Contract
公序良俗違反を理由とする生命保険契約の効力
論 説
公序良俗違反を理由とする生命保険契約の効力
x x x x
1 .はじめに
生命保険の約款では、保険契約者(「契約者」ということがある。)が保険給付(「給付」ということがある。)を不法に取得する、あるいは他人に取得させる目的をもって保険契約(「契約」ということがある。)を締結した場合、当該契約を無効とする旨の規定を挿入することが一般的である1。このような約款規定がない場合には、契約者側が保険金を不法に取得しようとするような場面において、保険の実務上、モラル・リスク対策として、保険者が公序良俗違反(民法 90 条)を主張することも意味があるなどとされ2、判例法理として、公序良俗違反として位置づけ、当該契約を無効とする解釈がある3。
以下、契約者側の行為等が公序良俗に反するとする生命保険契約につい
1 約款規定の一つの解釈について、後出、【12】xxx判平成 29 年4月 20 日を参照。
2 xxxx「モラル・リスクに関する判例の展開と保険法理論の課題」『現代の生命・傷害保険法』245 頁以下、255 頁~ 257 頁(弘文堂・1999 年)、同『保険法(上)』375 頁~ 376 頁(有斐閣・2018 年)。
3 xx『保険法(上)』前掲注(2)373 頁以下等。公序良俗違反法理の適用に消
極的な見解として、xxxx「公序良俗違反による生命保険契約の無効」ジュリ 1130 号 130 頁(1998 年)。
て4、主な判例・裁判例を整理することによって、その効力及び判断基準等を検討する。
2 .主な判例・裁判例
(ⅰ)被保険者の指定
【1】京都地判昭和 63 年 10 月 26 日5
<事実の概要>
X 会社(原告)が、Y1・Y2 保険会社(被告)との間で、幹部社員 A を被保険者、X を保険金受取人(「受取人」ということがある。)とする経営者保険契約を締結した。
<判旨>認容。
各契約は、保険金額が高額であることから、会社の規模・資力に照らして不相応である意味でその目的を逸脱する不適当な契約であるが、認定事実だけでは X に賭博類似の目的があったとまで推認できず、賭博性を認められない。各契約は外交員が勧誘して締結されたものであり、Y2 は契約締結時、「他の保険会社との間に A を被保険者とする保険契約が締結されていることを知っていたと認められ」、反社会的な公序良俗違反の契約とはいえない。
【2】東京高判平成 19 年 5 月 30 日6
<事実の概要>
A は、Y 保険会社(被告・被控訴人)との間で、従業員 B を被保険者、 A を受取人とする従業員保険契約を締結し、保険金は従業員の遺族への弔慰金や死亡退職金の支払原資とする旨の書面を Y に交付した。B は元妻 X(原告・控訴人)に包括遺贈した。
4 主な判例・裁判例には、公序良俗違反が保険契約者側にあるとするものと、保険者側にあるとするものがあるが、本稿では前者を検討する。
5 判時 1323 号 148 頁、判タ 691 号 230 頁。
6 判タ 1254 号 287 頁。xxxx・事例研 232 号 1 頁(2009 年)。
<判旨>認容。
契約締結時、A が保険金のうち相当部分を自らのために確保するつもりであったとしても、B の同意がある契約が公序良俗に反するといえない。
「長期にわたり保険料を支払い続けている場合に、途中から従業員のため
の弔慰金等に充てるという当初の目的がなくなったからといって、その時点で契約を失効させなければならないとすると、これまで払った保険料が無駄になるからこれを存続させるという選択をすることも一つの考え方であり」、「契約が締結後の事情に基づき途中から無効になるのは、契約関係を不安定にするものであるから、極めて例外的な場合に限られる」。
(ⅱ)多額な保険金額・重複契約
【3】東京地判平成 2 年 2 月 19 日7
<事実の概要>
X(原告)の妻 A が、Y1 ~ Y4 保険会社(被告)との間で、被保険者 A、受取人X、保険金額総額 1 億 8,500 万円の 5 件の生命保険契約を締結した。
<判旨>認容。
各契約が保険会社の勧誘によらず、X の意思で 4 社に分割して締結されたこと、その目的は A の死亡保障だけで老後保障とならず、契約締結の動機が薄いこと、契約当時、X は A の死亡保障をしておく経済的必要がないこと、X には安定した収入がないこと、保険料が月額約 36 万円と巨額であること、A は契約後 20 日ほどで死亡したこと、A の死亡の態様も突然で異常であること、X が A の死亡直後の警察官の質問に対して本件契約締結の事実を隠そうとした行動があったことなどの事実を併せ考えると、契約締結については「動機、目的、経緯等の点で、大きな疑問を抱かざるを得ない」。しかし、認定事実をもってしては、契約締結が A の死亡を誘発したと認めるには足りず、契約を公序良俗又はxxxに違反するものとして無効とはできない。
7 文研生保判例集 6 巻 167 頁。
【4】大阪地判平成 3 年 3 月 26 日8
<事実の概要>
