秘密保持契約書 Confidentiality Agreement
平成 20 年度 農林水産省補助事業東アジア産学官ネットワーク構築支援事業
「食品産業の意図せざる技術流出対策」
英文版秘密保持契約書条文文例
平成21年3月 (財)食品産業センター
「食品産業の意図せざる技術流出対策」英文版契約条文案作成に係る検討委員会
【 解 説 】
英文版秘密保持契約書条文文例の利用に当たって
近年、我が国食品産業の海外への事業展開に伴い、ノウハウをはじめとした意図せざる技術流出の防止の重要性が高まっています。
製造業の海外展開では、必然的に進出先国への技術移転を伴うものですが、海外企業等に対する技術移転においては当該海外企業等に対する特許xxの知的財産権の実施許諾等だけでなく、設計図や仕様書等の技術情報の提供、従業員への教育・訓練、ノウハウの提供等まで有形・無形を問わず幅広い技術が移転されます。国際的な技術移転は、提供国・導入国双方に与える経済的影響も大きいものの、その一方で、技術移転に伴う「意図せざる技術移転」や「望ましくない技術移転」等の弊害も生じてきているのが現状です。
グローバルな国際競争が激化する中、企業は競争力の源泉となる技術やノウハウの意図しない流失や投資の成果にただ乗りして不当な利益を得ようとする他者の行為を防止するため、自衛策を構ずる必要があります。
農林水産省では、昨年3月、東アジア活性化戦略に即して国内食品産業関連企業が技術や生産ノウハウ等の技術情報の流失防止対策を策定する際に参考となる留意点を企業の進出段階毎に取りまとめた「食品産業の意図せざる技術流出対策の手引き」を作成したところです。この手引きの中では、事業化を検討するために必要となる情報開示に当たって守秘義務を課す秘密保持契約の締結が重要なポイントとして掲げられ、秘密保持契約の締結の考え方等が示されています。
この「英文版秘密保持契約書条文文例」は、「食品産業の意図せざる技術流出対策の手引き」を踏まえ、平成 20 年度農林水産省補助事業「東アジア産学官ネットワーク構築支援事業」の一環として作成したものであり、日本企業が実際に契約を結ぶ際に必要となる事項について、具体的な契約条文の文例をxx及び英文で示し、これに解説を加えたものです。「食品産業の意図せざる技術流出対策の手引き」と併せ、本契約書条文文例を雛型として各企業の契約の実態に即してご活用いただき、意図せざる技術流失の防止にお役立ていただければ幸いです。
末筆になりましたが、本契約書条文文例の作成に当たり、ご検討を賜わりました検討委員会の委員はじめ、関係者のご尽力に心から御礼申し上げます。
平成21年3月
財団法人食品産業センター
秘密保持契約書 Confidentiality Agreement
[日本企業](以下「甲」という。)および[外国企業](以下「乙」という。)は、以下のとおり秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。
This Confidentiality Agreement (“Agreement”) is entered into by and between [Japanese company] (“Party A”) and [Foreign company] (“Party B”).
前文
甲は、[日本において製品 X の製造および販売について]大きな成功を収めている。乙は、[[地域]において甲の製品X の製造]を希望している。
よって、両当事者は、[上記事情および本契約に基づく義務の約因に基づき、]以下のとおり合意する。
RECITAL
WHEREAS, Party A has achieved great success in [manufacturing and selling product X in Japan]; and
WHEREAS, Party B is desirous of [manufacturing Party A’s product X in [territory]];
NOW, THEREFORE, [in consideration of the foregoing and the obligations hereunder, ]the parties hereto agree as follows:
第 1 条 [目的]
本契約の目的は、[(例)[地域]における[乙による]甲の製品 X の製造の可能性を評価すること]にある。
Article 1 [Purpose]
The purpose of this Agreement is [(example)to examine the possible manufacturing of Party A’s product X [by Party B] in [territory]].
