非ウォーターフォール型開発 WG
非ウォーターフォール型開発 WG
平成22年度発表 活動報告書 (差替版)
第四部 非ウォーターフォール型開発にふさわしい契約【付録1~5】
付録1:基本契約/個別契約モデルの基本契約案
付録2:基本契約/個別契約モデルの個別契約(請負型)案 付録3:基本契約/個別契約モデルの個別契約(準委任型)案
付録4:基本契約/個別契約モデルで使用する「連絡協議会議事録(サンプル)」付録5:組合モデルの契約案
平成24年3月26日[令和2年3月31日修正]
独立行政法人 情報処理推進機構
技術本部 ソフトウェア・エンジニアリング・センター
付録1 非ウォーターフォール型開発における基本契約/個別契約モデルの基本契約案
本契約の前提条件:
契約当事者:対等に交渉力がありかつ技術力を有するユーザとベンダ開発モデル:アジャイルソフトウェア開発
対象システム:業務システム、パッケージソフトウェア等の開発プロセス:共通フレーム 2007(SLCP-JCF2007)の適用が可能
特徴:多段階契約、変更管理手続き、請負型1、準委任型
本契約が想定するケース:
本契約の想定するケースは、ユーザによってプロジェクト全体についての企画が終わっており、プロジェクトの全体概要及びその中で開発する機能について、ある程度イメージを持っていること、としている。
本契約は、基本契約と個別契約に分かれており、基本契約では、プロジェクトの概要、ユーザとベンダの協議の場である連絡協議会、合意事項に変更が生じたときの変更管理手続といった、プロジェクト全体に関わる事項を規定している。他方、個別契約では、具体的な作業内容を法的拘束力のある形で定めることとしている。そして、個別契約は、
請負型、準委任型のいずれにも対応できるものとしている。
本契約の構成概要:
(1) 本契約は、基本契約と個別契約(準委任契約/請負契約)を結ぶ構成であるが、このうち基本契約では、プロジェクト全体に関する共通事項を規定している。
(2) 基本契約ではプロジェクトの全体に関する内容が別紙に記載されるが、当該内容は法的拘束力を持たず、プロジェクトの過程で変更されることを予定している(第 2条、第 3 条第 3 項)。
(3) ユーザとベンダは連絡協議会を構成し(第 6 条)、開発対象とする機能の内容を検討・決定する。開発対象機能が決定すれば、順次個別契約(準委任契約/請負契約)が締結され(第 3 条第 1 項)、個別契約に従って、具体的な開発が進められる。
(4) 個別契約に基づく開発の進捗管理、リスク管理等についても、連絡協議会で協議が行われる(第 6 条)。
(5) ユーザとベンダは、連絡協議会で決定された事項には(契約内容に反しない限り)従わなければならないが、一旦合意した事項について、当事者の一方から変更要請が出た場合には、連絡協議会において、変更の協議がなされる(第 4 条)。なお、変更協議を行っても協議が調わないまま、一定期間を経過した場合は、両当事者は、変更協議の原因となっている個別契約を清算できる。
(6) その他、ベンダが開発を第三者に再委託するためには、ユーザの事前の承諾を得なければならない(第 8 条)。また、損害賠償については、個別契約において、その上限額、請求可能期間を定めることしている(第 13 条)。
1 なお、基本契約書及び請負型個別契約書には、印紙税が課せられる。
非ウォーターフォール型開発基本契約書
○○(以下「ユーザ」という。))と○○(以下「ベンダ」という。)は、別紙に定める○○システムの開発を目的とする全体プロジェクト(以下「全体プロジェクト」という。)に関して、○○○○年○月○日に、本非ウォーターフォール型開発基本契約(以下「基本契約」という。)を締結する。
本契約書では、別紙において、基本契約締結時点において可能な範囲で、全体プロジェクトの目的・ビジョン、及び具体的なシステム全体又は個別機能のイメージを記載することとしている。
別紙に記載された事項は、あくまで契約締結時点におけるユーザの希望を示すものであり、プロジェクトを開始するにあたって、ユーザ、ベンダの両当事者が、同じ目的を共有するための青写真を提供するものである。別紙記載の内容は、プロジェクトの進行に伴って変化することが想定されているため、後述のとおり、本契約においては、全体プロジェクトの内容として別紙に記載される内容は法的拘束力を持たないこととした。 なお、本基本契約でいう「全体プロジェクト」は、あるシステムのシステムライフサイクル全体を対象とするものではなく、特定のシステム開発を目的とするプロジェクトであることを明確にするため、「○○システムの開発を目的とする全体プロジェクト」と
規定することとしている。
第 1 条(目的)
基本契約は、全体プロジェクトの実現のためのユーザとベンダの権利・義務関係の基本部分を定めることを目的とする。
ユーザとベンダの目的は、全体プロジェクト実現にあること、本契約はそのための権利
義務の基本部分を定めるものであることを宣言している。
第 2 条(全体プロジェクト)
ユーザとベンダは全体プロジェクトを遂行するために相互に協力する。但し、全体プロジェクトの内容は、基本契約締結時点における計画であり、事後的に変更される可能性があることから、ユーザとベンダは、基本契約の締結によっても、全体プロジェクトの内容がユーザ又はベンダを法的に拘束するものではないことを確認する。
非ウォーターフォール型開発においては、ユーザとベンダの協力が重要であることから、ユーザからベンダへの一方的な発注関係ではなく、相互協力関係にあることを宣言している。
また、非ウォーターフォール型開発では、全体プロジェクトの遂行過程で、ユーザが望む機能が当初計画から大幅に変化する場合も想定されるが、基本契約締結当初の計画に
ベンダとユーザが拘束されたのでは、ユーザの希望に沿った柔軟な対応ができないこと
になる。そのため、本条では、基本契約の別紙に記載した全体プロジェクトの内容が、基本契約締結時点における契約に過ぎず、ユーザとベンダを法的に拘束するものではないことを確認している。これは、基本契約の別紙に記載された全体プロジェクトの内容が、あくまで契約締結時点におけるユーザの希望を示すものにすぎず、プロジェクトを
開始するにあたって、ユーザ、ベンダの両当事者が、同じ目的を共有するための青写真を提供するものでしかないことを確認する趣旨である。
第 3 条(個別契約)
1. ユーザとベンダは、両者の協議を通じて全体プロジェクトで開発を行う一定の機能群又は一定の期間ごとに、個別契約(以下「個別契約」という。)を締結する。各個別契約は、それぞれ基本契約と一体となって、各個別契約ごとに内容の異なる独立した契約(以下「本契約」という。)を構成する。なお、ある個別契約について、当該個別契約で定めた内容と、基本契約で定めた内容に矛盾がある場合には、個別契約で定めた内容が優先する。
2. 個別契約はユーザとベンダが個別契約書の各項目について合意し、同書に記名押印したときに成立する。
3. ユーザとベンダは全体プロジェクトで開発が予定される全ての機能について個別契約を締結する法的義務を負うものではない。
ユーザとベンダは協議(第 6 条に定める連絡協議会に限られるものではない。)を行い、ユーザが開発を望む一定の機能群のスコープが確定した時点、又はユーザがある一定期間ベンダに開発支援を委託することが確定した時点に個別契約を締結する。この個別契約は、基本契約と一体となって、各個別契約ごとに内容の異なる独立した契約を構成するものとしているが、これはすなわち、基本契約を X、個別契約を Y1、Y2、Y3 とすると、 X+Y1、X+Y2、X+Y3 の 3 つの独立した契約が成立するとの趣旨である。
また、第 2 項においては、基本契約と個別契約との間に矛盾がある場合には、個別契約で定めた事項が優先することを明記している。
なお、全体プロジェクトに法的拘束力がないことの帰結として、ユーザとベンダは、全体プロジェクトで開発を予定した機能について、個別契約を締結する義務を負うもので
はないことを、第 3 項で規定している。
第 4 条(変更管理)
1. ユーザとベンダは、非ウォーターフォール型開発においては、両当事者が一旦合意した事項(開発対象機能、開発期間、開発費用等を含むが、これらに限られない。)が、事後的に変更される場合があることに鑑み、一方当事者より個別契約の内容又は第 6条(連絡協議会の設置)に定める連絡協議会で合意した事項について、変更の協議の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。
2. 前項の変更協議は、連絡協議会において行う。
3. 変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更による代金・納期に対する影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。
4. 変更協議の結果、個別契約の内容を変更することが合意された場合には、ユーザとベンダは、変更内容が記載された変更版個別契約書に記名押印しなければ、当該変更は
有効とならない。
5. 変更協議を行っても協議が調わないまま、最初の変更協議から○日間(個別契約において期間を定めた場合は当該期間)が経過した場合は、ユーザ又はベンダは、書面によって相手方に通知することにより、当該変更協議の原因となった個別契約を将来に向かって解除することができる。この場合、当該解除までにベンダが負担した合理的費用についてはユーザが負担し、他方、ベンダは当該解除までの作業報告を行うとともに、当該個別契約に基づき開発された成果物(未完成品を含む。)をユーザに納品するものとする。なお、当該成果物に関する所有権並びに著作権、特許権及びその他の産業財産権(以下「知的財産権」という。)の帰属は、当該個別契約の定めに従う。
6. 前項による個別契約の解除は、基本契約及び他の個別契約の効力に影響するものではなく、また基本契約及び他の個別契約の解除原因となるものではない。
非ウォーターフォール型開発では、一旦合意した事項についても、状況の変化に応じて柔軟に変更できるようにする必要がある。そのため、ユーザ及びベンダは、合意事項について変更の要請があった場合には、速やかに協議を開き、変更の可否を協議することとしている。なお、連絡協議会で合意した事項を変更することが決定した場合は、議事録にその旨を記録しておけばよいが、個別契約で合意した内容を変更する場合には、両当事者の記名押印のある変更契約書を締結しなければ、変更は有効にならないものとしている。これは、個別契約の内容が、予算、期間、成果物等、非ウォーターフォール型開発であっても安易に変更されるべきではないと考えられるためである。
なお、変更協議を行っても協議が調わない場合には、一定期間経過後、両当事者は変更協議の原因となった個別契約だけを将来に向かって解除することができるものとしている。協議がまとまらないまま、プロジェクト全体がこう着状態となる事態を回避する
趣旨である。
第 5 条(協働と役割分担)
1. ユーザ及びベンダは、個別契約の履行においてはお互いに協力しなければならないこと、かかる義務は法的な義務であることを認める。
2. ユーザとベンダの作業分担は、各個別契約においてその詳細を定める。
3. ユーザ及びベンダは、各自の実施すべき分担作業を遅延し又は実施しない場合若しくは不完全な実施であった場合、それにより相手方に生じた損害の賠償も含め、かかる遅延又は不実施若しくは不完全な実施について相手方に対して責任を負う。
システム開発、特に非ウォーターフォール型開発においては、ユーザとベンダの密接なコミュニケーションと協働関係が必須となるため、個別契約の履行における相互協力義務を、法的義務とすることを規定している。そして、ユーザ、ベンダ双方とも、個別契約で定める自らの担当作業を怠った場合には、相手方に対して責任を負うこととしてい
る。
第 6 条(連絡協議会の設置)
1. ユーザ及びベンダは、全体プロジェクトが終了するまでの間、開発する機能の内容決定、全体プロジェクト及び機能開発の進捗状況、リスクの管理及び報告、ユーザ及び
ベンダ双方による作業の実施状況、問題点の協議及び解決、その他全体プロジェクトが円滑に遂行できるよう必要な事項を協議するため、連絡協議会を開催する。
2. 連絡協議会は、原則として、個別契約書で定める頻度で定期的に開催するものとし、それに加えて、ユーザ又はベンダのいずれかが必要と認める場合に随時開催する。
3. ユーザ及びベンダは、必要があれば連絡協議会を迅速に開催できるよう、体制を整えなければならない。
4. 連絡協議会には、ユーザ及びベンダ双方の責任者、主任担当者及び責任者が適当と認める者が出席する。また、ユーザ及びベンダは、連絡協議会における協議に必要となる者の出席を相手方に求めることができ、相手方は合理的な理由がある場合を除き、これに応じるものとする。
5. ベンダは、連絡協議会において、開発すべき機能の内容を決定し、全体プロジェクト 及び機能開発の進捗状況を確認するとともに、遅延事項の有無、遅延事項があるとき はその理由と対応策、推進体制の変更(人員の交代、増減、再委託先の変更など)の 要否、セキュリティ対策の履行状況、個別契約の変更を必要とする事由の有無、個別 契約の変更を必要とする事由があるときはその内容などの事項を必要に応じて協議し、決定された事項、継続検討とされた事項並びに継続検討事項がある場合は検討スケジ ュール及び検討を行う当事者等を確認するものとする。
6. ユーザ及びベンダは、全体プロジェクトの遂行に関し連絡協議会で決定された事項について、本契約に反しない限り、これに従わなければならない。
7. ベンダは、連絡協議会の議事内容及び結果について、議事録を作成し、これを書面又は電子メールによりユーザに提出する。ユーザは、これを受領した日から○日(個別契約において期間を定めた場合は当該期間)以内にその点検を行い、異議がなければ書面又は電子メールにより承認を行う。但し、当該期間内に書面又は電子メールにより具体的な理由を明示して異議を述べない場合には、ベンダが作成した議事録を承認したものとみなす。なお、仕様変更等の重要事項の決定がある場合を除いては、ベンダとユーザの合意により議事録を作成しないこともできる。
8. 前項の議事録は、少なくとも当該連絡協議会において決定された事項、継続検討とされた事項及び継続検討事項がある場合は、検討スケジュール及び検討を行う当事者の記載を含むものとする。
9. ユーザ及びベンダは、連絡協議会を開催していない場合であっても、相手方から全体プロジェクトに関する問い合わせを受けた場合には、速やかに応答するものとする。