Y1(被告)と妻 Y2(被告)が 2 カ月足らずの間に、X1 ~ X11 生命保険会社(原告)との間で入院給付特約付生命保険契約を、X12 ~ X14 損害保険会社(原告)との間で傷害保険契約と所得補償保険契約を計 14 件締結した。約 6 カ月後に Y2 が交通事故で負傷し、入院した。
<判旨>認容。
各契約は典型的な自発的、短期集中的大量加入であること、貯蓄性の薄い保障機能を重視した契約であること、保険料が月額 36 万円を超えるにもかかわらず、Y らは、保険料の支払を継続する収入がないこと、他契約の存在や職業について虚偽の事実を告げていたこと、事故後症状を誇張して入院期間を引き延ばしていたことが窺われること、保険事故(「事故」ということがある。)の偶然性についても客観的証拠があるとは言えないことなどからすると、Y らによる契約締結は、事故を故意に招致したり、仮装するか、「事故に乗じてこれによる受傷の症状を誇張して不必要な長期入院をすることによって不法に入院に基づく保険金を取得しようとする目的で締結されたもの」と推認できるから、このような目的で締結された本件契約は、個別的に見れば、内容に公序良俗に反する点はないとしても、
「全体として見れば、不法な利得目的を達成するための不可欠の手段とし
て締結したものであり、その締結状況及びこれによる保険給付の異常性をも考慮すれば、公序良俗に反するものとして無効である」。
【5】東京地判平成 6 年 5 月 11 日9
<事実の概要>
X1(原告)は、Y 保険会社(被告)との間で、被保険者 X1、災害死亡保険金額 8,000 万円の生命保険契約①を締結した。X1 を代表取締役とす
8 文研生保判例集 6 巻 307 頁。
9 判時 1530 号 123 頁・金判 976 号 29 頁。xxx・事例研 112 号 1 頁(1995 年)、xxxx・ジュリ 1130 号 128 頁(1998 年)。
る X2 会社(原告)は、Y との間で、被保険者 X1、災害死亡保険金額 4 億円の生命保険契約②、災害死亡保険金額 1 億 8,000 万円の生命保険契約
③を締結した。この他の契約を含め 11 件となった。
<判旨>一部認容。一部棄却。
生命保険契約③は、「この時点で X1 を被保険者とする生命保険契約の保険金額は合計 15 億 6,000 万円に達し、これは X2 の年間売上高の約 4 倍
から 5 倍に相当すると考えられることや、その保険料は」「年間 1,254 万円余にも上っていて、当時約 8 億 7,800 万円もの短期借入金の返済を抱え、さらにロシアへの当面の投資として約 3 億 6,500 万円もの新たな資金を必要としていた X2 が実質的に X1 個人分も含めて今後負担し続ける保険料としては著しく不相当な額であることを考えると」、「社会通念に照らし、
X2 程度の規模の会社が社会的に合理的な危険分散のために加入する保険としては、明らかに限度を超えたもの」である。「社会通念上合理的と認
められる危険分散の限度を著しく超えることとなる生命保険契約について
は、当事者間の合意にかかわらず、もはや社会的に許容することのできない不相当な行為というべきであり、このような事態の発生・回避について保険契約自体に特段の取決めがなされていない場合であっても、民法 90条に照らしてその法的効果を認め」られず、生命保険契約③は無効と解すべきである。
【6】大阪高判平成 9 年 6 月 17 日10
<事実の概要>
A を代表取締役とする B 会社は、Y1 ~ Y4 保険会社(被告・被控訴人)との間で、取締役 C を被保険者、B を受取人、死亡保険金額 1 億円の生命保険契約 2 件、5,000 万円の生命保険契約 3 件を締結した。A の義弟 Dを代表取締役とするE 会社は、Y2 との間で、C を被保険者、E を受取人、死亡保険金額5,000 万円の生命保険契約を締結した。この結果、契約30 件、
10 判時 1625 号 107 頁・判タ 964 号 258 頁・金判 1033 号 31 頁。xxx・xxx 1180 号 81 頁(2000 年)、xxxx・保険判百 186 頁(2010 年)。
保険金額 16 億円超、月額保険料 650 万円となった。B の取引先 X(原告・控訴人)が保険金請求権を譲り受けた。
<判旨>棄却。
「契約の個数と内容において、保険契約者ないし保険金受取人、被保険者の年齢、職業、身分関係、収入、生活状態その他の事情からみて、保険金が巨額にのぼり、保険料も高額で、明らかに長期間にわたる保険契約の継続が予定されておらず」、「そのような個数と内容の保険契約に加入するについて、何らの必要性及び合理的理由もなく」、「保険事故の発生日時において、保険契約の給付責任開始日あるいは自殺免責期間の経過との間に有意義な相関関係が認められ」、「契約の締結にあたり、保険契約者ないし被保険者において人為的な保険事故を誘発させるような著しく誘惑的な環境の作出されることが認識されており、その結果として人為的な保険事故が招来されたと認められるときには、生命保険契約における保険事故の偶然の事実への依存関係が破壊され、かつ、契約の締結が当初から不労の利得そのものを専らの目的として不正に行われたものとして、当該生命保険契約は公序良俗に違反して無効と解すべきである」。
