Contract
建設コンサルタント業務等の契約における設計変更ガイドライン
2024 年 4 月
阪神高速道路株式会社
目次
1. 目的と適用範囲 1
1.1 本ガイドラインの目的 1
1.2 適用範囲 2
2. 建設コンサルタント業務の特性 2
3. 用語の定義 3
4. 発注者・受注者の留意点 4
5. 契約書及び業務関係共通仕様書の条項 5
6. 設計変更手続きフロー 6
7. 設計図書の疑義解決 7
8. 部分引渡し、部分使用 8
9. 設計変更の対象となる事例 9
10. 設計変更の対象とならない事例 11
1.目的と適用範囲
1.1 本ガイドラインの目的
「公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下、「品確法」という。)」第 3 条(基本理念)には「公共工事等における請負契約(下請契約を含む。)の当事者が、各々の対等な立場における合意に基づいて、適正な額の請負代金及び適正な工期又は調査等の履行期(以下「工期等」という。)を定めるxxな契約を締結し、xxに従って誠実にこれを履行すること。」および第7条(発注者等の責務)において、「必要があると認められるときは適切に設計図書の変更及びこれに伴い必要となる請負代金額又は工期等の変更を行うこと。」とあり、発注者・受注者がそれぞれの役割分担を適切に行ったうえで設計変更内容について両者が合意し契約を締結することが不可欠である。
「公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律」が 2019 年 6 月 14 日に公布され、公共工事に関する調査等(測量、地質調査その他の調査(点検及び診断を含む。)及び設計)について広く品確法の対象として位置付けられた。また、この改正に伴い、国土交通省により「品確法22条に基づく発注関係事務の運用に関する指針(運用指針)」についても、改正された。この指針は、品確法第22条の規定に基づき、品確法第3条に定める現在及び将来の公共工事の品質確保並びにその担い手の中長期的な育成及び確保等の基本理念にのっとり、公共工事等の発注者(以下「発注者」という。)を支援するために定められたものである。各発注者等が、品確法第7条に規定する「発注者等の責務」等を踏まえて、自らの発注体制や地域の実情等に応じて発注関係事務を適切かつ効率的に運用できるよう、発注者共通の指針として、発注関係事務の各段階で取り組むべき事項や多様な入札契約方式の選択・活用について体系的に取りまとめられている。
上記法令等の趣旨等を考慮し、本ガイドラインは、建設コンサルタント業務等請負契約において、対等な立場としての受発注者間の協議と合意に基づき適切な変更契約を実施していくため、両者間の契約条件等に関して共通認識を保持し、適切な設計変更及び円滑な変更契約手続きに資することを目的として策定している。
1.2 適用範囲
本ガイドラインは、阪神高速道路株式会社が発注する建設コンサルタント業務等(設計業務、調査・研究業務、測量業務、地質調査業務、その他これらに類する業務(詳細設計を含む工事を含む。))に適用される。本ガイドライン記載内容は、業務請負契約書を前提としているが、委託契約書についても準用できるものとする。なお、本ガイドラインの適用にあたっては、当該業務の契約図書記載内容、基準類の改定有無等も確認することに留意されたい。
2.建設コンサルタント業務の特性
建設コンサルタント業務は多岐にわたる専門分野の成果物を自然条件及び地元・関係機関との協議等のプロセスを経て作成するものであり、業務遂行にあたっては、様々な条件に配慮することが求められる。
3.用語の定義
・契約図書・・・・・・・・ | 業務請負契約書(以下「契約書」という。)及び設計図書をいう。 |
・設計図書・・・・・・・・ | 図面、仕様書、金額を記載しない設計書、現場説明書、及び現場 説明に対する質問回答書をいう。 |
・仕様書・・・・・・・・・ | 共通仕様書、特記仕様書(これらにおいて明記されている適用す べき諸基準を含む。)をいう。 |
・特記仕様書・・・・・・・ | 共通仕様書を補足し、業務の実施に関する明細または特別な事項を定める書類をいう。なお、発注者がその都度提示した変更特記 仕様書若しくは追加特記仕様書を含むものとする。 |
・図面・・・・・・・・・・ | 入札に際して発注者が交付した設計図及び発注者から変更また は追加された図面をいう。 |
・設計変更・・・・・・・・ | 契約書第 18 条(条件変更等)、第 19 条(設計図書等の変更)等 に基づき、設計図書の変更を行うことをいう。 |
・変更契約・・・・・・・・ | 契約書第 18 条(条件変更等)、第 19 条(設計図書等の変更)及び第 20 条(業務の中止)等に基づき、業務期間又は請負代金額 の変更の契約を締結することをいう。 |
