第1章 夫婦財産契約と離婚効果に関する合意 1.夫婦財産契約(Ehevertrag) 2.離婚効果に関する合意(Scheidungsvereinbarung) 3.ドイツにおける離婚後扶養
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限
x x x x
は じ め に
第1章 夫婦財産契約と離婚効果に関する合意 1.夫婦財産契約(Ehevertrag) 2.離婚効果に関する合意(Scheidungsvereinbarung) 3.ドイツにおける離婚後扶養
第2章 2001年 BVerfG 判決以前の裁判例と学説第1節 裁 判 例
1.養育に関する扶養(BGB 1570条)の放棄 2.一方配偶者の抑圧的な状況(Zwangslage) 3.養育費に関する取り決め
第2節 学 説 1.初期の学説
2.契約内容の制限
3.1993年 BVerfG 判決と学説への影響
4.小 括
第3章 2001年 BVerfG 判決
1.2001年 BVerfG 判決の事実関係と判決理由
2.判決の評価
3.問題点
第4章 2001年 BVerfG 判決以降の下級審判決 1.離婚効果に関する合意と2001年 BVerfG 判決
2.女性の抑圧的な状況
3.契約締結時の事実関係とその評価
4.小 括
第5章 2004年 BGH 判決
1.2004年 BGH 判決の事実関係と判決理由
2.判決の評価と学説の反応
第6章 2004年 BGH 判決以降の議論展開 1.全体的な評価(Gesamtschau)と一部無効 2.内容規制における主観的要件
3.離婚後扶養
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4.権利行使の規制(Ausubungskontrolle) 5.年金等の清算
6.夫婦財産の清算に関する取り決めお わ り に
は じ め に
夫婦の婚姻期間中の財産関係について,日本では,夫婦が婚姻の届出前 に,夫婦の財産関係を契約により自由に規定することができる(民755条)。夫婦がこの契約を締結しなかった場合には,法定夫婦財産制が適用される ことになる(民760条乃至762条)。しかし,すでに指摘されているように,日本では夫婦財産契約はあまり使われていない。この原因については,夫 婦財産契約が婚姻の届出前に限られ(民755条),婚姻の届出後にはこれを 変更することができない(民758条)など,厳格な制約があるためと説明 されている1)。
夫婦財産契約の内容については,これまでの説明によれば,当事者の合意によってその内容を自由に定めることができるが,契約である以上,公序良俗(民90条)に反する内容を定めることはできず,家族法の中で強行法規と解されている規定は排除することができないことから,夫婦間の扶養義務を免れることはできないとされている2)。
この点,夫婦財産契約を利用しやすくし,また夫婦が自分達の共同生活にふさわしい財産関係を作り,離婚時の紛争を防止するためには,上述の現行法における制度上の欠点を改めるだけでなく,具体的な判断基準,すなわち,夫婦財産契約によりどのような内容を定めることができるのか,そしてその制限はあるのか,また制限が認められるとすれば,どのような場合に夫婦財産契約の効力が否定されるのかを明らかにする必要がある。一方で,内容を具体化する上で,婚姻を予定している男女間の合意に際 して,当事者の独立性・対等性をどのように確保するかが問題となる。対
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
等性が確保されていない場合には,これを是正するために裁判所による介 入が考えられるが,夫婦間の合意は,夫婦のライフスタイルや家族関係の 形成に依拠するものであることから,夫婦間の合意への介入は財産関係だ けでなく,家族関係への介入にもなりかねない。このような「夫婦・家 族」と「契約」といった二重の保護領域が併存する夫婦間の合意に対して,裁判所が介入する根拠や要件を明らかにする必要がある。
日本の実情をみると,戦後の民法改正により,男女平等の理念の下で,夫婦は独立・対等な法主体とされ,形式的な平等が実現されたものの,性別役割分業意識が強い日本では,専業主婦として家事育児に従事する妻が多く存在し,この家族像が維持されてきた。その後の女性の雇用拡大等により,共稼ぎの夫婦が増加しているが,女性の多くが非xx雇用であること等から,男女の賃金格差・経済格差は依然として存在している。このようなジェンダー構造の中では,社会的・経済的弱者である妻が劣位の立場になりがちである。真の対等性を確保するために,これを是正する法理を確立する必要がある。対等性確保の問題は,外国人との婚姻における経済・情報の格差や高齢・疾病のために保護が必要となる当事者の場合にも指摘することができる。このような問題は,言うまでもなく,「私的自治・契約自由と裁判所による介入」という私的自治の根幹にかかわる問題である。
他方,ドイツでは,一連の裁判例によって,夫婦間の合意への介入に関 する一定の判断基準が構築されている。本稿の目的は,ドイツでの議論を 比較・検討を通じて,これらの課題を解決する手掛かりを得ることである。ここでは,特にその判断規準を構築する上でリーディング・ケースとなっ た2004年2月11日の連邦通常裁判所判決(以下,「2004年 BGH 判決」)3)と それ以降の裁判例の紹介を中心とする。その前提として,「契約自由と裁 判所による契約内容に対する介入」の対象となる夫婦間の合意の種類と合 意内容となるドイツの離婚後扶養を確認する(第1章)。その上で,2004 年 BGH 判決以前の学説・裁判例(第2章),この課題に関する議論に大
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きな影響を与え,現在の議論状況の出発点となった2001年2月6日連邦憲法裁判所判決4)(以下,「2001年 BVerfG 判決」)を紹介する(第 3・4 章)。そして,2004年 BGH 判決(第5章)とそれ以降の学説・裁判例(第6章)を紹介し,日本でのこの課題を解決する手掛かりを得たい。
第1章 夫婦財産契約と離婚効果に関する合意
ここでは,本稿の対象となるドイツにおける夫婦財産契約(Ehevertrag)と離婚効果に関する合意(Scheidungsvereinbarung),さらにはドイツにおける離婚後扶養の概要を確認する。
1.夫婦財産契約(Ehevertrag)
夫婦は,夫婦財産契約(Ehevertrag)によって,夫婦の財産関係を規 定することができ,婚姻締結後もこれを廃止または変更することが可能で ある(ドイツ民法典(以下,「BGB」)1408条5)1項)。BGB 1408条は夫婦 財産契約の自由を定めており,夫婦財産法における契約自由の原則に関す る私法上の根拠として解されている6)。夫婦財産契約によって,夫婦は BGB に予定されている別産制(Gutertrennung)(BGB 1414条)や財産共 同制(Gutergemeinschaft)(BGB 1415条~1518条)を選択するだけでなく,これらの夫婦財産制や法定夫婦財産制である剰余共同制(BGB 1363条
~1390条)を修正することも可能である7)。
夫婦財産契約の自由に対する一定の制限が設けられている。夫婦財産契約の自由は,現行法における制限のもとでのみ実現することが可能であると解されている8)。ここでの制限には,強行法規と解されている規定,例えば,報告義務9)を規定する BGB 1379条や,一方配偶者が死亡した場合に,生存配偶者と卑属との間で財産共同制(Gutergemeinschaft)を継続する旨を夫婦財産契約で締結する際の内容を制限する BGB 1518条が挙げられる。また,BGB 138条,242条10)といった一般条項による制限も認め
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
られている。第二に,BGB 1409条11)の制限がある。同条は,もはや施行されていない夫婦財産制や外国法の夫婦財産制を選択することを禁止している。しかし,同条の禁止は形式上の意味だけであり,夫婦財産契約の文言にこれに該当する夫婦財産制の名称を記載することのみを禁止していると解されている12)。したがって,これらの夫婦財産制の各規定を夫婦財産契約の中で明示することで,この内容を実現することは可能であるとされている13)。
さらに,第三者との法律関係を定める規定と異なる内容を合意することはできないとされており14),剰余共同制に規定されている処分制限(BGB 1365条,1369条以下)を,夫婦財産契約によって,両配偶者とも制限・廃止すること,また一方配偶者についてのみこれを制限・廃止することも可能であるが,法規定の制限範囲を拡張することはできない。財産共同制では,対外関係に関する規定は,第三者への影響から変更することはできない。これらの他にも,各配偶者がそれぞれ異なる夫婦財産制を規定すること,所有する財産に応じて異なる夫婦財産制を適用することは禁止されている。
また,今日の実務では,夫婦財産契約の規定内容が拡大し,① BGB 1408条1項の夫婦財産制に関する合意,② BGB 1408条2項の年金等の清算に関する合意だけでなく,③ 扶養をはじめとする離婚効果に関する合意が含まれ,これらの家族法上の合意だけでなく,債務負担割合等の債務法・物権法に関する内容も見られるようになる15)。このような夫婦財産契約を「xxの夫婦財産契約(Ehevertrag im erweiteren Sinn)16)」,①のみを規定する本来の夫婦財産契約を「狭義の夫婦財産契約(Ehevertrag im engen Sinn)」と区別され,実務では前者が多く用いられている17)。
2.離婚効果に関する合意(Scheidungsvereinbarung)
xxの夫婦財産契約の他にも,夫婦は,離婚効果に関して合意することができる。特に,BGB 1565条,1566条1項,ドイツ民事訴訟法(以下,
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「ZPO」)630条の「合意離婚(einvernehmliche Ehescheidung)」の際には,離婚することだけではなく,① 親の配慮(elterliche Sorge)(BGB 1682条 以下),② 面接交渉権(Umgangsrecht)(BGB 1684条),③ 離婚後扶養
(BGB 1569条以下,1588c条以下),④ 養育費(BGB 1601条以下),⑤ 婚姻住居及び家具(Hausrat)に関する事項の合意を,家庭裁判所に離婚を申し立てる際に提示しなければならない。このような合意離婚は「裁判上の和解(gerichtliche Vergleich)」によってなされることが多いが,離婚申立前に裁判外で合意することも可能であり,その際には公証人によるxx証書(Notarurkunde)の作成が必要である18)。さらに,夫婦が離婚申立前に離婚効果に関する合意を締結する場合には,⑥ 夫婦財産の清算,
⑦ 債務の負担割合,⑧ 年金等の清算に関する事項(BGB 1587条o)を合意することも可能である。
このことから,①~④の親子関係に関する事項を除いて,xxの夫婦財産契約と離婚効果に関する合意の間には,その内容に明確な差はないといえる19)。両者を区別するとすれば,夫婦財産契約は,婚姻前または婚姻後に締結されるものであり,締結時には具体的な離婚が想定されているものではなく,離婚効果に関する合意は,例えば別居前といった,婚姻が完全に破綻した状況の下で締結されるものである。両者の概念は明確に区別されておらず,文献においても多義的に用いられている状況にある。
3.ドイツにおける離婚後扶養20)
離婚後扶養は,① 子どもの養育に関する扶養(Betreuungsunterhalt)
(BGB 1570 条21)),② 老齢(Unterhalt wegen Alters)(BGB 1571 条22)),
③ 疾病(Krankheitsunterhalt)(BGB 1572 条23)),④ 適切な所得活動
(BGB 1574 条)を得ることができない(Unterhalt wegen Erwerbslosig- keit)(BGB 1573条24)1項),⑤ 適切な所得活動からの収入が十分でない
(Aufstokungsunterhalt ~補充扶養)(BGB 1573条2項),⑥ 修学(Aus- bildungsunterhalt)(BGB 1575 条25)),⑦ その他重大な事由(BGB 1576
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
条26))により,所得活動に従事することが期待できないために,⑧ 一方配偶者が扶養を必要としている場合に,⑨ 義務者である他方配偶者の給付能力に応じて(BGB 1581条27))与えられるものである。この他にも,将来の生活需要に備えるための準備扶養(Vorsorgeunterhalt)として,
⑩ 適切な疾病保険の費用や学校教育・職業教育の費用(BGB 1578条282項),⑪ 適切な老齢年金・就業不能年金・適切な所得活動からの収入が十分でない場合に関する年金の保険料(BGB 1578条3項)が含まれる。
第2章 2001年 BVerfG 判決以前の裁判例と学説
第1節 裁 判 例
夫婦間の合意内容が制限される場合,どのような事実関係に基づいてこ れを判断するのか,また法的根拠は何であるかを明らかにする必要がある。ここでは,これまでの裁判例の中で,主に問題となった事例を検討し, 2001年 BVerfG 判決以前の BGH の見解を明らかにする。
1.養育に関する扶養(BGB 1570条)の放棄29)
【1】 BGH 1985年4月24日判決(BGH, FamRZ 1985,788.)
〔事実関係〕
被告Y(妻)は写真モデルとして働いており,1971年にZと最初の婚姻をした。Yは,1972年に息子Mを出産したが,Mの父親は原告X
(夫)であった。YがXとの婚姻を解消した後に,1974年にXとYは婚 姻し,XはMを認知した。婚姻と同時にXとYは,夫婦財産契約(以下,
「本件契約」)を締結し,xx証書を作成した。そこでは,① 夫婦財産制を別産制とすること,② XYは相互に相続法上の請求権を放棄すること,③ XYは,離婚の際には,いかなる根拠・金額にかかわらず,全ての扶養請求権を放棄すること,を合意した。1976年11月にYはMと共にスイスに移住し,それ以降XとYは別居状態にある。
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1981年8月5日に,Xは離婚を申立て,1982年11月16日に離婚は成立した。Mの親の配慮(elterliche Sorge)は,XY間の合意に基づきYへ移された。その後,YとMはスペインへ移住した。Yは自身の所得が悪化したのにもかかわらず,Yは仕事を見つけようとしなかった。離婚成立後も,XはYに対して,Mの養育費及び授業料として月々1500DM を支払っていたことから,Xは,XY間の本件契約における扶養放棄に関する合意が有効であることの確認の訴えを提起した。
第xx及び上級地方裁判 所(以 下,「OLG」)での原審 は(OLG Frankfurt, FamRZ 1984, 486.),本件契約によって婚姻に基づく全ての扶養義務が有効に排除されていると判断し,Xの請求を認容した。これに対して,Xが上告した。
〔判決理由〕
① 「離婚後扶養の放棄は,離婚後に子どもの監護養育のために,自らの生活費を(一部もしくは全部)支弁することが期待できない場合
(BGB 1570条)であっても,原則として,無効とはならない。BGB 1570条は,1977年7月1日に施行された法律によって,離婚後扶養請 求権を付与するものから,特別な地位を占めるものとなった。国家は,親が子どもに対して監護及び養育をすることができるよう保障しなけ ればならないことから(基本法6条2項参照),立法者は,子どもが 親の離婚に際して,避けることができず,ただ甘受しなければならな いものに対する配慮が必要となる。離婚後に,親の一方が,自己の生 活費を所得活動によって稼がなければならないことから,この者が, 子どもの養育を放棄しなければならない状況に至った場合には,通常 子どもの福祉を害しているといえるだろう。このことから,立法者は, BGB 1570条による扶養請求権を,特別に強く規定している。しかし ながら,このことは,一部の学説で主張されている BGB 1570条の扶 養請求権を合意によって変更することができないとする見解を十分に 根拠づけるものではない。」
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
② 「子どもの養育に関する扶養をも含めた(離婚時を考慮した)予防的な合意では,xxな離婚後扶養の放棄に関する合意内容の有効性が原則的に認められているが,当該合意によって利益を得る一方配偶者が,あらゆる事実関係の下で,離婚の際に,この放棄を主張することが認められるわけではない。他の権利と同様に,放棄によって生ずる権利(合意内容)を濫用することは認められない。したがって,合意内容である扶養放棄が,~例えば,後々の婚姻生活の展開によって~扶養法にも適用されるxxx(BGB 242条)に反している場合には,扶養請求権者である一方配偶者は,当該合意による放棄を拒むことができる。」
③ 「本件契約は,BGB 138条に基づいて無効を主張することはできな い。確かに,離婚後扶養の放棄は,個々の事例において良俗違反,詳 細にはあらゆるxx及びxxな思想に反することがある。良俗に反す るかどうかは,当該合意の内容,動機そして目的から導き出される合 意全体の性質に基づいて判断する。裁判所は,すでに離婚効果に関す る合意についてこのことを判断しているが,離婚を予定していないが,離婚に至った状態を考慮した予防的な合意であり,時間的間隔のため に補足的な観点が必要な場合にも,この判断が適用される。」
④ 「本件契約は,当事者が扶養放棄によって不適法に第三者の経済的利益を侵害していないことから,BGB 138条1項による無効を主張することはできない。裁判所は,すでに,当事者が婚姻によって生ずる負担を,客観的に社会扶助(Sozialhilfe)の負担とすることを取り決めており,そしてそのような侵害の意図がない場合でも,当事者が当該放棄の効果を認識していた場合には,扶養負担に関する取り決めは良俗違反になりうると判断している。……しかし,当事者の合意によって,社会扶助の負担となることに関する認識は必要ではなく,このような認識を重過失によって持たなかったことでも十分である。」
⑤ 「本件契約の良俗違反を主張するYは,その要件と必要となる事例
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を指摘している。……確かに,給付と反対給付との間に著しい不均衡が存在し,それによって,利益を得る当事者の一方が他方の抑圧的な取引地位を,故意にもしくは重過失で利用したという推定を強制的にもたらす事例も存在する。上告理由では,例として,賃貸借関係の譲渡契約や消費貸借関係における債務の一部弁済や定期金支払い契約を挙げている。……しかしながら,この判例によって展開された法原則は,家族法上の契約に適用することは認められない。」
このように判示した上で,BGH は,① XとYとの間に,本件契約を無効とする事実が存在していないこと,② 本件契約の締結を強制された事実も認められないこと,また ③ 別居期間中にYがXから受け取っていた養育費を超える金額を,離婚後もYが稼働することによって得ることができることを理由として,Yの上告を棄却した。
2.一方配偶者の抑圧的な状況(Zwangslage)30)
【2】 BGH 1992年7月9日判決(BGH, NJW 1992, 3164.=FamRZ 1992, 1403.)
