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「平成22年度包括外部監査結果報告書」の概要について
(水道事業における事務の執行及び資産の管理について)
1 外部監査の概要
(1) 監査の種類
地方自治法第252条の37第1項及び同条第4項の規定により定めた広島市外部監査契約に基づく監査に関する条例第2条に基づく包括外部監査
(2) 選定した特定の事件(テーマ)
水道事業における事務の執行及び資産の管理について
(3) 監査実施期間
平成22年7月30日から平成23年1月13日まで
なお、平成22年4月1日から平成22年7月29日までは、事件の選定を行うとともに、補助者の選定を行った。
2 監査実施の概要
(1) 事件を選定した理由
水は、市民生活や経済活動に必要不可欠なものであり、水道事業は、安全はもとより、安定的な供給の必要性から水道法の下で地域独占が認められている公益事業である。同時に水道事業は、利用者からの水道料金により事業を運営する独立採算の事業として、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するよう、地方公営企業として経営が行われている。
水道料金収入の算定基礎となる有収水量は、年度別では、平成4年度に過去最高を記録したが、その後、給水人口は増加しているものの、その水量は伸び悩み、平成9年度以降から現在に至るまで減少傾向にあり、水需要とともに水道料金収入も減少傾向にある。このような減少傾向は、景気の低迷や、節水意識の高まりから今後も長期的に継続すると予想される。収入が減少傾向にある一方で、昭和40年代から昭和50年代にかけて施設の拡張整備を行ってきた基幹施設が老朽化し、施設の改良・更新等による経費の増加、地震等の災害対策といった建設投資が今後も必要となる。さらに、広島市の水道事業における企業債残高は、平成21年3月末では、1,013 億 6,866 万円となっており、水道料金収入の約 5 倍である。元利償還金にかかる負担も大きい。
このように、水道事業をめぐる経営環境は厳しくなっており、独立採算制の下での効率的経営が一層求められる状況が今後も継続すると思われる。
しかし、前述のように水道事業には地域独占が保障されており、競争原理が働いていないことから、非効率性が発生している可能性がある。
そこで、広島市の水道事業が地方公営企業として独立採算の原則に基づき合理的かつ効率的に経営されているかについて監査することが有意義であると判断し、特定の事件として選定した。
(2) 監査の視点
ア 水道事業の管理運営が、法令、条例及び規則等に準拠して適正に行われているか。イ 水道料金は適正に設定されているか。
ウ 水道料金のxx、収納は適正に行われているか。また、滞納整理などの債権管理は適切かつ適正に行われているか。
エ 契約事務が適正に行われているか。オ 資産管理が適正に行われているか。
カ 人件費、工事費、維持管理費等の費用について効率的な経費管理が行われているか。キ 会計処理は地方公営企業法などの基準に準拠して適正に行われているか。
3 監査結果の概要
(1) 会計処理及び資産管理についてア 退職給与引当金について
水道局における退職給与引当金の算定方法は、広島市水道局退職給与引当金設定要綱(平成17年11月25日改正)第2条において「引当金の設定は平成14年度の退職給与金から適用することとし、引当金繰入額は、次のとおりとする。
平均退職給与基準額{平成14年度から平成28年度までの平均定年退職者(22.5 人)×一人当たりの平均支給額(2,800 万円)}-当該年度の定年退職者の退職給与金」と規定されている。
平成21年度で計上されている退職給与引当金 5 億 8,800 万円は、平成14年度から毎年度において上記の計算式によって算出された額を引当金繰入額として繰入れた累計金額である。
なお、毎年度の繰入に当たって、普通退職者に係る退職給与金の予算額に不足が生じた場合には、その不足額を引当金繰入額から控除した額を退職給与引当金に計上している。
これらは、退職関係の費用を平準化する考えに基づいて計上されており、退職金の支給対象となる職員が全員期末日に退職した場合の退職金の発生額(退職金期末要支給額)を退職給与引当金として計上するという発生主義に基づく費用計上となっていない。
退職給与引当金の計上を行うのであれば、要綱を見直し、発生主義に基づく計上を行うべきである。
なお、水道局の退職金期末要支給額による退職給与引当金の金額は、平成21年度末において 75 億 3,800 万円となり、計上額が 69 億 5,000 万円不足していることとなる。
イ 固定資産の除却について
発生主義会計において、固定資産は実在しているが、その後の使用の可能性がない場合は、現状の姿のままで(実際に取り壊したり、廃棄しなくても)帳簿上の除却処理を行うべき場合がある。
視察した未利用地の固定資産のうちに現在休止中で今後使用見込みのない固定資産(構築物、機械など)が見受けられる。
これらは、資産性がなく現状の姿のままで帳簿上の除却処理を行うべき固定資産であると
考えられる。現在休止中で今後使用見込みのない固定資産の件数や帳簿価額について、監査期間内にその全てを把握することは時間の関係から困難であったが、今後、水道局において段階的に調査し、その内容を検討した上でこのような除却処理を行うべき固定資産の洗い出しを行う必要がある。
(2) 情報システム及び情報セキュリティについて
ア 水道料金オンラインシステムのパスワード変更頻度について
水道料金オンラインシステムでは、設定ファイルによりユーザーID とパスワードの設定が可能である。しかし、当該オンラインシステムのユーザーパスワードについて、定期的な変更が行われていない。
また、水道料金オンラインシステム用のパソコンは、庁内 LAN とは別系統の LAN に接続されるため営業課が配付したパソコンが利用されているが、当該パソコンへのログインパスワードについても定期的な変更が行われていない。
これらは、広島市情報セキュリティポリシー(第 3 章-第 7-4-(2)-オ 「情報システム業務管理者は、パスワードについて、ユーザーID と同一文字列にすること及び同一文字の繰返しを禁止し、文字の種類、最低文字数等の制限を満たしたものとすること。また、利用者に定期的に変更させること」)を遵守しておらず、水道料金オンラインシステムにより取り扱われる水道利用者の個人情報が漏えいするリスクを増大させる。
水道料金オンラインシステムのユーザーパスワード及び同システム用のパソコンへのログインパスワードについては、定期的な変更を行うべきである。
イ 設計積算システムのユーザーパスワードについて
設計積算システムでは、一般職員に一般権限のユーザーID を付与し、係長や課長補佐以上に特権的なユーザーID を付与している。パスワード管理台帳を閲覧したところ、これらのユーザーID 用のパスワードに単純な文字列が散見された。特に特権的なユーザーID 用のパスワードで顕著であった。設計積算システムには個人情報にあたる情報は含まれていないものの、広島市情報セキュリティポリシー(第 3 章-第 7-4-(2)-オ)を遵守していない。
パスワードについては、推測されにくい文字列に設定すべきである。
ウ 給水装置台帳電子ファイリングシステムにおける個人情報受渡しの管理について
給水装置台帳電子ファイリングシステムでは、約 10 日に 1 回の頻度で水道料金オンラインシステムから MO ディスクにより給水装置所有者情報を受け取っている。当該 MO ディスクは配水課で保管された後で、通常は翌日に返却されるが、配水課での明確な保管場所や管理方法が定められていない。なお、この間データは消去されず、汎用的なテキスト形式で MOディスクに残っている。
広島市情報セキュリティポリシー(第 3 章-第 4-2-(1)-オ-(ア)重要性分類Ⅰ(個人に関する情報など)-a 「可搬記録媒体は、鍵の掛かる保管庫等に保管し、その利用を管理すること」)を遵守していない。少なくとも保管手順や保管場所を定めるべきであり、できれば使用後に MO ディスク上のデータは消去すべきである。
4 監査意見の概要
(1) 広島市の水道料金について
ア 財政収支計画上の現金預金残高について
広島市の財政収支計画では、利益剰余金を資金としており、そのマイナスをもって資金不足としているが、利益剰余金は実際の現金預金残高ではない。
利益剰余金は次のように計算される。
利益剰余金残高=前年度末利益剰余金残高+純損益(収益的収入-収益的支出)-減債積立金、建設改良積立金取崩額
また、財政収支計画上の現金預金残高は次のように計算できる。
財政収支計画上の現金預金残高=前年度末現金預金残高+純損益(収益的収入-収益的支
出)+(資本的収入-資本的支出)+補てん財源(損益勘定留保資金、消費税及び地方消費税資本的収支調整額)
利益剰余金がマイナスになったとしても、補てん財源(損益勘定留保資金、消費税及び地方消費税資本的収支調整額)がある場合には、補てん財源を加えてプラスになれば、実際には現金預金の不足にならない。
また、企業債の償還や建設改良費の財源として減債積立金や建設改良積立金を取り崩せば、利益剰余金は減少し現金預金も同額減少するが、減債積立金を取り崩さないで企業債を償還した場合や、建設改良積立金を取り崩さずに建設改良費を支出した場合は、現金預金が減少するだけで、利益剰余金は減少しない。
要するに、利益剰余金がマイナスになっても補てん財源があれば現金預金の不足にならない場合があり、利益剰余金がいくらあっても、企業債の償還や建設改良費の財源として減債積立金や建設改良積立金を取り崩さなければ、現金預金は不足する場合もある。
水道料金算定に当たり、資金の過不足は料金改定を行うかどうかを判断する重要な概念である。利益剰余金のみを資金として捉えると、現金預金残高と一致しないため、利益剰余金との差額が大きいと水道料金の適正性に関する判断を誤る可能性がある。
