著者 久保 寛展 雑誌名 同志社法學 巻 62 号 6 ページ 2115-2153 発行年 2011-03-31 権利 同志社法學會 URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013571
投資家に対する格付機関の契約責任 : ドイツにおける「第三者のための保護効を伴う契約」法理を基礎として
著者 | xx xx |
雑誌名 | 同志社法學 |
巻 | 62 |
号 | 6 |
ページ | 2115-2153 |
発行年 | 2011-03-31 |
権利 | 同志社法學會 |
URL |
投資家に対する格付機関の契約責任
― ドイツにおける「第三者のための保護効を伴う契約」法理を基礎として ―
x x x x
第xx はじめに―本稿の問題意識―
第二章 格付機関による格付の意義および方法第xx 格付の意義
第二節 格付の方法―依頼格付と勝手格付―
第三章 投資家による格付機関に対する契約責任追及の可能性第xx ドイツ法上の問題点
第二節 いわゆる「第三者のための保護効を伴う契約」法理第三節 連邦通常裁判所の二つの判例
第四節 格付機関に対する「第三者のための保護効を伴う契約」法理の適用
Haftungsfreizeichnungen; Disclaimer
第五節 免責条項( )の効果
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四七七 (二一一五)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四七八 (二一一六)
第四章 わが国における格付機関の契約責任論
第xx 判例・裁判例の動向―「第三者のための保護効を伴う契約」法理の萌芽―第二節 名古屋高裁平成一七年六月二九日判決
第三節 格付機関の契約責任追及の可能性第五章 結びに代えて
第xx はじめに―本稿の問題意識―
サブプライムローンをきっかけに世界的に波及した金融危機は、xxxxx回復の先行きがみえず、世界経済は最も困難な時期に直面している。この危機を引き起こした一つの要因がアメリカに端を発した二〇〇一年のエンロンの不正会計事件や、二〇〇七年七月下旬以降のサブプライムローン問題であるとされるが、これらの事件および問題の背景には格付機関も関与していたことが知られている。すなわち、格付機関がxxxxの不正会計にいわば警鐘を鳴らすこと
1
( )
ができなかっただけでなく、サブプライムローン問題でも、当該ローンを束ねた金融商品に高格付を与えて急増を助け
る一方、ローンの不履行が増えると急速に大幅な格下げを行ったために市場が混乱したことから、金融危機が拡大した
2
( )
というものである。さらに、金融危機は、二〇〇八年九月のアメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの破綻に
3
( )
よっても強化されたが、この場合においても格付機関は、破綻直前までリーマンを投資適格としていたとされる。とり
わけサブプライムローン問題において、「急激な格下げがサブプライム問題を発生させた」、「格付の手法に問題がある」、
4
( )
「格付会社に対する監督規制が甘い」などの問題提起がなされたことは、格付機関の格付そのものへの信頼を大きく崩壊させる事実であったといえよう。他方、格付機関は金融市場のいわば「ゲートキーパー」的役割を果たすにもかかわ
5
( )
らず、これまで格付機関は、投資判断に関する情報を提供するが、金融商品の売買には関与しないために、法的規制の
6
( )
Quis
対象さえならないという認識があった。そのために、格付機関に対する信頼の崩壊は、「誰が見張りを見張るのか(
7
( )
custodiet ipsos custodies?
)」という問題を生じさせ、その結果として格付機関に対する法的規制が要求される契機にな
ると同時に、上述のような認識がもはや世界的にも通用しなくなったと理解することができよう。
8
( )
法的規制について、実際、アメリカでは、エンロンやワールドコムの事件が二〇〇二年のサーベンス・オクスレー法
Credit Rating Agency Reform Act 2006
9
( )
を制定する契機になるとともに、二〇〇六年の信用格付機関改革法(
10
( )
)の成立
を受けて、二〇〇七年六月に格付機関規制が導入された。本法は、いわゆる公認格付機関を対象に、投資家の保護およ
び公共の利益のために、信用格付産業の説明責任・透明性・競争を促進することによって、格付の質を改善することが
11
( )
目的とされる。本法によって、公認格付機関の登録制の導入、情報開示義務、利益相反の取扱いに関する手続の整備、
証券取引委員会(SEC)に対する規則制定権の付与など重要な改正が行われたが、さらに、二〇一〇年七月二一日に
12
( )
成立した金融規制改革法によっても、一段と格付機関の規制が強化されることになる。
これに対して、EUでは、二〇〇三年のイタリアのパルマラット社の不正会計事件ならびにサブプライムローン問題の表面化によって、格付機関の規制の必要性が認識されたことから、EUでも国家が格付機関に介入する必要はないという認識が維持できなくなった。そこで、格付機関に対する規制の導入が検討されたが、一度は二〇〇六年九月に規制の導入が見送られたという経緯がある。しかし、欧州閣僚理事会が二〇〇八年七月に格付機関に関する規制方針を提示
13
( )
したことから、その後に欧州委員会によって格付機関に関する規則案が公表され、さらにこの規則案は、二〇〇九年九
14
( )
月一六日の格付機関に関する規則として結実した。これによって、格付プロセスの独立性や利益相反の回避、格付の品質、開示および透明性報告書の作成など、さまざまな最低限の規制が格付機関に設けられた。また、その間に証券監督
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四七九 (二一一七)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八〇 (二一xx)
International Organization of Securities Commissions;
Code of Conduct Fundamentals for Credit Rating Agencies
者国際機構(
年に格付機関に対する基本行動規範(
以下、IOSCOとする)によっても、二〇〇四
15
( )
)が提示された。この
行動規範は、格付プロセスの品質と誠実性、信用格付機関の独立性と利益相反の回避などから構成され、合計五二の具体的な行動規範を定めている。もともとこの行動規範自体には法的拘束力がなく、自主的な遵守にゆだねられていたが、
EUの監督規制の強化のために、一部の格付機関に限り、当該行動規範の遵守に自主的に対応したのが実際のところで
16
( )
ある。前述のようにEUが一度規制を見送ったのも、EU加盟国の証券監督当局によって構成される欧州証券規制当局
Committee of European Securities Regulators; CESR
委員会(
)が、毎年、格付機関によるIOSCOの行動規範の遵
17
( )
守状況を見守るためであったとされる。
このような格付機関に対する世界的な規制の動向は、わが国も例外ではなく、xxxx年六月二四日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律(以下、改正金商法とする)」(xxxx年法律第五八号)が成立し、改正金商法によって格付会社(なお、ここでは格付機関と格付会社をとくに区別しない)に対する規制が導入された。格付会社が金融および資本市場において担う役割・影響の大きさ、前述のような国際的な公的規制の導入・強化の動向などにかんがみ、格付会社が金融・資本市場において求められる機能を適切に発揮し、他方で、格付会社による格付が投資者の投資判断を
18
( )
歪めることのないように必要な規制・監督を行っていくことが重要であることが認識されたからである。もともと指定格付機関制度や適格格付機関制度が存在していたが、いずれも格付会社を規制・監督する制度ではなかったことから、改正金商法では、上述のようなIOSCOの基本行動規範や欧米の規制の動向を踏まえた対応が行われ、格付会社に対する規制として、①誠実義務(改正金商法六六条のxx)、②利益相反防止、格付プロセスのxx性確保等の体制整備義務(改正金商法六六条のxx)、③格付対象の金融商品を保有している場合等の格付の提供の禁止(改正金商法六六
条の三五)、④格付方針等の公表、説明書類の公衆縦覧等の情報開示義務(改正金商法六六条の三六第一項、六六条の三九)、また監督規定として、⑤格付会社に対する業務改善命令や監督上の処分(業務停止命令、登録取消など。改正金商法六六条の四一、六六条の四二)等が整備された。
金融商品が国境を越えて取引され、格付機関の格付もグローバルに利用される状況においては、必然的に国際協調を
19
( )
図りながら国際的に整合的な枠組みにおいて格付機関の規制の実効性を確保することが要求される。そのために、前述
のような格付機関に対するわが国の規制の動向も不可避であって、このことは、格付機関がますます世界的にも「ゲートキーパー」としての性格づけを余儀なくされることを意味しよう。しかしながら、翻ってわが国の改正金商法を考察
20
( )
した場合、わが国の改正金商法に残された課題も少なくない。すなわち、すでに指摘されているように、たとえば登録が、格付機関が信用格付業を行うための必要条件とされないために、必ずしも完全な参入規制となっていないという登録制度上の不備が存在することや、信用格付業者またはその役員もしくは従業員が規制に違反した結果として、信用格付業者の直接の契約の相手方またはその他の第三者が損害を被った場合について、これらの者に対する信用格付業者等の損害賠償規定が設けられていないという損害賠償上の問題が存在するからである。
とくに後者の損害賠償規定については、「証券化に対する市場の信認を回復するという目的に照らし、xxによる損
21
( )
害賠償規定を置くことが望ましいとも考えられる」。もちろん、格付による格付機関の言論の自由に配慮することなく、
格付機関に過大な規制を設けかつ責任を厳格にすれば、格付機関が登録を回避する可能性が高くなることも予想さ
22
( )
れる。しかし、たとえ格付が投資助言や証券の売買等の推奨を意味しなくても、格付が実際上投資決定の重要な根拠の一つであることは、格付が事実上しばしば格付機関の優良な格付付与のために市場において「勧誘的機能」を果たすからであり、その結果として投資決定のためのインセンティブが投資家に付与される側面があるからである。そうであれ
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八一 (二一一九)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八二 (二一二〇)
ば、このような性質を有する格付が、発行体と格付機関との間の格付契約によって作成され、投資家が投資決定の一要素として格付に社会的接触を有する限りにおいては、損害賠償規定を設ける意義が存在し、ここに第三者である投資家の利益を侵害しない契約当事者の一定の配慮および保護すべき義務(保護義務)が観念できるのではないかという疑問が生じるのである。たしかに、この場合、投資家は必ずしも発行体と格付機関との格付契約の当事者ではないことから、格付機関が恣意的ないし不xxな格付を行った場合や、格付の評価の前提となる事実に重大な誤認がある場合など、結果としての格付(判断)が合理的な意味を有するものとは認められないような場合(以下、不合理な格付とする場合が