※ 条文文例中の[ ] 内の文言は適宜修正または削除して利用されたい。修正および削除の方針については解説を参照されたい。また、頁の都合上、条文を前半後半に分割している場合は、後半の文頭に条名及び(つづき)と記載したので留意されたい。
[契約当事者]
持株会社制を採用している企業では、実際に事業を行う会社ではなく持株会社(例:○○ホールディングス)を契約当事者としている場合があり、相手方から持株会社のみを契約当事者とすることを提案される可能性があるが、実際に事業を行う会社に本契約上の義務を負わせることができなくなってしまうので、実際に事業を行う会社を契約当事者に加えるべきである。
[前文]
前文は必ずしも法的効力を有するものではない。しかし、本契約を締結するに至った背景事情等を前文に記載することで、契約当事者の意思を明確にすることが可能になり、それが契約の解釈指針となることが期待される。したがって、左記の例の内容に限らず、当事者の意向をできるだけ確認しておくという意味において、より具体的に現在企図している取引の内容や目的を詳細に明記しておくことを検討してよい。なお、「上記事情および本契約に基づく義務の約因に基づき」という文言は、xx法においては「約因」が契約の成立要件とされているため、xx法系の法律を準拠法とする場合には、入れておいたほうが望ましいので留意すること。一方、日本法その他の大陸法を準拠法とする場合は不要だが、大陸法系であっても当該文言を入れて何か問題が生じるわけではないので、大陸法系かxx法系かわからない場合は入れておいてよい。
第 1 条 [目的]
目的の設定は秘密情報の使用範囲を限定するための重要な要素となるため、慎重に検討する必要がある(第 3 条第 1 項参照)。すなわち、日本企業側が 秘密情報の出し手となる場合には、相手方の秘密情報の使用範囲を必要最 小限に留める必要があり、そのため、第 3 条第 1 項において、秘密情報の
目的外使用条項が重要となる。そして、第 3 条第 1 項の「目的」が本条で定義されることになるので、本条の目的を狭めることにより、使用範囲を限定するというニーズを達成することができる。なお、本条の目的の記載がそもそも曖昧であっては、その範囲が不明確になるので、何を指しているのか明確に特定できるような用語を用いることが望ましい。
第 2 条 [秘密情報]
1. 本契約において、「秘密情報」とは、開示当事者が受領当事者に対して開示する技術上または営業上の秘密をいい、[その開示の態様を問わず、]以下のものを含むが、これらに限られない。
(1) (例 1)甲が開示する製品 X の原材料規格に関する情報
(2) (例 2)甲が開示する製品 X の製造条件(製造フローを含むが、これに限られない)に関する情報
(3) (例 3)乙が開示する製品 X の試作品の配合に関する情報
(4) (例 4)乙が開示する乙の既存設備に関する情報
(5) 甲乙間の本契約およびこれに基づく交渉、協議または合意の存在および内容
(6) [開示当事者が受領当事者に対して秘密である旨を明示した上で開示した書類または電子化情報を保存した記録媒体等の有体物
(7) 開示当事者が受領当事者に対して口頭または有体物によらない方法により開示したものであって、開示後○○日以内に開示当事者が受領当事者に対して書面で開示年月日および開示内容を特定して秘密である旨を通知した情報]
Article 2 [Confidential Information]
1. “Confidential Information” shall mean any technical or commercial information disclosed by the disclosing party (“Disclosing Party”) to the receiving party (“Receiving Party”), [regardless of the means of disclosure, ]including without limitation the following:
(1) (example 1)information relating to the standard for raw materials of product X disclosed by Party A;
(2) (example 2)information relating to the manufacturing conditions (including without limitation the flow of the manufacturing) of product X disclosed by Party A;
(3) (example 3)information relating to the compounding of prototype of product X disclosed by Party B;
(4) (example 4)information relating to Party B’s existing facility disclosed by Party B;
(5) existence and contents of this Agreement and negotiation, consultation or agreements hereunder between Party A and Party B;
(6) [any documents, recorded media containing electronic information or other tangible media which Disclosing Party has disclosed to Receiving Party as expressly confidential; and
(7) any information which Disclosing Party has disclosed orally to Receiving Party or by other intangible media and regarding which Disclosing Party has notified Receiving Party within ○○ days from disclosure in writing specifying the date of disclosure and the content of such disclosure as confidential.]
