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共同研究契約書条文解説(平成23年度版)
(定義)
第1条 本契約において、次に掲げる用語は次の定義によるものとする。
(省略)
二 「知的財産権」とは次に掲げるものをいう
ハ 著作権法(昭和 45 年法律第 48 号)に規定するプログラムの著作物及びデータベースの著作物(以下「プログラム等」という。)に係る著作権並びに外国における上記権利に相当する権利
(省略)
九 「乙の指定する者」とは、乙のグループ企業又は乙が生産若しくは製造を委託する者等を指し、甲乙協議の上、共同出願契約又は実施契約等にて定める者をいう。
1.第1条は、共同研究契約書において使用される用語を定義しています。
第1項第2号において定義される「知的財産権」には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権等が広く含まれます。
このうち著作権については、プログラムの著作物及びデータベースの著作物に係る著作権のみを知的財産権に含まれるものとして定義しています。これは、共同研究契約の対象となる著作権を、技術移転の対象として適しているプログラムの著作物及びデータベースの著作物に限定する趣旨です。
2.また、第1項第9号で定義される「乙の指定する者」とは、乙が生産若しくは製造を委託する者等、実質的に乙と一体となって特許発明等を実施し、乙と同一とみなすことができる者を想定しています。
企業からは、「乙」の指定する者という文言から、この者は乙、すなわち企業が自己の判断に基づいて定めるべきであるとの主張をいただく場合もあります。しかし、どのような者を「乙の指定する者」として含めるかについては、「乙の指定する者」が本共同研究の成果を「乙」と同様に実施できることから、乙の属する企業グループ経営の在り方や乙の企業としての経営方針に鑑み、また他の条件等も考慮の上、ケースバイケースで決定すべきものであり、甲乙協議の上、「乙の指定する者」を定めていただくようにしています。
(研究担当者)
第4条 甲及び乙は、それぞれ表記契約項目表 6.に掲げる者を本共同研究の研究担当者として本共同研究に参加させるものとする。
2 甲は、乙が希望する場合、乙の研究担当者のうち甲の研究実施場所において本共同研究に従事する者を共同研究員として受け入れるものとする。
3 甲及び乙は、相手方の同意を得た上で、第 1 項に定める研究担当者の変更、追加又は
削減を行うことができるものとする。
(研究協力者)
第5条 甲又は乙は、本共同研究遂行上、研究担当者以外の者の参加又は協力を得ることが必要と認めた場合、相手方の同意を得た上で、当該研究担当者以外の甲又は乙に所属する者(学生等を含む。)を研究協力者として本共同研究に参加させることができる。
2 前項において、研究協力者を参加させた甲又は乙は、研究協力者となる者に本契約の内容を遵守させなければならない。研究協力者による本契約内容の違反は、当該研究協力
者を参加させた甲又は乙の本契約の違反を構成するものとする。
ここでは、共同研究に参加する本学における研究担当者と研究協力者の定義等に触れておきたいと思います。
研究担当者とは、当該共同研究の実施に対し研究遂行の責任を負う者で、かつ原則とし
て本学と雇用関係にある常勤教員を言います。
なお、特定短時間勤務有期雇用教職員等、いわゆる常勤形態でない教員については、学内における当該教員の研究環境等の状況を踏まえ、実情に応じて判断していくことが求められます。
一方、研究協力者とは、雇用関係の有無に関わらず当該共同研究の特定部分について研究の支援補助を行う者であり、一般的に研究遂行の責任を負うことはありません。研究協力者として想定される対象は、原則として学生、ポスドク等となりますが、上記趣旨から大学と雇用関係にある教員等も対象となり得ます。
(研究経費の負担)
第7条 乙は、本共同研究の実施に必要な以下の研究経費を負担するものとする。負担額は表記契約項目表 10.に掲げる金額とする。
一 甲の施設・設備の維持・管理に必要な経常経費等を除く、謝金、旅費、設備費、消耗品費及び光熱水料等の本共同研究遂行に直接必要な経費に相当する額、並びに甲の規則により定める研究支援経費を合算した額に消費税及び地方消費税を加算したもの
(以下「研究費」という。)
二 第 4 条第 2 項により、共同研究員を受け入れる費用で、甲の規則によるものの額に、消費税及び地方消費税を加算したもの(以下「研究料」という。)
2 第 4 条第 3 項により研究担当者数が削減された場合であっても、次条第 1 項の規定に
より支払われた研究料は返還されないものとする。第 4 条第 2 項に基づき甲が受け入れる共同研究員数が増加した場合は、乙は不足の研究料を支払うものとする。
1.本学では、平成17年度から外部資金受入に当たり、研究遂行に直接必要となる経費の他に効果的・効率的に研究を行うための経費として「研究支援経費」を別途受け入れることになりました。
これは今後における共同研究等のプロジェクト研究を効果的に実施するためには、大学全体としての管理的業務を充実させていくことが不可欠であるとの認識に基づき、共同研究にあっては研究遂行に直接必要となる経費に「東京大学研究支援経費取扱要領」で定める率(平成23年4月1日現在10%、ただし、企業等から申入れがある場合は、
10%以上30%以下の範囲内で、部局長が定めることができる。)を乗じた額をいわゆる間接経費又は一般管理費として相手方企業等に別途ご負担いただくものです。
ご負担いただいた本経費は、施設等の維持管理経費、管理的業務を行うために雇用する教職員の人件費、光熱水料等をその使途として全学的に使用することとなっています。
○研究支援経費に関する問い合わせ先
企業等からの問い合わせは、各部局担当者
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各部局からの問い合わせは、本部外部資金課企画チーム
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2.研究料は、年度に関係なく研究開始から年間525,000円とし、月割計算は致しませんが、本学の運用により受入が半年以内の場合は半額の262,500円として取り扱うこともできますので、受入部局にご相談ください。人数×年数×単価で積算してください。
3.なお、本条の研究経費については、実費の積算である点は注意が必要です。
企業によっては、共同研究において企業が支出する研究経費には、知的財産権の譲渡対価を含むのではないかとして、知的財産を無償で譲渡してほしいと主張される場合もあります。この点につきましては、研究経費の内訳及び第18条の説明において述べる本学のスタンスに基づき、研究経費には譲渡対価が含まれないこと、また、知的財産権の無償譲渡等には応じることができないことをご理解ください。
(研究経費の支払)
第8条 乙は、表記契約項目表 10.に掲げる研究経費を、甲の発行する請求書に従って、甲の定める支払期限までに支払わなければならない。
2 乙が前項に規定される支払期限までに前項の研究経費を支払わないときは、支払期限の翌日から支払日までの日数に応じ、その未払額に年 5%の割合で計算した延滞金を、甲は乙に対して請求できるものとする。乙は甲からの請求があった場合、これに応じなければならない。
