Contract
フランス
1 総説
(1) 現行フランス民法典における典型契約規定の概要
現行フランス民法典の第 3 編(「所有権を取得する様々な方法」)は、次のような章立てで構成されており、個別の契約類型に関する規定もこの中に含まれている。
第 1 章 相続第 2 x x与
第 3 章 契約又は合意による債務一般第 4 章 合意なしに形成される約務 第 5 章 夫婦財産契約及び夫婦財産制第 6 章 売買
第 7 章 交換
第 8 章 賃貸借契約
第 8 章の 2 不動産開発契約第 9 章 組合
第 9 章の 2 不分割の権利の行使に関する合意
第 10 章
第 11 章
第 12 章
第 13 章
第 14 章
第 15 章
第 16 章
第 17 章
第 18 章
第 19 章
第 20 章
第 21 章
貸借
寄託及び係争物寄託射倖契約
委任信託和解仲裁質1
先取特権及び抵当権2
差押え及び不動産の売却代金の分配消滅時効
占有及び取得時効
1 2006 年の担保法改正により第 4 編に新たに規定が設けられ、該当条文(2071~2091 条)の中身は削除されている。
2 2006 年の担保法改正により第 4 編に新たに規定が設けられ、該当条文(2092~2203-1条)の中身は削除されている。
以上の章立てのうち、第 5~16 章に規定されている諸契約(夫婦財産契約、売買、交換、賃貸借、不動産開発契約、組合、不分割の権利の行使に関する合意、貸借、寄託、射倖契約、委任、信託、和解、仲裁)は、フランス民法典上、典型契約としての位置付けが明確である。それに対し、わが国では典型契約として観念されている贈与は、フランス民法典上、「恵与」の一種として、遺言等とともに、他の契約類型とは別に、相続に近い箇所で規定されている(第 2 章)。
(2) フランス民法典における典型契約規定の沿革
もっとも、フランス民法典が当初から現在のような規定の内容・構造を有していたわけではない。典型契約に関する規定の沿革は、次のようにまとめられる。
第一に、フランス民法典の原始規定においては規定されていたが、その後の改正により削除されたものがある。すなわち、旧第 14 章に規定されていた保証(cautionnement)は、
2006 年の担保法改正により第 4 編に新たに規定が設けられ(2288~2320 条)、該当条文の
中身は削除された(その後、第 14 章には新たに信託が規定された)。
第二に、フランス民法典制定後の法改正により、新たな契約として加えられたものがある。不動産開発契約(1971 年 7 月 16 日の法律第 579 号)、不分割の権利の行使に関する合
意(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)、信託(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)、仲
裁(1972 年 7 月 5 日の法律第 626 号)がそれである。また、既存の契約の下位類型として
新たに規定されたものもある。1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号により売買(第 3 章)の特別
類型として挿入された、「建築予定不動産の売買」(同第 3-1 節)がこれにあたる。
第三に、原始規定から定められている契約類型に関しても、頻繁に条文の改正が行われている。
(3) 日本の民法典との比較
現行フランス民法典に規定されている典型契約は、贈与(donation)、夫婦財産契約(contrat de mariage)売買(vente)、交換(échange)、賃貸借(louage)、不動産開発契約(contrat de promotion immobilière)、組合(société)、不分割の権利の行使に関する合意(conventions relatives à l’exercice des droits indivis)、貸借(prêt)、寄託(dépôt)、射倖契約(contrats aléatoires)、委任(mandat)、信託(fiducie)、和解(transaction)、仲裁(compromis)の 15 種であるということができる。ただし、前述の「建築予定不動産の売買」のように、それぞれの契約につき下位類型が定められていることもあることにも注意する必要がある。
日本の民法典では、第 3 編第 2 章第 2~14 節において、贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解の 13 種の典型契約が規定されているが、フランス民法典と比較すると、次のように整理できる。
第一に、日本の民法典が規定する典型契約は、いずれもフランス民法典においても規定
されていると一応はいえる。もっとも、いくつかの点に注意が必要である。
①規定の位置付けが異なる場合がある。すなわち、贈与は、日本では他の契約類型と並べて規定されているが、フランスでは他の契約類型とは独立に規定されている。
②日本の民法典で規定されている典型契約のうちいくつかのものは、フランス民法典では、より大きな内容を有する契約の下位類型として位置付けられている。すなわち、日本の「消費貸借」「使用貸借」はフランスでは「貸借」の下位類型として3、日本の「賃貸借」
「雇用」「請負」はフランスでは「賃貸借」の下位類型として4、日本の「終身定期金」はフランスでは「射倖契約」の下位類型として5、日本の「寄託」はフランスでは「寄託」の下位類型として(日本の「寄託」はフランスの「寄託」の下位類型と一致するにすぎない)6、それぞれ規定されている。
③各契約の概念内容を細かく見るならば、日本とフランスでは一致しないことがある。とりわけ、日本の「請負」「委任」等とフランスの対応契約類型の異同が重要である。
第二に、フランス民法典には、日本の民法典には設けられていない典型契約が見られる。不動産開発契約、不分割の権利の行使に関する合意、射倖契約(の一部)、信託、仲裁である(なお、夫婦財産契約は、日本の民法典では親族編に規定されている(755 条以下))。下位類型にまで目を向ければ、こうした例はさらに増える(建築予定不動産の売買のほか、必要的寄託・係争物寄託等)。
(4) 検討方針
本報告書では、次のような方針で、フランス民法典における典型契約規定を分析する。まず、日本の民法典にも設けられている典型契約については、基本的には規定内容について簡単に述べるにとどめ、日本の民法典には規定されていない下位類型についてのみ詳しい紹介・検討を行う(2)。それに対し、日本の民法典には設けられていない典型契約は、背景及び規定内容について詳しい紹介・検討を行う(3)。さらに、役務提供型の契約については、以上とは別にその内容及び相互関係等について紹介・検討する(4)。
3 フランス民法典は、「貸借(prêt)」の種類として、「使用貸借(prêt à usage ou commodat)」及び「消費貸借(prêt de consommation)又は単なる貸借(prêt simple)」を規定しており(後者のうち利息付きのものは「利息付貸借(prêt à l’intérêt)」として別に規定されている)、前者が日本の民法典における「使用貸借」に、後者が「消費貸借」にそれぞれ該当する。
4 フランス民法典は、「賃貸借(louage)」の種類として、「物の賃貸借(louage des choses)」
「仕事及び勤労の賃貸借(louage d’ouvrage et d’industrie)」等を規定しており、前者が日本の民法典における「賃貸借」に該当し、後者に日本でいう「雇用」「請負」が含まれていると見ることができる。
5 フランス民法典は、「射倖契約」として、「終身定期金」のみならず「競技及び賭事」についても規定している。
6 フランス民法典は、「任意的寄託(dépôt volontaire)」(日本の民法典における「寄託」に
該当する)のみならず、「必要的寄託(dépôt nécessaire)」も含めて、「寄託」として規定する。また、「係争物寄託(séquestre)」なるものも、「寄託」と同じ章で規定されている。
2 日本の民法典にも設けられている典型契約
(1) 総説
フランス民法典に規定されている典型契約のうち、贈与、夫婦財産契約、売買、交換、賃貸借、組合、貸借、寄託、(射倖契約のうちの)終身定期金、委任、和解は、日本の民法典にも対応する典型契約が設けられているものであるといえる。このうち、夫婦財産契約に関しては、家族法に属する事柄であると思われるので、検討対象からは外す7。
(2) 贈与(donation)
フランス民法典は第 3 編第 2 章「恵与(liberalité)」(893~1100 条)の中で、贈与契約に
関する規定を置いている。第 2 章の目次は以下のとおりである。第 1 節 一般規定
第 2 節 生存者間の贈与又は遺言により処分又は受領する能力第 3 節 遺留分、処分任意分、及び減殺
第 4 節 生存者間の贈与第 5 節 遺言による処分
第 6 節 段階的恵与及び残存物恵与第 7 節 恵与分割
第 8 節 夫婦財産契約によって配偶者及び婚姻関係から出生する将来の子に対して行われる贈与
第 9 節 夫婦財産契約による、又は婚姻中の、夫婦間の処分
x与とは、「ある者が他の者のために、無償で、自己の財産又は権利の全部又は一部を処分する行為」をいう(893 条 1 項)。具体的には、生存者間の贈与(donation entre vifs)と遺言(testament)とがあり(同条 2 項)、第 3 編第 2 章では、それぞれに特有な規定もあるものの、基本的には、生存者間の両者に関する通則的な規律がおかれている。本報告書の目的からは、生存者間の贈与が検討対象となる。
生存者間の贈与とは、「贈与者が、現実にかつ不可撤回的に、それを承諾する受贈者のために、贈与物を手放す行為」である(894 条)。フランス民法典は、(遺言と共通する形で)贈与・受贈のために必要な能力(第 2 節)と相続の際の調整方法(第 3 節)に関する規定
を設けたうえで、生存者間の贈与に特有の規定を置き(第 4 節)、形式(同第 1 款)及び撤
回(同第 2 款)に関して規定している。なお、第 6 節以降は恵与の特殊形態を規定しており、それに対応して、贈与にも特殊形態がありうることになる。2006 年改正で導入された段階的恵与及び残存物恵与(第 6 節)8や、夫婦財産契約による贈与(第 8 節・第 9 節)9等、
7 フランスにおける夫婦財産契約に関しては、xxxx『典型契約と性質決定』119 頁以下
(有斐閣、1997 年)を参照。
8 xxxxx「フランスにおける信託的な贈与・遺贈の現代的展開(一)(二・完)」民商
興味深い内容であるが、本報告書での検討は控える。
第 4 節の具体的な規定内容のうち、日本の民法典における贈与に関する規定との関係で特徴的な点を挙げれば、まず、贈与は要式契約とされている。生存者間の贈与は、公証人証書が作成されなければ無効である(931 条)10。また、将来の財産を対象とする贈与は無効である(943 条)。さらに、贈与の撤回に関する規律が設けられ(第 4 節第 2 款)、とりわけ忘恩(ingratitude)による撤回がxxで認められている点が重要である(955 条以下)。
(3) 売買(vente)
(i) 概観
フランス民法典第 3 編第 6 章は「売買」について規定する(1582~1701 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 売買の性質及び形式
第 2 節 買い受け、又は売却することができる者第 3 節 売却することができる物
第 3-1 節 建築予定不動産の売買第 4 節 売主の義務
第 5 節 買主の債務
第 6 節 売買の無効及び解除第 7 節 換価処分
第 8 節 債権及びその他の無体の権利の移転
フランス民法典上、売買は、「一方がある物を引渡す義務を負い、他方がその物について
[代金を]支払う義務を負う合意」と定義されている(1582 条 1 項)。諾成契約である点11をはじめとして、日本の民法典における売買契約と本質的な違いはないが12、その規定ぶりは詳細である13。当事者の義務14のほか(第 4 節・第 5 節)、売買の様々な形式(第 1 節)15、
139 巻 4・5 号 466 頁以下、6 号 607 頁以下(2009 年)参照。
9 xxxx「相続・贈与遺贈および夫婦財産制」xxxxx『フランス民法典の 200 年』
232 頁以下(有斐閣、2006 年)参照。
10 負担付贈与の負担部分に関しても一定の書面が必要とされる(945 条)。
11 1582 条 2 項は「売買は、公署証書又は私署証書によって行うことができる」と規定するが、書面を要求するものではなく、一般原則たる 1108 条に立ち戻って諾成契約であることになる。
12 ただし、物及び代金についての合意により当然に所有権が移転するとされている点(1583条)、レジオンを根拠とする売買の取消しが規定されている点(1674 条以下)、共有物の換価処分について規定されている点(1686 条以下)等は、日本の民法典には見られない特徴的な点といえようか。
13 大村・前掲注(7)69 頁は、日本の民法典における売買法の条文数の少なさとともに、その内容の偏りを指摘する。
14 売買に関連する様々な契約(建築予定不動産の売買、建築請負、不動産開発契約等)との関係でとりわけ重要なのが売主の瑕疵担保責任である。フランス民法典上、売主は、売
当事者(第 2 節)及び対象物(第 3 節)、買戻し(第 6 節第 1 款)等に関しても詳細な規定
をおき、条文数は約 130 を数える。
(ii) 建築予定不動産の売買(vente d’immeuble à construire)16
フランス民法典における売買契約に関する規定の中で注目されるのが、1967 年 1 月 3 日
の法律第 3 号により新たな節が設けられた、建築予定不動産の売買である(条文訳参照)。
ア 背景・沿革
建築予定不動産の売買とは、まだ建築されていない建物を対象とする売買であり、民法典で規定が設けられる以前から実務上行われていたものである。建築予定不動産の売買が行われる理由は、建物完成前に売主たる建築者が建築資金を得る必要があるということにあったが、従来の民法典の規律によれば、買主たる取得者が非常に不利な立場におかれる点が問題であった。すなわち、民法典 1130 条によれば将来の物(chose future)の売買も有効であるが、その場合、物が完成して初めて買主に所有権が移転することになるため、建築途中で売主が破産した場合等に(すでに売買代金を支払った)買主が不利な状況に置か
却物の「隠れた瑕疵(vice caché)」について担保責任を負うとされる(1641 条・1642 条)。これは売主が瑕疵について善意か悪意かを問わず問題となるものであり(1643 条。ただし売主が善意の場合には瑕疵担保責任を免除する特約は有効である)、予定した使用が不適当となる等の隠れた瑕疵が売却物に存在する場合には、買主は、売買契約解除訴権(action rédhibitoire)か代金減額訴権(action estimatoire)を選択的に行使しうる(1644 条)。また、悪意の売主はすべての損害賠償義務を負い(1645 条)、善意の売主は(代金の返還に加え)売買によって生じた費用の賠償義務を負う(1646 条)。もっとも、こうした瑕疵担保責任に関する買主の権利は、瑕疵の発見から2 年以内に行使されなければならない(1648 条1 項)。
なお付言するに、権利行使期間に関しては、従来は「短い期間内に」という規定がおかれていたところ(旧1648 条1 項)、「消費物品の売買及び関連の保証に関するEU 指令」(1995年 5 月 25 日)を受けてなされた 2005 年 2 月 17 日のオルドナンス第 136 号による改正に
より、「2 年の期間内に」と改められた(現 1648 条 1 項)。もっとも、フランスでは、同指令の内容を民法典に組み込むことはせず(この点でベルギーと異なる)、基本的には上記オルドナンスによる消費法典(Code de la consommation)の改正により、同指令の内容が実現されている。こうした経緯の詳細に関しては、xxxx「EU 指令とフランス民法典:消費動産売買指令の国内法化をめぐる動向」xxxxほか編『ヨーロッパ私法の展開と課題』 405 頁以下(日本評論社、2008 年)を参照。最近のフランス語文献として、L. Xxxxxxxx, La nouvelle garantie légale de conformité des biens vendus aux consommateurs, in Libre droit, Mélanges en l’honneur de Xxxxxxxx xx Xxxxxxxx, Xxxxxx, 2007, p.635 ; Ph.
Xxxxxxxxx, Retour sur une réforme du régime de la garantie dans la vente et sur la transposition de la directive du 25 mai 1999, in Liber amicorum, Études offertes à Xxxxxxève Viney, LGDJ, 2008, p.669.
15 条件付売買(1584 条 1 項)、計量売買(1585 条)、一括売買(1586 条)、試味売買(1587条)、試用売買(1588 条)が規定されている。
16 フランスの建築予定不動産の売買に関する邦語文献として、xxxx「フランスの新たな不動産建築契約について―フランスの所有権観念の考察をかねて」北法 31 巻 3=4 号上巻 1097 頁以下(1981 年)、xxxx「製作物供給契約―マンション・建売住宅」xxxほか監修『現代契約法大系第 7 巻』327 頁以下(有斐閣、1984 年)がある。
れることになる。しかも、第一次・第二次世界大戦後、住宅(特に集合住宅)建築のニーズが高まり、不動産信用取引をも伴って不動産開発業が進展する中で、職業的な不動産売主が多く登場し、業者と取得者との間に構造的な力関係が生じてきたことも問題視されるようになってきた。
このような状況を背景として、建築予定不動産の売買における取得者保護のために、いくつかの立法がなされた17。まず、1954 年 11 月 10 日のデクレ第 1123 号は、フランス不動産銀行(Crédit foncier)等による建築融資の仕組みを利用して居住目的不動産の建築・調達を行う全ての者に対し、代金、品質及び代金支払方法について取得者に情報提供をすることを義務付けるともに、責任制限条項を禁止し、これらの違反について刑事制裁を課した。このデクレの適用範囲は非常に限られたものであったが、破毀院刑事部による拡大適用が行われた。次いで、1963 年 3 月 15 日の法律第 254 号では、取得者の利益に配慮した建築予定不動産の売買の契約を締結する不動産業者に税法上の優遇措置を与えることで、間接的に取得者保護が促された。この間、1961 年には、不動産の商品化に伴う危険から取得者を保護することを目的とする法律案が起草される等、民事ルールの形成への機運が高まり、1967 年 1 月 3 日の法律により、民法典の中に建築予定不動産の売買に関する規定が
設けられるに至った。その後、同年 7 月 7 日の法律による修正、及び、建築者の責任全般
に関する改正法である 1978 年 1 月 4 日の法律による修正が加えられ、現在に至っている。
1967 年法の目的は、建築予定不動産の売買における売主と買主の間の関係をxxに規律
することにあり、任意規定である民法典 1601-1 条ないし 1601-4 条はその目的に資するものであるが、さらに、居住目的不動産(職業および居住目的不動産も含む。両者を合わせて「保護部門(secteur protégé)」と呼ばれる)の取得者を保護する強行規定も設けられた。こうした規定は、民法典ではなく建築・住居法典に置かれており(L.261-1 条ないし 000-00x、X.000-0 条ないし R.261-33 条)、フランス法上、建築予定不動産の売買に対する規律は、両法典にまたがって行われていることになる。
イ 規定の内容
① 定義等
建築予定不動産の売買とは、「売主が、契約に定める期間内に不動産を建築する義務を負う売買」と定義される(1601-1 条)。売主に、通常の売主としての義務だけでなく、建築義務が課される点が特徴的である。売主は、建築を進めたうえで、最終的には完成した物を引渡す義務を負うことになる。
なお、建築予定不動産の売買として想定されているのは、売主が所有する土地上に契約締結後に建物が建築され、最終的に土地・建物が譲渡されるという場面である。買主が所
17 建築予定不動産の売買の沿革につき簡潔に述べるものとして、Ph. Malaurie, Dalloz rép. civ. Vo Vente d’un immeuble à construire, 1979, no2, p.2 ; F. Xxxxxx, X. Cl. Art. 1601-1 à 1601-4, fasc.20, Vente d’immeubles à construire, 2001, nos2 et s., pp.3-4.
有する土地上に建物を建築する場合は請負契約であり、買主は建築の進捗に応じて建物の所有権を付合取得するため、売買を介在させる必要はない18。
② 民法典の規律―所有権の移転等
建築予定不動産の売買には二種類の形式があり(1601-1 条 2 項)、それぞれ所有権移転に関する特則が設けられている。
第一に、期限付き売買(vente à terme)である。これは、「売主がその完成時に不動産を引渡すことを約し、買主がその引渡しを受け、かつ、引渡しの日にその代金を支払うことを約する契約」と定義される(1601-2 条)。不動産完成時に公署証書によってなされる確認により、買主は契約締結時に遡って所有権を取得する。これにより、買主は不動産完成までに当該不動産について権利を取得した第三者に優先できることになる。
第二に、完成の未到来状態における売買(vente en état futur d’achèvement)である。これは、「売主が土地についての自己の権利及び既存の建物の所有権を直ちに移転する契約」と定義される(1601-3 条 1 項)。この形式において特徴的なのは、通常の売買契約の規律と同様に既存の建物の所有権移転が即時になされるだけでなく、「将来の工作物は、その施工に応じて取得者の所有物となる」とされていることであり、買主は、工事の進捗に応じて漸次建築中の建物の所有権を取得することになる(代金支払いも工事の進捗に応じてなされる)。これにより、建築中に売主が破産しても、買主は建物の所有権者として保護されることになる。売買ではあるが、売主は注文者としての権限を保持する(1601-3 条 2 項)。
二種類の形式のうち、期限付き売買は、不動産完成時に代金支払いがなされるため売主の資金調達に難があり、あまり成功していないと指摘されている19。なお、両者に共通して、取得者による契約の譲渡は可能とされている(1601-4 条)。
③ 民法典の規律―瑕疵担保責任
建築予定不動産の売買は、建物という経済的な価値の大きい物の建築に関わるがゆえ、売主が負う瑕疵担保責任も加重される。
第一に、通常の売買では20、売主は隠れた瑕疵についてのみ担保責任を負うが、建築予定不動産の売買においては、売主は建築物の明白な瑕疵又は適合性の欠如についても、工事の受領前又は取得者による占有の開始後1 ヶ月の間は、担保責任を負う(1642-1 条1 項)2122。
18 Ph. Xxxxxxxxx et Ph. Jestaz, Droit de la promotion immobilière, 6e éd., Dalloz, 1995, no305, p.252.
19 J. Huet, Traité de droit civil. Les principaux contrats spéciaux, 2e éd., LGDJ, 2001, no32415, p.1466.
20 通常の売買における瑕疵担保責任の規律に関しては、注(14)を参照。
21 ただし、この場合において、売主が修補を義務付けられている場合には、契約の解除又は代金の減額という瑕疵担保責任追及の基本的手段は用いることができず、買主は修補を求めることになる(1642-1 条 2 項)。
22 なお、明白な瑕疵等についての買主の権利行使期間は、「売主が明白な瑕疵又は適合性の
第二に、建築予定不動産の売主は、工事の受領時から、建築士等と同様の瑕疵担保責任
(1792~1792-3 条に規定されているもの23)も負う(1646-1 条 1 項)24。その場合、売買の解除又は代金の減額は行われない(同条 3 項)。
④ 建築・居住法典の規律
以上に対し、建築・居住法典(Code de la construction et de l’habitation)では、建築予定不動産の売買に関する民法典の規定が再掲されているほか(L.261-1~8 条)、居住目的の不動産又は営業目的かつ居住目的の不動産(両者を合わせて「保護部門(secteur protégé)」と呼ばれる)の売買の場合に関して、買主保護を強化する特別の規律が設けられている(強行規定である)。主なものとしては、ⅰ売買の予備的契約(contrat préliminaire)の規制として、設計図・予定代金・履行期限等を明記した書面によりなされること、及び、予約者たる買主から交付される保証寄託(dépôt de garantie)は一定額に制限され処分・差押えは不可能であること、ⅱ(最終)契約は、物件明細・代金(及び代金改訂の条件)・引渡期限等を明記した公証人証書によりなされること、ⅲ完成の未到来状態における売買に関しては、完成に至らない場合に備えて売主が保証金を寄託しなければならないこと等が規定されている。
(4) 交換(échange)
フランス民法典第 3 編第 7 章は「交換」について規定する(1702~1707 条)。
交換は、「当事者がそれぞれある物を他の物と引換えに与えあう契約」と定義される(1702条)。諾成契約である旨(1703 条)や、他人物交換の場合の規律(1704 条)等が定められている。
(5) 賃貸借(louage)
フランス民法典第 3 編第 8 章は「賃貸借契約」について規定する(1708~1831 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 一般規定 第 2 節 物の賃貸借
第 3 節 仕事及び勤労の賃貸借第 4 節 家畜賃貸借
目次にも表れているように、フランス民法典における「賃貸借(louage)」には複数の種類のものが含まれる25。第一に、「物の賃貸借(louage des choses)」(第 1 節)であり、「当事
欠如について免責を受けることができる日から 1 年以内」とされている(1648 条 2 項)。
23 (建築士等も含む)建築者の瑕疵担保責任の規律に関しては、注(123)を参照。
24 なお、不動産の相次ぎの所有者も同様の担保責任を負うとされている(1646-1 条 2 項)。
25 賃貸借の冒頭規定(1708 条)は、「賃貸借契約には、物の賃貸借及び仕事の賃貸借の 2
種がある」と規定する。
者の一方が一定の期間について、かつ、他方がその者に支払う義務を負う一定の対価と引換えに、物を他方に享受させる義務を負う契約」と定義される(1709 条)。第二に、「仕事
(及び勤労)の賃貸借(louage d’ouvrage)」(第 2 節)であり、「当事者の一方が、当事者間で合意される対価と引換えに、他方のためにあることを行うことを約する行為」と定義される(1710 条)。なお、以上が賃貸借の二大類型であるが、賃貸借の目的が家畜資産の場合につき、特に、「家畜賃貸借(bail à cheptel)」の規定が設けられている(第 3 節)26。
こうしたフランス民法典の規定ぶりは、とりわけ、請負や雇用といった労務を提供する契約を(「労働力を貸す」という意味で)賃貸借の一種(仕事の賃貸借)として捉えている点に特徴があるが、現在では強い批判が投げかけられ(4(1)(ii)参照)、物の賃貸借と仕事の賃貸借は切り離して整理される傾向にある。
仕事の賃貸借については、他の役務提供型の契約とともに、4で扱う。物の賃貸借に関しては、原則として諾成契約であること(1714 条)、賃借権の譲渡・転貸(1717 条)、賃貸人の義務(1719 条以下)、賃借人の義務(1728 条以下)、賃貸借の終了事由(1736 条以下)等の一般的な規律のほか(第 8 章第 2 節第 1 款)、家屋賃貸借の特則(同第 2 款)・定額小
作契約の特則(第 3 款)が設けられている。しかし、民法典の規定は、現在では二次的な意味しか有しないとされる27。動産賃貸借においては「営業財産賃貸借(location-gérance du fonds de commerce)」等の新規の契約類型が現れているほか、不動産賃貸借は、現在では、
「住居賃貸借(baux d’habitation)」「職業的賃貸借(baux professionnels)」「商業的賃貸借 (baux commerciaux)」「農事賃貸借(baux ruraux)」の 4 種があるとされ、それぞれ、特別法による規律がなされている。
(6) 組合(société)
フランス民法典第 3 編第 9 章は「組合」について規定する(1832~1873 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 一般規定第 2 節 民事組合第 3 節 匿名組合
組合契約は、団体法制と密接に関係するゆえ、本報告書の考察対象からは除外する。
(7) 貸借(prêt)
フランス民法典第 3 編第 10 章は「貸借」について規定する(1874~1914 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 使用貸借
26 家畜賃貸借とは、「家畜の賃貸借で、その利益が家畜の所有者とそれを託された者との間で分割される賃貸借」をいう(1711 条 1 項)。本報告書の検討対象からは除く。
27 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, Droit civil. Les contrats spéciaux, 4e éd., Defrénois, 2009, no599, p.329.