現行の財政収支計画では、現金預金残高は開示されていないので、財政収支計画に現金預金残高を追加して公表すべきである。
イ 給水原価、供給単価の算定方法について
給水原価は、1 ㎥当たりの水道水の供給に必要な経費である。一般的に、給水原価の算定については、総務省がとりまとめている「地方公営企業年鑑」に掲載されている以下の計算式により算定されている。水道局においても同様の計算式で算定されている。
給水原価(円/㎥)=[経常費用-(受託工事費+材料及び不用品売却原価+附帯事業費)]
÷年間xx収水量
供給単価は、水道水 1 ㎥当たりの水道料金である。供給単価(円/㎥)=給水収益÷年間xx収水量
水道局が公表している水道事業ガイドライン業務指標、決算参考資料による過去 5 年間の
給水原価と供給単価、料金回収率、販売利益の推移は以下の表 1 のようになっている。
表 1
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
給水原価(円/㎥)① | 164.04 | 163.50 | 162.22 | 157.85 | 155.01 |
供給単価(円/㎥)② | 160.65 | 159.15 | 158.39 | 156.88 | 155.06 |
差引 (円/㎥)(②-①) | △3.39 | △4.35 | △3.83 | △0.97 | 0.05 |
料金回収率(%)(②÷①×100) | 97.9 | 97.3 | 97.6 | 99.4 | 100.0 |
販売利益(千円) | △459 ,830 | △584,996 | △513,407 | △128 ,890 | 6,225 |
上記の計算式により算定された給水原価には、広島市及び給水エリアである府中町、坂町
(以下「広島市等」という。)から水道事業に繰り入れられた補助金、負担金(以下「補助金等」という。)は考慮されていない。
この補助金等は、地方公営企業が、地方公共団体の一般行政事務や本来不採算であって企業ベースに乗らないような事業を企業活動の一環として実施している場合、かかる事業に要する経費については、受益者負担の原則に馴染まない経費であるため、地方公営企業の設置者である地方公共団体が、地方公営企業法第17条の2第1項第1号及び第17条の3の規定に基づき、広島市の一般会計や給水エリアである府中町、坂町において負担するために水道事業へ交付されたものである。
したがって、補助金等で負担された経費を含んだままの経常費用を用いて算定された給水原価は、受益者が負担すべき原価ではなく、それを供給単価と比較しても、水道料金は適正に算定されているかを判断する指標としての意味をなさない。
そこで、給水原価を算定する基礎となっている経常費用から補助金等を控除して給水原価を試算すると以下の表 2 のようになった。
表 2
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
試算した給水原価(円/㎥)① | 159.54 | 158.91 | 157.65 | 153.28 | 150.39 |
供給単価(円/㎥) ② | 160.65 | 159.15 | 158.39 | 156.88 | 155.06 |
差引 (円/㎥) (②-①) | 1.11 | 0.24 | 0.74 | 3.60 | 4.67 |
販売利益(千円) | 150,361 | 32,428 | 99,449 | 476,651 | 609,969 |
試算した給水原価と供給単価を比較した場合、平成17年度から平成21年度にかけて料金回収率は、100%を上回り、販売利益が生じる結果となった。水道水 1 ㎥当たりの水道料金は、1 ㎥当たりの水道水の供給に必要な経費を上回っているのである。
水道局が公表している給水原価は単純に経常費用を用いて算定しているため、供給単価と比較すれば販売損失が生じるが、何故そうなったのかという理由について説明を加えないと、
「給水の製造に係る費用が補助金等といった料金収入以外の収入で賄われていることは、独立採算を原則としている水道事業としての健全な経営が行われていない」などといった誤解を招きかねない。
給水原価と供給単価は、それらを比較することで、水道料金の適正性を判断する指標とな
るものである。その意義からして、供給単価に対応させる給水原価は、上記の試算した給水原価の方が適切である。ただし、他の水道事業者においても補助金等を控除していない経常費用により、給水原価を算定している場合の方が多いと思われる。
これらを考慮すると、これまでの給水原価の算定はこのまま継続し、今後、補助金等を控除した経常費用によって計算した給水原価について、その計算式とその根拠を明示した上で、需要者に追加して情報提供することを提案する。
なお、補助金等を考慮した給水原価を試算するに当たって用いた、広島市等からの補助金等(児童手当に係る補助金を除く。)は、以下の表 3 のとおりである。
表 3 (単位:xx)
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
広 島 市 | 589,679 | 596,234 | 591,642 | 584,140 | 581,932 |
府 中 町 | 17,959 | 18,597 | 18,782 | 18,995 | 19,445 |
坂 町 | 2,555 | 2,593 | 2,432 | 2,406 | 2,368 |
計 | 610,193 | 617,425 | 612,856 | 605,541 | 603,744 |
ウ 利益剰余金の使途について
広島市では平成14年度に水道料金の増額改定を行ったが、その後は平成21年度まで改定はなく、平成22年度には基本水量制を廃止したものの、全体の水道料金には影響がないと判断しており、実質的な水道料金の改定は平成14年度から行われていない。
水道料金の改定は、4 年毎に作成される財政収支計画を基礎資料として判断される。広島市は、財政収支計画で利益剰余金がマイナス(資金不足)にならなければ、水道料金を改定しないとしている。過去の水道料金算定の根拠となった財政収支計画と実績である決算数値を比較すると以下のような結果になる。
平成14年度から平成17年度までの財政収支計画と実績の比較 (単位:千円)
区 分 | 平成14年度~平成17年度 | ||
財政収支計画① | 実績② | 計画と実績の差 (②-①) | |
前年度繰越利益剰余金 | 707,388 | 1,174,906 | 467,518 |
純利益増減額 | △707,312 | 5,486,373 | 6,193,685 |
資本的収支補てん | 0 | △693,722 | △693,722 |
繰越利益剰余金 | 76 | 5,967,557 | 5,967,481 |
平成18年度から平成21年度までの財政収支計画と実績の比較 (単位:千円)
区 分 | 平成18年度~平成21年度 | ||
財政収支計画① | 実績② | 計画と実績の差 (②-①) | |
前年度繰越利益剰余金 | 3,951,810 | 5,967,557 | 2,015,747 |
純利益増減額 | △732,981 | 4,842,979 | 5,575,960 |
資本的収支補てん | △3,195,260 | △2,985,273 | 209,987 |
繰越利益剰余金 | 23,569 | 7,825,263 | 7,801,694 |
過去の財政収支計画はいずれも計画額と実績額の差額が大きいことがわかる。平成18年度から平成21年度までの財政収支計画における平成21年度の利益剰余金は 2,357 万円と
予測されているが、実績として平成21年度決算で確定した繰越利益剰余金は 78 億 2,526万円であり、計画額と比較して、78 億 169 万円も上回っている。平成14年度から平成17年度までの財政収支計画においても、平成17年度の繰越利益剰余金は、計画額である 8 万
円に対して、実績額は 59 億 6,756 万円であり、計画額と比較して 59 億 6,748 万円上回っている。
ここで実績と比較した過去の 2 度の財政収支計画は、いずれも現状の水道料金では年度毎に損失の幅が拡大し、その損失や資本的収支不足額を補てんするために前年度までに確保した利益剰余金が使用され、その結果、最終年度の利益剰余金はほとんど残らない計画となっている。このようなパターンは、現行の財政収支計画(平成22年度~平成25年度)においても続いており、平成21年度の繰越利益剰余金の見込額である 72 億 2,015 万円(実際の
確定額より 6 億 511 万円少ない)は、4 年間で予測される損失や資本的収支不足額の補てん
財源として使用され、平成25年度の繰越利益剰余金は 2 億 1,745 万円になるとしている。水道料金は、その算定期間において見込まれる費用と料金収入額が一致するように設定す ることが原則である。財政収支計画は、水道料金がこの原則に則り設定されているかを判断する基本的な情報であるとともに、水道料金の適正性を判断するうえで非常に重要なもので
ある。
過去 2 度の財政収支計画において計画額と実績額に大きな差が生じたのは、平成14年度から平成21年度までの全ての年度の収益的収支において、計画額をxxxに上回る純利益が生じたことにある。それは水道事業の財務体質の強化という面では望ましいことであるが、一方で、事業に必要な費用と水道料金は収支均衡させるという原則からすれば、これまでの、そして現行の水道料金は適正であるのかという検証が必要である。平成21年度末に見込まれた約 72 億円の繰越利益剰余金について平成22年度から平成25年度までの水道料金の適正性を検討する過程で、水道料金の減額改定の財源とすべきか否かの議論はされてもいいはずである。
