情
・ 代金回収をきちんと行うことは重要だが、信頼できる取引先からの紹介等を通じて顧客を拡大してきたこともあり、これまでは代金回収の失敗は無い。
・ 決済サイトは相手先によって違うが、月末締めの翌月末までの支払いが基本。月末に当
月の出荷を締めて、翌月5日までに納品書と請求書の一覧表を作って、実需者に請求。その月末までに入金してもらう。入金があってから、その翌月の5日までに組合の手数料(3%)を引いて出荷者に振り分ける。
・ 保証金等はもらっていない。
・ 3%の手数料を内部留保にしようとはしているが、7000 万円の売上では 210 万円なので組合の維持費、研修費等に使っている。資本金を増額しようという考えはある。
・ 現時点では仮に代金回収事故があったら、皆で負担するしかない。
・ 取引を開始する場合に、信用情報を利用することも通常は無いが、ある程度大きな取引の場合に、外部信用情報を利用したことがある。
4 その他
(1) 有機農業と慣行農業
・ 法人化しているメンバーもいる。一定の取引先があって、作れば一定の値段で売れるという強みがあり、その面では経営はしやすいのではないか。慣行では値段もわからない。
・ 有機と慣行では有機を増やしたいが、手間がかかり限界があるので、慣行農業もやっている。メンバーも個人の経営面積の3割程度で有機農業を行っている。
(2)今後の販売方針
・ 供給体制が整う範囲内では売上高を伸ばしていこうという方針。しかし、生産に手間がかかる。手で草を取る等の厳しい労働があるから、有機農業の増加には限度がある。ただ現在は安全安心重視が追い風になっている。
G農協
区分:総合農協
所在地:北海道・東北 テーマ:農協の契約取引
調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 組合員数 3,590 人、うち正組合員数 3,069 人(正組合員比率 85 %)
・ 農産物の販売は、指導販売課が担当している。指導部門と販売部門を統合した理由は、生産と販売を連携させてトレーサビリティに対応するため。課の中で、指導担当、販売担当、トレーサビリティ(+研修生受入)担当の3つに分かれている。
・ 販売担当職員は本所と支所(現場も含む)を合わせて 40 人。
・ 野菜の販売担当の内訳は、卸売市場担当が 5 人、契約的販売専任が 1 人。
・ 販売担当次長は、過去 12 年間販売に携わっている。途中1年間Aコープに異動したが、小売業務の経験が販売にも活かされている。
2 取引の概要
・ 平成 14 年度の農産物の販売・取扱高は70 億円。内訳は、穀物12 億円、野菜58 億円。
野菜の内訳は、ながいも32 億円(数量は 9,371 トン)、にんにく 10 億円(2,463 トン)、だいこん 5 億円(8347 トン)で野菜取扱高の8割を占める。
・ 野菜の販売・取扱高のうち卸売市場出荷が 8 割で、残りが直接販売。卸売市場出荷では予約相対取引は少ない。全農集配センターにも出荷しているが、契約書は締結していない。
・ にんにくを除いた品目では、卸売業者は、合併前に100 社以上あったものを 13 社に絞った。安定出荷できないとメリットを発揮できないと考えたため。にんにくの場合は臭いを抑える加工を施して販売しているので、出荷している卸売業者は多い。
3 契約取引
(1)概要
・ 契約取引では、仲卸会社、中堅中小スーパーの協業組織と直接取引を行っている。これら以外で取引金額の多い食品商社との取引では、全農県本部と農協と業者の三者で契約書を締結しており、全農県本部は業者から前受金を受けている。
・ 販売価格は等階級ごとに決めており、全業者で共通(年間値決め)。価格は、収穫数量、過去の単価、流通業界の動き等を見ながら決めている。
・ ながいもの等階級は 24 と細かく分けられているが、業者が求める等階級はLや2Lの
特定のものに集中しがち。なるべく集中しないように振り分けている。
(2)契約取引を始めた経緯
・ だいこんの契約取引が最初。だいこんは相場の変動が大きい。近年の安値傾向の中で、農家には値決めで安心感を得たいという要望が強かった。そこで、加工業者や漬物業者との契約取引を始めた。
・ 契約取引を行うには安定供給と安定品質が前提。しかし個人ごとでは出荷品質が不安定であるため(現金で買取る出荷組合と農協の価格競争が背景にある)、業者への安定供給が難しい。そこで農協が「共同組織育成要領」に基づき、安定供給を確保するために、 14~15 人の生産組合を組織した。生産組合の中で栽培計画・出荷計画を作成し、安定供給できる仕組みにした。
・ 生産組合に対しては、農協への出荷金額に応じて奨励金を支払っている(5 千万円未満
0.3 %、5 千~1 億円未満 0.5 %、1 億円以上 1%)。これとは別に、洗浄・選果施設を持って共選している組合に 1.0%、施設をもたずに個選の組合には0.3%の奨励金を支払っている(平成 16 年度からは半分)。
(3)仲卸業者との契約取引
・ ながいも、ステビアトマト、こかぶ等を仲卸業者に販売。取引金額は年間4億円。
・ 仲卸業者がパッケージを行って卸売市場に出荷。農協と仲卸業者との手数料は 5.0 %で行っている。
・ 農協と仲卸業者の二者で契約書を締結。覚書で単価を決めている。
(4)販売先の開拓
・ 以前は農協が販売先を開拓していた。最近では、以前農家が農協を介さずに出荷していた販売先について、農協に代金を回収してもらうために、農協を介するようになったケースもある。
(5)契約取引の今後の意向
・ 契約取引分を増やしたいが、数量が確保できないのでこれ以上の拡大は難しい。全体でみると出荷量は多いが、日別等階級別にみるとの1日の1等階級当たり出荷量はそれほど多くない。実需者のニーズはいくつかの等階級は限られているため、出荷量全体の2割が契約取引の限界。
4 代金回収
(1)代金回収リスク対策の積立金
・ 平成 14 年度から代金回収リスク対策を始めた。内容は、生産者と農協が毎年販売金額
の 0.2%を各々積み立てるというもの(計 0.4%、02 年度は 2,320 万円)。5年間で 1
億円が目標。積立金は農家に明細書を発行し個人名義で管理している。
・ 積立金の用途は代金回収事故の補てん。積立金の使用に当たっては、経済担当理事、担当課長、各部会長が集まり、検討する。
・ 平成 14 年に取引のあった漬物小売業者が倒産した。この時、3 か月分の代金 200 万円が回収できなかったので、積立金から拠出した。
