Contract
建設工事請負契約の契約不適合責任に基づく契約解除の範囲
筑波大学大学院
ビジネス科学研究群法学学位プログラム
2022年3月修了
学籍番号 2 0 2 0 4 0 0 0 6
xx xxx
目次
第2節 改正後の民法上での契約不適合責任に基づく契約解除 17
第2款 文理解釈上の解除の容易性に対する議論の不十分性 30
本研究は、民法(債権法)改正(「民法の一部を改正する法律(平成 29 年法律第 44 号)」
による。)によって改正前民法 635 条但書が削除されたところ、土地工作物についてどのような場面において、契約不適合責任に基づき契約解除ができるか、民法上の解除規定の解釈の方向性を明らかにするものである。
1 改正民法の内容
改正民法では、土地工作物に関して「瑕疵担保責任」に基づく解除を制限していた改正前民法 635 条但書(以下、便宜的に改正前民法における条文を「旧某条」、また改正民法における条文を「新某条」と呼ぶ。)が削除された。
従来は、同但書によって、土地工作物の建設工事請負契約においては、目的物の完成後、当該目的物に瑕疵があった場合でも、注文者は契約の解除をすることができなかった。しかし、改正民法では、旧 635 条全体が削除され、土地工作物の解除制限が廃止されるとともに、瑕疵担保責任が債務不履行責任に一本化されたことによって請負固有の契約不適合解除の規定自体も置かれなくなり、解除の一般規定(新 541 条・新 542 条)に一元化されることとなった。従って、改正民法下では、土地工作物完成後、土地工作物に契約不適合がある場合は、解除の一般規定の要件を満たせば、注文者は建設工事請負契約を解除することができることになったのである。
2 旧 635 条但書とその評価
しかし、重大な瑕疵があり安全性に問題があるような建物が請負人によって作られた場合に、当該建物を建て替える費用の損害賠償請求を請負人に認めるべきかどうかという問題については、裁判例・学説で見解が分かれていた。この問題とはすなわち、旧 635 条但書によると、土地工作物には瑕疵があっても契約解除できないとの帰結になるところ、建替費用相当額の損害賠償請求が認められるのであれば、原状回復として土地を更地状態にする
1 xxx『債権各論中二』640-641 頁(岩波書店,1962)、xxx=xxxx編『新注釈民法⑯』〔xxxx〕152 頁(有斐閣,1989)。
契約解除と同様の結果を実現し、加えて再築の費用負担も請負人に認めることになるため、強行規定である旧 635 条但書の趣旨に反するのではないかというものである。
この議論に対して、最判平成 14 年 9 月 24 日判時 1801 号 77 頁(以下「平成 14 年判決」という。)が裁判所としての立場を決定づけた。この判例は、「重大な瑕疵があって建て替えるほかない建物について、建替費用相当額の損害賠償請求を請負人に対してすることを認めても、改正前民法 635 条但書の規定の趣旨に反しない」と判示し、重大な瑕疵があっ
て建て替えるほかない建物においては、旧 635 条但書が適用されないことを認めたのである。
この平成 14 年判決が契機となり、法制審議会民法(債権関係)部会(以下「部会」という。)では、もはや土地工作物について解除制限の規定を設ける必要はないとの理由で、旧 635 条但書が削除されたのである。
3 改正民法下での問題点
れにも関わらず、部会では旧 635 条但書の意義自体を否定し、当該規定を削除した。さらに、解除一般規定の制定過程では、土地工作物の解除制限撤廃を意識した議論は行われないまま、新たな解除規定が制定されている。その結果、改正民法での解除規定(新 541 条・新
542 条)を文理解釈すると、平成 14 年判決が認めた「重大な瑕疵があって建て替えるほかない建物」に至らない契約不適合の場合でも、土地工作物の請負契約における契約解除が認められることになったようである。このように解除が容易になっているようであるが、果たしてそれで妥当な帰結となるのであろうか、というのが本研究における問題意識である。
この問題に対して、個別の契約で妥当な帰結となるように条件を定めれば問題にならないという考え方もあるところ、日本で広く普及している建設工事請負契約の約款では、解除に関する要件が、民法上での規定の不明確性及び帰結の非妥当性を是正するようなものにはなっていない。この約款とは、たとえば中央建設業審議会 3が制定した建設工事標準請負契約約款(令和元年 12 月 13 日改正)や、民間団体 4による「民間(七会)連合協定工事請負
2 一部の学説(xxxx『民法講義Ⅳ-1』695 頁(有斐閣,2005))では、平成 14 年判決は、旧 635 条但書の意義を否定したとするものもある。
3 中央建設業審議会は、建設業法(昭和 24 年法律第 100 号)第 34 条に基づき、建設業法、公共工事の前払金保証事業に関する法律及び入札契約適正化法によりその権限に属させられた事項を処理するため、国土交通省に設置された機関である(1949 年設置)。
4 建設関連七団体による。構成団体は、(一社)日本建築学会、(一社)日本建築協会、(公社)日本建築家協会、(一社)全国建設業協会、(一社)日本建設業連合会、(公社)日本建築士連合会、(一社)日本建築士事務所協会連合会。
契約約款」(令和2年4月改正)(以下「民間連合約款」という。)がある。これら約款も民法改正後に改定されているが、改定版(なお、中央建設業審議会が制定した複数の建設工事標準請負契約約款にあっては、説明に当たって「公共工事標準請負契約約款」(以下「標準約款」という。)を参照することとする 5。)では、無催告解除規定にて、「契約不適合が目的物を除却した上で再び建設しなければ、この契約の目的を達成できない場合は、注文者は無催告解除できる(標準約款 48 条 4 号、民間連合約款 31 条の3第1項(f))」こと
が定められた。しかし、それ以外の解除の定めは、改正民法条文と同様の内容(標準約款 47
条 5 号、民間連合約款 31 条の2第 1 項(d))であり、また解除に伴う措置は「工事の完成後にこの契約が解除された場合は、解除に伴い生じる事項の処理については発注者及び受注者が民法の規定に従って協議して決める(標準約款 54 条 9 項、民間連合約款 33 条 6項)」ことになっており、契約による民法の解除規定の修正及び補足がほとんど認められない。
そこで、本研究では、改正民法下での土地工作物の請負契約について、契約不適合に基づく契約解除が認められるべき妥当な範囲について検討を行う。なお、建設工事は一般に土木及び建築に分類されるが、本研究は裁判例の蓄積がある建築を対象とする。
本研究は、まず改正前民法下における旧 635 条但書に関連する建設工事請負契約上の諸
論点を確認した上で、部会での旧 635 条但書削除に関する議論及び削除理由、並びに改正民法上で新たに設けられた解除規定を確認する。次に、改正民法の解除規定による具体的な問題点を掘り下げた上で、これに対してどのように改正が検討されてきたのかを確認する。これらの法改正の経緯を踏まえた上で、建設工事請負契約の特徴を考慮し、契約不適合解除における妥当な解除範囲及び解釈の在り方について検討を行う。最後に、標準約款及び民間連合約款における当該解釈の反映を提言する。
1 通説
改正民法では旧 635 条但書が削除されたが、まずは同但書がどのような趣旨の規定であったかを確認する。
旧 635 条の規定は、「仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達するこ
5 中央建設業審議会が定める約款として、このほかに「民間建設工事標準請負契約約款(甲)」、「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」、「建設工事標準下請契約約款」がある。なお、本稿で参照する約款の解除条件と同一の定めが置かれている。
とができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。」ことを定め、同但書において、「ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。」として土地工作物に関しては瑕疵があり契約目的を達成することができないときも、契約の解除をすることができないこととしていた。
この但書の趣旨について、通説は、土地工作物には多くの資材や労力が投下されており、瑕疵があるからといって契約の解除を認めると、工作物に何らかの利用価値があっても請負人はそれを除去せざるを得ず、それは請負人にとって過酷で、かつ、社会経済的な損失も大きいためだとされていた 6。また、本条は強行規定と解されてきた 7。
なお、土地工作物とは、建設工事請負契約の目的物とされ、土木及び建築に分けられる。本稿で対象とする建築は、用途及び様態によって、戸建住宅、共同住宅(マンション・アパート)、事務所ビル、商業施設(商店、デパート、スーパーマーケット、遊技場)、工場棟の種別がある 8。
2 通説に対する批判
前1のとおり通説が旧 635 条但書の意義を説く一方、旧 635 条但書の意義自体を批判す
第2款 民法改正による旧 635 条但書削除の趣旨
1 改正前民法下における紛争処理状況
(1) 旧 635 条但書と仕事完成前の債務不履行解除
民法改正前は、旧 635 条但書によって、土地工作物を目的物とする建設工事請負契約の目的物完成後は、瑕疵があっても解除をすることはできなかった。一方で、解除が制限されていたのは「瑕疵担保責任」に基づく解除に限定されていたのであって、「債務不履行」を原因とする完成前の契約解除は可能と解されていた 10。
契約解除がされると、契約によって生じた法律効果は遡って消滅し当事者は原状回復義
6 xx・前掲注(1)640-641 頁、xxほか編・前掲注(1)152 頁。
7 xx・前掲注(1)640-641 頁、xxほか編・前掲注(1)152 頁。
8 xxx「建築訴訟の現状と課題」xxxx編『日本法制の改革:立法と実務の最前線』18 頁,24 頁(中央大学出版部,2007)。
9 xxxx『契約規範の構造と展開』251 頁-252 頁(有斐閣,1991)。
10 xx・前掲注(1)641 頁。
務を負うことになる 11。しかし、そうすると仕事完成前でさえあれば、どんなに仕事が完成に近づいていた場合であっても、注文者は債務不履行解除が可能であることから、この解除が行われた場合には、請負人は一切の報酬を受け取れないままに、出来形分を原状回復しなければならないということになる。これでは請負人としては仕事の遂行が報われない。
この問題に対して、従来裁判例は、「債務の既履行部分に対する解除を認めず、未履行部分に対する解除のみを認める」という対応をとってきた。古い判例(大判昭和 7 年 4 月 30
日民集 11 巻 780 頁)では、学校校舎の建設工事が八割完成していたところ、注文者が旧 641条に基づく任意解除を行ったという事案において、「給付が可分であり、かつ当事者が給付に利益を有するときには既に完成した部分の解除はできず、未完成部分に係る一部解除のみが認められる」と判示した。
その後も同様に、既履行部分の解除を認めない裁判例が出されてきた。既履行部分の解除を認めない理由としては、約定の内容だけではなく法定解除であったとしても、旧 635 条但書の法意に照らして、工事が相当程度進行した場合には原則既履行部分の契約解除は認められないとするのが相当とするもの(仙台高xx市判昭和 41 年 7 月 13 xxx集 19 巻4
号 316 頁。資金繰りの悪化により工事履行が不能となった事案。)、未完成ながら施工した部分に見合う報酬を請求できないこととするとxxx上相当でないと説明するもの(岡山地判昭和 46 年 1 月 18 日判時 625 号 90 頁)、工事請負契約では反対の意思表示をしない限り、既履行の出来高に対して報酬を支払うことが当事者の意思に適うとするもの(東京高判昭和 46 年 2 月 25 日判時 624 号 42 頁)、また建設工事請負契約の段階的な給付を考慮し継続的契約関係と同様に既履行部分の解除を否定するという解釈を取り入れることの合理性を説くもの(東京地判昭和 48 年 7 月 27 日判時 731 号 47 頁。建築基準法に違反した建物を
建築した事案。)、前掲大判昭和 7 年 4 月 30 日民集 11 巻 780 頁と同じ理由によるもの(札
幌高判昭和 52 年 3 月 30 日判タ 255 号 297 頁、最判昭和 56 年 2 月 17 日集民 132 号 129 頁
(以下「昭和 56 年判決」という。))などがある。
学説からも、建設工事請負契約の特殊性を鑑みると、契約の目的である給付(施工)は段階的な進行状態を示すものであるとし、その意味で給付は常に可分であるといえ、また請負人が給付した部分は、たとえ契約の目的に達しなくても、注文者にとってそれだけの価値があるのが通常であるから、その除却を求めるよりも、一定額の報酬を支払って未完成工事を引き取ることが合理的である場合が少なくないとの見解が示される 12。また、現実的な見方として、請負人や注文者にとって、履行途中の請負契約の解除について、既履行部分まで含めた原状回復義務を課すことは負担が大きいため、全面的な遡及効を認めることに反対する見解も見られた 13。
11 xx・前掲注(1)640 頁。
12 xxxx=xxxx『請負(新版)』221-222 頁(一粒社,1999)、xxxx=xxxx『土建請負契約論』91 頁以下(日本評論社,1950)。
13 xxほか・前掲注(12)92 頁、xxxx『契約法』485 頁(有斐閣,1974)、xxほか編・前掲注(1)
(2) 旧 635 条但書と仕事完成後又は既履行部分の重大な瑕疵
① 概要
② 契約の解除
一つは、重大な瑕疵がある場合には、仕事完成後と思われるような場面又は既履行部分であっても、注文者による契約の解除を認めるというものである。
裁判例としては、目的物たる建物に、建築基準法に適合しない耐火壁が設置されたという重大な瑕疵がある事案で、これを「仕事の完成前である」と整理し、未履行相当の部分について債務不履行解除を認めた裁判例(前掲東京地判昭和 48 年 7 月 27 日判時 731 号 47 頁)、上棟式まで行った建物を「未完成」であることを理由に債務不履行解除が可能であることをもって、「構造耐力上重要な部分に重大な瑕疵があり、工事を続行しても契約の目的を達成せず、全てを解体して地盤・基礎をやり直した上で再建築しなければならないものについては、社会経済的な価値は再利用可能な建築資材としての価値しかないため、履行不能として既履行部分の解除も可能」とした裁判例(東京高判平成 3 年 10 月 21 日判時 1412 号 109
頁)、既履行部分に関しても修補が不可能であることをもって旧 635 条本文を適用して契約
の解除を認めた裁判例(名古屋地判昭和 60 年 5 月 23 日判タ 562 号 136 頁)がある。
③ 建物建替費用相当額の損害賠償請求ア 概要
また、重大な瑕疵ある建物の修補費用として、注文者は請負人に対して損害賠償請求をすることができた。しかし、この損害賠償請求の範囲について、裁判例及び学説では大きく見解が分かれていた。
旧 634 条 2 項は修補に代わる損害賠償請求権を定めており、通説は、同項で認められる損害賠償の範囲は、瑕疵があることから生ずる全損害(履行利益)だと解していた 15。そのため、修補として建て替えが必要な建物に対して、注文者は建替費用相当額の損害賠償請求を求めることが可能と考えられた。また逆に、建替費用まで損害賠償の範囲として認めることは、旧 635 条但書の趣旨に反することになるとも考えられた。
イ 裁判例
(ア) 建物建替費用相当額の損害賠償を否定した裁判例
まずは、旧 635 条但書の規定を優先し、損害賠償の範囲を制限的に解した裁判例を確認
166 頁、xxほか・前掲注(12)183 頁。
14 xxxx「いわゆる欠陥住宅と建築請負人の責任」判タ 794 号 38 頁(1992)。
15 xx・前掲注(1)632 頁,637 頁、xxほか編・前掲注(1)120 頁。
する。
神戸地判昭和 63 年 5 月 30 日判タ 691 号 193 頁は、建物の主要構造部分に重大な瑕疵がある欠陥住宅が建てられたという事案である。この裁判例では、損害賠償請求において瑕疵により建物の価値が減少した分についてのみ損害を認めたものであり、後(ウ(ア))で説明する「交換価値差額説」を採る。判旨によれば、瑕疵修補のために建て替えを要する瑕疵については、修補が「社会通念上修補不能」の扱いとなるので、損害額を「修補に要する費用」と言うことはできないし、建替費用相当額の損害賠償請求を認めてしまうと旧 635 条但書で制限した解除以上の効果を認めることになるので、損害は「目的物の客観的な交換価値減少分」と解するのが妥当とした。また、東京地判平成 3 年 6 月 14 日判時 1413 号 78 頁も、新築住宅において、地下車庫に乗用車が乗り入れられない建物が建てられ、建て替えや大修繕をしなければこれが修補できないという場合に、前掲神戸地判昭和 63 年 5 月 30 日
判タ 691 号 193 頁と同様の理由で、建替費用相当額の賠償までは認めなかった。
(イ) 建物建替費用相当額の損害賠償を肯定した裁判例