連絡協議会においては、個別契約を締結する前の段階では、いかなる機能を開発するかを協議し、個別契約締結後は、機能完成に向けた進捗報告、リスク管理・報告等を行うものとしている。連絡協議会で合意した事項については、基本契約又は個別契約に違反しない限り、ユーザ及びベンダはこれに従わなければならない。そのため、合意の有無を証明する議事録が重要となるが、非ウォーターフォール型開発においては、連絡協議会は頻繁に開催されるため、毎回の議事録を書面で取り交わし、記名・押印をするのは煩雑である。そこで、第 7 項においては、ベンダによる議事録の提出とユーザの承認につき、いずれも電子メールでなしうるものとしている。また、ユーザの点検期間を規定
し、その期間内にユーザから異議がなければ、議事録は承認されたものとみなすこととして、議事録内容が承認されないままの状態で放置される事態に対処することとしてい
る。
第 7 条(ユーザがベンダに提供する資料等及びその返還)
1. ユーザは、ベンダに対し、本件業務に必要な資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の開示、貸与等を行うものとする。
2. ユーザが前項に基づきベンダに提供した資料等の内容に誤りがあった場合又はユーザが提供すべき資料等の提供を遅延した場合、これらの誤り又は遅延によって生じた費用の増大、完成時期の遅延、瑕疵などの結果について、ベンダは責任を負わない。
3. ベンダは、ユーザから提供を受けた資料等を善良なる管理者の注意義務をもって管理し、双方が合意した返還日又はユーザから請求があったときに、これらを返還する。
4. 資料等の提供及び返還にかかる費用は、ユーザが負担する。
システム開発においては、ユーザからベンダへの資料、機器、設備等の提供が必要となる場合があるが、本条項はその扱いについて定めたものである。
なお、本条項以下の規定内容は、ウォーターフォールモデルに関する経済産業省「モデ
ル取引・契約書」と共通しているため、そちらの解説も参照されたい。
第 8 条(再委託)
1. ベンダは、連絡協議会において事前にユーザの承諾を得た場合又はユーザが指定した再委託先に再委託する場合、各個別業務の一部を第三者に再委託することができるものとする。なお、ユーザが上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。
2. ユーザの承諾拒否により、ベンダが他の再委託先を選定することが必要になった場合は、作業期間若しくは納期又は委託料等の個別契約の内容の変更について、第 4 条(変更管理)によるものとする。
3. ベンダは当該再委託先との間で、再委託に係る業務を遂行させることについて、本契約に基づいてベンダがユーザに対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
4. ベンダは、再委託先による業務の遂行について、ユーザに帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。但し、ユーザの指定した再委託先による業務の遂行については、ベンダに故意又は重過失がある場合を除き、責任を負わない。
本条は、再委託に関する規定であるが、非ウォーターフォール型システム開発の取引実態に適合するものとして、ウォーターフォールモデルに関する経済産業省「モデル取
引・契約書<第一版>」第 7 条2の【A 案】を修正して採用している。
2 モデル取引・契約書第一版 59~60p。A 案:再委託先におけるユーザの事前承諾を設ける場合、 B 案:再委託先の選定について原則としてベンダの裁量(但し、ユーザの中止請求が可能)とする場合。
再委託の可否については、①再委託先の技術力についての保証がなく、また機密保持の観点からも原則禁止とし委託者の承諾を要するとすべき(原則禁止【A 案】)との考えと、
②再委託を原則禁止としてしまうことによって業務の遂行における柔軟性が失われ結局提供される技術の質も効率も損なわれてしまうので原則自由とすべき(原則自由【B案】)との考えの対立があり、モデル取引・契約書第一版においても、両論が併記されている。
本契約書が対象とする非ウォーターフォール型開発では、ユーザとベンダの信頼関係が極めて重要であるが、この観点からすると、そもそもベンダの技術力、プロジェクトマネジメント能力に対するユーザの強い信頼が開発の核であり、再委託を自由とすることは信頼関係を崩す結果につながりかねない。ベンダがユーザとの信頼関係を重視しつつ、再委託先とともにプロジェクトを遂行するためには、ベンダが再委託先の能力を慎重に検討した上で、ユーザによる評価・承認を得て、再委託を行うことすべきである。
第 9 条(秘密情報の取扱い)
1. ユーザ及びベンダは、全体プロジェクト遂行のため、相手方より提供を受けた技術上又は営業上その他業務上の情報のうち、相手方が書面又は電子メールにより秘密である旨指定して開示した情報、又は口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後○日以内に書面又は電子メールにより内容を特定した情報(以下あわせて「秘密情報」という。)を第三者に漏洩してはならない。但し、次の各号のいずれか一つに該当する情報についてはこの限りではない。また、ユーザ及びベンダは秘密情報のうち法令の定めに基づき開示すべき情報を、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示することができるものとする。
① 秘密保持義務を負うことなくすでに保有している情報
② 秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 相手方から提供を受けた情報によらず、独自に開発した情報
④ 本契約に違反することなく、かつ、受領の前後を問わず公知となった情報
2. 秘密情報の提供を受けた当事者は、当該秘密情報の管理に必要な措置を講ずるものとする。
3. ユーザ及びベンダは、秘密情報について、本契約の目的の範囲内でのみ使用し、本契約の目的の範囲を超える複製、改変が必要なときは、事前に相手方から書面による承諾を受けるものとする。
4. ユーザ及びベンダは、秘密情報を、本契約の目的のために知る必要のある各自(本契約に基づきベンダが再委託する場合の再委託先を含む。)の役員及び従業員に限り開示するものとし、本契約に基づきユーザ及びベンダが負担する秘密保持義務と同等の義務を、秘密情報の開示を受けた当該役員及び従業員に退職後も含め課すものとする。
5. 秘密情報の提供及び返還等については、第 7 条(ユーザがベンダに提供する資料等及びその返還)に準じる。
6. 秘密情報のうち、個人情報に該当する情報については、第 10 条(個人情報の取り扱い)
が本条の規定に優先して適用されるものとする。
7. 本条の規定は、本契約終了後、○年間存続する。
ソフトウェア開発においては、ユーザ、ベンダが互いに相手方の秘密情報に接することが想定されることから、本条では、それぞれの秘密保持義務を定める。
第 1 項では、秘密保持義務の対象となる情報を特定している。本項では、対象となる情報を明確にするため、相手方が書面又は電子メールにより秘密である旨指定して開示した情報であるか、または口頭により秘密である旨通知して開示した情報は、開示後○日以内に書面又は電子メールにより内容を特定することを必要としている。第 1 号から第 4 号は、秘密情報の例外規定である。
第 2 項は、秘密情報の提供を受けた当事者は、秘密情報の管理に必要な措置を講ずることとしている。秘密情報の秘密管理性及び非公知性を維持するためには、提供を受けた当事者に秘密情報を適正に保護する体制の構築を義務づけておく必要がある。秘密情報の管理については、物理的、技術的、人的、組織的管理措置を実効的に構築しなければならない。
第 3 項は、秘密情報の目的外使用を禁止し、複製、改変については相手方の承諾を要件としている。
第 4 項は、システム基本契約書及び個別契約に基づき乙が再委託する場合の再委託先も含め、秘密情報の開示を受けた役員、従業員、退職者へも秘密保持義務を負わせるよう求めている。開示を受けた者が退職してしまった場合に、第三者に秘密情報が出て行くことのないよう退職者についても秘密保持義務を課すことを義務づけている。秘密情報の開示を受ける担当者等に秘密保持の誓約書を義務づけるなど、より具体的な方策を定めておくことも考えられる。退職者に対して秘密保持義務を課す場合には、一般的に秘密保持契約を締結する必要がある。特に、現職の従業者等及び退職者と秘密保持契約を締結する際には、秘密保持義務が必要性や合理性の点で公序良俗違反(民法第 90 条)とならないよう、その立場の違いに配慮しながら、両者がコンセンサスを形成できるようにすることが重要である(「営業秘密管理指針」(平成 15 年 1 月 30 日、平成 22 年 4
月 9 日改訂、経済産業省)参照)。
本条で定める秘密情報と次条で定める個人情報は、公知情報でない個人情報について適用が重複する場合もありうるので、第 6 項でその優先関係について取り決めている。
第 7 項は、秘密保持義務は通常契約期間より長期の存続が必要であるため、本契約終了後一定期間(秘密情報の性質から鑑みて合理的な期間)、存続させるものとしている。
第 10 条(個人情報の取り扱い)
1. ベンダは、個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報のうち、全体プロジェクト遂行に際してユーザより取扱いを委託された個人データ(法第 2 条第 4 項に規定する個人データをいう。以下同じ。)及び全体プロジェクト遂行のため、ユーザ・ベンダ間で個人データと同等の安全管理措置(法第 20 条に規定する安全管理措置をいう。)を講ずることについて、別途合意した個人情報(以下あわせて「個人情報」という。)を第三者に漏洩してはならない。なお、ユ
ーザは、個人情報をベンダに提示する際にはその旨明示するものとする。また、ユーザは、ユーザの有する個人情報をベンダに提供する場合には、個人が特定できないよう加工した上で、ベンダに提供するよう努めるものとする。
2. ベンダは、個人情報の管理に必要な措置を講ずるものとする。
3. ベンダは、個人情報について、本契約の目的の範囲内でのみ使用し、本契約の目的の範囲を超える複製、改変が必要なときは、事前にユーザから書面又は電子メールによる承諾を受けるものとする。
4. 個人情報の提供及び返還等については、第 7 条(資料等の提供及び返還)を準用する。
5. 第 8 条(再委託)第 1 項の規定にかかわらず、ベンダはユーザより委託を受けた個人情報の取扱いを再委託してはならない。但し、当該再委託につき、ユーザの事前の承諾を受けた場合はこの限りではない。
個人情報保護法第 22 条に基づいて、委託者は委託先に対する監督の責任を負うことから、ソフトウェア開発委託契約においても、委託先の監督について取り決めておく必要がある(個人データの取扱いを委託する場合に契約に盛り込むことが望まれる事項については、「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン3」(以下、「個人情報ガイドライン」という。)等を参照)。
第 1 項は、ベンダに個人情報保護を義務づける。ユーザ保有の個人情報については、当該個人に対し責任を持っているユーザ自身がより安全な取扱いにつき配慮すべきである。例えば、テスト時に使用するデータをユーザ側がダミー化する等してベンダに渡す等の配慮を行う必要がある。
第 2 項は、ベンダに必要な安全管理措置を義務づける。
第 3 項は、ベンダに個人情報の目的外の使用を禁止し、複製、改変についてはユーザの承諾を要件としている。
第 4 項は、個人データの提供、返還・消去・廃棄に関する事項については、第 5 条(資料等の提供及び返還)を準用する。
第 5 項は、再委託がベンダの裁量で可能な場合にも、個人情報の取扱いの再委託についてはユーザの事前承諾を要するものとしている。個人情報ガイドラインに、再委託を行う際に委託者への文書による報告を契約上規定すべきとされている趣旨に対応する4。
3 個人データの取扱いを委託する場合に契約書への記載が望まれる事項について、「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」(平成 21 年 10 月、経済産業省)(以下、「個人情報ガイドライン」という。)において、委託者及び受託者の責任の明確化、個人データの安全管理に関する事項、再委託に関する事項、個人データの取扱状況に関する委託者への報告の内容及び頻度、契約内容が遵守されていることの確認、契約内容が遵守されなかった場合の措置、セキュリティ事件・事故が発生した場合の報告・連絡に関する事項が挙げられている。
4 委託者が受託者について「必要かつ適切な監督」を行っていない場合で、受託者が再委託した際に、再委託先が適切とはいえない取扱いを行ったことにより、何らかの問題が生じた場合は、元の委託者がその責めを負うことがあり得るので、再委託する場合は注意を要する。(「個人情報ガイドライン」参照)
個人情報をどのように取り扱うのかについては、ユーザの事業分野に関するガイドライン等を踏まえた上で、事前に具体的内容について十分協議して、委託者と受託者の責任分担を明確にしておく必要がある。
第 11 条(報告書の著作権)
1. ベンダがユーザに対して提出する報告書に関する著作権(著作権法第 27 条及び第 28条の権利を含む。)は、ユーザ又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダに帰属するものとする。
2. ユーザは、前項の報告書又はその複製物を、全体プロジェクトにおいて開発されたシステムを利用するために必要な範囲で、複製、翻案することができるものとする。
本条は、全体プロジェクト遂行にあたって共通して問題となりうる報告書に関する著作権の帰属について規定する。ユーザがビジネスモデルの秘密の保護やシステムのノウハウ優位性を維持するために、あらゆる著作権をユーザ帰属にするというケースが見受けられるが、本来、営業上の秘密は秘密保持条項で保護するべきものであり、著作権の帰属で保護するものではないという考え方によっている。成果物の著作権については個別
契約で定める。
第 12 条(知的財産権侵害の責任 )
