ちなみに,大阪地判平成14年⚗月⚘日生命保険判例集第14巻459頁は,失 効保険契約の復活が新規の保険契約の締結と同様の性質を有すると指摘する。これも,失効保険契約の復活の法的性質を新たな保険契約の締結とするもの ではなく,特殊契約説の立場を前提とするものであろう。また,月払保険料 支払義務の不履行により失効したがん保険契約の復活時における告知義務違 反の有無および保険媒介者による告知妨害の有無が問題となった東京地判平...
失効した生命保険契約等の復活請求時における告知義務制度の適用のあり方
裁判例の分析と保険法の定める告知義務の規律の適用に関する考察
x x x x
■アブストラクト
本稿は,保険契約者の月払保険料の支払義務不履行により失効した生命保険契約・傷害疾病保険契約について失効後一定の期間内に保険契約者の請求と保険者の承諾および復活保険料の支払により契約を復旧させる保険約款上の復活制度に関し,失効後比較的短期間で復活が行われる場合における告知義務の適用のし方を,近時の関連裁判例を概観・分析して検討し,望ましい同義務の適用のあり方を探ることを目的とする。その上で,本稿は,学説の概観および判例の分析から,失効した保険契約の復活の際の告知義務の適用を肯定しつつ,逆選択の余地の少ない失効から復活までの期間が短いケースについては,告知事項の限定等により同義務の適用を制限すべきことを主張する。
■キーワード
失効,復活,告知義務
⚑.はじめに
生命保険契約が,保険契約者による月払保険契約料の払込義務の不履行に よって失効した場合(以下,これを⽛失効保険契約⽜という。)であっても,当該契約の失効の日からその日を含めて一定期間内であれば,保険契約者は,
/ 平成30年11月19日原稿受領。
保険会社の承諾を得ることを条件として,失効保険契約を復活させることが できる旨が,普通保険約款に規定されることが一般的である。同様の取扱い は,復活請求期間に違いこそあれ,傷害疾病(定額)保険契約の約款にも置 かれることが多いようである。その上で,失効保険契約の復活につき定める 約款では,復活に当たって改めて保険契約者・被保険者が重要事項を告知す べき旨が併せ規定されることが一般的である。復活可能期間は,保険者や契 約の種類により違いがあり,同期間を⚓年とするものから,⚑年とするもの,あるいは,⚖カ月と比較的短い期間とするものまであるが1),このうち,復 活可能期間が⚓年と定められるケースを前提とすると,保険契約の失効から 失効保険契約の復活までの間に生命保険契約・傷害疾病保険契約の被保険者 の健康状態が変化する可能性が十分にある。
そのため,いわゆる逆選択の防止の観点から,復活請求時に保険契約者等が改めて告知義務を課されること自体には一定の合理性が認められるであろう。判例も,同様の立場に立つが,学説上は,復活請求時に保険契約者等に改めて告知義務を課すべきでないとする見解も有力であり,この点で見解の一致を見ていない。
また,復活請求時における告知義務違反の成否が争点となった過去の裁判 例を見ると,生命保険契約等の失効の日から復活までの期間が比較的短期間 であることが少なくなく,しかも契約失効前の疾病等の不告知・不実告知を 理由に保険者が復活後の保険契約の解除に及ぶケースも散見されることから,復活請求時の告知義務を肯定する立場にあっても,同義務の運用・適用の在 り方につき,慎重かつ制限的なアプローチの必要性を説く説が提唱されてい る。学説上,失効保険契約の復活請求時に告知義務を課すことを否定すべき とする説は,こうした点を問題意識として有するものであろう。判例にも, 告知義務違反を認定しつつ,告知義務の適用のない契約自動更新の場合との
1) 例えば,ある保険会社では,養老保険契約は復活可能期間が⚓年とされているのに対し,同期間が,医療保険契約については⚑年,終身がん保険については⚖カ月と定められている。
比較からxxxの援用により保険者による契約解除を否定するものが一部に 見られる。それだけに,失効保険契約の復活請求時の告知義務の適用の有無,同義務の適用の在り方は,改めて検討を要する問題であるように思われる。
そこで,本稿では,復活制度が約款に規定されることが一般的とされてきた生命保険契約・傷害疾病保険契約を対象に,失効保険契約の復活の法的性質を巡る議論を再確認し⑵,その点と復活時の告知義務の適用の有無との関係を整理した上で⑶,失効保険契約の復活時に告知義務の成否等が問題となった若干の裁判例を概観・分析し⑷,失効保険契約の復活時における告知義務の合理的な適用のあり方を探ること⑸を目的とする。
⚒.失効保険契約の復活の法的性質と告知義務の適用の有無との関係
⑴ 復活の意義と概要
失効保険契約の復活は,生命保険契約や傷害疾病保険契約について,保険契約者が月払保険料の支払義務の履行を怠ったため,当該保険契約が保険約款の定めにより失効した場合に,保険契約者が保険約款の定めるところに従い所定の期間内に失効保険契約の復活を請求し,保険者がこれに承諾をした上で,保険契約者が所定の復活保険料(未払保険料)を支払うことで,その効力を生じ,失効保険契約が失効前の保険契約と同内容のものとして復旧することをいう2)。
