技術検証(PoC)契約
ライセンス契約だけじゃない! 知的財産関連契約(第5回・最終回)
技術検証(PoC)契約
1 PoC契約とは
弁護士法人 東町法律事務所
弁護士 xx xx
(大阪弁護士会知的財産委員会所属)
⑴ PoCとは
PoCとは、Proof of Concept(技術検証、概念実証)の略であり、昔から用いられていた用語ではあるが1、5年ほど前からAIやIoT、ビッグデータ活用のシーンを始めとして一般的によく用いられ知られるようになった概念である。新しい技術やアイディアを正式に採用する前に、それらを活用して期待する効果が得られるか、課題は何かなどを確認する作業を意味する2。
特に“PoC貧乏”という表現で、技術の商業的価値や構想の実現可否、費用対効果を繰り返し検証するものの、プロジェクトの本格的な始動へ進まず、技術導入の実現前に資金だけ無駄に投入してしまう状態を表すことが多くなった。技術を発注するクライアント側がPoCばかりに予算を消耗することをPoC貧乏と表現する場合もあるが、通常は、ベンダーであるテクノロジー企業側が無償で(あるいは安価で)PoCの依頼に応じ続けたものの結果的に採用もされず、全く売上げに繋がらないで損ばかりすることを指す。
⑵ PoC契約とは
PoC契約という表現は、令和元年11月25日に経済産業省が作成した「大企業と研究開発型ベンチャーの契約に関するガイドラインについて」3の中で出てくる。これは、昨今の激変する経済
1 例えば筆者がかつて所属していた医薬品業界では、以前から、開発中の薬物が患者に対して実際に治療効果を示すことを適切な指標を用いて実証することの意で用いられていた。
2 平成30年6月15日に経済産業省が策定した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン- AI 編 -」では、AI 技術を利用したソフトウェアの開発プロセスにはPoC段階があるとして、PoC段階において導入検証契約書を締結するケースでのモデル契約を提示している(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx ss/2018/06/20180615001/20180615001.html)。
3 xx投資会議構造改革徹底推進会合「企業関連制度・産業構造改革・イノベーション」会合(イノベーション)(第6回)配布資料4(xxxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xx/xxxxx/xxxxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxxxx/ suishinkaigo2018/innov/dai6/siryou4.pdf)
環境において、スピード感をもって日本が国際競争に勝ち抜き、更なる経済成長を果たすには、大企業の自前主義のみでは限界があり、大企業のアントレプレナーシップの回復・生産性の向上のためにもオープンイノベーションが必要であるとし、スタートアップとの有効な事業連携を図るために、平成29年5月18日に経済産業省から「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き」の初版4が出された流れを汲むものである。
事業会社と研究開発型ベンチャー企業が、双方の強みを生かしつつ弱みを補完し合いながら連携するためには、契約においてもスピーディーかつWin-Winな関係で締結できる必要がある。ベンチャー企業側からは、大企業にノウハウが流出してしまったり、大企業から成果に関する知財の独占や広範囲に及ぶ協業禁止に関する取り決めを求められたりして、ビジネス展開が制限されること等が課題視されていた。また、事業連携の場面で活用しやすい契約書のひな形が無いことも連携やイノベーションを阻害する要因となっていた。そこで、ベンチャー企業から見たオープンイノベーションのプロセスの時系列に沿って「契約書のひな形」をとりまとめる作業が行われることとなり、その一つがPoC契約として位置づけられたのである。
出典:「オープンイノベーションを促進するための技術分野別契約ガイドラインに関する調査研究」委員会「モデル契約書ver1.0 の公表について」(令和2年6月30日)(xxxxx://xxx. xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/00000000000-0.xxx)より
