Contract
生命保険契約と国際私法
- 外国人を保険契約者等とする生命保険契約に対する法の適用に関する通則法の適用関係を中心に-
xx xxx
■ アブストラクト
我が国における外国人の増加に伴い、 今後、 日本の生命保険会社が引き受ける生命保険契約において、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約が増 加していく可能性がある。 そこで、 当該契約にかかる法律関係にすべからく日本法が適用されるのか、 ということを中心に検討した。
法の適用に関する通則法に照らして 、当 該契約の成立及び効力については、通常、 日本法が適用されると考えられる。 一方で、 生命保険契約の約款上、その成立及び効力の準拠法を日本法とする旨の条項を手当てしたとしても、一定の場合における保険契約者等の行為能力、 遺言による保険金受取人の変更にかかる遺言自体の成立及び効力や保険金受取人の死亡により新たに保険金受取人となる「 相続人」 概念等、 当該契約に密接にかかわるいくつかの法律関係において、 日本法が適用されない場合があると考えられる。
また、 民事訴訟法上の国際裁判管轄ルールに照らして、 一定の根拠により当該契約について日本に裁判管轄権が認められると考えられるが、 外国が裁判管轄権を有する場合もあり得、 その場合は、 日本で裁判が行われる場合とは適用される国の法が異なり得る。 当該契約がかかわる差押や倒産手続きについても同様のことがいえる。
■キーワード
外国人を保険契約者等とする生命保険契約、 法の適用に関する通則法、国際裁判管轄
1.はじめに
日本の生命保険会社( 以下、 保険業法第3 条第4 項の生命保険業免許を受けた会社を念頭に置く 。) は、 日本国内で生命保険契約の引受けを行うため、大半の保険契約者は日本人であるが、 日本に定住する外国人等、 一定の外国人も、保険契約者、被保険者または保険金受取人となる場合があり得る 1 とこ ろ、 外国人労働者の受け入れを拡大すべく新たな在留資格として「 特定技能
1 号 」( 日本への在留期間は最長5 年まで) と「 特定技能2 号 」( 更新すれば在留期間の上限なし)を創設した改正出入国管理及び難民認定法(以下 、「改 正入管法 」と いう 。)2 が 、2 0 1 9 年4 月1 日に施行されたことも相まって、今後、 日本の生命保険会社が引き受ける生命保険契約において、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約が増加していく可能性があると考えられる。このような環境を念頭に置くと、 当該契約にかかる法律関係についても、す べからく日本法が適用される( 日本法が準拠法となる) のか、 そうでないとすれば、 それはどのような場合に、 どのような関係において生じるのか、 ということを検討することには相応の意義があるのではないかと考えられる。そこで、 本稿では、 主として、 準拠法決定ルールを定める日本の国際私法
(法の適用に関する通則法) を取り上げ、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約に対する法の適用に関する通則法の適用関係を中心に検討することとする。 以下、 まずは国際私法とは何かについて概説( → 2 ) したうえで、関係する日本の国際私法上のルールを確認しながら、 xx、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の準拠 法( → 3 )、そ の他当該契約に密接にかかわ る法律関係の準拠法( → 4 ) を検討した後、 当該契約の国際裁判管轄( 当該契約について日本に裁判管轄権が認められるか )に ついても若干考 察( → 5) し、 最後に検討のまとめ( → 6 ) を行う。
1 例えば、 住友生命では、 現状、 日本在住の外国人が保険契約者となるケースについては、 重要事項や契約内容等をご理解いただける日本語理解力があり、 保険契約期間にわたり日本に在留される見込みが確認できた場合に、 保険契約の引受 判断を行っている( 住友生命H P 「 平成 29 年定時総代会 質疑応答の要旨」 参照 )。
2 「 特定技能」 制 度については、 xxxx・ xxxx・ xxxx『 改正入管法のポイント- 外国人材の受入れと在留資格「 特定技能 」』( 法律情報出版・ 2019 ) 等 x x。
2 . 国際私法とは
法律関係の当事者の国籍・ 住所・ 契約締結地・ 履行地・ 目的物の所在地など、 法律関係を構成している諸要素が複数の国に関係をもつようなものを渉外的法律関係という 。国 際私法は 、国 際社会に異なる法制度を有する国 等(法 域 )が 併存することを前提に 、渉 外的法律関係について、法律関係の類 型(単 位法律関係) ごとに、 適用されるべき法域の法( 準拠法) を決定するルールである。 国際私法は、 一部の例外を除き、 各国で内容が異なる国内法として存在しており、 日本の国際私法の基本法典は、 法の適用に関する通則法( 2
0 0 7 年1 月1 日施行。 以下 、「 通則法」 という 。) である。 通則法は、 従前 の日本の国際私法である「 法例」 について、 現在の社会経済情勢に適合し国際的に調和のとれた内容とすべく、 取引関係の規定を中心に内容を改めるとともに、 法律名を含めて全体を現代語化したものである 3 。
通則法の条文は、 単位法律関係の部分と、 連結点によって準拠法を指定する部分からできている。例えば、通則法第3 6 条では 、「 相続は、被相続人の本国法による 。」と 定められており 、「 相続」が単位法律関係 、「 被相続人の本国 」( = 国籍の所属国) が連結点で 、「 被相続人の本国法」 が準拠法となる。 この準拠法の決定が国際私法の役割であり、 被相続人の相続にかかわる具体的な権利義務関係は、 準拠法として指定された被相続人の本国の民法( 相続法) で規律されることになる 4 。
このように、 国際私法は、 民法や商法のように権利義務や法律関係を直接に規律する法( 実質法) ではなく、 複数の法域の中からいずれかの法域の実質法を指定する法( 牴触法) である。 また、 国際私法は、 その準拠法決定ルールから当事者が任意に逸脱することを認めないという意味で強行規範である 5 。
3 xxxx・ xxxxx『 国際私法入門[ 第8 版 ]』 1 ~ 5 頁・ 10 頁( 有斐閣双書・ 2018 )、 xxxx編著『 一問一答新しい国際私法- 法の適用に関する通則法の解説- 』 15 ~ 17 頁( 商事法務・ 2006 ) 参照。
4 xxxx『 国際関係私法入門[ 第4 版 ]』 19 ~ 21 頁[ xxx ]( 有斐閣・ 2019 ) x x 。
5 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 7 ~ 8 頁参照。
通則法のような準拠法の決定を任務とする法分野は「 狭義の国際私法」 といわれるが 、い かなる国の裁判所でその事件を処理すべき か( 国際裁判管轄 )、外国判決は日本でどのような効力が認められるか( 外国判決の承認・ 執行 )、外国にも資産があるような者の倒産処理をどのように扱うべきか、 といった問題の解決を任務とする法分野は国際民事手続法( 国際民事訴訟法) と呼ばれ、両者を併せて「 xxの国際私法」ということがある 6 。国際民事手続についても、 一部を除いて、 各国の国内法で規律されている。 日本の国内法としては、 民事訴訟法( 第3 条の2 ~ 第3 条の1 2 ・ 第3 3 条・ 第1 0 8 条・ 第
1 1 8 条・ 第1 8 4 条等 )、 民事xxx( 第2 2 条・ 第2 4 条 )、 破産法( 第
3 条・第4 条 )、外 国倒産処理手続の承認援助に関する法律等があり、国際裁 判管轄の問題については、 かつてはxxの規定がなく判例が法源的な役割を果たしてきたが、 2 0 1 1 年の民事訴訟法改正によりxxの規定が設けられた( 民事訴訟法第3 条の2 ~ 第3 条の1 2 ) 7 。
以上のように、 xx・狭義とも国際私法は基本的に国内法であるため、 民事訴訟法上の国際裁判管轄ルールや通則法は、 実際上は、 日本で訴訟が提起された場合に適用され 、外 国で訴訟が提起された場合には 、当 該外国のxx・狭義の国際私法が適用されることになる 8 。