1. 本契約に従いベンダがユーザに納品した納入物の利用によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第 13 条(損害賠償)第 2 項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。但し、知的財産権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、ベンダは一切責任を負わないものとする。
2. ユーザは、本契約に従いベンダがユーザに納品した納入物の利用に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。
本条では、ユーザによる納入物の利用が、第三者の著作権、特許権その他の知的財産権を侵害したときのベンダの責任について規定する。
第 1 項は、ユーザが主体となって紛争解決の対応をすることを前提としているが、ユーザが当該第三者との間で問題を解決するにあたって、不合理な損害賠償金額をベンダに転嫁するおそれもあることから、ベンダが負担する損害賠償額は、第 13 条 2 項で定める限度額を上限とすることとしている。
また、第 2 項は、ベンダがユーザと協力して侵害に対する防御を行えるよう、ユーザか
らベンダへの通知義務を課すものである。
第 13 条(損害賠償)
1. ユーザ及びベンダは、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、法令に基づく損害賠償を請求することができる。但し、個別契約に請求期間が定められている場合は、法令に基づく請求期間にかかわらず、個別契約に定める期間の経過後は請求を行うことができない。
2. 【A 案】 前項の損害賠償の累計総額は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった業務に係る個別契約書に定める損害賠償限度額を限度とする。
2. 【B 案】 前項の損害賠償の累計総額は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、全体プロジェクトに関連する各個別契約の契約金額(ベンダに対する対価報酬)を合計した金額を限度とする。
3. 前項は、損害が損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づくものである場合には適用しないものとする。
本条は、瑕疵担保責任、債務不履行責任、不法行為責任等に基づく損害賠償責任の制限について規定する。情報システム開発の特殊性を考慮して、損害賠償責任の範囲・金額・請求期間について、これらを制限する規定をおくべきかどうか、またその内容をどのようにすべきかについては、ユーザ・ベンダ間で対立するところであるが、本契約書では、具体的な損害賠償の上限額、損害の範囲・請求期間の制限については、個々の情報システムの特性等に応じて、個別に決定できるように記述している。
第 1 項では、損害賠償責任の成立を、帰責事由のある場合に限定している。本項は瑕疵担保責任としての損害賠償請求についても適用されるが、ソフトウェア開発に関連して生じる損害額は多額に上るおそれがあるので、無過失責任とすることはベンダに過重な負担を課するとの考え方による5。なお、損害の範囲について制限を設ける場合には、通常損害のみについて責任を負い、特別事情による損害、逸失利益についての損害や間接損害を負わないとする趣旨から、直接の結果として現実に被った通常の損害に限定して損害賠償を負う旨規定することが考えられる。
また、本項では損害賠償請求を行う場合一般について請求期間を個別契約で定めることができると定めている。当該期間をどのように設定するかは、個別具体的な事情を勘案して定められるべきである。
5 たとえば、EC サイトの開発でベンダ提案が原因で、システムが長期間に渡って停止を余儀なくされ、その停止期間に本来あるはずだった売上も損害賠償の対象となるなどが想定される。ベンダの無過失責任を認めると、ベンダはこうしたリスクを受託費用に載せざるを得なくなり、結果として、システム構築費用が極めて高額になるおそれがあること、非ウォーターフォール型開発の成果は、ユーザとベンダの協働関係、緊密なコミュニケーションによるもの、などがあげられる。
第 2 項は、損害賠償の累積総額の上限額を設定する規定で、請求原因の構成如何に関わらず上限が設定されている(なお、【A 案】は、上限金額を、帰責事由の原因となった業務に係る個別契約書に定める損害賠償限度額とする案、【B 案】は、上限金額を、全体プロジェクトに関連する各個別契約の契約金額の合計金額とする案である。)。なお、解除に伴う原状回復としての委託料の返還は、損害賠償とは異なることに注意が必要である。例えばベンダ側に重大な債務不履行があり、ユーザから契約を解除され、原状回復として委託料全額を返還したとしても、委託料の返還は損害賠償の支払いではないので、損害賠償の上限を決める累計総額には加算されないことになる。すなわち、委託料 250 万円が上限となる規定があり、委託料が支払い済みである場合でベンダの債務不履行で解除となったとき、ベンダは 250 万円の委託料の返還に加え、250 万円を上限とする損害賠償を請求される可能性が出てくることになる。
第 3 項は、第 2 項の免責は、損害賠償義務者に故意重過失ある場合には適用されないことを明記する場合の規定である。損害発生の原因が故意による場合には、判例では免責・責任制限に関する条項は無効となるものと考えられているし、重過失の場合にも同様に無効とするのが、支配的な考え方になっていることから設けられた規定である。
なお、遅延損害金について本契約書では定めをおいていない。商事法定利率である年 6
分を超える割合の遅延損害金を定める場合は、個別契約書に特約として記載されたい。
第 14 条(基本契約の終了)
基本契約は、全体プロジェクトの終了又はユーザとベンダの合意により終了するものとする。
本条では、基本契約が終了する場合について規定するものである。ユーザとベンダの合意による終了に加えて、両者が遂行していた全体プロジェクトが終了した場合(例えば、両当事者がプロジェクト終了の確認を行った場合など)についても終了事由としてい
る。
第 15 条(解除)
1. ユーザ又はベンダは、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
②支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2. ユーザ又はベンダは、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
3. ユーザ又はベンダは、第 1 項各号のいずれかに該当する場合又は前項に定める解除が
なされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければならない。
本条は、本契約の解除に関する条項である。本契約は、非ウォーターフォール型開発基本契約書と個別契約書から構成されるが、本条はその全部又は一部について解除する場合の要件を定めている。
第 1 項は、取引上の重大な事由について、無催告解除事由として規定する。
第 2 項は、個別の契約違反の催告解除について定める。
第 3 項は、期限の利益喪失に関する特約である。民法にも期限の利益の喪失事由(民法
第 137 条)が規定されているが、その他の信用不安事由等も加えたものである。事由の軽重により、当然に期限の利益を喪失する第 1 項所定の場合と、解除により期限の利益
を喪失する第 2 項の場合とに分けた。
第 16 条(権利義務譲渡の禁止)
ユーザ及びベンダは、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、又は本契約から生じる権利義務の全部若しくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ若しくは担保に供してはならない。
本条は、契約上の地位の移転、債権譲渡、担保化の禁止に関する規定である。
第 17 条(協議)
本契約に定めのない事項又は疑義が生じた事項については、信義誠実の原則に従いユーザ及びベンダが協議し、円満な解決を図る努力をするものとする。
本条は、一般の取引基本契約に定められているのと同様の協議解決条項である。
第 18 条(和解による紛争解決・合意管轄)
1. 本契約に関し、ユーザ及びベンダに紛争が生じた場合、ユーザ及びベンダは、次項の手続をとる前に、紛争解決のため第 6 条(連絡協議会の設置)に定める連絡協議会を開催し協議を充分に行うとともに、次項及び 3 項に定める措置をとらなければならない。
2. 前項所定の連絡協議会における協議でユーザ・ベンダ間の紛争を解決することができない場合、本条第 4 項に定める紛争解決手続をとろうとする当事者は、相手方に対し紛争解決のための権限を有する代表者又は代理権を有する役員その他の者との間の協議を申し入れ、相手方が当該通知を受領してから○日以内に(都市名)において、本条第 4 項に定める紛争解決手続以外の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」という。)などの利用も含め誠実に協議を行うことにより紛争解決を図るものとする。
3. 前項による協議又は ADR によって和解が成立する見込みがないことを理由に当該協議又は ADR が終了した場合、ユーザ及びベンダは、法的救済手段を講じることができる。
4. 本契約に関し、訴訟の必要が生じた場合には、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本条第 1 項、第 2 項は、本契約に関し、紛争が生じた場合、法的救済手段を講じる前段階として、当事者間でまず十分協議し、解決に尽力すべきことを規定している。
第 3 項は、当事者間による解決が不可能な場合、当事者は、法的救済手段(仲裁又は訴訟)による解決を求めることができることを規定している。
第 4 項は、裁判所に訴訟提起する場合を前提に、専属的な合意管轄(民事訴訟法第 11条)について規定する。なお、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えについては、東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所については東京地方裁判所の管轄、大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所については大阪地方裁判所の管轄とされる(民事訴訟法第 6 条第 1 項)が、合意管轄も認められている(民事訴訟法第 13
条第 2 項)ので、本条の適用範囲に含まれる。
ユーザ
○○株式会社
ベンダ
○○株式会社
別紙 (全体プロジェクト)
・全体プロジェクトの目的・ビジョン ・具体的なシステム全体又は個別機能のイメージ(図を含む) |
付録2 非ウォーターフォール型開発における基本契約/個別契約モデルの個別契約案
(請負型)
本契約の構成概要:
(1) 本契約は、請負型の個別契約である。
(2) 請負型は、連絡協議会での開発することが決定した一定の機能群(例えばリリース単位で一括りにした範囲)につき、ユーザがベンダにその開発を委託するものである。そのため、請負型の個別契約を行う場合は、委託対象となる機能群の概要が確定している必要がある(第 1 条、別紙の開発対象機能、具体的作業内容)。
(3) 請負型では、準委任型とは異なり、ベンダは当該機能群の完成義務を負い(第 2 条)、また瑕疵担保責任を負うことになる(第 6 条)。他方で、ユーザも自らの担当作業を遅滞なく行うとともに、ベンダの業務が円滑に行われるよう協力する義務を負っている(第 3 条)。
(4) 具体的作業内容、成果物、納期、対価、支払い等、個別契約ごとに変動する事項については、別紙で定めることとして、チェックを容易にしている(第 4 条)。
(5) 開発の過程で生じた知的財産権の帰属については、特許権は発明した側が取得することとしている(第 8 条)。他方、著作権に関しては、3 つの案を提示し、当事者が状況に応じて選択することとした(第 9 条)。
1. 個別契約の成立
○○(以下「ユーザ」という。)は、○○(以下「ベンダ」という。)に対し、別紙の具体的作業内容に記載された業務(但し、ユーザ担当業務を除く。)の提供を依頼し、ベンダはこれを引き受ける。なお、本個別契約は、平成○年○月○日付基本契約と一体となって、ひとつの契約を構成する。
第 1 条は、請負契約成立に関する規定である。個別契約は単独で機能するものではな
く、基本契約と一体となって、ひとつの契約を構成することを確認している。
2. ベンダの義務
ベンダは、別紙で定めた自らの担当作業を遅滞なく行い、別紙で定めた納期までに、同書で定めた成果物(以下「本件成果物」という。)を納入する義務を負う。
第 2 条は、ベンダの義務に関する規定である。請負型の場合、ベンダは成果物を完成さ
せ、納期までにユーザに納入する義務を負担する。
3. ユーザの義務
ユーザは、別紙で定めた担当作業を遅滞なく行うとともに、ベンダの業務が円滑に行われるよう協力する義務を負う。
第 3 条は、ユーザの義務に関する規定である。基本契約同様、ユーザもベンダに対し
て、自らの担当作業を遅滞なく行う義務、ベンダに協力する義務を負担していることを
確認している。これらユーザの義務は、法的義務である。
4. 成果物、納期、対価及び支払方法
成果物、納期、対価及び支払方法等の詳細は、別紙において定める。
第 4 条は、成果物、納期、対価等に関する規定である。この契約モデルでは、複数の個別契約が締結されることが予定されているが、個別契約の内容確認を容易にするため
に、成果物、納期、対価等、各個別契約に特有の事項は、別紙に記載することとし、契約書の本文については、個別契約ごとに変更を行わない構成としている。
5. 検収基準
1)ユーザは、納品された成果物につき、別紙において定める検査期間(以下「検査期間」という。)内に検査を行う。
2)ユーザは、本件成果物が検査に合格した場合、検収書に記名押印の上、ベンダに交付する。
3)ユーザは、本件成果物が検査に合格しなかった場合には、ベンダに対し不合格とする具体的な理由を明示した書面を速やかに交付し、修正又は追完を求めることができる。不合格理由が認められるときには、ベンダは、協議の上定めた期間内に無償で修正してユーザに納品し、ユーザは速やかに再度の検査を行う。
4)ユーザが検収書を交付しない場合であっても、検査期間内にユーザが書面で具体的な理由を明示して異議を述べない場合は、成果物は、検査期間満了日に検査に合格したものとみなす。