(ⅲ)保険金受取人の指定
【7】東京地判平成 8 年 7 月 30 日11
<事実の概要>
A は、B 保険会社との間で、被保険者 A、不倫関係にあった Y(被告)を受取人とする生命保険契約を締結した。双方が配偶者のもとに戻った後も受取人変更をしなかった。A の妻 X ら(原告)が Y に対して B から受領した保険金の支払を請求した。
11 金判 1002 号 25 頁・金法 1468 号 45 頁。xxxx・銀法 528 号 34 頁(1996
年)、xxxx・事例研 128 号 1 頁(1997 年)、xxxx・事例研 129 号 8 頁
(1997 年)、xxxx・金判 1020 号 46 頁(1998 年)、xxxx・企業法研究
10 号 83 頁(1998 年)、xxx・xxx 1148 号 348 頁(1999 年)、xxxx・
商事 1577 号 38 頁(2000 年)。
<判旨>認容。
「受取人を Y としたことは、Y と A との不倫関係の維持継続を目的としていたものである」。契約時、A は Y との共同生活の継続を願い、A の死後の Y の生活の安定を目的として締結されたという面もあるが、契約締結が直ちに当時の Y の生活を保全するものであったとはいえず、Y が夫のもとへ戻る可能性は契約締結当時継続しており、Y が生計を A に頼る状況は永続的な状況であったと認められない。その後、不倫関係は解消されているから、保険金が Y の生活を保全するという役割を果たすものでもない。受取人を Y と指定した部分は公序良俗に反して無効であり、受取人は A と解され、保険金請求権は相続人 X らに帰属する。
(ⅳ)免責期間経過後の被保険者の自殺
【8】xx地判平成 11 年 2 月 9 日12
<事実の概要>
X 会社(原告)は、Y1・Y2 保険会社(被告)との間で、取締役 A を被保険者、X を受取人、死亡時保険金額総額 3 億 4,000 万円、年間保険料約
250 万円の経営者保険契約を締結した。
<判旨>棄却。
自殺免責条項は、免責期間経過後の自殺と保険金取得目的とは無関係であることを推定する旨の規定であるから、「保険者において、被保険者の自殺が、保険金取得をその唯一又は主要な目的としたものであること、及び自殺免責期間である右 1 年の経過と保険事故の発生日時に有意的な相関関係があることを主張・立証すれば、右推定は覆され、本件各約款はその前提を失う」。X の経営状態、それに照らした保険金額、A の X における地位等から、X が A を被保険者とする契約を締結する必要性及び合理
12 判時 1681 号 152 頁・判タ 1039 号 230 頁。xxxx・損保研究 61 巻 4 号 153 頁(2000 年)、xxxx・平成 11 年度重判 107 頁(2000 年)、xxx・事例研 154 号 10 頁(2000 年)、xxxx・事例研 157 号 1 頁(2000 年)、xxx・リマークス(23)108 頁(2001 年)、xxxx・ジュリ 1231 号 186 頁
(2002 年)。
的な根拠は認められず、A の自殺が保険金を取得することを唯一ないし主要な目的として行われたものと認められる。
【9】最判平成 16 年 3 月 25 日13
<事実の概要>
代表取締役 A が設立した X 会社(原告・控訴人・上告人)は、Y 保険会社(被告・被控訴人・被上告人)ら 4 社との間で、被保険者 A、受取人 X、死亡保険金額 6 億円の生命保険契約を締結した。X の経営状態は相当厳しい状況にあった。
<判旨>破棄差戻。
「1 年経過後の被保険者の自殺による死亡については、当該自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別、そのような事情が認められない場合には、当該自殺の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である」。
【10】東京地判平成 16 年 9 月 6 日14
<事実の概要>
借入金の返済に苦しんでいた A は、Y 保険会社(被告)との間で、Aを被保険者、極親しい間柄となっていた B の子 X(原告)を受取人とする生命保険契約 2 件を締結した。A は、B に借金を返せないならば 2 人で死のうともちかけられ、周囲の者にも自ら命を絶つことを告げていた。
<判旨>棄却。
「B と X との間には極めて密接な利害関係があり、本件各保険契約に基
13 民集 58 巻 3 号 753 頁。xxxx・ジュリ 1275 号 158 頁(2004 年)、同・曹時 58 巻 6 号 131 頁(2006 年)、xxxx・民商 131 巻 2 号 116 頁(2004 年)、xxxx・xx 16 年重判 115 頁(2005 年)、xxx・リマークス(31)98 頁(2005年)、xxxx・ひろば 59 巻 1 号 64 頁(2006 年)、xxxx・法経論集 174号 1 頁(2007 年)、xxx・保険判百 166 頁(2010 年)。
14 判タ 1167 号 263 頁。xxxx・ジュリ 1330 号 155 頁(2007 年)。