(2)決済方法
・ 仲卸業者の中には、決済サイトは1週間で、出荷の最盛期の売上は月 5,000 万円以上の業者もある。農協の普通預金の口座に 1,500 万円の貯金があり、売上代金はそこから引き落とされており、残高が足りなくなればすぐに入金されるようになっている。
・ 契約書を締結しない取引先には前渡金を受けている。
・ 決済サイトは、1週間、10 日、半月、1 か月、3 か月といろいろ。3 か月の取引先は漬物業者とホテル。
・ 生産者への支払いサイトは、出荷の 1 週間以内。ながいもとにんにくは出荷時に生産者に仮渡金を支払っている。品質が悪く、仮渡金が回収できない場合には仮渡金の返済を生産者に求めることもある。請求後1か月以上経過した場合には 6.8 %の金利がつく。仮渡金の返済は過去2件あったが、生産者の技術的な問題から発生したもの。
(3)信用情報の入手先
・ 取引開始前は信用情報を利用している。
・ 取引開始後は業者の話を聞いて判断している。
(4)金融サービスの利用意向
・ 保険等に加入するかどうかは料率次第。
・ すぐに加入できるものでないと、取引の時期を逃してしまう。
(5)債権管理規定
・ 債権管理については、定款で定めている。
H農協
区分:総合農協
所在地:関東・東山
テーマ:農協の契約取引 調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 組合員数約 26,000 人、うち正組合員約16,000 人。
・ 職員数約 400 名
・ 近年、直販開発部を立ち上げた。
2 経済事業(販売)の概要
・ 2002 年度の農産物販売取扱高は約 120 億円。青果物が約 70 億円。
・ 直販事業は 2002 年度から販売高が計上されており、約5億円。内訳は米が2億円、青果物が1億円、直売所が1億円。
3 販売部門の概要
・ 直販開発部は現在正職員7名。販売営業1課と販売営業2課に分かれる。
・ 1課は直売所担当と米の直販(学校給食等が現状では多い)。米については、県指定の千葉エコ米の直販を今後行おうと考えている。生産部会に諮って、千葉エコ米を生産する農家をつのる予定。
・ 2課は、契約取引担当。量販店、外食、中食等への営業、イン・ショップ等も担当。
4 野菜取引について
(1) 契約取引の内容
・ 契約先としては、業務用として給食向けやカット野菜生産会社に出荷。
・ 外食向けにはベンダーに野菜を出荷。ベンダーがカットして、外食向けに供給している。
・ 県の認証による、千葉エコ栽培にんじんを 37~38ha 栽培する計画があり、卸売会社を通して、量販店と契約取引をしようと働きかけた。これについては、卸に対して、契約取引の対象になるような規格については、卸の買い付けにしてくれと要求を出した。
・ この取引は県本部を通している。契約は県本部と卸との間で結ばせ、代金回収リスクを転嫁し、全農手数料 1%と市場手数料 5%を払うことで決着した。と同時に、契約取引の規格に合わないものは、市場で販売してもらうことにし、その分の手数料は 8.5 %とという契約を行った。
・ このような取引ができるのも、それをやっても、スーパーが千葉エコ栽培にんじんを売
りたいという希望があるため。需要サイドが最終的には産地を選ぶ。
(2) 販売先の開拓
・ 販売先の開拓は直販開発部の役割。
・ 今後は中食が伸びるのではないかと見ている。外食は過去 2 年間で 28 兆円から26 兆円に市場規模が縮小している。長期不況で外食に行く機会が減っているためだろう。
・ 一方で惣菜等の中食は増加の一途。食品会社と商社が合弁で冷凍野菜の製造販売企業を設立するし、他の商社は病院や老人ホーム等の給食ビジネスでシェアを伸ばしている。そのようなところにも、営業に行く。
・ 情報はインターネットでかなりとれ、後は積極的に営業に行くことが必要。
・ 農協職員は外部に対して販売の営業を行ったことが無い。どのような野菜が消費者に好まれるかということにも、これまであまり関心を払ってこなかった。ネギもかつては3本で一束だったが、現在では2本、ないしバラ売りしている。
・ 主要産品の一つであるネギについては、外食や中食業者等がどのように考えているかということを聞く機会も設けようと思っている。
(3) 契約取引に対する今後の意向
・ 直販開発部の販売高は、14 年度は約5億円だが、15 年度は米5億円、青果物4億円、直売所 2.8 億円程度で、計 12 億円程度になる見込み。16 年度はもっと伸ばす方針。イ
ン・ショップも、いくつかの量販店で出店が増えている。直売店も 14 年 10 月に 2 号店が開店した。
・ 千葉エコ栽培米は「米改革」を背景に地域のブランド米として育成しようとしているもの。従来は早く田植えをして、早く出荷しようとする農家が多かったが、田植え時期や収穫時期も決めて、完熟させて蛋白含有量を減らす等で、味を良くし、使う肥料や農薬も制限する。米の産地間競争が激化する中で、直販開発部での取扱を増やしていきたい。
・ 農産物を売ることに関しては、生産者の意識改革も必要。
(4) 契約取引推進上の系統組織の役割や手数料
・ 系統上部団体は、もう少し積極的に、農協に売り先を提案してくるべきではないか。
・ 県内では個別には積極的に直販を行っている農協もあり、パッケージセンターをもっているところもある。
・ 販売事業の手数料は、市場出荷は2%だが、直売所では 15%(運賃込み、ダンボール代等はかからない)、イン・ショップは15%(運賃込み)。
(5) 卸売市場や卸売会社の最近の動向
・ 地方市場の卸売業者も、販売先を見つけてきて、農協に品物や条件面での提案ができる
ようにならなければ、経営が難しくなるだろう。
・ 産地や農協も大規模化が進んだため、出荷が大消費地に向いている。地方市場への出荷という意識が低下している。地方市場では集荷ができず、その地方でとれた野菜が、東京市場を経て、再びその市場にいくこともある。
・ 当方も、卸売会社を、売上高、経常利益、自己資本比率(10%以上)、流動比率(100%以上)、経営戦略の有無等でAからDまで4分類し、A、Bにのみ出荷することとした。従来からの付き合いのある生産部会は、すぐには納得しないが、最終的にはその方針で出荷する卸の数を減らした。
・ 卸売会社も、変わらなければならない。コールドチェーンが必要と産地には予冷を指示しながら、市場ではその施設が無い。衛生面で問題のある市場も多い。トレーサビリティ問題に市場として対応しているところも少ない。