第 5 条は、ベンダが制作した成果物に関する検収の手続を定めるものである。 第 1 項は、成果物についてユーザが検査期間内に検査し、別途合意した内容(当該成果物の仕様等)と成果物の内容との合致を点検することを規定する。
第 2 項は、検査合格をもって当該成果物の検収完了とすることを明記する。
第 3 項は、成果物が合意した内容に適合しないことが判明した場合、ベンダはこれを修正して修正版をユーザに納入することを義務付けている。
第 4 項は、みなし検査合格に関する規定を定めることにより、ユーザの都合により検
収が引き延ばされることを防ぐものである。
6. 瑕疵担保責任
1)検収された成果物につき、ベンダとユーザで合意した仕様との不一致(バグを含む。以下本条において「瑕疵」という。)が発見された場合、ユーザは、ベンダに対して当該瑕疵の修正を請求することができ、ベンダは、速やかに当該瑕疵を修正する。但し、ベンダがかかる修正責任を負うのは、別紙記載の瑕疵担保期間内にユーザから請求された場合に限る。
2)前項にかかわらず、瑕疵が軽微であって、成果物の修正に過分の費用を要する場合、ベンダは前項所定の修正責任を負わない。
3)第1項の規定は、瑕疵がユーザの提供した資料等又はユーザの与えた指示によって生じたときは適用しない。但し、ベンダがその資料等又は指示が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りではない。
第 6 条は、成果物の瑕疵に関する規定である。
第 1 項では、ベンダとユーザで合意した仕様との不一致を「瑕疵」と定義している。 第 2 項では、瑕疵が軽微であっても、成果物の修正に過分の費用を要する場合に無償での修正をベンダに求めるのは酷であるので、民法第 634 条第 1 項但書に準じた規定を設けている。
第 3 項は、民法第 634 条第 1 項但書に準じ、瑕疵がユーザの指示や提供した資料等に起因する場合にはベンダは担保責任を負わないが、ベンダがかかる資料等又はユーザの指示が不適当であることを知って指摘しない場合には担保責任を免れないとする規定
である。
7. 成果物の所有権移転時期
ベンダが個別契約に従いユーザに納入する成果物の所有権は、検収完了時をもって、ベンダからユーザに移転する。
第 7 条は、成果物に対する物理的な所有権の移転時期を規定している。なお、知的財産
権については、別途次条で規定している。
8. 特許権の帰属
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下、あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。但し、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下、特許権その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を総称して「特許権等」という。)は、当該発明等を行った者が属する当事者に帰属する。なお、ユーザとベンダが共同で行った発明等に係る特許権等は、ユーザとベンダの共有とする。
2)ベンダは、第 1 項に基づき特許権等を保有することとなる場合、ユーザに対し、ユーザが本件成果物を本件システム(全体プロジェクトにおいて開発されるシステムをいう。)において利用するのに必要な範囲について、当該特許権等の通常実施権を許諾するものとする。
第 8 条は、特許権等の帰属に関する規定である。
第 1 項は、特許法の原則である発明者主義に従い、当事者のいずれか一方の発明者が単独で発明考案した場合には、特許権等は当該当事者に帰属するものとしている(なお、両当事者が共同で発明等を行った場合は、特許権等は共有になるものとしている。)。 第 2 項は、ベンダが特許権等を保有する場合においても、ユーザがシステムを使用するのに必要な範囲では、特許権等を使用する必要があるため、通常実施権を許諾するもの
としている。
9. 著作権の帰属【A 案 ベンダ帰属案】
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた成果物に係る著作権(著作権法第 27 条及び第
28 条の権利を含む。以下同じ。)は、ユーザ又は第三者が従前から保有していた著作権を除き、ベンダに帰属する。
2)ベンダは、成果物に係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び前項に従って自己に帰属する著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件成果物を本件システムにおいて利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しないものとする。
9. 著作権の帰属【B 案 ユーザ帰属案】
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた成果物に係る著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。 以下同じ。 )は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、成果物の検収完了時をもって、ベンダからユーザへ移転する。なお、かかるベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする
2)ベンダは、成果物に係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び前項に従って自己に留保される著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件成果物を本件システムにおいて利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しないものとする。
9. 著作権の帰属【C 案 共有案】
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた成果物に係る著作権(著作権法第 27 条及び第
28 条の権利を含む。以下同じ。)は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、成果物の検収完了時をもって、ユーザ及びベンダの共有(持分均等)とし、いずれの当事者も相手方への支払いの義務を負うことなく、第三者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。なお、ベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれているものとする。また、ベンダは、ユーザのかかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
2)ユーザ及びベンダは、前項の共有にかかる著作権の行使について法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとする。ただし、相手方の同意を得なければ、前項規定の著作権の共有持分を処分することはできないものとする。
3)ベンダは、成果物に係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び第1項に従って自己に留保される著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件成果物を本件システムにおいて利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しないものとする。
第 9 条は、成果物の著作権の権利帰属及び利用について規定する。作成された成果物の
権利をベンダとユーザ、いずれに帰属させるかは、当事者の合意次第であるが、本契約では、ウォーターフォール型のモデル取引・契約書第一版と同様6、社会的な生産効率の
6 モデル取引・契約書第一版 95~97p 参照。
向上の観点などから、汎用性のあるプログラムについてはベンダに帰属させるとともに、その余の著作権に関して【ベンダ帰属案(A 案)】、【ユーザ帰属案(B 案)】、【共有案(C案)】を用意している。
【A 案】では、ソフトウェアの再利用を促進するため、原則としてベンダに著作権を帰属させることとしている。ベンダに著作権を帰属させたとしても、秘密保持義務を課すことで、ユーザのノウハウ流出防止を図ることが可能である。
【B 案】では、ベンダが新たに作成した著作物の著作権についてユーザに譲渡することとし、原則としてユーザに権利を帰属させる。但し、ベンダが将来のソフトウェア開発に再利用できるように、同種のプログラムに共通に利用することが可能であるプログラムに関する権利は、ベンダに留保されるものとする。ベンダは、本契約の秘密保持義務に反しない限り、他のソフトウェア開発においても汎用プログラム等を利用することが可能となる。なお、著作権法第 27 条(翻訳権、翻案権等)及び第 28 条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利については、特掲されていなければ譲渡した者に留保したものと推定される(著作権法第 61 条第 2 項)ので、これらの権利も譲渡されることを明記している。著作権の移転については、著作権の価値に見合った対価が支払われる必要がある。開発に関する委託料とは別に対価を定める方法もあり得るが、 本契約書では開発に関する委託料に含める方法をとった。
【C 案】は、本件業務によって新たに生じた成果物に関する著作権について、汎用的な利用が可能なプログラムを除き、ユーザ・ベンダ間でプログラムの著作権を持分均等(2分の1ずつ)で共有する場合の規定である。本件業務遂行の過程で新たに生じた成果物についての規定であるため、ユーザ、ベンダ、第三者により従前から保有されている著作権については対象外となる。従って、B 案同様ベンダは、本契約の秘密保持義務に反しない限り、他のソフトウェア開発においても汎用プログラムを利用することが可能となる。
第 2 項では、共有著作権の行使は全員の合意が必要である(著作権法第 65 条第 2 項)ので、あらかじめこれに合意するものとしている。 第 2 項但書では、共有著作権については、その持分を譲渡又は質権の目的とするためには他の共有者の同意を得なければならない(著作権法第 65 条第 1 項)ので、これを確認している。
ベンダとユーザは、著作権の有効活用とユーザの競争力の保持を考慮した上で、上記のうち最も適切な規定を選択する必要がある。
非ウォーターフォール型開発 基本契約/個別契約モデルの個別契約(請負型)別紙
1. 開発対象機能 【ユーザが開発を委託する機能群のリストおよび、 各機能の具体的な内容を個別契約締結時点で決定している範囲で記載】 |
2. 作業体制 【ベンダおよびユーザの責任者とメンバそれぞれの役割、所属、氏名の記載とプロジェクトの実施場所、連絡協議会などの会議体を記載】 (1) ベンダの作業体制 ・ベンダ側プロジェクト責任者氏名: ○○ ○○ ベンダ側プロジェクト責任者は以下の責任を負う。 ① プロジェクト及び各イテレーションのビジョン、目標の把握と補強 ② プラクティスの保護 ③ プロジェクトの進捗管理、障害の排除 ④ 毎日の進捗ミーティングの主導とイテレーションレビューの主導 ・メンバ メンバは以下の責任を負う。 ・ イテレーションのバックログに従い作業を行う。 【※組織図/氏名/役割を記載】 (2) ユーザの作業体制 ・ユーザ側要求仕様全体の責任者氏名(プロダクトオーナー7): ○○ ○○プロダクトオーナーは以下の責任を負う。 ① バックログの作成と優先順位付け ② バックログから次回イテレーションの目標を選択し決定 ③ イテレーションの最後に利害関係者とシステムのレビューを実施 ・メンバ メンバは以下の責任を負う。 ・ イテレーションのバックログに従い作業を行う。 【※組織図/氏名/役割を記載】 (3) プロジェクト実施場所 【プロジェクトの作業等の実施場所を記載】 |
7 プロダクトオーナーはユーザに限られる。
(4) 連絡協議会他会議体 【連絡協議会の開催日、その他の会議の名称と目的、参加者等を記載】 (5) 作業体制の変更 異動等により、上記作業体制に変更が生じたる場合には、変更が生じたる側の責任者は、速やかに事前に変更内容を明記した書面を連絡協議会で提示し、相手方の了承を得た上、両当事者が当該書面に記名押印を行うるものとする(かかる手続をとった場合、当該書面は、基本契約書第 4 条 4 項記載の変更版個別契約書として扱われるものとする。)。 |
3. 具体的作業内容 【具体的作業内容は計画フェーズ、準備フェーズ、開発フェーズ、リリースフェーズ等のフェーズごとに共同担当作業、ベンダの担当作業、ユーザの担当作業として記述する。】 担当作業の記載例: ① 共同担当作業の例:要件定義作業、テスト ② ベンダの担当作業の例:開発対象機能の設計、開発対象機能の開発、進捗管理 ③ ユーザの担当作業の例:必要情報の提供、ベンダの求めに応じた意志決定、プロジェクト実施場所の設置及び管理、納品成果物の検査 (1) 計画フェーズ(ビジョンの確立、期待する事象の設定、予算の確保) 作業項目の例:ビジョン、予算案、初期の開発の作業リスト、見積、調査のための設計とプロトタイプの作成、品質保証 ① 共同担当作業: ② ベンダの担当作業: ③ ユーザの担当作業: (2) 準備フェーズ(要求の洗い出し、最初のイテレーションに必要な優先順位付け) 作業項目の例:計画の策定、調査のための設計とプロトタイプの作成、品質保証 ① 共同担当作業: ② ベンダの担当作業: ③ ユーザの担当作業: (3) 開発フェーズ(イテレーションを繰り返してリリース可能なシステムを実装する) 作業項目の例:イテレーションの計画ミーティング、イテレーションのバックログの定義と見積、毎日の進捗ミーティングの実施、イテレーションレビューの実施、品質保証 ① 共同担当作業: ② ベンダの担当作業: ③ ユーザの担当作業: (4) リリースフェーズ(運用環境への導入) 作業項目の例:品質保証、ドキュメントの作成、導入・運用等の教育 ① 共同担当作業: ② ベンダの担当作業: ③ ユーザの担当作業: |
4. 予定作業期間 ○年○月○日から○年○月○日 |