づく保険金が X に対して支払われれば、B 自身の利益もまた図られるという構造にある」。死亡保険金の支払を認めることは「犯罪行為に類するような違法性の高い行為によって A の自殺を誘発させた B 及びこれと密接な関係にある X に不当な利益を享受させる結果となり、社会的xxにもとり、公序良俗に違反するおそれがある」。「被保険者の自殺に関して第三者が違法不当な働きかけを行った場合に、保険金の受取人が当該第三者と何らの関係がない場合であれば格別、本件のように密接な関係がある場合には、このことを考慮に入れた上で公序良俗違反の有無を判断するのが相当であ」り、本件は、公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情が認められる。
(ⅴ)被保険者の故殺
【11】札幌高判平成 15 年 1 月 28 日15
<事実の概要>
A は、Y 保険会社(被告・被控訴人)との間で、被保険者を A、受取人を妻 X(原告・控訴人)、災害保険金額 5,500 万円、月額保険料 25,890 円の生命保険契約を締結した。
<判旨>棄却。
本件契約は、多額の債権を有する B が債務者「A に生命保険契約を掛けて殺害し、保険金受取人とした X を介してその保険金を入手しようと企画して、A に強く加入を勧めた結果、A がこれを断り切れずに締結に至った、全体として B の上記不法な意図に基づき締結されるに至った公序良俗に反する契約である」。そのことは、本件契約締結が「B の発意によるものであり、かつその締結は多額の債務を負担している A が B の意に反し難いような状況下でなされたものであること、また本件保険契約の内容はもっぱらB が決定したものであり」、保険料はA やX が支払っていなかったこと等で裏付けられる。
15 生保判例集 15 巻 52 頁。xxx・事例研 195 号 14 頁(2005 年)。
【12】xxx判平成 29 年 4 月 20 日16
<事実の概要>
A は、Y 保険会社(被告・被控訴人)との間で、被保険者 A、受取人を母 B とする生命保険契約 2 件を締結した。約款では、契約者が保険金等を不法に取得する目的又は他人に取得させる目的で契約を締結した場合は、契約は無効としている。受取人を弟X(原告・控訴人)に変更した半月後に A が死亡した。
<判旨>棄却。
約款規定は「保険契約の射倖性を悪用して専ら不労の利益を得る目的で保険契約を締結したと認められる場合を公序良俗に違反する」として効力を否定し、「人為的な保険事故の誘発、頻発を防ぐという趣旨に基づく」と解される。「第三者が不法取得日的をもって保険契約者を道具として用い保険契約を締結せしめた場合には、上記同様の趣旨が妥当するから」、契約は、公序良俗に反して無効になると解する。X や B の生活レベルに比べれば保険金等の額は不相当に高額で、保険料は X の同級生 C が負担していたと推認でき、A には各契約締結の動機や必要性もなく、保険料を支払う余裕もなかった。C は、X らから架空の立替金返済名目で金銭を巻き上げ、通帳等を預かり、預貯金を自由に費消し、X・A に対し頻繁に暴言・暴行を振るう等して、X らを精神的・経済的に支配していたこと、A は Cの紹介で各契約を締結したこと、C はA に対し受取人変更を指示したこと、 X は C からの電話で A の死亡を知るとともに保険金請求を促されたこと、保険金等は C が取得することが予定されていたことなどを総合すると、Cが A を道具として各契約を締結させたと推認できる。また、C は、本件契約締結前に 6 件の保険金詐欺事件に主導的な立場で又は積極的に関与していることなどを併せ考慮すると、本件契約締結は、詐欺事件同様、Cにおいて、A の死亡という事故を惹起することを想定して、不法に保険金
16 xxxx・事例研315 号12 頁(2018 年)、xxxx・事例研318 号1 頁(2018 年)。
を取得を目的とする行為の一環であったと推認できる。
(ⅵ)保険契約者の属性
【13】福岡地判平成 26 年 1 月 16 日17
<事実の概要>
指定暴力団 A の幹部 B は、Y 生活協同組合(被告)との間で、被共済者 B、受取人を配偶者又は子とする生命共済契約、共済加入者を X1 ~ X3
(原告。子)とする 3 件のこども共済契約を締結した。共済契約の約款には暴力団排除条項はなかった。
<判旨>認容。
契約締結の時、「暴力団関係者との間で締結された保険契約ないし共済契約が公序良俗に違反し無効であるとの」見解が共通認識であったとは認められず、B が暴力団員であったことや、A が対立抗争を繰り返していたことのみでは、契約が公序良俗に反し無効であるとは判断できない。
3 .公序良俗違反法理を適用することの意義
公序良俗とは社会的妥当性をいう18。民法上の解釈として、契約において、不法な動機又は目的が一方当事者の心理にある場合にまで法律行為を無効とすることは、取引の安全を害することになるので、不法な動機又は目的を理由とした公序良俗違反は認めるべきではないとする指摘がある19。しかし、これに対して、不法が法律行為の動機又は目的にある場合には、法律行為の動機の不法性を問題とするべきであり、契約などでは、