次に、建物の建替費用相当額の損害賠償請求を認めた裁判例を確認する。
大阪高判昭和 58 年 10 月 27 日判タ 524 号 231 頁は、賃貸アパートを含む4階建てビル の建設請負で、建物の主要構造部分に重大な欠陥があるという事案である。判旨は、構造上 安全の保持を期待できない場合など目的物たる建物が建て替えるほかないような場合には、その建替費用が、瑕疵のない目的物の価格相当額に当たるとして損害額を認定した。大阪地 判昭和 59 年 12 月 26 日判タ 548 号 181 頁は、木造2階建ての建物に、基本的、構造的部 分に重大な瑕疵がある事案で、技術的に修補可能とは言えないとしても、再建築する方が経 済的であることを理由として瑕疵修補に代わる損害賠償請求として、建替費用相当額の損 害賠償請求を肯定した。大阪地判昭和 62 年 2 月 18 日判時 1323 号 68 頁は、鉄骨4階建の 建物において基礎構造の欠陥に基づく不等沈下により傾斜が生じている等の瑕疵がある事 案で、部分修復をすることも不可能ではないものの現実的に施工するのは極めて困難であ るから、いかに部分修補の方が安いといっても再築をする方が合理的であるとし、建替費用 相当額の損害賠償を認めた。なお、大阪高判xxx年 2 月 17 日判時 1323 号 83 頁は、前掲
大阪地判昭和 62 年 2 月 18 日判時 1323 号 68 頁の控訴審であり、原審を踏襲する。長崎地
xxx判平成 12 年 12 月 22 日判タ 1109 号 166 頁は、木造セメント瓦葺2階建て居宅兼診療所において、基礎構造、壁構造、木構造等に欠陥があり、これを補修するには大半の部分で解体の上再施工を要することから、結局、取り壊して建て替える方法によらざるを得ないとし、建替費用相当額の損害賠償を認めた。また、安全性に欠けた建物に対しては、請負人に不法行為責任が認容されてきており、その一事例として神戸地判平成 23 年 1 月 18 日判
時 2146 号 106 頁は、軽量鉄骨 2 階建建物に基礎の欠陥及び使用上の欠陥を認め、損害賠償額は補修費用で足りるとしながら費用を積み上げた結果、建替費用と同額の損害賠償請求を認めた。
ウ 学説
(ア) 建替費用相当額の損害賠償否定説(xxxx)
建替費用相当額の損害賠償を否定するxxxxの説は、裁判例に大きく影響を与えた 16。xxxxは、建物に重大な瑕疵があったとしても、請負人に対して損害賠償請求できる範囲は、目的物の価値が下落した範囲にとどまるという「交換価値差額説」を主張した 17。この説は、旧 635 条但書の趣旨を支持するxx 18・xx 19の考えに依拠し、建替費用相当額の損害賠償請求を否定する理由として、①建替費用の損害賠償請求を認めると請負契約の解除を認めたことと同等以上のことを認めることになり、旧 635 条但書の趣旨に反するという点、②建替費用の賠償は、瑕疵ある建物の居住と再築分の損害賠償請求の、又は瑕疵ある建物の無償居住と耐用年数の延びた再築建物の二重取りが生じる点で注文者に過大な利益を与えるという点、③建替費用の賠償は瑕疵修補の概念とは相いれないという点を挙げている 20。③に関しては、「瑕疵が重大である場合においても、それを修補する際に建物を取り壊し、その土台や基礎コンクリート打ちからやり直す必要があるような場合や、瑕疵の修補が物理的には不能ではなくても、作り直すか、またはこれに匹敵する大修繕を必要とする修補は、社会観念上不能なものとして扱うべきであり、このように修補が不能であっても、注文者は損害賠償請求ができるとするのは不合理ではないか」というのがxxxxの主張である 21。また、注文者がもともと要求していた建物が手に入らなかったとしても、旧 635条但書が完成後の解除を否定していることとの均衡からいって、やむを得ないと述べる 22。
(イ) 建替費用相当額の損害賠償肯定説
他方、建替費用賠償肯定説を採る学説は多数ある 23(xx 24、xxxx 25、xxxx 26、
16 xx・前掲注(9)243 頁も述べるとおり、前「イ(ア)建物建替費用相当額の損害賠償を否定した裁判例」は、xxxxの論拠と同様の判旨を述べ、また「イ(イ)建物建替費用相当額の損害賠償を肯定した裁判例」についても、xxxxの論拠を踏まえての検討を行っているといえる。
17 xxxxは、損害賠償額から居住利益を控除すべきだとする論も主張する。
18 xx・前掲注(1)640-641 頁。
19 xxほか編・前掲注(1)152 頁。
20 xxx「最近の裁判例からみた請負に関する諸問題」判タ 365 号 50 頁,54 頁(1978)、xxx「請負建築建物に瑕疵がある場合の損害賠償の範囲」判タ 725 号 4 頁,8 頁(1990)。
21 xx・前掲注(20)最近の裁判例からみた請負に関する諸問題 54 頁。
22 xx・前掲注(20)最近の裁判例からみた請負に関する諸問題 54-55 頁。
23 xxx「判批」別冊ジュリ 200 号 150 頁,151 頁(2010)によると、平成 14 年判決によって近時肯定説に好意的な傾向が見られるとのこと。また、部会でも「第 16 回議事録」58-59 頁〔xx幹事発言〕 (xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)が肯定説に立った見解を述べる。
24 xx「判批」判タ 698 号 21 頁(1989)。
25 xxxx「判批」法時 61 巻 9 号 104 頁,106 頁(1989)。
26 xx・前掲注(9)235 頁,252 頁。
xxx 27、xxx 28、xxxx 29、xxxx・xxxx 30、xxxxx・xxx之 31、xxx 32、xxxxx 33、xxxx 34、xxxxx 35)。
これらの学説が建替費用の賠償を認める論拠としては、①旧 635 条但書の規定は瑕疵があっても当該建物になお価値がある場合に適用されるのであって、建物が無価値の場合には例外的に適用がないという点 36、②無価値な建物の撤去費用は、請負人に負担させるのがxxであるという点 37、③解除を制限して、全く役に立たないものを存置させることの方が、社会経済的に問題であるという点を述べる 38。
④ 平成 14 年判決の登場
その後、最高裁が初めて旧 635 条但書との関係で、再築費用の損害賠償請求を認めることを判じた平成 14 年判決が登場する 39。この判例は、重大な瑕疵が複数存在した住宅(代金 4352 万 2000 円)に関して、瑕疵を修補するには建て替えるしかないとして、建替費用相当額の損害賠償請求を認めたものである。第xxでは、瑕疵担保責任に基づく修補に代わる損害賠償(旧 634 条 2 項)として、建替費用全額の 4750 万円を認めた。第二審でも、建て替えざるを得ない建物は客観的な価値がないとして、第xx同様に建替費用相当額を認
27 xxx「建築請負建物の重大な瑕疵と建替費用相当額の損害賠償請求の可否」NBL764 号 68 頁,72 頁
(2003)。
28 xxx「瑕疵担保―建築家の責任をも加味して」法時 42 巻 9 号 38 頁,40 頁(1970)。
29 xx・前掲注(14)41 頁。交換価値差額説に対する批判として、「注文者がどうしてもその瑕疵に耐えられなければ、その建物を売って得た対価に請負人から獲得した損害賠償額を加えて新しく住居を取得すれば、当該請負契約によって獲得できるはずであった住宅と同価値の住宅を手に入れることができるはずであるという前提のもとに成り立っている」ことが不適切であると述べる。
30 xxほか・前掲注(12)173 頁。またxxxx「住宅建設における消費者法の課題―紛争の現状とその法的処理を中心として」私法 55 号 197 頁(1993)では、注文者が非専門家である住宅建設分野においては、注文者に契約の目的が達成できないほどの建物が立てられることの監理機能が働かないので、旧 635条但書が妥当しないと説く。
31 xxxxx=xxxx『不完全履行と瑕疵担保』160-161 頁(一粒社,1998)は、改正前民法下で解除を認める根拠として、請負人の手抜き工事により倒壊の危険性を孕む場合というのは民法起草者の予想しなかった場面であり、このような場面では請負人の瑕疵担保責任に加えて不完全履行責任が並存していると考え、不完全履行責任に基づく解除とすればよいと述べる。なお、この考え方は不完全履行の規定を一切排除する通説(xx・前掲注(1)641 頁)とは異なっている。
32 xxx『請負における瑕疵担保責任』3 頁(成文堂,2006)。
33 xxxxx『債権各論(第 3 版)』86 頁(有斐閣,2003)。
34 xxxx「判批」法教 272 号 106 頁(2003)。
35 xxxxx「判批」法セ 580 号 112 頁(2003)。
36 x・前掲注(24)27 頁、xx・前掲注(25)106 頁、xx・前掲注(9)251-252 頁。
37 x・前掲注(24)27 頁、xx・前掲注(25)106 頁、xxほか・前掲注(12)173 頁。
38 x・前掲注(24)27 頁、xx・前掲注(25)106 頁。
39 xxxx「判批」別冊ジュリ 249 号 169 頁(2020)、xxx監修『改正民法(債権法)における判例法理の射程』〔xxx〕636 頁(第一法規,2020)。
容した。そして、最高裁でも、「第二審の判決は 635 条但書に反するものではない」として請負人の上告が棄却された。
最高裁判旨は、旧 635 条但書の趣旨が、利用価値がある工作物の除去をしなければならないことは請負人にとって過酷であり、土地工作物の解除は社会経済的損失も大きいため、解除を制限している旨を述べた上で、「しかし、請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかない場合に、当該建物を収去することは社会経済的に大きな損失をもたらすものではなく、また、そのような建物を建て替えてもこれに要する費用を請負人に負担させることは、契約の履行責任に応じた損害賠償責任を負担させるものであって、請負人にとって過酷であるともいえないのであるから、建て替えに要する費用相当額の損害賠償請求をすることを認めても、同条ただし書の規定の趣旨に反するものとはいえない。したがって、建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には、注文者は、請負人に対し、建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができるというべきである。」として、例外的な場面での 40再築費用の損害賠償請求を認めた。本判決は、建て替えざるを得ないほど重大な瑕疵がある建物は社会価値がないことから、旧 635 条但書の趣旨である「建物の社会経済的損失論」を否定し、また請負人が履行すべき責任を果たさず瑕疵ある建物を建てたという点をもって、契約の履行責任論に基づき請負人が費用を負担しても過酷とは言えないとして、「請負人の過酷さ」を否定している 41。なお、平成 14 年判決に対しては、改正前民法下において、判旨は否定説の論拠を打ち消したにすぎず、強行規定たる旧 635 条但書との抵触について論理的な説明がないと批判する見解も見られた 42。
2 部会での議論
(1) 立案担当官による旧 635 条但書削除の説明
建物完成後の瑕疵に関し損害賠償請求が可能な範囲は、旧 635 条但書を前提に裁判例や
学説の見解が分かれていたが、平成 14 年判決を経て、改正民法では旧 635 条但書が削除された。これにより、債務不履行解除の一般的な規律に従い、建物完成後の契約解除が可能となった。
旧 635 条但書削除に関し、改正民法の立案担当官は次のような解説を行っている。「契約 目的を達成できないような重大な瑕疵のある土地の工作物を解除を制限して維持したとし ても、注文者がこれを利用して社会経済的な利益の増進が図られるとは限られない。そして、判例(最判平成 14 年 9 月 24 日)は、建築請負の目的物に重大な瑕疵があるために建て替 えざるを得ないような事案について、注文者が建替費用相当額の損害賠償を請求すること
40 xxxxx「判批」民商 131 巻 2 号 315 頁,318 頁(2004)。
41 xxx「判批」別冊ジュリ 192 号 158 頁,159 頁(2008)、xxxx「建物の安全と民事責任」立命 350
号 189 頁,206 頁(2013)。
42 xx・前掲注(23)151 頁。
ができるとしており、このように請負人が解除時の負担に匹敵するような損害賠償請求を 負うにもかかわらず、解除を制限することの合理性を説明することは困難になっていた。43」また、部会資料では、次のとおりもう少し具体的な説明が行われている。「(①)…もっと
も、民法第 635 条ただし書は、資源が乏しかった立法当時の社会経済事情を背景に、経済的に価値のあるものはできる限り維持すべきであって破壊すべきではないとの考えに基づいて規定されたものであり、土地工作物に重大な瑕疵が存在する場合であっても、なおその土地工作物には何らかの利用価値があるという認識が前提となっていた。すなわち、瑕疵のために土地工作物が全く無価値であるという事態は想定されていなかった。そうすると、重大な瑕疵のために全く利用価値がない土地工作物については、同条ただし書の趣旨はあてはまらず、その適用を排除すべきであると考えられる。判例は、建築請負の目的物に重大な瑕疵があるために建て替えざるを得ない場合には、注文者は建替費用相当額の損害賠償を請求することができるとしている(最判平成 14 年 9 月 24 日判時 1801 合 77 頁)。この判例は、建物を収去することを前提としており、瑕疵の程度によっては解除を認めた場合と同様の負担を請負人が負うべき場合があることを認めている。もっとも、請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合に、最終的に建物を収去することを前提に建替費用相当額の損害賠償請求を認めるのであれば、端的に解除そのものを認めるべきであるとも考えられる。」「(②)…平成 14 年最判は、請負人が建築した建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合について判断したものであるから、その射程は、土地の工作物に重大な瑕疵があるものの、なお何らかの利用価値がある場合には及ばず、…解除は認められないということになる。もっとも、何らかの利用価値はあるとしても、契約の目的を達成することができないほど重大な瑕疵がある土地工作物について、社会経済的な損失を理由に解除を否定することは必ずしも合理的ではないと考えられる。…契約目的を達成することができない土地工作物について、注文者が当初の契約目的とは異なる目的で使用するか、あるいは土地工作物の利用を希望する第三者を見つけて利用させるなどして、その価値を適切に活用するのは容易ではなく、仮に可能であるとしても、それは注文者に過大な負担を強いるものである。そうすると、仮に解除を制限し、土地工作物を収去せずに維持したとしても、その価値が有効に活用されることを期待することは必ずしも現実的ではない。
…他方、土地工作物を除去することは請負人にとって大きな負担ではあるが、重大な瑕疵のある土地工作物を作った以上、その負担を負うこともやむを得ないと考えられる。44」
これによれば、説明(①)では、旧 635 条但書は、資源が乏しかった改正前民法の立法当時の社会的事情が大きく反映され、土地工作物に利用価値があるという前提のもと定められていた規定であることから、重大な瑕疵があり土地工作物が全くの無価値になる場面が想定されておらず、現代において利用価値がない土地工作物が生じている実態に適してい
43 xxxx=xxxx『一問一答民法(債権関係)改正』342 頁(商事法務,2020)。
44 部会資料 72♙「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(6)」6-7 頁(平成 25 年 12 月 10
日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
ないという説明として挙げる。そして、平成 14 年判決を取り上げた上で旧 635 条但書が排除される場面を最高裁が認めたこと、そうであるなら損害賠償だけではなく解除も認められて良いはずであることを指摘している。また、説明(②)では、平成 14 年判決の射程である「重大な瑕疵があって建て替えるほかはない場合」に留まらず、「何らかの利用価値はあるとしても、契約の目的を達成することができないほど重大な瑕疵がある土地工作物」についても、解除を制限すべきではないことを述べる。その理由は、注文者が何らかの利用価値があるものの契約の目的を達していない土地工作物の価値を適切に活用するのは、容易ではない又は注文者の過大な負担となる一方で、請負人は重大な瑕疵のある土地工作物を作った以上、その負担はやむを得ないからということである。
(2) 部会での審議の経緯及び意見
① 旧 635 条但書の削除について
では、こうした旧 635 条但書の削除を決定的なものとするまで、部会ではどのような審議が行われたのであろうか。
同条但書削除に関しては、審議の出発点となる「民法(債権関係)の改正に関する検討事項」(以下「検討事項」という。)の段階から見直し対象項目として取り上げられていた 45。