復活は,平成20年改正前商法に規定されていたものではなく,もっぱら保険約款上の制度として採用されてきた経緯があることから,保険法にもxxの規定が設けられていない。そのため,これはあくまで約款に定められる約定の措置である3)ことから,復活制度の採用の有無は,約款の定めるところ
2) xxxx・xxx編著⽝論点体系保険法⚒⽞117頁(xxxxx)(第一法規,
2014年),xxxxx・xxx・xxx・xxxx・xxxx⽝生命保険・傷 害疾病定額保険契約法実務判例集成 上 ⽞345頁(保険毎日新聞社,2016年)。
3) xx・xx・前掲注2)117頁(xxxxx)。
によって定まり,近時これを採用しない保険会社も登場している4)。ともあれ,保険約款に復活について定めがある場合も,復活が保険者の承諾を条件とするため,保険契約者に当然に失効保険契約の復活を請求する権利が認められるわけではない。
これに対し,保険契約者の復活請求に対する保険者の承諾義務の有無について,判例はこれを否定する5) が,学説上は,保険法57条各号所定の事由が存する場合は別として,保険者には告知事項以外の事由を理由に復活請求に対する承諾を拒絶することができないと解すべきとの見解6) が有力である。
⑵ 復活の法的性質等をめぐる学説の状況
このように,失効保険契約の復活は,保険約款に根拠を有する約定の制度であるため,その法的性質は,前提となる保険契約および保険約款との関連において理解する必要があろうが,学説上は,復活時の告知義務の適用の可否や約定の自殺免責期間の適用の有無等との関連で,失効保険契約の復活の法的性質について議論が行われ,現在も見解の対立が見られる7)。まず学説の状況を確認すると,従来,通説的見解とされてきたのが,特殊契約説である。この説は,保険約款に失効保険契約の復活の定めがあるときは,保険契約が失効・消滅しても,その後の復活手続きによって当該契約の効力が再生
4) xx・xx編・前掲注2)117頁(xxxxx)。
5) 大阪地判平成17年⚖月13日公刊物等未登載(xxxxx同判決判批⽜保険事例研究会レポート207号⚘頁(2006年)およびxxx他・前掲注2)352頁で紹介)。
6) xxxx⽛復活⽜xxxx=xxxx編⽝保険法概説⽞245頁(有斐閣,
2010年)。これとほぼ同旨の見解として,xxxx⽛失効約款と復活制度⽜生命保険経営81巻⚖号21頁(2013年)は,復活請求時に保険者は告知事項以外の事由を理由として復活請求に対する承諾を拒絶することができないとしつつ,反社会的勢力の排除を理由とした承諾拒絶は可能であるとの見解を提示されるようである。
7) 復活の法的性質および関連学説等を綿密に整理・分析される先行研究として,xxxx⽛生命保険契約における復活制度と復活告知による危険選択⽜生命保 険論集189号73頁以下,特に85頁以下(2014年)が参考になる。
することから,復活を解除条件として当該保険契約が失効するものの,有効な復活契約の締結によって契約失効という法効果が失われ,その結果,失効保険契約が従前の契約内容で回復すると解した上で8),失効保険契約の復活を,失効保険契約を契約失効前の状態として回復させることを内容とする特殊の契約と解してきた9)。ちなみに,学説の中には,失効保険契約は完全に消滅せず不確定状態にあるとした上で,その復活を,復活契約により生じた生命保険契約が従前の保険契約の継続としての効力を有するものと解する説もある10) が,その内容は特殊契約説と大差ないといえるであろう。
その一方で,通説を批判しこれと異なる見解も,保険法学説として有力である。第⚑は,特殊契約説が保険契約の失効という効果に解除条件が付くと説明することの不自然xx技巧性等を指摘し,保険料支払義務の不履行による保険契約の失効を,復活条項と解約払戻金請求権を残して当該保険契約がすべての効力を失うものと解した上で,失効保険契約の復活とは,依然効力が存続する⽛復活条項⽜に従って保険契約者が復活請求をし,これに対する保険者の承諾をまって成立する契約であるとする保険契約部分的失効説である11)。もっとも,この説は,復活の効果として,新しい生命保険契約が成立するのではなく,従前の契約が存続するものとして取り扱われるとする。
8) xxxxx生命保険契約復活論⽜同⽝私法論文集⽞988頁(有斐閣,1926年),xxxx⽛生命保険契約の復活の性質⽜xxx・xxxx編⽝商法(保険・海 商)判例百選⽞115頁(有斐閣,1977年)。
9) xx・前掲注8)988頁,xxxx⽝保険法⽞375頁(青林書院,1957年),xxxx⽝保険法〔補訂版〕⽞314頁(有斐閣,1985年),xxxx⽝保険法⽞349頁(文眞堂,1991年),xxxx商法Ⅳ(保険法)【改訂版】⽞340頁(青林書院, 1997年),xxxx⽝保険法〔第⚓版〕⽞374頁(悠々社,1998年),xxxx
⽝保険法⽞352頁(有斐閣,2005年),xxxx⽝生命保険法入門⽞140頁(有斐閣,2006年)。
10) xxxx=xxxx⽝新版保険法(全訂版)⽞300頁~301頁(千倉書房,1987年)
11) xxxx生命保険契約の失効と復活⽜xxxx他⽝(xxxx先生追悼論文集)保険法の現代的課題⽞287頁~288頁,294頁(法律文化社,1993年)。
