Contract
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
-ノウハウ活用編-
令和2年3月農林水産省
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
-ノウハウ活用編-目次
第 1. 総論 1
1. 目的 1
農業分野におけるAIの利用と農業関係者等の関わり 1
農業分野におけるAI利用の意義 3
AIを利用した製品・サービスに関する契約等の状況 3
目的 6
2. 用語解説 8
技術的用語に関する解説 8
定義・用語の解説 9
3. 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」との関係 11
4. 想定する読者 15
5. 読み方 16
構成 16
読み方 16
第 2. 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに係る契約の基本的事項 20
1. AIを利用した製品・サービスに関連する知的財産 20
知的財産をめぐる関係の概要 20
知的財産の概要 23
2. AIを利用した製品・サービスに関連する契約の目的 25
3. AIを利用した製品・サービスに関連する契約の当事者 26
契約における当事者関係の概要 26
農業関係者等 28
AI研究開発委託者 29
AI研究開発者 29
第三者 30
4. AIの研究開発プロセスについて 31
AIの研究開発プロセスとその特徴 31
農業分野におけるAIの研究開発の特殊性 31
第 3. 農業分野においてAIを利用した製品・サービスに関する契約上の留意事項 33
1. AIを利用した一般的な製品・サービスに関する契約における特徴と留意点 33
問題の所在 33
AIを利用した一般的な製品・サービスに関する契約における留意点 34
2. AIを利用した製品・サービスにおける契約関係 36
契約関係の概要 36
ⅰ
各契約関係と参照すべき契約ガイドラインの関係 37
3. AIを利用した製品・サービスの研究開発場面での契約の当事者に関する留意点 38
研究開発当事者間の契約における類型 38
AI研究開発委託者の類型に応じた委託契約関係の留意点 40
4. AIを利用した製品・サービスに関して農業関係者等により提供されるデータ・ノウハウ等 45
農業関係者等におけるデータ・ノウハウの重要性 45
農業関係者等における知見とノウハウ 45
農業関係者等への配慮したデータ・ノウハウ等の取扱い 49
5. 個人情報等の対応 51
第 4. 農業分野におけるAIに関するモデル契約書におけるポイント 53
1. モデル契約書の提示方針 53
モデル契約書のポイントの提示方針 53
タームシートの添付 54
2. AIを利用した製品・サービスにおける研究開発場面におけるモデル契約 55
農業関係者等が締結するデータ・ノウハウの提供に係る契約 55
AI研究開発を行う主体間で締結する契約 76
3. 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの利用場面における契約 115
利用契約の概要 115
利用契約における契約項目のチェックリスト 121
4. 農業関係者等が提供したデータ等の第三者提供契約 126
第三者提供契約の概要 126
第三者提供契約における契約項目のチェックリスト 128
第 5. 関連する政策・ガイドライン等(参考) 133
1. 関連する政策・ガイドライン 133
2. モデル契約書案のタームシート(例) 137
データ・ノウハウ等提供契約 137
AI 研究開発委託モデル契約 141
ポイントの目次
【ポイント 1】本ガイドラインで対象とするAI 2
【ポイント 2】法律によるAIの利用規制 8
【ポイント 3】AIの研究開発における国・地方公共団体のかかわり 12
【ポイント 4】人間中心のAI社会原則と本ガイドライン 14
【ポイント 5】想定読者に関する留意点 15
【ポイント 6】データ流出等に対する法的手段 20
ⅱ
【ポイント 7】知的財産に関する法律と契約が担う役割 22
【ポイント 8】教師データの作成のプロセス 24
【ポイント 9】法人格を有しない農業団体 29
【ポイント 10】第三者提供の制限 30
【ポイント 11】AI研究開発における本ガイドラインにおける対象範囲 32
【ポイント 12】AIの性能の契約不適合責任 34
【ポイント 13】営業秘密と限定提供データ 40
【ポイント 14】地域で保有するノウハウのAIの利用による継承 48
【ポイント 15】データ・ノウハウの提供の対価の支払方式と算出方法 50
【ポイント 16】IoT データの個人情報の取扱い 52
【ポイント 17】特定地域の第三者に対する提供制限に関する条項 53
【ポイント 18】 農業関係者等がデータ・ノウハウの提供に係る契約のポイント 56
【ポイント 19】AIのモデル研究開発における 3 当事者間の契約 77
【ポイント 20】製品・サービスの利用におけるデータ提供 117
【ポイント 21】AIを利用した製品・サービスの利用に関する責任 118
【ポイント 22】サービス利用に際してのデータ提供契約とサービス利用契約約款 124
図目次
図 1 農業分野におけるAIの利活用と農業関係者等の関わり 1
図 2 実用化段階にある農業AIサービス等の一例 3
図 3 AIを利用した製品・サービスの利用規約等の概況 6
図 4 農業関係者等との関係で本ガイドラインが目指す目的の例 7
図 5 本ガイドラインと関連する経済産業省ガイドライン等との関係 11
図 6 経済産業省ガイドラインで想定するAIの研究開発関係 13
図 7 本ガイドライン(データ利活用編)で対象とする契約・規約類 14
図 8 農業分野のAIの研究開発及び製品・サービス利用におけるデータ等の流れと
知的財産関係 21
図 9 AIの研究開発・利用において生じる知的財産の保護に関する法令と契約の関
係 22
図 10 教師データ生成のプロセス 24
図 11 AIの研究開発プロセス例 31
図 12 AI研究開発者がデータ・ノウハウを使って研究開発する際の疑問 32
図 13 AIの研究開発や製品・サービス提供に係る契約上の問題の所在 33
図 14 各契約関係と参照すべき契約ガイドラインの関係 37
図 15 研究開発委託者が国・地方公共団体等の場合の当事者関係と留意点 41
図 16 研究開発委託者が農業関係者の場合の当事者関係と留意点 42
ⅲ
図 17 研究開発委託者が企業の場合の当事者関係と留意点 43
図 18 研究開発委託者が製品・サービス提供者自身の場合の当事者関係と留意点 44
図 19 農業関係者等が有する知見等から学習済みモデル等を生成する流れのイメー
ジ例 46
図 20 IoT データ等の個人情報としての取扱い 52
図 21 タームシートの例 54
図 22 農業分野のAIの研究開発及び製品・サービス利用に関連する契約関係 55
図 23 農業関係者等が提供したデータ・ノウハウに関するポイント 56
図 24 AI研究開発主体間での契約関係 76
図 25 AI研究開発における 3 当事者間の契約 77
図 26 本「別紙」で示す当事者関係 97
図 27 AIを利用した製品・サービスの利用場面での契約関係の概要 115
図 28 ドローンの利用に関するデータが特定地域外に提供される例 117
図 29 農業関係者等が提供したデータ等の第三者提供の概要 126
表目次
表 1 研究開発に際しての農業関係者とベンダとのデータに関する権限等取決め状況
............................................................................................................................... 4
表 2 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスをめぐる知的財産の対象 23
表 3 国・地方公共団体が資金提供を行う事業における契約の目的とその対応 25
表 4 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する契約の当事者関係
............................................................................................................................. 27
表 5 各場面において生じる契約 36
表 6 AI研究開発委託者の類型と考慮要素 38
表 7 農業関係者等が有するノウハウの例 47
表 8 研究開発における農業関係者等が締結するデータ提供契約における確認項目例
............................................................................................................................. 72
表 9 利用目的の設定妥当性判断の例 84
表 10 データ・ノウハウ提供契約とAI研究開発委託契約における権利帰属関係の
取決めの関係 85
表 11 著作権の譲渡先の設定妥当性判断の例 88
表 12 成果物の利用条件における第三者への提供先の設定妥当性判断の例 91
表 13 契約上の地位の移転先の妥当性判断の例 95
表 14 利用場面で農業関係者等が締結するデータ提供契約における確認項目例 122
表 15 特定の地域外の第三者へのデータ等の提供の可否の判断 127
表 16 第三者提供契約における確認項目例 129
ⅳ
表 17 人間中心のAI社会原則の概要 133
表 18 AI戦略 2019 に示される農業分野の具体目標 134
表 19 経済産業省ガイドラインの概要 135
表 20 データ・ノウハウ等のデータ提供型契約におけるタームシートの例 137
表 21 データ・ノウハウ等のデータ創出型契約におけるタームシートの例 139
表 22 AI研究開発委託モデル契約におけるタームシートの例 141
別添
ユースケースの紹介
【ユースケース1】 | 1 |
【ユースケース2】 | 3 |
【ユースケース3】 | 6 |
【ユースケース4】 | 8 |
【ユースケース5】 | 10 |
【ユースケース6】 | 12 |
ⅴ
ⅵ
第1. 総論
1. 目的
農業分野におけるAIの利用と農業関係者等の関わり
スマート農業の普及が進められている中で、近年、農業分野においても、AIを利用した製品やサービスが登場している。スマート農業の効果としては、
・ロボットトラクタやスマホで操作するxxの水管理システムなど、先端技術による
作業の自動化により規模拡大が可能に
・熟練農業者の匠の技の農業技術を、ICT 技術により、若手農家に技術継承することが可能に
・センシングデータ等の活用・解析により、農作物の生育や病害を正確に予測し、高度な農業経営が可能に
などが挙げられているが1、これらを実現するために、AIの利用は親和性の高いものと考えられる。
このようなAIを利用した製品・サービスとの関係では、農業関係者等は
・AIを利用した製品・サービスの研究開発に対する協力者としての側面
・AIを利用した製品・サービスの利用者としての側面の二つの側面を有している。
図 1 農業分野におけるAIの利活用と農業関係者等の関わり AIを利用した製品・サービスを実現するための研究開発に対する協力者として、
農業関係者等、農業普及指導員等はAIを利用した製品・サービスを研究開発する者
1 「スマート農業の展開について」P6(農林水産省 2019 年 7 月
( xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/x/xxxxx/xxxxx/xxxxxx/xxx/xxxxx-00.xxx))
に対して、AIの研究開発の基礎となるデータを提供することになる(例えば、圃場における温度や湿度の情報、水や肥料の投与に関する情報、作物の状況を示す画像など)。また機械学習モデルにおいては、「教師データ」に基づいて法則性の抽出が行われることがあるが、この「教師データ」に必要な判断に関する情報を熟練農業者や農業普及指導員、研究機関等が提供するケースも多くみられる(例えばある葉が、「虫食い」の状態にある、などの判断)。
AIを利用した製品・サービスを利用する場合、製品やサービスの利用に必要なデータが、製品・サービス利用者である農業関係者等から入力・送信される(製品・サービスによっては、利用者が意識することなく自動的にデータが製品・サービス提供者に送信される)。このようなデータは、製品・サービスの動作等に不可欠なものとして、利用者のために利用されるためのものであるが、製品・サービスによっては、このデータを製品やサービスの品質向上のために用いることもある。さらに、製品・サービス提供者によっては、全く別の製品・サービスに活用することなどもある。
またAIを利用した製品・サービスを実現するための研究開発に対する協力者、あるいは製品・サービスの利用者として製品・サービス提供者に提供したデータやそれを踏まえた成果物等については、製品・サービス提供者によっては、第三者に提供されることもある。
【ポイント 1】本ガイドライン(ノウハウ活用編)で対象とするAI
「AI」は、現在様々な意味で用いられ、必ずしも統一的な定義は存在しない。AIを用いた製品・サービスにおいて用いられる「AI」を想定する場合、一般的には「弱いAI」と呼ばれる主に機械学習(深層学習含む)などの技術をもって、AIととらえている。
現時点では作業の効率化・インテリジェント化を図るものが中心で、実用化が進められているものを対象とする観点からは、汎用的な知能などを想定する「強いAI」ではなく、「弱いAI」を対象とされる。
農業分野におけるAIについても、基本的にはこれらを踏まえたものである。
ただし、農業分野における ICT 活用の場面では、作業の効率化・インテリジェント化を目的として、ビッグデータを活用したモデルの利活用を図るものであれば、データを活用した統計的な解析モデルにおいても、農業生産の効率化や農業関係者等の労務軽減支援などが果たしうる。そこで機械学習によるモデルだけではなく、このようなデータを活用した統計的な解析モデルも広い意味で「AI」の対象として含むこととされる。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、以降、「AI」は上記の趣旨で用いることとす
る。
農業分野におけるAI利用の意義
現在利用が進められているAIについては、後述のように機械学習モデルと呼ばれる、大量のデータの分析を基に、一定の法則性をモデルの形で導き出し、これに基づいて新たに発生する事象等を予測し、人間の判断等の支援や作業の自動化等を行うものが中心である。農業分野においては、例えば病害虫被害診断とこれを踏まえた防除支援、施設栽培等における環境管理支援や、農作業の自動化支援(水・肥料の投与 等)、収穫作業の自動化(ロボット等)、農業技術習得支援などの利用のための研究開発や製品・サービスの提供が進められているところである(図 2)。
出所:農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン検討会 第 1 回検討会資料および各社HP から作成
図 2 実用化段階にある農業AIサービス等の一例
AIを利用した製品・サービスに関する契約等の状況
農業分野のAIを利用した製品やサービスの開発においては、農業関係者等がAIを利用した製品・サービスの研究開発において、データ等の提供を行う等の協力を行
うことが必要となる。その際に農業関係者等と製品・サービス提供者(ベンダ)との契約状況等の例を表 1 に示す。
研究開発段階においては、農業関係者等からデータ等が提供されるデータ提供型のほか、農業関係者等と製品・サービスが協働してデータ収集を行うデータ創出型、そのほか、農業関係者の協力を踏まえて製品・サービス提供者がデータを収集、作成するケースなどがみられる。
提供されたデータ等や協力を得て作成したプログラム等についての権限関係や、第三者への提供に関する範囲や目的等については現状では各研究開発によって、異なっており、xx的な対応というものは見られない。特に提供等を受けたデータについては、権利の「帰属」を農業関係者に認めつつも、ベンダにxxな利用権限を委ねるケースも見られる。
表 1 研究開発に際しての農業関係者とベンダとのデータに関する権限等取決め状況
サービス概要 | 提供データ等 | データに関する権限関係ほか |
ドローンやスマートフォン画像による作物の効果的な生育管理支援サービス | ・ドローンによる空撮画像データ | ○生データ:利用に関してはサービス利用者がxx的に決定。データの利用可能期間を定めたことはない ○学習用データセット:都度調整 ○学習済みモデル:相対契約(モデル改変はベンダ単独で実施可能としている) ○提供プログラム:ベンダに利用権 |
潅水施肥管理支援サービス | ・センサデータ (土壌関連情報)ほか | ○サービス利用規約への同意 ○農業者に関するデータは農業関係者に権利が帰属。ただし、サービス向上のためにデータの収集及び個人が特定できない形又は特定の個人のノウハウが現状有姿されない状態での第三者提供に関しては許諾。 |
センサから取得した環境情報等を踏まえた支援サービス | • センサデータ (環境情報、土壌情報等) | ○サービス利用規約への同意 ○利用者が計測した環境情報については、利用者に権利が帰属。ただし、サービスxxxのために利用者計測情報等を分析することに関して許諾 ○第三者に利用者計測情報等の提供又は販売はサービス利 用者の許諾なしには行わないことを明記 |
画像認識技術をベースにした病害虫 発生状況把握サー | ・画像データ(天 球カメラ等で撮影) | ○生データ(画像データ):撮影者(普及指導員が所属する自治体)に帰属 ○学習モデル構築に際しての生成物:共有に関する許諾 |
サービス概要 | 提供データ等 | データに関する権限関係ほか |
ビス | ○学習用データセット:データセット作成の貢献度合い によって都度調整 | |
農産物画像データ分析による選果機 (システムはAI ではなく統計分析モデルによるもの をベース) | • 画像データ • 分光器データ | ○モデル構築に必要な画像データや分光データを取得するための作物は農業団体等顧客側が提供。 〇データの解析は主にベンダが実施 〇取得されたデータや構築されたモデルの利用制限など特別な規定はなく契約なども結ばれていない。 |
センサ情報をもとにした温室内の環境情報による病害予測サービス | ・画像データ | 〇環境データはサービス利用約款で、利用者側の環境情報等のサービス提供関連目的で、同社及び当社の関連会社において利用する旨や、ハウスデータについて、広報宣伝、資料提供、その他の目的で第三者に開示および提供しうる旨を定めている 〇農作業データも、上記に含まれているとみなしている 〇病害予測アルゴリズムは、ベンダ独自開発のため、権利関係は全て同社に帰属する |
収量予測サービス等 | 環境データ 出荷データ等 | ○開発時の取決めについては、個別に対応。 ○データの利用に関しては利用者と規約上で取り決めた。 |
出所:農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン検討会 第2回検討会資料から作成
またAIを利用した製品・サービスの利用場面の取決め等の概要を図 3 に示す。製品・サービスの利用に際して、利用者である農業関係者が入力したデータをサー
ビス提供目的以外でも利用できることを内容とする条項を製品・サービス提供事業者は、約款や利用規約などに設けていることがある。
その内容は、研究開発における場合同様、製品・サービス提供事業者によって大きく異なっており、事業者によってはほぼ無制限に利用したり、第三者提供したりできるような条項を設けている場合がある。逆に、利用者が特定できない形で、サービスの品質向上のためのみに利用するなど、限定した利用用途のみとする場合もある。
約款などで取決め内容が示される場合には、利用者である農業関係者は詳細な確認を行わないまま、約款に同意することもあるため、xxな利用権限をベンダに与えることも生じると懸念する声もある。
対象サービス
整理の対象とした条項
(整理の観点)
概況
• ⼀般的な契約内容(不可抗⼒規定等)にとどまる。提供サービスのタイプによる差はみられない。
• サービス性能に関して⼀切保証しないとするものが⼀般的。
責任関係
(損害の範囲・賠償の予定等)
性能保証/⾮保証
(AIの特性(不確実性))
• 具体的に学習済みモデルに特化して規定するケースはない
(サービス利⽤段階のため、主に追加学習)
学習済みモデル
(AI開発に特筆された条項の有無)
• 契約期間内のみ、利⽤可能とする事業者、契約終了後もすべての利⽤を可とする事業者、終了後は加⼯情報のみかとする事業者などがある。
データの継続利⽤
(サービス利⽤終了後の期間におけるデータの利活⽤)
• 統計処理したものの第三者提供を可とする事業者が⾒られるほか、提供データの制限なく第三者提供を可とする事業者もある。
データの第三者開⽰・提供
(対象となるデータ、第三者提供の範囲)
• 全⾯的に利⽤可能とするものと、利⽤者を特定しない形でのみ利⽤可能とするものがある
• 全体的に個⼈情報は別扱いとする
データの⾃⼰利⽤
(⾃⼰利⽤する場合の利⽤⽬的)
• 農業分野で商⽤展開さ れているAIサービスのうち、サービス利⽤約款・規約が公開されているサービス
• 各AIサービスの類型
(認識系、予測系、分析系、制御系)を網羅
出所:農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン検討会 第2回検討会資料
図 3 AIを利用した製品・サービスの利用規約等の概況
目的
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスは、農業関係者等の協力の下で研究開発が行われ、それを農業関係者等が利用することにより、生産の効率化や農作物の生育・病害の予測などの効果を得ることが期待されている。
農業関係者等が提供する生データや教師データ作成に必要な情報等には、農業関係者等の生産に関する経験やxxなどのノウハウが含まれていることがあり、AIを用いたモデルではこれらを形式知(文章や図表、数式などによって説明・表現できる知識)として、プログラムなどに形付けられ、製品・サービスに実装されることにな る。
図 4 農業関係者等との関係で本ガイドライン(ノウハウ活用編)が目指す目的の例
農業関係者等の協力を得て研究開発されたAIが製品・サービスに実装される際 に、提供したノウハウ等が、農業関係者等が意図しない形で第三者に提供されたり、自ら利用することができなくなったりすることは、農業関係者等に不測の損害をもたらす(図 4)。
そこで農業関係者等にとって、AIを利用した製品やサービスとの関わりにおいては、データやノウハウの提供先と適切な契約関係を締結することが重要である。ま た、農業分野に貢献するAIの研究開発を促進するためにも、農業関係者等が安心して協力をすることができる関係性を構築することは重要である。
農業関係者等の保護を適切に行う形の取決めのあり方を示すことで、農業関係者等が安心してデータやノウハウを提供することができる環境を整備するため、本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、
・農業関係者等が関わる農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの利用における取決め
・農業関係者等が提供したAIに関する成果の第三者提供に係る取決め
・農業分野の特殊性を踏まえたAIの研究開発における取決め
などにおける留意点、考慮要素、具体的に利活用される契約のためのツールなどを提供することを目的とする。
【ポイント 2】法律によるAIの利用規制
AIを利用した製品・サービスに関しては、現時点では人が利用する道具の一つとして位置づけられている。わが国の法律では、民事責任、刑事責任のいずれにおいても、
「意思責任」が基本原則となっており、行動の多くをAIにより支援してもらう場合でも、第一次的にはAIを利用した者の責任として位置づけられている。
また業務上、人の判断に委ねられているもの(例えば診療行為)については、あくまで人が行うことが前提であり、AIによって自動化できる場合でも、これを利用した者の責任において利用することとなる。その意味では、AIの利用が直ちに法律上、規制されているわけではない。
ただし安全性の確保などの観点から、AIを利用しているかどうかに関わらず、法律上の安全性の要件が定められているものがある(自動車や医療機器等)。これらについては、その安全基準の内容としてAIの利用の可否や利用の範囲などの制限が設けられる場合がある。
農業分野におけるAIの利用についても、現時点のAI技術を踏まえた場合、基本的にはAIの利用に関わらず、機器やサービスの規制がなされているかどうかで判断し、その規制内容がAIを用いた場合でも適用されるか否かで、利用可能な活用方法であ
るかを判断することになる。
2. 用語解説
技術的用語に関する解説
用語 | 解説 |
機械学習※1 | データから規則性や判断基準を学習し、それに基づきxxのものを 予測、判断する技術及び人工知能に関わる分析技術 |
生データ | AIの研究開発に際して用いられる未加工のデータ |
教師データ※1 | 人間による判別等から得られた正解に相当するデータ |
学習用データセット※2 | 生データに対して機械学習のために整形または加工したデータの集 合体 |
学習用プログラム※2 | 学習用データセットを利用して、学習済みモデルを生成するための プログラム |
ハイパー・パラメータ※2 | 学習の枠組みを規定するために用いられるパラメータ |
学習済みパラメータ※2 | 学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成された パラメータ(係数)。学習済みモデルを構成する。 |
学習済みモデル※2 | 特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプロ グラム |
