2.この契約存続中,本書籍の全部または一部(キャラクターを含む。)が翻訳,演劇,映画,放送, VTR,紙芝居,ダイジェスト等その他に二次的に使用される場合,甲は,その使用に関する著作権の管理を乙に委託する。
(2)出版権設定契約およびその留意点の解説
平成 20 年度著作権委員会第 1 部会
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1.はじめに
著作物の出版契約には,通常の出版許諾契約,独占的出版許諾契約,出版権設定契約の 3 種類がある。
著作物の出版について他の出版社にされては困る事情があるときは,著作権者と独占的出版許諾契約を締結する。ただし,独占的出版許諾契約では,著作権者が他の出版社と 2 重に出版許諾契約をしたときは,著作権者に対して契約不履行の責任を追及することができるだけである(民法 415 条)。
独占性を確実に確保したい場合は,出版権設定契約を締結する必要がある。出版権設定契約を締結した場合,他の出版社の出版行為に対して差止請求をしたり損害賠償請求をしたりすることができる(著作xx 112 条,114 条,民法 709 条)。
本稿では,実際に使用されている契約書例を用いて出版権設定契約およびその留意点を解説する。
2.出版権設定契約の留意点
(1)第 1 条
甲は,乙に対し,本書籍の出版権を設定する。
2.前項での出版権の設定により,乙は,本書籍を出版物として複製および譲渡の権利を専有する。
重要度:☆☆☆
本条は,契約の本旨となる規定である。解説
出版権設定契約では,甲および乙の債権・債務として,①出版権の設定と,②それに対する対価とを規定することが基本的な内容である。また,条項としては紹介していないが,出版権設定契約の前提として当事者(甲,乙)および対象(本書)を特定することが必要である。これらの特定は,出版権設定契約の冒頭で行うことが一般的である。
出版権とは,頒布の目的をもって,著作物を原作の
まま印刷その他の機械的または化学的方法により文書または図画として複製する独占排他的な権利をいう
(著作xx 80 条 1 項)。特許法でいえば,専用実施権に相当する権利である。専用実施権と異なる点は,契約のみで効力が発生すること,登録が第三者対抗要件となることである(著作xx 80 条 1 項,88 条 1 項)。出版権を設定できる者は,著作権のうち複製権(著 作xx 21 条)を有する者である(著作xx 79 条 1 項)。
著作者または著作権者であるかどうかではなく,あくまで複製権者であるかどうかである。したがって,甲は,複製権者であることが前提となる。これに対し,出版権の設定を受ける者は,著作物を文書または図画として出版することを引き受ける者である(著作xx 79 条 1 項)。したがって,乙は,出版社等であることが前提となる。
第 1 項は,まず,契約の対象が「出版権」であることを規定している。著作権には多数の支分権が存在するため,契約の対象となる権利を特定することが必要である(1)。また,出版権は,設定契約により発生するので(著作xx 79 条 1 項),これを実現するための規定である。なお,契約の本旨に関する違反は,法定解除の原因となるので(民法 541 条~ 543 条),代理人は,そのリスクを当事者に説明すべきである。
第 2 項は,著作xx 80 条 1 項の内容に対応するが,本項を特に設けなくても,著作xx 80 条 1 項に規定される範囲で専有が認められる。しかし,著作xx 80 条 1 項の規定によれば,出版権の設定により譲渡する権利まで専有することはできない。出版権と譲渡権は別個だからである(2)。複製はできるが譲渡はできないというのでは契約の実効性を欠くので,譲渡ができるように手当てが必要となる。本項は,譲渡する権利についても規定している点に意義がある。
また,著作xx 80 条 1 項の規定によれば,「著作物を原作のまま」との制限がある。しかし,将来的に改訂等して出版することも十分想定されるので,その手
当てが必要となる。本項は,「原作のまま」という文言を入れていないので,著作xx 80 条 1 項の範囲よりも若干広くなっているが,改訂等を考慮するのであれば,別途xxの規定を設けることが好ましい。
また,「印刷その他の機械的または化学的方法」以外の複製方法についても同様である。
ただし,出版権(著作xx 80 条 1 項)により専有が認められる範囲は,本項で規定する専有範囲のうち,著作xx 80 条 1 項で規定する専有範囲と重複する部分である。それ以外の部分については,独占的利用許諾契約となるものと解される。対世的効力を有する物件的権利の設定である以上,当事者間で自由な範囲を定めることは許されないからである(3)。独占的利用許諾契約の部分については,第三者対抗要件が問題となるので,代理人は,そのリスクを当事者に説明すべきである。