(6) 流通業の他社動向、農協以外の集出荷組織について
・ 野菜の流通も日々大きく変わりつつある。ホームセンターを展開している流通グループが、新たな業態としてホームセンターに食品販売を合わせた、「スーパーセンター」を多数展開しようとしている(米国などではみられる業態)。既存店舗では店周の用地買収が進んでいる。そこでは、近隣の「やる気のある農家」からの青果物の購入をうたっている。
・ その流通グループは農協のやり方を学んでいる。販売品の代金回収ができてから、資材購買の決済をするというような契約を専業農家と結んで、代金決済サイトの面からの有利性を提供して専業農家を取り込もうとしている。そのように大胆な発想と行動力で展開してくる小売業に対して、農協も対応していかなければ、組合員が離れていくばかりだ。
・ 独自の生産・出荷組織の中には、30~40 代の専業農家をうまく組織しているものもある。農業を継ぐ若い人がいなくなるなかで注目すべき動きだろう。比較的均質な生産者だから、同じ目的に向かって行動できる。農協の場合は、直売をしたい農家、市場出荷でよいという農家、イン・ショップで販売した農家、有機農業をやりたい農家等、様々な農家が基盤となっているため、それぞれの農家に応じた販路を確保していかないと組合員が離反する。いままで卸売市場一辺倒でやってきたことがおかしい。農業の生産条件はそれぞれ異なっている。
5 代金回収について
(1) 契約取引における決済の仕組み
・ 決済サイトは契約取引の場合は総じて市場より長いが、今のところ、生産部会に対しては、契約取引を行っても、決済は1週間以内には農協が行うとして、契約取引に参加をしてもらっている。農協がその分は一時的に立て替えている。ただ、外食産業のような
ところと取引を拡大しようとすると、決済サイトが2か月といったような長期のものもある。これは別途検討しなければならない課題。
(2) 取引開始時点の信用調査
・ 帝国データバンクの信用調査を利用する。
(3) 債権管理規定
・ 契約当初の調査等以上の、細かな債権管理規定は整備されていない。今後の課題。特に米の直販を始めると一回の取引で千万円単位の売掛金が発生するから、その場合の対応等は、きちんと決めておく必要があろう。
(4) 金融サービス利用意向
・ 現状では、保険料の点や取引先数の点で、保険の枠組みには入っていないと考えるが、米の直販等で販売先が増えれば、米については取引金額が多くなることから、保険について考慮することもあろう。
(5) 代金回収リスク軽減のために必要とする情報
・ 代金回収リスクを軽減するといっても、信用調査等、ごくあたりまえのことをしているだけ。契約書を取り交すのも商取引を行う以上当然。
(6) 契約取引の代金回収上の問題
・ 契約取引の問題点として、取引ごとに送金してもらうと、為替手数料が負担になる。買い手は手数料を除いた金額を振り込んでくる。毎週の為替送金のようになると、件数が増えた場合、コストとして無視できない。決済サイトをある程度長くして、振込み回数を減らす例もあるようだが、その場合は資金繰りや信用リスクが高まるという問題がある。
I農協
区分:総合農協
所在地:関東・東山
テーマ:農協の契約取引 調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・正組合員数 約 3、500 人。
・販売品販売高約 200 億円(野菜中心)。
2 経済事業(販売)の組織概要
・ 販売関係の職員数は、正職員で 30 名。本所は約 10 名、支所 20 名。営農指導員は野菜関係で12名。全農県本部の駐在所が併設。
・ 現在支所ごとに行っている販売事業経理事務を一元化しようとしている。
3 野菜取引について
(1)野菜の販売実績
・ 14 年度の販売実績によれば、レタス、ハクサイ、サニーレタス、グリーンリーフ、グリーンボール、キャベツ、チンゲンサイ等が主要な出荷品目。
(2)契約取引の内容
・ 契約取引は出荷量の 2~3 割程度。品目によってはまだ増やす余地があると考えているが、総額としては、ほぼ限界。
・ 契約取引については、9割が、全農県本部を通じた予約相対や相対取引。農協が独自に契約している先は、直販含めて契約取引の8~9%程度(出荷全体の2%程度)。予約相対の形での契約取引は 10 年以上前から行っている。
・ 予約相対の場合の価格の決め方は、年間と週間が半々程度。スライドという、日々の市況に連動するものもある。価格については、県野菜の一定の価格レベルを元に、県本部が需要サイドと交渉して決める。
・ 集配送は現地引取りということで、基本的には産地がコストを持つ。市場に送るもの、直送するもの等はそれぞれ個別に異なる。
・ 契約取引を行う理由は、出荷量や価格面で安定した取引ができること。また需要サイドも、かつては野菜の実需者の7~8割がスーパー等の量販店だったが、現状では外食や中食業者等が 5~6 割を占めるにいたっており、そのような業者も、安定した集荷や価格が望ましく、次第に契約取引が増えてきた。
・ (予約相対取引は事務手続きが面倒だという声もあるが・・・)卸や仲卸の方にはそのような問題があるのかもしれないが、当方では事務上の問題は無い。
(3)販売先選定
・ 予約相対取引等の契約先の選定や条件等は県本部の東京、大阪事務所等で行っているが、支所ごとに独自の契約先を持っている場合もある。
(4)農協の直販事業、手数料
・ 農協の直販機能については、今後は強化していかなければならないと考えており、地産地消(地元小学校への出荷)やレタスの輸出等も試みている。ただし、地産地消といっても量は限られる。
・ 農協の手数料は、農協への出荷額が増えるほど、手数料率が減少するような形をとっており、最大で 1.95 %。
・ 商物分離の場合は、市場手数料も見直しが必要。現状、表面的には 8.5%の手数料を落としているが、買い付けの形にして割戻しをさせたりしている。
(5)契約販売における需給調節(欠品リスクへの対応)
・ 当農協の野菜は、出荷時期における全国シェアが高く、他で調達できるようなものでもないので欠品は出さないようにしている。今年は天候不順で契約通りの出荷に苦労したが、基本的には話し合いで調整し、等級の変更を認めてもらって、量は契約通り出荷した。天候悪化等のリスクもあり、現状以上に契約出荷は増やせないと考えている。
(6)契約出荷品の内容
・ 減農薬減化学肥料等の特別な栽培方法を指定されている契約は少ない。
