Contract
不可分債権と不可分債務
当社はXとYの2名を契約の相手方としてテナント貸室を賃料月額4万円で貸し、XとYが共同で使用していますが、半年前からXもYも賃料を支払わず、現在、半年分の賃料支払が滞っています。未払賃料を請求したいのですが、XとYにどのように請求できるのでしょうか。
1. 債権と債務
「債権」とは、ある者(債権者)が特定の相手方(債務者)に対して一定の行為(給付)を要求する権利をいいます。これを債務者の側からみたものを「債務」といいます。
債権者及び債務者は1人ずつとは限りません。民法は、427条以下に多数当事者の債権及び債務に関する節を設け、分割債権・分割債務、不可分債権・不可分債務などの規定を置いています。
2. 分割債権と分割債務
分割債権とは、1個の可分給付について複数の債権者がいる場合に各債権者に分割された債権のことをいい、分割債務とは1個の可分給付について複数の債務者がいる場合に各債務者に分割された債務をいいます。
可分給付とは給付の性質または価値を損なわずに分割履行できるものをいいます。
民法427条によれば、分割債務の分割割合については「別段の意思表示がないときは、各債権者又は債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う」とされています。
分割債権について、各債権者は単独で自己の権利を行使でき、1人の債権者の債権が時効により消滅した場合でも他の債権者には影響がありません。
分割債務について、各債務者は分割された自己の債務のみを履行すればよく、他の債務者の債務を履行する義務はありません。
3. 不可分債権と不可分債務
不可分債権とは、複数の債権者各人が有している同一の不可分給付を目的とする債権をいい、不可分債務とは複数の債務者各人が負う同一の不可分給付を目的とする債務をいいます。不可分には、性質上不可分である場合と当事者の意思表示によって不可分である場合の2種類があります。
性質上の不可分な債権としては、xxで馬1頭を買った場合の馬の引渡債権のように物理的に不可分な給付を目的とするというものがあります。
性質上の不可分な債務としては、第1に、馬1頭を売主(債務者)が共有してい
る場合に売主が買主に対して負っている引渡債務のように、物理的に不可分な給付を目的とするものがあります。第2に、共同賃借人が負っている賃料債務のように、不可分な利益の対価としての債務がこれにあたります。賃料自体は金銭債務であり本来可分なものですが、共同賃借人はそれぞれ1つの賃借物の全部を使用するという不可分な利益を受けているため不可分な債務とされます。
意思表示による不可分債権・不可分債務とは、性質上は可分な債権、債務について当事者間で不可分債権、不可分債務にすると合意した場合の債権、債務をいいます。
不可分債権の場合、各債権者はそれぞれ単独で総債権者のために全部の履行を請求することができます(428条)。
不可分債権について、1人の債権者のした履行の請求及び1人の債権者に対してなされた弁済は他の債権者についても効力が生じ、これを絶対的効力といいますが
(428条)、その他の事由については原則として1人の債権者について生じた効力は他の債権者について効力が生じません(429条2項)。これを相対的効力といいます。
不可分債務の場合、債権者は債務者の1人に対し、全部の履行を請求することができます。
不可分債務について、弁済及びこれと同視すべき事由については本来の債権を満足させるものですので絶対的効力がありますが、その他の事由については相対的効力しかありません(430条)。
不可分債権に関する裁判例としては、xx業者2名が建物買取りの媒介を共同でした場合の報酬に関し、「二人以上の業者が共同で委託を受けて媒介行為をした場合には、各々がこの媒介をなすべき債務は客観的に単一の目的を達するための手段であって、しかも主観的にも共同の目的をもって相関連しているものとみるべきであるから、この債務を履行したことに伴ってこれらの者が取得する報酬請求権も、特段の事情がない限り連帯債権又は少なくとも不可分債権の関係に立つものと解するのが相当である」と判断したものがあります(函館地裁昭和42年9月4日判決)。
不可分債務に関する裁判例としては、会社代表者が当該会社の交際費として会社の計算によってクラブで飲食した場合の代金に関し、当該クラブでは会社経営者等が会社の計算で飲食する場合に売掛方式の付けでの飲食を認めていたこと、会社代表者が当該会社を経営しており、当該クラブにおける飲食代金を当該会社から支払っていたこと、会社代表者が会社の計算で当該クラブで飲食していたことを認めていることから、当該クラブにおける飲食代金支払債務は、当該会社及び会社代表者の不可分債務と認めるのが相当であると判断したものがあります(東京地裁平成2
1年6月19日判決)。
4. 本件の場合
本件の場合、共同賃借人であるXとYが負っている賃料債務は、XとYのそれぞれがテナント貸室の全部を使用するという不可分の利益の対価であることから、不可分債務にあたります。XとYは各自滞納賃料全額を支払うべき義務があり、当社はXとYのそれぞれに対し滞納賃料全額を請求することができます。