Contract
「平成24年度 海外建設プロジェクトにおける契約管理検討事業」報告書
<第3部>
海外において我が国建設企業に契約問題が発生している事案
平成 25 年 3 月
国土交通省
受託者 一般社団法人 海外建設協会
第 3 部 契約問題が発生している事案に関する詳細調査目 次
1. 調査の背景・目的 1
2. 調査の実施方法・内容 1
3. 我が国建設企業に契約問題が発生している事案の状況 2
(1) 全体概要 2
1) アンケート回収状況 2
2) プロジェクト実施場所(国名) 2
3) 資金源 2
4) 契約約款 2
5) プロジェクトの種類 3
(2) 契約実施上のトラブル 3
1) 契約条件の片務性 3
2) 土地の引き渡し 4
3) Utilities、埋設物の移設・除去 5
4) 設計変更 7
5) 物価変動に伴う調整 8
6) 請負代金等の支払遅延 9
7) EOT、追加費用等が認められなかった理由・事情 10
8) その他契約上の問題などについて 11
4. 調査結果の分析と今後の展望 13
第 3 部 契約問題が発生している事案に関する詳細調査
1. 調査の背景・目的
国土交通省では、平成 22 年度に「海外建設プロジェクトにおけるリスク管理方策に関する
検討会」を実施し、平成 23 年度には「海外建設プロジェクトにおける契約管理検討事業調査」で“国内建設企業の契約管理・ガバナンス状況”について調査を行ったが、実際のプロジェクトでどのような契約上の問題に直面しているかについて詳細な調査を行い、今後、海外プロジェクトにおける契約管理上、採りうる方策検討の基となるデータを収集することを目的とする。
2. 調査の実施方法・内容
海外建設協会会員企業(49 社)に、2004 年以降に引き渡し済みあるいは現在実施中の円借款案件(全案件)、及びその他の公共工事案件(1 件 100 億円以上の案件)を対象とする下記 16 項目のアンケートを実施した。
これらのうち、本調査で直接的に関わる項目は 15.および 16.である。
1. プロジェクト名
2. 施工場所
3. 発注者
4. 施主の分類
5. 事業費融資者(資金源)
6. 契約上の準拠法
7. 契約約款の種類
8. 契約金額
9. 契約日
10. 着工日
11. 契約竣工日
12. 竣工(予想)日
13. プロジェクトの種類
14. プロジェクト概要(計画概要、規模など)
15. プロジェクト遂行上の問題(不具合)
<契約条件の片務性>
<契約実施上のトラブル>
○ 土地の引き渡し遅れに伴う着工・工事の遅れ
○ Utilities、埋設物の移設・除去の遅れに伴う着工・工事の遅れ
○ 物価変動に伴う調整
○ 請負代金等の支払遅延
16. 15)の質問項目以外の契約上の問題と対応
3. 我が国建設企業に契約問題が発生している事案の状況
(1) 全体概要
1) アンケート回収状況
回答: 15 社 回答案件数: 90 件
2) プロジェクト実施場所(国名)
複数案件の回答があった国を回答が多い順に並べると、
ベトナム(21)、フィリピン(11)、インドネシア(7)、タイ(7)、 シンガポール(6)、台湾(6)、 UAE(5)、アメリカ(5)、 スリランカ(4)、マレーシア(4)、カタール(2)となり、この他に 各 1 案件の回答が 12 カ国あり、全体で 23 カ国でのプロジェクトについて回答があった。
(( )は回答件数 )
3) 資金源
⮚ 円借款案件が 64 件(約 70%)
⮚ 発注国政府自己資金は、シンガポール、UAE、米国、台湾、カタール
⮚ その他は、台湾、香港の公共機関
円借款 | 64 件 |
発注国政府自己資金 | 22 |
N/A | 1 |
その他 | 3 |
合計 | 90 |
4) 契約約款
⮚ FIDIC 約款および FIDIC ベースの約款をあわせると 68 件(約 75%)
⮚ その国の公共約款を使っていたのはタイ、シンガポール、チュニジアなど
⮚ その他-発注者独自約款を使用していたのは、香港、台湾、シンガポール、カタール、米国など