通則法は 、制 定時に実質改正があった条文については 、旧 法主義を採 用( 施行日前に生じたものについては「 法例」 を適用)することとしている( 通則法附則第3 条) が、 本稿では、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の今後の増加の可能性を念頭に検討するため、 以下では、 通則法・ 保険法施行 下で締結される当該契約を念頭に検討を進めることとする 9 。
6 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 6 頁・ 257 頁参照。
7 xx編・ 前掲( 注4 ) 7 ~ 8 頁[ xxx] 参照。
8 xx編・ 前掲( 注4 )6 ~ 8 頁[ xxx ]、 xxxx『 国際私法と銀行取引- 「 法の適用に関する通則法」 と銀行実務- 』( 経済法令研究会・ 2009 ) 11 頁参照。
9 外国居住者を保険契約者兼被保険者とする生命保険契約の準拠法について、 通則法施行下のみならず、 法例施行下で締結された契約についても検討するものとして、 xxxx「 外国居住者を保険契約者兼被保険者とする生命保険契約の準拠法- 東京地判平 成 25 年 5 月 31 日を素材として- 」 生命保険論集 199 号 35 ~ 68 頁( 2017 . 6 )。
3. 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の準拠法
(1) 生命保険契約の成立及び効力の準拠法
ⅰ) 契約の成立及び効力に関する通則法上のルールイ. 原則的なルール
生命保険契約のような、 債権的な契約を典型とする法律行為の成立及び 効力の原則的な準拠法決定ルールは、 通則法第7 条及び第8 条に規定されている。 具体的には、 法律行為の成立及び効力については、 当事者が法律行為の当時に選択した地の法が準拠法とな り( 通則法第7 条 )、当 事者による準拠法の選択がない場合には、 法律行為の当時における当該法律行為の最密接関係地法が準拠法となる( 同第8 条第1 項 )。後 者の場合に、特徴的な給付を当事者の一方のみが行う法律行為であれば、 その給付を行う者の常居所地法( その者が事業者の場合は事業所の所在地法) が当該法律行為の最密接関係地法と推定される( 同第8 条第2 項 )。
ここにい う「 法律行為の成立及び効力 」に ついて 、契 約を念頭に置くと、
「 契約の成立」 には、 申込みや承諾の意思表示に瑕疵がないか、 いかなる意思表示が申込みや承諾となるか、 意思表示の効力発生時は発信時か到達時か等、 契約が有効に成立するために必要とされる要件に関する問題が含 まれ 、「 契約の効力」には、成立した契約から生じる具体的な権利義務の内容、債務不履行の場合の効果等の問題が含まれる 10 。よって、生命保険契約であれば、 その申込みや承諾のほか、 被保険者同意の要否や保険契約者側 の告知義務のような生命保険契約の成立に関する問題と、 生命保険契約上の具体的な権利x x( 保険契約者の保険料支払義務・保険金受取人変更権・解約権、 保険金受取人の死亡の場合の取扱い、 保険金受取人の介入権、保 険会社の保険給付義務とその免責事由・ 告知義務違反による解除xx) の内容や債務不履行の場合の効 果( 保険料未払いによる生命保険契約の失 効・
10 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 178 ~ 179 頁、 xx編・ 前掲( 注4 ) 103 ~ 104 頁[ xxxxx ]、 x xxx・ x x x x x編『 注釈国際私法第 1 巻- 法の適用に関する通則法第1 条~ 第 23 条 』(有斐閣・ 2011 ) 185 頁[ xxx] x x 。
解除、 保険給付の履行期徒過による遅延利息の支払い) 等に関する問題に 適用される原則的な準拠法が、 通則法第7 条および第8 条で決定されると考えられる。
通則法第7 条にいう当事者による準拠法の選択について、 例えば、 当事者が契約書に「 本契約の準拠法はA 国法とする」 という条項を置いていれば、 当事者がA 国法を準拠法に選択したことになるが、 そのような明示的な条項がなくても、 黙示の意思による準拠法選択( 黙示的な準拠法選択の合意や、 各当事者の内心の意図による同じ法の選択) も認められると解されている 11 。なお、損害保険契約の約款においては、準拠法が日本法であることを定める条項が置かれているのが通例であるが、 生命保険契約の約款においては、 準拠法を定める条項が置かれていないのが通例である 12 。
また、 通則法第8 条第2 項にいう「 特徴的な給付」 とは、 契約上、その 契約を特徴づける給付をいい、 その給付を行う当事者は、 保険契約であれば保険者が該当すると考えられる 13 。
ロ. 消費者契約の特例
契約が消費者契約 14 である場合におけるその成立及び効力の特例が、 通則法第1 1 条に規定されている。 具体的には、 当事者による準拠法の選択がある場合において、 その準拠法が消費者の常居所地法以外の法であって も、 消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思表示を事業者にしたときは、 消費者契約の成立及び効力に関しその強行規定が重畳適用さ れ( 同第1 1 条第1 項 )、当 事者による準拠法の選択がない場合においては、 同第8 条にかかわらず、 消費者契約の成立及び効力の準拠
11 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 174 頁 ・ 179 頁。
12 xxxx『 保険法( 上 )』 197 頁( 有斐閣・ 2018 )。
13 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 183 頁 ~ 184 頁。
14 消費者( 個人( 事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを 除 く) と事業者( 法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契 約の当事者となる場合における個人) との間で締結される契約( 労働契約を除く) を 指 す( 通則法第 11 条第 1 項 )。
法は、消費者の常居所地法となる( 同第1 1 条第2 項 )。も っとも、事業者 の事業所が消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者自らが事業所の所在地に赴いて消費者契約を締結したときや、 消費 者が事業所の所在地において消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けることとされていたときは、 事業者が消費者の常居所地でその勧誘をした 場合を除き、 同第1 1 条第1 項・ 第2 項は適用されず、 原則どおり同第7 条及び第8 条によって準拠法が決定されることとなる( 同第1 1 条第6 項第1 号・ 第2 号 )。
ここにいう「 常居所」 とは、 国際私法における準拠法決定のためにハーグ国際私法会議で創設された habitual residence という概念の日本語訳 であり、 その定義は同会議や通則法では置かれていないが、 単なる一時的居所では不十分であり、 ある程度の居住期間が必要とされるほか、 居住期間のみでなく、 居住目的や居住状況などの諸要素を総合的に考慮して判断することが必要とされている 15 。ま た 、戸 籍事務の取扱基準に過ぎないが、xxx年の法例改正に伴う法務省民事局長通達( xxx年1 0 月2 日民2第 3900 号通達とその後の一部改正通達 )の 常居所認定基準では 、x xxで あれば、その在留資格に応じて、 永住目的またはこれに類する目的の場合は1年以上、 それ以外の滞在目的の場合は5年以上、 日本に在留している ときには、 日本に常居所があるものとされており、 これが一般的に常居所の有無を判断する際にも参考になるとされている 16 。
通則法第11 条第 1 項にいう「 強行規定」 とは、 当該実質法上、 当事者がその意思によって適用を排除できない規 範( いわゆる任意規定の対概念)であり、 日本法でいえば、 保険法上の片面的強行規定のほか、 消費者契約法の規定や、 金融商品の販売等に関する法律等のいわゆる「 業法」 も私法 上の効力をもつ限り、その範疇に入るとされている 17 。また、同項にいう強