・ 特定の栽培方法を指定されていない契約については、共選出荷品の中から契約等階級を出荷。ただし、共選共計のありかたは支所別に異なる。
5 代金回収について
・ 予約相対の代金決済は市場経由なので1週間以内。農家に対しても2週間以内に入金。
・ 農協の個別契約先については、取引を始める際に帝国データバンクの信用調査を利用。
・ 農協が直接契約を結ぶ場合は、当農協独自の売買基本契約を結ぶ。そこには、代金決済については、5日以内(加工製品は1か月以内)、遅延損害金の規定、取引額に応じた定期預金の差し入れ、保証人をつけること、等が明記されており、基本的にはその条件を相手先に了承してもらっている。このような契約条件は、当農協の出荷野菜が、出荷時期に高いシェアを占めていることを反映している面もあるかもしれない。
・ 取引を始めてからのリスク管理としては、預金差し入れやその範囲内での出荷、入金が
遅れた場合には出荷停止等を行っており、代金回収の事故は一度も無い。
6 その他
(1)野菜の生産、販売をめぐる最近の変化
・ 実需者に加工業者等のウエイトが高まるにつれて、野菜の評価も変わりつつある。以前よりも、歩留まりが重視されるようになり、それによって、作り方も影響を受けている。量販店でも 1/2、1/4 カットの野菜が売られるようになったことで、そのような形で売った場合に売れる野菜に対するニーズが高まっている。
(2)契約取引に対する今後の意向、実需者との直接契約に対する見方
・ 契約取引については、指定された等階級で指定された出荷量を確保することを考えると、現状の3割が限度とみている。露地栽培であるために天候要因の影響が大きく、工場の ようには生産できない。
・ 実需者と個別に契約することは、当農協のような、品目の限定された野菜を大量に栽培している産地では難しい。取引先の数が多くなってしまい、そのそれぞれと契約していては事務だけでも膨大になる。それは県本部や仲卸等の実需者を取りまとめる機能を持っているところに委任した方が効率的。
J農協
区分:総合農協
所在地:東海・近畿
テーマ:農協の契約取引 調査時期:平成 15 年 11 月
1.調査先の概要
・組合員数約 5 万人(うち正組合員2万人、准組合員3万人)
・職員数約 1,400 人
2.販売事業(経済事業)の概要
・ 販売事業の総販売額は 90 億円強。野菜だけでは 30 億円程度。主な作物は、地域共計品目としてキャベツ、たまねぎ、ふき、がある。
・ 農協が直接間接に運営している直売所での農産物売上が 20 億円ほどある。野菜だけの数字はわからないが、8割程度は青果物ではないかとみられる。
3.販売部門の組織
・ 営農経済部は各地区にある営農センターの人員も含めれば総勢 200 名程度。本所の販売課は6名。本所は各地区の営農センターの統括機能。
・ 販売に関しては、基本的に経済連と一体となって推進している。
4.野菜の販売、契約販売について
(1)野菜販売の概要
・ 地域共計品目の販売は基本的には経済連出荷で、配荷は経済連が行っている。主に東京方面の市場に出荷。
・ 市場出荷も相対を中心とした価格形成。ふきについては、中核となる販売先 13 社と月に一度販売会議を実施している。
(2)契約取引の実態
・ いわゆる契約取引をしているのは、たまねぎ、キャベツ等で、売り先は業務用(外食や惣菜等)。これらの契約も、経済連を通しての契約であり、経済連が実需者の希望をとりまとめ、農協と経済連との間で、出荷規格、出荷数量、価格について設定し、契約を結ぶ。
・ 契約取引に関しては、市況如何に関わらず出荷量を確保する必要があるので、農協は各農家との間で出荷に関する契約書を結び、不足分は買入れをしてでも出荷するようにと
いう条項を設けている。
・ この条項は今年から入ったもの。たまねぎ等では輸入品の増加が急激だったが、昨年は SARSの影響や残留農薬問題等で輸入が抑制され、国内産の価格が上昇。すると契約通りの出荷量を出荷せずに市場向けに販売する農家もみられたため、今年から、契約量については責任をもって出荷する、という条項を含んだ契約書にした。その結果、契約取引に参加する農家は減った。
・ 天候リスクがあるために、生産の 100 %を契約出荷するという農家とは契約を結ばず、市場出荷と両方行う農家とのみ契約を結ぶ。
・ 契約を行っているのは、管内でも外食や業務用に適している地域の、ある程度経営規模の大きい農家が多い。
・ 農協としては、業務用の契約は、確実に売上は確保できるものの、輸入品との競合のために価格の水準が低いため、組合員に特に勧めているわけではない。市況が上昇した場合も契約した出荷量を守り、「確実な収入」という点にメリットを感じる農家のみが参加してくれれば良いという立場。
・ 市場出荷の方は、価格安定基金等によって、価格が暴落した時にも、最低限の保証がある。たまねぎやキャベツといった輸入品との競合の厳しい野菜で、業務用の契約取引を増やすよりは、契約取引は一定額の安定収入と考えて後は市場出荷の方を勧める。
・ 業務用の契約取引については、経済連との間では年間1回の契約だが、農家との間では、種の購入から栽培過程での出荷予定時期の確認等、随時行う。
(3)生協との契約取引を開始
・ 近隣の生協との間でミカンの契約取引を今年から行っている。量は 50 トン。取引のある卸から農協に話があった。減農薬、減化学肥料の特別栽培農産物で早生ものを契約で出荷。卸からの紹介という例はそう多くは無い。契約は経済連とJA、生協の3者で交わしており、手数料や決済は市場と同じ。生協は栽培基準についてかなり厳しく、何度も圃場を訪れたりしている。
・ 生協との取引は、これまで農協に出荷してこなかった農家を農協に取り込むというのが一つの狙い。農協も特別栽培の青果について、販路を開拓しているということを示して、農協に出荷してこなかった農家にも、契約栽培に参加を募っている。
5.代金回収について
・ 代金決済については、すべて経済連を経由させていることで、市場と同様の短期の決済が可能になっている。独自で契約取引を行う場合、代金回収リスクと決済サイトの長さがどうしても問題になり、それを解決する策として、系統利用は最善の策と考える。
6.直売所について
・ 直売所に出荷する農家を増やすのも重要な課題。直売所に出荷するには、年間1000 円の会費を払い、後は出荷者が自ら運んできて、売れなかった場合は自ら回収する。
・ 直売所ではパートを中心に販売員を置いている等、コストもかかるので、農協の販売手数料は15%。
7.その他
