Contract
別紙1
目 次
第1章 はじめに
1 ガイドライン策定の背景 | ・・・ | 2 |
2 ガイドラインの内容 | ・・・ | 3 |
第2章 個別具体的な取引事例について(問題となりうる事例)
1 | トンネル会社の規制(下請法第 2 条第 9 項関係) | ・・・ | 10 |
2 | 発注書及び契約書の交付、交付時期(下請法第 3 条関係) | ・・・ | 13 |
3 | 支払時期の起算日(下請法第 4 条第 1 項第 2 号関係) | ・・・ | 16 |
4 | 買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等 | ||
(納入した番組・素材についての著作権の帰属、窓口業務) | ・・・ | 18 | |
5 買いたたき(下請法第 4 条第1項第 5 号関係) | ・・・ | 24 | |
6 不当な給付内容の変更及びやり直し(下請法第 4 条第 2 項第 4 号 | |||
関係) | ・・・ | 26 |
第3章 個別具体的な取引事例について(望ましいと考えられる事例)
1 | 発注書の交付等 | ・・・ | 29 |
2 | 支払期日の起算日(第 2 章-3 関係) | ・・・ | 30 |
3 | 不当な経済上の利益の提供要請等(著作権の帰属) | ・・・ | 30 |
4 | 買いたたき | ・・・ | 32 |
参考資料 ・・・ 34
第 1 章 はじめに
1.ガイドライン策定の背景
(1)検討会の開催
総務省においては、平成 14 年から「ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会」(座長:舟田正之立教大学法学部教授)を開催し、「放送番組の制作委託に係る契約見本」(平成 16 年 3 月策定)を策定するなど、放送番組の製作体制の公正性・透明性の向上に取り組んできたところである。また、放送事業者や放送番組製作会社等においても、当該契約見本を踏まえ、自主基準を策定するなど、放送番組の適正な取引促進に向けて取り組んできたものである。
放送コンテンツの製作取引については、平成 15 年の下請代金支払遅延等防止法(昭
和 31 年法律第 120 号。以下「下請法」という。)の改正により、「情報成果物作成委託」に係る取引として、同法の規制対象に追加され、法令上も、放送コンテンツの製作取引は、一層の適正化の促進が求められてきている。
近年、放送コンテンツ製作における製作者の役割は、多チャンネル化や、コンテンツの流通促進の要請等から、その重要性を増しており、製作者のインセンティブ向上の観点から、製作環境の整備や製作取引の適正化を図ることが、より良いコンテンツを増加させるために必要となっている。
また、放送番組製作取引については、公正取引委員会の特別調査(平成 19 年)の
対象である、特別 3 分野(①道路貨物運送、②放送番組・映像制作、③金型の製造委託)に挙げられているとともに、公正取引委員会の毎年度の調査において数件の警告1を受けている状況にある。
このような状況を踏まえ、総務省では、平成 20 年 1 月より、「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」(座長:舟田正之立教大学法学部教授)を開催し、放送コンテンツの製作取引の現状を検証するとともに、より適正な製作取引の実現に向けて、製作取引に係るガイドラインの策定などの具体策の検討を行ってきた。本検討は、放送事業者、放送番組製作会社、消費者、学識経験者等の参加
(必要に応じて議題に関係する事業者がオブザーバー参加)を得て、下請法だけでなく、独占禁止法の視点も踏まえて行われた。
1 平成 19 年調査における警告事例
・放送番組の制作等を下請事業者に委託しているS社は,ゴルフ大会等自社が主催するイベントのチケット販売業務を下請事業者に無償で行わせていた。(出典:「平成19 年度上半期における下請法の運用
状況及び今後の取組(概要)」(平成 19 年 10 月公正取引委員会))
(2)実態調査の実施
本ガイドラインは、上記検討会における検討結果に加え、総務省において実施した関係事業者に対する番組製作取引実態に係るヒアリング調査等を踏まえて策定したものである。ガイドライン中で取り上げている取引事例は本調査結果を基にしたものである。
上記検討会の構成及び実態調査の範囲から、本ガイドラインが対象とする放送事業者は地上テレビジョン放送事業者とする。
調査の概要は以下のとおりである。ア 調査対象
① 放送番組製作会社 29 社 (内訳:東京 10 社、その他地域 19 社)
② 放送事業者(地上テレビジョン放送事業者)19 社
(内訳:東京 6 社、大阪・名古屋 5 社、その他地域 8 社)
イ 調査方法
各社を訪問し、番組製作、契約等の担当者等に対してヒアリングを実施した。ウ 調査内容
主として、以下の項目についてヒアリングを行い、各社の番組製作取引の実態の把握に努めた。具体的事例については、第 2 章及び第 3 章に記載する。
ⅰ)トンネル会社の規制
ⅱ)発注書及び契約書の交付、交付時期
ⅲ)支払期日の起算日
ⅳ)買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等(納入した番組・素材についての著作権の帰属、窓口業務)
ⅴ)買いたたき
ⅵ)不当な給付内容の変更及びやり直し
2.ガイドラインの内容
(1)策定の目的
本ガイドラインの目的は、以下のとおりである。
ア 放送コンテンツ製作に関するインセンティブ向上を図り、もって、我が国における放送の発展を目的とする。
イ 自由な競争環境を整備しながら、番組製作会社の、コンテンツ製作に係るインセンティブや、創意工夫の意欲を削ぐような取引慣行の改善を目的とするとともに、番組製作に携わる業界全体の向上を目指す。
総務省としては、今後、放送事業者と放送番組製作会社が、本ガイドラインを参照し、より適正な番組製作委託取引を実現することにより、両者の良好なパートナーシップが構築されていくことを期待する。
(2)対象とする法令
今回、放送コンテンツの製作取引の関係を分析するにあたり、適用される法律としては、民商法や刑法などの一般法のほか、下請法、独占禁止法、放送法、著作権法などがある。
本ガイドラインは、主として下請法及び独占禁止法を対象としている。
下請法は、独占禁止法の特例法であり、下請法の対象とならない取引であっても、独占禁止法の問題となる可能性がある。
また、著作権の帰属に関しては、著作権法に基づき判断されることとなる。なお、放送コンテンツの振興の面から、放送法の目的にも配意している。
ア 下請法について
放送事業者と放送番組製作会社が以下の参考図に示す関係にある場合、親事業者が放送事業者、下請事業者が放送番組製作会社となるが、その場合、放送事業者は書面発注等の 4 つの義務と、支払遅延等の 11 の禁止事項について同法の規制を受けることとなる。
・親事業者と下請事業者の範囲
(参考図)
・情報成果物作成委託について
(1)「情報成果物作成委託」とは、「事業者が業として行う提供若しくは業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること及び事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」をいう(下請法第 2
条第 3 項)。 (2)「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
②映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの(下請法第 2
条第 6 項第 2 号)
例 テレビ番組、テレビCM、ラジオ番組、映画、アニメーション (3)から(5) (略)
(6) 情報成果物作成委託には、次の三つの類型がある。
類型3―1
事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。
○放送事業者が、放送するテレビ番組の制作を番組制作業者に委託すること。
類型3-2事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。
○テレビ番組制作業者が、制作を請け負うテレビ番組のBGM等の音響データの制作を他の音響制作業者に委託すること。
○テレビ番組制作業者が、制作を請け負うテレビ番組に係る脚本の作成を脚本家に委託すること。
類型3―3事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること。
(出典:下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準「3 情報成果物作成委託」より抜粋)
イ 独占禁止法について
例えば、放送事業者が放送番組製作会社に対して優越的な地位にある場合に、当該放送事業者の放送番組製作会社に対する、正常な商慣習に照らして不当に、不利益を与える行為(買いたたき等)が禁止されている(いわゆる「優越的地位の濫用」)。なお、「優越的地位」及び禁止される行為に関する説明については後述2する。
ウ 著作権法について
「著作権」は原始的には著作物を創作した「著作者」に帰属することが原則となっているが、法人等の従業員が職務上作成した著作物については、著作権法第 15 条第 1 項の規定により、法人等が「著作者」となり「著作権」の帰属主体となる場合がある。その際には実態として、どの事業者の従業員が放送番組を製作したのかにより、「著作権」が放送事業者と放送番組製作会社のどちらに帰属することになるかが決せられることとなる。
それ以外の場合であっても、基本的に著作権法第 29 条の規定により、映画の著作物の製作に「発意と責任」を有する者が「映画製作者」として「著作権」の帰属主体となるため、後述の「4.買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等(納入した番組・素材についての著作権の帰属、窓口業務)」などで示しているとおり、その製作の実態を踏まえ、取引の対象となる放送番組の「発意と責任」をどの事業者が有するかにより「著作権」が放送事業者と放送番組製作会社のどちらに帰属することになるのか、が問題となる。
エ 放送法について
本ガイドライン全体を通して、放送事業者の行為や、放送番組製作委託取引など取引行為の在り方が、放送法の目的である、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることに照らして、どのように考えられるのか、が問題となる。
2 6 頁(3)及び第 2 章を参照。
(3)「優越的地位」に関する考え方
本ガイドラインにおいては、下請法のみならず、独占禁止法にも基づき、事例の解説を行っている。独占禁止法上の優越的地位の濫用の適用を検討する上では、放送事業者の取引上の優越性について整理する必要がある。
第1 優越的地位の濫用規制についての基本的考え方