しかし、公表されている情報からは、平成21年度末に見込まれた約 72 億円の繰越利益剰余金については、現行の中期経営計画(平成22年度~平成25年度)の中に「水需要とともに給水収益も減少傾向にあるなかで、高金利の企業債の借換えによる支払利息、人件費や維持管理費の削減など、経営効率化に努めたことにより、平成21年度末で、約 72 億円の利
益剰余金を確保できる見込みです。」と記載されているだけであり、利益剰余金約 72 億円は過去の財政収支計画と全く同様に、現行の財政収支計画(平成22年度~平成25年度)における損失や資本的収支不足額の補てん財源として使用することになっている。
過去 2 度の財政収支計画においては、現行の水道料金では過去から累積した繰越利益剰余金が存在しなければ資金不足になり、4 年間は繰越利益剰余金で何とか事業は継続できるが、
5 年後からは水道料金を増額改定しなければ事業は継続できないというアナウンスメントが繰り返し行われてきた。現行の財政収支計画(平成22年度~平成25年度)も同様である。
過去 8 年間において水道料金収入は経常的な費用を上回る水準にあったことは事実である。
特殊な要因で 8 年も継続して利益は計上されない。何故、現状の水道料金でいけば、過去の
実績に関わりなく 4 年間の合計で大幅な損失を計上すると予測しているのか、何故、利益剰
余金約 72 億円は水道料金の減額改定の財源にできないのか、その理由を具体的な数値をもって根拠を示し、見込まれる損失の補てん財源に利益剰余金を使用することの妥当性を需要者に説明するべきであったと考える。
地域独占型である水道事業は、独占者としての弊害に陥らないように水道料金の適正性を需要者に積極的に情報提供しなければならない。料金を増額改定する時だけ需要者の理解を求めるのではなく、一定以上の利益剰余金が確保された時は今後の財源不足に備えて留保しておくという発想だけではなく、それを財源とした水道料金の減額改定が可能かどうかという検討過程を公開し、需要者の理解と合意形成を得た上で利益剰余金の使途を決定すべきである。
次期の水道料金の改定は現行の中期経営計画の最終年度である平成25年度中に検討されると思われるが、その際には、是非とも上記の意見を参考にしてもらいたい。
エ 水道料金の算定方法及び体系について
(ア) 損益ベースでの水道料金算定について
「広島市水道ビジョン」の中で、今後の水道料金制度の在り方について、以下のような記載がある。
「将来にわたって安定給水を持続していくため、Ⓐ施設の更新需要を見据えた料金原価 の見直しやⒷ逓増度の緩和など、負担のxx性と安定収入の確保を考慮した料金制度のあり方を調査研究します。」
Ⓐの下線を付けた部分から推定すると水道局では損益ベースでの水道料金の算定への移行を検討しているようである。現在の資金ベースでの水道料金の算定方式では資金不足は生じないが、その問題点としては、建設改良費、すなわち老朽化した水道管の更新や耐震化、バックアップ施設の建設を行うための費用の財源を内部留保ではなく、企業債に依存せざるを得ないことが挙げられる。
「水道料金算定要領」における損益ベースを水道料金の算定方法として選択すれば、財政収支計画では損益収支をプラスで維持することができるため、将来の建設改良のための資金を内部留保することができる。そのため、企業債への依存を減らし、財政の健全性を強化することができる。ただし、資産維持費が原価に算入されるので水道料金は高くなり、利用者の負担が増加することになる。
資金ベースと損益ベースのどちらを選択するかは、水道事業者が置かれた事業環境の下で判断することであり、現時点で資金ベースを採用していることに問題があるとは思わない。
しかし、水道法施行規則の規定等を踏まえれば、水道料金の算定方法は、将来を見据えた上で施設更新に必要な資金を資産維持費として原価に算入し料金水準を決定するという損益ベース方式によることが原則である。また、これまでは、水道の普及及び拡大に企業債を多く活用しても、水道料金収入の増加により企業債の償還が可能であったが、施設の拡張から維持管理の時代に移り、水需要とともに水道料金収入が減少傾向にあるなか、今後も施設設備の財源を企業債へ安易に依存することは、企業債残高が依然高い水準にある現状から見て、将来への大きな負担を残すことになりかねない。
これらの事情を考慮すると、将来的には損益ベースでの料金算定方法に移行する必要性があると考える。ただし、損益ベースでの水道料金の算定に当たっては、長期的な水需要予測と基幹施設の更新・改良などの施設整備計画により、長期財政計画を策定する必要がある。この長期財政計画がないと、資産維持費を適正に積算することができない。
現在、水道局では平成32年度までの長期的な水需要予測は行っている。しかし、長期的な施設整備計画については、アセットマネジメントの手法を取り入れた検討・調査を以下のとおり行うことにしているものの、③、④はまだ完了していないようである。
① 更新を実施しなかった場合の健全度
② 法定耐用年数で更新した場合の更新需要
③ 重要度・優先度を考慮した場合の更新需要・健全度・財政収支見通し
④ 診断等に基づき耐震化の前倒し等を考慮した場合の更新需要・健全度・財政収支見通し
長期の安定した給水サービスを継続するために受益者へ求める負担はどの程度必要になるのか、できるだけ早い段階で③、④を完了させ、長期的な財政シミュレーションの下で損益ベースによる料金水準案を公開し、公の場でその適正性について議論をすべきと考える。
なお、「イ 給水原価、供給単価の算定方法について」で補助金等を考慮した給水原価を試算したが、この給水原価は資産維持費を算入しない損益ベースでの原価を表している。これに資産維持費を加えると「水道料金算定要領」でいう損益ベースでの総括原価となる。例えば、平成21年度について、試算した給水原価は 150.39 円/㎥であり、これと供給
単価 155.06 円/㎥との差額 4.67 円/㎥を資産維持費として給水原価に算入すれば、供給
単価 155.06 円/㎥は給水原価と同額となり、資産維持費を含む損益ベースでの水道料金となる。しかし、あくまでこれは例示である。
(イ) 逓増型料金体系について
Ⓑの下線を付けた逓増度の緩和であるが、広島市の水道料金について、従量料金の最高単価が最低単価の何倍になっているかを示す逓増度は 3.9 倍になっている。大都市平均(平
成22年4月1日現在)は 3.5 倍、全国平均は、1.58 倍[水道料金制度特別調査委員会報告書(平成20年3月、社団法人日本水道協会)より]である。
広島市における逓増度は、大都市平均と比較すると、特に高くはないが、xx利用者の水道離れを食い止めるためには、逓増度を緩和するとともに、広島市においても近い将来、料金収入に大きな影響を及ぼすとみられる地下水ビジネスに対抗できる程度の最高単価とすることが望ましいと考える。逓増制の緩和を検討するに当たり、用途別料金体系の廃止と原価情報の開示について意見を述べる。
a 用途別料金体系の廃止及び口径別料金体系の統合・簡素化
現在、逓増度の緩和については調査研究中とのことであるが、まず、家事用、業務用、 公衆浴場用及びプール用に区分されている用途別料金体系の廃止を検討するべきである。用途別体系では同じ使用量の事業者間で負担する水道料金に格差が生じるが、この格差 を合理的に説明できるような理由付けは難しい。理論的根拠ではなく政策的な配慮から 料金格差を設けてきたと思われるが、受益と負担の関係をより明確にし、使用者が受け るサービスに対して必要な原価に基づいて算出した水道料金を徴収するという考え方か ら、水道料金については、用途別料金体系を廃止し、口径別料金体系に一本化すること が望ましいと考える。用途別料金体系の廃止により、割安であった家事用等が増額とな るが、家事用より高く設定されていた業務用料金は減額となり家事用等と同料金になる ことで、xx利用者への負担軽減が図られ、逓増度の緩和となると思われる。
また、口径別料金体系についても、現在、11 の口径に区分して基本料金を設定しているが、口径の統合や簡素化を図ることも検討する必要があると考える。
b 原価情報の開示
料金体系の見直しに当たっては、現在の料金体系と「水道料金算定要領」に基づいて計算された理論値とを比較し、xx利用者とxx利用者の間で、生活用水の低廉化のために、原価計算上どのような配慮が行われているかを利用者へ示すべきである。
現行の財政収支計画(平成22年度~平成25年度)における原価総額を基本料金と従量料金に配賦するにあたり、理論値と比較してどの程度の乖離が生じているかを水道局の試算から見ると以下のようになる。
区分 | 理論値① | 現行財政収支計画② (平成22年度~平成25年度) | 差額②-① | |||
基本料金 | 340 億円 | 43.0% | 218 億円 | 27.6% | △122 億円 | △15.4% |
従量料金 | 451 億円 | 57.0% | 573 億円 | 72.4% | 122 億円 | 15.4% |
原価合計 | 791 億円 | 100.0% | 791 億円 | 100.0% | 0 円 | 0.0% |
基本料金はこれまで政策的配慮から低廉としてきたため、理論値と乖離していることがわかる。本来は基本料金とするべき 340 億円の費用から 15.4%を従量料金に配賦することで、xx利用者には割安な料金を設定し、xx利用者にはより多くの負担を求める仕組みになっている。
この基本料金をさらに口径別に、従量料金を水量区分別にそれぞれ個別原価計算を行
い、理論的な基本料金と従量料金を算出するのであるが、個別原価計算は、現在、行われていない。
水道料金収入に占める基本料金の割合を増加させれば、家事用と業務用の料金格差を縮小することができ、逓増度が緩和するが、逓増制を採用する限り、政策的な生活用水への配慮は続くことになる。しかし、そうした政策的な配慮も原価主義に基づく利用者負担のxx性という原則の枠内で行われるべきものであり、xx利用者への配慮が金額的にどの程度なのか情報開示すべきである。