第 2 節 消費貸借又は単なる貸借第 3 節 利息付貸借
民法典上、「貸借」の定義はないが、ある者が他の者から、一定期間使用するために物の交付を受け、それを返還するという合意を指すと考えられる28。そして、その中には「使用貸借(prêt à usage)」(第 1 節)と「消費貸借(prêt de consommation)」(第 2 節)とが含まれる(1874 条参照)。前者は、「毀滅することなしに使用することができる物の貸借」(1874条 1 項・2 項)ないし「当事者の一方が他方にある物を、それを使用するために引き渡し、借主がそれを使用した後に返還することを負担とする契約」(1875 条)であり、後者は、「使用することによって消費される物の貸借」(同条 1 項・3 項)ないし「当事者の一方から他方へ、同種及び同質の物を同量返還することを負担として、使用によって消費される物の一定量を引渡す契約」である(1892 条)。なお、「利息付貸借(prêt à intérêt)」(第 3 節)は、利息の約定のついた消費貸借であり(1905 条)、消費貸借の一種として位置付けられるものである。
使用貸借と消費貸借の違いは、①使用貸借はあらゆる種類の物を対象としうるのに対し、消費貸借は消費可能な種類物のみを対象としうること、②使用貸借では交付された物を返還しなければならないのに対し、消費貸借では同種・同量の物を返還すればよいこと、③使用貸借は本質的に無償であるのに対し、消費貸借ではそうではないことに求められる。他方、使用貸借・消費貸借とも、要物契約である(1875・1892 条)。これは、ローマ法以来の沿革によるが、今日ではその合理性に疑問が提起されることも少なくない29。
使用貸借及び消費貸借の具体的な規定内容に関しては、特筆すべき事柄はない。消費貸借に関しては、民法典の規律のみでは不十分であるとされ、とりわけ、利率や契約締結過程の規律に関しては、現在では消費法典に詳細な規定がおかれている。
(8) 寄託(dépôt)
(i) 概観
フランス民法典第 3 編第 11 章は「寄託及び係争物寄託」について規定する(1915~1963条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 寄託一般及びそのさまざまな種類第 2 節 狭義の寄託
第 3 節 係争物寄託
フランス民法典上、「寄託」は、「他人の物を保管し現物でそれを返還することを負担として、それを受領する行為」と定義されている(1915 条)。「契約」ではなく「行為(acte)」という語が用いられているのは、種々の合意による寄託のほか、裁判上の寄託(後述の係争物寄託の一種で、裁判所により命じられる寄託)も含まれるからであるが、寄託は物の
28 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no905, pp.529-530.
29 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no848, pp.494-495
物理的な交付のみで成立するわけではないので、適切な文言ではないとの指摘もある30。フランス民法典における寄託は、「狭義の寄託(dépôt proprement dit)」(第 2 節)のみな
らず「係争物寄託(séquestre)」(第 3 節)から成り(1916 条)、前者はさらに「任意的寄託 (dépôt volontaire)」(第 2 節第 2 款参照)と「必要的寄託(dépôt nécessaire)」(第 2 節第 5款参照)とに分かれる(1920 条)。以上のうち、「必要的寄託」及び「係争物寄託」は、日本の民法典における「寄託」には通常は含めて考えられておらず、日本と対比した場合のひとつの特徴ということができよう。
任意的寄託(通常の寄託契約)に関しては、他の役務提供型の契約とともに、4で扱う。以下では、寄託の特殊な下位類型たる必要的寄託及び係争物寄託についてみることにしよう。
(ii) 必要的寄託(dépôt nécessaire)
① 必要的寄託
必要的寄託とは、「火災、崩壊、略奪、難船その他の予見されない出来事のような何らかの事故によって強制された寄託」である(1949 条)。不可抗力によって寄託契約への同意が義務付けられるものである。通常の寄託(任意的寄託)の場合、証拠方法が限られるが、必要的寄託は、書面を作成することが物理的・精神的に不可能であるという状況を前提としているため、証拠方法に制約がない(1950 条による 1341 条の適用排除。証人による証明も許される)31。この点のみが通常の寄託との違いであり、その他は通常の寄託に関する規定が適用される(1951 条)。
② ホテル業者の寄託
必要的寄託の一種として、ホテル業者の寄託(dépôt hôtelier)が定められている32。
まず、旅店主又はホテル業者が旅客の物件について行う寄託は「必要的寄託とみなされる」(1952 条)ため、前述の証拠方法に関する特則(1950 条)が適用されることになる33。
30 R. Rodière, Dalloz rép. civ. Vo Dépôt, no2, p.1, 1971.
31 ローマ法においては、必要的寄託と類似の状況に付き2 倍賠償を認めていたが(P. Xxxxxxx et X. xx Xxxxxxxxx, Histoire du droit privé, t.1. Les obligations, 2e éd., §234, PUF)、古法においてはこの規律は踏襲されず、むしろ証明方法に関する特則が生成されていき、それがフランス民法典でも採用された(R. de Quenaudon, J. Cl. Art. 1949 à 1954, Dépôt, Fasc.60, no2, p.5, 1995)。
32 フランスにおけるホテル業者の寄託に関する邦語文献として、xxx「ホテル・旅館宿泊契約の一側面―旅客の携帯品の安全に対するホテル・旅館経営者の法的責任」xxxほか監修『現代契約法大系第 7 巻』135 頁以下(有斐閣、1984 年)がある。
33 不可抗力による寄託の強制ではないため、必要的寄託として規定されていることには違和感があり、またホテル業者と旅客の間には寄託契約ではなく宿泊契約が成立している(寄託はその付随的義務にすぎない)と考えられるため、寄託として扱われること自体にも不自然さがあるとの指摘もなされる(P. -H. Antonmattei et X. Xxxxxxx, Droit civil. Contrats spéciaux, Litec, 2008, no538, p.400 ; Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note
それに加えて、ホテル業者の受寄者としての責任を非常に厳格なものとする旨の規定がおかれている(1953 条・1954 条)。すなわち、「旅客がその施設に持ち込む衣類、手荷物及び様々な物件」について、フォートの有無に関わらず責任を負う(結果債務。1953 条 1 項)。こうした責任の厳格性は、ホテルは人々の往来が激しい場所であるところ、旅客よりも当該施設の全体をよりよく組織・監視できる立場にあるホテル業者が、盗難防止等の措置を採ることが要請されることに求められている3435。もっとも、ホテル業者の責任は無制限とは限らない。すなわち、ホテル業者の責任は、ⅰ受寄物の盗難又は毀損の場合には反対の条項が約定されたとしても無制限であるが(1953 条 2 項)、ⅱ他のすべての場合においては、賠償額は 1 日分の宿泊賃料の 100 倍相当に限定され(それを下回る制限は無効である。
同条 3 項)、ⅲホテル業者が占用する場所に駐車する車両の中に放置した物件については 1
日の宿泊賃料の 50 倍相当に限定される(1954 条 2 項)。
以上のようにホテル業者(旅店主)の責任を厳格なものとする傾向は、古法時代からすでに見られ、1804 年の民法典でも採用された36。幾度かの改正を経ているが37、最も重要なのは、1973 年 12 月 24 日の法律による改正である38。これは、ヨーロッパ諸国におけるホ
テル業者の責任に関する規律の調和を目的とする 1962 年 12 月 17 日の EC 協定を受けたものであり、ホテル業者の寄託の規律に服する物件の種類が拡大される等の改正がなされ、現在のような規定となった。
(iii) 係争物寄託(séquestre)
係争物寄託の定義規定は存在しないが、一般に、紛争の解決を待つ間、係争物を第三者
27, no901, p.522 ; A. Bénabent, Droit civil. Les contrats spéciaux civils et commerciaux, 8e éd., Montchrestien, 2008, no1085, pp.522-523)。
34 R. Rodière, supra note 30, no253, p.19 ; X. xx Xxxxxxxxx, supra note 31, no14, p.8. このことは、旅客にとどまってもらうことを可能にする意味で、ホテル業者の便宜ともなると指摘する。
35 ホテル業者という特殊な専門家のみに認められる規律ゆえ、判例は、その適用拡大に判例は一般的に慎重である。最近では、1992 年 7 月 6 日の法律により、医療機関における寄託に関して同様の規律が制定された(P. -H. Antonmattei et X. Xxxxxxx, supra note 33, no539, pp.402-403)。
36 宿泊契約という契約自体、ドマやポティエの著作でも言及され、その存在が古法時代から認識されていたが、フランス民法典の起草者は、宿泊契約という典型契約を設けることはせず、宿泊契約の寄託の部分のみを取り出し、古法時代以来の厳格な責任を法定するにとどめた(P. Py, Dalloz rép. civ. Vo Hôtelier, no2, pp.1-2, 2000)。
37 民法典の原始規定では、現在の 1953 条 1 項に相当する規定が同条の唯一の条文であったが、1911 年 4 月 8 日の法律による改正により、2 項が設けられ、一定の物件に関しては、ホテル業者の責任限度額が定められた。また、1948 年 9 月 18 日の法律では、責任限度額の変更がなされた。
38 この改正に関する文献として、L. Bihl, La notion de dépôt hotelier (après la loi du 24 décembre 1973), JCP 1974.I.2616 ; J. -P. Xxxxx, La loi du 24 décembre 1973 relative à la responsabilité des hôteliers, D.1974, chron. p.104 ; Bergel, La responsabilité des hôteliers, Gaz. Pal. 1977, 1, doctr. p.62.
の手中に寄託することをいうと理解されている39。ローマ法においては、紛争当事者の一方が係争物を保管・保存するという規律が存在していたが、訴訟手続の発達に伴い、法務官等が第三者に寄託することが認められるようになった。古法時代にはこうした規律が踏襲・具体化され、フランス民法典でも寄託の一種として法定されるに至った40。
係争物寄託には合意による係争物寄託と裁判上の係争物寄託の二種があり(1955 条)、それぞれについて通常の寄託とは異なる規律が定められている。
まず、合意による係争物寄託は、「一又はxxの者によって、係争物について第三者の手中に行われる寄託」であり(1956 条)、実務上時折用いられるようである41。通常の寄託とは異なり、有償のものも認められる(1957 条)。無償の場合、その対象は不動産でもよいとされ(1959 条)、また、受寄者は原則として訴訟終了まで解放されないとされているが(1960条)、その他の点では通常の寄託と同様の規律に服する(1958 条)。
裁判上の係争物寄託は、裁判所によって命じられる係争物寄託であり、所有者の権利への侵害となることから、民法典上、認められる場合(対象となりうる物)が列挙されている(1961 条)。もっとも、判例上は拡大して適用されているほか、他の法律により認められることもある。係争物受寄者は、当事者間が合意する者又は裁判官が職権で選任する者であり(1963 条 1 項)、どちらにせよ、合意による係争物寄託の場合と同様の義務に服する
(同条 2 項)。ただし、「債務者のもとで差し押えられる動産」(1961 条 1 号)等の係争物寄託の場合は、保管者は差押人との関係でも一定の法律関係を生じることになる(1962 条)。
(9) 終身定期金(rente viagère)
フランス民法典は第 3 編第 12 章「射倖契約(contrats aléatoires)」(1964~1983 条)の中で、終身定期金契約に関する規定を置いている。第 12 章の目次は以下のとおりである。
第 1 節 競技及び賭事 第 2 節 終身定期金契約
終身定期金契約に関して規定がある点では日本の民法典と同じであるが、フランス民法典では、「射倖契約」というより上位概念が観念され、終身定期金はその下位類型とされている点が重要な違いである。射倖契約とは、「等価物(équivalent)が当事者のそれぞれにとっての不確実な出来事による利得又は損失の機会に存する」契約(1104 条 2 項)ないし「あるいは当事者の全てにとって、あるいはそのうちの一又はxxにとって、利益及び損失に関する効果が不確実な出来事に関わる相互的な合意」であり(1964 条 1 項)、実定契約(「当事者のそれぞれが自己に与えられるもの、又は自己に対して行われるものと等価とみなされるものを与え、または行うことを約する」契約(1104 条 1 項))と対置される概念である。
39 Dalloz rép. civ. Vo Séquestre, no1, p.1, 1975.
40 係争物寄託の沿革につき簡潔に述べるものとして、J. Xxxx-Xxxxxx, X. Cl. Art. 1955 à 1963, Séquestre, fasc.10, nos1-3, p.3, 2006.
41 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no902, p.524.
学説では、射倖契約の一般理論が展開されることも多い42。保険契約も射倖契約の一種とされているが(1964 条 2 項)、民法典では、射倖契約のうち、終身定期金(第 2 節)と「競
技(jeu)及び賭事(pari)」(第 1 節)のみについて具体的な規定が設けられている。
競技及び賭事については3(4)で扱う。終身定期金に関しては、民法典上の定義規定はないが、一般に、定期金(rente)とは、定期的な給付を目的とする債権をいい、その期間が人の生存の期間に制限されるものが終身定期金と呼ばれる43。その特徴は継続性・扶助性・不確実性にあり、終身定期金契約の要件・効果はこの観点から説明される44。日本の民法典における終身定期金契約に関する規定よりも詳細な規定がおかれている。
(10) 委任(mandat)
フランス民法典第 3 編第 13 章は「委任」について規定する(1984~2010 条)。目次は以下のとおりである。
第 1 節 委任の性質及び形式第 2 節 受任者の義務
第 3 節 委任者の義務
第 4 節 委任が終了するさまざまな仕方
委任に関しては、他の役務提供型の契約とともに、4で検討する。
(11) 和解(transaction)
フランス民法典第 3 編第 15 章は「和解」について規定する(2044~2058 条)。
和解は、「当事者が[すでに]生じた争いを終了させ、または[将来]生じる争いを予防する契約」であると定義され(2044 条 1 項)、要式行為とされている(同条 2 項)。和解能力(2045 条)、和解の効力(2048 条以下)等に関して詳細な規定がおかれている。
3 日本の民法典には設けられていない典型契約
(1) 総説
フランス民法典に規定されている典型契約のうち、不動産開発契約、不分割の権利の行
42 教科書レベルで最も詳細な説明を行う A. Bénabent, supra note 33, nos1310 et s., pp.613 et s.によれば、射倖契約は「不確実性(aléa)」の存在によって特徴付けられ、射倖契約との性質決定により、①レジオン、②錯誤、③担保責任が排斥されるという。なお、フランスの射倖契約論に関する邦語文献として、xxxx「射倖契約における損益の不確実性」慶應大学法学政治学論究 51 号 299 頁以下(2001 年)、同「射倖契約における主観的偶
然性と客観的偶然性」同 53 号 227 頁以下(2002 年)、同「射倖契約におけるコーズの法理」
神院 34 巻 3 号 223 頁(2005 年)、同「西欧法における射倖契約の歴史について」法学雑誌
タートンヌマン 12 号 85 頁以下(2010 年)がある。
43 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no990, p.583.
44 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no992, p.584.
使に関する合意、(射倖契約のうちの)競技及び賭事、信託、仲裁は、日本の民法典には対応する典型契約が設けられていないものであるといえる。
(2) 不動産開発契約(promotion immobilière)45
1971 年 7 月 16 日の法律第 579 号によりフランス民法典第 3 編第 8-1 章に創設された契
約である。その後、1972 年 7 月 11 日の法律第 649 号による改正がなされている。
(i) 背景・沿革
不動産開発契約が民法典に規定される以前から、フランスにおいては、「(不動産)開発者(promoteur)」の原型ともいえる職業者が存在していた46。すなわち、相次ぐ世界大戦による住宅危機等を背景として、集合住宅建築のニーズが高まっていたところ、住宅の購入希望者と建築技術者との間に立って仲介を行う者が現れ始め、ある土地を取得して購入希望者を募りつつ、建築士・建築業者等をアレンジして不動産の建築・分譲計画を実現することを業として行うという取引が次第に確立していった。
このような取引においては、どのような法形式によって(開発者がどのような法的地位に立つ者として)それを実現するかが重要な問題となる。初期においては、いわゆる「グルノーブル方式」(開発者が土地を取得して、それを割合的に購入希望者に譲渡しつつ、建築の実現のための委任をとりつける)が活用されたが、共有の規律の不都合性((3)(i)参照)もあり、衰退していった。それに代わって行われるようになったのが、「サービス提供契約 (contrat de prestation de services)」と呼ばれるものである。これは、開発者が、不動産開発に関する仕事の賃貸借を行う(場合によっては委任の要素も付随する)という法形式を採るものであるが、開発者がいかなる結果保証も担保責任も負わない点で、取得者を不利な立場に置くことが問題視されるようになった47。
1971 年 7 月 16 日の法律第 579 号は、民法典に不動産開発契約という契約類型をおくことにより、従来行われてきた契約実務とは異なる法形式を提示する一方で48、建築・住居法典におけるさらなる規律により、一定の場合には、役務提供契約を禁止し不動産開発契約
45 フランスの不動産開発契約に関する邦語文献として、xxxx「フランス法における『xx者の責任』(1)(2・完)」成蹊 31 号 238 頁以下、32 号 166 頁以下(1990-1991 年)、xx・前掲注(7)112-114 頁がある。
46 不動産開発契約の沿革については、H. Périnet-Marquet, Dalloz rép. civ. Vo Promotion immobilière, 1995, nos2 et s., p.2 ; P. Xxxxxxxx et X. Xxxxxx, X. Cl. Art.1831-1 à 1831-5, fasc.1, Contrat de promotion immobilière, 1990, nos16 et s., pp.4-5. また、xx・前掲注 (16)1104 頁以下にも有益な記述があり、本報告書もこれに多くを負う。
47 1954 年 11 月 10 日のデクレ(2(3)(ii)ア参照)も、適用範囲が限られていたため、有効な規制を行うためには限界があったとされる。
48 F. Collart-Dutilleul et Ph. Delebecque, Contrats civils et commerciaux, 8e éd., Dalloz, 2007, no703, pp.609-610 は、不動産取引以外においても参照モデルとなる可能性を示唆する。また、xx・前掲注(7)115-116 頁は、不動産開発契約の制度性的性格を指摘する。
を義務化して、取得者の保護を図ったものである。もっとも、不動産を売却する者は不動産開発契約の締結を義務付けられないため、なお「サービス提供契約」の実務が容認されている。その結果、不動産開発者は自ら土地を取得することで不動産開発契約を免れようとする傾向にあり、不動産開発契約の利用者は土地及び資本を持たない零細な業者に限られるとの指摘もなされている49。このことはまた、そうした零細業者が市場から締め出されることにもつながりえよう。
(ii) 規定の内容
① 定義等
不動産開発契約とは、「『不動産開発者』と呼ばれる者が、合意された価格で、請負契約の方法によって一又は数個のxx物の建築計画の実現にあたらせる義務を仕事の注文者に対して負う、共通の利益を有する委任」であると定義される(1831-1 条 1 項)。不動産開発者が「建築契約の実現にあたらせる義務」を負う一方、注文者は、注文者は、開発者の任務について報酬を支払う義務を負う(同条項)。
不動産開発契約は、不動産開発者が注文者に対し建築計画の実現という事実行為を約束する点で請負契約であるが、第三者との間で法律行為を行う権限を有する点では委任契約であるともいえ、両者が混合した特殊な契約であるといえる50。なお、不動産開発者は自ら建築計画上の業務の一部を担うことができるが、その場合、不動産開発者は請負人としての義務を負う(1831-1 条 2 項)。
② 民法典上の規律
民法典上、以下の規定が設けられている。
第一に、不動産開発者の権限。不動産開発者は、建築物の所有者となることを欲する注文者のために、第三者との間で種々の法律行為(土地の取得、不動産の売買、建築士との契約、借入れ等)を行う権限を有する(1831-2 条)。
第二に、不動産開発者の担保責任。不動産開発契約の規律に特徴的なのは、不動産開発者は重い担保責任を負うという点である。通常の委任契約では、受任者が第三者と契約した場合、当該第三者の債務の履行について担保責任を負うことはないが、不動産開発契約ではそれが課されている(1831-1 条)。そして、その内容は、建築者等に課せられる担保責任51と同一である(1831-1 条 1 項が 1792 条ないし 1792-3 条を準用する)。
第三に、不動産開発契約の譲渡。注文者は不動産開発者の同意なく不動産開発契約を譲渡することができるのに対し(1831-3 条 1 項・2 項)、不動産開発者は注文者の同意がなけ
49 Ph. Xxxxxxxxx et Ph. Jestaz, supra note 18, no501, p.401 は、不動産開発契約が土地及び資本を持たない零細業者の「たまり場(refuge)」となることを危惧する。
50 不動産開発契約の性質決定に関しては、A. Bénabent, supra note 33, nos738-739, p.344 ; Ph. Xxxxxxxxx et Ph. Jestaz, supra note 18, no502, p.401 等を参照。
51 建築者の瑕疵担保責任の規律に関しては、注(123)を参照。
れば不動産開発契約を譲渡することができない(同条 3 項)。不動産開発契約は、片面的に
「人的考慮(intuitu personae)」に基づく契約であるということになる。
第四に、不動産開発契約の終了。ⅰ開発者の任務は、仕事の引渡しによっては完了せず、注文者・開発者間での建築の計算の完了によって初めて完了する(1831-4 条)。ⅱ裁判上の整理等は、不動産開発契約の解除を法律上当然にはもたらさない(1831-5 条)。
③ 建築・居住法典上の規律
建築予定不動産の売買と同様に、不動産開発契約に関しても、建築・住居法典において、民法典の規定が再掲されているほか(L.221-1 条ないし L.221-5 条)、居住目的又は営業目的かつ居住目的の不動産(「保護部門」)に関する特則が定められている。
主なものを挙げれば、ⅰ居住目的又は営業目的かつ居住目的の不動産を建築させる義務を負う者は、売主又は請負人の資格を有する場合を除いて、民法典 1831-1~5 条の規定に従う(不動産開発契約の締結が強制される)。ⅱ不動産開発契約の締結に際して、一定の記載事項を備えた書面の作成が要求される。ⅲ契約締結前に不動産開発者は注文者に対していかなる金銭の払い込みも要求できない。ⅳ仕事の代金及び報酬の支払い方法に関する規律が定められている。ⅴ不動産開発者の義務履行の担保に関する規律が定められている。なお、こうした規律は強行規定である。
(3) 不分割権利の行使に関する合意(conventions relatives à l’exercice des droits indivis)52
1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号によりフランス民法典第 3 編第 9-1 章に創設された契約である。
(i) 背景・沿革53
1804 年のフランス民法典は、多数の者が同一の物に対して同種の権利を有するという状況(典型的には、共同所有)を、積極的に評価していなかった。こうした状況が一切想定されていなかったわけではないが54、不分割(indivision)ないし共有(copropriété)に関する一般的規律を定めていたわけでもない。むしろ、相続の章に置かれた旧 815 条 1 項が、「いか
52 フランスの不分割に関する邦語文献として、xxx「共同相続財産の包括性に関する一考察」九法 42 号 163 頁以下(1981 年)、xxxxx「《indivision》の制度的編成について」xxxx先生古稀記念『東西法文化の比較と交流』449 頁以下(有斐閣、1983 年)、xxxx「共有者間の法律関係(4・完)」法協 102 巻 7 号 1322 頁以下(1985 年)がある。
53 不分割の沿革に関しては、F. -X. Tetsu, Dalloz rép. civ. Vo Indivision, 1997, nos15 et s., pp.4 et s. また、不分割権利の行使に関する合意の沿革に関しては、M. Xxxxxxx, X. Cl. Art. 1873-1 à 1873-18, fasc.50, Conventions relatives à l’exercice des droits indivis, nos4 et s., pp.4 et s.