15 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 76 頁、 83 頁~ 84 頁。
16 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 84 頁~ 85 頁、 xxxxx『 ポイント国際私法総論
[ 第2 版 ]』( 有斐閣・ 2007 ) 157 ~ 159 頁。
17 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 10 ) 261 頁[ xxxx ]、 x x( 友 )・ 前掲( 注 12 ) 199
行規定適用の意思表示は、 契約締結時でも締結後紛争が生じてからでもよく、裁判上でも裁判外でも、 どのような伝達手段を用いても構わないとさ れている 18 。
なお、 通則法第1 1 条第6 項にいう「 勧誘」 とは、 例えば、 具体的な契約締結に向けての電話・ ダイレクトメール等の個別的な勧誘や、 特定の外国の消費者をターゲットとしたインターネット上の広告等、 事業者による消費者に対する具体的かつ積極的な働きかけを意味するものであり、 インターネット等による事業者の一般的な広告は該当しないとされている 19 。
ⅱ ) 生命保険契約の成立及び効力の準拠法
以上を踏まえ、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の成立及び効力に関する問題に適用される準拠法について検討する。
まず、 通則法上の原則的なルールとの関係では、 前述のとおり、 通常、生命保険契約の約款には準拠法条項がないため、 日本法を準拠法とする旨の黙示の意思による準拠法選択( 同第7 条) があるかどうかを考えることになる。 この点、 契約当事者が用いる約款が特定国の法制度を前提にその国の官庁の認可を受けている場合には、 その特定国の法を準拠法とする旨の黙示の意思による準拠法選択があったと解すべきとする見解 20 がある一方で、 認可を得たことをもって常に黙示の意思による準拠法選択があったとはいえず、 日本に永住する外国人であれば日本法を準拠法とする黙示の意思が認められやすいが、 少なくとも一時的に日本に居住する外国人の場合には、 そのような意思があると一般的には断言できないとする見解 21 がある。 後者の見解によれば、 例えば、 保険契約者である外国人が、 日本に永住する場合や改正入管法上の「 特定技能2 号 」( 在留期間の上限なし)と
~ 200 頁。
18 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 202 頁、 xxxx編著『 逐条解説法の適用に関する通則法の解説[ 増補版 ]』( 商事法務・ 2015 ) 138 頁。
19 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 205 頁、 x x編 著・ 前掲( 注3 ) 76 ~ 77 頁 。
20 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 10 ) 194 頁[ xxx ]。
21 xx・ 前掲( 注9 ) 48 ~ 49 頁 。
してxx日本に滞在するような場合には、 日本法を準拠法とする旨の黙示の意思による準拠法選択( 同第7 条) が認められると考えられるが、仮に 保険契約者である外国人が、改正入管法上の「 特定技能1 号 」( 日本への在 留は最長5 年まで) であるような場合には、 そのような黙示の意思が認められない場合もあり得るように思われる。
黙示の意思による準拠法選択( 同第7 条) が認められない場合には、 通則法第8 条の最密接関係地法が準拠法となるが、 その場合は、 通則法にいう「 特徴的な給付」 を行う保険会社の事業所の所在地法である日本法が準拠法として推定される( 同第8 条第2 項) と考えられる。
次に、 通則法上の消費者契約の特例との関係では、 前述の戸籍事務上の常居所認定基準によれば、 日本に永住する外国人や5 年以上日本に滞在する改正入管法上の「 特定技能2 号」 の外国人であれば、 日本が常居所地となるため、 通則法第1 1 条第1 項・ 第2 項を考慮するまでもなく、 強行規定も含め、 日本法が準拠法となると考えられる。
一方、 改正入管法上の「 特定技能1 号 」( 日本への在留は最長5 年まで)の外国人は、 前述の認定基準によれば、 日本が常居所地とならないが、仮 にそのような外国人であったとしても、 保険会社の事業所の所在地たる日本で、 保険募集を受け生命保険契約を締結すると考えられる。 また、生命 保険契約の約款には 、会 社の本社等で保険金等を支払う旨を定めてい る(日 本で債務の全部の履行を受けることとされている) のが通例である。 常居 所地が日本と異なる外国人が、 その常居所地で日本での契約締結や保険金 等の支払いについての勧誘( 具体的かつ積極的な働きかけ) を保険会社側 から受けていた場合や、 その常居所地でインターネットにより非対面で生命保険契約の締結を完結し、 保険金等の支払いもその常居所地で受けることとされていた場合 22 には、 消費者契約の特例( 同第1 1 条第1 項・ 第2項) が適用されることになるが、 かかる取引は、 世界の多くの国々で免許
22 xx編著・ 前掲( 注3 ) 78 頁参照。
制や海外直接xx規制により原則禁止される保険の越境取引に該当する懸念があるため、想定し難いと考えられる 23 。よって、日本が常居所地でない外国人を保険契約者とする生命保険契約でも、 通則法第1 1 条第6 項第1 号・第2号により消費者契約の特例( 同第1 1 条第1 項・ 第2 項) の適用は除外され、 原則どおり、 通則法第7 条または第8 条により日本法が準拠 法と認められ、 または推定されると考えられる。
なお、 生命保険契約は、 一般的に長期間継続する契約であるため、 例え ば、 日本に永住する目的であったり改正入管法上の「 特定技能2 号」 とし てxx日本に滞在する目的であるような外国人が、 保険契約期間にわたり日本に在留する見込みで、 日本で生命保険契約を締結した後、締結時の見 込みと異なり契約継続中に外国に移住するという事態が起こり得る 。仮 に、改正入管法上の「 特定技能1 号 」( 日本への在留は最長5 年まで)の外国人 が保険契約者となれば、 その契約継続中に帰国することは当然の事態ともいえる。 そのような事態が、 生命保険契約の効力に関する問題に適用される準拠法にどのような影響を与えるであろうか。
通則法上 、法 律行為の成立及び効力の準拠法の決定については 、「 法律行為の当時( 契約であれば、契約締結の当時 )」を 基準としており、契約締結後相当期間が過ぎて契約に基づく給付や当事者間での紛争が生じた後などは 、社 会通念上法律行為が行われた時点と同視できないことから 、「 法律行為の当時」には該当しないとされている 24 。もっとも、定期保険等の保険期間が更新するタイプの生命保険契約の場合、 日本の保険法上、 生命保険契
23 xx・ 前掲( 注9 ) 51 ~ 53 頁、 xxxx「 通信による保険の越境取引に関する規制の在り方( 2 完 )」 損害保険研究第 78 巻 第 2 号 15 ~ 19 頁 ( 2016.8) 参照。 なお、 保険契約の締結をネットで完結するライフネット生命のH P ( よくあるご質問) には 、「 外国人や外国籍でも加入できますか? 」 という質問に対して 、「 外国籍の方は、 日本国内に居住されていれば、 お申し込みできます。… 保険契約の約款や重要事項などの表
記、 コンタクトセンターとの対応は、 日本語のみとなっています。 外国語での対応は取扱っておりません。… 当社が指定する本人確認書類をご提出していただきます 。」 という回答が記載されており、 越境取引を想定していないと考えられる。 また、 同社の生命保険契約の約款にも、 保険給付の支払場所は会社の本社とする旨が規定されている 。
24 x x編著・ 前掲( 注3 ) 44 頁。
約の更新は契約の締結と同視できる 25 ため、 例えば、 保険契約者である外国人が、 生命保険契約の更新時に外国に居住していた場合については、 別途検討が必要と考えられる。
