Contract
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日本大学 危機管理学部 教授 xx xx
令和 5年 1月
土木学会 第5回継続的契約管理セミナー
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1 わが国特有の入札契約制度
2 平成17年品確法制定と
平成26年・令和元年の改正
3 契約変更の適正化と今後の課題
~わが国と海外との比較~
2
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~わが国と海外との比較~
○ わが国と海外の相違点
1 契約価格の決まり方が異なる
2 支払い方式が異なる
3 日本の入札契約手続を定める法令に協議や交渉の概念がない
4 施工計画書・内訳書・工程表の取扱いが異なる
○ わが国だけなぜ異なるのか?
3
3
○ わが国と海外の相違点
1 契約価格の決まり方が異なる
4
4
受注しようとする企業の応札の考え方(日本の多くの場合)
上限(予定価格)と
下限(低入札価格調査基準価格or最低制限価格)を推測して落札し得る価格を応札価格とする
(実行予算とは必ずしも合致しない)
落札した上で、下請価格を決定
価格決定構造
上流から下流へ
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外国における企業の
応札の考え方(多くの場合)
最も有利な施工体制・施工計画を立案し、所定の労務費・人件費を踏まえ、下請け業者に支払う 額を定めたうえで、自社(元請)の所要額を加えて応札価格とする (実行予算を前提とする)
価格決定構造
下流から上流へ
下請価格 ・・・
労務費
資材
・・・
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米国の公共工事における元請と下請の関係
■ 元xxにおける上下関係はなく、元xxでリスクを分担し、お互いの権利や責任は明確化されている
■元請は入札の直前までに下請から見積もりを取りそれに基づいて下請を選定した上で応札する
■再下請の制限はないが、コストや管理上の問題から下請次数は少ない
■建設会社は、地域ごと職種ごとに存在するユニオンと契約し、所属の作業員を使って工事を行う
■直雇による自社施工の割合が決められているため元請はユニオン所属の作業員を自社の従業員とし施工機械は自ら保有しようとする
■労務賃金は Davis-Bacon法、ユニオン協定等による
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各国の労務賃金制度 | |
米国 | ○ Davis-Bacon法により連邦関連工事で賃金等を規定 ○ ユニオンが使用者と労働協約を締結し、職種別・熟練度別に賃金を決定 ○ 発注機関がユニオンと合意するプロジェクト別労働協 定あり |
英国 | ○ 全国レベルの労働協約があるが建設技能労働者のカバー率13.5% ○ 労働協約は法的拘束力を持たない |
フランス | ○ 代表的労働組合が労働協約を締結 ○ 労働組合の加入率は低いが非組合員への適用により労働協約のカバー率は9割以上 ○ 全国レベルの労働協約は公的意味合い強い |
ドイツ | ○ 労働協約のカバー率は 6~7 割で、労働協約が法的拘束力を持つ |
国際建設技術協会 欧米諸国の建設労働環境・条件について(xx xx),xx総連 第43期建設政策検討委員会資料を参考に作成 8 |
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○ わが国と海外の相違点
2 支払い方式が異なる
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日本と主要国との支払い方式に関する比較
注:各国の典型的な事例を元に作成(日本は国土交通省の例による)。英国、ドイツ、オランダ及び
台湾については、国土技術政策総合研究所:出来高部分払方式 検討報告書(2002)による。10
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日本 | 米国 | 英国 | ドイツ | オランダ | 台湾 | |
契約方法 | 総価契約単価合意 | 総価契約単価契約 | 単価契約 (DBは総価) | 単価契約 | 単価契約 | 単価契約 |
前払金 | ○ (40%以内) | なし (制度あり) | なし | なし (制度あり) | なし | ○ (30~ 0%) |
中間前払金 | △ (20%以内) | × | × | × | × | × |
部分払 | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
部分払の間隔 | 規定はないが間隔が長い | 毎月か | 毎月 | 2~3週間毎 | 4週間毎 | 2週間~毎月 |
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出来高と支払額の関係(日本の一般的な支払い方式)
100
90
80
70
出来高
60
50
40
支払額
30
20
10
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 月