54 建物を分離する壁等のxx(mitoyenneté)に関する 653 条以下等。Ch. Larroumet, Droit
civil. Les Biens, Droits réels principaux, t.2, 5e éd., Economica, 2006, no695, pp.397-398.
なる者も、不分割にとどまることを強制することができない。分割は、禁止及び反対約定に関わらず、常に提起することができる」と規定していたことに象徴的に表れているように、共同所有の状況は、避けられない場合に一時的にのみ成立するものであり、いつでも個々人の所有権に分割されること(所有権の個人性)が前提とされていたといえる。
しかし、民法典成立後、土地の希少化、人口増加、社会経済的な発展を背景として、費用のかかる個人所有ではなく、多人数で物を共同所有することへのニーズが高まっていく。建物に関しては、早くから立法による個別的な対応がなされてきた。このような状況下で、民法典上、非常に不安定なものとして想定されていた不分割に関し、より長い期間における維持を認め、その組織の方法について定めたのが、1976 年 12 月 31 日の法律55である。
同法は、不分割一般に関する規律を 815-1 条以下に設けた(相続・恵xxの 2006 年の大改
正において不分割の規律も一部改正され、不分割財産の管理に関してさらに団体性が強められた)。のみならず、不分割権利者自身が不分割を合意によって組織する方法を定めたのが 1873-1 条以下である56。以上のように、典型契約の一つとしての「不分割権利の行使に関する合意」は、フランスにおける共同所有法の展開の一局面として位置付けられる。
(ii) 規定の内容
不分割財産の管理一般に関してみたうえで、「不分割権利の行使に関する合意」についての民法典上の規定を概観しよう。
① 不分割財産の管理一般
前提として、各不分割権利者は、他の不分割権利者の権利と両立する範囲において不分割財産57を個人的に使用・収益する権利を有するのみならず(815-9 条)、不分割を維持す
55 D. Xxxxxx, Le droit de l’indivision (Commentaire de la loi no76-1286 du 31 décembre 1976 relative à l’organisation de l’indivision, D.1977, chron.221. ; M. Dagot, L’indivision (Commentaire de la loi du 31 décembre 1976), JCP 1977.I.2858 et 2862.
56 もっとも、1976 年法以前においても、不分割権利の行使に関する合意に関する規律が存在しなかったわけではない。旧 815 条 2 項は、分割自由の原則(同条 1 項)に続けて、当事者が不分割の状態を維持する旨の合意の効力を 5 年に限って認めていた。この合意において不分割の組織方法を約定することは妨げられなかったとも考えられるが、いずれにせよ、1976 年法は、種々の規定を設けることで不分割権利の行使に関する合意を使いやすくする意義があったといえる(M. Xxxxxxx, supra note 53, no4, pp.4-5)。
57 不分割財産の構成要素は、積極財産と消極財産に分かれる。
まず、積極財産に関していえば、不分割財産は、不分割の期間の間に増大することはな い。ただし、不分割財産の代位物は物的代位の効果により不分割財産を構成し(815-10 条 1 項)、不分割財産の果実は分割の合意がない場合には不分割財産を構成する(同条 2 項)。なお、不分割財産の管理を行う不分割権利者は、純益を返還する義務を負う代わりに、報 酬を得る権利を有する(815-12 条)。
消極的財産に関していえば、各不分割権利者の個人的債権者は、不分割財産における各権利者の持分を差押えることができず(815-17 条 2 項)、分割の請求ができるのみであるが
(同条 3 項)、不分割が生じる前の債権者及び不分割財産の保存・管理から生じる債権の債
る合意等がない限り、不分割財産の分割を請求できる(815 条)。不分割財産に関する権利を認めつつ、分割が自由であるという原則がとられているわけである。
では、このような不分割財産の管理は、どのようにして行われるのか。1976 年法は、ⅰ各不分割権利者による単独での保存行為を認める一方(旧 815-2 条)、管理行為には不分割
権利者全員の同意を必要とする伝統的な原則を維持した(旧 815-3 条)。もっとも、2006
年 6 月 23 日の法律第 728 号は、ⅰ保存行為に緊急性が必要ない旨を明示するとともに(現
815-2 条)、ⅱ3 分の 2 の多数により管理行為が行えるという規律を採用し(現 815-3 条 1
項 1 号)58、全員一致の原則を破棄した。ただし、ⅲ不分割財産の通常の利用に属さない行
為及び処分行為(815-3 条 1 項 3 号に規定するものを除く)に関しては、全不分割権利者の
同意が依然として要求される(同条 3 項)。なお、例外的に、不分割権利者が裁判所の許可を得て一定の行為を行いうることも規定されている59。
② 不分割権利の行使に関する合意
以上のように、一般の不分割財産の場合、(2006 年法改正により管理行為に関する全員一致の原則が部分的に破棄されたとはいえ、依然として)個々の不分割権利者による分割請求が可能である。それゆえ、不分割権利者は、不分割財産の管理に不満がある場合には、分割請求を行って不分割から離脱すればよい。
しかし、1976 年法は、不分割権利者間の権利行使に関する合意により、不分割財産の管理を組織化する(不分割の状態を維持しやすくする)ことを認めた。具体的には、以下の行為が可能とされている60。
第一に、不分割にとどまる旨の合意(1873-2 条 1 項)。この合意には、書面の作成が必要とされる(同条 2 項)61。特定期間又は不特定期間について締結することができ、不特定期間の場合は、「悪意又は時宜に適さない」ものでない限り分割請求が認められるが(1873-3条 2 項)、特定期間(5 年以内)の場合、正当な理由がなければ分割請求できない(同条 1
項)62。特定期間についての不分割合意を黙示に更新する旨の合意も認められる(同条 3 項)。
権者は、分割の前に不分割財産から支払いを受けることができる(同条 1 項)。
58 管理行為のみならず、不分割権利者や第三者への管理の委任、不分割の債務を支払うための不分割動産の売却、一定の賃貸借の締結も、3 分の 2 の多数により行える(815-3 条 1項 2 ないし 4 号)。
59 ⅰ不分割権利者の一人が意思を表明することができない場合におけるその者の代理
(815-4 条)、ⅱ他の不分割権利者の拒否が共通の利益を危険にさらす場合における単独での行為(815-5 条)、ⅲ不分割財産の譲渡(815-5-1 条)59、ⅳ共通の利益が要求するすべての緊急の措置(815-6 条)である。
60 「不分割権利の行使に関する合意」に関する規定は、用益権者が存在しない場合(1873-2条以下)と用益権者が存在する場合(1873-16 条以下)とに分けられている。後者は、前者に一定の修正を加えたものである。本文では、前者についてのみ扱う。
61 当事者が、能力及び不分割財産の処分権限を備えていることも必要である(1873-4 条 1
項)。
62 なお、通常の不分割の場合には、不分割権利者の個人的債権者は(持分の差押えはでき
第二に、不分割財産の管理者の選任(1873-5 条 1 項)63。管理者は不分割権利者であっても第三者でもよく、一人でも複数64でもよい(同条項)。管理者は、裁判外・裁判上の行為につき、権限の範囲内で不分割権利者を代表する(1873-6 条 1 項)。管理者は不分割財産の管理行為を行う権限を有する(同条 2 項)65。それに対し、管理者の権限を越える決定は、不分割権利者の全員一致で行われる(1873-8 条 1 項)。管理者は報酬を受ける権利を有し
(1873-10 条 1 項)、その事務処理について受任者と同様の責任を負う(同条 2 項)66。 第三に、不分割権利者の一人の死亡の際の持分の帰趨に関する合意。生存不分割権利者
に帰属する旨、又は、死亡不分割権利者の相続人が分与を請求できる旨の合意をすることができる(1873-13 条 1 項)。
以上のように、1976 年法は、不分割にとどまる旨の合意、管理者の選任、持分の帰趨に関する合意を行うことができ、「共有の意思(affectio communionis)」に裏付けられたものといえる。こうした性格は、組合契約におけるそれ(「組合の意思(affectio societatis)」)に近いものといえ、「不分割権利の行使に関する合意」が組合契約のすぐ後ろにおかれたのも、このことと無縁ではない。しかし、その規律は必ずしも当事者にとって十分なものとはいえないために(法人格が与えられない等)ほとんど用いられず、(1978 年 1 月 4 日の法律により改正され使い勝手が良くなった)民事組合の手法のほうが好まれているという指摘がなされる67。
(4) 競技(jeu)及び賭事(pari)
(i) 背景・沿革
フランス民法典の原始規定から、第 3 編第 12 章「射倖契約」の中のひとつとして規定さ
ないものの)分割請求ができるが(815-17 条 3 項)、不分割の合意があることにより当該不分割権利者が分割請求できない場合には、債権者も分割請求できない(1873-15 条 2 項)。他方、不分割財産の債権者は、不分割の合意の有無に関わらず、不分割財産の差押えができる(815-17 条 1 項・1873-15 条 1 項)。
63 管理者の指名及び解任に関しては、ⅰその方法について全員一致で決定することができる(1873-5 条 1 項)。ⅱ指名・解任方法につき全員の一致がない場合には、不分割権利者の中から選ばれた管理者を解任するには全員一致が必要である(同条 2 項)。第三者から選ばれた管理者の場合は、不分割権利者間の合意がない限り、人数及び持分の過半数で解任が可能である(同条 3 項)。ⅲどのような場合であっても、管理者がフォートにより不分割の利益を危うくする場合には、裁判所に請求して解任することが可能である(同条 4 項)。ⅳ不分割権利者から選ばれた管理者が解任された場合、その不分割は不特定期間についてのものとみなされる(同条 5 項)。
64 管理者複数の場合は、さらに、管理の方式を定めることができる(1873-9 条)。
65 不分割権利者の中に無能力者が存在する場合でも管理行為の権限を有する(1873-7 条 1
項)。
66 管理者及び各不分割権利者の義務に関して、さらに規定が定められている(1873-11 条)。それによれば、管理者は、事務処理に関する報告義務を負い(同条 1 項)、各不分割権利者は、保存費用分担義務を負う(同条 2 項)。
67 Ph. Malaurie et L. Aynès, Droit civil. Les biens, 3e éd., Defrénois, 2007, no697, p.216.
れている契約である。
後述するように、フランス民法典の規定は、勝者の訴権も敗者の訴権も認めないことにより、競技及び賭事に対して冷淡な立場を採っている。こうした立場を理論的に説明することは難しいとされ、沿革による説明がなされている68。すなわち、ギリシャ法、ローマ法及びフランス古法においては、競技及び賭事は原則として禁止されていたところ、民法典の起草者においても、それらは道徳を乱す危険なものであるとの認識が強く、勝者・敗者いずれの訴権も認められないとすることで、禁止はしないまでもそれらを法の外においた。
もっとも、民法典成立後、競技及び賭事をめぐる状況は著しく変化している。それらに対する人々の欲求もさることながら、国家の財源としての重要性が認識され、国家の統制が及ぶ一定の競技・賭事が次第に合法化されていった。一方で、投機的取引、たとえば株式取引は、期日指定取引(marché à terme)としてなされる場合には賭事の性質を帯びるが、 1885 年 3 月 28 日の法律により、後述の 1965 条の適用が排除された。他方、余暇の賭事に関しても、競馬(1891 年)、カジノ(1907 年)、宝くじ(1933 年)等が合法化され、これらに関し、やはり 1965 条の適用は排除されるものと解されている69。
(ii) 規定の内容
「競技」及び「賭事」に関する定義はフランス民法典上なされていないが、前者は当事者が賭けの対象となる事柄に関与したうえで、敗者が勝者に金銭その他の物を支払う契約、後者はある出来事の実現により勝者・敗者が決まり、敗者が勝者に金銭その他の物を支払う契約であると理解されている。競技にせよ賭事にせよ、契約当事者は、xx(利得)のチャンスを有する一方で、敗北(損失)のリスクを有する点に本質的特徴がある70。
フランス民法典における競技及び賭事に関する規定は、勝者の訴権に関するものと敗者の訴権に関するものとに大別される。
まず、勝者の訴権に関しては、原則として認められない旨が規定されている(1965 条)。しかし、これに対しては例外が設けられ、一定の競技には勝者の訴権が認められうる(1966条 1 項)。ただし、裁判所が金額を過大と判断すれば請求は排斥されうる(同条 2 項)。
次に、敗者の訴権(支払ったものの返還請求)に関しても、原則として認められない旨
68 P. -H. Antonmattei et J. Xaxxxxx, supra note 33, no548, p.411 ; A. Bénabent, supra note 33, no1353, p.634.
69 競馬につき、Civ. 1re, 19 févr. 1963, JCP 1964.II.13475, note J. Maxxxxx ; Ch. mixte, 14 mars 1980, G.P.1980.1.290, concl. Roxxx ; Civ. 1re, 31 janv. 1984, D.1985.40, note Xxxxxx ; Civ. 1re, 20 juill. 1988, Bull. civ. I, no257. もっとも、競技・賭事に付随してなされる取引(カジノでの金銭貸借等)に関しては、依然として 1965 条が適用される(Civ. 1re, 31 janv. 1984, préc. ; Civ. 1re, 20 juill. 1988, préc.)。
70 利得のチャンスと損失のリスクがともに存在しなければ、競技・賭事とは性質決定されない。たとえば、損失のリスクが存在しないコンクールは、競技・賭事ではない。また、利得のチャンスがない場合には、恵与(liberalité)にすぎない(A. Bénabent, supra note 33, no1362, p.634)。
が規定されている(1967 条本文)。もっとも、勝者の側に詐欺等があった場合には、認められる(同条但書)。
なお、これらの規定は、競技・賭事の契約自体のみならず、その仲介契約に関しても適用されるものと考えられている71。
(5) 信託(fiducie)72
2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号によりフランス民法典第 3 編第 14 章73に創設された契
約である74。その後、2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号による改正がなされている75。
(i) 背景・沿革
フランスにおいては、2007 年に至るまで、信託の制度は長らく実現されなかった。もっとも、そのニーズがなかったわけではなく、むしろ待望されていたといってよい76。それまでも、信託の立法提案が幾度かなされてきた。まず、1980 年代末から 1990 年代初めにかけて信託法草案が起草され77、議会に提出されたが(1989 年・1992 年)、審議に付される
71 P. -H. Anotonmattei et J. Xaxxxxx, supra note 33, no551, p.412.
72 フランス民法典の信託に関する邦語文献として、xxxx「フランス信託法の制定について」千葉 22 巻 1 号 87 頁以下(2007 年)、xxxx「フランス信託法の形成過程」xx 19 巻 1=2 号 95 頁以下(2008 年)、クリスティアン・ラルメ(xxxxx)「フランス信託法の制定―2007 年 2 月 19 日の法律」信託 235 号 49 頁以下(2008 年)、ピエール・クロック(xxxxx)「フランス民法典への信託の導入」法研 81 巻 9 号 93 頁以下(2008 年)、xxx「フランス信託法の基本構造」名法 227 号 597 頁以下(2008 年)、クリスティアン・ラルメ(xxxxx)「信託に関する 2007 年 2 月 19 日の法律(フランス)」立教法務研究 2 号 63 頁以下(2009 年)がある。
73 第 14 章にはもともと「保証(cautionnnement)」が規定されていたが、2006 年 3 月 23日のオルドナンス第 346 号に基づく担保法改正により第 4 編に規定が移動し、空文となっていた。
74 2007 年法に関しては、Dossier. La fiducie, D.2007, pp.1346 et s. ; Dossier. Fixxxxx, JCP 2007, no36, pp.4 et s. ; P. Boxxxxxxxx, Loi no2007-211 du 19 février 2007 instituant la fiducie, JCP éd. E. 2007.1404 ; G. Blxxxxxx xt J -P. Le Gall, La fiducie, une œuvre inachevée. Un appel à une réforme après la loi du 19 février 2007, JCP 2007.I.169.
75 2008 年改正に関しては、R. Daxxxxx xt G. Xodeur, Le nouveau paysage du droit des sûretés : première étape de la réforme de la fiducie et du gage sans dépossession, D.2008, p.2300 ; M. Grxxxxxx xt R. Xaxxxxx, La fiducie sur ordonnances, D.2009, p.670.
76 2007 年法以前の法状況及び立法動向に関する邦語文献として、xxxx「フランスにおける『信託』序説」信託 135 号 13 頁以下(1983 年)、同「Clxxxx Xxxx xの fiducie(信 託)論」信託法研究 11 号 77 頁以下(1987 年)、xxxx「フランスの信託法草案(紹介)」信託 164 号 30 頁以下(1990 年)、xxxxx「フランス信託法草案について」ノモス 2 号 319 頁以下(1992 年)、xxxx「フランスにおける fiducie(信託)立法の試み」比較法研究 55 号 138 頁以下(1993 年)、xxxx「フランスにおける信託の動向―信託法制定を中心として」信託法研究 18 号 53 頁以下(1994 年)、大村・前掲注(7)114-115 頁、xxx x「大陸法系における信託の可能性?―フランスにおける信託(fiducie)の動向」xxxx『高齢社会における信託と遺産承継』135 頁以下(日本評論社、2006 年)がある。
77 同法案に関しては、M. Grxxxxxx, La fiducie : réflexions sur l’institution et sur
ことはなかった。その理由は、政治的な推進力が乏しかったことのほか、税制上の懸念が存在したことにあるといわれる78。続いて、1993 年から 1996 年にかけて新たな草案が起草され、(通常は恵与することがない)法人のみが設定者(委託者)たりうるとすることで税制上の懸念を払拭することが試みられたが、法務大臣によって異議が提起され、やはり議会審議にかけられることはなかった。信託の制度が存在しない中、実務上は、既存の法理の枠内での工夫が試みられていた79(金銭に対する質権の設定や、ダイイ法(1981 年 1 月 2 日の法律第 1 号)に基づく債権の信託的譲渡等)。
フランスにおいて長らく信託が実現しなかった理由としては、信託制度に対する様々な危惧が存在したことが挙げられる80。前述の税制上の懸念のほか、恵与(liberalité)に関する既存の法秩序を損なうのではないか、所有権の絶対性(544 条)の原則に反するのではないか(目的に拘束される所有権は許されないのではないか)、資産(patrimoine)の唯一性の原則に反するのではないか(受託者に固有財産と信託財産という二つの資産を認めてよいか)
81といった実体法的な懸念が根強く存在していた。
以上のような問題を抱えつつ、2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号82により、民法典に新たな契約類型が規定されるという形で、信託制度が導入されることとなった。その母体となったのは 2005 年に元老院議員フィリップ・マリニが元老院に提出した法案であるが、最終的に成立するまでには、政府による大幅な修正が加えられた。その過程では、とりわけ、信託契約の当事者たる資格をどのような者に認めるかが大きな問題として意識され、法案段階では特段の限定を設けていなかったのに対し、最終的に、設定者の資格を一定の法人に限定し、受託者の資格を一定の金融機関等に限定するという解決が採用された。もっとも、2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号83により、こうした限定は緩和されるに至っている。
l’avant-projet de loi qui la consacre, Défrenois 1991, art.35085 et 35094.
78 F. Barrière, La fiducie. Commentaire de la loi no2007-211 du 19 février 2007 (première partie), Bull. Joly 2007, p.440.
79 xx・前掲注(72)101 頁以下を参照。また、xx・前掲注(76)137 頁以下は、「無償処分を通じた財の最終的な配分を柔軟にする手段としての信託」及び「受益させたい者の判断力不足を補うための信託」という二つの場面に関し、信託という制度を有していなかったフランスで採られていた法律構成を検討する。
80 以下の記述に関しては、xx・前掲注(72)603 頁以下を参照。
81 xxxx「財産―人と財産との関係から見た信託」NBL791 号 16 頁以下(2004 年)参照。
82 2007 年法に関しては、Dossier. La fiducie, D.2007, pp.1346 et s. ; Dossier. Fixxxxx, JCP 2007, no36, pp.4 et s. ; P. Boxxxxxxxx, Loi no2007-211 du 19 février 2007 instituant la fiducie, JCP éd. E. 2007.1404 ; G. Blxxxxxx xt J -P. Le Gall, La fiducie, une œuvre inachevée. Un appel à une réforme après la loi du 19 février 2007, JCP 2007.I.169.
83 2008 年改正に関しては、R. Daxxxxx xt G. Xodeur, Le nouveau paysage du droit des sûretés : première étape de la réforme de la fiducie et du gage sans dépossession, D.2008, p.2300 ; M. Grxxxxxx xt R. Xaxxxxx, La fiducie sur ordonnances, D.2009, p.670.