これを受けて、令和2年6月30日、経済産業省・特許庁が「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」(以下、「モデル契約書ver1.0」という)の中で、PoC契約書のひな形を公表した。「モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)逐条解説あり」3頁では、「技術検証(PoC)契約は、共同研究開発段階に移行するかの前提として、スタートアップ側の保有している技術の開発可能性などを検証するための契約」と定義している。大企業とスタートアップ間で、連携相手の探索の後にNDA(秘密保持契約)を締結して両者間で協議を開始し、そこから共同研究開発契約を締結する前までの試行錯誤に関する両者の権利義務について定めようとするものである。
したがって、この数年で研究開発型スタートアップとの関係で注目されるようになった契約類型といえる。
4 続いて、平成30年6月27日には第二版が(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/00000000000/ 20180627005.html)、平成 31年4月 22日には第三版が(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/0000/00/ 20190422006/20190422006.html )、公開されている。
ライセンス契約だけじゃない!知的財産関連契約(第5回・最終回)
2 PoC契約が利用される場面
⑴ モデル契約書ver1.0の想定
経済産業省などはこのように、モデル契約書ver1.0を、大企業とスタートアップ5との間の契約の場面を想定して作成しており、PoC契約は、スタートアップとの事業連携によるオープンイノベーションの推進という大目的のために設定された契約類型といえる。したがって、新規技術を大企業に提供して事業化を企図するスタートアップがPoC貧乏になることや、PoCで得られた知見の扱いについて両者間で紛争になる(特にスタートアップのビジネス展開が制限される)ことを防ぐために、いわばスタートアップを保護する観点からPoC契約の締結が推奨されている。
法務担当者が存在しないような比較的小規模の企業(スタートアップもその一つの例である)においては、法務や知財に関するリテラシーが乏しく、PoCの場面における自社の利益が不合理に害されていても判断できない、あるいはそのような不合理が生じないように予め契約で規定しておく必要性に気付けない、という事象が生じていたものと思われる。そのために全く契約書なしにPoCを進めるケースもあったであろう。そのようなケースにおいては、「モデル契約書 ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)」をそのまま参考にする意義がある。
ただし、モデル契約書ver1.0に掲載されている個別の条項例・考え方等を硬直的に適用するのではなく、xx取引委員会・経済産業省(令和3年3月29日)「スタートアップとの事業連携に関する指針」(以下、「事業連携指針」という)で整理されている問題の背景及び解決の方向性を参考にしつつ、当該案件の経緯や背景事情を十分勘案して、当該事案に即した契約内容とすべきである。ここでいうスタートアップに当たらないような企業であったり、個々の契約の背景や個別事情によっては、スタートアップがxxかつ自由に競争できる環境を確保してオープンイノベーションを推進する(独占禁止法で規制される「大企業によるスタートアップに対する優越的地位の濫用」となるおそれを防ぐ)という目的に当てはまらなかったりするケースも当然ある。またそのような場合に、大企業側がモデル契約書ver1.0をそのまま利用することを受け入れないからといって、直ちに独占禁止法違反に繋がるわけでもない。
さらには、スタートアップ以外の企業(特定の分野に強みを持った技術力を有する老舗の中小企業等)も、異なる分野で強みを持つ他企業と協業してPoCを行い、うまくいけば新規事業化したいと考えることはよくある。企業の規模や創業年数、事業内容に関係なく、他社と事業連携する際に、技術検証(PoC)の場面における権利義務を規定する契約締結の必要性があること自体は同様といえるのではないだろうか。初めからモデル契約書ver1.0が想定しているケースとは異なる企業間取引であっても、技術検証(PoC)の場面にフィーチャーして、その法的な位置付けや契約交渉で論点となるポイントを改めて意識させてくれるという意味で、モデル契約書ver1.0を参考にする価値がある。