生命保険契約の更新は、 日本で締結された生命保険契約を従前と同じ内容で継続するものである( なお、 更新するために何らのアクションを要しない自動更新が多い) ため、 通則法上、 生命保険契約の更新を、 日本における生命保険契約の締結とは別個の「 契約の締結」 という単位法律関係ととらえること自体、 法的安定性や予測可能性を害しかねず、 妥当でないと考えられる。 また、 生命保険契約の更新を通則法上の「 契約の締結」 ととらえるとすると、 前述のとおり、 生命保険契約の約款には、 会社の本社等で保険金等を支払う旨を定めている( 日本で債務の全部の履行を受けることとされている) のが通例であるため、 通則法第1 1 条第6 項第2 号により、 消費者契約の特例( 同第1 1 条第1 項・ 第2 項) の適用は除外されると考えられる。 この場合、 生命保険契約の更新の実質に鑑みると、 更新時 に、 日本で生命保険契約を締結した際の準拠法と同一の準拠法によることが当事者の黙示の意思によって選択される( 同第7 条) か、 そうでないとすれば、 日本で生命保険契約を締結した際の準拠法が最密接関係地法とし て適用される( 同第8 条) ことになると考えられる 26 。
よって、 生命保険契約締結後の居住地国の変更は、 通則法上、 生命保険契約の効力に関する問題に適用される準拠法の決定に影響を及ぼさない
( 生命保険契約締結時に日本法が準拠法となれば、 日本法が準拠法として適用され続ける) と考えられる。
以上を踏まえると、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の成立及 び効力の準拠法は、 通常、 日本法になると考えられる。 もっとも、 黙示の 意思による準拠法選択の解釈の不確定性や、 黙示の準拠法選択が認められ ない場合には日本法が準拠法として「 推定」 されるに過ぎないことを勘案
25 xxx編著『 一問一答保険法 』( 商事法務・ 2009 ) 217 頁。
26 xx編著・ 前掲( 注3 ) 43 頁、 xx・ 前掲( 注 18 ) 80 頁 x x 。
し、 生命保険契約の成立及び効力の準拠法を日本法とする旨の準拠法条項 を約款に手当てすることを検討する余地があると考えられる 27 。
(2) 生命保険契約に基づく各法律行為の準拠法
生命保険「 契約」 という「 法律行為」 について、 その具体的な権利義務の内容等(効力) の準拠法が日本法になるとしても、 実際にその権利を行使する( 保険契約者が保険金受取人を変更する、 保険契約者が生命保険契約を解約する、 保険金受取人が介入権を行使する、 保険会社が告知義務違反により生命保険契約を解除する等) こと自体も「 法律行為」 である。 このような、生命保険契約に基づく各法律行為の準拠法はどのように考えればよいであろうか。
この点、 契約等の大きな法律行為により構築された法律関係の中で行われる解除のような小さな法律行為は、 通則法上の「 法律行為」 には含まれず、契約の解除等は契約の効力の準拠法によるとの考え方がある 28 が、立法担当 者は、 通則法上、 単位法律関係を法律行為としていることから、 契約の解除 等についても、 それ自体一つの独立した通則法上の「 法律行為」 に該当する
29 としている。
もっとも、 後者の考え方も、 契約の解除等はその対象となる契約によって生じた法律関係の存在を前提としているため、 契約の解除等の単独行為であっても、 その相手方も通則法にいう「 法律行為」 の「 当事者」 に該当すると解し、 解除等の対象となる契約の準拠法と同一の準拠法によることが当事者の黙示の意思によって選択されているとみるか、 そうでなくても、 通則法第
8条によって最密接関係地法( 契約の準拠法)が適用されることになろう 30
27 外国人が保険契約者となる生命保険契約の存在を念頭に、 生命保険契約の約款に準拠法条項を置く必要性を説 くものとして、 xx・ 前掲( 注9 ) 47 頁・ 63 ~ 65 頁。 ま た、 銀行取引について、 国内の消費者契約で日本法を準拠法とする旨の規定の手当ての必要性を説くものとして、 xx・ 前掲( 注8 ) 76 頁。
28 xxxxx『 ポイント国際私法各論[ 第2 版 ]』( 有斐閣・ 2014 ) 228 ~ 229 頁 。
29 xx編著・ 前掲( 注3 ) 43 頁 。
30 x x編著・ 前掲( 注3 ) 43 頁、 xx・ 前掲( 注 18 ) 80 頁。
としている。
また 、通 則法上の消費者契約の特例は 、「 法律行為 」で はなく消費 者「 契約」を単位法律関係としているため、 契約の解除等の契約に基づく各法律行為は そもそも念頭に置かれていないと考えられる。
生命保険契約は長期間継続するため、 外国人が保険契約者等である場合には、 生命保険契約の解約や告知義務違反による解除等の生命保険契約に基づく各法律行為を行う際に、 当該外国人が外国に居住している場合があり得るが、 そのような場合においても、 以上より、 通則法上、 生命保険契約の成立及び効力の準拠法が日本法であれば、 生命保険契約に基づく各法律行為の準拠法も日本法となると考えられる。
4 . その他外国人を保険契約者等とする生命保険契約に密接にかかわる法律関係の準拠法
( 1 ) 保険契約者等の行為能力の準拠法
3. の検討を踏まえ、 以下では、 外国人を保険契約者等とする生命保険契 約の成立及び効力ならびに当該契約に基づく各法律行為の準拠法は日本法という前提とするが、 生命保険契約を有効に締結するため等に必要な「 行為能力」 という単位法律関係については、 通則法上、 別途、 準拠法決定ルール等が定められている。
ⅰ ) 財産的法律行為の行為能力に関する通則法上のルール
まず、 財産的法律行為の行為能力については、 原則としてその人の本国 法が準拠法となる( 同第4 条第1 項) が、 本国法によれば制限行為能力者となる場合であっても、 行為地法によれば行為能力者となるべきときは、法律行為の当時すべての当事者がその行為地に在った場合に限り、 行為能 力者とみなされる( 同第4 条第2 項 )。
「 本国法」 とは、 いわゆる国籍国法のことであり、 重国籍者、 無国籍者の本国法をいかに決定するかについては、 通則法第3 8 条に定められてい
る。また、 通則法第4 条にいう「 行為能力」 には、 xx年齢、未xx者の 能力補 充( 法定代理人の同 意・追 認 )、未 xx者の瑕疵ある法律行為の効力、婚姻によるxx擬制等の問題が含まれる 31 。
xx被後見人・被保佐人・被補助人( 以下「 被後見人等」という 。) にか かるルールは、 別途、 通則法第5 条・ 第3 5 条に規定されている。 具体的 には、 通則法上、 外国人であっても、 被後見人等となるべき者が日本に住所又は居所を有するときには、 日本法により後見開始の審判等をすること ができ( 同第5 条 )、当 該外国人に当該審判等があったときは、後見人・保佐人・補助人( 以下「 後見人等」という 。)の選任 については日本法によることにな る( 同第3 5 条第2 項第2 号 )。そ の他の場合の後見人等の選任や後見人等の権利義務等については原則として被後見人等の本国法によることとなる(同第3 5 条第1 項) 32 。
また、 日本に住所又は居所を有しない外国人について、 外国の裁判所の保護措置により後見人等が選任された場合には、 その保護措置が日本で承認される限りにおいて、 その後見人等が日本で当該外国人の財産を処分することは可能と考えられる 33 。
なお、 通則法第4 条第1 項や同第3 5 条第1 項に基づき本国法が準拠法となる場合においても、その本国の国際私法に従えば日本法によるべきときは、 日本法が準拠法になる( 同第4 1 条本文。 これを「 反致」 という 。)
34 。
ⅱ) 保険契約者等の行為能力の準拠法
外国人を保険契約者とする生命保険契約は、 前述のとおり、 日本で保険募集と契約の締結が行われると考えられ、 外国人が日本以外の国からアクセスしてインターネット等で生命保険契約の締結を完結するケースは想定
31 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 154 ~ 155 頁。
32 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 157 頁 ・ 160 ~ 161 頁 x x 。