〔事実関係〕
婚姻締結(1984年8月31日)前の1984年8月22日に,原告X(妻)と被告Y(夫)は,夫婦財産契約(以下,「本件契約」)を締結し,xx証書を作成した。その中で,離婚した場合の取り決めがなされ,① 婚姻締結5年以内に離婚が申したてられた場合には,XとYは,相互の全ての扶養請求権を放棄すること,② 婚姻締結5年以降に離婚が申したてられた場合には,法定の手続に応じて扶養請求権の金額の算定を行い,その金額の半額のみを扶養請求権者に支払うこと,また ③ 扶養請求権の上限額は,月々 1500 DM とすることを合意した。1985年1月9日に Xは娘Cを出産したが,1986年6月にはXとYは別居状態となった。
1987年6月24日に,Yが離婚を申立てた。1989年12月21日に離婚が確定し,Cの親の配慮(elterliche Sorge)はXに委ねられた。またYの面
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
会交流権(Umgangsrecht)を,1991年1月10日以降排除するとした。 Xの主張した月々 4,000 DM の離婚後扶養と月々 600 DM の養育費は棄却され,年金等の清算(Versorgungsausgleich)も生じないと判断された。
Xは控訴し,離婚判決の取消と,月々 3,000 DM の夫婦間扶養及び月々 500 DM の養育費を請求した。また,YはCとの面会交流権
(Umgangsrecht)を排除した判決の取消を求めた。XXX は,離婚判決に関するXの反対申立を棄却した。また本件契約は良俗違反に該当しないとしながらも,第xx判決の一部を変更し,① 1990年12月1日から 1993年8月31日まで,Xへ月々 1,000 DM の離婚後扶養を支払うこと,
② Cの養育費として,1990年2月1日から月々 500 DM を支払うことをYに命じた。その他の請求は全て棄却された。これに対して,Xは上告し,月々 3,000 DM の離婚後扶養の支払いを求めた。
〔判決理由〕
① 婚約者(Ehelobte)や夫婦が締結した離婚後扶養の放棄に関する合意が,良俗違反に該当するかどうかの判断については,上述【1】判決を援用し,「良俗に反するかどうかは,当該合意の内容,動機そして目的から導き出される合意全体の性質に基づいて判断し,仮に,契約当事者が当該合意によって,社会扶助の負担を故意及び重過失によってもたらす,またそのような負担を意図していない場合でも, BGB 138条1項により無効となりうる」ことを明らかにしている。
② また,夫婦財産契約締結時にXが妊娠していた事実については,
「妻が,妊娠していることを考慮して,夫との婚姻によって,子どもの父としての保障された監護養育を獲得するという,明らかに,強くまた一般的に理解されている利益を得ることが認められる。……Xが婚姻締結を拒否することは,妊娠という事実の他にも,Yが当初拒絶していた婚姻をXが拒否することによって,Xの親族の期待に反することになり,また婚姻締結の日時もすでに決定していたという事実か
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らも困難であった。それにもかかわらず,Yがこれら全ての状況を考 慮していたとしても,Yが婚姻締結の条件として本件契約の締結とし たことは,良俗違反とはならない。Yは法的には婚姻する義務はない。また婚姻の口約束に基づいて,XがYに対して,婚姻の開始を請求す ることもできない(BGB 1297条1項)。Yが婚姻を締結するか否かの 判断は,最後まで自由であり,Yは~仮に婚姻締結予定時刻直前で あっても~本件契約の締結,特に離婚後扶養の放棄にXが合意するか 否かによって判断することができる。……BGB 138条1項に基づいて,このような合意の法的有効性について否定的な見解を述べることは, 良俗と相いれないYの婚姻締結の自由に介入することになる。」
このように判示した上で,YがXの抑圧的な状況を利用して,本件契約を締結したとはいえないことから,本件契約における扶養放棄に関する取り決めは,良俗に違反しないと判断した。また,月々 1,000 DM としたXの離婚後扶養の金額が妥当なものかどうかを再度審理するために,原審を一部破棄し,差し戻した。
3.養育費に関する取り決め
【3】 BGH 1984年5月23日判決(BGH, NJW 1984, 1951.=FamRZ 1984, 778.)
〔事実関係〕
原告X(x)と被告Y(妻)は,お互いの不貞行為を原因として, 1967年3月12日の判決によって離婚し,また息子Aの親権(elterliche Gewalt)はYに移され,Xには訪問権(Xxxxxxxxxxx)が認められた。
翌年,XとYの間でAを交えて面会交流(Umgangsrecht)に関する裁判上の協議を行った。最終的に,少年局による後見31)が開始した。協議の間,XとYは裁判外で,① Yは,XがAに支払う養育費を肩代わりすること,② その代わりに,Xは居所指定権を含めた全ての親権の権限をYに移し,Aの氏をYの旧姓とすること,③ XはAへの養育費
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
支払いを止め,訪問権を行使しないこと,等を合意した。裁判外での合意(以下,「本件合意」)に基づいて,Aの親権は完全にYに移され,XはAへの養育費の支払いを止め,訪問権の行使も停止した。
その後1981年初めに,XはXに対して,1981年4月以降Aの養育費と して月々 300 DM を支払うよう要求したが,Xは本件合意に基づいて, この要求に応じなかった。これに対して,Yは,1979年9月1日以降A の養育費として月々 250 DM を支払うことをXに命じた1967年3月12日 の判決に基づいて,執行を求めた。これに対して,Xは,本件合意から, Yの請求には根拠がないことを主張した。Yは,子どもに対する監護権 をXが放棄する反対給付として,Xの養育費支払いを免除することは, 良俗違反であるとして,本件合意の無効を主張した。区裁判所は,本件 合意は有効であるとして,Yの請求を棄却した。
これに対して,Xが控訴した。OLG は,① 訪問権の放棄を合意することは認められないこと,② 訪問権の放棄と養育費支払いの免除を対応させていることから,本件合意における当該事項は BGB 139条により無効であることから,BGB 134条により本件合意全てが無効となること,また ③ 訪問権の行使を解除条件とする養育費支払い免除は,BGB 138条1項により無効となりうるとして,Yの請求を認めた。Xが上告し,本件合意が有効であることを主張した。
〔判決理由〕
「面会交流の権限を有する親の一方が訪問権の行使を断念することによって,親の他方に扶養料支払いの免除を認める義務が良俗に反する方法で生ずる場合,すなわち,監護権に関する両親の合意内容によって,子どもが取引の対象として扱われている場合や,合意に際して子どもの監護権を,扶養料支払い免除のための“交換対象(Tauschobjekt)”として利用した場合を,法律は予定していない。……子どもの福祉を考慮することなく,経済的理由による扶養(養育費支払い)義務の免除が,監護権の行使を断念することを常に誘発している合意内容は,親の面会
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交流の不適法な“営利化”であるとして,通常は良俗違反と評価され,
BGB 138条1項により無効となる。」と判示して,Xの上告を棄却した。
〔1〕〔2〕〔3〕判決をはじめとする一連の裁判例から,BGHの見解をまとめると以下のようになる。
①:BGH は可能な限りxxな夫婦財産契約の自由を認めており,夫婦が婚姻期間中もしくは婚姻締結前にすでに後に生じうる離婚を考慮して予防的に合意した財産法上の性質の合意には,原則として,「完全な契約の自由(volle Vertragsfreiheit)」(BGB 1408条11項・2 項)が認められる32)。
②:BGB 1570条による扶養請求権の放棄に関する合意も良俗違反とはならない。
③:夫婦財産契約の自由の理論的根拠を,婚姻締結の自由から導き出している。女性が夫婦財産契約締結時に妊娠していたとしても,男性は婚姻を締結することなく,非婚の父としての法的義務を負うことも可能である。よって,男性が,離婚効果の放棄や扶養の放棄を内容とした夫婦財産契約の締結を条件として婚姻を締結したとしても,このことは女性の抑圧的な状況(Zwangslage)を利用したものとして,良俗違反にはならない。したがって,夫婦財産契約締結時に女性が妊娠していたという事実は,内容規制の際に考慮しない。
④:BGH は,BGB 138条・242条による夫婦財産契約の内容規制を認めているものの,具体的な適用には消極的である。
⑤:BGB 138条による内容規制の判断基準は,他の契約と同様,契約締結時の事実関係に基づいて判断され,契約内容・動機・契約の目的といった契約内容全体から良俗違反を判断する。年金等の清算に適用される BGB 1587条oと同様の特別な内容規制は,夫婦財産契約には適用しない33)。
⑥:夫婦財産契約の自由の限界は,第三者の権利を侵害する点に存在し
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
xxx,故意に離婚配偶者の要扶養状態を社会扶助の負担とするよう な夫婦財産契約は,良俗に反し,BGB 138条によって無効となりうる。その場合に,社会扶助の担い手に対する夫婦の侵害意図の存在は必要 とされていない。
⑦:子どもを取引対象とし,監護権を「営利化」することによって,子どもの福祉を害する場合にのみ良俗違反となる。また合意締結後の状況の変化によって,合意内容である扶養放棄が子どもの福祉に反する場合には,xxx(BGB 242条)に反しており,扶養請求権者である一方配偶者は,当該合意による放棄を拒むことができる。
第2節 学 説
1.初期の学説
xxな契約の自由(volle Vertragsfreiheit)
可能な限りxxな夫婦財産契約の自由を認めようとする BGH の見解は,学説においても,一般的に認められていた34)。ここでは,BGB 1408条に よる契約自由の保護を根拠としており,BGH と同様に,BGB 1408条は夫 婦間の財産法上の性質の合意に関する完全な契約自由を規定していると解 している。また,立法者は,全ての婚姻法規定を強行規定としておらず, 夫婦財産契約の自由の対象となるかどうかを,個々の規定について定めて おり,またどのような方法で個々の対象となる規定を自由に取り決めるの かを明らかにしている。すなわち,立法者は一方では,夫婦財産契約の自 由及び婚姻締結の自由と,他方では,夫婦財産契約の自由による不適法な 不利益からの保護という,相反するxxxxに対して,前者の優位性を認 めていると解している35)。
x x 規 制
可能な限りxxな夫婦財産契約の自由を認めていることから,夫婦財産契約の内容規制については消極的であり,BGB 138条以外の内容規制には否定的である36)。特に上述【3】判決においても適用されている BGB 242
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条に基づく裁判所による内容規制を否定する37)。基本法3条1項は夫婦間の契約の自由を制限しておらず,BGB 242条を適用することは,夫婦間の契約の自由を制限することになると指摘する38)。BGB 138条以外の内容規制は,例外的に年金等の清算について規定する BGB 1587条oにおいてのみ認められるとする。
BGB 138条による内容規制でも,他の契約と同様に判断することを主張しており39),この点も BGH と同様である。そして,BGB 138条に基づく良俗違反による契約の無効が考慮されるのは,個々の事実関係において,契約当事者の一方が,他方の未経験,欠如した判断力,もしくは抑圧的な状況を利用した場合であるとしている。契約内容の客観的な不均衡性や一方的な負担を負わせる契約内容だけでは,これらを十分に根拠づけることにはならない。したがって,夫婦財産契約によって,不利益を被る配偶者が,夫婦財産契約の内容を十分に認識しており,一方的な負担についても認識している場合には,BGB 138条による良俗違反には該当しないことになる。このことから,契約内容を適切に理解し,婚姻締結という夫婦財産契約の目的を夫婦が承認している場合には,合意内容が不均衡な内容であっても,その夫婦財産契約は有効であり,給付と反対給付の均衡性が維持されているかどうかは,良俗違反の評価に際しては重要視されないことになる40)。
さらに,婚姻を継続する自由は,契約自由の原則と同様に,法体系における基本原則であり,したがって,男性は,婚姻締結を,剰余清算,離婚後扶養及び年金等の清算の放棄を内容とする夫婦財産契約と引き換えにすることができるとしており41),婚姻締結の反対給付として,離婚の際の経済的不利益の免除することは,良俗違反とはならないことになる。
女性の抑圧的な状況(Zwangslage)
良俗違反の判断に際して,夫婦財産契約締結時に女性が妊娠している事実を,どのように評価するかという問題については,非婚の場合よりも婚姻を締結した方が社会的に保護されていることから,離婚後扶養を放棄し
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
婚姻したとしても,良俗違反にはならないとする42)。
2.内容規制の必要性
一方で,夫婦財産契約によって,社会的弱者である一方配偶者が不利益を被る問題は,古くから認識されていた。ラム(Xxxxx Xxxx)は,社会的弱者である一方配偶者の保護は,もはや現行の離婚法を通じて実現することはできないことから,判例及び学説によって,基本法が保障する社会的保護及び福祉国家の原則によって認められる解釈を行い,BGB 138条を通じて,任意規定である離婚法に介入しなければならないとする43)。このことから,ラムは,BGH や学説の多くが主張する「xxな夫婦財産契約の自由」を否定する。また,夫婦財産契約を締結する上で,xx証書を作成することが必要となるが,xx証書を作成することで内容規制の必要性が排除されることにはならないとして,規制方法としての公証人の介入を否定している44)。
さらに,ラムは夫婦財産契約の内容規制について,以下のように説明す る。「夫婦財産契約による夫婦間の合意は,個々の契約について,そのx xのxx・xx性を審理しなければならない。しかし,その審理において は,良俗違反を推定する事実が存在することで,これを軽減することがで きる。夫婦財産契約によって,一方配偶者が著しい不利益を被る場合には,他方配偶者が権力(多様な性質がありうる)を有しており,そして他方配 偶者がこれを利用したことを推定することができる。夫婦財産契約の有効 性を主張する者は,この推定を否定し,離婚後も夫婦財産契約の合意内容 が一方配偶者にとって不利益なものとはならないことを証明しなければな らない。これらに関する判断は困難であることから,さらに,いくつかの 典型的な事例類型を形成することで,このような事実の危険性がないもの を強調することによって簡素化することができるとする。契約自由の原則 の審理では,第一に,社会的弱者である一方配偶者の保護に焦点を当てる。しかし,それが他方配偶者が離婚後再婚することの自由を著しく制限する
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場合には,過度な保障として良俗違反となり無効となりうる。夫婦財産契約は離婚を不可能にする,もしくは不xxにそれを困難にするための手段ではない」45)。
このようなラムの見解は,多くの賛同を得るまでにはいたらなかった。例えば,xxxxx(Xxxxxx Xxxxxxx)は,諸外国では,社会的に弱者である一方配偶者を他方の詐欺から保護するために,婚姻締結後に夫婦財産契約を締結することを認めていない,もしくはそれを困難なものとしていると指摘し,ドイツ法においても解釈によって,これを実現することを主張する46)。これに対して,ラムの見解にまでは至らないまでも,何らかの夫婦財産契約の制限を設ける見解が見られるようになる。例えば,ボッシュ(F. W. Bosch)は,いかなる場合においても,子どもを含めた第三者への影響が生ずる扶養に関する夫婦財産契約は,裁判所によって内容が規制されるべきであると主張しており47),BGH の判断基準である上述
⑥・⑦の適用範囲を拡大すること主張しているといえる。xxxxxxx x(Xxx Xxxxxxxxxxxx)は,通常は妻である,弱者である一方配偶者に対 するより強い社会的要保護性を指摘して,年金等の清算を全部排除するこ とや,専業主婦である妻の負担となる離婚後扶養の全てを放棄することは, BGB 138条の良俗違反となり無効であるとして,ラムと同様に,社会的弱 者の保護を念頭に置いた内容規制を試みている48)。
xxxxxxx(Xxxxxxx Xxxxxxxxx)は,夫婦財産法において,単に 契約自由の原則によって,夫婦間の取り決めに関する法律行為上の法的正 当性が保障されるのではないとし,夫婦財産契約における契約自由の原則 の特殊性を指摘する。すなわち,立法者は,剰余清算及び年金等の清算を,本来稼働していない妻の社会的保障に役立つものとして定められており, これは主婦婚を念頭に置いているといえる。したがって,その他の婚姻形 態については,これを夫婦財産契約によって排除することが正当化するこ とができるとする49)。また,xxxxxxxは,夫婦財産契約の自由の程 度とその限界は,裁判所による事案の積み重ねによって類型化されること
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
で明確になるとする。そして,夫婦財産法における契約自由の原則は,一方では夫婦間の経済状況の多様性を考慮する余地を与えているが,この余地は無制限なものではなく,自由と制限のバランスを常に考慮すること重要であると主張する50)。
他方,夫婦財産契約の内容規制を立法化することも検討されていた。年金等の清算は,第一婚姻法改正法(以下,「77年改正法」)によって導入されたが,その制定過程において,BGB 1587条o条と同様の裁判所による内容規制を,夫婦財産契約にも適用することが主張されていた51)。しかしな
がら,これが採用されることはなく,また BGH52)はこれを否定したこと
から,夫婦財産契約に関する裁判所による特別な内容規制の議論は落ち着いたようにみえた53)。
3.1993年 BVerfG 判決と学説への影響
その後,BVerfG が,無資産の近親者との保証契約の有効性に関する BGH の判決を棄却したことから,再びこの議論の必要性が主張されるようになる。ここで,この議論に影響を与えた BVerfG 判決を確認する。
1) 1993年連邦憲法裁判所判決
【4】 連邦憲法裁判所1993年10月19日判決(以下,「1993年 BVerfG 判決」」)54)
〔事実関係〕
憲法異議を提起した申立人X1 の父Aは,不動産仲介業者である。Aは事業資金のために銀行Yに融資を求め,Yは10万 DM の貸付枠を設定した。さらにYはAに対して保証を求め,X1(当時21歳)が上記額を限度とする保証を行う旨の契約(以下,「保証契約」)を締結した。契約書には,① この保証契約がYとAとの間に生ずる,既存の及び将来発生する,また期限・条件付の請求権をX1 が引き受けるものであること,② 催告の抗弁権を含めたあらゆる抗弁を放棄すること等の事項が記載されていた。Yの銀行員は,契約書は単に形式を整える為に必要で