2 役務の委託取引において委託者が受託者に対し取引上優越した地位にある場合とは、受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、委託者が受託者にとって著しく不利益な要請等を行っても、受託者がこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、受託者の委託者に対する取引依存度、委託者の市場における地位、受託者にとっての取引先変更の可能性、取引当事者間の事業規模の格差、取引の対象となる役務の需給関係等を総合的に考慮する。
役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針では、継続的な役務の委託取引において、委託者が優越的地位にあるか否かについて次のように記述されている。
優越的地位にあるか否かを判断する際には、上記のとおり、「取引依存度」や「委託者の市場における地位」、「取引先変更の可能性」等を総合的に考慮し、個別に判断される。
本ガイドラインで対象としている放送事業者は、地上テレビジョン放送事業者である。
番組製作に関する取引における、放送事業者と放送番組製作会社の関係は、以下のような傾向にあるといえる。
ⅰ)専ら一つの放送事業者と取引関係にあることも多く、放送番組製作会社にとって取引依存度がかなり高いと考えられる。
ⅱ)地上放送事業者は、各放送対象地域において2から5社程度存在することが一般的である。このため当該地域において、地上放送事業者数が少ないことから個々の放送事業者の影響力が強くなり、取引相手方の選択可能性が少なくなっている。
ⅲ)放送番組製作会社は、中小事業者が多く、放送事業者と比べると事業規模の格差が大きいと考えられる。
ⅳ)放送番組製作会社にとって、複数の放送事業者との取引の可能性は存在するが、実際には別の放送事業者に変更するケースは少ない。
以上のことから、一般に、放送事業者は放送番組製作会社に対し、取引上優位にある可能性が高いといえる。
なお、あくまで独占禁止法上の優越的地位にあるか否かの判断は、役務取引ガイドライン等で示された考え方に基づき、総合的に考慮し、個別に検討されるものである。
また、放送事業者の取引上の地位に関する参考として「アニメーション産業に
関する実態調査報告書」(平成 21 年 1 月 23 日公正取引委員会)を以下に引用する。
第4 独占禁止法及び下請法上の評価
アニメ制作委託における取引実態を踏まえ、独占禁止法及び下請法上の評価をまとめると、以下のとおりである。
1 発注者の受託制作会社に対する取引上の地位
発注者が受託制作会社に対して、取引上優越した地位にあるか否かはその時々の取引環境によって様々であり、一律に判断することはできない 21。しかし、①委託取引の一般的な特性として、発注者が受託者に対して製作を委託した成果物は、発注者の仕様等に基づいた特殊なものが多く、汎用性のある商品とは異なり、発注者が成果物を受領しない場合には受託者がその成果物を他社に転売することは不可能であること、②テレビ局と元請制作会社の取引については、現在の我が国において全国にあまねく知らせる上で地上波テレビほど強力な媒体はなく、地上波テレビ局で放映されるか否かは、DVD販売を始めとするアニメ作品の売上を大きく左右することとなること、③元請制作会社と下請制作会社の取引については、下請制作会社は小規模な事業者が多いといった事情や、売上の大半を特定の事業者からの受託に依存しているケースが見受けられたこと、等の事情にかんがみると、テレビ局や元請制作会社などの発注者の受託制作会社に対する取引上の地位は優位にあることが多いと考えられる。
注 21:委託者が受託者に対して取引上優越した地位にある場合とは、受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来たすため、委託者が受託者にとって著しく不利益な要請を行っても、受託者がこれを受け入れざるを得ないような場合であり、その判断に当たっては、受託者の委託者に対する取引依存度、委託者の市場における地位、受託者にとっての取引先変更の可能性、取引当事者間の事業規模の格差、取引の対象となる成果物の需給関係等を総合的に考慮する(役務委託取引ガイドライン第 12)。
(出典:「アニメーション産業に関する実態調査報告書」(平成 21 年 1 月 23 日公正取引委員会)48 頁)
(4)ガイドラインの構成
本ガイドラインは以下のように構成されている。
第 1 章では、本ガイドラインの策定の背景、目的や、ガイドラインで使用している用語の定義などを示している。
第 2 章では、総務省が放送事業者や放送番組製作会社に対して行った調査ヒアリングに基づき収集された事例のうち、下請法又は独占禁止法上問題となりうる事例を提示している。
また、それらの事例については、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」や、独占禁止法の指針等に照らして、下請法又は独占禁止法上留意すべき点を示している。
第 3 章では、下請法又は独占禁止法の趣旨を踏まえて行われている事例や、取引においてより推奨されるべき、望ましい取引事例などを挙げ、取引適正化に向け
て参考とすべき具体的な事例を示している。
なお、第 2 章で示す「問題となりうる取引事例」については、あくまで例示であり、違法であるか否かについては、実際の取引内容に即した十分な情報に基づく個別具体的な判断が必要となることに留意すべきである。
しかしながら、問題となりうる取引事例であることから、総務省としては、放送事業者、放送番組製作会社等関係者にあっては、放送コンテンツの製作取引に際しては、これらの事例を参考に、違反となるようなことがないように十分注意して取引に臨むことを期待するものである。
(5)用語の定義
本ガイドラインにおける用語の定義については、以下のとおりである。ア「製作」・「制作」
各放送事業者や製作会社においては、「製作」と「制作」という用語について、それぞれ使用の在り方が異なっている。著作権の有無で使い分けている場合もあるが、本ガイドラインにおいては、すべて「製作」に統一する。
イ「完全製作委託型番組」
製作会社の発意と責任により製作され、企画、撮影、収録、製作、編集までをすべて自社の責任で行い、技術的な仕様を満たしていつでも放送できる状態の番組として放送事業者に納品されたものをいう。民放において「完全パッケージ番組」、「完パケ」等と呼ばれているものが一般にこれに該当する。このような形態の番組の場合、原則として受注した製作会社に著作権が帰属することになる3。
ただし、「完全パッケージ番組」、「完パケ」等の用語については各放送事業者ごとに異なった考え方に基づいて使われており、上述したような形態以外の番組にも用いられる場合もあることに留意することが必要である。
なお、著作権の帰属については、製作実態も踏まえて判断することが適当である。例えば、放送事業者からプロデューサーが参加している場合でも、当該プロデューサーの参加が形式的な場合については、放送事業者と製作会社の「共同著作」等ではなく、「完全製作委託型番組」として、製作会社に著作権が帰属するとの判断もありうると考えられる。
ウ「レギュラー番組」
ある一定の放送期間において、同じ曜日や時間帯に放送される番組。
3 このような場合の著作権の帰属については、著作権確認等請求控訴事件・東京高裁判決平成 15 年 9 月 25 日(平成 15 年(ネ)第 1107 号)において、以下のような考えが示されている。
「2 被控訴人の『映画製作者』該当性について (中略)
『映画製作者』の定義である『映画の著作物の製作に発意と責任を有する者』(著作権法 2 条 1 項
10 号)とは,その文言と著作権法 29 条の上記の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである,と解すべきである。」
エ「素材」
放送番組の製作過程で生じた、撮影した映像や当該映像などをおさめた録画・録音テープなどのことをいう。
オ「窓口業務」
放送番組を二次利用する際に、窓口として取引の相手方を見つける努力を行ったり、成約した場合に当該契約業務を行い、さらに収益が得られた場合には、権利者に対価を還元する等の業務のことをいう。
カ 略称について
本ガイドラインでは以下の表に示すとおり、左欄の法令等に対して、右欄の略称を用いることとする。
正式名称 | 略称 |
下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法 律第 120 号) | 下請法 |
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関 する法律(昭和 22 年法律第 54 号) | 独占禁止法 |
役務の委託取引における優越的地位の濫 用に関する独占禁止法上の指針(平成 10 年 3 月 17 日公正取引委員会) | 役務取引ガイドライン (※上記ガイドラインにおいて、「「役務の委託取引」とは、役務提供の委託取引及び情報成果物作成の委託取引からなり、これら役務の委託取引における取引対象を総称する場合には、単に「役務」という」とされている。) |
「下請代金支払遅延等防止法に関する運 用基準」(平成 15 年 12 月 11 日事務総長 通達第 18 号) | 運用基準 |
下請取引適正化推進講習会テキスト(平 成 20 年 11 月)(公正取引委員会・中小企業庁) | 下請取引適正化推進講習会テキスト |
放送番組製作会社 | 「製作会社」と表記する。本ガイドラインでは、放送局の子会社である製作会社と、それ以外の製作会社と双方記述があるが、 子会社であるか否かについては明記することとする。 |
放送事業者 | 放送法第 2 条第 3 号の 2 に規定する放送事業者をいうが、本ガイドライン上では、「放送局」とし、以下略称として「局」と表 記する。 |
以下の文言についても、左欄の用語について右欄のとおり略称を用いることとする。
第 2 章 個別具体的な取引事例について(問題となりうる事例)
1.トンネル会社の規制(下請法第 2 条第 9 項関係)
<問題となりうる取引事例4>
○ A製作会社が、B局の子会社(B局が当該子会社の 50%超の議決権を保有している)であるC製作会社との間で、番組製作委託の交渉を進めていた。
当該番組製作委託は、B局からC製作会社に対して番組製作委託をされたものの「孫請け」にあたり、B局とC製作会社間の製作委託取引額の 50%以上をA製作会社に再委託されるものである。
その際、A製作会社からC製作会社に、発注書や契約書の交付を求めたところ、
「うちはB局の子会社なので、下請法の対象外(親事業者にはならない)」との説明を受け、書面の交付を拒否された。
(1)下請法に関する留意点について
本事例は、B局から番組製作を委託された、B局の子会社であるC製作会社が、当該番組製作委託を別のA製作会社に再委託する場合である。
「下請取引適正化推進講習会テキスト」(14 頁)では次のように記載されており、子会社であっても、親事業者とみなされ、下請法が適用される場合があることに留意すべきである。
カ.トンネル会社の規制(第 2 条第 9 項)