11
11
出来高と支払額の関係(米国等の一般的な支払い方式)
100
90
80
70
出来高
60
50
40
支払額
30
20
10
0
1
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4
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9 10 11 12 月
12
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Project Management Triangle
SCOPE
QUALITY
COST
TIME
13
13
○ わが国と海外の相違点
3 日本の入札契約手続を定める法令に協議や交渉の概念がない
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海外と異なる随意契約
米国 Contracting by negotiation
交渉による契約(Sealed bidding以外の手続)
英国
EU
Negotiated procedure
----
Negotiated contract
----
交渉手続
交渉契約
日 本
随意契約
任意の者と契約を締結
する方式
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15
わが国会計法における随意契約の規定
予算決算及び会計令(昭和二十二年勅令第百六十五号)第四節 随意契約
(予定価格の決定)
第九十九条の五 契約担当官等は、随意契約によろうとするときは、あらかじめ第八十条の規定に準じて予定価格を定めなければならない。
16
第八十条とは、第二節(一般競争契約) における「予定価格の決定方法」に関する規定
16
米国FAR における交渉契約の規定 Federal Acquisition Regulation (FAR) Part 15 - Contracting by Negotiation
Subpart 15.4 - Contract Pricing
15.400 Scope of subpart.
This subpart prescribes the cost and price negotiation policies and procedures for pricing negotiated prime contracts (including subcontracts) and contract modifications, including modifications to contracts awarded by sealed bidding.
17
17
○ わが国と海外の相違点
4 施工計画書・内訳書・工程表の取扱いが異なる
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18
建設工事の入札の際に発注者が示す情報
入札者が提出する書類
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競争参加資格確認申請書、技術資料等
入札書(入札金額、会社・代表者名等)、工事費内訳書
工事概要、競争参加資格、落札者決定方法、入札手続等契約書案、設計図書、工事数量総括xx
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Any bid that fails to conform to the delivery schedule
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xxxxx://xxx.xxxxxxxxxxx.xxx/xxx/xxxx-00#XXX_00_000_0 21
Any bid may be rejected if the prices for any line items or subline items are materially unbalanced
わが国の工事関係書類一覧表イメージ(工事着手前)
国土交通省工事関係書類一覧表(H23.6.1)をもとに作成
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工事関係書類 | 書類作成者 | |||
種別 | 書類名称 | 発注者 | 受注者 | |
契約図書 | 契約書 | 工事請負契約書 | ○ | |
設計図書 | 共通仕様書・特記仕様書 | ○ | ||
発注図面 | ○ | |||
工事数量総括表 | ○ | |||
その他 | ○ | |||
契約関係書類 | 現場代理人等通知書 | ○ | ||
請負代金内訳書 | ○ | |||
工事工程表 | ○ | |||
請求書(前払金) | ○ | |||
その他 | ○ | |||
その他 | ○ | ○ | ||
工事書類 | 施工計画 | 施工計画書 | ○ | |
設計図書の照査確認資料 | ○ | |||
工事測量成果表 | ○ | |||
工事測量結果 | ○ | |||
その他 | ○ | |||
施工体制 | 施工体制台帳 | ○ | ||
施工体系図 | ○ |
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○ わが国だけなぜ異なるのか?