「検討事項」では、平成 14 年判決が旧 635 条但書を修正したと評価する見解 46があること
も取り上げ、旧 635 条但書を廃止する考え方や、建て替えを必要とする場合に限って解除を可能とするという考え方があることが示されていた 47。
その後審議が進められ 48、本論点に対して委員らから次のコメントがあった。xx委員からは「検討事項」の考え方に対して、「目的物が土地の工作物であっても比較的容易に解除できることになるという解釈を生む危険がある」との懸念が示され 49、またxx幹事からは、平成 14 年判決の判例法理の評価を「『重大な瑕疵』というのは単に『大きい』というこ
45 部会資料 17-1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12)」4-5 頁(平成 22 年 10 月 19 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
46 xx(x)・前掲注(2)695 頁。また、平成 14 年判決は「重大な瑕疵がある場合に同条本文に基づいて契約解除を認める可能性をはらんでいる」との見解を示すものとして、xx・前掲注(34)107 頁、xxxx「判批」法時 75 巻 10 号 101 頁,103 頁(2003)(但し、xxは欠陥住宅に対する検討)。
47 部会資料 17-1・前掲注(45)4-5 頁。
48 部会資料 24「中間的な論点整理のたたき台(4)」4-5 頁(平成 23 年 2 月 22 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、部会資料 26「中間的
な論点整理案」137-138 頁(平成 23 年4月 12 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)
(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、「中間的な論点整理」146 頁(平成 23 年 4 月 12 日決定)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、「中間的な論点整理の
補足説明」359-360 頁(平成 23 年 4 月 12 日決定)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令
和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
49 部会「第 16 回議事録」59 頁〔xx委員発言〕(平成 22 年 10 月 19 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
とではなく、飽くまでも『建て替えざるを得ない』場合であることと、この判決を正確に言えば『建て替えを前提とする救済を認めた』わけではなく『建替費用相当額の損害賠償という救済を与えた』ことに留意すべきだ」というコメントが出された 50。いずれも、検討内容が改正前民法の定めから実質的に変更を加えられることになることから、慎重に検討を行うべきとの注意喚起である。
また、「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(平成 23 年 4 月 12 日決定)
(以下「中間的な論点整理」という。)後に寄せられたパブリックコメントは、同条但書の削除に肯定的なものが多いが、必ずしも賛成の意見ばかりではない 51。意見の内訳としては、削除を肯定するものが 18 件、例外的な場面で肯定するものが3件、削除に反対するも
のが 6 件である。
「中間的な論点整理」後には、各種業界団体からのヒアリングも行われた。この時には、建設事業者団体から、同条但書削除に対する懸念が示されている。(一社)住宅生産団体連合会は、「平成 14 年判決は真摯に受け止めているが、現実問題として建物を収去するというのは大変なことなので、どんな場合に解除が認められるかという点は慎重に議論し、明確な基準を出してほしい。また解除を認めなくても建て替えや損害賠償請求で注文者は保護できる。52」との意見を出している。また、(一社)日本建設業連合会は、「平成 14 年判決の判例法理を明文化するにしても、当該判決事案の目的物が居住用木造建物であるという特殊性があるため、それを一般的に土地工作物に適用するには慎重であるべきであるし、建物だけではなく土木工作物も含まれるとすれば、社会的・経済的な損失が大きいため反対である。53」「トンネル、ゴルフ場といった地盤に密着した土木構築物に関しては物理的に原状回復が無理であり、修補でしか対応できない。54」という意見が出されている。
このような意見が寄せられたものの、その後の「民法(債権関係)の改正に関する論点の
50 部会「第 24 回議事録」6-7 頁〔xxxx発言〕(平成 23 年 2 月 22 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
51 部会資料 33-7「『民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理』に対して寄せられた意見の概要
(各論6)」70-74 頁(平成 23 年 11 月 15 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4
年 1 月 15 日最終閲覧)。なお、部会「第 56 回議事録」38 頁〔岡委員発言〕(平成 24 年 9 月 11 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)によると、弁護士会では、土地建物解除制限削除は賛成が圧倒的多数であり、一部の反対派でも「瑕疵が重要でない場合」を削除し、一般原則に従って柔軟に再構成するという方向には賛成が多数とのことであった。
52 (社)住宅生産団体連合会「『民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理』に対する意見」4頁(平成 23 年 6 月 7 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、部会「第 27 回議事録」49 頁〔xxxxx発言〕(平成 23 年 6 月 7 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
53 (社)日本建設業連合会「法制審議会民法(債権関係)部会 第 28 回会議説明資料」3 頁(平成 23 年
6 月 21 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
54 (社)日本建設業連合会・前掲注(53)3 頁、部会「第 28 回議事録」3 頁,6-7 頁〔xxxx発言〕(平成 23 年 6 月 21 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
検討」55では、旧 635 条但書の削除案が提示され、この問題を個別の契約に委ねることとされた 56。なお、この削除案に関して、部会での委員らによる特段の議論はない。
さらに審議が経過し、「民法(債権関係)の改正に関するxxxx」(平成 25 年 7 月 4 日
補訂)(以下「xxxx」という。)57の記述によれば、平成 14 年判決は「建物に重大な瑕
疵があって建て替えるほかない場合」のことを判断しているだけで、旧 635 条但書の内容を実質的に修正したものではないとあるが、建物に利用価値があったとしても、契約目的を達成できない以上は解除を制限すると注文者に過大な負担を強いることをもって、引き続き同条但書削除をする案を採用している 58。以後、削除をする案のまま審議が進められ 59、要綱案に至っている 60。
② 旧 635 条本文の削除について
改正民法ではこの旧 635 条但書だけではなく、旧 635 条本文自体も削除されている。理由は、債務不履行に基づく解除規定のほかに、請負固有の解除規定を設けておくことの意義がないためと説明される 61。「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台」(以下「要綱案のたたき台」という。)では、旧 635 条本文の削除について次のように説明している。
「伝統的な考え方によれば、この規定は、解除を制限し、請負人に無過失責任を課す点で、債務不履行の特則であると同時に、売買の瑕疵担保責任(同法第 559 条で有償契約に準用)の特則でもあると理解されている。もっとも、仕事の目的物に瑕疵があることは債務不履行の一場面であることから、契約の解除の一般原則において、債務不履行による解除には債務者の帰責事由が必要であるとする考え方を採らずに、債務不履行による解除の要件として債務者の帰責事由の有無を問題としない考え方を採ることとした場合には、民法第 635 条本文と、契約の解除の一般原則における規律の内容が重複し、同条本文の特則としての意義
55 部会資料 46「民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(18)」18 頁以下(平成 24 年 9 月 11 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
56 部会資料 46・前掲注(55)18-20 頁、部会・前掲注(51)第 56 回議事録 35 頁以下。
57 「民法(債権関係)の改正に関するxxxx」68 頁(平成 25 年 7 月 4 日補訂)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、「民法(債権関係)の
改正に関するxxxx(概要付き)」171-172 頁(平成 25 年 7 月 4 日補訂)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、「民法(債権関係)の
改正に関するxxxxの補足説明」479-481 頁(平成 25 年 7 月 4 日補訂)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
58 xxxxの補足説明・前掲注(57)479-481 頁。
59 部会資料 72♙・前掲注(44)5-7 頁。部会「第 94 回議事録」41 頁(平成 26 年 7 月 15 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)では、xx幹事が旧
635 条但書削除について賛成の意を示す。「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」56 頁(平成 26
年 8 月 26 日決定)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx) (令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
60 部会資料 84-1「民法(債権関係)の改正に関する要綱案の原案(1)」58 頁(平成 26 年 12 月 16 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
61 xxほか・前掲注(43)342 頁。
第2節 改正後の民法上での契約不適合責任に基づく契約解除第1款 契約不適合責任に基づく契約解除の規律内容
1 目的物に契約不適合がある場合の改正民法規定
(1) 債権者の権利
改正民法では、「瑕疵」から「目的物が契約の内容に適合しない(以下「契約不適合」という。)」との概念への転換が行われると共に、契約不適合時の注文者の権利が整理された。契約不適合時の改正民法における注文者の権利は、追完請求権(新 562 条)、代金減額請求
権(新 563 条)、損害賠償請求(新 415 条)、解除権(新 541 条・新 542 条)である。また、
新 564 条では、追完請求権、代金減額請求権が行使可能な場合であっても、損害賠償請求又は解除権の行使が可能である旨を定めている。
(2) 解除における債務者の帰責性の非要件化
本研究が検討対象とする解除権は、民法改正でどのような改正がされたであろうか。
改正民法による解除の改正事項の一つとして、改正前民法における履行不能又は履行遅滞による解除が債務者の帰責性を要求していたのに対して、改正民法では一律解除に債務者の帰責性が不要となった 63。
この改正は、解除制度の捉え方が変わったことによるものである。一般的に解除制度の設計は、次の四つの要素のうちどれを重視するかで異なるという。①本来的な契約の拘束力、
②履行を得られない債権者の契約からの解放の必要性(これによって債権者は代替取引を実現でき、原状回復により引き渡した物や金銭の返還を受けられる)、③債務不履行をした債務者が不利益を負わされてもやむを得ないと考えられる一方で、なお考慮が必要とされる債務者の契約利益、④債務不履行における債権者の救済手段として「履行請求・損害賠償」と「解除」とどちらを優先すべきか(履行請求権を第xx的なものと考えるか否かという体系的観点といずれの救済方法が事後のコストが全体として小さくなるかという実際的観点とがある。)、が四つの要素である 64。改正前民法では、①と③が重視されており、債務不履行解除には債務者の帰責性が必要だというのが通説的見解であったところ、次第に②を重
62 部会資料 72♙・前掲注(44)6 頁。
63 xxほか・前掲注(43)234 頁。
64 xxxx『契約法』194 頁(有斐閣,2021)。
視する見解 65が強くなっていた 66。債務者に帰責事由がある場合でなければ契約の解除を することができないとすると、債権者は、債務不履行があっても契約に拘束され続けるため、天災等により債務の履行の目途がたたない状況であっても、その契約に代わる他の取引先 との契約をする等の対応をとることも躊躇せざるを得なくなる。従って、改正民法では債務 の履行を怠った債務者にサンクションを課すのではなく、債務の履行を得られない債権者 を契約の拘束力から解放するところに解除制度の意義があると理解することとし、そう考 える以上は債務者に帰責事由があることには理論的にも解除の必須要件ではないと整理さ れた 67。そうして、債務不履行時の解除に債務者の帰責性は不要とされたのである 68。
65 有力説として、xxxx「契約の解除の効力―とりわけ双務契約を中心として」xxxほか編『現代契約法大系第2巻』181 頁(有斐閣,1984)、xxxx「契約解除と帰責事由」xxxほか編『xxxx先生追悼論文集第二巻 契約法』331 頁以下(信山社,1993)。
66 xxxx『新債権総論Ⅰ』555 頁以下(信山社,2017)、xx・前掲注(64)194 頁。
67 xxほか・前掲注(43)234 頁。
68 部会資料 68♙「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(3)」25 頁以下(平成 25 年 10 月
29 日)、xxxxの補足説明・前掲注(57)135-136 頁、xxほか・前掲注(43)234 頁。
69 部会「第4回議事録」20-21 頁〔xx幹事発言〕(平成 22 年 2 月 23 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。その他に債務不履行時の債務者側の事情について検討するものを挙げると、部会資料 5-1「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)」14 頁(平成 22 年 2 月 23 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年
1 月 15 日最終閲覧)での債務者側の事情を考慮する結果、「解除原因となった不履行の様態」によって原
状回復の範囲に差を設けるかという検討事項に対して同第4回議事録 30 頁〔xx委員・xxx幹事発
言〕は理解を示す。解除の可否において債務不履行の程度を評価する際に債務者の事情を考慮する考えとして、部会「第 39 回議事録」34 頁〔xx幹事発言〕, 36 頁〔xx幹事発言〕(平成 24 年 1 月 17 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。なお、同 38 頁〔xx
委員発言〕(平成 24 年 1 月 17 日)によると、債務者の事情を考慮して解除を認めない場面の実務例として、東日本大震災時の履行遅滞解除の場面を挙げている。
70 部会・前掲注(69)第 39 回議事録 35 頁〔xx関係官発言〕。
(3) 催告の要否による解除規定の再区分
改正民法による解除の二つ目の改正事項としては、改正前民法の解除規定が履行遅滞や履行不能といった債務不履行の様態に応じた区分がされていたのに対し、改正民法では催告の要否に応じて解除の規定を設けた点がある 71。具体的には、催告をしたものの催告後の相当期間経過後の債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微でない場合に解除を認める催告解除(新 541 条)と、もはや催告は無意味である場合に解除を認める無催告解除(新 542 条)の二類型が用意された 72。