請求書は、各担当部局事務において契約締結後直ちに発行致します。「甲の定める支払期限」は、東京大学出納管理事務取扱要領第8条第4項により、請求書発行日から30日以内となっております。
(知的財産権の出願等)
第14条 甲及び乙は、自己に所属する研究担当者又は研究協力者(以下併せて「研究担当者等」という。)が本共同研究の実施に伴い発明等を得た場合には、速やかに相手方に通知し、当該発明等に係る知的財産権の持分及び出願等の可否等について協議するものとする。
2 甲及び乙は、自己に所属する研究担当者等に帰属する本共同研究の実施に伴い得られた発明等(甲に所属する研究担当者等と乙に所属する研究担当者等により共同で得られた発明等を含む。)について、それぞれの規則等により、当該発明等を得た研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権の承継を受けるものとする。
3 前項の場合において、甲又は乙が、本共同研究の実施に伴い発明等を得た自己に所属する研究担当者等から、当該発明等に関する知的財産権を承継しないときは、相手方にその旨を通知するものとする。
4 いずれかの当事者に所属する研究担当者等のみによって得られた発明等に関する知的財産権は、当該発明等を得た研究担当者等からの承継を受けた場合、当該いずれかの当事者に単独で帰属するものとし、当該当事者は、単独で、自己の判断に基づき当該発明等に関する知的財産権の出願等及び権利保全の手続きを行うことができるものとする
(甲単独に帰属する知的財産権を以下「甲知的財産権」という。)。ただし、かかる出願等の手続きに先立ち、第1項の協議において、あらかじめ相手方に対して当該発明等が単独に帰属することの確認を得るものとする。この場合、出願等及び権利保全の手続きに要する費用は、当該発明等に関する知的財産権の帰属する当事者が負担するものとする。
5 甲及び乙は、甲に所属する研究担当者等及び乙に所属する研究担当者等により共同で得られた発明等に関する知的財産権の承継を、当該発明等を得たそれぞれの研究担当者等から受けた場合、当該発明等に関する知的財産権(以下「共有知的財産権」という。)における甲及び乙の持分を定める共同出願契約を別途締結し、かかる共同出願契約に従って共同して出願等を行うものとする。
1.第14条は、共同研究の実施に伴って得た研究成果(発明等)について、承継、持分、出願・維持、契約締結等を行うに当たっての基本的な考え方や取扱いを定めたものです。第1項では、発明を得た場合、先願主義や大学における研究成果の社会への早期還元 等の観点から、速やかに当該発明等に係る知的財産権の貢献度、持分及び出願等の可否等について協議することとしています。持分は、「発明者の認定と出願人」(用語解説4
4ページ)に基づき、発明者間で協議していただくことになります。
早急な権利化等のため、出願前の相手方との協議を不要とお考えの企業や学内研究者もありますが、単独発明であるか共同発明であるかの判断、また、共同発明である場合
の貢献度等につきまして事後の争いを防ぐためにも、発明等を得たときには速やかに通知を行い、互いの研究者間で情報共有すると共に、双方の知的財産部門等での処理が行えるようお願い致します。
2.第2項では、それぞれ当該発明等を行った研究担当者等から各々の機関が規則等により承継できる旨明記されています。このことは法人化以降の大学の発明等における原則個人帰属から原則機関帰属への移行に伴うものです。
3.第3項において、機関が承継しない場合の手続きについても併せて言及していますが、ここでは一般的に所属する従業員等の発明について「職務発明」としてほぼ100%承継するであろう企業等と、研究成果の公表を原則とし、権利化の要否に限定せず幅広い視点から成果の社会還元を目指す大学とのスタンスの相違をご留意いただく必要があります。
本学は、現時点では特許等の出願等費用を運営費交付金等からまかなっていることから、特許等の市場性が低いなど、将来にわたって出願等費用の回収の見込みが立たない発明につきましては、出願等費用を支出することに対して説明責任を果たすことができないため、承継して大学帰属とすることはできません。原則として出願等費用は独占・非独占を問わず企業に負担をお願いしています。また、学術的には価値の高い発明であっても、実用化がかなり先になる見込みである(特許権は特許出願の日から20年で存続期間が終了します。)、あるいは特許を登録するための要件(新規性、進歩性等)を満たさない可能性が高く出願しても権利化が困難であるような場合も、承継をして大学帰属とすることは困難となります。
このように機関が承継せずに個人帰属になった場合、発明者である研究者に特許を受ける権利が残存する扱いとなります。
4.第4項では、単独帰属に至った知的財産権の諸手続きや費用負担について規定しています。
ここで、企業によっては、共同研究から生まれた発明は全て共有であるべきとして、単独帰属に至る知的財産は生じないと主張される場合があります。しかしながら、発明は、個人が行う知的な創作活動の成果物ですから、共同研究の結果生まれた発明であっても、発明者が甲又は乙のみに属することはあり得ます。これは、大人数で共同研究を進めた場合、全員が発明者になるとは限らないことからも明らかです。また、研究を分担してそれぞれの機関において行う分担型の共同研究であれば、当然に単独発明が生じ得るといえます。
共同研究の成果を全て共有とする場合は、共同研究の成果の中に本学の発明者のみがなした発明が含まれる場合、かかる発明の部分的な無償譲渡ともなります。
共同研究の成果については、一律に共有とするのではなく、発明者の認定を厳格に行い、帰属を決定することが重要です。発明者認定を厳格に行うためには、ラボノートを活用して研究過程を明確に記録するなど工夫をしてください。
なお、共同発明者については、用語集45ページに説明がありますので、併せて参照してください。
5.第5項は甲乙共有に至った知的財産権の諸手続きの原則について規定しているものです。
なお、共有知的財産権の出願維持等に係る費用負担については、第23条において別途定めています。これは、当該共有知的財産権を甲乙それぞれがどのように取り扱い、また実施するかに委ねられていることに基づくものです。
(外国出願)
第15条 前条の規定は、外国における知的財産権の出願等及び権利保全等についても適用する。
2 甲及び乙は、外国における知的財産権の出願等を行うに当たっては、その要否及び対
象国等について協議の上行うものとする。
外国出願における前条の準用規定です。
外国における知的財産権の出願については、国内出願の場合とは異なり、基本的に国立大学法人における出願等費用の優遇措置もなく、対象国や出願分野によっては翻訳費用、現地代理人費用も含めて多額の費用が発生することも考えられるため、その出願に当たっ
ては国内出願と比較してより慎重な対応が求められるところです。
また、外国における出願については、通常は、国内出願を先に行い、これに基づいて優先権と呼ばれる権利を主張して、外国での出願を行います。この優先権は、国内出願を行ってから1年間、主張が可能です。現在外国出願は、国内の出願をしてから1年以内に企業と協議を行い出願等費用負担や実施条件の合意ができた段階で、優先権を主張して行っています。換言すれば、外国出願については、優先権を主張可能な1年の間、協議を行うための時間的な余裕があるといえます。