33 xx編著・ 前掲( 注3 ) 33 頁 。
34 xx編・ 前掲( 注4 ) 51 ~ 53 頁[ xxx ]。
し難いと考えられる。 よって、 保険契約者が外国人であったとしても、 契約締結時にすべての契約当事者が日本に在るため、 その保険契約者が行為 地法である日本法上のxx者であれば、 行為能力者として取り扱えばよいと考えられ る( 同第4 条第2 項 )。一 方、保険契約者が日本法上の未xx者であれば、 その行為能力( xx者かどうか、 未xx者であればその能力補 充等) については、 その者の本国法により判断することとなろう( 同第 4条第1 項 )。
外国人を被保険者とする生命保険契約の場合、 被保険者同意(保険法第
38条) をするために必要な能力の準拠法も問題となる。
被保険者の同意は、 日本の保険法上、 特に未xx者を被保険者とする場合を念頭に置いたときに、 身分上の行為、 財産上の行為のいずれとも単純には言い難い性格がある 35 とされているため、 難しい問題であるが、 その 性質は準法律行為とされており 36 、 生命保険契約の締結という財産的法律行為に密接にかかわるものであるため、 通則法第4 条を準用して判断すればよいと考えたい。 そうすると、 外国人である被保険者も日本で同意をするものと考えられるため、 被保険者同意に必要な能力についても、 保険契約者の行為能力と同様に考えることとなろう。
また、 生命保険契約の保険契約者や保険金受取人である外国人の心身機能が 、契 約継続中に低下していき 、被 後見人等となることも考えられるが、 その外国人の住所又は居所が日本にある限り、 日本法により後見開始の審 判等と後見人等の選任がなされるため( 通則法第5 条・ 第3 5 条第2 項 )、特段の問題はないと考えられる。 その住所又は居所が外国にあるような場合には、 外国の裁判所で選任された後見人等が保険会社に権利行使を求めてくることが考えられるが、 その場合には、 実務上は、 当該外国の領事館 や大使xxと連絡をとり、 その信ぴょう性を確認したうえで手続きに応じ
35 xx( 友 )・ 前掲( 注 12 ) 339 頁。
36 x x( 友 )・ 前掲( 注 12 ) 337 頁。
る等の対応が必要になると考えられる 37 。
なお、 本国法が準拠法となる場合であっても、 反致( 同第4 1 条本文)があれば日本法が準拠法となるため、 この点についても留意が必要となる場合があり得よう。
( 2 ) 遺言による保険金受取人の変更にかかわる準拠法
遺言による保険金受取人の変更権は、 生命保険契約から生じる具体的な権利の内容( 生命保険契約の効力の問題) であり、 実際に行われる遺言による保険金受取人の変更は、 生命保険契約に基づく法律行為であるため、 日本法が準拠法となりそうである。 一方、 通則法第3 7 条第1 項では、 遺言の成立及び効力は、 その成立の当時における遺言者の本国法を準拠法とする旨が定められており、遺言の方式の準拠法は、別途 、「 遺言の方式の準拠法に関する法律」 に定められているため、 これらとの関係をいかに考えればよいかが問題となる。
ⅰ ) 遺言に関する通則法上のルール
この点、 遺贈や遺言による認知等の遺言による法律行為について、 意思表示としての遺言そのものの成立及び効力は通則法第3 7 条に、 その方式は「 遺言の方式の準拠法に関する法律」 に定める遺言の準拠法によるが、それ以外の点は、 遺言による各法律行為の準拠法によると考えられている 38 。具体的には、通則法第3 7 条第1 項に定める「 遺言の成立及び効力」という単位法律関係は、 遺言という意思表示自体の成立及び効力を意味し、遺言能力、 意思表示の瑕疵、 遺言の効力発生時期等の問題が含まれるとされ、 同項にいう「 その成立の当時」 とは遺言作成当時を指すとされている 39 。そして、xx証書・自筆証書等、遺言という意思表示が有効に成立する
37 xx・ 前掲( 注8 ) 40 頁 x x 。
38 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 10 ) 359 頁[ xxx ]、 xx編著・ 前掲( 注 18 ) 357
頁。
39 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 141 頁、 xxxx・ xxxxx編『 注釈国際私法第 2
ための一定の外部的形式の要否については、 通則法の特別法である「 遺言の方式の準拠法に関する法律」によることとなり 40 、遺言の方式が、遺言者の行為地法・ 遺言の成立又は死亡当時の遺言者の国籍国法・ 住所地法・ 常居所地法のいずれかに適合すれば 、方 式に関しては有効とな る( 同第2 条 )。それ以外の遺言によって実現しようとする実質的な内容については、 例えば遺贈であれば相続にかかわる問題として通則法第3 6 条、 遺言による認知であれば通則法第2 9 条というように、 それぞれ通則法上別途設けられている各法律行為の準拠法によることとなる 41 。
また、 遺言の執行( 遺言執行の要否、 遺言執行者の選任の要否、 その職務、 権限、 解任の可否等) は、 遺言内容の実現に関するものであるから、遺言による各法律行為の準拠法に従って判断されるとするのが通説であり 42 、 遺言による法律行為と相続人の遺留分との関係については、 相続の準拠法である通則法第3 6 条( 被相続人の本国法) により判断されることとなる43 。
なお、 通則法上、 本国法が準拠法となる場合であっても、 反致があれば日本法が準拠法となる( 同第4 1 条本文) 点、 4 .( 1 ) と同様である。
ⅱ ) 遺言による保険金受取人の変更にかかわる準拠法
以上を踏まえ、 遺言による保険金受取人の変更にかかわる準拠法について検討する。
まず、 外国人を保険契約者とする生命保険契約の遺言による保険金受取人の変更のうち、 遺言という意思表示そのものの成立及び効力・方式を除 く、 遺言によって実現しようとする実質的な内容に関する問題( 遺言によ
巻- 第 1 部 法の適用に関する通則法 24 条~ 43 条 ・ 附 則 第 2 部 特別法 』( 有 斐 閣 ・ 2011 ) 215 頁 ・ 220 頁[ xxx ]。
40 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 142 頁、 xx編・ 前掲( 注4 ) 251 ~ 252 頁[ x x x x ]。
41 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 39 ) 213 頁[ xxx ]。
42 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 39 ) 219 頁[ xxx ]。
43 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 10 ) 359 頁[ xxx ]。
る保険金受取人変更の可否、 その場合の被保険者同意の要否、 保険会社に対する対抗要件、 保険金受取人の変更と認められるかどうかの解釈) については、 生命保険契約の効力または当該契約に基づく法律行為の準拠法に よることとなるため、 日本法が準拠法となると考えられる。 また、 保険法上、 遺言による保険金受取人変更の対抗要件としての通知は、 遺言執行者が行うことも可能とされているが 44 、これを遺言の執行と捉えても、 通説によれば日本法が準拠法となると考えられる。
一方で、遺言という意思表示自体の成立及び効力や遺言による保険金受取人の変更と遺留分との関係については遺言者・ 被相続人たる保険契約者 の本国法が準拠法となり、 遺言の方式については、 遺言者たる保険契約者の行為地法・ 国籍国法・ 住所地法・ 常居所地法のいずれかの方式を満たせ ば有効となるため、 実務上も、 その前提で種々の確認を行う必要があると 考えられる。 そうすると、 生命保険契約の約款上、 遺言による保険金受取人の変更は 、「 法律上有効な遺言により 」行 うことができる旨を定めているのが通例であるところ 、x xxの保険契約者を念頭に置くと 、「 法律上有効な遺言 」と は 、「遺言 という意思表示自体の成立及び効力については当該外 国人の本国法上、 遺言の方式については「 遺言の方式の準拠法に関する法律」 に定める準拠法上、 有効とされる遺言」 と解釈することになると考えられる。
