1 DONALD FREDERICK, ANTITRUST STATUS OF FARMER
論 説
日米の排他的販売契約と競争法
▇ ▇ ▇ ▇
目 次
第1章 問題の所在と課題 第2章 競争法適用除外立法
第3章 農協法と排販契約・専用契約
第4章 排販契約・専用契約に関する判決・法運用第5章 排販契約・専用契約に関する学説
第6章 結 論
第1章 問題の所在と課題
農業協同組合(以下「農協」又は「組合」という)が共同販売事業を行うためには、組合員と農産物の販売契約(marketing contract)を締結する必要がある。その販売契約には非排他的な販売契約と排他的な販売契約(exclusive marketing contract)があり、後者は組合員の農産物の全部又は一部を排他的に組合に販売する契約なので1、競争法(反トラスト法、独占禁止法)上、問題になることがある。しかしアメリカでは排他的販売契約(以下「排販契約」という)は、反トラスト法適用除外立法(クレイトン法6条、カッパー=ヴォルステッド法など)や排他的販売契約規定(以下「排販契約規定」とい
1 ▇▇▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, ANTITRUST STATUS OF FARMER
COOPERATIVES ▇▇▇ (▇▇▇ ▇▇.▇▇, ▇▇▇’▇▇ ▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇, ▇▇▇▇).
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う)等をもつ各州の農協法(標準法、standard act)により寛大(liberal)に扱われている。
これに対して日本では独禁法適用除外立法(独禁法22(旧24)条)や専用契約規定(旧19条)をもつ農協法が、それぞれ前記のアメリカ法を継受したのにもかかわらず、公取委の法運用は「単位農協が組合員に対して、組合員が販売事業を利用する際に、全量又は一定の割合・数量以上について販売事業の利用を条件とする行為」を問題行為(「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」第2の2(1)②、2007年、以下「農協ガイドライン」という)として、農協の専用契約(全量出荷・系統出荷)を一律に違法視しているようにみえる。
またアメリカの標準法は排販契約規定(契約期間が概ね10年以下と長期)、組合員の契約違反に対する救済規定(損害賠償額の予定、差止、特定履行)、第三者契約違反勧誘禁止規定(罰金、違約罰)、反トラスト法適用除外規定をもち、農協(排販契約)を手厚く保護しているのに対して、日本の農協法は専用契約規定(契約期間は1年以下と短期)しかなく、アメリカの標準法に比べて農協(専用契約)の保護が貧弱である。
以上のように日米の排販契約・専用契約に対する競争法上、農協法上の扱いは真逆の関係にあるが、さらに貧弱な専用契約規定(旧19条)は2015年改正農協法により廃止された。筆者はこの機をとらえ、母法であるアメリカの反トラスト法適用除外立法や農協(排販契約)を手厚く保護する標準法を参考にしながら、我が国における専用契約の適用除外立法上の扱いや農協法上の扱いを見直すべきであると考える。
そこで本稿の課題であるが、継受関係のある日米の競争法適用除外立法及び農協法における排販契約・専用契約の扱いを比較し、日本法の問題点を明らかにしつつ、専用契約に関する独禁法適用除外立法上の扱い及び農協法上の扱いを見直す方向性を検討することを課題とする。具体的には日米における競争法適用除外立法の適用除外の根拠と範囲を比較し、日本法の適用除外の範囲の狭
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隘さを明らかにし(第2章)、農協法における排販契約・専用契約の扱いを比較し、日本法の農協(専用契約)保護の貧弱性を明らかし(3章)、排販契約・専用契約に関する判決・法運用を比較し、公取委の独禁法運用の狭隘さを明らかにし(4章)、排販契約・専用契約に関する学説を比較し、日本の学説の適用除外の範囲の狭隘さを明らかにし(5章)、最後に一定の要件を備えた専用契約の適用除外立法上の寛大な扱いと農協法における専用契約規定等の見直しの方向性を検討する(6章)。
第2章 競争法適用除外立法
1 アメリカ
(1) 適用除外立法の立法過程
アメリカにおける反トラスト法適用除外立法の立法過程を概観する2。第1にアメリカの反トラスト法及び適用除外立法の由来であるが、それらはイギリス・コモン・ローにおける独占及び取引制限の法理及びその違法性判断基準に由来する。その違法性判断基準は時代とともに変化し、①「営業を制限するすべての契約は公共政策に違反し、無効とする」(ダイヤース事件判決、1414年)3→②「一般的制限は無効であるが、部分的制限は合理性があれば有効」
(ミッチェル事件判決、1711年)4→③「制限が合理的であれば有効」とする合
2 詳細は▇▇▇▇『反トラスト法と協同組合-日米の適用除外立法の根拠と範囲
-』9-102頁(日本経済評論社、2017)を参照されたい。
3 ▇▇▇▇▇「▇▇コンモン・ロウにおける独占及び取引制限」法学論叢53巻 238頁(1947)。
4▇▇▇▇「▇▇法における取引制限の法理」季刊法律学3 号363-364頁
(1948)。
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理の原則(rule of reason、ノーデンフェルト事件判決、1894年)5へと発展してきた。なお制限が合理的とは「関係両当事者の利益及び公共の利益からみて合理的であり、公衆を害することなく、両当事者に適切な保護を与えるよう作成され守られていること」(ノーデンフェルト事件判決)6である。
第2に反トラスト法の制定であるが、19世紀後半、南北戦争以降、プールやトラストなどの独占が形成されたこと、独占に抑圧された農民、労働者、小規模事業者などが反独占運動に立ち上がったこと、これらを背景にコモン・ローによる独占規制が試みられたが、規制に限界があったこと、そこで州議会が州反トラスト法を、連邦議会がシャーマン法(1890年)を制定したことである。
第3にこれに伴う農協(労組)に対する反トラスト法適用問題の発生であるが、農協(労組)は取引を制限する農民(労働者)の結合と考えられるところから、農協(労組)に対するシャーマン法の適用が問題になった。当時、連邦最高裁がトランス=ミズーリ事件判決(United States v. Trans-Missouri Freight Association,166 U.S. 290 (1897))において、▇▇▇▇▇法の違法性判断基準に取引を制限するすべての契約を違法とする原則(文理解釈)を採用したところから、裁判所は農協、労組に対してシャーマン法を厳しく執行した。そこでイリノイ、インディアナ、ルイジアナ、ミシガン、テキサス、カリフォルニア州では州反トラスト法適用除外立法を制定したが、連邦最高裁はコノリー事件判決(▇▇▇▇▇▇▇▇ v. Union Sewer Pipe Company, 48 U.S. 540 (1902))において適用除外立法を合衆国憲法第14修正(平等保護条項)に違反すると判示した。そこで農民が農協の存在と活動を維持するためには、反ト
5 ▇▇・前掲注3)242-243頁、▇▇・前掲注4)367-369頁。
6 ▇▇▇▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇, The English Common Law Concerning Monopolies, 21 U. CHI. L. REV. 378 (1954). ▇▇・前掲注4) 368頁。
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ラスト法適用除外立法を制定すること(議会)及び合憲性を獲得すること(裁判所)が課題になった。
第4に反トラスト法適用除外立法の制定であるが、シャーマン法の適用を受けた農民、労働者が反トラスト法修正運動に立ち上がったこと、また1911年、連邦最高裁はスタンダード石油事件判決(Standard Oil of New Jersey v. United States, 221 U.S. 1 (1911))において、シャーマン法の違法性判断基準に合理の原則を採用したことにより、1914年、連邦議会は合理の原則を法的根拠にしてクレイトン法6条(Ch.323, 28 Stat.730 (1914))を制定したことである。しかしクレイトン法6条は適用除外の対象が非出資組合に限定され、また適用除外の範囲が「正当な目的を適法に実施」と不明確であったので、農民は再び反トラスト法適用除外立法運動に立ち上がり、1922年、連邦議会はカッパー=ヴォルステッド法(An Act to authorize association of producers of agricultural products, ch 57, 2 Stat.388 (1922)、以下「CV法」という)を制定した。これらを「合理の原則の立法化」という。
(2) 適用除外の根拠
以下、【資料1】により適用除外立法の根拠と範囲を検討する。まず適用除外の根拠であるが、クレイトン法6条の根拠は独占及びトラストの抑圧から農民を保護するため、農協が必要であり、そのために適用除外立法が必要であった(Nelson下院議員の発言、51 Cong. Rec. 9571 (1914))。またCV法1条の根拠は、価格決定力がなく、集団交渉すれば反トラスト法訴追される農民に
「▇▇な機会」「対等な立場で販売する機会」を与えるため、会社と同様に農民に「組合を設立することを認め」、「組合を設立する権利」「州際及び外国との通商で活動する権利」を付与することであった(H.R. Rep. No.24, 67th Cong. 1st Sess. (1921))。また組合は食料投機の防止、中間商人の排除により消費者に「役立つ」(公共性)とされた。両法とも農民と独占との取引上の格差を問題視し、対等な立場で取引できるよう農民の結合(農協)を承認(適用除外)
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したのである。
【資料1】日米の適用除外要件の比較
項 目 | クレイトン法 6条(1914年) | カッパー=ヴォルステッド法(1922年) | 独禁法24条(1947年) |
立法目的 | 組合の存在と活動の適法性の承認 | 農産物の生産者が組合を設立することを承認 | 協同組合に原則として本法を適用しない旨を定めた |
適用除外の根拠 | 独占の抑圧から農民を守るために農協が必要、そのために適用除外も必要(ネルソン) | ・農民に対等な立場で販売する機会を与えるため、会社と同様に農民に組合を設立することを認める ・組合は食料投機防止、中間商人排除により消費 者に「役立つ」 | 小規模事業者は相互に団結して一事業単位を形成することにより、資本主義的大企業と同一の出発点に立ち、効果的な競争ができる |
組合員要件 | (労働者、農民) | 農産物の生産者 | 小規模事業者又は消費者 |
組織要件 | 非出資or非営利 | 出資・非出資、法人・非法人の組合 | 法律により設立された組合 (連合会) |
協同組合要件 | 相互扶助 | 相互扶助、1人1議決権 or出資配当制限8% | 相互扶助、任意設立、加入・脱退の自由、議決権の平等、出資配当の制限 |
活動要件 (適用除外の範囲) | ・組織の存在と活動 ・正当な目的を適法に実施 ・取引を制限する違法な結合ではない | ・組合で共同し、集団で加工・販売準備・取扱・販売 ・共同の販売機関の所有 ・目的達成のため契約・協定を締結 ・非組合員の員外利用を 50%に制限 (内部行為適用除外) | ・本文(原則):組合(連合会)の行為を適用除外 ・但書(例外):①不▇▇な競争方法を用いる場合又は②一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は独禁法適用 (内部行為但書控除適用除外) (外部行為但書控除適用除外) |
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項 目 | クレイトン法 6条(1914年) | カッパー=ヴォルステッド法(1922年) | 独禁法24条(1947年) |
濫用規制 | (2条)農務長官の排除措置命令(独占または取引制限) |
(3) 適用除外の範囲
つぎに適用除外の範囲であるが、クレイトン法6条の範囲は「正当な目的を適法に実施する」範囲である。またCV法1条の適用除外の範囲は活動要件
(共同し、集団で加工・販売準備・取扱・販売し、共同の販売機関を所有し、目的達成に必要な契約・協定の締結、員外利用の50%制限)の範囲であり、これを要約すれば内部行為適用除外7となる。
適用除外の範囲で重要なことは、CV法1条を審議した連邦議会上院が危険の蓋然性理論(独占形成の企画)や萌芽理論をつぎのように否決したことである。すなわち上院司法委員会は上院に【資料2】のような2条修正案(上院代案という)(S. Rep. No.236, 67th Cong. 1st Sess.(1921))を提出した。
【資料2】上院司法委員会の上院代案
CV法案2条を削除し、1条につぎの文言を挿入する。「この法律のいかなる規定も、独占の形成又は独占形成の企画を認め、又は…(連邦取引委員会法、筆者注)に基づき開始された手続からこの法律に基づき設立された組合を除外するものと解してはならない」。
7 「農民の協同組合の設立と内部活動は攻撃から免除される一方、組合の外部行為は他の事業者と同じ基準によって判断される」、▇▇▇▇▇▇▇▇ & ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, ANTITRUST LAW, POLICY AND PROCEDURE 889 (2ND ed. 1989).