第 2 条 [秘密情報]
1. 秘密情報は「技術上または営業上の秘密」と定義されているが、実際に情報が漏洩された場合にそれが秘密情報であることを立証することは非常に困難である場合が多くあるため、秘密情報に該当する具体例をできる限り多く列挙しておくことが望ましい。第(5)号は、第 3 条第 7 項のプレス・リリースに関する条項とも関連するが、当該取引を行おうとしている事実を秘密としたい場合は重要となるので必ず入れるようにすること。一方、日本企業側で当該取引を行おうとしていることを発表することを検討している場合には、削除することを検討してもよい。また、括弧を付している第(6)号および第(7)号については、相手方から一方的に秘密情報の開示を受ける場合には、秘密情報の範囲を明確にするために、このような規定を設けることも考えられる(その場合には柱書の「その開示の態様を問わず」は削除する必要があるので留意すること)が、日本企業からも秘密情報を開示する場合には、関与する担当者に秘密情報であることを必ず相手方に伝えなければならないことを周知徹底しておかないと、秘密と言い忘れたがために保護されないことになるので注意する必要がある。なお、実際の情報のやりとりにおいては、秘密情報か否かの明示や事後の確認通知の管理ができない場合も多くあるので、日本企業が秘密情報の出し手となる場合であって、当該明示や通知を確実に行うのが難しいと判断した場合は、第(6)号および第(7)号は削除してよい。
第 2 条 [秘密情報](xxx)
2. 前項の規定にかかわらず、以下のものは秘密情報に含まれない。
(1) 開示当事者から受領当事者へ開示された時点で、既に公知であったことを[書面によって]立証できるもの
(2) 開示当事者から受領当事者へ開示された時点で、既に受領当事者が正当に保有していたことを[書面によって]立証できるもの
(3) 開示当事者から受領当事者へ開示された後、受領当事者の責めによらないで公知となったことを[書面によって]立証できるもの
(4) 受領当事者が正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を課せられることなく正当に入手したことを[書面によって]立証できるもの
(5) 開示当事者および受領当事者が秘密情報から除外することを書面によって合意したもの
(6) [受領当事者が開示当事者から開示された秘密情報によらずに独自に開発したことを[書面によって]立証できるもの]
2. Notwithstanding the preceding paragraph, the following shall not be deemed to be Confidential Information:
(1) any information which can be proven [by written evidence ] that such information is already in the public domain as of the date of disclosure by Disclosing Party to Receiving Party;
(2) any information which can be proven [by written evidence ]that such information is legally owned by Receiving Party as of the date of disclosure by Disclosing Party to Receiving Party;
(3) any information which can be proven [by written evidence ]that has come into the public domain after disclosure by Disclosing Party to Receiving Party but not through the fault of Receiving Party;
(4) any information which can be proven [by written evidence ]that is legally obtained by Receiving Party without being restricted by any obligation of confidentiality from a third party who has a lawful right to disclose the same;
(5) any information which the parties have agreed in writing to exclude from Confidential Information; and
(6) [any information which can be proven [by written evidence ]that Receiving Party has independently developed without reference to Confidential Information disclosed by Disclosing Party]
第 2 条 [秘密情報](xxx)
2. 第(1)号ないし第(4)号については、日本企業が秘密情報の受け手となる場合には、書面による立証が負担となり得るので、括弧内を削除することを検討してよい。括弧を付している第(6)号については、相手方から秘密情報の開示を受けるにあたって、日本企業が既に相手方と競合する開発を行っている場合などにはこのような規定を設けることも考えられるが、日本企業が一方的に秘密情報を開示する場合には、このような規定は設けなくてもよい。秘密情報に関する条項については、日本企業側がむしろ情報の出し手となるのか、日本企業側がむしろ情報の受け手となるのか、または、情報を相互に出す関係になるのか、という事実認識をきちんとした上で、日本企業側がむしろ情報の出し手となる場合は、出し手としてどのような条項が自己に有利または不利か、一方、日本企業側がむしろ情報の受け手となる場合は、受け手としてどのような条項が自己に有利または不利かをよく考えることが肝要である。
第 3 条 [秘密保持]
1. 受領当事者は、秘密情報を秘密として保持し、本契約に明示された目的以外の目的に使用してはならない。本契約は、開示当事者が、受領当事者に対して、本契約に明示された目的以外の目的のために、または、本契約に明示された目的のために必要最小限度の範囲を超えて、秘密情報を使用する権利を許諾するものではない。受領当事者は、開示当事者の事前の書面による承諾なくして、秘密情報に基づいて特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権その他の知的財産権の出願または登録等を行ってはならない。
2. 受領当事者は、秘密情報を自社の従業員[(受領当事者に派遣されている者を含む。以下同じ。)]または役員に開示する場合には、本契約の目的上必要な者に対して必要な範囲でのみ開示しなければならず、かつ、当該従業員または役員に対し、[本契約に定める義務と同等の/適切な証書等をもって、本契約に定める義務と同等の/別紙の内容による]秘密保持義務を課し、これを遵守させなければならない。在職中に秘密情報を受領した従業員または役員が退職する場合も同様とする。
3. 受領当事者は、前項に基づいて秘密情報の開示を受けた者がその秘密保持義務に違反した場合、第 6 条に定める損害賠償責任を負う。
Article 3 [Confidentiality]
1. Receiving Party shall not use Confidential Information for purposes other than those expressly stated in this Agreement. This Agreement does not provide that Disclosing Party grants to Receiving Party the right to use Confidential Information for purposes other than those expressly stated in this Agreement or beyond the minimum necessary for the purposes expressly stated in this Agreement. Receiving Party shall not, without prior written consent of Disclosing Party, apply for; register, etc., patents, utility models, designs, trademarks, copyrights or other intellectual property rights based on Confidential Information.