通説に批判的な第⚒の見解は,保険契約者の保険料支払義務不履行を理由として約款に基づき生命保険契約が失効した場合の効果として,当該契約の効力が消滅するものではなく,保険契約者の利益保護と保険料の支払を前提とした合理的な保険制度の運営という⚒つの観点から,保険者の保険契約上の保険責任の消滅という効果のみが生じていると解する保険責任消滅説12)である。この説は,失効保険契約の復活を,いったん消滅した保険者の保険責任を再開させるものであるとする点に特色がある。
第⚓は,アメリカ法の比較法的検討も踏まえ,保険契約の失効により当該契約は完全に消滅したものと解し,相互保険の場合には社員の退社の効果も生ずるとしながらも,保険契約者のもとには依然として復活請求権と解約返戻金請求権とが残存すると構成した上で,失効保険契約の復活を,消滅した保険契約があたかも消滅しなかったのと同じように取扱うという保険契約者・保険者間の合意に基づく契約と捉える保険契約完全消滅説13) である。この説によれば,失効保険契約の復活により新契約の締結という効果が生じるが,当該契約に従前の保険契約の重要部分や瑕疵が引き継がれると解するので,前契約に近い特殊な契約が復活の効果として成立すると捉える14)点に特色がある。
⑶ 判例の状況
これに対し,判例は,保険契約の失効の法的意義と失効保険契約の復活の法的性質をどのように解するかをめぐり,古くは,失効保険契約の復活を保険契約者の一方的意思表示により失効保険契約の効力を復活させる単独行為と捉える立場にたつもの15) が見られた。しかし,こうした理解に立つと,
12) xxx⽛生命保険契約における失効・復活制度の再検討⽜生命保険論集140号79頁~81頁,86頁(2002年)。
13) xxxx⽛生命保険契約の失効と復活⑵⽜生命保険論集144号46頁(2003年)。
14) xx・前掲注13)47頁。
15) 東京地判大正⚕年⚙月15日法律新聞1191号23頁,東京地判大正⚕年10月⚗日法律評論第⚖巻⚒号(商法)44頁,東京控判昭和⚒年12月13日法律新報150号 19頁。
失効保険契約の復活時に保険者の危険選択の余地がなくなるため,判例も,復活時の危険選択の必要性を勘案し,復活を,約款の定めるところに従って契約当事者間の合意により保険契約失効前の状態を回復させることを内容とする特殊の契約と解する特殊契約説に立つものが主流となっている16)。
ちなみに,大阪地判平成14年⚗月⚘日生命保険判例集第14巻459頁は,失 効保険契約の復活が新規の保険契約の締結と同様の性質を有すると指摘する。これも,失効保険契約の復活の法的性質を新たな保険契約の締結とするもの ではなく,特殊契約説の立場を前提とするものであろう。また,月払保険料 支払義務の不履行により失効したがん保険契約の復活時における告知義務違 反の有無および保険媒介者による告知妨害の有無が問題となった東京地判平 成26年⚓月19日2014WLJPCA03198003と同判決の多くを引用する控訴審判 決の東京高判平成26年⚗月24日2014WLJPCA07246005も,同様に特殊契約 説の立場に立脚するものと思われる17)。
なお,保険契約の失効の意義・効力を判例がどのように解しているかを確認すると,東京地判昭和10年⚖月24日法律評論24巻11号(商法)519頁が,復活の効力を,解除条件付で生じた前保険契約の消滅(失効)の効力を失わせる条件である,一種の付属契約と判示することから,保険約款に失効保険契約の復活手続が定められている場合の保険料支払義務不履行による保険契約失効を,復活を解除条件とする保険契約の効力の消滅と捉えた上で,所定の手続により復活が行われたときには,解除条件の成就により保険契約の失効という法効果が失われるとする。これと同様の判断は,東京地判平成23年
⚖月30日18) においても示されており,⽛生命保険契約の復活は,別個の保険
16) 東京地昭和10年⚖月24日法律評論24巻11号(商法)519頁,東京地判昭和11年⚔月14日法律新報434号27頁,甲府地判昭和29年⚙月24xxx集⚕巻⚙号 1583頁,東京地判平成23年⚖月30日2011WLJPCA06308007。
17) xxxx⽛復活時の告知義務違反と告知妨害⽜xxxx・xxxx編⽝保険判例の分析と展開Ⅱ(平成24年~平成28年)⽞金判1536号64頁(2018年)。
18) 前掲注16)。同判決に対する評釈として,xxxxx判批⽜共済と保険54巻
⚙号36頁以下(2012年),xxxx⽛判批⽜保険事例研究会レポート264号⚑頁
契約が新たに成立するのではなく,保険契約が失効して消滅したというその消滅の効力を失わせて,失効前の保険契約の状態を回復するという…特殊な契約であると一般に解されており,従前からの契約の継続性という要素が不可避的に具有されるものと考えられる⽜と判示されている。
⚓.復活の法的性質の捉え方と復活請求時の告知義務の適用との関係
⑴ 判例の状況
このように失効保険契約の復活の法的性質とその効果,および,その前提 としての保険契約失効の法的理解に関して,判例の立場はほぼ特殊契約説で 確立していると解されるのに対し,学説上は見解の対立が見られる。しかし,対立する見解の論理的帰結として,復活請求時の告知義務の適用の可否や復 活時の告知義務を定める約款の効力の如何が導かれるわけではないことに注 意する必要がある19)。
