Q 自動車の売買契約から納車までの間には、どのような手続きが必要となりますか。その際に確認・準備すべき点はありますか。
第 3 回
契約の
基礎知識
─自動車編─
車を買うとき
車の登録、購入のキャンセル
一般社団法人 日本中古自動車販売協会連合会
中古自動車販売業の健全な発展を図るため、xxな流通の促進と、消費者利益の保護や国の行政施策等への協力により、国民経済の健全な発展に寄与するための活動を行っている
Q 自動車の売買契約から納車までの間には、どのような手続きが必要となりますか。その際に確認・準備すべき点はありますか。
▼ 契約から納車まで
自動車(新車・中古車)の売買契約の申込みを行い、登録業務を販売店に依頼する場合の一般的な流れについては、次のとおりです。
①車庫証明申請及び取得
②印鑑登録証明書(普通自動車のみ)、委任状準備
③運輸支局で登録手続き
④納車
およ
①車庫証明については、「申請書」「保管場所権
また
原書面(使用権原疎明書面[自認書]又は保管場
所使用承諾証明書)」「所在図及び配置図」が必要になり、申請及び取得時の2 回ほど警察署へ出向くことになります。購入者は販売店を通じて申請等を委託することができますが、権原書面については、購入者が準備することが一般的です(使用承諾証明書の場合は、代行依頼できる場合もあります)。車庫証明の有効期限は発行からおおむね1 カ月とされています。
②印鑑登録証明書(印鑑証明)は、購入者の住民登録している市区町村役所で取得します。印鑑登録をしていなければ、登録してから証明書を取得することになります。
委任状は販売店で準備していることがほとんどですし、インターネットからひな型をダウンロードすることも可能です。必要事項を記載し、印鑑登録した印鑑を押印します。記載内容につ
いては販売店で確認しましょう。印鑑証明の有効期限は発行から3 カ月以内とされています。
③運輸支局での名義変更(新規登録もしくは移転登録)は、ナンバー変更になる場合は原則として車両を持ち込む必要があります。登録手続きや車両を持ち込む手間を考えると、販売店に名義変更業務を依頼するのが一般的です。
④納車は納車費用を支払って購入者の希望する場所まで届けてもらう場合と購入者自身が販売店まで取りに行く場合(納車費用は不要です)が一般的です。昨今は遠方の販売店から購入するケースも増えており、購入者(使用者名義)の使用の本拠の位置を管轄する運輸支局で名義変更をすませ、運輸支局で購入車両を引き取るケース(陸送費が発生する場合もあります)もあるようです。その場合は、販売店自ら運輸支局に名義変更手続きをしに行くケースと陸送会社に名義変更を依頼しているケースがあります。
車両を受け取った後に見つけた傷については、受け取り前後のいつ付いた傷なのかを証明することが困難です。受け取り時は、入念に確認してから受け取るようにしましょう。なお、陸送会社は販売店から依頼されて車両を運搬し登録を行ったに過ぎません。もし、事前に聞いていない傷や機能の不具合が判明した場合は、陸送会社立ち会いの下、その場で販売店に連絡して受け取り前に傷や不具合があったことを明確にしておきましょう。
▼ 購入に当たっての注意点
自動車は購入して終わりではなく、購入後はメンテナンスが必要な商品です。販売店の責任
で修理が必要な場合であっても契約の履行地は販売店であるという考え方により、基本的に車両の持ち込みは購入者自身が行うことになります。保証の範囲で修理を依頼する際にも同様ですので、できる限り購入者が負担なく車両を持ち込める範囲の販売店で購入するようにしましょう。
なお、代金支払いのタイミングですが、現金販売の場合、一般的には車両の引渡し(納車)までに全額を支払うこととなります。名義変更の前までに登録費用を支払い納車時に残額を支払うケースや、名義変更前までに全額支払いを求められるケースなど、販売店によって支払いのタイミングは異なりますので、どのタイミングでいくら支払う必要があるかは契約前に確認しておきましょう。分割払い契約の場合は、何月から支払いが始まるのかを確認しましょう。
Q
都合によりキャンセルを販売店に申
し入れたところ、「キャンセルには応じ
られない」と言われてしまいました。
一般的に売買契約は申込みと承諾の意思の合致があって契約が成立します。契約成立前の場合は、都合により自由にキャンセル(申込みの撤回)が可能ですが、契約成立後の場合は、販売店と購入者双方の合意がないと契約をキャンセル(合意解除)できません。
したがって、キャンセルを販売店に申し入れる場合は、まずは「契約の成立時期」がどう定められているかを確認する必要があります。 契約成立の有無の検討
「契約の成立時期」の確認の仕方については、
本連載第1 回の「契約の際は……」*1 をご参照ください。今回は(一社)日本中古自動車販売協会連合会(以下、中販連)の標準約款*2 を採用した注文書面を使用していることを前提に検討し
ます。中販連標準約款の記載によれば、これを使用して行われる自動車の売買契約の成立時期については、現金販売の場合は自動車の購入者への登録手続き、車両の引渡しあるいは購入者の依頼による自動車の修理・改造・架装への着手のいずれかが行われたとき、分割払い契約のうち一般的な個別信用購入あっせんの場合はクレジット会社が立替払いを承諾すると販売店に通知したときに、それぞれ契約が成立するものと定められています。したがって、購入者は前記の契約成立時点までの間は、契約を取りやめにしたいと販売店に申し出る(申込みの撤回)ことができます。
