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「高速5号線シールドトンネル工事契約に係る第三者委員会」の調査報告書を踏まえた再発防止の具体的な取組みについて
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令和元年 11 月
はじめに
広島高速道路公社(以下「公社」という。)では、高速5号線シールドトンネル工事
(以下「本件工事」という。)の契約内容について、xx・xx・xx建設工事共同企業体(以下「JV」という。)との間に認識の違いが生じたことから、経緯や原因の調査を行うとともに、抜本的な再発防止に取り組む必要があるため、平成 30 年 11 月 20日に「高速5号線シールドトンネル工事契約に係る第三者委員会」(以下「第三者委員会」という。)を設置し、平成 31 年3月 16 日に第三者委員会から調査報告書を受領したところである。
特にこの中で、契約当時には公社とJVとの間で増額するとの合意がなかったとしても、公社はJVの増額への期待や認識を知りつつ、事実上の価格交渉が行われていたと判断されたことは、公社として最も深く反省すべき点であると認識している。
このような事態を二度と起こさないために、この調査報告書を踏まえ、公社では、再発防止への具体的な取組みを策定した。
今後、公社は、役職員xxとなってこの取組みを早急かつ完全に実施していくとともに、高速5号線に関係する地域住民の皆様をはじめとして、県民・市民の皆様の信頼回復に努める。
第1章 第三者委員会調査報告書における
認識の違いが生じた原因と再発防止策について
第三者委員会では、今回の契約において、公社と受注者であるJVとの間で、契約内容について認識の違いが生じた原因として以下の7項目を挙げ、それらについて、再発防止策が提言されている。
1 契約額の上限の設定が適切でなかったこと
本件工事の公告における契約額の上限は 200 億円としていたが、その額は、2年前に検討した仕様(スペック)と当時の見積額を基本として設定したため、JVの見積額との間に大きな乖離が生じた。
【再発防止策】
⮚ 他工事の施工状況の調査、施工経験のあるゼネコン各社からの情報収集
⮚ 設計コンサルタントからの意見聴取
2 適正に予定価格を積算しなかったこと
公社にシールドトンネルに関する工事の積算について十分な知見が蓄積されていなかったことや入札を希望する業者がJV1者であったため、各工種の価格について他業者との比較検討ができなかったことで、公社は適正な予定価格の算出ができなかった。
【再発防止策】
⮚ ゼネコン各社や設計コンサルタントからの情報収集
⮚ 工事費積算についての公社職員の知識・経験レベルの向上と支援体制の構築
3 標準案の策定がなかったこと
本件工事は技術的に高度・特殊な工事であったことから、民間企業の優れた技術を活用する「設計・施工一括発注方式」を採用した。そのため、公社は設計コンサルタントによる実施設計を踏まえた標準的な施工方法による積算を行わなかったことから、JVの見積書の妥当性について、十分な検証ができなかった。
【再発防止策】
⮚ 情報収集、工事費積算の知識・経験レベルの向上、技術的支援体制の構築
4 入札契約方式の理解が不足していたこと
本件工事において、公社は独自の方法として「設計・施工提案交渉方式」を採用したが、その解釈や運用が確立されておらず、双方が都合の良い解釈や、理解不足、誤解を生み、それが認識の違いに繋がった。
【再発防止策】
⮚ ガイドライン等で広く周知された入札方式の採用
⮚ 契約額の上限の事後公表
5 多数回の協議ないし打合せによる弊害があったこと
6 入札手続きにおいて不適切な対応があったこと
当時の公社は、入札を希望する業者がJV1者であったことから、JVが入札を断念することによって本件工事が施工できなくなることを危惧しており、JVと多数回の協議ないし打ち合せを重ねたことで、事実上の価格交渉や増額協議を行うようになり、それが工事費用について認識の違いを生む一因となったと考えられるほか、見積書の差し替えが行われたことなど、公社とJVには入札手続きにおいて不適切な対応があった。
【再発防止策】
⮚ 公告で定められた交渉時期・回数や提出期限等の遵守