そこで,まず,判例の状況を概観すると,比較的古い裁判例は,第⚑に,保険約款に失効保険契約の復活の定めが設けられているものの,復活請求時に改めて告知義務を課す旨の定めがない場合については,失効保険契約の復活に法律上の告知義務の適用を否定するもの20)と,告知義務の適用を肯定するもの21) に分かれていた。これに対し,第⚒に,保険約款に失効保険契約の復活請求時の告知義務の定めがある場合は,当該約款規定を有効なものとし,告知義務の適用があるとする考え方が一貫して採用されている22)。
以下(2012年)参照。 19) xx・前掲注6)243頁。
20) 東京地判昭和10年⚖月24日・前掲注16)。
21) 東京控判昭和13年⚗月30日法律新報518号20頁。
22) 大判大正11年⚘月28日民集⚑巻501頁,東京控判大正12年⚖月21日法律新聞
2195号15頁,東京控判昭和13年⚗月30日法律新報518号20頁,東京地判平成20年⚘月28日2008WLJPCA08288003,東京高判平成21年⚑月29日(公刊物等未登載(xxxx⽛判批⽜保険事例研究会レポート242号⚕頁(2010年)で紹介。),東京地判平成23年⚖月30日・前掲注16),東京地判平成26年⚓月19日 2014WLJPCA03198003,東京高判平成26年⚗月24日2014WLJPCA07246005。
⑵ 学説の状況
次に学説はどうか。保険契約の失効と失効保険契約の復活の法的性質をめぐって学説は対立するが,各説が復活請求時の告知義務の適用の有無ないし可否をどのように解しているかを概観すると,第⚑に,通説とされる特殊契約説の多くの論者23)と,保険契約部分的失効説24)および保険契約完全消滅説25)の各論者は,保険契約の失効に関する理解に違いこそあれ,失効保険契約の復活が従前の保険契約を回復することを内容とする契約であると解し,復活請求時における告知義務の適用の必要性を肯定する点で共通する。
これに対し,第⚒に,保険責任消滅説は,告知義務の適用を否定する26) が,保険契約の失効・失効保険契約の復活の法的性質について通説の特殊契約説 に立脚しながら,復活請求時に告知義務に関する法律上の規律を適用するこ とに懐疑的な論者もある27)。
⑶ 小 括
以上の判例・学説の状況を踏まえ,復活請求時の告知義務の適用の有無についてどのように解するべきか。第⚑に,保険約款に失効保険契約の復活とその際の告知義務が定められている場合について,前記学説のうち失効保険契約の復活請求時に保険契約者等に告知義務を課すことに否定的・懐疑的な立場の論者が,その場合にまで当該約款の私法上の効力を無効と解したり,xxxを用いてその適用を制限すべきであると解したりするのかどうかは必ずしも明らかではない。
しかし,復活期間が保険契約の失効時から⚓年と比較的長めに設定されるケースが少なくないこと,この間における生命保険契約・傷害疾病保険契約の被保険者の健康状態等の保険事故の発生可能性に関する重要事実の変化の
23) xx・前掲注8)989頁,xx・前掲注9)314頁,xx・前掲注9)374頁,xx・前掲注9)139頁。
24) 竹濵・前掲注11)295頁。
25) xx・前掲注13)51頁~54頁。
26) x・前掲注12)87頁。
27) xx・前掲注9)374頁,xx・前掲注9)340頁,xx・前掲注9)350頁。
可能性があることを考えると,保険者が失効保険契約の復活の申込みに対し承諾の可否を判断するに当たり,保険者には改めて危険選択の機会が与えられるべきであろう28)。したがって,復活請求時における告知義務を定める保険約款の規定の有効性は認められてよいと解される。
これに対し,第⚒に,保険約款に失効保険契約の復活請求時に告知義務を 課す旨のxxの規定がない場合はどうか。学説のうち復活請求時の告知義務 の適用を肯定する立場でも,この場合の取扱いは必ずしも判然としないが, 判例は,前述のように,保険約款に失効保険契約の復活請求時の告知義務を 定める規定がない場合における同義務の適用の有無をめぐり判断が分かれる。しかし,現在の保険実務を前提とすると,保険約款で失効保険契約の復活に ついて定めながら,復活請求時の告知義務を規定しないxxxは想定しがた い。そのため,保険約款に該当規定がないために復活請求時における告知x xの適用の有無が問題となることは現実には生じないと思われるが,保険約 款で復活請求時の告知義務を定める趣旨に鑑みると,復活請求時における告 知義務が約款に明記されない場合であっても,同義務の適用を肯定するのが 妥当であろう。
⚔.復活時の告知義務違反が問題となった判例の概観
⑴ 問題の所在
保険約款に失効保険契約の復活請求時における告知義務の定めがあり,復活請求期間が⚓年とされている場合に,失効時から例えば⚒年経過後に復活手続がとられたときに,保険契約者等に告知義務を課し,契約失効後の保険事故の発生可能性の変動状況につき保険者に対する告知をさせることは合理的であろう。この場合,保険契約者等が復活に係る告知事項につき故意または重大な過失により事実の告知をせず,または不実の告知をしたときは,解除阻却事由が認められない限り,復活した保険契約(以下,⽛復活契約⽜と
28) xx・前掲注6)244頁(注7)。判例でこの点を明言するものとして,例えば,東京地判平成23年⚖月30日・前掲注16)。
いう。)の保険者による解除(保険法55条・84条)が認められて良いと考えられる。