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上院代案は、農協の内部行為に対して危険な蓋然性理論8により独占形成の企画段階でシャーマン法を適用したり、萌芽理論9により競争制限の低い段階で連邦取引委員会法5条(unfair method of competition、不▇▇な競争方法)を適用することを可能にするものであった10。しかし上院は農協の内部行為に対して、このような競争制限の低い段階での反トラスト法適用を明確に否決した。連邦議会の立法者意思は、危険な蓋然性理論(独占形成の企画)や萌芽理論(不▇▇な競争方法)を明確に否定している。
また農協の外部行為に対する反トラスト法適用であるが、連邦議会では「あ
8 「独占形成の企画」とはシャーマン法2条の「独占の企画」と同旨と考えられ、それ自体は未だに独占行為の域に達していないが、そのまま放置しておくと独占行為になると思われる行為であり、その行為が独占を達成する意図(特定意図)のもとになされ、かつその行為を放置すると独占行為に発展するという
「危険な蓋然性」があれば、この行為が独占の企画として禁止の対象になる(危険な蓋然性理論)。▇▇▇▇『アメリカ独占禁止法』98-99頁(東京大学出版会、 1982)。
9 連邦取引委員会法5条は、独占行為又は競争制限行為が完全に成熟していない萌芽段階において予防的に規制することを目的としている(萌芽理論、incipiency doctrine)。▇▇・前掲注8)21-22頁。
10 1921年、反トラスト法適用除外立法運動組織NBFO代表のミラーは上院議員に書簡を送り、つぎのように上院代案の「破壊的」な問題点を指摘した。①C V法1条の目的は、農民の結合を認めることであるが、上院代案はこれを違法とする、②CV法の目的は漠然としたクレイトン法6条を明瞭にすることであるが、上院代案によって不確実性は大きくなる、③上院代案では誰も組合の法的地位を確実に予言することができず、組合への投資をいやにさせる、④組合が十分な規模の供給を取扱わなければ効率的な運営ができないので、農民たちが結合して独占の兆候を有する組合を設立すれば、上院代案はただちにこれを違法とする。▇▇▇▇「農業協同組合とカッパー=ヴォルステッド法(2完)」行政社会論集23巻2号12-13頁(2010)。
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る組織によってなされた行為であって、他の組織によってなされれば違法となる行為を、適法にするものではない」(クレイトン法案審議での▇▇▇▇▇上院議員の発言、51 Cong. Rec. 14012, (1914))とされ、また裁判所も「組合は、他の適法な団体に認められない事業を実施する手段を採用する特権を与えられていない」(United States v. King, 229 F.275 (D.Mass.1915; United States
v. King, 250 F.908 (D.Mass.1916)と判示し、外部行為には反トラスト法が適用されることを明らかにした。そして連邦最高裁は農協と非組合員(第三者)との価格協定に対してシャーマン法1条を適用した(United States v. Borden Co.,308 U.S.188 (1939))。
なお農民運動のもう一つの課題である州反トラスト法の合憲性の獲得であるが、これは連邦最高裁がティグナー事件判決(▇▇▇▇▇▇ ▇. Texas, 310 U.S.141 (1940)によりコノリー事件判決(1902年)を覆し、州反トラスト法適用除外立法を合憲と判示したことにより解決された。
2 日 本
(1) 独禁法24条の立法過程
(a) 内部行為適用除外の立法過程
日本の適用除外立法(独禁法24条)の立法過程を概観する11。日本の独禁法及び適用除外立法は反独占運動や適用除外立法運動を背景に制定されたものでなく、アメリカの対日占領政策(財閥解体・集中排除政策)の一環として制定されたものである。すなわち占領政策の原則は、財閥と▇▇に集中した所有権を分配し、財閥、▇▇に対抗する民主主義的勢力の発達を図ることであり、そのために反トラスト法の制定、協同組合、協同組合に対する反トラスト法適用除外が必要になったのである。
11 詳細は▇▇・前掲注2)125-144頁を参照されたい。
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独禁法24条の立法過程は、1947年1月を境に内部行為適用除外の立法過程と但書控除適用除外の立法過程に区分することができる。【資料3】により前半の立法過程を概観する。第1にCV法1条に由来する内部行為適用除外は、多少の表現の違い(組合員相互、組合・組合員間、組合内部の行為)はあるが、CV法1条→エドワーズ報告書[1]→政府の要綱・法案[2]~[7]まで一貫して継受されてきた。
第2に適用除外される独禁法の規定であるが、政府の要綱・法案は「不当な取引制限」規定の適用除外[3][4]→「不当な独占、取引の不当な制限」規定の適用除外[5]→「この法律」(独禁法)の適用除外[6][7]へと拡大し、独禁法全体からの内部行為適用除外へと至ったことである。
第3にその結果、[3][4][5]では適用除外されなかった「不正な競争方法」規定(1947年3月9日の第三次修正試案で不▇▇な競争方法になる)が[6][7]では適用除外されることになった。すなわち競争制限の低い段階で規制できる萌芽理論(予防規定)による不正な競争方法が適用除外になり、「組合内部の行為」は不正な競争方法からも全面的に適用除外されることになったのである。これはアメリカの連邦議会上院が危険な蓋然性理論(独占形成の企画)や萌芽理論(不▇▇な競争方法)によるCV法1条の修正(適用除外の範囲の縮小)を否決したのと同じ適用除外の範囲になったものと考えられる。
【資料3】立法過程前半の適用除外の範囲
要綱・法案 | 適用除外の範囲 | 適用除外される規定 |
[ 1]1946.3.15 エドワー ズ報告書(▇▇取引323号18頁) | 構成メンバーの相互関係適用除外 | |
[ 2]1946.10.8 経済秩序に関する示唆に対する意見 (案)(▇▇=▇▇235頁) | 協同団体と構成員又は構 成員相互間の行為適用除外 |
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要綱・法案 | 適用除外の範囲 | 適用除外される規定 |
[ 3]1946.11.8 不正競争の防止及び独占の禁圧に関する法律案(商工省企画室) (同236頁) | 協同団体と構成員又は構成員相互間の行為適用除外 | 不当な取引制限規定の適用除外 |
[ 4]1946.12.5 独占禁止 制度要綱に関する件乙案(A説)(同237頁) | 団体内部の行為適用除外 | 不当な取引制限規定の適用除外 |
[5]1947.1.1 私的独占の禁止及び▇▇取引の確保に関する法律案(商工省)(同 239頁) | 組合員相互又は組合と組合員間の行為適用除外 | 不当な独占、取引の不当な制限規定の適用除外 |
[ 6]1947.1.15 1月15日 法律案(同241頁) | 組合と組合員又は組合員 相互の行為適用除外 | 「この法律」の適用除外 |
[ 7]1947.1.22 1月22日 試案(同241頁) | 「組合内部の行為」適用 除外 | 「この法律」の適用除外 |
(出典)「資料エドワーズ調査団の報告書について」▇▇取引323号18頁(1977)、▇▇▇▇=▇▇▇▇「一九四七年独占禁止法の形成と展開」神戸法学雑誌56巻
2号235-242頁(2006)。
(b) 但書控除適用除外の立法過程
つぎに【資料4】により後半の立法過程を概観する。1947年1月27日のG HQ反トラスト・カルテル課のサルウィンと日本政府との会議以降、法案を修正する動きが始まった。まず指令部提出用試案[ⅰ]の「組合内部の行為」から内部(internal)が削除され、「組合の行為」(activities)[ⅱ]になった。第二次修正試案[ⅲ]において、従来の「組合内部の行為」が「組合の行為」に改められ、内部行為も外部行為も全面的に適用除外されることになった(原則)。しかしそれでは適用除外の範囲が広すぎるので、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を高めることとなる場合は、この限りでない」という但書(例外)が挿入された。
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さらに第三次修正試案[ⅳ]において、不▇▇な競争方法が但書(23条)及び企業結合規制(14条2項、15条2項)12に同時に挿入された。その結果、
「不▇▇な競争方法を用いる場合」は適用除外されないことになり、内部行為適用除外の範囲は極めて狭隘になった。
【資料4】立法過程後半の適用除外の範囲
法 案 | 適用除外の対象 | 適用除外の範囲 |
[ⅰ]1947.1.28 司令部提出用試案(▇▇=▇▇244頁) | 「組合内部の行為」の適用除外 | 「前項の組合の行う販売及び購買については、その行為自体を以て不当な独占と解せら れることはない」 |
[ⅱ]1947.2.25 2月25日付日本語版修正試案の英語版へのサルウィンの手書き修正 (同246頁) | 内部行為(internal activeties)から内 部(internal) を削 除 | |
[ⅲ]1947.3.6 日本語版第二次修正試案( 同246-247頁) | 本文「組合の行為」の適用除外 | 但書「一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を高めることとなる場合は、この限り でない」 |
[ⅳ]1947.3.9 第三次修正試案(同247-248頁) | 本文「組合の行為」の適用除外 | 但書「不▇▇な競争方法を用いる場合又は一定の取引分野 …不当に対価を高めることと なる場合は、この限りでない」 |
12 これにより不▇▇な競争方法により強制された合併や営業譲渡等は認可されないことになった(14条2項、15条2項)。
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法 案 | 適用除外の対象 | 適用除外の範囲 |
[ⅴ]1947.3.11 第四次修 | 本文「組合の行為」 | 上記但書の「不当に対価を▇ |
▇▇▇(同250頁) | の適用除外 | めることとなる場合」を「不 |
当に対価を引き上げることと | ||
なる場合」に改める |
(出典)【資料3】の▇▇=▇▇244-250頁。
(2) 適用除外立法の根拠と範囲
以上の立法過程を経て原始独禁法24条は「この法律の規定は、左の各号に掲げる要件を備え、且つ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む。)の行為にはこれを適用しない。但し、不▇▇な競争方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、この限りでない。(以下省略)」と適用除外を定めた。
そこで再び【資料1】により独禁法24条の適用除外の根拠と範囲を検討する。第1に適用除外の根拠(必要性)であるが、立法担当者は「小規模事業者は相互に団結して一事業単位を形成することにより、資本主義的大企業と同一の出発点に立ち、効果的な競争ができるのであるから、このような競争単位を認めることは▇▇かつ自由な競争を実質的に促進するために是非とも必要である」13と述べている。これは大企業と小規模事業者との競争上の格差を問題視し、対等な立場で競争できるよう小規模事業者の結合(組合)を承認するというものである。
第2に適用除外の範囲であるが、24条は原則として「組合の行為」を全面
13 ▇▇▇▇『独占禁止法 過度経済力集中排除法』300頁(海口書店、改訂増補版、1948)。
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的に適用除外する一方、例外として①不▇▇な競争方法を用いる場合(但書前段)又は②一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合(但書後段)には独禁法の適用を除外しないことにした。つまり「組合の行為」は内部行為と外部行為を含むから、適用除外の範囲は内部行為から但書を控除した範囲(内部行為但書控除適用除外)であり、外部行為から但書を控除した範囲(外部行為但書控除適用除外)になったのである(両者合わせて但書控除適用除外)。
そこで第3に但書控除適用除外になった理由を検討する。まず「組合の行為」に内部行為と外部行為を含めた理由が問題になる。立法担当者は「組合結成行為と組合員と組合間との関係-所謂組合の内部行為についてのみ本法の適用を除外すれば足り、組合が第三者となす取引については、本法を適用除外すべき理由はない」が、「実際問題として、組合の内部行為と外部行為を判別することが必ずしも容易でなく、外部関係についても本法の適用を除外しなければ、組合の活動を円滑に行うことができない」14と述べ、①内部行為と外部行為との判別困難性と②組合活動の円滑化をあげている。しかし立法担当者は、具体的にどのような場合に内部行為と外部行為との判別が困難なのか、なぜ外部行為適用除外を認めないと組合活動が円滑に運営できないのか説明していない。立法担当者の一応の説明はあるが、アメリカの適用除外の範囲などからみて、適用除外の範囲を外部行為にまで拡大する合理的な理由は見当たらない。
つぎに競争の実質的制限を違法要件(市場効果要件)とする私的独占や不当な取引制限が24条但書後段(競争の実質的制限+不当な対価引き上げ)により適用除外されるのに、それより競争制限の程度の低い萌芽理論(予防規定)による不▇▇な競争方法が24条但書前段により適用除外されない理由が問題
14 ▇▇・前掲注13)301頁。
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になる15。アメリカではCV法審議中の連邦議会上院が内部行為に対する危険な蓋然性理論(独占形成の企画)や萌芽理論(不▇▇な競争方法)の適用を明確に否定している。日本では内部行為に対して競争の実質的制限を違法要件とする私的独占や不当な取引制限の適用が除外されるのに対して、なぜ競争制限の程度の低い萌芽理論(予防規定)による不▇▇な競争方法の適用が除外されないのか、立法担当者の説明は見当たらない。その結果、内部行為適用除外の範囲は狭隘になった。
さらに特定共同行為の禁止(4条)が但書後段により適用除外されるのに対して、不▇▇な競争方法が但書前段により適用除外されないという問題もある。特定共同行為の禁止は反トラスト法上、当然違法類型(per se illegal)に属し、また不▇▇な競争方法は反トラスト法上、萌芽理論に属し、両者は性格を異にするが、競争制限の程度の低い段階で反トラスト法を適用できる点で共通する。なぜ当然違法類型の特定共同行為の禁止が適用除外されるのに対して、萌芽理論の不▇▇な競争方法が適用除外されないのか、立法担当者の説明は見当たらない。
以上のように「組合の行為」、特に内部行為に対して不▇▇な競争方法の適用を除外しない理由が定かでない。既に確認したように不▇▇な競争方法は立法過程の後半(第三次修正試案[ⅳ])において、企業結合規制(14条2項、 15条2項)と但書(23条)に同時に挿入されたものである(【資料4】)。これ
15 「適用除外が外される不▇▇な取引方法の規制は、独禁法違反行為の中では不当性(競争制限の度合い)が相対的に低い行為である。独禁法違反行為の「大物」は「私的独占」や「不当な取引制限」(カルテル等)である。つまり、協同組合の行為は「大物」の規制については原則として適用除外を受ける一方で、
「小物」(?)の規制は適用除外が外されているのである。これが私には腑に落ちない」。▇▇▇▇「巻頭言「競争」と「協同」-独占禁止法における協同組合の立ち位置-」生活協同組合研究2019年6月号2- 3頁(2019)。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
について▇▇=▇▇は1947年3月6日の段階で、日本語版、英語版の両方で、私的独占、不当な取引制限、不▇▇な競争方法の文言が確定したので16、「先に『私的独占』と『不当な競争制限』が適用されうることが明文化されたことに合わせて、その予防的規定である『不▇▇な競争方法』についても同じ扱いにするよう挿入したのであろう」17と推測している。とすれば立法担当者は、組合の内部行為に対して不▇▇な競争方法を適用すれば、どのような結果を招くのか十分検討することなく、企業結合規制への挿入と同時に機械的に但書にも挿入したのであろうか。要するに但書に不▇▇な競争方法を挿入したことに合理性を見出すことは困難である。
3 比 較
以上の検討に基づいて日米の適用除外立法の根拠と範囲を比較する。第1に適用除外の根拠(必要性)であるが、CV法1条も独禁法24条も大企業と農民・小規模事業者との取引上・競争上の格差を問題視し、対等な立場で取引・競争できるよう農民や小規模事業者・消費者の結合(組合)を承認(適用除外)するものであり、表現に差があるが、独禁法24条がCV法1条の適用除外の根拠を継承したといえよう。ただしCV法は対等な立場で取引できるよう結合を認める(対抗力論)のに対して、独禁法24条は対等な立場で競争できるよう結合を認める点(競争力論)で異なる。またCV法は組合が食料投機の防止、中間商人の排除により消費者に「役立つ」(公共性)というのに対して、独禁法24条にそのような理由づけは見当たらない。
第2に適用除外の範囲であるが、CV法1条は活動要件を詳細に定めてお
16 ▇▇▇▇=▇▇▇▇「一九四七年独占禁止法の形成と展開」神戸法学雑誌56巻2号64頁、88頁(2006)。
17 ▇▇=▇▇・前掲注16)248頁。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
り、これを要約すれば内部行為適用除外(外部行為反トラスト法適用)になる。特に重要なのは上院が農協の内部行為に対する危険な蓋然性理論(独占形成の企画)によるシャーマン法適用や萌芽理論による連邦取引委員会法5条
(不▇▇な競争方法)の適用を否決していることである。
これに対して独禁法24条はCV法1条の内部行為適用除外を継受する一方、立法過程の後半で外部行為と但書が挿入され、内部行為但書控除適用除外と外部行為但書控除適用除外になった。この結果、独禁法24条の適用除外の範囲は外部行為にまで拡大される一方、内部行為に対して競争制限の程度が低い萌芽理論(予防規定)による不▇▇な競争方法が適用されることになり、CV法
1条に比べ内部行為適用除外の範囲が極めて狭隘になったのである18。
問題は適用除外の範囲を外部行為にまで拡大したことや但書に不▇▇な競争方法を挿入したことに合理的な理由があるのかである。解釈にもよるが、内部行為に対して「競争の実質的制限」を違法要件とする私的独占や不当な取引制限や当然違法類型で競争制限の程度が低い特定共同行為の禁止が但書後段(競争の実質的制限+不当な対価引き上げ)により適用除外されるのに対して、萌芽理論(予防規定)により同じく競争制限の程度が低い不▇▇な競争方法が但書前段により適用除外されない理由の合理的な説明が見当たらない。
以上の検討から明らかなように、適用除外の範囲を外部行為にまで拡大したり、内部行為に対して不▇▇な競争方法を適用除外しない独禁法24条の制度設計には問題があるように思われる。
18 筆者には日本政府が適用除外の範囲を外部行為まで拡大要請したことが、逆に内部行為に対する不▇▇な競争方法の適用を招いたようにみえる。仮に日本政府がこの要請をしなければ、「組合内部の行為」は維持され、内部行為に対する不▇▇な競争方法の適用は除外されたのではなかろうか(推測)。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
第3章 農協法と排販契約・専用契約
1 アメリカ
(1) 非標準法段階
日米の農協法における排販契約・専用契約の扱いを検討する。第1にアメリカにおける州農協法の発展を概観する19。19世紀初めより草の根的に農協が設立されたこと、19世紀後半、南北戦争以降、農民組織(グレンジ・1867年設立、アライアンス・1877年、ユニオン・1902年、エクイティー・同年など)の協同組合運動が発展したこと、それに伴って各州で徐々に州協同組合法が制定されたこと、当初の州協同組合法は出資を有し、組合員資格を農民に限定しない一般協同組合法(ロッチデール型)であったこと、20世紀前後から組合員資格を農民に限定する農協法や出資を有しない非出資組合法が制定されたこと、これらの州協同組合法の特徴は組合と組合員との排販契約を手厚く保護する排販契約規定等を有しなかったこと(以下「非標準法」という)、1920年前後から全米に商品作物販売運動(Commodity Marketing Movement)と標準法普及運動が広がり、1928年までに48州のうち39州20が標準法(standard act)を採用(採択率約80%)したことである。
第2に非標準法の特徴を確認する。【資料5】は手元に条文のある非標準法と標準法を比較したものである。①~⑤までには販売契約規定、救済規定、第三者契約違反勧誘禁止規定、倉庫業者責任規定、反トラスト法適用除外規定が
19 詳細は▇▇・前掲注2)11-14頁、30-31頁、103-108頁を参照されたい。
20 ▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇, THE LAW OF COOPERATIVE MARKETING ASSOCIATIONS 44 (1931). なお▇▇▇▇▇▇、▇▇▇▇▇▇、▇▇▇▇▇▇▇▇▇は46州説を唱える。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
ない。このような非標準法の場合、農協は附属定款に基づき組合員と排販契約を締結し、組合員が契約に違反した場合、契約に基づき裁判所に救済(損害賠償額の予定、差止、特定履行)を求めることになる。
なお1917年農務省協同組合法案は、連邦農務省がクレイトン法6条の適用除外要件に適合した州農協法を普及するために作成したモデル法案21であり、それを採用したのが1918年ニューヨーク法である。両法には排他的販売(購買)契約規定があり、毎年合理的な撤回及び離脱(withdraw and be released)期間を設けている。組合員が契約に違反した場合の救済は、損害賠償額の予定に限られる。標準法に至るまでの過渡的な農協法といえよう。
【資料5】排販契約規定等に関する非標準法、標準法の比較
制定年 | 名 称 | 事業・組合員資格 | 出資・非出資 | 販売契約 | 救済 (賠償額の予定・差止・特 定履行) | 第三者の契約違反の勧誘 | 倉庫業者の責任 | 反トラスト法適用除外 |
①1909 | カリフォルニア法 | 農業 | 非出資 | × | × | × | × | × |
②1911 | ウィスコンシン法 | 一般 | 出資 | × | × | × | × | × |
③1913 | マサチューセッツ 法 | 農業 | 出資 | × | × | × | × | × |
④1913 | ニューヨーク法 | 農業 | 出資 | × | × | × | × | × |
⑤1915 | ワイオミング法 | 農業 | 出資 | × | × | × | × | × |
21 THE DEPARTMENT OF AGRICULTURE COOPERATIVE BILL(1917), ▇▇▇▇▇ ▇. NOURSE, THE LEGAL STATUS OF AGRICULTURAL CO- OPERATION 457, app. C. (1927). ▇▇は▇▇▇▇「農務省協同組合法案
(1917年)」行政社会論集21巻4号223-233頁(2009)。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
制定年 | 名 称 | 事業・組合員資格 | 出資・非出資 | 販売契約 | 救済 (賠償額の予定・差止・特 定履行) | 第三者の契約違反の勧誘 | 倉庫業者の責任 | 反トラスト法適用除外 |
⑥1917 | 農務省協同組合法案 | 農業 | 非出資 | 〇合理的な撤 回期間 | 〇賠償額の予 定 | × | × | × |
⑦1918 | ニューヨーク法 | 農業 | 非出資 | 〇適当 な撤回期間 | 〇賠償 額の予定 | × | × | × |
⑧1921 | テキサス法 | 農業 | 出資・非出資 | 〇10年以下 | 〇賠償額・差止・特 定履行 | 〇 | × | 〇 |
⑨1922 (ビ | ケンタッキー法ンガム法) | 農業 | 出資・非出資 | 〇10年以下 | 〇賠償額予定・差止・特 定履行 | 〇 | 〇 | 〇 |
(注)②の系統が③④⑤であり、⑥の系統が⑦である。
(出典)産業組合中央会『諸外国ニ於ケル産業組合ニ関スル法令(下)』177頁、183頁、189頁、221頁、231頁、243頁(1925)。▇▇▇▇▇ ▇. NOURSE, THE LEGAL STATUS OF AGRICULTURAL CO- OPERATION 443, 450, 457,
470 (1927).
