Contract
兵庫、昭54不20、昭55.8.8
命 令 書
申立人 名古屋精糖労働組合
被申立人 xxxx株式会社
主 文
1 被申立人会社は、申立人組合との間で、昭和54年度夏期一時金に関する団体交渉につき、同年7月2日前の状態に戻し、すみやかに誠意をもって交渉を再開しなければならない。
2 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。
理 由
第1 認定した事実
1 当事者
(1) 被申立人xxxx株式会社(以下「会社」という)は、その前身を名古屋精糖株式会社(以下「名糖」という)に置くものである。名糖は、神戸及び東京に二つの工場を有していたが、昭和46年12月23日に倒産し、会社更xxの適用を受けた。名糖の更正計画は、xx債権者であった日商xx株式会社(以下「日商xx」という)と丸紅株式会社
(以下「丸紅」という)に、それぞれ東京工場と神戸工場を売却する分割譲渡を内容とするものであった。日商xxは、昭和48年9月21日にxx糖株式会社(以下「xx糖」という)を、丸紅は、同年9月20日に会社を、それぞれ100パーセント出資により設立し、同年12月1日にそれぞれの工場の譲渡並びに労働者のそれぞれの会社への雇用関係の承継の手続が行われた。
(2) 会社は、昭和48年12月1日に名糖神戸工場の譲渡を受けると共に、同工場に働く全従
業員と名糖の本社、東京本部、大阪、名古屋営業所等の従業員の半数の雇用を承継し、同日より砂糖の精製・販売の事業を営み、現在にいたっている。なお、登録商標は、名糖より「ママ印」を買いとり、xx糖と共有しており、同社とは毎月2,000ないし3,000トンの砂糖を相互に委受託生産する等量交換を行っている。本件申立てのあった昭和54年10月現在で会社の従業員数は、男子352人女子24人合計376人であり、従業員の勤務形態は4直3交替と常日勤の2種類である。
(3) 申立人名古屋精糖労働組合(以下「組合」という)は、名糖が会社更生法の適用を受ける以前より継続して存在しており、現在は会社及びxx糖の従業員により組織されている単一組合であって、単一の中央本部のもとに、東京に勤務地を有する従業員で組織されている東工支部と、名古屋、大阪、神戸に勤務地を有する従業員で組織されている神戸支部がある。
2 従来の労使関係
(1) 労働条件の統一
ア 組合は、名糖の上記更生計画が策定されるに際し、①組合の承認、②労働協約、協定、覚書、慣行の新会社への承継、③雇用の新会社への承継、④統一労働条件の維持と向上を強く主張し、名糖、組合、日商xx、丸紅の四者間で、組合の有する労働契約上の諸権利、労働条件及び雇用承継に関する合意が成立し、昭和48年8月6日その旨の確認書が交わされた。
イ この合意に基づき、組合と会社、組合とxx糖の間で、就業規則の制定、労働協約、協定、確認書、覚書の整理、調印の作業が行われたが、その内容は双方とも全く同一であった。
ウ 昭和49年4月18日に結ばれた同年春闘の解決時の協定書には「基本的労働条件の統一問題、会社は昭和49年春闘の賃上げ及び付帯事項の要求に対する交渉経過と妥結内容を尊重するものとする。」という1項が設けられた。
エ 昭和53年4月制定の就業規則についても、両会社が協議し、その結果両会社の就業規則は同一の内容となっている。
オ 昭和48年に会社及びxx糖が設立されて以後、春闘及び夏期・年末一時金闘争における組合の経済要求、労働条件改善要求は、すべて会社及びxx糖の両会社連名宛で提出され、両会社の回答も全て組合宛に行われてきた。しかも右回答を行うにあたって両会社とも、賃上げ率あるいは一時金額の算定は、組合員全員、つまり両会社従業員全員を基礎として同一回答をしてきている。もっとも、昭和52年の春闘第一次回答、昭和53年々末一時金第二次回答の二度についてだけは、両会社が格差のある回答をしてきたが、そのいずれの場合にも、数日を経ずして同一内容による修正回答が示され、かつ、低額回答をした会社より遺憾の意思を示す文書が提出された。
(2) 回答額指定方式と争議行為