5. 成果物及び納期 成果物: 納期及び検査期間: (機能A) 要件定義書 ○年○月○日(検査期間:左記納期後○日間)仕様書 テスト報告書 開発プログラム一式 (機能B) 仕様書 ○年○月○日(検査期間:左記納期後○日間)開発プログラム一式 検査基準: 検査基準は、開発フェーズ完了までに連絡協議会にて定める |
6. 瑕疵担保期間 各成果物の検収完了日から起算して○日 (※成果物ごとに瑕疵担保期間) |
7. 受託費用の支払い 受託金額(税抜): ○○○,○○○,○○○,○○○円 支払期限: ○年○月○日(支払条件:開発対象機能の検収が完了したこと) 支払方法: 現金・銀行口座振込み 遅延損害金: ○% |
8. 損害賠償限度額 ○○○,○○○,○○○,○○○円 |
付録3 非ウォーターフォール型開発における基本契約/個別契約モデルの個別契約案
(準委任型)
本契約の構成概要:
(1) 本契約は、準委任型の個別契約である。
(2) 準委任型は、ユーザがベンダに対し、ベンダが有する情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識及びノウハウに基づく業務遂行を、一定の期間、委託するものである。
(3) 準委任型では、請負型とは異なり、ベンダは当該機能群の完成義務及び瑕疵担保責任を負わない(第 2 条)。もっとも、ベンダは業務遂行にあたり、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を負担し(第 2 条)、ベンダの行った業務が業界の一般的な水準を下回っていた場合には、ベンダは債務不履行責任を負うおそれがある。なお、ユーザは自らの担当作業を遅滞なく行う義務及びベンダへの協力義務を負う(第 3条)。
(4) 委託業務の内容、対価、支払い等、個別契約ごとに変動する事項については、別紙で定めることとして、チェックを容易にしている(第 4 条)。
(5) 委託業務の遂行過程で生じた知的財産権の帰属については、特許権は発明した側が取得することとしている(第 6 条)。他方、著作権に関しては、ユーザ帰属を基本としながらも、他に 2 つの別案を提示し、当事者が状況に応じて選択することとした
(第 7 条)。
1. 個別契約の成立
○○(以下「ユーザ」という。)は、○○(以下「ベンダ」という。)に対し、別紙の具体的作業内容に記載された業務(但し、ユーザ担当作業を除く。以下「本件業務」という。)の提供を依頼し、ベンダはこれを引き受ける。なお、本個別契約は、平成○年○月○日付基本契約と一体となって、ひとつの契約を構成する。
第 1 条は、準委任契約成立に関する規定である。個別契約は単独で機能するものではな
く、基本契約と一体となって、ひとつの契約を構成することを確認している。
2.ベンダの義務
ベンダは、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識及びノウハウに基づき、善良な管理者の注意をもって、本件業務を行う義務を負う。なお、別紙に記載された開発対象機能又は予定成果物については、ユーザが開発主体となるものであり、ベンダが完成義務を負うものではない。
第 2 条は、ベンダの義務に関する規定である。準委任契約においては、ベンダは情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識及びノウハウに基づき、善良な管理者の注意をもって、別紙で定めた自らの担当業務を行う義務(善管注意義務)を負うことを確認し
ている。
なお、別紙には、開発対象機能や予定成果物が記載されるが、これらの開発主体、作成主体はあくまでユーザであり、ベンダはユーザによる開発を支援するという立場にあること、請負と異なりベンダが成果物を完成させる義務を負うものではないことを明確に
している。
3.ユーザの義務
ユーザは、別紙で定めた担当業務を遅滞なく行うとともに、ベンダの業務が円滑に行われるよう協力する義務を負う。
第 3 条は、ユーザの義務に関する規定である。基本契約同様、ユーザもベンダに対して、自らの担当作業を遅滞なく行う義務、ベンダに協力する義務を負担していることを確認
している。これらユーザの義務は、法的義務である。
4.対価及び支払方法
対価及び支払方法等の詳細は、別紙において定める。
第 4 条は、成果物、納期、対価等に関する規定である。この契約モデルでは、複数の個別契約が締結されることが予定されているが、個別契約の内容確認を容易にするために、成果物、納期、対価等、各個別契約に特有の事項は、別紙に記載することとし、契
約書の本文については、個別契約ごとに変更を行わない構成としている。
5.業務終了の確認
1)ベンダは、別紙記載の期限までに、業務完了報告書を作成し、ユーザに提出する。
2)ユーザは、別紙記載の期間(以下「点検期間」という。)内に、前項の業務完了報告書の点検を行う。
3)ユーザは、第1項の業務報告書の内容に異議がない場合には、業務完了確認書に記名押印してベンダに交付することで、本件業務の終了を確認する。
4)ユーザが、業務完了確認書に記名押印をしない場合であっても、点検期間内に書面で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、点検期間の満了をもって本件業務の終了を確認したものとみなす。
第 5 条は業務終了の確認についての規定である。 本条では、準委任としてベンダが善管注意義務に基づき業務を適切に行ったかどうかの確認を行う手続を定める。
第 1 項は、ベンダはユーザに対し、業務終了後所定の期間内に業務完了報告書を提出することとする。
第 2 項は、点検期間を明確にした上で、ユーザが業務完了報告書の確認を行うことを定める。
第 4 項は、ユーザが業務完了確認を怠った場合のみなし確認を定める。
6.特許権の帰属
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下、
あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。但し、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下、特許権その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を総称して「特許権等」という。)は、当該発明等を行った者が属する当事者に帰属する。なお、ユーザとベンダが共同で行った発明等に係る特許権等は、ユーザとベンダの共有とする。
2)ベンダは、第 1 項に基づき特許権等を保有することとなる場合、ユーザに対し、ユーザが本件システム(全体プロジェクトにおいて開発されるシステムをいう。)を利用するために必要な範囲で、当該特許権等の通常実施権を許諾するものとする。
第 6 条は、特許権等の帰属に関する規定である。
第 1 項は、特許法の原則である発明者主義に従い、当事者のいずれか一方の発明者が単独で発明考案した場合には、特許権等は当該当事者に帰属するものとしている(なお、両当事者が共同で発明等を行った場合は、特許権等は共有になるものとしている。)。 第 2 項は、ベンダが特許権等を保有する場合においても、ユーザがシステムを使用するのに必要な範囲では、特許権等を使用する必要があるため、通常実施権を許諾するもの
としている。
7.著作権の帰属
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。 以下同じ。 )は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、本件業務の完了時をもって、ベンダからユーザへ移転する。なお、かかるベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする
2)ベンダは、本件システムに係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び前項に従って自己に留保された著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件システムを利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しないものとする。
7.著作権の帰属【別案 1 ベンダ帰属案】
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。以下同じ。)は、ユーザ又は第三者が作成した著作物に関するものを除き、ベンダに帰属する。
2)ベンダは、本件システムに係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び前項に従って自己に帰属した著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件システムを利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しない。
7.著作権の帰属【別案 2 共有案】
1)本件業務遂行の過程で新たに生じた著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。以下同じ。)は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、本件業務の完了時をもって、ユーザ及びベンダの共有(持分均等)とし、いずれの当事者も相手方への支払いの義務を負うことなく、第三者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。なお、ベンダからユーザへの著作権
移転の対価は、別紙で定める受託費用に含まれているものとする。また、ベンダは、ユーザのかかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
2)ユーザ及びベンダは、前項の共有にかかる著作権の行使について法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとする。ただし、相手方の同意を得なければ、前項規定の著作権の共有持分を処分することはできないものとする。
3)ベンダは、本件システムに係る著作権のうち自己が従前から保有していた著作権及び第1項に従って自己に留保される著作権について、ユーザに対し、ユーザが本件システムを利用するために必要な範囲で利用許諾し、これについて著作者人格権を行使しないものとする。
第 7 条は、本件業務遂行の過程で新たに生じた著作権の権利帰属及び利用について規定する。
準委任の場合には、ユーザが主体となって成果物を作成し、ベンダはユーザの支援を行う立場にあることから、ベンダが新たに作成した著作物の著作権については、ユーザに譲渡することとし、原則としてユーザに権利を帰属させるものとしている。但し、ベンダが将来のソフトウェア開発に再利用できるように、同種のプログラムに共通に利用することが可能であるプログラムに関する権利は、ベンダに留保されるものとしている。なお、著作権法第 27 条(翻訳権、翻案権等)及び第 28 条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利については、特掲されていなければ譲渡した者に留保したものと推定される(著作権法第 61 条第 2 項)ので、これらの権利も譲渡されることを明記している。著作権の移転については、著作権の価値に見合った対価が支払われる必要があり、開発に関する委託料とは別に対価を定める方法もあり得るが、本契約書では開発に関する委託料に含める方法をとった。
本契約書では、上記の条項を原則としているが、案件ごとの個別事情に対応するため、
【別案 1 ベンダ帰属案】として、ソフトウェアの再利用を促進する目的で、原則としてベンダに著作権を帰属させる案、【別案 2 共有案】として、本件業務によって新たに生じた著作権について、汎用的な利用が可能なプログラムを除き、ユーザ・ベンダ間でプログラムの著作権を持分均等(2分の1ずつ)で共有する案もそれぞれ用意した(各案の内容については、基本契約/個別契約モデルの個別契約(請負型)案の第 9 条の解
説を参照されたい。)。
非ウォーターフォール型開発 基本契約/個別契約モデルの個別契約(準委任型)別紙
1. 開発対象機能 【ユーザが開発を委託する機能群のリストおよび、 各機能の具体的な内容を個別契約締結時点で決定している範囲で記載】 |
2. 作業体制 【ベンダおよびユーザの責任者とメンバそれぞれの役割、所属、氏名の記載とプロジェクトの実施場所、連絡協議会などの会議体を記載】 (6) ベンダの作業体制 ・ベンダ側プロジェクト責任者氏名: ○○ ○○ ベンダ側プロジェクト責任者は以下の責任を負う。 ⑤ プロジェクト及び各イテレーションのビジョン、目標の把握と補強 ⑥ プラクティスの保護 ⑦ プロジェクトの進捗管理、障害の排除 ⑧ 毎日の進捗ミーティングの主導とイテレーションレビューの主導 ・メンバ メンバは以下の責任を負う。 ・ イテレーションのバックログに従い作業を行う。 【※組織図/氏名/役割を記載】 (7) ユーザの作業体制 ・ユーザ側要求仕様全体の責任者氏名(プロダクトオーナー8): ○○ ○○プロダクトオーナーは以下の責任を負う。 ④ バックログの作成と優先順位付け ⑤ バックログから次回イテレーションの目標を選択し決定 ⑥ イテレーションの最後に利害関係者とシステムのレビューを実施 ・メンバ メンバは以下の責任を負う。 ・ イテレーションのバックログに従い作業を行う。 【※組織図/氏名/役割を記載】 (8) プロジェクト実施場所 【プロジェクトの作業等の実施場所を記載】 |
8 プロダクトオーナーはユーザに限られる。
(9) 連絡協議会他会議体 【連絡協議会の開催日、その他の会議の名称と目的、参加者等を記載】 (10) 作業体制の変更 異動等により、上記作業体制に変更が生じたる場合には、変更が生じたる側の責任者は、速やかに事前に変更内容を明記した書面を連絡協議会で提示し、相手方の了承を得た上、両当事者が当該書面に記名押印を行うるものとする(かかる手続をとった場合、当該書面は、基本契約書第 4 条 4 項記載の変更版個別契約書として扱われるものとする。)。 |