これに対し,復活請求時における告知義務違反を理由とする復活契約の解除の可否が問題となった過去の裁判例を見ると,前述のように,多くが,失効時から比較的短期間のうちに復活手続が行われるケースであり,その際の告知義務違反の成否がポイントとなっている。そのため,保険契約失効後,復活までの間に被保険者の健康状態等の保険事故発生可能性に関する重要事実に変化が生じているといえるかどうかが微妙な事例もあることから,復活請求時における告知義務の趣旨に鑑み,同義務の適用を制限すべき必要がないかどうかを検討する必要があるように思われる。
⑵ 判例の概観と分析
① 東京地判平成20年⚘月28日・東京高判平成21年⚑月19日等
そこで,若干の関連裁判例を概観すると,第⚑に,保険料支払義務の懈怠により失効した生命保険契約が約款の定めに基づき復活した後に保険金受取人が被保険者の死亡を理由として保険金の支払を請求したところ,保険者が復活請求時の告知義務の違反を根拠に復活後の当該保険契約を解除し保険金受取人の請求を拒絶したため,保険金受取人から当該解除が公序良俗違反により無効または権利濫用であるとの主張がされた東京地判平成20年⚘月28日29) およびその控訴審判決である東京高判平成21年⚑月19日30) では,保険契約の失効から復活請求までが僅か⚘日間であった。そこで,保険金受取人が,復活請求時の告知義務を定めた保険約款の効力を制限すべきとの主張を行ったが,前掲東京地判平成20年⚘月28日およびこれを大部分引用する前掲東京高判平成21年⚑月19日は,⽛本件では失効してから復活請求までの期間が⚘日間にすぎないことは原告らの指摘するとおりであるが,このような個別事情を考慮して本件保険約款の効力を解釈するのは相当とはいい難い⽜と説示する。この事案で保険金受取人は上告したが,最決平成21年⚗月⚓日公
29) 前掲注22)。
30) 前掲注22)。
刊物等未登載は上告却下,上告不受理の判断を示している。
第⚒に,失効から復活請求までの期間が⚒週間であった東京地判平成26年
⚓月19日31) は,当該期間の短さが問題とされているわけではないが,復活請求時の告知義務の適用を定めた保険約款規定の適用に当たり,失効から失効保険契約の復活までの期間の短さを考慮していないと考えられる32)。
しかし,前掲東京地判平成20年⚘月28日・東京高判平成21年⚑月19日に関する先行研究では,経験的に死亡危険の高い者の方が復活を希望する傾向すなわち逆選択が強いという実態を無視できないとの観点から,失効保険契約の復活請求時の告知義務の適用を否定する見解には懐疑的な見方を示し,同義務の適用を肯定する立場に立脚しつつも,他方で,⽛たまたま保険料不払により⽜失効した保険契約につき保険契約者の利益保護にも配慮しながら,逆選択による復活請求を防止し保険契約者間のxxを図るためには,かつて行われたことのある簡易復活制度を参考に,失効後一定期間(たとえば⚓カ月)以内の復活については,告知事項を失効以後の事実に限定するとか,告知すべき事実を重大なものに限定する等の制度設計が考慮されてよいとの指摘が行われている33)。
また,この指摘を行った先行研究の論者は,⽛たまたまうっかり⽜保険料不払となった事案は短期間で復活請求が行われることが通常であるという実態認識に基づき,その種の事案における失効保険契約の復活請求に係る告知義務の運用の在り方を見直すことを提唱する。同時に,失効から復活までの間隔が短期間であっても,その間に被保険者における重大疾患の発病や傷害の発生があったときは,これを無視して告知義務の運用を緩和し失効保険契約の復活を認めることは,保険契約者間の不xxをもたらすこと,さらに,保険契約者が,自らの意思で保険料の支払を中止して生命保険契約等の失効を招いておきながら,相当期間が経過し健康状態が悪化した後で復活を請求
31) 前掲注22)。
32) xx・前掲注17)65頁。
33) xx・前掲注22)12頁。同旨,xx・前掲注22)14頁(xxxxxコメント)。
した場合に,無条件で復活を認めることは,保険契約者のxxの観点から問題であることを踏まえて,逆選択の(おそれの)有無を基準にバランスを図るアプローチを提示している34)。
②東京地判平成23年⚖月30日
これに対し,復活請求時の告知義務の運用の在り方につき前掲東京地判平成20年⚘月28日等と異なったアプローチを提示する裁判例が近時公表されている。その第⚑は,東京地判平成23年⚖月30日35) である。この事案は,小規模株式会社がその代表者を被保険者とする生命保険契約を締結していたところ,月払保険料の支払義務の不履行により当該契約が失効したが,当該契約に適用される保険約款の定めに従い,失効保険契約の復活の申込み(復活請求)を行い,保険者の承諾により,当該契約が復活したことを前提に,その後の被保険者の死亡を理由として保険者に保険給付を行うよう請求したことに対し,保険者が,失効保険契約の復活請求時に当該代表者の病状等に関する告知義務違反があったとして当該請求を争ったため,復活時における告知義務違反の有無が争点となった。同事案において,原告は,復活時の告知義務違反を理由とする保険者の保険契約の解除およびそれによる保険金支払拒否がxxxに違反し,あるいは権利濫用に当たると主張した。