推論プログラム※2 | 組み込まれた学習済みパラメータを適用することで、入力に対して 一定の結果を出力することを可能にするプログラム |
再利用モデル※2 | 追加学習により新たに生成された学習済みパラメータが組み込まれ た推論プログラム |
派生データ | データを加工、分析、編集、統合等することによって新たに生じた データ |
入力データ※3 | サービス利用等で入力されるデータ。意識的に入力されるものと、 機械等により自動的に収集されて入力されるものがある。 |
追加学習※2 | 既存の学習済みモデルに、異なる学習用データセットを適用して、 更なる学習を行うことで新たに学習済みパラメータを生成すること |
※1 総務省 ICT スキル総合習得プログラム「3-5 人工知能と機械学習」
(xxxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxx_xxxxx/xxx/xxx_xxxxx_0_0.xxx)
※2 経済産業省ガイドライン P.102-103
※3 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン データ編 1.1 版」
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000-0.xxx)
定義・用語の解説
用語 | 解説 |
農業関係者 | 農業従事者および農業団体 |
農業関係者等 | 農業関係者および農業普及指導員 |
AI研究開発委託者 | AIの研究開発において委託者となる者 |
AI研究開発者 | AIの研究開発においてAIの研究開発を行う受託者。 ある契約でAIの研究開発事業を受託した者が、AIの研究開発自体を別の機関等に再委託する場合には、その再委託先との関係では、 AI研究開発委託者となる。 |
受託契約管理団体 | 国や地方公共団体が公的資金を投入して研究開発事業を行う場合に、研究開発事業の提案の採用と提案に基づく研究開発委託契約の管理を行う団体。国立研究開発法人や独立行政機関等が担う場合が 多い。 |
暗黙知 | 経験や勘に基づく知識で、言葉等により表現されない知識 |
形式知 | 文章や図表、数式などによって説明・表現できる知識 |
ノウハウ | 技術競争の有力な手段となり得る情報・経験。 不正競争防止法上の営業秘密等の要件を満たす場合には、法律上の保護を受けることができる。 |
データ提供型契約 | 取引の対象となるデータを一方当事者(データ提供者)のみが保持しているという事実状態について契約当事者間で争いがない場合において、「データ提供者」から当該データの提供を受ける「データ 受領者」に対して当該データを提供する際の「データ受領者」の当 |
該データの利用権限や利用条件等を取り決めるための契約 | |
データ創出型契約 | 複数当事者が関与することにより、従前存在しなかったデータが新たに創出される場面において、当該データの創出に関与した当事者 間で、データの利用権限について取り決めるための契約 |
3. 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」との関係
AIを利用した製品・サービスの契約に関連するガイドラインとして、
・「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(経済産業省、平成 30
年6月(以下「経済産業省ガイドライン」2))
・「農業分野におけるデータ契約ガイドライン」(農林水産省、平成 30 年 12 月(以下
「本ガイドライン(データ利活用編)」))
などが挙げられる。前者は、産業全般におけるAIの研究開発や利用に関する契約内容を取り決める際のガイドラインであり、後者は特に農業分野におけるAIの研究開発に不可欠な農業データの提供に関する契約内容を取り決める際のガイドラインである。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)と経済産業省ガイドライン、本ガイドライン
(データ利活用編)との関係を図 5 に示す。
経済産業省ガイドラインとの関係では、一般的な事項については経済産業省ガイドラインを踏襲しつつ、農業分野において特に考慮しなければならない部分について、本ガイドライン(ノウハウ活用編)において、対応すべき内容を示すこととする。
本ガイドライン(データ利活用編)との関係では、データ提供場面などに関する契約条項等の内容については基本的に踏襲しつつ、AIの研究開発において特に考慮すべき部分について、本ガイドライン(ノウハウ活用編)で対応すべき内容を示すこととする。
図 5 本ガイドラインと関連する経済産業省ガイドライン等との関係
2 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」はデータ利活用編とAI編から構成されており、本ガイドラインでは基本的にはAI編を参照している。なおデータ利活用編については、令和元年 12 月に「AI・データの利用に関する契約ガイドライン データ利活用編 1.1 版」が公表されている(AI編についての変更点はない)。
経済産業省ガイドラインは、すべての産業で一般的に利用されうるAIの研究開発や利用における契約のためのものであり、必ずしも農業の特殊性を勘案したものではない。
経済産業省ガイドラインでは、AIの研究開発の当事者が、モデル研究開発を委託するユーザ企業と、モデル研究開発を行うベンダの二者であることを想定している。 AIの研究開発に必要なデータについても、ユーザ企業が提供することが一般とされる(図 6)。
一方、農業分野のAIの研究開発では、農業関係者等はモデルの研究開発契約の当事者ではなく、第三者の立場でデータやノウハウの提供を行うケースが多い。またモデルの研究開発委託者も国や地方公共団体など、ユーザ企業ではない者となることが多い。
【ポイント 3】AIの研究開発における国・地方公共団体のかかわり
経済産業省ガイドラインでは、研究開発委託者と研究開発者がそれぞれ企業・民間団体となることを想定して、契約関係が示されている。AIを利用した一般的な製品・サービスの研究開発では、このような関係を原則とすることに問題はない。
しかし農業分野においては、農業の公益性などの観点から現状、国や地方公共団体等が主導して研究開発を進めるケースが多くなっている。
国や地方公共団体が研究開発の委託者となる場合には、公的資金の提供などの関係から、例えば受託者に受託契約管理団体を置くなど、契約主体に関する特殊性が生じることがある。
また資金供与の目的が、わが国や特定地域の農業振興におかれていることから、成果等の利用範囲や利用対象、第三者提供の範囲などにおいて、施策目的に応じた制約が設けられることがある。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではこれらの観点からの留意点についても示している。
本ガイドライン(データ利活用編)に示されているように、農業関係者等のノウハウ等(特に熟練農業者、先進農業経営者などのノウハウ)の流出等に対する保護などの視点が、経済産業省ガイドラインには加味されているわけではない。AIの研究開発における当事者関係についても、農業分野における現状などを踏まえたものとすることが求められる。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、本ガイドライン(データ利活用編)同 様、このような農業分野の特殊性などについての抽出を行い、契約などの取決めにおける留意事項を示すことを目的とする。
出所:農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン検討会第 1 回検討会 経済産業省資料
図 6 経済産業省ガイドラインで想定するAIの研究開発関係
本ガイドライン(データ利活用編)は、基本的にはデータ(生データ、入力データ等)の提供に関する契約(規約等含む)のひな形を示すことを目的としている(図 7)。
AIの研究開発においては、データの提供関係だけではなく、AIに不可欠なパラメータ等の生成やAIに組み込まれるプログラムの作成なども含まれる。本ガイドライン(データ利活用編)では、これらについても「派生データ」、「著作物」等などの形で整理されているものの、AIを用いたモデルの作成における特殊性を鑑みたものではない。例えば、AIの研究開発においては、学習用データセットと呼ばれる派生データの生成や、学習済みモデルの生成に用いるためのプログラムの作成や利用においては、AIの研究開発を行う者の貢献が大きくなっている。そのため、農業関係者等のノウハウの保護という点を基本としつつ、必要な変更を施すことが求められる。またAIを研究開発する目的は、熟練農業者や農業普及指導員等のノウハウを、製 品やサービスにおいて再現できるようにすることが多い。加えて熟練農業者や農業普及指導員等が、ノウハウが潜在的に含まれているデータを提供する場合、事前にそのノウハウの有用性を判断することが難しい。このようなことから、AIの研究開発に際して、データ等を提供することにより、どのようなリスクが提供者側に生じるのかが不明であると、提供者に不測の損害が生じたり、過度にリスクを恐れてデータ等の提供を躊躇するなどが生じたりする。本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、データ等の提供に際して生じるノウハウ流出に関するリスクの考え方を示すことで、熟練農業者や農業普及指導員等がリスクを理解し、安心してデータ提供等を行えるように
することも目的の一つとしている。
このようにAIの研究開発目的でデータ等を提供した場合、生データからの派生データや著作物として、学習用データセットや学習済みモデルが想定され、その中には農業関係者等におけるノウハウも含まれている。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、データ等がAIの研究開発目的で提供された場合の特殊性を鑑み、権利関係や利用範囲の調整と、農業関係者等のノウハウの
提供に関係する部分の対応について、契約等の取決めにおける留意事項と示すものとする。なお生データ等の提供に関する取決めについては、原則として本ガイドライン
ICTベンダD
農機メーカC
①データ提供型契約または②データ創出型契約農業関係者とベンダやメーカとの間で締結するデータ契約。
対象となるデータの保持状況や当事者間の貢献等に
よって、提供型または創出型に類型される。
農業者B
農業者A
農機メーカF
ICTベンダE
データ利⽤規約
データ利⽤者とPF運営事業者とで締結する規約
プラットフォーム(PF)運営事業者
データ提供規約
データ提供者とPF運営事業者とで締結する規約
データ提供利⽤規約データの提供と利⽤の両⽅を⾏う者と、PF
運営事業者とで締結す
る規約
⼀般的なデータの流れ
(データ利活用編)によるものとする。
出所:農業分野におけるAIの利用に関する契約ガイドライン検討会第 1 回検討会 農林水産省資料
図 7 本ガイドライン(データ利活用編)で対象とする契約・規約類
【ポイント 4】人間中心のAI社会原則と本ガイドライン(ノウハウ活用編)
AI等の研究開発や利用に関しては、契約関係に関するガイドラインだけではなく、研究開発や利用のあり方について、政府や有識者会議などによりガイドライン等の形で示されている。
特に「人間中心のAI社会原則」3では「AI を有効に活用して社会に便益もたらしつつ、ネガティブな側面を事前に回避または低減するため、AIに関わる技術自体の研究開発を進めると共に、人、社会システム、産業構造、イノベーションシステム、ガバナンス等、あらゆる面で社会をリデザインし、AI を有効かつ安全に利用できる社会」を実現することとしており、本ガイドライン(ノウハウ活用編)も農業分野におけるAI利用については、同文書の示す社会の実現を図ること企図するものである。
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの研究開発や利用においても、これらの政府ガ
イドライン等に示される趣旨を踏まえた形となることが求められる。
3 統合イノベーション戦略推進会議決定(平成 31 年 3 月 29 日)(xxxxx://xxx0.xxx.xx.xx/xxxx/AIgensoku.pdf)
4. 想定する読者
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、農業分野でAIを利用した製品・サービスの研究開発・利活用に携わる以下の読者を想定する。
【農業に関与する者】
・農業関係者(製品・サービスを利用する農業従事者・団体、研究開発等に協力する農業従事者・団体)
・農業普及指導員
・教育機関
【AIの研究開発を委託・受託する者】
・国、地方公共団体、研究開発法人、独立行政法人
・農業分野でのAIを利用した製品・サービスの研究開発に関与する製品・サービスの提供者、研究開発者、各種団体等
【AIを利用した製品・サービスを提供する者】
・農業分野でのAIを利用した製品・サービスを提供する事業者、団体等
【その他】
・農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する知的財産の提供を受けようとする第三者
・上記に関連する法律の実務家
【ポイント 5】想定読者に関する留意点
想定読者については、経済産業省ガイドラインは、「契約に関係する全ての者(事業者の契約担当者のみならず、その事業部門、経営層、データの流通や利活用に関連するシステム開発者等を含む。)」を幅広く対象としている。
これに対して本ガイドライン(データ利活用編)(P7)では、このような読者に加えて、農業関係者等、従来 IT 関連契約に馴染みがない者も併せて想定読者としている。それは、熟練農業者や先進的な農業経営者において、データ等の裏側に隠れるノウハウ等が第三者への提供されてしまうことに懸念を抱いていることを考慮しての対応であり、同ガイドラインで示される契約のひな型においても、熟練農業者や先進的な農業経営者が、データの提供をすることによって自らの利益ともなり、またノウハウの流出とならないような歯止めがかかる内容となることが想定されている。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではAIを用いた成果物に関するものを対象としているが、その中には、熟練農業者や先進的な農業経営者のノウハウ等が形となっているものがある。
そこで、本ガイドライン(ノウハウ活用編)でも同様に、農業関係者等もガイドラインの
想定読者として位置づけている。
5. 読み方
構成
本ガイドライン(ノウハウ活用編)は以下の内容で構成している。
「第1 総論」では、本ガイドライン(ノウハウ活用編)の目的や、その背景となる農業分野におけるAIの研究開発の特殊性や、本ガイドライン(ノウハウ活用編)の想定読者、本ガイドライン(ノウハウ活用編)を利用する上で、併せて利用することが望ましい本ガイドライン(データ利活用編)、経済産業省ガイドラインとの関係、用語集等を示している。
「第 2 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに係る契約に関する基本的事項」では、本ガイドライン(ノウハウ活用編)が想定する契約関係において、理解すべき基本的事項を示している。まず農業関係者等がデータ等を提供する際に、これを起点として生じる知的財産関係について整理するとともに、農業分野でのAIを利用した製品・サービスの利用等に関連して生じる契約関係における当事者や、本ガイドライン
(ノウハウ活用編)で想定する研究開発や利用のプロセスなどについて説明している。
「第 3 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関する契約上の留意事
項」では、AIの特殊性や農業分野の特殊性を踏まえて、第 2 で示した基本事項に対して、特に考慮すべき事項等についての説明を行っている。
「第 4 農業分野におけるAIに関するモデル契約におけるポイント」では、農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに係る契約のうち、データ等提供契約、研究開発委託契約における本ガイドライン(ノウハウ活用編)で特に変更すべき条項についての解説を行うほか、製品・サービス利用契約、第三者提供契約における留意点等を示している。
「第 5 関連ガイドライン等(参考)」では、農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに係る契約の各種ガイドラインを示している。
別冊において、AIを利用した製品・サービスに係る契約のうち、データ等提供契 約、研究開発委託契約のひな型と、農業分野におけるAIを利用した製品・サービスのユースケースを参考までに紹介している。
読み方
本ガイドライン(ノウハウ活用編)は、農業分野においてAIを利用した製品・サービスに係る農業関係者等に全編を通じて、理解していただくことが望ましい。
時間の関係で、まずは必要な箇所のみ閲読し、そのうえで全体を理解していただくということも想定される。そこで利用者ごとに、特に参照いただきたい部分について、示す。ただしAIの研究開発委託者およびAIの研究開発者は、本ガイドライン(ノウハウ活用編)が影響する部分がxxであることから、原則として、全般を通じて参照いただきたい。
農業関係者等において特に参照いただきたい箇所
AIを利用した製品・サービスの利用を考えている農業関係者等
・表 14 利用場面で農業関係者等が締結するデータ提供契約における確認項目例
AIを利用した製品・サービスの利用を考えている農業関係者等については、製 品・サービスを利用する際に入力するデータに関する取決め内容が意に反しないものであることや取決め内容により、どのようなリスクがあるのかを把握することが求められる。そこでこれらをチェックするために、
を確認いただきたい。
そして利用の場面で特に留意している事項について、
「第 4. 農業分野におけるAIに関するモデル契約におけるポイント」のうち
3.農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの利用場面における契約
で説明しているので、御参照いただきたい。
AIを利用した製品・サービスの研究開発に関与する農業関係者等
AIを利用した製品・サービスの研究開発に関与する農業関係者等については、農業生産に携わる者のほか、農業普及指導員などが想定される。AIの研究開発目的で提供されるデータやノウハウについては、先進的な製品やサービスの実現につながるものが含まれていることもあることから、提供に際しては様々な内容を確認することが望ましい(【ポイント 18】参照)
そこでまずはデータやノウハウの提供契約の内容を確認する観点から
・表 7 ノウハウの提供において農業関係者等に事前に提供すべき情報の例
・表 9 研究開発における農業関係者等が締結するデータ提供契約における確認項 目例
・表 21 データ・ノウハウ等のデータ提供型契約におけるタームシートの例
・表 22 データ・ノウハウ等のデータ創出型契約におけるタームシートの例
を確認いただきたい。
その上で、農業分野におけるAIの研究開発に関する特殊性を確認するため、下記の項目の内容について参照されたい。
章番号 | 項目名 |
第 2. | 3. AIを利用した製品・サービスに関連する契約における当事者「(2) 農業関係者等」 |
第 3 | 4. AIを利用した製品・サービスに関して農業関係者等により提供される データ・ノウハウ等 |
第 4 | 2. AIを利用した製品・サービスにおける研究開発場面におけるモデル契約 (1)農業関係者等が締結するデータ・ノウハウの提供に係る契約 |
AIの研究開発を委託者・受託者において特に参照いただきたい箇所
製品・サービス提供者、研究開発機関等
農業分野におけるAIの研究開発における製品・サービス提供者、研究開発機関等が関与する部分はxxであることから、基本的には本ガイドライン(ノウハウ活用 編)全般について内容を参照されたい。
国、地方公共団体、公的機関(国立研究開発法人、独立行政法人等)
農業分野のAIの研究開発においては、公的資金によるプロジェクトとして、国、地方公共団体が委託者となったり、公的機関が受託契約管理団体として製品・サービス提供者、研究開発機関等に対する委託者となったりすることが多くみられる。
この場合には、民間の事業者間で行われる研究開発委託契約とは異なるポイントがいくつか見られる。これらについては、本ガイドライン(ノウハウ活用編)の以下の項目で示しているので参照されたい。
章番号 | 項目名 |
第 2. | 2.AIを利用した製品・サービスに関連する契約の目的 |
第 3 | 3. 3. 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する契約の当事者 「(1)研究開発当事者間の契約における類型」、「(2)AI研究開発委託者 の類型に応じた委託契約関係の留意点」 |
第 4 | 【ポイント 17】特定地域の第三者に対する提供制限に関する条項 |
2. AIを利用した製品・サービスにおける研究開発場面におけるモデル契約 (2) AI研究開発を行う主体間で締結する契約② AI研究開発主体間で締結される契約におけるモデル契約条項のポイントのうち、以下の部分 5) AI研究開発委託者が提供するデータ・資料等とその管理 6) AI研究開発委託者提供データの利用・管理 7) 個人情報の取扱い 9) 本件成果物等の特許xxの帰属 |
AIを利用した製品・サービスを提供する者
農業分野におけるAIを利用した製品・サービス提供者について、本ガイドライン
(ノウハウ活用編)と関わる場面としては、
・製品・サービスの提供
・製品・サービスの提供を通じたデータ等の第三者提供が想定される。
章番号 | 項目名 |
第 4 | 3. AIを利用した製品・サービスの利用場面における契約 |
4. 農業関係者等が提供したデータ等の第三者提供の契約 |
そこで、本ガイドライン(ノウハウ活用編)においては、特に以下の項目について、参照されたい。
AIを利用した製品・サービスに関連する知的財産の提供を受けようとする第三者
AIを利用した製品・サービスに関連する知的財産の提供を受けようとする第三者について、本ガイドライン(ノウハウ活用編)と関わる場面としては、
・製品・サービスの提供を通じたデータ等の第三者提供が想定される。
そして利用の場面で特に留意している事項について、
「第 4. 農業分野におけるAIに関するモデル契約書におけるポイント」のうち
「4.農業関係者等が提供したデータ等の第三者提供の契約」
で説明しているので、ご参照いただきたい。
第2. 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに係る契約の基本的事項
1. AIを利用した製品・サービスに関連する知的財産 知的財産をめぐる関係の概要
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する知的財産をめぐる当事者関係の概要を図 8 に示す。
農業分野においては、製品・サービスの研究開発やその利用に際して、農業関係者等からデータの提供(利用の場合には、入力・送信などによる)が行われる。研究開発においては、これを起点としてAIの成果物が生じることになる。
AIの成果物については、プログラムなどについては、研究開発を行った者(研究開発機関等)の著作権となるほか、これを生成するための派生データ(教師データ、ハイパー・パラメータ等)についても、一般的にはAI研究開発者に管理処分権限があるとされる。
他方、学習済みモデルにおいては、農業関係者等が生データや、教師データ作成のためのデータの提供を通じて、熟練農業者や農業普及指導員、研究開発機関におけるノウハウや研究成果が、学習済みパラメータなどの形で具現化したものと評価できるものもある。学習済みパラメータは必ずしも著作権の対象となるわけではなく4、契約により当事者で利用関係や処分関係を定めることになる。そこで、データ等を提供する際のデータ等提供契約が、農業関係者等のノウハウ保護との関係で重要な役割を示すほか、製品・サービス利用契約も、入力・送信するデータの内容や利用方法によっては農業関係者等のノウハウに関係する場合もあるため、ノウハウ保護との関係で重要な役割を果たすことがある。
【ポイント 6】データ流出等に対する法的手段
本ガイドライン(データ利活用編)では、データ流出等に関しては、「3 データ流出や不正利用を防止する各種手段」(P3~)で、契約による保護及び法令により保護される知的財産等について整理されている。
具体的には、(1)契約による保護、(2)不正競争防止法による保護、(3)民法上の不法行為による保護、(4)不正アクセス禁止法による保護、(5)不正利用等を防止する技術などが挙げられている。
AIの研究開発においても上述のように学習済みパラメータなどが大量の数値データか
らなるデータセットで、著作物性が必ずしも認められないことから、その保護のためには同様の保護手段が求められる。
4 経済産業省ガイドライン P27 では「学習済みパラメータは⼤量の数値データであって、創作性等が認められず、通常は知的財産権(著作xx)の対象にはならない可能性が⾼いと考えられる」とする。
図 8 農業分野のAIの研究開発及び製品・サービス利用におけるデータ等の流れと知的財産関係
21
【ポイント 7】知的財産に関する法律と契約が担う役割
AIの研究開発や利用においては、データやノウハウが利用されるほか、これらを踏まえて様々な知的財産が生成される。これらの知的財産については、一定の要件を満たした場合には、法律上の保護を受けることができる。知的財産権として認められれば、権利の保有者は第三者に対して権利に基づく主張ができるし、不正競争防止法の要件を満たせば権利とはならないものについても、保護が認められる。
しかしそれらが法律上の要件を満たさない場合には、一旦、データやノウハウを相手方に提供した場合には、提供者の利益が保護されないことになる。また知的財産に関する法律は、対象となる知的財産が権利等として認められる要件や、効果を規定するものの、具体的な帰属や利用関係などの取決めまで制限するものではない。