ある)には、投資家の格付機関に対する責任は、格付機関の誠実義務違反(改正金商法六六条のxx参照)として不法
23
( )
行為責任を構成することもできよう。改正金商法では格付自体の実質的内容は規制の対象とされていないが、しかしな
がら、このような不法行為責任以外にも、上述のような保護義務に基づき、さらに契約責任についても構成できるので
24
( )
あれば、一般論および判例によれば両責任の要件および効果の相違が存在することから適合的な解決を図ることが可能
25
26
( ) ( )
な場合も存在するのではなかろうか。少なくとも被害者としての投資家が救済される範囲を拡大する可能性があるかも
しれない。もし考察の結果、そのような可能性が存在するのであれば、本稿のような問題意識に基づく検討にも、一定の意義が見出されうると思われる。
このような問題意識から、本稿では、格付機関の投資家に対する契約責任構成のための根拠として、現在、ドイツで
Vertrag mit Schutzwirkung zu Gunsten Dritter
も議論される「第三者のための保護効を伴う契約(
27
( )
)」法理(以下、単に
28
( )
法理とする場合がある)を取り上げて、契約に基づく格付機関の第三者責任論を扱うことにしたい。検討の順序として
は、まず、格付に対する一般的な認識を得る目的から、格付機関による格付の意義および方法を論じ(第二章)、その上で、わが国の民法学の成果に依拠しながら、ドイツにおける投資家の格付機関に対する契約責任の核心部分に入りた
い(第三章)。そして、その成果に基づき、主としてわが国の判例および裁判例を検討することで、わが国おける第三者の格付機関に対する契約責任の可能性を論じ(第四章)、最後に全体的考察を行って結びに代えたい(第五章)。
第二章 格付機関による格付の意義および方法
第xx 格付の意義
経済が複雑になればなるほど、ますます予見できないさまざまな投資の選択肢も発生する。選択に際して、たとえ営
29
( )
業としての投資または私的な投資であったとしても、あらかじめ専門家の分析や意見の表明を求めること自体は、決定
30
( )
Bonität
された投資に対する予防的なリスク回避措置であって、むしろ、そうすることが一般的な傾向である。この場合に、グローバルな金融市場や常に複雑な投資商品の分野において確固たる地位を獲得したのが、いわゆる格付機関による格付
Ausfall
である。格付機関は、デフォルト(
)の蓋然性に係る信用度(
)の格付を行うが、その結果は、通常は
Anleihen
証券の発行の成否や発行体の資本調達コストにも重要な影響を及ぼす。特定の債券( )の相対的な安全性、も
しくは証券の発行体の相対的な信用度が、格付を通じて一定の符号(文字や数字の組み合わせ)によって説明されるこ
31
( )
とは、たとえば企業の取引相手方がこの一定の信用度の格付を、取引関係を維持継続するための前提にする場合には、
32
( )
当該企業にとって極めて重要な意義を有しうることになろう。さらに、発行体が国際的な格付機関の一もしくは複数の
33
( )
格付を有する場合には、当該発行体は自己の金融商品を世界中の金融市場に効果的に提供できるという事情も、格付が重要な意義を有する一つの証拠でもある。
格付機関は民間の利益指向型企業であり、多数の格付機関が世界中に存在するが、主として三社の大規模な格付機関
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八三 (二一二一)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八四 (二一二二)
Moody’s
が国際格付市場の全体を区分している。その格付機関とは、ニューヨークに本社を置くアメリカの格付機関である
Standard & Poor’s Corporation
Fitch Ratings
Moody’s Investor Service
Fitch
(以下、S&Pとする)と
(以下、
とする)であり、
ロンドンに本社を置く
(以下、
とする)である。これら三つの格付機関が合計して格付市場の九〇
34
( )
%以上の市場占有率を有しており、これによって格付市場は寡占構造化している状況であるといわれている。いずれに
D
しても、これらの格付機関によって付与される格付符号は、最高の信用度を示す「AAA」から支払不能を示す「 」
―
にまで及び、その際、「+」もしくは「
35
( )
」あるいは「
(上位)」、「
(中位)」および「
(下位)」のような付加文
1
2
3
字もしくは数字によっても区別される。格付機関は、さらに自己が使用した各段階の符号を定義することになるが、た
36
( )
A
とえばS&Pでは「 」の格付段階について次のように定義している。すなわち、「債務を履行する能力は高いが、上
位二つの格付(AAAおよびAA:括弧内は筆者注)に比べ、事業環境や経済状況の悪化からやや影響を受けやすい」
Moody’s
investment grade
とする。また、S&Pでは格付が「AAA」と「BBB」との間で行われる場合に、また では格付が「Aaa 」
3
と「Baa
」との間で行われる場合において、いわゆる「投資適格(
)」として認定し、それ以下
speculative grade
の場合をいわゆる「投機的階級( )」として認定する。これらのいわば「称号」は、たとえばファン
ドのような機関投資家が、自己の規約においてしばしば「投資適格」と判定された証券に限り投資できると定める場合
37
( )
もあり、また多数の投資家は、通常は国際的な格付機関の格付を参照し、当該格付機関によって付与された「投資適格」
38
( )
の金融商品に限り、自己のポートフォリオに加えるという状況からすれば、これらの称号を獲得できるかどうかは、発
行体にとって極めて重要なものとなる。したがって、発行体は、優良な格付の評価なしに、自己の金融商品を資本市場に売り出すことはほとんど不可能であるので、格付は、企業の資金調達において、典型的な銀行の信用貸付けの方法で
39
( )
あっても、資本市場での資本調達の方法であっても、重大な役割を果たすことになろう。発行体自身にとっても、格付
は、事実上市場参入のための条件にもなる。したがって、発行体は、通常、発行体自身であれ、金融商品であれ、格付
40
( )
solicited rating
機関に対して、必然的に依頼格付( )によって信用度調査を依頼することになる。
反対に、投資家の側からみれば、信用度の格付は、投資商品の判断に際して発行体と投資家との間における情報の非
41
( )
対称性を減少させるのに寄与する。そもそも格付は、金融市場にとって国民経済上重要な資本配分のための重要なコミ
42
( )
ュニケーション手段であって、投資家が投資する場合における取引コストの低下にも寄与する。投資家にとっても、発行体に他人資本を提供する場合には、発行体もしくは発行証券の価値に関して信頼できる情報が決定的に重要になることから、信用度格付の結果としての情報が、格付機関自体によって、もしくは一般的なメディアを通じて公表されるこ
とは、投資家にとっても有意義である。その意味において、格付機関は、発展した資本市場の最も重要な情報仲介者と
43
( )
しての役割を果たすことになる。このような発行体もしくは投資家に対する格付機関の役割に直面して、格付機関がし
44
( )
ばしば金融市場の「ゲートキーパー」と呼称されることは知られている。
信用度の格付自体は、特定の証券の売買もしくは保有に係る推奨ではなく、単に、信用度とともに、利回りや通貨リ
45
( )
スクなどの別の基準を考慮に入れる投資家の、複雑な投資決定の要素の一つにすぎない。そのために、たとえばS&P
disclaimer
は、インターネットのホームページ上で、行動規範における免責条項( )として、「格付は、投資や財務など
に関する助言ではない。また、特定の証券の購入、保有、売却、あるいは投資に関するその他の意思決定を推奨するものではない。格付やその他の意見は、特定の投資家に対する特定の証券の適合性について言及するものではなく、投資に関する決定を下す際に依存すべきものではない。S&P(本文中では、レーティングズ・サービシズ)は発行体や投
資家などいかなる者に対しても、投資や財務などのアドバイザーとしての役割を負うことはなく、またそれらに対して
46
( )
受託者責任を負うこともない」ことを明示している。しかしながら、安全指向型の大衆投資家の場合、もっぱら公表さ
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八五 (二一xx)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八六 (二一二四)
れた信用度リスクの格付を信頼することからすれば、格付は、実務においては、事実上、あたかも投資の推奨であるか
47
( )
ような性質を有するという側面も否定できない。投資助言業務に際して、投資顧問会社が自己の顧客に対して、説明義
務の履行の一環として、場合によっては発行体もしくは特定の証券の格付を提示することもあるが、この場合において、ドイツでは、投資意思を有する顧客に対する投資助言に際して、投機的段階にある外国の発行体の債券の格付を開示し
48
( )
なかった銀行は、当該顧客に対して、助言が不完全であるとして損害賠償義務を負うとする裁判例がある。この裁判例は、格付機関ではなく、銀行に責任があるとされた裁判例であるが、格付判定が部分的に投資助言を構成する要素の一つとして判断されたものである。
第二節 格付の方法―依頼格付と勝手格付―
unsolicited Ratings
発行体に対する格付は、原則として、いわゆる「依頼格付」と「勝手格付(
)」に分類することが
できる。依頼格付の場合には、格付機関は、格付される企業との契約に基づき格付を行い、通常の場合、発行体が自ら
格付を依頼し、発行体自身は格付に基づく優良な信用度評価によって自己の資金調達コストの引下げを期待して、格付
49
( )
に対する対価を支払う。依頼格付では、格付機関によって複数の専門家から構成されるアナリストチームが編成され、
50
( )
発行体から提供されたデータに基づき最初の基本分析を行うとされる。もっとも、格付機関と依頼者との間の協力関係
Management
が必要となるので、発行体の経営者( )との会合が発行体において定期的に開催される。アナリストチー
ムは入手した情報を基礎に評価を行い、この結果を格付機関の内部に設置された格付委員会に提示して、最終的に格付
に関する意見が調整される。格付機関は、格付結果を公表する前に発行体と接触し、かつ発行体に対して、格付の結果
51
( )
ならびに決定の根拠を知らせる。これによって、発行体に対して、意見表明に係る機会が付与されるのである。もし追
加情報の提供によって事後的に格付の結果に有利な影響を及ぼす事情があれば、その事情を考慮する必要もあるからである。格付の結果は、たいていの場合、格付機関のホームページで公表される。対価を支払って、格付情報を取得する定期購読者の場合については、より詳細な情報が当該講読者に提供される。
これに対して、勝手格付の場合には、格付が、格付機関の自主的なインセンティブに基づき、もしくは監督当局など
52
( )
の発行体以外の第三者の依頼によって行われる。格付機関と、格付される企業との間には契約上の合意は存在しない。