・ 管内は広く、大都市に近い地域では、古くからの卸との付き合いで独自出荷している農家も多い。
・ 今後の課題は、市場以外の多様な販売チャネルを開拓していくこと。空港関連事業、量販店へのダイレクト販売、食農教育をもみすえた学校給食への参入等、あらゆる販売先への展開を考えている。
・ 管内では 13 種類の野菜について、特別栽培農産物の認証を得ており、大田市場の「個性園芸室」等に出荷し、顧客もついてきている。このような付加価値をつけた野菜の販売拡大やより有利な販路の開拓についても、今後の課題。
K農協
区分:総合農協所在地:九州
テーマ:農協の契約取引 調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 組合員数は 12,712 人。うち正組合員は10,684 人(正組合員比率84%)。
・ 職員数は合計 663 人。うち園芸課の職員数は 35 人。
2 取引の概要
・ 平成 14 年度の販売・取扱高は 138 億円。うち野菜(果菜含む)は 63 億円。
・ 主な品目は、トマト、きゅうり、だいこん。ほうれんそうは周年出荷だが、大部分の品目の出荷時期は夏秋。
・ 直売所以外はほぼ全て卸売市場に出荷している。出荷している卸売業者は、九州、大阪、東京等で合計 100 社程度になる。このうち販売・取扱高が比較的大きい 30 社と予約相対取引を行っている。
・ スーパーからは直接取引をしたいというニーズもあるが、直接取引の場合には代金回収リスクと物流の問題があるため、卸売市場を経由している。少量を直接取引すると運賃が高くなる。
・ 農協の直売所は4か所ある。直売所で販売されている農産物は、共販ではない家庭菜園の農産物が多いが、直売所から要望があれば共販から引いてくることもある。
3 予約相対取引
・ 野菜の販売・取扱高のうち約 50 %が予約相対取引。
・ 福岡の市場では、予約相対取引を行うと、大手の仲卸業者がごっそりもっていってしまい、セリに参加する大手の仲卸業者が減ってしまうため、セリが不活発になり、価格が下がってしまうという面があり、悩んでいる。
・ 予約相対取引は 10 年前から始めた。背景には夏秋ものは台風や干ばつといった天候変動が多く、価格が乱高下しやすいことがある。産地としては価格を安定させたいという要望があり、実需者としては仕入を安定させたいというニーズがあった。夏秋産地は少ないが、当農協は品質がよく、産地のイメージがよかったので、予約相対取引が増えた。
・ 予約相対取引の値決め期間は、1週間、1か月、2か月等様々。期間が1年間にわたるものは契約書を締結している。1年間の取引先はだいこん加工品を製造している加工業者。
・ 契約を長期にすると、欠品リスクがある。
・ 生産者が出荷したときに翌日の出荷量を確認し、翌日出荷がないときには翌々日の出荷分を電話で確認するようにしていた。
4 代金回収事故とリスク軽減策
・ 取引先の信用調査はとくに行っていない。卸売業者の情報は経済連経由で情報を入手している。
・ 合併以来、経済連の指示で取引を停止した卸売業者が年間 1~2 社ある。
・ 過去に代金回収事故を経験したことがあるが、農協が個人にかんしょを宅配で販売したもの。
・ 代金回収事故が起きた場合、担当者が業者に出向き、支払い方法を相談する。それでも回収できない場合には、担当者の責任になり、担当者が代弁することになる。
・ 代金回収リスク軽減について知りたい情報は取引先の経営状態。
・ 保険等のサービスも条件が合えば考えたい。
5 出荷先の統合と部会の統合
・ 現状では出荷している卸売業者数が多すぎる。何年かかけて絞っていく予定。
・ 現在、どこの卸売業者に委託するかといった分荷は、大部分の品目は各営農センターで 行っているが、メロンは経済連が分荷している。農協本所では計数処理等の業務を行っ ている。1つの卸売業者に2つの営農センターから出荷されることもあり、営農センタ ー間で競合が生じている。同じ卸売業者に出荷されるものを本所でまとめることが課題。
・ 旧農協ごとに部会があり、経済連の規格はあるが、部会ごとに規格が異なるという品目もあり、統合は難しい。部会を統合したいが、統合に反対する生産者は個人で出荷している。
L農協(販売連)
区分:総合農協
所在地:北海道・東北
テーマ:農協の地域販売連の契約取引調査時期:平成 16 年 2 月
1 調査先の概要
(1)組織
・ 平成7 年に4農協の野菜の販売部門を統合して事務局を設置し、平成8 年に法人化した。当時は近いうちに農協が合併することを念頭においており、まず販売・取扱高の少ない野菜のロットをまとめることが目的だった。
・ 販売連の運営費は4農協が負担しており、2割は各農協の平均割、8割は各農協の販売・取扱高で按分している。
・ 職員は農協の担当者が出向している。今年度から、トレーサビリティに各農協で対応するために、葉菜類の販売業務は農協本体に戻った農協もある。
・ 職員数は 16 年 1 月末(15 事業年度末)までは正職員 21 名、臨時職員 7 名の計 28 名
だったが、前述のような経緯から 2 月から正職員 12 名、臨時職員 6 名の計 18 名。
(2)販売・取扱高と販売先 a 全体
・ 平成 15 年度の販売・取扱高は 52.6 億円だったが、葉茎菜類が農協に戻ったため今年度
の計画では 32 億円に減少する。内訳は、たまねぎ15 億円、かぼちゃ 1 億円、食用ばれ
いしょ 2 億円、長ねぎ 1.3 億円、花き 7 億円、キャベツ3.5 億円。
・ 卸売市場出荷が 6 割、市場外は 4 割。経済連経由が 7 割、3 割は販売連が直接販売。
b たまねぎ
(a)販売連全体
・ 販売連経由で販売しているたまねぎは全部で 2 万 2,000 トン。このうち、20%程度を県域全体で取組んでいる加工原料用に共計の仕組みの中で販売している。たまねぎでこのような仕組みで販売しているのは、面積が大きく、一時に出荷すると暴落するので8か月かけて販売するため。面積+取扱量(過去3年平均)で数量が農協ごとに割り当てられ、経済連と販売連が契約書を交わす。
・ 平成 10 年から減農薬で栽培したたまねぎ 6,000 トンを卸売市場経由の相対取引で販売しており、価格は年間1本となっている。
(b)販売連を構成する1農協の契約取引
・ 生協の子会社、外食向け加工業者、卸業者、加工業者向けに契約で販売している。
・ また卸売市場で価格を決めて、大型コンテナで九州に運び、九州の商人のパッケージセンターで小袋詰めやダンボール箱詰している取引もある。産地で選別して消費地に運ぶとロスが出るが、消費地でのパッケージは歩留まりがいいので評判はよい。