FIDIC Red 87 | 52 件 |
FIDIC Red 99 | 2 |
FIDIC Silver 99 | 1 |
FIDIC Yellow 99 | 1 |
FIDIC MDB | 4 |
FIDIC M&E 87 | 1 |
FIDIC ベースの独自約款 | 7 |
相手国公共約款 | 6 |
その他(発注者独自約款) | 16 |
合計 | 90 |
5) プロジェクトの種類
⮚ 空港*-11 件のうち 6 件は建築案件または建築を含む案件
⮚ 空港*の 6 件の建築案件及び建物 2 件、併せて 8 件を除く 82 件は土木案件
道路・橋梁 | 33 件 |
鉄道 | 8 |
地下鉄 | 9 |
港湾 | 6 |
空港* | 11 |
建物 | 2 |
その他 | 21 |
合計 | 90 |
(2) 契約実施上のトラブル
1) 契約条件の片務性
• なんらかの片務性を指摘する回答が 56 件あり、全回答数の約 8 割を占めている。
• 一番多く指摘されたのが「エスカレ(価格調整)条項なし、あるいはエスカレに関する制限」で、合わせて 20 件の回答が指摘していた。次いで多かったのが中立性、xx性の欠如の要因となる「エンジニアの権限制限/インハウスエンジニア
(発注組織内のスタッフ)」で、12 件の回答があげていた。以上の他にも種々の片務性があげられていたが、「片務的契約条件は特に無い」との回答が 13 件あった。
⮚ 「片務的な条項があればその条項」の設問への回答総数は 69 件あった。内容別には次表に分類される。
片務的な条項有り | エンジニアの権限制限/インハウスエンジニア(発注 者組織内のスタッフ) | 12 件 |
エスカレ(価格調整)条項なし | 11 | |
エスカレ制限(対象品目、通貨、期間の限定 etc) | 9 | |
他に、設計変更の限度設定なし、不可抗力による損害に関する増額は認めない、遅延事象が発生した際の通知期限が極端に短い、契約の解除権が発注者にはあるが請負者にはない、「BOQ 数量に大幅な変更がある場合の新たな料率、価格の追加」条項削除、「発注者の支払不履行の場合における、請負者の契約を終了する権利」項目削除、「発注者の契約破棄に起因する請負 者の追加費用支払」項目削除、「発注者リスクに起因 | 24 |
する費用、正当な利益の支払」項目削除、数量増が原 BQ の一定割合を超える場合の単価の減額、L/D(遅延損害賠償金)に上限無し、など | ||
片務的な条項 無し | 特に無い | 13 |
合計 | 69 |
以下は、問題(不具合)を生じている「土地の引き渡し」「Utilities、埋設物の移設・除去」「設計変更」「物価変動」及び「請負代金等」の事案毎の状況について記述する。
注1) 設問毎で回答総数に差があるのは、回答する、しないの判断を回答会社に一任したため。
注2) 数字は回答件数
プロジェクト全 90 件との合計差は該当部分での回答がなかった(該当しない・未対応・不明・無記入などが含まれる)ものである。
2) 土地の引き渡しの遅れ
• 工期延長(EOT)は認められても、これに伴う追加費用は認められにくい傾向が読み取れる。工期延長によるスタンバイコストの増加、工事の計画を変更することのコスト増に対する理解が低いことが、原因としてあげられる。
• 「土地の引き渡し遅れに伴う着工・工事の遅れ」に伴う工期延長(EOT)及び追加費用が認められたか否かについて
工期延長<全回答数 39 件>
工期延長 | 必要な延長が認められた | 12 件 |
十分ではないが延長が認められた | 16 | |
延長は認められなかった | 6 | |
打合せ中 | 5 | |
合計 | 39 |
追加費用<全回答数 42 件>
追加費用 | 必要な追加費用が認められた | 2 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 15 | |
追加費用は認められなかった | 14 | |