ア 砂糖業界では多くの労働組合が賃上げや一時金の経済要求につき回答額指定方式をとっており、組合も以前からこの方式を採用してきた。回答額指定方式というのは、要求額とは別に一定の期日に一定の金額を指定して回答を求めるやり方で、その指定された金額が回答されれば、当面争議行為を回避するが、それによって直ちに妥結するとは限らず、更に要求額獲得をめざして第二次以降の高い金額の指定がなされるのが通常である。会社と組合の間では、回答指定が1回で終った例はなく、賃上げについては昭和51年以降3ないし5回、一時金については昭和52年夏以降3ないし6回の指定が繰り返されて解決に至ったのである。
イ そして組合は、その指定した額の回答が得られない場合には争議行為に入るのを例としていたが、その争議行為の形態は、時限スト並びに一斉休憩の反復であって、一度時限ストまたは一斉休憩により、ボイラーの火を消すと、その蒸気による自家発電で機械を動かしているため、機械は全て停止し、その時限ストまたは一斉休憩の時間が過ぎて、ボイラーを再点火しても自家発電が始動するのに、約4~5時間を要するので、時限スト及び一斉休憩を組み合わせて反復されると、会社の生産は全面的に停止することになる。従って争議行為があると、賃金カットの金額に比し、会社は多大の損害を蒙るのが常であった。
(3) 賃金・一時金の状況
ア 昭和49年から昭和51年までの間の賃上げ額は、毎年会社とxx糖を併せた組合平均で、業界中の最高に位置し、更に、組合平均が同一でも、会社とxx糖の従業員の平均年齢の相違により、会社の方がxx糖より賃上げ額が高く、会社の賃上げ額は昭和52年を除けば昭和49年以降常に業界のトップであった。そのため昭和54年の会社の基準内賃金の平均は、会社が情報を入手した同業他社9社のそれより50,730円も高く、勿論業界の最高水準であった。
イ また、一時金においても、会社の支給額は昭和50年以降常に業界の最高であり、xx糖を除く他社比較においては毎回13ないし27万円もの格差があり、特に、会社が競争相手としなければならない業界大手との比較においては30万円以上の格差のあったこともある。
ウ このような高額の賃金、一時金の負担は、人件費の高騰となり、直ちにコストの上昇に繋がり、昭和52年8月以降会社のコストも、これまた業界最高で、そのため会社の競争力は極めて悪化していた。
エ なお、会社とxx糖とを比較すると、生産量がほぼ同量であるにもかかわらず、機械設備の相違により、会社の従業員数は、約380名であるから、xx糖が約290名であるのに対し約90名分の人件費を同社よりも多く負担しており、また、xx糖に比し、会社の方が平均年齢が高いため賃金も高く、組合員平均で同一金額で妥結しても、従業員平均では賃上げ額、一時金額とも会社の方が高くならざるを得ず、両社の間には昭和54年当時、平均賃金において約1万円の相違があった。そのため、会社は、xx糖より年間約4~5億円も人件費が多く、コストにおいて1キロ当り3円50銭の格差があった。
3 昭和54年夏期一時金交渉
(1) 要求・回答・争議による生産の停止
ア 組合は、昭和54年6月8日新名糖及び会社との中央窓口交渉において、夏期一時金に関し、組合員1人平均3.3か月(約867,000円)の要求を行うとともに、4項目の付帯要求を提出し、同時に6月14日を回答日とし、昨年実績である組合員1人平均3.1
か月(約748,000円)に見合う2.9か月(約762,000円)の回答額を指定した。
イ 6月14日の第1回拡大窓口交渉で、xx糖が59万円(2.2457か月)会社が2か月の回答をしたところ、組合はxx糖の回答と不統一であることを理由に、会社の回答書の受取りを拒否した。
ウ 翌6月15日拡大窓口交渉において会社も59万円(2.2457か月)の回答をなしたが、組合は、この回答を不満として、同15日午後11時より一斉休憩及び時限ストライキに入り、この争議行為は、生産予定の終了日である6月24日まで反復継続され、生産は全面的にストップした。