「直接下請事業者に委託をすれば本法の対象となる場合に、資本金が 3 億円(又
は 5 千万円)以下の子会社(いわゆるトンネル会社)等を設立し、この子会社が発注者となって委託を行い、本法の規制を免れる」というような脱法的行為を封ずるために、次に掲げる 2 つの要件を共に充足しているときは、その子会社等が親事業者とみなされ、本法が適用される。
(ア) 親会社から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受けている場合
(例えば、親会社の議決権が過半数の場合、常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合又は実質的に役員の任免が親会社に支配されている場合。)。
(イ) 親会社からの下請取引の全部又は相当部分について再委託する場合(例えば、親会社から受けた委託の額又は量の 50%以上を再委託している場合。)。
これらの下請取引においては、資本金が 3 億円以下であっても子会社が親事業者とみなされ、本法の適用を受ける。
また、下請法第 3 条では、「親事業者は、発注に際して公正取引委員会規則に定める事項を記載した書面を下請事業者に交付する義務がある」とされている。
4 第 2 章の事例における表記は下記のとおりとする。 A製作会社…番組製作会社(放送局の子会社以外の会社) B局…放送局 C製作会社…放送局の子会社である番組製作会社
(2)本事例に関する留意点について
本事例の場合、
ア 親事業者であるB局とその子会社であるC製作会社が支配関係にある(B局はC製作会社の議決権の過半数を保有している)と考えられること
イ C製作会社からA製作会社に委託された部分は、B局からC製作会社への製作委託取引の相当部分を占めると考えられること
から、C製作会社が資本金 5 千万円以下であったとしても、A製作会社との関係で親事業者とみなされ、下請法の適用を受けると考えられる。したがって、本事例の行為(発注書面等の交付拒否)については、下請法第 3 条に違反するものである。
(3)独占禁止法上の留意点
下請法の適用対象とならない場合でも、独占禁止法第 19 条の不公正な取引方法
(一般指定第 14 項「優越的地位の濫用」)において問題となる可能性がある。 独占禁止法では、資本金で形式的に判断するのではなく、具体的な状況を総合
的に考慮し、個別に判断することとなる。
第 1 章 2(3)に示したとおり、局が製作会社に対して、取引上優越的地位にあると認められる場合には、局の子会社の行為についても、例えば親子会社間の契約又は親会社(局)の指示により行われている等の場合、局の子会社であるC製作会社のA製作会社に対する行為が、A製作会社の取引上の地位を不安定にさせ、不利益を与えるおそれがある場合は、B局の行為について、独占禁止法上も問題となりうることに留意すべきである5。
(参考)
○下請法
第 2 条(定義)
9 資本金の額又は出資の総額が千万円を超える法人たる事業者から役員の任免、業務の執行又は存立について支配を受け、かつ、その事業者から製造委託等を受ける法人たる事業者が、その製造委託等に係る製造、修理、作成又は提供の行為の全部又は相当部分について再委託をする場合(第 7 項第 1 号又は第 2 号に該当する者がそれぞれ前項第 1号又は第 2 号に該当する者に対し製造委託等をする場合及び第 7 項第 3 号又は第 4 号に該当する者がそれぞれ前項第3 号又は第4 号に該当する者に対し情報成果物作成委託又は役務提供委託をする場合を除く。)において、再委託を受ける事業者が、役員の任免、業務の執行又は存立について支配をし、かつ、製造委託等をする当該事業者から直接製
5 流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(平成 3 年 7 月 11 日公正取引委員会事務局)
(付)親子会社間の取引
(中略)
3 親子会社間の取引が実質的に同一企業内の行為に準ずるものと認められる場合において、例えば、子会社が取引先事業者の販売価格を拘束していることが親子会社間の契約又は親会社の指示により行われている等、親会社が子会社の取引先である第三者の事業活動を制限する場合には、親会社の行為は不公正な取引方法による規制の対象となる。
造委託等を受けるものとすれば前項各号のいずれかに該当することとなる事業者であ
るときは、この法律の適用については、再委託をする事業者は親事業者と、再委託を受ける事業者は下請事業者とみなす。
○独占禁止法
第 2 条
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
一から六 (略)
第 19 条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
○「不公正な取引方法」(昭和 57 年 6 月 18 日 公正取引委員会告示第 15 号)
2.発注書及び契約書の交付、交付時期(下請法第 3 条関係)
<問題となりうる取引事例>
① 番組製作委託の発注の時点では何ら発注に関する書面が交付されず、放送後にまとめて一括で送付される。
② 発注書面が交付される場合も、ほとんどが金額の記載がない「発注書」の交付で、その後、放送の具体的内容が決まった後も補充書面が交付されていない。
③ 金額については、口頭で告げられ、納入後に製作会社側から確認するまでは、
局から金額についての連絡がない。
(1)下請法に関する留意点について
ア 書面の交付、具体的必要記載事項について
下請法上、情報成果物作成委託の取引を行う場合に、委託内容に関する発注書面の交付義務が定められており、親事業者は、発注に際して下記の具体的な必要記載事項をすべて記載している書面(3 条書面)を直ちに下請事業者に交付する義務がある。
具体的な必要記載事項は以下のとおりである。
●具体的な必要記載事項
① 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
② 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
③ 下請事業者の給付の内容
④ 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は、役務が提供される期日又は期間)
⑤ 下請事業者の給付を受領する場所
⑥ 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
⑦ 下請代金の額(算定方法による記載も可)
⑧ 下請代金の支払期日
⑨ 手形を交付する場合は、その手形の金額(支払比率でも可)と手形の満期
⑩ 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
⑪ 原材料等を有償支給する場合は、その品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法
(出典:下請取引適正化推進講習会テキスト 22 頁、下請代金支払遅延等防止法第 3 条の
書面の記載事項等に関する規則(平成 15.12.11 公正取引委員会規則第 7 号)も参照。)
下請法では契約書の交付は義務づけられているわけではないが、取引内容の明確化等から望ましいと考えられる。また、契約書を 3 条書面とすることも認められる。
イ 書面の交付時期について
下請法 3 条書面の交付時期について、運用基準には、次のような記述がある。
第 3 親事業者の書面交付の義務
2 三条書面の交付の時期
(1) 親事業者は、下請事業者に対して製造委託等をした場合は、「直ちに」書面を交付しなければならない。
ただし、必要記載事項のうち「その内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない」とされており、必要記載事項のうち、その内容が定められないことについて正当な理由があり記載しない事項(以下「特定事項」という。)がある場合には、これらの特定事項以外の事項を記載した書面(以下「当初書面」という。)を交付した上で、特定事項の内容が定まった後には、直ちに、当該特定事項を記載した書面(以下「補充書面」という。)を交付しなければならない。また、これらの書面については相互の関連性が明らかになるようにする必要がある。
(2) 「その内容が定められないことについて正当な理由がある」とは、取引の性質上、製造委託等をした時点では必要記載事項の内容について決定することができないと客観的に認められる理由がある場合であり、次のような場合はこれに該当する。ただし、このような場合であっても、親事業者は、特定事項がある場合には、特定事項の内容が定められない理由及び特定事項の内容を定めることとなる予定期日を当初書面に記載する必要がある。また、これらの特定事項については、下請事業者と十分な協議をした上で、速やかに定めなくてはならず、定めた後は、
「直ちに」、当該特定事項を記載した補充書面を下請事業者に交付しなければならない。
(例)○放送番組の作成委託において、タイトル、放送時間、コンセプトについては決まっているが、委託した時点では、放送番組の具体的な内容については決定できず、「下請代金の額」が定まっていない場合
(2)本事例の留意点について
事例①のように発注書が全く交付されていない場合は下請法第 3 条に違反する。また、事例②や③のように、発注書が交付されていても、金額等が記載されておらず、それらを定められない理由や定める予定期日の記載もない場合は、要件を満たした書面とはいえない。番組の納入後、放送後になっても、当該事項を記載した補充書面が交付されていない場合は、下請法上問題となる6。
6 発注書面の交付義務(第 3 条第 1 項)違反、取引に関する書類の作成・保存義務(第 5 条)に違反した場合、又は虚偽の書類を作成した場合等は罰則の対象となる(50 万円以下の罰金)(下請法第 10 条)。
(参考)
○下請法
(書面の交付等)
第 3 条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
(罰則)
第 10 条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした親事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、50 万円以下の罰金に処する。
一 第 3 条第 1 項の規定による書面を交付しなかつたとき。
二 第 5 条の規定による書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。
※「製造委託等」:この法律で「製造委託等」とは、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託及び役務提供委託をいう。
3.支払期日の起算日(下請法第 4 条第 1 項第 2 号関係)
<問題となりうる取引事例>
○ A製作会社とB局が番組製作委託契約を結び、製作会社が番組の納入を行った。 B局では、通常、支払について「放送日起算」としており、製作会社は、当該