17 金判 1438 号 36 頁。xxxx・共済と保険 2014 年 12 月号 28 頁(2014 年)、xxxx・NBL1020 号8頁(2014 年)、王学士・ジュリ 1487 号 91 頁(2015 年)、xxx・平成 26 年度重判 117 頁(2015 年)、xxx・福岡大学法学論叢 61 巻 1・ 2 号 379 頁(2016 年)。
18 xxxx=xxxx『民法総則(第 9 版)』306 頁以下(弘文堂・2018 年)、
xxx=xxx=xxx=xxxx『xx・xxxxメンタール民法 総則・物権・債権( 第 5 版)』178 頁( 日本評論社・2018 年)、xxx『新基本民法 総則編』83 頁~ 84 頁(有斐閣・2019 年)等。
19 xxxx=xxxx編『新版注釈民法(3)総則(3)』190 頁以下(有斐閣・
2003 年)(xxxx)を参照。
当事者が契約にどのような動機又は目的を結びつけていたかを問題とするべきであるとする見解がある。この見解によると、契約当初は、不法目的を知らなかった相手方が、契約の履行前に不法目的を知るに至った場合には、その段階で契約の公序良俗違反性が再び判断されることになり、その時点で不法性の程度の判断によって履行請求を認めるか否かを判断するのが適当であるとする20。また、借入金の返済を目的として保険事故を招致した場合などについては、他人の物を保管している者が、自己の所有物であると偽って善意の第三者に当該物を売却した場合などと比較すると、取引の安全を議論する対象者において不法の程度が著しく異なるといえるゆえに、このような場合に取引の安全を持ち出すことは必ずしも適切でないといえる。このように、一般論からしても、保険契約に公序良俗違反法理を適用することは可能であろうと解する。
つぎに、保険契約に着目すると、保険契約は射倖契約性を有しており、
それゆえに契約者側に対してxxxxが他の契約よりも強く要請され、それをもって善意契約性という属性が認められる21。このように、保険契約は射倖契約性を有していることで賭博と共通しているが、保険契約の有効性が認められるのは、契約者側において偶然な事故の発生によって生じた経済的な損害を回復するなどという正当な目的が必要とされるからであり、その限りにおいて、不当な利得を目的として締結された保険契約は社会的妥当性があるとはいえず、契約締結の動機又は目的に違法性があることから、公序良俗違反を理由として当該契約を無効とする余地がある22。主な判例・裁判例として引用した【1】では、公序良俗違反を判断するためには、契約者側に賭博類似の目的があったことを必要としている。【5】では、社会通念上合理的と認められる危険分散の程度を著しく超える生命
20 xx他・前掲注(18)313 頁。
21 xx『保険法(上)』前掲注(2)80 頁。
22 xx「モラル・リスク」前掲注(2)256 頁。xxxx「保険契約の射倖契約性」『保険契約の法的構造』122 頁以下、141 頁、148 頁~ 150 頁、160 頁~ 161 頁(有斐閣・1969 年)を参照。
保険契約については、当事者間の合意にかかわらず、社会的に許容できない不相当なものであるとしている。【6】では、契約締結にあたり、契約者側において人為的な保険事故を誘発させるような著しく誘惑的な環境の作出されることが認識され、その結果として人為的な保険事故が招来されたと認められるときには、事故の偶然の事実への依存関係が破壊され、契約の締結当初から不労の利得をもっぱらの目的として不正に行われたことを求めている。
さらに、生命保険契約についてみると、損害保険契約と同じような被保
険利益の概念がないと解されていることから、保険金額に上限がなく、損害保険契約と同じような利得禁止原則が妥当しない。それゆえに、複数の生命保険契約を締結している場合も含め、契約者側が収入等に比して著しく多額の保険料を支払う場合などには、この者について不労利得の可能性が高いといえることから、それを阻止する手段の一つとして、生命保険契約などの定額保険において損害保険以上に公序良俗違反法理が必要とされる23。
これらのことから、生命保険契約に公序良俗違反法理を適用することで契約を無効とすることが可能であるといえる。
4 .公序良俗違反の判断基準・効果
(1)はじめに
生命保険契約に公序良俗違反法理を適用することは可能であるとして、公序良俗違反の判断基準及び効果などを探る必要がある。
公序良俗とは社会的妥当性のことであり、法を支配するxx理念の 1 つであると解されている。同時に、公序良俗違反法理は私的自治・契約自由を制限するものであることから24、私的自治などに対して不当な介入にな
23 xxx「生命保険契約におけるモラル・リスクと公序良俗理論」生保論集 137
号 71 頁(2001 年)。
24 xx他・前掲注(18)306 頁以下、xx他・前掲注(18)178 頁、xx・前掲注(18)等。