原告の当該主張に対し,前掲東京地判平成23年⚖月30日は,まず⽛保険契 約の復活に際し告知義務が課される趣旨を検討すると,生命保険契約の復活 の場合,ひとたび消滅した保険契約の効力を再び発生させるものであるから,復活の際に,保険者に改めて危険選択の機会を与えることにあると考えられ る。特に,…保険契約失効から⚓年以内に復活請求が許されている(場合 は),比較的長期間,保険契約者側に復活請求するか否かの選択権が存する ことになり,保険事故の発生のリスクが高い者が復活請求へより選好的な態 度を示すことは見やすいところであり,その結果,いわゆる逆選択が生じ, 保険制度を支える合理的な(保険料)計算を歪めるおそれがある。⽜と指摘
34) xx・前掲注22)12頁~13頁。
35) 前掲注16)。
する。
その上で,同判決は,前掲東京地判平成20年⚘月28日・東京高判平成21年
⚑月19日に対する学説の前記批判を意識したかどうかは明らかでないが,当該事案で問題となった⽛集団的定期保険である本件保険契約は,10年毎の保険期間が,被保険者の年齢が80歳以下(更新日,契約満了時は85歳以下)であるかぎり,その健康状態にかかわらず,自動更新され,保険契約者側に何らの告知義務が課されていないものであることを踏まえると,相当長期間にわたって保険契約が存続することが予定されており…,そうした前提のもとで保険料を計算しているものと推定されるから,仮に,保険契約者側の単純な過失によって保険料振替が遅れ保険契約が失効してしまったものの,直ちに復活請求をして所定の保険料を納めた場合,ほとんど逆選択が生じる余地が乏しく,また,保険料算定計算を歪め,保険制度の基礎を揺るがすということにもならないと考えられるので,告知義務を課す必要性,合理性が薄れるものということができ,事案に応じて告知義務違反を前提とする解除を制限する余地もあると解される。⽜との判断枠組みを提示する。
同判決は,生命保険契約(また傷害疾病保険契約)一般について,復活請求時の告知義務違反を理由とする契約解除を制限する余地のあることを判示したものではなく,一定の種類の生命保険契約を対象に上記の判断を示したものであることに留意する必要があるが,失効保険契約の復活請求時における告知義務の適用の意義・必要性を踏まえつつ,契約自動更新時には告知義務が課されないことにも言及して,契約失効時から比較的短期間で行われる失効保険契約の復活については告知義務を課す必要性・合理性が乏しくなること,したがって,場合によっては契約の自動更新に準じて復活請求時の告知義務の適用を制限する余地のあることを示唆するものである。
なお,同判決の事案は,当該被保険者が,⚒度にわたる保険料支払義務の不履行による同契約の失効と復活において,復活請求書兼告知書に告知事項として掲げられていた⽛最近⚓カ月以内における医師の診察・検査・治療・投薬の有無⽜・⽛最近⚕年以内において病気やけがで手術を受けたことの有
無⽜・⽛胃腸・膵臓の病気,胃かいようや癌等の罹患の有無⽜につき非該当と の回答をしていたが,実際には,当該被保険者が対象期間内に癌で入退院を 繰り返していて,告知事項の不告知につき故意があったといえることから, 当該被保険者の死亡を理由とする保険金受取人からの保険金支払請求に対し,保険者が,復活請求時における告知義務違反を理由として当該保険契約を解 除し,これを拒絶したというものであるため,失効保険契約の復活時に逆選 択が現実に起きているケースといえた。それにもかかわらず,同判決は,問 題となった保険契約が集団定期保険であって,被保険者の年齢が更新日にお いて80歳以下である限り,その健康状態にかかわらず自動更新され,その際 に保険契約者側に告知義務が課されていないこと,それゆえ相当長期間にわ たり保険契約の継続が予定され,その前提のもとに保険料の計算が行われて いると推定されること,保険契約者側の単純な過失により保険料の支払が遅 れ保険契約の失効を招いたものの,直ちに復活請求をして所定の保険料を納 めた場合は,ほとんど逆選択が生じる余地が乏しく,保険料算定計算を歪め,保険制度の基礎をゆるがすことにならないと考えられること,さらに,数十 年も継続することがある生命保険契約が保険契約者側の一時の過失による保 険料不払により失われる不利益は甚大であるところ,逆選択のおそれが必ず しも大きくはない事案における保険制度全体への影響を比較すると,復活請 求時に保険契約者等の告知義務違反があっても,保険契約者側を救済するこ とはあながち不合理といえないことを根拠に,当該事案の認定事実からすれ ば,保険約款の定めを形式的に当てはめ,保険契約復活請求時の告知義務違 反を理由とする契約解除を認めるのは,保険契約者に酷に過ぎるため,保険 者による解除権行使はxxx上否定されるべきと判示している。この結論に 対しては,先行研究において,当該事案の事実関係を前提とすれば,むしろ 保険者による保険契約の解除が認められるべきであるとの強い批判が寄せら れている36) が,その点を措けば,同判決の示した問題意識および判断枠組み
36) xx・前掲注18)44頁,xx・前掲注18)11頁,xx・前掲注18)12頁(xxxxxxコメント)。
は注目に値しよう37)。
③東京高判平成24年10月25日判タ1387号266頁・金判1404号16頁