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あるという趣旨を述べ,「高額な債務を課せられるわけではない」と発言していた。
X1 は,初等教育を終えた後に特別な職業教育等を受けることなく, Aの下で事務として業務を手伝っていたが,その後就職したもののしばしば失業状態にあり,保証契約締結時は水産加工業者で働き月々 1,150 DM を得ていた。
その後,1986年にAが破綻したことから,Yは負債を通告し,X1 に保証人として10万 DM を支払うよう求めた。X1 は保証契約の無効確認の訴えを提起し,Yは反訴として10万 DM の支払いを請求した。BGHは,成人であれば,特別な取引上の経験がない場合でも,保証の意思を表明することによって生ずる責任や危険を一般的に理解することができるとし,保証契約が有効であるとの判示した(BGH, NJW 1989,1605.)。これに対して,X1 は BGH 判決が,基本法1条1項及び社会国家x x(基本法20条1項・28条1項)と結合した基本法2条1項が保障する
基本権を侵害しているとして,BVerfG 憲法異議を申し立てた。
〔判決理由〕
① 「基本法2条1項は,私的自治を『法的生活における個人の自己決定』として保障する。私的自治は必然的に制限され,法的形成を必要とするものである。……しかしながら,立法者の恣意的な私的自治に関する理解により,その結果基本法上の保障を無意味なものにすることを許すものではな い。立法者 は,基本権の客観法的な基準
(Vorgabe)に拘束される。立法者は,法的生活における個人の自己決定に,適当な活動領域を用意しなければならない。…民事法取引
(Zivilrechtsverker)の全ての当事者は,基本法2条1項の保護を享受しており,等しく私的自治の基本法による保障に依拠できることから,強者の権利のみが有効となることがあってはならない。」
② 「たしかに,法的安全の原則から,当事者の取引対等性を妨げるあらゆる状況が,事後的な契約の修正を根拠づけるものではない。しか
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
しながら,契約の一方当事者の構造的な従属的関係(strukturelle Unterlegenheit)を認識することができる類型化可能な事例が問題と なっており,かつ従属的関係にある一方当事者にとって契約の効果が,通常ではない(ungewohnlich)負担を課す場合には,民事法秩序は これに応え,修正を可能にしなければならない。このことは,基本法 による私的自治の保護(基本法2条1項)及び社会国家の原理(基本 法20条1項・28条1項)から導き出される。」
③ 「現行契約法はこの要請を満たしている。……民法典の大部分をこの要請の意味において,解釈することができる。これと関連して,民法典の一般条項が重要な意味を持つ。……民事裁判所には,一般条項の解釈及び適用の際に,契約が他律(Fremdbestimmung)の手段として用いられないよう注意する義務がある。契約当事者が互いに承認した取り決めに合意をした場合には,通常はさらに厳格な内容規制は必要ではない。しかし,契約の内容が,一方当事者にとって通常ではない負担を課しており,かつ利益調整(Interessenausgleich)として明らかに不均衡である場合には,裁判所は『契約は契約である』との確認のみで満足してはならない。裁判所はむしろ,その取り決めが交渉力の構造的不平等の結果であるかどうかを明確にし,場合によっては,現行民事法の一般条項の枠内で,これを修正するために介入しなければならない。」
このように判示した上で,① X1 が成人であることのみを理由として,生じうる危険を自ら確認しなければならないとすることは不十分であり,
②保証契約の内容は正常ではないにもかかわらず,BGH がYの説明x x・指摘義務を否定し,さらにYの銀行員の発言を評価しなかったことは,私的自治の基本法による保障を見誤っていることから,BGH の判決は違 憲であるとして,これを破棄し,BGH へ差し戻した。
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2) 学説の展開
シュベンツァーの見解
1993年 BVerfG 判決が導き出した「構造的な従属的関係」,「従属した状況にある一方当事者に通常ではない重い負担」,「交渉力における構造的な不平等」といった要件を用い,夫婦財産契約の自由とその制限に関する具体的な議論の先駆となったものとして,シュベンツァー(Xxxxxxxx Xxxxxxxxx)の論説が挙げられる55)。シュベンツァーは,社会的保護が必要である専業主婦が,夫婦財産契約で剰余清算及び年金等の清算を放棄したという事実だけでは,契約自由への介入の根拠は不十分であるとする。その上で,1993年 BVerfG 判決,とりわけ保証人側の主観的要件である
「構造的な従属的関係」と結びつけ,女性が夫婦財産契約締結時及び離婚効果に関する合意を締結する際には,常に「構造的な従属的関係」が認められる状況にあることを立証しようと試みている。
シュベンツァーは,社会学的考察や心理学的考察を用いている。xxxxxxxによれば,男性と女性の年齢差は,初婚の際には2.5歳,再婚の際には3.5歳,平均して男性の方が年長であり,また男性の方が女性よりも,学歴・職業訓練や仕事においても,女性よりも良い学歴・成績・成果を上げていることから,多くの男性が女性よりも高額の所得を得ている事実を指摘する。また,女性は,「参加(関与)の倫理」を重要視し,男性は「法(権利)の倫理」を重要視することから,女性よりも男性の方が,取引状況において,自己の利益を貫徹する傾向にあり,したがって,交渉力は男性の方が優れていると指摘する。また女性の方が男性よりもパートナーからの暴力の危険性が大きいことも挙げている。
このようなことから,女性は「構造的な従属的関係」にあり,夫婦財産契約や離婚効果に関する合意について,契約自由の前提となる基礎となる正当性の保障を欠いていると主張する。また,「構造的な従属的関係」が存在するかどうかを,個々の事例において判断することは行うべきではないとする。そして,1993年 BVerfG 判決及び基本法6条1項・3 条2項に
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
基づいて,民事裁判所は,契約によって女性が不利益を被ることがないように保障する義務があり,さしあたり,離婚効果に関する合意に適用することが予定されている BGB 1587条oを,BGB 1408条による夫婦財産契約にも適用するべきであると主張する。
一方で,xxxxxxxの見解に対しては,多くの批判がある。まず,xxxxxxxが援用した1993年 BVerfG 判決は,保護すべき保証人の
「構造的な従属的関係」を導き出す上で,具体的事例に基づいて判断要素を考慮している。しかしながら,xxxxxxxは,夫婦財産契約に関しては個々の事例を考察することなく,常に女性は「構造的な従属的関係」にあると解することから,これに対する批判がある56)。夫婦は夫婦財産契約だけでなく,例えば,不動産売買契約,会社(法人)契約,雇用契約,相続契約を締結することもある。さらに,男性と女性の間での「構造的な従属的関係」のみを根拠とすることから,例えば女性が男性の売主から中古車を購入する場合にも,「構造的な従属的関係」が存在することになる。したがって,夫婦財産契約についてのみ「構造的な従属的関係」に基づく内容規制が適用されるのか否かを明らかにする必要があるのにもかかわらず,シュベンツァーはこれを明らかにしていないと批判する57)。
xxxxxxxは,例外として専業主夫が夫婦財産契約や離婚効果に関する合意において法的権利を全く有していない場合には,個々の事案に応じた内容規制が考慮されるべきであるとしている58)。シュベンツァーは,夫が専業主夫である場合にのみ夫婦間の詳細な事実関係を考慮することを義務付けているが,しかしながら,xxxxxxxの見解によれば,個々の事実関係に関係なく,婚姻当初から女性は男性の「構造的な従属的関係」にあるとしている。このことから,専業主夫の場合に例外を認めるxxxxxxxの見解は一貫していないと批判する59)。その他にも,xxxxxxxが依拠した社会学・心理学の研究は,それらの専門領域では,その信憑性が疑われていることを指摘している60)。
ビュトナー(Xxxxxx Xxxxxxx)は,xxxxxxxの見解に従うものの,
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個々の事実関係を考慮することなく,常に女性に適用される「構造的な従 属的関係」を,女性の状況に関する社会学的・心理学的分析から導き出す ことについては,その正当性を否定している61)。その上で,xxxxxは,女性の「構造的な従属的関係」は,個々の事実関係に基づいて判断すべき であるとする。その典型例として,女性が自己の利益よりも子どもの利益 を優先する傾向にあるから,女性が妊娠している場合や子どもを養育して いる場合を挙げている。
xxxxxは,シュベンツァーの見解よりも適用事例の範囲を狭くすることで,その問題点を克服しようとしたが,完全に問題点を解決するには至っていない。また,xxxxxの見解に対しても,シュベンツァーの見解が夫婦財産契約締結時の女性の「構造的な従属的関係」を一括して認めていることと同様に,妊娠していること,もしくは子どもを養育していることのみを理由として女性の「構造的な従属的関係」を認めようとする。結局のところ,個々の事実関係を考慮することなく,妊娠していないもしくは子どもを養育していない女性に対して,不利益となる夫婦財産契約を認めることになるとの批判がある62)。
xxxxxxxの見解以降の議論状況
シュベンツァーの見解以降も,夫婦財産契約の自由とその制限に関する従来の BGH の見解に対する批判が展開されることになる。xxxxx
(Xxxxxx Xxxxxx)は,BGH の見解とは異なり,契約締結時に一方配偶者の抑圧的な心理状況を利用した場合には,BGB 138条による良俗違反に基づく内容規制の必要性を主張している63)。さらに,契約自由の原則から自動的に契約内容の自由が導き出されるわけではなく,他方当事者が任意に契約締結に関与したという事実だけでは,個々の契約内容を正当化することはできないと主張する64)。したがって,完全な夫婦財産契約の自由から脱却し,実質的な契約のxx性を保障することが,法定離婚効果の保護・補償性格に適しているとする65)。シュバーブは,夫婦財産契約に対する特別な良俗違反の基準を設けることが要求されているのではなく,BGB 138
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
条1項を夫婦財産契約にも適用することが重要であるとしており,多くの見解がこの主張に賛同している。
その上で,一方配偶者の「構造上の従属的関係」が認められる事例を類 型化することが必要であり,自己の客観的な事実関係において,例えば, 養育する子どもの利益が侵害される場合のように,もはや自己の利益をx xに判断できない場合には,「構造上の従属的関係」の状況にあるとして いる66)。具体的な事実関係については,xxxxxによれば,法律上予定 されている保障を他の方法による補償なしに放棄した場合には,利益の清 算が完全に不xxなものであり,一方的な負担であるとして評価され, BGB 138条による内容規制の対象となるとしている。またxxxxxxは,盲目的な愛情や特定の事実関係を考慮して,夫婦財産契約を締結した上で 婚姻した場合には,著しく不均衡な取引地位を主張し,当該夫婦財産契約 の無効を主張することはできないとしている67)。
サラス(Xxxxx Xxxxxx)は,夫婦財産契約における合意内容の憲法違反は,私法領域における良俗違反と同置することができるとした上で,基本権の侵害の判断基準として,監護・養育・扶養といった親固有の法的地位を不適法に「営利化」の対象としているか否かを挙げており68),上述
【3】判決の適用範囲を拡大することを主張したものといえる。さらに,子どもを養育している親の一方が,子どもとの共同の生活を送る上で十分な財産・所得がない場合,すなわち要扶養状態となった場合には,扶養放棄等の取り決めは,子どもの利益への侵害や離婚配偶者への相応な扶養請求権への侵害をもたらすことになる。このからも,子どもの利益を考慮すれば,このような内容を規定している夫婦財産契約が内容規制の対象となることは,私法上の保護要請から正当化することができるとして,BGHを批判する69)。
また,ケスター = xxxxx(Xxxxxx Xxxxxxx-Xxxxxxx)は,夫婦財産
契約によって,一方配偶者が経済的な利益を得,将来的な義務からの免除を主張する場合には,当該契約に,子どもの利益への侵害を含めた不均
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衡・不適法な営利化や目的設定が存在していないかを詳細に考慮しなけれ ばならないとする70)。そして,婚姻締結や存続と,夫婦財産契約における 離婚後扶養・剰余清算・年金等の清算の放棄を経済的に結びつけることは,親固有の法的地位の営利化と同様に非難されるべきであると批判する。ケ スター = バルチェンは,このような議論展開を端的に「何者も婚姻締結・ 婚姻解消の意思を購入することはできない」と表わし,BGH の判例理論 である夫婦財産契約の自由と婚姻締結の自由の関連性を否定し,婚姻締結 の自由は,一方的な負担分配を伴う無制限の契約内容を根拠づけていない と主張する71)。
学説の多くは,BGH が婚姻締結の自由と夫婦財産契約の自由を関連付けた上で,婚姻締結と夫婦財産契約による離婚効果の放棄を合意することを結びつけている点を批判する。さらに,BGH は婚姻によって女性のみが法が保障する利益を得ることができ,男性は女性に対して,この利益に関する夫婦間の合意を承諾するよう望むことができるとする。この BGHの判例理論に対しては,ケスター = xxxxxが上述のように端的に批判しており,これに多くの見解が賛同している72)。
公証人の助言義務
カンツライター(Xxxxxx Xxxxxxxxxx)は,公証人による認証,とりわけ 公証人による助言義務によって十分に保護されていると主張する73)。すな わち,公証人法17条1項2文によって,公証人は,未経験であり,また法 的知識のない当事者が不利益を被らないように配慮しなければならず,こ れによって,過大な自己評価,軽率さ,未経験によって生ずる問題を予防 することができるとしている74)。そして,BGB 138条や242条による内容 規制は,不必要な法的不安定性をもたらすことから認めるべきではなく75),契約当事者の利益よりも一般的な法的安定性の利益を優先することは,裁 判費用や紛争を減少することになる76)。さらに,契約締結時に既に妊娠し ている女性を保護する必要性は認めるが,内容規制は妊娠しているという 事実によって,夫婦間の合意が常に無効となる,すなわち妊娠している女
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
性が制限行為能力者と同様の状況にすることから,内容規制は,婚姻パートナーによる他律の代わりに,裁判所による他律を認めることになりかねないと主張する77)。
適用規定の問題
BGB 138条による内容規制は,契約締結時の事実関係に基づいて判断することから,婚姻生活の展開が考慮されないこととなる。夫婦財産契約以外の契約では,BGB 138条が契約締結時の事実関係に基づいて良俗違反を判断していることから,このような見解が主張されているが,ラムは BGB 138条の適用範囲を夫婦財産契約についてのみ変更することを主張していた。しかし,婚姻生活を考慮した判断は BGB 242条によって考慮すべきであるとの見解が有力であった78)。
一方で,BGB 1587条oの適用領域が異なることに対する批判も多い。離婚効果に関する合意での年金等の清算の合意内容は,BGB 1587条oによる内容規制が適用されるのもかかわらず,夫婦財産契約では,BGB 1408条
2項の要件を満たしている限り,内容規制が適用されることはない。
BGH は上述のとおり,夫婦財産契約における年金等の清算の内容規制を
認めていないが,夫婦財産契約における内容規制の必要性が主張されている79)。
4.小 括
これまでのドイツの議論からは,男女同権や婚姻締結の自由,契約締結の自由といった「自由」と「平等」の理念の下,「子どもの福祉」という制限があるものの,両当事者が対等の立場で自由に契約を締結することを前提としていることが確認できる。したがって,BGH の判例理論は,夫婦財産契約に対する内容規制に消極的であった。また,BGB 138条や242条といった一般条項の適用範囲も明確に区別されていなかった。さらに, BGH は,原則として契約自由の原則を重視していたが,例外的に子どもの福祉を重視し,子どもの福祉・利益に反するような夫婦財産契約の取り
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決めは BGB 242条によって無効とされてきた。
他方で,77年改正法によって離婚後扶養が改正された後でも,離婚後扶養は完全扶養を念頭に置いており,扶養請求権である夫の経済的負担が重くなったことから,夫婦財産契約によって,これらを修正することが試みられ,また事実婚の増加という社会的事実の一つの要因とされていた。
このような社会状況を考慮して,原則として夫婦財産契約の自由を認め つつも,一定の制限を試みたのが,ラムやシュベンツァーの議論であった。当時xxが指摘した「社会的弱者」の多くは,性別役割分業によって専業 主婦として家事育児に従事する妻であった。性別役割分業の意識が強い社 会状況では,社会的・経済的弱者が,家庭内での弱者となることが多く, したがって妻が弱い立場になりがちである。xxの見解には,このような 状況にある妻の保護の実現を試みるものであった。ジェンダーの視点から みれば,家庭内のジェンダー構造に対する是正の必要性を認識するもので あるとみることができる。またxxxxxxxの議論も,「構造的な従属 的関係」という概念を用いることで,ラムと同様に,ジェンダー構造の是 正を試みたものといえる。
しかしながら,「寄与のxx性(Teilhebegerechtigkeit)」や,1993 年 BVerfG 判 決 に よっ て 明 確 に さ れ た「一 方 的 な 優 越(einseitige Dominanz)」,「構造上の従属的関係」といった概念は明確なものではなく,批判の対象となった80)。ラムを除いて,夫婦財産契約の自由についてのみ 適用される内容規制が必要であることを説明することはなかったが,いず れにしても,学説の多くは,夫婦財産契約の自由とその制限という課題に 対する現行法の不十分さを指摘するものであった。これらの議論によって,夫婦財産契約における内容規制の必要性が明らかにされてきたが,具体的 な事例についての明確な判断基準を確立するまでには至らなかったことか ら,契約締結時に妊娠している女性との契約は常に無効となり,制限行為 能力者に近い状況に陥る危険性があることも同時に指摘されていた81)。
このような議論状況の下で,2001年に BVerfG が夫婦財産契約の内容規
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
制に関する判断を行い,夫婦財産契約の自由と内容規制に関する議論に大きな変化が生ずることとなった。