(2) 標準法段階
つぎに標準法の典型といわれるケンタッキー法(ビンガム販売協同組合法)の排販契約の扱いを検討する。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
【資料6】日米の排販契約規定、専用契約規定等の比較
( )内は条文番号
項 目 | ケンタッキー法(1922年) | 日本農協法(1947年) |
政策宣言・立法目的 | 組合による農産物の理性的な秩序ある販売の奨励、投機と浪費の排除、生産者と消費者間の配給の直接化、取引の安定化を目 的(1) | 農民の協同組織の発達、農業生産力の増進と農民の経済的社会的地位の向上、国民経済の発展を目的(1) |
販売契約規定 | 組合は10年以下の期間、農産物の全部又は一部を組合に排他的に又は通じて販売する契約を 締結できる(17) | 組合は定款の定めにより1年を超えない期間、組合施設の一部を専ら利用する契約を締結でき る(19一) |
救済規定 | 組合は附属定款や販売契約で組合員が契約に違反した場合の損害賠償額の予定を定めたり、差止又は特定履行の判決を求めることができる(18) | ・契約締結は組合員の任意、締結拒否を理由とした組合施設の利用拒否を禁止(19①)。19①に違反した役員は1万円以下の過料(101②) ・行政庁による公益違反の販売 契約の取消し(97) |
第三者契約違反勧誘禁止規定 | 組合員との販売契約違反を故意に勧誘した個人・法人への100 ~1000ドルの罰金、組合への 500ド ル の 違 約 罰 の 支 払 い (26) | 規定なし |
倉庫業者責任規定 | 販売契約に違反して農産物の引き渡しを説得・許可した倉庫業者の違約金500ドルの責任、組 合の差止請求(27) | 規定なし |
行政社会論集 第 32 巻 第4号
項 目 | ケンタッキー法(1922年) | 日本農協法(1947年) |
反トラスト法適用除外規定 | 組合は取引を制限する結合や違法な独占ではない。組合と組合員との販売契約は違法ではない (28) | 農協は独禁法24条各号の要件を備える組合とみなす(7) |
(出典)▇▇▇▇ほか『農協法の成立過程』560-574頁(協同組合経営研究所、 1961、2008)。
▇▇▇▇▇ ▇. NOURSE, THE LEGAL STATUS OF AGRICULTURAL CO- OPERATION 470-490 (1927).
【資料6】によりケンタッキー法を要約すれば、つぎのようになる。①本法の立法目的は協同組合による農産物の理性的な秩序ある販売の奨励、投機と浪費の排除、生産者と消費者間の配給を直接化、取引の安定化であり、この目的を達成するために、つぎの規定を設ける(1条)。②組合は組合員と10年を超えない期間、組合員の農産物の全部又は一部を排他的(exclusively)に又は通して組合に販売するよう求める販売契約を締結することができる(17条)。
③組合員が契約違反した場合に備えて、組合は附属定款又は販売契約で損害賠償額の予定22 を定めることができ、また差止23 又は特定履行24 の判決を求めることができる(18条)。④故意に組合員との販売契約違反を勧誘した個人又は法人は100 ~ 1000ドルの罰金に処せられ、また組合に500ドルの違約罰を支払う(26条)。⑤契約に違反して農産物の引き渡しを説得又は許可した倉庫業者に対して組合は500ドルの損害賠償や差止を請求できる(27条)。⑥組合は取引を制限する結合や違法な独占ではなく、また組合と組合員との販売契約は
22 契約当事者が予め相手方の契約違反の場合の損害賠償額を予約しておくこと。
23 ▇▇法上の救済手続であって、被告に一定の行為をなすことを禁じたり、すでに生じた違法状態の排除のために一定の作為を命じる裁判所の命令。
24 契約違反に対して債務を約束させた形そのままで履行することを強制する▇▇法上の手続。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
違法ではない(28条)。
以上のようにケンタッキー法は、保護すべき排販契約の要件を定め、要件に合致した排販契約を救済規定、第三者契約違反勧誘禁止規定、倉庫業者責任規定、反トラスト法適用除外規定で手厚く保護している。
(3) 統一農業協同組合法(1936年)
標準法は各州でバラツキがあるところから、1936年、統一州法委員全国会議は各州が採用すべき統一農業協同組合法(UNIFORM AGRICULTURAL COOPERATIVE ASSOCIATION ACT、全文32条)を公表した25。統一農協法は販売契約規定( 3年を超える販売契約は毎年20日を下回らない撤回
(withdraw)期間を設定、18条1項)、救済規定(賠償額の予定、差止、特定履行、同条2- 3項)、第三者契約違反勧誘禁止規定(軽罪、100 ~ 1000ドルの罰金、500ドルの違約金、19条)、(倉庫業者責任規定なし)、反トラスト法適用除外規定(20条)を定め、農協(排販契約)を手厚く保護するものであった。その後、統一農協法は3州しか採用されず、1943年に廃止されたが、全国会議が販売契約規定等を各州の農協法が採用すべき規定と認めたことは、排販契約の一般性を示すものである。
(4) ケンタッキー法の改正(1966年)
戦前多くの州が採用した標準法は、戦後どうなったのか。1966年、標準法の典型であるケンタッキー法の排販契約に関する17条、18条、26条、27条、 28条が修正された。すなわち17条と18条が統合・修正され[272.221]に、
25 ▇▇▇▇▇&▇▇▇▇▇▇▇,THE LAW OF AGRICULTURAL CO-OPERATIVE MARKETING 298 (1937). ▇▇▇▇「農業協同組合と合憲性の獲得(1)」行政社会論集24巻3号72-76頁(2012)。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
26条と27条が統合・修正され[272.990] に、28条が修正され[272.295]になった(Kentucky Revised Statutes annonated, vol. 10A・ch 231-281, Official Edition(1989))。このうち内容が実質的に修正されたのは17条である。そこで新[272.221(1)](旧17条)の修正点を確認する。旧17条の販売契約規定は販売契約の契約期間を10年を超えない期間と定めていたが、新
[272.221(1)]はそれを止め、組合員が毎年一定の期間に、一定の通知をすれば離脱(release)できる権利を条件に、一定の契約期間の販売契約を締結できるようにした。予め固定的に長期間の販売契約を締結する代りに、組合員に毎年、離脱権(release)を付与することを条件に長期間の販売契約を締結できるようにしたもので、従来より組合員の権利が保護されたといえよう。
(5) 1980年代の標準法
つぎに連邦農務省の報告書(▇▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇, STATE INCORPORATION STATUTES FOR FARMER COOPERATIVES(CIR No.30, Dep’of
Agriculture,1982)により1980年代の各州の標準法を鳥瞰する。この報告書は全米50州の州農協法84本(各州には1本以上の州農協法がある)にワシントンDCの協同組合法(消費者協同組合法)1本及び標準法(ケンタッキー法、1922年)1本を加えた計86本を対象に300項目にわたって比較分析したもので、比較の基準は1922年のケンタッキー法の各規定である。以下、【資料
7】により排販契約規定等に絞って検討する。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
【資料7】各州の標準法の排販契約規定等 (ケンタッキー法の条文番号)
排他的販売契約 | 契約期間 | 損害賠償額の予定 | 差 止 | 特定履行 | 第三者の契約違反の勧誘 | 倉庫業者の責任 | 反トラスト法適用除外 |
(17条) | (17条) | (18条) | (18条) | (18条) | (26条) | (27条) | (28条) |
49本(45 | 47本(43 | 49本(45 | 47本(45 | 42本(40 | 32本(31 | 報告書に | 47本(41 |
州) | 州)、うち | 州)、うち | 州) | 州) | 州)、うち | 項目なし | 州)、うち |
10年が最 | 34本が標 | 32本が標 | 40本が標 | ||||
多の27▇ | ▇法と同 | 準法と同 | 準法と同 | ||||
じ | じ | じ |
(出典)▇▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇, STATE INCORPORATION STATUTES FOR FARMER COOPERATIVES 100-104, 127-128(CIR No.30, Dep’of Agriculture,1982)
により作成。
① 排販契約:47本(45州)の法律が定めている。
② 排販契約の契約期間:【資料8】によれば、10年以下と定めているのが最多の27本である。その他20年以下がウエストバージニア、15年以下がカリフォルニア、30年以下がアリゾナ(毎年一定の期間撤回を認める場合)、5年以下が5本、自動更新契約(毎年撤回(withdraw)の機会を与える)を認めるのがミネソタとウィスコンシンなど、多様である。
【資料8】契約期間
契約期間 | 法律本数 | うち法律本数 | 備 考 |
契約期間に言及 | 47 | ||
一定の期間 (any period of time) | 3(フロリダ、イ リノイ、バーモント) | ||
最大20年 | 1(ウェストバー ジニア) |
行政社会論集 第 32 巻 第4号
契約期間 | 法律本数 | うち法律本数 | 備 考 |
最大15年 | 1(カリフォルニ ア) | ||
最大10年 | 27 | ||
1(アリゾナ) | 毎年離脱権を付与すれば 30年 | ||
2(ハワイ、ワシ ントン) | 10年以降毎年の離脱権 付与を要求 | ||
最大5年 | 5 | ||
2( ▇ ▇ ソ タ、 ウィスコンシン) | 毎年の離脱権を付与すれ ば自動更新契約を認める | ||
1(ネブラスカ) | 2年後、毎年離脱権を付 与 | ||
最大3年 | 3(*ニューメキシコ、*オクラホ マ、ユタ) | より長期の契約には毎年離脱権を付与 | |
毎年の離脱機会 | 6 | 毎年の離脱権を要求 | |
1(アイオワ) | 最低1年の契約期間 |
(注)*ニューメキシコ、*オクラホマは自然人に限定。
(出典)【資料7】のBAARDA 101-102 (14.04.09), 567-569 (14.04.09)により作成。
③ 損害賠償額の予定:49本(45州)の法律が定めており、うち34本が標準法と同じ規定である。
④ 差止:47本(45州)の法律が定めている。
⑤ 特定履行:42本(40州)の法律が定めている。
⑥ 第三者による契約違反の勧誘:32本(31州)の法律が定めており、標準法と同じ規定である。契約違反の救済より若干数が少ない。
⑦ 反トラスト適用除外:47本(41州、ワシントンDCを除く)の法律が定
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
めており、うち40本が標準法と同じ規定である。
以上のように8割以上の州が農協(排販契約)を手厚く保護する標準法を採用しており、1980年代においても標準法は大きな影響力をもっていることがわかる。
(6) 農業▇▇慣行法(1967年)
多くの州の標準法は第三者契約違反勧誘禁止規定をもっているが、これは州内通商を対象としたものである。そこで州際通商における類似行為を禁止するた め に1967年、 農 業 ▇ ▇ 慣 行 法(Agricultural Fair Practices Act, 7U. S.C.2301-2306)が制定された。本法の規定を概観する。連邦議会は食品産業の支配力の集中に対して平等を達成したいという農民の願いを支持し、連邦法として本法を制定した。本法は個々の農民に協同組合で任意に結合する自由がなければ、販売上、購買上の地位が不利になるので、この権利への干渉を防ぐために、農産物の取引において取扱業者(handler、農産物の購入者、加工業者、契約者、それらの代理人・仲立人をいう、3条)に要求される▇▇な取引慣行の基準を定めたものである26。本法は取扱業者が故意に下記の慣行に従事することを禁止した(4条)。
① 組合への加入・脱退を強制すること。
② 組合員であるか、組合と契約しているか否かで、取引条件を差別すること。
26 The Legal Background For Cooperative Farm Bargaining, Cooperative Farm Bargaining and Price Negotiation 13-15(CIR No.26, Dep’of Agriculture, 1980/1988).