3. 具体的作業内容 【具体的作業内容は計画フェーズ、準備フェーズ、開発フェーズ、リリースフェーズ等のフェーズごとに共同担当作業、ベンダの担当作業、ユーザの担当作業として記述する。】 担当作業の記載例: ④ 共同担当作業の例:要件定義作業、テスト ⑤ ベンダの担当作業の例:開発対象機能の設計、開発対象機能の開発、進捗管理 ⑥ ユーザの担当作業の例:必要情報の提供、ベンダの求めに応じた意志決定、プロジェクト実施場所の設置及び管理、納品成果物の検査 (5) 計画フェーズ(ビジョンの確立、期待する事象の設定、予算の確保) 作業項目の例:ビジョン、予算案、初期の開発の作業リスト、見積、調査のための設計とプロトタイプの作成、品質保証 ④ 共同担当作業: ⑤ ベンダの担当作業: ⑥ ユーザの担当作業: (6) 準備フェーズ(要求の洗い出し、最初のイテレーションに必要な優先順位付け) 作業項目の例:計画の策定、調査のための設計とプロトタイプの作成、品質保証 ④ 共同担当作業: ⑤ ベンダの担当作業: ⑥ ユーザの担当作業: (7) 開発フェーズ(イテレーションを繰り返してリリース可能なシステムを実装する) 作業項目の例:イテレーションの計画ミーティング、イテレーションのバックログの定義と見積、毎日の進捗ミーティングの実施、イテレーションレビューの実施、品質保証 ④ 共同担当作業: ⑤ ベンダの担当作業: ⑥ ユーザの担当作業: (8) リリースフェーズ(運用環境への導入) 作業項目の例:品質保証、ドキュメントの作成、導入・運用等の教育 ④ 共同担当作業: ⑤ ベンダの担当作業: ⑥ ユーザの担当作業: |
4. 作業期間 ○年○月○日から○年○月○日 |
5. 完成に向けて支援を行うユーザ成果物の一覧 予定するユーザの成果物: 予定納期: (機能A) 要件定義書 ○年○月○日仕様書 テスト報告書 開発プログラム一式 (機能B) 仕様書 ○年○月○日開発プログラム一式 |
6. 業務の完了 (1) ベンダからの業務完了報告書提出期限:○年○月○日 (2) ユーザによる点検期間:業務完了報告書提出日から○日間 |
7. 受託費用の支払い 受託金額(税抜): ○○○,○○○,○○○,○○○円 支払期限:○年○月○日(支払条件:ユーザによる業務完了の確認がなされたこと) 支払方法:現金・銀行口座振込み 遅延損害金: ○% |
8. 損害賠償限度額 ○○○,○○○,○○○,○○○円 |
付録4 基本契約/個別契約モデルの契約で使用する「連絡協議会議事録(サンプル)」
提出日:○○○○年○○月○○日
本紙を含む全○枚
第○回 ○○○○ プロジェクト連絡協議会議事録(記入例)
(委託者)株式会社○○商事 御中
(受託者)△△システム株式会社
○○事業部作成者 ○○○○ 印
非ウォーターフォール型開発基本契約書第 6 条 7 項に基づき、議事録を提出いたします。ご精査の上、ご承認をお願い申し上げます。
開催日時: ○○○○年○○月○○日 ○○時○○分~○○時○○分
開催場所: 株式会社○○○○○○○ 本社会議室出席者: 株式会社○○○○○○○
責任者○○、○○、○○
○○○○○株式会社
責任者○○、○○、○○
議事:(契約書第 6 条 8 項により、決定事項、継続検討事項がある場合は検討スケジュール及び検討当事者を記載の事。)
以上、議事の内容に相違ないことを確認し、本議事録を承認いたします。
(委託者)株式会社○○商事 責任者 ○○○○ 印
(受託者)△△システム株式会社 責任者 ○○○○ 印
付録5 非ウォーターフォール型開発における組合モデル契約案
本契約の前提条件:
契約当事者:対等に交渉力がありかつ技術力を有するユーザとベンダ開発モデル:アジャイルソフトウェア開発 スクラム
対象システム:業務システム、パッケージソフトウェア等の開発プロセス:共通フレーム 2007(SLCP-JCF2007)の適用が可能
特徴:組合型、変更管理手続き
本契約が想定するケース:
この契約で想定しているケースは、ユーザとベンダとの間に既に信頼関係があり、かつ、出資額を決めるため契約締結段階でプロジェクトの全体概要、概算予算が決定している必要がある。
本契約の想定するケースは、ユーザとベンダが、パッケージソフトやクラウドシステムを共同で企画、製作し、完成した成果物を運用して収益を得て、それを分配するような場合である(このようなケースであれば、特に規模は問わない。)。長期間の継続を予定しているため、ユーザとベンダとの間に既に高度な信頼関係があり、かつ、プロジェクトの全体概要、概算予算が決定している必要がある。
本契約は、ユーザとベンダが民法上の組合9を構成して、各自が出資(ユーザは金銭、ベンダは労務)を行い、組合活動から生じた成果物(知的財産権を除く)をユーザに帰属させることとしている。
プロジェクトの具体的内容については、契約書に記載するのではなく、ユーザとベンダの双方による連絡協議会で決定、遂行していくことを予定している。そのため、法的拘束力は弱まるが、迅速に開発を進める点ではメリットがある。
※ なお、本契約はあくまで試案であり、組合運営のための組織体制、資金の出資と分 配、解散時の処理など、まだまだ不十分な点があり、改善の余地が大きい。また、組合における税務上、会計上の問題も別途検討する必要があることに留意されたい。
9 民法組合は、2 人以上で設立、法人格を有しない、組合の債務は無限責任となる、組合契約で配当や損益分配が自由に定められる、収益についてはパススルー課税(組合に課税されるのではなく、分配された損益を各組合員の所得に合算して課税)という特徴を有する。民法 667 条~民法 688 条を参考にされたい。
(組合契約)民法 第 667 条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。 2 出資は、労務をその目的とすることができる。
(組合財産の共有)民法第 668 条 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。
本契約の構成概要:
(1) 本契約は、ユーザとベンダ(及び投資家)が、民法上の組合を構成して(第 1 条第 1 項)、成果物を企画・製作するプロジェクトを進めるためのものである。
(2) プロジェクトの全体に関する内容が別紙に記載されるが、当該内容は法的拘束力を持たず、プロジェクトの過程で変更されることを予定している(第 1 条第 4 項)。
(3) ユーザとベンダ(及び投資家)は、組合位に対して出資を行うが、ユーザと投資家は金銭を出資し、ベンダはプロジェクトマネジメント業務という労務を出資することとしている(第 4 条)。出資割合及び具体的な出資金額等については、第 4 条第 1項で定めることとされている。
(4) 成果物から得られた収益については、取り決めた出資割合に従って配分されることになる(第 7 条)。
(5) ユーザとベンダは連絡協議会を構成し(第 10 条)、開発対象とするシステムの内容を検討・決定する。連絡協議会においては、各当事者が選定した運営責任者の合意により決定がなされる(第 9 条、第 10 条第 5 項)。開発対象となるシステムの内容が決定すれば、組合はベンダに対し、開発作業を委託する(第 5 条第 1 項)。
(6) ベンダによる開発の進捗管理、リスク管理等についても、連絡協議会で協議が行われる(第 10 条)。
(7) ユーザとベンダは、連絡協議会で決定された事項には(契約内容に反しない限り)従わなければならないが、一旦合意した事項について、当事者の一方から変更要請が出た場合には、連絡協議会において、変更の協議がなされる(第 11 条第 1 項、第 2 項)。変更協議が調わない場合は、紛争解決協議を行うことになる(第 11 条第 4 項)。
(8) プロジェクトの終期は、第 2 条第 1 項において定めるが、組合員全員の合意があれば、延長されるものとしている(第 2 条第 2 項)。
組合契約書
○○(以下「ユーザ」という。)、○○(以下「ベンダ」という。)及び【投資家】(以下「投資家」という。)は、別紙に定める全体プロジェクト(以下「全体プロジェクト」という。)に関し、○○○○年○月○日に、本組合契約(本契約)を締結する。
本契約書では、ユーザとベンダの共同により、パッケージソフトやクラウドシステム(成果物)を企画・製作し、そこから得られる収益を分配するモデルを想定している。この契約モデルにおいては、実際にプロデューサーとしてプロジェクトを進めていくユーザ及びベンダ以外にも、成果物から得られる収益を目的としてリスクマネーを投じる投資家も参加できることとしている。
具体的なプロジェクトの内容については、別紙において、以下のような事項を記載することとしている。
・全体プロジェクトの目的・ビジョン
・プロジェクト予算計画
・予定スケジュール
・開発を予定しているシステムの機能
・プロジェクト遂行のための人員体制
・プロジェクト実施場所・設備
・システム開発後の運用計画及び収益予測
別紙に記載されたこれらの事項は、契約締結時点における想定を示すものであり、プロジェクトを開始するにあたって、契約当事者が、同じ認識を共有するための青写真を提供するものである。
第 1 条(企業体)
1. ユーザ、ベンダ及び投資家(以下、総称して「組合員」という。)は、民法上の組合である全体プロジェクト推進共同企業体(以下「本企業体」という。)を組成する。
2. 本企業体は、本契約に従って、全体プロジェクトを共同で遂行することに合意し、全体プロジェクトから生じる各組合員の利益を最大化し、これを第 4 条に定める出資比率に応じて適正に分配することを目的とする。
3. 本企業体の業務執行組合員は、ユーザ及びベンダとする。
4. 各組合員は、別紙に記載された全体プロジェクトの内容が確定的なものではなく、プロジェクト進行に伴って変更される場合があることについて同意する。
本契約書では、システム開発が、ユーザとベンダの共同事業であることを、そのまま法形式に反映させ、ユーザとベンダが双方出資をして共同の事業を営むための民法上の組合(民法第 667 条以下)10を組成して、プロジェクトを運営するものとしている。本条
第 1 項は、それを宣言するものである。
10 民法上の組合のほか、組合員の責任が限定される有限責任事業組合(LLP)というスキームも考えられるが、本契約ではベンダが労務出資を行うことを想定しているところ、有限責任事業組合では労務出資が認められないため、ここでは民法上の組合としている。
第 2 項は、組合の目的を定めるものである。全体プロジェクトによって得られる利益を最大化し、各組合員の出資割合に従って適正に分配することを目的として規定している。
第 3 項は、実際にプロジェクトを推進する役割を担うユーザ及びベンダを業務執行組合員とする規定である。組合契約では、組合員の業務の執行は、組合員の過半数で決するのが原則とされているが(民法第 670 条第 1 項)、業務執行組合員(民法第 670 条第 2項にいう「業務執行者」がこれにあたる)を定めた場合には、その者だけが業務執行権限を有し、それ以外の者(本契約では投資家)は業務執行権限を持たないことになる。そして、本契約のように、業務執行組合員が複数選任された場合には、その過半数で業務執行が決定されることになる。
本契約では、ユーザ及びベンダは実際にプロジェクト運営にプロデューサーとして携わる一方、投資家は出資だけを行うことを想定しているため、業務執行権限の点でこれらを区別し、ユーザ及びベンダを業務執行組合員としている。
第 4 項は、別紙に記載された全体プロジェクトの内容が、プロジェクトの進行に伴い、
変更されうるものであることを確認するものである。
第 2 条(プロジェクト期間)
1. 本契約及び本企業体の存続期間は、本契約締結日から○年○月○日までとする(以下
「プロジェクト期間」という。)。
2. 前項のプロジェクト期間は、本契約の組合員全員の合意により、延長されるものとする。
本条は、本契約及び組合の存続期間を定めるものである。民法第 678 条によれば、組合契約で組合の存続期間を定めなかったときは、各組合員はいつでも脱退できることとされているが、自由な脱退によりプロジェクトが継続不能となることを防ぐために存続期間を設けている。
第 2 項では、第 1 項で定めた存続期間を、当事者全員の合意をもって延長できるものと
している。
第 3 条(プロジェクト予算)
1. 全体プロジェクトの遂行の予算(以下「プロジェクト予算」という。)は、金○円とする。
2. 全体プロジェクトを遂行するために必要な資金が、前項に定める当初のプロジェクト予算を超過することが見込まれた場合には、超過分資金の負担につき、組合員全員による協議を行う。
本条は、全体プロジェクトの予算を定めるものである。プロジェクト予算が不足する事態が生じた際には、組合員全員により超過分資金負担について協議することとしている。
第 4 条(出資)
1. 各組合員の出資の割合は、それぞれ以下のとおりとする。なお、ユーザ及び投資家は、プロジェクト予算に相当する金銭を出資し、ベンダは、全体プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント業務(情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識及びノウハウに基づき、プロジェクトが円滑かつ適切に行われるよう、善良な管理者の注意をもって、プロジェクトにおける目標、時間、コスト、品質、組織、コミュニケーション、リスク、調達を管理し、最適化する業務)に必要な労務を出資する。
ユーザ: ○%(出資の対象: 金○万円)
ベンダ: ○%(出資の対象: プロジェクトマネジメント業務に必要な労務)投資家: ○%(出資の対象: 金○万円)
2. ユーザ及び投資家は、前項に規定した出資金額を、下記のスケジュールに従い、下記銀行口座(以下「本企業体口座」という。)に振り込む方法により支払うものとする
ユーザ: ①○年○月○日までに○万円
②○年○月○日までに○万円
【必要に応じて変更】投資家: ①○年○月○日まで
②○年○月○日までに○万円
【必要に応じて変更】本企業体口座
銀行名: ○○銀行○○支店口座種別: 普通預金口座
口座番号: ○○○
口座名義: 【業務執行組合員の肩書き付きの、ユーザ(またはベンダ)名義口座】
本条は、組合への出資について定めるものである。
第 1 項では、各組合員が行う出資の割合を定めるものである。出資の内容としては、ユーザ及び投資家は金銭、ベンダは善管注意義務を伴う労務(プロジェクト・マネジメント業務)を出資することとしている。出資割合を決するにあたっては、ベンダが出資する労務の価値を、プロジェクトの内容に合わせて評価することになる。
なお、民法第 674 条第によれば、組合の損益分配の割合(利益のみならず損失も含む。)は、特約なき限り、各組合員の出資割合に応じてなされることになる。必要があれば、特約を設けて、損益分配の割合を修正することができる。