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わが国の公共工事執行方式の変遷
公共調達解体新書,xxxx著,経済調査会(2017)及び
建設関連業の定義・歴史(国土交通省)をもとに作成
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年代 | 事業執行方式 | 備考 |
明治時代 ~終戦 | 土木工事の大半を直轄直営事業として実施 | 発注者が自ら施工部門を有して資機材・労務の調達まですべてを行うか、労働者の供給のみを請負者に行わせる方式 (鉄道工事については、xx-xx間 32kのxx線の工事で鹿島組が初めて参入。多くは特命方式が用いられた。) |
昭和20年代 | 施工を請負として外注化 | 指名競争入札が多用された |
昭和30年代 | 公共工事の急速な増大に伴い建設コンサルタント業務の外注化が進展 | 昭和34年1月設計・施工分離原則が明確化された |
平成10年代以降 | 事業執行方式の多様化が進展 | 平成6年以降一般競争入札が拡大し、平成17年公共工事品質確保法制定 |
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公共調達に関する法制度の変遷
1889年
予定価格の制限のもとで一般競争入札の原則
1898年
1900年
1947年 地方自治法制定
2005年
価格と品質の総合評価、発注者支援の必要性など
2014年
予定価格の適正化、技術提案交渉方式導入、工事に準じた調査設計の品質確保、発注者の体制など
2019年
災害時の随意契約等、適正な工期の設定・施工時期の平準化、生産性向上、調査・設計の品質確保など
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公共工事品質確保法再改正
公共工事品質確保法改正
公共工事品質確保法制定
明治33年勅令制定(指名競争)
明治31年市制及町村制改正
明治22年会計法制定
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平成5年(1993年)ゼネコン汚職事件
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公共事業の入札を巡って大手xxxxが国会議員・知事・市長に賄賂を送った事件。
1993年6月に建設相を始め仙台市長・xx県知事・茨城県知事が逮捕された後、ゼネコン側でもxx建設会長の他にも鹿島建設・大林組・xx建設・ハザマ・xx建設・三井建設・xx建設などのゼネコントップが相次いで逮捕。
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日米建設摩擦の経緯
1986 (昭61)
1988 (昭63)
1991
(平 3)
関西国際空港プロジェクトへ米国企業の参入要求
関西国際空港等17プロジェクトをMPA特例措置
MPA対象17プロジェクトを追加
1995
(平 7)
1996
(平 8)
WTO設立
WTO政府調達協定発効
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27
「技術重視」による受注者決定
<指名競争入札、交渉 etc>
混乱
混乱
「競争重視」による受注者決定
<一般競争入札 etc>
28
28
入札契約制度の各国比較(明治会計法制定当時)
日 本
(1889)
フランス
(1862)
イタリア
(1884)
一般競争入札と随意契約
入札方式
指名競争入札あり
1882通達 交渉方式
売買
同じ扱い
物品、サービス、工事等
同じ扱い
1865公共事業法
予定価格
必ず定める
定める場合あり
落札基準
最低価格
29
29
入札契約制度の各国比較(現在)
日 本
(1961)
一般競争
入札方式 指名競争
随意契約
フランス
(2018)
一般又は制限
の提案募集
交渉ほか
イタリア
(2016)
一般競争制限競争交渉ほか
売買
同じ扱い
別の扱い
物品、サービス、工事等
同じ扱い
調達物に応じて多様な方式
予定価格
必ず上限とする
な し
落札基準
最低価格
最も経済的に有利
別に2005公共工事品確法
(例外的に総合評価)
30
30
入札契約制度の各国比較(現在)
米 国
封印入札
入札方式 競争的プロポーザル
交渉方式
ほか
x x
公開競争
制限付競争指名式競争交渉契約
台 湾
公開入札選択入札限定入札
(交渉規定あり)
売買
別の扱い
物品、サービス、工事等
調達物に応じて多様な方式
予定価格
な し
あり(交渉契約を除く)
定める場合あり
落札基準
政府に
最も有利
最低価格又は政府に最も有利
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31
わが国の会計法・地方自治法の特徴
1.公告して競争を行うこと(一般競争)を原則
2.「買い」と「売り」が同じ扱い
3.交渉手続きを定めていない
4.価格の制限(予定価格)を必ず定める
5.落札基準は最低価格を原則
👆平成17年 公共工事品質確保法制定
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32
成績重視の世界的潮流
1960
日本
工事成績評定
1967
1970
1980
米国
1990
1994
コリンズテクリス
2005
1992
CCASS ACASS
CPARS
PPIRS
英国
2000
1999
Construc
-tionline
フランス
2010
2008
Identification professionnelle, FNTP