以上の理由から、ここではあらかじめ外国出願の取扱いについて条文で明示することなく、共同研究の相手方企業等と協議することを交渉のスタートとして雛形を作成しています。
(知的財産権の取扱いに関する契約)
第16条 甲及び乙は、原則として、甲知的財産権及び共有知的財産権(以下「本件知的財産権」という。)の出願までに、本件知的財産権の取扱いに関する契約を締結するものとする。
2 乙が本件知的財産権に関して独占実施を希望する場合、甲及び乙は、第 18 条から第
23 条までの規定に従い、甲知的財産権に関する独占実施契約(専用実施権設定契約を含む)又は共有知的財産権の共同出願契約を締結するものとする。
3 乙が本件知的財産権に関して非独占実施を希望する場合、甲及び乙は、第 18 条から第
23 条までの規定に従い、甲知的財産権に関する非独占実施契約、又は共有知的財産権の共同出願契約を締結するものとする。
4 乙は、第 14 条第 1 項の通知を甲から受け、乙又は乙の指定する者が当該甲知的財産権
を実施しないと判断する場合には、速やかに甲に対して書面による通知を行うものとする。
1.平成21年度における契約書雛形は、第4項を追加致しました。これは、本学単独知的財産権の取扱いにおいて、出願判断等で支障を来す恐れがあるために、実施しない場合の通知について規定したものです。乙が甲知的財産権を実施しないと判断した場合の取扱いについては、第17条の解説4.1)(18ページ参照)と同様です。
2.第16条第1項から第3項においては、本共同研究から創出された知的財産権の取扱いに関する契約について説明しています。他の条項と重複する部分や企業等で使用される契約の名称と異なる場合もありますが、契約の形態をまとめた条項という位置づけですので、ご理解いただき、契約の名称(独占実施契約等)につきましては、個々の契約を締結する際にご相談ください。
乙による実施条件を定める契約(「本件知的財産権の取扱いに関する契約」)の種類を表にまとめると、下記のようになります。本学の共同出願契約雛形には実施条件を定める条項があり、共有知的財産権については共同出願契約で実施条件を定めますので、別途の実施契約は必要ありません。甲知的財産権の場合のみ、実施契約を締結します。
「本件知的財産権の取扱いに関する契約」(第 16 条第 1 項)の種類
乙が独占実施を希望 | 乙が非独占実施を希望 | |
甲知的財産権 | 独占実施契約 (第 16 条第 2 項) | 非独占実施契約 (第 16 条第 3 項) |
共有知的財産権 | 共同出願契約(独占実施条項つき) (第 16 条第 2 項) | 共同出願契約(非独占実施条項つき) (第 16 条第 3 項) |
(優先交渉権)
第17条 前条にかかわらず、乙が、本件知的財産権に係る実施又は実施許諾の形態を検討するために、当該本件知的財産権に関する技術面や事業面等からの検証・評価に時間を要する場合、当該本件知的財産権の実施及び実施許諾に関する条件交渉を甲と独占的に行うことができる期間(以下「優先交渉期間」といい、当該優先交渉期間中に乙が獲得する権利を以下「優先交渉権」という。)を、甲と協議の上、設けることができるものとする。
2 優先交渉期間中に発生する本件知的財産権に係る出願及び権利保全等に要する費用
(以下「出願等費用」という。)の一切は、乙が負担するものとする。
3 優先交渉期間は出願日から 18 ヶ月を上限として設けることができるものとし、共同出願契約又は優先交渉期間設定契約において定めるものとする。なお、発明等の内容等を踏まえ、甲乙協議の上、優先交渉期間をあらかじめ延ばすことができるものとする。
4 優先交渉期間中に、乙が優先交渉期間の延長を希望する場合、甲に延長の申し出を行い、甲の同意を得た上で、書面にて優先交渉期間を延長するものとする。
5 乙は、優先交渉期間終了 3 ヶ月前までに、第 1 項に定める検証・評価の結果を甲に通
知するものとし、甲及び乙は、第 18 条から第 23 条までの規定に従い、優先交渉期間終了後の本件知的財産権の実施及び実施許諾に係る条件を決定するものとする。乙が優先交渉期間中に優先交渉権の放棄を希望する場合も同様とする。
6 前項により決定した条件に基づき、甲及び乙は、優先交渉期間終了後の取扱いを定めた甲知的財産権に関する実施契約(以下「独占的通常実施権許諾契約、非独占的通常実施権許諾契約又は専用実施権設定契約」をいう。)、又は共有知的財産権に関する共有知的財産権取扱契約を、優先交渉期間内に締結するものとする。
7 優先交渉期間中に、乙が本件知的財産権を活用し収入を得ようとする場合、その取扱いにつき、あらかじめ甲乙協議し決定するものとする。
1.第17条は、「他企業等に先駆けて交渉を行う権利(優先交渉権)」を定めたものです。乙による実施条件は出願までに定めることが原則(第16条参照)ですが、本条第1
項に記載する事情により実施条件の決定に時間を要する場合には、優先交渉権を設定し、その期間中に条件をご検討いただく趣旨です。優先交渉権を設定する場合の契約の種類を表にまとめると下記の通りです。
優先交渉権を設定する場合の契約の種類
優先交渉権設定時の契約 (実施条件未定) | 優先交渉権終了後の契約 (実施条件を定める契約) | |
甲知的財産権 | 優先交渉権設定契約 (第 17 条第 3 項) | 【乙が実施を希望する場合】実施契約(第 17 条第 6 項) 【乙が実施を希望しない場合】 契約なし |
共有知的財産権 | 共同出願契約(優先交渉権設定条項つき) (第 17 条第 3 項) | 共有知的財産権取扱契約 (第 17 条第 6 項) |
2.上記「優先交渉期間」は、契約書雛形においては、出願日から18ヶ月間を上限としております。平成17年度までは6ヶ月としていましたが、企業等からできるだけ長い期間を設定したいという要望もあり、18ヶ月で出願公開されてしまうことも考慮の上、上限を決めています。
また、優先交渉期間中にあっては、相手方企業等から独占的通常実施権の許諾を求められた際、大学(甲)は当該申し出に応じる必要があります。したがって、大学(甲)に承継された知的財産権(甲単独、及び甲乙共有知的財産権)における優先交渉期間が長期に及ぶということは、本学にとって当該知的財産権についての第三者へのライセンス活動が行えない期間がその分だけ長くなることを意味します。言い換えれば、当該期間は、相手方企業等による事実上の独占状態にあるということです。このため、第2項
において、かかる期間中に発生する出願等費用一切の負担をお願いしています。
例えば製薬業の企業等、実施化の検討に時間を要する企業によっては、優先交渉期間の延長を希望される場合もあります。企業等との交渉の際は、第3項において甲乙協議の上、当該期間をあらかじめ延ばすことができる旨規定されているので、原則上限18ヶ月としつつも、ここで弾力的な運用を行うことができます。しかし、仮に当該期間の大幅な延長を明記するのであれば、これを補償するものとして、当該期間中の大学の不実施に対する対価等を考慮いただくことをお願いすることもあります。
3.第6項では、大学(甲)に承継された知的財産権及び甲乙共有の知的財産権について、実施にかかる契約を優先交渉期間内に締結することを規定しています。
なお、大学(甲)に承継された知的財産権の実施権については、
① 専用実施権
② 通常実施権
の形態が存在します。実施権の詳細については、用語集53~55ページの説明を参照してください。