2. Receiving Party may disclose Confidential Information only to its employees [(including persons who are dispatched to Receiving Party)] or directors who have a need to know such Confidential Information and only to the extent necessary, and shall impose on such directors and employees obligations of confidentiality [providing for equivalent obligations as those set forth in this Agreement/providing for equivalent obligations as those set forth in this Agreement by an appropriate deed or other form/as set forth in Exhibit] and ensure full compliance of the same by such employees or directors. The same shall apply in the event of a termination of an employee or a director who has received Confidential Information during his or her tenure.
3. If any person to whom Confidential Information was disclosed pursuant to the preceding paragraph breaches his or her obligation of confidentiality, Receiving Party shall be liable for damages arising from such breach as set forth in Article 6.
第 3 条 [秘密保持]
1. 「目的」の定め方については第 1 条参照のこと。
2. 派遣されている従業員を除外する場合には、一つ目の括弧内を削除されたい。秘密情報を開示する範囲について、従業員や役員のみならず、代理人を含めることを求められる場合があるが、範囲が不明確になりがちなので避けるべきである。専門アドバイザーを含めることを求められた場合は、「適用法令上守秘義務を負っている専門家」とすることが一案として考えられる。日本でいえば弁護士が典型例であり、これらの専門家は、法律上秘密保持義務を負っているので、秘密保持契約を別途交わす必要もない。但し、相手方国の法律を確認するのは困難な場合が多いので、かかる例外を設けることはせずに、第 4 項に従って開示する際には事前の承諾をとらせるようにするのがやはり無難である。その場合、承諾を与える前に当該専門家との間の秘密保持契約の内容(または法律上秘密保持義務を負う根拠)を確認することが望ましい。なお、括弧内の従業員および役員に秘密保持義務を課す義務については、相手方だけでなく、日本企業にも負担になるので、日本企業も情報の受け手となる場合には日本企業にとって実現可能な程度に留めざるを得ない。
第 3 条 [秘密保持](xxx)
4. 受領当事者は、第 2 項の場合を除き、開示当事者の事前の書面による承諾なしに、[直接または間接に、]秘密情報を第三者[(受領当事者の株主、外部専門家、子会社、関連会社、取引先、下請先および受領当事者の施設に立ち入る者を含むが、これらに限られない。以下同じ。)]に開示してはならない。受領当事者は、開示当事者の事前の書面による承諾に基づき、秘密情報を第三者に開示する場合には、当該第三者に対し、本契約に定める義務と同等の秘密保持義務を課し、これを遵守させなければならない。
5. [受領当事者は、第 2 項または前項に基づいて自社の従業員もしくは役員または第三者に秘密保持義務を課した場合には、開示当事者に対し、当該秘密保持義務を課された者の氏名および当該秘密保持義務の内容を示した書面を提出しなければならない。]
6. 受領当事者は、法令または裁判所もしくは行政機関の命令により秘密情報の開示を義務づけられた場合には、これを開示することができるが、開示当事者にその旨を適時に通知し[た上で協議し]なければならない。
7. 各当事者は、相手方の事前の書面による承諾なくして、秘密情報を含み、または、これを示唆するプレス・リリース[(当事者間の訪問や接触の事実の公表を含むが、これらに限られない)]を行ってはならない。
4. Except as set forth in Paragraph 2, Receiving Party shall not [directly or indirectly ]disclose Confidential Information to third parties [(including without limitation, Receiving Party’s shareholders, outside experts, subsidiaries, affiliates, counterparties, subcontractors or persons who enter Receiving Party’s facilities)] without the prior written consent of Disclosing Party. When Receiving Party discloses Confidential Information to third parties pursuant to the prior written consent of Disclosing Party, Receiving party shall impose on said third parties obligations of confidentiality providing for obligations equivalent to those set forth in this Agreement and ensure full compliance of the same by such third parties.