問題となるケース
問題となるのは、購入者側からあらかじめ販売店にナビやドライブレコーダー、エアロパーツ等の取り付けを早期に実施するよう依頼していたような場合です。販売店が依頼に基づいて作業を実施したようなケースが、契約成立事由の1 つである、「注文者の依頼に基づく修理・改造・架装」に該当するかを個別に判断する必要があります。判断の際は、「もともと販売店に置いてあった商品である自動車に、購入者からの依頼によって、元に戻せない加工を施したかどうか」を基準とするとよいでしょう。
例えば、パーツの取り付けを完了したとしても、きれいに取り外しができるのであれば、もともとお店にあった状態に戻すことができ、修理・改造・架装に着手したとはいえないと考えられるため、契約成立前と判断できます。
この場合は、申込みの撤回というかたちで購入者側から理由を問わずキャンセルが可能です。一方、パーツの取り付けなどで車体に穴を開ける場合や、強い接着剤を使用してきれいに取り外しができないような場合は、元に戻せない加工を自動車に施したことから、修理・改造・架装に着手したと考えられるため、契約成立後
* 1 ウェブ版「国民生活」2022 年11 月号21 ページ参照 xxxxx://xxx.xxxxxxx.xx.xx/xxx/xxx/xxx-000000_00.xxx
* 2 中販連ウェブサイト「JU自動車売買注文書 特約事項の利用促進について」xxxxx://xxx.xxxxx.xx.xx/xxxxxxx-xxxxxxxxx/xxx-xxxxxxx/xxxxxxxx.xxxx
と判断することになります。
Q
キャンセルを販売店に申し入れると、
「キャンセル料は車両価格の10%。サイン
した注文書の特約事項にも書いてある」と支払いを求められています。応じなければならないのでしょうか。
契約成立後の場合は、自由にキャンセルをすることはできないので購入者と販売店がよく話し合う必要があります。
均的な損害額を超える部分については無効となります。自動車の販売では、その車両や契約内容によって発生する義務は千差万別であるため、平均的な損害額を一般的に示すことは困難ですが、少なくとも次のような項目は、販売店の実損害と評価することはできないと考えられています。
契約成立前のキャンセル料
契約が成立するまでの間は、理由を問わずキャンセル(申込みの撤回)が認められ、また中販連標準約款を採用した注文書で申込みをした場合には、支払った一時金(申込金や内金等、名称のいかんを問わず)の返金を当然に求めることができます。
ただし、購入者が契約成立に先立って販売店に対してカーナビの取り付けといった車の改造等の手配を依頼した場合や、登録の前提となる車庫証明手続代行等を依頼した場合等、キャンセルに伴って販売店に実損害が発生しているケースでは、その費用を支払う必要があります。
例えば、先ほどのカーナビの取り付け依頼をした例なら、工賃のほか、依頼に基づいて販売店が自社の在庫にないカーナビを外部から仕入れた場合には、その費用(ただし、そのまま販売店の在庫とする場合は価値の下落分)については購入者が支払う必要があります。
契約成立後のキャンセル料
契約成立後はお互いが話し合いをするなかで、キャンセル料についても交渉していくことになります。ただキャンセル料には制約があり、合理性のない項目について請求することは権利
らんよう
の濫用と評価できます。また、消費者契約法9
条には「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効」という条文があり、損害賠償の額をあらかじめ定めていても、その金額が平
①販売することができれば、もうけられた利益(逸失利益)
②営業活動として使用した電話代や交通費や広告掲載料等(キャンセルされた契約があろうとなかろうとかかる経費のため)
③法定点検整備費用や一般的な軽整備のうち、他の販売機会に転用できる性質の作業等
以上から、契約成立の前後を問わず、注文書に「キャンセルの場合は、〇〇代金の10%を支払う」「キャンセル料は10 万円」などと記載があっても、ユーザーはその記載どおり直ちに支払う必要はなく、販売店に生じた実損害額を支払うことになります。
▼ まとめ
書面にサインをする前に、現金払いなのかクレジット払いなのかも含め、保証の内容(メーカー保証継承を含め誰が保証するのか、期間や対象部位)、オプション項目や手続き等についての記載をよく確認しましょう。こちらから依頼する項目やその金額について、認識のずれがないかは特に注意する必要があります。ほかにも「契約成立時期」や、キャンセル料等の重要な定めの内容についても、分からなければ担当者に質問してみましょう。
また、納車までには前述したようなさまざまな作業や手続きが行われます。商談の際には納車までのおおよそのスケジュールを確認するようにしましょう。もしキャンセルを申し入れる場合は、申し入れの日時や申入れ内容を記録しておきましょう。キャンセル料を請求された場合は、請求額の根拠明細を示してもらい、合理的な根拠の有無を検討したうえで交渉しましょう。