番組の放送後、局に対して請求書を送付しなければならない。通常早ければその月内に支払われるが、放送が当初の予定日より遅れるなどして、納入日と放送日が1ヶ月程度開くことがあり、その場合は、支払いが受領日から 60 日を過ぎて支
払われる場合が時々あった。
(1)下請法に関する留意点について
下請法では、「下請代金の支払遅延」として、親事業者が、物品等を受領した日から起算して 60 日以内の支払期日までに下請代金を全額支払わないことが禁止さ
れている(同法第 4 条第 1 項第 2 号)。
第 4 親事業者の禁止行為
2 支払遅延
(3) また、情報成果物作成委託においては、親事業者が作成の過程で、委託内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために、情報成果物を一時的に自己の支配下に置くことがある。親事業者が情報成果物を支配下に置いた時点では、当該情報成果物が委託内容の水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、あらかじめ親事業者と下請事業者との間で、親事業者が支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、当該情報成果物を支配下に置いたとしても直ちに「受領」したものとは取り扱わず、支配下に置いた日を「支払期日」の起算日とはしない。ただし、3 条書面に明記された納期日において、親事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該期日に給付を受領したものとして、「支払期日」の起算日とする。
放送番組のような情報成果物作成委託の場合の「受領日」については、以下のような考え方が示されている。(出典:運用基準)
同じく運用基準では、「想定される違反事例行為」として、放送日を支払起算日とすることによる支払遅延の違反行為事例が以下のように挙げられている。
第 4 親事業者の禁止行為
2 支払遅延
〈情報成果物作成委託、役務提供委託において想定される違反行為事例〉
2-3 親事業者が、放送番組の制作を下請事業者に委託し、放送日を起算日とする支払制度を採っているところ、放送が当初の予定日より遅れるなどして受領日と放送日が開くことにより、納入後 60 日を超えて支払が行われる場合
2-4 親事業者が、毎月一本ずつ放送される放送番組の作成を下請事業者に委託しているところ、下請事業者から数回分まとめて納入され、それを受領したにもかかわらず、放送された放送番組に対して下請代金の額を支払う制度を採用していたため、一部についての支払が納入後 60 日を超える場合
(2)本事例に関する留意点について
本事例では、B局は「放送日」を起算とする支払制度をとっており、かつ放送が予定日より遅れ、納入された日と放送日の間隔が開くことにより、受領後 60 日を超えて支払いが行われる場合は、下請法違反となるおそれがある。
なお、「請求書払い」も支払遅延の要因の一つであると考えられ、「請求書」の有無に関係なく、親事業者は、受領日から 60 日以内に支払う必要がある。
(参考)
○下請法
(下請代金の支払期日)
第 2 条の 2 下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、親事業者が下請事業者の給付を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした日。次項において同じ。)から起算して、六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
2 下請代金の支払期日が定められなかつたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日が、前項の規定に違反して下請代金の支払期日が定められたときは親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が下請代金の支払期日と
定められたものとみなす。
(親事業者の遵守事項)
第 4 条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。 二 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
※「製造委託等」:この法律で「製造委託等」とは、製造委託、修理委託、情報成果物作
成委託及び役務提供委託をいう。
4.買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等(納入した番組・素材についての著作権の帰属、窓口業務)
<問題となりうる取引事例>
① A製作会社がB局とドラマの製作委託契約を結び、A製作会社は、企画、撮影、製作、編集まで自社で行い、完全製作委託型番組の形でB局に納入した。
この場合、
①-1:当該契約の契約書はB局から特段の協議なく提示されており、契約書には
「著作権については局に帰属する」と記載されている。製作委託契約の対価については、A製作会社側の見積りをもとにB局にて製作費を決定した額であり、契約書上も「当該委託業務の対価として支払う」とされており、著作権の譲渡に対する価格は明記されていない。その後、A製作会社が協議を求めたが、B局は応じなかった。
①-2:完全製作委託型番組を製作するにあたり、撮影の過程で発生した「素材」についても、契約書上全てB局に納入し、納入されたものに関する著作権、著作隣接権、所有権及び二次利用権の一切はB局に帰属するとされている。
また、その対価に関する協議はない。
② A製作会社がB局と番組製作委託契約を結び、著作権については、A製作会社にある場合、特段の協議なく、契約書上「当該番組の利用に関する窓口業務をB局が優先的に行う」とされ、A製作会社が窓口業務を行いたいと要望したが、受け入れられなかった。また、二次利用収入に関する配分についてもB局が一方的に配分を決めている。
(1)前提
「完全製作委託型番組」については、用語の定義(8 頁)に示したとおりであり、製作会社に当該番組に対する「発意」と「責任」があるときには、製作会社は当該番組の著作権者と考えられる。
上記のような「著作権の帰属」がどちらにあるのか、という判断については、下請法の範疇ではなく、著作権法に基づく判断となるものであり、この「4 買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等」における法的に問題となる事例については、著作権が製作会社に帰属する場合を前提として下請法及び独占禁止法に関して留意する点を述べる。
(2)著作権の帰属に関する考え方について
著作権法に基づき以下記載する7。
ある番組について、製作会社が、企画、製作等のすべてを行い、全体の費用や個々に係る経費について実質的に決定し、完全製作委託型番組を納入している場合は、著作権法上、製作会社が「製作に発意と責任を有する者」として当該番組
7 5 頁を参照。
の著作権者と解されている8。
(3)事例①-1 について
ア 下請法に関する留意点について
番組の著作権について、局と製作会社のどちらに帰属するのかは、著作権法上の判断による。仮に当事者間の契約書に「著作権については局に帰属する」とされていたとしても、上記(2)のとおり著作権法上の判断によっては、製作会社に著作権が帰属すると解されることがありうる。その場合は製作会社から局に対して「著作権の譲渡」がなされるとみるべきであり、当該譲渡の対価などについて以下のような下請法の問題となりうる場合がある。
(ⅰ)下請法上問題となる場合について
下請法上の親事業者となる局が、下請事業者となる製作会社に対して製作を委託した放送番組について、製作会社に帰属する著作権を局に譲渡させるため、下請取引の給付内容に当該著作権の譲渡も含め、かつ、その著作権の譲渡の対価について製作会社と十分な協議を行わず、局側が一方的に、通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定める場合は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがある。
例えば、運用基準では、次のような行為が違反事例として挙げられている。
<情報成果物作成委託、役務提供委託において想定される違反行為事例>
5-10 親事業者が、制作を委託した放送番組について、下請事業者が有する著作権を親事業者に譲渡させることとしたが、その代金は下請代金に含まれているとして、下請事業者と著作権の対価にかかる十分な協議を行わず、通常の対価を大幅に下回る下請代金の額を定める場合
8 著作権法
(定義)
第 2 条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
10 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。
(職務上作成する著作物の著作者)
第 15 条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
(映画の著作物の著作者)
第 16 条 映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
第 29 条 映画の著作物(第 15 条第 1 項、次項又は第 2 項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。
(ⅱ)本事例①-1 に関する留意点
本事例①-1 の場合、B局は、B局とA製作会社の間で特段の協議をすることなく製作委託費を決めている。また、A製作会社に対して支払われた製作委託費には著作権の対価が含まれていないと考えられる。つまり、著作権の対価分が製作委託費に含まれておらず、不当に低い下請代金が定められたと考えられることから、上記の運用基準の違反行為事例に照らして、B局の行為は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあると考えられる。
イ 独占禁止法に関する留意点について
(ⅰ)独占禁止法上問題となる場合について
本事例については、独占禁止法第 19 条の不公正な取引方法(一般指定第 14項「優越的地位の濫用」)において問題となる場合があると考えられる。
役務取引ガイドラインでは、「7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」として次のような解釈が示されている。
・ 役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、当該成果物が自己との委託取引の過程で得られたこと又は自己の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に、これらの受託者の権利を自己に譲渡させたり、当該成果物、技術等を役務の委託取引の趣旨に反しない範囲で他の目的のために利用すること(二次利用)を制限する場合などには、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。