第3章 2001年 BVerfG 判決
1.2001年 BVerfG 判決の事実関係と判決理由
【5】 2001年 BVerfG 判決
〔事実関係〕
憲法異議の申立人X(妻)はY(夫)と非婚のまま同居し,1976年に XはYの子Aを妊娠した。XはYに対して婚姻を迫ったものの,Xは改正前の離婚法に基づくXの離婚後扶養請求権の高額化を恐れ,婚姻することに躊躇していた。そこでXとYは,夫婦財産契約(以下,「本件契約」)を作成し,両者はこれに合意した。その内容は離婚に備えたものであり,① XYは離婚が確定した後は,現在及び過去における相互のあらゆる扶養請求権を放棄すること,② Yは,離婚が確定した場合,子どもAの扶養料としてXに月々 150 DM を支払うこと,③ XはYに対する子どものその他の全ての扶養請求権を放棄すること,であった。本件契約締結後XYは婚姻し,またAも1986年末に出生した。その後, 1989年にXとYは離婚し,Aの親の配慮(elterliche Sorge)はXへ移された。
離婚後争われたのは,Xにとって不利益となる内容を含んでいる本件契約の有効性である。区裁判所は,②・③は法の定める直系血族の扶養放棄の禁止に抵触するものであるとして,Yの請求を退け,Xの主張を認容し,本件契約を無効とした。これに対して,Xが控訴した。OLGは,① 夫婦は,契約自由の枠内において,婚姻締結前であっても任意に夫婦間で子どもの養育の責任を分担することができること,② 誰もが婚姻締結の自由を有しているために,Yは婚姻締結と夫婦財産契約の内容を結びつける(依拠させる)ことができること,③ 本夫婦財産契
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約は,その内容・動機及び目的についても倫理に反するものではないこと,④ Xの稼働能力を考慮しても,Xが経済的にYに従属しているために,やむを得ず本夫婦財産契約を締結したとの事実は認められないこと,を判示した上で,Yの主張を認容し,本件契約を有効とした。
これに対して,Xは OLG の判決が,基本法6条 1・2 項及び103条1項に基づく権利が侵害されているとして,BVerfG に憲法異議を申立てた。
〔判決理由〕
① 「基本法2条1項によって保障されている私的自治は,個人の自己決定の条件が現実的に存在することを前提としている。他方当事者と関連して自由で自己責任のある行為を現実化する典型的な手段は契約であり,契約当事者は契約により,個々の利益が相互に適切な調整が行われたと結論付けることができる。……原則として,国家はこれを尊重しなければならない。しかしながら,契約による負担が特に一方的に課され,かつそれが著しく不平等な契約当事者の交渉状況に基づくものであって,一方当事者が契約関係において契約内容を事実xxx的に定めることが可能であることが明らかである場合には,法は,両当事者の基本法上の地位を擁護し,一方当事者の自己決定が他律に変わることを妨げなければならない。」
② 「このことは,夫婦が婚姻中もしくは離婚後の一身専属的な関係を規律する夫婦財産契約についても同様である。その際,基本法6条1項は,夫婦に,それぞれの共同体を婚姻及び家族への責任と配慮して自ら自由に形成する権利を与える。……この婚姻及び家族の自由な領域は,基本法3条2項によって基本法上表れている。したがって,xと妻が同権のパートナーシップにある婚姻が基本法上保護される。」
③ 「その結果,国家は,夫婦が契約によって婚姻上の関係及び相互の法律関係を形成する自由について,限界を設けなければならない場合がある。それは,当該契約が,夫婦が同等の権利を有する生活共同体
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
において締結されたのではなく,不平等な交渉状況の下で,一方配偶者の一方的な優位(Dominanz)を反映している場合である。例えば,妊娠した未婚の女性が,単独で子どもの将来の養育を引き受けるか,それとも,女性自身に重い負担を課す夫婦財産契約を子どもの父親との間で締結するという犠牲を払ってでも,子どもの父との婚姻を締結するかという二者択一を迫られている場合である。夫婦財産契約の際にも,契約の対等性が保障されていない場合には,同権のパートナーシップとして基本法上要請される婚姻の保護が,裁判所による規制に服することを可能にし,場合によっては,私法上の一般条項による夫婦財産契約を修正する。このことが裁判所の責務である。」
④ 「このような裁判所による内容規制は婚姻締結の自由に矛盾しない。
……婚姻締結の自由は,無制限の夫婦財産契約の形成の自由,特に一方的な夫婦財産契約上の負担分配を正当化するものではない。」
⑤ 「夫婦財産契約が妻にとって明らかに一方的な負担分配を含んでお り,契約を婚姻締結前に女性の妊娠と関連付けて締結した場合には, 基本法6条4項に基づく母となるべき者の保護と配慮の請求権もまた,夫婦財産契約がこのような裁判所による特別な内容規制の対象となる ことを要請する。……このような場合に基本法の保護要請を内容規制 に移し,そして妊婦を社会的環境もしくは子どもの父からの圧力や圧 迫から保護することが,裁判所の責務である。」
⑥ 「未婚の妊婦が,将来,未婚の母として単独で子どもに対する親の 配慮および子どもの養育を担うか,それとも,婚姻と引き換えに女性 自身に著しく重い負担を課すことになる夫婦財産契約を受け入れるか,という二者択一に迫られている状況は,従属的関係(Unterlegen- heit)にあると認められる。……もっとも,夫婦財産契約締結時にお ける妊娠という事実は,当該契約を裁判所のより厳格な内容規制に服 させる機会を与える,契約上の非対等性(vertragliche Disparitat)を 示す間接事実に過ぎない。その他にも,妊婦の財産状況及び職業上の
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
能力や展望,さらに両当事者によって意図されていた婚姻における稼動能力と家政執行の分担が,妊婦の置かれていた状況を判断するための決定的な要素となる。」
⑦ 「しかし,夫婦財産契約の内容も,非婚の妊婦の従属的関係を表す場合には,保護必要性が明らかになる。契約が妊婦に一方的に負担させ,その利益を相応に考慮しない場合がこれに該当する。夫婦財産契約による合意が,明らかに夫よりも妻に重い負担を負わせているかどうかは,両当事者がどのような家族の状況を描き,それを契約の基礎としたかによる。夫婦が互いに離婚後扶養請求権を放棄し,また夫婦が同等の稼働の従事し,同等の家事労働を分担する婚姻の場合には,不xxな負担とはいえない。しかしながら,当事者の生活計画が,一方配偶者が仕事を辞め,家事労働に従事することを予定している場合には,離婚後扶養請求権の放棄は,家事労働に従事する一方配偶者の不利益を意味する。夫婦財産契約によって法定の権利が廃止,もしくは追加的な義務の引き受けが生じれば生じるほど,一方的な不利益はより大きくなる。」
このように判示した上で,① 本件契約が妊娠を原因として,Xに一方的な負担を負わせる内容になっているにもかかわらず,この点を考慮しなかってことは基本法6条4項と結びついた基本法2条1項による保護義務を誤っており,また ② 本件契約の離婚後扶養請求権の放棄が子どもの利益に影響が及ぼされることを考慮しなかったことは,基本法6条2項の保護の範囲と意義を誤っているとし,OLG の判決を破棄し,OLG へ差戻した。
2.判決の評価
2001年 BVerfG 判決は,BGH の従来の判例理論,特に婚姻締結の自由と夫婦財産契約の自由の関係を否定したことから,BGH にはこれを変更
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
することが義務付けられた82)。また,夫婦財産契約の内容規制について,客観的要件として,契約によって一方当事者へ一方的な負担を課していること,主観的要件として,自己決定を妨げている要素である,両配偶者間の不平等な交渉地位,およびそれによって生じる利益を得る他方当事者の優越的地位を設けた。また,妊娠という事実は,それだけでは夫婦財産契約の無効を根拠づけることにはならないが,間接的ではあるものの不平等な交渉地位を根拠づけることなる。さらに,夫婦財産契約の内容が一方配偶者へ一方的に負担を課しているかどうかの判断には,両配偶者が夫婦財産契約締結の際に念頭に置いていた婚姻生活の計画に着目する必要性を示している。
2001年 BVerfG 判決では,1993年 BVerfG 判決によって展開されてきた 原則を夫婦財産契約にも適用しており,この点では学説におけるシュベン ツァーの見解と同様である。しかしながら,2001年 BVerfG 判決はシュベ ンツァーと異なり,夫婦財産契約の原則的な内容規制を導き出しているの ではなく,例外的なものとして判断しているといえる83)。2001年 BVerfG 判決以降,夫婦財産契約の自由とその制限に関する議論に変化がもたらさ れることとなるが,良俗違反の判断の重要性は,社会的に弱い立場の人々,経験が十分でない人々の保護という領域にまで及んでおり,大ざっぱに言 えば「消費者保護」の思想が婚姻法へ及んできたとも表わされている84)。
3.問 題 点
法的安定性と妊娠の事実の考慮
一方で,2001年 BVerfG 判決が残した課題も指摘されている。まず,実質的なxx性を重視する傾向を強くしたことから,法的安定性が損なわれるとして批判する見解がみられる85)。2001年 BVerfG 判決は,契約内容に子どもの養育費に関する事項が記載されていれば,基本法6条2項に抵触し,直ちに夫婦財産契約が無効になるとは判断しておらず,養育費等が子どもの生活扶養を保障するのに不十分な場合にのみ夫婦財産契約が無効と
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
なるとしている。したがって,どのような要件の下で,当該合意が基本法
6条2項に抵触するのかを明確にする必要がある86)。
また,2001年 BVerfG 判決は,締結時の妊娠という事実を,内容規制の機会を与える契約上の非対等性を根拠づける間接事実の一つにすぎないと判断している。したがって,財産状況や職業上の地位等の事実も,妊娠と同様に従属的関係を根拠づけることになる。これらの事実をどのように判断するか,またどの事実を重視するかといったことについては,2001年 BVerfG 判決は明確にしていない。これに関してランゲンフェルド(Xxxxx Xxxxxxxxxx)は,2001年 BVerfG 判決が妊娠していることを前提とした判決であるとした上で,仮に,妊婦が扶養放棄に関する公証人による助言や十分な考慮期間の後に,扶養放棄に合意した場合には妊婦の従属的関係は否定されると解している87)。他方,xxxxxは,妊娠していることを前提とすることなく,極端な事例では,客観的な不利益から,妊娠以外の事実を考慮して,妻の従属的関係を根拠づけることができるのではないかとの疑問を示している88)。
適用規定の不明確性
2001年 BVerfG 判決は,内容規制の具体的内容を明確にせず,私法上の一般条項も適用することのみを判示している。これまでの裁判例から BGB 138条を適用することが考えられ,契約締結時の事実関係に基づいて良俗違反の判断を行うことになる。しかし,夫婦財産契約では,子どもの養育・扶養に関する内容を含むこともあり,効果的な子どもの利益の保護を現実的に考えると,契約締結時よりも契約内容が適用される時点,すなわち離婚時の事実関係や婚姻期間中の生活状況等を考慮する必要があり, 2001年 BVerfG 判決ではこの観点を欠いていると指摘する見解もある89)。また学説には,契約自由の原則を優先し,BGB 242条に基づいて,契約 内容の無効ではなく,変化した事実関係に契約内容を適応(Anpassung)することをまず考えるべきであることから,BGB 138条の適用の前に,まずは BGB 242条が適用されるべきであり,適応(Anpassung)で不十分な
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
場合にのみ,BGB 138条による内容規制が行われるべきであると主張するものもある90)。
いかなる規定を適用する場合であっても,どのような要件の下で内容規 制が行われるのかが問題となる。2001年 BVerfG 判決は,客観的要件とし て,契約によって一方当事者へ一方的な負担を課していること,主観的要 件として,自己決定を妨げている要素である,両配偶者間の不平等な交渉 地位,およびそれによって生じる利益を得る他方当事者の優越的地位を設 けているが,具体的な事例・事実関係が不明確なままである。この判断に 際して,xxxxxxxxは婚姻形態に応じて事例を類型化することで, 実効性コントロールの適用の有無を判断することが可能であるとしている。その一方で,妊婦であることのみを理由にして内容規制を行うことは,裁 判官による他律に他ならず,妊婦を常に制限行為能力者として扱うことに なり,これは認められないとしている91)。
2001年 BVerfG 判決によって,夫婦財産契約の合法性・正当性は,契約自由がどこまで認められるのがという,契約自由の領域問題から,どこに制限があるのかという観点に移り92),「自己決定を妨げている要素である,両配偶者間の不平等な交渉地位,およびそれによって生じる利益を得る他方当事者の優越的地位」,「契約上の非対等性」,「一方的な夫婦財産契約による負担分配」の具体的内容がその後の議論の中心となった。
第4章 2001年 BVerfG 判決以降の下級審判決
1.離婚効果に関する合意と2001年 BVerfG 判決
これまでも,BGH は,離婚に際して財産法上の合意を締結することは認め,その制限に消極的であった。その後,下級審判決において,離婚効果に関する合意で離婚後扶養請求権の全てを放棄したが,締結時に精神病に罹患していた場合には,「契約内容を一方的に定めることができた場合」を推定することができ,離婚効果に関する合意を無効としたことから,離
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
婚効果に関する合意も,2001年 BVerfG 判決によって確立した夫婦財産契約の内容規制の対象となることが明らかになった93)。
2001年 BVerfG 判決以降の下級審判決では,「当該合意が基本法に抵触していないかどうかという内容規制に基づいて行われ」,特に,「契約が,男女同権のパートナーシップを保護している基本法3条2項と結びついている基本法6条1項の表れ及び成果ではない場合」94),「契約が一方配偶者に対する一方的な負担を課しており,かつこれが他方配偶者の優越的な取引地位に基づいて契約内容を一方的に定めることができた場合」95),に内容規制が行われるといった表現が見られるようになる。契約締結時に妊娠しているという事実だけでなく,両配偶者の同居期間中に出生した子どもがいる場合であっても,妻の従属的関係を認めた下級審判決もある96)。
さらに,2001年 BVerfG 判決で明示された基準を超えて,特定の合意内容に関する内容規制を判断する下級審判決も見られる。そこでは,扶養に関する合意内容が良俗に反するかどうかの判断の際には,合意内容が離婚法の趣旨からも適当なものとして評価できることが重要であるとしている97)。学説でも,離婚後扶養に関する合意については,その特殊性を強調し,特別な内容規制を設けることが主張されていた98)。
2.女性の抑圧的な状況
妊娠の事実を重要視し,有効性を判断する裁判例が見られるようになる。例えば,契約締結時に主婦婚を念頭に置いていた夫婦が,別産制の選択及 び年金等の清算の放棄を夫婦財産契約で合意したが,妻が締結時に妊娠し ていた場合には,このような内容は,一方的に妻に負担を課す内容であり,また妊娠によって強制的な状況にあり,考慮期間も不十分であることから, BGB 138条により,年金等の清算の放棄を良俗違反とした99)。
その一方で,内容規制を否定する下級審判決も存在する。例えば,夫
(33歳)と外国人である妻(19歳)が,婚姻締結3日前に剰余清算・離婚後扶養を放棄する旨の夫婦財産契約を締結し,夫婦財産契約締結時に妻が
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
妊娠していた事例において,夫は妻の妊娠という事実を知っており,またこれだけでは妻の従属的関係を根拠づけることができないことを認識していたのにもかかわらず,夫が妻の従属的関係を利用したという事実を認定することができないとして,夫婦財産契約を有効と判断した100)。この判決に対しては,xと前妻との間に生まれた娘の養育も妻が行うことが合意内容から明らかであったことから,離婚効果を放棄するは,一方的な負担
となることは明白であり,夫婦財産契約は無効とすべきであるとの批判がある101)。
また,夫婦財産契約締結時に妻は妊娠していないものの,専業主婦として子どもの養育を行っている場合には,年金等の清算の放棄に対する十分な補償・反対給付を合意していない限り,年金等の清算の放棄は無効であると判断する下級審判決もある102)。この判決に対しては,具体的な事案の解決としては納得できるものではあるが,主婦婚や単独稼働婚を選択する夫婦は,離婚後の連帯(nachehelicher Solidaritat)のために夫婦財産契約によって離婚効果を放棄することができないことから,法定の離婚効果がこれらの婚姻形態にのみ適合していることを強調することになったと評価する見解もある103)。
3.契約締結時の事実関係とその評価
契約締結時の事実関係の評価ついても問題が生じた。例えば,ドイツ人男性とロシア人女性が,婚姻に際して,共稼ぎ婚を望んでおり,子どもを持つ意思もなかった。夫婦は,別産制の選択及び全ての離婚効果を放棄する旨を合意した。xx証書作成の際に立ち会った通訳が誤訳した事実が認められたのにも関わらず,当該契約は有効とされた104)。この判決に対しては,確かに,契約内容だけを見れば一方的な負担分配や従属的関係の利用といった2001年 BVerfG 判決の判断基準に該当する事実は認められないが,通訳の誤訳により,ロシア人女性が別産制を合意する上で十分にこれを理解していなかった。下級審判決はこの点を考慮しておらず,このよう
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な状況の下で締結された夫婦財産契約が,同権のパートナーシップを表しており,それゆえに契約自由や婚姻の保護といった基本法の保障を享受していると判断されるのであれば,契約当事者間の不均衡な状況はどのような場合に存在するのかといった批判がなされている105)。さらに,下級審判決には婚姻締結後の状況の変化を考慮することなく,契約締結時の事実関係から一方的な不利益や従属的関係が認められないとして,夫婦財産契約を有効としたものもある106)。
4.小 括
2001年 BVerfG 判決が,従来とは異なる判断基準を示したことから,判例・実務に大きな影響を与えている。裁判所が,2001年 BVerfG 判決の判断基準を適用することで,夫婦財産契約や離婚効果に関する合意の制限を試みてきた。しかしながら,契約自由が問題となる様々な局面に介入することになり,明確な基準・判断構造が示されることはなく,法的安定性の観点からは,問題視されてきた。このことからも,BGH には夫婦財産契約や離婚効果に関する合意についての裁判所による内容規制の構造化と,下級審判決によって明らかになった課題を解決することが求められることとなった。
第5章 2004年 BGH 判決