行政社会論集 第 32 巻 第4号
③ 組合との組合員協定又は販売契約、又は取扱業者との契約の締結、継続、違反、解除、終了を強制し、脅迫すること。
④ 組合に属することを拒否し又は辞めるよう組合員に金銭を支払い又は貸付け、経済的価値を与え、報奨金・報酬を提供すること。
⑤ 組合又は取扱業者の財務、経営、活動について誤った報告をすること。
⑥ 本法で違法とされる行為をするように他の人と共謀、結合、合意、取極めをすること。
取扱業者が以上の禁止行為に故意に違反した場合、被害者は予防的救済(差止)や損害賠償を求めて民事訴訟を提起することができ(6条(a)(c))、また農務長官が禁止行為が行われていると信じる合理的な理由があるときは、司法長官に対して民事訴訟(差止)を提起するよう求めることができる(6条
(b))。
2 日 本
(1) 農協法19条の立法過程
日本の協同組合法における専用契約の扱いを概観する。戦後の協同組合法は、アメリカの対日占領政策により職能別協同組合法として制定された。そのうち専用契約規定があるのは農協法(1947年法律132号、旧19条、1年以下、 2015年廃止)、水産業協同組合法(1958年法律242号、24条、2年以下)であり、規定のないのが中小企業等協同組合法(1949年法律181号)である。以下、農協法の専用契約規定の立法過程を検討する。その立法過程は、農林省が総司令部の指令に基づき農業実行組合を基礎とする農協法案を作成した前期、農林省が総司令部天然資源局の指令に抵抗しつつ、農業実行組合を断念し、専用契約規定に転換を図った中期、天然資源局の指示に従って専用契約規定を縮小した後期に大別される。
第1に立法過程の前期であるが、農林省は総司令部の指令「農地改革に関す
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
る覚書」(1945年12月9日)27 に従って第一次案(1946年3月5日)28、第二次案のⅠ(要綱、6月22日)29、第二次案のⅡ(法案、9月15日)30、第三次案
(11 ~ 12月、天然資源局に未提出)31 を作成したが、いずれも農業実行組合を基礎とする統制色の強い法案であった。たとえば第二次案のⅡは、農業実行組合→市町村農協→都道府県農協→全国農協の4段階制をとり、それぞれ統制事業を行うことができた(市町村農協は非組合員に対する統制もできた)。なお農業実行組合とは1932年の産業組合法改正により設けられた農事実行組合に由来し、字を単位として農民を実行組合に組織し、生産工程の共同化を図るものである32。
第2に立法過程の中期であるが、総司令部の▇▇局、経済科学局、天然資源局が農協法案の基本方針に合意し(1946年12月4日)、天然資源局が農林省に「農業会の清算及び農業協同組合の設立のための新立法についての総司令部天然資源局覚書」(1947年1月15日)33 を指示し、「天然資源局第一次案」(同年1~2月)34 を提示した。
当時の農林省の方針は、農業生産に関連する事業を組合の機能の中に組み込むことを重視し、その中心的方策として、字を単位とする農業実行組合を農協の下部組織として組織し、実行組合に農業生産に関連する統制機能を付与する
27 ▇▇▇▇ほか『農協法の成立過程』3頁(協同組合経営研究所、1961、 2008)。
28 ▇▇・前掲注27)10頁。
29 ▇▇・前掲注27)17頁。
30 ▇▇・前掲注27)22頁。
31 ▇▇・前掲注27)63頁。
32 ▇▇▇▇『農業・食料問題入門』247-248頁(大月書店、2013)。
33 ▇▇・前掲注27)111頁。
34 ▇▇・前掲注27)117頁。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
ものであった。しかし総司令部は、実行組合が戦時中に統制組織として重用されたことから、このような方針には否定的であった35。
すなわち農林省の第四次案(1947年3月)36 は、統制事業を削除した農業実行組合(14条以下)を残す一方、契約期間10年以下の専用協約規定(12条)を盛り込んだ。専用協約規定は農林省の発意により、アメリカの協同組合法令にならい採用されたもので、自由の原則に立つ組合と組合員の利用上における結合の保証、これによる組合事業の安定強化を策したものであった37。第五次案(1947年4月)38は、農業実行組合を断念し、契約期間3年以下の専用協約の締結と損害賠償額の予定(11条)を盛り込んだ。
第3に立法過程の後期であるが、天然資源局は第二次案(1947年5月15日)39を指示した。第二次案は契約期間1年以下の専用契約、契約締結は任意、締結拒否を理由とする利用拒否の禁止、毎年の総会における組合員の承認、書面契約、行政庁による公益違反の契約の取消を定めたもので、本案が第六次案以降の法案の基本になった。要するに食糧政策を重視する農林省の農業実行組合を基礎とした統制色の強い農協法案は、総司令部の容れるところとならず、代わり設けた契約期間10年以下の専用契約規定は、1年以下に縮小されたのである。
改めて【資料6】により専用契約に関する農協法の規定を確認する。第1に
35 ▇▇▇▇「占領政策と農協法の成立」『協同組合奨励研究報告』17輯294-5頁
(1991)。
36 ▇▇・前掲注27)127頁。
37 農業協同組合制度史編纂委員会『農業協同組合制度史 1巻』241頁(協同組合経営研究所、1967)、▇▇・前掲注35)296頁。
38 ▇▇・前掲注27)150頁。
39 ▇▇・前掲注27)171頁。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
専用契約規定であるが、定款の定めにより契約期間1年以下の専用契約を締結することができる(19条1号)。1年を越える契約は無効とする学説40もある。
第2に救済規定であるが、契約締結は任意であり、締結拒否を理由とする利用拒否を禁止し(19条2号)、これに違反した役員は1万円以下の過料に処せられる(101条2号)。また行政庁は公益に反する専用契約を取消すことができる(97条)。
以上のように農協法は専用契約規定や救済規定により組合員を手厚く保護する一方、組合員の契約違反や第三者の契約違反の勧誘から農協を保護する規定を欠き、農協にとって保護の薄い制度になった41。
(2) 農協法と専用契約規定
それでは農協は農協法に専用契約規定がなくても、専用契約を締結することができるのであろうか。1947年農協法案審議中の第1回国会において農林省の▇▇農政局長は、「実を申せば協同組合といたしましては、個々の組合員と専属取引の契約は、本来規定がなくても出来るわけでございます。また協同組合といたしましては、たとえば物の販売というような場合に、なるべくならば自分のところで一手にまとめて処理をするというような要求をもつことがあるわけであります。しかしながらそういう事業についての第十九条の規定といたしましては、実際の効果としては、統制としてそういうことはやらないという趣旨が書いてあるわけであります」42 と答弁している。▇▇局長は本来専用契約規定がなくても専用契約の締結は可能であるが、農協法19条がそれに制限を加えているというのである。この答弁はアメリカの非標準法段階での排販契
40 ▇▇▇▇『協同組合法論』154頁(千倉書房、1953)。
41 ▇▇・前掲注27)679頁。
42 農業協同組合制度史編纂委員会・前掲注37)277頁。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
約の締結に合致しており、日本でも農協法の専用契約規定なしに専用契約の締結が可能であることを示唆している。しかも答弁は農協法19条が専用契約に制限を加えているというのであるから、19条が廃止されれば自由に締結できることも示唆している。
(3) 農協法改正と専用契約規定の廃止
その後、食料増産を任務とする戦後農政が終わり、格差是正・規模拡大をめざす基本法農政が展開し、1962年改正農協法により農事組合法人が設けられたが、契約期間をアメリカ並みに長期化(数年~10年)する専用契約規定
(19条)の改正は行われなかった。それどころか2015年、専用契約規定は農協法大改正により突然廃止された。農協法の主な改正点は、つぎのとおりである43。
第1に事業運営原則の明確化と称して、非営利規定を廃止し、農業所得増大への最大限配慮規定や高収益確保規定を設け(新7条)、組合が収益至上主義で運営されるようにしたことである。
第2に自主的組合運営の確保と称して、利用強制を禁止し(新10条の2)、専属利用契約(旧19条)及び回転出資金(旧52条の2条)を廃止したことである。
第3に理事会の見直しと称して、理事の定数の過半数は認定農業者又は実践経営者が占めることとし(新30条12項)、大規模農業者中心の理事会運営を可
43 このような農協法改正に対して、国際協同組合同盟(ICA)は、国連に認知された協同組合原則の「番人」の立場から、本改正が自治と自立の原則(第
4原則)、民主制の原則(第2原則)、地域社会への関与の原則(第7原則)を侵害すると警告した(プレスリリース「国際協同組合同盟は日本の農協と家族経営を脅かす提案に懸念を表明する」、2014年10月9日)。
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能にしたことである(本規定は2019年3月以降で最初に開かれる通常総(代)会まで適用されない)。
第4に組織再編と称して、組合の新設分割や株式会社、一般社団法人、生協、医療法人への組織変更を可能にし、全農、経済連の株式会社化や厚生連の医療法人化が可能になり、総合農協の解体、専門農協化が可能になったことである。
第5に中央会制度の廃止と称して、全国中央会が一般社団法人化されるとともに、全中監査機構が一般の会計監査法人化され、200億円以上の信用事業を行う組合の会計監査人監査が義務づけられた。また都道府県中央会が農協法上の連合会化された(以上は2019年9月末までに実施することとされた)。
第6に附則として、①施行後5年を目途として農協改革の実施状況を調査し、規定を見直し44、②施行日から5年を経過するまでの准組合員の利用状況を調査し事業利用のあり方について結論を出すことが定められた。
以上の改正は、大規模農業者が理事会を支配し、農協を収益至上主義で運用し、総合農協から信用事業や共済事業を分離して専門農協化すること、また中央会制度を廃止し、農協運動の弱体化や系統の弱体化を狙った改正と考えられる。それでは専用契約規定(19条)の削除と利用強制禁止規定の新設(新10条の2)は何を意味するのであろうか。
第1に19条(専用契約規定)の削除であるが、これに合わせて97条(公益違反契約の取消)及び101条3号(19条2項に違反した役員の過料)も削除さ
44 農水省は農協法改正に従って「農協改革」が実施されているかどうかを監視するため、監督規定(93条~ 96条)に基づき認定農業者を対象にアンケート調査(「平成29年度農協改革に関するアンケート調査の実施について」など)を実施している。
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れた。これによって農協法は専用契約規定について中協法と同じ水準(白紙)になったのであるから、組合は組合員と自由に専用契約を締結できると考えられる。
第2に利用強制禁止規定(新10条の2)の新設であるが、「利用強制」が何を意味するのか定義・要件が定まっていない。独禁法の「抱き合せ販売その他の取引強制」(一般指定10項)を意味するのであれば、組織法である農協法に敢えて規定する必要はない。それとも独禁法の取引強制の範囲を超える行為まで規制するというのであろうか。農水省の監督指針45 は「法10条の2の規定に反して組合員に事業利用を強制する行為や、独占禁止法に定める「不▇▇な取引方法」に当たる行為が行われていないか」(Ⅱ- 3- 2(6))監督するという。ここでは「利用強制」と「不▇▇な取引方法」が併存しており、農水省が独自に「利用強制」を理由に農協に監督介入するおそれがある。また公取委も「利用強制」を根拠に、農業分野タスクフォースや情報提供窓口を設けている。
しかし利用強制禁止規定にもかかわらず、本来組合員の契約は任意であり、組合員の自主性に委ねるべき性格のものであり、組合員の自由意思にもとづく専用契約の締結は可能と考えられる46。
3 比 較
以上の検討に基づき、日米の農協法における排販契約・専用契約の扱いを比較する。第1に農協は農協法に排販契約・専用契約規定がなくても、同契約を締結できるのか。アメリカでは排販契約規定のない非標準法段階でも、農協は
45 農水省「農業協同組合、農業協同組合連合会及び農事組合法人向けの総合的な監督指針」(2011年、最終改正2019年)。
46 ▇▇▇「農協法の改正について」農林金融2015年10月号5頁(2015)、同
「農協法改正の検証と望まれることなど」にじ2016年臨時増刊(656号)51頁
(2016)。
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附属定款に基づき組合員と排販契約を締結し、組合員の契約違反に対して裁判所に救済(損賠賠償、差止、特定履行)を求めて提訴し、認容されてきた。
それでは日本ではどうであろうか。農協法案を審議した第1回国会において農林省の▇▇農政局長は、「専属取引の契約は、本来規定がなくても出来る」と答弁している。この答弁はアメリカの非標準法段階での排他的販売契約の締結と合致しており、日本でも専用契約規定なしに専用契約の締結が可能であることを示唆している。しかも答弁は農協法19条が専用契約に制限を加えているというのであるから、19条が廃止されれば自由に締結できることも示唆している。
第2に農協法における排販契約・専用契約の保護の仕方である。アメリカの標準法は排販契約規定、救済規定、第三者契約違反勧誘禁止規定、倉庫業者責任規定、反トラスト法適用除外規定により、農協(排販契約)を手厚く保護している。
これに対して日本の農協法は専用契約規定や救済規定によって組合員を手厚く保護しているが、組合員の契約違反に対する救済規定や第三者契約違反勧誘禁止規定がなく、農協の保護が薄い。両国の排販契約・専用契約に対する対応は対照的である。
第3に排販契約・専用契約の時間的制限であるが、アメリカの標準法の時間的制限は長期間(10年以下が最も多い)であるのに対して、日本の農協法は短期間(1年以下)である。
2015年の農協法大改正によって専用契約に関する19条、97条及び101条3号が削除され、中協法と同じ水準(白紙)になった。これによって農協は自由に専用契約を締結できるようになったと考えられる。
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第4章 排販契約・専用契約に関する判決・法運用
1 アメリカ
(1) 戦前の判決
(a) 判決の整理
日米の排販契約・専用契約に関する裁判所の判決、公取委の法運用を比較する。アメリカでは非標準法段階から各州の農協は附属定款に基づき排販契約を用いており、ときとして契約に違反した組合員に対して損害賠償、差止、特定履行を求めて州裁判所に提訴することがあった。また第三者が農協に対して差止等を求めて提訴することもあった。さらに標準法制定以降、各州の農協は排販契約違反の組合員に対して積極的に損害賠償等を求めて提訴するようになった。かくして各州に排販契約に関する判決が集積するようになった47。
【資料9】は、1900年代から1920年代までの排販契約に関する州最高裁の判決を整理したものである。これらの判決は当時の論文や判決でよく引用されているものであり、全部ではないが、かなりの部分を網羅しており、当時の判決の動向を把握するのに十分である。
【資料9】排販契約に関する判決の類型(数字は判決の件数)
請 求 類 型 | 組合敗訴 | 組合勝訴 | |
A 組合が組合員に請求(損害賠 | 非標準法組合 3 | 非標準法組合 | 11 |
償、差止、特定履行) | 根拠法不明組合 | 6 | |
標準法組合 | 16 | ||
B | 第三者が組合に請求(差止) | 非標準法組合 1 | 0 |
47 詳細は▇▇・前掲注2)108-117頁を参照されたい。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
請求類型Aは、組合が組合員に対して損害賠償等を請求した事件の判決であるが、合計36件ある。うち組合が敗訴した判決が3件あるが、いずれも設立が非標準法による組合(以下「非標準法組合」という)の判決である。他方、組合が勝訴した判決が33件ある。その内訳は、設立が非標準法組合の判決が 11件、設立が非標準法か標準法か不明な組合(以下「根拠法不明組合」という)の判決が6件、設立が標準法による組合(以下「標準法組合」という)の判決が16件である。
請求類型Bは、第三者が組合に対して差止等を請求した事件の判決であるが、非標準法組合が敗訴した判決が1件ある。以下、請求類型別に判決を検討する。
(b) 非標準法組合の敗訴判決
非標準法組合が排販契約に違反した組合員を提訴し、組合が敗訴した判決は、つぎの3件である。なお下線の当事者名をもって判決名に代える。
[Burns v. Wray Farmers’Grain Company, 65 Colo.425, 176 P.487(1918) Colo.]
[▇▇▇▇▇▇ v. El Paso Egg Producers’Ass’n, 278 S.W.262(Tex.Civ.App.1925) Tex.]
[Colorado Wheat Growers’Ass’n v. Thede, 80 Colo.529, 253 Pac.30
(1927)Colo.]
また第三者が非標準法組合を提訴し、組合が敗訴した判決は、つぎの1件である。
[▇▇▇▇▇▇ v. Decorah Farmers’Co-op. Society,160 Ia.194, 140 N.W. 844
(1913)Ia.]
以上4件の判決において非標準法組合が敗訴した理由を整理すると、つぎの
行政社会論集 第 32 巻 第4号
ようになる。
① コモン・ローの違法性判断基準に合理の原則を採用し、排販契約が不合理な制限であり、無効とした判決([▇▇▇▇▇] [▇▇▇▇▇▇])。これらの判決において裁判所が不合理な制限と判断した理由は、損害賠償額の予定が競争者の競争上の立場を不利にし、組合員の取引の自由を制限したことである。
② 排販契約が公共政策に違反し、無効とした判決([Thede])。
③ 州協同組合法に基づかずに設立された組合の排販契約が州反トラスト法に違反し無効とした判決([Fisher])。
以上の判決のうち、[Burns] [Thede] はコロラド州の州最高裁判決であり、また[▇▇▇▇▇▇]はアイオワ州の州最高裁判決であり、いずれも協同組合の特権を厳格に解釈する裁判所として知られている。
(c) 非標準法組合の勝訴判決
つぎに非標準法組合が組合員を提訴し、組合が勝訴した判決は、つぎの11件である。
[Owen County Burley Society v. Brumback, 128 Ky.137, 107 S.W.710
(1908)Ky.]
[Burley Tabocco Society v. Gillaspy, 51 Ind. App.583, 100 N.E.89(1912) Ind.]
[Ex parte Baldwin County Producers’Corp., 203 Ala.345, 83 So.69(1919) Ala.]
[Castorland Milk and Cheese Co. v. ▇▇▇▇▇▇, 179 N.Y.S.131(1919)N.Y.]
[Bullville Milk Producers’Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, 108 Misc.582, 178 N.Y.S.612(1919)N.Y.]
[Anaheim Citrus Fruit Association v. Yeoman, 51 Cal.App.759, 197 P. 959
(1921)Cal.]
[Washington Cranberry Growers’Association v. ▇▇▇▇▇, 117 Wash.430,
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
201 P.773(1921)Wash].
[Poultry Producers of Southern Cal. Inc., v. ▇▇▇▇▇▇, 189 Cal.278, 208 P.93
(1922)Cal.]
[Pierce County Dairymen’s Ass’n v. Templin, 124 Wash.567, 215 P.352
(1923)Wash.]
[Brown v. Staple Cotton Co-op. Ass’n, 132 Miss.859, 96 So.849(1923) Miss.]
[▇▇▇ ▇. Clearwater Growers’Ass’n, 93 Fla.214, 111So.722(1927)Fla.]
これらの判決において非標準法組合が勝訴した理由を整理すると、つぎのようになる。第1にコモン・ロー、州反トラスト法の違法性判断基準に合理の原則を採用し、排販契約が合理的な制限であり、有効とした判決がある(4件、 [▇▇▇▇▇▇] [Armstrong] [▇▇▇▇▇] [▇▇▇])。以下、▇▇▇▇▇▇事件判決をみてみよう。
【Shantz事件判決】(Castorland Milk and Cheese Co. v. ▇▇▇▇▇▇, 179 N.Y.S.131 (1919)).
1909年、ニューヨーク州カスターランドの酪農民40人が、①組合の設立と②組合員が生産したミルク全量の組合への引き渡し及び③違反した場合の各年牛
1頭当たり2ドルの損害賠償額の予定に合意し、1910年に原告組合を設立した。 1915年3月31日から被告組合員▇▇▇▇▇が第三者にミルク全量を引き渡したので、原告組合が▇▇▇▇▇▇に対して合意に基づき損害賠償を求めて提訴し、原告が勝訴した。
裁判所は「酪農民のすべてのミルクを組合に引き渡す契約は、違法な独占又は取引の不合理な制限ではなく、ニューヨーク州の法に違反しない」と判示した。
第2に 排販契約が公共政策に違反せず、有効とした判決がある(2件、 [Gillaspy] [Moore])。以下、▇▇▇▇▇事件判決をみてみよう。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
【Moore事件判決】(Washington Cranberry Growers’Association v. ▇▇▇▇▇, 117 Wash.430, 201 P.773 (1921)).