2 契約取引の概要
(1)経緯
a 生協との取引
・ 18 年前に販売連を構成する農協の1つの部会で、減農薬・減化肥で栽培したたまねぎを生協に販売したのが契約取引の始まり。当時、生協からの依頼を受けて始めた。その後、その生協がダメになり、生協の子会社で農産物を全国に卸している会社に出荷。
・ 価格は年1本で4月中旬に決める。産地倉渡し価格で、運賃は生協子会社が負担。
・ 荷姿は先方からの指示でコンテナ、ネット、ダンボール形式などさまざま。規格は 2L
~M までの混み。個選個販。
b 加工業者との取引(実需者は外食業者)
・ 5年前から、加工業者を通じて外食業者に減農薬・減化肥で栽培したたまねぎを出荷している。取引量は年間 400 トン。
・ 先方から部会長に問合せがあった。2年間の試作を行って本格実施となった。
c 生協・加工業者との取引の共通事項
・ 商流は経済連経由になっている。経済連経由なので契約書は締結していない。経済連を経由しているのは代金回収リスクを回避するため。経済連が取引先から保証金を得ているので、代金回収は問題ない。
・ 販売連も経由しているが、販売連の手数料は農協に支払う仕組みになっている。
・ 減農薬・減化肥栽培は全体の3割までと決めてある。減農薬・減化肥栽培の過剰生産物は慣行栽培物と同じように出荷し、欠品が出そうな場合には、出荷前の 7~8 月の段階で取引先に伝える。
・ 減農薬・減化肥栽培の生産者は、かつては 33 戸いたが、できない人がやめて現在は 19
戸。農協全体のたまねぎ農家は 28 戸。収穫すれば収入が計算できるので出荷者は多い。
d 経済連を介さない直接取引
・ 経済連を経由しているのは卸売市場、生協子会社、加工業者で販売・取扱高の 7 割で、残りの 3 割は経済連を介さずに直接取引している。
・ 直接取引は 10 社程度で全て県内の業者。継続的に取引している。県外の業者は見に行
けないので危険。販売連会長の承諾を得るために、全ての取引先と契約書を締結する。直接取引している業者は卸業者がほとんどで、いずれも販売連設立後に開拓した取引先。
・ 直接取引する場合には前受金を必ず受けており、受けない場合は監査で指摘される。例えば、500 万円積んでもらえば 500 万円分出荷する。1~2 件は保証金として定期貯金を積んでもらったこともあるが、大抵は前受金。残高がなくなれば入金してもらう。
・ 経済連を経由していないが、信用調査は経済連で行ってもらっている。経済連を経由しない理由は、経済連を経由すると、生産者部会の中で代金決済が遅いとか手数料は出せないという話が出てくる場合や、取引先が経済連は通したくない場合があるため。経済連は本所一括なので、交渉が遅くなり、決まる取引も逃してしまう場合もある。販売連で対応する場合は、担当者で決まるので早い。また前受金は、販売連での場合には少額で済むが、経済連の場合には金額はもっと多額になる。
(3)営業
・ 全国に営業に行ったり、スーパーやデパートの農産物フェアなどで販促している。営業では、数量交渉、売り込み、陳列方法を考えたりしている。生協との交流もある。
・ 生産者の手取り 10a 当たり 25~26 万円以上を基準に価格交渉している。
(4)販路開拓
・ 大手商社に長年付き合っている人がいて、直接の取引はないが取引先を紹介してくれる。
・ 青果販売担当者として一人前になるまでに10 年かかる。
・ インターネットで売ろうとすると、さまざまな問題が起こるので職員が何名も必要になる。インターネットの代行業者では消費者に伝わらずうまくいかない。
(5)代金決済
・ 生協との決済は月締め翌月末払い、加工業者は2週間以内となっている。
・ 生産者への精算は販売先からの入金後。1月末決算までには、精算が間に合わなければ概算金を支払う。
・ 生産者には決済サイトを説明してあるので、早くしてほしいという要望はない。
(6)代金回収リスク軽減策
・ 債権管理規定のようなものはない。
・ 経済連を経由できるものはできるだけ経由している。取引先が経済連を介したくないという場合には販売連に前受金を積んでもらって取引する。
・ この仕事について 25 年になる。商談をしていると、お金があるのかないのかだいたいわかる。危ない人は大抵高くいってくる。相場でありえないことをいってくる人には気をつける必要がある。
M農協
区分:総合農協
所在地:関東・東山
テーマ:農協の契約取引調査時期:平成 16 年 2 月
1 調査先の概要
・ 市場販売品の販売額は合計 86 億円。そのうち、野菜は 60 億円程度。内訳は椎茸 16 億
円、こんにゃく 10 億円、きゅうり6億円、なす5億円、にら5億円等が主だが、取り
扱っている野菜の品目数は多い(果樹花きあわせて200 近くにのぼる)。
・ 営農事業本部は、営農、販売、(営農)購買、3 か所の営農センターからなる。販売課が 27 名(市場向けの販売)。直接販売は、市場販売品と手数料率や事務作業が異なるた
めに営農購買課(全体で 20 名)に属しており、直販グループの職員は5名。直売所の運営とインショップ販売を担当。
・ 正組合員戸数は 7600 戸程度。
2 契約取引の実情と代金決済リスク管理
(1) インショップ販売の実情と代金決済 a 経緯
・ まず地元に直売所を作った。量販店から、直売所の感じで出店できないかという相談があった。実需者からの提案であったために、農協の希望条件が比較的通った。インショップは、他の量販店でも増加。
・ 直販事業(インショップと直売所)の販売額は14 年度実績で 12.6 億円程度。
b 顧客拡大
・ インショップ展開の実績を基に、先方からの依頼があって検討を開始する。依頼に応えるかどうかは、当方で毎日車をチャーターして配送するので、日量どの程度納品できるかが大きい。運賃を考えて採算が合うかが判断の基準になる。ある程度量を購入してもらわないと運送代が回収できない。
c 受発注、配送等の業務
・ 当方から翌週出荷可能な品目、価格を送付し、それに対して数量を入れたオーダーが1週間ごとに店から来る。品物は最低 30 種類以上で取引している。店舗ごとにきた受注を個人の農家に割振る作業が、担当にとって手間のかかる仕事。過不足の調整は、ある程度の範囲内であれば、なんとかお願いして配送する。
・ 1週間前の受注で、農家ごとに出荷の要請をする。出荷については基本的には信頼関係。実際には多い少ないがある。