査定・交渉・協議中 | 11 | |
合計 | 42 |
• これら回答のうちで EOT と追加費用の両方に回答があった事例<全回答数 34 件>についての EOT と追加費用の関連は次のとおり。
工期延長(EOT) | 追加費用 | |
必要な延長が認められた (12 件) | 必要な追加費用が認められた | 2 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 6 | |
追加費用は認められなかった | 2 | |
査定、協議中 | 2 | |
十分ではないが延長が認められた (16 件) | 必要な追加費用が認められた | - |
十分ではないが追加費用が認められた | 4 | |
追加費用は認められなかった | 6 | |
査定、交渉、係争中 | 6 | |
延長は認められな かった (6 件) | 追加費用は認められなかった | 6 |
合計 | 34 |
• EOT は認められても必ずしも追加費用は認められない傾向が読み取れる。
⮚ 「土地の引き渡し」に関する契約条件はどうなっていたか<全回答数 67 件>
• すべての案件で発注者責任。
• 引き渡しの時期 は、「着工時にすべて」「着工後何日以内」「行程に従い」など、案件毎に異なる。
⮚ 「土地の引き渡し」に関するコメント<全回答数 37 件>
• 13 件は問題なしか大きな問題にはならなかったとの回答で、その理由としては、設計変更で対応、一部遅れても全体工期に影響なかった、などがあげられていた。
• 「土地の引き渡し」に関するコメントを総括すると、まず発注者と地権者の交渉
(住民立ち退き補償、作物補償、補償の肩代わりなど)遅れや、契約条件として明記されていない発注者都合による部分引き渡しで不要な時間がかかるなどして計画と異なる実施状況となる。その結果、手待ち・手戻りの状況になり不要な時間と工事費(スタンバイコストを含む)が多く支出される事となったが、上記回答に見られるように追加費用は認められない傾向であった。
3) Utilities、埋設物の移設・除去
• 工期延長(EOT)は認められても、これに伴う追加費用は認められにくい傾向が読み取れる。土地の引き渡しや Utilities,埋設物の移設・除去は施主責任であるため、これらの遅れに伴う追加費用の発生は、施主側責任を回避するため認めようとしない傾向にある。
⮚ 「Utilities、埋設物の移設・除去遅れに伴う着工・工事の遅れ」に伴う工期延長(EOT)
工期延長 | 必要な延長が認められた | 8 件 |
十分ではないが延長が認められた | 9 | |
延長は認められなかった | 12 | |
不確定、承認待ち | 2 | |
合計 | 31 |
及び追加費用が認められたか否かについて工期延長<全回答数 31 件>
追加費用<全回答数 31 件>
追加費用 | 必要な追加費用が認められた | 1 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 13 | |
追加費用は認められなかった | 12 | |
査定中、未定 | 5 | |
合計 | 31 |
• これら回答のうちでEOT と追加費用の両方に回答があった事例<全回答数 29 件>についての EOT と追加費用の関連は次のとおり。
工期延長(EOT) | 追加費用 | |
必要な延長が認められた (8 件) | 必要な追加費用が認められた | - 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 5 | |
追加費用は認められなかった | 1 | |
査定中 | 2 | |
十分ではないが延長が認められた (9 件) | 必要な追加費用が認められた | - |
十分ではないが追加費用が認められた | 4 | |
追加費用は認められなかった | 4 | |
一部査定中 | 1 | |
延長は認められなかった (12 件) | 追加費用は認められなかった | 7 |