そのため法律では保護されない利益等の関係や、法律が予定しない当事者の関係などについては、AIの研究開発を行う当事者において、具体的な内容を契約によって取決めることが必要となる。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)は、このようなAIの研究開発や利用を行う当事者における契約を円滑に行える機能も果たすことを想定する。
図 9 AIの研究開発・利用において生じる知的財産の保護に関する法令と契約の関係
知的財産の概要
図 8 では農業分野におけるAIを利用した製品・サービスにおいて生じうる知的財
産の当事者関係を示した。この中で対象となる知的財産の概要を表 2 に示す。
表 2 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスをめぐる知的財産の対象
場面 | 知的財産の対象 | 概要 |
研究開発 場面 | 生データ | ・農業関係者等から提供されることが想定される。 ・本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型の提供データ、またはデータ創出型の契約の当初データ等が想定される。 ・提供データに営業秘密やノウハウがxx含まれていないように見えるケースであっても、他のデータと組み合わせることで営業秘密やノ ウハウが推測されるケースもある5。 |
教師データ | ・生データに対して機械学習が可能となるよう、一定の判断情報などを付したデータ。アノテーションがなされたものである。 ・農業分野での研究開発では、熟練農業者や農業普及指導員、研究開発機関等のノウハウや研究成果等が反映される。 ・本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型、もしくは データ創出型の契約における派生データに該当する。 | |
学習用データセット | ・生データを機械学習用の学習プログラムで、学習できるように調整したデータ。教師データに対して調整する場合もある。 ・データ自体の選定やクレンジング(xx化、重複・誤記等の修正・削除等によるデータ品質の向上)などの加工が行われる。 ・本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型、もしくは データ創出型の契約における派生データに該当する。 | |
学習用プログラ ム | ・学習用データセットを学習するためのプログラム ・AI研究開発者による著作物 | |
ハイパー・パラメータ | ・学習用データセットを効率的に学習させるために用いるパラメータセット(データ) ・学習用データセットから生成されるが、主に学習用プログラムの利用 のために用いられる。 | |
推論プログラム | ・学習済みモデルを構成するプログラムで、新たな値を入れた際に、学習結果を踏まえて、演算結果を出力する。 ・AI研究開発者による著作物。 | |
学習済みパラメータ | ・学習用データセットの学習結果から得られた、推論に必要なパラメータセット(データ)。 ・学習において得られた特徴点に関するデータ等が含まれる。 |
5 データ利活用編 P4 脚注 7
場面 | 知的財産の対象 | 概要 |
・本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型、もしくは データ創出型の契約における派生データに該当する。 | ||
利用場面 | 入力データ | ・サービス利用に際して、利用者により入力されるデータ。 ・利用者において秘密として管理されるものも含まれうる。 |
【ポイント 8】教師データの作成のプロセス
AIの研究開発を行う際に、効率的な学習を行うために、教師データを作成することが多い。教師データは、生データに対して学習に際しての「正解」となるデータを付加したものである。例えば画像データから、その画像がネコかイヌかを判断するためのモデルを研究開発する際に、生データに対して写っている内容がネコであるか、イヌであるかの情報を付加して作成する。このプロセスがアノテーションである。
農業分野では、教師データの作成に際して正解となる判断基準のデータを、熟練農業者や農業普及指導員、研究試験機関等が提供することが多い。例えば葉のデータが虫食い状態にあるかどうかの判断基準を提供する。この判断基準は、熟練農業者や農業普及指導員のノウハウや研究開発機関の研究成果を踏まえたものであることが多い。
教師データは、生データに対してこの判断基準を踏まえた判断結果の情報を付加したものであるが、実際の作業には多くの労力が必要となるほか、具体的な判断を行う際に、経験や専門性が必要となることもある。この部分やAI研究開発者が行うことが多い(AI研究開発者から別の事業者等に再委託により行われるケースもある)。
図 10 教師データ生成のプロセス
2. AIを利用した製品・サービスに関連する契約の目的
農業分野におけるAIを利用した関連する契約においては、目的の設定が極めて重要である。
農業分野の製品・サービスに実装するAIの研究開発では、施策の実現目的から資金提供を国や地方公共団体が行ったり、データやノウハウを熟練農業者や農業普及指導員等が提供したりするケースが多くみられる。その場合、成果として得られたAIや派生データの利用用途や提供先、モデルの再利用などについては、利用目的を踏まえた契約内容とすることが想定される6。また、契約に明記されないもの(用途、利用方法、提供先等)が生じた場合の取扱いを示す観点から、契約の目的を示すことが必要である。
契約の目的は、例えば国や地方公共団体が資金提供を行う契約の場合には、知的財産の保護の観点と活用の観点の両面からのバランスを見て設定を行うことが求められる(表 3)。また企業等が行う場合には、製品・サービスの提供におけるビジネスモデルなどを勘案して、AI研究開発委託者とAI研究開発者との間で契約の目的を決定することとなる。
表 3 国・地方公共団体が資金提供を行う事業における契約の目的とその対応
資金提供 主体 | 契約の目的 | 契約内容における具体的な対応 |
国 | 国際的な競争力強化を 図る場合 | ・成果物・派生データの利用目的の制限 ・特定地域外提供の制限 |
成果の自由な利用を推進する場合 | ・基盤利用の開放 ・提供された知的財産に対する非保証 ・xxな利用権限の承認(国内) ・二次成果物の権利等の帰属 | |
地方公共 団体 | 他地域との競争力の強 化とする場合 | ・成果物・派生データの利用目的の制限 ・地域外提供の制限 |
地域内での成果を自由に利用する場合 | ・提供された知的財産に対する非保証 ・xxな利用権限の承認(地域内) ・差別化された利用条件・権限の設定(地域外) ・二次成果物の権利等の帰属 | |
地域のノウハウの伝承とする場合 | ・地域で伝承される生産方法等のノウハウの継承 ・域内だけの継承とするか、域外も含めた継承とするかにより、具体的な対応は異なる。 |
6 経済産業省ガイドライン 別添P26 では、契約の目的が不明瞭なために、目的外利用とはいえず、受領したデータをベンダによる自己利用が認めうる例を示している。
3. AIを利用した製品・サービスに関連する契約の当事者
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する契約場面については、
・製品・サービスの研究開発段階における契約
・製品・サービスの利用段階における契約
・製品・サービス提供者やAI研究開発者が、第三者に対して保有するデータ等を提供する段階の契約
の 3 つの場面が想定される。
それぞれの場面において考慮すべき当事者として、
・農業関係者等
・AI研究開発委託者(国、地方公共団体、受託契約管理団体(公的機関)、製品・サービス提供者等)
・AI研究開発者(研究試験機関等)
・上記以外の第三者(第三者提供における提供先)などが想定される。
なお「AI研究開発委託者」、「AI研究開発者」については、各契約における位置づけにより、同じ主体(例えば製品・サービス提供者)が「AI研究開発委託者」になったり、「AI研究開発者」なったりすることがある(例えば、製品・サービス提供者が、受託契約管理団体から受託する場合には、「AI研究開発者」となり、この契約を踏まえて研究開発機関等にAIの研究開発を委託する場合には、 「AI研究開発委託者」 となる)。
以下では、各契約場面の当事者関係の概要を示すとともに、考慮すべき当事者について、整理する。
契約における当事者関係の概要
上述のように農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する契約場面については、3 つの場面が想定される。各段階において生じる契約関係について示したものが、表 4 である。
研究開発においては、
・農業関係者等とAIの研究開発主体(製品・サービス提供者、AIの研究開発者などが想定される)との間でのデータ・ノウハウ等の提供に関する契約
・製品・サービス等におけるAIの研究開発者(製品・サービス提供者、AI研究開発者のほか、資金の提供形態等により国・地方公共団体、受託契約管理団体等が想定される)の間でのAI研究開発の委託に関する契約
などが想定される。なお研究開発体制によっては、農業関係者等とAIの研究開発に関わる委託者・受託者などを含む形での契約がなされることもある。
製品・サービスの利用段階においては、製品・サービスを利用する農業関係者等と製品・サービス提供者との契約となる。
AI研究開発者が、第三者に対して保有するデータ等を提供する段階の契約については、主に製品・サービス提供者やAIの研究開発者とデータ等(生データ、派生データ、プログラム等)の提供を受ける第三者との契約となる。
表 4 農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関連する契約の当事者関係7
各段階の当事者間の契約関係 | |
研究開発段階 | |
製品サ |ビス利用段階 |
7 表 4 の図では、国や地方公共団体等が研究開発委託者になっており、事業を受託契約管理団体が実施するケースを示している。実際には、民間事業者等が研究開発委託を行い、受託契約管理団体が存在しないケースも想定される。詳細は P35「3.AIを利用した製品・サービスの研究開発場面での契約の当事者に関する留意点」参照。
各段階の当事者間の契約関係 | |
第三者提供段階 |
農業関係者等
農業関係者等は、
・AIを利用した製品・サービスの研究開発におけるデータ・ノウハウ等の提供に係る契約
・AIを利用した製品・サービスの利用場面での製品・サービス利用規約(約款)などの契約の当事者として位置づけられる。
AIを利用した製品・サービスの研究開発におけるデータ・ノウハウ等の提供に係る契約では、
・農業関係者等からの生データの提供
・AIの研究開発に必要な農作業等に関連するノウハウの提供
などが内容となっており、それらの利用目的、利用範囲等、報酬等、第三者提供に関する同意と範囲、などが具体的な内容となる。
AIを利用した製品・サービスの利用に関する製品・サービス利用規約(約款)では、サービス提供目的や内容のほか、サービスを利用するために利用者が提供(登 録)したデータの取扱い(利用、管理、第三者提供等)についても契約内容の対象となる。
【ポイント 9】法人格を有しない農業団体
農業関係者等に関する契約主体について、本ガイドライン(データ利活用編)では、農業従事者、農業協同組合、農業法人、法人格を持たない生産部会などを想定しており、またデータ受領者としては、株式会社や合同会社等の法人のほか、法人格を有さない協議会や民法上の組合などを想定している。
このうち、法人格を持たない生産部会や協議会等については、契約の名義者となることはできないため、法人格を持たない生産部会や法人格を有しない協議会等の代表者やその代表となる法人が代表して、契約の名義者となる。当該生産部会や協議会を代表し、生産部会や協議会全体に法的拘束力を及ぼすことを目的として契約する。契約主体自体については、法人格を有しない農業団体であると考えられる。
法人格を有しない契約主体において留意すべき点は、成果物を利用する権限と、第三者等に利用許諾を与える権限は分けて考えることである。
成果物を利用する権限については、当該団体等を構成する構成員に認められるが、第三者に利用権限を与える権限は、当該団体が法人格を有しないとしても、各構成員に認められるものではなく、当該団体等の事務執行を行う機関(執行部等)に認められることになる。
このような観点から、法人を有しない農業団体においては、構成員における成果物を
利用する権限とライセンス提供等の外部への処分権限の有無等について、組織内で明確にすることが求められる。
AI研究開発委託者
研究開発委託者は、農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの研究開発を委託する者を想定する。
我が国では農業分野では、国・地方公共団体などが研究開発委託者となり、研究開発を受託する者に対して、AIの研究開発や、これを実装した製品・サービスの研究開発などを委託するケースが多い。
国・地方公共団体以外の場合として、農業関係者や企業等が研究開発委託者となる場合がある。そのほか、製品・サービス提供事業者が、自らの資金で研究開発を行う場合もある。
AI研究開発者
AI研究開発者は、研究開発委託者からAIを利用した製品・サービスに組み込むAIの研究開発等を受託する者をいう。
国・地方公共団体が研究開発委託者の場合には、受託契約管理団体の下で、製品・サービス提供者と研究開発機関が、AIを利用した製品・サービスの研究開発を行うことが多い。この場合、製品・サービス提供者がAI研究開発も含めて、受託契約管理団体より受託し、さらに研究開発機関に対して、AI研究開発を再委託する場合がある。このケースでは、受託契約管理団体との契約関係では、製品・サービス提供者がAI研究開発者になり、再委託契約に
おいては製品・サービス提供者がAI研究開発委託者、研究開発機関等がAI研究開発者になる。また受託契約管理団体から研究開発機関に対して、直接委託する場合があるが、この場合は受託契約管理団体がAI研究開発委託者、研究試験機関がAI研究開発者となる。
農業関係者等が研究開発契約の委託者である場合には、製品・サービス提供者と研究開発機関が受託者となり、当該農業関係者等の利用目的に応じたAIを利用した製品・サービスの研究開発を行う(例えばAIの研究開発は研究開発機関、成果物であるモデルの実装は製品・サービス提供者など)。
第三者
第三者は、本ガイドライン(ノウハウ活用編)では製品・サービスの研究開発に際して得られた成果物等を、製品・サービス提供者から提供を受ける者を指す。
提供されるものは、研究開発に用いた生データ、学習用データセット、学習済モデルのほか、サービス利用において用いられる入力データや、特許xxの知的財産権、製品・サービスの提供なども含まれる(生データ、入力データの第三者提供については、「本ガイドライン(データ利活用編)」P34、P71、P74 などで記述)。
第三者提供の対象となる成果物等には、研究開発等において協力が得られた農業関係者等におけるノウハウや、これにつながるデータなどが含まれることから、農業関係者等の不測の損害等を回避するための措置が求められる。
【ポイント 10】第三者提供の制限
民間事業者が行うAIの研究開発では、AIの研究開発の背景として、例えば他社とのサービスや製品との差別化や自社内のノウハウの継承などが挙げられることがある。このような場合、委託元である企業は、研究開発の成果であるAIを、第三者に対して提供することに躊躇する傾向にあり、第三者への提供制限や、一定期間の独占的な利用をAI研究開発者に対して求めることになる。
他方、AI研究開発者は、受託を受けた際の委託料では、AIの研究開発に投じた費用やノウハウを回収しきれない場合には、第三者への提供を行うことで、費用の回収を行おうとするため、両者で調整を行うことになる。
農業分野の場合にも同様のことが発生しうる。例えば国や地方公共団体が資金を投入する目的として、競争力強化を掲げてAI研究開発を行うことが挙げられている場合には、提供先の範囲についても、特定地域外への提供を制限することなどを、研究開発契約の段階で明示することが必要となる。また農業関係者等がデータ提供を行う際にも、想定しない第三者にノウハウなどが流出してしまう懸念を払しょくするためにも、第三者提供の範囲については、事前に合意することが求められる。
他方、研究開発の段階から、実際に商用化の段階に進む際には、さらなる費用投下が必要となり、その費用投下の回収のために、製品・サービス提供者等は第三者への提供などが必要となることも想定される。このような場合には、費用負担に関する調整とともに、第三者への提供の範囲についても、再度調整することが求められる。
4. AIの研究開発プロセスについて
AIの研究開発プロセスとその特徴
AIの研究開発プロセスについて、経済産業省ガイドラインでは、通常のシステムの開発プロセスとは異なり、「探索的段階型」によることを提唱している8。これは、機械学習モデルの研究開発においては、学習済みモデルの内容・性能等が契約締結時に不明瞭な場合が多いことや、その内容・性能等が学習用データセットに依存することがあることを踏まえて、当事者間での契約の目的や成果物に対する認識の齟齬が生じないようにすることで、トラブルの発生を未然に防ぐことを目的としている。そのプロセスの概要について、図 11 に示す(本ガイドライン(ノウハウ活用編)の記述との関係で、研究開発段階と追加学習段階の間にサービス提供段階を挿入してい
る)。
具体的には、研究開発段階の前に、アセスメント段階と PoC 段階を設けて、研究開発段階に入る前に、モデル構築の可能性や、学習済みモデルの生成可能性を検討することとしている。また研究開発段階を経たのち、追加の学習用データセットを加えて再度学習することで、モデルの精度向上を図るのが追加学習段階である。
なお実際には、研究開発後、サービス利用等に供することが想定され、その段階で追加学習に用いることが可能なデータの収集が行えることから、図 11 ではサービス利用段階を設けている。
出所:経済産業省ガイドラインより作成
図 11 AIの研究開発プロセス例
農業分野におけるAIの研究開発の特殊性
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの研究開発においては、国や地方公共団体などが資金供与を行い、AIの研究開発委託者となることが多い。
国などによる事業では、AIの研究開発やその実装を目的とするものが多く、アセスメントや PoC などの段階を目的とした事業は少なく、事前審査の段階でモデル研究開発の可能性についても審査されることが多い。
8 経済産業省ガイドライン P41
そこで、本ガイドライン(ノウハウ活用編)で示す研究開発における委託関係の契約書のひな型については、経済産業省ガイドラインで示される各ひな型のうち、「ソフトウェア開発契約書」のひな型を踏まえた検討を行う(P76)。
【ポイント 11】AI研究開発における本ガイドライン(ノウハウ活用編)における対象範囲
AIの研究開発に際しては、当事者間の取決め以外に法律上のルールが定められている。例えばネット上で権利者が公表している著作物を、機械学習で利用する場合のルールについては、著作xxにおいて示されている。またAIを利用する製品やサービスでは、その製品・サービスの安全性等について、それぞれの関連法で定められていることがある。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、AIの研究開発を行う際に利用するデータやノウハウ、あるいは生成するデータ等や知的財産権などに関する、関係者間との取決めについて示すことを目的としており、上述のような当事者間の契約関係以外の法律上のルール等については、対象外としている。
図 12 AI研究開発者がデータ・ノウハウを使って研究開発する際の疑問
第3. 農業分野においてAIを利用した製品・サービスに関する契約上の留意事項
1. AIを利用した一般的な製品・サービスに関する契約における特徴と留意点
問題の所在
AIの研究開発は、機械学習モデルの性格から、一般的な ICT サービスや製品とは異なる特徴を有している。またAIを利用した製品やサービスは、普及段階についたところであることから、AIを利用した製品やサービスの特徴については、利用者などにおいて、必ずしも十分理解が得られているとは言えない。
経済産業省ガイドラインでは、このような状況を踏まえて、AIを利用した製品・サービスの研究開発や利用において生じるトラブル等の問題の背景について、図 13に示すように整理している9。
ここで示される内容は、AIを利用した製品やサービスの普及段階にある農業分野においても該当するものである。
出所:経済産業省ガイドラインより作成
図 13 AIの研究開発や製品・サービス提供に係る契約上の問題の所在
9 経済産業省ガイドライン P2-P4
【ポイント 12】AIの性能の契約不適合責任10
AIについては、上述のように、いわゆる「性能保証」が難しいという特性がある。これは、機械学習モデルで学習するデータについては、あくまでも過去のデータであり、その分析の結果から得られる法則性に基づくのであり、新たな事象に対して、必ずその法則が適用されるか、あるいはどの程度の確率で適用されるかは、保証しにくいという特性を有するからである。またこのような特性を有するAIの研究開発契約は、一般的には完成品が予定されている請負契約ではなく、必要な善管注意義務に基づいて業務を行うことで足りる準委任によるため、成果を求める類型の準委任であっても、いわゆる「瑕疵」を想定することはできない。
加えて、製品・サービスにおいてAIを実装する場合には、AIによる判断結果に対して、製品やサービス側で一定の範囲(しきい値)を設定して、必要な機能が果たせるようにしていること。そのため一般的には、契約不適合責任(従来の瑕疵担保責任に相当)については、製品・サービスに対して、利用者は対応を求めることができるが、AIそのものに対しては、対応を求めることは難しいとされる。
例えば、故障検知をするためにAIを用いたソフトウェアサービスを提供した場合で、実際には故障検知をしなかった、という場合には、ソフトウェアサービスに対する機能に対する契約上責任を求めることはできるが、AIの性能が悪いことを理由に契約上の責任を求めることは、当事者がAIの性能を保証するなどがないと難しいとされる。
そのため、AIを用いた製品・サービスにおいては、このようなAIの特性を踏まえて、免責規定を設けることが多い。利用者においては、このような特性を理解しないまま、AIにより実現できるとされる機能だけで製品・サービスを選択すると、契約の目的が達せられない可能性もあることから、留意することが求められる。
AIを利用した一般的な製品・サービスに関する契約における留意点
経済産業省ガイドラインでは、機械学習モデルによるAIの研究開発の特徴として以下の点を挙げている11。
⮚ 学習済みモデルの内容・性能等が契約締結時に不明瞭な場合が多いこと
⯎ 事前の性能保証が性質上困難であること
⯎ 事後的な検証等が困難であること
⯎ 探索的なアプローチが望ましいこと
⮚ 学習済みモデルの内容・性能等が学習用データセットによって左右されること
⮚ ノウハウの重要性が特に高いこと
⮚ 生成物に更なる再利用の需要が存在すること
このうち、農業関係者等の立場から見ると、農業関係者等がAIを利用した製品・サービスを利用する際には、「事前の性能保証が性質上困難であること」、「事後的な
10 従来までの瑕疵担保責任に相当する責任で、令和2年4月施行の改正民法から導入される責任類型。
11 経済産業省ガイドライン P18-P21。なお本ガイドラインで対象とするAIについては、ポイント 2 に示す。
検証等が困難であること」について、特に留意する必要がある12。AIを利用した製品・サービスの性能はあくまでも、その研究開発に用いたデータとの関係で性能等が示されたものであり、利用者が利用時に入力したデータに対しても、確実に同じ動作をするかについては保証されるものではない、という特徴を有する(例えば、入力したデータが、AIが予定したデータの範囲よりも大きく異なる場合には、必ずしも性能が発揮されるとは限らない)。また入力したデータと、その結果の関係について
も、必ずしも因果関係等が説明できるわけではない、という性格を有している。 また、「ノウハウの重要性が特に高いこと」という点については、AIの研究開発
に際して、農業関係者等がノウハウを提供する場合には、農業関係者等の利益の保護という観点から、提供したノウハウの価値や目的について、当事者間で適切に理解することが求められる13。
「生成物に更なる再利用の需要が存在すること」との関係では、データを提供したり、製品・サービスの利用に際してデータを入力したりする場合には、提供したデータの再利用や、AIを用いたモデルの第三者への提供などについて、留意することが求められる。
12 例えば経済産業省ガイドラインでは、利用者側におけるAIに対する留意点として、「学習済みモデルの特性は、ベンダのみならず、ユーザにとっても大きな意味を持つ。すなわち、学習済みモデルは、学習に利用するデータはもちろん、適用の条件や推測する対象を理解することで、初めて高い精度を生み出すことができるものであるし、そもそも、学習済みモデルの出力結果には本質的に誤差が含まれるのである。このような学習済みモデルの性質は、たとえば、ユーザまたはベンダに対する権利帰属・利用条件や責任関係を論じる上で、特に留意しなければならない。」とする。
13 農業分野におけるAIに関する研究開発や利用に関する契約条項などを具体的に作成する場合には、契約対象であるデータに関する権限関係や知的財産権などに関する理解も必要となる場合があるほか、AIの特殊性を理解することも求められる。そのため必要に応じて、弁護士や弁理士等の専門家に対する相談なども行いながら、具体的な契約内容を定めることが望ましい。また農林水産省における同種の取組事例なども参考になりうるので、適宜参照することが望ましい。
ノウハウを含むデータや秘密情報等を扱う契約についての情報提供や無料相談・適切な専門家の紹介などを行うサイトや相談窓口を利用するのも一案である。例えば知的全般についての情報収集のためのサイトとして「知的財産相談・支援ポータルサイト」(独立行政法人工業所有権情報・研修館 xxxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxxxxx/xxx/xxxx.xxxx)の他、日本弁理士会の無料相談(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx- request/free_consultation/)、弁護士知財ネットの相談ページ xxxxx://xxxxx-xxx.xxx/xxxxxx、第二東京弁護士会の特定分野の弁護士紹介サービスxxxxx://xxxxx.xx/xxxxxxx/xxxxxx/xxxxxxx.xxxx などがある。