格付された発行体は、格付機関自身もしくは報道機関等からはじめて格付の対象であったことを知ることができるのである。発行体との協力関係が存在しないことから、格付機関は、通常は一般的にアクセス可能な企業の公開データを参
53
( )
考にするにすぎず、情報基盤は依頼格付の場合よりも比較的小さい。したがって、勝手格付の場合には、情報の非対称
54
( )
性を完全に解消することは困難であると指摘されている。また、勝手格付については、次のような指摘もある。つまり、
発行体が優良な格付を希望している場合において、格付機関が勝手格付を通じて当該発行体に不利な格付を付与するこ
55
( )
とによって、これに反感を持つ発行体に格付依頼を強制的に誘因できることである。つまり、格付機関が、報酬を受け
るために、不相当に低い格付によって発行体をいわば威嚇できる可能性があるのである。さらに、格付機関がたとえば他の格付機関よりも相当に低く評価された金融商品に係る勝手格付を市場に提供することによって、表面的に価格形成
56
( )
のメカニズムをゆがめることもできる。なぜなら、この場合、勝手格付自体が、限定された情報基盤のために、あまり
精確でないからである。このことから、勝手格付の場合には、依然として濫用のリスクが存在することが指摘されてい
57
( )
るのである。
いずれにしても、格付機関による格付には二つの方法があることを確認できるが、実際上は、対価の支払を伴う依頼格付が一般的であるとされる。したがって、以下の検討においても、依頼格付を前提とする。
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八七 (二一二五)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八八 (二一二六)
第三章 投資家による格付機関に対する契約責任追及の可能性
第xx ドイツ法上の問題点
Pensionsverpflichtungen
前述のように、通常、格付は金融商品や発行体自身の信用度を包括的に分析する目的を有し、この目的に直面するならば、格付そのものが発行体にも投資家にも重要であることは明白である。反対に、発行体にも投資家にも信頼されない格付は、格付そのものの品質に問題があるといえる。たしかに格付は、それ自体「特定の証券の売買もしくは保有に係る推奨」を意味するものではないが、格付が投資家のための資本市場に及ぼす影響は極めて大きい。実際、ドイツで
Thyssen Krupp
は、S&Pが
社の年金債務(
)の処理に関して、年金債務の年金基金による財
Thyssen Krupp
産の保証がなかったことから、格付手法を変更して年金債務を他人資本として扱い、これによって 社の
社債の評価を二段階引き下げた結果、当該社債がいわゆるジャンク債になり、一日のうちに社債相場が六%の減少をみ
58
( )
Upgrade
たという事実もあるからである。このような資本市場に及ぼす影響にもかかわらず、虚偽もしくは正確でない不合理な
Downgrade
格付に基づき格付を不適切に引き下げる(
)か、もしくは引上げ(
)を拒否するような場合であっ
ても、それでも格付機関はこのような不合理な格付に基づき発行体や投資家に責任を負わないのであろうか。民事責任の発生原因は、一般的に契約責任と不法行為責任であるが、格付機関と格付を依頼した発行体との間の責任については、通常、その基礎にある契約関係(依頼格付契約)から生じるであろう。これに対して、格付機関と投資家との間には契約関係にないことから、直接に格付機関に対する契約責任は生じない。もっとも、投資家が格付機関と格付情報に関し
Abonnementvertrag
て定期購読契約( )を締結したような場合については、契約責任が生じる余地が存在することも考
えられる。しかし、このような不合理な格付を信頼して投資家が自己の財産を処分した結果として損害を被った場合に
おいて、そもそも格付機関の特別法上の対第三者責任が存在しないことから、契約外の投資家は格付機関自体に対して、契約責任ではなく、不法行為責任として追及できるにすぎないとすると、ドイツでは投資家の保護が期待されない。なぜなら、ドイツの不法行為法によれば、格付機関の格付は、絶対権の侵害行為(ドイツ民法八二xxx項。以下、ドイツ民法をド民と略す)あるいは刑法に反する行為のような保護法規違反(ド民八二三条二項)、または故意の良俗違反行為(ド民八二六条)に該当するものでもなく、またドイツが不法行為の一般規定を有しないことからも、不法行為責
任が成立する余地が極めて狭いからである。そのために、実際上、不法行為責任によって格付機関の責任を根拠づける
59
( )
ことは困難であると指摘されており、実際に発行体ならびに投資家に対する格付機関の責任を認めた判例が存在しない
60
( )
のが現状である。このことから、契約責任を追及する必要性が存在し、それを基礎づけるための理論構成が構築されなければならなかったのである。
第二節 いわゆる「第三者のための保護効を伴う契約」法理
そうであれば、格付機関に対する責任の根拠は、完全な契約責任構成でも不法行為責任構成でもない特別な中間領域
61
( )
において考慮されなければならないとされる。そのための根拠が、ドイツの判例によって、主としてxxxx(xxx
62
( )
四二条)に基づき展開された「第三者のための保護効を伴う契約」法理である。契約の効力は、法律の規定や特別の合意がない限り、契約当事者間でしか生じないが(契約の効力の相対性)、この法理は、契約当事者だけでなく、保護に
値する契約外の第三者についても、契約から発生する危険に接触する場合に当該第三者を保護するものであり、契約責
63
( )
任の体系に生じうる間隙を埋めるのに有益な制度であるといわれている。もちろん、第三者を当事者とする独立の契約関係を構成するものではない。典型的には、たとえば売買契約の売主が買主に対して負っている買主の生命、身体、財
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四八九 (二一二七)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九〇 (二一二八)
産上の法益を害しないように配慮すべき注意義務は、単に買主だけでなく、xxxxxx目的物の使用、消費が合理的
64
( )
65
66
に予想される買主の家族や同居者に対しても負うとする場合が考えられ、これによって契約責任の人的拡張が企図されているのである。このように、この法理はもともと契約締結後の第三者の生命および身体に対する積極的損害を把握していたにすぎなかったが、その後、母親に買い物に付き添われ、スーパーマーケットで野菜の葉で滑って転び怪我をした子供に対しても、売買契約が母親と売主であるスーパーマーケットとの間において締結されていなかったにもかかわ
( ) ( )
らず、契約締結前の領域において適用されるものとみなされた。本来ならば契約締結上の過失(ド民三xx条二項)に
基づく責任が肯定されうる場面ではあるが、この法理が契約締結の準備段階において適用が肯定されたことによって、
67
( )
Hypertrophie des Vertragsrechts
学説では「契約法の肥大( )」として非難されたところである。
いずれにしても、この法理が適用されることによって、契約外の第三者が契約の保護領域に取り込まれるには、主と
68
( )
して次の法律要件を充足していなければならない。すなわち、
Leistungsnähne
⑴ 給付との近接性( ) まず、第三者が、契約関係に基づく債権者と同様に、契約関係から生じる
同一の危険にさらされていなければならない。たとえば、この場合の第三者としては、瑕疵ある食品を購入した者の家族や同居人、瑕疵ある建物を賃借した場合の賃借人の家族などが典型的である。反対に、危険が生じるおそれのない第三者に対して、責任を拡大することに意味はない。すなわち、いわば契約から遠く離れた者を、当該契約の保護領域に取り込むことは、当事者の意思に合致しないし、第三者が契約に基づく給付に接触しない場合には、特別な危険の状況も存在しないからである。
Gläubigernähe
⑵ 債権者との近接性( ) 次に、第三者が契約関係の保護領域に取り込まれることに対して、契約の
Wohl und Wehe
債権者が正当な利益を有している場合である。この利益については、「禍福( )」の定式に基づき、債
権者が第三者の「禍福」に対して利害を有していなければならない場合に存在するとされた。もともと、たとえば家族法上の関係(両親と子供など)や使用者と被用者の関係などから想定されたものであるが、しかし現在では、この利益を拡大して、契約当事者が第三者を契約に取り込める意思を有していたかどうかという一般的な解釈上の原則に従って、その存否が決定されている。たとえば国家資格を有する専門家が、依頼を受けて鑑定意見を述べるか、または鑑定書を交付する場合には、それが第三者に対して使用されることを認識している限り、第三者への保護効を与える意思があったことが認められるとする。このように、当初は債権者が第三者の「禍福」に責任を負う他の家族構成員や同居者、被用者等を、保護される「第三者」と判断してきたが、現在ではこの定式を放棄し、一般的な解釈上の原則に従っているのが現状である。
Erkennbarkeit
⑶ 認識可能性( ) 上述した給付の近接性と債権者の近接性(保護の利益)は、契約の締結に際して、
契約の相手方(債務者)にとって認識できるものでなければならない。つまり、たとえば契約の相手方である売主が、誰に対して責任を負うのかを知りうるものでなければならないのである(人的範囲の画定)。もしそうでなければ、契約の相手方は、債権者と密接な関係にある多数の者がどのように給付に接触するのかを予見できないことから、必然的に予見できない責任リスクを負うことになり、契約の相手方にとっての法的安定性は無に等しいものとなるからである。
⑷ 第三者の保護の必要性 最後に、第三者に対して保護の必要性がなければならない。債権者と債務者との間において契約に基づき第三者に対する責任がすでに合意された場合には、保護の必要性を観念する必要はないが、合意されなかった場合については、第三者が保護の利益を有するかどうか、個別事案における検討が必要となる。
主としてこのような要件を基礎に、従来、ドイツでは、契約外の第三者に対する契約上の保護義務が判例上拡大され
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九一 (二一二九)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九二 (二一三〇)
てきたが、その大半が生命身体に対する狭義の保護義務の拡張事例であるといわれている。しかしながら、その後の判例において保護義務の範囲が財産的損害(純粋経済損害)にまで広げられることになった。本稿の関心からすれば、これを基礎に「第三者のための保護効を伴う契約」法理に基づく格付機関の責任の可能性について検討した判例を扱いたいが、上述のように、ドイツでは格付機関の責任を扱った判例および裁判例が存在しないことから、以下では、当該責任を検討するのに有益な類似の判例を参考として扱うことにしたい。
第三節 連邦通常裁判所の二つの判例
格付機関の責任の問題を検討するのに有益な判例が、主として①経済監査法人ならびに②不動産鑑定士に対して、「第
三者のための保護効を伴う契約」法理に基づき責任を肯定した次の二件である。まず、①経済監査法人の責任に関する
69
( )