エ その間会社は、6月20日の窓口交渉で、争議行為の時間は、保安要員で監視作業をしてボイラーの火を消さないようにし、争議行為時間が過ぎると直ちに生産態勢に入ること、並びに6月の生産予定が24日までとなっているのを28日まで延長することを申入れたが、組合は従来の慣行に反するとして、いずれもこれを拒否した。
オ また会社は、6月22日スト時間及び一斉休憩時間以外の時間帯を利用して糖液保全のための処理をすることを申入れ、組合がこれ亦従来の慣行に反するとして拒否したにかかわらず、翌23日午後1時から実施する旨の通知書を組合支部長宛に出した。
カ しかし、6月22日の夜から翌23日の明方にかけて5時間半にわたり、この問題について行われた団体交渉が、双方の主張が対立したままに終ったところから、会社は23日書面をもって上記通知にかかる実施を留保する旨回答した。
キ なお、会社の組合宛文書は、上記6月22日の通知書以後、すべて神戸支部長宛となっており現在に至っている。因みに組合の会社宛文書が中央執行委員長名で出されている点は、従前どおり変りない。
(2) xx糖の争議解決と会社の対応
ア 組合が6月25日に、同日以降29日までの3交替勤務を拒否する旨通告したところ、会社は6月29日に3交替勤務の拒否は、xxxxxとみなす旨の申入書、並びに労使関係の全面的見なおしと、理解・協力による新鮮で勝れた労使関係の樹立を訴えた「社長見解」なる文書を交付しようとし、組合がその受領を拒否すると、7月2日この両
文書を正門タイムカードの上の掲示板に掲示した。このことがあって後、会社の組合宛文書は、組合に提示後直ぐ掲示によって直接組合員に示されるようになった。
イ 一方xx糖は、予め会社にも連絡した上で、6月27日組合の指定どおり2.9か月の回答をし、これによってストライキは解除され、通常の生産態勢に復した。xx糖の方は結局この回答によって解決し、8月10日ごろ仮払いの形式で一時金が支給されたのであるが、7月5日付の組合東工支部ニュースは、なお満額獲得をめざして戦う姿勢を示しており、また、会社に対する関係でも、組合はかねてより2.9か月の回答があればストライキを中止して生産を再開するとはいっていたものの、それによって全面解決するという態度はみせていなかった。
ウ 7月2日当時、同業大手の夏期一時金は、すでに40万ないし50万円台で妥結しており、他社においても50万ないし60万円台で妥結の方向に向って話し合いが進められていたところから、会社としては、本来の一時金額としてすでに回答している1人平均59万円でも多い位いであり、余りに高い一時金額を支給することは、金融機関や消費者の不信に連らなるうえ、一時金額は、その時だけでなく、後の一時金額の決定にも影響を及ぼすので、これ以上に上積みすることは困るが、他面、組合の方は第一次指定額が回答されない以上、7月も生産に入らないと公言しており、何らかの上積みをしないと、7月3日以降も争議行為の続くことが予想され、そうなった場合には在庫が不足し、砂糖売戻し特例法下の供給責任も果せず、特約店に迷惑がかかり、また機械中にある約1億6,000万円の糖液が悪化して全損になる恐れがあるので、事態の解決を図るためには、一時金59万円のほかに解決金を支払うこともやむをえないと同時に、その解決金は、あくまで長期ストという異常事態を解決するため今回限り、理外の理として支給するもので、当然即時の解決を前提とするものであるから、それによって直ちに解決に至らない場合は、すでに生産の停止による損失も少なくないので、59万円の回答額も含めて、回答を全面的に撤回すべきであると考えるに至った。
エ 而して、会社はその解決金額を、組合の第一次指定額2.9か月(組合員1人平均約762,000円)が、会社従業員の平均では77ないし78万円に相当することをも考慮して、
つかみ金で1人平均20万円、但し配分方法については本来の一時金と同様、組合と協議することとし、7月2日の団体交渉に提案する方針を決定した。