・ しかしながら、このような場合に、成果物等に係る権利の譲渡又は二次利用の制限に対する対価を別途支払ったり、当該対価を含む形で対価に係る交渉を行っていると認められるときは、優越的地位の濫用の問題とはならない。
ただし、このような場合であっても、成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が不当に低い場合や成果物等に係る権利の譲渡等を事実上強制する場合など、受託者に対して不当に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用として問題となる。
(ⅱ)事例①-1 に関する留意点について
(a)優越的地位の判断について
本事例の場合、まずB局が「優越的地位」にあるか否かの判断が必要となる。前述(6 頁)したように、一般に放送事業者は製作会社に対し、取引上優位にある可能性が高いといえるが、あくまで独占禁止法上の優越的地位にあるか否かの判断は、役務取引ガイドライン等で示された考え方に基づき、総合的に考慮し、個別に検討されるものである。そのため、本ガイドラインでは、取引上優越的地位にあると判断された場合の放送事業者を前提として考える。
(b)濫用の判断について
次に、優越的地位を「濫用」しているのか否かの判断が必要となる。 上記イ(ⅰ)に示した役務取引ガイドラインにあるように、受託者の行
為が「成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が不当に低い場合」や「成果物等に係る権利の譲渡等を事実上強制する場合」などは、「受託者に対して不当に不利益を与える場合として、優越的地位の濫用として問題となる」とされている。
さらに独占禁止法上違法となる場合として以下の事例が挙げられている。
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い (2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
ア 情報成果物の権利の譲渡
①受託者に権利が発生するにもかかわらず、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に当該成果物に係る著作権、特許権等の権利を委託者に譲渡させる場合
(c)本事例①-1 の留意点について
以上の(a)、(b)から、本事例のように、著作権の譲渡に対する対価に関する協議が十分に行われずに、一方的に「局に対する著作権の譲渡」に関する契約が締結されていることから、このような局の行為については、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となる可能性がある。
(4)事例①-2 について
事例(再掲)
①-2 完全製作委託型番組を製作するにあたり、撮影の過程で発生した「素材」についても、契約書上、全てB局に納入し、納入されたものに関する著作権、著作隣接権、所有権、二次利用権の一切はB局に帰属するとされている。また、その対価に関する協議はない。
ア 下請法に関する留意点について
(ⅰ)買いたたきについて
事例①-2 についても、事例①-1 の下請法適用に関する留意点と同様に考えられる。
下請法上の親事業者となる局が、製作を委託する放送番組の素材について、著作権も含めて局(親事業者)に譲渡させることとし、下請事業者とその対価にかかる十分な協議を行わず、局側が一方的に、通常の対価に比べて著しく低い下請代金の額を定める場合は、下請法上の「買いたたき」の問題となるおそれがある。(後述「5.買いたたき」参照)
(ⅱ)不当な経済上の利益の提供要請について
事例①-2 の場合のほか、例えば局と製作会社の契約の中に、情報成果物が
番組のみであり、「素材」に関しては情報成果物ではなく、契約の対象外であった場合に、局が一方的に「素材」に関しても譲渡させるような行為については、以下の運用基準に記載されているような問題となる可能性がある。
7 不当な経済上の利益の提供要請
(4)情報成果物等の作成に関し、下請事業者の知的財産権が発生する場合において、親事業者が、委託した情報成果物等に加えて、無償で、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を親事業者に譲渡・許諾させることは、法第 4 条第 2 項第 3 号に該当する。
〈想定される違反行為事例〉
7-6親事業者が、下請事業者にデザイン画の作成を委託し、下請事業者はC ADシステムで作成したデザイン画を提出したが、後日、委託内容にないデザインの電磁的データについても、対価を支払わず、提出させる場合
イ 独占禁止法に関する留意点について
事例①-2 について、独占禁止法上の留意点を記載する。
(ⅰ)独占禁止法上問題となる場合
本事例では、撮影の過程で発生した「素材」についても、一方的にB局に著作権が帰属することとなっている。
役務取引ガイドラインでは、「情報成果物に係る権利等の一方的な取扱い」について、その考え方と、独占禁止法上問題となる場合として、以下のように解されている。
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い (1)考え方
(中略)
取引上優越した地位にある委託者が受託者に対し、当該成果物が自己との委託取引の過程で得られたこと又は自己の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に、これらの受託者の権利を自己に譲渡(許諾を含む)させたり(略)する場合などには、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。
(2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
ウ 受託者が情報成果物を作成する過程で発生した取引対象外の成果物等の権利の譲渡及び二次利用の制限等
受託者が取引対象である情報成果物を作成する過程で生じた当該成果物以外の成果物等について、受託者に権利が発生する場合において、委託者が上記ア(権利の譲渡)又はイ(二次利用の制限等)と同様の行為を行う場合
(ⅱ)本事例①-2 の留意点について
上記(ⅰ)に鑑みると、本事例については以下のように考えられる。
・ 「取引対象の情報成果物」とは「完全製作委託型番組として完成し納入した番組」であると考えられ、「素材」とは「その成果物を作成する過程で生じたもの」であると考えられること
・ 「素材」に関する特段の協議は行われずに、契約書だけで一方的にその譲渡が決められていること
以上のことから、本事例における局の行為について優越的地位の濫用にあたるおそれがあると解される。
(参考)「放送の利用許諾」
「放送番組の製作委託契約」ではなく、局が製作会社と放送番組の「放送の利用許諾契約」を結ぶ場合に留意すべき点について記述する。
契約の名目が、放送の利用許諾や放映権等の購入であっても、購入者側が番組内容等を指定している実態にある時は、下請法上、「委託」に該当し、同法の規制対象となる点について、注意が必要である。
(参考)
○下請法 (親事業者の遵守事項)
第 4 条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(略)に掲げる行為をしてはならない。
一~四 (略)
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることに
よつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。一・二 (略)
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
○独占禁止法第 2 条
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
一から六 (略)
第 19 条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
○「不公正な取引方法」(昭和 57 年 6 月 18 日 公正取引委員会告示第 15 号)
14 項 優越的地位の濫用
第 2 号 二継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
第 3 号 相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること
第 4 号 前三号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること。
5.買いたたき(下請法第 4 条第 1 項第 5 号関係)
<問題となりうる取引事例>
① A製作会社が、B局から継続して毎年請け負っていたレギュラー番組(完全製作委託型番組の納入)について、一方的に番組改編期に一律に一定比率で製作費を減額する旨告げられた。
理由として、デジタル化投資や広告収入の減少のため、経費節減が必要となっているとの説明があった。A製作会社が意見をいうと、B局側から「他にいくらでも安く作ってくれるところがある」と言われたため、結局その金額で引き受け、赤字覚悟で番組製作を行わざるを得なかった。
② 単発番組であるが、数年前から継続して製作を請け負っている番組について、従来と同程度の取材期間・スタッフ、経費等が必要であるにもかかわらず、製作費が大幅に減額された。局側から一方的に通知されたのみだった。
(1)下請法上の「買いたたき」の判断について
下請法では、親事業者が発注に際して下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対して通常支払われるべき対価に比べて著しく低い額を不当に定めることが禁止されている。
第 4 親事業者の禁止行為
5 買いたたき
(1)(中略) 「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいう。ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。
比較される「通常支払われるべき対価」について、運用基準では以下のとおり示されている。
「買いたたき」に該当するか否かについては、下請代金の額の決定に当たって下請事業者と十分な協議が行われたかどうか、対価の設定が差別的であるか、通常の取引においてコストと認められる額を明らかに下回っているか否か等の要素を勘案して総合的に判断される。
さらに、運用基準において、以下のように記述されている。
5 買いたたき
(2) 次のような方法で下請代金の額を定めることは、買いたたきに該当するおそれがある。
ア (略)
イ 一律に一定比率で単価を引き下げて下請代金の額を定めること。
ウ 親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めること。
(2)本事例における留意点について
ア 本事例①の場合