連邦通常裁判所二〇〇四年六月八日判決は、要約すると次の事実関係に依拠していた。すなわち、原告は、一九九四xx二月一日に投資ファンド法人に資本参加したが、この原告による資本参加の意思表示の前提は、当該ファンドの創設者によって発行された勧誘目論見書にあった。被告は、当該ファンドに対する資本参加のための勧誘目論見書を監査した経済監査法人である。この目論見書によって所得の高い投資家に資本参加が勧誘される一方、目論見書には当該ファンドが、複数の地方自治体に対する廃水処理システムへの融資モデルとして紹介されており、また廃水処理施設の建設のために地方自治体によって構成された廃水処理連盟と当該ファンドとの間の契約では、二五年間にわたる固定の配当が保証されていた。目論見書では、「目論見書の監査」の見出しのもとに、次のことが掲載されていた。すなわち、「経済監査法人に対して目論見書の監査を依頼したが、この監査に係る報告書が完成した場合には直ちに、照会に応じて重要な利害関係人に当該報告書を提供する用意がある」と。また、xxxxxx一月xx日の被告の監査報告書には、次
のような記載があった。すなわち、「監査の結果、目論見書の記載は、提出された契約書および契約書案、および提供された情報によれば、完全かつ正確であることを確認することができる。事実および仮定された事項は適切に説明されており、また納得かつ信用できるものである…」と。
ところで、廃水処理施設の建設はxxxxxx二月に開始されたが、施設の建設費用の一部については廃水処理連盟によっても融資された。当該施設の規模および融資そのものは、当初、ブランデンブルク州における一六の地方自治体のために構想されたものであったが、実際には廃水処理連盟には、このうち七つの地方自治体しか加盟しておらず、もともと想定されていた地方自治体による出捐および公的援助も行われなかったとされる。一九九六年以降は、建設費用の支払いや当該ファンドに対する固定の配当なども、廃水処理連盟によって行われることがなかった。これに対して、原告は、被告が発表された公的援助を調査する必要があり、かつ九つの地方自治体が加盟しなかったこと、および廃水処理システムの構想全体に不経済性があったことを認識しなければならなかったと主張し、従前に受領した配当金を控除した出資総額について、被告である経済監査法人に対して損害賠償を求めた。
Richtigkeit
これに対して、連邦通常裁判所は、「第三者のための保護効を伴う契約」に依拠して、被告である経済監査法人の責任を肯定した。すなわち、その判旨によれば、「公的に任命されかつ宣誓した専門家、あるいは経済監査士もしくは税理士のように、国家に承認された特別の専門知識を有しかつこの資格において鑑定書もしくは鑑定意見を表明する者は、当該鑑定書もしくは鑑定意見を利用した第三者に対しても責任を負う。この前提は、経済監査法人が投資ファンド
Vollständigkeit
Glaubhaftigkeit
法人の依頼によって投資に係る勧誘目論見書を監査し、かつその完全性(
)、正確性(
)、x
Plausibilität
用度(
)および信頼性(
)を当該目論見書に掲載した本判決においても存在する。なぜなら、
この場合、経済監査法人は、監査報告書が投資ファンド法人に出資させる材料として利害関係人に提示されることを知
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九三 (二一三一)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九四 (二一xx)
70
っていたからである。ところで、本判決の場合には、投資家の目論見書責任に基づく固有の損害賠償請求権も考慮されるが、この請求権は、第三者のための保護効を伴う契約に基づく請求権と同等ではない。目論見書責任は、投資家の保護のために、出資から生じるリスクについてxxに基づく完全な説明が指向されなければならないこと、またこの目的のために、発行目論見書は、通常、投資の利害関係人にとって唯一の情報源であることから、目論見書に対して責任を負う者が責任を負わされなければならないことに基づく。したがって、目論見書責任は、勧誘の完全性および正確性に対する責任である。これに対して、第三者のための保護効を伴う契約に基づく不完全な鑑定書もしくは監査報告書による責任は、期待された職業上の専門知識および個人的な信頼を専門家に要求する、特別な信頼関係に基づく第三者に対する専門家の職業上の責任である。もっとも、その場合、両者の請求権は、異なる目的を有し、かつ異なる根拠に基づくので、相互に排斥される根拠は認められない」。
( )
次に、不動産鑑定士の責任に関する連邦通常裁判所二〇〇四年四月二〇日判決であるが、この判決は、要約すると次の事実関係に依拠していた。すなわち、被告は、E有限会社(以下、Eとする)の依頼に応じて、N登記協同組合(以下、Nとする)が所有する不動産の取引価値を、約xx七〇万マルクと評価し、一九九四年四月二日付で鑑定書を作成した不動産鑑定士である。鑑定の結果、被告は、このうち約二七五〇〇㎡の広大な土地について約八一七万マルクと評価し、またその土地上に建設された建物についてxxx万マルクと評価した。当該鑑定書には、「一般的記載」の表題のもとに、「目的:不動産価値の鑑定は、計画の策定(居住用兼営業用施設の建築:筆者注)および資金調達の目的のために必要とされる」と付記されている。さらに、当該鑑定書には、鑑定書は、依頼人および鑑定書記載の目的のためにのみ作成されたことが記載され、かつ土地の価値は推定に基づく収益価値によって算定された(鑑定書の五・一)との記載がある。なお、比較価値に基づく価値の算定は、直接に比較可能な土地の不存在のために不可能であったとされ
る。
Grundschuld
鑑定書の作成の後、Eのために、N所有の不動産に一〇〇〇万マルクの土地債務(
( )
71
)が登記された。そ
Obligationsscheinen
の登記後、Eは、債務証書( )の形式によって総券面額で一〇〇〇万マルクの債券を販売した。Eは、
発行目論見書をもって、債券自体は公証人に供託される不動産担保権(総計約xx七〇万マルク:筆者注)によって保証されているものとして勧誘を行った。これに対して、総額三万マルクの券面額をもって当該債券を取得したのが原告である。しかしながら、Eは銀行業の認可を有しなかったので、当時の連邦信用制度監督庁がその後に当該債券の販売を禁止したことから、Eの計画自体が頓挫することになった。このことから、Eは、原告に対して、合意された九%の利息とともに、払い込まれた資本を返還する義務を負った。一九九六xx月に、Xは和解申立てを行ったが拒否され、破産手続が開始されたので、原告は、専門家として土地の評価に従事する被告に対して、土地に対する不正確な価値の記載に基づく損害賠償を要求した。
ブランデンブルク上級地方裁判所は、原告は鑑定書作成契約の保護範囲に含まれないので、被告である不動産鑑定士に対する損害賠償請求を否定したが、これに対して、連邦通常裁判所は、控訴裁判所の見解と異なり、「原告がEの被告に対する鑑定依頼の保護効に含まれないとの理由をもって、原告に対する被告の責任が否定されるものではない」とし、控訴裁判所に差し戻した。連邦通常裁判所は、「第三者が契約関係に含まれるための法律行為に基づく意思が契約当事者に存在するかどうかについては、事実審の裁判所が一般的な解釈上の原則に従い探求しなければならない」とする。しかし、従来、連邦通常裁判所においても、依頼に基づき国家に承認された特別の専門知識を有する者によって作成された鑑定書もしくは証明書が、当事者の通常の意思によれば、契約外の第三者によって利用されることが明らかである場合において、当該専門家が相応の証明力を備えた鑑定書もしくは証明書を交付したときは、そのような第三者を
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九五 (二一xx)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九六 (二一三四)
契約関係に取り込む意思が推定されるとしていた。このことから、「国家に承認された特別な専門知識を有し、かつこの資格において鑑定人として意見を表明する者は、第三者のための保護効を伴う契約の原則に従い、鑑定結果を利用する者に対して責任を負うものと判断する。この場合における決定的な問題は、当該専門家が、契約の内容によれば、鑑定書が第三者にも利用され、かつ当該第三者によって財産の処分に係る決定の基礎にされることを予測しなければならないのかどうかである」。
さらに、「国家の承認なしに鑑定人として活動する専門家についても、第三者のための保護効を伴う契約に基づき、契約当事者の意思によれば、鑑定書の作成に係る契約に第三者の保護も含める場合には、当該専門家は契約相手方だけでなく、第三者に対しても鑑定書の正確性に対して責任を負わなければならないことが認められる。とくに鑑定書作成の依頼人と関係を有する第三者によって、財産の処分のための基礎として提示され、かつ財産の処分のために使用される鑑定書は、原則として、第三者の保護についても含まれる」とし、控訴裁判所の結論を支持しなかった。
第四節 格付機関に対する「第三者のための保護効を伴う契約」法理の適用
このような経済監査法人や不動産鑑定士に関する二件の連邦通常裁判所の判例は、格付機関に対する責任の場合にも、同様に理解されるのではなかろうか。すなわち、専門家によって作成された勧誘目論見書や不動産鑑定書の内容は、
格付機関の格付と同様であり、格付機関もまたその格付の内容を信頼した契約外の第三者(投資家)に対して、「第三
72
( )
者のための保護効を伴う契約」に基づき責任を負う根拠が認められるのである。格付機関は、前述の経済監査法人や不
lege artis
動産鑑定士と同様に、常法に従って(
73
( )
)自己の商品(格付意見)を提供する、特別の専門知識を具備した専
門家として市場において行動する。そうであれば、格付機関による格付は、少なくとも投資家に対する信頼の基礎と、
その投資決定に対する決定の根拠を作出することから、格付機関は、格付が市場における証券発行の目的のために投資
74
( )
家である第三者に開示されることによって、これを信頼した投資家が財産の処分を行うことを意図しているといえる。むしろ、格付の目的は、格付が市場において投資家に公表され、かつ重要な財産処分に係る決定の根拠を投資家に付与することでもある。したがって、前述の二件の判決の結論は、格付機関の場合にも妥当する余地があることが認められよう。
次に第三者のための保護効を伴う契約の本質的な要件は、①給付との近接性、②債権者との近接性、③認識可能性、
および④第三者の保護の必要性であるが、格付機関の格付の場合にも、これらの要件が妥当するかについて検討する必
75
( )
要がある。まず、①の要件として、第三者が、契約関係に基づく債権者と同様に、契約関係から生じる同一の危険にさ
らされていなければならないが、格付は市場において公表されかつ事実上投資決定の根拠として投資家に使用され、信用リスクの不完全な評価は投資家にも向けられることから、格付契約に基づき行われた格付と、第三者である投資家と
76
( )
の近接性は存在する。次に②の要件として、第三者が契約関係の保護領域に含まれることに対して、契約の債権者が正当な利益を有している必要がある。現在ではすでに判例によって放棄されているが、この利益について、当初、第三者
Wohl und Wehe
の「禍福( )」が債権者自身にも関係することが要求されていた。したがって、これによれば、債権者
である発行体は、契約の保護効に第三者である投資家を含めることに利益を有しなければならないか、もしくはxxx