⮚ 文書による明確な応答
⮚ 必要に応じた交渉経過の記録化
7 時間的制約があったこと
公社が積算した予定価格が契約額の上限(200 億円)を上回れば、入札契約手続きは中止されることとなっていたことから、公社は契約額の上限を再設定した上で入札契約手続きをやり直した場合、事業の完成が大幅に遅れることが不可避であり、そのような背景から、公社は契約額の上限を所与の上限として、入札手続きを進めざるを得なかったと考えられる。
【再発防止策】
⮚ 事業全体の適切な進捗管理
⮚ 完成時期を見据えた余裕のあるスケジュール管理
第2章 第三者委員会の調査報告書を踏まえた課題整理
公社は、本件工事の契約に関して、第三者委員会の調査報告書にある「JVとの認識の違いが生じた原因」を踏まえ、「入札契約手続き」、「公社全体の技術力」、「透明性とxx性」の3つの観点から、解決のための課題を整理した。
(第2章内の『 』は、「調査報告書 第4 認識の違いが生じた原因」の事項である。)
1 入札契約手続き (1)入札契約方式
○本件工事の発注に際し、5つの方式※1 を組み合わせた入札契約方式を採用した
が、そのうち設計・施工提案交渉方式については、公社独自の方式であり、入札契約手続きの過程において価格の設定に関する第三者の確認手続きはなく、『契約額の上限の設定が適切でなかったこと』、『適正に予定価格を積算しなかったこと』、『標準案の策定がなかったこと』の事態が見過ごされた。
○また、この方式について業者への十分な周知がなく、その解釈、運用が確立されていなかった結果、公社とJV双方に『入札契約方式の理解が不足していたこと』があり、公告に定められた範囲を超える『多数回の協議ないし打ち合わせによる弊害』として、事実上の価格交渉や増額協議を行うようになった。
〇なお、公社が採用した入札契約方式は、契約額の上限の設定・公表や契約形態などの点において、「国土交通省直轄工事における技術提案・交渉方式の運用ガイドライン(平成 27 年6月)」に示されているものとはxx的に異なっており、同ガイドラインでは技術提案に加えて価格交渉についても学識経験者の意見を聴取するほか、参考額※2 を明示し、優先交渉権者を選定し、価格交渉・設計数量等
の確認を行った後に、随意契約を行うこととされている。
※1 5つの方式
設計・施工提案交渉方式、枠組み協定型一括入札方式、総合評価落札方式、設計・施工一括発注方式、総価契約単価合意方式
※2 参考額 単なる目安であり、その範囲内での契約を要しない。
【課題】
⮚ 運用の適正化を図るため、学識経験者等の外部の意見を聴取することや、広く周知され、その運用が整備されている入札契約方式を選択する必要がある。
⮚ 公社での適用実績がない入札契約方式の実施にあたっては、事前にその運用や
解釈の周知徹底を図る必要がある。
(2)契約額の上限の公表
○本件工事では、公告で契約額の上限を超過する見積書の提出は妨げないと明示していたものの、結果として入札参加資格者は1者のみであった。
【課題】
⮚ 複数の入札参加資格者が現れ、適正な競争性が促されるよう、本件工事で実施した契約額の上限の事前公表は見直す必要がある。
○本件工事のような場合は、契約額を事後公表としたとすると、他の入札参加資格者が現れた可能性がある。
(3)入札契約手続き
【課題】
⮚ 公告に定められた事項を遵守し、業者との協議記録の作成を徹底する必要がある。
⮚ 入札契約手続きのxx性とxx性を確保するために、協議の担当部署とは異
なる職員の確認が必要である。
○公告で定められた設計・施工提案交渉方式の交渉時期・回数とは異なる協議が行われ、公社は交渉経過の記録を作成しておらず、また双方が異なる解釈ができる曖昧な文章の質問と回答も取り交わされた。
2 公社全体の技術力 (1)価格の設定・積算
○公告における契約額の上限はその他の発注工事とは異なり、公告の2年前の時
点で積算した金額を基に設定し、JVの見積額と大きな乖離が生じた。
【課題】
⮚ 高度・特殊な工事においても、最新の情報収集により工事費積算に関する知見を高め、適正な価格を設定する必要がある。
○本件工事は公社において施工実績のない大断面のシールド工法を用いて、施工条件も高水圧下で高強度の岩盤掘削を行う高度・特殊な工事であり、シールドトンネルに関する工事の積算について十分な知見が蓄積されていなかった。