(ii) 規定の内容
① 定義等
信託は、「一人又は複数の設定者が、物、権利若しくは担保又は現在及び将来の物、権利若しくは担保全体を一人又は複数の受託者に移転し、この者が、これらを自己の固有財産と分別して保有し、定められた目的のもとに一人又は複数の受益者のために管理する取引」と定義される(2011 条)。
所有権移転型の契約である点で売買や交換と共通するが、それらとは異なり、所有権移転が特定の目的のもとになされ、受託者は所有権者としての物に対する完全な権能を行使できるわけではなく、当該目的の範囲内でそれを行使するにすぎない点が特徴的である。それゆえ、受託者は当該財産を取得するわけではなく(代金支払義務も生じない)、受託者の固有財産とは異なる財産(信託財産)が受託者に帰属することになる。このことから、信託の本質は、目的財産(patrimoine d’affectation)の創出にあるといわれる。
② 信託の成立
信託の成立に関しては、以下の規定が設けられている。
第一に、設定方法。法律又は契約により設定される(2012 条 1 項)。遺言による信託は認められていない。
第二に、目的。信託契約は、受益者のための恵与の意図でなされた場合には、強行的に無効である(2013 条)。恵与に関する法秩序との衝突を避けるためである84。
第三に、当事者。2007 年法においては、設定者(委託者)及び受託者の資格が限定されていた。すなわち、ⅰ法人税の課税を受ける法人のみが設定者たりえ(旧 2014 条)、ⅱ一
定の金融機関等のみが受託者たりえた(旧 2015 条)。その理由は、脱税防止(ⅰ)や背任防止(ⅱ)等にあったが、実務・学説からの強い批判を受け、2008 年法により、ⅰ設定者の資格要件は排除され(現 2014 条は空文)、ⅱ受託者の資格は弁護士業の構成員にも開か
れることとなった(現 2015 条 2 負う)。なお、ⅲ受益者の資格は制限されておらず、設定者又は受託者が受益者となることもできる(2016 条)。
第四に、対象。信託財産となりうるのは、「物、権利若しくは担保又は現在及び将来の物、権利若しくは担保全体」であるが(2011 条)、未xx者の物又は権利は信託財産に移転することはできないとされている(408-1 条)。
第五に、方式。一定のもの(夫婦間の共通財産、不分割財産)を対象とする信託契約には公証人証書が要求されるほか(2012 条 2 項)、全ての信託契約及びその追加的合意等は一定期間内に信託契約書を税務署に登録しなければ無効となることにより(2019 条 1 項)、
84 2006 年の恵xxの大改正により、段階的恵与及び残存物恵与が導入され、これらは、信託の目的を部分的に実現しうるものである(注(8)の文献を参照)。フランス法上、「信託」という制度に何を盛り込むか(何を期待してよいか)は、既存の法分野との関係が大きく影響してくる問題であることが分かる。
信託契約は実質的に要式契約となっている。また、その内容としては、2018 条所定の事項
(対象、期間、設定者、受託者、受益者、受託者の任務等)を定めなければ無効である。さらに、不動産に関わる信託契約やその追加的合意は公示されなければ無効である(2019条 2 項)。このように、(2008 年法による改正後も依然として)信託契約が有効に成立するためには厳格な形式が必要とされている。
③ 信託の効力
信託の効力としては、以下の内容が規定されている。
第一に、受託者の義務。受託者は、ⅰ信託契約で定められた目的のもとに信託財産を管理しなければならない(2011 条、2018 条 6 号)。また、ⅱ信託の計算で行為することを明示的に示さなければならない(2021 条 1 項)。さらに、ⅲ設定者又はその後見人に対して任務の報告をする義務を負う(2022 条)。受託者は、ⅳ任務の遂行について犯したフォートについては固有財産によって責任を負うものとされ(2026 条)、義務の違反により交代させられうる(2027 条)。
第二に、受託者の権限。第三者との関係では、受託者は、信託財産について一切の権限を有するものとみなされる(2023 条。ただし、第三者が権限の制限を知っていた場合にはこの限りでない)。
第三に、信託財産の性質。ⅰ信託財産は目的財産であるため、受託者のために校正、司法再生及び司法清算手続が開始されても、信託財産は影響を受けない(2024 条)。他方、ⅱ信託財産の保存又は管理によって生じた債権を有する者は信託財産を差押えることができる(2025 条 1 項)このとき、信託財産が十分ではない場合には設定者の財産が債権者の引き当てとなるが、受託者に負債の全部又は一部を負わせる旨の約定も可能である(同条 2項)。また、信託債務の引き当てを信託財産に限定することもできるが、そのためには債権者の承諾が必要であるとされる(同条 3 項)。
第四に、信託契約の変更・撤回。設定者は、受益者の承諾後は、受益者の同意又は裁判所の判決により、信託契約を変更又は撤回しうる(2028 条 2 項)。
第五に、信託の存続期間。目的財産の創出という特殊な所有権移転は一時的なものにすぎないとの理解のもと、信託の存続期間には制限が設けられている(2018 条 2 号により 99
年。2007 年法では 33 年だったが 2008 年改正により伸長された)。
④ 信託の終了
信託の終了に関しては、以下の規定が設けられている。
第一に、信託の終了事由。自然人たる設定者の死亡、期限の到来、期限到来前の目的の達成(2029 条 1 項)、受益者全員による放棄、受託者が司法清算手続・解散手続の対象となった場合、受託者が営業譲渡・吸収合併により消滅した場合、弁護士たる受託者が活動の一時禁止等を受けた場合(同条 2 項。ただし信託が存続するための要件を契約で定める
ことは可能)が挙げられている。
第二に、終了時の信託財産の帰趨。受益者がいなくなったことにより終了する場合には設定者に復帰し(2030 条 1 項)、設定者の死亡により終了する場合は相続財産に復帰する
(同条 2 項)。
(iii) 日本の信託法との比較
以上のようなフランス民法典における信託に関しては、フランス国内の学説により、財産管理の方法としても担保の方法としても使い勝手が悪いとの評価が下されている85。ここでは、日本の信託法との関係での特徴を整理しよう86。いうまでもなく、日仏の最も顕著な相違は、条文数であるが(フランス民法典は信託に関して 21 箇条しか設けておらず、271か条を有する日本の信託法と比べて非常に簡素である)、両者の違いは、量的なものにとどまらない。
第一に、フランスにおいては、信託の成立に多くの制約が課されている。設定者(委託者)たる資格の制限は撤廃されたものの、依然として受託者たる資格は制限されているほか、設定方法・目的の制限(遺言信託、恵与目的の信託の禁止)や、厳格な方式の要求が行われている。日本の信託法においても、受託者の資格の制限87や目的の制限88がみられるが、その性質はかなり異なる。フランスにおける制限には、他の法秩序(恵xx)との衝突を避けるべきとの考慮が見られる一方で、信託自体にいまだ懐疑的であり一種公的なコントロールを行おうとする態度も感じられる。もっとも、こうした制限が合理的かは別問題であろう。
第二に、フランスにおいては、信託の効力にも特徴が見られる。まず、ⅰ受託者の義務に関しての規定が日本と比べると少なく89、解釈に委ねられている部分が多い。また、ⅱx
85 たとえば、クロック・前掲注(72)論文は、ⅰ財産分離の不完全性(信託財産が不十分な場合は設定者が損失を被り、その例外規定も無意味であること)、ⅱ金融機関等以外の事業者は受託者になれないこと、ⅲ裁判所による受託者の権限の変更についての規定が不十分であること等を挙げて、財産管理方法として不十分である旨を、ⅳ営業譲渡・吸収合併により受託者が消滅した場合に信託が終了するとされていること、ⅴ信託担保の実行手続・公示手続が規定されていないこと等を挙げて、担保の方法として不十分である旨を説く。
86 前提として、信託概念の相違の有無が問題となるが、信託の定義に関しては、フランス民法典における定義規定(2011 条)と日本の信託法における定義規定(2 条 1 項・3 条各号)は、細かな文言の違いはあるにせよ、ともに、ⅰ一定の財産が受託者に移転され帰属すること、ⅱ受託者が、一定の目的に従って、当該財産の管理・処分等、その目的達成に必要な行為をする(義務を負う)ことという要素を備えており、差異はないといってよい。
87 未xx者、xx被後見人、被保佐人は受託者となることができない(7 条)。
88 もっぱら受託者の利益を図る信託(2 条 1 項)、脱法信託(9 条)、訴訟信託(10 条)はそれぞれ禁止される。
89日本の信託法は、信託の事務を処理する義務(29 条 1 項)を規定するとともに、善管注意義務(同条 2 項)、xx義務(33 条)、分別管理義務(34 条)、報告義務(36 条)、帳簿作成義務(37 条・38 条)、xx義務(30 条。その具体化としての利益相反行為の禁止(31条)、競合行為の禁止(32 条))といった受託者の具体的な義務を細かく規定している。ま
託財産が不十分な場合に、原則として受託者の財産ではなく設定者の財産が信託債務の引き当てとなるとされている点は、日本との大きな違いである。さらに、ⅲ信託の存続期間が明示されている点も特徴といえるだろう。そのほかにも、フランス民法典の信託に関する規定は、信託の効力に関わる規定が簡素である(受益者の地位に至ってはほとんど規定が存在しない)。その理由は定かではないが、ここにも信託という新規の法技術への消極性
(警戒感?)が表れているとみることもできよう。
第三に、信託の終了に関しては、受託者関連の終了事由が多く規定されていることが特徴的である。日本の信託法では、受託者が倒産しても新受託者への移行が予定され(56 条。受託者の任務終了事由にすぎない)、また受託者が不在の場合でも 1 年は信託が存続することが予定されている(163 条 3 号)。フランスにおいては、信託をなるべく存続させようという考慮が相対的に乏しいといえよう。
以上のように、日本の信託法と比較した際のフランス民法典における信託規定の特徴は、信託という法技術への消極性にあるといえる。今後の動向が注目される。
(6) 仲裁契約(compromis)90
1972 年 7 月 5 日の法律第 579 号によりフランス民法典第 3 編第 16 章91に創設された契
約である。1975 年 7 月 9 日の法律第 596 号及び 2001 年 5 月 15 日の法律第 420 号により規定が修正されている。
(i) 背景・沿革92
フランスにおいては、古法の時代から仲裁が行われてきた93。裁判所による裁判に対して
た、旧信託法において規定されていた自己執行義務は排除されたが、信託の事務を第三者に委ねる場合のルールが規定されている(35 条)。
90 フランスの仲裁一般(国際仲裁を除く)に関する邦語文献として、xxxx「フランス法における仲裁の意義及び法的性質」阪経法 38 号 173 頁以下(1997 年)、同「フランス法における仲裁合意の問題点」大阪経済法科大学法学研究所紀要 26 号 4 頁以下(1998 年)、同「フランス法における仲裁契約及び仲裁条項」阪経法 40 号 43 頁以下(1998 年)、xxxxx・xxxx(xxxx)「フランス法における仲裁契約」慶應法学 10 号 347 頁以下
(2008 年)がある。
91 第 16 章にはもともと「民事拘留(contrainte par corps en matière civile)」が規定されていたが、1867 年 7 月 22 日の法律により規定が削除され、空文となっていた。
92 フランス仲裁法の沿革についての文献として、X. xx Xxxxxxson, Le droit français de l’arbitrage, GLN-éditions, 1990, nos5 et s., pp.19 et s. ; D. Xxxxx, X. Cl. Art. 2059 à 2061, Arbitrage, fasc.10, nos17 et s., pp.12 et s. 民法典における仲裁契約という観点から検討を行う文献として、Th. Xxxx, Une erreur de codification dans le Code civil : Les dispositions sur l’arbitrage, in 1804-2004. Le Code civil. Un passé, un présent, un avenir, Dalloz, 2004, pp.693 et s.
93 邦語文献として、xx・xxxxx(xxxx訳)「12 世紀から 15 世紀のフランスの仲
裁」広法 30 巻 3 号 157 頁以下(2007 年)、同「16 世紀から 18 世紀のフランスの仲裁」広
法 30 巻 4 号 129 頁以下(2007 年)がある。
二次的な位置付けではあったものの、一定の分野では仲裁が法律上強制されることもあった。革命期においては、仲裁は、裁判よりも自由やxxの思想をよりよく体現したものであると理解され、1790 年 8 月 24 日の法律では94、裁判所による裁判よりも優れたものであるとの考えのもと95、司法制度の中で非常に重要な地位を占める制度として認められた。
それに対し、1806 年に成立した民事訴訟法典においては96、仲裁は一つの章を与えられたものの、革命期のような仲裁重視の考え方は採られなかった。仲裁は国家司法による担保を当事者から奪うものとして警戒され、意思自律の原理の帰結として契約の一つとして消極的に承認されるにとどまった。19 世紀における法状況も以上の観点から説明されうる。一方で、すでに生じている紛争に関する仲裁合意である仲裁契約(compromis)に関しては、当事者が仲裁判断の結果を容易に予測でき危険性が少ないゆえに、その効力は緩やかに認められる傾向にあった97。他方で、紛争が生じていない段階で行われる仲裁合意である仲裁条項(clause compromissoire)に関しては、当事者が熟慮せずに締結してしまう危険性から、効力を否定された。すなわち、破毀院民事部 1843 年 7 月 10 日判決は、仲裁条項は仲裁契約とは異なり、定義上紛争がxxxxxていないことを前提とするため、紛争の対象を十分に明確に示していないとして、仲裁条項は無効であるとし98、この判例法理は長く踏襲されることとなった99。しかし、19 世紀末からの産業革命の進展とともに仲裁の意義(裁判所による裁判手続との対比での、迅速性・専門性・柔軟性・安価性等)が再評価されるにつれ、こうした判例法理は激しく批判されるようになった。この背景には、多くの国で仲裁条項の効力が認められる中でフランスでは認められていないことにより、国際取引上の不都合性が生じていたという事情もあった。こうした状況の中、1925 年 12 月 31 日の法律による商法典の改正により、商事一般に関して仲裁条項の有効性が承認された。もっとも、民事事件に関しては、仲裁条項が無効であるとの規律が判例上維持された。
以上のような状況の中、1972 年 7 月 5 日の法律第 579 号100により、民法典の中に、典型
94 邦語文献として、xxx「フランス 1790 年仲裁法について」北法 31 巻 1 号 285 頁以下
(1980 年)がある。
95 その第 1 条は、「仲裁は市民間の紛争を終結せしめる最も合理的な手段であって、立法者は仲裁付託の愛好であれ効用であれこれを減少せしめるべきいかなる規定をも作ることはできない」と規定していた(訳文はxx・前掲注(94)286 頁による)。
96 邦語文献として、xxx「フランス 1806 年仲裁法の制定の経緯」北法 30 巻 4 号 807 頁以下(1980 年)がある。
97 1806 年の民事訴訟法典には、仲裁契約に関しては、新民事訴訟法典でも内容的に存続している規定が多く見られる。たとえば、当事者が自由な処分を有する権利についてのみ締結できること(旧 1003 条)、公序にかかわる事項について仲裁できないこと(旧 1004 条)、仲裁契約は対象及び仲裁人の名を記載した書面によらなければならないこと(旧 1005 条・ 1006 条)等である。
98 邦語文献として、xxxx「19 世紀フランス法における仲裁条項の有効性―判例における相対的無効理論の確立」論叢 138 巻 4=5=6 号 305 頁以下(1996 年)がある。
99 もっとも、仲裁条項の効力を認める外国法に基づいて約定された仲裁合意による国際仲裁の効力は認められていた(Cass. civ., 21 nov. 1860, S.1861.1.331, 1re espèce)。
100 P. Level, Une première retouche au doit de l’arbitrage (Loi no72-626 du 5 juillet
契約として、「仲裁契約(compromis)」の章が設置され、3 つの条文(2059-2061 条)が置かれるに至った(「仲裁契約」という表題ではあるが、仲裁条項に関する規定も含んでいる)。もっとも、従来からの規律に変更を加えるものではなく、また、仲裁手続を規律するのは、相変わらず民事訴訟法典である101。その意味では、民法典における仲裁規定は、象徴的な意味を有するにすぎないともいえよう102。
なお、近時、(民法典の規定を改正することにより、)仲裁条項の効力が原則として認められることとなった(2001 年 5 月 15 日の法律第 420 号)103。以前は仲裁の利用頻度は必ずしも高くなかったとの指摘もなされているが104、様々な改正を経た現在、その注目度は再び増しているようである105。
(ii) 規定の内容
一般に、仲裁合意(convention d’arbitrage)には、①仲裁契約(compromis)と②仲裁条項 (clause compromissoire)とがあり、フランス民法典は両者について規定を設けている。わずか 3 条から構成され、より具体的な規律は新民事訴訟法典に存在する(同法典第 4 編)106。まず、仲裁契約とは、「すでに生じている紛争の当事者が、紛争を一又は複数人からなる
1972), JCP 1972.I.2494.
101 民事訴訟法典における仲裁に関する規定は、1980 年 5 月 14 日のデクレ及び 1981 年 5月 12 日のデクレにより、大規模な改正がなされた(民法典の規定に変更はない)。その内容については、X. Xxxxxx, La législation nouvelle sur l’arbitrage, D.1980, chron.189 ; G. Xxxxx, Présentation de la réforme du droit de l’arbitrage, Rev. arb. 1980, p.583. 邦語文献として、xxx「フランスにおける仲裁」法時 54 巻 8 号 56 頁以下(1982 年)。なお、フランスの民事訴訟法典には 1973 年からデクレによって随時改正が加えられ、それらの新たな規律に対し 1976 年より「新民事訴訟法典」の呼称が与えられるようになり(上記の仲裁に関する改正も「新民事訴訟法典」として扱われる)、新旧民事訴訟法典が併存する状況が続いていたが、2007 年 12 月 20 日のデクレ第 1787 号により、1806 年民事訴訟法典が廃止されるに至った。
102 仲裁合意も契約である以上、民法典の典型契約として規定されることはおかしなことではない(紛争に関する契約であるとしても、すでに民法典上和解契約が規定されている)。しかし、(1972 年改正において)なぜ民法典に仲裁に関する規定が「盛り込まれなければならなかったのか」は、必ずしも明確でない。ある説明では、1972 年改正においては、仲裁の組織面及び手続面に関して、手続法に関するそれぞれ別個の法典に規定を盛り込む方針 が採られたところ、仲裁合意の実体的側面に関してはそれらの法典の性質上規定すること はできず、民法典に編入されざるを得なかったことが指摘されている(P. Level, supra note 100, no5)。
103 Ch. Xxxxxxxxx, Le nouvel essor de la clause compromissoire après la loi du 15 mai
2001, JCP 2001.I.333.
104 xxx「フランスにおける仲裁の実態」xx 20 巻 1 号 83 頁以下(1984 年)を参照。
105 Dossier. Nouvelles perspectives en matière d’arbitrage, Dr. et patrimoine, mai 2002
p.39 et s. ; juin 2002, p.51 et s.
106 特別法が仲裁を定めるxxxも多い。たとえば、1935 年 3 月 29 日の法律は、ジャーナリストの期限の定めのない労働契約の破棄(解雇)について生じる紛争につき、労働法典に仲裁委員会の制度を設ける(労働法典 L.7112-4 条)。
仲裁に服せしめる旨の合意」を意味する(新民事訴訟法典 1447 条)。仲裁契約においては その対象たる紛争を定めることが必要であるところ、民法典は、仲裁の対象となりうる事項について規定を置く。すなわち、原則として「その者が自由な処分権を有する権利」について仲裁契約を行うことができるとしつつ(2059 条)、身分的性質や公的性質を有する一定の事項に関しては仲裁契約を行うことができない旨が定められている(2060 条 1 項)。なお、1975 年 7 月 9 日の法律第 596 号により一部緩和され、工業及び商業の性格を有する公の施設の種別については、デクレにより仲裁が許可されうるものとなった(2060 条 2 項)。次に、仲裁条項とは、「契約の当事者が当該契約に関して生じうる紛争を仲裁に服せしめ
ることを約する合意」を意味する(新民事訴訟法典 1442 条)。1972 年法により導入された旧 2061 条は、仲裁条項の効力を原則として否定する旨の比較法的に見ても稀な規定をおい
ていた107。こうした規定の背景には 1843 年の破毀院判決以来の判例法理があるが、それに
対する批判は強く、商事仲裁の分野ではすでに 1925 年法により仲裁条項の効力が認められ
ていた。旧 2061 条の導入後も仲裁条項の効力を認める動きは拡大し108、2001 年 5 月 15
日の法律第 420 号により、職業的活動に限定してではあるが、法律で禁止されない限り仲
裁条項の効力を認める旨の改正がなされた(現 2061 条)。
4 役務提供型の契約について
(1) フランス民法典における役務提供型の契約
(i) 総説
フランス民法典上、役務提供型の契約として分類できるものとして、仕事の賃貸借(louage d’ouvrage)(第 8 章第 3 節)、寄託(第 11 章)、委任(mandat)(第 13 章)が挙げられる。このうち、仕事の賃貸借には、実質的に、請負と労働(雇用)が含まれる。したがって、ごく大雑把に言えば、フランス民法典には、日本の民法典と同様、委任・請負・雇用(労働)・寄託の 4 種の役務提供型の契約が規定されているといえるが、それぞれの内容・位置付けを確かめる必要がある。以下、各契約の内容を概観しよう。
(ii) 仕事の賃貸借(louage d’ouvrage)(請負及び労働)
① 総説
フランス民法典上、わが国でいう請負及び雇用は、「仕事の賃貸借」として、「物の賃貸
107 旧 2061 条 仲裁条項は、法律が別に規定していない場合には、無効である。
108 たとえば、①1972 年 6 月 27 日の法律は農業協同組合により締結される契約に関する仲裁条項、②知的財産法典 615-17 条は発明特許証(brevet d’invention)に関する仲裁条項、③ 1990 年 12 月 31 日の法律は自由職の職業者からなる会社の定款における仲裁条項の効力をそれぞれ認めた。また、1958 年 6 月 10 日のニューヨーク条約の批准の際には留保されていた、外国における仲裁判断の執行が認められるようになったことも、仲裁条項の容認傾向を後押しした。
借(louage des choses)」(前述―わが国でいう賃貸借に該当する)とともに、賃貸借契約の一種として位置付けられている(1708 条)。すなわち、仕事の賃貸借は、「当事者の一方が、当事者間で合意される対価と引換えに、他方のためにあることを行うことを約する契約」と定義され(1710 条)、「労務を報酬と引換えに貸す」という観点から捉えられている。
そして、1779 条では、仕事の賃貸借には三つの主要類型として、①「ある人に奉仕することを約する労働者の賃貸借」(同条 1 号)、②「人又は商品の運送を引き受ける陸上並び
にxxの輸送人の賃貸借」(同条 2 号)、③「調査、見積り又は請負に基づく建築士、仕事
請負人及び技術者の賃貸借」(同条 3 号)が規定され、続く諸条文でさらに具体的規律が規定されている。もっとも、民法典成立後、こうした規定ぶりに対して強い批判がなされ、少なくとも現在の学説においては、「仕事の賃貸借」という言葉はほとんど使われなくなっている109。「仕事の賃貸借」は細分化され、上記①は労働契約(contrat de travail)、②は運送契約(contrat de transport)、③は請負契約(contrat d’entreprise)110として、独立の考察対象となっている111。通常、民法の領域で扱われるのは、③のみである。以下では、請負契約の規律について概観しよう。
② 請負契約の定義
請負契約は、判例・学説上、「ある者が他の者に対し、報酬と引換えに、独立して、かつ代理することなく、仕事の履行を負担させる合意」であると定義される112。こうした定義は、民法典上の仕事の賃貸借の定義(前述)が曖昧すぎるとの認識のもと、請負契約を他の契約(委任、労働、寄託)と区別できるように考案されたものである113。フランス法上、請負契約(という典型契約のカテゴリー)は、民法典を出発点としつつ、判例・学説が創造したものであることに再度注意しておこう114。請負契約は、「工業からサービスへ」という経済構造の変化に対する法的な受け皿を提供し115、多種多様な取引を包含する116。現在
109 仕事の賃貸借及び請負の概念変遷について検討した文献として、F. Xxxxxxxx, Du louage d’ouvrage au contrat d’entreprise, la dilution d’une notion, in Études offertes à Xxxxxxx Xxxxxxx. Le contrat au début du XXIe siècle, LGDJ, 2001, pp.489 et s.