2. AIを利用した製品・サービスにおける契約関係 契約関係の概要
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスについて、契約場面と契約当事者ごとに発生する契約について整理したものを表 5 に示す。
農業関係者等の観点から見ると、契約の当事者となるのはAIの研究開発を行う主体であるAI研究開発委託者、またはAI研究開発者との関係でのみである。第三者提供などについては、農業関係者等が提供したデータやノウハウ等が提供の対象となるものの、直接契約の当事者とはならないことから、農業関係者等に不測の損害が発生することが懸念される。
表 5 各場面において生じる契約
契約場面 | ||||
研究開発に関連する 契約関係 | 製品・サービス利用に関 連する契約関係 | 第三者提供 | ||
契約当事者 | 農業関係者等-A I研究開発委託者 | ・データ等提供契約 (AI研究開発委託者がデータ収集等を行う場合) | ・サービス利用契約(A I研究開発委託者が、製品・サービス提供を行う 場合) | - |
農業関係者等- AI研究開発者 | ・データ等提供契約 (AI研究開発者がデータ収集等を行う場合) | - | - | |
AI研究開発委託者-第三者 | - | - | ・データ等提供契約(研究開発委託者にデータ・成果物に関する処 分権限がある場合) | |
AI研究開発者- 第三者 | - | - | ・データ等提供契約 (研究開発者にデータ・成果物に関する処分権限がある場合) | |
AI研究開発委託者-AI研究開発 者 | ・研究開発(再)委託契約 | ・製品・サービス提供協力契約 | - |
黄色部分:農業関係者等が直接、契約に関係する部分
緑色部分:農業関係は直接、契約しないものの、農業関係者等のノウハウ等の処分に関する部分
青色部分:AIを利用した製品・サービス研究開発の委託関係に関する部分(原則として経済産業省ガイドラインが適用)
各契約関係と参照すべき契約ガイドラインの関係
(1)でみた農業分野におけるAIを利用した製品・サービスに関する各当事者で発生する契約に関し、各契約関係の内容を決める際に参照すべきガイドラインについて、図 14 に示す。
農業関係者等がデータやノウハウの提供を行う際の契約については、基本的には本ガイドライン(データ利活用編)に示す内容が妥当するが、AIの研究開発という特殊性に基づき、一部変更すべき内容が発生する。また農業関係者等がサービスを利用する際の契約については、経済産業省ガイドラインにて示されている利用場面での留意点の内容が基本的に該当する。
AI研究開発に係る契約関係については、経済産業省ガイドラインの内容が、基本的には適用可能である。ただし農業関係者等によるデータ等の提供という点の考慮 や、研究開発委託者が国や地方公共団体になった場合の特殊性について考慮した内容を反映することが求められる。
第三者提供に関しては、本ガイドライン(データ利活用編)の内容が該当する。この場合、農業関係者等が提供するデータやノウハウ等が対象となることから、農業関係者等の利益保護の観点からの考慮が求められる。
図 14 各契約関係と参照すべき契約ガイドラインの関係
3. AIを利用した製品・サービスの研究開発場面での契約の当事者に関する留意点
研究開発当事者間の契約における類型
農業分野におけるAIを利用した製品・サービスの研究開発の特徴として、前述の通りAI研究開発委託者が、現状では民間事業者であることよりも、国や地方公共団体、受託契約管理団体、農業関係者等などが主体となることが多い。またAI研究開発者も民間事業者だけではなく研究試験機関などが担うことも多くみられる。
特に研究開発委託者の類型が異なることで、研究開発の成果の利用目的や範囲についての配慮が求められ、その内容を契約内容に反映させる必要が生じる。そこで、A I研究開発委託者の類型とそれに応じた考慮要素を表 6 に示す。具体的な契約条項の検討に当たっては、この内容を加味して対応することが求められる。
表 6 AI研究開発委託者の類型と考慮要素
研究開発 委託者 | 類型の特徴 | 類型における特徴・考慮要素 | 研究開発者(研究開 発の受託者) |
国 | 国が、農業支援等の目的により、AI製品・サービスの研究開発委託を行う | ・農業支援等の産業振興目的の施策に基づいて、成果物の権利関係や利用関係に関する制限等を定めることがある。 ・国際競争力の強化を実現する観点から、成果物等の利用先の制限や、ノウハウの特定地域外への流出防止に資する対応を行うことがある。 ・国の資金を投入する関係で日本版バイ・ドール法への対応などが生じることがある。 ・公的機関等が受託管理機関として位置づけら れ、内部的な契約内容を管理することがある | ・受託契約管理団体 ・製品・サービス提供者 ・AI研究開発者 |
地方公共団体等 | 地方公共団体等が、地域農業支援等の目的により、AI製品・サービスの研究開発委託を行う | ・地域の産業振興等の施策目的や、地域における農業技術の継承などの目的に基づいた成果物の権利関係や利用関係に関する制限等を定めることがある。 ・地域間競争力の強化を実現する観点から、地域外への成果物等の利用先の制限や、ノウハウの地域外への流出防止に資する対応を行うことがある。 ・農業普及指導員が有する地域における農業生産のノウハウの活用促進を図る目的で、研究開 発の委託がなされることがある。 | ・受託契約管理団体 ・製品・サービス提供者 ・AI研究開発者 |
研究開発 委託者 | 類型の特徴 | 類型における特徴・考慮要素 | 研究開発者(研究開 発の受託者) |
・公的機関等が受託管理機関として位置づけら れ、内部的な契約内容を管理することがある | |||
農業関係者 | 農業関係者が、自らの利用目的等のために AI製品・サービスの研究開発委託を行う | ・委託者・受託者の関係は基本的には経済産業省ガイドラインを踏襲 ・農業関係者等に権限や権利がある場合、成果物の権利関係や利用関係が農業関係者等の内部関係に基づき決定される(本ガイドライン(データ利活用編)を踏襲) ・委託者が法人格を有しない場合の考慮が必要 | ・製品・サービス提供者 ・AI研究開発者 |
企業等 | 一般企業・団体が、農業分野でのサービス提供目的でAI製品・サービスの研究開発 委託を行う | ・委託者・受託者の関係及び研究開発の受託者の内部関係は基本的には経済産業省ガイドラインを踏襲 | ・製品・サービス提供者 ・AI研究開発者 |
なし | AI製品・サービス提供者が自ら、AI製品・サービスの研究開 発を行う | ・委託者・受託者の関係は基本的には経済産業省ガイドラインを踏襲 | ・AI研究開発者 |
【ポイント 13】営業秘密と限定提供データ
データについては、一般的には「データ・オーナシップ」という言葉や、「データの所有権」という表現がなされるが、法律上は「所有権」の対象とはならない。所有権は、民法では対象を所有
「物」としており(民法第 206 条)、「物」とは、有体物(物理的に存在するもの)とされている
(民法第 85 条)。そのため、物理的な形を有しない知的財産については、別途法律の定めがある場合(例えば、著作xxや特許法、種苗法等)以外には、所有権同様の保護を受けることができない。
データについては、著作xxで著作物の対象となることがあるものの、一般的には著作権の要件である「創作性」が認められないため、著作xxで保護されないことが多い。
そのため、データそれ自体は、一旦流出してしまうと、法律上の保護が受けられないことになる。このことはノウハウについても同様である。
他方、データやノウハウの生成や蓄積には、資本を投下し、あるいはxxの経験の蓄積や工夫で培われたものがあり、このようなものについて、一定の条件の下で保護することが、求められる。
このようなデータやノウハウは「不正競争防止法14」で保護される。不正競争防止法では、一定のデータやノウハウについて、法律が認める管理方法で管理している場合に、第三者が管理者の意図しない形で利用した際には、「営業秘密」や「限定提供データ」として、損害賠償を認めたり、利用の差し止めを行ったりすることを認めている。
「営業秘密」については、「有用性」(事業等にとって有用であると客観的に認められること)、
「非公知性」(管理しているもの以外には、一般に入手できないこと)、「秘密管理性」(秘密として管理し、これに必要な措置が施されていること)などを要件に認められる。
「限定提供データ」は、秘密としては管理されておらず、他の者と一定の条件の下で利用ができるものの、それ以外の第三者には利用を認めていないようなケースを想定した制度である。第三者が不正に限定提供データを入手して利用する際には、差止請求などがなされる。限定提供データについては、電磁的な方法で相当量に蓄積されたデータについて、管理されている技術上・営業上の情報とされている。
このように営業秘密や限定提供データ15は、データやノウハウを生み出し、管理する者の利益を保護するために重要な制度として位置づけられている。
AI研究開発委託者の類型に応じた委託契約関係の留意点
AI研究開発委託者が国・地方公共団体等の場合の委託契約関係の留意点
国・地方公共団体等がAIの研究開発委託者となる場合の関係を図 15 に示す。
14 xxx年法律第四十七号
15 営業秘密、限定提供データについてはそれぞれ、「営業秘密管理指針」
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxxxxx/x00xx.xxx)、限定提供データに関する指針」
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxxxxx/x00xx.xxx)(いずれも経済産業省、平成 31 年 1
月 23 日)が示されている。
図 15 研究開発委託者が国・地方公共団体等の場合の当事者関係と留意点
施策目的に基づく制限等に関する反映
国や地方公共団体がAIの研究開発委託者となる場合、公的資金を投入してAIの研究開発を行うことから、資金投入の施策目的に応じた制限が生じうる。
例えば国が行うAIの研究開発による施策目的として、我が国の農業の国際競争力の強化が含まれる場合には、研究開発委託契約においても、その内容が考慮される必要がある。例えば
・AIにおいては、我が国の農業関係者等のノウハウや暗黙知が反映されうることから、これを用いたサービス提供の範囲は、我が国の農業関係者等に限定される
・AIの研究開発に用いる学習用データセットについて、これが特定地域外に流出すると、特定地域外において我が国の農業関係者等のノウハウを反映した学習済みモデルの生成が可能となる等のリスクが生じうる。これを防止するため、AIの研究開発により生じた成果物等についての第三者提供の範囲を特定地域に限定する16
などが想定される。
地方公共団体による資金投入により、AIの研究開発が行われる場合で、当該地方公共団体における農業関係者等の地域間競争力の強化などが政策目的になっている場合には、同様に研究開発したAIを実装したサービスの提供範囲やAIの研究開発に
16 第三者の範囲の限定における特定地域の範囲については、政策目的などを勘案して必要性を踏まえて検討することになる。
用いた成果物の提供範囲を、当該地方公共団体における農業関係者等に限定するなどの対応が求められる1718。
手続等における対応
国や地方公共団体の資金により研究開発される場合、民間事業者間での契約とは異なり、一定の様式に基づいて契約を行うこと等が求められる。
また事業によっては公的機関等が受託契約管理団体として、委託先の選定や委託契約の締結を行うことも想定される。
このように、国や地方公共団体がAI研究開発委託者となる場合には、契約条件や委託費用の支払方法等などの手続に関する内容に関しては、委託者側で定める規程等を考慮に入れた契約内容とすることが求められる。
権利処理における対応
AIの研究開発の成果として、特許権などの知的財産権が生じた場合には、日本版バイ・ドール制度(産業技術力強化法第 17 条)への対応が求められる。この場合、成果物の帰属関係に関する条項において、必要な手続等に関する取決めを含めることが求められる。
研究開発委託者が農業関係者の場合における委託契約関係の留意点
農業関係者がAI研究開発委託者となる場合の関係を図 16 に示す。
図 16 研究開発委託者が農業関係者の場合の当事者関係と留意点
17 この場合、サービス提供範囲を限定することにより、AIの精度を向上させるためのデータ収集が限定されるおそれも生じる。従って具体的な利用範囲の設定に際しては、例えば地方公共団体の内外で利用料金などの条件に差を設ける、広域連携型のサービスを構築するなど、制限を設けることのメリットとデメリットの調整を行うことが求められる。
18 成果物の利用権限等を特定地域に限定することが、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(xx取引委員会、最終改正平成 28 年 1 月 21 日)との関係で留意が求められることがある。従って制約を設ける場合にも同指針の趣旨を踏まえて、制限における正当な理由の検討と、制限対象、方法、期間等の適正な設定を行うことが望ましい。
データ・ノウハウ提供関係の整理
農業関係者がAI研究開発委託者である場合、例えば農業協同組合がAI研究開発委託者となり、そこに属する農業従事者がデータ等を提供する場合、研究開発委託者がデータ等を提供するのか、委託者とは別に農業従事者などの農業関係者等がデータ等を提供するのかなどについての整理を行うことが求められる。
例えば農業協同組合がデータ等を提供するという構成をとる場合には、基本的には経済産業省ガイドラインが想定する学習済みモデルと同様であることから、経済産業省ガイドラインにおける条項の適用が可能であると考えられる。そのうえで、本ガイドライン(ノウハウ活用編)で農業分野の特殊性に基づく変更点を考慮することになる。
他方、AI研究開発者が農業関係者等から別途データ等の提供を受けるという構成をとる場合には、データを提供する農業関係者等との間で、別途、データ・ノウハウ等の提供に係る契約を締結することが求められる。
AI研究開発委託者が法人格を有しない場合の考慮
AI研究開発委託者が生産部会や協議会などの法人格を有しない団体の場合(ポイント9参照)には、AIの研究開発によって得られた成果に対する利用権限と、利用権限の許諾を決定する権限について、明確にすることが求められる。基本的にはAI研究開発委託者の内部問題であるが、例えば成果物についてAI研究開発委託者とA I研究開発者の間で共有などの取決めを行う場合には、利用権限の処分権者の確認 や、提供されるデータ内容から見た処分者の妥当な者によって行われたかの確認など行うなど、混乱が生じないような対応を行うことが求められる。
研究開発委託者が企業等の場合における委託契約関係の留意点
研究開発委託者が企業等の場合における委託契約関係の概要
企業等がAI研究開発委託者となる場合の関係を図 17 に示す。
図 17 研究開発委託者が企業の場合の当事者関係と留意点
データ・ノウハウの提供を行う場合の、農業関係者等に対する考慮
AIの研究開発の委託を企業が行い、製品・サービス提供者等がこれを受託する場合には、委託契約関係の当事者に農業関係者等が登場しない。そのため委託契約関係の内部で取り決めた成果物に関する利用権限関係や帰属関係などについての内容によっては、データやノウハウを提供した農業関係者等の利益を損なう可能性がある19。
そこで、AIの研究開発に係る契約内容を決定する際には、農業関係者等からデータ、ノウハウ等の提供を受けるための契約内容との整合性を図ることが求められる。具体的には提供を受けたデータやノウハウの利用目的や、第三者提供の範囲、追加学習等の可否や、利用期間などについての整合性をとることが求められる。
研究開発委託者がなく、製品・サービス提供者が自ら研究開発の委託者となる場合における委託契約関係の留意点
製品・サービス提供者がAI研究開発委託者となる場合の関係を図 18 に示す。この場合の留意点は③と同様の内容になる。
図 18 研究開発委託者が製品・サービス提供者自身の場合の当事者関係と留意点
19 データなどは知的財産に当たらない場合がある。この場合、研究開発契約における第三者の知的財産の侵害とならないとされる。
4. AIを利用した製品・サービスに関して農業関係者等により提供されるデータ・ノウハウ等
農業関係者等におけるデータ・ノウハウの重要性 AIの研究開発に際しては、農業関係者等からデータとノウハウが提供される。データについては、AIの研究開発において基礎となるものである。機械学習で
は、様々なデータを帰納法的なアプローチで分析し、その成果として学習済みモデルが生成されることから、学習に際してより多くの、またより多様なデータを収集することが、精度の高いモデルを研究開発するために重要となる。
農業分野におけるAIの研究開発において求められるデータは、実際に生産を行う際に得られるデータや、農作物等から得られるデータが中心である。農業データの場合、農作物に関するデータには 1 年に 1 度しか得られないものもあり、またAIの研究開発を行う目的によっては、データを取得する地域や環境などが限定されることもある。そのため機械学習を行うのに十分なデータを得るのに、データの提供者、受領者双方において大きな負担を伴うことがある。
そこで農業分野のAIの研究開発においては、データと併せて、農業関係者等のノウハウを活用することにより、モデルの生成を効率的に行うことが期待できる。
AIの研究開発においてノウハウについては、以下の目的で利用される。
・熟練農業者における知見や経験をAIを利用して形式知の形にすることで、他人が利用できるようにする。
・AIの研究開発のうち、機械学習で求められる教師データなどにおいて、農業関係者等の知見等に関する情報を活用する。
農業関係者等における知見とノウハウ
農業関係者等が有する知見とノウハウの関係
農業関係者等のノウハウについては、その経験や創意工夫に基づいて得られるものがあるが、必ずしも可視化されておらず、さらには暗黙知のレベルにとどまっているものも多い。
図 19 は農業関係者等が有する知見や経験がAIを利用して形式知の形になるプロセスのイメージの一例を示したものである。
農業従事者には創意工夫に基づく知見や経験則から得られた知見などが蓄積されている。これらがAIの形になることで、その内容を具体的に表現され、誰でも理解できる形式知とすることができ、この段階でノウハウとしての保護の対象となりうる。他方、農業従事者が経験則上得られた知見の中には、本人も具体的にその内容が説明できないものの、経験則上有用と考えられる暗黙知がある。暗黙知は、そのままではノウハウとして保護することは難しい(保護の対象となる情報が特定できない)。この場合、例えば行動分析や生産プロセスの分析などを通じて、外部からも説明ができるように記述して、形式知とすることもできる。
AIの研究開発においては、このような形式知を活用して、研究開発の効率化を図ったり、形式知を再現するための学習済みモデル等20の生成などを行ったりすることになる。
他方、AIの研究開発においては、暗黙知を再現できるようにするための学習済みモデルの生成を行うこともある。例えば機械学習による場合、帰納法的なアプローチにより学習済みモデル生成を行うという点から見ると、数多くの熟練農業者の経験に関するデータを学習し、その特徴を抽出することにより、暗黙知がモデル上で再現できるようになる。この場合、学習済みモデル等には必ずしも形式知は含まれていないため、「ノウハウ」としての取扱いをxx的に決めることは困難なことがある。従って、予め両者の貢献度に応じた利用条件とすることについて、合意をしておく必要がある。
まず、ノウハウの保護という点から見ると農業関係者等の持つ知見が、そのまま形式知として表現される場合には、ノウハウに対する農業関係者等の貢献が大きい。暗黙知を分析して形式知とする場合には、暗黙知を有する農業関係者等の貢献だけではなく、形式知の形にするために対応した者による貢献も大きいといえる(農業関係者等自身が形式知の形にするケースや、研究者が形式知の形にするケースもある)21。
さらに暗黙知から直接学習済みモデル等の生成を行う場合には、暗黙知に関するデータ分析によるところが大きいため、AI研究開発者の貢献が大きいことが多い。
図 19 農業関係者等が有する知見等から学習済みモデル等を生成する流れのイメージ例
20 ここでは学習済みモデルのほか、統計分析等により得られた分析モデルも含む(【ポイント 1】参照)。
21 データ利活用編では「、当該熟練農業者の「暗黙知」を一定の「形式知」として誰でもが理解できる形に変換されたノウハウとして加工した場合には、熟練農業者と農業データITサービスベンダはいずれも新しく当該「形式知」を創出させた当事者である」とする。(P6)
農業関係者等が有するノウハウの種類
農業関係者等が有する知見については、①で見たように、形式知と暗黙知に分けることができる。ノウハウという点から見ると、形式知については、直接的にノウハウとして保護できるものであるが、暗黙知については、形式知の形にすることでノウハウとすることができるので、潜在的なノウハウとして位置づけることができる。
農業関係者等が有するノウハウの保護を考える際に、ノウハウの重要性などに応じた対応を行うことが求められる。AIの研究開発における一般的なノウハウの重要性については、前述のとおりであるが、実際の重要性は個別に検討することが求められる22。
表 7 は農業関係者等が有するノウハウの例を形式知/暗黙知別に示したものである。これは、ノウハウの重要性を検討する上での考慮要素の一つとして、流通の容易性や適用の汎用性を考え、その特徴に応じてノウハウとしての保護の対応を判断する参考にするために示すものである。
形式知については、一般的には誰にでも理解できる形になっていることから、特段の管理をしていない限り、流通は容易である。例えば、市販流通しているものについては、希少性は一般的には高くない。形式知であっても、提供範囲についての管理が厳格になされている場合には、流通性は低くなり、希少性が高くなる。
暗黙知については、暗黙知を有している農業関係者等から、直接提供を受けない限り、得られにくいため、希少性は高いものと判断やすい。また形式化されていないため、その内容が不明確になりやすく、消失する可能性も高い。そのため、暗黙知については、経済的な価値の具現という観点からだけではなく、暗黙知の内容の保全という観点からも形式知化等を行うことが求められる。
表 7 農業関係者等が有するノウハウの例
ノウハウの例 | 特徴等 | |
形式知 | マニュアル等で市販流通しているもの (ex. 一般書籍として販売され ている栽培マニュアル) | ・ノウハウとしての希少性は小さい ・汎用性は高いものが多い |
特定の範囲(地域・団体)でのみで流通する書籍・文書等の情報 (ex. 地域内での特定の作物に関する栽培方法などの専門的なマニュアル) | ・流通が限定されていることから、ノウハウとしては希少性が比較的高いものが多い ・特定の範囲を対象とするものであるが、汎用性については高いものと低いものが含まれる。 ・データ化されているものについては、管理方法によって は「限定提供データ」23としての保護を受けることがで |
22 経済産業省ガイドラインでは、学習済みモデルにおけるノウハウなどの重要性について、「ノウハウの重要性が高い場面が少なくないと思われる。もっとも、一言でノウハウといっても様々なものがあり、価値の高いノウハウもあれば、同業者であれば簡単に思いつくことができるノウハウもある。そのため、ノウハウであれば、どのようなものであっても重要であるわけではないことにも留意が必要である。」とする(P21))。
23 不正競争防止法第 2 条第 7 項。なお限定提供データの具体的な対応方法については「限定提供データに関する指針」(経済産業省、平成 31 年 1 月 23 日)に詳しい。(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxAI
/chiteki/guideline/h31pd.pdf)
ノウハウの例 | 特徴等 | |
きる。 | ||
個々の農業関係者等のみで管理される生産方法等に関して記述等がなされた情報 (ex. 特定の作物の収量を向 上させるための創意工夫) | ・農業関係者等内でのみ活用されるもの。公開することで希少性が大きく下がる可能性がある。 ・汎用性については高いものと低いものが含まれる。 ・要件を満たすことで営業秘密としての保護を受けうることもある | |
暗黙知 | 経験的な知見に基づく情報 (ex.一定の経験を経て修得される技能) | ・形式知化されない限り、xxに流通しにくい。 ・汎用性については高いものと低いものが含まれる。 ・暗黙知のままでは営業秘密として保護することは難しい。 |
地域等において経験等と相まって伝承される情報 (ex.地域の気候等の特質に応じた栽培上の留意点、対応方法) | ・各地域(地域や部会)で共有されているものやxx相伝的なものが含まれる。 ・形式知化されない限り、xxに流通しにくい。 ・汎用性については低いものが多い。 ・暗黙知のままでは営業秘密として保護することは難しい。 |
【ポイント 14】地域で保有するノウハウのAIの利用による継承
地域で保有される農業生産に係るノウハウをAIの利用により継承することが期待されている。
地域で伝承されるノウハウの継承については、地域における後継者不足による継承者の減少があるほか、暗黙知であることが多いため、農業生産の経験を通じてのみ修得されるなど、継承自体が容易ではないなどの課題がある。このような点から、地域において伝承されるノウハウの継承が困難になりつつあるという指摘がある。限られた地域でのみ伝承されてきたものであることから、流通自体が限定的であることも、継承を困難とする一因となっている。