・ 下請代金額決定にあたっては、局から一方的に通知され、また異議を述べた場合に、取引を打ち切ることを示唆されており、十分な協議が行われたとはいえないこと。
・ 類似の番組について、過去の製作費と比べ、現在の価格が明らかに下回っており、レギュラー番組については一律一定比率で下げられていること。 以上から、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあると考えられる。
なお、本事例のように「番組改編期」という時期に、製作費の減額を一律で一方的に告げるなどの行為を行う場合、より取引上の不均衡が生じうると考えられる。このように、取引上の地位の変化をより及ぼしうる時期に不利益な取引を要請するなどを行うことに対しては、優越的な地位の濫用行為であるとされやすい場合があるということについても留意すべきである。
イ 本事例②の場合
・ 数年前から継続して請け負っている番組であるが、製作費を局側から協議なく一方的に減額されていること。
・ 前述のとおり運用基準では、「通常の対価」の考え方として「当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価をいう。ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う。」とされており、本事例②の場合、毎年の製作費と比べ、大幅に減額されていること。
以上から、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあると考えられる。
(参考)
○下請法
(親事業者の遵守事項)
第 4 条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
○独占禁止法第2条
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
一から六 (略)
第 19 条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
○「不公正な取引方法」(昭和 57 年 6 月 18 日 公正取引委員会告示第 15 号)
14 項 優越的地位の濫用
第 3 号 相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること
6.不当な給付内容の変更及びやり直し(下請法第 4 条第 2 項第 4 号)
<問題となりうる取引事例>
① A製作会社は、当初の発注書、契約書の範囲を超えて、当初記載がなかった業務について、B局から、業務を追加発注される場合があるが、その場合、対価は当初予定額と同様であり、人件費がかかるがその分のコストは支払われない。
例えば、以下のア、イのように、放送番組をB局に納入した後も、業務を追加発注される場合が多い。その場合の対価は当初の番組製作費にすべて含まれるとされ、追加支払はない。
ア 番組の予告編の本数が増加し、製作業務が増加する。
イ 番組に関するホームページの作成を要請され、A製作会社において人件費がかかるがその分のコストは支払われない。
② レギュラー契約で年間放送していた番組について、局側から特段の協議をすることなく、既に製作を委託していた本数を取り消して、年間放送分の一部を再放送にするという要請があり、その分の製作費が削減された。
(1)下請法上の留意点について
本事例①については、当初契約で予定していた以上の業務を要請されており、かつそれに対して通常支払われるべき対価が支払われていないと考えられる。
この場合は、下請法上の「不当な給付内容の変更及びやり直し」に該当するおそれがある。
下請法上、親事業者は下請事業者に対して「下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は受領後に(略)給付をやり直させること9」により、「下請事業者の利益を不当に害してはならない。」とされている。
なお、運用基準においては、以下の事例が挙げられている。
8 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
〈想定される違反行為事例〉
8-6 親事業者が、定期的に放送されるテレビCMの作成を下請事業者に委託したところ、完成品が納入された後、放映されたテレビCMを見た広告主の担当役員から修正するよう指示があったことを理由として、親事業者は、下請事業者に対して、いったん広告主の担当まで了解を得て納入されたテレビCMについて修正を行わせ、それに要した追加費用を負担しない場合
9 「受領後に給付をやり直させること」とは、給付の受領後に、給付に関して追加的な作業を行わせることである。」
(出典:運用基準「第 4 親事業者の禁止行為 8 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」)
(2)独占禁止法上の留意点
本事例について、独占禁止法の観点からみた場合、一般指定 14 項 3 号に該当するか否かが問題となる。
役務取引ガイドラインによると、「やり直しの要請」について以下のように記載されている。
4 やり直しの要請 (1)考え方
委託者が、受託者に対し、提供を受けた役務について、それに要する費用を負担することなくやり直しを要請することがある。
提供を受けた役務の内容が委託時点で取り決めた条件に満たない場合には、委託者がやり直しを要請することは問題とならないが、取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、その一方的な都合でやり直しを要請する場合には、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。
なお、やり直しのために通常必要とされる費用を委託者が負担するなど、受託者に不利益を与えないと認められる場合には、優越的地位の濫用の問題とはならない。
(2)独占禁止法上問題となる場合
取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、提供を受けた役務のやり直しをさせることは、次のような場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不公正な取引方法に該当し、違法となる。
(略)
② 役務の提供を受ける過程で、その内容について了承したにもかかわらず、提供を受けた後に受託者にやり直しをさせる場合
本事例①については、局側の事情により、役務の提供を受けた後に、追加的に業務を発生させており、かつ、そのために通常必要とされる費用を局が負担していないため、製作会社に不利益を与えるおそれがあり、独占禁止法上問題となる可能性があると考えられる。
(参考)
○下請法
(親事業者の遵守事項)第 4 条
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第 1 号を除く。)に掲げる行為をすることによって、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。
○独占禁止法第2条
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
一から六 (略)
第 19 条 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
○「不公正な取引方法」(昭和 57 年 6 月 18 日 公正取引委員会告示第 15 号) 14 項 優越的地位の濫用
第 3 号 相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること
第3章 個別具体的な取引事例について(望ましいと考えられる事例)
本章では、第2章に掲げた事例について、それぞれの項目ごとに、望ましいと考えられる事例について、記載する。
本章の事例を参考として、局と製作会社の間の製作委託取引が、適正なものとなるよう期待するものである。
1.発注書の交付等(第2章-2関係)
(1)発注書、契約書の交付について
① A局では、発注書については、下請法で定められている必要記載事項を網羅した書式(ひな型)(※)を、番組の種類別、発注形態別(単発/レギュラー、全部委託/部分委託、報道等)に用意している。契約書についても、「全部委託」、
「部分委託」、「放送権の利用許諾」の3種類の発注形態ごとの書式を用意している。
これらの書式については、社内で研修会を開催するほか、製作会社に対しても説明会を開催し、周知を図っている。
※ 別添参考資料(37 頁)「放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)(平成 16 年 3 月 26 日ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会)」を参照。
② B局では、経理処理はシステム化されており、電子決裁で稟議書を回す場合、必ず必要書面を添付しなくてはならない。その際に、具体的な金額を記載することを推奨しているが、放送番組製作の場合、当初に放送番組の具体的内容が確定していない場合などやむをえない場合は当初書面と、補充書面に分けている。また、補充書面が必要な場合は必ず添付させるように指示している。システムに基づき、製作担当と経理担当、コンプライアンス担当等からのチェックが可能となっている。
③ C局では、発注書に通し番号を付し、支払伝票を経理担当に提出する際に確認を行っている。経理では発注書に金額が書いてあるか、60 日以内に支払われるか等のチェックをしている。
④ D局では、放送番組製作委託契約の際、発注書面が交付されていない場合は、アラートが表示されるシステムを導入している。
・発注書面作成の際、契約相手方と契約内容を入力すれば、当該相手方が下請法対象か否かがすぐに識別できるようにしている。
・発注書面に必要な記載事項が全て記載され、交付されるまでは、アラートが常時表示されるシステムとしている。
・交付の日付についても管理を行い、発注書面の保存・管理を実施している。
(2)交付時期について
① A局では、発注時に放送番組の作成委託において番組の具体的な内容が確定していない場合など正当な理由がある場合には、製作費(契約金額)を決めることができないので、発注の際に「当初書面」として金額未定のまま、書類を交付。その後、金額が決定した時点で「補充書面」を交付している。なお、補充書面の交付は納入日を過ぎないようにしている。
② B局では、局で番組内容について企画し、外部発注を行うことが決まった場合、直ちに、発注書を交付し、番組製作を開始する。番組納入までの間に契約書を交付する。
③ C局では、企画が決定した段階で最初から金額を確定して迅速に覚書を締結している。
2.支払期日の起算日(第2章-3関係)
① A局では、放送番組製作委託契約について、支払期日を「放送日」起算で処理していたが、下請法改正後、「受領日から 60 日以内」を遵守するため、「納入日」起算に変更した。納入された翌月初に会計処理がなされ、当該月中に支払が行われるようにしている。