ワシントン州パシフィック郡のクランベリー生産者80人のうち60人が、原告クランベリー組合(1913年州協同組合法により設立)との間で生産したクランベリーの全部を組合に引き渡す契約を締結した。1920年、被告組合員▇▇▇▇▇が生産したクランベリー 1,300箱のうち、500箱を第三者に販売したので、原告組合が組合員の第三者への販売差止を求めて提訴し、州最高裁で勝訴した。
裁判所は「組合を通じてのみクランベリーを出荷することを組合員に要求する組合と組合員との契約は、市場を安定化し、すべての生産者に対する配当の統一を獲得することを意図する限りにおいて、特定の市場においてクランベリーの生産を制限したり、その価格を支配又は拘束するものでなければ、公共政策に違反せず、コモン・ロー上無効ではなく、独占とトラストに関する州憲法22条(反トラスト条項)に違反せず、また連邦議会の連邦反トラスト法に違反しない」と判示した。
第3にその他の判決であるが、①適用除外規定により排販契約への州反トラスト法の適用が除外されるとした判決(1件、[Bawlow])、②排販契約が州憲法(反トラスト条項)に違反しないとした判決(2件、[Brumback] [Moore])、
③排販契約が適用除外法により連邦反トラスト法の適用が除外されるとした判決(1件、[Moore])がある。
以上のように排販契約の保護が不十分な非標準法組合の段階でも、ケンタッキー、インディアナ、ニューヨーク、カルフォルニア、ワシントン、ミシシッピー、フロリダの7州の州最高裁は、排販契約を有効とし、協同組合の特権を寛大に解釈し、組合を勝訴させていることがわかる。
(d) 標準法組合の勝訴判決
標準法組合が組合員を提訴し、勝訴した判決は、つぎの16件であり、敗訴した判決はない。
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[Oregon Growers’Co-op. Ass’n v. Lentz, 107 Ore.501, 212 P. 811(1923) Or.]
[Tobacco Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇, 185 N.C.265, 117 S.E. 174
(1923)N.C.]
[Kansas Wheet Growers’Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇▇, 113 Kan.672, 216 P.311
(1923)Kan.]
[Texas Farm Bureau Cotton Ass’n v. Stovall, 113 Tex.273, 253 S.W.1101
(1923)Tex.]
[Potter v. Dark Tobacco Growers’Co-op. ▇▇▇’▇, ▇▇▇ ▇▇.441, 1257 S.W. 33(1923)Ky.]
[Tabacco Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, 187 N.C.252, 121 S.E.631
(1924)N.C.]
[Dark Tobacco Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇, 150 ▇▇▇▇.228, 263 S.W.60(1924)▇▇▇▇.]
[Minnesota Wheat Growers’Co-op. Marketing Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇▇, 162 Minn.47, 203 N.W.420(1925)Minn.].
[▇▇▇▇▇▇ ▇. Alabama Farm Bureau Cotton Association,213 Ala.61,104 So.264(1925)Ala.]
[Rifle Potato Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇, 78 Colo.171, 240 P.937
(1925)Colo.]
[Clear Lake Co-op. Livestock Shippers’Ass’n v. ▇▇▇▇, 200 Ia.293, 206 N.W.297(1925)Ia.]
[Dark Tobacco Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, 84 Ind.App.51, 150 N.E.106(1926)Ind.]
[Burley Tobacco Growers’Co-op. Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇, 84 Ind.App51, N.E.384
(1926)Ind.]
[List v. Burley Tobacco Growers’Co-op. ▇▇▇’▇, ▇▇▇ ▇▇.▇▇.▇▇▇, ▇▇▇ ▇.
行政社会論集 第 32 巻 第4号
E.471(1926)Oh.]
[Elmore v. Maryland & Virginia Milk Producers’Ass’n, 145 Va.42, 134 S.E.472(1926)Va.]
[South Carolina Cotton Growers’Co-op. Ass’n v. English, 135 S.C.19, 133 S.E.542(1926)S.C.]
これらの判決において標準法組合が勝訴した理由を整理すると、つぎのようになる。
① コモン・ロー、州反トラスト法の違法性判断基準に合理の原則を採用し、排販契約が合理的な制限であり、有効とした判決(3件、[Rogers] [English] [List])
② 排販契約が公共政策に違反せず、有効とした判決(3 件、[▇▇▇▇▇▇] [▇▇▇▇▇▇▇▇▇] [▇▇▇▇▇])
③ 適用除外規定により排販契約への州反トラスト法適用が除外されるとした判決(2件、[▇▇▇▇▇▇▇▇▇] [ English])
④ 後法優先の原則(同じ法形式の2つの法が相互に矛盾・抵触する場合、時間的に後に制定された法が、時間的に先に制定された法に対して優先的に適用されるとする原則)により、州反トラスト法よりも標準法を優先適用し、排販契約を有効とした判決(1件、[▇▇▇▇▇])
⑤ 排販契約が州憲法(反トラスト条項)に違反しないとした判決(1件、 [Huggis])
⑥ 連邦反トラスト法の適用が除外されるとした判決(2件、[▇▇▇▇▇▇▇▇▇] [English])
以上のように各州裁判所が標準法組合を勝訴させた理由は多様であるが、排販契約の保護が手厚い標準法組合の段階において、オレゴン、ノース・カロライナ、カンザス、テキサス、ケンタッキー、▇▇▇▇、テネシー、ミネソタ、
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
アラバマ、コロラド、インディアナ、オハイオ、バージニア、サウス・カロライナの14州の州最高裁が、すべて組合を勝訴させていることがわかる。
(e) 撤回・離脱の機会を付与しない排販契約の効力
排販契約は組合員を長期間拘束する契約である。そこで撤回・離脱の機会を付与しない契約の効力がどうなるかが問題になる。この点についてSalyer事件判決(1925年)を検討する。
【Salyer事件判決】(Oklahoma Cotton Growers’Ass’n v. ▇▇▇▇▇▇, 114 Okla.77, 243 P.232 (1925)).
被告組合員▇▇▇▇▇▇が排販契約に違反して第三者に棉花を販売したところ、原告Oklahoma Cotton組合(1917年州協同組合法)が被告組合員に対して損害賠償、差止命令、特定履行を求めて提訴し、オクラホマ州最高裁で原告組合が敗訴した。
1917年州協同組合法13条は、附属定款で組合員に排販契約を定めることができるが、その場合、組合員に組合から撤回(withdraw)する手段を定めなければならないと規定していた。原告組合の附属定款には撤回の定めはなかった。
裁判所は組合員にすべての生産物を組合を通じて販売することを強制する組合の権利は、組合員に与えられた撤回の権利の条件になっている。附属定款が損害賠償額の予定について定めるが、適当な通知にもとづく撤回の機会の付与について定めていない場合は、先の条件を充たしていないから執行できず、また今後の違反に対する差止命令や特定履行判決による▇▇法上の救済も認められないと判示した。
本判決は撤回の機会を付与しないと執行を認めないとするもので、他に同様の判決が3件ある48。
48 Carmichael v. Oklahoma Cotton Growers’Ass’n, 117 Okla.24, 245P.598
(1926)、▇▇▇▇▇▇ v. Oklahoma Cotton Growers’Ass’n, 118Okla.238, 247
行政社会論集 第 32 巻 第4号
(F) 第三者の排販契約違反の勧誘に関する判決
第三者が組合員に対して排販契約違反を勧誘した場合の判決が3件ある。まず契約違反を勧誘した第三者の責任が法定されていない非標準法段階の判決を検討する。
【Bekkedal事件判決】(Northern Wisconsin Co-op Tobacco Pool v. Bekkedal, 192 Wis.571, 197 N.W.923(1924))
原告Northern Wisconcin Tobacco組合(1921年非標準法により設立)と組合員はタバコの排販契約を締結したが、被告第三者▇▇▇▇▇▇▇▇が組合員に対して契約違反を勧誘したので、原告組合が被告第三者に対して差止を求めて提訴し、ウイスコンシン州最高裁で組合が勝訴した。
本判決は①1921年非標準法にもとづき設立された組合と組合員との契約であって、5年間組合に彼らが育てたすべてのタバコを販売することに合意し、引渡し、その州のタバコの生産者の75%が同じ契約署名したときに契約が発効し、毎年通知により終了する権利を与え、損害賠償額の予定を定めるものは、損害賠償額の予定規定(1786e-7)により承認される。②1747e条を含む一般反トラスト法よりも後に制定された1921年非標準法は、かかる一般的な法律の修正として考慮されなければならず、その法律の制定前に疑問視されていた慣行を正当化すると判示した。
本判決は後法優先の原則により、非標準法の効力を優先させ、契約違反を勧誘した第三者に対する差止を認めたものである。
つぎに契約違反を勧誘した第三者の責任が法定されている標準法段階の判決が2件あるが、判断は分かれている。
P.39(1926)、▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇ v. Oklahoma Wheat Growers’Ass’n, 120Okla. 19, 250P.71(1926).
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
【Radke事 件 判 決 】(Minnesota Wheat Growers’Co-op Marketing Ass’n v. ▇▇▇▇▇, 163 Minn.403, 204 N.W. ▇▇▇ (▇▇▇▇))
▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇ ▇▇▇▇▇▇▇(▇▇▇▇年標準法による設立)は、被告独立エレベーター業者▇▇▇▇▇に対して組合員からの小麦購入の差止を求めて提訴し、ミネソタ州最高裁で敗訴した。
500ドルの違約金の支払いをもって第三者が組合の契約下にある生産物を購入し又は取扱うことを禁止する1923年標準法27条の効力について、本判決は法27条が州憲法及び合衆国憲法によって保障された契約の自由を侵害し、本条違反の救済は失われると判示した。
【Hollingworth事件判決】(▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇ v. Texas Hay Ass’n, 246S.W. 1068
(Tex.Civ.App.1922))
原告Texas Hay組合(1921年標準法による設立)と被告組合員▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇は乾草の排販契約を締結したが、被告第三者▇▇▇▇▇▇▇が組合員に対して契約違反を勧誘したので、原告組合が被告組合員及び被告第三者に対して損害賠償と差止を求めて提訴し、テキサス州最高裁で原告組合が勝訴した。
排販契約が州憲法及び州反トラスト法に違反するかどうかについて、本判決は州の公共政策のもとで、協同組合は州憲法26条(反トラスト法適用除外条項)及び1911年反トラスト法(7796-7808条)に違反する違法なトラストではないと宣言することは立法権の範囲内であると判示した。
以上3つの第三者契約違反勧誘に関する判決を整理する。第1に第三者契約違反勧誘禁止規定のない非標準法段階において、州最高裁は組合の差止請求を認め、組合を保護したことである。第2に第三者契約違反勧誘禁止規定のある標準法段階において、最高裁の判決は禁止規定を違憲とする判決(▇▇▇▇▇)と合憲とする判決(Hollingwort)に分かれたが、前者は標準法の規定よりも契約自由を優先するもので、時代的制約の強い判決であると考えられる。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
(2) 戦後の判決
戦後、排販契約が反トラスト法に違反するかどうかが争われた判決は、あまり見当たらない。1例としてHolly Sugar事件判決を検討する。
【Holly Sugar事件判決 】(Holly Sugar Corporation v. Goshen County Cooperative Beet Growers Association(725 F.2d 564(10th Cir(. 1984)).
被告甜菜組合は、ワイオミング州ゴーシェン郡の約230人の甜菜生産者を組合員とする交渉組合(bargaining association)49である。被告組合と組合員は、組合員が製糖業者と個別に契約することを禁止し、違反した場合、販売された甜菜1トン当り2ドルの損害賠償額の予定を定める販売協定を締結した。例年通り被告組合と原告Holly製糖会社が1983年産甜菜の契約交渉を開始したが、 1983年5月、組合員は132対70で製糖会社の申出を拒否することを議決し、同時に177対55で、組合員が製糖会社と個別に契約することを禁止する販売協定を解除しないことを議決した。
原告製糖会社と原告甜菜生産者2人(組合員)は、被告組合が販売協定の条件を執行するために提訴すると脅し、原告組合員が製糖会社と個別に契約をすることを禁止することを止めさせる差止命令を求めて連邦地裁に提訴した。原告らは販売協定が反トラスト法に違反すると主張し、地裁は請求を認め、差止命令を発給したので、被告組合は連邦控訴裁判所に上訴した。
控訴裁判所は反トラスト法違反の争点について「法律問題として、訴状も訴訟記録も組合が合衆国反トラスト法に違反したと立証していない。クレイトン法6条及びカッパー=ヴォルステッド法1条は農業販売組合のため反トラスト法からの限定的な適用除外を確認している」と判示した。
49 交渉組合とは、生産者(組合員)のために購入者(加工業者)と価格及び数量、引き渡し時期などの販売条件について交渉する組合である。交渉組合が大量の生産物を代表することは、組合により多くの市場支配力を与え、個々の生産者より交渉を効率的にする。交渉組合は通常農産物を所有せず、生産物を実際に取り扱わない。組合員は組合が交渉した価格等で加工業者に直接販売する。交渉組合は果実、野菜、特に穀物、乳製品及び甜菜の加工によくみられる。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
連邦控訴裁判所は、「法律問題として反トラスト法違反は存在しない」と判示し、原判決を破棄し、差し戻した。その後、組合は若干の組合員に対して販売協定違反による損害賠償を求めて郡裁判所に提訴した。郡裁判所は組合員が製糖会社と販売協定を結んだとき、先の地裁の差止判決によって保護されると判示した。そこで組合が上訴し、州最高裁は当該判決を破棄した(Goshen County Cooperative Beet Association v. ▇▇▇▇▇▇▇, 706 P. 2d 1121
(Wyoming 1985))。以上の判決は、組合と組合員の間で自由に結ばれた販売協定は、反トラスト法に違反しないことを示している50。
2 日 本
(1) 公取委の法運用
日本では専用契約に関する判決や法運用の事例が少なかったが、近年増加傾向にある。まず公取委の農協ガイドラインから検討する。
(a) 農協ガイドライン(2007年)
第1に農協ガイドライン(「農業協同組合の活動に関する独占禁止法上の指針」、2007年)策定の背景である。政府は1990年代から規制緩和政策を推進し、独禁法関係では独禁法24条や適用除外法(1953年法律259号)の適用除外制度を見直してきたが、検討の結果、独禁法24条については現行規定で問題事例に対処可能との結論に至り、適用除外法の廃止で決着した。これは分野を特定しない独禁法24条の適用除外制度の見直しであった。
ところが2000年代になり、規制改革・民間開放推進会議第2次答申(2005年)は、農業分野への「新規参入等を通じた競争を促進し、良質・廉価な商品
Agricultural Marketing Cooperatives 1 (CIR No.45, Section 15, Dep’of Agriculture,1998).
50 ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, supra note1, at 319.