2 催告解除(新 541 条)
(1) 催告解除の意義
新 541 条によって催告解除ができる場面は、債務者が債務不履行を起こした際に、債権者が相当な期間をもって催告をしたものの、債務不履行が、完全には是正されなかったという場面である。但し、同条但書によって「期間経過後の債務不履行が、その契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除ができない。
(2) 催告解除規定の但書「軽微であるとき」の意義
① 但書制定の契機となった判例
ア 改正前民法と判例法理との不整合問題
この催告解除(新 541 条)規定の但書の定めは、改正前民法下の最判昭和 36 年 11 月 21
日民集 15 巻 10 号 2507 頁(以下「昭和 36 年判決」という。)の明文化であると説明される
74。また部会では、最判昭和 43 年 2 月 23 日民集 22 巻 2 号 281 頁(以下「平成 43 年判決」という。)も解除の範囲を画する判例として但書制定に向けて検討された。
71 xx・前掲注(64)197 頁。
72 催告解除と無催告解除の統一的な正当化原理がないと批判するものとして、xxxx「契約の解除」法時 86 巻 12 号 30 頁,32-33 頁(2014)。
73 xxxx『民法(債権関係)改正法の概要』241 頁(金融財政事情研究会,2017)、xx・前掲注(66) 558 頁。なお、同説は、当初の債務不履行後の催告に対して債務者が無応答であったという債務者の態度を加味する説を採り、債務者の帰責性の要件なしに催告解除を認める場面について、債務不履行・催告・相当期間の経過をもって、「広い意味での重大な契約違反の一類型である」との整理を行っている。
74 部会資料 79-3「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その1)補充説明」13-14 頁(平成 26 年 6 月 10 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、xxほか・前掲注(43)236 頁。
改正前民法の解除規定については、部会としては、履行遅滞解除、履行不能解除を定めた旧 541 条や旧 543 条は解除となる不履行債務を何ら限定していないのに、判例(大判昭和
14 年 12 月 13 日大審院判決全集7巻 4 号 10 頁及び昭和 36 年判決)は付随的義務違反に係る解除を否定しており、規定と運用とが整合していないという点を課題として、検討が進められた 75。
x xx 36 年判決
催告解除規定の但書制定の根拠ともなった昭和 36 年判決を確認する。付随的義務違反に
よる解除を否定したとする昭和 36 年判決の事案の内容は、土地の売買契約成立後、買主が本来負担すべき公租公課を支払わず、売主が催告した後も支払いを行わなかったため、売主が当該売買契約の解除を主張して争ったというものである。判旨は次のとおりである。「租税負担義務が本件売買契約の目的達成に必須的でない附随的義務に過ぎないものであり、特段の事情の認められない本件においては、右租税負担義務は本件売買契約の要素でないから、該義務の不履行を原因とする上告人の本件売買契約の解除は無効である、というにあること判文上明白である。そして、法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は、契約の要素をなす債務の履行がないために、該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当である。」
これは大判昭和 13 年 9 月 30 日民集 17 巻 1775 頁の「契約の法定解除は『要素たる債務』の不履行があった場合に限られ、『付随的債務』に不履行があっても解除は認められない。また、債務が要素か付随的かは、その債務の履行により契約の目的が達成されたかどうかで判断される」という判例法理を踏襲するものとされている 76。なお、要素たる債務とは、債務の本来的かつ主要な部分をなすもの、契約をした目的を達成するために必要不可欠のもの、その不履行があれば契約をした目的が達成されないほど重要な債務であり、双務契約においては互いに対価的意味を有している債務 77であると言われ、これに対し付随的債務とは、昭和 36 年判決を参照し、契約をした主な目的の達成に必要不可欠でない債務であると言われている 78。
ウ 昭和 43 年判決
同様に部会で参照された昭和 43 年判決も土地の売買契約に関する事案であるが、付随的約款で定められている義務の不履行が、「契約目的達成に重大な影響を与える」債務である
75 部会資料 5-1・前掲注(69)10 頁以下。
76 xxxx「判批」別冊ジュリ 192 号 56 頁(2008)、xxxx「判批」別冊ジュリ 238 号 86 頁
(2018)。
77 xxxx『民法xx債権各論(第5版)』59 頁(有斐閣,1993)。
78 xxx「付随的債務の不履行と契約の解除」判タ 494 号 17 頁,18 頁(1983)。
判旨は次のとおりである。「売買契約締結の目的には必要不可欠なものではないが、売主
(被上告人)にとつては代金の完全な支払の確保のために重要な意義をもつものであり、買主(上告人)もこの趣旨のもとにこの点につき合意したものであることは原判決(その引用する第xx判決を含む。)の判文からうかがわれる。そうとすれば、右特別の約款の不履行は契約締結の目的の達成に重大な影響を与えるものであるから、このような約款の債務は売買契約の要素たる債務にはいり、これが不履行を理由として売主は売買契約を解除することができると解するのが相当である。」
② 但書に「軽微であるとき」との文言が採用された経緯
昭和 36 年判決と昭和 43 年判決という「付随的義務違反等の軽微な義務違反であれば、解除は認められない」との判例法理をどう明文化するか、という点で部会では盛んに議論が交わされた 80。
「検討事項」では、(♙ 案)「重大な不履行」や「契約の目的を達成できないこと」を解除 要件とする考え方と、(B 案)「不履行になった債務の質」を要件とする考え方が提案されて いた 81。これら案の提案理由としては、(♙ 案)のうち「重大な不履行」要件については、 比較法的に見ても用いられていることが多いということであり 82、「契約の目的を達成でき ないこと」という要件については、旧 570 条(売主の瑕疵担保責任)及び旧 566 条(地上 xxがある場合等における売主の担保責任)の要件にも適合的な考え方であるということ であった 83。また、(B 案)については、債務の質を捉えて「要素たる債務」の不履行があ ることを解除要件とする改正前民法下での解除可否の考え方に即したものであったために、提案されたものであった 84。
「中間的な論点整理」後には、(♙ 案)の二案が残された 85。もっとも、(♙ 案)のうち「重大な不履行」案に対しては、かねてより批判があり、「重大な不履行」という要件が規範的な要件であるため解除の範囲が判例法理以上に狭まるのではないか 86、曖昧な要件である
79 xxx「判批」別冊ジュリ 238 号 88 頁,89 頁(2018)。
80 審議の内容を示すものとして、xxxxの補足説明・前掲注(57)132 頁以下。
81 部会資料 5-2「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(1)詳細版」62 頁以下(平成 22 年 1 月 26
日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
82 部会資料 5-2・前掲注(81)65 頁によると、♙ 案の「重大な不履行」は、国際物品売買契約に関する国際連合条約やヨーロッパ契約原則、ユニドロワ国際商事契約原則等が採用しており、国際的ルールの傾向に沿う。
83 部会資料 5-2・前掲注(81)65 頁。
84 部会資料 5-2・前掲注(81)65 頁。
85 部会資料 34「民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(6)」24 頁以下(平成 24 年 1 月 17 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
86 実務家からの懸念を紹介するものとして部会・前掲注(69)第4回議事録 9 頁〔岡委員発言〕。
ことから法的安定性が損なわれる 87という批判があったこともあり、「契約目的不達成」という要件に賛同の声があがった 88。この賛同の声を受けてか、その後「xxxx」では催告解除の阻却事由として、(♙ 案)を基礎に「契約をした目的の達成を妨げるものでないとき」という解除阻却要件が提示された 89。
しかし、これに対してもさらに批判の声が上がる。「債務不履行があっても債権者が契約目的を達することはできるが、不履行が軽微とはいえないという中間的な場面がある。この場合にも催告解除を認めるべきである」という批判 90や、「契約の目的不達成」は昭和 36 年判決を反映しているだけで判例法理として存在する昭和 43 年判決の内容が反映されていないのではないかという指摘 91、「契約の目的達成」が催告解除の但書に据えられると無催告解除との区分につき混乱を招くのではないかという指摘 92である。こうした指摘を経て、最終段階である「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案」では、解除阻却要件が「催告期間経過時の債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」という文言に変更された 93。
③ 「軽微であるとき」という解除阻却要件に対する批判ア 要件の曖昧性
長期的な審議を経て定まった「債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」という解除阻却要件に対しても、さらに批判がある。
一つ目に、要件の範囲が曖昧だという批判である。パブリックコメントでは実務家から、
「『軽微性』は規範的な判断になるので、より明確な基準が望ましく、具体的には『契約の目的、債務不履行の性質、内容及び契約における重要性、不履行の背信性ならびに不履行後の債務者の様態その他の事情に照らし、契約をなした主たる目的の達成に必須でない義務の軽微な不履行であるなど、不履行によっても契約を維持すべき正当な期待が失われていない場合には、解除できない。』とするなど、評価規範を分かりやすくし、予見可能性が高
87 部会・前掲注(69)第 4 回議事録 8 頁以下〔xxx幹事発言〕からの「重大な不履行」の概念に対する議論、同 9 頁〔xx委員発言〕。
88 部会・前掲注(69)第 39 回議事録 5 頁〔xx委員発言〕、同 6 頁〔xx幹事発言〕。
89 「民法(債権関係)の改正に関するxxxx」・前掲注(57)18 頁、「民法(債権関係)の改正に関するxxxxの補足説明」・前掲注(57)132 頁以下。
90 部会「第 78 回議事録」33-34 頁〔佐成委員発言〕(平成 25 年 10 月 8 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
91 部会・前掲注(90)第 78 回議事録 44-45 頁〔xx委員発言〕。
92 部会・前掲注(90)第 78 回議事録 38-39 頁〔xx(敬)幹事発言〕。
93 部会資料 79-1「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その1)」9 頁(平成 26 年 6 月 10
日)、部会資料 79-2「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その1)参考資料」11-12 頁
(平成 26 年 6 月 10 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、部会資料 79-3・前掲注(74)13-14 頁。
めるべきである」との意見が出ている 94。「検討事項」段階で「重大な不履行」案に対して曖昧との批判があったのと同様に、「軽微な不履行」という阻却要件についても曖昧な要件であると言えるのではなかろうか。
x xx 43 年判決の捉え方の不適切性
二つ目に、要件設定の前提として、「昭和 43 年判決は、昭和 36 年判決の射程にはなく、債務の不履行により契約の目的を達成できるにもかかわらず解除を肯定した判例である」と理解し、改正規定が契約の目的不達成とは別の軽微性による解除阻却要件を設けたことに対して、昭和 43 年判決の射程が適切に反映されていないという有力な批判がある 95。以前から昭和 43 年判決の位置づけについては諸説あった 96が、この批判は、昭和 43 年判決は「付随的約款の不履行が契約目的の達成に重大な影響を与える」ことを理由に当該債務が
「要素たる債務」に入るとし、平成 36 年判決と同様に当該「要素たる債務」の不履行を理由として契約の解除ができることを判示した判例だとの考えを基礎におく 97。そうした考えをとるべきとする論拠としては、その他の判例(最判昭和 45 年 3 月 3 日判時 591 号 60
頁、最判平成 11 年 11 月 30 日判時 1701 号 69 頁)をみても、契約を締結した目的を達成できるかどうかという昭和 36 年判決と同じ判断基準を取っていることも取り上げる 98。また、この批判は、昭和 43 年判決は催告解除の阻却要件について判示した判例ではなく、解除が認められない場合の軽微性を述べた判例でもないことから、催告解除の要件制定に参照するには不適切であると説く 99。
④ 「軽微であるとき」の範囲を画する検討
ア 「軽微な債務不履行」と「契約の目的達成」
こうした批判がある中で、「軽微であるとき」という但書の消極的要件の範囲を画する検討が試みられている。
まず、「債務不履行が軽微であるとき」と「契約の目的を達成しているとき」の範囲の異同が問題となる。立案担当官の説明によれば、「xxxx」時の催告解除の阻却要件案「契約をした目的の達成を妨げるものでないとき」に対する批判に従って、催告解除は、債務不
94 部会資料 33-2「『民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理』に対して寄せられた意見の概要
(各論1)」245-246 頁〔大阪弁護士会〕(平成 23 年 11 月 15 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和 4 年 1 月 15 日最終閲覧)。
95 部会「第 91 回議事録」12-13 頁〔xx幹事発言〕, 同 14 頁〔xx(敬)幹事発言〕(平成 26 年 6 月 17 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)、xx・前掲注(73)240 頁、xx・前掲注(72)32 頁。
96 昭和 43 年判決の捉え方について整理するものとして、xx・前掲注(79)89 頁。
97 xx・前掲注(73)240 頁、xxxx「判批」曹時 20 巻 5 号 149 頁,154 頁(1968)、xx・前掲注
(72)32 頁。xxxx「判批」別冊ジュリ 196 号 91 頁(2009)、xx・前掲注(76)56 頁も昭和 43 年判決について同じ理解をする。
98 xx・前掲注(72)32 頁。
99 xx・前掲注(73)240 頁。
履行があって「契約をした目的を達することができない」という程度に至らないときにも契約関係を解消する余地を認める観点から、「軽微」という概念が設けられたとの説明をしている 100。すなわち、「債務不履行が軽微であるとき」は「契約の目的を達成しているとき」とは異なる範囲を意味しており、さらに「契約の目的を達成しているとき」より「債務不履行が軽微であるとき」の方が狭い範囲を示していることになるので、「契約目的の不達成」を解除要件として契約目的を達成していれば解除が認められなかった旧 570 条(売主の瑕
疵担保責任)及び旧 566 条(地上xxがある場合等における売主の担保責任)より解除要件が緩和されたということになる 101。また、「重大な不履行」という要件が検討されている際に述べられた見解として、「『重大な不履行』は債務者の不履行の様態を評価しているのに対し、『契約の目的不達成』は、不履行の内容そのものとは少し距離の空いた要件の立て方がなされている」102というものがあるが、この要件として質が異なるという考察は、
「重大な不履行」を「軽微な不履行」を置き換えても妥当するだろう 103。
「債務不履行が軽微であるとき」と「契約の目的を達成しているとき」が異なる概念であるとされる一方で、立案担当官及び学説からは、軽微性判断に際しては、「契約の目的達成・不達成」が最も重要な考慮要素になるとの見解が示されている 104。部会でも「催告によって、契約不適合の度合いが小さくなるが、それでもなお契約を維持できない場合のことを『軽微でない』と呼んでいるのではないか。この点は、『契約の目的不達成』と全く同じではないにせよ、限りなく近いと言える」との意見が出ている 105。