第 2 項では、金銭を出資するユーザ及び投資家の、支払期限及び支払い方法を定めるものである。組合には法人格がないため、組合名義での口座開設は認められない。そのため、業務執行組合員の肩書きをつけたユーザ(またはベンダ)名義口座を開設することになろう(組合の業務執行組合員は、ユーザ及びベンダであるから、そのいずれかが口座名義人となるのが適当であるが、ベンダは組合から請負契約を受注して支払いを受け
る立場にあるため、口座についてはユーザを名義人とするのが望ましいと思われる。)。
第 5 条(システム開発作業の委託)
1. 全体プロジェクトの過程で必要となるシステム開発作業については、本企業体は、第 10 条に定める連絡協議会において開発対象と決定した機能群【(リリース単位)】ごとに、ベンダに対して当該作業を委託するものとする。
2. 対価を含めた前項の委託の内容については、連絡協議会で協議する。
本条は、全体プロジェクト遂行の過程で必要となるシステム開発作業については、本企業体とベンダが請負契約を締結する旨を規定する。ベンダには、成果物の運用段階で高い収益を得ることを目標として、限られた予算で高品質な成果物を作るインセンティブが生じることが期待されている(もっとも、開発を受注するベンダは、発注側となる組合の業務執行組合員でもあるため、利益相反、モラルハザードの危険もあることに留意する必要がある。)。
なお、ベンダとの間の委託契約については、基本契約/個別契約モデルの「非ウォーターフォール型開発契約個別契約書(請負型)」を修正して使用することができる。請負の対象とする開発対象機能の範囲は、連絡協議会で自由に決定しうるが、ここでは開発
モデルに応じて「リリース単位」としている。
第 6 条(権利の帰属)
1. 本企業体による全体プロジェクト遂行の過程において、本企業体の組合財産となった権利(所有権並びに特許権、著作権及びその他の知的財産権、その他一切の権利を含む。)は、組合員の共有とし、各組合員の持分は出資比率に応じるものとする。
2. 各組合員は、各自の持分につき、他の組合員全員による同意なく、譲渡、担保設定その他一切の処分を行ってはならない。
本条は、組合が取得した権利の帰属について定めるものである。民法第 668 条によれば、組合の財産は、組合員全員の共有に属するものとされているが、組合における「共有」は、通常の共有と異なり、各組合員による持分処分や分割請求が制限されるなど(民法第 676 条)、団体的拘束を受ける「合有」と解されている。
第 2 項は、各組合員の持分につき、他の組合員全員による同意がなければ処分できない
ものとしている。これは上述の民法第 676 条に基づく制限を確認したものである。
なお、本企業体がベンダに開発を委託する際の契約において、ベンダに帰属することとされた知的財産権は、組合財産とならないため、共有にはならない。
第 7 条(損益分配)
1. 全体プロジェクトにおいて生成された成果物(以下「プロジェクト成果物」という。)により本企業体が得た収入から、本企業体が認めた経費を控除した残額を、本企業体収入とする。
2. 本企業体口座の名義人となっている業務執行組合員は、本企業体収入を、暦年四半期毎に計算し、各四半期末日(毎年 3 月、6 月、9 月及び 12 月の末日)から○日以内に、各組合員に対し、出資比率に応じて分配する。
3. 全体プロジェクトにおいて生成された成果物の具体的運用については、連絡協議会において協議する。
本条は、組合からの損益分配について定める。本契約では、プロジェクトの過程で生成された成果物を運用して収益を得ることが想定されているが、本企業体が得た収益全体から、必要な経費を控除した残額が各組合員に対し分配されることになる(赤字の場合も同様。)。
なお、第 3 項では、具体的なプロジェクト成果物の運用については、連絡協議会で定め
ることとしている。
第 8 条(会計規則、会計帳簿)
1. 組合員は本企業体の会計規則を別途合意の上定め、本企業体の会計処理に適用するものとする。
2. ユーザ【(又はベンダ)】は、本企業体に関連する帳簿、会計記録、本企業体に関連する契約書などの文書の原本又は写しを、ユーザ【(又はベンダ)】の主たる営業所に保存し据え置くものとする。
3. ユーザ【(又はベンダ)】以外の各組合員は、前項の帳簿、会計記録、その他の書面・文書等を、閲覧、謄写その他監査する権利を有する。
本条は、組合に関する会計規則と会計帳簿その他の資料の保存及びその監査について規定するものである。組合の会計処理は、ユーザもしくはベンダのいずれかの業務執行組合員に委ねる事から、別途、組合会計規則を定めておき、その規則に基づき処理をする必要がある。
また、組合の業務執行組合員は、ユーザ及びベンダであるから、そのいずれかが会計帳簿類を保管するのが適当であるが、ベンダは組合から請負契約を受注して支払いを受ける立場にあるため、会計帳簿類についてはユーザが管理をするのが望ましいと思われる。
会計帳簿類については、投資家も含め、各組合員が内容を監査する権利を有する。
第 9 条(責任者の選定)
1. ユーザとベンダは、それぞれ本企業体の運営に関する責任者(以下「運営責任者」という。)を 1 名選定する。
2. ユーザとベンダは、前項により選定した運営責任者に事故があった場合に、当該運営責任者を代行する者を選定することができる。
本条は、ユーザ、ベンダのそれぞれの責任者の選定について定める。選定された運営責
任者は、連絡協議会において、各当事者を代表して組合の意思決定にかかわることになる。
第 10 条(連絡協議会の設置)
1. ユーザとベンダは、プロジェクト期間中、全体プロジェクトの内容決定及び変更、プロジェクト予算の使途に関する事項、開発する機能の内容決定、全体プロジェクト及び個別機能開発の進捗状況、リスクの管理及び報告、ユーザ及びベンダ双方による共同作業並びに各自の分担作業の実施状況、問題点の協議及び解決、プロジェクト成果物の運用に関する事項その他全体プロジェクトが円滑に遂行できるよう必要な事項並びに本企業体の運営に関する事項を協議するため、連絡協議会を開催する。
2. 連絡協議会は、原則として、別途定める頻度で定期的に開催するものとし、それに加えて、ユーザ又はベンダのいずれかが必要と認める場合に随時開催する。
3. ユーザ及びベンダは、必要があれば連絡協議会を迅速に開催できるよう、体制を整えなければならない。
4. 連絡協議会には、ユーザ及びベンダ双方の運営責任者、主任担当者及び運営責任者が適当と認める者が出席する。また、ユーザ及びベンダは、連絡協議会における協議に必要となる者の出席を相手方に求めることができ、相手方は合理的な理由がある場合を除き、これに応じるものとする。
5. 連絡協議会においては、ユーザとベンダ双方の運営責任者の合意をもって、協議内容を決定する。
6. ベンダは、連絡協議会において、全体プロジェクト及び個別機能開発の進捗状況を確認するとともに、遅延事項の有無、遅延事項があるときはその理由と対応策、推進体制の変更(人員の交代、増減、再委託先の変更など)の要否、セキュリティ対策の履行状況などの事項を必要に応じて協議し、決定された事項、継続検討とされた事項並びに継続検討事項がある場合は検討スケジュール及び検討を行う当事者等を確認するものとする。
7. 組合員は、全体プロジェクトの遂行に関し連絡協議会で決定された事項について、本契約に反しない限り、これに従わなければならない。
8. ベンダは、連絡協議会の議事内容及び結果について、議事録を作成し、これをユーザに提出する。ユーザは、これを受領した日から○日以内にその点検を行い、異議がなければ承認を行う。但し、当該期間内に書面又は電子メールにより具体的な理由を明示して異議を述べない場合には、ベンダが作成した議事録を承認したものとみなすものとする。
9. 前項の議事録は、少なくとも当該連絡協議会において決定された事項、継続検討とされた事項及び継続検討事項がある場合は、検討スケジュール及び検討を行う当事者の記載を含むものとする。
10. ユーザ及びベンダは、連絡協議会を開催していない場合であっても、他の組合員から全体プロジェクトに関する問い合わせを受けた場合には、速やかに応答するものとする。
本条に定める連絡協議会は、組合の意思決定機関である。連絡業議会においては、全体プロジェクトの内容決定及び変更、プロジェクト予算に関する事項から、開発する機能
の内容決定、全体プロジェクト及び個別機能開発の進捗状況、リスクの管理及び報告、ユーザ及びベンダ双方による共同作業並びに各自の分担作業の実施状況、問題点の協議
及び解決、プロジェクト成果物の運用に関する事項まで、プロジェクトに関する事項の決定・変更と進捗管理について、幅広く協議することとしている。また、組合の運営に関する事項についても協議の対象となっている。
連絡協議会における決定は、ユーザ、ベンダ双方の運営責任者が合意したときになされるものとして、運営責任者が各当事者を代表して意思表示を行うこととしている。
連絡協議会で合意した事項については、本契約に違反しない限り、ユーザ及びベンダはこれに従わなければならない。そのため、合意の有無を証明する議事録が重要となるが、非ウォーターフォール型開発においては、連絡協議会は頻繁に開催されるため、毎回の議事録を書面で取り交わし、記名・押印をするのは煩雑である。そこで、ユーザの点検期間を規定し、その期間内にユーザから異議がなければ、議事録は承認されたものとみなすこととした。
このようにみなし承認を原則とすると、議事録にかかる手間は減るが、記名押印がないために、紛争時には議事録の真正(偽造、変造がないこと)や、ベンダからユーザへの議事録提出の事実自体が問題となる恐れがある。そのため、ベンダは、議事録をユーザに提示したことを後日証明できるよう、議事録を送付した電子メールに対して受領の返信をもらう、書面で渡した場合は受領のサインをもらうといった工夫を行う必要があろ
う。
第 11 条(変更管理)
1. ユーザ及びベンダは、非ウォーターフォール型開発においては、一旦合意した内容の変更が必ず発生することに鑑み、一方当事者より連絡協議会で合意した事項について変更の協議の要請があったときは、速やかに協議(以下「変更協議」という。)に応じなければならない。
2. 変更協議は、連絡協議会において行う。
3. 変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更によるプロジェクト予算及びスケジュールに対する影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。
4. 変更協議を行っても協議が調わない場合、ユーザ又はベンダは、相手方に対し紛争解決のための権限を有する代表者又は代理権を有する役員その他の者との間の協議を申し入れ、相手方が当該通知を受領してから○日以内に(都市名)において、誠実に協議(紛争解決協議)を行うことにより紛争解決を図るものとする。
5. 前項の紛争解決協議を行っても協議が調わない場合は、ユーザ又はベンダは、本企業体を解散させることができる。
非ウォーターフォール型開発では、一旦合意した事項についても、状況の変化に応じて柔軟に変更できるようにする必要がある。そのため、ユーザ及びベンダは、合意事項について変更の要請があった場合には、速やかに協議を開き、変更の可否を協議することとしている。
変更協議を行っても協議が調わない場合には、紛争解決権限を有する役員等との間での紛争解決協議を行い、それでも解決ができない場合は、ユーザ又はベンダは、本企業対
を清算することができるものとしている。協議がまとまらない場合に、プロジェクト全
体がこう着状態となる事態を回避する趣旨である。
第 12 条(ユーザがベンダに提供する資料等及びその返還)
1. ユーザは、ベンダに対し、全体プロジェクトの遂行に必要な資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の開示、貸与等を行うものとする。
2. ユーザが前項に基づきベンダに提供した資料等の内容に誤りがあった場合又はユーザが提供すべき資料等の提供を遅延した場合、これらの誤り又は遅延によって生じた費用の増大、完成時期の遅延、瑕疵などの結果について、ベンダは責任を負わない。
3. ベンダは、ユーザから提供を受けた資料等を善良なる管理者の注意義務をもって管理し、双方が合意した返還日又はユーザから請求があったときに、これらを返還する。
4. 資料等の提供及び返還にかかる費用は、ユーザが負担する。
システム開発においては、ユーザからベンダへの資料、機器、設備等の提供が必要となる場合があるが、本条項はその扱いについて定めたものである。
なお、本条項以下の規定内容及び解説は、ウォーターフォールモデルに関する経済産業
省「モデル取引・契約書」をベースとしている。
第 13 条(秘密情報の取扱い)
1. 各組合員は、全体プロジェクト遂行のため、他の組合員(以下「情報提供者」という。)より提供を受けた技術上又は営業上その他業務上の情報のうち、情報提供者が書面により秘密である旨指定して開示した情報、又は口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後○日以内に書面により内容を特定した情報(以下あわせて「秘密情報」という。)を第三者に漏洩してはならない。但し、次の各号のいずれか一つに該当する情報についてはこの限りではない。また、各組合員は秘密情報のうち法令の定めに基づき開示すべき情報を、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示することができるものとする。
① 秘密保持義務を負うことなくすでに保有している情報
② 秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 情報提供者から提供を受けた情報によらず、独自に開発した情報
④ 本契約に違反することなく、かつ、受領の前後を問わず公知となった情報
2. 秘密情報の提供を受けた当事者は、当該秘密情報の管理に必要な措置を講ずるものとする。
3. 各組合員は、秘密情報について、本契約の目的の範囲内でのみ使用し、本契約の目的の範囲を超える複製、改変が必要なときは、事前に情報提供者から書面による承諾を受けるものとする。
4. 各組合員は、秘密情報を、本契約の目的のために知る必要のある各自の役員及び従業員に限り開示するものとし、本契約に基づき各組合員が負担する秘密保持義務と同等の義務を、秘密情報の開示を受けた当該役員及び従業員に退職後も含め課すものとする。
5. 秘密情報の提供及び返還等については、第 12 条(ユーザがベンダに提供する資料等及びその返還)に準じる。