行政社会論集 第 32 巻 第4号
が市場流通するような環境を整備する」と称して、①株式会社の農業分野への新規参入、②農協改革の推進、③農協の不▇▇な取引方法等への対応強化のためのガイドラインの策定を提起した。その後、この第2次答申の方向に沿って農協ガイドラインが策定され(2007年)、また農業委員会法、農地法、農協法等が改正された(2015年)。農協ガイドラインは協同組合に共通のガイドラインではなく、農協に特化したガイドラインであり、時の政府の農業政策に沿って農業分野への新規参入を促進するために策定されたものと考えられる。
第2に農協ガイドラインの目的である。農協ガイドラインは農協が「組合員の自由かつ自主的な判断による取引を妨げることや、農業協同組合と競争関係にある商系業者等との取引の機会を奪うことなどを通じて、農業分野における競争に悪影響を及ぼすこと」を問題視し、違反行為の未然防止と農業分野における▇▇かつ自由な競争促進のためのガイドラインを策定したという(第1部の1(1))。そして販売事業に関する問題行為として「単位農協が組合員に対して、組合員が販売事業を利用する際に、全量又は一定量の割合・数量以上について販売事業の利用を条件とする行為」は、不▇▇な取引方法に該当し違法になるおそれがあるという(一般指定10項(抱き合わせ販売等)、第11項(排他条件付取引)又は第12項(拘束条件付取引))(第2部第2の2(1))。これは農協と組合員の内部行為である専用契約(全量出荷)が「組合員の自由かつ自主的な判断による取引」を妨げ、「商系業者の取引の機会を奪う」として一律に違法視するもので、農業分野への非農業資本の新規参入を促進するという農協ガイドラインの目的を示すものと考えられる。
(b) 公取委の事例
このような農協ガイドラインの方向に沿って、農協への全量出荷を違法とする事例が現れた。
[1]【新函館農協花卉組合警告・平22(2010)・7・14】51
花卉組合が、同組合の組合員が生産する花卉の全てを新函館農協に出荷する
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
こと等を内容とする規約を定め、これに違反して商系業者に出荷した花卉組合員を(新函館農協の)議決権のない准組合員に降格させるなどしたことが、花卉組合員の事業活動を不当に制限(8条4号)している疑いがあるとされた。本件は農協でなく、花卉組合(事業者団体)の行為を違法と警告したものであるが、下記の農協への全量出荷を違法視する事件の頭出しであった。
[2]【▇▇▇▇農協事件・排除措置命令平29(2017)・3・29】52
▇▇▇▇農協が、なすの販売を受託をする組合員を支部員に限定し、組合員が系統外出荷をした場合、①支部から除名し、②系統外出荷手数料や③罰金を収受し、経費に充てることを条件に組合員からなすの販売を受託することが、組合員の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引するものであり、拘束条件付取引(一般指定12項)に該当するとされた。
[3]【阿寒農協注意・平29(2017)・10・6】53
阿寒農協が、販売割賦課金の導入及び販売手数料の引下げを決議し、実施したことが、系統外出荷を行う組合員に対し、合理的理由なく不利益を与えるものであり、優越的地位の濫用(2条9項5号ハ)につながるおそれがあるとされた。
[4]【大分県農協事件・排除措置命令平29(2018)・2・23】54
大分県農協は、こねぎの販売受託に関し、個人出荷を理由として味一ねぎ部会を除名された5名に対して、味一ねぎに係る販売事業等を利用させない行為を行っており、この行為は、大分県農協が、不当に、ある事業者に対し取引の条件について不利な取扱いをしているものであって、取引条件等の差別的取扱
51 ▇▇▇▇ほか「JA新はこだて花卉出荷組合に対する警告等について」▇▇取引721号113頁(2010)。
52 ▇▇▇▇▇://▇▇▇.▇▇▇▇.▇▇.▇▇/▇▇▇▇▇▇/▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇/▇▇▇/▇▇▇/▇▇▇▇▇▇. html
53 ▇▇▇▇▇://▇▇▇.▇▇▇▇.▇▇.▇▇/▇▇▇▇▇▇/▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇/▇▇▇/▇▇▇/▇▇▇▇▇▇.▇▇▇▇
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行政社会論集 第 32 巻 第4号
い(一般指定4項)に該当するとされた。
これらの事例([1]を除く)をみると、公取委の法運用にはつぎのような特徴がみられる。第1に事実関係や違反行為類型(拘束条件付取引、優越的地位の濫用、取引条件等の差別的取扱い)は異なるが、組合への全量出荷を違法視していることであり、第2に違法視する実質的な理由は、「組合員の自由かつ自主的な判断による取引を妨げることや、農業協同組合と競争関係にある商系業者等との取引の機会を奪うことなどを通じて、農業分野における競争に悪影響を及ぼすこと」であり、第3に国又は地方自治体の価格支持制度55 や補助金制度56 を利用し、一定の系統利用率や目標出荷量の達成を義務づけられている農協を標的にしていることである。
(2) 訴 訟
(a) 行政訴訟
[5]【▇▇▇▇農協排除措置命令取消請求事件・東京地判平31(2019)・3・ 28・平成29年(行ウ)第196号】【同控訴事件・東京高判令元(2019)・
11・27・令和元年(行コ)第131号】
本件判決は上記[2]の排除措置命令の取消を求めた行政訴訟であり、裁判所は公取委の主張を支持し、農協の請求を棄却した。本件は、農協が提起した初めての取消訴訟であるが、第▇▇及び控訴審は農協敗訴(請求棄却)で終わった。
55 野菜生産出荷安定法(1966年法律103号)、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法(1965年法律112号)、大分県野菜価格安定対策事業による価格支持制度。
56 強い農業づくり交付金制度による共同出荷施設の設備・機械調達のための補助金制度。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
(b) 民事訴訟
専用契約に関する判決は少ないが、つぎの2件を検討する。これらは専用契約規定のない中協法上の組合の事例である。
[6]【八重山地区生コン協組事件・那覇地裁石垣支部判平9(1997)・5・30判時1644号149頁】
生コンの共同販売事業を行う事業協同組合(適格組合、原告)が、共同販売規約に違反して生コンを組合を経由せずに直接販売した組合員(被告)に対して過怠金の支払いを求めた民事訴訟において、裁判所は請求を認容した。
裁判所は、原告の行為が独禁法24条但書の不▇▇な取引方法に該当するとの被告の主張に対して、つぎの2つの理由から過怠金を定めた「本件制裁規定が共同販売を事実上強制するものであるとしても、不▇▇な取引方法とまでは認めることができない」と判示した。
第1に「共同販売の実効性を確保する上で本件制裁規定を設けることにやむを得ない事情があ」り、制裁規定の「内容自体直ちに不合理ということはできない」こと、すなわち「有効な競争単位になりえない中小業者による連合体としての組合の内部での過当競争を回避し、共同販売事業の実効性を確保することは不可欠であり、これをもって▇▇な競争を阻害するということは相当でない」こと。
第2に「共同販売の強制といっても、あくまでも自由脱退…を前提とするものである以上、競争力に自信のある組合員業者は脱退の上組合と▇▇な競争を行うことはいつでも可能であり、むしろそのような棲み分けを通じて▇▇な競争を図ることが期待されている」こと。
裁判所は第1においても、第2においても不▇▇な取引法の違法要件である▇▇競争阻害性は認められないとし、不▇▇な取引方法の該当を否定したのである。これは協同組合の共同販売事業のための制裁規定に正当事由を認めたものと解される。
[7]【東建設事件・福岡高裁▇▇支部判平5(1993)・10・27審決集40▇
▇▇社会論集 第 32 巻 第4号
695頁】
生コンの共同購買事業を行う事業協同組合(被告)の組合員が、組合を経由しないで生コンを購入し、組合の事業を妨げたとして除名されたので、組合員
(原告)が除名決議の無効確認を求めた事例である。福岡高裁は、組合と組合員との間に「実質的には…専用契約が成立している」として、総代会の除名決議を有効とした。
最判平成9(1997)・9・18(未公刊)は、法律上の根拠もなく、合意も存在しないとして専用義務を否定し、原判決(福岡高裁)を破棄し、除名決議を無効とした。最高裁は判決理由中で、原判決が組合の定款にこのような規定があることを認定しておらず、証拠上も認められないとしている。それゆえ学説は最高裁が「定款の規定により組合事業の利用義務を課すことは可能との前提にたっている」57と理解している。
以上2件の事例は専用契約規定のない中協法上の組合の事例であるが、第1に裁判所は専用契約規定のない中協法上の組合が専用契約を締結することが可能と解しており、専用契約規定が廃止された農協が専用契約を締結できることを示唆している。第2に裁判所は協同組合の共同販売事業のための制裁規定に正当事由を認め、不▇▇な取引方法の該当を否定しており、これは農協ガイドラインを検討する上で参考になる。
3 比 較
以上の検討に基づき日米の排販契約・専用契約に関する判決・法運用を比較する。第1に排販契約・専用契約規定のない協同組合法上の組合が排販契約・専用契約を締結できるかという問題がある。アメリカでは排販契約規定のない非標準法段階から農協は附属定款に基づき排販契約を締結していた。
57 ▇▇▇▇『解説中小企業協同組合法』42頁(日本評論社、1999)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
これに対して日本では[6]八重山地区生コン協組事件判決や[7]東建設事件判決において裁判所は専用契約規定のない中協法上の組合が専用契約を締結することが可能と解しており、この点では日米の裁判所に差はないようにみえる。
第2に排販契約・専用契約が競争法に違反するかどうかという問題がある。アメリカでは排販契約規定のない非標準法段階でも、いくつかの裁判所は排販契約をコモン・ロー、反トラスト法に違反しないと判示している。標準法段階では多くの裁判所が違反しないと判示し、戦後も同様の傾向が続いている。
これに対して日本では事例が少ないが、公取委は農協ガイドラインにおいて農協への全量出荷を違法視しており、実際、具体的な事例([1][2][3]
[4])もある。また裁判所も[5]にみられるように、行政訴訟において公取委の法運用を追認している。他方、民事訴訟では[6]にみられるように、裁判所は専用契約が不▇▇な取引方法に該当しないと判示しており、公取委と裁判所の判断は分かれている。
第3に排販契約・専用契約が競争法に違反するかどうかの理由づけの問題がある。アメリカの裁判所は当初、非標準法段階で、合理の原則を採用しつつ排販契約(維持条項)の損害賠償額の予定が競争者の競争上に立場を不利にし、組合員の取引の自由を制限すると判示したことがある(1913年▇▇▇▇▇▇事件判決、1918年Burns事件判決)。しかしその後、裁判所は排販契約を合理的制限であるとしたり、公共政策に違反せず有効と判示するようになり、上記の2判決は乗り越えられている。
これに対して公取委は農協への全量出荷を違法視する理由として「組合員の自由かつ自主的な取引が阻害されるとともに、競争事業者が組合員と取引する機会が減少することとなる」からという。この理由づけは1910年代の上記2判決の理由づけと類似する。これに対して裁判所は、[6]において、協同組合の共同販売事業のための制裁規定に正当事由を認め、不▇▇な取引方法の該当性を否定しており、裁判所と公取委の判断は分かれている。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
第4に排販契約・専用契約の時間的制限の問題がある。アメリカでは組合員にすべての生産物を組合を通じて販売することを強制する組合の権利は、組合員に与えられた撤回・離脱権の条件になっており(Salyer事件判決)、排販契約には撤回・離脱の機会の付与が不可欠であるという。これに対して日本ではこの種の法運用や判決は見当たらない。
第5に組合員に契約違反を勧誘した第三者の責任の問題がある。アメリカでは第三者の契約違反勧誘禁止規定のない非標準法段階でも、裁判所は後法優先原則を採用し、後に制定された非標準法が反トラスト法に優先するとして組合の差止請求を認め、組合を保護した(Bekkedal事件判決)。また禁止規定のある標準法段階でも裁判所は農協が州反トラスト法に違反しないとして、差止請求を認めている(▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇事件判決)(認めないのはRadke事件判決)。これに対して日本ではこの種の法運用や判決は見当たらない。
要するにアメリカの裁判所は、農協の排販契約を反トラスト法から保護し、また組合員の契約違反や第三者の契約違反勧誘行為から組合を保護している。これに対して日本では時の政府の農業政策に沿った農業分野への新規参入を促進する農協ガイドラインが策定され、組合との専用契約に違反した組合員が
「自由かつ自主的な判断による取引」が妨げられたとして保護され、また契約違反を勧誘した商系業者が「取引の機会を奪われた」として保護されるという、対照的な構図になっている。
第5章 排販契約・専用契約に関する学説
1 アメリカ
日米の排販契約・専用契約に関する学説を比較する。まずアメリカの学説であるが、排販契約について体系的に論じた学説は少ない。第1に排販契約の目的であるが、▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇は売手(組合員)は契約で定められたすべての農産物を組合に販売することに合意し、組合はこれらすべてを購入することに
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
合意する。その結果、組合員は彼らの農産物の市場を確保し、組合は将来の数量を確認する現実的な基礎を確保することができるという58。
また▇▇▇▇▇▇▇▇▇は、農産物の全部又は一部を農協に引き渡すよう組合員を拘束する販売協定(marketing agreement)は組合員の収入を引き上げるという目的を達成するために十分な農産物及び市場支配力の双方を集めることが重要であるという59。
第2に排販契約の時間的制限であるが、PACKELは、コモン・ロー上、取引を制限する契約は、制限が不合理である場合、無効であり、執行できない。もしも契約が組合員に組合を通じてのみ永久に販売することを義務づけるならば、それは疑いもなく不合理な取引制限になる。しかし制限が3~5年の限られた期間であれば、不合理な制限とはされず、また契約が1年以上運用された後、組合員に適切な通知をして協定から撤回する権利(privilege to withdraw)を付与するならば、同様に合理的な制限になるという60。契約期間を数年に制限したり、毎年通知し、撤回・離脱権を与えるならば、不合理な制限にはならないという。
また▇▇▇▇▇▇は、排販契約に合理的な期間制限があり、組合員に協定を終了させる合理的な機会が提供される限り、組合は反トラスト法と衝突しない。しかしそのような契約は組合が組織された州法の枠組みの中で作成されなければならないという61。
58 ▇▇▇▇▇▇ ▇. ▇▇▇▇▇▇▇▇▇▇, COOPERATIVE BUSINESS ENTERPRISE 216 (1976).
59 ▇▇▇▇▇▇▇▇▇, supra note1, at 317.
60 ISRAEL PACKEL, THE LAW OF THE ORGANIZATION AND OPERATION OF COOPERATIVES 150 (2nd ed. 1947).
61 ▇▇▇▇▇▇▇ ▇. ▇▇▇▇▇▇, Agricultural Cooperatives and the Antitrust Laws 101, 43 NEB.L. REV. 73 (1963).