共同研究の成果をできるだけ早期に実施する道筋をつけるため、第5項で、共同研究
相手方である企業等から実施又は実施許諾にかかる検証・評価の通知を優先交渉期間終了時の3ヶ月前までにいただくこととし、条件を決定の上、第6項にて優先交渉期間内に実施契約等を締結するよう求めています。
ただし、企業等における諸事情や、当該知的財産権の性格等によっては、必ずしも当該期間中に実施契約等を締結できるとは限りません。したがって、実施契約等の締結期限については、相互が十分協議を行い、ある程度柔軟に対処していくことも必要となります。さらに、第4項における優先交渉期間の延長とも密接に関連付けて交渉することも併せて必要になります。
4.優先交渉期間終了後、実施に係る契約が締結されなかった場合(乙が本件知的財産権を実施しないと判断した場合)の取扱いは以下の通りとなります。
1)甲(単独)知的財産権の場合
本学は、第三者に対して実施権(専用実施権、独占的通常実施権、非独占的通常実施権)の付与を行うことができます。
2)甲乙共有知的財産権の場合
甲乙共有の知的財産権については、乙は優先交渉権を失った場合でも当該知的財産権について持分を有しているので、乙の実施権は依然保証されていいます。従って乙が非独占実施を希望した場合と同様の取扱いとなり、本学は、第三者に対して非独占的通常実施権を許諾することができます(第21条第3項参照)。
(研究成果の実施における基本的な考え方)
第18条 甲及び乙は、第 16 条、第 17 条及び次条から第 24 条に定める研究成果の実施に係る取扱いについて、以下の事項に留意し、協議・交渉を行うものとする。
一 本件知的財産権が、本共同研究の成果として得られたものであること二 甲の責務として、甲の研究成果を社会に還元する必要があること
三 甲が本件知的財産権を活用し、自ら商品化又は事業化することがないこと
四 本件知的財産権が、第 7 条に定める研究経費に加えて、それぞれが自己に所属する研究担当者等の人件費を負担し、又、それぞれの施設・設備等を利用して得られた研究成果であること
五 本件知的財産権により収益があった場合、当該本件知的財産権に関する発明等を得た甲又は/及び乙の研究担当者等に、特許法第 35 条における「相当の対価」を、それぞれの規則等に基づき支払う義務があること
六 国の指針である総合科学技術会議の「ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許の使用の円滑化に関する指針」(平成 19 年 3 月 1 日)を踏まえ制定された甲の
「東京大学リサーチツール特許取扱ガイドライン」(平成 20 年 2 月 8 日)の考え方を
尊重すること
共同研究とは、大学と企業等とが共通の課題について、いわば「対等の立場」で研究を遂行することですが、研究成果の実施という観点からは、その社会的立場の相違もあり必ずしも対等であるとは言えません。知的財産権の取扱いについても、「企業対企業」と「大学対企業」とでは同様の扱いとはなり得ず、大学は企業等に対し、このような相違について理解を求めていく必要があります。そこで第18条では、研究成果の実施における大学の基本的な考え方について言及し、社会における「大学」の位置付けを明確にすることにより、このことを踏まえた上での協議・交渉を企業等に求めることとしています。
二 甲の責務として、甲の研究成果を社会に還元する必要があること
「国立大学法人法」によると、国立大学法人の行う業務のひとつに「当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること」とあります。このことから、大学との共同研究の成果は、決して企業戦略としての「防衛特許」的な扱いをすることなく、積極的に社会へ還元することを表明するものです。
※防衛特許とは・・・
例えば、積極的な権利活用を目的としたものではなく、自社の製品と対抗する製品を他社から出されないようにする、あるいは類似の発明を他人に権利化させないために防衛的に出願する特許
三 甲が本件知的財産権を活用し、自ら商品化又は事業化することがないこと
「国立大学法人法」の解釈上、国立大学法人は、一般的に当該知的財産権を活用し、自ら事業化することはできません。このことは、知的財産権をいわゆる「自己実施」、つまり自らの判断で事業化し、収益化を目指すことのできる企業とは大きく異なるところであり、知的財産権にかかる取扱いについては、この相違を前提にした協議・交渉が必要となります。
四 本件知的財産権が、第7条に定める研究経費に加えて、それぞれが自己に所属する 研究担当者等の人件費を負担し、又、それぞれの施設・設備等を利用して得られた研究成果であること
企業によっては、共同研究における研究経費を支出する対価として、当該共同研究の成果としての知的財産権の取扱いについて企業に有利な条件を求めてくる場合があります。この場合、大学にあっても、研究担当者等の人件費や、共同研究の用に供する大学施設・設備の維持管理に要する経費等を負担しており、したがって企業等から受け入れた研究遂行に直接必要となる経費(9ページ参照)だけで当該共同研究が遂行できるわけではないことをここであらためて明示するものです。
五 本件知的財産権により収益があった場合、当該本件知的財産権に関する発明等を得 た甲又は/及び乙の研究担当者等に、特許法第35条における「相当の対価」を、それぞれの規則等に基づき支払う義務があること
ここでは、特許法第35条における「相当の対価」の支払いにつき、発明者の所属する機関が自らの責任において行うことを明示しています。
一方で大学は、上記三で述べたように、共同研究から得た知的財産権を自ら事業化することができません。したがって、大学は、研究担当者等から承継を受けたことで生じる当該研究担当者等への「相当の対価」を支払うためには、共同研究相手方である企業等から当該知的財産権を実施する際に実施料の支払いを受ける、又は当該知的財産権を第三者に実施許諾して対価を得るなどして、措置していくしか方法はありません。
このことから、共同研究の成果としての当該知的財産権の実施に際しては、このような研究担当者等への「相当の対価」を支払うことのできる取扱いに留意していく必要があります。
なお、上記の支払い義務を担保するものとしていわゆる「不実施補償」という取扱いがありますが、これについては第20条のところで詳しく述べることとします。
六 国の指針である総合科学技術会議の「ライフサイエンス分野におけるリサーチツー ル特許の使用の円滑化に関する指針」(平成 19 年 3 月 1 日)を踏まえ制定された甲の
「東京大学リサーチツール特許取扱ガイドライン」(平成 20 年 2 月 8 日)の考え方を 尊重すること
平成 19 年 3 月 1 日、総合科学技術会議において「ライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許の使用の円滑化に関する指針」が決定されました。
本指針においては、大学等の研究におけるライフサイエンス分野におけるリサーチツール特許について紛争を未然に回避し、使用の円滑化を図るため、大学等や民間企業におけるライセンスの基本的な考え方や、大学における必要な関連規程の整備や体制整備の促進を行うことが示されています。
本学においても、リサーチツール特許の相互使用の円滑化、研究の自由度の一層の確保を図るべく、本指針に則り「東京大学リサーチツール特許取扱ガイドライン」を制定(平成 20 年 2 月 8 日)しました。