前掲東京地判平成20年⚘月28日等と異なるアプローチを採用する第⚒の裁判例は,東京高判平成24年10月25日判タ1387号266頁・金判1404号16頁38) である。この判決は,最判平成24年⚓月16日民集66巻⚕号2216頁の差戻審判決である。前掲最判平成24年⚓月16日は,月払保険料の不払があった場合に約款所定の⚑カ月の払込猶予期間内に所定の保険料の払込がないときには当該期間の満了日の翌日に履行催告なく生命保険契約が失効する旨を定める保険約款の無催告失効条項が消費者契約法10条に反し無効かどうかが争われた事案において,当該条項を消費者契約法10条に違反するとして無効と判示した差戻前控訴審判決(東京高判平成21年⚙月30日民集66巻⚕号2300頁)を破棄した上で,保険者において保険契約者による保険料支払債務の不履行があった場合に当該保険契約者に対し契約失効前に保険料払込の督促を行う態勢を整え,実務xxxような運用を確実に行った上で,無催告失効条項を適用していることが認められるのであれば,当該条項はxxxに照らし消費者の利益を一方的に害するものには当たらないと判示し,保険者における上記運用の確実性等につきさらに審理する必要があるとして,原審に事件を差し戻した。そのため,前掲東京高判平成24年10月25日では,保険者(被告・被控訴人・上告人・差戻審被控訴人)における上記態勢とその確実な運用の有無が主要な争点となったが,当該条項の効力を争った保険契約者兼被保険者(原告・控訴人・被上告人・差戻審控訴人)が,保険者が当該保険契約者による失効保険契約の復活請求を不承諾としたことがxxx違反または権利濫用に当たると主張した。
この主張に対し,前掲東京高判平成24年10月25日は,認定事実に基づき保険者における上記態勢の整備状況を確認し,無催告失効条項の消費者契約法
37) この点を積極的に評価するものとして,xx・前掲注18)45頁。
38) 同判決の評釈として,xxxxx判批⽜保険事例研究会レポート271号⚑頁
(2013年)参照。
10条違反および公序良俗(民法90条)・xxx(民法⚑条⚒項)違反を否定したが,保険者による復活請求の不承諾がxxx違反・権利濫用に該当するとの保険契約者の主張については,失効保険契約の復活が保険約款に基づく制度であること,失効保険契約の復活を無条件に認めると,逆選択の問題が生じるため,復活請求につき復活請求可能期間の設定,告知義務の適用等,約款において一定の制約が設けられていること,失効保険契約の復活には,保険契約者側にとって,失効後に新たに保険に加入する場合の不利益を回避できる等の利点があることを指摘して,失効保険契約の復活請求に対する承諾の有無は,保険者が復活請求を不承諾とする正当な事由が何ら存在せず,あるいは,保険者側において積極的に保険契約者の保険料不払を誘発し,又は,契約の失効後,保険者が,保険契約者に対し,保険契約を復活させるかのような言動を繰り返し行ったといった特段の事情がある場合を除き,原則として,保険者の裁量的判断に委ねられていると解するのが相当であるとして,保険契約者(控訴人)の主張を退ける。その上で,同判決は,⽛…本件のように,契約の失効前すなわち保険契約者が被保険者集団の一員であった当時において,保険事故自体は発生していなかったとしても,既に健康を損ねていた場合においては,保険事故発生のリスクを共同で引受けようとする意思が被保険者集団に存在していたと考えるのが相当であるから,契約の失効後に初めて健康を害した場合と異なり,失効前罹患の場合においては,保険契約の復活はある程度緩やかに認められるべきであり,保険者の裁量の余地は狭まるものと解される。⽜と説示する。もっとも,同判決は,結論において,保険者側の対応にはxxx違反・権利濫用は認められない旨を判示するが,失効前罹患の場合には保険契約の復活がある程度緩やかに認めらえるべき旨を述べる上記説示は,前掲東京地判平成23年⚖月30日と同様の問題意識に基づくものと思われ,参考に値する。
⚕.復活請求時の告知義務の適用のあり方
このように失効保険契約の復活請求時における告知義務の適用については,
失効から復活請求までの期間の短さを考慮せず画一的に同義務を適用する裁 判例39) と,当該期間の短さに鑑み同義務の適用に一定の制約を課そうとす る裁判例とに分かれている。今後,判例がいずれのアプローチを採用するよ うになるかは,予断を許さないが,前者の裁判例に対しては,前述のように,先行研究において,失効保険契約の復活の実情を踏まえ,失効時から短期間 での復活請求については告知事項の限定等により新規の保険契約の締結の場 合よりも若干緩やかな方法で告知義務を運用すべきとの指摘が行われていた ことは看過されるべきでない。現に,前掲東京高判平成24年10月25日も,こ の先行研究と同様の問題意識に立つものであろうし,こうした問題意識から 復活請求時の告知義務の運用のし方について,⽛契約の失効前すなわち保険 契約者が被保険者集団の一員であった当時において,保険事故自体は発生し ていなかったとしても,既に健康を損ねていた場合においては,保険事故発 生のリスクを共同で引受けようとする意思が被保険者集団に存在していたと 考えるのが相当であるから,契約の失効後に初めて健康を害した場合と異な り,失効前罹患の場合においては,保険契約の復活はある程度緩やかに認め られるべきであり,保険者の裁量の余地は狭まる⽜と述べる点は,説得的で あると思われる。前掲東京地判平成23年⚖月30日が,保険契約の失効後⽛直 ちに復活請求をして所定の保険料を納めた場合,ほとんど逆選択が生じる余 地が乏しく,また,保険料算定計算を歪め,保険制度の基礎を揺るがす…こ とにもならないと考えられるので,告知義務を課す必要性,合理性が薄れる ものということができ,事案に応じて告知義務違反を前提とする解除を制限 する余地もある⽜と判示するのも,同様に説得力を持ち,復活請求時の告知 義務の運用の在り方に対し問題提起をしたものといえる。