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33
英国の調達方式の変遷
1944 The Simon Committee report 1964
1994
1998
2011
2016
2020
The Banwell report The Latham report
Value for Money, 有資格者名簿, Contractor performance, Two stage procedure, Partnering, Framework agreement
The Xxxxx report
Industry-wide performance measurement system
Government Construction Strategy
Fully-collaborated 3D BIM on all centrally procured construction contracts by 2016
Government Construction Strategy 2016-20
■Client capability ■Digital and data capability
National Infrastructure Strategy Transforming Public Procurement
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指名競争入札や交渉方式を推奨
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1994 | FASA(連邦調達合理化法) |
1995 | FARA(連邦調達改革法) |
Past contract performance of an offeror を次回以降の調達に活用, Central Contractor Registration (CCR) | |
1996 | Xxxxxxx Xxxxx Act |
Design-build two-step process |
米国の調達方式の変遷
1997-98 FAR, 連邦規則 改正
Design-build, Best value, Negotiation
2001, 2004, 2006, 2009, 2011, 2014 OMB通達
Performance-based acquisition
2012 CCRほか のデータを SAM(System for Acquisition Management)に移行
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35
米国の発注者積算
■ 事業費の積算
① 構想・基礎調査
(路線選定、延長、車線数、設計基準等)
予備費率
・・・約40%
② 可能性調査(平面縮尺 1/2,500~ 1/5,000 )・・・約25%
③ 概略設計(平面縮尺 1/500~ 1/2,000 )
・・・ 約15%
④ 詳細設計(設計図、仕様書、入札書類等) ・・・約10%
<カリフォルニア州の例>
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米国の発注者積算
■ 入札前の独立政府積算(入札価格の適正さチェックのため)
Independent Government estimate of construction costs
●連邦調達規則 (FAR36.203)は、簡易調達方式上限額を超える新規及び変更工事の入札に独立政府積算を義務付けている(積算額は非公開)
●設計関係者以外の積算専門家(職員/コンサル)が入
札者と同じ書類と資料に基づいて落札を目指す立場で積算する。 (設計担当者は予算不足回避のため余裕の
ある積算、又、コンサル、建設業者の影響を受ける可能性がある)
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米国発注者の契約変更交渉方針
■ 発注者は交渉に先立ち契約変更金額を積算し、次の方針に基づき交渉を行う
●価格および他のすべての要因に関して発注者の利益を確保すること
●受注者が適正な利潤を得られるようにすること
■ 受注者に契約変更用経理簿(Change order accounting)
の作成を求める
●後日クレーム・紛争が発生した場合の適切な解決のため
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土木学会における検討経緯
公共事業改革プロジェクト小委員会(2010-2011)
2011年8月 マネジメント手法確立と公共事業調達法の提案
【公共工事の品質確保法改正】
公共事業執行システム研究小委員会 (2012-2014)
予定価格設定の適正化 交渉方式一部導入 など
2014年8月
品確法改正を踏まえた今後の改革の道筋を提案
2014.6公布・施行
公共工事発注者のあり方研究小委員会(2014-2016)
2016年8月 公共工事における発注者の役割を明確化し、下請・労務者等の価格決定構造のあり方について問題提起
公共事業における技術力結集
に関する研究小委員会
(2017-2019)
発注者の技術力の確保と評価方策
公共工事の価格決定構造の転換に関する研究小委員会
(2020- )
価格決定構造の見直し
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39
ご静聴ありがとうございました
m(。・ε・。)m
2017年2月
2018年5月
2022年5月
発行:一般財団法人 経済調査会
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