十分ではないが追加費用が認められた | 3 | |
査定中 | 2 |
• 「土地の引き渡し」と同様、EOT は認められても追加費用は認められない傾向が読み取れる。
⮚ 「Utilities、埋設物の移設・除去」に関する契約条件はどうなっていたか
<全回答数 54 件>
• 明確に発注者責任となっている回答が 15 件、請負者責任となっている回答が 25
件で、全回答の約半分が請負者責任となっていた。
• 発注者、請負者のどちらの責任かが明確になっていない案件も少なくない。
• ただし、“発注者が Utility 管理・所有者と打合せ・協議を行い、その後、請負者が移設する”という、両者の責任分担が明確に規定されている案件が 2 件あった。
⮚ 「Utilities、埋設物の移設・除去」に関するコメント<全回答数 28 件>
• 7 件は問題なしか大きな問題にはならなかったとの回答で、その理由としては、サイト自体に移設・除去すべきものが無い、地盤状況が事前に明確、発注者側が移設、などがあげられていた。
• 「Utilities、埋設物の移設・除去」に関するコメントを総括すると、移設・撤去に関する関係者との一連の交渉・調整、および移設・撤去・防護作業には長時間を要し施工および工程計画に影響が生じた。また、入札時のあいまいな設計図面と現実の埋設・Utilities の相違による影響が大きい。
これらの影響を防ぐか低減するためには、「発注者から入札図書で Utilities、埋 設物に関する正確、十分な情報の提供が得られる」ことや、「公共事業機関との 協力が必ず必要となる為、スムーズに事を運ぶ上でも、発注者(公共機関の場合) が主体的に関与する旨」あるいは「責任は請負者が持つ(入札金額に見込む、想 定外の条件が出てきた場合は Provisional Sum でその費用を請負者に支払うこと)」などが契約条件に明記されることが求められる。
4) 設計変更
• 2) 土地の引き渡し遅れに伴う着工・工事の遅れや 3) Utilities、埋設物の移設・除去と異なり、工期延長(EOT)が認められれば、これに伴う追加費用も認められる傾向が読み取れる。
工期延長 | 必要な延長が認められた | 19 件 |
十分ではないが延長が認められた | 25 | |
延長は認められなかった | 6 | |
協議中 | 6 | |
合計 | 56 |
⮚ 「設計変更」に伴う工期延長(EOT)及び追加費用が認められたか否かについて工期延長<全回答数 56 件>
追加費用<全回答数 62 件>
追加費用 | 必要な追加費用が認められた | 5 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 43 | |
追加費用は認められなかった | 2 | |
査定、交渉・協議、係争中 | 12 | |
合計 | 62 |
• これら回答のうちでEOT と追加費用の両方に回答があった事例<全回答数 49 件>についての EOT と追加費用の関連は次のとおり。
工期延長(EOT) | 追加費用 | |
必要な延長が認められた (19 件) | 必要な追加費用が認められた | 3 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 13 | |
追加費用は認められなかった | - | |
査定、係争中 | 3 | |
十分ではないが延長が認められた (25 件) | 必要な追加費用が認められた | - |
十分ではないが追加費用が認められた | 22 | |
追加費用は認められなかった | 1 | |
交渉、協議中 | 2 | |
延長は認められなかった (5 件) | 必要な追加費用が認められた | - |
十分ではないが追加費用が認められた | 3 | |
追加費用は認められなかった | 1 | |
査定中 | 1 |
• 「土地の引き渡し」「Utilities、埋設物の移設・除去」とは異なり、EOT が認められれば追加費用も認められる傾向が読み取れる。