(2)第 2 条
甲は,乙が本書籍の出版権の設定を登録することを承諾する。
重要度:☆☆☆
本条は,契約の本旨となる規定である。解説
出版権は,登録が第三者対抗要件となる(著作xx 88条 1 項)。登録がない場合は,独占的出版許諾契約と同様である(4)。特許権の登録なき専用実施権が独占的通常実施権と解されているのと同様である(2)。したがって,本条は,第三者対抗力を確保するための規定である。
また,第三者対抗力がない場合,転得者に対して対抗できないので,第 9 条と併せて著作権譲渡の問題を手当てしている。
(3)第 3 条
乙は, 甲に対し, 第 1 条の利用の対価として,発行部数 1 部ごとに次のとおり印税を支払う。
本書籍の定価を基礎とし,その****%に相当する金額。
重要度:☆☆☆
本条は,契約の本旨となる規定である。解説
本条は,出版権設定に対する対価を規定する。第 1 条,第 2 条に対応する規定である。売上部数ではなく,発行
部数(すなわち,複製回数)に応じた額となっている。 その他,次のように発行回数に応じて段階的に規定
することもできる。
1.乙は,第 1 回目の発行については,第 1 条の利用の対価として,その発行部数に定価の****%を乗じた印税を甲に支払う。
2.乙は,第 2 回以降の発行が行われた場合,第 1
条の利用の対価として,その売上部数に定価の***
*%を乗じた印税を甲に支払う。
(4)第 4 条
前条による印税の支払いは,本書籍の発行日から 60 日以内とする。
重要度:☆☆☆
本条は,契約の本旨である第 3 条を補強する規定である。
解説
本条は,対価の支払時期を明確に規定する。本条が存在しないと,契約に基づき支払遅延を追及できないからである。遅延が生じた場合は,法定解除の原因となる(民法 542 条)。
(5)第 5 条
乙は,甲に対し,本書籍の第 1 刷発行の際に*
***部を贈呈する。甲は,第 1 刷と増刷とを通じ, 50 部までは定価の 2 割引で乙より購入することができる。
重要度:☆
本条は,甲が有利となる付加的な規定である。解説
本条は,甲が本書を安価で入手するための規定であり,第 3 条と併せて出版権設定に対する対価を規定する。なお,トラブルの未然防止のため,贈呈部数を印税の計算から除外する規定を設けておくことも有効である。
(6)第 6 条
乙は,本書籍の発行部数を証するため,甲に対し製本のつどその部数を報告する。甲の申し出があった場合には,乙は,その証拠となる書類の閲覧に応ずる。
重要度:☆☆☆
本条は,契約の本旨である第 3 条を補強する規定である。
解説
対価は,発行部数に応じるので,甲が発行部数を確認できる手当が必要となる。本条は,これを実現するための規定である。乙が閲覧に応じない場合は,法定解除の原因となる。
(7)第 7 条
この契約に基づく出版権の存続期間中,甲は,乙の同意なしに,本書と同一または類似の内容を有する著作物を自ら発行しないこと,および乙以外の他人に発行させないことを保証する。
重要度:☆
本条は,乙が有利となる付加的な規定である。解説
甲は,著作xx 80 条 1 項の規定により本書と同一の著作物を複製することはできないが,本条は,これに加えて,①本書と同一の著作物を発行すること,②本書に依拠するか否かにかかわらず類似の著作物を発行すること,③乙以外の他人にそれらを発行させないことを規定する点に意義がある。
「発行」とは,図書などを印刷して世に出すことをいう(5)。したがって,発行には複製が伴うので,著作xx 80 条 1 項の規定により甲の複製行為が禁止される以上,本項を設ける意義がないようにも思われるが,複製よりも発行が行われる方が乙にとって不利益が大きいことから,本項は,「発行」を明確に禁止するために設けられている。
(8)第 8 条
甲は,この契約に基づく出版権の存続期間中に本書を甲の著作集,全集,選集などに収録して出版するときは,あらかじめ乙の承諾を得るものとする。
2.この契約存続中,本書籍の全部または一部(キャラクターを含む。)が翻訳,演劇,映画,放送, VTR,紙芝居,ダイジェスト等その他に二次的に使用される場合,甲は,その使用に関する著作権の管理を乙に委託する。
3.本書籍が,外国で出版される場合,および外国で作品の一部が使用される場合,甲は,その使用に関する著作権の管理を乙に委託する。
4.この契約存続中,本書の全部または一部(キャラクターを含む。)が電子出版等デジタル的に使用される場合,甲は,その使用に関する著作