本号は、総合科学技術会議の指針の精神に則り制定した、上記ガイドラインに沿った運用を行うことを明示したものであり、平成21年度共同研究契約書雛形から追加しました。
(甲による実施)
第19条 甲は、研究成果を、第 25 条のノウハウ秘匿義務及び第 29 条の秘密保持義務を遵守の上、甲が行う教育及び研究活動のために無償にて使用することができるものとする。
2 甲に属する発明者又は成果有体物の作製者は、甲の所属を離れた場合であっても、研究成果を、第 25 条のノウハウ秘匿義務及び第 29 条の秘密保持義務を遵守の上、教育及び研究の目的に限り、将来において所属する研究室(非営利研究機関に限る。)で実施す
ることができるものとする。
大学における教育研究活動は、いかなる場合でも制約されず、その自由な活動が保証されるべきであることは言うまでもありません。大学内で行われる研究成果の自由な実施活用は、従来、特許法第69条(特許権の効力が及ばない範囲)をその根拠として、担保されるものと考えられてきました。
しかしながら、昨今、諸外国において、大学内で行われる研究活動も「特許権の実施」に当たる旨の判例が示され、このことを契機に我が国においても、この条文の解釈について様々な論議が行われているところです。したがって本条では、この大学内における自由な研究活動を確保するため、特許法第69条の規定によることなく、共同研究契約書による条文の中でその旨を明示することとしました。
ここでの「研究成果」は、第1条第1号にて定義されている通り、本共同研究に基づき得られたもので、第6条に従って作成される実績報告書において成果として確定された本共同研究の目的に関係する発明、考案、意匠、著作権、ノウハウ等の技術的成果を指します。本共同研究に基づき得られたものですので、甲(大学)単独で得た成果、甲乙共同で得た成果のみならず、乙(企業)単独で得た成果も含みます。
本学が共同研究を行う上で最も大切なことの一つは、本学の教育及び研究活動の自由を確保することと考えております。共同研究を行った結果、却って研究や教育の自由が阻害されるようなことがあると共同研究を行う意味がなくなってしまいますので、第19条では、共同研究に基づき得られた研究成果について、教育及び研究活動を自由に行うことができるよう明記しました。
(参考)
(特許権の効力が及ばない範囲)
特許法第69条 特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。
2 (省略)
なお、特許法第69条については、用語解説46ページに詳細な説明がありますので併せてご参照ください。
また、本学研究者が東京大学の所属を離れた場合であっても、特許法第69条の規定によることなく、研究成果を教育研究活動に自由に実施できることを担保するため、平成2
1年度共同研究契約書雛形から第2項を追加しました。
甲に属する成果有体物の作製者が、甲の所属を離れて他機関に異動する場合は、異動先の所属機関と本学とで、有体物提供契約を締結するよう異動する研究者に要請をしています。
(乙による非独占での実施)
第20条 乙又は乙の指定する者が共有知的財産権を非独占的に実施することを希望する場合には、乙又は乙の指定する者は第 18 条の研究成果の実施における基本的な考え方を踏まえ、別途、実施料の支払い及び出願等費用の負担の有無、第三者に対する実施許諾
の是非並びにその他の条件について甲と協議するものとする。
企業等が当該共有の知的財産権を非独占的に自ら実施しようとする場合には、相手方(大学)の同意を得ることなく、無償で実施できるものとして、共同研究契約書にその旨明記
することを要求されることがあります。これは、特許法第73条第2項をその根拠として、自らが権利を有する共有特許の自己実施は「契約で別段の定めをした場合を除き」自由であるとの考え方に基づくものと考えられます。
これに対して大学の立場からは、契約において「別段の定め」を設け、当該共同研究から得られた共有知的財産権を当該相手方企業が実施する場合、大学自らが実施しないことへの対価として当該相手方企業等に対して実施料の支払いを原則としてお願いしております。
このように実施料の支払いをお願いする取扱いをいわゆる「不実施補償」といい、国立大学の法人化以降、この「不実施補償」の是非が企業との共同研究契約における締結交渉を行う上で、大きな課題となっているところです。
大学としては、原則的には、大学の研究者が知的貢献した研究成果の利用に当たっては、独占・非独占実施を問わずその対価をお支払いいただくべきであると考えています。しかしながら、本学では、当該知的財産権の性格や相手方企業等の事業戦略等を考慮することとし、この「不実施補償」について非独占実施時に一律に相手方企業等に求めるといった取扱いはしていません。本条にあるように、個別に相手方企業等との協議交渉により当該補償をお願いしています。共有知的財産権における出願等費用の負担の有無や、第三者へのライセンスの可能性など多角的視点から考慮し、自己実施しない(できない)大学と自己実施する(できる)企業等との間の実質的な対等の関係の構築を、個々の協議交渉の中で求めていくこととしています。
(参考)
(共有に係る特許権)特許法第73条
2 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
(第三者に対する実施の許諾)
第21条 甲は、乙又は乙の指定する者が本件知的財産権に関する独占実施に係る契約を締結した場合にもかかわらず、当該本件知的財産権を出願等した日の翌日から起算して表記契約項目表 14.に掲げる期間(以下「実施目標期間」という。)以降において正当な理由なく実施しないときは、乙又は乙の指定する者の意見を聴取の上、乙又は乙の指定する者との間で締結している本件知的財産権に関する独占実施に係る契約を解除し、乙又は乙の指定する者以外の第三者に対し当該本件知的財産権の実施を許諾することができるもの
とする。ただし、当該独占実施に係る契約の締結に当たり、甲乙協議の上、表記契約項目表 14.の実施目標期間と異なる期間を定めることができるものとする。
2 甲は、乙又は乙の指定する者に対し実施を許諾した場合であっても、当該実施を許諾したことが公共の利益を著しく損なうと認められるときは、乙に対し書面で通知を行い、乙と協議を行うものとする。その協議によってもなお事態が改善されない場合は、甲は、乙又は乙の指定する者への実施の許諾を解除した上、乙又は乙の指定する者以外の第三者に対し当該知的財産権の実施を許諾することができるものとする。
3 乙が本件知的財産権に関して非独占実施を希望する場合、甲は、甲知的財産権について自由に第三者に対し実施の許諾をすることができ、又、共有知的財産権については当該共有知的財産権を出願等したときから、乙の書面による同意を得て第三者に対し実施の許諾をすることができるものとする。なお、正当な理由なく、かかる同意を拒んではならな
いものとする。
1.第21条は、大学(甲)における第三者への実施許諾について規定したものです。
大学から生み出された研究成果は、大学の使命として広く速やかに社会還元する必要があります。共同研究の実施に伴い得られた知的財産権についてもこの考えは変わるものではありません。したがって、当該知的財産権にあっても「実施目標期間」を設定し、優先交渉権を持つ共同研究の相手方企業等に対し、できるだけ早期の実施を求めていくものです。