6. 秘密情報のうち、個人情報に該当する情報については、第 14 条が本条の規定に優先
して適用されるものとする。
7. 本条の規定は、本契約終了後、○年間存続する。
本条は、各組合員の秘密保持義務を定める。
第 1 項では、秘密保持義務の対象となる情報を特定している。本項では、対象となる情報を明確にするため、相手方が書面により秘密である旨指定して開示した情報であるか、または口頭により秘密である旨通知して開示した情報は、開示後○日以内に書面により内容を特定することを必要としている。第 1 号から第 4 号は、秘密情報の例外規定である。
第 2 項は、秘密情報の提供を受けた当事者は、秘密情報の管理に必要な措置を講ずることとしている。秘密情報の秘密管理性及び非公知性を維持するためには、提供を受けた当事者に秘密情報を適正に保護する体制の構築を義務づけておく必要がある。秘密情報の管理については、物理的、技術的、人的、組織的管理措置を実効的に構築しなければならない。
第 3 項は、秘密情報の目的外使用を禁止し、複製、改変については相手方の承諾を要件としている。
第 4 項は、秘密情報の開示を受けた役員、従業員、退職者へも秘密保持義務を負わせるよう求めている。開示を受けた者が退職してしまった場合に、第三者に秘密情報が出て行くことのないよう退職者についても秘密保持義務を課すことを義務づけている。秘密情報の開示を受ける担当者等に秘密保持の誓約書を義務づけるなど、より具体的な方策を定めておくことも考えられる。退職者に対して秘密保持義務を課す場合には、一般的に秘密保持契約を締結する必要がある。特に、現職の従業者等及び退職者と秘密保持契約を締結する際には、秘密保持義務が必要性や合理性の点で公序良俗違反(民法第 90条)とならないよう、その立場の違いに配慮しながら、両者がコンセンサスを形成できるようにすることが重要である(「営業秘密管理指針」(平成 15 年 1 月 30 日、平成 22
年 4 月 9 日改訂、経済産業省)参照)。
本条で定める秘密情報と次条で定める個人情報は、公知情報でない個人情報について適用が重複する場合もありうるので、第 6 項でその優先関係について取り決めている。 第 7 項は、秘密保持義務は通常契約期間より長期の存続が必要であるため、本契約終了後一定期間(秘密情報の性質から鑑みて合理的な期間)、存続させるものとしている。
第 14 条(個人情報)
1. ベンダは、個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報のうち、全体プロジェクト遂行に際してユーザより取扱いを委託された個人データ(法第 2 条第 4 項に規定する個人データをいう。以下同じ。)及び本件プロジェクト遂行のため、ユーザ・ベンダ間で個人データと同等の安全管理措置(法第 20 条に規定する安全管理措置をいう。)を講ずることについて別途合意した個人情報
(以下あわせて「個人情報」という。)を第三者に漏洩してはならない。なお、ユーザは、個人情報をベンダに提示する際にはその旨明示するものとする。また、ユーザは、ユーザの有する個人情報をベンダに提供する場合には、個人が特定できないよう加工した上で、ベンダに提供するよう努めるものとする。
2. ベンダは、個人情報の管理に必要な措置を講ずるものとする。
3. ベンダは、個人情報について、本契約の目的の範囲内でのみ使用し、本契約の目的の範囲を超える複製、改変が必要なときは、事前にユーザから書面による承諾を受けるものとする。
4. 個人情報の提供及び返還等については、第 13 条(資料等の提供及び返還)を準用する。
本条は、ベンダの個人情報保護義務について規定するものである。プロジェクト遂行の過程で、ユーザからベンダに対して、個人情報が提供される場合がありうるが、個人情報は、秘密保持義務の対象となる秘密情報とは対象、契約で定めることが望まれる事項が異なるので、個人情報保護に関する条項を秘密保持とは別途規定してある。個人データの取扱いを委託する場合に契約に盛り込むことが望まれる事項については、「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン11」(以下、「個人情報ガイドライン」という。)等を参照。
第 1 項は、ベンダに個人情報保護を義務づける。ユーザ保有の個人情報については、当該個人に対し責任を持っているユーザ自身がより安全な取扱いにつき配慮すべきである。例えば、テスト時に使用するデータをユーザ側がダミー化する等してベンダに渡す等の配慮を行う必要がある。
第 2 項は、ベンダに必要な安全管理措置を義務づける。
第 3 項は、ベンダに個人情報の目的外の使用を禁止し、複製、改変についてはユーザの承諾を要件としている。
第 4 項は、個人データの提供、返還・消去・廃棄に関する事項については、第 5 条(資料等の提供及び返還)を準用する。
第 15 条(損害賠償)
1. 各組合員は、本契約の履行に関し、他の組合員の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、損害を与えた組合員に対して、法令に基づく損害賠償を請求することができる。
2. 前項の損害賠償の累計総額は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、損害賠償を請求する組合員が本企業体に対して出資した金額(労務出資の場合は、出資割合をもとに金額換算する)を限度とする。
11 個人データの取扱いを委託する場合に契約書への記載が望まれる事項について、「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」(平成 21 年 10 月、経済産業省)(以下、「個人情報ガイドライン」という。)において、委託者及び受託者の責任の明確化、個人データの安全管理に関する事項、再委託に関する事項、個人データの取扱状況に関する委託者への報告の内容及び頻度、契約内容が遵守されていることの確認、契約内容が遵守されなかった場合の措置、セキュリティ事件・事故が発生した場合の報告・連絡に関する事項が挙げられている。
3. 前項は、損害が損害賠償義務者の故意又は重大な過失に基づくものである場合には適用しないものとする。
本条は、瑕疵担保責任、債務不履行責任、不法行為責任等に基づく損害賠償責任の制限について規定する。
第 1 項では、損害賠償責任の成立を、帰責事由のある場合に限定している。本項は瑕疵担保責任としての損害賠償請求についても適用されるが、ソフトウェア開発に関連して生じる損害額は多額に上るおそれがあるので、無過失責任とすることはベンダに過重な負担を課するとの考え方による12。
第 2 項は、損害賠償の累積総額の上限額を設定する規定で、請求原因の構成如何に関わ
らず上限が設定されている。第 3 項は、第 2 項の免責は、損害賠償義務者に故意重過失ある場合には適用されないことを明記する場合の規定である。損害発生の原因が故意による場合には、判例では免責・責任制限に関する条項は無効となるものと考えられているし、重過失の場合にも同様に無効とするのが、支配的な考え方になっていることから設けられた規定である。
なお、遅延損害金について本契約書では定めをおいていない。商事法定利率である年 6
分を超える割合の遅延損害金を定める場合は、契約書に特約として記載されたい。
12 たとえば、EC サイトの開発でベンダ提案が原因で、システムが長期間に渡って停止を余儀なくされ、その停止期間に本来あるはずだった売上も損害賠償の対象となるなどが想定される。ベンダの無過失責任を認めると、ベンダはこうしたリスクを受託費用に載せざるを得なくなり、結果として、システム構築費用が極めて高額になるおそれがあること、非ウォーターフォール型開発の成果は、ユーザとベンダの協働関係、緊密なコミュニケーションによるもの、などがあげられる。
第 16 条(除名による脱退)
1. 組合員のうちいずれかが、次の各号の一に該当した場合には、該当者以外の組合員は、何らの催告なしに該当者を直ちに本企業体から脱退させることができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2. 各組合員は、組合員のうちいずれかが本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、債務不履行が是正されない場合にも、当該組合員を本企業体から脱退させることができる。
3. 本企業体は、本条第 1 項及び第 2 項に基づき本企業体から脱退した者に対して、持分の払い戻しは行わないものとする。
4. 本条第 1 項及び第 2 項に基づき、本企業体から脱退した者は、他の組合員に対して負担する一切の金銭債務につき当然に期限の利益を喪失し、相殺を主張することなく、直ちに弁済しなければならない。
5. 本条第 1 項及び第 2 項に基づき、本企業体から組合員が脱退した場合には、本契約に基づき当該脱退者に帰属していた全ての権利(著作権法第 27 条及び第 28 条の権利を含む。)は、その他の組合員に、脱退者の出資割合を控除して再計算した各自の出資割合に従って、当然に無償で移転するものとする。
本条は、問題のある組合員を脱退させることができる場合を規定したものである。民法上、特定の組合員の組合員たる資格を奪うことを「除名」と呼び、民法第 680 条によれば、組合員の除名は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができるとされている。しかし、この条文は特約で変更が可能な規定(任意規定)と解されており、本条はその特約を定めるものである。
第 1 項では、重大な過失又は背信行為や、支払い停止となった組合員については、何ら催告を行うことなく、一人の組合員の意思で、脱退させることができるものとしている。
第 2 項は、本契約に違反し、相当期間内に違反状態を是正するように求める通知(催告)を受け取っても、是正されない場合には、やはり他の(一人の)組合員の意思で脱退させることができるものとしている。
第 3 項は、前 2 項に基づき脱退させられた者に対しては、持分の払い戻しは行わないも
のと規定している。民法第 681 条によれば、脱退した組合員については、持分の払い戻しがなされるのが原則であるが、払い戻しによって組合が存続できなくなることを防ぐため、払い戻しは行わないこととしている。
第 4 項は、期限の利益喪失に関する特約であり、他の組合員保護のため、脱退した組合
員は、支払期限を待たずに直ちに債務を弁済しなければなわないものとしている。
第 5 項は、脱退した組合員の有していた権利は、他の組合員に対し、その出資割合に従って当然に移転するものとしている。
第 17 条(本契約の終了)
本契約は、組合員全員の合意により終了するものとする。
本条は、組合員全員が合意した場合に本契約が終了することを確認する規定である。
第 18 条(権利義務譲渡の禁止)
組合員は、他の組合員全員の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三 者に承継させ、又は本契約から生じる権利義務の全部若しくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ若しくは担保に供してはならない。
本条は、契約上の地位の移転、債権譲渡、担保化の禁止に関する規定である。
第 19 条(協議)
本契約に定めのない事項又は疑義が生じた事項については、信義誠実の原則に従い、各組合員が協議し、円満な解決を図る努力をするものとする。
本条は、一般の取引基本契約に定められているのと同様の協議解決条項である。
第 20 条(和解による紛争解決・合意管轄)
1. 本契約に関し、組合員間に紛争が生じた場合、紛争当事者となった組合員は、次項の手続をとる前に、紛争解決のため連絡協議会(ただし、投資家が紛争当事者である場合は、投資家も責任者を決定した上、連絡協議会に参加する。)を開催し協議を充分に行うとともに、次項及び 3 項に定める措置をとらなければならない。
2. 前項所定の協議会における協議で組合員間の紛争を解決することができない場合、本条第 4 項に定める紛争解決手続をとろうとする当事者は、相手方に対し紛争解決のための権限を有する代表者又は代理権を有する役員その他の者との間の協議を申し入れ、相手方が当該通知を受領してから○日以内に(都市名)において、本条第 4 項に定める紛争解決手続以外の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」という。)などの利用も含め誠実に協議を行うことにより紛争解決を図るものとする。
3. 前項による協議又は ADR によって和解が成立する見込みがないことを理由に当該協議又は ADR が終了した場合、紛争当事者となった組合員は、法的救済手段を講じることができる。
4. 本契約に関し、訴訟の必要が生じた場合には、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
本条第 1 項、第 2 項は、本契約に関し、紛争が生じた場合、法的救済手段を講じる前段階として、当事者間でまず十分協議し、解決に尽力すべきことを規定している。
第 3 項は、当事者間による解決が不可能な場合、当事者は、法的救済手段(仲裁又は訴訟)による解決を求めることができることを規定している。
第 4 項は、裁判所に訴訟提起する場合を前提に、専属的な合意管轄(民事訴訟法第 11条)について規定する。なお、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えについては、東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所については東京地方裁判所の管轄、大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所については大阪地方裁判所の管轄とされる(民事訴訟法第 6 条第 1 項)が、合意管轄も認められている(民事訴訟法第 13
条第 2 項)ので、本条の適用範囲に含まれる。
ユーザ
○○株式会社
ベンダ
○○株式会社
投資家
○○株式会社
別紙 (全体プロジェクト)
・全体プロジェクトの目的・ビジョン
・プロジェクト予算計画
・予定スケジュール
・開発を予定しているシステムの機能
・プロジェクト遂行のための人員体制
・プロジェクト実施場所・設備
・システム開発後の運用計画及び収益予測
・具体的なシステム全体又は個別機能のイメージ(図を含む)など