このような地域において伝承されてきたノウハウ継承の課題に対して、AIを利用して形式知の形にすることにより、特定の継承者に依存しない形で、地域において継承できるようにすることが期待されている。AIによる形式知化に当たっては、地域内での生産における工夫に関するノウハウをAIにより形式知化したり、伝承者における行動や着眼点などのノウハウを学習できるようにモデル化したりするなどが想定される。
また地域におけるノウハウの伝承に当たっては、国や地方公共団体がAI研究開発委託者となるケースが想定されるほか、地域の農業関係者等がAIにより形式知化を図るなどが想定される。
このような地域において伝承されてきたノウハウ、あるいはこれらをAIを利用して形式知の形にしたものについては、地域における合意を踏まえて提供されることとなる。農業関係者がこれらを地域外に提供しようとするときは事前に地域の合意を得るようにすることが流出防止のために重要である。
農業関係者等への配慮したデータ・ノウハウ等の取扱い
形式知に関する事前の情報提供
熟練農業者、農業普及指導員のノウハウを保護する際には、農業関係者等の利益等が保護される形でノウハウを取り扱うことが求められる。
まずデータの提供や教師データ作成に貢献する熟練農業者、農業普及指導員等に、不意打ち的な損害が生じないことを配慮した取扱いが行われる必要がある。熟練農業者、農業普及指導員者等のノウハウが形式知となっている場合には、AIの研究開発のために、ノウハウの提供依頼や利用に先立ち、例えば表 8に示す内容を、AIの研究開発者は熟練農業者、農業普及指導員に示すことが可能であり、これにより熟練農業者、農業普及指導員等がノウハウ等の提供の判断材料することができるため、事後の不意打ちとなることを防止することができる。
表8に示す事前情報は、ノウハウ等の提供に係る契約の前に提示される必要があ る。提示方法は、契約書案の形によるほか、熟練農業者、農業普及指導員等のノウハウの提供者が契約前に把握できる方法であればよいが、その内容は、契約に組み込まれることが必要である。
表 8 ノウハウの提供において農業関係者等に事前に提供すべき情報の例
事前情報提供の 場面 | 事前に提供されるべき 情報の内容 | 事前に確認すべき理由 |
提供先でのノウハウの利用 | 利用目的(特に提供先の自己利用目的) | ・利用目的が明確でないと、提供したノウハウが、農業関係者等が想定した範囲を超えて、提供先で利用されることになり、農業関係者等が許諾した趣旨と反した利用が行わる可能性がある。 ・農業関係者等がノウハウ提供の対価を受けて いる場合には、相応の対価が得られない可能性がある |
提供データの利用方法 (組み合わせ等) | ・提供データの利用方法によっては、提供を予定した以外のノウハウが流出することがある。 ・特に農業関係者等の認識にないノウハウが分析結果により判明し、提供時の趣旨に反する利 用がされる場合がある。 | |
追加的な利用の有無 | ・予定する利用以外に、追加的な利用の予定なあ る場合、予定外の利用がなされる | |
他のノウハウ提供者の有無・関係 | ・他のノウハウ提供者が存在する場合、権利関係 等が複雑化したり、予定した権利帰属が困難となったりする場合が生じうる。 | |
利用期間 | ・利用期間を定めない場合には、ノウハウの提供に伴うリスクが無期限に発生することになり、 受容した以上のリスクが生じることがある。 | |
成果物の利用期間 | ・成果物(学習済みモデル等)の利用期間を定めないと、農業関係者等が事後に他の事業者等にノウハウを提供する場合に、競業避止など関係 で制約がかかるおそれがある。 | |
提供先でのノウ ハウの管理 | 管理方法( 安全管理措 置、監査等) | ・提供したノウハウの管理方法が不明確である と、セキュリティ面からのリスクを事前に把握 |
事前情報提供の 場面 | 事前に提供されるべき 情報の内容 | 事前に確認すべき理由 |
できないほか、秘密としての管理を農業関係者等が行っていても、秘密性などの管理が担保できない可能性が生じる。 | ||
利用後の対応(削除及び削除証明) | ・提供先における利用後の削除等が把握できないと、契約期間以降にノウハウの流出が生じる リスクが生じる。 | |
ノウハウの第三者提供 | 提供先及び提供先での利用目的 | ・提供先及び提供先での利用目的が明確でない と、農業関係者等は競合に対してノウハウを提供するリスクが生じる。 |
提供形態(データ、パラメータ等の提供、製品・ サービス提供等) | ・提供形態等が明確でないと、想定外のノウハウの活用がなされたり、競合となるリスクの判断 を誤ったりする可能性が生じる | |
提供するノウハウの範囲・レベル(提供時のノウハウの抽象化等) | ・提供するノウハウの範囲や、ノウハウの抽象度 (汎用レベルの範囲であれば可など)が把握できないと、想定外のノウハウ流出が生じる可能性が生じる。 |
【ポイント 15】データ・ノウハウの提供の対価の支払方式と算出方法
農業関係者等がデータやノウハウを提供する際に、一種のライセンシー契約と位置付けて、対価を設定することがある。現時点ではデータやノウハウの提供等に係る一般的な市場が存在しておらず、例えば「生育データであれば 1 件○円が相場である」のように示すことは難しい。以下では一般的に用いられる対価の設定方式や算出方法について示す。
対価の支払方式は
・従量課金方式:提供したデータ等の件数や利用回数に応じて支払う方式
・固定料金方式:提供したデータの件数等によらず、一定の期間で定めた料金を支払う方式
・売上分配方式:売上高や販売対価等に対して定めた決定割合に応じて支払う方式などが挙げられる(これらを組み合わせて設定することも想定される)。
また対価の算出方法については、具体的なビジネスモデルやAIの研究開発に対する貢献などによって大きく異なることから、一般的には算出が難しいと言われている24。算出に当たって用いられる手法としては、例えば以下のものが挙げられる25。
・コストアプローチ法:実際に要したコストや同等のものを再取得するのに要するコストを踏まえて評価する方法
・インカムアプローチ法:知的財産権が事業活動などに用いられることによって将来的に生み出されると期待される経済的利益を踏まえて評価する方法
・マーケットアプローチ法:類似の取引事情例を参考に評価する方法
支払や対価の算出方法については、製品やサービスに関するビジネスの前に具体的に決め
24 「AI・データの契約に関するガイドライン データ利活用編 1.1 版」(経済産業省、令和元年 12 月)P25 では、データ契約における対価・利益の分配に影響を及ぼす考慮要素として「データの種類、データの利用範囲(地理的制限を含む、データが生み出す価値、派生データの利用権限、創出された知的財産xxの権利関係、損害が発生した場合の責任分担、ライセンスフィーやロイヤルティの設定、データ創出や管理に要する費用分担等」を挙げる。
25 知的財産の価値評価については「知的財産の価値評価について」(特許庁、平成 29 年)に詳しい。
ることが難しいとされる。このような場合には、データ等の提供契約や研究開発委託契約の締結段階で、例えば「対価の支払の具体的な内容の取決めについては、両者協議の上、別途定め
る。」などの条項の形で定めておくことなども想定される。
暗黙知に対する取扱い
農業関係者等から提供するxxxxが暗黙知である場合、事前にその詳細を特定することは困難である。また農業関係者等においても、提供する暗黙知に対してどれだけの価値が生じるものであるのかを事前に判断することが難しい26。
暗黙知の場合、分析を行ったり、AIの研究開発を進めたりする過程で、形式知になったり、学習済みモデル等として実装した段階で、具体的な提供関係や利用関係を決定することができると考えられる。
そこで、暗黙知を提供する際には、まずは提供した暗黙知に対する守秘義務や管理方法などを中心とした内容の契約を当事者間で締結し、そのうえで分析やAIの研究開発を進め、暗黙知の内容の一部または全部が形式知として表現できる状態になったり、あるいは学習済みモデル等として実装できる程度に生成できるようになったりした段階で、具体的なノウハウ提供に関する契約内容を決定することが妥当である。
5. 個人情報等の対応
農業関係者等のうち、個人の農業従事者における営農情報等は、個人情報として扱う必要が生じるものもある。本ガイドライン(データ利活用編)においても、提供データに個人情報が含まれている場合の対応が示されており27、AIの研究開発に際して用いられる学習用データセット等においても、個人情報が含まれている場合には、これに準じて取り扱うことが求められる。
なお個人情報の利用に際しては、個人情報の利用目的をあらかじめ特定し、示す
(通知・公表)ことが求められる。
また個人情報を含むデータから生成された学習済みパラメータについては、それ自体には個人情報が含まれているケースは少なく、生データを再現することが困難であるという特徴を有している。そのため、製品・サービス提供者においては、個人情報としての取扱いは必ずしも求められない。他方、個人の農業関係者等においては、提供した個人情報が学習済みモデルの中で残っているのではないか、との疑念を持つこともあるため、十分な同意を得るための説明が求められる。
26 例えばデータ利活用編では、「「熟練知」を有する熟練農業者が、当該「熟練知」を農業データITサービス開発業者に提供する場面における「熟練知」なるものは、ノウハウとして一定の財産的価値が認められる可能性がある。これに対し、農業関係者等から提供されたと言えるデータであっても、当該農業関係者等の知見が反映されていると言えるかどうかが微妙なケース」も存在するとされる。(P12)
27データ利活用編では、各提供類型の契約のひな型ごとに個人情報が含まれている場合の対応が示されている。例えば
同ガイドラインP14、P17、P36 参照。
なおデータ提供などに際して、契約上、個人情報が含まれていないことを相手方に示す場合には、いわゆる表明保証責任28が生じる可能性があるため、留意する必要がある。また提供するデータ等に個人情報が含まれる場合には、提供する個人情報が、個人情報保護法などの規定に従った取扱いがなされたものであることを示すことで、受領者側において、円滑に利用できることが可能となる。
【ポイント 16】IoT データの個人情報の取扱い
農業分野のAIの研究開発に際して利用されるデータに個人情報が含まれている場合には、個人情報保護措置を講じることについては、ここで述べたとおりであるが、IoT 機器から収集したデータについてはその構成から直ちに個人情報にはならないことがある。例えば機器番号と計測データなどのみを送信するサービスを利用する場合、機器番号と計測データだけから直ちに個人を特定することはできないため、個人情報として扱われないのが一般である。
ただし例えば製品・サービス提供者において、別途機器番号と個人を特定する情報を一体的に管理しており、これを突合することで個人が特定できるようになっている場合には、機器番号と計測データなどを管理しているだけのファイルも個人情報として扱うことが求められることがある(図 20)。
なお欧州の GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」などでは、このような関係がない場合でも、直ちに個人情報として取り扱われるため、欧州のサービスを利用したり、欧州にサービス提供したりする場合には、このような点についても留意することが求められる。
図 20 IoT データ等の個人情報としての取扱い
28 表明した事実に反することで相手方に損害が発生した場合には、その賠償責任等が発生する。
第4. 農業分野におけるAIに関するモデル契約書におけるポイント
1. モデル契約書の提示方針
モデル契約書のポイントの提示方針
本項では、モデル契約書の提示を行う。
モデル契約書の提示については、以下の方針で行う。
・研究開発場面では、農業関係者等とAIの研究開発主体との間での契約と、AIの研究開発を行う主体内部でのAI研究開発委託者とAI研究開発者との契約が想定される。
・農業関係者等とAIの研究開発主体との間での契約については、基本的には本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型またはデータ創出型の契約のひな型が該当すると考えられる。そこでAI研究開発における違いなどを踏まえた個所のみ解説において提示する(別冊に参考までにモデル契約書案のひな型を掲
載)。
・AI研究開発委託者とAI研究開発者との契約関係は、基本的には経済産業省ガイドラインが該当すると考えられる。ただし農業分野、及び、国や行政機関等が委託者となる場合の特殊性を、全体的に考慮する必要があるため、この観点からの変更と解説を行う(別冊に契約のモデル契約書案のひな型を掲載)。
・サービスの利用場面では農業関係者等と製品・サービス提供者との間の利用契約が想定されるが、製品やサービスの内容は多様で、契約のひな型を示すことは難し い。そこでAIを利用した製品・サービスの特殊性から考慮すべき点を示す。
・第三者提供については、AI研究開発委託者またはAI研究開発者と第三者の間でのデータ等の提供契約になる。そこで基本的には本ガイドライン(データ利活用 編)におけるデータ提供型またはデータ創出型契約のひな型が該当すると考えられる。ただしAIに関連する派生データにおける特殊性を鑑みて、本ガイドライン
(ノウハウ活用編)では提供における留意点を示すこととする。
【ポイント 17】特定地域の第三者に対する提供制限に関する条項
農業関係者等が提供するデータやノウハウが、競争力強化の観点から、国内外の特定地域の第三者への提供が制限されることがある。これはAIの研究開発の目的や、ノウハウ等を提供する熟練農業者や農業普及指導員の意向を鑑みて行われる。この趣旨を踏まえて、本ガイドライン(ノウハウ活用編)でもモデル契約書案のモデル条項を、以下のように示している。
【データ・ノウハウ等提供契約】
・提供データ等の利用許諾または譲渡(提供型第3条/創出型第3条関係)
・提供データ等の管理(提供型第8条関係
・データ漏えい等の場合の損害賠償の請求(提供型第8条・第 11 条/創出型第 3 条関係)
【研究開発契約】
・AIの研究開発の成果物の利用条件(研究開発主体間の契約第 18 条関係)
タームシートの添付
契約書においては、契約内容の概要が一覧で把握できるよう、タームシートをつけることが望ましい。タームシートの例を図 21 に示す。
タームシートは、契約の目的や契約概要、当事者間で提供したデータやノウハウの概要やその利用期間、成果として得られた知的財産とその帰属や利用関係、秘密保持に関する内容などを一覧できるように示すものである。図 21 は研究開発を目的とするものの例であるが、一般的なデータ等の提供やサービス提供においても、同様の項目を設けることで対応することが想定される。
これにより農業関係者等において、提供したデータや成果物についての法律関係等を容易に把握することができ、事後の紛争の発生を未然に防ぐことが期待される。
なお第 5 にタームシートの例を示しているので、参考にされたい。
出所:「大学等における知的財産マネジメント事例に学ぶ共同研究等成果の取扱の在り方に関する調査研究~さくらツールの提供~」(文部科学省)
(xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/x_xxxx/xxxxxxx/xxxxxxx/0000000.xxx)
図 21 タームシートの例
2. AIを利用した製品・サービスにおける研究開発場面におけるモデル契約 農業関係者等が締結するデータ・ノウハウの提供に係る契約
農業関係者等が締結するデータ・ノウハウの提供に係る契約の概要
農業関係者等がAIを利用した製品・サービスの研究開発を行う主体(受託契約管理団体、AI研究開発委託者、AI研究開発者)に対して、データやノウハウの提供を行う際には、図 22 に示すような関係が生じる。農業関係者等はこの場合、例えば AIの研究開発を行う主体と、データ・ノウハウの提供に係る契約を締結する。
図 22 農業分野のAIの研究開発及び製品・サービス利用に関連する契約関係 AIの研究開発におけるデータ・ノウハウの提供では、本ガイドライン(データ利
活用編)の「データ提供型契約」、あるいは「データ創出型契約」が基本的には該当する。農業関係者等が保有するデータを、AI研究開発を行う主体に提供して、AIの研究開発を行うケースは、「データ提供型契約」が該当し、農業関係者等とAI研究開発を行う主体が協働してデータの創出(例えば農業関係者等の圃場に、AI研究開発を行う主体がセンサなどを設置して、データ収集等を行い、AIを研究開発するようなケース)を行うケースは、「データ創出型契約」が該当する。
AIの研究開発に際しては、本ガイドライン(データ利活用編)に示すデータ提供型契約、データ創出型契約のひな型との関係で、以下の点を考慮する必要がある。
・本ガイドライン(データ利活用編)に示すデータ提供型契約、データ創出型契約では、いずれも派生データの取扱いが示されているが、AIの研究開発においては、派生データだけではなく、AIの学習済みモデルなども生成されることから、そのための考慮が求められる。
・AIの研究開発においては、農業関係者等からデータの提供だけではなく、具体的にノウハウが提供される場合がある(例えば教師データの作成支援など)。
【ポイント 18】 農業関係者等がデータ・ノウハウの提供に係る契約のポイント
農業関係者等がAIの研究開発を行う主体にデータやノウハウを提供する場合、契約の主な対象は提供されたデータやノウハウの取扱いとなる。
AIの研究開発においては、提供したデータやノウハウが、そのままAIの研究開発に用いられるわけではなく、何らかの加工や分析を経て、形を変えて利用される。さらに新たな知的財産権となることもある。この場合、提供したデータやノウハウの取扱いとは別に、それぞれ形を変えた場合の取決めを行うことが必要になる。
また提供したデータやノウハウ、さらにはその派生データや知的財産権は、直接の相手方だけではなく、第三者に提供され、あるいは提供者である農業関係者等が、別の第三者に提供しようとすることもある。このよう場合にも、どの範囲で提供したり、利用を認めたりすることができるのか、また第三者提供先での取り扱いがどのようなものになるのかなども、取り決めておくことが求められる。
このように提供したデータやノウハウの利用場面をできるだけ具体的に想定することが、データやノウハウの提供契約の内容を取り決めるポイントとなる(図 23)
図 23 農業関係者等が提供したデータ・ノウハウに関するポイント
農業関係者等が締結するAIの研究開発目的でのデータ・ノウハウの提供に係る契約の契約条項
農業分野の一般的なデータ・ノウハウ提供に係る契約に関しては、本ガイドライン
(データ利活用編)において、必要な契約項目およびその解説、契約のひな型が示されているところである。
AIの研究開発においては、AIの生成過程での特殊性や、提供するデータに含まれるノウハウの重要性などに鑑みた対応が求められる。そこで、上述の本ガイドライン(データ利活用編)において示されている契約条項等に対して、これらの観点からの考慮を行う必要がある。
本項では本ガイドライン(データ利活用編)において示した条項から、AIの研究開発目的で提供する際に変更が求められる点について解説する。なお、本項で示した変更点を含むAIの研究開発目的でのデータ・ノウハウの提供に係る契約書のひな型については、別冊に掲載する。
データ提供型契約の形態で、農業関係者等がデータ・ノウハウを提供する際の契約条項
29
(a) 定義規定(本ガイドライン(データ利活用編) データ提供型契約書案第 1 条関係30)
【提供データ】
AIの研究開発においては、農業関係者等はデータの提供だけではなく、明示的にノウハウの提供を行う、あるいはアノテーション等のための情報提供(教師データの判断基準となる情報の提供等)を行うことがある(【ポイント 8】教師データの作成のプロセス参照)。本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約第 1 条第 1 項では、提供データについて、「利用権限を有する情報、データ」と表記されており、ノウハウに関する情報が含まれていることも読めるが、本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではその趣旨をより明示するために「(ノウハウほか)」を付加して、xxxxが契約の対象に含まれていることを明示した。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第1条(定義) 本契約において、次に掲げる語は次の定義による。 ①「提供データ等」とは、本契約に基づき、データ提供者がデータ受領者に対して提供するデータ提供者が利用権限を有する情報(ノウハウほか)、デー タおよび/または画像であって、別紙に詳細に定めるものをいう。 |
29 データ利活用編 P10~P58
30 以下、1)では「提供型モデル契約書案」という。
【目的】
本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約書案第 1 条第 3 項では、「本目的」として、データ提供型契約において、データ受領者が受領データを利用する目的が定められている。
AIの研究開発を目的とする場合に農業関係者等が提供するデータには、潜在的に農業関係者等のノウハウなどが含まれていることもあるため、受領者側の利用目的を明確にすることは重要である31。また、成果であるAIや派生データの活用の活性化を予定している場合には、それらの内容についても目的において記述するとともに、利用条件などの部分で、利用と保護のバランスをとった内容とすることが求められる。
「本目的」の内容は、このような観点を考慮して、定めることが求められる。
なお、AIの研究開発の場合には、単に「AI研究開発」とするだけでは必ずしも十分ではなく、具体的にどのようなAIの研究開発の目的であるのかまで示さないと、提供後のデータに対する農業関係者等のコントロールが失われるケースがあることに留意する必要がある(特に形式知を学習済みモデル等にする場合(表8参照))
【本件成果物】
AIの研究開発では、データ受領者は派生データ以外に、成果物として学習用プログラムや推論プログラムなどの著作物や、これに関連する特許権などの知的財産権を生成することが想定される。 これらについては、提供データから生成されたものについて、一律に権利の帰属関係を取決めるのでは妥当ではない場合がある。例えば学習用プログラムのように、提供データを活用しつつ、データ受領者が元々有していたプログラムを活用して生成するようなもの32や、学習済みモデルにおける推論プログラムのように、提供データにおける依存度が高いものなどもあるためである。 そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではこのような、データ受領者が生成するもののうち、本契約で帰属関係をさだめるものを「本件成果物」として整理、モデル条項として追加した。本契約で提供データからの成果としての取決めには含めない場合には、「本件成果物」には含めない形とする(「別紙」の記述には含めない)などが想定される。 追記した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
④「本件成果物」とは、本契約の目的達成のためにデータ受領者により生成された |
31 データ利活用編では、農業関係者等がデータの提供に際して、不測のノウハウの流出に対する不安があるとし、「不安を取り除く第一歩として、かかる栽培ノウハウまたはそのノウハウを構成するデータや画像が、意図していない目的に使われないことを契約で明確に約束させることは非常に重要である」とする。そのうえで、農業関係者等にとって予測し易い平易な文言で、目的の特定をし、契約書に記載することが望ましい」とされる(P16)。
32 学習用プログラムは、AI研究開発者がすでに保有しているものや、学習するデータに応じて、一部加工して利用することになるが、一般的にはAI研究開発者のノウハウに基づいて作成されるものであり、プログラムの権利はA I研究開発者に帰属する(オープン・ソース・プログラムを用いる場合にはその規約による)。
成果(プログラム等)のうち、別紙に詳細を定めるものをいう。 |
(b) 提供データ等の利用許諾または譲渡(提供型モデル契約書案第 3 条関係) AIの研究開発目的でデータ提供する場合には、提供データから一定の法則性を抽
出して、AIに反映することが目的とされる。そのため、AIの研究開発の対象によっては、熟練農業者や農業普及指導員が有するノウハウを形式知の形にするケースもあるため、農業関係者等が不測の損害を被らないよう、データの提供に当たっては、利用目的やデータ受領者が生成した成果の開示・提供先について合意を得ることが重要である。
なお提供対象となるデータ等については、提供者において利用許諾や譲渡に関する正当な権限を有することが前提となる。例えば複数の農業関係者等により共同で管理されているデータ等や、生産部会などのような権利能力なき社団において管理されているデータ等については、一部の構成員等がデータ提供を行う場合には、その者に代理権・代表権などがあることが前提となる。データ受領者は、この点について必要な確認をとることが求められる33。
また、合意された目的以外にも、例えば災害発生時等の人の生命、身体又は財産の保護のために国の機関又は地方公共団体から協力要請があった時は、必要な範囲でデータを開示・提供する等の対応が求められる場合があることにも留意する。
【提供データの利用目的】
本ガイドライン(データ利活用編)モデル契約書の第3条第1項では、提供データについて、第 1 条で示した「本目的」の範囲での利用について定めており、それ以外の目的での利用を禁ずる内容となっている。AIの研究開発においても同様の規定が求められる。
AIの研究開発を目的に関して、目的外利用とされる例としては、
・本研究開発後に、データ受領者内部での全く別のAIの研究開発を行う
・目的に示される利用範囲を超えた追加学習を行うためにデータを使用するなどが想定される。
データ受領者側の利用目的が明確になっていないと、提供したデータやノウハウに対する農業関係者等のコントロールが失われることになり、データ受領者側の解釈により、データやノウハウの利用がなされる可能性があるほか、別の第三者に対してデータやノウハウを提供する場合の支障となる可能性が生じうる(特にデータ提供先と競業避止に関する取決めを行った場合)。このような事態を避ける観点からも、デー