行政社会論集 第 32 巻 第4号
2 日 本
(1) 専用契約規定がある場合
日本の学説を協同組合法に専用契約規定のある場合(農協法旧19条、水協法24条)と、ない場合(中協法)に分けて検討する。まず専用契約規定のある場合であるが、第1に専用契約の目的について、▇▇説は組合員の施設利用は法律的直接の拘束力がなく「組合が種々の事業計画をする場合、すこぶる不安定なものになる」ので、「少なくとも相当程度の利用者についてその最低限をあらかじめ固定して、確保しておく」62 のが立法趣旨だという。上柳説は専用契約制度は「組合事業の利用量を確保して経営の安定を図ることを目的にする」という63。▇▇説は農協法が加入脱退の自由を認めたため、「協同組合としての拘束性が頗る稀薄となった。その結果組合員に対して、組合施設の専用利用を強制する必要を生じた」64 という。▇▇説も組合員は事業利用の義務がないので「組合員の事業利用の自由を尊重しつつも、組合にある程度の事業分量を確保し、その経営の安定を図る必要」から本制度が設けられたという65。
これらの学説は、組合員の加入・脱退の自由や契約の自由により非排他的な販売契約では一定の事業量の確保が難しく、経営が不安定になるので、一定の事業量を確保し、経営の安定を図るために専用契約が必要になるという。
第2に専用契約の時間的制限であるが、▇▇説は「組合員の圧迫を避けるため」農協法に「組合員保護」66 が定められたという。上柳説は専用契約により
「組合員の自由が不当に拘束される危険がある」ので、農協法は一定の制限の
62 ▇▇・前掲注40)153頁。
63 ▇▇▇▇『協同組合法 法律学全集54巻』74頁(有斐閣、1960)。
64 ▇▇▇▇▇『協同組合法の研究』265頁(有斐閣、1964)。
65 ▇▇▇▇『農業協同組合法』148-149頁、156頁(第一法規、1974)。
66 ▇▇・前掲注40)153頁。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
もとに契約を締結できるようにしたという67。また▇▇説は「組合が組合本位の立場からその利益のため組合員をあまり強く拘束し、従属化することがないように、専用利用契約の内容を制限している」68 という。学説は組合員の圧迫、不当な拘束を避け、組合員を保護するため、農協法が一定の時間的制限を加えたという。
(2) 専用契約規定のない場合
つぎに専用契約規定のない場合であるが、上柳説は中協法上の組合でも農協法旧19条、水協法24条を類推し「組合員の自由を著しく拘束しない範囲内で専用契約を締結できる」と解している69。▇▇説も中協法上の組合について
「専用契約が組合の事業量を確保して経営の安定を図ることを目的とするものであるところから、また契約の自由の一般原則からみて」一定の制限のもとで専用契約の締結は認められるという70。
また▇▇説は専用契約が締結されていない場合でも、定款・規則により事業利用を強制できるとする。その理由として組合員が事業を利用しなければ組合は存続できないこと、定款は法の強行規定又は公序良俗に違反しない限りいかなる事項でも定めることができることをあげている。問題となるのは独禁法であるが、22条但書に該当しない限り、定款・規則で合理的な一定量の利用を義務づけることは許されるという71。
これに対して▇▇説は、前記の[6]八重山地区生コン協組事件判決や
67 上柳・前掲注63)74-75頁。
68 ▇▇・前掲注65)156頁。
69 上柳・前掲注63)74-75頁。
70 ▇▇▇▇「事業協同組合の共同購買事業利用義務」ジュリスト1103号132頁
(1996)。
71 ▇▇・前掲注57)40-42頁。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
[7]東建設事件判決を問題視する立場から、①中協法上の組合が組合員に組合事業の専用義務を課すことは中協法上許されず、また②独禁法上も「組合の行為」に該当せず、独禁法の適用を受けるといい72、前記の学説とは対照的である。①について▇▇説は、中小企業庁の法案骨子が「組合事業の自由」をあげたのは、組合事業の利用強制は独禁法の禁止する私的独占、不当な取引制限に該当するおそれがあり、また実質上統制に転移するおそれがあり、独禁法との関係を意識して「利用強制を明示的に否定」したのであり、中協法に専用契約規定を置かなかったのは、このためであるという73。
確かに▇▇説が指摘するように法案骨子には上記の記載があるが74、その後、中小企業等協同組合法案要綱(1949年)75、中小企業等協同組合法(1949年法律181号)、事業協同組合定款例76、事業協同組合設立指導指針(1950年)及び事業協同組合運営指針(1951年)77に専用契約や利用強制に関する記述はなく、白紙である。
それでは白紙であることをどう理解すべきか。▇▇説は中協法に専用契約規定を置かず、「利用強制を明示的に否定」したというが、契約自由の制限には法律の根拠が必要であり、中協法が専用契約を明示的に禁止していない以上、
72 ▇▇▇「中小企業等協同組合法上の組合の専用義務と独禁法」▇▇▇▇還暦記念『近代企業法の形成と展開 2巻』666頁、670頁(成文堂、1999)。
73 ▇▇・前掲注72)666頁。
74 ▇▇▇▇「中小企業等協同組合と法」▇▇▇▇ほか『現代経済法講座 8巻』 93頁(三省堂、1993)。
75 商工政策史刊行会『商工政策史 12巻』424頁以下(1963)。
76 ▇▇▇▇『中小企業等協同組合法 附中小企業安定法』486頁以下(有斐閣、 1952)。
77 中小企業行政研究会『中小企業関係法令集(1)』148条ノ2以下、184条ノ
4以下(新日本法規、1975)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
組合は自由に専用契約を締結できるのではなかろうか。そう解した方がアメリカの非標準法段階での排販契約の締結、▇▇農政局長の答弁、判決[6][7]、▇▇説以外の学説と整合する。
さて2015年改正農協法により専用契約規定が削除された。これを学説はどう解釈するのか。▇▇説は19条の専用契約規定は制約的であり、特に廃止すべき積極的理由は見当たらないが、「組合員は自由意思に基づき組合との間で契約不履行の場合の一定のペナルティーを含む販売契約を締結することは契約自由の原則のもと可能である」とし、考え方によっては「自由度が拡大した」という78。
3 比 較
以上の検討に基づき、日米の学説を比較する。第1に排販契約・専売契約の目的であるが、アメリカの学説は排販契約が組合にとって事業量の確保と市場支配力の強化をもたらし、組合員にとって販売先の確保と有利販売による収入増をもたらし、両者にメリットをもたらすという。
これに対して日本の学説は、組合員の加入・脱退の自由や契約の自由により非排他的な販売契約では一定の事業量の確保が難しく、経営が不安定になるので、一定の事業量を確保し、経営の安定を図るために専用契約が必要になるという。アメリカの学説が組合員と組合の双方のメリットを強調するのに対して、日本の学説は組合側のメリットのみ強調しており、専用契約の意義づけが狭い。
第2に排販契約・専売契約の時間的制限であるが、排販契約は組合員を長期間拘束するところから、アメリカの学説は組合員を永久に拘束する契約は不合理な制限であり、無効であるが、契約期間を数年に制限したり、毎年の通知と
78 ▇▇・前掲注46)農林金融5頁、にじ51頁。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
撤回・離脱権を付与すれば、不合理な制限にはならず、反トラスト法にも違反しないという。
これに対して日本の学説は、アメリカの標準法の排販契約規定の内容や上記の学説をほとんど考慮することなく、農協法の立法過程において天然資源局の指示により契約期間を10年以内から1年以内に短縮された19条の専用契約規定を所与の前提として、組合員の不当拘束の回避、組合員保護のために制限が設けられたという。このような制限は自由主義的農協法の制定をめざす占領政策のもとでやむを得ないものであったが、類推すべき専用契約規定が農協法から削除された現在、▇▇説がいうように農協は自由に専用契約を締結できると考えるべきである。
第6章 結 論
1 検討結果の要約
本稿の課題は、継受関係のある日米の競争法適用除外立法及び農協法における排販契約・専用契約の扱いを比較し、日本法の問題点を明らかにしつつ、専用契約に関する独禁法適用除外立法上の扱い及び農協法上の扱いの見直しの方向性を検討することであった。これまでの検討結果を要約すればつぎのようになる。
第1に適用除外立法の適用除外の根拠であるが、アメリカの適用除外立法
(CV法)は、相手方と農民との取引上の格差を問題視し、対等な立場で取引できるよう農民の結合を承認したのに対して、独禁法24条は大企業と小規模企業との競争上の格差を問題視し、対等な立場で競争できるよう小規模事業者・消費者の結合を承認した。またCV法では組合が食料投機の防止や中間商人の排除により消費者に「役立つ」といわれるが、独禁法24条にはそのような意義づけはない。
また適用除外の範囲であるが、CV法は内部行為適用除外(外部行為反トラ
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
スト法適用)であり、連邦議会上院は内部行為に対する危険な蓋然性理論(独占形成の企画)や萌芽理論(不▇▇な競争方法)の適用を否定するものであった。これに対して独禁法24条の適用除外の範囲は、紆余曲折の末、内部行為適用除外に外部行為と但書が挿入され、内部行為但書控除適用除外、外部行為但書行為適用除外になった。この結果、内部行為に対して萌芽理論(予防規定)による不▇▇な競争方法の適用が除外されず、CV法1条に比べ適用除外の範囲が極めて狭隘になった。
第2に農協法の排販契約・専用契約の扱いであるが、アメリカでは非標準法段階から農協は附属定款に基づき排販契約を締結し、裁判所は契約違反の組合員から農協を保護していた。その後多くの州が排販契約規定、救済規定、第三者契約違反勧誘禁止規定、反トラスト法適用除外規定を定める標準法を採用し、農協(排販契約)を手厚く保護した。他方、標準法は契約期間を10年以下に制限したり、毎年の通知と撤回・離脱権を付与することにより、長期間の拘束から組合員を保護している。また連邦法である農業▇▇慣行法も取扱業者の一定の行為を禁止している。
これに対して日本の農協法旧19条の専用契約規定は、紆余曲折の末、契約期間1年以下の貧弱な専用契約規定になった。アメリカの標準法が農協(排販契約)保護であるのに対して、日本の農協法は組合員保護であり、両者は対照的である。なお農協法案を審議した第1回国会において▇▇農政局長が農協法に規定がなくても専用契約は締結できると答弁をしたことを確認しておこう。第3に排販契約・専用契約に関する判決・法運用であるが、アメリカでは非 標準法段階から裁判所は組合員の契約違反から組合(排販契約)を保護してきた。また標準法段階でも組合員の契約違反や第三者の契約違反の勧誘から契約を保護してきた。他方、裁判所は長期間の排販契約について適当な通知と撤回・離脱権の付与を条件にしていた。概してアメリカの裁判所は排販契約に寛
大である。
これに対して日本の公取委は農業分野への非農業資本の参入を促進する規制
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改革・民間開放推進会議の農業政策に沿った農協ガイドラインを策定し、専用契約(農協への全量出荷)を一律に違法視し、厳格(狭隘)であり、アメリカとは対照的である。なお裁判所は民事訴訟において専用契約規定のない中協法上の組合が専用契約を締結することは可能と判示している。
第4に学説であるが、アメリカの学説は排販契約が組合に事業量の確保と市場支配力の強化をもたらし、組合員に販売先の確保と有利販売による収入増をもたらし、両者にメリットをもたらすという。他方、排販契約は組合員を長期間拘束するので、契約期間を数年に制限したり、毎年の通知と撤回・離脱権を付与すれば、コモン・ロー上不合理な制限とはならず、反トラスト法にも違反しないという。
これに対して日本の学説は農協法上の専用契約について、組合員の加入・脱退の自由や契約の自由により非排他的な販売契約では経営が不安定になるので、一定の事業量を確保し、経営の安定を図るために専用契約が必要であるという。他方、学説は組合員の圧迫、不当な拘束を回避し、組合員の自由を保護するために専用契約に一定の制限を加える必要があるという。アメリカの排販契約が長期間なのに、日本の専用契約が短期間なのは、占領政策の反映というほかはない。他方、専用契約規定のない中協法上の組合の場合、学説は概ね一定の制限のもとに専用契約の締結を認めている。日本の学説が専用契約に慎重なのは占領政策の反映である。
以上の検討結果からアメリカは反トラスト法適用除外立法上、農協法上、排販契約の扱いに寛大であるのに対して、日本の公取委の専用契約の扱いは厳格
(狭隘)である。厳格な理由として考えられるのは、①内部行為に対して不▇▇な取引方法の適用を除外しない独禁法22条の存在(制度設計の問題)、②農協法旧19条の貧弱な専用契約規定の存在(占領政策の反映)、③専用契約を一律に違法視する公取委の農協ガイドラインや法運用の存在(時の政府の農業政策に沿った適用除外立法の法運用)である。そこでつぎに③の法運用の問題点を検討しよう。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
2 専用契約と「よいとこどり組合員」
農協ガイドラインは農協が組合員に全量出荷を義務づけ、組合員と商系業者の取引を制限する行為を一律に違法視している。しかし独禁法24条が継受したアメリカの適用除外立法の立法者意思や関係判決からみて、このような法運用には疑問がある。そこで改めてこのような法運用の目的は何か検討する。
第1に独禁法24条の適用除外制度の目的であるが、社会的経済的弱者である小規模事業者・消費者が、対抗力・競争力を強化し、対等な立場で取引・競争できるよう結合を認めることにある。
第2に専用契約の目的は、組合員の農産物を組合に集中し、経営を安定させ、規模の経済により対抗力・競争力を強化するとともに、組合員に販売先
(組合)を確保し、有利販売による収入増をもたらすことである。専用契約は農協の対抗力・競争力の強化を目的としており、22条の適用除外制度の趣旨・目的と一致する。
第3に専用契約に反対する組合員の対応である。組合員が非排他的な販売契約に限界を感じ、総会などでの民主的手続を経て専用契約を選択した場合、組合員は専用契約に拘束されることになる。専用契約に反対する組合員は、時間的制限(契約期間の満了、撤回・離脱権の行使)を待って専用契約を終了したり、組合を脱退することができる。「競争力に自信のある組合員業者は脱退の上組合と▇▇な競争を行うことはいつでも可能であり、むしろそのような棲み分けを通じて▇▇な競争を図ることが期待されている」(八重山地区生コン協組事件判決)といわれている。
第4に組合員が商系業者と取引した場合の組合の対応である。反対組合員が商系業者と取引した結果、専用契約の目的である対抗力・競争力の強化に支障をきたし、経営が不安定になるよう場合、組合が附属定款や専用契約に基づき損害賠償、差止、強制履行を請求したり、懲戒処分(八重山地区生コン事件判決)することはありうることである。
しかし組合の上記の行為は、公取委の農協ガイドラインによれば、つぎのよ
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うな理由により違法とされるおそれがある。たとえば「組合員の中には、卸売市場におけるなすの取引価格によっては系統外出荷を行う方が系統出荷を行うよりも多くの販売代金を得られる場合があること、なすの販売代金が早期に支払われること等から、系統出荷を行うことに加え系統外出荷も行いたいという意向を有している者」(▇▇▇▇農協事件排除措置命令書5- 6頁、以下「よいとこどり組合員」という)がおり、それを制限する行為は「組合員の自由かつ自主的な判断による取引」を妨げ、「商系業者の取引の機会を奪う」から、違法になるという。
農協ガイドラインが前提とする組合員、すなわち「よいとこどり組合員」は、たとえば「今日は有利な農協へ」「明日は有利な商系へ」と目先の利益を求めて取引先を変更する組合員であり、専用契約選択に関する総会決議や専用契約を無視する組合員であり、多くの組合員の全量出荷の成果に「ただ乗り」する組合員であり、協同組合の目的である「相互扶助」に思いが至らない組合員である。
公取委がこのような「よいとこどり組合員」を保護すると、専用契約が目的とする対抗力・競争力は強化されず、組合の経営は不安定になり、多くの事業量確保による組合員のための有利販売も困難になる。このような法運用こそ、農協を弱体化し、農業分野への非農業資本の新規参入を促進する時の政府の農業政策に沿った法運用といえよう。しかしこのような法運用は、「国民経済の民主的…な発達を促進する」という独禁法1条の究極目的に反する法運用といえる(後述70-73頁)。
仮にアメリカで「よいとこどり組合員」が組合と排販契約を締結したのにもかかわらず、商系業者と取引した場合、組合は当該組合員に①損害賠償、差止、特定履行を請求し、また②契約違反を勧誘した商系業者に違約罰を請求することができ、さらに③商系業者は罰金に処せられることもあろう(標準法による)。
以上のようにアメリカと日本では排販契約・専用契約の扱いが対照的であ
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る。日本において公取委が農協ガイドラインのような法運用を行う根拠には、内部行為に対して不▇▇な取引方法の適用を除外しない独禁法22条の存在があると思われる。そこで専用契約の選択が独禁法違反にならないためには、専用契約が不▇▇な取引方法に該当しないという独禁法22条の解釈論が必要になる。そこで筆者が注目するのが正当化理由論である。
3 正当化理由論
(1) 正当化理由論の概要
独禁法の主な違法行為(私的独占、不当な取引制限、不▇▇な取引方法)の成立要件は、行為主体要件+行為要件+違法要件(公共の利益に反して、競争の実質的制限、▇▇な競争を阻害するおそれ)から構成されている。正当化理由論とは、この違法要件は反競争性があるというだけでは成立せず、それに加えて「正当化理由がない」場合に初めて成立するという理論である79。
すなわち正当化理由という要素は、競争の実質的制限や▇▇競争阻害性という文言の中に盛り込まれており、正当化理由がなくて初めて競争の実質的制限や▇▇競争阻害性が満たされるとする(正当化理由があれば、競争の実質的制限や▇▇競争阻害性は満たされない)。
それゆえ正当化理由の成否は、その事案での反競争性と連動し、そのような反競争性をおこしてでも実現すべきものであるかどうかによって決まるものであるから、反競争性と正当化理由は総合して1個の判断としてその成否を観念すべきであるという。正当化理由として認められるかの判断基準は、目的と手段の両面における正当性の成否である。そこで従来、正当化理由ありとされた事例を概観する。
79 ▇▇▇▇『独占禁止法』83頁、86頁、89頁(有斐閣、3版、2016)。
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(2) 正当化理由が認められた事例
(a) 私的独占、不当な取引制限の場合
不当な取引制限の違法要件である「公共の利益に反して」(2条6項)に正当化理由を読み込んだ事例がある。
【石油価格協定刑事事件・最判昭59(1984)・2・24審決集30・136】
石油元売各社の石油製品の値上げ合意が不当な取引制限に該当するかどうかが争われた事例において、裁判所は、不当な取引制限の要件を形式的に満たす場合であっても、独禁法の直接の法益(自由競争経済秩序の維持)と当該行為によって守られる利益とを比較考量し、同法の究極目的(一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する)に実質的に反しない例外的な場合、当該行為は「公共の利益に反して」に当たらず、不当な取引制限は成立しないとした。
(b) 事業者団体活動規制の場合