オ 7月2日の団体交渉は、午後3時40分ごろに始まり、会社から上記解決金の上積みを提案するとともに、一時金としては会社の現況などからして59万円以上は出せないとする上記諸事情、並びに解決金を上積みする考え方を説明し、これによって直ちに解決に至らぬときは、金額回答を含めて回答を全面的に撤回するという条件をも明らかにしたが、組合は金額的な努力は評価するが内容が問題である、資金的に出せるのなら一時金が組合のいう2.9か月にならないのがおかしい、中身が違う以上格差回答であるから受取れない、組合としてはxx糖と同一の条件でないと解決に応じられない、解決金も一時金と共に外部に発表される以上、対外的信用という点では同じではないか、などと主張して譲らず、両者の主張が対立したまま午後5時40分ごろ一旦休憩に入った。
その後、同日午後7時25分から午後11時30分まで、また翌3日も午前3時から午前
5時30分まで交渉が再開されたが、両者は前日来の主張を繰返すだけであった。
カ 会社は、同3日当委員会に夏期一時金につきあっせん申請を行ったが、組合は自主交渉を主張して団体交渉の申入れをなし、当委員会からも自主交渉の示唆があったので、会社はあっせん申請を取下げ、7月6日に団体交渉を行った。
キ しかし、会社は「交渉に進展がなければ短時間で打ち切る」と事前に態度表明を行って団交に臨み、約1時間双方が従来の主張を繰返したところで交渉を打ち切るとともに、7月2日の解決金を上積みした回答を、59万円を含めてすべて撤回した。
(3) その後の経過
ア その後も組合からは、7月6日から同月30日まで12回にわたり団体交渉の申入れをしたが、会社は組合がxx糖と同一の回答でなければ解決できないとしている点を捉 え、その態度に変更がない限り交渉しても無意味であるとして申入れに応じなかった。 イ 8月14日、日本社会党兵庫県委員会の役員による労使双方からの事情聴取がきっかけとなって、8月20日ようやく団体交渉が行われたけれども、交渉といえるほどの内
容はなく、会社は、7月2日の回答は誠意をもって行ったにもかかわらず受け入れられなかったので、夏期一時金に関する会社回答は零である、との主張を繰返し、組合は団結を維持するためにもxx糖と同一の回答でしか解決しえないとの態度を崩さないまま短時間で終った。
ウ 8月24日に至り、会社は、突然組合に対し労働協約の更新を拒否する旨の通知書を送付した。その後、組合は9月5日、当委員会に夏期一時金につきあっせんを申請したが、会社はあっせんを拒否し、また、組合からの度々の団体交渉申入れに対しても、会社は組合の態度に変化がみられない以上、交渉の進展は望み得ないとして、一度も応じていない。
第1 当委員会の判断
1 誠実団交義務違背について
(1) 前記認定にかかる昭和54年度夏期一時金交渉の経緯を概観すると、同一時金に関連する団体交渉は何回か開かれてはいるけれども、実質的に交渉が行われたといえるのは同年7月2日の休憩に入るまでの約2時間のみであって、当日会社から提案された解決金という名目での上積みによる解決が成功せず、同月6日一時金の金額回答を含めて会社の回答が全部撤回された後は、交渉の内外を通じて、組合はxx糖と同一の条件でなければ解決し得ないとの主張を譲らず、会社はまた、組合がその態度を変えない限り交渉しても無意味であるとの方針を堅持し、鋭く対立して完全な手詰まり状態に陥っている。
(2) そこで、叙上の団体交渉において、会社が使用者として誠実に交渉に応ずべき義務を尽くしたか否かを判断するには、解決金という名目での上積みが解決案としての合理性、相当性を有したかどうか、あるいは少なくとも会社において合理性、相当性を有すると判断すべき事情が存したか否か、また、これらの理由ないし事情が、相手方である組合が理解するに足る程度、方法において説明されたかどうか、並びに回答の全面的撤回、就中、交渉前になされていた金額回答の撤回に合理性、相当性が認められるか否か、という観点から審究すべきものと考えられるので、以下これらの点につきxx判断することとする。