② B局では、「放送日の翌月支払」としていたが、納入日を起算日にすることに改め、「当月末締め、翌月末現金払い」とした。
③ C局では、製作費の支払時期について、求めがあれば、費用の一部前払いができるように契約書の条項に盛り込んでいる。実際、製作・取材過程で支払った実績もある。
④ D局では、放送番組の発注の際、製作会社に、番組製作費の一部を前払いするよう努めている。
3.不当な経済上の利益の提供要請等(著作権の帰属)(第2章-4関係)
本項で掲げる事例のうち、著作権の帰属の取扱については、必ずしも下請法及び独占禁止法上の範囲に属するものではないが、局と製作会社間で行われる望ましいと考えられるものについては、事例として掲げている。
(1)著作権の帰属に関する問題点
① A局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、「発意と責任」が製作会社にあれば、基本的には、製作会社に著作権が帰属する。「企画の発案者、製作実態」により著作権の帰属を決めるが、基本的には製作主体を尊重しながら権利の帰属を考えている。
② B局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、一律製作会社に著作権が帰属するようにしている。
③ C局では、局側のプロデューサーに最終的な内容決定権限があるなど、製作会社と責任を共有して製作にあたる場合、著作権を共有することとしている。
この場合、二次利用で著作権使用料を得たときには、局と製作会社の間で、権利収入を分配し合う率を予め決める契約を結んでいる。
(解説)なお、この事例③の場合、局と製作会社双方に権利が帰属する場合であり、役務取引ガイドライン(※)にもあるとおり、優越的地位の濫用以外にも一般指定第 5 項に留意し、権利配分等の取決め内容について、局と製作会社間で著しく均衡を失し、これにより製作会社が不当に不利益を受けることとならないよう留意すべきである。
(※)役務取引ガイドライン
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い
(注 15)(略)また、委託者が技術、人員等を提供するなどにより、情報成果物を受託者と共同で作成したとみることができる場合においては、当該成果物に係る権利の譲渡、二次利用及び労務、費用等の負担に係る取決め内容について、委託者と受託者の間で著しく均衡を失し、これによって受託者が不当に不利益を受けることとなるときには、優越的地位の濫用又は共同行為における差別的取扱い(一般指定第 5項(※2))として問題となる。
※2 一般指定第 5 項(事業者団体における差別取扱い等)
5 事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し、又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取り扱い、その事業者の事業活動を困難にさせること。
④ D局では、権利の共有など製作委託取引の際の権利帰属について、企画募集に先立って明示し、受託側が取引条件を十分理解した上で企画応募できるようにしている。
⑤ E局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、素材の著作権については製作会社に帰属するようにしている(当該素材は、製作会社が局とは関係なく自由に利用できる。)。
(2)著作権の対価
① A局では、企画公募を行っており、その枠の番組については、局は「放送利用許諾契約」を結んでおり、著作権は製作会社に帰属する。その場合、製作会社が著作権を局に譲渡する場合には、局は製作会社に対し、「著作権の対価」に係る部分を、製作委託費とは別に明示して支払っている。
② B局では、発注書面の協議事項として、「納入物の一部に製作会社に原始的に著作権が発生する場合、発注金額には製作委託費とは別に、局に権利を譲渡する対価も含まれる」としている。なお、素材も譲渡を受ける場合には、「別途、相当の対価を支払う」旨を明記している。
③ C局では、製作会社に帰属する著作権や素材について局が譲渡を受ける場合、 3 条書面に明記するとともに、譲渡について適切に対価に反映されているのかきちんと認識し、必ず対価を発生させるようにしている。局に一方的に譲渡させることがないようにしている。
(参考)「素材」の取扱い等について
第 2 章10において述べたように、放送番組の製作委託契約により発生した「素材」について、著作権を譲渡させる場合は合理的な対価を支払うべきであると考えられる。また、製作会社が素材を利用することについて制限する場合は、局の利益を害する場合など合理的範囲にとどめるべきである。さらに、制限する場合には合理的な対価を支払うことが望ましい。「素材」の利用については様々な場合が想定され、例えばA局の番組なので出演したという者から、当該局以外で使用されることについて指摘がある場合等、局と製作会社で十分協議等を行っていくのが望ましい。
(3)窓口業務
以下に掲げる事例は、「完全製作委託型番組」のうち、製作会社に発意と責任があり、著作権が製作会社に帰属する場合、又は、局と製作会社において著作権を共有する場合の事例である。
① A局では、二次利用の窓口業務については、局側が原則として窓口業務を担うとされている場合であっても、製作会社から窓口業務について意思が示された場合はそれを認めている。また二次利用による収益は、協議し配分している。
② B局では、窓口業務を行う側は、二次利用を行う場合には必ず事前に相手方に連絡し、権利処理方法、配分などについて協議して決定する。合意が得られなければ当該利用はできず、両者の意向が十分反映されていると認識している。
③ C局では、二次利用については協議事項で別途覚書締結となっており、条項としては「二次利用の機会を拡大した者が当該利用の窓口となることを原則する」こととなっており、契約書上も明確に製作会社も二次利用の窓口となりうる。局に著作権が帰属する場合でも、二次利用で収益がある場合は、製作会社にも配分する。
④ D局では、窓口業務については局と製作会社の間で双方の意向を十分確認し合い、決めている。
⑤ E局では、局と製作会社で著作権を共有する場合、二次利用の許諾については、「局と製作会社が共有し、重大な支障がない限り互いに異議なく応じる」旨契約書に明記しており、二次利用の意欲と可能性のある方が権利を行使する形をとっている。
4.買いたたき(第2章-5関係)
(1)レギュラー番組の製作費の買いたたき
① A局では、レギュラー番組で外部発注している場合、従来継続して発注していた時と同じ内容、品質を求めたままで、契約金額を従来に比べて一律に一方的に低くすることは通常ない。従来と比べて低い対価とする場合は、内容、企画、キャストを見直し、変更している。
10 21 頁「4.買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請等」参照。
② B局では、製作費を削減するときは、一方的な通知ではなく、双方協議して納得した上で行っている。その際は、通常の対価と比べて著しく低い対価とならないよう留意している。
(留意事項:なお、以下に示すとおり、原材料の価格が高騰していることが明らかな状況で、単価引き上げが求められているのにも関わらず、代金を据え置く場合も、買いたたきとなる可能性があることに留意すべきである。)
(参考)
● 親事業者から下請事業者に対して、使用することを指定した原材料の価格が高騰していることが明らかな状況において、下請事業者から、従来の単価のままでは対応できないとして単価の引き上げを求めたにもかかわらず、親事業者は、下請事業者と十分に協議をすることなく、一方的に、従来どおりに単価を据え置いた。
(出典:下請代金支払遅延等防止法ガイドブック「ポイント解説下請法」9頁)
(2)契約金額の決定/単価※表の活用
(※単価:製作費見積の目安となる単価。)
以下の事例では、契約金額の決定について、局側の一方的な要請や、発注当時にあいまいな形で行うのではなく、業務内容に応じた適正な価格となるように、事前のチェックや単価の作成など、価格決定のプロセスを透明にしている点で、参考となるものである。ただし、発注者側の単価表や番組製作予算の一方的な押し付けを行い、それが通常の単価を著しく下回るなどの場合は下請法上問題となる場合があるため、注意すべきである。
また受託側である製作会社からの見積りなどをもとに予算額を決定した場合でも、その後、契約内容や業務内容の変更等により、確定額が変動しうる可能性もあるため、確定額が下請法に違反しないように留意する必要がある。
① A局では、局内での費用見積の目安をつけるため単価表を作り、契約金額設定の参考としている。レギュラー枠では時間帯と分数によりおおまかな額が設定されている。
② B局では、契約締結に当たっては、製作会社の経営者と局のプロデューサーの間で十分な話し合いを行い、製作会社にとって無理のないように調整して合意を得ている。協議により対価を設定した上で製作費を決めている。
③ C局では、番組改編期や、新しい企画ごとに、単価も見直している。ディレクター等の単価は経験年数に基づいて設定されているが、経験とともに単価を上げていかないとモチベーションも上がらないので、時間をかけて交渉し、単価を上げる等している。
④ D局では、番組製作に当たっては「予算管理」のプロセスにより、予算が適正かどうか、プロデューサー、編成、編成管理等の各担当がチェックしている。その際、予算額は製作会社からの見積りをもとに設定されるが、局内で作成
した単価の目安も参考に妥当性、適正性を確認している。
参 考 資 料
1 「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」開催要綱
2 「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」名簿
3 放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)について
(平成 16 年 3 月 26 日 ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会)
4 放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)
~外部制作委託のケース~
「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」開催要綱
1 背景・目的
平成16年施行の改正下請法により、同法の規制対象に、「情報成果物作成委託」に係る取引の一環として、放送コンテンツの取引が追加された。これを契機として、法令上、放送コンテンツの製作取引の適正化の一層の促進が求められてきた。
昨今、放送コンテンツ製作における放送コンテンツ製作者の役割の重要性は増大しており、製作環境を改善し、製作インセンティブの向上を図る観点からも、製作取引の適正化の要請 は一層高まっている。
こうした状況を踏まえ、放送コンテンツに係る製作取引の現状を検証するとともに、当該分野における下請取引のガイドラインの策定など、より適正な製作取引の実現に向けた具体策の検討を行うべく、標記検討会を開催する。