権の管理を乙に委託する。
5.本条 2 項から 4 項までに定める件に関し,使用の申し出があった場合,甲および乙は,そのつど相互に連絡し,乙は責任をもって,その管理,促進の委託業務にあたるものとする。ただし,著作権使用料等の具体的条件については,甲乙協議のうえ定めるものとする。
重要度:☆☆
本条は,出版権に加える付加的な規定である。解説
第 1 項は,著作xx 80 条 2 項の「別段の定め」についての規定である。すなわち,3 年経過しても,全集その他の編集物の複製には乙の承諾が必要となる。ただし,この契約に基づく出版権の存続期間中に著作者が死亡したときは,乙の承諾は不要であるので(著作xx 80 条 2 項),代理人は,誤解が生じないようにその旨を当事者に説明すべきである。
本書の人気によっては本書が二次的に使用されることも想定される。第 2 項は,本書が甲,乙または第三者により二次的に使用される場合に,乙が著作権を管理できるように規定している。かかる規定は純粋な出版権の契約ではないが,特にマンガについては派生してアニメ化やゲーム化がされる場合があり,出版権の設定を受けた出版社がかかる範囲まで権利のコントロールを行うとする点で重要な規定である。主に,著作xx 27 条,28 条の権利の管理を想定している。なお,
「管理」とあるので,自らが翻案権や二次的著作物の利用することを意味せず,または当然これらの権利の譲渡でもない。
キャラクター自体は著作物ではないので(最判平 9 ・ 7 ・ 17),これをも契約で規制するため括弧書きで手当しているが,「著作権の管理」とあるので解釈上一定の限界はある。
著作権法上,「利用」と「使用」は区別されている。
「利用」は,著作物の無体物的側面に着目した著作物の用い方を表し,「使用」は,著作物の有体物的側面に着目した著作物の用い方を表している(6)。本項では,利用ではなく「使用」とあるので,本書の訳本のような具体的な物品についての管理を意味している。
本書の人気によっては本書が外国で出版されることも想定される。第 3 項は,本書が甲,乙または第三者により外国で出版,使用される場合に,乙が著作権を管理できるように規定している。ただし,著作権は国内の行為にしか及ばないので,主に,外国出版物等の
輸入の管理を想定している。なお,本契約の「著作権」に外国の著作権を含めて解釈することは難しい(法の適用に関する通則法 8 条 1 項)。
一部使用とあるので,全部使用が該当するかは疑義がある。
「作品」とあるのは,本書が翻訳して使用される場合を想定しているものと考えられる。
「出版」は「使用」の一態様と考えられる。
本書の人気によってはデジタル的に使用されることも想定される。第 4 項は,本書が甲,乙または第三者によりデジタル的に使用される場合に,乙が著作権を管理できるように規定している。主に,著作xx 21 条,23条,26 条の 2,26 条の 3 の権利の管理を想定している。第 5 項は,甲,乙または第三者より使用の申し出が あった場合に,委託業務の遂行について両者の連絡義務および乙の責任範囲を明確に規定する。具体的条件を定める場合は,連絡方法等も含め協議の上定めることになる。契約の本旨にかかわることから柔軟な対応
が可能となる。
(9)第 9 条
甲において本書籍の著作権を譲渡しようとするときは,乙の承諾を要し,乙は,甲の承諾なしにその出版権を他に譲渡することができない。
重要度:☆☆
本条は,リスクヘッジに関する規定である。解説
著作権の譲渡は出版権が設定されても甲が自由に行えるところ,契約期間中に甲が本書の著作権を失うと,第 7 条,第 8 条 2 ~ 3 項の履行を確保できなくなるので,本条は,これを手当てしている。後段は,著作xx 87 条の確認規定である。
(10)第 10 条
xが本書の内容により,他人の著作権を侵害し,または名誉毀損その他の問題を生じ,その結果,乙または第三者に対して損害を与えた場合は,甲は,その責任を負わなければならない。
重要度:☆☆
本条は,リスクヘッジに関する規定である。解説
本条は,甲が第三者の著作権を侵害していないこと
を保証する保証条項である。
xが本書の内容により他人の著作権を侵害する場合だけでなく本書の複製権を有していない場合は,乙の出版行為は,第三者の著作権侵害を構成する。本契約は当事者のみを拘束するに過ぎず,x条によって乙の責任は免れないが,それによって生じた損害を甲に負担させることにより問題を手当てしている。
また,本条は,損害賠償請求時に乙が甲の過失等を立証しなくてもすむ点にも意義がある。