⮚ 「設計変更」に関する契約条件はどうなっていたか<全回答数 67 件>
• FIDIC で規定している条件か、あるいは発注者独自の契約約款(22 件)でも FIDICと同様の規定を定めているが、金額修正方法については、両者とも種々の制限を設けている。
⮚ 「設計変更」に関するコメント<全回答数 39 件>
• 問題なしか大きな問題にはならなかったとの回答は 2 件のみで、コンサルタントから強いサポートが得られたことや、設計変更の手順が確立されていて事務的には管理が容易であったことがその理由としてあげられていた。
• 「設計変更」に関するコメントを総括すると、変更の限度が定められていなかったり、契約書に記載されていない手続き(相手国政府機関内ルールによる)により設計変更確定に時間を要したり、設計変更に伴う新単価承認に拒絶反応を起こすなどして、承認が異常に遅い例があげられていた。
• 新単価設定にあたっては、当該国の積算基準を強要されるケースがあり、その基準が市場価格と乖離しており損失が発生してしまう例も指摘されていた。また、契約にない経費率を押し付けられるなど、延長分の間接経費の増額は極めて困難であることが読み取れる。ただし、上記の通り、設計変更に伴う工期延長は認められることが多い。
5) 物価変動に伴う調整
• 回答のうち、契約に物価変動に伴う価格調整条項が盛り込まれている例が、全体の 4 分の 3 程度であった。条項自体は設けられていても、足切りや調整項目の制
限等の制約があることも多く、調整の妥当性に関する紛争が多く発生している。
⮚ 「物価変動」に伴う価格調整が行われたか否かについて<全回答数 62 件>
追加費用 | 必要な追加費用が認められた | 9 件 |
十分ではないが追加費用が認められた | 30 | |
追加費用は認められなかった | 13 | |
交渉・協議、係争中 | 10 | |
合計 | 62 |
• 今回調査で採用が多かった FIDIC 系の契約では基本的に物価調整に関する条項がある。物価変動に伴う調整に関する紛争の論点は、物価調整式のインデックスの採用値と計算方法、足切り部分の金額等、調整の妥当性に関することとなる。
⮚ 「物価変動に伴う調整」に関する契約条件はどうなっていたか<全回答数 83 件>
• 契約条件に「価格調整条項が無かった」との回答が 19 件あったが、このうち 11 件が非円借款の案件であった。その他の事例 64 件では「価格調整条項」は 含まれていたと読みとれるが、このうちの 14 件が非円借款の案件で、この 14 件のうちの 1 件を除いては足切りや調整項目の制限など何らかの制約があった。また残りの「価格調整条項」は含まれていた円借款案件 50 件でも同様な制限が あり、次に記述するコメントであげられる問題の原因となっている。
⮚ 「物価変動に伴う調整」に関するコメント<全回答数 51 件>
• 問題なしか大きな問題にはならなかったとの回答は3 件のみで、その理由として、契約に基づき請求し支払われた、影響が最も大きい資材については認められたので大きな問題とはなっていない、また、公にされた指数に基づき算定され、明確でxxであったことがあげられていた。
• 「物価変動に伴う調整」に関するコメントを総括すると、
物価指数により計算されるシンプルな計算のはずだが、発注者の恣意的な査定が入ったりして、物価変動による調整は「クレーム」扱いとされ、中間出来高とは別に査定され、支払も大幅に遅れることもある。
また、調整通貨/物価指数は何かで揉めるので、契約で取り決められた通貨(の比率)で/契約時取り決めの指数で調整されるべきである。契約条項の価調整方法に不明確な部分があったため、発注者と係争が発生したケースもある。
さらに、計算式が契約に定められていても市場の実態がすべて指数に出ていることはないし、足切りされる部分もある。