110 xxxx「役務提供契約における典型契約としての請負契約・委任契約―フランス法における事務処理委託契約(contrat d’entreprise)を参照して」xxxx先生還暦記念論文集
『民法学の軌跡と展望』229 頁以下(日本評論社、2002 年)では、 « contrat d’entreprise »
に「事務処理委託契約」との訳語が充てられているが、日本法との対照を容易にするため、
「請負契約」との訳語を用いることにする。
111 現在では、労働契約については労働法典等により、運送契約については商法典等により、規律がなされている。請負契約についても他の法典や特別法による規律がなされるが、建 築請負に関しては民法典上に規定が設けられる傾向がある(その場合でも建築・住居法典 等による規律が併用される)。
112 Cass. civ. 1re, 19 févr. 1968, Bull. civ. I, no69 ; JCP 1968.II.15490.
113 P. -H. Antonmattei et X. Xxxxxxx, supra note 33, no417, pp.307-308.
114 民法典の条文は「時代遅れ(désuétude)」であるとされている(A. Bénabent, supra note 33, no712, p.328)。
115 A. Bénabent, supra note 33, no711, p.328 は、「請負契約は財貨及びサービス経済の第
では、専門家によるサービス提供に関して特別法による規律がなされる例が増えているが
117、請負契約の一般理論の重要性は失われていない。
③ 請負契約の成立
請負契約は、契約の一般理論(1108 条)にしたがい、意思の合致のみにより成立する諾成契約である。もっとも、売買とは異なり、代金(報酬額)の確定は契約の有効要件ではないと考えられている。売買においては契約対象たる物が契約締結時にすでに存在するのに対し、請負においてはそれが履行とともに作り上げられていくために、前もって契約対象の価値や履行に必要な時間を決めておくことが難しいという理由による。報酬額に関する合意がない場合には、判事による確定がなされる。もちろん、前もって見積り(devis)を定めることは妨げられない118。なお、請負契約の証明は証明に関する一般原則(1341 条以下)に服する。また、売買同様、事業者・消費者間の請負契約は、消費法典における消費者保護規定の適用を受ける119。
④ 請負人の義務
請負契約の成立により、請負人は注文者に対し、以下のような義務を負う。
第一に、(合意された態様のもと)仕事を完成する義務120。請負人はその不履行につき契約責任を負うが、その際には、請負人が単に給付を約束したのみであり手段債務を負うにすぎない(フォートがある場合にのみ責任を負う)のか121、特定の結果の実現を約束しており結果債務を負う(フォートの有無に関わらず不可抗力がない限り責任を負う)のかが
二の柱となった。それは、財貨部門における売買の、サービス部門における『対照物
(pendant)』である」という。
116 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no700, p.405 は、請負契約を、
「xx使い(bonne à tout faire)」と表現する。
117 民法典上、仕事の賃貸借の一種として規定されている運送契約はその典型例である。現在では、商法典 L.132-3 条以下で規律されている。
118 とりわけ建築請負に関しては、契約締結前の当事者間での交渉が重要な意義を有し、判例・学説上、議論の蓄積が見られる。
119 たとえば、①契約締結前に消費者が役務の性質を知ることができるような措置を講じなければならない(消費法典 L.111-1 条)。また、②代金、契約責任の制限及び契約の特別な条件を、掲示や付箋等の方法により消費者に対して知らせなければならない(同 L.113-3
条)。さらに、③役務の給付が直ちになされず、かつ代金が 500 ユーロを超える場合には、履行の期限を明示しなければならない(同 L.114-1 条)。
120 請負契約が物を対象とする場合は、役務の履行(物の完成)のみならず、約定された期限内での物の給付も請負人の義務に含まれる。
121 民法典上、「製作者がその労働又は勤労のみを供与する場合に、物が滅失するに至る場合には、製作者は、そのフォートについて出なければ義務を負わない」(1789 条)という条文があり、判例が具体的事案において手段債務であるとの結論を下す場合に、好んで引用される。
重要となり、その区別基準が議論されている122。ただし、不動産の建築請負に関しては、民法典 1792 条以下に特別の規律が用意され(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号により挿入)、
「建築者(constructeur)」に対し厳格な責任が課されている123。なお、請負契約の対象が物である場合、引渡し前にその物が不可抗力で滅失した場合には、請負人が危険を負担する
(1788 条)124。仕事の遂行を第三者に委ねること(「下請け(sous-traitance)」)も許容されるが、その場合、下請けに関する 1975 年 12 月 31 日の法律第 1334 号による規律がなされ
る(とりわけ、請負人が付遅滞後 1 ヶ月以内に報酬を支払わない場合には、下請人は注文
者に対して直接訴権を行使しうるという規律(同法 12 条以下)が重要である125)。
第二に、助言義務や情報提供義務も考えられる。請負契約の目的が助言や情報提供にある場合のほか、現在では、専門的な事業者(意思、建築士、旅行代理店等)が締結する請負契約上の付随義務として課されることがある。
第三に、物を対象とする請負に関しては、請負人が安全保障義務(obligation de sécurité)
を負う場合があることが知られている126。
⑤ 注文者の義務
それに対し、注文者は請負人に対して、以下のような義務を負う。
第一に、報酬の支払義務。報酬額の決定方法としては様々なものが考えられるが、固定
122 手段債務・結果債務の区別に関しては、xxxx『契約責任の帰責構造』1 頁以下(有斐閣、2002 年)を参照。
123 その規律を簡潔にまとめれば次のようになる。前提として、「建築者(constructeur)」として特別の担保責任を負う者には、建築士(architecte)、請負人(entrepreneur)等の工作物 の注文者の契約相手方のほか、建築された工作物を売却する者等も含まれる(1792-1 条)。こうした建築者は、以下の三種の担保責任を負う。①工作物の耐久性を損なうような損害 又は工作物の用途に適しなくする損害については、当然責任を負う(1792 条)。設備要素の耐久性に関わる損害についても同様である(1792-2 条)。これらに関する権利行使期間は、仕事の受領から 10 年である(1792-4-1 条)。②工作物から取り外すことができる設備要素の良好な機能を損なうような損害についても、2 年間の権利行使期間による担保責任を負う
(1792-3 条)。③仕事の受領の際に指摘された異常に関しては、1 年の権利行使期間による完全完成の担保責任を負う(1792-6 条)。これらの担保責任は強行的なものであり、それを排除・制限する条項は書かれなかったものとみなされる(1792-5 条)。
なお、フランスの建築者の責任に関しては、古軸・前掲注(45)論文のほか、xxxx「フランス法における 1978 年法による改正後の『xx者の契約責任』」日仏法学 18 号 1 頁以下
(1993 年)、xxx・xxxxxxx(xxxxx)「フランスにおける建築者の責任」北法 48 巻 5 号 1118 頁以下、同(xxxx訳)「フランスにおける建築契約」同 1159 頁以下
(1998 年)を参照。
124 請負人は報酬請求権を失う(1790 条)。
125 この点に関する邦語文献として、xxxx「建築下請人の報酬債権担保と直接訴権―フランスにおける 1975 年法を素材として」xxxx紀要 15 号 37 頁以下(2006 年)がある。
126 判例の蓄積が見られるほか、立法により採用されていることもある。たとえば、消費法典 L.221-1 条は、「製品及び役務は、通常の使用条件において、又は事業者により合理的に予見可能なその他の条件において、正当に期待しうる安全性を備えていなければならず、人の健康を害するものであってはならない」と規定する。
された報酬額を決定しておく「一括請負(forfait)」という方法に関しては、建物建築の場合に書面を要求する規定が民法典に存在する(1793 条)。報酬額の確定は請負契約の有効要件ではなく(前述)、報酬額が定められていない場合には、役務の大きさ、職業的慣習、提供された仕事の質等を勘案して、事実審判事の専権的評価による決定がなされうる。請負人の報酬債権には、一定の要件のもと、留置権や先取特権等が認められるほか、1994 年の改正により、一定額以上の請負に関しては注文者による担保提供が要求されるようになった
(1799-1 条)。なお、報酬が過大である場合には、判例上、代金の改訂が認められることがある127。
第二に、物を対象とする請負に関しては、注文者は(事実行為としての)引渡しを受ける義務を負う。なお、これは法律行為としての「受領(réception)」(注文者が実現した仕事を承認すること)とは概念的に区別される。受領により、報酬及び未払金の期限が到来し、注文者へ危険が移転し、(建築請負の場合)請負人は明白な瑕疵についての瑕疵担保責任を免れる(1792-6 条)。
第三に、注文者は仕事の完成のために協力する義務を負うことが、近時指摘されている。
⑥ 請負契約の終了
請負契約の終了原因としては、ⅰ請負契約上の義務の履行(仕事の完成と受領及び代金の全額支払い)のほか、いくつかのものが挙げられる。ⅱ請負人の死亡は、民法典上、仕事の賃貸借の終了事由として挙げられている(1795 条)128。請負契約が人的考慮に基づく契約であることに由来する規律である129。それに対し、注文者の死亡は、原則として終了事由とはならない130。ⅲ当事者の一方についての裁判上の更生又は清算も、集団的手続の規律にしたがって終了事由となりうる。ⅳ請負契約の不履行に基づく解除は契約の一般原則(1184 条)にしたがって認められる131。ⅴ仕事の目的たる物が滅失し、再開することが不可能な場合も、請負契約は終了すると解されている。最後に、ⅵ一定の場合には、当事
127 Cass. civ. 1re, 3 juin 1986, Bull. civ. I, no150 ; JCP 1998.II.20791, note Viandier. ただし、その射程は争われている(注(172)参照)。
128 請負人たる法人の解散も同様に考えられる。なお、この場合、注文者はすでになされた仕事又は準備された材料が自己に有益である場合にのみ、それらの価額を支払う義務を負う(1796 条)。
129 それゆえ、人的考慮に基づかない請負契約に関しては適用されるべきでないと指摘されている(Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no780, p.449)。
130 注文者の死亡により請負契約が終了する場合としては、①契約において注文者の協力義務が定められており、注文者の死亡によりそれが履行不能となった場合、②注文者の死亡により契約の対象がなくなる場合(たとえば、注文者への援助を目的とする請負契約)が挙げられる。
131 消費者との間で締結される請負契約に関しては、特別の規律がある。すなわち、消費法典 L.114-1 条は、不可抗力による場合を除き、役務の履行期間が提示された日を 7 日以上過ぎた場合には、消費者は契約を一方的に解消できると規定する。
者に一方的な解消権限が認められることがある132。
(iii) 寄託
① 定義等
フランス民法典上、「寄託」は、「他人の物を保管し現物でそれを返還することを負担として、それを受領する行為」と定義され(1915 条)、そのうち、当事者の合意により成立するもの(通常の寄託契約)を「任意的寄託(dépôt volontaire)」という。
寄託は、物を意思に基づいて交付することによって成立する要物契約とされている(1919条)。また、寄託の目的物は動産でなければならないとされ(1918 条)、さらに「本質的に無償の契約」であるとされている(1917 条)。こうした規律は沿革に基づくが、その合理性は現在においては疑問視されることもある133。
② 寄託の成立
要物契約であるほかは、寄託契約の成立に必要な要件は契約の一般理論とそれほど変わらない。要物契約であっても、当事者間の合意が必要である(1921 条)。任意的寄託は受寄物の所有者によって、又はその明示・黙示の同意によってなされなければならないとされているが(1922 条)、判例上、所有者でなくても、物に関して何らかの権利を有していればよいとされている。なお、証明に関しても一般的規律(1341 条以下)にしたがうが、特別の規律も設けられている(1924 条)。
③ 受寄者の義務
寄託契約の成立により、受寄者は寄託者に対して次のような義務を負う。
第一に、物の保管義務(1927 条)。物の保管は寄託の本質的要素であり、それと異なる目的で物を預ける場合には寄託と性質決定されない。保管義務の程度は、「その者に属する物の保管において払うのと同一の注意」とされ(1927 条)、それが加重されるのは、有償寄託の場合等の場合に限られる(1928 条)。受寄者は物の性質に応じて具体的な保管義務を負い
134、時として火災や盗難に備えて保険をかける義務を課せられることもある135。
132 まず、期限が定められることなく継続的に履行がなされるような請負契約は、いずれの当事者からも解消できる(永続的約務の禁止による)。次に、請負人が行う仕事が著作権の保護を受ける場合には、請負人は「悔悟権(droit de repentir)」を行使して、注文者に前もって賠償をして作品を取り戻すことができる。さらに、一括請負(marché à forfait)の場合には、民法典上、注文者がいつでも契約を一方的に解消できるとされている(1794 条)。
133 Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, nos861-863, pp.502-503. とりわけ、判例上、無償契約性は等閑視され、委任と同様、商業的寄託や専門家によりなされる寄託は有償と推定される(Cass. civ. 1re, 5 avr. 2005, Bull. civ. I, no165 ; Contrats, conc. consom. 2005, comm. no148, note Leveneur ; RDC 2005.1029, obs. A. Bénabent)。
134 民法典上、寄託者の許諾のない物の使用は禁止されること(1930 条)、封緘物の開封は禁止されること(1931 条)が規定されている。
第二に、物の返還義務。物の返還は、原物によって(1932 条 1 項)136、かつ返還のときにある状態において(1933 条)、寄託者又は指定受領者に対して(1937 条)、なされなければならない。契約で返還につき一定の期間が約定されている場合でも、寄託者の請求に応じて直ちに返還しなければならない(1944 条)。問題は、こうした返還義務の性質(義務適合的に物を返還できない場合の規律)である。性質上、物の返還義務は結果債務であるようにも思われるが、判例上は手段債務であるとされている。しかし、物の保管・返還における受寄者のフォートは推定され、不可抗力(1929 条)、フォートの不存在137又は物が受領時にすでに壊れていたこと等を受寄者が証明して初めて、責任を免れる。
④ 寄託者の義務
それに対し、寄託者は受寄者に対し、次のような義務を負う。すなわち、ⅰ受寄物の保存のために受寄者が行った支出を償還する義務、ⅱ寄託によって受寄者に生じたすべての損失を補償する義務である(1947 条)。受寄者は、これらについて、寄託物に対し留置権を有する(1948 条)。
(iv) 委任(mandat)
① 定義等
フランス民法典において、委任は、「ある者が他の者に、委任者のために、かつ、委任者の名においてなんらかのことがらを行う権限を付与する行為」と定義されている(1984 条 1 項)。
条文の文言からは明確ではないが、ここでいう「なんらかのことがらを行う権限」とは、法律行為(acte juridique)を行う権限であると理解されている。それゆえ、フランス法上、委任は、委任者が受任者に対して、委任者の計算で、かつ、委任者の名で法律行為を行わせるための契約であることになり、まさに代理(représentation)の観念と密接に結合したものと位置付けられる138。こうした結合関係は、民法典成立後は厳格に維持されておらず、名義貸契約(contrat de prête-nom)139や委託契約(contrat de commission)140といった「代理
135 火災につき Cass. civ. 26 juin 1923, DP.1923.1.125. 盗難につき Cass. civ. 1re, 18 oct. 1954, Bull. civ. I, no289.
136 受寄者は、果実の返還義務も負う(1936 条)。
137 ここでも、通常の無償寄託の場合と有償寄託等の特別の場合とで、義務の程度(評価の方法)は異なる。
138 委任と代理の結合の背景には、歴史的沿革がある。簡潔な概観として、Ph. Xxxxxxxx, X.
Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, Les contrats spéciaux, 4e éd., Dexxxxxxx, 0000, nos525-526, pp.274-275. フランス法における委任と代理の関係について扱う邦語文献として、xxx
「フランス法に於ける代理と委任」名城 43 巻 3 号 1 頁以下(1993 年)、xxxx「委任その他の事務処理契約と代理権授与との関係は、今後どう考えるべきか」xxx編『講座・現代契約と現代債権の展望第 4 巻』21 頁以下(日本評論社、1994 年)等がある。
139 他人が自己の名を用いて取引することを許諾する旨の契約である。
140 受託者が委託者のために自己の名をもって委託者の計算においてある行為をなす契約
なき委任」も認められているが141、例外として位置付けられるにとどまる。
② 委任契約の成立
委任は、法律で例外が設けられる場合も多いものの142、原則として諾成契約である(1985条 1 項)143。
委任契約の有効な成立のためには、委任者・受任者に一定の能力が必要である。まず、 委任者の能力は、委任契約自体ではなく、委任の対象たる法律行為との関係で評価される144。次に、受任者の能力は、一般原則にしたがって委任契約自体に影響を及ぼす145(ただし、 委任の対象たる法律行為の効力を左右しない)。
委任の対象たる法律行為は特定されているか、少なくとも特定可能であることが必要である146。それに対し、フランス民法典上、委任は原則として無償とされており(1986 条)、報酬の約定は必要ない(報酬額が約定されていない有償委任に関しては、後述参照)。
なお、委任契約の証明は、証明の一般的規律(1341 条以下)に服する(1985 条)147。
③ 受任者の義務
委任契約の成立により、受任者は委任者に対し、以下のような義務を負う。
第一に、任務を遂行する義務であり(1991 条 1 項)、受任者がフォートによりそれに違反した場合には損害賠償責任を負う(1992 条 1 項・1992 条 1 項)。具体的には、委任者の指示に従った履行、行き届いた履行、実効的な履行、誠実な履行が、受任者には要求され
である。
141 F. Collart-Dutilleul et Ph. Xxxxxxxxxx, supra note 48, nos660 et s., pp.551 et s. x・前掲注(138)61 頁以下も参照。なお、反対に、法定代理人等の「委任なき代理」も存在する。
142 書面による契約締結が有効要件として要求されるものとして、不動産仲介業者による契約(1970 年 1 月 2 日の法律第 6 条)、商業代理人による契約(商法典 L.134-2 条)、広告代理人による契約(1993 年 1 月 29 日の法律第 20 条)、居住目的又は営業目的及び居住目的の不動産を対象とする不動産開発契約(建築・住居法典 L.222-3 条。3(2)(ii)②参照)等が挙げられる。
143 委任契約は受任者の承諾によって成立する(1984 条 2 項)。なお、この承諾は、一般に、黙示のものでもよく、あるいは受任者が行う委任の履行から生じるものでもよいとされているが(1985 条 2 項)、譲渡や抵当権設定等に関しては明示的なものでなければならない
(1988 条 2 項)。
144 たとえば、ある物を売却する権限を受任者に付与する委任は、委任者がその物を処分する権限がなければ無効である。
145 未解放の未xx者も受任者として選任されることができるが、その受任者としての義務は、無能力に関する一般的規律により制限される(1990 条)。たとえば、受任者たる未xx者が委任対象の法律行為を行い、その代金を着服した場合でも、委任者は現存利益の範囲でのみ返還請求できるにすぎない(1312 条参照)。
146 委任対象の法律行為が不法な場合には、委任契約自体が無効となる。
147 なお、法律行為の相手方たる第三者にも同様の証明方法の制約が課せられるかについて、判例・学説上、議論がある。
る148 。なお、委任は人的考慮(intuitu personae) に基づく契約であるものの、復委任 (sous-mandat)も許容され、復受任者は委任者に対して直接に責任を負うほか、受任者も一定の場合に復受任者の行為について委任者に対して責任を負う(1994 条)。この場合、復受任者は委任者に対して直接訴権を有することが、判例上認められている149。
第二に、受任者は委任者に対し、②事務処理について報告し150、委任に基づいて受領したものを引渡す義務を負う151(1993 条)。
第三に、受任者が専門家である場合には、判例上、説明義務や助言義務が課されることも多い。なお、受任者はいずれの義務に関しても、フォートがある場合にのみ責任を負う
(手段債務)152。無償委任の場合には、受任者の義務の程度は軽減される(1992 条 2 項)。
④ 委任者の義務
それに対し、委任者は受任者に対し、以下のような義務を負う。
第一に、受任者が任務の遂行のために支出した費用及び前払金(立替金)を償還する義務(1999 条 1 項)153。これは、受任者のフォートによらない任務の不成功の場合にも同様である(同条 2 項)。
第二に、受任者が任務の遂行に際して自己のフォートによることなく被った損失について補償する義務(2000 条)154。
第三に、報酬が約定されている場合には、報酬の支払義務(1999 条 1 項)。これは、受
148 A. Bénabent, supra note 33, nos930-933, pp.440-442 の整理に従った。
149 「復受任者は委任者に対し、委任者が負う前払金及び費用の償還並びに報酬の支払を得るために、個人的かつ直接的な訴権を享受する」とされ(Cass. civ. 1re, 27 déc. 1960, D.1961.491, note Bigot ; RTD civ. 1961.700, obs. Xxxxx)、この訴権は「代位が委任者により許可されていたか否かに関わらず、すべての場合に行使できる」とされる(Cass. com., 9 nov. 1987, Bull. civ. IV, no153)。この場合、委任者が受任者のフォートや受任者に対して既に支払ったことを復受任者に対して主張できるか否かが問題となるが、破毀院は消極に解しており(Cass. com., 9 nov. 1987, précité)、学説上の批判が強い。
150 報告義務は、任務の経過に関する報告義務も含むと解されている。
151 委任者が受任者に対して任務の履行のために交付したものの返還も含まれる。なお、受任者が自己の使途のために金銭を使用した場合には、使用した日から委任者に対し利息の支払義務を負う(1995 条)。この場合、委任者にさらなる損害がある場合には、契約責任の一般原則(1153 条)により損害賠償請求をすることもできる。
152 判例上、受任者のフォートの証明に関して独特の規律が形成されている(Cass. civ. 1re, 18 janv. 1989, D.1989.302, note Larroumet ; RTD civ. 1989.572, obs. Rémy 等)。すなわち、受任者は、任務を遂行したことを証明するか、不可抗力により遂行できなかったことを証 明しなければ、責任を負う。受任者が任務を遂行したことを証明しても、委任者がその不 十分性及び受任者のフォートを証明すれば、受任者は責任を負う。
153 当然、償還されるべき費用を報酬に含めるという約定を行うことは許される。なお、前払金の利息は前払いの日から生じる(2001 条)。
154 「損失(perte)」の概念は広く解される傾向にあるほか、損失補償義務を制限・免除する条項の有効性は制限的に解釈されているようである。P. -H. Xxxxxxxxxxx et Xxxxxxx Xxxxxxx, supra note 33, no491, p.370.
任者のフォートによらない任務の不成功の場合にも同様である(同条 2 項)。前述したように、条文上は無償委任が原則とされているが、破毀院は、職業的な受任者の場合にはむしろ有償委任を原則とする解釈を行っている155。なお、当事者が報酬額を決定していない場合には、判例上、判事による報酬額の確定が認められている156。また、任務に比して報酬が過大である場合には、判例上、報酬の減額が認められている157。
⑤ 第三者との関係
受任者が行った法律行為により、第三者とはどのような関係が生じるか。委任は代理権限の授与であることから、原則として、委任者と当該第三者の間に当該法律行為による法律関係が生じ(1998 条 1 項)、受任者は後景に退くことになる。もっとも、例外的に、受任者と当該第三者の間に何らかの法律関係が生じることがある。
第一に、受任者が自己の名で法律行為を行った場合には、受任者と第三者の間に、当該法律行為による法律関係が生じる158。
第二に、受任者が代理権限なく、又は代理権限を逸脱して、委任者の名で法律行為を行った場合には、委任者は追認(1998 条 2 項)しない限り当該法律行為に基づく義務を負わず、受任者が当該第三者に対して損害賠償義務を負う。もっとも、表見委任(mandat apparent)が成立する場合には159、委任者と第三者の間に当該法律行為による法律関係が生じることになる。
第三に、受任者が第三者に対し、委任者による法律行為の履行について担保責任を負う旨を約定することがある160。
第四に、受任者が第三者に対しフォートにより損害を与えた場合には、不法行為責任
(1382 条)を負う。
155 たとえば、Cass. civ. 1re, 16 juin 1998, Contrats, conc., consom., 1999, comm.127, note
L. Xxxxxxxx は、「委任が通常の職業の範囲においてある者により行われる場合には、委任は有償であると推定される」とする。
156 報酬額は、委任者の提示のみならず、任務の大きさ、提供すべき役務の重要性等の事情を考慮して、事実審判事の専権的評価により決定される(Cass. civ. 1re, 23 oct. 1979, Bull. civ. I, no252)。
157 19 世紀前半から見られる判例法理である(Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no550, pp.290-292)。これに関する邦語文献として、xxxx「フランス判例法における委任報酬減額について―給付間の対価牽連性を中心として」中京大学法学部 20 周年記念論文集『現代の法と政治』67 頁以下(1988 年)がある。
158 受任者は委任者に対して求償できる(Cass. civ. 3e, 17 oct. 1972, Bull. civ. III, no528)。
159 表見理論(théorie de l’apparence)という一般理論により、判例上、一定の要件(第三者による信頼の正当性等)のもと認められている。邦語文献として、xxxxx「フランス法における一般的表見理論との関係における表見委任制度(一)(二)」阪経法 4 号 31 頁以下、5 号 37 頁以下(1980-1981 年)がある。
160 「保証条項(clause ducroire)」と呼ばれる。不動産開発契約において、委任者たる開発者が建築請負人を担保するのは(1831-1 条 1 項。前述3(2)(ii)②参照)、その例である。
⑥ 委任契約の終了
委任契約の終了事由としては、以下のものがある。
第一に、委任者による撤回(révocation)。委任契約は信頼に基づくものであるゆえ、民法典上、委任者は自由に撤回できるとされており(2004 条)161、これにより委任は終了する
(2003 条 1 号)。もっとも、撤回不可能である旨の約定の効力は認められるほか、委任が委任者・受任者双方の利益のためになされる場合(共同の利益を有する委任(mandat d’intérêt commun)の場合)には、判例上、委任者が損害賠償義務を負うという規律が確立している162。
第二に、受任者による放棄(renonciation)。民法典上、受任者の放棄の自由も認められており(2007 条 1 項)163、これにより委任は終了するが(2003 条 2 号)、放棄が委任者を害する場合には、受任者は補償(損害賠償)を行わなければならないとされている(2007 条 2 項)。
第三に、委任者又は受任者の死亡(2003 条 3 号)。受任者が死亡しても相続人は依然として報告・引渡義務(前述)を負うほか、委任者の死亡に関しては、条文上又は判例上、例外的な規律が設けられている点に注意が必要である164。
第四に、当事者の能力喪失。民法典上はxx後見(tutelle)のみが規定されているが(2003条 3 号)、保佐(curatelle)の場合も同様であると考えられている。
第五に、当事者の支払不能(2003 条 3 号)。ただし、再生型の企業倒産の場合には継続すると考えられている。
161 ただし、第三者との関係では、受任者の解任が通知されていなければ、委任者はそれを対抗することができない(2005 条)。
162 フランスの委任における解除に関する邦語文献として、xxxx「《解除できない委任》とは、どういうものか」xxx編『講座・現代契約と現代債権の展望第 5 巻』263 頁以下)日本評論社、1990 年)、xxx「委任者による委任契約の解除」名城 44 巻 3 号 15 頁以下
(1995 年)、xxxx「フランスにおける『共同の利益を有する委任契約の理論』とその展開(1)(2・完)」新報 101 巻 7 号 87 頁以下、8 号 107 頁以下(1995 年)、xxxx「委任契
約の解除―民法 651 条の制限と司法書士に対する登記手続の委任」帝塚山 2 号 84 頁以下
(1998 年)がある。
163 契約の一般理論からすれば、契約の一方的解消(résiliation unilatérale)は、期限の定めがない場合のみ認められるはずであるが、受任者の放棄は、期限の定めの有無に関わらず認められる。これは、委任が当事者間の信頼関係に基づくものであるxx、受任者に委任を強制しても委任者に利益はなく、むしろ危険であるとの考慮に基づく(A. Bénabent, supra note 33, no959, p.460)。
164 以下の 4 つである。①委任者が死亡しても、受任者は任務の遅滞によって危険が生じるときには、死亡時に着手していた事柄を完了する義務を負う(1991 条 2 項)。②委任者の死亡が受任者に対して知らされるまでに行われた法律行為は有効である(2008 条・2009条)。③委任者が死亡しても委任が継続する旨の約定は有効である。④委任者の相続人が委任の継続を黙示に承認した場合、委任は継続する。以上は、委任者が自然人ではなく法人であり、法人が吸収合併して消滅した場合も、同様にあてはまる。
(2) フランス民法典における役務提供型の契約の相互関係(棲み分け)
(i) 総説
前もって整理するならば、フランス民法典(正確にはフランス民法典を基礎として形成されたフランス学説・判例)における役務提供型の各契約の相互関係(棲み分け)は、次のように整理される。
事実行為
①
物の保管
②
③
その他の役務
従属的
独立的
法律行為
寄託契約
労働契約請負契約委任契約
①:提供される役務が、法律行為か事実行為か。法律行為であれば委任契約。
②:提供される役務が、物の保管かそれ以外か。物の保管であれば寄託契約。
③:役務の遂行が、依頼者とは独立になされるか従属してなされるか。従属的であれば労働契約、独立的であれば請負契約。
フランスの判例・学説上、役務提供型の契約の諸類型の棲み分けは、「ある契約がどの契約類型にあたるとの性質決定を如何に行うか」という形で論じられる。その際、各契約を特徴付けるメルクマール(他の契約との関係での区別基準)がどのようなものであるかを各契約の定義から導き、それを具体的契約にあてはめるという演繹的な手法が用いられることが多いものの、ある契約であると性質決定されることの実益から遡って区別基準を探求する(あるいは直接に性質決定自体を行う)という目的論的な手法も見られないわけではない(労働契約であるとの性質決定等)。
とりわけ、民法典の規定から出発して判例・学説上構築されている請負契約と、他の契約類型との区別が問題となることが多い。以下では、役務提供型の契約の棲み分けに関し主に論じられているものを取り上げることにする。
(ii) 請負と委任165ア 区別の基準
請負も委任も他人のために独立して任務を遂行するという点では共通する。かつては、両者の区別基準は、代理権限(pouvoir de représentation)の有無に求められていたが(代理
165 F. Xxxxx, Deux contrats en quête d’identité. Les avatars de la distinction entre le contrat de mandat et le contrat d’entreprise, in Liber amicorum, Études offertes à Geneviève Viney, LGDJ, 2008, p.595.