5. [When Receiving Party has imposed an obligation of confidentiality on its employees, directors or third parties pursuant to Paragraph 2 or the preceding paragraph, Receiving Party shall submit a document which states the name of such person and the content of such obligation of confidentiality.]
6. If Receiving Party is obligated to disclose Confidential Information by law or by court or governmental order, Receiving Party may disclose such Confidential Information, provided that Receiving Party shall notify Disclosing Party to that effect on a timely basis [and consult with Disclosing Party].
7. Either party shall not issue any press release that includes or suggests Confidential Information [(including without limitation announcement of any visit or contact between the parties)] without prior written consent of the other party.
第 3 条 [秘密保持](xxx)
5. 第 2 項の括弧内の従業員および役員に秘密保持義務を課す義務と同様、当該秘密保持義務を課された者の氏名および当該秘密保持義務の内容を示した書面の提出義務は、相手方だけでなく、日本企業にも負担になるので、日本企業も情報の受け手となる場合には日本企業にとって実現可能な程度に留めざるを得ない。日本企業にとって実現不可能である場合には、本項を削除するか、相手方にのみ義務を課す規定に修正するべきである。
6. 受領当事者が法令または裁判所もしくは行政機関の命令により秘密情報の開示を義務づけられた場合、これを開示することはやむを得ないが、開示当事者がその旨を把握することができるようにしておくべきである。そこで、「通知」を義務づけているが、秘密情報の内容によっては、さらに括弧内の「協議」を義務づけることも考えられる。
7. 秘密情報そのものの開示は、第 1 項で禁止されているが、プレス・リリース等による情報の開示をコントロールしておきたい場合は、これを改めて禁止する必要がある。また、間接的な事実を示唆することにより情報をリークされることも少なくないことから、規定の実効性を確保するためには、括弧内のように禁止される態様を具体的に列挙しておくことが望ましい。なお、本条は禁止をする方向での規定となっているが、例えば、「必ず事前の協議をした上でプレス・リリースをする。」と規定するなど、将来のプレス・リリースを約束しておきながら、必ず事前協議を行わせるという規定の仕方もあり得る。第 2 条第 1 項第(5)号に関する解説も参照のこと。
第 4 条 [秘密情報の管理]
1. 受領当事者は、秘密情報の管理について管理責任者を定めなければならず、かかる管理責任者は、善良な管理者の注意義務をもって秘密情報の保管、閲覧、複製、配布、伝達、送信、廃棄等について厳重に管理し、記録しなければならない。
2. 受領当事者は、秘密情報が文書である場合には、これを施錠のできる保管庫等に保管し、その際の鍵は、管理責任者が管理しなければならない。受領当事者は、秘密情報が電子化情報である場合には、これを暗号化して管理しなければならない。
3. 受領当事者は、開示当事者から要請を受けた場合、秘密情報の管理について報告しなければならない。
4. [開示当事者またはその代理人は、秘密情報の管理のために必要があると認める場合には、秘密情報に関する受領当事者の記録を検査し、または、受領当事者の施設に立ち入って検査することができる。]
Article 4 [Management of Confidential Information]
1. Receiving Party shall appoint a control manager for the management of Confidential Information and such control manager shall strictly manage and record storage, access, reproduction, distribution, conveyance, transmission, disposition, etc. of Confidential Information with the care of a good manager.
2. If Confidential Information is a document, Receiving Party shall store such document in a locked cabinet and the key to such cabinet shall be under the control of the control manager. If Confidential Information is in an electronic form, Receiving Party shall secure such information through the use of encryption.
3. Receiving Party shall report to Disclosing Party on Receiving Party’s management of the Confidential Information upon Disclosing Party’s request.
4. [If Disclosing Party deems it necessary for the management of Confidential Information, Disclosing Party or its agent may audit the records of Receiving Party regarding the Confidential Information or enter and inspect the facilities of Receiving Party.]