常識を超えた物価変動が生じた場合は、契約条件にある通常の計算式によらない調整が認められるような条項が必要であることや、前述の「契約条件の片務性」の項目でもあげられていた「物価変動に伴う調整制限(対象品目、期間)」ありとのコメントがあった。
要するに、契約条件に「価格調整条項が無い」場合は勿論のこと、調整条項がある場合でも物価変動がリスクとなっていると言える。
6) 請負代金等の支払遅延
• 支払遅れが発生した事例が一定程度みられるが、その原因として、発注者介入によるエンジニア権限の濫用により査定、承認手続きに異常な時間を要したことや、発注者の資金不足などがあげられている。遅れの最長期間は、月毎の支払で 1 年、最終精算金の支払で 5 年、留保金解除で 4 年とするものがあり、キャッシュフローに大きく支障をきたした案件の報告もある。
⮚ 支払遅延については、月次支払の遅延、最終精算金の支払、及び留保金解除の 3 点について調査した。
① 現在施工中の場合の月次支払遅延<全回答数 15 件>
月次支払が約定の日より遅れたとの回答 15 件あった。遅れの期間は、1、2 週間から 1 年まであり、うち 100 日を超える案件が 10 件あった。
月次支払遅れに伴う金利の支払は次のとおり。
金利は約定の利率通り支払われた | 2 件 |
金利は支払われなかった | 9 |
無回答 | 4 |
合計 | 15 |
② 最終精算金の支払<全回答数 19 件>
約定の日より遅れた *1 | 4 件 |
未だ支払われていない *2 | 15 |
合計 | 19 |
*1 遅れの期間は、10 ヶ月、2 年、3 年、5 年となっている。
*2 回答時点で未払いとなっている期間は、最短が 1 ヵ月(1 件)、その他は
2 年 7 件、3 年(+α)5 件、4 年と 5 年が各 1 件であった。
③ 留保金解除<全回答数 12 件>
約定の日より遅れた *3 | 9 件 |
未だ解除されていない *4 | 3 |
合計 | 12 |
*3 遅れの期間は、最短が 5 ヵ月(1 件)、1 年(+α)3 件、2 年 3 件、3 年
2 件であった。
*4 回答時点で留保金が解除されていない期間は、2 年 2 件、4 年 1 件であった。
⮚ 「請負代金等の支払遅延」に関するコメント<全回答数 40 件>
• 「請負代金等の支払遅延」に関するコメントを総括すると、支払遅れの原因として、発注者の資金不足、発注者介入によるエンジニア権限(査定)のスポイル、支払の為の証票として他国では見られない膨大な品質関連添付資料の指示があり、更に書式が工事最後まで決まらず、承認、支払までに異常な時間を要したなどの指摘があった。
また、出来高支払遅延のxx率は非常に低く、支払遅延防止の歯止めにならない。支払い遅延時の金利はペナルティーな意味合いとなる利率が求められるとのコメントがあった。
7) EOT、追加費用等が認められなかった理由・事情
• 上位機関や会計監査からの責任追及の回避を優先したり、工期延長は認める(すなわち遅延損害金を課さない)ことと引き換えに、追加費用クレームを拒否することなどがあげられる。
以上 2)~6)の回答の中で、EOT 及び/または追加費用等が認められなかった案件について、その理由・事情について問い合わせ、その回答を取りまとめた結果は下記のとおりである。
<EOT>
• 延長事由は理解したが、経費補償を伴う延長を拒否。
• 「全体工程へのインパクトがなかった」(クリティカル・パス上のイベントではなかった)とされた。
* ある社の経験では、設計変更の EOT は認められなかったが、追加費用は一部ではあるがすべてのケースで認められた。
• エンジニアが施工国のエンジニアであり、極めて発注者寄り(不xx)であった。
• 施主の強い要望もあり施工方法及び施工手順を変更し、これらの施主の遅れをアクセラレーションにて回復。
<追加費用>
• 上位機関(電力庁)や会計監査からの責任追及の回避を優先したと推測。
• 「土地の引渡し遅れ」、「埋設物移設等」に関わる責任は、施主の責任になるので、責任回避のため認めようとしない。