タの利用目的を明確にすることは重要である。
【提供データ等の開示・提供先】
本ガイドライン(データ利活用編)の第3条第3項では、データ提供者による事前
33 なお【ポイント 9】参照。
の書面の同意がない限り、提供データ等の目的外利用や、提供データ等・派生データの第三者への提供について認めない旨の内容を定めている。 AIの研究開発においては、派生データのみならず、研究開発の成果である学習済みモデルの提供(サービスとしての提供含む)についても、データ提供者の同意の下で、第三者への提供が行われる必要がある。 そこで、本項では派生データを含む、本AI研究開発目的で行われたデータ提供により得られた「本件成果物」について、第三者提供についての制限を行う旨を定めた 34。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す)第3条(提供データ等の利用許諾) 1~2 略 3 データ受領者は、データ提供者の書面による事前の承諾のない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データのほか、派生データ等、本件成果物を第三者(データ受領者が法人である場合、その子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいしてはならない。 またAIの研究開発においては生データと、研究開発の成果である学習済みモデルの提供については、異なる取扱いが求められることも想定される。生データについては、農業関係者等の寄与が大きく、また当該AI研究開発以外の研究開発に、同様のデータ等を農業関係者等が別途提供する場合などがあるため、農業関係者等に提供先等のコントロールを認める必要があるが、派生データを含む本件成果物については、データの受領を受けた者(AI研究開発委託者、AI研究開発者)の寄与が大きく、その投下資本の回収などを行うために、生データの提供よりも広く、提供先を認めるのが妥当であるケースも想定される。このようなケースには、以下のような条項を設けることも想定できる。 生データの提供先と、派生データ、本件成果物の提供先について、異なる対応をするよう変更した提供型モデル契約書案(追記箇所および削除箇所は太字で示す) | ||
第3条(提供データ等の利用許諾) 1~2 略 3 データ受領者は、データ提供者の書面による事前の承諾のない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データ等 も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいしてはならない。 |
34 農業関係者等が提供したデータ等については、提供先でのAI等の研究開発の進捗により、契約時には想定していない利用目的や利用条件、提供先をデータ提供者あるいはデータ受領者が求めることもある。契約締結時にはこのような可能性も十分考慮した上で、提供先や利用目的等を取り決めることが重要である。
ただし、派生データを含む本件成果物については、別途定める第三者に限り、 開示、提供できるものとする。 |
【公的資金等によるAI研究開発の場合の開示、提供先の制限】
AIの研究開発が、国や地方公共団体などの公的資金の事業による場合には、研究開発によるものである場合には、第三者提供先については、競争力強化や他地域との差別化強化などの政策目的が反映されるケースがある。 このような場合には、資金提供元の考え方に基づき、「特定地域内での利活用を行う」、「地域外への提供を妨げる場合がある」などの制限を設けられることが考えられる。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
3 データ提供者およびデータ受領者は、相手方当事者の事前の書面による承諾がない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データ等、派生データ、および本件成果物を第三者(データ提供者またはデータ受領者が法人である場合、それらの子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいさせてはならない。 本項に従い、開示、提供等先となる第三者については、本研究開発における政 策的な目的などの観点から、●●地域内での利活用を行える第三者に限定する。 |
(c) 提供データ等の管理(モデル契約書案第 8 条関係)
【注意義務の程度】
本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ提供型モデル契約書案では、第 8
条第 1 項に提供データ等と派生データに対するデータ受領者側の管理責任などについて示されている。ここでは、セキュリティについてのレベルとして、「我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等」を想定している。
AI研究開発においては、データ等の提供者である熟練農業者や農業普及指導員のノウハウが含まれていることがある。ノウハウなどについては、営業秘密として保護する場合には、秘密管理性が求められ、そのための秘密管理措置が求められる 。
このような場合には、「我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等」というセキュリティレベルだけでは、不正競争防止法が求める秘密管理性の要件を満たす程度の秘密管理措置の程度を満たさないケースも想定される35。
そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、営業秘密として取り扱うべき内容
35 提供するデータによっては、営業秘密ではなく、「限定提供データ」として管理している場合があり、その場合は秘密管理性の部分を「限定提供データとしての管理」などに置き換えることなどが想定される。なお限定提供データについては、【ポイント 13】参照。
が含まれている場合を想定して、秘密管理性を満たす程度のものを求めることとした。なお管理対象については提供データ等(ノウハウ含む)、派生データのほかに、学 習済みモデルを構成するプログラム等も含まれることが想定されるため、本件成果物 を含めることとした。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第 8 条(提供データ等の管理) 1 データ受領者は、提供データ等および派生データ、本件成果物を他の情報またはデータと明確に区別し、我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等(かつ、別紙により営業秘密として定めて いるものについては、営業秘密としての保護のための要件を満たす水準の)セキュリティおよびバックアップ体制を備えるなど、善良な管理者の注意をもって管理・保管しなければならない。 2 データ提供者は、提供データ等および派生データ、本件成果物の管理状況について、データ受領者に対していつでも書面による報告を求めることができる。この場合において、提供データ等または派生データの漏えいまたは消失のおそれがあるとデータ提供者が判断した場合、データ提供者は、データ受領者に対して提供 データ等および派生データの管理方法・保管方法の是正を求めることができる。 |
【管理義務違反における損害賠償の予定】
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ提供型モデル契約書案では、本条で定める管理責任に反して、データの漏洩や消失、第三者提供が行われた場合の損害賠償について定めており、オプションとして損害賠償の予定に関する規定を示す。
損害賠償の予定を定める意義として、損害額の決定に係るデータ提供者である農業関係者等側の負担を軽減することが挙げられる。本契約の目的で提供したデータについては、ノウハウが潜在的に含まれうるものであるが、提供データとノウハウの関係や、その経済的な価値の算定は困難であるため、損害賠償の予定に関する規定を設けることで、速やかに賠償関係を確定する意義が大きいとされる36。
ただし損害額の算定が難しいことは、損害賠償の予定額を定めること自体が困難な場合があることを示す。そのため、そもそも契約の段階で損害賠償額の予定を定めるために紛糾し、契約締結が遅延するリスクも指摘される。
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、AIの研究開発目的でのデータ提供であ
ることから、ノウハウを潜在的に含むデータの提供がなされるケースが多いと考えられることから、標準的な条項として、第4項に示す内容を設けた。ただし、上述のよ
36 データ利活用編では「農業データについていえば、特に非構造化データと言われるデータ単体(例えば、特定の農業関係者等のウェアラブル端末から発せられる視認データなど、「暗黙知」とされるノウハウの一部に過ぎないデータで、何らそのデータの分析が行われておらず、「形式知」化されていないもの)については、交換価値の算定が困難であることから、データ提供者において損害を立証するのは難しい」とされる。(P35)
うに具体的な損害賠償額の予定を定めるのに時間を要する可能性がある場合には、第 4項を除いた形での契約を行うことも想定される。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
3 略。 4 提供データ等の漏えい、消失、データ提供者の許諾を得ない第三者提供、目的 外利用等、本契約に違反するデータ受領者の提供データ等の利用により、データ提供者に損害が生じた場合、データ受領者はデータ提供者に対して違約金として ●円を支払う義務を負う。ただし、データ提供者に生じた損害が上記違約金額を 上回る場合には、データ提供者は実際に生じた損害額を立証することでデータ受 領者に対し当該損害額の賠償を請求することができる。 |
(d) 派生データ等の取扱(提供型モデル契約書案第 11 条関係)
【派生データ等の対象】
本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約書案第 11 条では、提供データ等と派生データの取扱いとして、利用権限や本契約における業務を通じて得られた知的財産権についての帰属等について定めている。 (a)で述べたようにデータ受領者は派生データ以外に、成果物として学習用プログラムや推論プログラムなどの著作物や、これに関連する特許権などの知的財産権を生成することが想定される。そこで本項での対象として「派生データ等(本件成果物を含む)」として、これらを含めることができるような記載とした。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第11条(派生データ等の取扱) 1 データ提供者およびデータ受領者は、本目的のために自ら派生データ等(本件成果 物含む)を利用することができる。 この利用の中には、本目的のために、派生データを加工等することが含まれる。 |
【データ受領者が生成した知的財産権の帰属】
本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約書案第 11 条第 4 項では、データ受領者が提供データまたは派生データなどを利用して知的財産権を生成した場合、その知的財産権はデータ提供者とデータ受領者との共有とする旨が示されている。
AIの研究開発目的で提供されたデータを活用して知的財産権を生成する場合、(a)【本件成果物】でも述べたように、一律に権利の帰属を決めることは困難である。特に学習済みモデルを生成するための学習用プログラムやハイパー・パラメータについては、AIの研究開発を行う者の貢献度が大きい場合が多く、一律に共有とすることはなじまない。
そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、学習済みモデルを研究開発する際に作
成した学習用プログラムについては、AI研究開発研究者の貢献が大きい場合があることから、原則としては共有対象とはせず、「本件成果物」にこれらを含めた際のみ、農業関係者等とAI研究開発の主体との共有とする規定とした。 また例えば農業関係者等の利益を保護する観点から、学習済みモデルを構成する推論プログラムについては、本件成果物に含め、データ提供者とデータ受領者の共有とすることもできる(学習済みパラメータについては両者で派生データとして取り扱う)。 なお学習済みモデルにおいて実装されるノウハウについて、データ提供者による貢献が必ずしも大きくはない場合や、AIの研究開発主体による貢献が大きい場合(例えば画像データ等の生データの提供もAI研究開発者が行う場合など)の場合には、成果としての知的財産をデータ受領者に帰属させて、本件成果物の利用について優遇された条件を定める、あるいは本件成果物から得られた収益を分配するなどの対応を行うことも考えられる 37。このような対応をとる場合には、データ受領者において上記のような事情があること について、十分な説明責任を果たしたうえで、データ提供者からの合意を得ることが求められる(説明責任を果たさないで得られた合意については、その効力が生じないこともある)。 変更した提供型モデル契約書案(生成した知的財産を共有とする場合) (追記箇所は太字・下線で示す) 2~3 略 4 提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権( この場合において、当該知的財産権の創出に出願作業が必要な場合には、データ提供者とデータ受領者が共同で当該出願作業を行うか、相手方当事者の同意を得て、一方の当事者が単独で行うものとする。 変更したモデル条項(生成した知的財産をデータ受領者の帰属とする場合) (追記箇所は太字・下線で示す) | ||
4 提供データ等または派生データの利用に基づき生じた知的財産権は、本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、データ受領者に帰属 するものとする。 5~10 略 |
37 そのほか提供されたノウハウの汎用性が低い場合と高い場合の違いに応じて、提供者の権利性を調整することも想定できる。
【公的資金等によるAI研究開発の場合の開示、提供先の制限】
派生データ等の本件成果物の開示や提供先についても、当初データ同様、AIの研究開発が、国や地方公共団体などの公的資金の事業による場合には、研究開発によるものである場合には、第三者提供先については、競争力強化や他地域との差別化強化などの政策目的が反映されるケースがある。 このような場合には、当初データにおいて設けた規定と同様の制限を設けられることが考えられる。 変更した提供型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
3 データ提供者およびデータ受領者は、相手方当事者の事前の書面による承諾がない限り、本目的以外の目的で提供データ等を加工等その他の利用をしてはならず、提供データ等、派生データ、および本件成果物を第三者(データ提供者またはデータ受領者が法人である場合、それらの子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいさせてはならない。 本項に従い、開示、提供等先となる第三者については、本研究開発における政 策的な目的などの観点から、●●地域内での利活用を行える第三者に限定する。 |
データ創出型契約の形態で、農業関係者等がデータ・ノウハウを提供する際の契約条項
38
(a) 定義規定(本ガイドライン(データ利活用編) データ創出型契約書案39第 1 条)
【当初データ】
本ガイドライン(データ利活用編)のモデル契約書第 1 条第 1 項では、当初データについて、「利用権限を有する情報、データ」と表記されており、ノウハウに関する情報が含まれていることも読めるが、AIの研究開発を目的とする場合については、データ提供契約の場合同様( 1)(a)【提供データ】参照)、本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではその趣旨をより明示するために「(ノウハウほか)」を付加して、ノウハウが契約の対象に含まれていることを明示した。 変更した創出型モデル契約書案(太字は追記箇所) | ||
第1条(定義) 本契約において、次に掲げる語は次の定義による。 ① 略 ②「当初データ等」とは、本契約に基づき、データ提供者がデータ受領者に対して提供するデータ提供者が利用権限を有する情報(ノウハウほか)、データおよび /または画像であって、別紙2に詳細に定めるものをいう。 |
【目的】
AIの研究開発を目的とする場合に、データ創出型契約で定める目的の重要性については、データ提供型契約の場合と同様である。具体的な内容についてはデータ提供型契約における解説( 1)(a)【目的】)を参照されたい。
なおデータ創出型契約において、研究開発過程において得られたデータなどの創出データ等については、AI研究開発者がデータを利用する目的となり、農業関係者等の協力でデータの創出が行われることから、事後のトラブルを避ける観点から、この観点からも利用目的については、データ提供契約の場合と同様、明瞭に示
すことが求められる。
【本件成果物】
データ創出型契約類型においても、AIの研究開発では、データ受領者は派生データ以外に、成果物として学習用プログラムや推論プログラムなどの著作物や、これに関連する特許権などの知的財産権を生成することが想定される。
そこでデータ提供型契約同様( 1)(a)【本件成果物】参照)、データ創出型契約に
おいてもデータ受領者が生成するもののうち、本契約で帰属関係をさだめるものを「本
38 データ利活用編 P10~P58
39 以下2)では創出型モデル契約書案
件成果物」として整理、モデル条項として追加した。本契約で当初データからの成果としての取決めには含めない場合には、「本件成果物」には含めない形とする(「別紙 2」には含めない)などが想定される。 追記した創出型モデル契約書案(太字は追記箇所) | ||
⑤「本件成果物」とは、本契約の目的達成のためにデータ受領者により生成された 成果(プログラム等)のうち、別紙に詳細を定めるものをいう。 |
(b) 当初データ等の利用権限等(創出型モデル契約書案第 3 条関係)
【当初データの利用権限】
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ創出型モデル契約書案第 3 条では、提供された当初データ等についての利用権限や、取扱いについて規定されている。ここでは、当初データ等に農業関係者等の暗黙知などが含まれていることにより、当初データ提供者の自己利用を原則として認める旨が、解説において示されている。
AIの研究開発においては、暗黙知をモデルの形にすることを目的とするものであることから、上記の趣旨が該当する。従って、当初データの利用権限の設定においても、本ガイドライン(データ利活用編)の趣旨を踏まえて、決定することが求められる。
なお本条で定める「利用権限」は、データ提供型契約における「利用目的」に相当するものである。そこで、本条で「別紙4」により定めるとされる利用権限については、データ提供型契約における利用目的( 1)(a)【利用目的】)を参照の上、決定することが求められる。
なお提供対象となる当初データ等については、提供者において利用許諾や譲渡に関する正当な権限を有することが前提となる。例えば複数の農業関係者等により共同で管理されているデータ等や、生産部会などのような権利能力なき社団において管理されているデータ等については、一部の構成員等がデータ提供を行う場合には、その者に代理権・代表権などがあることが前提となる。データ受領者は、この点について必
要な確認をとることが求められる40。
【公的資金等によるAI研究開発の場合の開示、提供先の制限】
AIの研究開発が国や地方公共団体などの公的資金の事業による場合には、第三者提供先については、競争力強化や他地域との差別化などの政策目的が反映されるケースがあることは、データ創出型契約においても同様である。
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ創出型モデル契約書案第 3 条第 4 項で
は開示・提供先等について規定するが、公的資金等によるAI研究開発の場合には、データ提供型契約同様( 1)(b)参照)、下記のような制限を設けることも想定される。
40 なお【ポイント 9】参照。
変更した創出型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
4 データ受領者は、相手方当事者の事前の書面による承諾がない限り、当初データ等を第三者(データ提供者またはデータ受領者が法人である場合、それらの子会社、関連会社も第三者に含まれる。)に開示、提供、漏えいさせてはならない。なお開示、提供等先となる第三者については、本研究開発における政策的な目的 などの観点から、●●地域内での利活用を行える第三者に限定する。 |
(c) 派生データの利用権限等(創出型モデル契約書案第 4 条関係)
【派生データ等の対象】
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ創出型モデル契約書案第4条では、派生データの利用権限や、本契約における業務を通じて得られた知的財産権についての帰属等について定めている。 AIの研究開発を行う場合には、データ提供型契約の場合同様( 1) (d) 【派生データ等の対象】参照)、派生データ以外に成果物として学習用プログラムや推論プログラムなどの著作物や、これに関連する特許権などの知的財産権を生成することが想定され、これらに関する利用権限についても定める必要がある。そこで本項での対象として「派生データ等(本件成果物を含む)」として、これらを含めることができるような記載とした。 変更した創出型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第4条(派生データの利用権限等) 1 本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、派生データ等(本件成果物含む)に関する各自の利用権限は、別紙5に定めるとおりと する。 |
【データ受領者が生成した知的財産権の帰属】
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ創出型モデル契約書案第 4 条第5項では、派生データなどを利用して知的財産権を生成した場合、その知的財産権はデータ提供者とデータ受領者との共有とする旨が示されている。
AIの研究開発目的で創出されたデータを活用して知的財産権を生成する場合、データ提供型契約同様( 1)(d) 【派生データ等の対象】参照)、一律に権利の帰属を決めることは困難である。
そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、データ提供型モデル契約で示したものと同様、学習済みモデルを生成する際に作成した学習用プログラムについては、AI研究開発研究者の貢献が大きいことから、原則としては共有対象とはせず、「本件成果
物」にこれらを含めた際のみ、農業関係者等とAI研究開発の主体との共有とした。
他方、農業関係者等の利益を保護する観点から、学習済みモデルを構成する推論プログラムについては、データ提供者とデータ受領者の共有とする規定としている(学習済みパラメータについては両者で派生データとして取り扱う)。 なお学習済みモデルにおいて実装されるノウハウについて、データ提供者による貢献が必ずしも大きくはない場合や、AIの研究開発主体による貢献が大きい場合(例えば画像データ等の生データの提供もAI研究開発者が行う場合など)の場合には、成果としての知的財産をデータ受領者に帰属させて、本件成果物の利用について優遇された条件を定める、あるいは本件成果物から得られた収益を分配するなどの対応を行うことも考えられる。またこの場合の知的財産権の出願等の処理は、権利が帰属するデータ提供者が行うものとし、該当する条項については削除した。 変更した創出型モデル契約書案(生成した知的財産を共有とする場合) (追記箇所は太字・下線で示す) 2~4 略 5 派生データの作成または利用に基づき生じた知的財産権(本件成果物を対象とする。 以下本条において同じ。)は、本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、データ提供者とデータ受領者の共有とする。この場合において、当該知的財産権の創出に出願作業が必要な場合には、データ提供者とデータ受領者が共同で当該出願作業を行うか、相手方当事者の同意を得て、一方当事者が単独で行うものとする。 変更した創出型モデル契約書案(生成した知的財産をデータ受領者の帰属とする場合) (追記箇所は太字・下線で示す) | ||
5 派生データの作成または利用に基づき生じた知的財産権(本件成果物を対象とする。 以下本条において同じ。)は、本契約で別段の規定がある場合および当事者間で別途合意をした場合を除き、データ受領者に帰属するものとする。 |
(d) 相手方受領データ等の管理(創出型モデル契約書案第 11 条関係)
【注意義務の程度】
本ガイドライン(データ利活用編)におけるデータ創出型モデル契約書案では、第 11
条第 1 項にデータを受領した相手方の管理責任などについて示されている。ここでは、セキュリティについてのレベルとして、「我が国において一般にデータ保管のために用いられるシステムで通常利用されるのと同種同等」を想定している。
AI研究開発においては、データ提供型契約同様(1)(c) 【注意義務の程度】参照)、データ等の提供者である熟練農業者や農業普及指導員のノウハウが含まれていることがある。また、データ受領者側と創出したデータにノウハウが含まれているケースも想定
される。ノウハウなどについては、営業秘密として保護する場合には、秘密管理性が求