違法要件である「競争を実質的に制限すること」(8条1号)に正当化理由を読み込んだ事例に【日本遊戯銃組合事件・東京地判平9(1997)・4・9審決集44・635】、【大阪バス協会事件・公取委審判審決平7(1995)・7・10審決集42・3】がある。競争の実質的制限に安全性を考慮した事例を概観する。
【日本遊戯銃組合事件】
エアーソフトガン製造業者を組合員とする事業者団体がエアーソフトガンの安全性に関する自主基準を策定し、組合員に遵守するよう要請したことが8条
1号に該当するのかどうかが争われた事例において、裁判所は上記最高裁判決を引用し、「同法の究極の目的(同法1条)に実質的に反しないと認められる例外的な場合には、当該行為は、公共の利益に反さず、結局、実質的には『一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為』に当たらない」と判示した。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
(c) 不▇▇な取引方法の場合
違法要件である「不当に」「正当な理由がないのに」(▇▇競争阻害性)に正当化理由を読み込んだ事例を概観する。
(ア) 事業経営上・取引上の必要性に正当化理由を認めた事例
【資生堂東京販売(▇▇▇)事件・最判平10(1998)・12・18審決集45・ 455】【花王化粧品販売事件・最判平10(1998)・12・18審決集45・
461】がある。
(イ) 公益性を考慮した事例
【東京手形交換所事件・東京高判昭58(1983)・11・17審決集30・161】・
【▇▇▇と畜場事件・最判▇▇(1989)・12・14民集43・12・2078】、
【町営福祉バス事件・山口地▇▇▇判平18(2006)・1・16審決集52・ 918】などがある。
【▇▇▇と畜場事件】
▇▇▇と畜場の廉売行為が不当廉売(旧一般指定6項)に該当するかどうかが争われた事例において、裁判所は「独禁法19条の趣旨は▇▇な競争秩序を維持することにあるから、『不当に』ないし『正当な理由がないのに』なる要件に当るかどうかは、専ら▇▇な競争秩序維持の見地に立ち、具体的な場合における行為の意図・目的、態様、競争関係の実態及び市場の状況等を総合考慮して判断すべき」であり、「食肉の都民に対する集荷量の確保および価格の安定を図るという公益性が考慮される」と判示した。
(ウ) 安全性を考慮した事例
【東芝昇降機サービス事件・大阪高判平5(1993)・7・30審決集40・ 651】、【日本遊戯銃組合事件・東京地判平9(1997)・4・9審決集44・
635】などがある。
【東芝昇降機サービス事件】
エレベーターの部品と部品の取替調整工事との抱き合せが抱き合せ販売(一般指定10項)に該当するかどうかが争われて事例において、裁判所は「商品
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の安全性の確保は、直接の競争の要因とはその性格を異にするけれども、これが一般消費者の利益に資するもの」であり、「広い意味で公益に係る」から、
「当該取引方法が安全性の確保のために必要であるか否かは、右取引方法が
『不当に』なされたかどうかを判断するに当たり、考慮すべき要因である」と判示した。
4 専用契約の正当化理由
(1) 専用契約の必要性
近年、日本の農産物の流通は、卸売市場中心の取引から大規模食品関係業者
(外食・中食業者、加工業者、大規模小売業者など)との直接取引に変化しつつあり、合併農協や大規模農業者が強大な買手支配力(buyer power、購入数量や購入価格を競争水準以下に引き下げる力)をもつ大規模食品関係業者に対抗することが困難になりつつある。欧米でも近年、流通過程が寡占化し、強大な買手市場支配力をもつ大規模小売業者が台頭し、競争法上、有意な弊害をもたらしているという80。さらに買手市場支配力の問題は小売市場だけの問題に限られず、たとえば、零細な農家・酪農家と加工業者との取引、天然資源採取とその精製・加工に係る取引等、さまざまな分野においてその影響が懸念されている81。
このような農産物の流通過程において、農協が組合員と非排他的な販売契約を締結する場合、組合員には加入脱退の自由や契約の自由があるから、農協が
80 ▇▇▇▇「欧米の流通市場における買手▇▇▇の競争への影響について-大規模小売業を中心として-」▇▇取引745号18頁(2012)。同「買手市場支配力規制における違法性判断基準-米国における展開を中心として-」日本経済法学会年報35号99頁(2014)。
81 ▇▇▇▇=▇▇▇▇「フードシステムにおける市場支配力の垂直的関係と農協」農業と経済83巻7号22頁(2017)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
組合員のために有利販売をするのに必要な事業量を確保することができず、十分な対抗力を形成できない場合が生じうる。
また2018年にTPP11や日欧EPAが、2020年に日米FTAが発効し、今後、輸入農産物が増加し、輸入業者と組合員、農協との競争が激化することが予想され、日本の食料自給率(1965年度と2018年度を比較すると、カロリーベースでは73%→37%へ、生産額では86%→66%へ、なお2018年度のカロリーベースでの自給率はアメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%)82がさらに低下することが懸念され、食料安全保障(食料主権)上、由々しき事態を招きかねない。
さらに食料自給率の低下は農業生産額の減少や農業生産基盤の弱体化をもたらし、農業の多面的機能を低下させ、地球温暖化、環境破壊、巨大災害の発生、地域社会の荒廃などを招くことになる。
そこで農協が大規模食品関係業者に対する対抗力を強化したり、農産物の輸入業者に対する競争力を強化するためには、産地を形成し、規格・品質の均一なブランド農産物を大量に生産・販売したり、大量の農産物を集荷・選別・発送する施設・設備を整備する必要があり、そのためには長期間の専用契約が必要になる。
(2) 目的の正当性
(a) 究極目的と協同組合の関係
学説によれば、ある行為の正当化理由の有無は「目的の正当性」と「手段の相当性」から判断されるという。正当な目的とは、反競争性という弊害を起こしてまでも達成すべきものであり、その行為によって達成されるものと反競争性の弊害を比較考量して、弊害が上回るとき、違法要件が満たされるとすると
82 農業協同組合新聞2019年8月10日付。
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いう83。また手段が正当と認められるか否かの判断基準は、正当な目的を実現するために合理的に必要とされる範囲内のものといえるか否かであるという84。そこで専用契約の目的の正当性から検討する。
専用契約の目的は、組合員の農産物を組合に集中し、事業量を確保し、経営を安定させ、規模の経済により対抗力・競争力を強化するとともに、組合員に販売先を確保し、有利販売による収入増をもたらすことにある。他方、専用契約は組合員の自由を長期間拘束するおそれがあり、また組合内部での取引・競争を制限し、独禁法1条の直接目的である「▇▇且つ自由な競争の促進」に抵触するおそれがある。しかし専用契約が独禁法1条の究極目的である「一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達の促進」に抵触しなければ、正当性が認められる可能性がある(前出【石油価格協定刑事事件】【日本遊戯場組合事件】を参照)。
そこでまず究極目的である「国民経済の民主的…発達」と協同組合の関係を検討する。独禁法1条の目的にこの文言が挿入されたのは、つぎの事情による。すなわち独禁法の立法過程において上記の文言が挿入されたのは、日本政府が総司令部に提出した修正試案(1947年2月25日)85 1条からである。その前の試案(1947年1月28日)86 1条では「この法律は…▇▇な事業活動を自由且つ旺盛にし…以て、一般消費者の利益を確保すると共に、国民経済の健全な発達を促進することを目的とする」となっていた。
総指令部はこの試案1条の目的規定に不満を抱き、日本政府に対して「本法の目的を明瞭に規制すること、即ち(1)自由競争を助長せしめること。(2)
83 ▇▇・前掲注79)91頁。
84 ▇▇・前掲注79)102頁。
85 ▇▇=▇▇・前掲注16)84頁。
86 総合研究開発機構戦後経済政策資料研究会『財閥解体・集中排除関係資料
(2)』378頁(日本経済評論社、1998)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
民主主義的経済の樹立を図ること。(3)権力の集中を防止すること。(4)自由企業を抑制しないこと。(5)民主主義を確保することを規定すること」という修正意見(1947年2月5日)87を提示した。
これを受けて修正試案1条は「この法律は…事業支配力の過度の集中を防止 して…▇▇且つ自由な競争を促進し…以て、一般消費者の利益を確保すると共に、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」と修正され88、下線部分が挿入されたのである(下線部分は筆者)。
それでは総司令部はなぜ「民主的」にこだわったのであろうか。その背景にはアメリカの対日占領政策(財閥解体・集中排除政策)が係っていたものと思われる。すなわちアメリカの財閥解体・集中排除政策の原則は「民主主義的基礎の上に組織せられたる労働、産業及び農業に於ける組織の発展は之を奨励支持すべし所得並に生産及商業手段の所有権を広範囲に分配することを得しむる政策は之を支持すべし」(降伏後における米国の初期の対日方針、1945年9月 22日)89 であり、「(い)所得と生産及び商業手段の所有権とを広く分配することを許す政策。(ろ)労働、産業、農業における民主主義的基礎の上に組織された団体の発達」(降伏後における初期の基本的指令、1945年11月1日)90であり、また「イ 所得並びに生産及び商業の手段の所有権の一層広汎なる分配を許すこと、ロ 日本内に於ける平和的民主主義的勢力の伸長に資する如き経済的方途及び制度の発達を促進すること」(持株会社の解体に関する総司令部覚書、1945年11月6日)91であった。
87 ▇▇=▇▇・前掲注16)82頁。
88 ▇▇=▇▇・前掲注16)84頁。
89 大蔵省財政史室『昭和財政史 17巻 資料( 1)』19頁(東洋経済新報社、 1981)。
90 大蔵省財政史室・前掲注89)26頁。
91 大蔵省財政史室・前掲注89)40頁。
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このような背景のもとに総司令部が日本政府に提示した カイム案(1946年
8月頃)921 条は上記の原則を反映し、「平和的かつ民主的な諸勢力の成長に寄与するような型の経済的な手段及び制度を助長することを目的とする」ものであった。
要するに対日占領政策の原則は、所得・所有の分散と対抗勢力である民主主義的勢力の伸長であり、そのための手段・制度の発達であり、総司令部はこの原則を貫徹するために「民主的」を挿入させたものと思われる。
それでは原始独禁法の立法担当者たちは「国民経済の民主的な…発達」をどのように理解していたのであろうか。▇▇▇▇▇は、「民主的」について「日本経済から少数財閥の支配を排除し、その再現を禁圧し…『所得並びに生産及び交易の手段を広汎に分配し、平和的にして民主的な諸勢力の生長に役立つが如き』経済の体制を意味する」という93。
また▇▇▇▇▇は、「国民経済の民主的…な発達」とは「国民経済の発達が民主主義の発達を助長するような方向で行われることを意味」し、その方向は
「左の諸点において考慮される」として、①~⑤を挙げる。その一つ(⑤)は
「有力な独立的政治思想の発達を図り、軍閥が政府の政策を支配しようと企てることを阻止する能力を有する国民のグループを育成すること」であるという94。
両氏とも「民主的」について、対抗勢力である民主主義的勢力の伸長及びそれに役立つ手段・制度の発達を考えていたようである。
つぎに学説をみると▇▇説は、協同組合が「平和的で民主的な諸勢力」、「民主主義的経済」の担い手ないし「独立の政治思想をもつ有力な中産階級」が組
92 総合研究開発機構・前掲注86)43頁、▇▇=▇▇・前掲注16)75頁。
93 ▇▇・前掲注13)44-45頁。
94 ▇▇▇▇『独占禁止法と我が国経済』5- 6頁(日本経済新聞社、1947)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
織する団体であり、「国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」に寄与するものと捉えられ…そのような理念を失わず、そうした存在である限り、協同組合は、一般消費者とともに独禁法の究極目的を支える法主体であり、独禁法の適用を除外される主体である」という95。▇▇説は協同組合が究極目的を支える法主体であるがゆえに、適用除外されるという。
筆者は、独禁法1条の究極目的が政治的民主主義を発達させるような国民経済の伸長ををめざすことにあり、そのために所得・所有が分散され、対抗勢力である民主主義的勢力(民主主義的基礎の上に組織された労働、産業、農業の組織、すなわち労働組合や協同組合)が伸長するような国民経済の発達を促進することにあると考える。ところで民主主義的勢力の一翼を担う協同組合は組合内部の取引・競争を制限し、直接目的である「▇▇且つ自由な競争の促進」に抵触するおそれがある。そこで究極目的である協同組合を伸長させるためには、直接目的との抵触を回避する必要があり、そのための手段・制度として適用除外制度(24条)を設けたものと考えられる。
ところで法令に目的規定を置く意義は、当該法令の個々の規定を解釈・運用する際、目的規定に明示された目的を規準として解釈・運用されることにあるという96。究極目的である協同組合の伸長が、直接目的に抵触しないように設けられた24条(適用除外)の解釈・運用は、協同組合が伸長するような方向で寛大に解釈・運用されなければならない。
95 ▇▇▇▇「農業協同組合に係る適用除外問題の新たな局面」JC総研『協同組合の独禁法適用除外の今日的意義』132頁(2015)。
96 ▇▇▇▇「独占禁止法の目的と体系」日本経済法学会『経済法講座 2』3頁(三省堂、2002)。
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(b) 究極目的と専用契約の関係
以上を前提として究極目的である「国民経済の民主的…な発達」と専用契約の関係を検討する。専用契約は、組合員の販売力を組合に結集し、事業量を確保し、経営を安定させ、規模の経済により対抗力・競争力を強化し、組合を伸長させるものであり、究極目的に合致する。また専用契約は、独立性、主体性を保持したまま組合員に規模の経済を享受させ97、組合事業を利用する組合員の存続を容易にし98、競争的な市場構造の維持に貢献するから、所得・所有を分散する分権的な国民経済をめざす究極目的に合致する。
以上の点から専用契約は、組合内部の取引・競争を制限するおそれがあるが、民主主義的勢力を発達されるための手段・制度であるから、究極目的である「国民経済の民主的…な発達」に合致し、専用契約の目的には正当性が認められる。
つぎに究極目的である「一般消費者の利益の確保」と専用契約との関係を検討する。専用契約が締結されても、組合員には加入・脱退の自由や契約の自由があり、原則として農産物市場には組合員と非組合員、組合と第三者の競争が存在する(特に生産者側の農産物市場は▇▇▇的市場である)。それゆえ組合事業には競争圧力、輸入圧力が働くから、専用契約が「一般消費者の利益の確
97 ▇▇▇▇「独占禁止法の適用除外措置とは何か、なぜ適用除外になっているのか」農業と経済83巻7号50頁(2017)。
98 2017年、第72回国連総会は家族農業の役割を再評価し、政策的支援に乗り出すために「国連の家族農業の10年」(2019 ~ 28年)を全会一致で決議した。日本の農業経営体122万のうち家族経営体は118.5万(97%)、5ha未満の経営体が全体の91.1%、1経営体当たりの平均経営耕地面積は2.98haである。日本の家族農業は食料供給や農業の多面的機能において重要な役割を担っている。小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン『よくわかる国連「家族農業の10年」と
「小農の権利宣言」』28-29頁(農山漁村文化協会、2019)。
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
保」に抵触することは少ないと考えられる(抵触するときは独禁法22条の但書後段で規制する)。
また専用契約は、組合事業に組合員の販売力を結集し、事業量を確保し、規模の経済により組合の価格競争力を強化し、価格を低下させるから、一般消費者の利益の確保に抵触しないと考えられる。さらに専用契約は、食料自給率の維持・向上や農業の多面的機能の維持・向上に貢献し、国民・一般消費者の利益を確保することができるから、究極目的に抵触しないと考えられる(前出
【▇▇▇と畜場事件】【東芝昇降機サービス事件】を参照)。
以上のように専用契約は、究極目的である「国民経済の民主的…な発達」に合致し、また「一般消費者の利益の確保」にも抵触しないから、専用契約の目的には正当性があると考えられる。
(2) 手段の相当性
手段が正当と認められるか否かの判断基準は、正当な目的を実現するために合理的に必要とされる範囲内のものといえるか否かであるという99。専用契約は、組合と組合員の双方にメリットをもたらす一方、組合員の自由を長期間拘束するおそれがある。
アメリカの経験によれば、永久の排販契約は違法・無効であり、時間的制限が必要であるという。州により異なるが、時間的制限を大別すると、契約期間をあらかじめ固定的(数年~ 10年)に定めるものと、長期の契約期間を定めつつ、毎年の通知と撤回・離脱権を付与するものがある。アメリカでは排販契約に時間的制限を設けることによって、農協の利益と組合員の利益(自由)を調整していると考えられる。
日本でも永久の専用契約は独禁法上、問題になりうるので、時間的制限を設
99 ▇▇・前掲注79)102頁。
行政社会論集 第 32 巻 第4号
ける必要がある。農協法旧19条の1年以下の専用契約規定は対抗力・競争力を強化するのには短か過ぎる。各農協は、専用契約の目的に沿って、数年の固定的な契約期間を設けたり、長期の契約期間を定めつつ、毎年の通知と撤回・離脱権を付与するといった時間的制限を工夫する必要がある(前記【資料8】を参照)。
また農協がある地域の大部分の農業者を組織し、専用契約を締結し、市場支配力を濫用することが考えられる。この場合は、正当な目的を実現するために合理的に必要とされる範囲を逸脱するものとして、但書後段(競争の実質的制限+不当対価引き上げ)により規制されることになろう。
専用契約は、組合員を長期間拘束しないように時間的制限を設け、また一般消費者の利益の確保に抵触しないよう市場支配力の濫用を規制すれば、手段の相当性は担保される。
以上のような究極目的と専用契約との関係の検討から、専用契約には目的の正当性と手段の相当性が認められるから、違法要件である▇▇競争阻害性は認められず、不▇▇な取引方法に該当しないと考えられる。独禁法22条の適用除外制度の解釈・運用は、究極目的に沿って協同組合を成長させる方向で寛大になされなければならない。
5 農協法における専用契約規定の復活
公取委や裁判所が専用契約が不▇▇な取引方法に該当しないという解釈を採用したとしても、これらの機関の判断に委ねるのは不安定である。そこで組合員に専用契約の選択肢を付与するためには、農協法に専用契約規定を整備する必要がある。それは農協法旧19条の貧弱な専用契約規定の復活ではなく、たとえば契約期間を数年~ 10年程度にしたり、毎年の通知と撤回・離脱権を付与する長期間の専用契約規定であり、また組合員の契約違反に対する救済規定
(損害賠償、差止、強制履行)だけでなく、専用契約違反を勧誘した第三者の責任などを定めることも考えられる。具体的にどのような制度設計をするのか
日米の排他的販売契約と競争法 (▇▇ ▇▇)
は外国の排販契約規定等や日本農業の実態を踏まえて検討すべきである。