イ 「軽微であるとき」の意義
債務不履行が軽微かどうかの判断は、その契約及び取引上の社会通念に照らして「不履行の様態や違反された義務の軽微性」をみて行うというのが部会当局の考えのようである 107。しかし、学説からは、それに加えて「不履行の態様や違反された義務の軽微性のいずれにつ
100 xxほか・前掲注(43)236 頁。
101 xx・前掲注(72)34 頁。
102 部会・前掲注(69)第 39 回議事録 36-37 頁〔xx(敬)幹事発言〕。
103 xx・前掲注(72)31 頁注9も「不履行が軽微かどうかと契約した目的を達成できるかどうかは、同じ次元における程度の問題といえないとも考えられる」と述べる。
104 部会・前掲注(59)第 94 回議事録 47 頁〔xxxxx発言〕、同 48 頁〔xx委員発言〕、xxほか・前掲注(43)236 頁,281 頁。xxxxx=xxxx「解除と危険負担」ジュリ 1516 号 52 頁,63 頁
〔道垣内発言〕(2018)では、「『その契約及び取引上の社会通念に照らして』という文言から自ずと『契約をした目的が』考慮される」と述べる。
105 部会・前掲注(59)第 94 回議事録 48 頁〔xx委員発言〕。
106 xx・前掲注(73)239 頁。
107 部会資料 79-3・前掲注(74)13 頁。
いても、債務者の追完・追履行に要するコストと、相当期間経過後の本旨に従った履行を受けられないことによる債権者の不利益を、比例原則(過剰介入禁止・過少保護禁止)の視点から比較衡量したとき、履行の追完・追履行に過分の費用を要するため、契約の拘束から離脱することに向けられた債権者の解除の主張が過大なものと評価されるかどうかという観点から判断されるのが適切」との見解も示される 108。また、債務不履行に対する救済手段の相互関係を考える必要性から、代金減額で調整した方がよいという検討も軽微性判断に影響するとの見解もある 109。なお、催告をしたにも関わらず追完をしなかったという様態が、軽微性判断に影響するかどうかには見解が分かれる 110。
もっとも、軽微性によって解除が制限されるのは例外的場面であり、原則は催告後に債務不履行があれば、注文者は契約解除ができるという点には留意しなければならない 111。 ウ 「軽微であるとき」の実務での解釈
しかし、「債務不履行が軽微であるとき」と「契約の目的を達成しているとき」との違いについては、立案担当者からも前アのとおり説明されており、「契約の目的不達成」が解除要件とされていた改正前民法での瑕疵担保責任に基づく解除と改正後の実務の処理が大きくは変わらないと言い切れるかどうかは疑問である。
3 無催告解除(新 542 条)
無催告解除規定(新 542 条)は、催告をしてももはや意味がないという場面を具体的に各号に列挙し、無催告での契約解除を認める。
同条1項では契約の全部解除が可能となる場合が定められている。「債務の全部の履行が不能なとき(第1号)」、「債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(第2号)」、「債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目
108 xx・前掲注(73)240-241 頁。
109 x垣内ほか・前掲注(104)63 頁〔道垣内発言〕。
110 xxxxほか『講義 債権法改正』84 頁(商事法務,2017)。xx・前掲注(66)558 頁及びxx・前掲注(73)241 頁は肯定説を採る。また、部会において肯定的な見解を示すものとして、部会・前掲注
(69)第 39 回議事録 8 頁〔xx委員発言〕がこの立場と思われる。単に手続的な猶予とするものとして
部会・前掲注(69)第4回議事録 14 頁〔xx幹事発言〕、同 15 頁〔xx委員・xxxx発言〕。
111 xx・前掲注(66)567-568 頁。
112 部会「第 96 回議事録」19 頁〔金関係官発言〕(平成 26 年 8 月 26 日)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxx0/xxxxxx00000000.xxxx)(令和4年 1 月 15 日最終閲覧)。
的を達することができないとき(第3号)」、「契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき(第4号)」、「前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(第5号)」には無催告で解除できる。また同条 2 項では、契約の一部解除が可能となる場合が定められている。「債務の一部の履行が不能であるとき(第1号)」、「債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(第2号)」にはその部分の無催告解除ができる。
なお、新 542 条の要件に含まれる「不能」の判断においては、主たる債務と付随的債務とを分ける等、債務の内容毎に、契約の趣旨との関係で判断することになる 113。
4 催告解除と無催告解除の要件の比較
両者で要件が異なっていることの弊害の一つとして、不完全な履行はされたが「契約目的を達成することができる」場合には、追完が不能であっても無催告解除は許されず、追完が不能であるのに催告をして催告解除しなければならないという不合理な事態を生ずる可能性があるのではないかという指摘がある 115が、立案担当官からは、そのような場合の不履行はそもそも軽微な不履行といえ、催告解除自体が許されないと説明している 116。
1 規定の内容
土地工作物の完成後契約解除を認める一方で、改正民法では、前「第1節第2款1(1)旧 635 条但書と仕事完成前の債務不履行解除」で検討されてきた判例法理が、請負一般に適用されている。
新 634 条は、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に
113 xxほか・前掲注(110)79-80 頁。
114 xx・前掲注(76)86 頁。なお、改正前民法の解除規定との比較については「2(2)④ア『軽微な債務不履行』と『契約の目的達成』」のとおり。
115 xx・前掲注(72)32-33 頁。そのほかにも解除要件が異なることについて批判的見解を述べる。
116 xxほか・前掲注(43)239 頁。
応じて報酬を請求できることを定める 117。この規定の適用がある場面は、「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事の完成が不能になった場合(第1号)」、及び「仕事の完成前に解除されたとき(第 2 号)」である。1号事由に関しては、完成前の目的物に滅失・損傷が生じたが、再履行が不可能であるという場合(補修工事中に対象工事が消失した場合)が想定されるが 118、請負人に責めに帰すべき事由があって仕事が不能になったという場合も含まれる 119。
2 条文新設の経緯
(1) 昭和 56 年判決
新 634 条は、昭和 56 年判決(第1節第2款1(1)参照)を請負契約一般に明文化したものである 120。昭和 56 年判決は、住宅の建築を請け負った請負人が経営困難により工事を完成することができなくなった際に、注文者が当該工事の請負契約を解除した事案である。原審は、当該解除によって契約の全部について遡及的に解除されたとしたが、これに対する昭和 56 年判決の判旨は次のとおりである。「建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当である(大審院昭和 7 年 4 月 30 日判決民集 11 巻 8 号 780 頁参照)」。
(2) 条文制定の審議の経緯
請負契約という契約類型は、請負人の仕事の完成に対して注文者が報酬を支払うことを目的とするものであるので、契約に適合した仕事が完成しない場合には、原則請負人は報酬を請求することができない 121。しかし、そうすると仕事を完成しない限り請負人は報酬をもらえないことになる。既に建設工事請負契約では、前「第1節第2款1(1)旧 635 条但書と仕事完成前の債務不履行解除」のとおり、解除範囲を未履行部分に限定する法理が働いていたが、その他の請負契約ではこのような処理は行われていなかった。仕事が完成しない場合の請負人の報酬に関する不合理性を是正すべきとして部会では検討が進められ、その
117 xxほか・前掲注(43)338 頁。
118 xxx編『新注釈民法⑭』〔xxx〕186 頁(有斐閣,2018)。
119 部会資料 81-3「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その3)補充説明」17 頁以下(平成 26 年 7 月 8 日)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 20 日最終閲覧)、xxほか・前掲注(43)339 頁。
120 xxほか・前掲注(43)338 頁。
121 xx(豊)・前掲注(118)185-186 頁。
際に昭和 56 年判決の法理が審議された 122。請負人の給付は通常一定期間にわたって段階的に行われるものであるから、その給付としての役務の提供行為は、仕事の完成に向けた段階的な行為の積み重ねであるとともに完成途上の仕事の目的物も注文者にとって一定の利益となることが多いため、完成前においてもそれらと報酬との対価性が意識されるということである 123。
改正民法では、請負契約全般に対して昭和 56 年判決の法理を取り入れることとし、請負 人の仕事完成前の報酬については、「注文者の責めに帰すべき事由で仕事の不能になった時」は新 536 条(債務者の危険負担等)2項で処理をするが、それ以外の場合は、昭和 56 年判
決の判例法理を明文化した新 634 条の定めによることとした。
1 解除に伴う原状回復―両当事者の均衡性
改正民法での旧 635 条但書の削除に伴って、土地工作物の請負契約の完成後解除が可能となったが、それによって当事者にはどのような影響があるだろうか。
2 土地工作物の請負契約における原状回復の片務性
(1) 請負人に対して返還される価値の不存在及びさらなる負担
ところが、土地工作物の請負契約の原状回復においては、前1で想定された均衡的な原状回復とはならず、請負人にとって片務的な展開になる。これは、旧 635 条但書の通説的趣旨の中で、「請負人にとって過酷」と扱われてきた状況を指す。すなわち、土地工作物の請負契約の解除の場合には、請負人は代金を受領できない一方で、返還を受けるものがほとんどない 125。土地工作物は、請負人が、その土地に適応する形で材料に加工を施しており、
122 部会資料 17-2「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(12) 詳細版」11-14 頁(平成 22 年 10 月 19
日開催)(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/000000000.xxx)(令和4年 1 月 20 日最終閲覧)。
123 xx(豊)・前掲注(118)186 頁。
124 部会・前掲注(95)第 91 回議事 3 頁〔xx委員発言〕、同 5 頁〔金関係官発言〕、「民法(債権関係)の改正に関するxxxxの補足説明」・前掲注(57)138 頁以下。
125 なお、昨今では、施工中の建物の所有権帰属に関し、判例が材料調達者を所有権者に据えるのに対し
土地に付着しているので、売買のように注文者が完成した土地工作物という価値を、土地から分離し請負人に返還することはできない。そればかりか、当該土地工作物が付着している土地は注文者のものであるため、請負人は、注文者の土地からの目的物を除去が求められる
126。除去のため建物を解体する結果、請負人は瓦礫状態となった材料分を受け取ることにな
るが、この材料分は一部の金物・鉄筋について廃材としての微々たる価値があるに過ぎない。むしろ大半については産業廃棄物となり、その廃棄費用も請負人が負担することになる。
請負人にとって解除が過酷だとして解除を避けたとしても、建替費用相当額の損害賠償請求が認められた場合には、結果として解除以上の結果がもたらされるため、解除ばかりを否定的に論じる意義はないという指摘もあろう。しかし、損害賠償による金銭支払いによる解決は、原状回復と比較すれば過酷性は緩和する。なぜなら、原状回復義務では請負人に目的物解体という労務が発生し、請負人のマンパワーが大きく割かれることから、その後の事業活動でも逸失利益を生むからである。さらに、これまで建替費用相当額の損害賠償請求が認められてきたのは安全性に欠けた建物の事例に限定されているのに対し、今回の改正解除規定は請負人に帰責性がない場合も含めてよりxxな場面での権利行使が考えられるから、その適用範囲の広さ自体が懸念となる。
(2) 請負人以外の者に帰責性がある場合での請負人のみが負担する契約解除リスク
また、請負人のほかに、工事施工には設計者や監理者という関係者が存在する。これら関 係者に帰責性があり建物に契約不適合が生じる場面(安全面欠如の場合が想定される)でも、解除による原状回復の当事者均衡性が失われる場合がある。すなわち、損害賠償の場合は、 責任の割合に応じて関係者のうち帰責性のある者が責任を負担し又は共同若しくは連帯責 任になる 127ことから全ての帰責性ある関係者がリスクを負担するが、契約解除の場合は、 目的物を完成を内容とする建設工事請負契約を解除すれば注文者としても足りるため、請
て、材料を請負人が調達した場合であっても、原始的に注文者に帰属させる学説が有力視されている(部会資料 24・前掲注(48)3-4 頁でも論点の一つとして取り上げられた)。今回の民法改正では条文化には至らなかったが、今後仮にこの有力説が採用された場合、契約解除時の土地工作物の原状回復の結果、土地工作物の所有権は誰に帰属する扱いになるのであろうか。原始的に注文者に帰属させる説は、委任契約における受任者の受取物の引渡し義務(新 646 条)に近い考え方にも思われるが、原始的に注文者に所有権が帰属するのであれば、原状回復時に建物の所有権が請負人に戻るという構成は取りづらいのではないかとの疑問も生じえるので指摘しておく。
126 部会・前掲注(69)第4回議事録 32 頁〔xx部会長発言〕。
127 xxxx「建築請負人の責任―建築家と監理責任との関係において―」私法 61 号 225 頁,226 頁 (1999)は、建築物に瑕疵があった場合の損害賠償請求時における相互の責任関係について検討を加えている。この論稿では、注文者は建築家に対して責任追及することが実際上少ないことを取り上げ、その原因として、製作者である請負人に瑕疵の原因があると考えられやすいこと、建設工事紛争審査会での当事者には建築家が相手にされないこと、建築家が注文者に専門家として信頼され切っている場合がある等種々の見解を述べている。
負人のみに原状回復義務が課される場合が考えられる。
1 平成 14 年判決の射程より拡大した解除範囲
(1) 概要
土地工作物の請負契約では、第1款で述べたとおり解除に伴う原状回復義務が請負人にとって過酷な結果をもたらすものとなるが、契約不適合責任に基づく完成後解除は、どの範囲で可能となったのであろうか。改正前後の解除相当範囲を比較するに当たって、まず平成 14 年判決の射程「建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかない場合」の範囲を確認したい。その射程には不明な点が二点ある。
(2) 平成 14 年判決の射程
① 平成 14 年判決の射程:「重大な瑕疵」の性質
一点目として、「重大な瑕疵」が客観的瑕疵だけではなく主観的瑕疵も含むかどうかという点である 128。客観的瑕疵は、その物が客観的・物理的に通常に有すべき性能を欠く状態であることいい、主観的瑕疵は、当事者間で契約上特に定めた機能・品質・デザインが目的物に備わっていない状態であることをいう 129。これらは講学上用いられる概念である 130。
平成 14 年判決の紛争実態としては、建物が建物としての安全性を備えていない客観的瑕疵(以下、特に構造耐力上重要な部分に問題のある安全性に影響する瑕疵を「安全性瑕疵」という。)がある事案であった。しかし、建替費用相当額の損害賠償請求を認めた「建物に重大な瑕疵があって建て替えるほかない場合」という射程が、安全性瑕疵に留まるか、安全性瑕疵以外の客観的瑕疵及び主観的瑕疵に及ぶかどうかは明らかではない。
平成 14 年判決は瑕疵を区別していないことから、安全性瑕疵以外の客観的瑕疵や主観的瑕疵を含む方向にもなり得るとの考えも示される 131。しかし、平成 14 年判決も含めて建替費用相当額の損害賠償請求を認容したのは、いずれも安全性瑕疵があり問題となった事案であったことを踏まえれば、平成 14 年判決も安全性に欠いた建物であったからこそ旧 635条のもとで例外的対応を認めたと言え、これ以外の瑕疵も射程に含めたとは考えにくい。平成 14 年判決の射程としては安全性瑕疵がある建物に限られ、その他の客観的瑕疵及び主観的価値は含まれていないと解すべきである。