2.第1項で、「正当な理由なく実施しないとき」とは、具体的に主に企業等において「防衛特許(19ページ参照)」として扱われる場合等を指します。防衛特許は、大学と異なる企業側の立場からすれば、ある意味正当な企業戦略とも言えるわけですが、一方で大学の立場からすれば、既述のとおり大学における知的財産権に対する基本姿勢に反するものであると言わざるを得ません。
なお、この場合、企業等と締結した「独占的通常実施契約」及び「専用実施契約」は解除できる旨規定していますが、企業等に対する非独占的な通常実施権まで放棄してい
ただくものではありません。
3.また、第2項でいうところの「公共の利益を著しく損なうと認められるとき」とは、
①軍事利用などで国民や社会の生命や財産を脅かすような場合
②癌の特効薬など国民が早急で且つ安価に普及を求めているにもかかわらず、乙の事業戦略の結果、国民に普及しないような場合
等であり、社会や国民の安全等を脅かすといった非常に限定された事例を想定しています。
前項と異なる点は、この場合、大学における公共的性格や研究成果の適正な還元の在り方に照らし、「独占的通常実施契約」、「専用実施契約」のみならず、非独占的通常実施権も含めた実施許諾の解除まで視野に入れていることです。これにより、大学(甲)による第三者への実施許諾は、「独占的通常実施契約」や「専用実施契約」まで及ぶことも想定されます。
4.第3項では、企業(乙)が本件知的財産権に関して非独占実施を希望する場合、甲は、共有知的財産権については当該共有知的財産権を出願等したときから、乙の書面による同意を得て第三者に対し実施の許諾をすることができるものとする、と規定しています。これは、特許法第73条第3項に、共有の特許権については、他の共有者の同意を得なければ実施許諾をすることができない、とあるので、これを受けたものです。
しかしながら、特許法第73条第3項をそのまま文言通りに解釈すると、第三者が非独占実施を希望していても、何らかの理由で他の共有者の同意を得ることができない場合は、本学は全く実施許諾をすることができないという事態になりかねません。このため、この同意は、「正当な理由」なく拒むことができないと明記しました。この「正当な理由」とは、甲(大学)が、共同研究を行っているパートナーである企業(乙)よりも有利な条件で、第三者に対し実施の許諾を行っているような場合を想定しています。
企業によっては、甲が乙の競合他社へのライセンスを行うことは、正当な理由に該当するから同意を拒むことができる、と解釈する場合がありますが、成果の社会への広い普及を希望している本学の立場からは、このような理由は、「正当な理由」に該当するものとは考えておりません。企業が成果の普及のために独占的な実施を希望する場合はその意向を尊重しますが、そうでない場合は、実施を希望する第三者企業に対しては積極的にライセンス活動を行い、企業(乙)の競合他社も含めて広く実施を普及させていく方が大学における公共的性格や研究成果の適正な還元の在り方に照らし適切と考えます。
(参考)
(共有に係る特許権)特許法第73条
3 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。
(実施料)
第22条 甲知的財産権を乙又は乙の指定する者が実施しようとするときは、乙は別に実施契約で定める実施料を甲に支払い、又は乙の指定する者をして支払わせなければならない。
2 共有知的財産権を乙若しくは乙の指定する者又はこれら両者が独占的に実施しようとするときは、乙は別に共同出願契約又は共有知的財産権取扱契約で定める実施料を甲に支払い、又は乙の指定する者をして支払わせなければならない。共有知的財産権を乙又は乙の指定する者が非独占的に実施しようとするときは、第 20 条の協議の上、甲に対する実施料の支払いについて決定するものとする。
3 共有知的財産権を乙又は乙の指定する者以外の第三者に実施許諾した場合の実施料は、別途甲乙協議の上定める実施許諾に係る手数料を甲乙のうち実施許諾手続きをなした者 が受領し、その後の残金については当該共有知的財産権における甲及び乙の持分に応じて、
甲乙間で分配するものとする。
1.共同研究から得た知的財産権の実施に伴う実施料について規定している条項です。
第1項では、甲(大学)単独帰属の知的財産権について、共同研究相手方企業等若しくは相手方企業等の指定する者が実施するときは、独占・非独占の区別なく有償実施の取扱いとなります。
第2項では、甲乙共有知的財産権の実施に伴う実施料について規定しているものですが、第20条(乙による非独占での実施)のところで説明しましたように、
・独占実施の場合 ⇒ 実施料の支払いあり。
・非独占実施の場合 ⇒ 原則として実施料の支払いを求めるが、第三者へのライセンス可能性等も考慮する。
こととして実施料の取扱いを定めることにしています。
なお、独占実施の申し出がない場合であっても、相手方企業等が当該ライセンスにおける市場を独占している、あるいは基本特許又は周辺特許を押えているなど、大学が実質的に第三者ライセンスを行えない、いわゆる「事実上の独占」状態にある場合は、原
則として独占実施に準じて、実施料等の支払いをお願いしています。
2.第3項では、共有知的財産権を第三者へ実施許諾した際の、実施料の基本的な取扱いについて定めています。
すなわち、共有知的財産権を第三者に実施許諾した場合の実施料は、別途甲乙協議の上定めた実施許諾に係る手数料を甲乙のうち実施許諾手続きをなした者が受領し、その後の残金を甲乙の持分に応じて分配するものとされています。
ここでいう「実施許諾に係る手数料」とは、甲乙協議の上定めるものであり、甲乙の
うちライセンシーを開拓し、交渉をまとめた者が受領するものです。
(出願等費用)
第23条 甲及び乙は、共有知的財産権(外国における共有知的財産権を含む。)の出願等費用に関して、以下のとおり合意する。
一 第 17 条で定める優先交渉期間中、及び乙が共有知的財産権を独占的に実施しよう
とするときは、乙は出願等費用の一切を負担するものとする。
二 乙が共有知的財産権を非独占的に実施しようとするときは、第 20 条の協議の上、出願等費用の負担割合について決定するものとする。
1.共有知的財産権に係る出願及び権利保全等に要する費用負担割合について規定したものです。
共有知的財産権に係る費用は持分割合に応じて負担することが一般的であると考える企業の立場からすれば、非独占で実施をしようとする場合に別途協議の文言は、結論が先送りで、相互理解に至らず、その結果、共同出願時における交渉で多くの時間を費やすケースが生じる原因ともなりかねませんので、平成17年度以降の雛形では当該取扱いについて、本学のスタンスをある程度明確にしています。
2.本条第1号における独占実施に際しては、実施する共同研究相手方企業に出願等費用を全てご負担いただくこととしています。その理由は、企業が排他的な独占実施を行うために特許出願するにもかかわらず、本学が運営費交付金等を用いて当該費用につき持分負担することは、特定企業等に対するいわゆる便宜供与行為となり得、当該行為が国立大学法人の公共性に反する恐れがあり、社会に対する説明責任が果たせないからです。
3.本条第2号における非独占的実施に際しては、共同研究の成果としての共有知的財産権であっても自らが事業化しない大学の特性等に鑑み、原則として相手方企業等に出願等費用をご負担していただくことをお願いしていますが、一方「第20条の協議の上」とあるように、当該知的財産権の性格、分野及び市場等多角的視点からも併せて考慮し、当該費用等負担の有無について個別に協議決定することとしています。