オ 補助金等の特定収入に係る消費税の取扱いについて
(ア) 「特定収入」に係る仕入税額控除の特例
国、地方公共団体、公共法人、公益法人及び人格のない社団等(以下「地方公共団体等」という。)であっても消費税の納付税額は、一般の事業者と同様にその課税対象期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ額等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して算出する。
しかし、地方公共団体等の消費税の仕入税額控除の計算においては、一般の事業者とは異なり補助金、交付金、寄附金等の対価性のない収入を「特定収入」として、これにより賄われる課税仕入れ等の消費税額(特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額)を仕入控除税額から控除するという調整が必要になる(消費税法第60条第4項)。
この調整を行う理由は、地方公共団体等は、通常、「補助金」、「交付金」及び「寄附金」等の対価性のない収入を恒常的な財源としている実態にあり、これら地方公共団体等の収入の大きな割合を占める「補助金」などの「特定収入」は、最終消費的な性格を持つものであり、「特定収入」の収受はその費用の分担の側面にすぎないと考えられることから、課税資産の譲渡等のコストを構成しないという考え方がなされている。この考え方により、一般的な方法により計算される課税仕入れ等の税額から特定収入により賄われる課税仕入れ等の税額を控除した残額を仕入控除税額とするという調整を行うこととされている(仕入税額控除の特例)。
水道事業会計は、消費税法第60条でいう地方公共団体の特別会計であり、「特定収入」に係る仕入税額控除の特例計算を行っている。
納付消費税額の計算式
特定収入がある場合
納付消費税額=課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(調整前の仕入控除税額
-課税期間中の特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額)
調整前の仕入控除税額とは、通常の計算方法により計算した仕入控除税額をいう。
[ ただし、本則課税方式、特定収入割合 5%超の場合 ]
特定収入がない場合は、一般の事業者と同様な計算になる。
納付消費税額=課税対象期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ額等に係る消費税額(仕入控除税額)
ただし、課税期間の特定収入割合(注)が 5%以下の場合には、事務負担を軽減するために複雑な仕入控除税額の調整を行わなくてもすむように考慮され、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額の全額を、その課税期間の仕入控除税額とすることができる。
(注)特定収入割合=課税期間中の特定収入÷課税期間中の(税抜課税売上高+免税売上高+非課税売上高+特定収入の合計額)
(イ) 水道事業会計における消費税の申告状況
広島市の一般会計から水道事業会計の収入として繰り入れられている補助金等の一部は、消費税法上の特定収入に該当している。水道事業会計の特定収入割合は、過去 5 年間(平 成17年度~平成21年度)の消費税申告書をみると、5 年連続して5%以下となっている。
本来、費用として支払う消費税は補助対象となるべきものであるが、水道事業会計では特定収入割合が 5%以下となっており、仕入税額控除の調整を行う必要がないので、仕入控除税額を補助金として受け入れても、水道事業会計は実質的に消費税相当額を負担していないことになる。その結果として仕入控除税額となる支出に対し交付された補助金は水道事業会計に滞留されたままになっている。
補助対象事業における消費税相当額を計算したところ、過去 5 年間で約 9,418 万円となった。
この約 9,418 万円について、消費税の申告を問題にしているわけではない。正しい消費税の申告をした結果、補助金に含まれた消費税相当額が滞留されただけである。
問題は、補助金本来の趣旨は、あくまで費用として負担するものに対して補助するというものであるにもかかわらず、結果的に、水道事業会計において実質的に負担しないものが補助対象となっていることである。
消費税制度と補助金の関係でこのような問題が生じることから、国や県から水道事業会計へ補助金が交付される場合は、補助金交付要綱等で、補助対象事業における消費税相当額が仕入税額控除の対象となり、実質的に消費税相当額を負担しないこととなった場合の消費税返還の取扱いを定めている。
しかし、広島市は水道局に対してこのような取扱いを定めていないため、水道事業会計から広島市の一般会計へ補助金に含まれる消費税相当額を返還する義務はなく、これが水道局に滞留したままになっている。
補助金本来の趣旨を外れ、結果的に、水道事業会計において実質的に負担しないものが補助対象となっており、補助金に含まれる消費税相当額約 9,418 万円が水道事業会計に滞
留していると指摘したが、この約 9,418 万円を今後においてどのように扱うかは、広島市と水道局で検討すべきものと考える。
しかし、今後も補助対象事業費に消費税を加算して補助金額を算定する場合には、「実質的に負担しないこととなる消費税相当額」について同様の問題が生じる。
補助対象事業における消費税相当額について次のような取扱いをすることを提案する。
a 交付決定前に消費税仕入控除税額が明らかになる場合
交付決定は、消費税仕入控除税額を除いた額について行う。
b 実績報告の段階で消費税仕入控除税額が明らかになる場合
交付決定は、その時点で合理的に予想しうる消費税仕入控除税額の見込額を除いた額で行う。この後の実績報告及び補助金の額の確定においては、確定した消費税仕入控除税額を除いて行う。
c 補助金の額の確定後、消費税の申告により消費税仕入控除税額が明らかになる場合 交付決定については、返還条件(精算条件)を付したうえで消費税仕入控除税額を含
めて行う。実績報告及び補助金の額の確定についても、そのまま消費税仕入控除税額を含めて行い、その後、消費税仕入控除税額が確定した段階でその額の返還(精算)を行う。
カ 資金の効率的な運用について
以下の表 1 は、平成17年度から平成21年度までの 5 年間の現金預金と新規企業債発行
額である。表 2 は、同期間の流動資産、流動負債及び流動比率である。
表 1 (単位:億円)億円未満は四捨五入している。
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
現金預金① | 66 | 71 | 57 | 78 | 88 |
企業債発行額② | 40 | 26 | 26 | 23 | 22 |
差引(①-②) | 26 | 45 | 31 | 55 | 66 |
表 2 (単位:億円)億円未満は四捨五入している。流動比率は、円単位で計算している。
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
流動資産 | 102 | 104 | 93 | 119 | 125 |
流動負債 | 46 | 51 | 35 | 32 | 35 |
流動比率(%) | 223.6 | 206.3 | 262.6 | 368.2 | 355.7 |
この過去 5 年間を見ると、いずれも現金預金残高は企業債発行額を上回り、現金預金と企業債による借入金が両建てになっている。預金金利よりも借入金利の方が高い訳であるから、現金預金残高と借入金が両建てになっていると資金効率が悪い。資金効率を上げるために、必要な運転資金を残して、残りは企業債に頼らないで、内部資金で建設改良費を支出することが可能であったはずである。
例えば、表 3 は、平成17年度に 40 億円の借入れがなかったと仮定した場合について、表
4 は表 3 からさらに平成20年度に 23 億円の借入れがなかったと仮定した場合について、その後の流動資産、現金預金、流動負債及び流動比率をそれぞれ試算したものである。
表 3 (単位:億円)億円未満は四捨五入している。流動比率は、億単位で計算している。
区 分 | 平成17年度 | 平成18年度 | 平成19年度 | 平成20年度 | 平成21年度 |
流動資産 | 62 | 64 | 53 | 79 | 85 |
(内、現金預金) | (26) | (31) | (17) | (38) | (48) |
流動負債 | 46 | 51 | 35 | 32 | 35 |
流動比率(%) | 134.8 | 125.5 | 151.4 | 246.9 | 242.9 |
表 4 (単位:億円)億円未満は四捨五入している。流動比率は、億単位で計算している。
区 分 | 平成20年度 | 平成21年度 |
流動資産 | 56 | 62 |
(内、現金預金) | (15) | (25) |
流動負債 | 32 | 35 |
流動比率(%) | 175.0 | 177.1 |
これは、あくまで試算した結果ではあるが、平成17年度に 40 億円の借入れがなかったと
しても、平成21年度までは運転資金に十分な余裕がある。また、表 4 にあるように平成
20年度に 23 億円の借入れがなくても、平成21年度までは運転資金が不足することはない。過去の建設改良費に対する起債比率[企業債÷(建設改良費-市、国などからの補助金)]
を調べてみると、平成14年度から平成17年度までは約 90%、平成18年度から平成21年度までは約 80%であり、平成18年度から起債比率を約 10%落としている。