・設計図書の変更通知・・ | 監督員が、契約書第 18 条及び第 19 条の規定に基づく設計図書の変更又は訂正の指示を行う場合、変更業務実施通知書(業務関係共通仕様書 第 6 編 様式集(様式-3))により当該内容を通知 することをいう。 |
・部分引渡し・・・・・・・ | 設計図書において業務の完了に先だって引渡しを受けるべきことを指定した部分(以下「指定部分」という。)がある場合において、発注者が一部完了検査によって業務の完了を確認した後、 受注者が当該指定部分の成果品を引渡すことをいう。 |
・部分使用・・・・・・・・・・ | 引渡し前において、成果品の全部又は一部を受注者の承諾を得て 発注者が使用することをいう。 |
4.発注者・受注者の留意点
○発注者は、年度末の業務の集中を避けること等により、適正な履行期間を確保しつつ、発注・業務時期等の平準化を図ること。
○発注者は、当初契約時に予見できない事態、例えば関係機関への手続の遅延、関連する他の業務の遅延等に備え、その前提条件を明示して設計図書の変更の円滑化を図ること。
○発注者は、必要な業務の条件(必要に応じて維持管理に係る条件を含めるものとする。)を明示した仕様書等を適切に作成するとともに、必要に応じて条件明示チェックシート等を活用し、基本的な計画条件、関係機関との調整実施の確認等を行うこと。
○受注者は、入札・応募時点において設計図書を確認し、疑義が生じた場合には、質問をすること。
○受発注者は、業務の履行に必要な設計条件等について、確認を行うこと。
○受発注者は、計画工程表、必要に応じて業務管理スケジュールxxを活用し、業務工程の共有や問合せ等に対して速やかかつ適切な回答に努めること。
○受発注者は、合同現地踏査等で前提条件等が異なる場合には、必要に応じて、設計図書の変更を行うこと。
○受注者は、業務中に疑義が生じた場合には、発注者と協議し業務を進めること。
○受発注者は、指示・承諾・協議・提出・報告・通知等の内容を必ず書面( Hi-TeLus 適用業務についてはシステムでの発議)によりその内容の取り交わしを行うこと。
5.契約書及び業務関係共通仕様書の条項
設計変更ならびに変更契約に係る契約書と共通仕様書の条項については以下のとおり。この他、各々の特記仕様書に規定する場合はそれに拠ること。
【契約書】
① 設計図書と業務内容が一致しない場合の修補義務(第 17 条)
② 条件変更等(第 18 条)
③ 設計図書等の変更(第 19 条)
④ 業務の中止(第 20 条)
⑤ 業務に係る受注者の提案(第 21 条)
⑥ 適正な業務期間の設定(第 22 条)
⑦ 業務期間の変更(第 23・24・25 条)
・受注者の請求による業務期間の延長(第 23 条)
・発注者の請求による業務期間の短縮(第 24 条)
・業務期間の変更方法(第 25 条)
⑧ 請負代金額の変更方法等(第 26 条)
⑨ 請負代金額の変更に代える設計図書の変更(第 31 条)
⑩ 部分引渡し(第 38 条)
【業務関係共通仕様書】
① 設計図書の照査等(1.9)
② 業務の変更(1.23)
③ 業務期間の変更(1.24)
④ 変更契約(1.25)
⑤ 業務の一時中止(1.26)
6.設計変更手続きフロー
(受注者)
立会い
(発注者)
直ちに調査の実施
【第 18 条】
(条件変更等)
【第 18 条第 1 項】
【第 18 条第 1 項】
【第 18 条第 2 項】
【第 18 条第 3 項】 【第 18 条第 3 項】
【第 18 条第 3 項】
【第 18 条第 4 項】
【第 18 条第 5 項】
・必要があると認められるときは、業務期間若しくは請負代金額を変更
・受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担
必要があると認められるときは、設計図書の訂正又は変更
調査の終了後 14 日以内に、その結果を通知
通知(書面)し、確認請求
契約書第 18 条第 1 項第一号~第五号に該当する事実を発見
発注者
受注者
【第 19 条】 計図書等の変更) |
発注者 |
【第 19 条】 設計図書等の変更が必要 【第 19 条】 |
設計図書等の変更内容を受注者に通知して、設計図書等を変更 |
【第 19 条】 ・必要があると認められるときは、業務期間若しくは請負代金額を変更 ・受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担 |
業務請負契約の設計変更手続きは、下図のフローに基づき行う。
受注者
(設
【第 20 条】 【第 21 条】 【第 23 条】 【第 24 条】
発注者
発注者
受注者
受注者
発注者
受注者