められ、そのための秘密管理措置が求められる41 。 そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)では創出型データ契約においても、データ提供型契約の場合と同様、秘密管理性を満たす程度のものを求めることとした。 なおAIの研究開発においては、提供されるものがデータだけではなくノウハウなども含まれていることから、「相手方受領データ等」とした。 変更した創出型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第 11 条(相手方受領データ等の管理) 1 データ提供者およびデータ受領者は、相手方から受領するデータ、情報(ノウハウ 含む)(以下「相手方受領データ等」という。)を他の情報またはデータと明確に区別し、自己のものを管理するのと同一の注意義務をもって管理・保管しなければならない。なお相手方受領データ等のうち、別紙により営業秘密として定めているものについては、営業秘密としての保護のための要件を満たす水準の管理を行う。 2 データ提供者およびデータ受領者は、相手方受領データ等の管理状況について合理的な疑義が生じた場合には、データ受領者に対していつでも書面による報告を求めることができる。この場合において、相手方受領データ等の漏えいまたは消失のおそれがあると相手方が判断した場合、データ提供者またはデータ受領者は、相手方に対して当初データ等および派生データの管理方法・保管方法の是正 を求めることができる。 |
【管理義務違反における損害賠償の予定】
本ガイドライン(データ利活用編)のデータ創出型モデル契約書案では、本条で定める管理責任に反して、相手方が提供したデータ等の漏洩や消失、第三者提供が行われた場合の損害賠償については定めていない。
しかし本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、AIの研究開発目的の場合には、熟練農業者や農業普及指導員のノウハウなどの提供が伴うことがあることから、データ提供型契約同様、損害賠償に関する規定を設けた( 1) 【管理義務違反における損害賠償の予定】参照)。
データ創出型契約のモデルひな型として、AIの研究開発目的でのデータ提供であることから、ノウハウを潜在的に含むデータの提供がなされるケースが多いと考えられることから、標準的な条項として、第5項に示す内容を設けた。ただし、具体的な損害賠償額の予定を定めるのに時間を要する可能性がある場合には、第5項を除いた形での契約を行うことも想定される。
変更した創出型モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す)
41 管理対象であるデータが営業秘密ではなく限定提供データの場合には、脚注 35 参照。
5 当初データ等の漏えい、消失、データ提供者の許諾を得ない第三者提供、目的外 利用等、本契約に違反するデータ受領者の当初データ等の利用により、データ提供者に損害が生じた場合、データ受領者はデータ提供者に対して違約金として●円を支払う義務を負う。ただし、データ提供者に生じた損害が上記違約金額を上回る場合には、データ提供者は実際に生じた損害額を立証することでデータ受領者に対し当該損害額の賠償を請求することができる。 |
研究開発における農業関係者等が締結するデータ提供/データ創出型契約における確認項目(チェックリスト) AIの研究開発における農業関係者等が締結するデータ提供/データ創出型契約に
おける確認項目についてのチェックリストの例を表 8 に示す。
データの提供を行う農業関係者等や、ノウハウ等の提供を行う農業関係者等、農業普及指導員、研究開発機関等は、データの受領または共同で創出する相手方と、チェックリストの内容についての取決めがなされているかを確認することが想定される。
表 8 研究開発における農業関係者等が締結するデータ提供契約における確認項目例
カテゴリ | 契約内容として確認する項目等 | 有無(〇をつける) | 項目としてない場合の代替的対 応 | チェックの観点 |
契約の目的 | データ提供の目的 | 契約の目的があいまいであると、各条項が詳細に定められていない場 合に、不測のトラブルが生じることがある(例:提供データの目的外利用、 無断商用利用等) | ||
各種定義 | データ名、項目名、加工、派生データ、著作物、ノウハウ | 契約対象なる用語を明確にすること で、解釈による不一致が生じないようにする(例えばノウハウの範囲など) | ||
提供したデータ(当初データ含 む) | 提供データ名(ファイル名、データベース名等で特定できれば特 定) | 提供データの内容を明らかにすることで、契約の対象となるデータの範囲等を明らかにする。 | ||
データの範囲(項目、粒度、量 (件数ほか) | ||||
データの期間 | ||||
データの提供方法(ファイル、自動送信等(自動送信の場合には 送信元の機器も含める) | データ提供(創出)者が提供に際して行う義務などを明らかにする。 | |||
提供頻度 | ||||
創出型の場合には創出・取得・ 収集方法 | ||||
データの保証・非保証・免責 | ||||
データの利用条件 | 利用目的、加工の有無、条件 | 提供したデータの利用目的、加工の有無、条件などを明らかにすること で、提供者の意に反した利用方法を防ぐ。 提供データの利用の仕方により、農業関係者等のノウハウが分析される可能性がある(データの組み合わせや分析方法等)がため、利用目的との関係で、利用方法やノウハウとの 関係を確認することも求められる。 | ||
第三者提供の可否、範囲、手続 (提供や創出するデータ、ノウハ | データ提供者が意図しない第三者 への提供を防止する |
カテゴリ | 契約内容として確認する項目等 | 有無(〇をつける) | 項目としてない場合の代替的対 応 | チェックの観点 |
ウ、派生データ、およびこれらより 生じる知的財産ごとに示す) | ||||
利用に関する独占・非独占 (提供や創出するデータ、ノウハウ、派生データ、およびこれらより生じる知的財産ごとに示す) | 提供データ(当初データ)や創出データ、派生データ、ノウハウが、提供により相手方に独占的にする権利が移転するか(提供者が使えなくなる か)、提供後も利用できるかなどを示 す。 | |||
利用期間 (特に契約期間との関係を確認) | 提供データ(当初データ)がいつま で利用されるのか(契約期間内か、一定期間内か、無期限か)などを明確にする。これにより、提供データの保護や、データ提供者が別の提供先にデータ提供するなどの関係を明 らかにすることができる。 | |||
利用する地域 | データの提供・創出者が意図しない 地域での利用を防止する | |||
利用方法(利用環境ほか) | AI研究開発者がデータを利用するための環境(AI研究開発者が自由に決めた場所で利用できるか、データ提供者が管理するサーバ上のみ だけでの利用か等) | |||
派生データ、成果物等の提供者へのフィードバック | データの提供・創出者に対する派生データのフィードバックや利用権限 の設定があるか | |||
利用に関する対価の有無と内容、決定方法等 | データの提供・創出者に対する報酬 の設定や、サービス等利用の優遇条件設定等があるか。 | |||
知的財産権の帰属と人格権の不行使等 | プログラムや特許xxの知的財産権の帰属や、著作xxの人格権の不行使があるか(成果物の変更の可否 などが関係する) | |||
本契約に関連する契約の有無及びその関係(データ提供等に係る契約の前提となる契約や、データ提供等を受けて行う研究開発契約の有無、および本契約と関連する利用条件等の事項の有 無) | データ提供契約等の契約目的の背景にある契約(例えば国からの委託契約に基づく等)や、成果物の第三者提供契約の有無を明らかにすることで、本契約で定めた契約内容との整合性を確保すべき契約の範囲を 明らかにする。 | |||
データの管理方法 | 管理基準・注意義務の内容 | 提供(創出)データや派生データの管理内容や前提となる善管注意義務のレベルを明確にすることで、x x責任の重さを明らかにする。 | ||
営業秘密等に関する管理方法 | 提供データ等が提供者側で営業秘密や限定提供データとして取り扱っている場合に、提供先での営業秘密 等の管理方法を確認する。 |
カテゴリ | 契約内容として確認する項目等 | 有無(〇をつける) | 項目としてない場合の代替的対 応 | チェックの観点 |
個人情報の範囲、取扱い、管理方法 | 対象とする個人情報の範囲(特に IoT データ)を明確にするほか、内部的な取扱い(生データのまま使うか、仮名化データに加工して使うか等)や管理方法などについて明らかにすることで、法律上の対応状況のほ か、リスクを把握する。 | |||
データの管理方法 | データの管理方法(主にセキュリテ ィ)を確認する。 | |||
管理状況の報告(内容、方法、頻度) | 管理状況に関するデータ提供者等への報告の有無やその方法(web 上、メール、他)、頻度(月次、年次な ど)を明らかにする。 | |||
管理の是正等 | データの管理方法に問題が生じた場合の、是正方法・方針などを示 す。 | |||
契約終了後のデータ削除対象、方法・報告等 | 契約終了のデータ削除(削除する場合)の対象や返還・削除方法、削除したことについてのデータ提供者への報告方法(削除証明書をつけるか否 かなど)を明らかにする。 | |||
契約上の一般的事項 | 秘密保持義務 | 秘密の定義内容や、範囲を明らかにしたうえで、当事者間の秘密保持の対象や期間(契約終了後含む)につ いて確認できるようにする。 | ||
損害賠償関係 | データ漏洩等が生じた場合の損害賠償責任の範囲・基準(注意義務の内容)、損害賠償の予定、損害賠償 額の上限の有無などを確認する。 | |||
免責 | 損害賠償責任などに対する免責条 項(不可抗力ほか) | |||
契約の有効期間 | 契約の有効期間について確認する (提供データの相手方の利用範囲に関係する) | |||
解除 | 契約の解除事由の確認(相手方に 契約に反する利用があった場合に解除できるかどうかに関係する) | |||
存続条項 | 契約終了後に存続する条項(第三 者が保有する知的財産による紛争対応など) | |||
譲渡禁止 | 契約上の地位の譲渡などについて、事前の書面による合意がない場合 には認めない等を明らかにすることで、相手方が変更するリスクを防止 する。 | |||
準拠法 | 一般的には日本法による |
カテゴリ | 契約内容として確認する項目等 | 有無(〇をつける) | 項目としてない場合の代替的対 応 | チェックの観点 |
管轄裁判所等 | 一般的には日本国内の裁判所(地 方裁判所) |
AI研究開発を行う主体間で締結する契約
AI研究開発を行う主体間で締結される契約の概要
経済産業省ガイドラインでは、ユーザ企業とベンダとの契約関係を想定したひな型が示されているが、主に民間における研究開発の委託者と受託者の間の契約関係を想定している。
しかし農業分野におけるAI研究開発を行う主体としては、前述の通り国、行政機関等が開発委託者となる場合があるほか、公的資金の供与に当たって、受託者の中 で、公的機関等が受託契約管理団体を担い、研究開発に係る契約の委託者となる場合も想定される。これらが研究開発の委託者となる場合には、研究開発の成果の取扱いや手続において、それぞれの特殊性に応じた考慮が求められる。
このような関係を踏まえて想定されるAI研究開発主体間で締結される契約における当事者関係について図 24 に示す。
また経済産業省ガイドラインでは、AIの研究開発で利用するデータ等は、研究開発の委託契約の当事者であるユーザ企業が提供することを想定しているが、農業分野におけるAIの研究開発においては、AIの研究開発契約の第三者である農業関係者等が、データやノウハウの提供を行うことが大半である。そのため、提供データの利用関係等を定める契約条項においても、この点を考慮することが求められる。
図 24 AI研究開発主体間での契約関係
【ポイント 19】AIのモデル研究開発における 3 当事者間の契約
本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、AIの研究開発のスキームとして
・データ・ノウハウ提供者(農業関係者等)とデータ・ノウハウ受領者(AI研究開発主体: AI研究開発委託者あるいはAI研究開発者)とのデータ・ノウハウ提供契約
・AI研究開発委託者とAI研究開発者間でのAI研究開発委託契約の 2 つの契約から構成されることを想定している。
しかし、実際のAIの研究開発においては、データやノウハウを提供する農業関係者等が、モデルの研究開発にも深く関与できるよう、農業関係者等とAI研究開発委託者、AI研究開発者の 3 者による契約がなされることがある。特に熟練農業者や農業普及指導員が研究開発するAIに対する助言等を行うなどの形で、AIの研究開発に深く関わる場合などは、このような契約形態によることがある(図 25)。
3 者間契約では、データ・ノウハウの提供先は、直接的にAI研究開発委託者とAI研究開
発者の双方となる。また成果の帰属先やAIの研究開発における役割についても 3 者間で決定することになる。
図 25 AI研究開発における 3 当事者間の契約
AI研究開発主体間で締結される契約におけるモデル契約条項のポイント
本ガイドライン(ノウハウ活用編)で示す契約のひな型は、経済産業省ガイドラインの「第7 本モデル契約」42で示される契約のひな型のうち、「6 開発段階のソフトウェア開発契約書(モデル契約書)」43に示される契約のひな型44を踏まえている。
そのうえで、①で述べた農業分野の特殊性などを勘案して、経済産業省ガイドラインにおけるひな型のうち、そのまま踏襲できるものについては踏襲し、変更等が必要なものについてのみ、本項で変更内容とその説明を行う。
全体
【委託契約の対象】
経済産業省ガイドライン開発モデル契約書案45では、委託契約の対象を「AIの開発」としている。
農業分野においては、PoC に該当する部分などを公設試験機関に委ねる等、開発ではなく研究を伴うことが多い(なお第 2 4(2)「農業分野におけるAIの研究開発の特殊性」参照)。
そのため、本ガイドライン(ノウハウ活用編)で示す委託契約の対象としては、「AI
の研究開発」を想定し、用語についてもこれを用いる。
【AIの研究開発委託契約の対象・前提】
本ガイドライン(ノウハウ活用編)で示すAIの研究開発委託契約の対象および前提を以下に示す。
・契約当事者:農業分野でのAIを利用した製品・サービスの研究開発に関与する製品・サービス提供者、研究開発者(機関、団体)、各種団体等
・研究開発手法:非ウォーターフォールモデル
・研究開発対象:機械学習を利用した特定機能を持つプログラム(学習済みモデル)
・特徴:準委任型(成果報酬型)
・概要:研究開発モデル契約では、学習済みモデルのみの生成を行うケースを想定した、必要最低限の条項で構成されたシンプルな契約である。そのため基本契約と個別契約に分けていない。一定以上の規模を持つシステムの一部として学習済みモデルを生成する場合は、基本契約と個別契約に分けたり、システム開発契約を別に締結する等して、通常のシステム開発契約に必要な条項
42 経済産業省ガイドライン P77
43 経済産業省ガイドライン P102
44 以下では、「研究開発モデル契約書案」という。
45 経済産業省ガイドラインに示されるひな型は「開発モデル契約書案」と示されているが、本ガイドラインでは研究開発を目的としているので、本項で同ひな型ついては「研究開発モデル契約書案」として示す。
(「情報システム・モデル取引・契約」200746、同 200847(経済産業省)参照)を適宜付加して利用されたい。
【AI研究開発委託者が受託契約管理団体等の場合】
AI研究開発委託者における規程等によっては、本ひな型で定めている条項の内容が定められている場合もある。例えばAIの研究開発が、国等の事業によりなされる場合で、受託契約管理団体(例:国立研究開発法人、独立行政法人)がAI研究開発委託者となる場合には、AI研究開発委託者である受託契約委託管理団体における手続や規程等を踏まえて内容を定めることが求められる。
AI研究開発委託者が受託契約管理団体等の場合に、手続や規程等を踏まえて内容を定める必要性の要否を検討すべきモデル契約書案は、以下に示すものである。
・委託料およびその支払時期・方法(研究開発モデル契約書案第 4 条関係)
・研究開発に際しての体制等(研究開発モデル契約書案第 8 条第 3 項関係)
・再委託手続(研究開発モデル契約書案第9条関係)
・契約の変更手続き(研究開発モデル契約書案第 10 条関係)
・研究開発業務の完了の手続き(研究開発モデル契約書案第 11 条関係)
・秘密情報の取扱いにおける手続き(研究開発モデル契約書案第 14 条関係)
・解除権の行使(研究開発モデル契約書案第 25 条関係)
目的(研究開発モデル契約書案第 1 条関係)
【研究開発契約の委託者・受託者】
農業分野におけるAIの研究開発では、委託者は国や地方公共団体のほか、研究開発の受託契約管理団体、農業関係者等、公的機関、製品・サービス提供事業者などが想定され、必ずしもユーザという立場になるわけではない。またAIの研究開発を行う受託者は、大学等の研究開発機関や製品・サービス提供事業者などとなることが多く、ベンダに限定されるわけではない。
他方、AIの研究開発の委託・受託関係や、その契約において用いる用語などについては、定めるべき内容は経済産業省ガイドラインの研究開発モデル契約書案において示されるものと基本的には同一の内容となるものと想定される。
そこで、本ひな型では、AIの研究開発を委託する者については、「本AI研究開発委託者」、受託する者については、「本AI研究開発者」と定義したうえで、契約における目的及び用語については、経済産業省ガイドラインを踏襲することとした。なお契約における目的及び用語に関する解説は、経済産業省ガイドライン P103 を参照。
なお経済産業省ガイドラインでは、業務内容について、「別紙 業務内容」という形で
具体的な内容を定めている。本ひな型においても、同様の形をとりつつ、別紙のタイトル
46 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xx_xxxxxx/xxxxxxx/xxxxx_xxxxxxxxxx.xxx
47 xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xx_xxxxxx/xxxxxxxxx/xxxxx_xxxxx/xxxxx_xxxxx.xxx
については、「研究開発業務の内容の詳細」とした。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第1条(目的) 本契約は、別紙「研究開発業務内容の詳細」記載の「研究開発対象」とされているコンピュータソフトウェアの研究開発(以下「本研究開発」という。)のための、本 AI研究開発委託者と本AI研究開発者の権利・義務関係を定めることを目的とする。 |
AI研究開発者の義務(研究開発モデル契約書案第 7 条関係)
【AI研究開発者における注意義務の程度】
経済産業省ガイドラインの研究開発モデル契約書案第 7 条第 1 項では、本契約の性格を準委任としたうえで、本AI研究開発者における善管注意義務の内容について、「情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識」に基づく善管注意義務によるべきこととする。 AIの研究開発では、一般的なシステム開発とは異なり、その性格上、機械学習等の結果によって得られる学習済モデルが、契約の目的を達成する機能や精度を満たさないことがある。そのため、一般的には事前の仕様に基づき完成義務を負う請負は困難とされる。そのため、AI研究開発者が善管注意義務をつくす準委任としての性格を有するとされる。 そこで本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、上記の考え方を踏まえて本研究開発契約の性格として、準委任として捉えることとしたうえで、注意義務については、次の通りとした。 すなわち、AIの研究開発においては、一般的なシステムに関する知見のみならず、A Iに関する知見に着目して受託者を決定するのが一般であることから、AI研究開発者における善管注意義務の内容として、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に加え、AI分野において一般的とされる専門知識についても、前提とするのが妥当であるとし、本ひな型ではその旨を加えた内容とした。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
第7条(本AI研究開発者の義務) 1 本AI研究開発者は、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識、および AIに関連する一般的な専門知識に基づき、善良な管理者の注意をもって、本件業務を行う義務を負う。 |
【検収における説明義務】
経済産業省ガイドラインの研究開発モデル契約書案では、本契約の性格を準委任としたうえで、完成義務がないことと、成果物の内容の非保証を定める。 本ガイドライン(ノウハウ活用編)においても、AIの研究開発委託契約は、準委任としている。そのため、AI研究開発者に完成義務を負わせない内容としている。また成果物に対する非保証についても、準委任の性格上、経済産業省ガイドラインの内容を踏襲している。 他方、本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、成果報酬型の準委任によることとし ている。成果報酬型の準委任は、令和2年 4 月より施行される改正民法において新設される契約類型で、準委任により得られた成果に対して報酬を支払うものとする契約である48。 成果報酬型準委任を採用した趣旨は、AIの研究開発においては、完成義務が生じない場合でも、業務の結果、何らかの成果(プログラム、派生データ等)が得られるのが一般であると考えられるためである。 加えて、本ガイドライン(ノウハウ活用編)では、そしてその成果を受領する際に、受任者であるAI研究開発者に対して、契約の目的が達せられない場合に説明責任を課す内容となっている。これは、AIの研究開発においては、委託者と受託者の間での専門的な知識に大きな乖離が生じていることが多く、また契約の目的を達成できない成果物が提供された場合に、AI研究開発委託者においても受領の際の確認において、契約の成果物としての受領の判断基準を設定することが困難となる。そこで、本契約の成果物が、契約の目的を達しないものである場合、AI研究開発委託者からの要請があれば、 AI研究開発者に対して適切な説明を行うことを、本ひな型では示している。なお、説明すべき内容や範囲については、AI研究開発者における負担が過大とならないよう、合理的な範囲とした49。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
2 本AI研究開発者は、本件成果物について完成義務を負わず、本件成果物等が本A I研究開発委託者の業務課題の解決、業績の改善・向上その他の成果や特定の結果等を保証しない。ただし本AI研究開発委託者における業務課題解決等、本契約の目的 が達せられない場合には、本AI研究開発委託者からの求めに応じて、本AI研究開 発者は、合理的な範囲での説明を行うこととする。 |
48 ただし成果自体には請負のような完成義務はないため、準委任の受任者(AI研究開発者)は、善管注意義務に基づいて得られた成果により、報酬を得ることができる(改正民法第 648 条の2、第 648 条第 2 項)
49 AIのうち、深層学習によるモデルには、学習用データセットと得られたモデルの間に人間が理解できる論理関係を示すものはないため、論理的な説明を果たすことが難しいとされる。なお「人間を中心とするAI原則」では、説明責任の範囲について、「AI を利用しているという事実、AI に利用されるデータの取得方法や使用方法、AIの動作結果の適切性を担保する仕組みなど、用途や状況に応じた適切な説明が得られなければならない」とされる。
再委託(研究開発モデル契約書案第9条関係)
【再委託の拒否】
経済産業省ガイドラインの研究開発モデル契約書案第 9 条第 1 項では、合理的な理由がない場合には、委託者は再委託を拒めないという内容が含まれている50。しかし例えば国が行う研究開発助成事業では、事前に再委託も含めた履行体制を事前審査したうえで、委託先を決定するなどの状況があるため、再委託を行うことの合理性の疎明は、AI研究開発者側で行うべきことになる。そのため当該内容については、本ガイドライン(ノウハウ活用編)では不要とした。 変更した研究開発モデル契約書案(削除箇所は取消線で示す) | ||
第9条(再委託) 1 本AI研究開発者は、本AI研究開発委託者が書面によって事前に承認した場合、本件業務の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができるものとする。 2~3 略 |
AI研究開発委託者が提供するデータ・資料等とその管理(研究開発モデル契約書案第
12 条関係)
【AI研究開発委託者が国や地方公共団体等、受託契約管理団体の場合】
経済産業省ガイドラインの研究開発モデル契約書案第 12 条では、本AI研究開発委託者による資料(「資料等」)、および学習のためにデータ(「本AI研究開発委託者提供データ等」)がAI研究開発者に提供が行われることを想定した条項が示されている。
農業分野におけるAIの研究開発の場合、本AI研究開発委託者は、研究開発資金を供与する国や地方公共団体等であったり、受託契約管理団体であったりする場合が多い。この場合には、本条が予定しているような形でのデータ提供関係は発生しない。このような
場合には、本条の規定を置く必要は生じない。
【提供者の正当な権限の確認】
本条第 3 項では、AI研究開発委託者からAI研究開発者に提供される提供データお
よび資料等についての権限が正当なものであることを保証する内容となっている。
50 「ユーザが上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。」(第 9 条第 1 項(経済産業省ガイドライン P107))
AI研究開発委託者が法人である場合には、そもそもの前提として、AI研究開発委託者の担当者が正当な代理権(代表権)を有していることが必要であるし、またAI研究開発委託者が提供するデータや資料の処分に関する権限が、第三者が管理するものでないことが求められる。
AI研究開発者においては、契約に際して、提供されるデータや資料の内容、提供する