* ある例では、発注者は、一部の用地引き渡しが遅れても、他のサイトの工事を優先させ工期の遅れを生じさせないで済むと主張。
→ 技術的には可能であるが、そうすることで追加費用(待機費用やスケジュール変更による施工計画全体見直しに伴う経費など)を発生する事になるが、その証明が困難である。
• 旧共産圏で工期延長に伴う経費獲得交渉は極めて難しいと思われたので諦めた。
• ある国では、工期延長に伴うコントラクターの経費またはスタンバイコストは支払われた前例が無く、近年益々査定が厳しくなっているため、追加費用のクレームをしたとしても獲得見込みはほぼゼロ。
• 工期延長は認める(すなわち遅延損害金を課さない)ことと引き換えに、追加費用クレームを拒否するのが一般的なようである。
• 予定 BQ 数量を超えた項目もすべて設計変更の対象になり、最終数量が確定しなければ支払われない。このため、アプローチ道路から高架橋に変更され大幅な数量増になっても支払を受けられない状態が続き、キャッシュフローが非常に厳しくなった。
<物価変動>
• 物価変動に関する条項がなかった(削除されていた)。
• 物価変動に伴う調整・補てんを認めない旨が契約xxx。
• ある国の運輸省案件は物価調整条項がついていない(公共事業省案件はあり)。条文がないことを理由にクレームを拒否。
一部追加費用が認められたのは、Change legislation の条項はあったので、統制価格である燃料の値上りを適用させクレームした。
8) その他契約上の問題などについて<意見回答数 52 件>
• その他の問題として、発注者側の国際的な契約への不慣れや、発注国の体制未成熟、理不尽な対応要求や過剰な要求、エンジニアや発注者の怠慢や不履行といった契約以前といえる事柄がプロジェクト遂行上の問題としてあげられている。
以上の他に「その他の契約上の問題・トラブル」に関する設問では 52 件の回答があった。その中には前出の課題・設問に直接結びつくものも寄せられていたが、それらを除き、以下に回答からの要素を抽出した。
• 発注者側の国際的な契約への不慣れや、国の体制が未成熟:
契約書の位置づけが理解出来ておらず、法体系が統一されていないため、解釈の相違が都度発生した。例えば、当初契約額を超えることはあり得ないとの認識からの増額分支払いトラブルが発生した例、契約条件による物価変動調整による支払いを受けたが、その後国内基準が適用された結果、過払いにあたるとして、払い戻しを要求された例がある。
• 発注者側からの理不尽な対応や過剰な要求:
工事促進を強要し、遅延の原因を請負者に責任転嫁したり、エンジニア発行の引渡し証明を発注者が認めず、履行保証や保留金の解除がなされない。また、一旦対外的に契約上の検査・引渡しが完了した状態であったが、その後発注者が受ける国家機関による竣工検査の対応のために、国内法や発注者
内部規則などを持ち出し、対応不能なものを含む過剰な資料を要求されたり、あるいは最終出来高査定時に、契約上の一方的な解釈変更による出来高査定 が大幅に減額された。
瑕疵担保責任などでは、引渡し後の使用者側の責任を請負者の瑕疵として転嫁されて無償で修理させられたり、引渡し後の道路使用者による路面の自然摩耗や路材の盗難などを瑕疵責任に転嫁された。
• エンジニアや発注者などの怠慢や不履行:
判断の先送りや設計承認期間の不遵守により承認までに異常に時間を要したり、検査、積算業務や設計図発行遅れにより、工事遅延が発生した。
また、一度、三者間(発注者・エンジニア・請負者)で合意した部分に対し、最終出来高確定時になってエンジニアの追加指摘が繰り返された。
解釈の相違などでは、契約上「同等品」への変更が許容されているが、なかなか承認が得られなかったり、想定外の大幅な意匠仕様変更要求に対応させられて大幅なコスト増となったが、最終段階で入札時の要求仕様と合致しているかどうかが争点となり、調整に多大な労力を要した。さらに、施工のみの請負契約にもかかわらず、設計上の不備と思われることに対し、請負者はその不備を分かって応札しているとの解釈で、請負者責任の対策を要求された。