第三者に損害が発生しても当該第三者は本契約に基づく請求はできないので,「第三者」とあるのは,乙が第三者の損害賠償を引き受けるような場合を想定したものである。なお,第三者には,本書の購買者が含まれる。本書が真正品でなければ第 1 譲渡で譲渡権が消尽せず,権利侵害を追及される可能性があるからである。
(11)第 11 条
本書籍の製作,販売,宣伝,広告等に関する事項は,乙の責任において,乙が定めるものとする。
重要度:☆
本条は,付加的な規定である。解説
本条は,本書の製作等は出版社である乙が行うので,これに関する事項は乙が決定できる一方,その決定に責任を負うことを明確に規定する。
(12)第 12 条
甲または乙が,この契約に定めた事項に違反したときは,相手方はこの契約を解除することができ,損害を受けたときは損害賠償の請求をすることができる。
重要度:☆☆
本条は,リスクヘッジに関する規定である。解説
本条は,契約違反により約定解除権が発生することを明確に規定する。損害賠償請求は規定しなくてもできるので(民法 545 条 3 項),確認的な規定である。
(13)第 13 条
この契約に定めていない事項については,甲乙誠意をもって協議のうえ決定するものとする。
重要度:☆
本条は,付加的な規定である。解説
本条は,契約一般の定型文である。
(14)第 14 条
この契約の有効期間は契約の日より満***
*ヶ年間とする。
重要度:☆☆
本条は,リスクヘッジに関する規定である。解説
本条は,存続期間の定めがない場合,出版権は,著作xx 83 条 2 項の規定により 3 年で消滅するので,著作xx 83 条 1 項に対応するための規定である。なお,無期限の場合は,有効であるとする説(2)と,無効であるとする説 とがあるので,具体的な期間として規定することが無難である。
(15)第 15 条
この契約は,期間満了の 3 ヵ月前までに甲乙いずれかから文書をもって廃棄の通告がなされないときは,この契約と同一条件で自動的に更新され,有効期間を****ヶ年ずつ延長する。
重要度:☆
本条は,付加的な規定である。解説
本条は,契約更新手続の便宜を図るための規定である。本条がないと,その都度契約書を交わす煩わしさがある。
(16)その他
①契約期間中に複製した本書を契約終了後も販売することを想定する場合は,セルオフ条項を設ける。逆に,本契約が契約終了後の販売を禁止することを想定する場合は,トラブルの未然防止のため,旧著作xx 85 条に相当する確認規定を設けるのが望ましい。
②本書が二次的,デジタル的に使用されることを想定しているので,契約期間終了後も当該二次的著作物等を利用することを想定する場合は,セルオフ条項を設ける。併せてその対価も規定する。
③本書を改訂する場合は,改訂の度合いによっては著作者の同一性保持権の問題が生じる場合があるので,著作者人格権不行使特約を設けることも有効である。複製権者と著作者が異なる場合は,著作者と別途契約が必要となる。
④第xxについては,当事者の合意により管轄裁判所を決められるので(民事訴訟法 11 条),必要であれば,裁判管轄についても規定する。
⑤複製権を目的とする質権が設定されている場合は,出版権の設定に質権者の承諾が必要となる(著作xx 79 条 2 項)。質権者の承諾のない出版権設定契約は無効と解される。契約が無効の場合は,本契約でいかなる規定をしても効力がないので,代理人は,契約に先立って質権者および承諾の有無を確認すべきである。もし確認ができない場合は,そのリスクを当事者に説明すべきである。
⑥本契約以外に乙には一定の義務が課される(著作xx 81 条,82 条 2 項)。義務違反その他の場合に,甲は,出版権の消滅請求が可能となる(著作xx 84 条)。トラブルの未然防止のため,代理人は,その旨を当事者に説明すべきである。
⑦出版権者は,他人に複製を許諾できない(著作xx 80 条 3 項)。出版権は,複製権者の承諾を得た場合に限り,質権の目的とすることができる(著作xx 87 条)。トラブルの未然防止のため,代理人は,その旨を当事者に説明すべきである。
⑧甲は,出版権の設定範囲内で複製することはできないが,第三者の複製権侵害に対しては差止請求できると解される(最判平 17 ・ 6 ・ 17)。
注
( 1 )xxxx,xxxx,xxxx編著『ライセンス契約のすべて』(雄xx出版,2006 年)
( 2 )xxxx著『著作xx』(有斐閣,2007 年)
( 3 )xxxx著『著作xx逐条講義 五訂新版』(財団法人著作権情報センター,2006 年)
( 4 )xxxxx『著作xx概説 第二版』(有斐閣,2001 年)
( 5 )広辞苑第五版
( 6 )xxxxx『著作xx講座 第二版』(財団法人著作権情報センター,2008 年)
(原稿受領 2009. 5. 13)