(持分の譲渡)
第24条 甲又は乙は、共有知的財産権の自己の持分を甲乙協議の上同意した者に限り譲渡できるものとする。
特許法第73条第1項の規定に基づき、共有知的財産権の自己の持分を譲渡する場合には、他の共有者の同意を要する旨明記したものです。
(参考)
(共有に係る特許権)
特許法第73条 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なれば、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
(ノウハウの特定)
第25条 甲及び乙は、本共同研究の結果、ノウハウに該当するものが生じた場合は、協議の上、速やかに書面にて特定するものとする。
2 前項に従って特定されたノウハウは、相手方の書面による承諾なく第三者に開示、漏洩してはならない。ノウハウを秘匿すべき期間は、ノウハウを特定した日から表記契約項目表 12.の期間終了日までとする。ただし、ノウハウの特定に当たり、甲乙協議の上、表
記契約項目表 12.の期間とは異なる期間を定めることができるものとする。甲及び乙は、
ノウハウの特定後において必要があるときは、協議の上、秘匿すべき期間を延長し、又は短縮することができる。
ここでは、「ノウハウ」の意味について触れておきたいと思います。
ノウハウとは、「秘密性を有し、適当な形で特定・識別され、かつ財産的な価値を持つ一群の技術情報であって、特許及び著作物では包含されない知的財産(東京大学ノウハウ取扱規則)」を言います。
特許との違いを以下に示すと、
① ノウハウは、特許と異なり登録制度に基づくものではない。
② 特許出願の内容が出願日から1年6ヶ月経過後に一般に公開されるのに対し、ノウハウは秘密に保持することによりその価値を持続する。
③ ノウハウには、法定の存続期間がない。(特許は出願日から20年で存続期間終了)
④ 特許が排他性を有する無体財産権であるのに対し、ノウハウは排他性のない事実上の財産である。
ということが言えます。
ノウハウの有名な具体例として、コカ・コーラの製造方法が挙げられます。この製造方法は、当該企業のトップシークレットとして秘匿され、特許出願されていません。
なぜなら、これを特許出願すれば、特許は原則として全ての出願が出願公開により一般に公開され、また、同時に当該権利に存続期間が設定されてしまうことから、企業戦略としてあえてノウハウの取扱いとしたほうが有用と考えられるからです。
ある技術情報がノウハウにも特許出願の対象にもなり得る場合、企業からは、かかる技術情報を特許出願せずにノウハウとして保護し、長期にわたる(場合によっては期限の定めのない)秘匿義務を課したいという希望をされる場合もありますが、大学における公共的性格や研究成果の適正な還元の在り方に照らし、その扱いに留意する必要があります。
(プログラム等及びノウハウの取扱い)
第26条 本共同研究の結果生じたプログラム等及びノウハウの取扱いについては、第 14
条から第 24 条における発明等の取扱いに準じるものとし、第 18 条の研究成果の実施における基本的な考え方を踏まえ、甲乙協議の上、別途決定するものとする。
本学においては、平成16年度に「東京大学著作物等取扱規則」(東大規則第236号)及び「東京大学ノウハウ取扱規則」(東大規則第263号)が制定され、このことに伴い本学におけるこれら知的財産権の取扱いが明確になったことで、共同研究契約書にも当該取扱いについて明記できるようになりました。
なお、プログラム等及びノウハウは、原則機関帰属となる発明等と異なり、原則個人帰属となる点で発明と扱いを異にします。このため、必要に応じて、別途甲乙協議の上、扱いを決定するものとしています。
※上記規則については、「産学連携本部ホームページ→規則・様式→東京大学著作物等取扱規則」をご参照ください。
(秘密の保持)
第29条 甲及び乙は、本契約の各条項並びに本共同研究の実施に伴い相手方より提供又は開示を受けた情報であって、提供又は開示の際に相手方より秘密である旨の表示が明記され、又は口頭で開示されかつ開示に際し秘密である旨明示され開示後 30 日以内に書面で相手方に対して通知されたもの(以下併せて「秘密情報」という。)について、研究担当者等並びに自己に属する本共同研究の実施及び管理のために秘密情報を知る必要のある者(甲においては承認 TLO を含む。以下併せて「秘密情報受領者」という。)以外に開示・漏洩してはならない。また、甲及び乙は、秘密情報について、秘密情報受領者がその所属を離れた後も含め秘密として保持する義務を、当該秘密情報受領者に対し負わせるものとする。ただし、次のいずれかに該当することを証明できる情報については、この限りではない。
一 提供又は開示を受けた際、既に自己が保有していた情報二 提供又は開示を受けた際、既に公知となっている情報
三 提供又は開示を受けた後、自己の責めによらずに公知となった情報
四 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に取得した情報五 秘密情報によることなく独自に開発・取得した情報
六 書面により事前に相手方の同意を得た情報
2 甲及び乙は、秘密情報(前項ただし書に掲げるものを除く。)につき、裁判所又は行政機関から法令に基づき開示を命じられたときは、次の各号の措置を講じることを条件に、当該裁判所又は行政機関に対して当該情報を開示することができる。
一 開示する内容をあらかじめ相手方に通知すること二 適法に開示を命じられた部分に限り開示すること
三 開示に際して、当該情報が秘密である旨を文書により明らかにすること
四 開示に際して、法令等の定めに従い当該情報の秘密を保持する手続きを取ることができる場合は、相手方と協議の上当該手続きを取ること。
3 甲及び乙は、秘密情報(第 1 項ただし書に掲げるものを除く。)を本共同研究及び本契
約の目的以外に使用してはならない。ただし、書面により事前に相手方の同意を得た場合はこの限りではない。
4 前3項の規定は、本共同研究終了日後も、表記契約項目表 13.の期間有効に継続するも
のとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
1.秘密の保持に関しては、特に相手方企業等からその取扱いについて様々な要望が寄せられることが想定されます。これは、広く公共性を有し研究成果の公表を原則とする大学と、利潤追求を目的とし、営業上の秘密を競争の源泉とする企業等における基本的在り方の違いに起因します。
秘密保持に関して、本学では次の観点に留意しています。
① 大学と企業における、上述のような秘密保持に対する基本姿勢の違いを理解すること。
② 秘密保持に関する取扱いは、基本的に研究担当者等の同意に基づき条件等を協議することとなるが、大学の立場として、当該条件が、所属する研究担当者等の将来にわたっての自由な研究活動を阻害することにならないようにすること。
③ 不正競争防止法の適用により、共同研究の実施に際して得た相手方の営業秘密の漏洩等に対し、関係する教員や学生等が刑事罰の対象になるケースも想定されること。