⑵ PoC契約と類似した契約が利用される場面
ところで、契約書のタイトルに「PoC、技術検証」というような文言が用いられないだけで、 PoCの場面における企業間の権利義務を規定する概念はかねてから存在していたと考えられる。
5 xx取引委員会(令和2年11月27日)スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告)(xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxx/xxxxxxxxxxxx/0000/xxx/000000xxxxxxxxxxxx.xxxx )は、スタートアップを「成長産業領域(例えば、AI、IoT、ビックデータ等を活用するなど、今後、高い成長率が見込まれる産業)において事業活動を行う事業者のうち、①創業10年程度であること、②未上場企業であること」と定義している。
例えば、企業間で多くの経済的資源の投入を必要とする共同研究開発契約に入る前に、その前提として相手方の技術力等を見極め、共同研究開発の成功可能性・実行可能性を判断するために、フィージビリティ・スタディを行うケースは多い。このフィージビリティ・スタディの対象となる技術や製品を特定し、両者の役割分担や費用負担を定め、フィージビリティ・スタディの結果得られた知的財産権の帰属について規定するために、フィージビリティ・スタディ契約というタイトルの契約を締結することもある。フィージビリティ・スタディとPoCとでは、厳密には異なる場面を想定していることもあるが、重なる場面も多いであろう。このとき、契約の一方当事者がスタートアップであれば、モデル契約書ver1.0が参考になるし、それ以外の企業間においても、その法的な位置付けや契約交渉で論点となるポイントは似たものとなるであろう。
また、筆者がかつて所属していたライフサイエンス分野においては、NDA(秘密保持契約)の後にMTA(Material Transfer Agreement)を締結して、研究成果として得られた試薬・試料・実験動物・細胞・菌株・化学物質・試作品等の有体物の提供を受けることがよくある。当該有体物に化体した技術情報も受領して、MTAで定めた目的の範囲内かつ許容された態様で簡単な検証を行い、これを繰り返して共同研究開発契約あるいはライセンス契約に進める可能性を検討していく。MTAでは、情報の流失防止や、生じた成果の取り扱いを定める規定等が設けられるのが通常である。これもPoCと重なる場面が多く、契約の一方当事者がスタートアップであれば、モデル契約書ver1.0が参考になろうし、それ以外の企業間においても、その法的な位置付けや契約交渉で論点となるポイントは似たものとなるであろう。
⑶ PoC契約が利用されるべき場面
さらに、PoCの場面のみを取り出して別契約として個別に締結しないだけで、本来であれば PoCの場面に相当するフェーズにおける企業間の権利義務を規定している契約書はかねてから存在している。
例えば、
① 事業連携を模索する企業間で協議を開始する際に締結するNDA(秘密保持契約)の目的を「甲
(乙)が保有する以下の技術を相手方に開示・提供し、相手方がそれを評価することにより、甲乙間で●●の共同研究開発の可能性を検討するため」等と設定し、両者の秘密保持義務や目的外使用禁止の規定とともに、PoCの過程で生じる知的財産権の取扱いについて規定するケース
② 共同研究開発が複数のフェーズに分かれて実施され(例えば、相手方から技術情報やサンプルの開示・提供を受け、自社製品への適用可能性について研究開発し、その結果、必要であると判明した技術の改良を相手方に要求することを繰り返し、一定の要求を満たして初めて次のフェーズに進める等)、その最初の方のフェーズについて規定する部分がPoCの場面に相当するというケース
などがある。
①②いずれのケースでも、十分な検討がなされないまま、PoCの過程で生じる知的財産権は原則共有とされていることが多い。これにより、相手方の同意なく特許権の持分譲渡や第三者へのライセンスができなくなり(特許法73条1項、3項)、相手方の同意なく著作権の持分譲渡や行使もできなくなって(プログラムの著作物の場合、開発等のためにソフトウェアの複製・変更を行うこともできない。著作xx65条1項、2項)、自由な事業展開が阻まれる6。したがって、安易に共有とすべきでなく、単独保有とできないか検討することが望ましい。「モデル契約書 ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)」では、技術検証の作業主体がスタートアップである