(2)標準案の策定
【課題】
⮚ 工事の入札契約方式の如何に関わらず価格の妥当性について検討するため、標準案の策定と適正な工事費積算が必要である。
○本件工事は、設計・施工一括発注方式を採用したことから『標準案の策定がなかったこと』や入札参加資格者が結果として1者のみであったことにより、各工種の価格について比較検討が行えず、結果として適正な予定価格の積算ができなかった。
3 透明性とxx性 (1)事業全体
〇当時の公社は、本件事業の完成時期について既に対外的に公表し、完成時期に向
けたタイトなスケジュールの中で、予定通りに本件工事の契約を締結し、完成させるよう考えていた。
【課題】
⮚ 最新の情報により策定した発注計画を踏まえ、関係者間で情報の共有を図り、公社事業を適切に執行する必要がある。
〇このような『時間的制約があったこと』や『入札契約方式の理解が不足していたこと』が、『契約額の上限の設定が適切でなかったこと』、『適正に予定価格を積算しなかったこと』、『入札契約手続きにおいて不適切な対応があったこと』という対応となり、認識の違いに繋がった。
(2)入札及び契約
【課題】
⮚ 地方公共団体による入札及び契約の過程や契約の内容の透明性を確保する取組みを踏まえ、公社においても第三者による監視を受ける必要がある。
○県、市をはじめ地方公共団体では、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12 年法律第127 号)の趣旨を踏まえ、発注する建設工事に関し、入札及び契約に係る手続きの適正な執行を図るため、地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 138 条の4第3項の規定に基づき入札監視委員会を設置しているが、公社には設置義務はなく、このような入札及び契約についての審査を行う学識経験者等の第三者による監視を受けていない。
第3章 再発防止の具体的な取組み
第2章で整理した課題に対して、「入札契約手続きの厳格化」、「公社全体の技術力の向上」、「外部による透明性とxx性の確保」の3項目を再発防止の柱とし、次の取組みを実施する。
(第3章内の『 』は、「調査報告書 第5 再発防止策」の事項である。)
1 入札契約手続きの厳格化
(1)『入札契約方式の選択』(調査報告書 再発防止策5)
【今後の取組み】
⮚ 本件工事のような事案については、「国土交通省直轄工事における技術提案・交渉方式の運用ガイドライン(平成 27 年6月)」による技術提案・交渉方式を選択する。
<実施時期:事案発生時>
⮚ 公社で適用実績がない入札契約方式を実施する場合については周知徹底を図るため、関係部署に対して、整備された運用ガイドラインを基に解釈や運用の研修を開催する。
<実施時期:事案発生時>
今後、入札契約方式を適用する場合には、公社独自の方式ではなく、学識経験者等の外部の意見を聴取することや、広く周知され、解釈・運用が整備されている制度を選択する。
(2)『契約額の上限を事後公表とすることの検討』(調査報告書 再発防止策4)
【今後の取組み】
⮚ 技術提案・交渉方式を採用する場合には、「国土交通省直轄工事における技術提案・交渉方式の運用ガイドライン(平成 27 年6月)」に基づき、参考額を明示する。
<実施時期:事案発生時>
従前より原則として建設工事は一般競争入札とし、予定価格は事後公表としており、引き続き適正な競争性を保つよう取り組み、技術提案・交渉方式を採用し事前に金額の通知が必要な場合には、契約額の上限でなく参考額を明示する。
(3)『入札契約手続きの改善』(調査報告書 再発防止策6)
技術提案・交渉方式の適用により業者と協議を行う場合には、定められた交渉時期・回数を遵守し、入札契約手続きで求める資料の提出期限等を徹底する。
【今後の取組み】
⮚ 業者との協議の内容について、相手方と十分に確認するとともに、記録を作成する規程を整備する。
<実施時期:実施済み(規程の整備)>
⮚ 協議や質問書に対する回答を行う場合には、担当部署とは異なる職員による手続きのクロスチェックを行う規程を整備する。
<実施時期:実施済み(規程の整備)>
2 公社全体の技術力の向上
(1)『適切な契約額の上限の設定』・『適正な予定価格の積算』