権限がある者は受任者、ない者は請負人)、「代理なき委任」(前述)の存在により166、現在では基準として不正確であると認識されている。両者の区別はむしろ、委ねられる任務の差異、すなわち法律行為(委任)か事実行為(請負)かにある。もっとも、受任者であっても法律行為を行うために事実行為を行うことがありえ、請負人であっても事実行為を行うために法律行為を行うことがありうるため、区別基準の適用は必ずしも容易ではない。
請負か委任かの性質決定は、とりわけ、様々なタイプの仲介者(intermédiaire)に関して 問題となることが多い。この場合、その者がどのような任務を負っているかを探求するこ とが必要となる。その者が顧客から取引を行う権限を与えられる場合には委任であるのに 対し、取引の相手方を探したり将来締結すべき契約の計画を練ったりすることにより、取 引の準備を行うにすぎない場合には請負である。たとえば、1970 年 1 月 2 日の法律第 9 号 により規律される不動産仲介業者(agent immobilier)は、不動産取引の準備を行うにすぎず、請負人であると一般に理解されている167。それに対し、旅行代理店(agence de voyages)は より複雑である。伝統的なタイプの旅行代理店は、旅客のために運送人やホテル業者と契 約を締結する受任者であるといえるが、現在では、単一の契約により様々なサービスをコ ーディネートして顧客に提供する旅行代理店が増えている。判例は旅行主催契約を請負と 性質決定したが168、現在では旅行主催者には重い責任を課す特別法が制定されている169。 なお、不動産開発契約(前述3(2)(ii)①参照)は、条文上「委任」とされているが(1831-1 条 1 項)、不動産開発者の任務には様々なものが含まれることから、委任と請負が混合した 契約であるとの理解もされている170(いずれにせよ、担保責任の点で不動産開発者には受 任者を超える義務が課されている)。
166 名義貸しにせよ問屋にせよ、委任者のために法律行為を行うが、委任者を代理するわけではない。
167 もっとも、1970 年 1 月 2 日の法律は、不動産仲介業者による契約が「委任」であるこ
とを前提とした規定を置いている(同法 5 条・6 条等)。しかし、不動産仲介業者の任務は不動産取引の「仲介(courtage)」であり、「委任者」とされるところの顧客は不動産仲介業者から仲介された契約を締結する義務を負わないことから、学説上は請負契約の一種であるとされるのが一般的である(Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no711, p.414 ; A. Bénabent, supra note 33, no736, p.342)。
168 Cass. civ. 1re, 27 oct. 1970, D.1971.449, note Couvrat ; JCP 1971.I.16624, note Rodière.
169 1992 年 7 月 13 日の法律第 645 号の成立後、2006 年に成立した観光法典(Code de tourisme)に編入された。それによれば、旅行主催者は顧客に対して説明義務を負うほか(同法典 L.211-9 条)、自身が負う義務の不履行に関して、他人がそれを履行する場合であっても、当然責任(responsabilité de plein droit)を負う(同法典 L.211-16 条)。後者の規律に関しては、xx・前掲注(122)101 頁以下を参照。
170 B. Xxxxxx, Rép. civ. Vo Contrat d’entreprise, no27 は、「仕事の賃貸借が混ざった委任」と表現する。なお、条文上も、不動産開発者が自らが不動産開発計画の業務の一部を履行することを約する場合には、不動産開発者は請負人の義務を負うと規定する(1873-1 条 2項)。
イ 区別の実益
フランス法上、ある契約が請負契約にあたるか委任契約にあたるかを決することの実益は、以下の諸点にある。
①第三者との関係:請負人には注文者を代理する権限がないが、受任者には委任者を代理する権限がある。それゆえ、注文者は請負人により締結された契約によって第三者と直接の関係に立たないのに対し171、委任者は受任者により締結された契約によって第三者に対して義務を負う。
②仕事の過程で生じた損害についての賠償義務:注文者は請負人が仕事を行う過程で被った損害について損害賠償義務を負わないが、委任者は受任者が仕事を行う過程で被った損害について損害賠償義務を負うことがある。
③報酬の減額:委任の場合、判例上、任務に比して受任者の報酬が過大である場合には、報酬の減額が認められてきた。請負の場合も、判例上、報酬の減額が認められることがあるが、その要件についてはなお議論がある172。
④契約の一方的解消:委任者・受任者は自由に委任契約を解消(撤回ないし放棄)できるが、注文者・請負人に解消の自由は認められていない173。
⑤契約責任の規律:請負人はしばしば結果債務を負うが、受任者は原則として手段債務を負う174。
⑥直接訴権の肯否:復受任者も下請人も、委任者又は注文者に対して直接訴権を行使できるが、その要件が異なる(復委任の場合は 1994 条、下請けの場合は 1975 年 12 月 31 日の法律)。
(iii) 請負と労働ア 区別の基準
フランス民法典上、請負と労働は、「仕事(及び勤労)の賃貸借」として把握され、必ずしも明確に区別されていない。両者は、(法律行為を代理する権限を伴わずに)仕事の遂行を目的とする点で共通するが、民法典成立後の発展(請負契約の概念の生成、労働法の独
171 ただし、第三者が下請人の場合には、下請けに関する 1975 年 12 月 31 日の法律第 1334
号に基づき、注文者と下請人の間に一定の法律関係が発生することがある((1)(ii)④参照)。
172 注(127)で挙げた判決は、「合意が謝礼(honoraires)を生じさせる仕事の履行を目的とし て締結された場合には、裁判所は、仕事を知ったうえで、かつ役務がなされた後で支払わ れるのでなければ、その謝礼を減額することができる」とした。この判決の射程が、「謝礼」の慣習を有する自由業(医師、弁護士、建築士等)にのみ及ぶのか否かが、学説上争われ ている(P. -H. Antonmattei et X. Xxxxxxx, supra note 33, no454, p.344)。
173 もっとも、委任者・受任者による契約の一方的解消に制限が課される一方、注文者・請負人にも契約の一方的解消が認められる場合も存在することから、この違いはそれほど明瞭ではないとも指摘されている(A. Bénabent, supra note 33, no737, p.343)。
174 もっとも、受任者のフォートの証明に関する規律(注(152)参照)により、両者は接近していると指摘されている(A. Bénabent, supra note 33, no737, p.343)。
立及び進展)により、両者は区別され、またその区別には重要な意味がもたらされるに至っている。
請負と労働の区別基準は、任務の遂行における独立性の有無に求められる。別の言い方をすれば、労働契約は、法的従属関係(lien juridique de subordination)の要素が存在することにより、法的独立性(indépendance juridique)により特徴付けられる請負契約と区別される。すなわち、労働者は労務遂行にあたり雇用者の命令に従わなければならない。それに対し、請負人は、注文者のために任務を遂行するものの、自由にそのやり方を決めることができる(このことは、自己の任務遂行につき責任を負わされることも意味する)。もっとも、労働者の中にも自己の任務を遂行するにあたり自由な裁量を有する者もいたり、請負人の中にも注文者の密な監視に服する者もいたりするために、具体的な事案における判断は難しいことも多い。
具体的な性質決定のあり方としては、労働契約を特徴付ける「法的従属性」の有無は、様々な指標の総合考慮により判断されることが指摘されている。とりわけ、任務を遂行する者の地位175、報酬の態様176、任務遂行の条件177といった指標が重要であるが、こうした指標は単独で決定的であるというわけではない。破毀院のコントロールのもと、事実審判事は、従属関係の実質を明らかにしつつ判断する。当該任務遂行者に労働法・社会保障法上の保護を与えるのが適当かという観点から、目的論的に性質決定がなされる傾向があることも指摘されている178。
イ 区別の実益
フランス法上、ある契約が請負契約にあたるか労働契約にあたるかを決することの実益は、以下の諸点にある。
①労働法・社会保障法の適用の有無:労働契約には適用されるのに対し、請負契約には適用されない。具体的には、労働契約の場合、労働審判所(prud’homme)による管轄、労働法典の適用、労働災害に関する規律の適用等の帰結が導かれる。
②危険負担の規律:請負人は危険を負担するが、労働者は負担しない。
175 「商人(commerçant)」たる資格の有無や、「独自の顧客(clientèle propre)」の有無といった点が考慮されうる(後者を最も確実な区別基準として主張するものとして、Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no717, p.418)。
176 報酬の名称(「謝礼(honoraires)」なのか「給与(salaires)」なのか)は重要ではないが、報酬の決定方法(時間ごとの報酬なのか結果に対する報酬なのか)は重要な指標となり、報酬の支払方法も補足的な指標となると指摘されている(A. Bénabent, supra note 33, no744, p.346)。
177 A. Bénabent, supra note 33, no745, pp.346-347 は、主な考慮要素として、①任務を遂行する場所、②時間的拘束の有無、③任務遂行手段の提供の有無、④任務遂行に関する指示が与えられるか否か、⑤任務遂行を第三者に委ねることが許されるか否か、⑥xx義務があるか否かを挙げる(いずれも決定的ではなく総合考慮による)。
178 A. Bénabent, supra note 33, no742, p.345. P. -H. Antonmattei et X. Xxxxxxx, supra
note 33, no428, pp.316-319 は、この観点から労働と請負の性質決定を詳述する。
③契約責任の規律:請負人は単なるフォートについて責任を負う(時として結果債務まで負う)が、労働者は、判例上、重大なフォートについてしか責任を負わないとされる179。
④報酬債権の担保:労働者は給与債権につき雇用者の財産に対し一般先取特権を有し
(2331 条)、雇用者の破産の際には上位先取特権(superprivilège)を有するのに対し、請負人の報酬債権の担保はそれとは異なる。
⑤使用者責任:雇用者は労働者のフォートある所為につき第三者に対し責任を負うが
(1384 条 5 項)、注文者は請負人の所為につき責任を負わない。
(iv) 請負と寄託ア 区別の基準
ある契約が請負か寄託かの性質決定の問題は、顧客が契約相手方に有体物を預けた場合に生じてくる。請負と寄託は、ともにある仕事を行うことが契約の対象となっている点で共通するが、より正確にいえば、受寄者の仕事の内容は物の保管(及び返還)であるのに対し、請負人の仕事の内容はそれに限られない(請負は寄託を包含する関係にある)。したがって、物を預けられた者の任務が物の保管に存する場合には寄託と性質決定され、それとは異なる任務に存する場合には請負と性質決定される。たとえば、車庫業者(garagiste)に自動車が預けられた場合、その者が保管の任務を負う場合には寄託、修理の任務を負う場合には請負と性質決定される。もっとも、自動車を修理する任務を負う者が修理の前後に保管を行うということも考えられるように、性質決定が難しい場合もある。
請負か寄託かの性質決定の具体的なあり方は、二つの場合に分けて論じる必要がある。第一に、当該契約が単一・不可分でなく、物の保管とその他の仕事を区別できる場合には、判例上、単純にそれらを分解して考えられる傾向にある(「二重の性質決定(double qualification)」)。たとえば、車庫業者が自動車の修理の前後にその保管を行う場合には、修理の部分は請負であるが、保管の部分は寄託である180。第二に、当該契約が単一・不可分である場合には、請負か寄託かを決める必要があり(「単一の性質決定(qualification unique)」)、当該契約の本質的対象(objet essentiel)が物の保管にあるかそれ以外かにより決められる。たとえば、馬を調教するために預ける場合、馬の調教が契約の本質的対象である(馬の保管は付随的任務にすぎない)ため、当該契約は請負と性質決定される。
179 Cass. soc., 29 avr. 1981, Bull. civ. V, no352.
180 Cass. civ. 1re, 24 juin 1981, Bull. civ. I, no232 ; D.1982, I.R.363, obs. Larroumet ; RTD civ. 1982.430, obs. Rémy は、「請負人に交付された物に関する請負契約が存在することは、請負人が受寄者の義務を負うことを妨げない」とする。もっとも、このように契約を分解 することに批判的な学説もあり、それらは、請負契約の中に付随的な保管義務を含ませて 考えればよいとする(Ph. Xxxxxxxx, X. Xxxès et X. -X. Xxxxxxx, supra note 27, no869, pp.506-507)。
イ 区別の実益
両者の区別の主たる実益は、契約責任の規律の違いに求められるが、判例上、両者の差異はほとんどなくなっている。すなわち、預けられた物が滅失した場合、請負人はフォートがある場合のみ責任を負うとされているが(1789 条)、フォートの証明責任は請負人に転換されている181。他方、受寄者の場合も、受寄者がフォートの不存在を証明しなければならない182。それゆえ、両者の区別の実益は疑問視されるのが一般的である。ただし、安全保障義務の範囲や責任免除条項の効力等の点で、なお差異は残っているとの指摘もある183。
(v) 委任と労働
委任は請負と同様、任務を行う者が独立性を有している点で、労働と区別される。請負と労働の区別に関してみたように、労働契約の特徴は従属性にある。受任者も委任者から任務の遂行について指示を受けることはあるが、それを達成するための方法選択は自由に行うことができる。それに対し、労働者はその活動の全般に渡って雇用者の命令に従わなければならない(それゆえ労働者の責任は受任者の責任よりも軽い)。もっとも、労働者の中にも仕事の裁量性が強く認められ法律行為を行う権限を与えられている者もいたり、受任者の中にも委任者から明確な指示を与えられ裁量が狭い者もいたりするため、性質決定には困難が伴うこともある。具体的な性質決定にあたっては、請負と労働の区別と同様、任務を行う者の地位、報酬の態様、任務遂行の物理的条件といった指標から、独立性・従属性の程度を評価することが必要となる184。なお、会社から代理権限を与えられている労働者のように、一人の者に関し、委任と労働が共存・重畳する場合もありうる185。
(vi) 委任と寄託
ある契約が委任か寄託かの性質決定の問題は、請負か寄託かの問題と同様、顧客が契約相手方に有体物を預けた場合に生じてくる。受寄者は物の保管(及び返還)を任務とし、委任者は(最終的に返還するとしても)物に関して法律行為を行うことを任務とする。別の言い方をすれば、両者は最終目的が異なる(寄託は物の返還、委任は任務の遂行)。たとえば、宝くじ売場の係員は宝くじを預かるが、それを返還するために預かるのではなく、取扱センターに送るために預かるのであり、受寄者ではなく受任者である。もっとも、物の返還を最終目的としつつも、委任が付随するということはありうる(商品を預けられた