1.2004年 BGH 判決の事実関係と判決理由
【6】 BGH 2004年2月11日判決
〔事実関係〕
申立人X(夫)と相手方Y(妻)は1985年に婚姻し,翌年に子A, 1989年には子Bが誕生した。Xは,企業コンサルタントとして働いてい た。Yは,大学で歴史学を専攻しており,婚姻当時,発掘作業に従事し,博士学位の取得も望んでいたが,妊娠したことからこれを機に家事育児
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
に専念することとした。
1988年2月17日に,XとYは,xx証書(Notarurkunde)によって夫婦財産契約を締結した。その内容は,① 離婚の際には,子どもの扶養(Betreungsunterhalt)に関するYの請求権を除く,全ての離婚後扶養請求権を,XY双方が放棄すること,② 夫婦財産制は別産制とし,これまでの婚姻期間中に剰余は生じていないこと(念のため,剰余清算請求権もXY双方放棄することも明記),③ XY双方は,年金等の清算を放棄すること,④ 年金等の清算の代わりに,XはYが満60歳に到達した時点で 80,000 DM の保険金が支払われること,定期金支払選択権
(Rentenwahlrecht)付の生命保険契約を締結し,その保険料を支払うこと,⑤ 離婚の際には,XはYに対して,保険料の3ヶ年分を補償金として支払い,その後は保険料支払いを行わないこと,であった。
1999年2月に,XとYは別居を開始した。AとBは,XY間の合意に基づいてYと共に生活し,Xは養育費を支払い続けた。
2001年11月に,Xは離婚訴訟を申し立てた。区裁判所は,離婚を認容し,また年金等の清算に関する請求権も成立しないと判断した。また, XにYに対して基本扶養料(Elementarunterhalt)として月々 3,671 DM,老齢年金のための準備扶養料(Vorsorgeunterhalt)として月々 1,081 DM を支払うことを命じた。さらに,その他の扶養,離婚と併合した段階訴訟での報告,剰余清算に関するYの請求を棄却した。
これに対して,Xが控訴した。上級地方裁判所(OLG Munchen, FamRZ 2003,35.)は,BVerfG 2001年判決の基準によれば,XY間の夫婦財産契約は無効であり,またXの財産状態からXY間に剰余清算請求権が成立することから,Xは,Xの終局財産に関する報告をYに提供しなければならないとした。夫婦財産契約の扶養放棄に関する合意については,Xの財産状態及び所得を鑑みれば,Xが扶養請求権者となることはなく,Yは自身が稼働することで,A・Bの養育のために必要な金額を保障することは不可能であることから,Yが著しく冷遇されていると
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
いえ,扶養放棄に関する合意も無効であると判断し,これらを判断するために必要な事実が不十分であるとして,Xの終局財産に関する報告を除くYの請求を区裁判所へ差し戻した。さらに,Xに,Yに対して月々 2,897ユーロの基本扶養料と952ユーロの準備扶養料を支払うことを命じた。これに対して,Xが上告した。
〔判決理由〕
① 「夫婦が,離婚に備え,扶養法の関係もしくは財産に関する事項を,法規定とは異なる内容を合意した場合,いかなる要件の下で無効とな るのか(BGB 138条),もしくは,契約による合意内容の全てあるい は個々の規定を主張することが認められないのか(BGB 242条)につ いて,一般的かつ全ての事例に対して確定的に答えることはできない。ここでは,合意成立の理由及び事情,婚姻生活の計画された形態また は現実化した形態といった,当該合意の全体的な評価(Gesamtschau)が必要となる。その際には,以下のような原則が出発点となる。」
② 「離婚後扶養,剰余及び年金等の清算に関する法規定は,原則とし て,夫婦の契約による処分に服する。現行法は,権利を有する一方配 偶者の利益のために,離婚効果に対する最低限不可欠のものを定めて いない。……しかし,離婚効果が原則として,夫婦の契約に基づく合 意によって自由に処分することができたとしても,法規定の保護目的 がこの合意によってその効果を奪われることにはならない。合意に よって負担を負う一方配偶者に対して,このような負担を負うことを,
……期待することができない程に明らかに一方的であり,また婚姻生活共同体の個別の関係によっても正当化することができない負担分配が成立した場合には,これに該当するであろう。夫婦財産契約による法規定の排除が,離婚効果の中心領域(Kernbereich)により直接的に介入している場合には,一方配偶者の負担はかなり重大なものとなり,他方配偶者の利益に対してより正確な審査が求められる。」
③ 「まずに,子どもの養育に関する扶養(BGB 1570条)が離婚効果の
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
中心領域に属し,子どもの利益を考慮すると,夫婦の任意処分の対象とすることはできない。」
④ 「離婚効果の中心領域に関する整理に際し,その他の点については,個々の離婚効果の規定が,扶養権利者にとって,それぞれの状況において,どのような意義があるのかに基づいて,その任意性に関する格付け(Rangabstufung)が行われる。通常,扶養権利者にとって,現在の要扶養状態を充たすことが,剰余清算や後々の年金等の清算よりも重要である。扶養の要件事実の内部では,~子どもの養育に関する扶養(BGB 1570条)に次いで~疾病に基づく扶養(BGB 1572条)及び老齢に基づく扶養(BGB 1571条)が上位に位置づけられる。」
⑤ 「稼働喪失(Erwerbslosigkeit)に基づく扶養(BGB 1573 条)は,法は持続的に保障された職場を見つけるとすぐに,職場のリスクを扶養権利者に移していることから,後位に位置づけられる。疾病準備及び老齢準備扶養(BGB 1578条2項・3 項)がその後に続く。補充扶養
(Aufstockungsunterhalt)や修学のための扶養(Ausbildungsunter- halt)は,法によって最も弱いものとして規定されており,また金額だけでなく(BGB 1578条1項2文),期間を定めることもできることから(BGB 1573条5項,BGB 1575条1項2文),(扶養の要件事実の中で)最も容易に放棄することができる。」
⑥ 「年金等の清算は,老齢に基づく扶養と同じ段階に位置づけられる。年金等の清算は,老齢に基づく扶養の前渡し(vorweggenommener Altersunterhalt)として,契約による任意処分が制限される。……老齢扶養と同一の基準に基づいて審査しなければならない。……剰余清算は,夫婦財産契約による任意処分を最も受け入れやすいものである。」
⑦ 「裁判官は,法定の離婚効果とは異なる合意によって明らかに一方的な負担分配が生じており,負担を課された配偶者にとってそれを担うことが期待できないかどうかを審査しなければならない。……その
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際に,裁判官は初めに~有効性の規制(Wirksamkeitskontrolle)の枠 内で~合意がすでに成立した時点で,離婚の場合に~夫婦や生活状況 の発展を除いて~良俗に反するために,法規定に代わることの結果が,法秩序の承認を全部もしくは一部拒絶しなければならない,明らかな 一方的な負担分配をもたらすかどうかを審査しなければならない
(BGB 138条1項)。その際には,契約締結時における個別事情,とりわけ,所得及び財産状況,計画したもしくはすでに現実化した婚姻形態,配偶者及び子どもの影響に焦点を当てた総合的な考察(Gesamt- wurdigung)が必要とな る。主観的に は,夫婦が当該取り決め
(Abrede)によって追求した目的及び利益を得る一方配偶者が夫婦財産契約の形成を要求する動機や,不利益を受ける他方配偶者がこの要求に応じる気になった動機を考慮しなければならない。その際,契約によって,法定の離婚効果の中心領域にある規定が完全にもしくは大部分が廃止され,廃止によって他方配偶者に生ずる不利益を他の方法によって減少しておらず,夫婦が努力したまたは生活している婚姻形態といった特別な夫婦の関係や,利益を得る配偶者のその他の利害関係によって,これを正当化できない場合に,良俗違反の判断の問題となる。」
⑧ 「契約が有効性の規制の審査によっても存続した場合,裁判官はそ の後に,~権利行使の規制(Ausubungskontrolle)の枠内で~一方配 偶者が離婚時に他方配偶者によって要求された法定の離婚効果に対し て,このことが契約によって有効に廃止されたことを主張する場合に,一方配偶者に契約によって認められた権利主張を行うことが濫用とな らないかどうかを審査する(BGB 242条)。この審査では,契約締結 時点での事実関係だけが対象ではない。現在~生活共同体の破綻時点 で~合意による離婚効果の排除が,明らかに一方的な負担分配をもた らしており,また不利益を被る配偶者にとって,その者の状況及び当 該取り決め(Abrede)の形成における信頼の相応な考慮によっても,
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また婚姻の本質の理性的な評価によっても,不利益を被る配偶者がこれを引き受けることが期待できないかどうかが判断の基準となる。とりわけ,このことは,婚姻生活関係の実際の形態が,契約の基礎となった生活計画とxx的に異なる場合に該当する。……一方配偶者が離婚効果の契約による排除を主張することが,裁判所による権利行使の規制によって認められない場合でも,このことは,BGB 242条の枠内でも契約によって合意した排除の無効をもたらすものではない。」
このように判示した上で,原審判決は,① BGH による判断基準に基づいて本件合意の有効性を判断しておらず,② 扶養額等を算定する上で,事実関係が十分に明らかにされていないとして,一部を破棄し,OLG へ差し戻した。
2.判決の評価と問題点
判決の評価と婚姻形態の多様化
2004年 BGH 判決は,2001年 BVerfG 判決と同様に,夫婦が婚姻形態に応じた離婚効果に関する合意を形成することができることを認めている。その一方で,離婚効果がもつそれぞれの目的と自由な合意・契約とその制限の基準をどこに設けるのかを明らかにしている。そして,契約の内容規制について,「夫婦財産契約により,明らかに一方的で,かつ個々の婚姻生活の状況によって正当化することができない負担分配が生じていること」,「婚姻の本質を考慮すると,不利益を被る配偶者にとって,この契約上の負担分配を引き受けることが期待できないこと」を要件としている。これにより,BVerfG 判決以降,下級審判決でみられた法的不安定性を克服するものであり,また BVerfG 判決と合致するものであるとして評価されている107)。
しかし,BGH が各規定の「保護目的」を契約自由の制限の基準としていることについては,法定の離婚効果規定は,古い婚姻モデルを念頭に置
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いて規定していることから,それとは異なる婚姻形態に対しても「保護目的」を一般化することは不可能であり,したがって,BGH が「婚姻の本質」という概念を用いて,夫婦間の合意に関する規制を考慮することは,xx的に誤っていると批判する見解もある108)。
さらに,xxxxx(Xxxxxx Xxxxxxxx)は,本判決の意義を,有効性 の規制の枠内で,計画したもしくはすでに現実化した婚姻形態に特化した 契約形成が,これまで以上に認められた点にあるとする109)。例えば,両 配偶者が契約締結時に稼働しており,十分な収入を得ていた場合には, 個々の離婚効果を契約によって排除しても,内容規制の対象とはならない。また契約内容自体が夫婦間の取引地位の不平等性を根拠づけることにはな らず,夫婦間に著しい収入格差が存在していたとしても,有効性の規制後 も存続することになる。さらに,婚姻を前提とした不利益が生じていない 限り,有効性の規制により無効とする必要もなく,契約締結時に予定され ていなかった婚姻生活が展開された場合には BGB 242条による契約内容の 修正が行われることになる。若い共稼ぎ婚夫婦が,子どもを設ける予定が ない場合にも同様であり,婚姻期間中に子どもを出生した場合には,BGB 242条により子どもの養育に関する扶養の合意内容が修正されることにな る。
一方で,主婦婚などの単独稼働婚(Alleinverdienerehe)やパートタイム労働者との婚姻の場合には,生活状況等によって様々な婚姻形態が生ずることから,一般的な評価基準を設けることは困難であり,特に,実際に増加している短期間の子どもの養育期間を伴う共稼ぎ婚の場合には,特例を設ける必要がある。子どもの養育に関する扶養については,従来の判例理論においても内容規制が認められていたことから,本判決は,老齢に関する扶養,疾病による扶養及び年金等の清算に関して新たな判断を行ったところに意味がある。疾病及び老齢に基づく扶養の放棄も,単独稼働婚の場合には,それ自体によって無効となる。夫婦が共同で一方配偶者の永続的な稼働能力の放棄を計画している場合には,離婚に際して,放棄した配
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偶者が,疾病及び老齢の場合に,社会扶助の必要となることは間違いないことから,取引地位の著しい不均衡性の表れとなる。しかし,婚姻締結に既に老齢もしくは疾病している場合にはこの限りではない。子どもの養育期間だけ単独稼働婚となることを計画しており,疾病及び老齢に基づく扶養に代わる補償を夫婦財産契約によって合意している場合には,有効性の規制の枠内においても有効となる。
また,単独稼働婚をしている当事者が年金等の清算を完全に放棄した場合には,契約締結時点での従属的関係を根拠づけることになる。これに対して,年金等の清算を,相応であるが,必ずしも等価値ではない保険による補償を締結することは,夫婦間の契約自由の現れである。さらに,契約締結時点では,一方配偶者が子どもの養育のために稼働していないが,この配偶者が計画したもしくは蓋然性の高い後々の稼働再開によって,十分な固有の年金等の清算の期待権を取得する場合には,有効性の規制の問題とはならないことになる。
適用規定と判断基準
2001年 BVerfG 判決は内容規制の具体的方法を明確にしていなかったが, BGH は BGB 138条による有効性の規制と BGB 242条の権利行使の規制を 区別し,両規定の適用に関する問題を解決している。
BGB 138条による有効性の規制では,契約締結時点の事実関係に基づい て,契約内容が明らかに一方的な負担分配を課していないかどうかを審査 する。その際,計画した,もしくはすでに実現している婚姻の所得・財産 状況,夫婦や子どもへの影響に焦点を当てた全体的な評価(Gesamtschau)を行う。そして,利益を得る一方配偶者と契約内容によって不利益を被る 他方配偶者が契約締結に有していた動機等の主観的側面も考慮する。また 特定の事実関係・婚姻形態や契約内容自体から良俗違反を導き出そうとは しておらず,婚姻形態や動機と結びついた客観的な内容と従属的な状況は,一方が他方の状況を強くすることもあれば,お互いが相対化することもあ りうる緊張状態にあるといえる110)。したがって,有効性の規制では,そ
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れぞれの事実関係に応じた客観的な契約内容と主観的な動機や状況を考慮し,それを関連づけることが必要となる。
そして,有効性の規制の判断に際しては,主観的側面において明らかな従属的関係の状況が認められたとしても,契約内容が客観的に相応なものであれば良俗違反とはならないことから,客観的な契約内容が特別な意味を持つことになる。このことから,夫婦財産契約において何を取り決めることができるのかという議論から,法規定から何を排除することができないかという議論へ展開することになる。これについて,BGH は離婚効果を格付け(Rangabstufung)した上で,契約内容が離婚効果の中心領域から完全にもしくはいずれにしても大部分を排除し,これによる不利益を他の方法によって減少する,もしくはこれを夫婦の関係から正当化することができない場合に,通常有効性の規制が行われるとする。このような BGH の内容規制の方法については,契約内容の客観的な考察に対して, 2001年 BVerfG 判決によって明確にされた主観的観点や BGB 138条の主観的要件が後退しているとの批判もある111)。
権利行使の規制は,契約が有効性の規制による審査後も有効であると判断された場合のみ行われる。権利行使の規制は,契約締結時点での夫婦の生活関係を考慮することなく,離婚時に当該合意によって,負担を負う配偶者にとって期待することができない,明らかに一方的な負担分配が課されている場合に行われる。
第6章 2004年 BGH 判決以降の議論展開
BGH 判決以降も,下級審判決等によって,夫婦財産契約・離婚効果に関する合意の自由とその制限に関する判断基準が明らかにされているのと同時に,新たな問題点も表れている。
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
1.全体的な評価(Gesamtschau)と一部無効
2004年BGH 判決は,有効性の規制において,全体的な評価(Gesamtschau)を強調しているものの,まず合意内容の個々の規定が良俗に反するかどうかが判断される。そこでは,離婚効果の中心領域に基づいて判断され112),個々の取り決めの相互作用を含めた全体的な評価によって良俗違反を判断することになる。全体的な評価(Gesamtschau)の意義は,個々の合意内容ではなく,契約締結時の生活関係や動機を判断基準とすることにあり,客観的側面だけでなく主観的側面をも含めた判断にあるとされている。このことから,次のような場合に問題が生ずる。例えば,夫婦財産契約により,別産制の採用と老齢に基づく扶養を合意したとする。有効性の規制により,後者が無効となった場合に,別産制の合意も含め当該夫婦財産契約全体が無効となるのか,それとも老齢に基づく扶養に関する合意内容のみが無効となるのかが問題となるのか,つまり BGB 139条113)の適用の可否が問題となる。
この問題について,下級審判決114)の多くは,当該契約の全てが無効になると判断していた。学説では,この点に関する議論が活発に行われていた115)。特に一部無効を主張する見解からは,離婚効果の中心領域に該当する契約内容のみが原則として良俗違反となるのであり,有効であるその他の契約内容までも全体的な評価(Gesamtschau)によって無効にすることは,中心領域の考えが無意味なものになりかねないとの批判があった。
BGH116)は,全体的な評価(Gesamtschau)による主観的側面の考慮を重
視して,BGB 139条の適用を認め,契約全体が無効となるとしている。
2.内容規制における主観的要件
2004年 BGH 判決は,離婚効果の中心領域に見られるように,客観的側 面を前面に出しており,妊娠の事実等といった当事者間に存在する主観的 な従属的関係や抑圧的な状況について明確な判断を行わなかった。この点,xxxxxは,契約締結時における取引能力の不均衡自体によって良俗違