・ 市況が上がると契約の集荷ができないというようなことは、当農協ではあまり無い。市場の値段にはさほど敏感になっていない。中には市場出荷とあわせて行っている人もいるが、インショップに出荷する人は、地元直売所やインショップ中心のため。
・ インショップの出荷形態は全て同じ。農家が全部パック。値段は週間オーダーを取る中で、基本的には品目ごとに一律に決めるが、量が多いので少し安く売りたい、量が少ないので少し高く売りたい等の要望にも、販売担当のコントロールの範囲内で、出荷農家が選択できる場合もある。
・ 毎朝、農家が持ち寄ったものを全部、店ごとに運ぶ。1店舗1台では配送コストが大きくなるので、2~3店舗で1台にしている。
d 生産の調整や栽培方法等
・ 直販事業に出荷する会員は直売・インショップ合わせて延べ1500 人。
・ 作付の調整も、販売担当が、事前に時期ごとに、主だった人に対してお願いしている。
・ 直販で売っているものは慣行栽培。特別栽培にはこだわっていない。「毎日直送で来ている」がセールスポイントになっている。栽培履歴は直販会員すべてにお願いして、問合せに対応できるようになっている。
・ これだけ多くのものを作っていると営農指導が大変。農薬等も絶対に大丈夫といえるものしか使えない。
・ 作っている農産物のアイテムは 200 ぐらいある。新しいものも増えてきている。インショップに出荷する人が、自ら新たなものを作って出荷したりしている。珍しいものを作ったときには、農協がサンプルを送って、反応をみながら、値段、販売量を決めていく。
・ インショップで出荷している人の売上は、人によってばらつきが大きい。単品や短期間だけという農家もある。
e 精算、代金回収、農協の手数料
・ インショップは、県本部経由で精算。決済は、代金回収は直接は当農協と相手先間ではなく、当農協は県本部に委託している。
・ 農家に対しては1週間に1度精算している。1週間分まとめて、週1回入金。市場とは別の精算方法。直売所も含めて、独自のパソコンシステムがあってそこで精算。
・ 当初は実需者と直接契約だったが、決済サイトが長かったため、県本部に手数料を払って、1週間ごとに入金してもらうようにした。県本部とは口頭の了解で契約はなし。
・ インショップ販売の農協手数料は 10%で、店舗までの運賃込み。通常の委託販売手数料は 1.5%だが、施設利用料、運賃等は別。精算方法が別なので一緒にできない。
(2)インショップ以外の直接販売の実情と代金決済
・ 県本部を通した市場外扱いになる販売先はあるが、県本部を通さない農協の直接販売というのはさほど多くない。
・ 直接取引で県本部を通さない場合には、信用調査をする。信用調査会社とネットでつな
がっている。
・ 相手先の信用状態が気になったことはあまりないが、直接取引の代金回収リスク管理に関しては、保証金をもらった上で契約書を交し、取引を開始。実需者も、手数料を払って市場経由で購入するか、保証金を差し入れて直接購入するかという選択になるのだろう。ある程度大きな額の取引になると、手数料が無い方が良いという判断とみられる。
・ 取引先の例としては、仲卸業者等がある。
・ 保証金の額は、想定される売掛金の量を目安に計算する。
3 市場出荷や実需に関する最近の動向
(1) 出荷市場の絞込み
・ 卸売市場の取引先はしぼっているし、今後とも減らす方向。外国との競争があるから、しっかりしたリピーターを作るという意味からも、出荷市場を絞った方が賢明。
(2)業務用への対応
・ 需要は外食・中食が増えているが、当農協の場合は、直接販売先としてはインショップ中心。ただし、生産量の大半は市場や仲卸経由の販売で、その先の需要は、外食や業務用等が増えているとみられる。
4 直接販売を拡大していく場合に必要なもの
・ 直販を行う場合には、デリバリー情報、入金管理、受発注システム等が必要になる。
・ 代金回収に関しては、どこかにバンクがあって、代金決済までしてくれるところがあればよい。決済専門の機構で、ものを送ったら、翌日には精算されるようなスピーディーな決済・精算専門機構。そのような機関の妥当な手数料は、条件にもよる。サイト何日なら何%等。取引額の限度も設定されるだろう。取引先もそれに参加意向を示さないとだめ。
・ インターネット決済会社で金融機関がついて決済代行するところもあるが、販売業務には決済、精算、リスク負担だけでなく、デリバリーが必要で、インターネットで小額取引では、野菜の場合運送費の方が高くつく。直販のメリットがお互いに無くなるので広まらないのではないか。
・ デリバリーに関しては、配送コストをどう抑えるかが重要。実需者から出店してくれといわれても、デリバリーがコスト的に見合わずに断ったこともある。
5 その他
(1)インショップ販売が農家に与えた影響
・ インショップ販売も上位売上の人は専業が多い。中位ランクの人は「40 万円の経費で
40aの畑でやってみませんか」と農協が掘り起こした人が多い。
・ インショップに出荷する農家は、60~70 歳台の高齢者も多い。定年帰農等での新規参入もあって会員数は増えている。
・ 組合員の中には市場だけに出荷する人もいる。その理由は、インショップは手間がかかること。市場出荷だけの人は経営感覚が違う。インショップで若干高く売れるとしても、夫婦二人でやっているようなケースではとても手間ひまかけられない。インショップに出すことによって、その手間がかかる分、生産量が落ちる。市場出荷の方が、単価は安くても生産量増やせるから総売上があがるという判断をしているとみられる。
・ インショップ等の多様な販売経路を確保することで、組合員の結集力が高まるという効果はある。
(2)特別栽培や多品種の出荷に伴う問題点
・ 市場出荷は漸減傾向。小ネギ等では出荷量が減少しているが、登録農薬に対する規制が厳格になったことも生産量に影響している。
・ 販売額の多い売れ筋の野菜には、登録のとれている農薬が多い。農薬メーカーもそれをターゲットにして農薬を開発してくる。珍しい野菜については、登録農薬が少なく、大丈夫だと思われる農薬も、厳密には使えないことになる。
・ 特栽農産物については、生産者も、取り組むのに非常に手間がかかる。それをこなせるかどうか確かめた上でないと生産に入れない。特栽には取り組みたいし、それが普通になってくる時代も来ようが、現状では困難な点も多い。
(3)農協の販売事業収支、手数料率等
・ 販売事業収支は、手数料率 1.5%では赤字。