AI研究開発委託者の権限等を踏まえて、最低限の調査を行うことが求められる51。
AI研究開発委託者提供データの利用・管理(研究開発モデル契約書案第 13 条関係)
経済産業省ガイドラインの開発モデル契約書案第 13 条では、AI研究開発委託者提供データの利用・管理について示されている。
農業分野におけるAIの研究開発の場合、本AI研究開発委託者は、研究開発資金を供与する国や地方公共団体等であったり、受託契約管理団体であったりする場合が多い。この場合には、本条が予定しているような形での提供データの利用・管理関係は発生しないことがある。その場合には、所定の利用・管理規程によるものとし、本条の規定を置く必要
は生じない。
【AI研究開発委託者が国や地方公共団体等、受託契約管理団体の場合の提供データの利用・管理関係】
本条第 2 項では、提供されたデータの目的外利用の禁止について示されている。農業分野におけるAIの研究開発においては、例えば、受託契約管理団体からの委託を踏まえて、製品・サービス提供者と研究開発機関の間でAIの研究開発の委託契約(再委託契約)を結ぶことが想定される。AI研究開発に用いるデータ等が受託契約管理団体から利用目的等が限定された形で提供される場合、それを踏まえて製品・サービス提供者から提供されるデータ等がさらに研究開発機関との委託契約(再委託)においても、利用目的を制限することが求められる。
このような場合は製品・サービス提供者と研究開発機関の間で定める利用目的は、受託契約管理団体と製品サービス提供者の間で定める利用目的の範囲内であるように、設定することが求められる(表 9)。同様の契約関係は、国と受託契約管理団体、受託契約管理団体と製品・サービス提供者との契約関係でも生じるため、利用目的の設定に際しては、各確認が求められる。
【AI研究開発委託者が国や地方公共団体等、受託契約管理団体の場合の目的外利用の禁止】
51 例えば権利能力なき社団(例:生産部会等)によりデータや資料が提供される場合、実際に提供できるのは社団において代表権を持つ者に限定されるが、法人登記等がなされていないことから、公示方法から確認することが困難である。このような場合には、社団の構成や権限などについての資料も併せて提出してもらう等で確認することが想定される(P19 コラム参照)。
表 9 利用目的の設定妥当性判断の例
受託契約管理団体と製品・サービス提供者との契約で定めた利用目的の範囲
製品・サービス提供者とAI研究開発を行う研究開発機関との委託契約で定めた利用目的の範囲
製品・サービス提供者とAI研究開発を行う研究開発機関との委託契約で定めた利用目的の範囲の妥当性
利用目的の範囲(A∋B:B の目的は A の目的に含まれる)
A A B B
A B A B
〇 〇 × 〇
個人情報の取扱い(研究開発モデル契約書案第 15 条関係)
経済産業省ガイドラインのモデルひな型第 15 条では、提供データに個人情報が含まれている場合の責任関係について示している。 AI研究開発委託者、AI研究開発者が民間事業者でない場合には、例えば「独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律」が適用されるため、同法を含めて規定することが求められる。 なおこの場合には、個人情報の範囲が、個人情報保護法に定める範囲と異なることから留意が必要である52。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
1 本AI研究開発委託者は、本研究開発の遂行に際して、個人情報の保護に関する法律および独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報または匿名加工情報(以下、総称して「個人情報等」という。)を含んだデータを本AI研究開発者に提供する場合には、事前 にその旨を明示する。 |
【AI研究開発委託者・AI研究開発者が国や地方公共団体等、受託契約管理団体の場合】
52 例えば個人情報保護法では、個人情報の定義として容易照合性が要件となっているが、独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律では、容易照合性は要件となっていないため、個人情報の範囲が広くなっている。
本件成果物の著作権の帰属等(研究開発モデル契約書案第 16 条関係)
経済産業省ガイドラインでは、著作権の帰属についてAI研究開発委託者に帰属するケースと、AI研究開発者に帰属するケース、両者の共有となるケースを想定し て、それぞれについての条項例が示されている53。
農業関係者等との関係では、農業関係者等がAIの研究開発に係る契約の当事者でない場合には、AIの研究開発の貢献の一部を担うにすぎず、一般的には著作権のすべてを第三者に帰属させることは想定されないため、本ひな型では、農業関係者等にすべて著作権が帰属するケースは示していない。
【農業関係者等によるデータ・ノウハウ提供契約との関係】
農業関係者等によるデータ・ノウハウ提供契約においては、提供されたデータ・ノウハウに基づいてデータ受領者により得られた知的財産権は、データ提供者(農業関係者等)とデータ受領者(AI研究開発主体)と、原則、共有とする旨を示している。(「(1)農業関係者等が締結するデータ・ノウハウの提供に係る契約」参照)。
そこで、AI研究開発委託者とAI研究開発者との契約においても、上記契約との整合性を図ることが求められる。
例えばAI研究開発委託者あるいはAI研究開発者のいずれかに著作権を帰属させる、あ
るいは両者での共有とする場合には、データ・ノウハウ提供契約において、本件成果物に係る知的財産権の帰属をデータ受領者のみとする(農業関係者等による著作権帰属を定めない)ようにしておくことで、整合性をとることができる。
データ・ノウハウ提供契約においてデータ・ノウハウ提供者(農業関係者等)とデータ受領者との間で、本件成果物に係る知的財産権の帰属を共有とした場合には、これと整合性をとるためには、AI研究開発委託契約において、データ受領者に当たる者に著作xxが帰属するように取決める必要がある。この関係を表 10 に示す。
表 10 データ・ノウハウ提供契約とAI研究開発委託契約における権利帰属関係の取決めの関係
データ・ノウハウ提供契約内容 AI研究開発委託契約内容
農業関係者等に権利帰属 データ受領者となる者において権利帰属
農業関係者等とデータ受領者の共有
農業関係者等に権利帰属なし
データ受領者となる者において権利帰属
※後述のように 3 者共有の場合は除く AI研究開発委託者、AI研究開発者のどちらに帰属でも可
【研究開発に貢献があった農業関係者等に対する利用権限の付与】
53 なお両者の共有となるケースについて、第三者に対して利用許諾を与える際の条項についてもオプションとして示されている。
経済産業省ガイドラインのモデルひな型では、著作権の帰属についてAI研究開発委託者、またはAI研究開発者に帰属するケースのほか、両者の共有となるケースを想定した条項例が示されている(C 案)。 両者の共有となるケースについて、第三者に対して利用許諾を与える際の条項についてもオプションとして示されている。 農業分野におけるAIの研究開発に際しては、契約当事者であるAI研究開発委託者とA I研究開発者以外に、第三者である農業関係者等のデータやノウハウ提供などによる貢献が認められる場合が一般的であることから、本ひな型では原則例として、第三者への許諾に関する規定を示した。なおこの場合には、別紙「研究開発業務内容の詳細」に「ノウハウ等提供者」の項を作成し、その内容としてノウハウ等を提供した者を示すことが想定される54。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
【C 案】本AI研究開発委託者・本AI研究開発者の共有とする場合 1 略 2 前項の場合、本AI研究開発委託者および本AI研究開発者は、共有にかかる著作権につき、本契約に別に定めるところに従い、前項の共有にかかる著作権の行使についての法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとし、相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、ノウハウ等提供者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。 3~4 略 |
【AI研究開発委託者・本AI研究開発者、農業関係者等との共有とする場合】
経済産業省ガイドラインの開発モデル契約書案では、著作権の帰属についてAI研究開 発委託者とAI研究開発者の共有となるケースを想定した条項例が示されている(C 案)。農業関係者等の貢献によっては、さらにデータ・ノウハウ提供を行った農業関係者等も 含めて、共有とするケースも想定される。 本ガイドライン(ノウハウ活用編)ではこのようなケース(C2 案)を想定したモデルひな型の条項を示した。 変更した研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
【C2案】本AI研究開発委託者・本AI研究開発者、農業関係者等との共有とする場 合 1 本件成果物および本研究開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」 |
54 なお実際の持ち分を決定する際に、ノウハウの対価については、一般的には確定された価値評価方法がなく、算定は困難とされるため(経済産業省ガイドラインでは「そもそも、ノウハウについては、確立した価値評価手法がないため、当事者の信じる価値(主観的価値)と、実際のノウハウの価値(客観的価値)が異なることがしばしばある」とされる)、当事者間で成果物の利用方法の方針なども含めて検討することが求められる。
という。)に関する著作権(著作xx第 27 条および第 28 条の権利を含む。)は、 本AI研究開発委託者の本AI研究開発者に対する委託料の支払いが完了した時点で、本AI研究開発委託者、本AI研究開発者または第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、本AI研究開発者、本AI研究開発委託者、別紙「研究開発業務内容の詳細」に示す「ノウハウ等提供者」との共有(持分均等)とする。この場合、xxxx等提供者との権利の共有は、xxxx等提供者と本AI研究開発委託者との間の権利帰属関係に関する合意がなされることを条件に効力が発生する55。なお、本AI研究開発者から本AI研究開発委託者、xxxx等提供者への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。 2 前項の場合、本AI研究開発委託者および本AI研究開発者、xxxx等提供者 は、共有にかかる著作権につき、本契約に別に定めるところに従い、前項の共有にかかる著作権の行使についての法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとし、相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら利用することができるものとする。 3 本AI研究開発委託者、本AI研究開発者、およびxxxx等提供者は、他の共 有者の同意を得なければ、第 1 項所定の著作権の共有持分を処分することはできないものとする。 4 本AI研究開発委託者、本AI研究開発者およびxxxx等提供者は、本契約に 従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承 継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。 |
【譲渡先の制限】
本条で定める成果物の著作権の帰属に関連して、著作権の譲渡先について制限が設けられることがある。例えば農業分野におけるAIの研究開発においては、例えば、受託契約管理団体からの委託を踏まえて、製品・サービス提供者と研究開発機関の間でAIの研究開発の委託契約を結ぶ場合に、受託契約管理団体とAI研究開発委託者との間での契約で、本件成果物である著作権の譲渡先が限定されていることが想定される。 その条項例を下記に示す。この場合、別紙「研究開発業務内容の詳細」に示す「知的財産の譲渡・利用許諾先の範囲」を設けて、受託契約管理団体と間で取り決めた譲渡先制限の内容を盛り込むことが想定される。 本AI研究開発による成果物(著作権)の譲渡先、利用許諾先を制限する場合の追加的な研 究開発モデル契約書案((追記箇所は太字・下線で示す)) | ||
本件成果物および本研究開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」と いう。)に関する著作権については、別紙「研究開発業務内容の詳細」に示す「知的財産の譲渡・利用許諾先の範囲」に定める内容でのみ、譲渡、あるいは利用許諾 を行う。 |
55 ここではノウハウ提供者から研究開発委託者がデータ、ノウハウの提供を受けることを想定している。
このような場合は製品・サービス提供者と研究開発機関の間で定める譲渡先制限は、受託契約管理団体と製品サービス提供者の間で定める譲渡先の範囲内になるように、設定することが求められる(表 11)。同様の契約関係は、国と受託契約管理団体、受託契約管理団体と製品・サービス提供者との契約関係でも生じるため、著作権の譲渡先の設定に際しては、各確認が求められる。
表 11 著作権の譲渡先の設定妥当性判断の例
受託契約管理団体と製品・サービス提供者との契約で定めた譲渡先の範囲
製品・サービス提供者とAI研究開発を行う研究開発機関との委託契約で定めた譲渡先の範囲製品・サービス提供者とAI研究開発を行う研究開発機関との委託契約で定めた譲渡先の範囲の妥当性
著作権の譲渡先の範囲(A∋B:B の目的は A の目的に含まれる)
A A B B
A B A B
〇 〇 × 〇
本件成果物等の特許xxの帰属(研究開発モデル契約書案第第 17 条関係)
【農業関係者等を含めた共有とする場合】
経済産業省ガイドラインの開発モデル契約書案第 17 条第 2 項では、AI研究開発委託者および本AI研究開発者が共同で発明した本件成果物等に関する特許xxについては共有とする旨の規定が示されている56。 農業関係者等がノウハウを提供するなどにより、共同で発明した特許権については、A I研究開発委託者とAI研究開発者以外に、農業関係者等が特許xxの共有者の一部となることが想定できる。このような場合には、権利を帰属させるノウハウを提供した第三者について、「研究開発業務内容の詳細」の「ノウハウ等提供者」の部分に、当該第三者について示す必要がある ノウハウを提供した農業関係者等も含めて共有とする場合の研究開発モデル契約書案 (追記箇所は太字・下線で示す) | ||
2 本AI研究開発委託者および本AI研究開発者および別紙「研究開発業務内容の詳 細」に示す「ノウハウ等提供者」が共同で発明した本件成果物等に関する特許xxについては、本AI研究開発委託者、本AI研究開発者、および「ノウハウ等提供者」との共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、本AI研究開発委託 者、本AI研究開発者、および「ノウハウ等提供者」は、共有にかかる特許xxにつ |
56 経済産業省ガイドライン P118
き、本契約に定めるところに従い、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対 する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとする。 |
【日本版バイ・ドール制度が適用される場合の条項例】
AIの研究開発が公的資金により実施される場合、産業技術力強化法第 17 条(以下、「日本版バイ・ドール制度」57)の適用を受けることが想定される。日本版バイ・ドール制度では、本研究開発が公的資金により行われる場合には、一定の要件の下で、研究開発の受託者に特許xxを帰属させることができる。 農業分野では、公的資金により研究開発が行われることが多いことから、本モデルひな型では第 4 項で日本版バイ・ドール制度が適用される場合の条項例を示した。 日本版バイ・ドール制度の適用を受ける場合には、本制度に示される手続きを実施の上、特許xxの帰属が決定する旨を内容とした。本項は国がAI研究開発委託者になる場合のほか、研究開発における受託契約管理団体(国立研究開発法人等)がAI研究開発委託者となる場合にも適用される。 産業技術力強化法第 17 条の適用対象となる場合の研究開発モデル契約書案(追記箇所は太字・下線で示す) | ||
4 本件成果物が産業技術力強化法第 17 条の適用対象となる場合には、同条に定める 手続きを行ったうえで、特許xxの帰属を決定するものとする。 |
【譲渡先の制限】
本条で定める成果物の特許権の帰属に関連して、特許権の譲渡先について制限が設けられることがある。例えば農業分野におけるAIの研究開発においては、例えば、受託契約管理団体からの委託を踏まえて、製品・サービス提供者と研究開発機関の間でAIの研究開発の委託契約を結ぶ場合に、受託契約管理団体とAI研究開発委託者との間での契約で、本件成果物である特許権の譲渡先が限定されていることが想定される。
その条項例を下記に示す。この場合、別紙「研究開発業務内容の詳細」に示す「知的財産の譲渡・利用許諾先の範囲」を設けて、受託契約管理団体と間で取り決めた譲渡先制限の内容を盛り込むことが想定される。
このような場合は製品・サービス提供者と研究開発機関の間で定める譲渡先制限は、8)で示した著作権の場合同様、受託契約管理団体と製品サービス提供者の間で定める譲渡先の範囲内であるように、設定することが求められる(表 11 参照)。
本AI研究開発による成果物(特許権)の譲渡先、利用許諾先を制限する場合の追加的な
57 日本版バイ・ドール制度については、「日本版バイ・ドール制度(産業技術力強化法第17 条)」(経済産業省 HP)
(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxx/xxxxxxx_xxxxxxxx/xxxxxxxxxx_xxxxxx/xxxx_xxxx_xxx.xxxx)に趣旨、手続等が示されている。
研究開発モデル契約書案((追記箇所は太字・下線で示す)) | ||
本件成果物および本研究開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」と いう。)に関する特許権については、別紙「研究開発業務内容の詳細」に示す「知的財産の譲渡・利用許諾先の範囲」に定める内容でのみ、譲渡、あるいは利用許諾 を行う。 |
本件成果物等の利用条件(研究開発モデル契約書案第 18 条関係)
【成果物の利用条件】
経済産業省ガイドラインの開発モデル契約書案第 18 条では、成果物(学習済みモデル、学習用データセット、学習済みパラメータ、発明、ノウハウ等)の利用条件について、「知的財産権の対象となるもの」に分けて、それぞれの利用条件の決め方により、A 案、B 案、 C 案の 3 案を示している。
このうち B 案、C 案は、それぞれAI研究開発委託者、AI研究開発者に権利を帰属させることを前提とした条項例である。この場合 8)で示したように、データ・ノウハウ提供契約における取決めとの整合性を図って、決定することが求められる。
A 案については、成果物の知的財産への該当性に応じて、別紙「利用条件一覧表」に、①本研究開発目的(および本AI研究開発委託者の業務)のための自己利用、②上記①以外の他目的(再利用モデル生成目的等)のための自己利用、③第三者への開示、利用許諾、提供が認められるか否か、認められる場合の詳細条件を記載するようになっている。
農業分野におけるAIの研究開発による成果物には、農業関係者等のノウハウなどが含まれる場合があるほか、研究開発における資金提供が国や地方公共団体によるものであり、その成果の使用は政策目的に沿って行われることが求められることを鑑みると、別紙「利用条件一覧表」の利用条件においては、農業関係者等への配慮や、資金投入目的などを踏まえた内容となることが求められる。
具体的には例えば、国の事業による研究開発によるものである場合には、利用目的については、例えば競争力強化の観点から、国内の農業関係者等の生産支援等を行うための利用に限定される、など公的資金を投入した政策目的に応じた制限がなされることがある。
そこで本研究開発成果を活用した製品やサービス利用においても、このような制限の範囲での提供を行うことが求められる58。
経済産業省ガイドラインでは、利用条件の設定は、生データの提供はユーザが行うこととされているが、農業分野におけるAIの研究開発においては、農業関係者等がデータの提供を行うため、農業関係者等が締結するデータ提供契約における第三者提供先と、AIの研究開発において得られた学習用データセットや学習済みモデルの第三者提供先等の整
58本ガイドラインでは、農業分野におけるAIの研究開発契約を行う当事者間の契約条項を対象とするが、AIの開発
により直接的に影響をうけるのは、農業関係者等である。特に地域間競争力の低下などを招かないように、農業関係者等はデータ等の提供段階から、利用目的や第三者提供の制限などを行う場合があるが、民間事業者の研究開発当事者間においてもこの趣旨を十分考慮して、データ等の目的外利用の禁止や第三者提供制限の範囲の設定を検討することが求められる。
合性をとる必要がある。例として表 12 に示すような形で、関係する契約関係を整理して、利用条件における第三者提供先等を定めることが求められる。 表 12 成果物の利用条件における第三者への提供先の設定妥当性判断の例 利用目的の範囲(A∋B:B の目的は A の目的に含まれる) 農業関係者等とのデータ 提供契約で定めた派生デ A A B B ータ等の第三者への提供 先の範囲 AI研究開発委託者とA I研究開発者との委託契 約で定めた成果物(学習用 A B A B データセット、学習済みモデル等)の提供先の範囲 AI研究開発委託者とA I研究開発者との委託契 約で定めた成果物(学習用 〇 〇 × 〇データセット、学習済みモ デル等)の提供先の範囲の妥当性 | ||
第18条(本件成果物等の利用条件) 【A 案】原則型 本AI研究開発委託者および本AI研究開発者は、本件成果物等について、別紙「利用条件一覧表」記載のとおりの条件で利用できるものとする。同別紙の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合には同別紙の内容が優先するものとする。 【B 案】本AI研究開発委託者への著作権帰属型(16 条 B 案)の場合のシンプルな規定本AI研究開発委託者は、本件成果物等を利用でき、本AI研究開発者は、本件成 果物等を本研究開発遂行のためにのみ利用できる。 【C 案】本AI研究開発者著作権帰属型(16 条 A 案)の場合のシンプルな規定 本AI研究開発者は、本件成果物等を利用でき、本AI研究開発委託者は、本件成果物を別紙「利用条件一覧表」に示す利用条件の範囲で、本AI研究開発委託者自身 の業務のためにのみ利用できる。 |
知的財産侵害の責任(研究開発モデル契約書案第 21 条関連)
【AI研究開発者における非保証の制限】
農業分野においては、AI研究開発委託契約において農業関係者等が関与するケースが想定され、2(1)②で示したように、データ・ノウハウ提供契約において、データ等を提供した農業関係者等の利益は保護されることとなっている。そこで本条との関係では、農業
関係者等は「第三者」として位置づけられ、AI研究開発委託者とAI研究開発者との契約
によって得られた成果物の利用等において、農業関係者等の権利等が侵害した場合には、 AI研究開発委託者とAI研究開発者の間で農業関係者等への権利侵害等への対応を図る必要がある。 経済産業省ガイドラインの開発モデル契約書案第 21 条では、このようなケースにおける第三者の知的財産を侵害した場合の損害賠償の対応について、3 つのケースを想定した条項を用意する。 このうち、経済産業省ガイドラインにおける B 案においてAI研究開発者が「本AI研究開発者が知的財産権非侵害(著作権を除く)の保証を行わない」場合、第三者の知的財産権侵害に対しては、AI研究開発者に帰責事由がある場合でも、責任を負わないこととなっている。 しかし農業分野の研究開発においては、本AI研究開発者に対して、データやノウハウ等を提供した場合に、農業関係者等の知的財産を侵害し、AI研究開発者帰責事由が認められる場合でも、その責めを負わないのは、妥当ではない。 そこで本ひな型では、B 案については、直接、農業関係者等がAI研究開発者に対して、知的財産を提供した場合で、その知的財産を侵害した場合は、非保証の対象外とし、損害賠償責任の可能性を残すこととした。 | ||
第21条(知的財産権侵害の責任) 【A-1 案】本AI研究開発者が知的財産権非侵害の保証を行う場合(本AI研究開発委託者主導) 1 本件成果物等の使用等によって、本AI研究開発委託者が第三者の知的財産権を侵害したときは、本AI研究開発者は本AI研究開発委託者に対し、第 22 条(損害賠 償)第 2 項所定の金額を限度として、かかる侵害により本AI研究開発委託者に生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害が本AI研究開発委託者の責に帰する場合はこの限りではなく、本AI研究開発者は責任を負わないものとする。 2 本AI研究開発委託者は、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨を本AI研究開発者に通知するものとし、本AI研究開発者は、本AI研究開発委託者の要請に応じて本AI研究開発委託者の防御のために必要な援助を行うもあのとする。 【A-2 案】本AI研究開発者が知的財産権非侵害の保証を行う場合(本AI研究開発者主導) 1 本AI研究開発委託者が本件成果物等の使用等に関し第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合、次の各号所定のすべての要件が充たされる場合に限り、第 22 条 (損害賠償)の規定にかかわらず本AI研究開発者はかかる申立によって本AI研究開発委託者が支払うべきとされた損害賠償額及び合理的な弁護士費用を負担するも のとする。ただし、第三者からの申立が本AI研究開発委託者の帰責事由による場合 |