77
( )
実の原則(ド民二四二条)に基づきこのような利益が存在したのと同様な状況に置かれなければならない。格付契約の場合には、格付機関は信用リスクを適切に評価する義務を負うが、この格付契約の目的は、発行体にも、格付を信頼する投資家にも重要であり、さらに債券の発行条件によっても、発行体と投資家は拘束される。そうであれば、その内容に応じて各当事者に対して相手方の権利、財産および利益に配慮すること義務づける規定(ド民二四一条二項)によっ
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九七 (二一三五)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九八 (二一三六)
78
( )
て、契約関係から投資家の財産を侵害しない投資家に対する注意義務が発行体に発生することになろう。そうであれば、投資家と債権者である発行体との近接性が存在することに疑義は生じない。また、③の要件については、債務者が、①と②の要件が明らかな事情を認識できる場合に存在する。格付機関にとって、投資家が発行体と同様に、不合理な格付
評価の危険を負うことは明白であるだけでなく、投資家が格付を信頼することも認識できるが、さらに格付機関が負う
79
( )
責任の人的範囲についても客観的に画定されるものでなければならない。しかしこの場合には、人的範囲の画定につい
80
( )
て、たしかに格付機関は発行体以外にも潜在的投資家まで知る必要はないが、格付機関の観点からみた場合、格付機関が、投資家が格付に基づいて発行体の信用リスクに投資した者の範囲に含まれ、当該投資家に対して不合理な格付評価によって損害が生じる可能性があることを、最初から認識していれば足りるとされる。④の要件についても、投資家の保護の必要性は、そもそも投資家自身が不合理な格付リスクにさらされている事情から明らかである。
このことから、格付契約は、以上の四つの要件を充足する、第三者のための保護効を伴う契約の典型的な事案であっ
81
( )
て、その結果、格付機関に対して損害賠償請求権を行使する根拠が付与されることになる。
Haftungsfreizeichnungen; Disclaimer
第五節 免責条項( )の効果
一般的に格付機関は、格付の性質について「格付は純粋な意見であり、格付の正確性について保証を表明するもので
はなく、また投資家に対して、特定の証券の売買もしくは保有について推奨するものではないために、格付機関が投資
82
( )
家の財産の処分から生じる損害に対して責任を負うものではない」として、免責条項を明示する。これによれば、投資
家は、本来、自己責任によって金融商品を調査し、その結果に基づき自己の財産の処分を行わなければならないことに
83
( )
なる。しかしながら、このような一般的に定められる格付機関の包括的な免責条項が実際にどのような効果を有するの
かについて、格付機関の責任との関連で検討すべき問題として生じてこよう。
投資家に対する格付機関の責任の根拠は、上述のようにxxxxの原則(ド民二四二条)に基づき判例によって展開された「第三者のための保護効を伴う契約」法理によって基礎づけられた。投資家にとっては、実際には格付機関から対外的に提供される格付自体に事実上の信頼が生じており、投資家はこの信頼を基礎に投資決定を行うだけでなく、格付機関自身にとっても、格付の品質が市場において信頼を受ける基礎になる。そうであれば、この信頼にもかかわらず、投資家は自己責任によって調査し、その結果に基づき投資決定を行うとする主張は、少なくとも現実を無視したもので
84
( )
あることは否定できない。一般的に、投資家は必ずしも包括的な信用度分析のために必要とされる十分な情報を有せず、その結果、個々の投資家による調査は事実上不可能であるので、格付が投資決定の根拠として重要であればあるほど、ますます資本市場における情報の非対称性が大きくなる。また、格付が実際上投資決定の重要な根拠であることは、格
付が事実上格付機関による優良な格付に基づき市場での「勧誘的機能」を果たすからであり、その結果として投資決定
85
( )
のためのインセンティブが投資家に付与されるからである。そうであれば、格付は、投資家にとって投資決定のための
根拠であると同時に、少なくとも事実上、投資決定のための推奨的性質を有することは否定できず、免責条項において格付機関が、特定の証券の売買等の推奨を表明するものではないとする単なる形式的な保護の主張は、少なくとも包括
86
( )
的免責条項としての効果を発生させるのに十分な根拠を有しえないのではなかろうか。第三者の利用の意図を認識でき
るにもかかわらず、自己の責任を不相当に引き下げることは、すべての関係者に良俗違反を基礎づけるという見解すら
87
( )
主張されるところでもある。
このことから、格付契約に基づく第三者のための保護効は、判例によればxxxxの原則(ド民二四二条)に基づく
88
( )
とされるが、この保護効が格付機関の免責条項によって破棄されうることは不合理であると評価できよう。
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
四九九 (二一三七)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇〇 (二一三八)
第四章 わが国における格付機関の契約責任論
第xx 判例・裁判例の動向―「第三者のための保護効を伴う契約」法理の萌芽―
本来、契約は契約当事者に対してのみ効力を有し、契約外の第三者は法的には契約の効力の外におかれている(契約
89
( )
の相対効)。しかし、周知のように、契約関係の効力が時間的にも(契約締結上の過失)質的にも(積極的債権侵害)
拡張され、さらに人的範囲も拡張する制度として、ドイツの判例によって当事者間で締結された契約に基づく保護義務を契約外の第三者にも拡張する「第三者のための保護効を伴う契約」法理が展開されてきた。もっとも、わが国では、
90
( )
この法理における第三者は、契約上の接点がなく、かつ不法行為法上の法律要件の柔軟性から、その必要性に疑義を主
91
92
( ) ( )
張する見解も存在するが、その反面、わが国にこの法理を導入する実益を説く見解も少なくなく、他方、下級審や最高
裁判所では、すでにこの法理を肯定したものと思われる裁判例ならびに判例が散在している状況である。このような状
93
( )
況に基づけば、少なくとも裁判実務では、この法理が徐々に浸透しつつあると評価され、この傾向は格付機関の対第三
者責任を検討する上でも、重要な要素になろう。わが国の判例および裁判例については、主として売主が買主に瑕疵ある商品を給付し、その瑕疵によって買主以外の第三者にも損害が生じた場合において、この法理との接点を見出すこと
94
( )
ができる。その例として、たとえば比較的古くから①小売業者の販売した卵豆腐がサルモネラ菌に汚染されていたため
95
( )
にその買主と家族らが食中毒にかかった事案や、②買主から贈与されたラケットを用いて遊戯中に、ラケットの柄が抜
96
( )
けたためにその受贈者が負傷した事案が存在していたところである。そこで、以下では、判例および裁判例からの示唆を得ることとする。
まず、裁判所は、①および②の事案に対して、①について「売買契約の売主は、買主に対し、単に、売買の目的を交
付するという基本的な給付義務を負っているだけでなく、xxx上、これに付随して、買主の生命・身体・財産上の法益を害しないよう配慮すべき注意義務を負っており、瑕疵ある目的物を買主に交付し、その瑕疵によって買主のそのような法益を害して損害を与えた場合、瑕疵ある目的物を交付し損害を与えたことについて、売主に右のような注意義務違反がなかったことが主張立証されない限り、積極的債権侵害ないし不完全履行となり、民法四一五条により買主に対して損害賠償義務がある。そして、そのような売主の契約責任は、単に買主だけでなく、xxxxxx目的物の使用・消費が合理的に予想される買主の家族や同居者に対してもあると解するのが相当である」と判旨し、②については「一般に、売主は、売買契約上買主に対して、売買の目的物を交付するという基本的給付義務に付随して、買主の生命、身体、財産上の法益を侵害しないように配慮すべき義務を負っているが、この安全配慮義務はxxx上、売買の目的物の
使用・消費が合理的に予想される買主の家族、同居者、買主から贈与された者等に対しても負うと解するのが相当であ
97
( )
る」と判旨した。
また、比較的近年においても、購入したインコがオウム病菌を保有していたために、購入者だけでなく、その家族全
98
( )
員がオウム病性肺炎に罹患した事案において、裁判所は、「一般に、売買契約の売主は、買主に対し、売買の目的物を交付するという基本的な給付義務を負う他に、xxx上、これに付随して、買主の生命、身体、財産上の法益を害しないように配慮すべき注意義務を負っており、瑕疵ある目的物を買主に交付し、その瑕疵によって買主の右のような法益を害して損害を与えた場合には、積極的債権侵害ないし不完全履行として、民法四一五条により損害賠償義務があるというべきである(なお、右の契約責任は、xxxxxx目的物の使用、消費等が合理的に予想される買主の家族や同居者に対しても及ぶと解するのが相当である)」と論じている。
このように下級審の裁判例では、直接に「第三者のための保護効を伴う契約」法理と接点を有する判断がなされてい
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇一 (二一三九)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇二 (二一四〇)
る状況であるが、さらに最高裁判所としても、自衛隊員が車両整備工場において車両整備中に同僚の隊員が運転する大
99
( )
型自動車にひかれて死亡した場合における国家公務員に対する国の安全配慮義務に関する判例が考慮に値する。この判例では、「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務」)を負っているものと解すべきであ〔り〕、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対してxxx上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解す
べき論拠はな〔い〕」ことが論じられた。たしかにこの判例は、安全配慮義務違反の存否を論じたものであって、直接
100
( )
にこの法理を論じたものではないが、調査官の解説によれば、「ドイツにおいては、安全配慮義務は、雇傭契約に関して認められているのみならず、判例によって、契約締結交渉関係においても、第三者のための保護効を伴う契約に関しても、xxx上の義務として承認されていることは、注目すべき点である。本判決が、『安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対してxxx上負う義務として一般的に認められるべきである』と判示しているのは、右のドイツの判例
と同様な解釈をとることを明らかにしたものと解される」と評価されており、本法理の適用可能性について含みを持た
101
( )
せている。
このような判例および裁判例の傾向は、わが国おいても、この法理を援用して理論的に第三者に対して契約の効力を及ぼす可能性が認められると同時に、今後の議論の進展が顕著な領域であることを予測させるものであろう。
102
( )
第二節 名古屋高裁平成一七年六月二九日判決