なお、 遺言の成立及び効力の準拠法を遺言者の本国法としているのは、 遺言は実質的に相続と密接に関連するため、 相続の準拠法とできる限り一致させるべきとの考え方によるものであるが、この考え方に対しては、 遺言による後見人の指定や寄付行為等の相続にかかわらない遺言事項に関す る意思表示についてまで相続の準拠法によるのは妥当でない、 との批判もある45 。遺言による保険金受取人の変更についても、保険金請求権は、基本的に、 遺言者の相続財産から切り離された保険金受取人の固有財産である
44 xxxx・ 前掲( 注 25 ) 186 頁。
45 x x編著・ 前掲( 注 18 ) 355 ~ 357 頁。
46 ため、同様の批判が当てはまる面があると思われる。また、日本に長く居住する外国人であれば、日本法による遺言になじみがあるか、 少なくとも日本法による遺言の方が専門家等のアドバイスを受けやすいと考えられるため、 遺言自体の成立及び効力や遺言の方式についても日本法に準拠したいというニーズがあるのではないかとも思われる。 しかしながら、通則法 第37条と「 遺言の方式の準拠法に関する法律」 は強行規範であるため、例えば、 外国人の保険契約者を念頭に、 生命保険契約の約款において、 遺言による保険金受取人の変更は「 日本法上有効な」 遺言により行う旨を規定することはできないと考えられる。
もっとも、 遺言自体の成立及び効力や遺留分との関係については、反致 があれば日本法が準拠法となると考えられるため、 実務においてはこの点の確認も必要であろう。
( 3 ) 保険契約者の死亡及び保険金受取人の死亡の場合における「 相続人」の準拠法
ⅰ ) 相続にかかわる通則法上のルール
2.で既述のとおり、 通則法第3 6 条では、 相続は、 被相続人の本国法によると定められており、 通説では、 その基準時は被相続人の死亡時であるとされている 47 。相続とは、死者の所有していた財産が、その者と一定の身分関係を有していた者によって承継される制度であり、 どのような財産 が相続財産を構成するかという問題のほか、 相続人の範囲、 相続順位等、誰が相続人になるかという問題も、 通則法第3 6 条の相続の準拠法による
48 とされている。
46 xxxx・ xxxx編『 保険法解説- 生命保険・ 傷害疾病定額保険 』( 有斐閣・
2010 ) 294 頁[ xxxx ]。
47 xx編・ 前掲( 注4 ) 242 頁[ xxxx ]。
48 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 133 ~ 134 頁。
ⅱ ) 保険契約者の死亡及び保険金受取人の死亡の場合における「 相続人」の準拠法
まず、 保険契約者の死亡の場合に関し、 保険契約者と被保険者が異なる生命保険契約について保険契約者が死亡すれば、 保険契約者の地位はその相続人に承継されるが、 外国人が保険契約者である場合には、 通則法第3
6 条に基づき、 その本国法により決定される相続人に承継されることにな ると考えられる。
次に、 保険金受取人の死亡に関し、 日本の保険法上、 生命保険契約の保険金受取人が被保険者の死亡前に死亡したときは、 その相続人の全員が保険金受取人となる旨が規定されてお り( 同第4 6 条 )、生 命保険契約の約款上 、「 被保険者の死亡前」を「 被保険者の死亡時以前」とする他は、保険法と同様の内容を定めているのが通例である。 被保険者の死亡( 時以) 前に保険金受取人が死亡したときは、 その相続人全員が保険金受取人になるというのは、 生命保険契約の効力の問題であり、 その準拠法たる日本法によ るものであるが、 このうち、 外国人である保険金受取人が死亡した場合に新たに保険金受取人となる「 相続人」 が誰なのかということについては、通則法第3 6 条により、 死亡した保険金受取人の本国法により決定されることになると考えられる。
なお、 同時死亡の問題も、 相続との関係で問題となる限り相続の準拠法 によるとされており 49 、 日本のように死亡者間で相続が生じない旨の規定を有する国( 例えば、 フランス・ ドイツ・ イタリア等) もあれば、 原則と してその中の年少者が長く生存していたと推定する国( 例えば、 イギリス等 )も ある 50 。外国人を保険関係者とする生命保険契約を念頭に置くと、被保険者と保険金受取人について、 一方が外国人で他方が日本人、 双方が外国人で本国法も同一、 双方が外国人でそれぞれ本国法が異なる、 というパターンがあり得、 同時死亡の場合に被保険者の本国法と保険金受取人の本
49 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 134 頁。
50 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 39 ) 194 頁[ xxx ]。
国法にそれぞれ準拠したとき、 被保険者・ 保険金受取人相互の間で相続が 生じない、 一方が他方の相続人となる、 相互に相続人となる( この場合は適応問題として相互に相続が生じないものとするのが妥当とされている 51 )、と いった可能性が考えられる。保険金受取人の死亡は生命保険契約の効力の問題であり、生命保険契約の約款上 、「 被保険者の死亡時以前」に保険金受取人が死亡した場合にはその相続人が保険金受取人となると、 同時 死亡を含めて約定しているが、 被保険者と保険金受取人が同時に死亡した 場合において、 被保険者またはその相続人が保険金受取人となるかどうかは相続準拠法の規律によることとなると考えられる 52 ため、 実務上、 その場合には、 被保険者と保険金受取人の本国法の内容を確認する必要があろう。
ここで 、外 国人の保険金受取人を念頭に 、生 命保険契約の約款において、保険金受取人の死亡の場合に新たに保険金受取人となる相続人を「 日本法に基づく相続人」 と約定できないであろうか。 被相続人による相続準拠法の選択が認められていない理由の一つとして、 仮に被相続人に相続準拠法の選択を認めると、 本国法上の遺留分権利者や相続財産に関する債権者等の権利が害されるおそれが生じることが挙げられているが 53 、 保険金受取人の死亡の場合におけるその相続人の保険金請求権は、 生命保険契約の効力として、 その相続人の固有財産となる 54 ため、 死亡した保険金受取人の相続財産とは原則として無関係のものである。 また、 もとより保険法第4
6 条は任意規定とされており、 約款で異なる約定をすることも可能とされている 55 。よって、外国人の保険金受取人を念頭に、生命保険契約の約款に
51 xx・ x垣内編・ 前掲( 注 39 ) 194 頁[ xxx ]。
52 日本の保険法の下では、 被保険者と保険金受取人が同時に死亡した場合には、 同時死亡者間では相続が生じないという民法の規律( 民法第 32 条の2 ・ 第 882 条 ) に 従 い、 被保険者またはその相続人は保険金受取人とはならないとされている( 最判平成 21 年6 月2 日民集 63 巻 5 号 953 頁、 xx( 友 )・ xx編・ 前掲( 注 45 ) 338 頁[ xxx ])。
53 xx編著・ 前掲( 注3 ) 149 頁。
54 xx( 友 )・ xx編・ 前掲( 注 46 ) 333 ~ 334 頁[ xxx ]。
55 xxxx・ 前掲( 注 25 ) 188 ~ 189 頁。
おいて、 保険金受取人の死亡の場合に新たに保険金受取人となる相続人を
「 日本法に基づく相続人」 と定めることも理論的には可能と考えられる。しかしながら、 約款でそのように定めたとしても、 例えば、 日本法上、 被相続人の配偶者は必ず相続人となる( 民法第8 9 0 条) が、 ある者が正当な配偶者なのかどうか 、す なわち 、婚 姻の有効性については 、通 則法上、婚姻の成立要件は各婚姻当事者の本国法により、 婚姻の方式は婚姻挙行地法か婚姻当事者の一方の本国法により判断する必要がある( 通則法第2 4条 )等 、必ずしも 実務の迅速化に資するわけではないと考えられる 。仮 に、
こういった婚姻の有効性まで日本法に基づき判断するとなれば、 保険契約 者側の認識との乖離が生じる可能性がある。
以上のことから、 生命保険契約の約款において、 保険金受取人の死亡の場合に新たに保険金受取人となる相続人を「 日本法に基づく相続人」 と約定するメリットは小さいと考えられる。