らないように解することが必要とされる25。保険契約においてもこのことを強く意識することが求められよう。ただ、契約者側が保険金を不法に取得することは社会的妥当性からみて許されるものではないが、社会的妥当性の概念は曖昧であるといえることから、契約者側の給付請求が社会的妥当性を欠くか否かを判断する場合には、契約者側について契約を巡る主観的要素と客観的要素をみていく必要がある。この 2 つの要素が充足されることで公序良俗違反が問われることになると考える。というのは、契約者側が保険給付を不法に請求する意思を表示している場合などを除き、不法に保険給付を受けようとする契約者側の主観的要素が曖昧であるといえることから、主観的要素の違法性を裏付けるために、客観的要素を積み上げていく必要があると考えるからである。
(2)主観的要素
主観的要素とは、契約者側について給付を受けることに関する動機又は目的などをいうと解される。これについてみれば、契約者・被保険者又は受取人等の契約の当事者及び関係者の動機又は目的が含まれることは当然である。【6】では、契約締結にあたり、契約者側において人為的な事故を誘発させるような著しく誘惑的な環境の作出されることが認識されていたという主観的要素に起因し、事故が招来されたこととしている。さらに、契約の当事者及び関係者の他に、契約については第三者の動機又は目的もまた主観的要素に含むべきであろう。というのは、第三者が給付の不法な取得を目的として、契約締結の手続を主導した場合、あるいは、第三者が契約の当事者あるいは関係者を強く支配し、その結果、被保険者を故殺した場合なども想定できるからである。これについて、【12】では、契約者兼被保険者や受取人を精神的・経済的に支配していた契約者兼被保険者の友人の動機又は目的を主観的要素として考慮している。これは、公序良俗違反を問うにあたり、契約の関係者を広くとらえる解釈であるといえる。
25 xxxx『民法講義Ⅰ総則(第 3 版)』268 頁以下(有斐閣・2011 年)。
(3)客観的要素
主観的要素の違法性を裏付けるために客観的要素を積み上げていく場合、客観的要素を検討するにあたり、契約が公序良俗違反にあたるか否かを判断する要素として、契約の件数・内容、契約者・受取人・被保険者の年齢、職業、身分関係、収入、生活状態その他の事情があげられ、その判断基準として、保険金額が著しく巨額であること、保険料が高額であること、明らかに長期間にわたる契約の継続が予定されていないこと、それだけの件数と内容の契約に加入するについて必要性・合理的理由がないこと、事故の発生日時において、給付責任開始日・自殺免責期間の経過との間に有意義な相関関係がある、あるいは、契約の申込み又はその締結と被保険者の死亡との間が切迫しているなどの事情があるなどにより、契約締結が被保険者の死亡を誘発したものと認められることなどがあげられる(【3】
【6】)。
このような判断要素及び判断基準に依拠するとすれば、客観的要素を考慮するにあたっては、(ⅰ)契約の締結過程、(ⅱ)契約の内容及び(ⅲ)保険事故の 3 つに分けて行うことができる。というのは、主な判例・裁判例によれば、不法な給付取得を目的として契約を締結したと判断された場合が多いことから、契約締結の背景や過程が問題とされており、不法な給付取得に着目すれば、多額の保険金額を設定するなど、契約の数を含め、契約の内容が問題とされ、さらに、第三者による被保険者の故殺あるいは自殺の強要などが問題とされているからである。
(ⅰ)保険契約の締結過程
①保険契約締結の必要性・合理的根拠等
【3】【8】【12】は契約者に契約締結の必要性及び合理的根拠がないとしていることから、契約締結の必要性・合理的根拠が重要な要素となる。契約締結の契機が保険者の勧誘ではなく、契約者の自発的加入であった場合には(【1】【3】【4】)、締結段階において契約者側に不法な目的があったものと判断されよう。これに付随するものとして、契約者側の短期集中的大量加入がある(【4】)。また、契約者が経営する会社の状態、被保険者
の会社での地位などが、当該者を被保険者とする契約の必要性・合理的根拠であるとされる(【8】)。契約者兼被保険者と契約について第三者である者との間にきわめて密接な利害関係があり、被保険者の死亡に起因する保険金支払が第三者において不当な利益を享受する結果となることがある
(【10】)。さらに、契約の当事者及び関係者が第三者に精神的・経済的に支配され、契約締結・受取人変更を促されたこと、保険金等は第三者が受
け取る予定であったこと、第三者が契約前に保険金詐欺事件に深く関与していたことがあげられる(【12】)。【12】では、公序良俗違反を判断する際に、第三者が不法取得日的をもって契約者を道具として用い契約を締結
せしめたことを客観的要素としていることに特徴がある26。このことから、契約に深く関与している第三者についても、その必要性・合理的根拠を判
断の対象にすべきであろう。また、反社会的勢力者に関する事案では、契約締結当時の社会的背景があげられている(【13】)。
②保険契約の目的