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反が根拠づけられることを否定したのであり,2001年 BVerfG 判決と矛盾 するものではなく,その基準に従うものであると評価している117)。この 問題については,その後 BGH は119),妻が妊娠しているという事実は,そ れによって夫婦財産契約の良俗違反を根拠づけることにはならないが,契 約締結時の不平等な取引地位(Verhandlungsposition)を表すものであり,契約締結時の非対等性(Disparitat)を表すものであるとし,改めて2001 年 BVerfG 判決と同様の見解を明確にしている。これにより,妊娠してい る事実は,良俗違反とすることの間接事実として評価されることが明らか になった。下級審判決118)においても,契約締結時の事実関係に関する判 断において,妊娠している事実のみを基準として用いた裁判例はなかった。
ベルグシュナイダー(Xxxxxx Xxxxxxxxxxxxx)は,間接事実として評価されるとはいえ,この点が強調されることで,常に妊婦との夫婦財産契約が無効となりかねず,妊婦である女性の行為能力を奪う結果になるのではないかとの見解を表している120)。その後の裁判例では妊娠しているものの,抑圧的な状況ではなかったと判断するものあり121),このような危惧は回避されているといえる。その一方で,夫婦間の主観的事情を考慮することなく,BGB 138条による有効性の規制を判断する裁判例もある122)。
また,夫婦間の収入・財産格差が契約締結時の不平等な取引地位(Ver- handlungsposition)を表すものかどうかについては,詳細な検討が必要となる。2004年 BGH 判決の原審等123)では,夫の収入が妻よりも多く,裕福であることを根拠に,契約締結時における夫の優位性(Uberlegenheit)を根拠づけており,社会的な優位性と法律行為上の優位性を混同しているようにも思われる124)。しかし,生活している,もしくは計画した婚姻形態によって夫婦間の収入・財産格差が生じた場合,例えば,子どもが出生した際には,子どもの養育に必要な期間だけ専業主婦となることを夫婦が計画している場合に,離婚効果を一定の金額に制限する内容を合意することは,不平等な取引地位により,妻の自己決定を妨げていると判断される要素となりうる。一方で,収入格差が,婚姻を前提としておらず,能力と
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
給付の差異に基づく場合には,良俗に反する従属的な状況にあるとはいえ ないことになる125)。したがって,収入・財産格差が従属的関係の根拠と なるのは,それが婚姻を前提として生じた場合に限定されているといえる。
3.権利行使の規制(Ausubungskontrolle)
権利行使の規制では,契約締結時に有効に合意した離婚効果の内容によって,離婚時に明らかに一方的な負担分配を生ずることが問題とされ,そのような契約内容を適用することが権利濫用に当たるかどうかを判断することになる。特に,契約締結以降の生活関係が変更したこと,契約締結時点において予定されていた計画が離婚時に変更したこと,もしくは夫婦が生じうる生活関係の変化について明確な認識を有していなかった場合に権利行使の規制の問題となる。典型的な例として,契約締結時に共稼ぎ婚を予定して夫婦財産契約を締結したが,婚姻期間中に子どもが出生した場合が挙げられる126)。このような場合には,子どもの養育のために自らの稼働能力を放棄した一方配偶者に有利になるように,BGB 242条による契約内容の適合(Anpassung)が行われることになる。またBGB 1579条127)における具体的なxx性を取り決めたのにも関わらず,生活状況の変化によって,離婚時に当該合意が子どもの負担となるような場合には,権利行使の規制が行われる。契約内容の適合(Anpassung)の基準は,婚姻期間中の生活状況に依るのではなく,具体的な婚姻を前提とした不利益を調整する程度に限られている128)。さらに,BGH 129は,婚姻を前提とした不利益の清算の基準を,権利行使の規制だけではなく,良俗性の規制においても適用しており,このような議論傾向からは,子どもの養育に関する扶養を最低限の内容とし,さらに婚姻を前提とした不利益を調整する放棄に対する補償を設けている内容を夫婦財産契約で合意している場合には,内容規制の対象とはならず,この点に夫婦財産契約の自由の限界が設けられているといえる。
権利行使の規制は,上述の例からも明らかであるように,BGH が判示
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した権利行使の規制は,BGB 242条を援用して発展した「行為基礎の喪失
(Wegfall der Geschaftsgrundlage)の原則」と強い関連性が認められるこ とから,権利行使の規制には,この原則を規定しているBGB 313条(行為 基礎の障害〔Storung der Geschaftsgrundlage〕)130)を適用することができる のではないかとの見解が主張されるようになる131)。これについて BGH132) は,BGB 313条を適用することを明らかにした。学説にはこれを評価する 見解133)がある一方で,生活状況の変化を行為基礎として認めることを否 定する見解もある134)。さらに学説には,夫婦が不明確な期待や動機に よって契約を締結した場合にも,夫婦の主観的事情を考慮し,離婚時の状 況に応じて権利行使の規制を認めるべきであるから135),夫婦財産契約の 解釈により,生活状況の変化だけではない契約の行為基礎を認めることで,
行為基礎の変更となる事例をより広く認めるべきであるとする見解もある136)。
BGH が BGB 313条の適用を認めたことで,BGB 242条の適用が否定されるものではない。例えば,行為基礎とは認められない事情の変化によって,契約内容のままでは一方的な負担分配が生ずるような場合には,BGB 242条による権利濫用の適用が考えられる137)。
4.離婚後扶養
2004年 BGH 判決によれば,夫婦財産契約は,離婚効果の中心領域に基づく扶養の要件事実を放棄した場合に,良俗違反となる。特に,子どもの養育に関する扶養(BGB 1570条)が第一にされている。しかし,夫婦が契約締結時に子どもを有していない,もしくは高齢であるために,婚姻に際して子どもを設けることを計画していない場合には,子どもの養育に関する扶養(BGB 1570条)を夫婦財産契約で放棄しても,有効性の規制の問題とはならない138)。これに対して,子どもがいる,もしくは婚姻締結時に妊娠している場合には,子どもの養育に関する扶養を含め放棄に対する補償がない合意内容は,良俗違反となる。同等の補償を合意している場
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合にはこの限りではないと判断する裁判例もある139)。子どもがいる場合には,金額に関する制限や養育期間に関する制限の取り決めは,有効性の制限により無効となる140)。
また,老齢もしくは疾病に基づく扶養(BGB 1571条・1572条)は,中心領域の第二順位に位置づけられているが,具体的な理由が存在している場合には,これに関する任意処分も可能である。特に,婚姻前に生じた疾病に基づく扶養は,夫婦財産契約により排除することができるとされている141)。両配偶者が婚姻前から行っていた仕事を継続する場合,お互いが単独で自身を扶養することができることから,清算すべき婚姻を前提とした不利益は成立せず,夫婦財産契約による排除も可能となる142)。また,一方配偶者が婚姻前に十分な専門教育を受けていなかったことから,十分な収入を得ることができなかったとしても,この場合には他方配偶者へ扶養義務を課すことは不適切であるとして,老齢に基づく扶養を放棄した夫婦財産契約を有効であるとしている143)。さらに,婚姻締結時44歳と46歳であったことから,各配偶者がこれまでの稼働によりすでに十分な老齢扶養を有していることを重視して,夫婦財産契約による老齢に基づく扶養の放棄を有効であると判断している144)。
他の扶養の要件事実は,全て放棄することができる。失業に基づく扶養
(BGB 1573条)は,法規定が扶養権利者に対して,扶養権利者が持続する保証された仕事場を見つけるとすぐに権利者に労働場所のリスクを移していることから,後位に位置づけられている145)。一方で,離婚効果の中心領域と異なり,疾病準備及び老齢準備扶養を,子どもの養育に関する扶養や疾病及び老齢に基づく扶養といった基本扶養(Elementunterhalt)と同
様に評価し,権利行使の規制によって契約内容を修正している裁判例も見られる146)。
また,第四順位に位置づけられている補充扶養(Aufstockungsunter- halt)(BGB 1573条2項)は,稼働しながら子どもを養育する一方配偶者の場合には,子どもの利益になることから,養育に関する扶養と同様に,
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排除は制限されることになる。子どもの利益になることを考慮して,権利 行使の規制において,これを排除した夫婦財産契約を修正する下級審判決 も見られる147)。学説の中には,夫婦の生活状況からも補充扶養が子ども の利益に資することは明らかであることから,子どもがいるもしくは妊娠 している場合には,これを排除する夫婦財産契約を有効性の規制の枠内で,無効とするべきであると主張する見解もある148)。また,老齢準備扶養の 放棄に対する補償,例えば相応な財産の譲渡,生命保険契約の締結,婚姻 を前提とした不利益を減少させる合意をしている場合には,良俗に反しな いと判断されている149)。
修学のための扶養(Ausbildungsunterhalt)及びxx性の扶養は,事実 上 BGB 138条によって保護はなされていないといえる150)。しかし,外国 人女性との夫婦財産契約の場合には,このことは問題となる。裁判例にお いて見られる例は,ドイツ人男性と外国人女性との婚姻に際して,夫婦財 産契約を締結したものである。外国人配偶者は,ドイツ語を話すことがで きず,自身の滞在許可や就労許可を有しておらず,このことからも他方配 偶者へ依拠していることから,離婚効果の包括的な放棄は無効となる151)。確かに,経済状況が劣悪な国で生まれ,これによって十分な専門教育を受 けることできなかったことは,婚姻を前提とした不利益ではない。むしろ,ドイツに居住している方が十分な機会を有していることから,夫であるド イツ人男性が離婚後もこの機会を保障することを要求しているともいえる。これらの裁判例では,外国人女性が婚姻締結の際に,金銭的理由を婚姻締 結への特別な動機として判断しなかったことに関する明確な理由・根拠を 要求しているといえる。
BGB 1579条は,「著しい不xx(grober Unbilligkeit)」が存在する場合には,扶養金額を制限することや,扶養期間を一定期間に制限することができるとしている。2007年の扶養法改正により,同条2号に,扶養権利者が新たな生活共同体で生活している場合が設けられた。立法者は,「扶養権利者の新たな生活共同体の開始」の意味を,夫婦が自由に評価すること
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
ができることから,婚姻だけでなく事実婚関係の承認による扶養請求権の喪失を取り決めたとしても,このような合意は良俗違反とはならないと解されている152)。
5.年金等の清算
年金等の清算に関する合意の有効性の規制は,離婚効果の中心領域によれば,老齢に関する扶養と同じ基準で判断される153)。その際,婚姻形態が基準となる。すなわち,共稼ぎ婚を計画している場合,年金等の清算の算定に際し,調整すべき婚姻を前提とした不利益は存在しないことから,夫婦財産契約でこれを排除して良俗違反にはならない154)。これに対して,夫婦財産契約締結時に,妻が子どもを養育するために専業主婦になることを予定していた場合には,年金等の清算の放棄良俗違反になると判断している155)。したがって,婚姻形態に応じて,年金等の清算に扶養的要素が認めらる場合に,有効性の規制により無効となるといえる156)。
また,離婚時に潜在的な清算請求権者が,十分な老齢年金を有しておらず,このことが婚姻を前提としたものであると証明された場合には,権利行使の規制によって,年金等の清算に関する合意内容が修正されている157)。同様に,契約締結時に予定していなかった子どもの養育のために,稼働能力を放棄した場合にも,権利行使の規制が行われる158)。両配偶者の年金等の清算の金額が,婚姻を前提とした原因によって差が生じていない場合には,権利行使の規制の対象とはならない159)。年金等の清算の権
利行使の規制の際には,婚姻期間や婚姻を前提とした不利益に限定して行われる160)。
6.夫婦財産の清算に関する取り決め
夫婦財産制に規定されている夫婦財産の清算等の合意内容は,離婚効果の中心領域によれば,最も夫婦の任意処分に適したものであることから,あらゆる状況において,また全体的な評価(Gesamtschau)においても,
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この取り決め自体が良俗違反となることはない161)。十分な修正の余地が認められているといえる162)。しかし,老齢扶養が完全に婚姻期間中に取得した財産によって構成されている場合には,この取り決めも無効となりうるであろう。離婚効果に関する合意においては,年金等の清算の対象となる期待権を放棄することは良俗違反となり,婚姻を前提とした不利益や従属的関係の存在が認められれば,良俗違反となりうる163)。
BGH は,夫婦財産法の取り決めに関する権利行使の規制を認めてはいるが,具体的な事例を形成していない。しかし,離婚時に,潜在的な扶養権利者が扶養請求権もなく,将来十分な老齢保障を配慮することができない場合に,権利行使の規制が考えられる。また,妻が契約締結時に計画していた稼働を行っていない場合には,夫婦財産契約による剰余清算の排除は行為基礎の喪失に基づいて修正することが考えられる161)。
お わ り に
以上,1990年代の学説・裁判例の議論から,2004年 BGH 判決を中心に,現在に至るまでのドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限について 紹介した。当初ドイツでは,裁判例を中心に,婚姻締結の自由と夫婦財産 契約の自由を関連付けることで,xxな契約自由を認めてきた。その後, 両当事者の対等性が確保されていない中で締結された夫婦財産契約に対す る内容規制の必要性が議論されるようになり,具体的な判断基準,すなわ ち裁判所による夫婦財産契約への介入の根拠と要件を具体化していくこと になる。
BGH によって新たに提示された判断枠組の中で,下級審判決や BGH の諸判決により,夫婦財産契約の合意内容という客観的側面と,夫婦が計 画した,もしくは実際に生活している婚姻形態や契約を締結するに至った 動機といった主観的側面を考慮しつつ,判断枠組の具体化が進行している。そこでは,具体的な適用場面において,判断枠組の修正が行われている。
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
従来の判例のおける判断基準と同様に,子どもの福祉に役立つ離婚後扶養に関しては,BGH が示す中心領域の基準にかかわらず,それを排除する場合には良俗違反として無効,もしくは契約内容の適応(Anpassung)により修正されている。子どもの福祉を重視する判断は一貫して維持されているといえる。
また,離婚後扶養では,離婚効果に対する最低限不可欠な内容を定めていないとしながらも,内容規制において,「婚姻を前提とした不利益
(ehebedingter Nachteil)」の調整を強調しており,その他にも,要扶養状態となることが予測できない場合には,有効性の規制において良俗違反とはならないとしている165)。
さらに,年金等の清算については,「老齢に基づく扶養の前渡し」としての性質を強調することで,その処分の任意性を制限しているものの,一方で,剰余清算等の夫婦財産法に関する事項は,最も自由に処分することができるものとして位置づけられている。その根拠として,婚姻期間中の財産取得に対して,特定の財産秩序を要求しておらず,離婚後の連帯
(nachehelicher Solidertat)の思想も財産関係には必要とされていないこと を挙げている。したがって,夫婦財産契約によって別産制を合意した場合,それが有効であれば,権利行使の枠内の狭い要件の下で,その修正の可否 が判断されるにすぎないことになる166)。
有効性の規制や権利行使の規制といった内容規制については,前者の適用はかなり制限されており,実務上の論点は,後者にあることが指摘されている167)。この点については,xxxxxの指摘するように,有効性の規制においては,婚姻形態によって良俗違反の判断基準を設けることにより,ある程度の類型化が可能となったことも影響しているといえよう。
日本においては,夫婦財産契約や離婚給付に関する合意を婚姻前もしくは婚姻期間中に締結することは少なく,夫婦財産契約の自由とその制限に関する具体的な議論は十分になされてこなかったように思われる。しかしながら,夫婦財産契約だけでなく,夫婦が離婚に際して財産分xxについ
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て合意することはありうることである。例えば,離婚時に養育費や財産分与に関する合意内容を「誓約書」として記載し,この有効性が問題となることはこれまでも指摘されている168)。また,2007年4月1日から施行された年金分割制度では,当事者の合意で按分割合を定める「合意分割」が認められている。年金分割制度が定着すると,夫婦が離婚時の按分割合を夫婦財産契約等によってあらかじめ定めている夫婦も見られるようになるであろうし,さらに,夫婦が共稼ぎすることを予定している場合に,あらかじめ財産分与請求権の放棄を合意することも考えられる。
確かに,ドイツと日本では,雇用形態をはじめとして社会的背景が異なることから,これまで概観したドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限に関する個々の内容が,直ちに日本の議論にも適合するか否かは慎重に検討する必要がある。とりわけ,同一賃金同一労働が確立していない日本では,xx雇用と非xx雇用の間の格差があり,「共稼ぎ婚」と「主婦婚」とを明確に区別することが困難であるといえる。しかしながら,ジェンダー構造や契約当事者の属性に基づく格差が存在する場合に,これを補うことなく,全てを合意や裁量に委ねることは認められないだろう。ドイツでの議論展開は,日本における夫婦間の合意とその制限を考える上で,有益な示唆を与えていると思われる。
1) xxxx「夫婦財産契約を利用しやすくするために」婚姻法改正を考える会編『ゼミナール婚姻法改正』(日本評論社,1995年)121頁以下。
2) xxxx・xxxx編『基本法コンメンタール親族(第四版)』(日本評論社,2001年) 171頁〔xxxx〕。
3) BGHZ 158,81.=FamRZ 2004,601.=NJW 2004,930. 本判決を紹介するものに,xxxx「離婚給付をめぐる契約の自由とその制限について~ドイツにおける夫婦財産契約をめぐる契約内容の判断基準を中心として~」創価法学36巻(2006年)1号45頁以下。
4) BVerfGE 103,89.=NJW 2001,957.=FamRZ 2001,343.