しかも,本稿で取り上げた,失効から復活請求までが短期間である場合にまで,改めて新規の保険契約の締結時と同様の告知義務を保険契約者等に課
39) こうしたアプローチを支持する先行研究として,前掲東京高判平成21年⚑月
29日に関するxxxx⽛判批⽜保険事例研究会レポート249号25頁(2011年)。
し,その違反について契約解除という制裁を加えることのインバランス40)は,改めて問題とされてよいであろう。ただ,保険料支払義務の不履行による契約失効が保険契約者の不注意によりもたらされることが少なくないことも事実であるから,逆選択予防のための告知義務の適用を制限して不注意な保険契約者の保護を図ることについては,たしかに,自己責任の観点から行き過ぎとの批判もあり得る。しかし,失効さえなければ被保険者の死亡等の保険事故の発生により保険給付を受けることができたはずの保険金受取人等が,復活請求時の告知義務違反を理由に画一的に保険給付を受ける機会を否定されることは,復活請求時の告知義務の存在意義に照らして考えると,妥当とはいえないのではなかろうか41)。
したがって,これら諸点を踏まえると,失効保険契約の復活制度が保険約款に規定されている場合における復活請求時の保険契約者・被保険者の告知義務については,これを適用しつつ,その例外として,失効から復活請求までの期間が例えば⚑カ月程度の短期間であるときは,同義務の適用を除外することとし,これまでの裁判例の中で浮き彫りにされた問題に対処することや,失効前の罹患・治療・入院等の事実については,これを告知事項に含めず,告知の対象を失効後の告知事項に限定することは,保険約款の見直し課題として検討されるべきであろう。
もっとも,こうした見解に対しては,第⚑に,約款に明確に規定することにより,復活請求時の告知事項の中で,失効前に被保険者が発病し,復活請求時点でも同一水準の病状にある場合には,保険者が復活請求に対する承諾義務を負うとする取扱い42)の採用可能性があるものの,復活に係る保険実務の複雑化とそれに由来する新たな紛争の発生が懸念されるため,これを勘案
40) xx・前掲注22)14頁(xxx教授コメント)。
41) 同様の問題認識を示す先行研究として,xx・前掲注18)44頁~45頁があり,非常に参考になる。
42) こうしたアプローチを提唱する学説として,xxxx⽛消費者契約法10条と復活⽜生命保険論集184号154頁(2013年)参照。
すると,実務対応として合理的ではないとの批判が加えられている43)。ただ,告知事項自体を失効後の事由に限定することで,この批判が懸念する事態の 発生を回避できるのではないかと考えるが,この点については改めて検討を 行うこととし,ここでは問題の提起にとどめたい。
第⚒に,本稿で示した上記の取扱いによると,前掲東京地判平成23年⚖月 30日の事案に見られるように,数回に亘って保険契約の失効を招き短期に復活を繰り返す事案では,逆選択の危険を排除できない問題や,保険者の事務処理の負担の増加が懸念される。この点を踏まえ,先行研究では,失効から復活請求までが短期間である場合の告知義務の適用除外を初回失効時の短期復活請求に限り認めるべきとした上で,初回の復活請求については保険者に承諾義務を課す一方,その後の復活請求については保険者に承諾義務を課さず承諾の有無について裁量権を与えるものとする制度改善案が提唱されている。復活請求に対する保険者の承諾義務を併せ規定すべきかどうかはなお検討の余地があると思われるが,短期復活請求に係る告知義務の適用除外等の措置を初回復活請求時に限り認めるべきとの指摘は,傾聴に値しよう。
⚖.おわりに
本稿は,生命保険契約・傷害疾病保険契約の保険約款に定められることが 一般的である失効保険契約の復活の際の告知義務をとり上げ,裁判例の概 観・分析を通して,同義務の適用のあり方を探り,先行研究を踏まえて,短 期復活請求について告知事項の限定等の措置を講じることが妥当であるとの 試論を提示した。このほか,失効前の発病等も前掲東京地判平成23年⚖月30 日で問題となった復活請求書兼告知書にある通り告知事項に含めるとしつつ,失効保険契約の復活後の被保険者の死亡等が失効前に発症していた疾病等に 基づくときは,契約解除による保険者の免責を制限すること(保険法59条⚒ 項⚑号但書・88条⚑項⚒号但書参照)も検討されて良いのではなかろうか44)。
43) xx・前掲注7)96頁~97頁。
44) xx・前掲注17)67頁。
ともあれ,本稿が,失効保険契約の復活請求時の告知義務の適用のあり方を巡る議論に一石を投じることができれば幸いである。
(筆者は早稲田大学商学学術院教授)