2 名称
本会の名称は「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」とする。
3 検討事項
(1) 放送コンテンツの製作取引に係る現状の検証
(関係者による法令遵守の状況など)
(2) より適正な製作取引の実現に向けた具体策
(下請法その他の法令遵守に係るガイドラインの策定等)
4 構成・運営
(1) 本会は、政策統括官(情報通信担当)の検討会として開催する。
(2) 本会の構成員は、別紙のとおりとする。
(3) 本会には、座長及び座長代理を置く。
(4) 座長は、構成員の互選により定め、座長代理は座長が指名する。
(5) 座長は、本会を招集し、主宰する。
(6) 座長代理は、座長を補佐し、座長不在のときには、座長に代わって本会を招集し、主宰する。
(7) 座長は、必要に応じ、外部の関係者の出席を求め意見を聞くことができる。
(8) 座長は、上記の他、本会の運営に必要な事項を定める。
5 庶務
本会の庶務は、情報流通行政局情報通信作品振興課が放送政策課の協力を得て行う。
別 紙
「放送コンテンツの製作取引の適正化の促進に関する検討会」構成員名簿
○:座長 (敬称略、五十音順)
池田 | 朋之 | 株式会社テレビ東京 編成局 契約統括部 部長 |
石岡 | 克俊 | 慶應義塾大学 産業研究所 准教授 |
大寺 | 廣幸 | 社団法人日本民間放送連盟 デジタル推進部長 |
小川 | 晋一 | 株式会社フジテレビジョン 編成制作局 編成担当局長 |
音 | 好宏 | 上智大学 文学部教授 |
門脇 | 覚 | 株式会社東京放送 編成制作本部担当局次長 |
菊池 | 満士 | 株式会社テレビ朝日 編成制作局ライツ推進部知財担当副部長 |
鬼頭 | 春樹 | 社団法人全日本テレビ番組製作社連盟 専務理事 |
小塚荘一郎 上智大学 法学部教授
近藤 耕司 全国地域映像団体協議会 会長澤田 隆治 日本映像事業協同組合 理事長
清水 克恵 日本テレビ放送網株式会社 コンプライアンス推進室 法務部 部次長関本 好則 日本放送協会 放送総局特別主幹
長田 三紀 特定非営利活動法人 東京都地域婦人団体連盟 事務局次長
○ 舟田 正之 立教大学 法学部教授
山口 康男 有限責任中間法人日本動画協会 専務理事/事務局長
(以上16名)
オブザーバー名簿
青野 史郎 有限責任中間法人日本動画協会 著作権委員長植井 理行 株式会社東京放送 編成制作本部 担当局次長
(敬称略、五十音順)
社団法人日本民間放送連盟 知的所有権対策委員会 IPR 専門部会委員竹村 範之 日本放送協会 編成局 計画管理部 統括担当部長
斎藤 信吾 社団法人日本民間放送連盟 デジタル推進部 主幹野瀬 洋一 株式会社テレビ朝日 総務局法務部 副部長待遇 村本 道廣 全国地域映像団体協議会 専務理事
森澤 広明 日本映像事業協同組合 副理事長
矢島 良影 社団法人全日本テレビ番組製作社連盟 副理事長
柳田 精次郎 日本テレビ放送網株式会社 編成局ライツ審査部 ライツ担当部長
(以上9名)
平成16年3月26日ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会
放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)について
「ブロードバンド時代における放送番組制作に関する検討会」は、ブロードバンド時代における放送の社会的な信頼性のさらなる向上と我が国の放送番組の質も含む制作力の強化・向上に資することを目的として平成14年10月に開催され、以来、放送番組の制作体制の公正性・透明性をより一層向上させるための方策についての検討を行っており、同年12月には、放送事業者による番組制作委託取引に関する自主基準の作成、公表等についての合意事項を取りまとめて、公表したところである。
標記については、本検討会において、今後の放送番組制作委託における関係者(新規に関係者となる者を含む。)の参考となり、かつ、放送番組制作委託に係る諸手続きの公正性・透明性をより一層高めることを目的として、平成15年11月以来検討を重ね、今般、別添のとおり「放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)」を取りまとめ、公表するものである。
放送番組の制作形態等を大まかに分類すると、①放送事業者自らが制作するもの、
②放送事業者が番組制作事業者に制作を委託するもの、③番組制作事業者が独自に制作し、放送事業者がその放送権を購入するもの、④放送事業者と番組制作事業者が共同で制作するものがあるが、そのうち②のケースについて、本契約見本を定めるものである。また、個別の契約の条件内容については当事者間の相対によって個別に定められるものであることから、本契約見本では、契約項目及びその内容についての最低限必要な事項を整理することによって、公正性・透明性の一層の向上とより実効性の高い契約見本の策定という二つの目的の実現を図るものである。
本契約見本の作成にあたっては、現状の放送事業者と番組制作事業者の契約を踏まえ、主要な関係者共通の理解を得て、一般的な必要事項を示した。もとより、個別の契約書は、個々の相対の契約交渉によって合意作成されるものであるが、その際に本契約見本が幅広く参照・活用されることを期待する。
また、個別の放送事業者ごとの契約方針については、前述の合意事項に基づき平成
15年3月に放送事業者において作成、公表された自主基準の詳細化という位置づけで、本契約見本とは別に、各放送事業者において検討、公表されることを申し合わせているものである。
なお、本契約見本は、必要に応じて適宜適切に見直しを行っていくこととする。
別添
放送番組の制作委託に係る契約見本(契約書の必要事項)
~外部制作委託のケース~
項 目 | 内 容 | 備考 |
契約目的 | ・番組の制作委託と受託に関する契約書である旨、制作する番組の使用目 的とあわせて明記。 | |
番組の概要 | ・制作する番組の説明。タイトル、放送予定日時、放送予定話数等のほか、主要なスタッフ、キャストなど不可欠の要素を含め番組概要を特定。 | |
著作権 | ・制作実態に伴って発生する著作権の帰属と、契約による著作権の扱いを取り決める場合はその扱いを明記。 なお、契約における扱いとしては、権利を移転させたり、権利行使の代表者を定めたり、著作権の帰属先とは別に権利行使窓口を設定したりすることがある。これらの場合、公正な協議を行うことが不可欠である。 ・番組制作事業者に著作権が帰属し、放送事業者が放送権の許諾を受ける場合には、放送事業者が独占的に放送できる期間、回数、地域、メディアを取り決めた上で、その結果を明記。 なお、当初取得した放送権の期間、回数、地域を超えて、番組の放送権の再購入を放送事業者が希望したときは、別途対価を支払うことにより当該放送事業者が優先的に取得する旨を記述するのが一般的。 | ※1 |
納入物件 | ・誤認や事故等の生じないよう、物件の納入期日・場所、物件の種類、規 格、数量、作業用貸与物の扱いなどを詳細に明記。 | |
対価 | ・契約履行の対価に関し、委託内容、利用条件等に応じて、その金額、支払日、支払方法などを、適正に取り決めて明記。 なお、対価には契約目的に含まれている番組使用の許諾の対価が含まれ る。 | |
改変 | ・編成上の必要等で放送事業者が番組を改変する必要が生じる場合があり、 放送事業者が必要により番組を改変することへの同意について明記。 | |
二次利用 | ・著作権共有の場合には、二次利用の円滑な促進等のため、代表行使者の取り決めなど番組の二次利用の許諾窓口の扱い、対象期間、権利処理、利益配分等必要な条件を取り決めた上で、その結果を明記。 ・著作権が番組制作事業者にある場合には、二次利用のそれぞれの形態における許諾窓口を放送事業者、番組制作事業者のいずれが担うこととするのかを取り決めた上で、その結果を明記。また、対象期間、権利処理、費用負担、利益配分等その業務に関わる条件を取り決められる範囲で取 り決めた上で、その結果を明記。 | ※2 |
・取り決めた期間後の取扱いなどについては、予め当事者間で十分協議し、 その結果を明記。 | ||
クレジット 表示 | ・双方の合意に基づき、第三者が理解できるような制作責任等の表示の仕 方を明記。 | |
権利処理 | ・必要な権利処理のうち、放送事業者側の責任で行うものと、受託した番組制作事業者側の責任で行うものとの区分を明記。 ・二次利用の際に必要となる権利情報等の資料を作成納入することを明記。 | |
制作基準等 制作業務遂 行の取決め、審査 | ・放送事業者と番組制作事業者が著作権を共有する形で制作業務を遂行する場合は、制作過程での業務遂行方針、委託側と受託側の内容管理と制作への関与の位置づけを明記。 ・番組制作事業者が著作権を有する形で制作業務を遂行する場合は、放送番組基準、編集基準等の条件を遵守することとし、放送事業者の審査において不適格となった場合には、その費用負担については当事者間で協 議の上で、番組制作事業者が改訂することを明記。 | |
納入・試写 | ・納入段階での内容チェックと納品手続について明記。 | |
内容の変更 | ・契約内容の変更が必要となった場合の扱いを明記。 | |
制作の中止 | ・キャストの病気・事故、番組編成上の事由、天変地異等の不可抗力等の場合は、当初の予定話数に満たないうちに番組制作を中止できるが、制作進行状況等を勘案の上、相互の補償等の措置を協議により決定する旨 を明記。 | |
秘密保持条 項 | ・企画、アイデアその他業務遂行過程で知りえた内部情報を双方ともに第 三者に開示することを禁止する旨を明記。 | |
契約譲渡の制限 | ・契約当事者の一方は、事前に書面による他方当事者の承諾がない限り契約による権利義務の全部若しくは一部を他の者に譲渡、継承させてはな らない旨を明記。 | |
契約解除条項 | ・契約当事者の一方が契約違反したときは、他方当事者は相当の期間をおいて催告したのち本契約を解除することができる旨を明記。 | |
別途協議条 項 | ・本契約に定めなき事項又は条項の解釈に疑義がある場合は、誠意をもっ て協議し円満に解決する旨を明記。 |
※1 民間の地上波の放送事業者でBS、CS放送事業者が別法人となる場合でも、当該地上波の放送事業者と番組制作事業者が、BS、CSでの放送権及びその応分の対価の支払いを含めて契約することができる。
※2 放送事業者が代表行使者となる場合又は独占的に窓口業務を行うことを規定する場合にあっても、番組制作事業者側にも二次利用の案件を放送事業者側に提案することが可能である。なお、「独占的」という文言を使用する理由は、二次利用の契約を第三者と取り交わす際、第三者にライセンスする権利を全て有している旨の保証条項を契約書に必ず記載しなければならず、二次利用契約の相手方との関係上必要となるためである。
(注)なお、日本動画協会所属の構成員は、個別の放送事業者の契約方針に重大な関心を示しており、今回の契約見本の取りまとめには参加していない。