(業務の中止) (業務に係る受注者の提案) (受注者の請求による業務期間の延長)(発注者の請求による業務期間の短縮)
発注者 受注者
受注者の責めに帰すことができないものにより、業務を行うことができないと認められるとき、そのほか、必要があると認められるとき、業務の中止内容を受注者に通知し、業務の全部又は一部を一時中止
技術的又は 経済的に優 れた代替方 法その他改 良事項を発 見したとき は、発注者に対して、当該発見又は発 案に基づき 設計図書等 の変更を提 案
【第 20 条第 1 項、第 2 項】【第 21 条第 1 項】
調査結果をとりま とめ
意 見
【第 21 条第 2 項】
【第 23 条第 1 項】
受注者の責めに帰すことができない事由により業務期間内に業務を完了することができない
必要があると認められるときは、設計図書等の変 更を受注者に通知
【第 23 条第 1 項】
発注者に業 務期間の延 長変更を請 求
【第 23 条第 2 項】
【第 24 条第 1 項】
特別の理由により業務期間を短縮する必要がある
【第 24 条第 1 項】
業務期間の短縮変更を受注者に請求
必要があると認められるときは業務期間を延長
・必要があると認められるとき は、請負代金額を変更
・受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担
・業務期間の延長が発注者の責に帰すべき事由による場合、請負代金額を変更
・受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担
・必要があると認められるときは、業務期間若しくは請負代金額を変更
・受注者が業務の続行に備え業務の一時中止に伴う増加費用を必要とし、若しくは受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担
・設計図書等が変更された場 合において、必要があると認 められるとき は、業務期間又は請負代金額 を変更
【第 20 条第 3 項】
【第 21 条第 3 項】
【第 23 条第 2 項】
【第 24 条第 2 項】
(発注者と受注者が協議) 業務期間の変更方法【第 25 条】 請負代金額の変更方法等【第 26 条】
変更契約(業務期間の変更、請負代金の変更)
7.設計図書の疑義解決
設計図書等に係る疑義については、下記により、契約前、契約直後、業務実施時の各段階で解決しておくことがスムーズな設計変更の協議につながることになる。
【契約前】
発注者は、設計図書について、適切な条件明示がなされているか、金額を記載しない設計書と図面に齟齬がないか等を十分に確認し、適正な設計図書の作成に努めなければならない。
競争参加者は、契約書、設計図書及び現場を確認のうえ、設計図書について疑義があるときは、契約担当部署へ質問書を提出し、その回答を求めることができる。発注者は、設計図書に対する質問が出された場合は、適切に対応しなければならない。
【契約直後】
契約直後は速やかに、受注者が設計図書、遂行条件等を確認して作成した業務計画書をもとに、受発注者間で条件等の打合せを行う。円滑に業務を進め業務期間内に完成させるため、業務内容や工程に対する不確定要素などについて受発注者間で合意した上で着手する。また、必要に応じて両者による現地踏査を行い、現地状況の把握、課題等について相互に確認し適正な契約の遂行に努める。
【業務実施時】
受注者は、発注者との条件等の打合せ後、自らの負担により契約書第 18 条第 1 項一から五に係る設計図書の照査を行い、該当する事実がある場合は、監督員にその事実が確認できる資料を書面により提出し、確認を求めなければならない。発注者は、受注者より確認を求められた場合は、契約書第 18 条第 2 項以降の規定に基づき、適切な対応を図らなければならない。
業務請負契約書第 18 条(条件変更等)第 18 条第 1 項一号
図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書が一致しない場合第 18 条第 1 項二号
設計図書に誤謬または脱漏がある場合第 18 条第 1 項三号
設計図書の表示が明確でない場合第 18 条第 1 項四号
設計図書の自然的または人為的な履行条件が実際と相違する場合第 18 条第 1 項五号
設計図書にない履行条件について予期することができない特別な状態が発生した場合
8.部分引渡し、部分使用
「部分引渡し」と「部分使用」の違いについて下表に示す。
「部分引渡し」と「部分使用」の違い
部分引渡し | 部分使用 | |
契約書条文 | 第 38 条 | 第 34 条 |
共通仕様書 | 4.1 完了検査 | 1.28 部分使用 |
検査等 | 一部完了検査 | 部分使用の確認 |
検査等を行う者の名称 | 検査員 | 監督員 |