181 Cass. civ. 1re, 9 févr. 1966, Bull. civ. I, no103.
182 Cass. civ. 1re, 28 mai 1984, Bull. civ. I, no173.
183 A. Bénabent, supra note 33, no733, p.341.
184 労働法典・社会保障法典が、従属性が弱い者にも個別に労働者の地位を与えることがある。たとえば、支店長(gérants de succursales)は労働者と同視されている(労働法典 781-1条以下、社会保障法典 L.241-1 条以下)。
185 労働契約の名のもとに受任者の自由な撤回権が制限されることへの危惧から、学説上、委任と労働の共存・重畳は適法だが推定されてはならないと主張されている(Deslandes, Réflexions sur le cumul d’un mandat social et d’un contrat de travail, D.1982, chron.19)。
者が第三者から代金を受領する場合等)。
(3) 日本の民法典における役務提供型の契約との異同
(i) 総説
フランス民法典における役務提供型の契約と、日本の民法典における役務提供型の契約との異同を考察する前提として、まずもって、次の点を指摘しておかなければならない。すなわち、役務提供型の契約に関する規定が散在している(仕事の賃貸借は第 3 編第 8 章、
寄託は同第 11 章、委任は同第 13 章)ことからも明らかなように、フランス民法典の起草にあたっては、必ずしも「役務提供型の契約」を定立しようという意図はなかった。民法典成立後の学説は、それらの契約を「役務提供型」としてまとめて考察するに至ったが、その過程においては、「役務提供型」に対する意識が希薄な民法典における規定の不十分性が意識され、それを完全なものとするために判例・学説による補完がなされた。以下の考察は、こうした判例・学説による法創造を経て形成された、フランスにおける現段階での標準的な理解を前提とするものであることを断っておきたい。
以下では、役務提供型の各契約に関する日仏比較と、役務提供型の契約の相互関係(棲み分け)に関する日仏比較とに分けて、若干の考察を行う。
(ii) 役務提供型の各契約に関する日仏比較ア 委任
日本の民法典においては、「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生じる」(643 条)と規定されていることから、(純粋な)委任は、法律行為の委託を目的とする契約であることになる。もっとも、「この節[委任に関する第 3 編第 2 章第 10 節―筆者注]の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」(656 条)とされており、「法律行為でない事務の委託」、すなわち事実行為の委託も「準委任」も委任と同様に扱われる。したがって、法律行為か事実行為かを問わず、事務の遂行を委託する契約がなされれば、それは「委任」と性質決定されることになる(もっとも、これのみでは請負契約との区別は明らかではない―後述(iii)参照)。それに対し、フランス民法典における委任は、(民法典の文言からは必ずしも明らかではないものの、その沿革上、)法律行為の委託であると理解されている((1)(iv)①参照
―このことは、委任が代理と分離された場合でも変わらない)。したがって、日本と比べて、
フランスにおいては、「委任」としての規律に服する範囲が狭いということができる。
委任契約の具体的な規律に関しては、基本的性質(諾成契約であること、特約がない限り無償契約であること等)、受任者の義務の内容(事務を遂行する義務、受取物の引渡し義務など)、委任者の義務の内容(費用償還義務、損失補償義務等)、終了事由(各当事者の任意解除権の存在、当事者の死亡・支払不能による終了等)の各規律に関し、細かな違い
はあるものの186、基本的には同様の規律が妥当しているといえる。もっとも、フランスにおいては無償委任の場合に受任者の義務の程度が軽減されているが(1992 条 2 項)、日本においては無償委任でも有償委任でも受任者は善管注意義務を負うとされていることは
(644 条)、大きな違いであるといえようか。
イ 請負
日本の民法典においては、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生じる」(632 条)と規定されていることから、請負は、仕事(役務)の提供そのものではなく、仕事の完成(役務の結果の給付)を目的とする契約であることになる。それに対し、フランス民法典における「仕事の賃貸借」の一部を切り取って観念されるに至った「請負契約(contrat d’entreprise)」は、一般に、「ある者が他の者に対し、報酬と引換に、独立して、かつ代理することなく、仕事の履行を負担させる合意」と定義されていることから(前述(1)(ii)②参照)、「仕事の履行」を目的とする契約である(と理解されている)ことになる。そして、請負人が負う仕事の完成義務には、それが結果債務である場合と手段債務である場合とが存在するとされていること((1)(ii)④参照)からすると、「仕事の履行」には「仕事の完成」以外のもの(「仕事の履行」そのもの)も含まれていると理解しうる。ただし、委任との関係上、請負の目的は事実行為に限られるから、結局、フランスにおける「請負」には、わが国における「請負」と「準委任」が含まれるとみることができる187。
請負契約の具体的規律に関しては、フランス法上、そもそも、民法典の規定が存在しない(あるいは不十分である)ことを背景として判例・学説による自由な法創造がなされていることから、厳密な日仏比較は難しい。次の二点のみ指摘しておく(いずれも請負の周辺的な規律に関わる)。第一に、フランス民法典においては、建築者に厳格な責任を課す規定が存在する(民法典成立後に導入された)ことは、わが国との対比で一つ特徴的な点で
186 たとえば、①各当事者の任意解除権に関しては、日本の民法典においては、任意解除権の存在(651 条 1 項)に加え、「相手方に不利な時期」になされた解除についての解除者(委任者・受任者を問わない)の損害賠償義務(同条 2 項)が規定されているのに対し、フランス民法典においては、任意解除権の存在(ただし、委任者は「撤回」、受任者は「放棄」という形で規定されている。2004 条・2007 条 1 項)、受任者についてのみ、「委任者を害する場合」の損害賠償義務が規定されている(2007 条 2 項)。もっとも、委任者の解除に関しても、「共同の利益を有する委任」の場合は損害賠償義務が認められるゆえ((1)(iv)⑥参照)、実際上の相違は少ないといえようか(もっとも、わが国では委任の解除自体を制限する議論が存在するゆえ、さらに問題は複雑化する)。また、②フランス民法典においては、委任者の能力喪失が委任の終了事由として規定されているが(2003 条 3 号)、わが国の民法典では終了事由とされていない(653 条 3 号参照)。判例における規律も含めれば、こうした違いは多岐に及ぶ(たとえば、フランス判例法における報酬減額の法理の存在は特徴的であるが、わが国で同様の解釈論を展開できるか否かは一つの検討課題であり、一概に両者の相違を語ることはできない)。
187 xx・前掲注(110)245 頁も同旨。
あるといえよう188。第二に、フランスにおいては、下請人の注文者に対する直接訴権が特別法により認められているが、わが国では、少なくとも民法典上は、これを認める規定がない(転貸借に関する 613 条のような条文が請負契約には存在しない)189。
ウ 雇用ないし労働
日本の民法典においては、雇用契約が一つの典型契約として規定されているが(623 条以下)、その内容は労働基準法等の労働法分野の立法により大きく修正されている。フランス民法典においても、「仕事の賃貸借」に労働契約の萌芽が見受けられる。しかし、両国とも、雇用契約ないし労働契約は労働法学により独立に扱われており、十分な調査はできなかった。もっとも、両国とも、雇用ないし労働は、請負との対比において、任務の遂行における従属性がその特徴とされていることは共通しているように思われる。
エ 寄託
日本の民法典においては、「寄託は、当事者の一方が相手方のために保管することを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」(657 条)と規定されている。フランス民法典における寄託は、「他人の物を保管し現物でそれを返還することを負担として、それを受領する行為」と定義されている。契約の定義に関して、両者に有意な差異はない。
寄託契約の具体的規律に関しても、契約の基本的性質(要物契約であること、特約がない限り無償契約であること等)、受寄者の義務(保管義務、返還義務等)、寄託者の義務(費用償還義務、損失補償義務等)の各規律に関し、有意な差異は見られない190。
(iii) 役務提供型の契約の相互関係(棲み分け)に関する日仏比較
以上の考察によれば、日本とフランスとで、契約内容に差異があるのは、委任及び請負である。それゆえ、両者の関係(棲み分け)の基準も、両国で異なることになる。日本においては、請負が仕事の完成(役務の結果の給付)を目的とする契約であるのに対し、委任は(準委任も含むことにより)広く事務の遂行を目的とする契約であることから、両者の区別基準は、「役務の給付自体を目的とするか(委任)役務の結果の給付を目的とするか
(請負)」に求められることになる。それに対し、フランスにおいては、委任と請負の区別基準は、「法律行為の遂行を目的とするか(委任)事実行為の遂行を目的とするか(請負)」に求められることになる。
以上のような差異を出発点として、他の役務提供型の契約との間の区別基準も、日仏では異なる論じ方をされる。以下の表のようにまとめられよう。
188 この点に関して、詳しくは、注(123)に挙げた諸文献を参照。
189 この点に関して、詳しくは、作内・前掲注(125)を参照。
190 委任に関しては、無償委任の場合の受託者の注意義務の軽減に関する民法典規定の有無が日仏の重要な相違点であったが((ii)ア参照)、寄託に関しては、無償受寄者の注意義務の軽減が両者において規定されている(日本民法典 659 条、フランス民法典 1927 条)。
日本 | フランス | |
委任と請負 | 仕事の給付か仕事の完成か | 法律行為か事実行為か |
請負と労働 | 仕事の給付か仕事の完成か+独立性の有無 | 独立性の有無 |
請負と寄託 | 仕事の完成か物の保管か | 物の保管かそれ以外の事実行為か |
委任と労働 | 独立性の有無 | 法律行為か事実行為か+独立性の有無 |
委任と寄託 | 物の保管かそれ以外の行為か | 法律行為か物の保管か |
(xxxx)
フランス民法典条文訳
<目次> 太字:<条文訳>で訳出した箇所第 1 編 人
第 2 編 物及び所有権の諸態様
第 3 編 所有権を取得する様々な方法―一般規定第 1 章 相続
第 2 x x与
第 3 章 契約又は合意による債務一般第 4 章 合意なしに形成される約務 第 5 章 夫婦財産契約及び夫婦財産制第 6 章 売買
第 1 節 売買の性質及び形式
第 2 節 買い受け、又は売却することができる者第 3 節 売却することができる物
第 3-1 節 建築予定不動産の売買第 4 節 売主の義務
第 1 款 一般規定第 2 款 引渡し 第 3 款 担保責任
§1 追奪の場合における担保責任 §2 売却物の欠陥についての担保責任第 5 節 買主の債務
第 6 節 売買の無効及び解除第 1 款 買戻権
第 2 款 過剰損害を原因とする売買の取消し第 7 節 換価処分
第 8 節 債権及びその他の無体の権利の移転第 7 章 交換
第 8 章 賃貸借契約 第 1 節 一般規定 第 2 節 物の賃貸借
第 1 款 家屋及び農事財産の賃貸借に共通の規則第 2 款 家屋賃貸借の特則
第 3 款 定額小作契約の特則第 3 節 仕事及び勤労の賃貸借
第 1 款 家事使用人及び製作者の賃貸借第 2 款 陸上及びxxの輸送人
第 3 款 見積請負及び請負第 4 節 家畜賃貸借
第 1 款 一般規定第 2 款 単純家畜第 3 款 折半家畜
第 4 款 所有者によってその定額小作人又は「分益小作人」に貸与される家畜
§1 定額小作人に貸与される家畜 §2 「分益小作人」に貸与される家畜第 5 款 不適切に家畜と呼ばれる契約
第 8 章の 2 不動産開発契約第 9 章 組合
第 1 節 一般規定第 2 節 民事組合
第 1 款 一般規定第 2 款 管理
第 3 款 集団的決定
第 4 款 組合員への情報
第 5 款 第三者に対する組合員の約務第 6 款 組合持分の譲渡
第 7 款 組合員の脱退又は死亡第 3 節 相互組合
第 9 章の 2 不分割の権利の行使に関する合意
第 1 節 用益権者不存在の場合における不分割の権利の行使に関する合意第 2 節 用益権者存在の場合における不分割の権利の行使に関する合意
第 10 章 貸借
第 1 節 使用貸借
第 1 款 使用貸借の性質第 2 款 借主の約務
第 3 款 使用貸借を行う貸主の約務第 2 節 消費貸借又は単なる貸借
第 1 款 消費貸借の性質第 2 款 貸主の義務
第 3 款 借主の約務第 3 節 利息付貸借
第 11 章 寄託及び係争物寄託
第 1 節 寄託一般及びそのさまざまな種類第 2 節 狭義の寄託
第 1 款 寄託契約の性質及び本質第 2 款 任意寄託
第 3 款 受寄者の義務
第 4 款 寄託を行った者の義務第 5 款 必要的寄託
第 3 節 係争物寄託
第 1 款 係争物寄託のさまざまな種類第 2 款 合意による係争物寄託
第 3 款 係争物寄託又は裁判上の寄託第 12 章 射倖契約
第 1 節 競技及び賭事 第 2 節 終身定期金契約
第 1 款 契約の有効性
第 2 款 契約当事者間での契約の効果第 13 章 委任
第 1 節 委任の性質及び形式第 2 節 受任者の義務
第 3 節 委任者の義務
第 4 節 委任が終了するさまざまな仕方第 14 章 信託
第 15 章 和解
第 16 章 仲裁契約第 17 章 質
第 18 章 先取特権及び抵当権
第 19 章 差押え及び不動産の売却代金の分配第 20 章 消滅時効
第 21 章 占有及び取得時効第 4 編 担保
第 5 編 マヨットに適用される規定
<条文訳>
※以下の訳文は、法務大臣官房司法法制調査部編『フランス民法典―物権・債権関係―』
(法曹界、1982 年)に若干の修正を施したものである(ただし、その後の規定に関しては適宜筆者が補充した)。
第 3 編 所有権を取得する様々な方法――一般規定
第 6 章 売買
第 3-1 節 建築予定不動産の売買(1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号)
第 1601-1 条(1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号及び 1967 年 7 月 7 日の法律第 547 号)① 建築予定不動産の売買は、売主が、契約に定める期間内に不動産を建築する義務を負う売買である。
② この売買は、期限付き(完成時一括移転方式)又は完成の未到来状態(完成xxx移転方式)で、締結することができる。
第 1601-2 条(1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号及び 1967 年 7 月 7 日の法律第 547 号) 期限付き売買は、売主がその完成時に不動産を引き渡すことを約し、買主がその引渡しを受け、かつ、引渡しの日にその代金を支払うことを約する契約である。所有権の移転は、公署証書による不動産の完成の確認によって、法律上当然に行われる。この移転は、売買の日に遡ってその効果を生じる。
第 1601-3 条(1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号)① 完成の未到来状態における売買は、売主が土地についての自己の権利及び既存の建築物の所有権を取得者に直ちに移転する契約である。将来の工作物は、その施工に応じて取得者の所有物となる。取得者は、工事の進捗に応じてその代金を支払う義務を負う。
② 売主は、工事の受領まで、仕事の注文者としての権限を保持する。
第 1601-4 条(1967 年 7 月 7 日の法律第 547 号)① 建築予定不動産の売買について取得者が保持する権利の譲渡は、売主に対する取得者の義務を法律上当然に譲受人に移す。
② 売買が委任を伴っている場合には、委任は、売主と譲受人との間で追行される。
③ これらの規定は、生存者間の任意的若しくは強制的な移転又は死亡を原因とする移転のすべてに適用される。
※関連条文
第 1642-1 条(1967 年 1 月 3 日の法律第 3 号、1967 年 7 月 7 日の法律第 547 号。2009
年 3 月 25 日の法律第 323 号により修正)① 建築予定不動産の売主は、工事の受領前又は取得者による占有の開始後一月の期間の満了前は、その時点において明白な、建築物の瑕疵又は適合性の欠如について、免責を受けることができない。
② 売主が修補することを義務付けられている場合には、契約の解除又は代金の減額は行われない。
第 1646-1 条(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号)① 建築予定不動産の売主は、建築士、
請負人その他請負契約によって工事主と契約関係にある者自身がこの法典第 1792 条、第
1792-1 条、第 1792-2 条及び第 1792-3 条の適用によって負う義務を工事の受領の時から負う。
② 不動産の相次ぎの所有者 propriétaires successifs は、これらの担保責任を享受する。
③ 売主がこの法典第 1792 条、第 1792-1 条及び第 1792-2 条に定める損害を賠償し、第
1792-3 条に定める担保責任を引き受けることを義務付けられている場合には、売買の解除又は代金の減額は、行われない。
第 1648 条②(1967 年 7 月 7 日の法律第 547 号。2009 年 3 月 25 日の法律第 323 号により修正) 第 1642-1 条に定める場合には、訴えは、売主が明白な瑕疵又は適合性の欠如について免責を受けることができる日から一年内に提起しなければならない。これに反する場合には、失権とする。
第 1792 条(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号)① 工作物の建築者は全て、工作物の注文者又は取得者に対して、工作物の耐久性 solidité を損ない、又はその構成要素の一つ若しくはその設備要素の一つに関わってその用途に適しなくする損害について、それが土地の瑕疵から生じるものであっても、法律上当然に責任を負う。
② 建築者が損害が外在的な原因から生じることを証明する場合には、そのような責任は、何ら生じない。
第 1792-1 条(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号) [以下の者は、]工作物の建築者とみなされる。
一 建築士、請負人、技術者その他仕事の賃貸借契約によって仕事の注文者と結ばれたすべての者
二 その者が建築し、又は建築させた工作物を完成後売却するすべての者
三 工作物の所有者からの受任者の資格で行為する場合でも、仕事の賃貸人の任務と同視される任務を果たすすべての者
第 1792-2 条(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号) ①第 1792 条に定める責任の推定は、
《工作物》(2005 年 6 月 6 日のオルドナンス第 658 号)の設備要素の耐久性に関わる損害にも、同様に及ぶ。ただし、その設備要素が通路、土台、骨組、囲壁又は屋根の工作物と不可分に一体をなすときに限られる。
② 設備要素は、その除去、取り外し又は取替えが、その工作物の材料の毀損又は収去なしに行うことができないときは、《通路、土台、骨組、囲壁又は屋根の》(2005 年 6 月 6
日のオルドナンス第 658 号)工作物の一つと不可分に一体をなすものとみなされる。
第 1792-3 条(1978 年 1 月 4 日の法律第 12 号。2005 年 6 月 8 日のオルドナンス第 658号) 建物のその他の設備要素は、工作物の受領から起算して少なくとも 2 年の期間、良好な機能の担保責任の目的となる。
第 8 章の 2 不動産開発契約(1971 年 7 月 16 日の法律第 579 号及び 1972 年 7 月 11 日 の法律第 649 号)
第 1831-1 条(1972 年 7 月 11 日の法律第 649 号)① 不動産開発契約は、「不動産開発業者」と呼ばれる者が、合意された価格で、請負契約の方法によって一又は数個のxx物の建築計画の実現にあたらせる義務を仕事の注文者に対して負う、共通の利益を有する委任である。不動産開発業者は、合意した報酬と引換えに、同一の目的に資する法律上、行政上及び財政上の業務の全部又は一部に自らあたり、又はあたらせる。この開発者は、その者が仕事の注文者の名で取引した相手方の負担とされる義務の履行について担保責任を負う。その者は、特に、この法典 1792 条、1792-1 条、1792-2 条及び 1792-3 条から生じる義務を負う。
② 開発者は、計画上の業務の一部を自ら履行することを約する場合には、その業務について請負人の義務を負う。
第 1831-2 条① 不動産開発契約は、開発者に、契約を締結し、工事を受領し、取引の数額を確定する権限、及び一般的に計画の実現に要するすべての行為を、合意された総額を限度として仕事の注文者の名において行う権限をもたらす。
② ただし、開発者は、契約又はその後の行為に含まれる特別の委任によってでなければ、その者が締結する借入によっても、その者が行う処分行為によっても、仕事の注文者に義務を負わせ[ることができ]ない。
③ 仕事の注文者は、開発者が法律又は合意に基づいて保持する権限によって注文者の名において締結する約務を履行する義務を負う。
第 1831-3 条(1972 年 7 月 11 日の法律第 649 号)① 計画の完成前に、仕事の注文者が仕事について有する権利を譲渡する場合には、譲受人は、契約の全体において積極的消極的に法律上当然にその者に置き代わる。譲渡人は、譲渡される契約が仕事の注文者の負担とする義務の履行について担保責任を負う。
② 開発者に与えられる特別の委任は、その者と譲受人との間で継続する。
③ 開発者は、仕事の注文者の同意がなければ、その者に対して締約した義務の履行において第三者と代わることができない。
④ 不動産開発契約は、不動産票へのその記載の日からでなければ、第三者に対抗することができない。
第 1831-4 条 開発者の任務は、建築の計算が仕事の注文者と開発者との間で最終的に決定された場合でなければ、仕事の引渡によっては完了しない。これらはすべて、開発者に対して仕事の注文者に帰属することがある[民事]責任の訴権を妨げない。
第 1831-5 条 裁判上の整理又は財産の数額確定は、不動産開発契約の解除を法律上当然にはもたらさない。反対の約定はすべて、書かれなかったものとみなされる。
第 9 章の 2 不分割の権利の行使に関する合意(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)
第 1873-1 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 所有者、虚有権者又は用益権者として不分割財産に対して行使する権利を有する者は、その権利の行使に関する合意を締結することができる。
第 1 節 用益権者不存在の場合における不分割の権利の行使に関する合意
第 1873-2 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 共同不分割権利者は、そのすべての者が同意する場合には、不分割にとどまる旨を合意することができる。
② この合意は、不分割財産の指定及びそれぞれの不分割権利者に属する[不分割]持分の表示を伴う書面によって作成しなければならない。これに反する場合には、無効とする。不分割財産が債権を含む場合には、第 1690 条の方式が必要である。不分割財産が不動産を含む場合には、土地公示の方式が必要である。
第 1873-3 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① この合意は、特定の期間を予定して締結することができる。この期間は、5 年を上回ることができない。合意は、当事者の明示の決定によって更新することができる。分割は、それについて正当な理由がある場合でなければ、合意された期限前に提起することができない。
② 合意は、同様に、不特定の期間を予定して締結することができる。この場合には、分割は、悪意又は時宜に適さないものでない限り、いつでも提起することができる。
③ 特定の期間を有する合意については、特定又は不特定の期間について黙示の伸長によって更新する旨を決定することができる。このような合意がない場合には、不分割は、特定の期間を有する合意の期間満了のとき[から]、第 815 条以下によって規律される。
第 1873-4 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割の維持を目的とする合意については、能力又は不分割財産を処分する権限[があること]を必要とする。
②(1978 年 6 月 10 日の法律第 627 号により削除)
第 1873-5 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 共同不分割権利者は、それらのもの又はそれらのもの意外から選ぶ一人又はxxの管理者を選任することができる。管理
者の指名及び解任の態様は、不分割権利者の全員一致の決定によって定めることができる。
② そのような一致がない場合には、不分割権利者の中から選ばれた管理者については、他の不分割権利者の全員一致の決定によってでなければ、その職務を解任することができない。
③ 不分割権利者でない管理者については、その委任者の間で合意される条件にしたがって、又はそれがない場合には共同不分割権利者の人数及び持分の過半数で行う決定によって、解任することができる。
④ すべての場合において、管理者がその事務処理上のフォートによって不分割の利益を危うくするときは、裁判所は、不分割権利者の一人の請求に基づいて、解任を言い渡すことができる。
⑤ 解任される管理者が不分割権利者である場合には、[不分割の]合意は、その解任のときから不特定の期間について締結されたものとみなされる。
第 1873-6 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 管理者は、あるいは民事生活上の行為について、あるいは原告又は被告として裁判上で、その権限の範囲内で不分割権利者を代表する。管理者は、訴訟手続きの最初の行為において、単純な虚示として、全ての不分割権利者の氏名を表示する義務を負う。
② 管理者は、不分割財産を管理し、そのために、《夫婦の各人に付与される》(1985 年 12月 23 日の法律第 1372 号)共通財産に関する権限を行使する。ただし、管理者は、不分割財産の通常の経営の必要のために行う場合、又は保存が困難な物もしくは損耗しやすい物に関する場合でなければ、有体動産を処分することができない。管理者の権限を拡張する条項は全て、書かれなかったものとみなされる。
第 1873-7 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 管理者は、不分割権利者のなかに無能力者が存在するときであっても、前条に基づいて有する権限を行使する。
② ただし、不分割の期間中に同意する賃貸借には、第 456 条第 3 項が適用される。
第 1873-8 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 管理者の権限を越える決定は、[不分割権利者の]全員一致で行われる。ただし、管理者が自ら不分割権利者である場合には、第 815-4 条、第 815-5 条及び第 815-6 条に定める訴えを行うことを妨げない。
② 不分割権利者のなかに未xx又はxxの無能力者が存在する場合には、前項に述べられている決定には、それらの者の保護のために定められる規則が適用される。
③ 無能力者が存在しない場合には一定の種別の決定は全員一致と異なる方法で行う旨を、不分割権利者の間で合意することができる。ただし、いかなる不分割不動産も、先の第 815-4
条及び第 815-5 条の適用によるものでない場合には、全ての不分割権利者の一致なしに譲渡することができない。
第 1873-9 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 不分割の合意は、管理者が複数の場合の管理の方式を定めることができる。特別の約定がない場合には、これらの管理者は、第 1873-6 条に定める権限を個別的に保有する。ただし、それぞれの管理者が全ての取引についてそれが締結される前に異議を申し立てる権利を妨げない。
第 1873-10 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 管理者は、反対の合意がある場合を除いて、その労働の報酬を受ける権利を有する。その条件は、利害関係人を除く不分割権利者によって、又はそうでない場合には、仮のものとして裁判する大審裁判所長によって定められる。
② 管理者は、受任者と同様に、その事務処理において犯すフォートについて責任を負う。
第 1873-11 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① それぞれの不分割権利者は、事務処理に関する全ての書類の伝達を要求することができる。管理者は、一年に一回、不分割権利者に対してその事務処理を報告しなければならない。その際に、管理者は、実現した利益及び被った損失又は予見可能な損失を書面で表示する。
② それぞれの不分割権利者は、不分割財産の保存の費用を分担する義務を負う。特別の合意がない場合には、使用及び収益の権利の行使並びに利益及び損失の配分について、この法典第 815-9 条、第 815-10 条及び第 815-11 条が適用される。
第 1873-12 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割財産又はそのうちの一又は数個の財産における不分割権利者の権利の全部又は一部の譲渡の場合には、共同不分割権利者は、この法典第 815-14 条から第 815-16 条及び第 815-18 条に定める先買及び代置の権利を享受する。
② [不分割の]合意は、その原因がいかなるものであっても不分割持分が不分割権利者以外の者に帰属するときは、不特定の期間を予定して締結されたものとみなされる。
第 1873-13 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者は、それらの者の一人の死亡に際して、生存者のそれぞれが死亡者の[不分割]持分を取得することができる旨、又は、《相続の際に、取得又は分与の時点におけるその価値にしたがって、そのことを考慮するという負担のもと、》(1978 年 6 月 10 日の法律第 627 号)生存配偶者若しくは指定された他の全ての相続人がその[不分割]持分を自己に分与させることができる旨を合意することができる。
② xxの不分割権利者又はxxの相続人が同時にその取得又は分与の権能を行使する場合には、それらの者は、反対の合意がある場合を除いて、不分割又は相続におけるそれぞれの権利に比例して死亡者の持分を全員で取得したものとみなされる。
③ 本条の規定は、《第 831 条から第 832-2 条》(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)の規定の適用を妨げることができない。
第 1873-14 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 取得又は分与の権能は、その受益者が態度決定について遅滞に付された日から起算して一月の期間内に生存する不分割権利者及び《先に死亡した者》(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)の相続人に対する通知によってそれを行使しなかった場合には、失効する。この付遅滞は、それ自体、財産目録を調整し、かつ、熟慮するために『相続』の章に定める期間の満了前には行うことができない。
② 取得若しくは分与の権能について定めなかったとき、又はその権能が失効するときは、死亡者の[不分割]持分は、その相続人又は受遺者に帰属する。このような場合には、不分割の協定は、相続の開始から不特定の期間を予定して締結されたものとみなされる。
第 1873-15 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 第 815-17 条は、不分割財産の債権者並びに不分割権利者の個人的債権者に適用される。
② ただし、不分割権利者の個人的債権者は、その債務者自身が分割を要求することができる場合でなければ、分割を要求することができない。その他の場合には、それらのものは、民事訴訟法典に定める形式に従って、不分割財産におけるその債務者の[不分割]持分の差押え及び売却を追行することができる。この場合には、第 1873-12 条の規定が適用される。
第 2 節 用益権者存在の場合における不分割の権利の行使に関する合意
第 1873-16 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 不分割財産が用益権を課せられているときは、あるいは虚有権者の間で、あるいは用益権者の間で、あるいはそれら相互の間で、原則として前節の規定に服する合意を締結することができる。同様に、用益[権]について不分割にある[xxの]者と全ての財産の虚有権者である[一人の]者との間でも、また同様に[一人の]包括用益権者と[xxの]虚有権者との間でも、合意を行うことができる。
第 1873-17 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 用益権者が合意の当事者でなかったときは、不分割財産の管理者と取引を行った第三者は、虚有権者が管理者に付与した権限を用益権を害して援用することができない。
第 1873-18 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 用益権者と虚有権者との間で締結する合意において、人数及び持分の過半数で決定を行う旨を定めるときは、持分に割り