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ことを前提として、「PoCに伴い生じた知的財産権は、(両当事者が従前から保有しているものを除き、)スタートアップに帰属する。」としている。
また、①のケースではPoCは無償が前提と思われ、②のケースでも「自己の役割分担の遂行費用は各自負担」と定められていることが多いため、何度も無償で検証や技術改良を要求されPoC貧乏の結果となる。したがって、「モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)」では、スタートアップが遂行義務を負う担当業務の範囲を明確化して限定したうえで、その対価の金額や支払方法も規定することが推奨されている。VC(ベンチャーキャピタル)等の投資家から短期間で資金調達を繰り返して成長を遂げようとするスタートアップにとって、資金繰りが苦しくなることは死活問題であるが、スタートアップ以外の企業間取引であっても、PoC貧乏を防ぐ要請は高い。
このように、従来は取り立てて意識せずに契約していた中にPoCの場面が含まれているかもしれず、その場合は契約の一方当事者がスタートアップであれば、モデル契約書ver1.0の考え方を参考に条文を検討すべきである。また、事業連携のプロセスに応じてstep by stepで契約を締結していく方が、当該フェーズにおける当事者の利益状況を正確に反映して、契約交渉で論点となるポイントを意識した内容を取り込みやすい場合もあろうから、PoCのみを取り出して個別に契約書とすることも検討に値する。
3 交渉上論点となりやすい条項
⑴ 知的財産権に関する条項
上記2⑶でも触れたが、例えば、特定の技術力に強みがあり、複数分野に応用可能な技術を持ったテクノロジー企業(研究開発型スタートアップもその一つの例である)が、これを分野ごとに切り分けて複数企業と連携しようと企図していても、PoCの過程で生じる知的財産権を契約で共有と定めてしまえば、当該契約相手の企業以外との間で自由にビジネスを展開することは制限されてしまう。そのため、知的財産権の帰属についても分野ごとに切り分けるように定めて、当該契約相手の真に欲しい部分のみを残し、あとはテクノロジー企業に帰属するようにしておくことが望ましいとされている。
このとき、これも上記2⑶でも触れたように、テクノロジー企業による技術提供及び検証作業に対する対価を定めるべきであるが、一定の対価を支払う大企業が「委託料を払う以上、PoCの過程で生じる知的財産権はこちらに帰属すべき、せめて共有とすべき」と考えるかもしれない。しかし、PoC契約における委託料は、テクノロジー企業側にかかる実費+α程度であり、PoC の過程で出た改良発明もテクノロジー企業の貢献が大部分を占めると考えられるのが通常である
から、知的財産権はテクノロジー企業に帰属させるべきと反論を受けることが予想される7。
6 「モデル契約書ver1.0 秘密保持契約書(新素材)逐条解説あり」(令和3年3月1日改訂)20-21頁においては、「秘密保持契約締結時点で新たな知的財産権が生じるケースは少なく、また、PoCや共同研究開発に移行した際にいかなる知的財産権が生じうるのか、また、知的財産権の帰属以外の諸条件をいかに定めるかの見通しを立てることが困難なケースも多く、秘密保持契約において新たに生じる知的財産権の帰属 について定めるケースはあまりないことには留意されたい。」とある。NDAの段階では、その目的にPoCのstepを含まないように切り分け、知的財産権の帰属条項を入れなくて済むようにすることも検討すべきである。
⑵ 検証対象を特定する条項
これも上記2⑶で簡単に触れたが、テクノロジー企業側が無償で(あるいは安価で)PoCの依頼に応じ続けなければならなくなることを防ぐため、テクノロジー企業が遂行義務を負う担当業務の範囲を明確化して限定する必要がある。