起債比率はあくまでも財政収支計画上の目標であり、計画よりも実際の資金に余裕があれば、起債比率を 80%とする方針にとらわれず、起債比率を下げる等柔軟な資金調達を図り、経費節減に努めるべきである。
キ 受水費について
(ア) 基本水量の見直しについて
下記の表 1 は、平成17年度と平成21年度の受水費及び受水水量、それぞれの給水収益、給水量に対する割合を示したものであるが、平成21年度の受水費及び受水水量は平成17年度に比べて減少しているが、給水収益、給水量に対する受水費、受水水量の占める割合は増加している。水需要が当初計画より減少したとしても、責任水量制によって広島県から一定の受水水量を受け入れて基本料金として負担しなければならず(基本料金負担)、この基本料金の硬直性が、事業効率化の取組を行っても水道料金の減額改定に結びつかない原因の一つとなり、逆に言えば、水道料金の増額改定の原因の一つとなるとも考えられる。
表 1
区 分 | 平成17年度 | 平成21年度 |
受 水 費(百万円) | 2,438 | 2 ,367 |
事 業 費(百万円) | 22,239 | 20 ,243 |
事業費に占める受水 費の割合(%) | 11.0 | 11.7 |
給水収益(百万円) | 21,779 | 20 ,250 |
給水収益に占める受 水費の割合(%) | 11.2 | 11.7 |
受水水量(㎥) | 21,547 ,298 | 21 ,246 ,171 |
給 水 量(㎥) | 146,806 ,068 | 140 ,393 ,898 |
給水量に占める受水 水量の割合(%) | 14.7 | 15.1 |
沈でん水を除いた広島水道用水供給事業における基本水量は 39,719 ㎥/日で、年間では
14,497,435 ㎥となり、これに 1 ㎥の基本料金 31.08 円/㎥を乗じて算出した年間の基本料
金は、4 億 5,058 万円になる。広島西部地域水道用水供給事業における基本水量は 48,749
㎥/日で、年間では 17,793,385 ㎥であり、これに 1 ㎥の基本料金 32.27 円/㎥を乗じて算出
した年間の基本料金は、5 億 7,419 万円になる。これらの基本料金を合計すると年間で 10
億 2,477 万円となり、これは、責任水量制により実際の使用水量に関係なく負担する固定費である。
平成21年度の広島水道用水供給事業及び広島西部地域水道用水供給事業における基本水量と日最大使用水量の差は、以下の表 2 のようになる。
表 2
区 分 | 広島水道用水供給事業 | 広島西部地域 水道用水供給事業 |
基本水量 (㎥/日)① | 39,719 | 48,749 |
日最大使用水量(㎥)② | 19,512 | 32,059 |
差引(㎥) (①-②) | 20,207 | 16,690 |
割合(%)(②÷①×100) | 49.1 | 65.8 |
基本水量に対する日最大使用水量の割合は、7 割に満たない。基本水量を実際の使用水量に近づくよう減少させることができれば、基本料金を減額することが可能である。
広島県は、前回の料金の見直しの際に、平成17年度以降の水道用水供給事業の収支予測を行った結果、基本料金の減額が可能であると判断し、受水団体からの要望が強い基本水量の見直しについて、その一部を平成17年4月から 3 年間の暫定措置として次のような料金改定を実施した。
減量方法:基本水量と日最大使用水量との差の 10%を基本水量から減量計算式:基本水量 -(基本水量 - 日最大使用水量)×0.1
広島県の水道用水供給事業全体の貸借対照表、損益計算書を見ると、平成16年度から平成20年度まですべての年度で当期純利益が計上されており、平成20年度の利益剰余金は約 58 億円、現金預金は約 100 億円である。参考に入手した事業別の貸借対照表、損
益計算書によると広島水道用水供給事業の利益剰余金は約 26 億円、現金預金は約 36 億円、
広島西部地域水道用水供給事業の利益剰余金は約 9 億円、現金預金は約 14 億円である。両事業会計とも安定経営が続いており、使用の実態に見合った基本水量のさらなる引下げは可能であると思われる。
水需要は減少しており、基本水量と実際の使用水量の差が拡大している状況で、基本水量の見直しは受水団体を構成する市町の共通の問題であると思われる。広島市のみが、基本水量の見直しによる基本料金の減額を求めても、その減額分の負担が他の受水団体へ転嫁されることになるため、そのような調整は困難であるが、受水団体で県に対して基本料金設定方法の根拠を求め、現在の責任水量制における基本水量が固定的経費回収分に見合った水量として妥当なものなのか、広島県と受水団体の管理者レベルで協議し、基本水量
のさらなる引下げを求めるべきであると考える。広島西部地域水道用水供給事業では、受水団体からの要望等を踏まえ、平成20年度からは基本水量から減量する水量の減量率が 10%から 30%に拡大しており、今後ともこのような努力を行うことが求められる。
(イ) 沈でん水の使用量について(以下、金額は消費税抜き)
府中浄水場では、広島県から沈でん水を受水し、自己水と共に浄水して需要者へ水道水を供給している。沈でん水については基本料金がなく従量料金だけである。
平成20年度の府中浄水場の取水量の実績は、5,869,210 ㎥/年(広島市が水利権を持っているものも含む。)であるが、このうち広島県から受水する沈でん水については、広島県へ提示した年間の予定使用水量を全部使用しているものとして、5,091,750 ㎥/年を受水費
として負担している。したがって、取水量の実績である 5,869,210 ㎥から広島県から受水
する沈でん水の年間の予定使用水量である 5,091,750 ㎥を差し引いた 777,460 ㎥が、自己水から末端のユーザーに供給した水量であるということになっている。
この 777,460 ㎥の水量は、府中浄水場の計算上の給水能力 3,285,000 ㎥/年に対して、
約 23.7%の割合となる。[給水能力=10,000 ㎥/日×365 日×0.9(府中浄水場での給水能力は、その浄水能力の 90%とされている。)]
広島県からの受水水量と自己水について、それぞれの取水量の実績はわからないが、取水能力でみれば自己水と広島県からの受水水量の比は 1:2 である(下記表 3 参照)。このことから、取水能力の比で取水量の実績 5,869,210 ㎥を按分すると、広島県からの受水水
量は 5,869,210 ㎥/年×2/3=約 3,912,806 ㎥/年と試算される。これと年間予定使用水量
5,091,750 ㎥/年との差は、1,178,944 ㎥/年であり、試算ではあるが、これに従量料金
48.34 円/㎥を乗じて算出した受水費 56,990,152 円を減額できるものと考える。
したがって、広島県から受水する沈でん水については、自己水との取水能力の比に応じた料金にするよう広島県と交渉すべきと考える。
表 3 (単位:㎥/日)
浄・受水場 | 浄水能力 | 送水能力 | 給(配)水 能力 | 取水場 | 取(導)水 能力 | 水源の種別 |
府中 | 30,000 | 27,000 | 27,000 | xx(広島県) | 10,000 | xx川表流水 |
20,000 | 広島水道用水供給事業 沈でん水受水 |
(2) 会計処理及び資産管理についてア 貯蔵品について
資材管理所において直近 5 年度分(平成17年度~平成21年度)の実地たな卸を実施した資料である「実地たな卸の実施結果について」や毎月の在庫確認に使用した「貯蔵品棚卸し明細表」について、平成12年度の包括外部監査における指摘事項を踏まえて監査した。直近 5 年度分の「実地たな卸の実施結果について」には、すべて「貯蔵品棚卸し明細表」に記載されたシステム在庫数量と差異がない旨の記載があり、事業年度末において棚卸差異
は発生していない。
毎月実施している実地照合の結果を記載した「貯蔵品棚卸し明細表」(平成22年7月分、
8月分、9月分)を閲覧すると、帳簿数量を訂正したものが数件(毎月 1 件あるかないかという程度であるが)あった。その事例として、広島県など他の公共団体に貯蔵品を貸付け、実地照合日においてそれが返品されていない場合には、返品の入力ができないため、システム上は不足が生じるが、実際には数量不足ではない旨の説明を受けた。しかし、その訂正理由を記載した書類はないとのことであった。よって、帳簿数量を訂正したものが実際の数量不足であるのか、単なるタイムラグで生じたものであるのか、第三者にはわからない状況となっている。
毎月実施している実地照合において棚卸差異が発生した場合は、その顛末を記録として残し、所属長の了解を得るようにすべきである。
イ 工業薬品(貯蔵品)について
工業薬品の入出庫管理については特に指摘することはない。関係職員の説明によると、薬品は、常備しておくべきもので、貯留槽に常時一定水準を貯留しておくとのことである。そのことは日報においても確認できる。平成22年3月31日現在の各浄水場における在庫数量及び金額並びに平成19年度末、平成20年度末及び平成21年度末のその合計は、下表のとおりである。金額は、平成19年度末で 900 万円(消費税込。以下同じ。)、平成20年
度末で 1,200 万円であり、平成21年度末では 1,400 万円となっている。工業薬品は、会計上、購入時に費用処理されており、貯蔵品としては計上されていない。期間損益の上では平準化されており、水道事業会計の規模からして重要性は低いかもしれない。しかしながら、財政状態の観点から見ると、1,400 万円という金額は一般的に決して安い金額とは言い難い。いずれも認められた会計処理方法ではあるが、「工業薬品を貯蔵品として認識し、計上する」という会計処理を採用することが、企業会計的観点から見て、より適正であると考えられる。
平成22年3月31日工業薬品残高表 (単位:千円)
薬品名 | xx浄水場 | 緑井浄水場 | 高陽浄水場 | 府中浄水場 | ||||