5) 仮訳:BGB 1408条〔夫婦財産契約,契約の自由〕
夫婦は,契約(夫婦財産契約)によって,夫婦の財産関係を定めることができる。特に,婚姻締結後にも夫婦財産制を廃止または変更することができる。
夫婦は,夫婦財産契約において,明示上の合意によって,年金等の清算
(Versorgungsausgleich)も排除することができる。この排除は,契約締結後一年
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
以内に離婚訴訟が提起された場合には,無効となる。
6) Dagmer Coester-Waltjen, Liebe-Freiheit-guten Sitten, Grenzen autonomer Gestaltung der Ehe und ihrer Folgen in der Rechtsprechung des Bundesgerichtshofs, in ; 50 Jahrx Xxxxxxxxxxxxxxxxx-Xxxxxxxx xxx xxx Xxxxxxxxxxxx, Xxxx X, Xxxxxxxxxxxx Xxxxx, 0000, X. 000, 000. ; Xxxxxx Xxxxxxxxxx in ; Munchner Kommentar zum Burgerlichen Gesetzbuch, Band 7, Familienrecht I, 4. Aufl., 2000,(以下,「MunchKomm/Kanzleiter」), 1408, Rn. 1, S. 606.
7) MunchKomm/Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 6), 1408, Rn. 1 ff, S. 606 ff. ; Burkhard Thile in ; X. xxx Xxxxxxxxxxx Kommentar zum Burgerlichen Gesetzbuch mit Einfuhrungsgesetz und Nebensgesetzen, Buch 4. Familienrecht, 1363-1563, (xxx Xxxxxxxx Xxxxx, Xxxxxxx Xxxxx), Xxxxxxxxx., 2007,(以下,「Staudinger/Xxxxxx」), 1408, Rn. 5 ff, S. 390 ff. ; Xxxx Xxxxxxxxxxxx in ; Palandt, Burgerliches Gesetzbuch, 66. neubearb. Aufl., 2007, 1408, Rn. 13 ff, S. 1676 ff.
8) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), Vor. 1408, Rn. 14, S. 373.
9) 報告義務の概要や実務の運用については,xxxx「ドイツにおける夫婦財産制の検討
(2)」立命館法学313号(2007年)132頁以下。
10) 条文訳については,xxxxx・xxxxx著,xxxx『ドイツ民法総論』(成文堂, 2008年)を参照した。
BGB 138条〔善良な風俗に違反する法律行為,暴利行為〕 善良な風俗に違反する法律行為は,無効である。
とくに,ある者が他人の急迫,無経験,判断能力の欠如または意思の重大な薄弱に乗じて,自らまたは第三者に,給付と際だった不均衡にある財産的に有利な給付について約束または保証させる法律行為は,無効である。
BGB 242条〔xxxxに従った給付〕
債務者は,取引の慣行を考慮し,xxおよび誠実が求めるように給付を行うことが義務づけられる。
11) 仮訳:BGB 1409条〔契約自由の制限〕
夫婦財産制は,現に施行されていない法律もしくは外国法を指示する(Verweisung)ことによって,これを定めることはできない。
12) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), 1409, Rn. 2, S. 423.
13) MunchKomm/Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 6), 1409, Rn. 1, S. 619.
14) MunchKomm/Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 6), 1408, Rn. 14 ff, S. 609 ff.
15) Xxxxxx Xxxxxxxxxxxxx, Vertrage in Familiensachen, 3. Aufl., 2006, Rn. 7. S. 2.
16) この用語の他にも,「der erweiter Ehevertrag」(Gernhuber/Coester-Waltjen, Familien- recht, 5. Aufl., 2006, 32, I, S. 345.)等が挙げられる。
17) Xxxxxxxx Xxxxx, Die Unternehmerehe, 2007, Rn. 468, S. 173 ; Xxxxxxxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 15), Rn. 10, S. 3.
18) xxxx・xxxx・xxxxx,xxx訳「ドイツにおける離婚の効果に関する合意」広島法科大学院論集第3号(2007年)279頁以下。
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
19) BGB 1587条oは,「時間的及び実質的に離婚と関連している場合に」年金等の清算に関する合意を締結することができるとしており,また,離婚申立の法的係属の1年前から離婚判決までに,離婚効果に関する合意を締結することから,この点で夫婦財産契約と区別することができる。
20) 離婚後扶養の概要については,xxxxx『離婚給付の研究』(一粒社,1998年)153頁以下参照。
21) 仮訳:BGB 1570条〔子どもの養育に関する扶養〕
離婚した一方配偶者は,少なくとも生後3年間,共通の子の監護及び教育による扶養を請求することができる。扶養請求の期間は,xxであると認められる場合に限り,延長する。その際,子どもの利益(Xxxxxxx)や子どもの養育について現存する可能性を考慮しなければならない。
婚姻及び婚姻期間における子どもの世話や所得活動の形成を考慮し,xxである場合にも,扶養請求の期間を延長する。
22) 仮訳:BGB 1571条〔老齢に基づく扶養〕
離婚した一方配偶者は,他方に対して,以下の時点において,老齢により,自己の所得活動をもはや期待することができない場合に,扶養を請求することができる。
① 離婚
② 共通の子の監護及び教育の終了,もしくは
③ 1572条及び1573条による扶養請求の要件の喪失(Wegfall)
23) 仮訳:BGB 1572条〔疾病ないし疾患に基づく扶養〕
離婚した一方配偶者は,他方に対して,以下の時点において,疾病ないしその他の疾患または身体的もしくは精神的虚弱により,所得活動を期待することができない場合に,扶養を請求することができる。
① 離婚
② 共通の子の監護及び教育の終了
③ 専門教育(Ausbildung),実業教育(Fortbildung),及び教育の再開(Umschulung)の終了,もしくは
④ 1573条による扶養請求の要件の喪失
24) 仮訳:BGB 1573条〔所得不能に基づく扶養及び補充扶養〕
離婚した一方配偶者は,1570条乃至1572条に基づく扶養請求権を有していない場合に,離婚後に適切な所得活動を見出すことができない限りにおいて,扶養を請求することができる。
適切な所得活動に基づく収入が,完全扶養(vollen Unterhalt)(1578条)のため には不十分である場合に,離婚した一方配偶者がすでに1570条乃至1572条に基づく 扶養請求権を有していない限り,収入と完全扶養との差額を請求することができる。
1項及び2項は,1570条乃至1572条,1575条に基づく扶養が認められていたが,これらの要件を欠いた場合にも準用(gelten entsprechend)する。
離婚した一方配偶者は,自身の努力にも拘わらず,離婚後にも継続的に所得活動による生活費を保障するための適切な所得活動を見つけることができなかったため
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
に,適切な所得活動に基づく収入を喪失した場合にも,扶養を請求することができる。
25) 仮訳:BGB 1575条〔専門教育,実業教育及び教育の再開〕
婚姻の見込みもしくは婚姻期間中に,学校教育もしくは職業教育を継続していないもしくは中断している離婚した一方配偶者は,他方に対して,生活費を継続的に保障する適切な所得活動を獲得するために,これらもしくは適切な専門教育を可能な限りすぐに開始し,かつ専門教育の成果ある修了が取得されている場合に,扶養を請求することができる。
離婚した一方配偶者が,婚姻によって被った不利益を調整するために,実業教育もしくは再教育を開始した場合にも,これを準用する。
離婚した一方配偶者が,専門教育,実業教育もしくは教育の再開の終了後に, 1573条に基づく扶養を請求する場合には,適切な所得活動の判断に際し(1574条2項),達成した高い教育水準は考慮しない。
26) 仮訳:BGB 1576条〔xxの事由に基づく扶養〕
離婚した一方配偶者は,その他重大な事由によって,所得活動を期待することができ ず,かつ,両配偶者の利害関係(Belange)を考慮し,扶養を認めないことが著しく 不xxであろう場合に,他方に対して,扶養を請求することができる。重大な事由は,それが婚姻の破綻をもたらしたとの理由のみで考慮されてはならない。
27) 仮訳:BGB 1581条〔給付能力〕
扶養義務者は,自己の収入及び財産関係に基づいて,自己の適切な生活が危機になることなく,扶養権限者に扶養を保障することができない場合には,扶養義務者は,離婚した一方配偶者の要扶養状態及び収入ないし財産関係を考慮して,xxと認められる限度においてのみ扶養すればよい。扶養義務者は,財産の利用が不経済であり,もしくは両配偶者の経済的な関係を考慮すると不xxである場合には,財産の基礎
(Stamm)を利用する必要はない。
28) 仮訳:BGB 1578条〔扶養の範囲〕
扶養の範囲は,婚姻生活共同体によって定まる。扶養は全ての生活需要
(Lebensbedarf)を含む。
疾病及び監護必要性に対する相応な保障の費用ならびに,学校もしくは職業教育,または,1574条,1575条に基づく実業教育もしくは教育の再開の費用も,生活需要 に含まれる。
離婚した一方配偶者が,1570条乃至1573条,もしくは1576条に基づく扶養請求権を有する場合には,老齢ならびに減少した所得活動の場合における適切な保障のための費用も,生活需要に含まれる。
29) この他にも,BGH, FamRZ 1991,306. ; BGH, FamRZ 1997,873. がある。
30) この他にも,BGH, FamRZ 1991,306. ; BGH, FamRZ 1996,1536. ; BGH, FamRZ 1997,156. ; BGH, NJW 1997,192,193. がある。
31) かつて,ドイツでは少年局(Jugendamt)による後見が認められていたが,現在は改正 され,少年局は後見監督人(Xxxxxxxxxxxx)となることはできない(BGB 1792条1項)。
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
32) BGH 1996年10月2日判決(BGH, NJW 1997,192=FamRZ 1997,157.)は,これまでの裁判例が認めてきた見解を端的にまとめている。
33) BGH, NJW 1995,3251.
34) Xxxxxxx Xxxxxxxx, Das Ende der Vertragsfreiheit, FamRZ 1997, S. 585.(以 下,
「Grziworz ①」) ; ders, Vertragsobjekt Ehe und Partnerschaft, DNotZ 1998 (Sonderheft), S. 228.(以 下,「Grziworz ②」) : Xxxxxxxx Xxxxxx, Podiumsdiskussion 25. Deutscher Notartag Munster 1998, DNotZ 1998 (Sonderheft), S. 288.(以下,「Gerber ①」) : ders, Vertragsheit und richterliche Inhaltskontrolle, in : Festschrift aus Anla des funfzigjahrigen Bestehens von Bundesgerichtshof, Bundesanwaltschaft und Rechtsanwaltschaft, 2000, S. 49.(以下,「Gerber ②」) : Xxxxx Xxxxxxxxxx, Zur gerichtlichen Inhaltskontrolle von Ehevertragen, DNotZ 2001, S. 272.
35) Xxxx Xxxxx, Die richterliche Inhaltskontrolle von Ehevertragen, 2006, S. 59 ff.
36) Xxxxx Xxxxxxxxxx, Handbuch des Ehevertrage, 3. Aufl., 1996, 1. II. Rn. 8 ff, S. 8.
37) Grziworz ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 587. ; ders, MDR 2000, S. 393. ; Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 274.
38) Xxxxx Xxxxxxxxxx, Von der Inhaltskontrolle zur Ausubungskontrolle, in : Festschrift fur Xxxxxx Xxxxxxx, Zum 65. Geburtstag, 1996, S. 251. ; Xxxxxxxx ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 586. ; Xxxxxx Xxxxxxxxxx, Die notarielle Beurkundung als ein Weg zum richtigen Vertrag ,DNotZ 2001 (Sonderheft), S. 69.
39) Xxxxxxxx ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 587. ; Gerber ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 290. ; Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 49 ff. : Xxxxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 34), S. 280.
40) Xxxxx Xxxxxx, Notarielle Urkunden in Familiensachen-Risikogesellschaft und Vertragsgestaltung-, FPR 1999, S. 274.
41) Xxxxxxxx ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 588. ; Langenfeld, a. a. O. (Fn. 38), S. 251 ff. ; Xxxxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 38), S. 72.
42) Xxxx Xxxxxx, Richterliche Inhaltskontrolle von Ehevertragen, NJW 2001, S. 1334. ; Langenfeld, a. a. O. (Fn. 38), 1996, S. 251. ; Xxxxxxxx Xxxxxxxx, Rechtsprechungstendenzen zu Ehevertragen, FPR 1999, S. 291.
43) Xxxxx Xxxx, Familienrecht Band I, Xxxxx xxx Xxx, 0, Xxxx., 0000, 00, X, 0. b, S. 402.
44) Ramm, a. a. O. (Fn. 43), 28, II, 1, S. 233.
45) Ramm, a. a. O. (Fn. 43), 45, IV, 2, S. 365 ff.
46) Xxxxxxx/Xxxxxxxx, Familienrecht, 26. Aufl., 1992, 13, IV, 3, S. 111. ラムの見解があまりにも時代を先取りしていたと評するものもある(Strew, a. a. O. (Fn. 35), S. 74.)。
47) F. W. Bosch, Anm. FamRZ 1982, S. 1216.
48) Xxx Xxxxxxxxxxxx, Die allgemeinen Ehewirkungen nach dem 1. EheRG und Ehevereinbarungen, NJW 1977, S. 217.
49) Xxxxxxx Xxxxxxxxx, Eherecht und Ehetypen, 1981, S. 17 ff.
50) Xxxxxxx Xxxxxxxxx, Lehrebuch des Familienrecht, 3. Aufl., 1980, 32. III. 3. S. 441.
51) Soergel/Haberlr, BGB 12. Aufl., des 1. EheRG Rn. 7, S. 1334. ; Bertold Reinhertz,
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
Vergleiche Gestaltung des Versorgungsausgleich, NJW 1977, S. 84.
52) BGH, NJW 1995, 3251.
53) Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 49, 50.