このような法理の適用可能性を、格付機関の投資家に対する責任との関係に引き直してみた場合に、実際に本法理がわが国でも適用される余地があるのかどうかが問題となる。上述の裁判例では、xxx上、買主の生命、身体および財産上の法益を侵害しない配慮・保護義務を第三者に及ぼすものであり、そうであれば、格付機関の場合にも同様に、純粋に財産上の法益を侵害しない義務が認められる必要がある。格付の場合、格付機関による優良な格付判断がしばしば勧誘的機能を果たし、投資家に投資決定のためのインセンティブが付与される側面があることを考慮すれば、格付が資本市場に及ぼす影響は少なくない。また、とりわけ大衆投資家には格付の正確性や信頼性を確認する手段が存在しないことからすれば、不合理な格付を信頼した投資家に対する財産上の侵害は重大であると判断せざるをえない。
実際、格付機関の責任が問題となった裁判例としては、名古屋高裁平成一七年六月二九日判決をあげることができる。
Y1
最終的に原告であるXの請求は棄却されたが、本件は、Xが 株式会社から、株式会社Bの社債発行および同債券につ
Y2
いての 株式会社による格付(Aマイナス)の紹介を受けて、当該社債を購入したが、社債の償還期限前にBについて
Y2
Y2
Y1
会社更生手続が開始されたことにより損失を被ったことから、 によるBの債務償還能力に関する格付判定および の
Y1
目論見書への記載事項等が不適切であったこと等を理由に、
および
に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した
という事案である。これに対して、裁判所は、まず、格付の定義について、「格付とは、当該債券の債務償還の確実性の程度をアルファベット符号等で分かりやすく示したものであるが、債務償還の確率等を絶対的な数値等で示すものではなく、各格付機関が、当該企業の有する諸要素、すなわち当該企業の経営指標、特性、業種の特徴、業界における地位や競争力等に基づいた判断としての企業収益力や、企業規模、資産価値等の様々な要素に、当該債券の特性をも考え合わせた上で示す当該時点における総合的な評価(意見)である」とし、「したがって、各格付機関が、評価に当たり
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇三 (二一四一)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇四 (二一四二)
どのような要素を重視するかによって、結論が異なることは当然あり得ることであるし、また、評価が将来の見通しに関する判断であるから、結果的に当該評価が現実の結果と一致しないこともあり得ることである。それ故、結果的に当該評価が現実の結果と一致しなかったからと言って、その評価が誤りであったことになるわけでもない。本来、一般投資家は、自らの責任と判断において、当該債券に係る投資判断を行うのであって、格付機関による格付は、上記のとおり格付機関の意見の表明に過ぎず、投資判断の一つの参考資料として提供されるものに過ぎないものである」と一般論を展開する。しかし、「格付機関の格付は、信用リスク等に関する専門的な意見として、市場に対して実質的に大きな影響力を有するものであり、その意味で当該企業にとっても、また投資家にとっても重大な影響を与えるものであり、また特に一般投資家にとっては、自らの情報量や知識、判断力の欠如を補完する専門的知見としての意味を有するものとして、これを信頼することになるのであるから、格付機関は、xxx上、誠実xxに格付を行うべき義務を有している。それ故、格付機関が、上記誠実xxに格付を行う義務に反して恣意的ないし不xxな格付を行った場合や、当該格付の評価の前提となる事実に重大な誤認がある場合、判断の過程にxx明らかな矛盾や不合理が認められる場合等、およそ結果としての格付(判断)が合理的な意味を有するものとは認められないような場合には、格付機関は、これによって生じた損害を賠償すべき義務を負うと解するのが相当である」とし、格付機関に対しても、格付に対する誠実xx義務違反から、xxx上、損害賠償責任が課される場合があると論じている。
第三節 格付機関の契約責任追及の可能性
本件では、たとえ不法行為構成であったとしても、投資家に対する格付機関の責任の可能性が示されたことに意義がある。たしかに格付の前提となる事実について重要な事実誤認や、判断の過程にxx明らかな矛盾や不合理が存するこ
とは認められないとされたが、たとえそうであっても、たとえば急激な格下げや不適切な時期の格下げなど、格付の変更に基づく市場への影響が大きい場合も存在する。その意味では、契約責任の追及も含めて、格付機関の厳格な民事責任を検討する余地もあるのではないか。
判旨では、格付機関は、xxx上、誠実xxに格付を行うべき義務を有しているとし、誠実xxに格付を行う義務に反して、恣意的ないし不xxな格付などを行う場合において格付機関は、これによって生じた損害を賠償すべき義務を負うとされる。この場合、改正金商法ではすでに、格付機関に独立した立場での誠実義務が課されているが(改正金商法六六条のxx)、xxx、この誠実義務は顧客に対するものではない(金商法三六条一項、六六条の七を参照)。しかしながら、独立した立場とは、発行体や格付を利用して勧誘を行う金融商品取引業者等から独立した立場を意味するに
すぎないので、格付を投資判断資料として利用する投資家に対しても、独立した立場でxxかつ誠実にその業務を遂行
103
( )
する義務を負うと解しうる。
もしそうであれば、xx誠実義務には、格付契約(依頼格付)の場合において、債務者である格付機関が、債権者(発行体)以外の第三者(投資家)の財産に及ぼす危険を防止すべき注意義務も含まれることが考慮されることになろう。
①格付機関は、格付が市場における証券発行の目的のために、投資家である第三者にも開示されることによって、これを信頼した投資家が財産の処分を行うことをすでに意図していること、また前述のように、②この信頼を基礎に格付自体が勧誘的機能を果たすことによって、投資家に投資決定のためのインセンティブを付与する側面があること、③とりわけ大衆投資家には格付の正確性や信頼性を確認する手段が存在しないこと、④格付機関は資本市場におけるゲートキーパー的性質を有する専門家としての地位を有することなどを考慮すれば、依頼格付に基づく場合、不合理な格付を信頼した第三者である投資家は、「第三者のための保護効を伴う契約」法理によって、格付契約から生じる保護義務に含
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇五 (二一四三)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇六 (二一四四)
まれることで法的保護を受け、その結果、直接に格付機関に契約責任を追及できる地位をも有しうると考えられるのである。この場合には、ドイツと同様に、適用要件である給付との近接性、債権者との近接性、認識可能性および第三者の保護の必要性は満たされており、このことからも、格付機関に対する責任には、不法行為責任だけでなく、契約責任によっても追及できる基礎が存在することになる。
第五章 結びに代えて
格付機関は、投資判断に関する情報を提供するが、金融商品の売買には関与しないために、法的規制の対象さえならないと認識されていた時代は過ぎ去り、公的規制の必要性が世界的に高まったが、それと同時に、今後は金融・資本市場において情報インフラとして重要な役割を果たす格付機関の民事責任についても、議論の進展が深まることであろう。
本稿は、その一環として投資家による格付機関に対する契約責任の追及の可能性を扱い、もともと投資家と格付機関との間に契約関係が存在しないにもかかわらず、なぜ不法行為責任だけでなく、契約責任も追及できるのかについて、その法的枠組みを考察した。その根拠として、ドイツの「第三者のための保護効を伴う契約」法理を援用して追及の可能性を探り、結論として契約責任を追及できる可能性があることを提示した。もっとも、不法行為責任による追及が可能であるにもかかわらず、そもそも契約責任について検討する意義は何かというxx的な問題も生じてこよう。しかし、
今日では、両責任の複雑な交錯状況が一般的に判例上さまざまに出現している状況であって、このような状況が出現す
104
( )
るのは、少なくとも社会現象として被害者の救済される範囲を拡大する可能性があるからにほかならない。そうであれ
ば、格付機関の責任追及の場合にも、契約責任を考察する意義および必要性は、この可能性から導き出されると思われる。たしかにこの法理を援用すれば、契約責任の範囲が著しく拡大することになる。しかしながら、投資家が、発行体と格付機関との間の格付契約を媒介に、格付判定を通じてこの特別な結合関係に接触することは、両者とも想定していることであろう。さらに、前述のように、格付を信頼した投資家による財産処分に係る格付機関の意図の存在、格付の勧誘的機能に基づく投資決定のインセンティブ付与、大衆投資家による格付の正確性および信頼性の確認の困難、ゲートキーパー的性格を有する格付機関の専門家的地位に直面すれば、不合理な格付の場合においても格付機関が免責条項を盾にまったく責任を負わないとすることは、いっそう金融・資本市場に不信感を生じさせるのではなかろうか。格付の「意見」としての側面を強調し、格付機関の言論の自由に配慮して格付機関の責任を極力認めるべきではないのか、
あるいはこのような格付機関のゲートキーパー的性格を強調して、いわゆる専門家責任として格付機関の責任を広く認
105
( )
めていくのかについて、たしかにいずれを重視するかによって結論は異なるが、現在の世界的趨勢を考慮すれば、今後
は格付機関の民事責任もまた厳格にならざるをえないのではないか。もっとも、格付機関の責任発生の根拠としての因果関係や損害の問題など、本稿には検討すべき課題が残されているだけでなく、場合によっては格付機関の責任を、専
106
( )
門家による情報提供責任として位置づけて広く考察の対象とすることも必要であろう。その場合には、格付機関の無過失責任も考慮に値する。本稿の考察がいまだ荒削りである感を拭いえず、不十分な部分があることも承知しているが、これらの課題は今後に期したい。
1
( ) エンロンの破綻への経緯と格付会社の対応については、xxxx『格付の深層(』日本経済新聞出版社・二〇一〇)一六八―一六九頁、xxxx「米国における格付会社を巡る議論について」資本市場クォータリー五巻四号二頁(二〇〇二)のxxならびにxxxx編『サーベ
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇七 (二一四五)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇八 (二一四六)
ンス・オクスレー法概説(』商事法務・二〇〇六)五頁以下などを参照。
6 5 4 3 2
( ) 日本経済新聞二〇〇九xx〇月二八日夕刊五面。
( ) 日本経済新聞二〇一〇年xx三〇日朝刊五面。
( ) xxxx『格付会社の研究(』東洋経済新報社・二〇〇七)xx頁。
( ) xxxx「米国における証券市場のゲートキーパーの有効性」上智法学論集五二xx・二号四五頁、四七頁以下(二〇〇八)。
( ) xxxx=xxxxほか編『逐条解説 二〇〇九年金融商品取引法改正(』商事法務・二〇〇九)一六頁、日本経済新聞二〇〇九xx〇月二八日夕刊五面。
v. Xxxxxxxxxx, Die Haftung von Ratingagenturen, WM 2008, S. 953.