数量(t) | 金額 | 数量(t) | 金額 | 数量(t) | 金額 | 数量(t) | 金額 | |
液体塩素 | 6.00 | 1,575 | ||||||
苛性ソーダ | (50 ㎥×2 槽) 27.11 | 954 | (55 ㎥×3 槽) 25.93 | 912 | (50 ㎥×2 槽) 31.40 | 1,104 | ||
硫酸バンド | (20 ㎥×2 槽) 32.59 | 657 | (53.5 ㎥×2 槽) 85.59 | 1,725 | (25 ㎥×2 槽) 63.72 | 1,271 | ||
PAC | (20 ㎥×2 槽) 21.10 | 649 | (53.5 ㎥×2 槽) 36.95 | 1,144 | (25 ㎥×2 槽) 44.77 | 1,377 | ||
次亜塩素酸ナトリウム (浄水費分) | (9 ㎥×2 槽) 21.26 | 926 | (16 ㎥×3 槽) 36.67 | 1,578 | ||||
次亜塩素生成用塩 | (5 ㎥×2 槽) 4.54 | 238 | ||||||
次亜塩素酸ナトリウム (配水費分) | (20 ㎏×26 缶) 0.52 | 35 | ||||||
合計 | 3,186 | 5,356 | 5,330 | 273 |
薬品名 | 平成21年度末(合計) | 平成20年度末 | 平成19年度末 | |||
数量(t) | 金額 | 数量(t) | 金額 | 数量(t) | 金額 | |
液体塩素 | 6.00 | 1,575 | 3.00 | 787 | 3.00 | 599 |
苛性ソーダ | 84.44 | 2,970 | 76.01 | 2,674 | 82.17 | 1,682 |
硫酸バンド | 181.90 | 3,653 | 155.00 | 2,950 | 168.92 | 2,957 |
PAC | 102.82 | 3,170 | 120.02 | 3,465 | 126.99 | 3,266 |
次亜塩素酸ナトリウム (浄水費分) | 57.93 | 2,504 | 51.18 | 1,954 | 42.02 | 1,421 |
次亜塩素生成用塩 | 4.54 | 238 | 4.85 | 255 | 1.14 | 62 |
次亜塩素酸ナトリウム (配水費分) | 0.52 | 35 | 0.46 | 31 | 0.22 | 11 |
合計 | 14,145 | 12,116 | 9,998 |
(注)1 残数量は、各年度末の3月31日における工業薬品の残量
2 液体塩素は、ボンベ(1t)単位で表示
3 ( )内は貯留槽容量を表示
ウ 長期滞留建設仮勘定について
建設仮勘定の年度別の発生内訳は以下のようになっている。
建設仮勘定発生年度別内訳
工事年度 | 件数 | 金 額 (円) |
昭和55年度 | 1 | 3,599,407 |
平成2年度 | 1 | 733,677 |
平成8年度 | 4 | 4,023,381 |
平成9年度 | 6 | 45,863,481 |
平成13年度 | 1 | 4,471,815 |
平成15年度 | 3 | 22,922,792 |
平成16年度 | 1 | 839,935 |
平成17年度 | 3 | 9,838,804 |
平成18年度 | 10 | 46,731,330 |
平成19年度 | 23 | 66,513,317 |
平成20年度 | 40 | 339,709,731 |
平成21年度 | 79 | 534,508,480 |
計 | 172 | 1,079,756,150 |
昭和55年度から平成9年度までの建設仮勘定については、支出からすでに 10 年以上経過しており、一般的な建設サイクルに比べ長期間となっている。
これは、平成12年度の日本水道協会水道施設設計指針において「水道施設に係る計画年次は、将来予測の確実性、施設整備の合理性、経営状況を踏まえた上で、可能な限り長期間設定することが基本である。」と示されたことを受け、計画策定時点において 15 年~20 年間を標準的な期間として設定したものと推察される。
平成13年度以降に発生した1,500 万円以上の工事についてその完成年度を調査した結果、平成22年度から平成28年度までの期間で資産の取得予定年度が決められていることを確認した。
昭和55年度から平成9年度までに発生した建設仮勘定については、水道事業変更認可申請書や協定書の内容を吟味した。
上表の昭和55年度の建設仮勘定は、高陽浄水場の増設に係る地質調査費の計上であるが、平成11年度において当時の厚生省から変更申請の許可を受けており、拡張工事の計画が存在していることを確認した。この建設仮勘定は、支出からすでに 30 年が経過しており、また、その後の追加支出も全く行われていないことから、建設仮勘定として会計的に繰り延べる期間としてはあまりにも長期すぎるものである。今後、計画の実行性について改めて検討する必要がある。
エ みなし償却について
水道事業会計においては、有形固定資産について、国庫補助金などで取得したものについても取得価額を基に減価償却を実施している。
また、貸借対照表に 356 億 7,100 万円計上されているダム使用権は、国庫補助金相当額を控除した残額についてみなし償却制度による減価償却を実施しているが、市町村合併により引き継いだ受贈資産や不動産業者などから受贈された建物、構築物などについては、自己資金を投入していないことから投下資本の回収を図る必要がないため、減価償却を行っていない。
これらの受贈資産について減価償却を実施した場合の影響額は、件数が多いため把握できていないが、ダム使用権は件数が 3 件と少ないため、この 3 件について、減価償却を実施した場合の水道事業会計への影響を確認するために減価償却費を試算した。その結果、下表に示すように、みなし償却をしないと増加する減価償却費は毎年度において 2 億 4,000 万円と
なり、過年度累計では 20 億 9,900 万円となっている。
地方公営企業においてみなし償却制度が認められている以上、それに基づく会計処理は、現段階で問題とはいえないが、各地方公営企業の個別事情により減価償却を実施するかしないかを決めるべきではない。
したがって、今後予定される地方公営企業会計制度の見直しに合わせて統一的な会計処理の方法を検討すべきである。
国庫補助金で取得した部分の減価償却額表
(単位:千円)
区 分 | 取得年度 | 経過年数 (a) | 取得価額 (b) | 国庫補助金 (c) | 帳簿原価 (b-c) | みなし償却をしないと増加する減価償却 費 (d=c/55年) | 減価償却累計額 (a×d) |
xxダム | 昭和50年度 | 34年 | 1,011,019 | 57,85 3 | 953,166 | 1,09 9 | 37,366 |
xx堰 | 昭和51年度 | 33年 | 1,972,684 | 308,935 | 1,66 3,74 9 | 5,870 | 19 3,710 |
xxダム | 平成13年度 | 8年 | 38,294,838 | 12,293,928 | 26,000,910 | 233,585 | 1,868,680 |
計 | 41,278,541 | 12,660,716 | 28,617,825 | 240,554 | 2,099,756 |
オ 基町庁舎の有効利用について
基町庁舎について、視察した結果、平成12年度の包括外部監査における意見を受けて実施されている積極的な有効活用の状況を以下のように確認した。旧市内の 4 つの営業所を統廃合し、基町庁舎内に中央営業所を設置することで、基町庁舎の有効活用を図るとともに、東、南及び西の各区への年間賃借料 1,500 万円の経費削減効果をもたらした。また、10 階は、
一部を他団体である独立行政法人日本スポーツ振興センター広島支所へ年間使用料 757 万円、社団法人全国市有物件災害共済会中国支部へ年間使用料 349 万円で、1 階は、一部を市役所 サービス・コーナー及び旅券センターへ年間使用料 964 万円で、それぞれ貸し付けているこ とを使用許可書及び使用承認書において確認した。これらは、平成12年度の包括外部監査 時には賃貸しておらず、以前に比べて、基町庁舎が有効利用されていると評価できる。
1 階の市役所サービス・コーナーについては従前は広島バスセンター内に設置(年間 108
万円の賃料)されており、広島市以外の団体へ資金が流出していたが、水道局庁舎への入居
により、外部への資金の流出がなくなったことから広島市の財政への貢献という観点から、また、基町庁舎の有効利用という観点から、それぞれ評価できる。
12 階と 13 階には第 1 会議室から第 8 会議室までの会議室があるが、最も利用回数が多い
のは第 8 会議室(53.73 ㎡)の月平均 25 回である。次に多いのは第 1 会議室(62.84 ㎡)及
び第 4 会議室(62.84 ㎡)の月平均 15 回から 16 回であり、第 2・3 会議室についても月 10回以上の利用がある。第 5・6・7 会議室の 3 室については月の半分以下の利用にとどまっており、これらについては、非効率な利用状況と言わざるを得ない。
執務スペースについては、全体の平均値が平成12年度の包括外部監査時よりは改善されていることは評価できる。ただし、個別に見ると、課ごとの差が大きく、2 階東側の中央営業所(中営業係、東営業係)及び中央出張所は 5 ㎡を下回る 4.33 ㎡となっているのに対して、
人事課は 16.16 ㎡となっており、労働環境のxx性の観点からも改善できないかと考える。
(3) 水道料金の徴収事務と時効による不納欠損についてア 徴収事務について
水道料金の 100 万円以上のxx滞納者は、27 者で未収件数 510 件、未収総額 82,147,999
円となっている。