当てられる議決権は、用益権者と虚有権者との間で折半される。ただし、当事者がそれについて別に合意する場合には、その限りでない。
② 第 582 条以下に定めるような用益権者の義務を超える支出はすべて、合意自体において、又はその後の行為によって同意を与えるのでなければ、用益権者を拘束しない。
③ 不分割財産の完全な所有権の譲渡は、用益権者の同意なしには、行うことができない。ただし、売却を追行することができる債権者が譲渡を要求する場合には、その限りでない。
※関連条文
第 3 編第 1 章第 7 節 不分割の法律上の規律(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)
第 815 条(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号) いかなる者にも、不分割にとどまることを強制することができない。分割は、常に提起することができる。ただし、判決又は合意によって延期された場合には、その限りでない。
第 815-1 条(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号) 不分割権利者は、第 1873-1 条ないし
第 1873-18 条にしたがって、不分割権利の行使に関する合意を締結することができる。第 1 款 不分割財産に関する行為
§1 不分割権利者によりなされる行為
第 815-2 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者はすべて、《それが
緊急的な性質を有していなくても、》(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)不分割財産の保存に必要な措置をとることができる。
② 不分割権利者は、そのために、その者によって保有される不分割の資産を利用することができ、第三者に対してはその資産の自由な処分権を有する者とみなされる。
③ [利用すべき]不分割の資産がない場合には、不分割権利者は、共同不分割権利者に対して自己とともに必要な支出を行うことを義務付けることができる。
④ 不分割財産が用益権を課せられているときは、これらの権限は、用益権者が修繕の義務を負う範囲でその者に対抗することができる。
第 815-3 条(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)① 不分割権利の少なくとも 3 分の 2
を有する一又は複数の不分割権利者は、この多数により[次の行為を行うことが]できる。
1. 不分割財産の管理行為を行うこと
2. 一若しくは複数の不分割権利者又は第三者に管理の一般的委任を与えること
3. 不分割の債務及び負担を支払うために不分割動産を売却すること
4. 農業、商業、工業又は手工業目的での不動産に関する賃貸借以外の賃貸借を締結及び更新すること
② このような不分割権利者は、これらについて他の不分割権利者に通知する義務を負う。それがなされない場合には、なされた決定は、それらの者に対抗できない。
③ ただし、不分割財産の通常の利用に属さないあらゆる行為、及び第 1 項第 3 号が規定するもの以外の処分行為を行うためには、全不分割権利者の同意が必要である。
④(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)不分割権利者の一人が不分割財産の管理にあたり、他の不分割権利者がそれを知りながらそれらの者の側から異議の申立てを行わない場合には、その者は、黙示の委任を受けたものとみなされる。この委任は、管理行為を含み、処分行為及び賃貸借の締結又は更新を含まない。
§2 裁判所により許可される行為
第 815-4 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者の一人がその意思を表明することができない場合には、裁判所は、他の者に、一般的な仕方で、又は一定の特定の行為についてその者を代理する権限を付与することができる。この代理の条件及び範囲は、裁判官が定める。
② 法定の権限、委任又は裁判所による授権がない場合には、不分割権利者の一人が他の者を代理して行った行為は、事務管理の規則にしたがってその者に対して効果を有する。第 815-5 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者は、共同不分割権利者の[同意の]拒否が共通の利益を危険にさらす場合には、その者の同意を必要とする行為を単独で行うことの許可を裁判によって受けることができる。
②(1987 年 7 月 6 日の法律第 498 号)裁判官は、虚有権者の請求により用益権の負担の付いた財産の完全なる所有権の売却を用益権者の意思に反して命じることができない。
③ 裁判所の許可が定めた条件にしたがって行った行為は、その同意を欠いた不分割権利者に対抗することができる。
第 815-5-1 条(2009 年 5 月 12 日の法律第 526 号)① 財産の所有権の部分委譲の場合、又は不分割権利者の一人が第 836 項に規定された事由の一つにあたる場合を除いて、不
分割財産の譲渡は、不分割財産の少なくとも 3 分の 2 を有する一又は複数の不分割権利者の請求により、次項以下に定められた条件及び態様にしたがって、大審裁判所によって許可されることができる。
② 不分割財産の少なくとも 3 分の 2 を有する一又は複数の不分割権利者は、公証人の面前で、この多数により、不分割財産の譲渡を行う意思を表明する。
③ 公証人は、召集から一月の期間内に、この意思を他の不分割権利者に通知する。
④ 一又は複数の不分割権利者が不分割財産の譲渡に反対する場合又は通知からxxの期間内に意思を表明しない場合、公証人はそのことを調書により確認する。
⑤ この場合、大審裁判所は、譲渡が他の不分割権利者の権利を過剰に侵害しないときには、不分割財産の譲渡を許可することができる。
⑥ この譲渡は換価処分によってなされる。そこから得られる金額は、不分割[財産]の債務及び負担を支払うためになされる場合を除いては、買換え(remploi)の対象とならな。
⑦ 大審裁判所の許可が定める条件で行われる譲渡は、その同意を欠いた不分割権利者に対抗することができる。ただし、不分割権利の少なくとも 3 分の 2 を有する一又は複数の
不分割権利者の譲渡の意思が、第 3 項に規定された態様にしたがって当該不分割権利者に通知されない場合には、この限りでない。
第 815-6 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 大審裁判所長は、共通の利益が要求するすべての緊急の措置を命じ、又は許可することができる。
② 裁判所長は、特に、必要な場合には利用の条件を定めて、緊急の必要に対処するための仮払金を不分割財産の債務者又は不分割資産の受寄者から受領することを、不分割権利者の一人に許可することができる。この許可は、生存配偶者又は相続人としての資格の使用をもたらさない。
③ 裁判所長は、同様に、あるいは、必要がある場合には保証人を立てることを義務付けて不分割権利者の一人を管理者として指定し、あるいは、係争物受寄者を選任することができる。この法典の第 1873-5 条から第 1873-9 条は、裁判官が別に定めない場合には、理由がある限り、管理者の権限及び義務に適用する。
第 815-7 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 裁判所長はまた、有体動産の移動を禁止することができる。ただし、必要と判断する場合には、その者が保証人を立てることを負担として、権利承継人のうちのある者にその個人的な使用を付与する有体動産を特定することを妨げない。
第 815-7-1 条(2009 年 5 月 27 日の法律第 594 号) グアドループ、ギアナ、マルチニック島、レユニオン島及びサン・マルタン島においては、居住目的又は居住及び職業の混合目的の不分割不動産が所有者を欠く場合、又は二民事年度以上前から現実の占有の対象となっていない場合は、不分割権利者は、第 813-1 条ないし第 813-9 条に規定された要件で、不動産の改良、回収及び修復の作業を行うこと、並びに、不動産を主として居住のために賃貸借に供することのみを目的として、管理行為及び工事の手続を遂行することを、裁判所により許可されることができる。
第 2 款 不分割権利者の権利及び義務
第 815-8 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 不分割財産の計算において収入を受領し、又は費用を支弁する者はいかなる者であっても、その一覧書を備えなければならない。この一覧書は、不分割権利者の閲覧に供される。
第 815-9 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① それぞれの不分割権利者は、他の不分割権利者の権利、及び不分割の間に適式に行われる行為の効果と両立する範囲において、不分割財産をその用途にしたがって使用し、収益することができる。利害関係人の間に一致がない場合には、この権利の行使は、仮に、裁判所長によって定められる。
② 不分割物を排他的に使用し、又は収益する不分割権利者は、反対の合意がある場合を除いて、補償金を支払う義務を負う。
第 815-10 条(2006 年 6 月 23 日の法律第 728 号)① 不分割財産の代位物たる債権及び補償金、並びに不分割権利者全員の同意により不分割財産の購入又は買換えにより獲得した財産は、物的代位の効果により、当然に不分割となる。
②(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)不分割財産の果実及び収入は、仮の分割、又は収益の分割を定めるその他のすべての合意がない場合には、不分割財産を増大させる。
③(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)ただし、果実及び収入に関するいかなる追求
も、それらを受領し、又は受領することができたであろう日から 5 年を越えた後は、受理されない。
④(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)それぞれの不分割権利者は、不分割財産におけるその権利に比例して、不分割財産から生じる利益への権利を有し、損失を負担する。第 815-11 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者はすべて、その者が同意した行為又はその者に対抗することができる行為がもたらした支出を控除して、
[不分割財産の]利益におけるその年次的持分を請求することができる。
② 他の証書がない場合には、不分割財産におけるそれぞれの権利の範囲は、公知証書又は公証人が作成する財産目録の表題部から生じる。
③ 争いがある場合には、大審裁判所長は、終局的な数額確定のときに行うべき計算を留保して、利益の仮の配分を命じることができる。
④ 裁判所長は、同様に、処分可能な資産を限度として、行うべき分割における不分割権利者の権利に対して元本の前払いを命じることができる。
第 815-12 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 一又は数個の不分割財産を管理する不分割権利者は、その管理の純益を返還する義務を負う。その者は、協議又はそれがない場合には裁判で定める条件にしたがって、その活動の報酬への権利を有する。
第 815-13 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割権利者がその費用で不分割財産の状態を改良したときは、分割又は譲渡の時にその財産の価額が増加していることをしんしゃくして、xx[の原則]にしたがってその者に対してその改良を考慮しなければならない。同様に、その者が当該財産の保存のためにその個人的な金銭によって支出した必要な《支出》(2009 年 5 月 12 日の法律第 526 号)は、それが当該財産を何ら改良しなかった場合でも、その者に対して考慮されなければならない。
② 反対に、不分割権利者は、その行為又はそのフォートによって不分割財産の価額を減少させた損傷及び毀損について責任を負う。
第 815-14 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割財産又はその一若しくは 数個の財産におけるその権利の全部又は一部を、不分割[関係]外の者に有償で譲渡しよ うとする不分割権利者は、企図する譲渡の代価及び条件並びに取得しようとする者の氏名、住所及び職業を裁判外の行為によって他の不分割権利者に通知する義務を負う。
② 不分割権利者はすべて、この通知に続く一月の期間内に、その者に通知された代価及び条件で先買権を行使することを裁判外の行為によって譲受人に知らせることができる。
③ 先買いの場合には、先買権を行使する者は、売却行為の実現のために、売主へのその返答の送付の日から起算して二月の期間を有する。この期間を経過した場合には、その先買いの申述は、効果なくとどまった付遅滞から 15 日後に法律上当然に無効となる。ただし、売主がその者に対して請求することができる損害賠償を妨げない。
④ xxの不分割権利者がその先買権を行使する場合には、それらの者は、反対の合意が
ある場合を除いて、売却に付される部分をそれぞれの持分に比例して全員で取得するものとみなす。
⑤ 譲渡人が支払いの期間に同意したときは、《第 828 条》(2006 年 6 月 23 日の法律第
728 号)を適用する。
第 815-15 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割財産又はその一若しくは数個の財産における不分割権利者の権利の全部又は一部の競売を行う場合には、弁護士又は公証人は、売却のために予定する日の一月前に通知によって不分割権利者にそれを知らせなければならない。それぞれの不分割権利者は、競売から起算して満 5 日の期間内に書記課への、又は公証人のもとでの申述によって取得者に代置することができる。
② 売却のために作成する《売却条件ファイル》(2006 年 4 月 21 日のオルドナンス第 461
号)は、代置権を記載しなければならない。
第 815-16 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号) 第 000-00 xxxx 000-00 条の規定を無視して行ったすべての譲渡又はすべての換価処分は、無効である。無効の訴権は、 5 年で時効に係る。この訴権は、その者に対して通知を行わなければならなかった者又はその相続人でなければ、行使することができない。
第 3 款 債権者の追及権
第 815-17 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 不分割が生じる前に不分割財産に対して[権利を]行使することができた債権者、及びその債権が不分割財産の保存又は管理から生じる債権者は、分割の前に積極財産から控除して支払いを受ける。それらの者は、さらに、不分割財産の差押え及び売却を追行することができる。
② 不分割権利者の個人的債権者は、動産であれ、不動産であれ、不分割財産におけるその者の持分を差押えることができない。
③ ただし、それらの債権者は、その債務者の名において分割を提起し、又は債務者が要求する分割に関与する権能を有する。共同不分割権利者は、債務者の名において、かつ、その弁済として債務を弁済することによって、分割の訴えの進行を停止させることができる。この権能を行使する者は、不分割財産から控除して償還を受ける。
第 4 款 用益権の不分割
第 815-18 条(1976 年 12 月 31 日の法律第 1286 号)① 第 815 条から第 815-17 条の規定は、用益権の規則と両立する限り、用益権の不分割に適用する。
② 第 815-14 条、第 000-00 xxxx 000-00 条が定める通知は、すべての虚有権者及びすべての用益権者に送付されなければならない。ただし、用益権者は、いかなる虚有権者も取得者とならない場合でなければ、虚有権の持分を取得することができない。虚有権者は、いかなる用益権者もその取得者とならない場合でなければ、用益権の持分を取得することができない。
第 11 章 寄託及び係争物寄託
第 2 節 狭義の寄託第 5 款 必要的寄託
第 1949 条 必要的寄託は、火災、崩壊、略奪、難船その他の予見されない出来事のような何らかの事故によって強制された寄託である。
第 1950 条(1980 年 7 月 12 日の法律 525 号) 必要的寄託については、第 1341 条に定める数額を上回る価額に関するときでも、証人による証拠を受理することができる。
第 1951 条 必要的寄託は、そのほか、先に挙げたすべての規則によって規律される。
第 1952 条(1973 年 12 月 24 日の法律第 1141 号) 旅店主又はホテル業者は、受寄者と同様に、その者のもとに宿泊する旅客がその施設に持ち込む衣類、手荷物及び様々な物件について責任を負う。このような種類の物件の委託は、必要的寄託とみなされる。
第 1953 条(1973 年 12 月 24 日の法律第 1141 号。2009 年 5 月 12 日の法律第 526 号による改正)① 旅店主又はホテル業者は、それらの物件の盗難又は損害について責任を負う。窃盗を犯し、又は損害を生じさせた者が、その従業者であると、[旅店・]ホテルに出入りする第三者であるとを問わない。
② この責任は、旅店主又はホテル業者の手中にあるすべての性質の受寄物又はそれらの者が正当な理由なしに受領することを拒んだすべての性質の受寄物の盗難又は毀損の場合には、すべての反対の条項にかかわらず、無制限である。
③ 他のすべての場合には、旅客に対して支払うべき損害賠償は、一日分の宿泊賃料の 100倍相当に限定され、それを下回る合意による制限はすべて、排斥される。ただし、旅客が被った損失が、旅客を宿泊させる者又はその者が責任を負うべき者のフォートから生じたことを旅客が証明する場合には、その限りでない。
第 1954 条(1973 年 12 月 24 日の法律第 1141 号)① 旅店主又はホテル業者は、不可抗力によって生じる盗難又は損害についても、物の性質又は瑕疵から生じる損失についても、責任を負わない。ただし、それらの者は、主張する事実を証明する負担を負う。
② 旅店主又はホテル業者は、それらの者が専用する場所に駐車する車両の中に放置した物件については、第 1953 条の規定の適用を除外して、一日分の宿泊賃料の 50 倍を限度として責任を負う。
③ 第 1952 条及び第 1953 条は、生きている動物には適用されない。
第 3 節 係争物寄託
第 1 款 係争物寄託のさまざまな種類
第 1955 条 係争物寄託は、あるいは合意により、あるいは裁判による。
第 2 款 合意による係争物寄託
第 1956 条 合意による係争物寄託は、一又はxxの者によって、係争物について第三者の手中に行われる寄託である。その第三者は、争いが終了した後に、それを取得すべきであると裁判される者にその物を返還する義務を負う。
第 1957 条 係争物寄託は、無償でないことがある。
第 1958 条 係争物寄託は、無償であるときは、以下に挙げる差異を別として、狭義の寄託の規則に服する。
第 1959 条 係争物寄託は、動産物件だけでなく、不動産であっても目的とすることができる。
第 1960 条 係争物寄託の任にあたる受寄者は、争いが終了する前には、すべての利害関係当事者の同意又は正当と判断される事由によるのでなければ、免責を受けることができない。
第 3 款 係争物寄託又は裁判上の寄託
第 1961 条 裁判所は、[以下の物について]係争物寄託を命じることができる。一 債務者のもとで差し押さえられる動産
二 所有又は占有が二又はxxの者の間で係争中の不動産又は動産三 債務者がその免責のために提供する物
第1962 条① 裁判上の保管人の設定は、差押人と保管人との間で相互的義務を生じさせる。保管人は、差押物件の保存のために、善良な家父としての注意を払わなければならない。
② 保管人は、差押えの解除の場合には、あるいは売却のために差押人に対して、あるいは執行が行われた当事者に対して、差押物件を提出しなければならない。
③ 差押人の義務は、法律が定める報酬を保管人に支払うことにある。
第 1963 条① 裁判上の係争物寄託は、あるいは利害関係当事者の間で合意する者に、あるいは裁判官が職権で選任する者に委ねられる。
② いずれの場合にも、物を委ねられた者は、合意による係争物寄託に伴うすべての義務に服する。
第 12 章 射倖契約
第 1964 条(2009 年 5 月 12 日の法律第 526 号による改正)① 射倖契約は、あるいは当事者のすべてにとって、あるいはそのうちの一又はxxにとって、利益及び損失に関する効果が不確実な出来事にかかわる相互的な合意である。
② このようなものとして、[以下のものが]ある。保険契約
競技及び賭事 終身定期金契約
第 1 款 競技及び賭事
第 1965 条 法律は、競技の負債又は賭事の支払いについて、いかなる訴権も付与しない。
第 1966 条① もっぱら武具を用いて行うべき競技、徒競走又は競馬、車両競争、球技及び身体の技巧及び訓練に資する同一の性質の他の競技は、前条[の適用]から除外される。
② ただし、裁判所は、その全額を過大と思うときは、請求を排斥することができる。
第 1967 条 いかなる場合にも、敗者は、任意に支払ったものの返還を請求することができない。ただし、勝者の側に詐欺、欺瞞又は騙取があった場合には、その限りでない。
第 13 章 信託(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)
※ クリスティアン・ラルメ(野澤xx訳)「フランス信託法の制定―2007 年 2 月 19 日の法律」信託 235 号 56 頁以下(2008 年)、及び、ピエール・クロック(平野xx訳)
「フランス民法典への信託の導入」法研 81 巻 9 号 111 頁以下(2008 年)を主に参考にし、若干の修正を加えた。
第 2011 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 信託は、一人又は複数の設定者が、物、権利若しくは担保又は現在及び将来の物、権利若しくは担保全体を、一人又は複数の受託
者に移転し、この者が、これらを自己の固有財産と分別して保有し、定められた目的のもとに一人又は複数の受益者のために管理する取引である。
第 2012 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 信託は、法律又は契約により設定される。信託は、明示的になされなければならない。
②(2009 年 1 月 30 日のオルドナンス第 112 号により 2009 年 2 月 1 日より追加) 受託者の財産に移転された物、権利又は担保が夫婦間の共通財産又は不分割財産に依存する場合には、信託契約は公証人証書によって設定されなければならない。これに反した場合は無効である。
第 2013 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 信託契約は、受益者のために恵与の意図でなされた場合には無効である。この無効は、公の秩序にかかわるものである。
第 2014 条(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号により 2009 年 2 月 1 日より削除)
第 2015 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 金融財政法典 L511-1 条に規定された
与信機関、同法典 518-1 条に列挙された組織及び機関、同法典 531-4 条に規定された投資
会社、並びに保険法典 310-1 条により規律される保険会社のみが、受託者となる資格を有する。
②(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号により 2009 年 2 月 1 日より追加) 弁護士業の構成員も、受託者となる資格を有する。
第 2016 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 設定者又は受託者は、信託契約の受益者又は受益者の一人となることができる。
第 2017 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 信託契約に反対の約定がない限り、設定者は、いつでも、[信託]契約の履行の枠内でその利益を保全することを任務とし、法律が設定者に付与するのと同一の権限を有する第三者を指定することができる。
②(2009 年 1 月 30 日のオルドナンス第 112 号により 2009 年 2 月 1 日より追加) 設定者が自然人であるときは、設定者はこの権能を放棄することができない。
第 2018 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 信託契約は以下のことを定めなければならず、これを欠くときは無効である。
1 移転される物、権利及び担保。それが将来のものである場合には、特定の可能なものでなければならない。
2 移転の期間。この期間は、契約締結の時から 99 年を超えることはできない。
3 一人又は複数の設定者。
4 一人又は複数の受託者。
5 一人又は複数の受益者。受益者の指定がない場合には受益者を指定するための規則。
6 一人又は複数の受託者の任務、並びにその管理及び処分権限の範囲。
第 2018-1 条(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号) 信託契約において、設定者が信託財産に供される営業財産又は不動産の使用又は収益を保持するものとされるときは、このような目的で締結された[信託の]合意は、反対の約定がない限り、商法典第 1 編第 4 章第 4
節及び第 5 節[の規律]に服さない。
第 2018-2 条(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号) 信託の枠内でなされる債権の譲渡は、信託契約の日、又は、それを確認する追加的合意(avenant)の日より、第三者に対して対抗可能となる。この債権譲渡は、譲渡された債権の債務者に対しては、譲渡人又は受託者によって債務者に対してなされた通知によって初めて、対抗可能となる。
第 2019 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 信託契約及びその追加的合意は、受託者の所在地における課税事務の日、又は、受託者がフランスに住所を有しない場合には、非居住者としての課税事務の日から起算して一ヶ月以内に登録されなければ無効である。
② 信託契約及びその追加的合意が不動産又は不動産に関する物権を対象とする場合には、一般租税法典第 647 条及び第 657 条が規定する要件に従い公示がなされなければ、信託契 約及びその追加的合意は無効である。
③ 信託契約から生じる権利の移転、及び、信託契約により受益者が指定されていない場合におけるその事後的な指定は、同一の要件にしたがって登録された証書によって行われなければ、無効である。
第 2020 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 国による信託の登録は、コンセイユ・デタのデクレによって定められる方法に従ってなされる。
第 2021 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 受託者が信託の計算で行為する場合には、その旨を明示的に示さなければならない。
② 同様に、信託財産が、その移転が公示に服する物又は権利を含む場合には、その公示には、職権により、受託者の名が記載されなければならない。
第 2022 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号。2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号により
2009 年 2 月 1 日より入替え)① 信託契約は、受託者が設定者にその任務の報告をする要件を定める。
② ただし、契約の履行中に、設定者について後見が開始したときは、受託者は、後見人に対して、その要請に基づいて、少なくとも 1 年に 1 回、その任務を報告しなければならない。ただし、契約によって報告周期を定めることは妨げられない。契約の履行中に、設定者について保佐が開始された場合には、受託者は、同一の要件にしたがって、保佐人に対してその任務を報告しなければならない。
③ 受託者は、受益者及び第 2017 条の適用により指定される第三者に対して、その要請に基づいて、契約で定められた報告周期にしたがって、その任務を報告しなければならない。
第 2023 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 第三者との関係において、受託者は、信託財産について一切の権限を有するものとみなされる。ただし、第三者が受託者の権限に対する制限を知っていたことが証明された場合は、この限りでない。
第 2024 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 受託者のために、更生、司法再生及び司法清算手続が開始された場合であっても、信託財産は影響を受けない。
第 2025 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 信託財産は、その財産の保存又は管理によって生じた債権を有する者によってしか、差押えられない。ただし、信託契約以前に公示された担保に認められる追及権を有する設定者の債権者の権利の場合、及び、設定者の債権者の権利に対する詐害の場合は、この限りでない。
② 信託財産が十分ではない場合、設定者の財産が債権者の一般担保となる。ただし、信託契約において、負債の全部又は一部を受託者に負わせる旨の反対の約定がある場合には、この限りでない。
③ 信託契約は、信託債務の引き当てを、信託財産に限定することもできる。ただし、この条項は、これを明示的に承諾した債権者に対してのみ、対抗することができる。
第 2026 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号) 受託者は、その任務の遂行について犯したフォートについては、その固有財産によって責任を負う。
第 2027 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号、2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号) 受託者が、その義務に違反し、若しくは委ねられた利益を害した場合、又は、更生手続若しくは司法再生手続の対象となった場合において、受託者の変更の要件を定める契約上の約定がないときは、設定者、受益者又は第 2017 条の適用により指定された第三者は、仮の受託者の選定又は受託者の変更を裁判所に求めることができる。この請求を認める裁判所の判決は、当然に、当初の受託者の解任及び変更後の受託者への信託財産の移転という効果を生じさせる。
第 2028 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 信託契約は、受益者によって承諾されるまでは、設定者によって撤回されうる。
② 受益者が承諾をした後は、[信託]契約は、受益者の同意又は裁判所の判決によってのみ、変更又は撤回されうる。
第 2029 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号。2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号より 2009
年 2 月 1 日より入替え)① 信託契約は、自然人たる設定者の死亡、期限の到来、又は、期限到来前に[当該信託契約が]追求する目的が達成した場合にはその達成により、終了する。
② 受益者全員が信託を放棄した場合にも、信託は当然に終了する。ただし、契約において、信託が存続するための要件を定めている場合にはこの限りでない。同様の留保の下に、受託者が、司法清算手続若しくは解散手続の対象となった場合、又は営業譲渡若しくは吸収合併により消滅した場合、並びに、受託者が弁護士であって、その活動の一時禁止、登録抹消、又は除名がなされた場合には、契約は当然に終了する。
第 2030 条(2007 年 2 月 19 日の法律第 211 号)① 受益者がいなくなったことにより信託契約が終了した場合には、信託財産を構成する物、権利及び担保は、当然に設定者に復帰する。
②(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号により 2009 年 2 月 1 日より追加) 信託契約が設定者の死亡により終了した場合には、信託財産は当然に相続財産に復帰する。
第 2031 条(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号により 2009 年 2 月 1 日より削除)
※関連条文
第 408-1 条(2008 年 8 月 4 日の法律第 776 号) 未xx者の物又は財産は、信託財産に移転することができない。
第 16 章 仲裁契約(1972 年 7 月 5 日の法律第 626 号による改正により現題)
第 2059 条(1972 年 7 月 5 日の法律第 626 号) すべての者は、その者が自由な処分権を有する権利について、仲裁契約を行うことができる。
第 2060 条(1972 年 7 月 5 日の法律第 626 号)① 人の身分及び能力の問題、離婚及び別居に関する問題又は公共団体及び公の施設に関する争い、及びより一般的に公の秩序にかかわるすべての事項については、仲裁契約を行うことができない。
②(1975 年 7 月 9 日の法律第 596 号) ただし、工業及び商業の性格を有する公の施設の種別については、デクレが仲裁契約を行うことを許可することができる。
第 2061 条(2001 年 5 月 15 日の法律第 420 号) 特別な法律の規定がない限り、職業的活動に関して締結される契約において、仲裁条項は有効である。
(xxxx)