【2】は、従業員保険では被保険者の同意を取っていることから、保険金を従業員の弔慰金に使用することを認めるとともに、契約関係が安定である必要があることから、当初の目的がなくなったからといっても、契約無効はきわめて例外的な場合に限るとしている。また、契約者側が短期借入金の返済や新たな資金を必要としていること(【5】)、不倫関係を継続維持すること(【7】)などの事情が不法な目的としてあげられる。さらに、契約が貯蓄性の薄い死亡保障だけであるなど、老後保障機能を重視したものでないことがあげられる(【3】【4】)。貯蓄性の薄い契約は、長期間にわたる契約の継続が予定されていないこと(【6】)に該当する可能性があり、第三者のためにする死亡保障だけの契約は被保険者故殺の可能性が高いといえよう。
26 刑法上、非故意の媒介者の行為を介入させた場合、媒介者を道具のように利用して構成要件を実現したとみることによって、間接正犯の成立を肯定できると解されている(最決昭和 31 年 7 月 3 日刑集 10 巻 7 号 955 頁)。xxx『刑法総論(第 2 版)』70 頁~ 71 頁(有斐閣・2017 年)等を参照。
③虚偽の告知
契約者側において、締結時に他契約の存在や職業について虚偽の告知があったこと(【4】)は、保険者による謝絶を回避する意図があったともいえ、不法な目的の可能性が高いといえる。
(ⅱ)保険契約の内容
①保険契約の件数
被保険者や受取人を同じくする複数の契約が締結されている場合、契約は、個別的にみれば、内容に公序良俗に反する点はないとしても、全体としてみれば、不法な利得目的を達成するための不可欠の手段として締結したといえることもあることから(【4】)、保険者の数も含めた契約の件数が重要な要素となろう。【4】では、14 の保険会社との間で 14 件の契約を 2か月足らずの短期間で締結していることも含め、自発的・短期集中的大量加入と認定している。【3】では、公序良俗違反を認定するにあたり、4 つの保険会社との間で 5 件の契約が締結されていることを判断要素の一つとしている。ただし、保険会社は、契約の締結にあたり、契約者が他の保険会社との間に被保険者を同じくする契約が締結されていることを認識していた場合には、無効を主張できない可能性がある(【1】)。
②保険金額・保険料の額
保険金額が、契約者である会社の規模・資力や個人の収入・生活状態等の生活レベルに比して著しく不相応又は不相当な額であり、社会通念上、合理的と認められる危険分散の限度を著しく超えていると判断される場合がある(【1】【3】【5】)。契約者において、保険料支払を継続する収入がない、あるいは保険料を支払う余裕がないこと(【3】【4】【12】)などがある。保険料の額は保険金額の額に連動することから、少なくとも 2 つのどちらかをみる必要がある。
③保険料の負担者
保険料を契約者・被保険者・受取人以外の者が支払っていたことがある
(【11】【12】)。【11】【12】は、契約者等以外の第三者による被保険者の故殺が認定された事案であり、第三者による保険料負担は、保険契約の射倖
契約性を悪用して、第三者が事故を招致するなどしてもっぱら不法な利益を得る目的で契約を締結した可能性がきわめて高いといえる。
(ⅲ)保険事故
①保険事故発生の時期
【6】は、事故の発生日時において、契約の給付責任開始日あるいは自殺免責期間の経過との間に有意義な相関関係が認められることを示している。【3】では契約後 20 日ほどで被保険者が死亡しており、【4】では契約
後約 6 ヶ月で被保険者が負傷していることからして、この期間の長さが重要な要素となろう。
②保険事故の態様
生命保険契約は射倖契約性を有することから、保険事故の偶然性及びこれに関する客観的証拠が必要とされる(【4】)。客観的証拠としては、被保険者の死亡態様が突然で異常であること(【3】)、契約者等又は第三者が事故を故意に招致したり、仮装すること(【4】)、被保険者の自殺に関し犯罪行為等が介在していること(【9】)、被保険者と受取人の母との密接な関係にあり、これらの者による犯罪行為に類するような違法性の高い行為によって被保険者の自殺を誘発させたこと(【10】)、契約の締結が被保険者に対して多額の債権を有する第三者の発意によるものであり、かつ、第三者の意に反し難い状況下で第三者が契約内容を決定し、被保険者を故殺したこと(【11】【12】)などがあげられる。
③保険事故後の状況
事故後、契約者側が警察に対して契約締結の事実を隠そうとしたこと
(【3】)、受取人は、精神的・経済的に支配されていた第三者から被保険者の死亡の連絡を受けて初めて知り、第三者に保険金請求を促されたこと
(【12】)などがある。入院給付特約付契約では、被保険者が事故後症状を誇張して入院期間を引き延ばしていたこと(【4】)も不法な目的があったといえよう。
以上のように、主な判例・裁判例を概観し、客観的要素を抽出した。それによると、契約の件数・内容、契約者・受取人・被保険者の年齢、職業、
身分関係、収入、生活状態等の事情を要素とし、保険金額・保険料の高額さ、保険期間の短さ、件数と内容の契約に加入することの必要性・合理的理由、事故の発生日時と給付責任開始日・自殺免責期間の経過等との間の相関関係の意義などをみていく必要がある。客観的要素は内容・程度が多岐にわたり、契約ごとに異なることが多いので、公序良俗違反を判断するにあたっては、契約ごとに客観的要素を総合して検討するとともに、契約者等を同じくする契約が複数ある場合には、それら契約全体をみながら検討する必要があるといえる。