例えば、集合ビルに 1 個の水道メーターが設置され、契約者が1者で利用者が複数いて、そのうち一部の利用者は水道料金を滞納しているがその他の利用者は正当に水道料金を納付している場合や、高額滞納者であり納付が遅延していても納付を続けている場合は、給水停止(以下「停水」という。)を実施していない。
しかしながら、調定額より納付額が少ない状態が続けば、滞納金額が増加していく可能性がある。
水道料金等の徴収事務取扱要綱において、停水の対象者に「滞納常習者と認められるもの」とあり、前出の事例は明らかに滞納常習者と考えるべきである。
このような場合には一定の基準を設け、考慮すべき特別な事情がない限り、停水の実施や裁判による徴収などの強硬な姿勢を示す必要があるのではないかと考える。
また、飲食業や食品製造業者など水道水を重要な原料としている業者については、停水を実施することで当該業者の営業がストップし倒産等に追い込むことになり、その結果として水道料金債権の回収ができなくなるという理由から停水は実施されていないが、滞納業者にどこまで供給し続けるかについては、xx性の観点から具体的、客観的な基準による停水の条件を設定することも必要ではないかと考える。
イ 時効について
水道料金債権については、東京高等裁判所の判決において民法上の債権であるとされた。時効は 2 年であり、時効を援用した場合には債権が消滅することとされている。なお、広島市では、消滅時効が完成した水道料金債権については、利用者が水道の使用を中止し、かつ時効の援用をする見込みがある場合は、消滅時効の起算日から 5 年を経過した時点で不納欠損処理することとしている。
また、水道局では、下水道局から下水道使用料の徴収を請け負っているが、下水道使用料
債権は、地方自治法第236条第1項の適用を受け 5 年間で時効により消滅することから時効が成立した時点ですべて不納欠損処理されることになる。
しかし、水道料金債権については、水道が「使用中」又は「停水」の状態では、たとえ金額が僅少であっても 2 年を経過した後に時効の援用がないものは、本人死亡や破産などの条件を満たさない限り、5 年を経過していたとしても不納欠損処理しないこととしている。
したがって、「使用中」の場合には 10 年前の数百円であったとしても原則として債権として計上されたままとなっている。
また、本人が死亡したり破産している場合でも、消滅時効の起算日から 5 年を経過するまでは不納欠損処理しないこととしており、回収可能性の観点から見ると、不納欠損処理が大幅に遅れることとなっている。破産など回収が不能となった場合には、その時点で不納欠損すべきである。
xx情報を閲覧すると、数百円、数千円の債権で既に 10 年を経過し、交渉の結果、納付意思がないと確認された債権や、納付意思が確認できない債権も散見される。これらの債権については貸借対照表能力や費用対効果の観点からは、不納欠損処理されないことは疑問に感じる。
一定の基準(例えば 1 万円未満の債権)を設け、それ以下の債権については、2 年の時効 を経過した後又は 5 年を経過した後に不納欠損処理することも検討する余地があると考える。
(4) 人件費についてア 職員数について
給水人口が 100 万人以上 200 万人未満である札幌市、仙台市、さいたま市、xx市、京都
市、神戸市及び福岡市の各都市について比較すると、水道局の職員数は、最少の 382 人から
最多の 804 人までかなりの開きがある。その中で広島市と給水人口、給水戸数等が比較的に
類似している仙台市やさいたま市と広島市の職員数を比較してみると、仙台市の 422 人、さ
いたま市の 408 人に対し、広島市は 616 人であり、仙台市に対しては約 1.45 倍、さいたま
市に対しては約 1.5 倍となっている。水道局としては毎年職員数を見直し、職員数削減の努力を行っているようではある。職員数は、各都市における施設の状況や合併等の歴史的背景などが異なるため単純には比較できないが、個々の業務内容を徹底的に見直し、また、他の都市の状況等を調査した上で、職員数の削減に努める必要がある。
イ 特殊勤務手当について
特殊勤務手当は、平成16年度に総務省から支給実態調査で見直しを指摘され、水道局においては、平成17年度から平成18年度にかけて、それまでの 12 種類の特殊勤務手当を見直して、作業手当、検針応援手当、年末年始出勤手当及び不規則勤務手当を廃止したことから、現在では 8 種類の特殊勤務手当が支給されている。特殊勤務手当の支給対象となる職務内容を見ると、全部が全部とは言わないが、そのほとんどが当該部署の通常の業務であって、広島市水道局就業規則等に定められている「著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務」の定義に該当しないと思われる。
徴収手当、清算手当及び停水手当の支給対象業務である滞納者への直接の請求、清算者と
の直接の清算業務、停水処分の処理等は、正にそれぞれの部署のあたりまえの通常業務であり、それに対して特殊勤務手当を支給するということは、原則として「水道の未納者は、料金等対価を役所へ持参するものである。」といっているようなものである。
用地取得等折衝業務手当についても、用地取得等に折衝業務はつきもので、それなくして業務の進行はない。
夜間勤務手当については、企業職員の給与の種類及び基準に関する条例第2条第3項に特殊勤務手当とは別に夜間勤務手当があり、重複すると思われる。
特別出勤手当及び緊急現場作業手当は、時間外勤務手当、休日勤務手当等で十分に対応される。
特殊勤務手当については、国や他都市においても支給実績はあるが、水道局において今後とも支給の適正化に努める必要がある。
ウ 広島市水道局職員互助会について
広島市水道局職員互助会(以下「互助会」という。)は、広島市水道局職員互助会設置規程第3条に「互助会は、会員に対する給付、貸付けその他の福利厚生事業を行うものとする。」と規定されているとおり、水道局職員の福利厚生のために存在するものである。貸付金制度もその一環で運営されている。平成21年度末の貸付金の財源及び貸付状況を見ると、貸付金額約 1,600 万円に対して約 1,900 万円の繰越資金を有している。その財源は、水道局から
の借入金 1,500 万円と剰余金約 2,100 万円で賄っている。この剰余金は、職員に対する貸付金利率と水道局からの借入金利率の差による受取利息と支払利息の差額でもって蓄積されたものである。福利厚生という互助会本来の目的から考えると、貸付金利率と借入金利率を均衡させることが妥当と思われる。今後は、貸付金と借入金残高も均衡させるようにするとともに、現在の剰余金は、互助会会員のための給付会計あるいは事業会計に充当し、会員の福利厚生資金として使用すべきである。
(5) 契約について
ア 数値的判断基準の実例について
水道局が発注した配水管改良工事(以下「甲工事」という。)に関する低入札価格調査について、平成22年3月に行われた I 社との契約事案における低入札の場合の当局の対応、その判断根拠となる基準について考察を行った。
甲工事は入札調書によると、I 社は入札金額の順位が 7 社中低い方から 3 番目であり、予定
価格 48,415,000 円に対して、最も低い K 社と 2 位の S 社との金額差は 1,000 円、2 位の S
社と 3 位の I 社の金額差は 8,000 円であった。
そして、最も低い K 社と 2 位の S 社は、低入札調査の結果、数値的判断基準のうちの 1 つの割合が当局の内部で定めている判断基準に対して K 社は 0.02%、S 社は 0.03%不足していたとして、入札無効となったのである。
さらに、低入札価格調査結果調書においては、その概要書で 12 項目のチェックや事情聴取
書による 25 項目の質問ほか、入札書に記載した入札金額に対応した積算内容について様式 1
から様式 11 に基づく膨大な内容の報告書の作成を要求している。
これらの調書等について、その注意書きには、調査基準価格の 85%を下回る入札を行う場合にはこれらを提出しなければ無効となる旨等が明示してある。
落札した I 社(入札金額は低い金額順位の第 3 位)の入札した理由書には 6 つの理由が記載されているが、その中の 1 つには役員報酬を 50%削減し、従業員の給料等を 30%カットして経費を低く抑える旨の記述がある。
このような記述に対して、市当局として、給料、報酬のカット前とカット後の金額がどのように変化し、かつそのカット額の妥当性の判断ができるのであろうか。
一方、低入札の判断基準としての調査基準価格の 85%、低入札の調査における数値的判断基準としての市当局の設計金額の積上計上分の 75%、率計上分の 35%という基準は、あくまで入札業務を迅速、xxに行うための判断基準であり、その基準から大きく乖離すると応札基準から除外されるのは当然であるが、判断基準に対して K 社はわずか 0.02%、S 社は 0.03%不足していることで入札無効として機械的に判断されているものである。
また、平成22年7月から施行されている最低制限価格制度の対象となる工事については、実態としてほとんどの業者が最低制限価格で入札しており、実質的にはくじ引きによる入札となっている。このため、この制度において、真に適正な競争の促進、透明性の確保のために役立てるという制度改善の効果が出ているとは考えられない。
いずれにしろ、今日のような不況下における公共事業の入札において、中小業者の一定の保護育成を通して、地域産業の発展、育成を目指すのであれば、現状の競争入札のあり方、低入札調査のあり方を再考する必要があろう。
現行の基準では、わずかの差ではあっても、低い価格で入札した業者が切り捨てられる状況も生じている。
少なくとも、一定の判断基準の範囲内で落札した業者より低い価格で応札した業者に対しても、総合的な観点から入札調書等の評価を行い、より合理的な発注の判断を行う余地を検討する必要がある。
イ 電食防止装置取替工事の落札状況について