② 平成 14 年判決の射程:修補より建て替えの方が安価の場合
二点目に、「修補も可能であるが、経済的観点から建て替えた方が安価に瑕疵を除去でき
128 xx・前掲注(41)206 頁。
129 xx(x)・前掲注(2)281 頁、xxxx『基本講義債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得(第
2版)』82 頁(新世社,2009)。
130 xx・前掲注(41)191 頁。
131 xx・前掲注(41)206 頁。
る」という場面が平成 14 年判決の射程に含まれるかという問題がある。
肯定説は、「部分的な修補より建て替えの方が経済的合理性を有するときには、請負人に過度な負担を課すものでない限り、建替費用相当額の損害賠償が認められても良い」との見解を示す 132。裁判例でも前掲大阪地判昭和 59 年 12 月 26 日判タ 548 号 181 頁が修補により建て替えの方が経済的であるとして、建替費用相当額の賠償を肯定する。
一方で、やや消極的な説として、注文者が部分的な修補を請求するのに対して、請負人が建て替えの方が安くつくと抗弁して一般的に肯定することを含意するのであれば、相当ではないとする見解 133もある。
この問題については、基本的には修補より建て替えが安価である場合も平成 14 年判決の射程に入れてよいと思われる。しかし、肯定説として取り上げた、「請負人に過度な負担を課すものでない限り」という考慮は必要であろう。そもそも請負人にとって建替費用を負担することは大きな負担になることから、過度な負担でないと言えるとすれば、相当程度に瑕疵が重大であることが求められ、具体的には、建物に安全性瑕疵がある場合であれば、平成 14 年判決の射程として、建替費用相当額の損害賠償を肯定して良いと考える。
(3) 改正民法解除規定の解除の容易性―「利用価値」がある場合の解除
改正民法の解除規定は、平成 14 年判決が建替費用相当額の損害賠償請求を認めた射程
(なお、前(2)で述べたとおり射程は確定的ではない。)のみならず「目的物に何らかの価値がある場合」、具体的には安全性瑕疵以外の客観的瑕疵・主観的瑕疵はあるものの、建物としては問題なく使える、という建物に利用価値がある場合であっても、解除が認められることになる。さらには、催告解除においては、契約の目的が達成されている場合でも、催告後相当期間経過後の債務不履行が軽微でないと判断されれば、解除が可能となっている。
2 部会での解除容易化に関する議論の不十分性
(1) 旧 635 条但書の削除理由と改正民法解除規定の妥当性
そのような中で、改正解除規定に基づく解除が平成 14 年判決の射程より容易になったことについて、部会では十分な検討が行われていないように思われる。
平成 14 年判決が建替費用相当額の損害賠償請求を認めた「建物に重大な瑕疵があって建
て替えるほかない場合」の範囲であれば、旧 635 条但書削除を否定することは、学説としても妥当な結果であると受け入れていたように思われる。
しかし、部会資料は、前「第2章第1節第2款2(1)立案担当官による旧 635 条但書削
除の説明」の説明(②)のとおり、平成 14 年判決の場面のみならず、土地工作物に利用価
132 永岩・前掲注(39)169 頁。またその他の肯定説として、xx・前掲注(27)72 頁、xxx=xxxxほか「鼎談 改正民法の実務的影響を知る 第9回請負(上)」〔xx発言〕NBL1133 号 50 頁,59 頁
(2018)は解除の可能性について示唆。
133 xxxxx「判批」判タ 1154 号 66 頁,67 頁(2004)。
値があったとしても、契約の目的を達成していない場合に解除を制限することは「必ずしも合理的ではない 134」として旧 635 条但書の全面削除を提示し、そのまま条文削除に至った。果たして部会での認識は、旧 635 条但書の趣旨をxx的に否定するまでのものであったのであろうか。なお、この説明(②)に対する部会での特段の議論はない。
そして最終的な改正解除規定は、旧 635 条の改正とは別の検討プロセスを経て定められており、文理解釈すれば、催告解除において契約の目的が達成していても解除し得る点で、平成 14 年判決や旧 635 条但書の削除説明(②)が認めるよりもさらに広範囲で解除が認められることになっている。この点についても、部会では特段議論されることはなく、また改正解除規定に基づいた土地工作物の契約解除の帰結の妥当性検証も行われていない。
(2) 修補によって注文者が建物を使用できる場合の考え方
また、旧 635 条但書の削除説明(②)に対して、契約不適合がある建物について、修補をすれば、注文者が問題なく使用できる場合には、別途その点も評価すべきと思われるが、部会でこのような指摘はない。
たしかに、注文者に引き渡された建物が、建て替えなければ契約目的を達成できないものであれば、注文者が建物を有効活用するのは、別の使い道を探さなければならないので容易ではない。しかし、別の建設業者に修補を依頼すれば契約目的を達成できる建物とすることができるのであれば、催告後の債務不履行が軽微とはいえない程度であったとしても(契約目的を達成していない場合も含む。)、注文者に当該建物を引き取らせても、注文者にとって酷とは言えないのではなかろうか。むしろ、修補さえすれば目的物が契約目的を達成し、さらには契約適合状態に至るのであれば、原状回復による取壊しを行わずに、その契約不適合がある状態の目的物を注文者が受け取った方が、経済的に合理的だと言える。この場合には注文者の契約全部解除の希望を貫通させることは不適当と思われる。
(3) 検討の前提としての取引当事者の関係性―対事業者か対消費者か
① 欠陥住宅からの消費者救済に係る議論の一般化の懸念
さらに、民法改正の審議が、どのような当事者間の取引が念頭に置かれていたかという点についても懸念がある。改正前民法下においては、旧 635 条但書に関して、対等な当事者間の取引に関する議論よりも、消費者保護の要請が働く住宅建設の場面(ここでは、注文者が消費者であり、請負人が事業者であるという場面が念頭に置かれる。)での議論が蓄積されていた 135。今回の民法改正も、その議論の延長線上にあるのではないか、すなわち消費
134 部会資料 72♙・前掲注(44)6-7 頁。
135 消費者との建築請負(欠陥住宅)を前提に、請負人の建替費用相当額の損害賠償を肯定していた論稿として、xx・前掲注(14)38 頁、xx・前掲注(28)43 頁、xx・前掲注(46)101 頁、xxx・前掲注(27)68 頁、xxxx『住宅紛争処理の実務』144 頁(判例タイムズ社,2004)、永岩・前掲注
(39)168 頁(ただし、xxx、平成 14 年判決について、「いわゆる欠陥住宅のような問題を前に妥当な
者問題の議論を一般法令の検討に持ち込んでいる可能性はないかという懸念がある。
部会資料では、旧 635 条但書の削除理由として、契約の目的を達成することができないが利用価値がある建物を注文者が使用することについて、以下のように住宅建設の分野にも言及している。「特に、注文者が専門家ではない住宅建設の分野においては、土地工作物に契約の目的を達成することができないほどの重大な瑕疵が存在している場合に、注文者がその利用価値を適切に活用することは極めて困難であり、土地工作物を存続させておくのが有益であるとの想定は妥当しないと考えられる 136」。この記述があることからすれば、少なくとも注文者が消費者であるような住宅建設の取引は改正規定の検討に際して念頭に置かれていたことが推測される。なお、平成 14 年判決も欠陥住宅の事案であった。
欠陥住宅は、1980 年後半のいわゆる「不動産バブル」時代に、数多くの悪質業者によって施工された 137。住宅完成後に欠陥住宅であることが発覚し、消費者が、工事を発注した建設業者に損害賠償を求めた。この問題は社会問題化し、旧 635 条但書が土地工作物の完成後解除を制限する中で、裁判所や学説によって、欠陥住宅からどのような理論構成で消費者を保護するか検討された 138。これより、仕事の完成後又は既履行部分に対する債務不履行責任の追及や不法行為構成による損害賠償請求、建替費用相当額の損害賠償請求が認容されてきたと言える 139。欠陥住宅を前に旧 635 条但書を回避する判決がなされてきたのは、その前提に建築の専門家である建築業者よりも、自ら工事内容を把握できない注文者を保護しようという価値判断が大きく働いたと思われる 140。
② 「請負人劣位性」論の考慮の有無
他方、さらに過去に遡れば、建設工事請負契約では、むしろ「請負人劣位性」に伴う請負人の保護を重視する議論が盛んであった。部会では欠陥住宅の問題は念頭に置かれていたようであるが、「請負人劣位性」に関するこの議論は特に考慮されていないように思われる。
「請負人劣位性」に関する議論は、主に1950 年頃にxxxxらによって説かれたもので、建設工事請負契約において、強い立場である注文者から片務的な契約を押し付けられる請
帰結を示したものとして重要」とするが、住宅のみに限定した検討をしているかは疑問)。
136 部会資料 72♙・前掲注(44)6-7 頁。
137 xx・前掲注(14)38 頁。
138 欠陥住宅からの消費者保護の一環に、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成 11 年法律第 81 号)」の制定もある。この法によって、住宅の瑕疵のうち、「構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの」については、瑕疵担保期間が引渡しから 10 年間存続することとさ
れ、「安全上問題がある建物について、一定期間、請負人に対して修補を行えるように」定められている。
139 不法行為責任に基づく損害の拡張について述べるものとして、xxx「建設請負契約の『二重の片務性』」xxx学会雑誌 14 巻 3・4号 1 頁,12 頁(2002)。
140 xx・前掲注(139)12 頁は、欠陥住宅問題に対する論理は、対事業者との契約にも必ずしも適用されるものではないことを述べる。
負人を保護するべきであるという議論である 141。この議論では、建設工事請負契約において注文者と請負人は対等な立場で契約を締結しているとはいい難く、その状況を「土建請負契約の片務性」と評した 142。工事請負契約は民法上の双務契約に該当するのであるが、事実上は「危険負担、物価変動、設計変更、工事の中止または打切り、命令監督権、紛議の一方的決定権」といった契約条件で、注文者にとって有利な条件が設定されているとして、これを「片務契約」だと揶揄していた 143。実務家からも、この論拠に賛同し、注文者と請負人との非対等性を指摘する声があった 144。
xxxxは、建設工事請負契約には、「欠陥住宅問題」と「請負人劣位性」論という正反対の保護のベクトルがあるところ、この認識を誤って、これら二類型を考慮しない解釈論を展開するなら、きわめて不当な結論になり得るという危険性を既に指摘している 145。同教授は、建設工事請負契約には、請負人が劣後し請負人の保護が要請されるタイプと、欠陥住宅問題を代表とする注文者の保護が要請されるタイプとの双方を捉えて、「二重の片務性」と呼んだ。そして、欠陥住宅問題にて適用されるべき「注文者保護」の理論を一般の工事の紛争に持ち込み、妥当でない結論を導いた裁判例があるとして批判的考察を行っている 146。
昨今は、建設工事請負契約に請負人が劣後する形での片務契約性があると唱える見解はほとんど見られない 147が、建設業界を知悉する者の間では、一定の認識がもたれている。たとえば、部会における業界団体ヒアリングでは、(一社)日本建設業連合会から「建設工事請負契約は注文者優位である」との発言があった 148。また、標準約款の解説文献においても、「約款の制定及び改定は、請負人の注文者に対する「『片務性』の是正」に向けられた長く苦しい戦いの歴史である」という記述がある 149。日本で大規模な工事請負契約を発注する注文者は限られており、請負人としては限られた注文者との関係悪化を回避するため、なるべく発注者の主張に逆らわないという業界体質が継続していることが推測されるが、
141 xxほか・前掲注(12)3 頁以下。
142 xxほか・前掲注(12)3 頁以下。
143 xxほか・前掲注(12)4-5 頁。
144 xxxxx『建設請負契約論』100 頁(勁草書房,1967)では建設工事請負契約の当時の状況につい て、「形式的にはいわゆる片務的な契約であるが、実質的には契約条項の厳格な履行を要求しないことによって緩和されているのである。このため実際には請負業者は値増問題を権利として主張できず、嘆願の形をとらざるを得ず、注文者はこれを恩恵として認めるという慣行を生じている。換言すれば、契約上の対等な関係が実質的には権力服従関係に置き換えられているのである。建設業が前近代的といわれる一面がここに見られる。」と述べる。
145 xx・前掲注(139)3 頁。
146 xx・前掲注(139)2 頁。
147 むしろ、「今日では『請負人の劣位性』に対する議論は歴史的意義を有するに留まる」と評価するものとして、xx(豊)・前掲注(118)189-190 頁。
148 部会・前掲注(54)第 28 回議事録 4 頁〔xxxxx発言〕。
149 建設業法研究会『公共工事標準請負契約約款の解説(改訂5版)』8-9 頁(xx出版社,2020)。当該記載は、おそらくxxほか・前掲注(12)7 頁の記述を参照している。
こうした状況が請負人劣位の関係性を継続させ 150、現代でも「請負人の劣位性」たる状況は完全にはなくなったとも言い切れないと思われる。
1 建設工事請負契約約款の定め
建設工事請負契約の契約不適合に基づく契約解除について、条文上解除許容範囲が拡大したと考えられるところ、その審議は尽くされたとは言い難い。では、建設工事請負契約はどの範囲で完成後の契約解除が認められることが妥当であろうか。
前提として、建設工事請負契約の実務においては、第1章で述べたとおり、日本の大多数の工事では中央建設業審議会が定める標準約款と、民間団体が定める民間連合約款が使用されている 151ので、建設工事請負契約における契約条件は、民法の請負契約の原則ではなく、この約款に基づく条件がスタンダードになっていると言える。そのため、これらの約款が建設工事請負契約の特徴を踏まえて、民法の定めを具体的な契約条件に落とし込んでいれば、大きな紛争は生じないはずである。
しかし、民法改正に合わせたこれらの約款の改定版はいずれも同様の解除条項をおくが、民法の契約不適合解除の定めを建設工事請負契約に適する形で具体化したり修正したりしているとは言い難い。第1章で述べたとおり、催告解除条項では、民法上の催告解除と同様に、催告後に債務不履行が契約又は社会通念に照らして軽微でない場合には解除できることが定められている(標準約款 47 条5号、民間連合約款 31 条の2第1項(d))。また、無催告解除条項では、「引き渡されたこの契約の目的に契約不適合がある場合において、その契約不適合が目的物を除却した上で再び建設しなければ、この契約の目的を達成することができないものであるとき(標準約款 48 条4号、民間連合約款 31 条の3第1項(f))」
を無催告解除事由としている。そして、この無催告解除の範囲は、平成 14 年判決の射程を意識したものであると説明されている 152。また、契約解除後の措置の条項では、「完成後解除の場合には、両当事者が民法の規定に従って協議して決める(標準約款 54 条 9 項、民間
連合約款 33 条 6 項)」と定められているにすぎず、具体的な完成後解除の範囲は明らかに
150 危険負担に関してではあるが、請負人が争いを避ける方向にあることを指摘するものとして、xxx
「建築請負事件と和解」xxx=xxxx編『訴訟上の和解の理論と実務』227 頁(xxx編集
室,1987)「危険負担に関連して、…ただ、請負、特に建設請負契約の危険負担が問題となるケースでは、注文が指名入札によって行われることが多いために、建設業者は、後の工事で指名されないことを恐れ て、リスク負担の問題を法律問題として争うことを好まず、むしろ和解による解決を図ることも多かっ た」。
151 xx(豊)・前掲注(118)120 頁。
152 建設業法研究会・前掲注(149)377 頁、民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会『工事請負契約約款の解説(令和2年4月改正)』198 頁(xx出版社,2020)。
なっていない 153。
2 改正後における旧 635 条但書の趣旨の不変性
妥当な解釈論を検討するにおいては、建設工事請負契約という契約の特徴を考慮する必要がある。この契約の特徴としてはどのような点が指摘できるであろうか。
たしかに、旧 635 条但書の趣旨として述べられていた社会経済的利益という発想は、明治時代から大正時代にかけてのもので、現代社会においては契約当事者に対し絶対的に適用することは困難であろう 155。しかし、合理的な範囲では現代においても存続する考え方ではあるまいか 156。また、平成 14 年判決自体が旧 635 条但書を否定したとする見解 157もあったが、事案と判旨を見れば、平成 14 年判決は、建て替えないと安全性が修補されない