8 7
( )
1
( ) アメリカ法については、xx・前掲注( )三頁以下のほか、xxx「米国SECの格付機関規制に関する最終規則および再提案」資本
市場クォータリーxx巻四号一七〇頁以下(二〇〇九)、同「日xxの新たな格付機関規制の方向性」資本市場クォータリーxx巻三号三五頁以下(二〇〇九)、同「サブプライム問題と証券化商品の格付―米国SECの格付機関規制の見直しとその背景―」資本市場クォータリーxxxx号xx頁以下(二〇〇八)、xxxxx「米国の格付機関の規制をめぐる最近の議論」資本市場クォータリー九xx号三六頁以下(二
〇〇五)、xxx「米国SECの公認格付機関制度見直しの論点」商事法務一六六八号xx頁以下(二〇〇三)、xxxx「証券アナリスト・格付機関の規制・責任」ジュリストxx三五号四六頁、四九頁以下(二〇〇二)などがある。なお、アメリカ法を含む格付および格付の問題については、xxxx「格付をめぐる法規制のあり方について」xx法学二五xx号xx頁以下(二〇〇一)。
12 11 10 9
( ) これについては、xxxx「米国における信用格付機関改革法の制定(一)」xx法学三一xx・二号四八九頁以下(二〇〇七)を参照。
Nationally Recognizd Statistical Rating Organization
( ) いわゆる「全国的に認知されている統計的格付機関( )」をいう。
9
( ) 髙橋・前掲注( )五〇一頁。
( ) 日本経済新聞二〇一〇年xx三〇日朝刊五面、日本経済新聞二〇一〇年八月二七日朝刊二七面。さらに、xxx「米国における金融制度改革法の成立―ドッド=フランク法の概要―」xx資本市場クォータリー一四xx号xx七頁、一四五頁以下(二〇一〇)を参照。
Vorschlag für eine Verordnung des europäischen Parlaments und des Rates über Ratingagenturen vom 12.11.2008, KOM
endgültig.
2008 704
13
( ) ( )
これについては、xxx「EUの格付機関規制案―サブプライム問題を踏まえたEUの対応―」資本市場クォータリーxx巻三号xx四頁以下(二〇〇九)を参照。なお、海外情報「EUにおける格付機関の規制に関する動き」商事法務xx四四号三四頁以下(二〇〇八)。
Verordnung EG Nr. 1060/2009 des europäischen Parlaments und des Rates über Ratingagenturen vom 16. 9. 2009, ABlEG v. 17.11.2009, L
302/01.
xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxx/xxx/x-00000000-0.xxxx
14
( ) ( )
15
( ) IOSCOの基本行動規範については、金融庁のホームページに仮訳が掲載されている( )。
なお、二〇〇四年版の基本行動規範は、二〇〇八年xxに改訂されている。基本行動規範については、xxxx「IOSCOによる信用格付機関原則・証券アナリスト原則の策定」商事法務一六七六号一四頁以下(二〇〇三)、海外情報「信用格付機関に関する国際的取組みの最新動向」商事法務一七三四号四八頁(二〇〇五)を参照。
16
15
( ) 海外情報・前掲注( )四八頁。たとえば大手の国際的格付機関であるS&Pでは、その行動規範において、IOSCOの「信用格付機
関の基本行動規範」に合致させるべく、本行動規範を導入したと明示するだけでなく(行動規範一頁を参照。この行動規範は、
xxxxxxxxxxxxxxxx.xxx/xxx/xxx/xxxxxXxxxxxxx/0000000000000.xxx
Moody’s
において参照することができる)、 においても、職務行動規範は、IO
SCOによる「信用格付機関の基本行動規範(」IOSCO規範)に出来る限り沿った形とするため、この形式で構成されているとする(職
xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/XXX/XxxxXxXxxxxxxX.xxx
務行動規範一頁の脚注三を参照。この行動規範は、 において参照することができる)。
18 17
13
( ) 小立・前掲注( )xx五頁。
6
( ) xx=xxほか・前掲注( )一六頁、xxx「格付会社に対する規制の導入」商事法務xxxx号六〇頁(二〇〇九)。また、改正金商
法に係る政令および内閣府令については、xxx=xxxx「格付会社規制に係る政令・内閣府令の整備」商事法務xx九〇号xx頁以下(二
〇一〇)。また、xxxx「証券法制の見直し」金融法務事情一九〇三号三八頁以下(二〇一〇)。
23 22 21 20 19
18
( ) xx・前掲注( )六〇頁。
( ) xxx「信用格付業者に対する規制」ジュリストxx九〇号九〇頁(二〇〇九)を参照。
20
( ) xx・前掲注( )九一頁。
20
( ) 参照、xx・前掲注( )九一頁。
( ) 実際に、以下で検討するように、名古屋高裁平成一七年六月二九日判決では、「格付機関は、xxxx、誠実xxに格付を行うべき義務を有しているので、当該義務に違反して不合理な格付を行う場合には、格付機関は、これによって生じた損害を賠償すべき義務を負うと解するのが相当である」とする。
collateralized mortgage obligation
24
( ) もっとも、投資家が購入したモーゲージ担保証券( )が、格付機関であるS&Pの突然の格下げによって
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
五〇九 (二一四七)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx〇 (二一四八)
Xxxxxxx X. Xxxxx v. The McGraw-Hill companies, inc.,
当該証券の価値が下落した結果、当該投資家が損失を被ったとして、S&Pの親会社であるマクグロウ・ヒル社に損害賠償を求めたアメリカの裁判例によれば、投資家は、格付契約の第三受益者である地位にはないとされる(
168 F. 3d 331
7th Cir. 1999
1
( )。なお、xx・前掲注( )八二頁において本件の紹介がある。
25
( ) この場合、請求権の競合の問題が生じるが、この問題には深く立ち入らず、請求権競合説によっている。なお、保護義務違反を理由として契約責任(債務不履行責任)として構成する場合には、消滅時効期間(一〇年)の点で一般に不法行為上の請求権(民法七二四条)よりも債権者に有利であり、証明責任については、債権者は損害の発生およびそれが債務者の保護義務違反の容態に起因することにつき証明責任を負うにすぎず、他方、債務者は帰責事由の不存在について証明責任を負うことになる(xxxx『債権総論〔増補版〕』悠々社・xxxx)一六四頁)。
26
( ) xxxx「契約責任と不法行為責任の交錯」xxxx先生還暦記念『民事法理論の諸問題〔上巻〕(』成文堂・xxxx)三六五頁、三六六頁を参照。
27
( ) もっとも、この法理は民法学においても議論されたが、一般不法行為の規定を設けるわが国にこの法理を取り込むことに疑問がもたれたとされる。実際に、不法行為責任で処理すれば足りるという民法学の有力説があるところではあるが(xxxx『債権総論I〔第二版〕(』信山社・二〇〇三)xx三頁)、しかし、民法学説でも、もはや議論に値しない問題とまではいえないと指摘されている(xxxx「契約の第三者保護効についての最近の議論と展望」xxxxx先生古稀記念『民法学の課題と展望(』成文堂・二〇〇〇)六一五頁、六一六頁)。
Xxxxxx, Die Regulierung von Ratingagenturen, DB 2010, S. 941; Xxxxxxxxxxx, “Mehr Licht!”? – Der Vorschlag einer europäischen Verordnung über Ratingagenturen, WM 2009, S. 1165; Möllers, Regulierung von Ratingagenturen – Das neue europäische und amerikanische Recht - Wichtige Schritte oder viel Lärm um Nichts?, JZ 2009, S. 861; Wildmoser/Schiffer/Langoth, Haftung von Ratingagenturen gegenüber Anlegern?, RIW 2009, S. 657; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 7 , S. 953; Xxxxxxxx, Verantwortlichkeit von Ratingagenturen – Steuerung durch Privat- oder Aufsichtsrecht?, ZGR 2007, S. 603; Xxxxxxxxx, Rechtsfragen des Emittenten-Ratings, ZHR 169 2005 , S. 185; Vetter, Rechtsprobleme des externen Ratings, WM 2004, S. 1701; Witte/Hrubesch,
Rechtsschutzmöglichkeiten beim Unternehmens-Rating, ZIP 2004, S. 1346
28
( ) 格付機関の責任に関するドイツの議論について、本稿は、主として、
( )
( )
の文献によっている。
29
( ) 証券アナリストを含め、格付機関のレポートや発言等は、資本市場が動揺するほどの重みがある場合がままあるとの指摘がある(xx・
8
前掲注( )xx頁)。
(
(
)
(
)
31 30
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1701.
) 改正金商法xxxx号においても、格付を、「金融商品又は法人の信用状態に関する評価の結果について、記号又は数字を用いて表示した
等級をいう」と定義する。
(
(
(
)
)
)
(
)
34 33 32
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1701.
)
(
)
(
)
(
)
Vgl. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 657 f.
(
)
Vgl. Xxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S. 942; Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 657; Xxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S. 606; Vetter, a. a.
(
)
(
(
35
O. Fn. 28 , S. 1703; Witte/Hrubesch, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1348.
) プラス記号およびマイナス記号は主としてS&Pによる区別であり、数字による付加記号は主として
である。それぞれのホームペ
Moody’s
ージ
) S&Pのホームページ(
および
を参照。
)における格付定義・規準を参照。
xxx.xxxxxxxxxxxxxxxx.xx.xx xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx
(
(
(
(
(
(
)
)
)
)
)
41 40 39 38 37 36
Witte/Xxxxxxxx, a. a. O.
xxx.xxxxxxxxxxxxxxxx.xx.xx Fn. 28 , S. 1347.
(
)
(
(
(
)
)
(
(
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 658.
)
)
)
Fn. 28 , S. 658.
)
)
(
)
(
)
Fn. 28 , S. 658.
(
(
)
)
Vgl. Xxxxxx, a. a. O.
608; Xxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S. 941; Möllers, a. a. O.
Fn. 28 , S. 186; Xxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S. 861; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 28 , S. 1701.
Fn. 7 , S. 953; Xxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S.