54) BVerfGE 89, 214.=NJW 1994, 36. 本決定を紹介するものに,xxxx「保証契約の内容についての民事裁判所の統制と基本法規定の私人間効力」ドイツ憲法判例研究会編『ドイツの基本判例2(第二版)』(信山社,2003年)54頁。xxxxxx・xxxx,xxx訳
「ドイツにおける連帯保証無効判決~1993年10月23日の連邦憲法裁判所の判決~」法と政治(関西学院大学)50巻 3・4 号(1999年)895頁以下。
55) Xxxxxxxx Xxxxxxxxx, Vertragsfreiheit im Ehevermogens und Scheidungsfolgenrecht, AcP 196 (1996), S. 88 ff.
56) Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 58.
57) Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 61. ; Xxxxxxxx ①, a. a. O. (Fn. 34), S. 589. ; Xxxxxxx-Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 6), S. 1002 ff.
58) Xxxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 55), S. 58, 59.
59) Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 58, 59.
60) Grziwotz ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 262 ff.
61) Xxxxxx Xxxxxxx, Grenzen ehevertraglicher Gestaltungsmoglichkeiten, FamRZ 1998, S. 4.
62) Gerber ②, a. a. O. (Fn. 34), S. 59.
63) Xxxxxx Xxxxxx, From Status to Contract?-Aspekte der Vertragsfreiheit im Familienrecht im Lichte seiner Reformen-, DNotZ 2001 (Sonderheft), S. 14. ; Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 4. ; Xxxxxx-Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 6), S. 1008.
64) Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 4. ; Xxxxxxx/Birgit, Die Entwicklung des Unterhaltsrechts seit Mitte 2000, NJW 2001, S. 2221. ; Xxxxxx-Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 6), S. 1007.
65) Dauner-Lieb, FF 2002, 152.
66) Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 5. ; Xxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 64), S. 2221.
67) Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 6. 68) Sarres, a. a. O. (Fn. 40), S. 276. 69) Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 42), S. 1335.
70) Coester-Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 6), S. 1006.
71) Coester-Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 6), S. 1007.
72) Xxxxxxx Xxxxxx-Xxxx, Ehevertrage im Spannungsfeld zwischen Privatautonomie und verfassungsrechtlicher Aufwertung der Familienarbeit, FF 2002, 152. Xxxxxx-Xxxx は,
「BGH の判例理論は,もはや無視することができない」と批判する。
73) Xxxxxxxx ① , a. a. O. (Fn. 34), S. 586. ; Xxxxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 38), S. 71. Xxxxxxx Xxxxxx-Xxxx, Reichweite und Grenzen der Privatautonomie im Ehevertragsrecht. Zugleich Anmerkungen und Fragen zum Urteil des BVerfG vom 6.2.2002-1 BvR 12/92, AcP 201 (2001), S. 295. と Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 130. は,前者とは異なり,公証人による助言・相談機能の強化とその積極的な評価を試みている。
74) Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 38), S. 80.
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
75) Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 38), S. 72.
76) Kanzleiter, a. a. O. (Fn. 38), S. 74.
77) Langenfeld, DNotZ 2001, 279.
78) Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 7. ; Xxxxxxx/Xxxxxx, a.a.O. (Fn. 64), S. 2221.;. Xxxxxxx Xxxxxxxx, Anm. MDR 2001, S. 393. Xxxxxxxx は,BGB 138条による夫婦財産契約の内容規制に対しては否定的であることから,婚姻生活の展開に基づいて BGB 242条による修正のみが認められるとしている。
79) Xxxxxxx, a. a. O. (Fn. 61), S. 3. ; Xxxxxx Xxxxx, 100 Jahre BGB-Familienrecht zwischen Rechtspolitik, Verfassung und Dogmatik, AcP 200 (2000), S. 410.
80) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 69, S. 409.
81) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 69, S. 409.
82) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 72. S. 411.
83) Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 276.
84) Xxxxxx Xxxxxx, Zur neuen gerichtliche Kontrolle von Ehevertragen und Scheidungsvereinbarung, in ; Festschrift fur Xxxxx Xxxxxxxxx (2005), S. 412.
85) Xxxxxxxxxx/Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 70, S. 410. ; Xxxxxx Xxxxxxxx, Ein Barendienst fur die Freiheit der Eheschliesung, Gedanken zum Urteil des BVerfG 1 BvR 12/92 v. 6.2.2001, FuR 2001, S. 156.
86) Dauner-Lieb, a. a. O. (Fn. 73), S. 308.
87) Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 278. また,xxxxxxxxは公証人による助言義務も夫婦財産契約の内容を形成する上で,大きな影響を与えるものであり,これを無視した内容規制は行うべきではないとしている(Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 279.)。
88) Xxxxxx Xxxxxx, Anm. FamRZ 2001, S. 350.
89) Dauner-Lieb, a. a. O. (Fn. 73), S. 308. : Schwab, a. a. O. (Fn. 84),S. 349.
90) Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 278.
91) Langenfeld, a. a. O. (Fn. 34), S. 277.
92) Xxxxxxxxxx/Thiele, a. a. O. (Fn. 7), Rn. 73. S. 411.
93) OLG Naumburg, FamRZ 2002, 465. ベルグシュナイダー(Xxxxxx Xxxxxxxxxxxxx)もこの見解に賛同する(Xxxxxxxxxxxxx, Anm, FF 2002, S. 70.)。
94) OLG Koblenz, NJW 2003, 2920.
95) OLG Brandenburg, NJW-RR 2002, 578.
96) AmtsG Berlin Xxxxxxxxx-Kreuzburg, FF 2003, 139.
97) OLG Brandenburg, NJW-RR 2002, 578.
98) Axel Buxxxxxxxxx, Xxxxxxxxxxxxxxxx xx Xxxxxxxxxxxxxxxxx, 0000, X. 000. Xxxxxxxx Xxxxxxxxx, xx ; Soergel, Burgerliches Gesetzbuch mit Einfuhrungsgesetz und Nebengesetzen, Band 2, Allgemeiner Teil, 13. Aufl., 1999, 138, Rn. 217, S. 428.
99) OLG Koblenz, FF 2003, 139.
100) AmtsG Waxxxxxxx, XxxXX 0000, 000.
000) Xxxxx, x. a. O. (Fn. 35), S. 110. 同様の見解を主張するものとして,Ludwig Bergschneider,
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
FamRZ 2001, 1339. ; Xxxxxx, a. a. O. (Fn. 84), S. 349. ; Dauner-Lieb, a. a. O. (Fn. 73), S. 310.
102) | OLG Munchen, NJW 2003, 592.=FamRZ 2003.35.=FPR 2003, 130. |
103) | Xxxxxx-Xxxx/Xxxxxxx, Eheertrage-was hat noch Bestand?, FF 2003, S. 118. |
104) | OLG Nurnberg, FamRZ 2003, 634. |
105) | Xxxxxxx Xxxxxxxx, Anm., FamRZ 2003, S. 637. |
106) | OLG Munchen, NJW 2003, 377. |
107) | Xxxxxxxxxx/Thile, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 71, S. 410. ; Xxxxxx Xxxxxxxx, |
Ehevereinbarungen : Die Ruckkehr der Rechtssicherheit-zu BGH v. 11.2.2004-, DNotZ 2004, S. 524.
108) Xxxxxx Xxxxxxxx, Familienrecht 2. Aufl., 2007, S. 259. : Xxxxxxxx Xxxxx, Inhaltskontrolle von Ehevertragen-Zuruck auf festerem Boden-zur neuesten Rechtsprechung des BGH-, DNotZ 2005, S. 826.
109) Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 107), S. 535 ff.
110) Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 108), Rn. 366 f, S. 260.
111) Xxxx Xxxxx, Zur Inhaltskontrolle von Ehevertragen, FPR 2004, S. 368.
112) Munch, a. a. O. (Fn. 108), S. 821.
113) 条文訳については,xxxxx・xxxxx著,xxxx『ドイツ民法総論』(成文堂, 2008年)を参照した。
BGB 139条 〔一部無効〕
法律行為の一部が無効である場合において,無効な部分がなくても法律行為が行われるであろうことが推定されないときには,法律行為の全部が無効である。
114) OLG Dusseldorf, NJW-RR 2005, 1. ; OLG Nurnberg, FamRZ 2005, 454. ; OLG Munchen, FamRZ 2006, 1449, 1450. 一部のみを無効とするものの,疑わしいとするものに OLG Celle, NJW-RR, 2004, 1585. がある。
115) 一部無効を認める見解として,Mayer, a. a. O. (Fn. 111), S. 363. ; Xxxxxxxx, x.x.X. (Fn. 107), S. 523 が挙げられる。また契約全体の無効を主張する見解として,Dauner-Lieb, Anm. JZ 2004, S. 1028. ; Xxxxxx Xxxxxx, Wirksamkeits- und Ausubungskontrolle von Ehevertragen unter Berucksichtigung der aktuellen Rechtsprechung seit der Entscheidung des BGH vom 11.2.2004, FPR 2005, S. 122. ; Dauner-Lieb/Xxxxxxx, Abdingbare Teilhabe-unabdingbare Verantwortung?-Grenzen guterrechtlicher Vereinbarungen im Lichte der Rechtsprechung des BVerfG und des BGH, FPR 2005, S.
144. ; Xxxxxxxx Xxxxxx-Xxxxxx, Das Ehevertragsurteil des BGH-Oder : Nach dem Urteil ist vor dem Urteil, NJW 2004, S. 1275. がある。
116) | BGH FamRZ 2006, 1097. |
117) | Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 107), S. 539. |
118) | OLG Koln, FamRZ 2002, 828. ; AG Warendorf, FamRZ 2003, 609. |
119) | BGH FamRZ 2005, 1444. ; FamRZ 2006, 1359. OLG Hamm FamRZ 2006, 1034. |
120) | Xxxxxx Xxxxxxxxxxxxx, Anm., FamRZ 2005, S. 1449. |
121) | OLG Koblenz, NJW-RR, 2004, 1445. ; OLG Dusseldorf, FamRZ 2005, 216. ; OLG Stutgart, |
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
FamRZ 2005, 455.
122) OLG Dusseldorf, FamRZ 2005, 282. ; XXX Xxxxxxxxxxx, MittBayNot 2004, 448.
123) OLG Munchen FamRZ 2003, 35. ; OLG Koblenz, FF 2003, 138.139. ; OLG Dusseldorf, FamRZ 2005, 216. はこれを否定している。
124) Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 108), Rn. 366m, S. 265.
125) OLG Hamm, NJW-RR, 2003, 1659.
126) OLG Schleswig, FuR 2005, 471. Xxxxxx Xxxxxxxxx in ; Xxxxx Xxxxxxxxxx (Hesg.), Munchner AnwaltsHandbuch, Familienrecht, 2. Aufl., 2008, Teil I, 24 Ehevertrage, Rn. 32, 33, S. 1003, 1004.
127) 仮訳:BGB 1579条 〔著しい不xxに基づく扶養の制限ならびに拒絶〕
扶養請求権は,普通の子の監護及び教育に関する扶養権限者の利益(Belange)を維持しても,以下の事由により,扶養義務者への要求が著しく不xxであろうとき,拒絶し,減額し,もしくは期間を制限することができる。
① 婚姻が短期間であった。その際に,扶養権限者が1570条に基づく共通の子の監護及び教育による扶養を請求することができる期間を考慮することができる。
② 扶養権限者が,固定化した(verfestigten)生活共同体で生活している。
③ 扶養権限者が,扶養義務者もしくは扶養義務者の近親者に対して,重罪または故意の軽微な罪を行う。
④ 扶養権限者が,故意に,自身の要扶養状態を惹起した。
⑤ 扶養権限者が,故意に,扶養義務者の重大な財産利益を無視した。
⑥ 扶養権限者が,別居前の長期間,家族扶養に関する自身の義務に著しく違反した。
⑦ 扶養権限者に,扶養義務者に対する明白で,重大な,一方的な有責行為があった。
⑧ 1号から7号に挙げられた事由と同様に重大なその他の事由が存在する。 128) BGH, FamRZ 2005, 1449.
129) BGH, NJW 2005, 2386.
130) かつては,BGB 242条から導き出されていた概念である「行為基礎の障害(Storung der Geschaftsgrundlage)」(「行為基礎の喪失(Wegfall der Geschaftsgrundlage)」と表現するものもある)は,2001年の債務法改正により BGB 313条に規定された。また BGB 313条はxxxxの原則を法律上明確に表したものであると解されている(Xxxxxxxxx Xxxxxxxxx in ; Palandt, Burgerliches Gesetzbuch, 66. neube, Aufl., 2007, 313, Rn. 1, S. 501.)。
条文訳については,xxxxx・xxxxx著,xxxx『ドイツ民法総論』(成文堂,2008年)を参照した。
BGB 313条 〔行為基礎の障害〕
契約の基礎とされる諸事情が契約締結後に重大に変更し,当事者がその変更を予 見していたら,契約を締結しなかったか,他の内容で契約を締結したであろうとき,個別的な事案の全ての諸事情,とくに契約上または法律上の危険分配を考慮して当 事者の一方に変更されない契約に拘束されることを期待することができないかぎり で,契約の適合を求めることができる。
ドイツにおける夫婦財産契約の自由とその制限(xx)
契約の基礎とされる本質的な観念が誤ったものと判明するとき,それは諸事情の変更と同じである。
契約の適合が可能でないか,または,契約当事者の一方に期待することができないとき,不利益を蒙る当事者は,契約を解除することができる。継続的債務関係については解除権に代わって解約権が認められる。
131) Xxxxxx Xxxxxxxxxxxxx, Anm. FamRZ 2003, 377.
132) BGH FamRZ 2005, 185. : 1444. BGH FamRZ 2005, 1444. は,一方配偶者が他方配偶者よりも多くの収入を得ることを前提として夫婦財産契約を締結した事例であるが,BGH はこの前提は,契約の基礎として認めるには不十分であるとして,契約の適合を認めなかった。
133) Dauner-Lieb, a. a. O. (Fn. 115), S. 1029 ; Munch, a. a. O. (Fn. 108), S. 821.
134) Meo-Micaela Xxxxx, Vertragsfreiheit im Familienrecht, in ; Xxxxx/Schwab, Familienrecht in Brennpunkt, 2004, S. 200.
135) | Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 108), Rn. 366i, S. 262. |
136) | Munch, a. a. O. (Fn. 108), S. 823. ; Dauner-Lieb, a. a. (Fn. 115), S. 1028. |
137) | Xxxxxxxxxx/Thile, a. a. O. (Fn. 7), Vor. 1408, Rn. 15, S. 374. ; Xxxxx, a. a. O. (Fn. 108), S. |
824. ; Xxxxx, a. a. O. (Fn. 134), S. 201. | |
138) | BGH, FamRZ 2005, 691. |
139) | BGH, NJW 2005, 1370. OLG Koblenz, FamRZ 2006, 420. |
140) | BGH, FamRZ 2005, 1447. ; BGH, FamRZ 2006, 1359. BGH FamRZ 2007, 327. |
141) | BGH, NJW 2007, 906. |
142) | BGH, FamRZ 2005, 1449. |
143) | BGH, FamRZ 2007, 904. |
144) | BGH, NJW 2005, 1370. |
145) | BGH, FamRZ 2005, 691. |
146) | BGH, FamRZ 2005, 1449. |
147) | OLG Karlsruhe, FamRZ 2004, 1789. |
148) | Rakete-Dombek, a. a. O. (Fn. 115), S. 1275. ; Xxxxx, a. a. O. (Fn. 111), S. 368. ; Xxxxxx |
Xxxxxxxxxxxxx, Ehevertrage und Scheidungvereinbarungen-Wirksamkeit und richterliche Inhaltskontrolle-Uberlegungen fur die Praxis, FamRZ 2004, S. 1762.
149) | BGH, FamRZ 2005, 26. ; OLG Zweibrucken, FamRZ 2006, 1683. |
150) | BGH, FamRZ 2005, 691. |
151) | BGH, FamRZ 2006, 1097. ; BGH, NJW 2007, 907. |
152) | Xxxxxxxx, a. a. O. (Fn. 108), Rn. 366n, S. 267. |
153) | BGH, FamRZ 2005, 691. |
154) | BGH, FamRZ 2005, 185. ; OLG Koblenz, FamRZ 2005, 40. |
155) | OLG Koblenz, NJW-RR 2004, 1445. |
156) | Jorn Hau , Versorgungsausgleichsvereinbarungen und ihre Einordnung, FPR 2005, S. |
138.
立命館法学 2008 年 4 号(320号)
157) BGH, FamRZ 2005, 26.
158) OLG Dusseldorf, FamRZ 2006, 347.
159) OLG Koblenz, FamRZ 2005, 40.
160) BGH, FamRZ 2005, 185.
161) 妊婦との夫婦財産契約において,別産制の合意を有効とした裁判例として,OLG Hamm, FamRZ 2006, 268 が挙げられる。
162) OLG Celle, FamRZ 2004, 1202. OLG Dusseldorf, FamRZ 2005, 216. OLG Braunschweig, FamRZ 2005, 903. は,短期間の別産制の合意を有効と認めている。
163) | OLG Hamm, FamRZ 2006, 337. |
164) | OLG Hamm, FuR 2006, 136. |
165) | Xxxxxxxxxx/Thile, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 83. S. 414. |
166) | Xxxxxxxxxx/Thile, a. a. O. (Fn. 7), Vor 1408, Rn. 14. S. 374. |
167) | Xxxxxxxxxx/Thile, a. a. O. (Fn. 7), 1408, Rn. 84. S. 415. |
168) | ケース研究223号(1990年)101頁以下。 |