2.第1項においては、承認 TLO が秘密情報を知る必要のある者に含まれる旨の追記がされていますが、これは承認 TLO である東京大学 TLO(CASTI)及び生産技術研究奨励会が本学と一体となって事業を行っていることに鑑み、秘密を知る必要のある者であることを明確にしたものです。企業等からの要望により、承認 TLO を具体的に株式会社東京大学 TLO 及び財団法人生産技術研究奨励会と明記することもできます。
なお、承認 TLO については、第28条において、甲(大学)が承認 TLO に対して、本契約における甲の義務を遵守させるものとする、との定めがあります。企業等によっては、秘密情報を知る必要のある者に承認 TLO を含めることを心配される場合もありますが、承認 TLO が本学と一体となった活動を行っていること、また、第28条で甲と同様の義務を遵守することが明記されていることにより、ご理解をお願い致します。
3.秘密保持に関しては、「民間機関等との契約に係わる情報管理・秘密保持規則」
(東大規則第239号)においてより具体的な定めがあるところです。この規則では、以下のような内容が明記されています。
・ 研究代表者に秘密情報の管理の最終責任があり、秘密保持義務の有効期間中秘密漏洩防止に必要な措置を講ずるとともに、秘密管理の徹底に努めなければならないこと(第
5条)
・ 秘密を開示した研究担当者、研究協力者(学生等を含む場合があります)、知的財産管理に携わる学内部署教職員に対して秘密保持を徹底するべきこと(第7条第2項)
・ 秘密情報は、施錠して保管庫等に保管しなければならず、コンピューター等の電子機器に保存されている情報についても、秘密漏洩及び相手方の秘密情報の侵害がないように管理の徹底に努めるべきこと(第6条)
・ 異動後又は退職後であっても、秘密保持義務の有効期間中は守秘義務があること(第
9条)
各部局におきましても、必要に応じて研究担当者への注意喚起をお願い致します。
規則条文の詳細については、「産学連携本部ホームページ→規則・様式→民間機関等との契約に係わる情報管理・秘密保持規則」をご参照ください。
(研究成果の公表)
第30条 大学の社会的使命を踏まえ、研究成果は、原則として公表するものとする。甲及び乙は、研究成果(研究期間が複数年度にわたる場合は当該年度に得られた研究成果)について、第 25 条のノウハウ秘匿義務及び第 29 条の秘密保持義務を遵守した上で、次項以下に定める手続きに従って開示、発表もしくは公開すること(以下「研究成果の公表」という。)ができるものとする。
2 前項の場合、研究成果の公表を希望する者(以下「公表希望当事者」という。)は、研究成果の公表を行おうとする日の 30 日前までにその公表内容を書面にて相手方に通知しなければならない。また、公表希望当事者は、相手方の事前の書面による了解を得た上で、公表される研究成果が本共同研究の結果得られたものであることを明示することができる。
3 前項に基づき通知を受けた相手方は、通知された公表内容に、自らの将来期待される利益を害するおそれがあるものが含まれると判断されるときは、当該通知受理後 15 日以内に公表内容の修正を書面にて公表希望当事者に通知するものとし、公表希望当事者は、相手方と十分な協議をしなくてはならない。公表希望当事者は、研究成果の公表により相手方から将来期待される利益を害するおそれがあるとして、本項に従い通知を受けた部分については、相手方の同意なく、公表してはならない。ただし、相手方は、正当な理由なく、かかる同意を拒んではならない。
4 本共同研究終了日の翌日から起算して 1 年間を経過した後は、公表希望当事者は、第
25 条のノウハウ秘匿義務及び第 29 条の秘密保持義務を遵守した上で、第 2 項に定める相手方に対する通知を行うことなく、研究成果の公表を行うことができるものとする。ただし、甲乙協議の上、この期間を延長し、又は短縮することができるものとする。
5 前項に定める期間が経過するまでであって、第 1 項から第 3 項までの手続きにより公
表されるまでの期間は、研究成果を秘密情報として取り扱うものとする。
1.国立大学法人における研究成果は、その責務として積極的かつ早期に普及、活用することが求められています。本条では、この基本姿勢を踏まえ、当該共同研究から創出された研究成果の公表のルールについて言及したものです。
本雛形に記載されている日数等につきましては、本学における一般的な期間を提示したものですが、相手方企業等と協議の上、当該期間若しくは条件を変更することは可能です。なお、その際には、双方の研究担当者間等の合意がなされていること、また取り決めに当たって、相互の信頼関係を損なわないことなどの配慮が求められます。
なお、特許等の出願の前に学会等あるいは論文等で成果を発表した場合は、発明の新規性を失う可能性があります。特許等の権利を取得する希望がある場合は、成果の公表に十分な留意が必要となります。
2.第4項の公開の通知義務は1年間課すこととしています。通知義務を1年と短くしたのは、なるべく成果の公表に関する研究者への事務的負担を軽減し、成果の公表を促し、成果の速やかな社会還元を行うためです。
一方、第29条の秘密保持義務と第25条のノウハウの秘匿の期間は、雛形上では3年としています。これは、第29条の説明においても述べたように、企業と大学では秘密保持に関する基本姿勢が異なりますので、両者のスタンスの違いに鑑み、秘密を保持することとしつつも、その期間に一応の期限を設定する時限制として3年という期間を設定したものです。
秘密保持義務及びノウハウの秘匿期間3年間と、公開の通知義務が課されている1年間との期間の差異についてですが、研究成果一般については、通知義務は1年のみとし成果を公表しやすくする一方、企業等の秘密情報が混在している研究成果については、企業等の意向を尊重して3年間秘密を保持するものとし、公開を希望する大学と秘密保持を希望する企業とのバランスをとったものです。通知義務が課される1年間が経過しても、続く2年間については、秘密保持義務とノウハウの秘匿義務を遵守するよう義務付けられておりますので、かかる事項については、むやみに公開が出来るわけではありません。
ただし、これらの通知期間、秘密保持期間、ノウハウ秘匿期間については、研究者に対する制約となるものであることから研究者の意向を重視して決定致しますので、共同研究相手先企業等から希望があり、かつ、研究者の了解が得られた場合は、産学連携本部では延長に同意する場合がほとんどです。
(契約の解除)
第31条 甲及び乙は、次の各号のいずれかに該当し、催告後 30 日以内にかかる事態が是正されない場合は、直ちに本契約を解除することができるものとする。
一 相手方が本契約の締結又は履行に関し、不正又は不当の行為をしたとき二 相手方が本契約に違反したとき
2 甲は、乙が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要せず、直ちに本契約を解除することができる。
一 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続の申立てをし、又は申立てを受けた場合
二 銀行取引停止処分を受け、又は支払い停止に陥った場合 三 仮差押命令を受け、又は公租公課の滞納処分を受けた場合
経済状況が厳しい昨今では、共同研究のパートナーである企業等が、不幸にも倒産等の不測事態に陥ることがあり得ますので、万が一の場合に備えて、破産等の手続きに入った場合を解除の条件として、平成23年度共同研究契約書雛形に追加しました。