第 4 条 [秘密情報の管理]
4. アジアの各地域においては、秘密保持義務を契約書で規定したとしても、かかる義務を課すことのみによってその遵守を担保するのが難しいことも多くある。そこで、実務的に有効な担保手段として、秘密情報の物理的管理を出来るだけ厳格にしておくことが考えられる。第 4 条第 2 項はその管理方法の一例を定めるが、これらに限らず、実効性があると思われる管理手段があれば積極的に採用することを考えて良い。一方、これらの管理を厳重に行うことや記録または施設の検査を受けることは、相手方だけでなく、日本企業にも負担になるので、日本企業も情報の受け手となる場合には日本企業にとって受容可能な程度に留めざるを得ない。日本企業にとって受容不可能である場合には、本項を削除するか、相手方にのみ義務を課す規定に修正するべきである。
第 5 条 [秘密情報の返還または廃棄]
受領当事者は、開示当事者から要請を受けた場合または本契約が終了した場合、秘密情報を記録した媒体(その複製物を含む)の一切を開示当事者の指示に従 って返還または廃棄[し、開示当事者に対してその旨の証明書を交付]するもの とする。
Article 5 [Return or Disposition of Confidential Information]
Receiving Party shall, upon Disclosing Party’s request or expiration of this Agreement, return or dispose of all recorded media containing Confidential Information (including copies) as instructed by Disclosing Party [and deliver to Disclosing Party a certificate thereof].
第 6 条 [有効期間]
1. 本契約の有効期間は、本契約締結の日から○年とする。
2. 前項の規定にかかわらず、第 3 条の規定は本契約終了後も有効に存続する。
Article 6 [Term and Survival]
1. This Agreement shall be effective for ○ years after the execution hereof.
2. Notwithstanding the preceding paragraph, Article 3 shall survive the expiration of this Agreement.
第 7 条 [損害賠償]
受領当事者が本契約に違反したときは、開示当事者はこれによって被った損害の賠償を請求することができる。
Article 7 [Remedies]
If Receiving Party breaches this Agreement, Disclosing Party may claim damages incurred by such breach against Receiving Party.
第 5 条 [秘密情報の返還または廃棄]
括弧内のように、証明書の交付を要求して、返還および廃棄の実効性を確保することが考えられる。なお、複製物を含み返還させる旨の規定となってはいるが、悪意をもって複製された複製物が返還されることは期待されないので、第 4 条第 2 項に規定する方法その他の手段により、複製そのものが困難となるような管理方法を採用させることが望ましい。
第 6 条 [有効期間]
秘密保持義務の存続期間については、「食品産業の意図せざる技術流出対策の手引き(平成 20 年 3 月 農林水産省総合食料局 食品産業の意図せざる技術流出対策に関する作業部会)」(以下、「手引」という。)22 頁参照。
第 7 条 [損害賠償]
第 8 条 [紛争解決]
(仲裁)
1. 本契約に関連する当事者間の一切の紛争であって、当事者間の協議により解決できないものは、仲裁によって解決するものとする。
2. 仲裁地は、[香港/シンガポール/当事者に別段の合意がない限り、被申立人の居住する地のある国]とする。
3. 仲裁は、[仲裁協会]の仲裁規則にしたがって行われるものとする。
4. 仲裁判断は、最終的なものであり、当事者を拘束する。
5. [仲裁は、3 名の仲裁人によって行われるものとする。各当事者が仲裁人を 1名ずつ選任し、その 2 名が 3 人目の仲裁人を選任させる。ただし、その 2 名が 3 人目の仲裁人を選任しないときは、仲裁協会がその規則にしたがって 3 人目の中立的な仲裁人を選任する。]
6. [仲裁手続において使用される言語は、英語とする。]
Article 8 [Dispute Resolution]
(Arbitration)
1. All disputes between the parties relating to this Agreement, and that cannot be settled by consultation between the parties, shall be settled by arbitration.
2. The place of arbitration shall be [Hong Kong/Singapore/the country in which the respondent resides].
3. Arbitration shall be conducted in accordance with the arbitration rules of the [Name of Arbitration Association].
4. The arbitral award shall be final and binding upon the parties.
5. [The arbitration is to be held before a panel of three arbitrators. Each party shall choose an arbitrator and request the two (2) selected arbitrators to choose a third arbitrator. If the two (2) selected arbitrators fail to select a third arbitrator, [Name of Arbitration Association] shall appoint the third neutral arbitrator in accordance with its rules.]
6. [The language to be used in the arbitral proceedings shall be English.]