建物に対して旧 635 条但書を否定したにすぎず、土地工作物全般に対して、旧 635 条但書の趣旨を否定したわけではないと思われる 158。さらに、かつて旧 635 条のもとで建替費用相当額の損害賠償請求を肯定していた学説も、旧 635 条の趣旨自体に問題があると述べたものは少数であり 159、大半は旧 635 条但書の趣旨が適用されない場面が存在することを主張していたにすぎないのである。
3 法的性質としての継続的契約関係的な側面―契約の拘束力のxx
xた、建設工事請負契約という契約の特徴の二点目としては、その法的性質として、「継続的契約関係」的な側面があることを指摘できる。これを捉えれば、建設工事請負契約の仕事の既履行部分についての「契約の拘束力」は、他の請負契約に比べて高いと言えるのではなかろうか。
153 建設業法研究会・前掲注(149)377-378 頁によれば、標準約款では「本約款においては改正民法の趣旨及び受注者への負担等を踏まえ、工事完成後の契約不適合を理由とする解除の場合を、約定において、除却した上で再び建設しなければならないような場面に限定している。」と述べるが、標準約款 47 条5号によれば、請負人が修補を行わない場合についての催告解除の余地が残されている。
154 xxxx「建築請負契約の解除と建替費用相当額の損害賠償」法時 91 巻 12 号 131 頁,133-134 頁
(2019)、永岩・前掲注(39)168 頁、建設業法研究会・前掲注(149)377 頁。
155 xxxxx=xxx「請負契約の契約不適合責任」ジュリ 1524 号 76 頁,85 頁〔道垣内発言〕
(2018)。
156 xxxxxほか・前掲注(155)85 頁〔岡発言〕。
157 xx(x)・前掲注(2)695 頁。
158 永岩・前掲注(39)168 頁。
159 xx・前掲注(9)251-252 頁が旧 635 条の趣旨に対して否定的な見解を述べていた。
建設工事請負契約の法的性質は、通説では請負契約だと解されている 160。しかし、かつて学説では、労務供給という雇用の要素を含むことが指摘されることもあり 161、さらに、建設工事請負契約の法的性質は、雇用や委任の色彩を含んだ「継続的契約関係」があるとの見解があったことは注目に値する 162。この「継続的契約関係」を説く見解は、請負契約は独立労働であるはずであるが、建設工事請負契約では施工に対して注文者の監理があるため、雇用に類似した従属労働性が見られる点、また請負契約であれば仕事の結果を重視した一時的債権関係であるはずであるが、建設工事請負契約では委任のように当事者間の信頼関係が基礎とされている点に着目し、建設工事請負契約の法的性質を評価する 163。
建設工事請負契約に「継続的契約関係」の性質があるとする説が今日においても廃れないと思われるのは、近年裁判例では、建設工事請負契約であっても信頼関係破壊の法理による契約解除の認容例が見られる 164ためである。このように信頼関係が建設工事請負契約で重視されている点を踏まえれば、その法的性質を継続的契約関係的な側面があると捉える考え方に近づく。少し前の裁判例ではあるが、前掲東京地判昭和 48 年 7 月 27 日判時 731 号
47 頁も、工事では「段階的給付」がなされる点を取り上げて、債務不履行時の既履行部分の契約解除を否定した。これは一種の継続的契約関係を表現した理由付けであるとも捉えられる。
以上から、建設工事請負契約は、「継続的契約関係」的な要素を法的性質に持ちうると考える。期間の定めのない継続的契約では、解約申入れは一般的に将来に向けて契約終了する
165ことと同様に考えると、建設工事請負契約の仕事の既履行部分の「契約の拘束力」は、他
の取引類型に比べても高いものであると言え、契約関係からの離脱は、他の取引類型に比べても容易には認められるべきではないと思われる。
1 建設工事請負契約における制限的解釈の在り方
(1) 契約不適合解除の制限的解釈の必要性
これまで見てきた建設工事請負契約の特徴を踏まえれば、建設工事請負契約の契約不適
160 xx・前掲注(1)599-600 頁、xx・前掲注(13)447 頁。これらによれば、むしろ、請負契約の最たるものが工事請負契約だとされる。
161 xxxx丞「請負契約の研究―請負契約における『仕事の完成』の意義」法学 14 巻3号 280 頁,289- 292 頁(1950)。
162 xxxx『現代建設請負契約法(第2版(増補版))』11 頁(一粒社,1980)。
163 xx・前掲注(162)11 頁。
164 xx(豊)・前掲注(118)154-155 頁。認容裁判例として、名古屋地判平成 18 年 9 月 15 日判タ 1243号 145 頁、東京地判平成 26 年 12 月 24 日判時 2260 号 57 頁。一方で、信頼関係破壊にまでは至っていないとして否定した例として東京高判平成 11 年 6 月 16 日判タ 1029 号 219 頁。
165 xx・前掲注(64)185 頁。
合に基づく解除を認める範囲は、制限的に解するのが相当であると思われる 166。
なぜなら、「旧 635 条但書の趣旨」が改正後においても妥当し、また建設工事請負契約の法的性質として「継続的契約関係」の要素を有すると考えれば、他の取引よりも、解除の可否は厳格に解されるべきであるからである。改正前民法下で、建替費用相当額の損害賠償請求が行われてきた場面も、瑕疵が重要なだけでなく、「安全性等にかかわるものであり、かつ瑕疵の範囲が大規模で、通常の部分的な修補が不可能ないし技術的に困難な場合、あるいは費用的にかえって高額になり不相当な場合(通常、地盤の造成や、建物の基礎・躯体の瑕疵に関して主張される事例が多い)」167であったということであるから、こうした安全性瑕疵があって建て替えなければならない建物でなければ、契約不適合に基づく解除は慎重に考えるべきであろう。
さらに制限的解釈を相当とする理由として、全部解除を容易に認めると、解除制度の趣旨にも合致しないと思われる。改正民法での解除制度は、債務者に対するサンクション的な位置づけではなく、単に当事者の契約からの離脱を認めるものであるという位置づけであることが明らかとなっている 168。そうであれば、解除によって債務者に対し契約履行利益の喪失以上に酷な結果がもたらされるとすれば、改正民法の解除制度の趣旨とも整合しないのではなかろうか。
(2) 契約不適合解除における新 634 条の類推適用
では、契約解除を制限的に解するとすれば、具体的にはどのような場面で解除が認められるのが妥当であろうか。これについては、建設工事請負契約では、契約不適合に基づく解除の場合においても、新 634 条を類推適用して解除を制限すべきであると考える。
新 634 条(割合的報酬)は、請負契約に関して、「完成前解除」又は「注文者に帰責性が なく完成不能になった場合」には、可分性及び利益性の要件を満たした範囲で完成擬制され、請負人に報酬が支払われるという新設規定であった。これはそもそも、昭和 56 年判決を含 めた建設工事請負契約の事例で認められた解除制限に係る判例法理が請負一般に向けて明 文化されたものであった。新 634 条は、仕事完成前の請負人の報酬を取り決める趣旨の条
文であるので、条文xx 634 条の適用場面に、契約不適合責任に基づく解除を含む「完成
166 道垣内ほか・前掲注(155)82 頁では、次のように、売買より請負の方が解除を認める場面は慎重になっても良いのではないかとの見解が示されている。同頁〔道垣内発言〕によると、一般的な売買と異なり、請負の場合には、請負人による投下費用が大きいので、売買より請負のほうが軽微であると考えられる場面が増えてきてもおかしくないとのことであり、また、同頁〔岡発言〕でも、費用の大きさ、信頼関係、作りこみが行われるという点で売買とは違った要素があることを指摘する。また、軽微性の解釈に関してではあるが、xxほか・前掲注(132)58-59 頁〔xx発言〕は、建設工事請負契約では、「軽微性」が契約及び取引上の社会通念に照らして相対的に判断される結果、他の請負契約に比べても特に「軽微 性」は厳格に解されるのではないかという見解を述べる。
167 xx・前掲注(135)144 頁。
168 xxほか・前掲注(43)234 頁。
後解除」の場合は定められてはいない。しかし、この規定の「注文者にとって利益がある以上は、その部分に関しては契約解除できず、注文者は請負人に対して報酬を支払うべし」との考え方は、「完成後解除」であっても妥当してもおかしくない。
そして、契約不適合に基づく解除での新 634 条の適用の有無は、現在明らかではない 169。立案担当官の解説によれば、次のとおり「完成後解除」では新 634 条の適用の余地はないという見解が示されている。「目的物に軽微でない契約不適合があるようなケースについては、『注文者が利益を受け(た)』と認めることは困難であると考えられる。」170として、そもそも解除できる場面においては、注文者は利益を受けていないはずだということである。しかし、催告解除の軽微性阻却要件は、既に契約の目的を達成している場面も含めて解除を認める余地を残す要件であるから、少なくとも契約の目的を達成している場面では、明らかに注文者は利益を受けていると思われる。さらに、契約の目的を達成していないとしても、従来の建設工事請負契約の途中解除においては、注文者は既履行部分を使って工事を完成させられるから、裁判例では既履行部分に関して注文者に利益があると評価されてきている。そうであるならば、建物に契約不適合があり、請負人が追完を行わなかったとしても、当該請負人以外の建設業者に修補依頼する等して、建て替えることなしに注文者が利用できる建物とすることができるのであれば、その契約不適合のある建物は注文者にとって利益があると言えるのではなかろうか。そうすると、完成後であっても新 634 条を類推適用し、同条の要件を満たす範囲では仕事の完成と報酬支払が確定し、その範囲での解除は認められないとするべきであると考える。なお、新 634 条には可分性の要件もあるが、割合的報酬を認めてきた従来の裁判例では既施工部分に関して利益性を否定したものばかりで可分性が否定されたものはほとんど見当たらず、また数量的に分割される給付がある場合のみならず、既施工部分の工事全体に対する割合とその金銭的評価を示して可分であるとしていたということであるから、建設工事請負契約は常に可分ということができ、割合的報酬の可否は利益性という要件に集約されると考えてよいであろう 171。
完成後解除の場面で新 634 条を類推適用する考えは、仮に民法改正前の請負契約の裁判例で、完成後解除においても割合的報酬を認めたような事案があったとすれば、より説得的なものとなろう。しかし、完成後の瑕疵担保解除における割合的報酬を肯定した裁判例は見当たらず、学説もこれを議論することはほとんどないとのことである 172。この点については、そもそも割合的報酬を認めてきた建設工事請負契約の分野において、完成後解除が制限されていたのであるから、改正前に瑕疵担保解除で割合的報酬を認めた裁判例がないのは当然だと思われる。
169 xx(豊)・前掲注(118)198-199 頁。問題提起するものとして、x垣内ほか・前掲注(155)86-87頁。
170 xxほか・前掲注(43)339 頁。
171 xx(豊)・前掲注(118)201 頁。
172 xx(x)・前掲注(118)198 頁。
(3) 「新 634 条の類推適用」という考え方の検証
① 「新 634 条適用」説
新 634 条の類推適用に類似した見解として、学説には、新 634 条1号の「完成前解除」
の「完成」を、「契約に適合した状態での完成」と解釈し、新 634 条をそのまま適用する見解も見られる 173。しかし、完成後の仕事の状態を示すはずの「契約不適合」の概念のもとで、一部について改めて完成擬制を認めるというのは「完成」という概念が多義的になってしまうし、そもそも条文xx 634 条の適用場面に「完成後解除」が記載されていないこと
から、新 634 条をそのまま適用することは理論的に難しいのではないかと思われる。
② 完成後は代金減額で処理すればよいとの考え方
新 634 条を類推適用する考えに対しては、契約不適合の場合は、新 634 条を用いるので はなく、債務不履行が軽微だとの解釈を取り催告解除を制限し、代金減額請求で処理すべき だとの批判があるかもしれない。しかし、代金減額請求は、注文者の行使可能な権利のうち の一つで選択的に行使されるものであり、その選択的行使を法も保証する(新 564 条)。従 って、解除権が行使された場合に、代金減額請求の方が妥当であるという規範的判断をもっ て催告解除の軽微性阻却要件に妥当させる考えは、新 564 条と整合しないため、成立しな いように思われる。そうすると、代金減額請求ではなく解除の請求が申し立てられた際には、独立した軽微性阻却要件によって解除制限がされない限りは、代金減額的な処理とはなら ずに全部遡及解除がされる余地がある。もっとも、法としては、契約不適合時の注文者のx xとして、代金減額請求権や解除権その他の複数の権利を設けた際に、いずれの権利が行使 されるかによって、請負人の負担に大きな差が出ることは想定していないであろう。
③ 権利濫用等による解除権制限の考え方
また、解除による原状回復が不適切な場面では、裁判所が権利濫用や解除権放棄で処理することも考えられる 174。しかし、権利濫用や解除権放棄は例外的な場面で採用される論拠であることを鑑みると、契約不適合の契約解除の原則的かつ一般的な場面にこれらの法理を落とし込むという運用は考えにくい。
2 契約不適合時の催告解除(新 541 条)の範囲
(1) 建て替えなければ除去できない重大な契約不適合がある場合
では、これまでの検討を踏まえて、具体的に催告解除が可能な範囲を検討する。
建て替えなければ除去できない重大な契約不適合(従来の客観的瑕疵・主観的瑕疵のいず
173 xx(x)・前掲注(118)198-199 頁。
174 xxx『民法改正と請負契約(建設請負業者への影響)』57 頁(xx出版社,2017)また、意図的に解除による清算の実質を妨げようとする場面においての発言であるが、権利濫用等について述べるものとして部会・前掲注(95)第 91 回議事録 6-7 頁〔xx委員発言〕。
れも含む 175。)がある場合には、そもそも催告の有無に関わらず追完ができない状態にあるので、無催告解除の適用場面である。従って、後で述べる無催告解除の定めに従って処理される。
(2) 建て替えなくても除去できる軽微でない契約不適合がある場合
① 新 634 条類推適用による契約解除の範囲の限定
注文者の催告から相当期間経過後に、建て替えなくても除去できる程度ではあるが契約不適合がある場合については、改正民法を文理解釈すると、契約又は取引通念上債務不履行が軽微でない限り注文者は契約の解除が可能となる。
しかし、前1で述べたとおり、建設工事請負契約では、完成後解除の場面にも新 634 条を類推適用するのが妥当であると考える。この類推適用を行う結果、「建て替えなくても修補が可能」な場合は、注文者にとって利益のない部分(すなわち、契約不適合部分及び建物を契約適合状態にするために修補をするに当たって出来形として使用できない部分)の一部契約解除に限定されるべきである。全部解除を認めた場合の請負人の不利益の著しさと、全部解除を認めなくても注文者の保護が図れるという比較衡量を行えば、その解除の範囲が、注文者が利益を受けていない部分についてのみとすることが、妥当な帰結であると思われる。
② 催告解除の軽微性阻却要件と新 634 条類推適用との整合性ア 新 634 条類推適用の位置づけ
催告解除の軽微性の阻却要件と新 634 条類推適用との関係性についても整理しておく。
まず、新 634 条を類推適用するという考え方において、「修補によって追完可能な状態」にあることを、軽微な債務不履行だとは解していない。なぜなら、そもそも「修補によって追完可能な状態」は、注文者による催告解除の催告時点における状態を指しているからである。
注文者が契約不適合に基づいて解除を行おうとする場合には、完成前催告解除の場合と同様に、軽微性阻却要件に該当せず解除が認められると言えそうな場合において、さらに新 634 条が類推適用されると整理することになる。
イ 契約解除を制限的に解する他の学説の検討
契約解除を制限的に解する類似の学説の妥当性についても検討したい。
一つ目として、軽微性の概念自体において、「追完請求・代金減額請求・損害賠償請求で客観的に妥当な結論が得られる場合は、解除を制限すべき軽微な債務不履行と評価すべき」という見解 176もある。しかし、この見解を取ると、前1(3)②と同じように、法が契約不適合時の追完請求や代金減額請求の定めが、損害賠償請求や契約解除の権利行使を妨げ
175 ここでいう客観的瑕疵は、建て替えを要するほどの瑕疵であるということから、安全性瑕疵のことを指し、安全性瑕疵ではない客観的瑕疵がある場面は想定しがたい。
176 x垣内ほか・前掲注(104)63 頁〔道垣内発言〕。
ないとことを認めている(新 564 条)ことと矛盾するので、論理として採用しづらい。