・ 農協職員の立場としても、赤字が出ている分野は肩身が狭い。大きな仕事をしても、全体が赤字では仕事のしがいもなくなる。仕事をした分評価されるようなシステムにしなければならない。
・ 個別農協レベルでは手数料率引上げ等は困難で、ある程度全国的な対応等が必要なのではないか。
N経済連・全農県本部
区分:経済連・全農県本部所在地:東海・近畿
テーマ:経済連・全農県本部の契約取引調査時期:平成 15 年 11 月
1 調査先の概要
・ 当会の野菜の販売は青果販売課が担当している。青果販売課の中に、平成 7 年に設立した販売開発担当課と本年新設した販売企画担当課がある。販売開発担当課は職員7 名で市場外の直接販売を担当している。
・ 平成 14 年度の青果物の販売高は 879 億円。うち 861 億円は卸売市場を経由している。卸売市場経由の中には実需者と直接商談して代金決済等で市場が帳合する取引もある。
2 契約取引の概要
・ 平成 14 年度の青果の契約取引販売高は、卸売市場が帳合する契約取引が 18 億円、市場
外の直接販売が 18 億円で合計 36 億円であり、青果全体の 4%程度を占める。
・ 当会では、直接販売の一部の、数量、価格、出荷期間等を厳格に契約した取引のみを契約取引と呼んでおり、平成 14 年度の販売高は 6 億円。
3 卸売市場が帳合する契約取引
・ 卸売市場が帳合する取引とは、当会と実需者が直接商談し、価格、数量を確定して、代金決済や数量調整等で卸売業者を帳合する方式。
・ 卸売業者とは委託販売の契約書があるので、帳合の場合に契約書は締結しないが、取引条件書を交わす。
・ 品目はさまざまだが、キャベツ、ふき、トマト、ミニトマト、ブロッコリーといったロットが大きい品目か、何らかの付加価値のある品目。
・ 実需者はスーパーや生協が多く、加工業者もある。これらの中でも産直等商品にこだわりを持って販売する業者。
・ スーパーとの取引は特定の等階級に絞られることが多い。取引を拡大したいが、この点が障壁になっている。そこで、例えば複数等階級を混ぜてはかり売りをしてもらうなどの提案を行っている。
・ 値決め期間は、実需者によって違うが週間値決めが多い。
4 直接販売
(1)経緯
・ 量販店のバイイングパワーが強大化する中で、卸売市場の価格形成機能に一抹の疑問を感じ、末端顧客と直接営業や商談を実施して農産物に正当な評価を与えて農家に還元したいとの思いがあった。検討期間を経て平成 7 年に実需者への直接販売を行う販売開発課を立ち上げた。
・ 青果物流通が現在でも大半が卸売市場を経由していることにみられるように、卸売市場流通のシステムはよくできている。それを利用せずに直販する場合には、ダンボールでなくコンテナ出荷にしたり、規格をなくしてバラ出荷するなどでコストを下げる等ことによって、卸売市場流通と異なる方法でメリットを出す努力が必要。
(2)概要
・ 直接販売は、大きく実需加工業者との原材料取引(数量、価格、出荷期間等、厳密に条件設定した当会の「契約取引」)と、量販店との商品の取引(数量、価格は週決め)に分けられる。販売高は 18 億円。
(3)契約
・ 売買基本契約書を締結。契約書は経済連の様式を先方に提示しているが、打合せにより内容吟味の上、先方様式を採用する場合もある。
・ 当会の定款に則り、条件書、覚書、確認書等で済ませていることもある。
・ 農協には卸売市場出荷と同じ決済サイトで戻すために、量販店との直接販売の場合には経済連が立て替え払いしている(加工業者との「契約取引」の場合には、農協・販売先の双方と了承の上、覚書を締結しているので立て替え払いはしていない)。
・ 県産で契約しているので、県内のどの農協からも出荷できる。農協が単独で契約した場合に比べて数量調整の幅が大きくなり、安定供給が可能になる。
(4)評価
・ 実需者の生の声を生産に反映できる。生産者にとってどこで売られているかわかるため、農家からも評価は高い。
(5)問題点・課題
・ 当初は販路開拓が大きな問題だったが徐々に取引先から問合せがくるようになり、販売先の選定・調整が可能になった。今は、価格、数量をいかに双方納得性の高い条件にするかが課題。安価な輸入品も急増しており、原材料取引の環境は年々厳しくなっている。経験とセンスがポイントになる。
・ 簡易加工等の施設は自己保有していないが、設置については販売開発課ができてから毎
年検討している。産地背景を踏まえると業務的に周年稼動は難しい。
5 リスク対策
(1)卸売市場出荷の代金回収リスク対策
・ 卸売会社の決算期にあわせ営業報告書を収集し、B/S・P/L を時系列に整理し、直近5か年の経営状況の動向を分析し、危険な兆候があるかどうかを精査している。
・ 卸売会社の B/S・P/L が次の①~③の基準の何れかに該当した場合、担保の提供を依頼している。①営業利益率(営業利益/売上高)と経常利益率(経常利益/売上高)がともに 0.1 %未満の場合、②(現金+預金)/流動負債が30%以下の場合、③自己資本比率が 30%以下の場合。②と③は平成 13 年度に追加した。当会の場合、つまもの類の販売額も多く、出荷先も北海道から沖縄まで広範囲に渡っているため、他の出荷団体より厳しい基準を設けている。
・ 特に財務内容に不安を感じる卸売会社については、その程度に応じて毎日あるいは週1回入金のチェックを実施している。
・ 青果物・花き市場取引信用補償制度の保険は、当会の場合保険料が多額になり、かつ掛け捨てのため、現在は加入していない。
(2)直接販売での代金回収リスク対策
・ 直接販売の場合には、当会債権管理規定に基づき、取引先から保証金(売掛金の限度額)を提出してもらう等、担保徴求を実施している。
・ 債権管理、取引先負担軽減のために、相談の上、決済サイトを短縮する等の対策を実施している。
・ 保証金が高額になると、取引先の運転資金が不足する可能性もあり、痛し痒しのところがある。
・ 契約締結前に風評などには充分注意している。
6 インターネット産直
・ 当会ホームページで各種情報を発信するとともに青果物や花きを販売している。平成
14 年度の実績は 87 万円。
・ 当会が農協と協議して条件設定している。農協が発送。代金決済は当会が行っており、当会が代金回収リスクを負っている。
・ 農協単独でもインターネットによる産直はできるが、代金回収リスクがある。また、当会でまとめれば県内のさまざまな青果物が検索できることがメリット。
7 トレーサビリティ
・ トレーサビリティ(トレース=追跡、アビリティ=可能性)は、流通過程において課題