第 8 条 [紛争解決]
仲裁と裁判のいずれかを選択すること。なお、具体的な選択基準については、手引 25 頁参照。国によっては、日本との間で判決の相互承認・執行を定めた条約がなく、または日本が相手方の国の判決の執行を過去に認めなかったことを理由として、日本と相手方の国の裁判所の判決を相互に執行することができない場合があるので注意すること。中国はその一例であり、この場合、相手方の国での裁判所を管轄裁判所とすることが考えられるが、国によっては、裁判制度自体が信頼できないことも多く、むしろ仲裁を選択したほうがよい場合が多い。また、裁判は通常公開であるのに対し、仲裁は非公開であることから、営業秘密を守るために仲裁が利用しやすいという側面もある。
(仲裁)
2. 仲裁地の選択については、手引 25 頁参照。①日本の仲裁機関を選択すると、コストの点でメリットがあるが、相手方の国が外国の企業(ここでは日本企業)に有利な外国(ここでは日本)での仲裁判決を承認することに消極的な国である場合、当該相手方の国での執行が事実上困難な場合があるというデメリットがある。②相手方の国の仲裁機関を選択すると、執行可能性の点でメリットがあるが、出張費用・通訳費用等のコストがかかり、かつ、仲裁自体の中立性が保たれない場合があるというデメリットがある。③被申立人の国の仲裁機関で申し立てなければならないとすると、コストその他の観点から相手方が仲裁を申し立てることを躊躇しやすいというメリットがあるが、例えば、日本企業が仲裁を申し立てたのに対し、同時に相手方も仲裁を申し立てると、両方の国で仲裁が進行してしまう場合があるというデメリットがある。④第三国の仲裁機関を選択すると、やはりコストがかかるというデメリットがあるが、中立性を保てるというメリットがある。なお、第三国の仲裁機関を選択する場合には、当該仲裁機関における仲裁判決が、相手方の国(および執行の対象となりうる相手方の財産が存在する国)で執行できるかを必ず確認すること。
6. 仲裁規則に言語についての定めがない場合、当事者の合意がなければ、それぞれの仲裁機関が決めることになり、この点については、ほとんど確実に、仲裁を行う国の言葉になると予想される。したがって、言語はあらかじめ契約書で指定しておくことが望ましい。
※ 仲裁条項については、手引 25 頁参照。基本的には、①仲裁をすることの合意
(第 1 項)、②仲裁地(第 2 項)、③仲裁機関の名称(第 3 項)を規定する必要
があり、その他に、④適用される仲裁ルール(第 3 項)、⑤仲裁人の数、選定
方法(第 5 項)を規定するのが通例であり、必要に応じて、⑥仲裁言語(第 6項)を定めておくこともできる。仲裁合意の必要条件を法律で定めている国もあるので、事前に確認することが望ましい。
第 8 条 [紛争解決](xxx)
(裁判管轄)
本契約に関連して当事者間において訴訟を提起する必要が生じたときは、[東京地方裁判所]を第xxの専属的合意管轄裁判所とする。
(Jurisdiction)
The parties shall submit to the exclusive jurisdiction of [the Tokyo District Court] with respect to any dispute arising from this Agreement between the parties.
第 8 条 [紛争解決](xxx)
(裁判管轄)
1. 管轄裁判所の選択については、手引 25 頁参照。専属的管轄裁判所の合意(指定された裁判所以外の裁判所での裁判を排除する合意)をするメリットは、自己が訴えられる側である場合に、管轄裁判所が限定されているため、予測可能性が担保される点にある。これに対し、専属的管轄裁判所の合意のデメリットは、自己が訴える側である場合に生じる。例えば、国によっては、仮差押えを申し立てる場合には、同時に本訴を申し立てなければならないとされている場合があり、専属的合意管轄裁判所の管轄に属しない財産を仮差押えすることができなくなってしまう。(例えば、相手方の財産が存在する X 国では同時に本訴を申し立てなければ仮差押えを申し立てることができないことを看過して、 X 国以外の国の裁判所を専属的合意管轄裁判所とした場合、X 国で本訴を申し立てることはできないため、X 国に存在する相手方の財産を仮差押えすることができなくなってしまう)。また、国毎に、その国で外国判決を執行できる国と執行できない国があり、専属的合意管轄裁判所の判決を得ても、執行しようとする財産が存在する国では執行できないことがあり得る(例えば、相手方の財産が存在するA 国ではB 国の判決は執行できるがC 国での判決は執行できないことを看過して、C 国の裁判所を専属的合意管轄裁判所とした場合、当該裁判所の判決を得ても、A 国に存在する相手方の財産については執行できなくなってしまう。)。このように、日本企業が情報の出し手であり、裁判を起こす可能性が比較的高い当事者である場合は、専属的合意はデメリットが生じる可能性があり、むしろ、「非専属合意管轄裁判所」としておいたほうがよい場合も多い(例えば、執行の対象となりうる相手方の財産が P 国と Q 国に存在し、P国では日本の判決は執行できるが Q 国の判決は執行できず、Q 国では日本の判決もP 国の判決も執行できない場合、専属的合意管轄裁判所として日本、P 国、 Q 国のいずれの裁判所を選択することも望ましくなく、むしろこれらの非専属合意管轄裁判所としておいたほうがよい場合もある。)。
なお、仲裁と裁判のどちらを選択するか、その仲裁地または管轄裁判所をどこにするかは、相手方の要求も聞かねばならず、また何がベストであるかということを判断するのが難しい場合が多い。ある程度妥協をすることを視野にいれて、案件毎にメリットとデメリットを分析して、より有利な選択をするように心がけざるをえないが、法律上執行できない選択をすることだけは絶対に避けること(例:相手方が中国の場合に、日本の裁判所を専属的管轄裁判所にすること)。なお、仲裁合意は裁判所での裁判を排除する合意なので、仲裁合意と裁判管轄合意を同時に規定してはならない。
第 9 条 [準拠法]
本契約は日本法を準拠法とし、日本法に基づいて解釈されるものとする。
Article 9 [Governing Law]
This Agreement shall be governed by and construed in accordance with the laws of Japan.