(調査報告書 再発防止策1・2)
契約額の上限の適切な設定や予定価格の適正な積算を徹底する。
【今後の取組み】
⮚ 高度・特殊な工事においては、公社の施工実績を踏まえ、必要に応じてコンサルタント等を活用するほか、施工実績のある他機関や学識経験者の意見聴取により、同種工事の最新情報を収集し、工事費積算について公社職員の知識・経験レベルの向上を図り適正な価格を設定する。
<実施時期:事案発生時>
(2)『発注者としての標準案の策定』(調査報告書 再発防止策3)
【今後の取組み】
⮚ 工事費積算について職員の知識・経験レベル向上にコンサルタント等を活用するほか、業者が提出する見積書の妥当性について検討できる資料を作成するために、実施設計を行わない建設工事の入札契約においても、予備設計に基づく標準案を策定する。
<実施時期:実施済み(規程の整備)>
価格の妥当性について検討するため、高度・特殊な工事においても、発注者としての標準案を策定する。
3 外部による透明性とxx性の確保 (1)『事業全体の管理』(調査報告書 再発防止策7)
県、市と完成目標を共有しながら適切な工期を確保し、また発注事務等のスケ
ジュール管理を徹底するなど、情報共有を図り密に連携する。
【今後の取組み】
⮚ 事業の完成目標を踏まえ、適切な事業執行を図るため、事業スケジュールや進捗の情報を共有する連絡調整のための会議を県、市と連携して開催する。
<実施時期:年内(規程の整備)>
(2)入札及び契約の監視体制の強化
【今後の取組み】
⮚ 学識経験者等の第三者で組織される入札監視委員会を設置し、競争参加資格の設定・確認、指名競争入札に係る指名の経緯等について定期的に報告しながら、その内容の審査及び意見の具申等を求め、その結果を閲覧等により公表する。
<実施時期:年内(規程の整備)>
入札及び契約の過程並びに契約の内容について、第三者による監視体制を整備し透明性を確保する。
(3)入札契約方式の適切な選択
【今後の取組み】
⮚ 技術提案を求める建設工事の発注にあたり、公社に設置する競争入札等執行委員会で審査する場合において、あらかじめ県及び市から入札契約方式の選択や入札契約手続きに関し意見を聴取する。
<実施時期:実施済み(規程の整備)>
本件工事のような技術提案を求める建設工事の発注にあたり、入札契約方式を適切に選択する必要があるため、県及び市から、適宜、意見を求める。
(4)総合評価落札方式における学識経験者の意見聴取
【今後の取組み】
⮚ 総合評価落札方式を行う際、落札者を決定する評価基準を定める場合や落札者を決定しようとする場合に、学識経験者の意見を聴取する。
<実施時期:実施済み(規程の整備)>
総合評価落札方式における競争入札にあたり、落札者を決定する評価基準を定める場合や落札者を決定しようとする場合に、国や地方自治体と同様に中立かつxxな審査及び評価を行う必要があるため、学識経験者の意見を聴取する。
第4章 まとめ
今回の高速5号線シールドトンネル工事の契約において、契約当事者間で認識の違いが生じた背景としては、県・市・公社で合意をしていた事業完成の時期等を守るために、契約を成立させることを優先したことがあげられる。
これは、契約が成立しなかった場合に事業の完成が大幅に遅延することが懸念されるため、公告で定めたスケジュールに沿って進めたいと考え、JVから提出された見積額と契約額の上限との間に大きな乖離が生じていたものの、この原因について十分な検証を行うことなく、既存の知見を基に設定した上限の範囲内で契約できることを期待したものであり、第三者委員会からは、こうした対応について不適切な対応との指摘を受けたところである。
本件工事においては、入札参加希望者が1者であり、契約額の上限を大きく上回る見積書が提出されている時点で、最新の知見等をもとに契約額の上限の妥当性について検証を行い、妥当でないと判断されたならば、契約額の上限等について所要の見直しを行う必要があった。
公社としては、契約当時に認識の違いに至った背景を踏まえ、改めて調査報告書において指摘を受けたことについて深く反省するとともに、県・市の指導・助言を受けながら、「第3章 再発防止の具体的な取組み」を着実に実施して、今後このようなことを起こさないよう役職員xxとなって取り組んでいく。