なお、 保険契約者や保険金受取人の本国の国際私法が日本法に反致(同 第4 1 条本文) すれば、 保険契約者の死亡や保険金受取人の死亡の場合における「 相続人」 の準拠法も日本法になると考えられる。
( 4 ) 保険契約者の債権者等による生命保険契約の解約に関する準拠法
日本法上、 保険契約者以外の者であっても、 解約返戻金請求権を差し押さえた保険契約者の債権者は、 取立権に基づき生命保険契約を解約することができる( 民事xxx第1 5 5 条第1 項 )。 また、 保険契約者の破産管財人も、双方未履行双務契約に基づく解除権により生命保険契約を解約することができる( 破産法第5 3 条 )。そ の他、解約返戻金請求権について質権の設定を受けた質権者も、 質権の実行としての取立権( 民法第3 6 6 条第1 項) に基づき生命保険契約を解約することができ、 保険契約者の債権者は、 保険契約者が無資力の場合に、 債権者代位権( 民法第4 2 3 条) に基づき、 保険契約者の解約権を代位行使して、 生命保険契約を解約することができる( 以上の解約権者をまとめて、 以下 、「 保険契約者の債権者等」 という )。 一方、 日本の
保険法上、 保険契約者の債権者等の解約については、 その効力が発生するまでの間に保険金受取人が介入権を行使するための一連の行為を行う時間的猶予を確保するために、 保険者が解約通知を受けた時から1 か月を経過した日に効力が生じるとされている( 保険法第6 0 条) 56 。
ここで、 例えば、 保険契約者が外国人である場合において、 日本以外の国 の法を準拠法とする法律関係に基づいて当該外国人の債権者が生命保険契約を解約する等といった、 保険契約者の債権者等による生命保険契約の解約があった場合に、 その準拠法をいかに考えるべきであろうか。
ⅰ) 債権の利害関係者にかかわる通則法上のルール等
債権をめぐる利害関係者には、 債権の譲受人・ 債権質権者・ 債権者代位権者等があり得るが、 通則法上、 債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力の準拠法が譲渡対象債権の準拠法とされている( 通則法第2 3 条)以上、 論理必然的に他の関係者の権利の債務者その他の第三者に対する効力も同じ準拠法にしなければならず、 対象債権の準拠法によるべきことに なるとされている 57 。
また、 倒産に至った場合における平時の準拠法と倒産実体法(管財人の 双方未履行双務契約の解除xx) との関係について、 債権者平等・ 関係者の利害調整等の観点から倒産実体法によるべきとの立場と、 法的予測可能性の確保の観点から極力平時の準拠法を適用すべきとの立場が対立しているが、前者の立場においても、 双方未履行双務契約の成立・ 効力の問題等は、 倒産実体法の規律対象外であり、 通則法に従って準拠法が決定・ 適用され、 その上で倒産実体法が適用されるとされている 58 。
なお、 差押のような強制執行は、 国家がその主権に基づいて債権の強制 的実現をもたらすものであるため、 日本に執行管轄があるかどうかが問題
56 xxxx・ 前掲(注 25 ) 201 頁、 x x( 友 )・ xx編・ 前掲( 注 45 ) 618 ~ 620 頁
[ xxx・ xxx ]。
57 xxx・ 前掲( 注 28 ) 285 頁。
58 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 396 ~ 397 頁。
となるが、 第三債務者の普通裁判籍( 法人の場合は、 主たる事務所) が日本にあれば、 日本の裁判所が差押命令を発することができるとされている
( 民事xxx第1 4 4 条第2 項・民事訴訟法第4 条)59 。また、同様に、破産等の倒産手続きについても日本に倒産管轄があるかどうかが問題となるが、 債務者の住所・ 居所が日本にあれば、 日本が倒産管轄を有することにな る( 破産法第4 条第1 項・民 事再生法第4 条第1 項・会 社更生法第4 条 )。
ⅱ) 保険契約者の債権者等による生命保険契約の解約に関する準拠法
ⅰ ) を踏まえると、 次のとおり考えられる。
まず、 差押債権者による解約を念頭に置いた場合、 第三債務者は日本に主たる事務所を持つ保険会社であるため、 日本の裁判所が差押命令を発することは可能と考えられる。 また、 破産管財人等による解約を念頭に置いた場合、 債務者( 保険契約者である外国人) が日本に住所又は居所を有していれば、 日本で破産手続き等を行うことはできると考えられる。
そのうえで、 保険契約者の債権者等が生命保険契約を解約する場合、 対象債権は解約権・ 解約返戻金請求権であるため、 その準拠法は、 生命保険契約の効力の準拠法たる日本法となる( その解約の効力は、 保険会社が解 約通知を受けた時から1 か月を経過した日に生じる) と考えられる。
なお、 保険契約者が外国にいるような場合には、 外国で差押や倒産手続きが行われ、 日本でその効力が認められるか( 日本で承認されるか) が問題となる可能性があるが、 外国における債権執行の承認要件として、 日本 で債権執行がなされる場合と準拠法が同じであることは求められていないと考えられ 60 、 外国における倒産手続きの承認要件についても同様である
( 外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第2 1 条・ 第2 2 条・ 第5 7条・第62条) ため、 その効力が認められる場合でも、 日本で差押や倒産
59 xxxx・ xxxxx・ xxx『 国際民事手続法( 第2 版 )』 197 ~ 198 頁 ( 有 斐 閣 ・ 2012 ) x x。
60 xxxxx「 外国においてなされた債権執行の効力の内国における承認」 法学政治学論究( 慶応大学) 第 21 号 145 ~ 150 頁 ( 1994 ) x x 。
手続きが行われる場合とは準拠法が異なり得ると考えられる。
5 . 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の国際裁判管轄
(1 ) 民事訴訟法上の国際裁判管轄ルール
財産関係事件の国際裁判管轄ルールは、 民事訴訟法第3 条の2 以下に定められている。 まず、 法人に対する訴えについては、 その主たる事務所が日本国内にあるときは、 日本の裁判所が管轄権を有するとされており( 民事訴訟法第3 条の2 第3 項 )、 契約上の履行の請求を目的とする訴え等については、契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、 又は契約 において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるときに、日本の裁判所が管轄権を有するとされている( 同第3 条の3 第1 号 )。ここにいう準拠法選択は明示のものに限られるわけではなく、 当事者による黙示の選択でもよいとされている 61 。
更に、 消費者契約 62 に関する特則として、 他の管轄原因がある場合に加えて、 消費者から事業者に対する訴えは、 訴えの提起時又は消費者契約締結時における消費者の住所が日本国内にあるときは、 日本の裁判所が管轄権を有するとされており( 同3 条の4 第1 項 )、 事業者から消費者に対する訴えは、訴え提起時の消費者の住所が日本国内にある場合に限り、 日本の裁判所が管轄権を有するとされている( 同条3 項・第3 条の2 第1 項 )。ま た、消費者契約の紛争にかかる管轄合意については、 事業者から消費者に対する訴えについて、 契約締結時の消費者の住所が日本国内にある場合にも提訴可能とする管轄合意をすることができる が( 同第3 条の7 第5 項第1 号本文 )、そ れは非専属的管轄合意( 法律上認められる他の国の管轄を排除しないもの) でなければならず、 専属的管轄合意の場合には、 消費者が管轄合意に基づき提訴ま
61 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 274 頁。
62 消費者( 個人( 事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを 除 く) と事業者( 法人その他の社団又は財団及び事業として又は 事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう) との間で締結される契約( 労働契約を除