代価の支払い | 行う | 行わない |
引渡し | 行う | 行わない |
【「部分引渡し」、「部分使用」について】
「部分引渡し」を受けた部分の成果品の所有権は発注者に移転(帰属)することになる。一方、
「部分使用」の所有権は移転することは無く、受注者に帰属したままとなる。所有権が受注者に帰属したままとなるので、部分使用を受けた部分について、発注者は善良な管理者の注意義務をもって使用しなければならない。
9.設計変更の対象となる事例
(1)図面、仕様書、金額を記載しない設計書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書が一致しない(契約書第 18 条第 1 項一号)
(具体例)
●図面と仕様書の寸法、数量等の記載が一致しない。
●平面図、横断図、断面図の数量、仕様等の記載が一致しない。
(2)設計図書に誤謬または脱漏がある(契約書第 18 条第 1 項二号)
(具体例)
●貸与された資料を確認したところ、設計図書に記載されている数量に誤りがあった。
●土質に関する条件明示が抜けている。
●地下水位に関する条件明示が抜けている。
(3)設計図書の表示が明確でない(契約書第 18 条第 1 項三号)
(具体例)
●計画系業務の検討xxxが不明確である。一式計上となっている。
●道路橋示方書等の適用基準年月が不明確である。最新基準が適用困難な場合がある。
(4) 設計図書の自然的または人為的な履行条件が実際と相違する(契約書第 18 条第 1 項四号)
(具体例)
●現地踏査を行ったところ、現地立ち入り条件が異なっていた。
●関連業務の土質調査の結果、支持層の深さが当初の設計図書と異なっていた。
(5)設計図書にない履行条件について予期することができない特別な状態が発生した
(契約書第 18 条第 1 項五号)
(具体例)
●地下埋設物を発見し、回避または撤去の検討が必要となった。
●別件の地盤調査結果から、設計範囲に軟弱地盤があることが判明し、地盤改良設計が必要となった。
(6)設計図書または業務に関する通知の変更が必要になった(契約書第 19 条)
(具体例)
●詳細設計の設計図書において、概略設計の最終成果物とは別の成果物に基づいて設計図書を作成していたことに発注者が気づき、設計図書の変更を行った。
(7)業務の中止(契約書第 20 条、業務関係共通仕様書 1.26)
(具体例)
●第三者の土地への立ち入り許可が得られなかった。
●新型インフルエンザ等緊急事態宣言により一時中止措置を行った。
(8)受注者の請求による履行期間の延長(契約書第 23 条、業務関係共通仕様書 1.24.2)
(具体例)
●第三者の土地への立ち入り許可が得られなかった。
●天災等により業務の履行に支障が生じた。
(9)「設計図書の照査」の範囲を超えるもの(業務関係共通仕様書 1.9)
(具体例)
●提示された過去の調査報告書に誤りまたは検討不足があり、追加調査や再検討が必要となった。
●過年度の関係機関協議結果について、関係機関に改めて確認することとなった。
10.設計変更の対象とならない事例
(1)設計図書に条件明示のない事項において、発注者と「協議」を行わず、受注者が独自に判断して業務を実施した(契約書第 18 条第 1 項第一~五号)
(具体例)
●レベル1地震時の解析結果を踏まえて、レベル2地震時の解析手法等を設定する条件明示がなされた設計業務において、受注者は設定した解析手法等について発注者と協議を行わないまま解析を実施した。
(2)発注者と「協議」しているが、回答等がない時点で業務を実施した
(契約書第 18 条第 3 項)
(具体例)
●道路災害復旧として、緊急的に測量を含む擁壁詳細設計が発注された。受注者は、測量結果から現況との摺り付けを検討し、必要となる擁壁の設計断面、設計延長を算出した。しかし、当初発注された設計図書と異なるため、発注者に対して設計図書の変更協議を申し入れた。早急な成果物作成が必要とされていたため、受注者は履行期間を考慮し、協議に対する回答がないまま業務に着手した。最終成果物を納品したが、全設計数量に対しての設計変更は認められなかった。
(3)業務請負契約書・業務関係共通仕様書に定められている所定の手続きを経ていない場合
(契約書第 18 条~第 25 条、業務関係共通仕様書 1.23~1.26)
(具体例)
●協議・指示、業務の変更、一時中止、請負代金額の変更などの所定の手続きが行われていないにもかかわらず、業務を実施した。
(4)正式な書面等による設計図書の変更の通知前や協議前に業務を実施した
(契約書第 19 条)
(具体例)
●発注者は当初設計にない検討項目について受注者に口頭で指示をし、受注者は設計図書の変更の通知前に業務を実施した。しかし、別業務で発注されることとなり、設計変更されなかった。