(3) 先ず、7月2日会社から提案された解決案をみると、①一時金としては、すでに回答した1人平均59万円より上積みすることはできないので、②1人平均20万円の解決金を上積みするというのであるから合計金額としては、組合の指定した回答額との差を埋めてなお余りある回答ということができ、従ってこの案の問題点は①にあると考えられる。そして前記第1の3(2)ウで認定したところからみると、1人平均59万円という回答自体すでに同業他社に比し最高水準にあったのであるから、会社がそれ以上の上積みを避けたいと考えたことは当然ともいえようが、会社創立以来xx同一労働条件を維持してきたxx糖がすでに指定回答額を回答していることや、少なくとも資金的には格別の支障のないことが明らかであることから考えて、一時金としては上積みできないこと、すなわち解決金等他の名目でなければ上積みできないことを首肯するに足る事情は見当らない。同じ上積みをするにしても、解決金という名目にすれば、対外的信用の上で、余りに過大な一時金であるとの非難を避けることができ、また後の一時金に直接影響することも免れることができる、というのが会社の考え方であるが、前認定のとおり外部にも発表され、かつ、一時金同様、組合と協議した基準に基づいて配分されるものである以上、実質的に一時金であることは否みがたいから、会社の上記考え方は、必ずしも決定的な理由とはならないと思われる。
(4) 会社は、解決金について、長期ストの異常事態を解決するための、いわば非常手段として提案したものであるというのであるが、この提案自体突然行われたものである上、組合が争議を開始した6月15日午後11時から7月2日の団体交渉までの間に、会社において争議解決のための方策を講じた証跡は全くなく、むしろスト時間外の生産活動に関する申入れや、糖液保全の処理を強行しようとする通知など、争議の長期化を前提とした対抗策ばかりを考えていたとみられるので、解決金という名目は、組合の争議行為を逆手にとったものに過ぎないと思われる。
(5) のみならず、会社の当初の回答がxx糖の2.2457か月(59万円)に対し2.0か月であったこと、上記争議対策の試みが失敗し、かつ、xx糖が指定回答額を回答して争議の終束をみた後に、会社が前記第1の3(2)アの「社長見解」を表明し、しかも間もなく一般
組合員に向けて掲示したこと、並びにこの間組合宛文書を神戸支部長宛に変更したことをも総合して考えると、会社が解決金の名目で上積みをしようとした真の意図は、名目だけでもxx糖との間に一線を画し、よって同会社との労働条件の同一性を打破し、会社にとって好ましくない創立以来の慣行を是正する契機とするところにあったものと思われる。従って、また、会社は、組合が簡単には受け入れられない案であることも、十分予測していたものと思われる。
(6) 次に、会社のこの提案に関する説明も必ずしも十分ではなかったと認められるけれども、叙上のとおり会社の提案において、解決案としての合理性・相当性に欠けるところがあると思われ、かつ、会社において合理性・相当性を有すると判断すべき特段の事情があったとも思われないので、上記説明不足の点は、特にこれをとりあげて判断するまでもないと考える。
(7) ただ、回答の全面的撤回ないしその条件については、事が重大であるから触れておかなければならない。何となれば、撤回されたうちの解決金については、もともと上積みによって即時解決することを前提としたものであるから、即時解決の条件が満たされなかった以上、当然に案としての効力を失う性質のものであり、このことを念のため明かにする方法として撤回するのはやむを得ないが、先に行われていた金額回答を交渉の途中で撤回するのは、交渉の本質にかかわる問題だからである。すなわち、一旦なした回答を、後に相手方が応諾しないというだけの理由で撤回することになると、漸進的互譲による継続的過程としての団体交渉は、その基盤を失うことになるし、殊に交渉の最初の段階から、回答にそれを直ちに受け入れなければ撤回するという条件を附して臨むのは、団体交渉が双方の代表者により、討議を重ねつつ進展する手続であることを無視し、交渉の実を失わせることともなりかねないのである。
(8) なお、会社は、上記金額回答の後すでに半月分の生産が停止して多大の損失を蒙っている上に、7月2日の提案が容れられず、翌3日から予定されていた7月の生産も停止されることになると、回答をした経済的基礎が失われるので、これを撤回せざるを得なかったという。確かに組合の争議のやり方や、それによって会社が、異常に大きな損失