(
(
(
(
(
(
(
)
)
)
)
(
(
48 47 46 45 44 43 42
Vetter, a. a. O.
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1701.
)
Fn. 28 , S. 1701.
(
)
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 657.
(
16
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1702.
) S&Pの行動規範・前掲注(
)二頁を参照。
)
)
(
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1702.
)
=
OLG Nürnberg, Urt. v. 19. 12. 2001 – 12 U 2976/01 ZIP 2002, 611.
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx一 (二一四九)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx二 (二一五〇)
Blaurock, a. a. O. Fn. 28 , S. 604.
Vgl. Blaurock, a. a. O. Fn. 28 , S. 604; Vetter, a. a. O. Vgl. Blaurock, a. a. O. Fn. 28 , S. 605; Vetter, a. a. O. Vgl. Blaurock, a. a. O. Fn. 28 , S. 605; Vetter, a. a. O. Xxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 28 , S. 198 f.
Xxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 28 , S. 198 f. Möllers, a. a. O. Fn. 28 , S. 866.
Möllers, a. a. O. Fn. 28 , S. 866.
Möllers, a. a. O. Fn. 28 , S. 866.
62 61 60 59 58 57 56 55 54 53 52 51 50 49
( ) ( )
Fn. 28 , S. 1702.
Fn. 28 , S. 1702.
Fn. 28 , S. 1703.
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
( ) ( )
Blaurock, a. a. O. Fn. 28 , S. 609 f.; Xxxxxx, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1701.
Thyssen Krupp
( ) 社の事案については、参照、 ( ) ( )
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Fn. 28 , S. 664.
Vgl. v. Xxxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 7 , S. 956; Xxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 28 , S. 198. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Fn. 28 , S. 664.
Xxxxxx, Der Vertrag mit Schutzwirkung zu Gunsten Dritter – Ein Institut im Lichte seiner
Rechtsgrundlage, NJW 2009, 1030. Xxxxxx, x. x. O. Fn. 62 , S. 1030.
( ) ( )
( ) ( ) ( )
( ) ( )
( ) この法理を検討した最近のドイツの文献として、
64 63
( ) ( )
( ) xxxx「契約外の第三者による情報責任根拠と信頼責任法理―ドイツ民法典における専門家情報責任論の新たな動向―」同志社法学六
〇巻七号七二七頁、七二八―七二九頁(二〇〇九)。
BGH, Urt. v. 28. 1. 1976 – VIII ZR 000/00, XXXX 00, 00 NJW 1976, 712.
66 65
( ) =
( ) ドイツ民法三一一条二項は、債務関係は、その内容に応じて各当事者に対して、相手方の権利、財産および利益を配慮することを義務づけることができるという民法二四一条二項を受けて、「第二四一条第二項による義務を伴う債務関係は、一方当事者が、場合によっては発生する法律行為上の関係を考慮して、他方当事者に対して、他方当事者の権利、法益および利益に影響を及ぼす可能性を与えるか、または自
Anbahnung
己にそれらをゆだねる契約締結の準備( )よっても発生する」とする。
(
(
(
(
(
)
(
による。
=
00 00 00 00 00
Xxxxxx, x. a. O.
Fn. 62 , S. 1032.
)
) 以下は、主として
)
)
(
Xxxxxx, x. x. O.
Fn. 62 , S. 1031 f.
)
BGH, Urteil vom 8. 6. 2004 – X ZR 283/02, NJW 2004, S. 3420
) 土地債務とは、抵当権と同様に、土地から一定金額の支払いを受ける物権であるが、抵当権と異なり債権の有無にかかわらないものであ
る(xxx『比較財産法講義(』学陽書房・xxxx)六頁)。
) もっとも、ドイツでも、格付機関に対するこの法理の適用による処理について争いがある。肯定する見解としては、たとえば
BGH, Urt. v. 20. 4. 2004 – X ZR 250/02, ZIP 2004, S. 1814.
WM 2004, S. 1869.
(
Schiffer/Langoth, a. a. O.
(
72
Fn. 28 , S. 664 ff.; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
)
(
Fn. 7 , S. 956 ff.; Xxxxx/Xxxxxxxx, a. a. O.
)
があるが、全
Fn. 28 , S. 1351
Wildmoser/
体的に第三者責任の観点からみれば、不合理な格付に基づく大衆投資家に対する格付機関の責任は問題にならないとして否定する見解
)
(
(
)
)
(
Vetter, a. a. O.
Fn. 28 , S. 1711
)
(
(
(
(
(
(
(
(
80 79 78 77 76 75 74 73
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 665.
)
)
)
ならびに
(
(
)
を参照。
Fn. 28 , S. 665.
)もある。
(
(
) その検討については、
)
(
)
)
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 665
v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 7 , S. 956 ff.
(
Vgl. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 665; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 7 , S. 956.
)
)
)
(
(
v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 7 , S. 956.
)
)
)
(
)
Fn. 7 , S. 956.
(
Vgl. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 666; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 7 , S. 956.
) ただし、格付の意義および目的により、潜在的投資家についても保護された人的範囲に含まれなければならないとする見解もある
(
)
( ) )。
)
(
)
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 666
(
(
(
(
(
84 83 82 81
16
Vgl. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 666; v. Xxxxxxxxxx, a. a. O.
Fn. 7 , S. 959.
) たとえばS&Pの行動規範・前掲注(
)
)
(
(
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O.
Fn. 28 , S. 666.
)二頁を参照。
)
)
Fn. 28 , S. 666.
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx三 (二一xx)
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx四 (二一五二)
Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Fn. 28 , S. 666. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Fn. 28 , S. 667.
v. Xxxxxxxxxx, a. a. O. Fn. 7 , S. 957. Wildmoser/Schiffer/Langoth, a. a. O. Fn. 28 , S. 667.
I
85
( ) ( )
86
( ) ( )
87
( ) ( )
88
( ) ( )
89
( ) xxxxx『現代契約法 (』商事法務研究会・xxxx)五九―六〇頁参照。
90
( ) これまでわが国の民法学においても、この法理が比較的早い時期から検討されてきた経緯がある。とりわけ、xxxxx『契約責任の研究』
(有斐閣・xxxx)二八八―二八九頁、xxxx「契約の第三者に対する保護効―ドイツ民法における『第三者のためにする契約』の発展―」法学新報七一xx号一頁以下(xxx七)、xxxx「契約法と不法行為法の接点―契約責任と不法行為責任の関係および両義務の性質論を中心に―」xxxxx先生還暦記念『民法学の基礎的課題(中)(』有斐閣・一九七四)xx三頁以下などを参照。
91
27
( ) xx・前掲注( )xx三頁のほか、xxxx『債権法講義〔四訂版〕』(創文社・二〇〇一)六七―六八頁、xxxx「契約の第三者に対
5
する効力」xxx=xxx=xxx監修『現代契約法大系第一巻(』有斐閣・xxxx)xx一―xx二頁。
92
89
( ) たとえばxx・前掲注(
)五二頁、六〇頁、xxxx「第三者の保護効をともなう契約」xxxxほか編『民法学
〔契約の重要問題〕』
(有斐閣・xxxx)四五頁、xx頁、xxx「契約の効力の主観的範囲の拡大―第三者に対する契約保護効の法理―」『債権各論(民法セミナー五)(』一粒社・一九七九)六一頁、六八頁、xxxx「契約の現代的展開と契約責任の人的拡大―『第三者のための保護効を伴う契約』法理をめぐるドイツ判例の新展開を契機として―」比較法雑誌二二巻二号五七頁、八二頁(一九八八)、xxxx=xxxx「契約の第三者効」xxxx先生追悼論文集『取引保護の現状と課題(』蒼文社・一九八九)一四九頁、一六三頁、半田・前掲注(二七)三六八頁、xxxx『契約規範の成立と範囲(』一粒社・一九九九)xx四頁、xx八頁、xxxx『契約関係の変容と契約法理(』開成出版・二〇〇〇)四三―四四頁などがある。
93
64
( ) xx・前掲注( )七二九頁。
94
( ) 民法の学説に依拠すれば、その他にも、元請業者が下請業者の被用者に対しても安全配慮義務を負うかどうかが問題となる場合、および債務者の債務不履行によって債権者の生命が侵害されたため、遺族に固有の精神的損害が生じる場合を観念することができるとされる(山
27
本・前掲注( )六一七頁以下)。
95
( ) 岐阜地裁xx支部昭和四八xx二月二七日判決判例時報七二五号一九頁。
97 96
( ) 神戸地裁xxxx年八月三〇日判決判例時報九一七号一〇三頁。
( ) なお、①および②の評釈において、①および②の裁判例を「第三者のための保護効を伴う契約」を用いて人的拡張を意図したものとし、これを肯定する見解がある(①の裁判例についてxxx「①判批」判例評論xx六号四頁、六頁(一九七四)およびxxxxx「①判批」判例タイムズ三一二号xx九頁、xx二―xx三頁(一九七四)。また、②の裁判例についてxxxx「②判批」判例タイムズ三九〇号一四〇頁、一四一頁(一九七九)。ただし、xxxx「②判批」法学志林七xx三号一〇七頁、xx四―xx五頁(xxxx)は結論を留保される)。
101 100 99 98
( ) 横浜地裁平成三年三月二六日判決判例時報xx九〇号xx一頁。
( ) 最高裁第三小法廷xxx〇年二月二五日判決判例時報七六七号xx頁。
3
( ) xxxx「本件解説」法曹時報二xx四号xxx頁、一九七頁(xxxx)。
64
( ) なお、xx・前掲注(説がなされているとする。
)七七二頁の脚注(
)では、調査官が本判決において第三者のための保護効を伴う契約法理を承認した旨の解
28101485
LEX/DB
106 105 104 103 102
( ) 名古屋高裁平成一七年六月二九日判決( 【文献番号】 )。
20 26 18
( ) xx・前掲注(
( ) xx・前掲注(
( ) xx・前掲注(
)四一頁を参照。
)三六六頁を参照。
)九二頁。
( ) 民法学におけるこの議論について、たとえばxxxx『契約法理の現代化(』有斐閣・二〇〇四)一四二頁、xx一頁以下、xx・前掲注
64
( )七二七頁、七七一頁などを参照。
投資家に対する格付機関の契約責任
同志社法学 六二xx号
xx五 (二一xx)