(4)公序良俗違反の判定
生命保険契約に対して公序良俗違反法理を適用し、契約を無効とすることができると解されるが、いつの時点で契約の効力を否定するのが妥当であろうか。契約の成立時と事故発生後の履行時で公序良俗違反に関する判断基準が変化した場合、どのように判断すべきかが問題とされるが、民法 90 条の目的については、公序良俗違反の行為の実現を許さないことにあると考えて、契約履行時の判断基準で公序良俗違反とされる場合には、契約自体が無効となると考えるべきであるとする見解がある27。保険契約において契約履行時とは保険金の支払時であろうから、この見解を前提とすれば、公序良俗違反の有無を判断するのは、事故の発生に起因する保険金の支払時とするべきであると解する。その場合、保険金支払の可否について判断するにあたっては、射倖契約性を有する保険契約ではモラル・リスクの排除が優先されるべきであるということを重視して、基準とすべき社会的妥当性はきわめて高いものであると解される。
さらに、前述の見解を前提とすれば、契約者側が保険給付の不法取得の
意思を表示していない場合も含めて、不法目的が表示されたか否かを問わず、公序良俗違反について保険者が立証し、所定の要件を充足すれば公序良俗違反を理由として契約は無効であると解すべきであろう28。
27 xx他・前掲注(18)315 頁~ 316 頁。
28 x・前掲注(23)72 頁。
(5)公序良俗違反の効果
民法 90 条は、「法律行為は、無効とする」と規定しているので、契約全体が無効となると考えているようである。主な判例・裁判例のほとんどは契約全体を無効としているが、その一部の効力を否定しているもの
(【7】)がある。【7】は、受取人を不倫相手と指定した部分は公序良俗に反して無効であるとし、契約者が保険金を受け取るとして、相続人である遺族が保険金を受け取っている。契約全体を無効とする主な判例・裁判例の事案は、収入等に比して著しく高額な保険金額、多数の保険契約、被保険者の故殺の可能性があるものなどである。これらは裁判所が履行請求に手を貸すことが適当でない事案といえることから29、契約全体の効力を否定することは理解できる。これに対して、【7】のように、契約締結の動機・目的が不倫関係を維持するものであることから、不倫相手を受取人に指定したことは公序良俗に反するが、事故発生時には、不倫関係が解消され、互いの配偶者とともに生活しており、必ずしも公序良俗に反するとはいえない状況がみられる。また、契約者が契約を締結した意思を尊重すべきであろう。このような状況は、公序良俗違反の内容いかんによっては全部無効としないでよい場合もあるとする見解が想定する範疇に入るのではないかと考える30。
さらに、公序良俗に反するとして契約が無効と認定された場合、保険者は不法原因給付として保険料の返還義務を負わず31、また、すでに保険金が支払われている場合には、受取人は不当利得として返還義務を負うと解される。
5 .終わりにかえて
生命保険契約が公序良俗に反して無効であるか否か判断する場合、契約
29 xx他・前掲注(18)315 頁。
30 xx他・前掲注(18)316 頁。
31 xx『保険法(上)』前掲注(2)376 頁。
締結の状況、保険契約の内容及び保険事故の態様等における異常性をみながら、契約者側の不正取得目的が認定されることなる。このような状況は、保険事故の捏造による不正請求や故意の事故招致免責の間接証拠ともなりうる状況であり、不正取得目的の認定は不正請求や故意の事故招致であったという認定と限りなく接近するものであるとの指摘がある32。そうであるとして、不正請求や故意の事故招致を理由にする場合と公序良俗違反を理由とする場合とは、前者の認定が難しい場合でも、後者が行為者の主観的な要素が強いゆえに、契約者側の保険給付請求を拒否できる可能性が広いという点に違いがある。しかし、保険者が保険金請求が公序良俗に反するということを立証する責任を負うにあたり、その立証の程度が上がるにつれて、不正請求や故意の事故招致を理由にする場合の立証と近づくといえる。このことに、公序良俗違反の法理に依拠することの限界があるように思える33。
32 xxxx「判批」損保判百(第 2 版)11 頁(有斐閣・1996 年)、x・前掲注(23)
81 頁~ 82 頁。
33 生命保険契約において、保険契約者が複数の保険契約を締結した結果、保険金額が累積していることが公序良俗違反の判断要素の 1 つとなるとする立場をとるとして、ここに利得禁止原則(xxxx「保険代位と利得禁止原則(1)」論叢 129 巻 1 号 1 頁〔1991 年〕等を参照)を持ち込むことはできないであろうか。この原則は、一般的には、最狭義、狭義及びxxの利得禁止原則が考えられると理解されているが、生命保険において公序良俗に反するとして契約を無効とする際に、契約者の収入等に比して保険金額の総額が著しく高額であることが「最xxの利得禁止原則」に反すると位置づけることはできないであろうかと考える。