このような取扱い業者の少ない工事について、現状は、A 社のみが受注している特命随意契約と同じ結果になっており、とても実質的な一般競争入札が行われているとは思えない状況である。
しかも、B 社が応札しなかった理由は担当者による入札の失念であり、こうした状況において、実質的に競争行為が働いているとは思えない。
このような状況において、この工事は平均で 95%の落札率を確保しており、他の低入札調査が厳しく行われている工事と比較しても異常に高い落札率となっている。
全国的には A 社、B 社以外にもこのような工事を行う業者は数社が存在しているとのことではあるが、なぜ、広島市には A 社、B 社の二社しか業者登録していないのか、他の業者はなぜ業者登録しようとしないのか、そして、結果的に過去 10 件の入札について全て A 社が落札し、落札率が平均で 95%になるのはなぜか等についてその原因を分析する必要があると考える。
今後、他都市との連携を密にして、発注工事に係る真に適正な設計金額を追求し、一概に
低入札となるような他の工事との比較はできないかもしれないが、落札率における整合性等を考慮し、さらに調査基準価格の適用の適否などの検討や契約方法の再検討も必要である。一度、落札金額について、他の低入札調査において行われている工事内容の厳しい調査と
同レベルの調査を行ってみることも必要があると考える。
(6) 情報システム及び情報セキュリティについて ア 滞納徴収業務のハンディターミナル化について
検針業務でのハンディターミナルの利用は行われていたが、滞納徴収業務でのハンディターミナルの利用は行われていなかった。平成21年4月に、集金業務中において請求書を積んだバイクが盗難にあい、個人情報を紛失する事故が発生した。この事故を受け、容易に第三者に読み取られてしまう紙情報ではなく、ハンディターミナルを利用するための開発が急遽行われている。当該決定は個人情報保護への積極的な取組の一つであると評価できる。
なお、コピーや加工が容易である面において、紙媒体による流出よりも電子媒体による流出の方が、より脅威が大きいことも念頭に置き、ハンディターミナル自体を紛失するリスクにも対処できるようにシステムを構築すべきである。
イ サーバーやパソコンの管理について
水道局の各業務システムは、それぞれの管理部門が異なっており、水道料金オンラインシステムでは、セキュリティ上の理由等から LAN も物理的に独立している。
そのため、営業所や工事事務所には、各管理部門が配付した複数種類のパソコンが設置されることとなる。
また、水道局の各業務システムは、システムごとに開発経緯や運用形態、メーカーが異なることから保守体制の一元化を確保するため、各管理部門が複数種類のパソコンを設置しており、資源の二重投資が生じている可能性がある。
これらのことから、より汎用的な形式のアプリケーションを利用することで、システムに依存しないパソコンを配置するべきである。
(7) 財団法人広島市水道サービス公社について
ア 財団法人広島市水道サービス公社解散後の職員の再雇用方針の見直しについて
財団法人広島市水道サービス公社(以下「公社」という。)は平成23年3月31日に解散することを予定しており、水道局を定年退職した後に再雇用され、現在、公社に在籍している嘱託員(以下「公社の再雇用者」という。)は、原則として、その全員が平成23年4月1日付けで水道局において再雇用される方針になっている。
水道局を定年退職した職員は、水道に関する知識・経験・技術が豊富であり、定年を契機にこのようなノウハウが遮断されることは水道事業運営に関しても大きな損失になると思われる。水道局の定年退職者を再雇用することは、知識・経験・技術を伝承するとともに、新規採用より低い報酬で事業を継続できることから、一定の合理性が存在していると思われる。
公社の再雇用者については、出勤簿による出勤管理を行うとともに、業務日報等により業務管理を行っているが、担当業務について勤務時間中の各時間帯別の稼働状況を検証する報
告書が存在しないため、現在の公社における再雇用者数の過不足の状況を検証することは困難であった。
今後、公社の再雇用者は水道局において再雇用されることになるが、原則として全員を再雇用するのではなく、現在の公社の再雇用者の稼働実態を把握し、必要な再雇用者数を検証する必要があると思われる。
イ 再雇用者の報酬の見直しについて
水道局が平成22年3月31日付けで全水道広島水道労働組合と締結した「再雇用制度の実施に関する協約」によれば、再雇用嘱託員の給与水準は、報酬月額 18 万 4,800 円、増額報
酬 40 万 6,560 円(2.2 ヶ月)、年間給与 262 万 4,160 円となっている。
この報酬額は再雇用者に対して一律に適用され、通勤手当・特殊勤務手当・時間外勤務手当を除き、毎月定額が支給されている。
水道局の業務にも繁忙期と閑散期が存在しているはずである。また、1 日の業務も平均的に存在しているのではなく、業務量にはバラツキが存在しているはずである。
退職後の職員を再雇用する場合、再雇用者が行うべき業務内容についてその必要となる時期・業務時間・人員の検討を行い、再雇用者に対する報酬について日給制・時間給制の適用を検討する必要があると思われる。
ウ 民間委託の判断基準の再検討について
水道局では、水道事業の安全確保の観点から、業務を民間委託することが可能か否かの判断を行っている。水道事業の根幹にかかわる業務に関しては、経済性を優先することなく水道局が業務を行っている。安全確保は最優先されるべき課題であり、当然のことと思われる。水道局は公社に業務の一部を委託している。公社で再雇用している職員は水道局を定年退 職した職員であるため、水道局では、安全確保の観点から、公社で行う委託業務は、水道局職員が行う場合と同等の業務の品質が確保されると判断している。定年退職者であれば、水道事業に関する知識・経験・技術は水道局職員と同等と考えられ、使命感・倫理観は水道局
職員以上であるとも思われることから、水道局の判断は妥当であると思われる。
公社に委託していた業務であっても、その後、水道局において民間業者に委託が可能であると判断したものについては、水道局が民間業者と業務委託契約を行っている。例えば、水道施設管理業務(xx巡視、弁栓類等点検、水質・水圧管理)は公社に委託しているが、このうち水圧管理の一部については、平成19年度から民間業者に委託している。
水道局で民間委託が可能であると判断した業務について、公社の再雇用者(平成23年4月1日以降は水道局での再雇用者)で行うか民間業者で行うかは、どちらで行うことが水道局の経費削減につながるかで判断すべきと考える。
公社の再雇用者の年間報酬額を基礎として有給休暇を控除した実稼動時間により 1 時間当
たりの平均報酬額を算出すると、平成21年では 1,950 円になる。公社の再雇用者は全員社
会保険に加入しているため、社会保険料の雇用主負担(報酬に対して約 11.6%)を加えると
その金額は 2,176 円(1,950 円×111.6%)になる。
民間委託が可能である業務について、公社の再雇用者で業務を行うか民間委託するかは、1
時間当たりの人件費が 2,176 円を下回るか否かを 1 つの指標として判断することが妥当と考える。
エ 民間委託可能業務について
平成21年度において水道局は公社に 5 億 3,703 万円の委託料(水道局の業務委託料合計
額 14 億 3,073 万円の 38%)の支出を行っている。公社への委託業務は、「水道料金等徴収関連業務」、「水道施設管理業務」、「漏水防止業務」、「水道メーター管理業務」、「貯水槽水道実態調査業務」、「配水管洗浄業務」、「貯蔵品管理業務」、「取水場・浄水場管理業務」及び「採水業務」になっている。
この業務のうち、「貯蔵品管理業務」については、水道工事に関する専門的な知識が必要であるが、例えば、水道局において年間を通じ 24 時間体制で、水道の緊急修理等を行う「給配水管等の緊急補修及び移設・取替等工事」に係る契約を締結している広島市指定上下水道工事業協同組合であれば、水道局が要求する業務水準を十分充足できるものと思われる。また、この組合に貯蔵品管理業務を委託した場合においては、資材納品時の検収業務を外部の第三者が行うことになり、内部者の不正防止に対する牽制効果も期待できる。さらには、月次に実施している実地棚卸の際に、水道局職員又は再雇用者が立会うことにより、外部の第三者の不正を防止することは可能と思われる。
また、公社の公益事業である「水道事業に係る調査研究及び普及宣伝に関する事業」の中には、一般利用者に対する水道事業に関するアンケート調査がある。アンケート内容の検討等の企画については水道局で行う必要があるが、アンケート用紙の発送、回収、集計業務については専門性が要求されないので、民間委託が可能であると思われる。
したがって、「貯蔵品管理業務」及び「アンケート業務」の一部は民間委託が可能であると思われる。
オ 水道資料館の運営について
水道資料館は水道の歴史等を展示する施設であり、多大な教育的効果が期待できることから存在意義は大きいと思われる。特に小学校 4 年生では水道事業に関する授業があり、毎年
4月から6月にかけては多くの小学生が来館している。
しかし、平成21年度において、来館者がゼロの日、10 人未満の日が多く存在している。このほか、閉館日でも小学校等の団体での来館は受け付けており、その際にはxx浄水場
等勤務の水道局職員が対応している。閉館日における団体での来館は、4月が小学校 5 校(543人)、5月が小学校 8 校(638 人)、6月が小学校 8 校(685 人)、7月が小学校 2 校(273 人)になっており、合計で 5,923 人が来館している。
小学校等の団体での来館者以外の来館者は限られており、特に平日の来館者が少ないという状況になっている。来館を促すため、より効果的な広報活動を行うとともに、開館日の見直しを検討する必要があると思われる。
以上