• その他:
条件の変更・相違の事例として、「(円借款案件で)L/A(ローン・アグーリーメント)発行後に用地買収の関係からアクセスルートが変更された」、
「発注者責任の土地の引き渡しが契約時の範囲より狭く、本設構造物のはみ出しとなって作業スペースの確保も困難となった」などをあげる回答があった他、BQ 関連で「BQ 単価に対して承認の遅れや不当な干渉があったり、 BQ 数量が不合理的なため清算に支障をきたしたりした」事例、あるいは、
「BQ 単価に対して承認の遅れや不当な干渉があったり、BQ 数量が不合理的なため清算に支障をきたした」事例などが寄せられた。
また、円借款案件では日本企業は非課税扱いとなっているが、プロジェクト遂行上建て替えざるを得ないことが多い VAT(付加価値税)、関税の還付遅れ、未返還を指摘する事例もあった。
4. 調査結果からの考察と今後の展望
調査への回答や意見・コメントなどからは、問題発生の要因には発注者やエンジニア側の理解不足、文化土壌・資質レベルの違いなど、契約以前の問題も大きく影響している事例も見られたが、一方では、請負者も契約を取り交わす上で、詰めが甘かったりリスクの見込み違いがあったのではと思われる状況もある。
契約管理は、工事遂行中の管理のみならず、入札段階から契約条件を含む入札図書からリスクを読み取り、そのリスクを入札価格に反映させ、契約交渉においては契約条件を出来る限り公平なものにすべく交渉し、着工から工事引き渡しまで月次請求及びクレームの通知、請求を繰り返し、引き渡し後も最終の精算・代金回収が済むまで業務が続いていく。時には、仲裁、裁判に持ち込まれるケースもある。すなわち、契約管理業務は、プロジェクトの最初から最後の最後まで深く関わり、プロジェクトの採算を左右する非常に重要な要素を担っている業務であるといえる。
しかしながら、契約管理業務は、法務担当者のみで完結できるものではなく、工事現場で働く全てのスタッフが、契約における義務と権利を意識して行動することが必須と言える。個々のスタッフが諸々の出来事、発注者側とのやりとりを記録し、それらを基に、契約条件に従って請求すべきものは遅滞なく請求していくことがプロジェクトを成功に導く重要なファクターの一つであろう。その証として、海外プロジェクトの経験が豊富な海外のコントラクターは、契約管理を中心とする強力なコマーシャル(契約管理・商事・渉外)部門を持ち、施工部門とともに発注者側と契約を軸とした関係を構築し、プロジェクト管理を行っている。
海外工事において、採算がとれるように適切にプロジェクトを遂行するためには、本社サイドの理解とサポートも欠かすことができない。契約管理に係る紛争はプロジェクトの各段階において当然に発生するという前提で、本社サイドにおいても契約管理の重要性を一層強く認識し、関連の人材・組織の強化充実が求められよう。
一方、発注者、請負者双方の立場の関係から考えれば、発注者の多くは国や行政関係機関であり、請負者の一民間企業が、相手国発注者と直接対峙するという力関係のアンバランスが生じていることは想像に難くない。
特に、今回のアンケートでは発注者側の一方的な契約条件の不履行、一旦合意したことの反古、手続きなど義務履行の怠慢、契約範囲を大きく超えた過剰な要求など、様々な理不尽な状況にあっても、請負者としては妥当な支払いが滞らぬよう日々腐心し、余分といえる労力や時間を使って対応した事例や、やむなく請負者側から歩み寄っている事例が少なからず寄せられた。また、紛争処理の手順を踏んではいるが解決に至らぬまま長い時間が過ぎているというケースも多く、建設案件の契約問題の根深さが感じられる。
とはいえ、数少ないケースではあるが、日本国大使館や融資機関からの発注者側への粘り強い働き掛けにより好転につながったというコメントもあり、海外での建設工事を円滑に進める上で、国や関係機関等のタイムリーかつ実効的なサポートは特に重要であると思われる。