第 10 条 [言語]
本契約は[英語]をxxとするものとする。本契約につき参考のために翻訳が作成される場合においても、英語のxxのみが契約としての効力を有するものとし、翻訳は何の効力も有しないものとする。
Article 10 [Language]
The governing language of this Agreement shall be [English]. If a translation hereof is made for reference purposes, only the English original shall have the effect of a contract and such translation shall have no effect.
第 9 条 [準拠法]
準拠法の選択については、手引 26 頁参照。日本企業にとって日本法を準拠法とすることが一番良いことはいうまでもない。日本法を準拠法とすることができない場合、相手方の国の法律を準拠法とするのではなく、中立の第三国の法律を準拠法とすることも多い。英国法やニューヨーク州法など広く利用されている法律を準拠法とすると、弁護士の確保、紛争解決の見通しの立てやすさの点でメリットがあるが、日本が採用しているいわゆる大陸法とは違う法体系であり、損害賠償その他の点についての基本的な考えが異なることがあるため、裁判や仲裁になった場合に、日本の法務関係者には見通しの予測等が難しくなるというデメリットがある。また、本契約は日本法を準拠法とする場合の例文なので、準拠法が他の国の法律になった場合に、各条項の執行可能性を確実にしておきたい場合は、当該国の弁護士にその有効性を確認してもらう必要がある。
第 10 条 [言語]
日本語で交渉した場合には、日本語をxxとすることが望ましいが、英語または現地語をxxとしなければならない場合には、日本語および英語または現地語の両方をxxとし、齟齬がある場合には英語または現地語が優先すると規定することも考えられる。中国など一部の国では両方の言語をxxとすることがプラクティスとして定着している場合もあるが、両者に齟齬があった場合にどちらによるべきか不明確になるので、本来的には薦められるものではなく、できる限りどちらの契約が優先するかについて規定しておくこと。
本契約の締結を証するため、本書 2 通を作成し、甲乙記名押印の上、各1 通を保有する。
IN WITNESS WHEREOF, the parties hereto have executed this Agreement in duplicate by placing their signatures and seals hereon, and each party shall keep one of the originals.
[年月日]
[Date]
甲:[住所]
[会社名]
[役職] [名称]
Party A: [Address] [Company Name] [Title] [Name]
乙:[住所]
[会社名]
[役職] [名称]
Party B: [Address] [Company Name] [Title] [Name]
[別紙 誓約書]
[Exhibit Confidentiality Pledge]
【 解 説 】
本契約書条文文例及びその解説は、一般的な雛型として作成したものであるため、個別の事案については必要に応じて弁護士等の助言を得てご対応ください。本契約書条文文例及びその解説は、財団法人食品産業センター又は検討委員会の委員の所属する団体の意見を表明するものではなく、その使用によって生じ得る責任を負うものではありません。
【条文文例
】
「食品産業の意図せざる技術流出対策」英文版契約条文案作成に係る検討委員会委員名簿
(敬称略、五十xx)
◎ :座長
xxx xx ハウス食品(株) 管理本部法務・知的財産部知的財産課長
◎xx xx (社)日本食品・バイオ知的財産権センター 専務理事
x xx xx・xx・xx法律事務所 弁護士
xx x 日清オイリオグループ(株) 知的財産管理室長
xx xx サントリー(株) 知的財産部課長
xx x xx・xx・xx法律事務所 弁護士