この点、契約の一方当事者がスタートアップであれば、事業連携指針13頁は、「PoCの実質は合意した検証を行い、レポート等の資料を前提とした報告書を作成することを業務とする業務委託契約(準委任契約)であることが望ましい。」としている。「モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材)」の5条(スタートアップの義務)では、「スタートアップは、本検証に基づく何らかの成果の達成や特定の結果等を保証するものではない。」と明確にしている。スタートアップから提供された報告書の修正については、契約書に当初規定された本検証の内容を正確かつ漏れなく記載しているかどうかといったような点を確認し、異議ある場合に要求できるに過ぎず、本検証の結果に対する異議は認められないことになる。
しかし、xxxx「ケーススタディで学ぶ技術検証(PoC)契約締結の実務──検証、知財の帰属、秘密情報の取扱い、共同開発フェーズへの合意」ビジネス法務2021年3月号57-58頁では、技術開発の進め方は、対象技術と検証する事業の方向性から、色々なパターン(枠組み)が想定されるので、モデル契約書ver1.0の型に無理に当てはめる必要はなく、「その技術開発に適した枠組みを設定し、その枠組みにおいて適切な権利義務を設定すればよいのである」としている。そして、枠組みとして考えられる契約類型は、上記準委任契約の場合のほか、売買契約(ただし、売買目的物の取扱いについて一定の合意が必要である)、賃貸借契約、ライセンス契約などを挙げている8。
⑶ 次のフェーズへの移行に関する条項
事業連携指針やモデル契約書ver1.0は、スタートアップに対し本採用をちらつかせながら、いつまでもダラダラとPoCを継続し、スタートアップが他のビジネス相手との提携チャンスを失ったり、資金が枯渇して閉鎖に追い込まれたりすることを防ぐため、次のフェーズ(共同研究開発契約、ライセンス契約等の「正式契約」の締結交渉)へ進むことの努力義務や、次のフェーズに進むかどうかについて一定期間内の通知義務を課すことが望ましいとしている。
たとえPoCで好ましい結果が得られても、その後の事情や交渉次第で次のフェーズに進めないことが想定されるので、正式契約の締結を義務付けることまではしないのが一般的である。逆に、「正式契約の締結を確約するものではない。」という条項を入れることもある。
また、正式契約の締結まで進まなかった場合に、どちらかが単独で研究開発を進めることや、
7 大企業が知的財産権を取得したければ、それに見合った大きな対価を支払う必要があるとされているが、またその一方で、テクノロジー企業側にとっては大企業の同意なく自由にビジネスできなくなるのであるから、大企業へ当該事業を事実上売却するほどの覚悟がある場合以外は、大きな対価を受け入れることになびくべきでなく、テクノロジー企業側としては知的財産権の単独保有を譲るべきではないとも考えられる。
8 それぞれの類型に該当する具体例や、いくつかの類型について、テクノロジー企業が遂行義務を負う担当業務の範囲を明確化して限定するための条項例も紹介されており、参考になる。
このうち、「売買契約(ただし、売買目的物の取扱いについて一定の合意が必要である)」「賃貸借契約書」の類型については、筆者の経験からは、上記2⑵で挙げたMTAが有償であるパターンに近いように考える。3⑶でいう「正式契約」の締結に進まない場合は、技術情報の化体した当該有体物は廃棄又は返却する条件となるのが一般的であろう。
ライセンス契約だけじゃない!知的財産関連契約(第5回・最終回)
別の第三者と類似の共同研究開発を行うことについて、制限を設けるのか否か、どういった範囲で制限するのか(競合開発禁止条項)を規定することも考えられる。設けるにしても、排他条件付取引(一般指定11項)や拘束条件付取引(一般指定12項)に当たらないよう留意しなければならず、通常は、開示した技術情報の秘密保持義務の範囲内でしか制限しない(秘密保持条項以外に制限する規定は設けない、あるいは競合開発が禁止されていないことを確認する条項を設ける)のが一般的であろう。正式契約に進めば、当該契約期間内の競合開発禁止条項を入れるのが一般的である(「モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(新素材)」の13条)。
4 おわりに
PoC契約は、研究開発型スタートアップとの契約類型としてこの数年、注目されているが、モデル契約書ver1.0が対象としていないような企業間においても広く、技術検証(PoC)の場面における両者の権利義務を規定するために、事案に即した内容の契約を締結すべきであると考える。
以 上