く) を指す( 民事訴訟法第3 条の4 第1 項 )。
たは当該合意を援用した場合を除き、 非専属的管轄合意とみなされる( 同号かっこ書き )。これは 、事 業者の用意した約款により消費者契約が締結されることが多いという実情に鑑み、 その約款上の管轄合意により消費者が不利益を被ることがないようにするものである 63 。
もっとも、 以上のいずれかを根拠に日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合であっても、 日本で裁判をすることが当事者間のxxを害し、 又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があれば管轄は認められない( 同第3 条の9 )。同 第3 条の9 では、特別の事情の考慮要素として、 事案の性質、 応訴による被告の負担の程度、 証拠の所在地その他の事情が掲げられており、 特別の事情の有無については、 請求の内容・ 当事者の国籍・ 事故発生地、 被告の資力や日本への物理的・ 経済的・ 心理的アクセスの便宜、 証拠収集と証拠調べの便宜・ その証拠の主たる争点との関連性・ 国際司法共助の利用可能性、 外国での提訴が原告に課す負担の大きさ等を総合勘案して判断される 64 。
(2 ) 外国人を保険契約者等とする生命保険契約の国際裁判管轄
保険会社の主たる事務所は日本であり、 通常、 生命保険契約の約款には、会社の本社等で保険金等を支払うと定められている。 また、 準拠法条項はないものの、 日本法による旨の黙示の準拠法選択が認められる場合も相応にあると考えられる。 よって、 外国人を保険契約者等とする場合であっても、 これらを根拠に、 日本が裁判管轄権を有すると考えられる。 また、 消費者契約の特則を踏まえても、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約は日本で締結され、 通常、 当該外国人は、 少なくとも契約締結時には日本に住所を有すると考えられるため、 保険契約者側から保険会社に対する訴えについては、 日本の裁判所が管轄権を有すると考えられ、 保険会社から保険契約者側に対 する訴えについては、 別途の管轄合意があれば、 訴え提起時の保険契約者等
63 xx・ x垣内・ 前掲( 注3 ) 286 ~ 288 頁。
64 xx編・ 前掲( 注4 ) 284 ~ 287 頁[ xxx ]。
の住所が日本になくても、 日本の裁判所が管轄権を有すると考えられる。 もっとも、 日本が裁判管轄権を有することとなる場合でも、 例えば、 海外
の地で発生した保険事故に関する保険金の支払可否が争点となる訴訟で、 争点の帰趨を決する証拠がその海外の地にあり、 保険金受取人もそこに居住しており、 国際司法共助も利用できない等の状況であれば、 特別の事情があるとして日本に管轄が認められない可能性もあると考えられる。
なお、 外国で訴えが提起され、 判決がなされた場合に、 日本でその効力が認められるか( 日本で承認されるか) が問題となるが、 日本で裁判が行われる場合と準拠法が同じであることは承認要件とされておらず( 民事訴訟法第
1 18条 )、外 国の裁判においては当該外国のxx・狭義の国際私法が適用されるため、 その効力が認められる場合でも、 日本で裁判が行われる場合とは準拠法が異なり得ると考えられる。
6 .おわりに
以上の検討をまとめると、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約に対する通則法の適用関係等については、 次のとおりとなり、 下記① なお書きにある準拠法条項を手当てしたとしても、 ② 以下の結論は変わらないと考えられる。
① 生命保険契約の成立及び効力については、 日本法が適用され( 通則法第
7条。黙示の準拠法選択 )、または その適用が推定される( 同第8条。特徴的な給付を行う者の所在地法 )。
なお、 黙示の準拠法選択の解釈の不確定性・ 推定が覆される可能性に鑑み、 生命保険契約の約款上、 その成立及び効力の準拠法を日本法とする 旨の手当てを検討する余地がある。
② 生命保険契約に基づく各法律行為については、 ① に同じ。
③ 生命保険契約締結時の保険契約者の行為能力・ 被保険者の同意能力については、 行為地法である日本xxxx者であれば、 行為能力・ 同意能力
があるとみなし( 同第4 条第2 項 )、日 本xxxxx者であれば、その者の本国法により判断する(同第4 条第1 項 )。
保険契約者や保険金受取人が後に被後見人等となる場合には、 その住所 又は居所が日本にあれば、 日本法により後見開始の審判等や後見人等の選任がなさ れ( 同第5 条・第3 5 条第2 項 )、そ の住所又は居所が外国にあるような場合には、 外国の後見人等を想定する必要がある。
なお、 本国法が準拠法となる場合でも、 反致( 同第4 1 条本文) があれば日本法が適用される。
④ 遺言による保険金受取人の変更については、 遺言自体の成立及び効力・方式と遺留分との関係を除き、 ① に同じ。
遺言自体の成立及び効力・ 遺留分との関係については、 保険契約者の本国法が適用される( 同第37条。 反致( 同第4 1 条本文) があれば日本法が適用される )。
遺言自体の方式については、 保険契約者の行為地法・ 国籍国法・ 住所地法・ 常居所地法のいずれかの方式を満たせば有効となる( 遺言の方式の準拠法に関する法律 )。
⑤ 保険契約者の死亡や保険金受取人の死亡の場合における「 相続人」 概念 には、 保険契約者や保険金受取人の本国法が適用される( 同第3 6 条。反致( 同第4 1 条本文) があれば日本法が適用される )。
なお、約款で保険金受取人の死亡の場合の相続人概念そのものを「 日本法に基づく相続人」 と手当てすることは理論的に可能だが、 手当てするメリットは小さい。
⑥ 保険契約者の債権者等による生命保険契約の解約については 、① に同じ。なお、 外国で差押や倒産手続きが行われた場合には、 日本でその効力が承認される場合でも、 日本で手続きが行われる場合とは準拠法が異なり 得る。
⑦ 民事訴訟法の国際裁判管轄ルール上のいくつかの根拠により日本に裁判管轄権が認められる。
ただ、 争点にかかわる証拠をはじめ、 裁判にかかわる諸要素が海外に集中すれば、 特別の事情があるとして、 日本の裁判管轄権が否定される可能性もある。
なお、 外国で判決がなされた場合には、 日本でその効力が承認される場合でも、 日本で裁判が行われる場合とは準拠法が異なり得る。
このように、 外国人を保険契約者等とする生命保険契約に対する日本のx x・ 狭義の国際私法の適用関係については一定の整理ができたと考えられるが、 外国で裁判等がなされた場合には、 当該外国のxx・ 狭義の国際私法とそれにより決定された実質法等が適用されるため、 その帰結は当然不明である。今後は、例えば 、「 特定技能」の在留外国人の出身国上位を占めるベトナム・ インドネシア・ フィリピン等東南アジア諸国のxx・ 狭義の国際私法や実質法等のより一層の研究が進められることが望まれる 65 。
( 筆者は住友生命保険相互会社勤務)
65 例えば、 ベトナムでは、 渉外的要素を有する契約・ 相続・ 遺言等の準拠法については民法典の中に定められている。 その内容は日本の通則法と類似のものも多いが、 外国法が指定されても、 その適用結果がベトナム社会主義共和国法の基本原則と矛盾する場合にはその外国法が適用されず、 ベトナム法が適用される( 第 670 条 )、 消費者契約における契約当事者によって選択された法律がベトナム法に規定されたような消費者の最小利益に反して影響を与えるときは、 ベトナム法が優先する( 第 683 条 第 5
項) 旨が規定されている( xxxx「 新しいベトナム国際私法・ 翻訳と解説( 上) -
「 婚姻及び家族に関する法律」 及び「 民法典」 中の国際私法規定- 」 戸籍時報 762 号 46 ~ 50 頁 ( 2017.12 ) 参照 )。 仮に、 ベトナム人を保険契約者等とする生命保険契約が日本で締結された後、 当該契約にかかる訴訟がベトナムで提起された場合には、 これらの規定によりベトナム法が準拠法となる可能性も否定し切れないのではないかと思わ れ る 。