を蒙ることには、種々問題の余地もあるであろう。しかし、そうだからといって、会社の回答を不満として組合が争議行為に訴えた場合に、その争議行為に訴えたことを理由として会社の回答が零に帰するというのでは、争議権を背景とした団体交渉はナンセンスとなり、団交権、争議権ともその実効性を失う結果となるから、そのようなことは一般的に許されないものと考える。もっとも、例外的に、先に行った回答がその経済的基礎を失う場合があり得ないものではないが、本件の場合、特に昭和54年7月6日の時点において、そのような特段の事情があったことを認めるに足る疎明はない。
(9) 更に、会社は、本件団体交渉が成功しなかったxx的な原因は、会社の交渉態度が誠実さを欠いたことにあるのではなく、例えばxx糖の回答と一致していないというだけで会社の回答を受取ろうともせず、況んや回答理由の説明など聞こうともしないで、ひたすら2企業1組合の組織事情と、回答額指定方式その他の慣行に固執し、徒らに争議行為を頻発する組合の頑迷な態度にあるのであるから、このような組合との関係においては、使用者の誠実団交義務は相当程度軽減されるべきであるという。なるほど、本件団体交渉全体の経緯をみると、組合の対応には従来の慣行にとらわれて柔軟性を欠いたとみられる点がないでもない。けれども、回答額指定方式や争議のやり方などは、会社創立以来慣行となっているのであるから、組合がこれを墨守しようとするのも無理からぬところがあり、ましてxx糖と同一の回答で解決しようとするのは、単一組合として当然のことであるから、これらの点をとらえて一概に組合を非難するのは当らない。そして仮に、組合の態度に会社の指摘するような問題があったとしても、その結果軽減されるのは説明義務の程度であって、合理性、相当性を具えた解決案ないし附帯条件を提示すべき義務には影響がないものと考える。
(10) 以上の次第で、本件団体交渉における会社の対応は、昭和54年7月2日の提案中、解決金の名目によるのでなければ一時金の上積みができないとした点、並びに同日の提案が直ちに受け入れられなければ、一時金の金額回答をも撤回するという条件を附した点、ないし同月6日上記金額回答をも撤回し、しかもその後は実質的にみて団体交渉に応じていない点において、誠実団交義務に違背したものであり、労働組合法第7条第2号に
該当する不当労働行為であると判断する。
2 救済の方法について
(1) よって、本件の救済としては、主文第1項掲記のとおり、昭和54年7月2日前の状態に戻し、そこから再度誠実に団体交渉を行うよう命ずべきものと判断する。
(2) 組合は、請求救済内容第1項において「夏期一時金59万円、別途解決金20万円との回答を撤回するとの態度を撤回して」、すなわち、解決金の名目による上積みの提案があった状態に戻して、団体交渉を再開することを求めているが、これは解決金の名目を不可とする組合の考え方とも矛盾するものというべく、採用の限りでない。
(3) 反対に会社は、事態の変化に伴い回答を維持しがたい状況にあるにかかわらず、当事者の意思に反し、回答を指定するなどして妥結を強制することは、労働委員会の権限を逸脱するものであり、違法の誹りを免れないという、しかし、本件のような場合、単に誠実に団体交渉に応じることを命ずるだけでなく、現実に誠実団交義務に違背したと認められる点を指摘し、これを事実上排除して交渉を再開するよう命ずるのでなければ、救済の実効を期しがたく、また、本件命令により再開される団体交渉において、出発点となるべき会社の回答は、昭和54年6月15日会社自身のしたものであり、而して、その経済的基礎が失われたとは認められないこと、前掲第2の1(8)記載のとおりであるから、会社の上記非難は当らない。
(4) なお、組合は、請求救済内容第2項において、謝罪文の掲示をも求めているが、その必要はなく、主文第1項掲記の救済で十分であると判断する。
第3 法律上の根拠
よって、当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条を適用して主文のとおり命令する。
昭和55年8月8日
兵庫県地方労働委員会
会長 x x x x