二つ目の学説として、軽微性の概念において契約の目的達成が最も重要な考慮要素と考えられていることをもって、建物の用途として使えるという場合、たとえば新築住宅建築の場合であれば「居住目的」を達成できる以上は、解除が否定される可能性が高いとする見解もある 177。しかし、この考えに基づく場合、請負人ではない別の建設業者に依頼すれば建物の契約不適合が修補され得る状態ではあるが、現時点で契約の目的が達成がされていないという場合にも解除を為し得ることになり妥当でない。また、住宅の場合には「居住目的」が契約の目的であると捉えているが、契約の目的は、当該契約を締結した当事者の意思によって定まるものであるため、新築住宅の事例を例えても、注文者の強いこだわりが契約の目的と解される余地もあるので、この考え方ではあらゆる場面には対応できない。
また、従来の裁判例を踏まえて改正民法の規定が解釈される結果、裁判所は制限的な解釈 を行うはずであるとの見解もある 178。すなわち、少なくとも今回の改正で旧 635 条但書を 削除したのは、従来、一定の場合に建替費用相当額の損害賠償が認められていたという判例 があることを踏まえてのものであるため、従来の建替費用の損害賠償請求を認容した裁判 例に近い場合に限り、「軽微でない」と判断するのではないかというものである。しかし、部会資料によって注文者に利益がある場合にも完成後解除を認めると明言されている上で、どのような理論で従来の裁判例と同一的な判断になると言い切れるのかの論拠が不足して いる。
3 契約不適合時の無催告解除(新 542 条)の範囲
(1) 建て替えなければ除去できない契約不適合がある場合
① 建て替えなければ除去できない安全性上問題のある重大な契約不適合がある場合次に、無催告解除が可能な範囲を検討する。
無催告解除の適用場面は、注文者が催告しても、もはや意味がないという場面である。まず、建物に建て替えなければ除去できない構造耐力上重要な部分に問題のあるような
重大な契約不適合がある場合(従来の客観的瑕疵のうち安全性瑕疵)は、契約の目的を達成できず、無催告解除が認められると考えられる。この場面は、平成 14 年判決の事案と同様の場面であり、催告をして追完を促したところで、建て替えることなしには修補することはできない。このような建物を放置することは社会的にも害であるとともに、建築の専門家で
177 日本弁護士連合会『実務解説 改正債権法(第 2 版)』494-495 頁(弘文堂,2020)は、「建物の内壁のクロスの表面に多数のひび割れが生じたが、建物の構造耐力には何ら影響がなく修補によって完全に修補できる」場合を解除が否定される場面として例に挙げる。
178 xxほか・前掲注(132)〔xx発言〕59 頁。日本弁護士連合会・前掲注(177)495 頁も「結果としては従来の実務に大きな影響を与えないとも思われる」と述べる。xxほか・前掲注(132)〔xx発言〕 59 頁も、相当ひどい瑕疵の事案ではこれまでの判例に倣って解除も可能だろうが修補できる程度の瑕疵であれば解除は認められないのではとの見解を述べる。
ある請負人にとって酷な結果となってもやむを得ず、改正前民法下で建替費用相当額の損害賠償請求が認められ、請負人の不法行為責任 179も成立していたことも踏まえれば、改正民法下では無催告解除が可能であると思われる。
なお、不法行為責任に関しては、民法改正後は改正による債権の時効の統一化と旧 635 条但書の削除によって、少なくとも当事者間の紛争においては、不法行為責任を認容する必要性は薄れており、不法行為責任を問う意義は、居住者等の第三者と請負人との関係においての紛争時に残るということになる。
② 建て替えなければ除去できない契約不適合があり契約の目的が達成できないが安全性上は問題がないという場合
ア 概要
建物としての安全性には問題がないものの、建て替えなければ除去することのできない重大な契約不適合があり契約の目的を達成できない場合には、改正民法の解除規定に従えば、契約の目的が達成されていない以上は解除が認められることになる。新 634 条を類推適用しようにも、建て替えなければ契約の目的が達成されない以上、注文者にとっての利益性の認定が困難であり、解除が制限され得ない可能性が高い。
しかし、建設工事請負契約においては、両当事者の事情を総合勘案して、一定の場合には解除権濫用法理の適用があり得ると思われる。その論拠としては、部会資料の旧 635 条但書削除の趣旨が参考になる。部会資料によれば、「契約目的を達成しないものを注文者に有効利用させることは注文者にとって酷」180だとの説明によって旧 635 条但書が削除されていたところであった。注文者に強い協力義務が認められる場合など一定の場面では、請負人の契約履行責任を鑑みても、「契約目的を達成しないものを注文者に有効利用させることが注文者にとって酷」とは言えないと思われる場面があり、この場合での権利行使は濫用と評価され得ると考える。考慮要素としては、注文者の属性、投下資本の大きさが挙げられる。イ 注文者が消費者である場合
まず、注文者が消費者である場合には、原則論通りに無催告解除が認められてよいと解する。基本的には注文者は建設分野の専門的な内容を知り得ず、請負人に対して、工事に関する事項を全般的に委ねてしまっている状況にあると考えられる。そのため、安全性の上では問題がなくとも建て替えなければ除去できない重大な契約不適合があり、注文者の契約の目的が達成されないという場合には、たとえ請負人にとって原状回復義務が過酷であっても、素人である注文者にその建物を引き取らせ有効活用させることの方が困難であり、注文
179 最判平成 19 年 7 月 6 日民集 61 巻 5 号 1796 頁では、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に関して、「居住者等の生命身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合」のことであると判示した。
180 部会資料 72♙・前掲注(44)6-7 頁。
者にとって酷と言える。注文者が目的物について、法令違反になるような注文や、無謀な要求をしているような場合においても、従来の裁判例に従えば、請負人側に専門家として適切に工事を進めることが求められるため 181、請負人としては当該義務からの免責を主張しがたい。
このように、消費者契約の場合は、契約目的を達成できない(新 542 条1項3号)ことによって、無催告解除が認容されると考えられる。
ウ 注文者が国又は事業者である場合
(ア) 注文者が国又は事業者であるとの要素に基づく検討
次に、注文者が国・地方自治体又は民間事業者である場合は、請負人に対する立場の強さ、及び建築に関する専門知識の有無によって、解除権濫用法理が認定される可能性があると考えられる。
まず、注文者が国・地方自治体又は事業者である場合(複数の事業者が大規模プロジェクトのために組合を組成する場合もある)には、工事の施工に関して注文者に相応の協力義務が認められてよい。また、注文者が履行過程で定期的に点検を行い、しかもその都度注文者側の承認のもとで請負人の履行が進展していく場合があり、このケースでは、注文者が独自に監理を行っていると評価することもできる 182。また、「注文者の指示」の位置づけは、請負人が建築に関する専門的知識を有しているとはいっても、実質的な力関係について注文者が圧倒しているという事実があるとすれば、重いものとなり得る。さらに、注文者自身が建設業者又は建築に関して知識がある事業者である場合、又は建設コンサルタントにマネジメントを委託している場合など専門家が注文者側に存在する場合には、注文者側はその工事に関して専門的な知見を有しているため、中途段階での具体的な指示をし得る。こうした場合には、工事の契約不適合に起因する解除リスク全般を、請負人のみに分配するのは、不適当ではなかろうか。注文者には、たとえ契約解除が認められなくても、請負人に対する損害賠償請求や代金減額請求が可能であることから、注文者の損害は必要な範囲で補填され得る。
従って、注文者が消費者ではなく、国や事業者である場合で、工事に関する様々な関与が見られるとすれば、注文者の権利濫用として、権利行使が制限される場合があり得るであろう。
(イ) 投下費用が莫大であるとの要素に基づく検討
また、建物に対する投下費用が多い場合には、建物の価値が社会的にも大きく、それを原
181 前掲東京地判平成 3 年 6 月 14 日判時 1413 号 78 頁は、地下の車庫から車の出し入れができないという建物を建築した請負人に対して、注文者がその車庫等の仕様に関して強く要望をしたものであったとしても、それは注文者の指図には該当せず、むしろ建築の専門家である請負人側が慎重に考慮し構造を決するべきであり、そのような社会通念上最低限期待される性状を備えていない車庫等は瑕疵にあたるから、瑕疵担保責任を負うと判断したものである。
182 xx・前掲注(139)17-18 頁。
状回復させる解除には慎重になるべきである。莫大な資金を投入して作られた巨大な工作物(その注文者は、国又は事業者の場合がほとんどであろう。)に関しては、注文者も相応に準備をして工事に関する計画をたてることが想定される。このような場合には、工事に関して、注文者が請負人の工事にも一定の関与があることが多く、工事に関する共同行為的な側面が生じると考えられる。その場合には、契約解除に伴う原状回復の負荷を、請負人が一挙に引き受けることは、注文者の建物の引き受けと比較しても、著しく請負人にとって酷だといえ、注文者が建物を引き受けて、社会にて目的物の利用を図っていくことの方が妥当と思われる。こうした場合は、注文者による全部解除は、解除権の濫用によって制限される場合があると考える。
(2) 建て替えなくても除去できる契約不適合がある場合
また、建て替えなくても除去できる契約不適合(従来の客観的瑕疵・主観的瑕疵のいずれも含む。)がある場合でも、請負人が履行拒絶意思を示す場面では、無催告解除の要件を満たす場合が想定できる。しかし、注文者は別の建設業者に依頼する等によって修補することで、契約不適合を是正できるので、新 634 条の類推適用によって、注文者に利益がある部分については契約解除ができないと解するべきである。
また、改正前民法下においては、建て替えの方が部分修補より安価の場合について、建替費用相当額の損害賠償請求を認めるべきかという問題が検討されており、学説では肯定する説も見られたが、解除の可否にこの議論の帰結を妥当させるべきではないと思われる。損害賠償請求は、帰責性のある債務者に対して損害を肩代わりさせるものであるのに対して、解除は契約離脱を許容する趣旨 183であることから、損害賠償と解除とは制度の趣旨が異なっており、解除では、原状回復を認めてよいかという観点からの検討を改めて行うべきである。
4 約款での定めのあり方
(1) 約款への解釈基準等の導入
ここまで建設工事請負契約における契約不適合責任に基づく契約解除の制限的解釈の在り方について述べてきた。しかし、そもそも当事者間の契約に具体的な解除条件が盛り込まれていれば、契約解除に係る予見可能性は格段に高まり、契約の紛争未然防止機能が働く。仮に、個別紛争で全部解除及び原状回復が従前より容易に認められるという裁判例が出た場合には、この射程を巡って建設業界全体が混乱することになる。このような混乱を避けるためにも、契約解除の範囲については、紛争発生後の裁判所の個別判断とその射程を巡る議論に委ねるのではなく、予め建設業界で一般的に使用されている建設工事請負契約約款に、なるべく具体的な定めを設けておくべきであると考える。
183 xx・前掲注(97)91 頁。
(2) 催告解除
では標準約款及び民間連合約款の各約款にどのような定めが可能であるかを検討したい。まず、催告解除の場面としては、標準約款 47 条 5 号及び民間連約款 31 条の2第1項(d)
において「正当な理由なく追完(過分な費用を要する場合を除く。)を行わない場合」と定 められており、それが契約又は取引の社会通念上軽微でない場合には、解除できるとされる。本稿は、軽微性の判断については特段の要件を設けない立場をとるので、この定めに関して は追記は不要である。「(4)解除に伴う措置」の段階において、解除範囲を限定する。
(3) 無催告解除
次に、標準約款 48 条4号及び民間連合約款 31 条の3第1項(f)では、無催告解除事由として、「契約不適合があり、除却した上で建て替えなければ契約の目的を達成できない場合」が置かれている。両者とも、平成 14 年判決を念頭においた規定であるとされている 184
が、平成 14 年判決は、安全性瑕疵に限られるかそれ以外の客観的瑕疵・主観的瑕疵も含まれるか、その射程が定かではなかったところ、この規定によれば、全ての契約不適合が含まれるような規定になっている。これに関しては、先に検討した無催告解除の妥当な解除範囲を踏まえると、全ての契約不適合が無催告解除の対象となってもやむを得ないと思われる。従って、無催告解除規定に関しても、追記は不要である。前(2)と同様に、「(4)解除に伴う措置」の段階において、解除範囲を限定する。
(4) 解除に伴う措置
最後に、標準約款 54 条9項及び民間連合約款 33 条6項の「工事の完成後にこの契約が解除された場合は、解除に伴い生じる事項の処理については発注者及び受注者が民法の規定に従って協議して決める。」という定めに関しては、新 634 条を類推適用して、解除範囲を制限する定めを設けるべきである。
完成前解除に関しては、「出来形部分を検査の上、当該検査に合格した部分及び部分払いの対象となった工事材料の引渡しを受けるものとし、当該引渡しを受けたときは、当該引渡しを受けた出来形部分に相応する請負代金を受注者に支払わなければならない(標準約款 54 条 1 項、民間連合約款 33 条 1 項も同趣旨。)」と定められ、新 634 条の適用を踏まえた帰結が明記されている。
一方で完成後解除の場合には、「民法の定めに従い両当事者が協議する」ことになっている。この定めに関し国土交通省の約款改正担当官からは、「原則として原状回復義務が生じるところ、工事の完成後の契約の解除については、除却するか否か、除却費用をどのように
184 建設業法研究会・前掲注(149)377 頁、民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会・前掲注
(152)198 頁。
負担するかなど、それぞれの工事の事情に応じて決定すべき内容が多く、約款において建物の除却の有無や費用負担に関して一律に規定することが困難であることから、工事の完成後の契約の解除に伴う措置については、民法の規定に基づいて、受発注者双方が協議により決定することとされた」と説明している 185。しかし、こうした協議規定が設置されている場合には、実務上両当事者の力関係によって、力が強い当事者の希望に近い決着がつく場合が大半であるし、建設業界で広く普及展開している建設工事請負契約約款において、当事者間の紛争を未然防止したり当該事業のリスク分担を明瞭に分配したりしないとすれば、その約款の紛争未然防止機能は失われていると言わざるをえない。
そこで、約款にはこうした協議規定ではなく、完成後解除でも新 634 条の趣旨が妥当すべきであり、同条を類推適用した場合の権利関係を定めておくべきである。具体的には、完成前解除と同様に、可分かつ注文者に利益がある部分については報酬支払いを認める新 634条を踏まえて、「注文者にとって、修補すれば契約で定めた工作物として使用が可能である等利益がある部分については契約解除ができない」旨を定めておくことが相当であろう。
これまで、建設工事請負契約における契約不適合に基づく契約解除の範囲ついて、従来の裁判例を踏まえつつ、民法改正審議会での議論を追いながら、どのような範囲で契約解除が認められるのが妥当であるかを検討してきた。その成果としては、建設工事請負契約においては、民法改正によって削除された旧 635 条但書の趣旨が引き続き妥当しており、また「継続的契約関係」という法的性質の側面をもつことをもって、完成後の契約解除では制限的な解釈をとるべきであること、またその方法としては新 634 条を完成後解除に類推適用させることによって、注文者と請負人のxxを保つことができるという点を述べた。さらにこの帰結に関しては、建設業界で用いられている建設工事請負契約約款に盛り込むことで、紛争の未然防止が図られることを提言した。民法改正後、未だ建設工事請負契約の契約不適合に基づき解除を争う裁判例は出ていないが、将来的に紛争が生じる前に、約款上に解釈の在り方を盛り込んでおくことが有用であろう。
本研究で取り上げた点のほかにも、建設工事請負契約における検討課題はある。まず、今回の契約不適合に基づく解除の範囲は建築に絞った検討を行っているが、土木についての検討は対象外としたので、この検討が必要である。また、施工中の目的物の所有権帰属に関し、判例は材料提供者に所有権を帰属する立場をとるが、昨今は当事者意思に着目して原始的注文者帰属説が有力である。しかし、この有力説をとる場合には、本研究で取り上げた契約不適合解除における原状回復義務の帰結として、両当事者にどのような義務が発生する
185 xxxx「改正債権法施行に伴う『改正建設工事標準請負契約約款』の解説」NBL1169 号 83 頁,87- 88 頁(2020)。
のかが不明である。注文者帰属説と建物完成後解除との整合の問題についても、今後の検討課題としたい。
以 上