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土地建物売買契約書の見直し方法と 5 つのチェックポイント
改正民法では、責任追及の方法である「瑕疵担保責任」を「契約不適合責任」に変更したことにより、多くの契約書で文言を修正する必要がありました。また、それ以外にも改正前民法と大きく変更された点が複数あるため、土地建物売買契約書についても見直しが必要となります。今回は改正民法を踏まえた不動産売買契約書を作成する時に注意すべきチェックポイントを解
説します。
はじめに
目次
1 民法改正による土地建物売買契約書の見直しについての基本的な考え方
2 民法改正による不動産取引の変更点 5 つ
2.1 瑕疵担保責任から契約不適合責任に名称が変更
2.2 買主が知っていた瑕疵も責任の対象になる
2.3 瑕疵があった場合に買主は修補請求や代金減額請求が可能になる
2.4 売主が瑕疵を知って売った場合などは売主の責任期間が延長になる
2.5 手付に関する契約条項の書き方の見直し
3 改正点をふまえて、不動産売買契約書で見直すべき条項
3.1 契約の目的に関する条項
3.2 売主の表明保証条項
3.3 売主の担保責任に関する条項
3.4 危険負担条項
3.5 解除条項
3.6 「手付ルールの明確化」について契約書文言の変更
4 その他確認しておきたい点について
4.1 契約の内容を明確にするために、契約書に契約の目的を記載する
4.2 不動産に関する事情や調査をした内容を契約書に記載することによって、不動産の状態を明確にする
4.3 自然損耗等に関する責任についても記載することによって、契約の内容をより明確にする
5 まとめ
1 民法改正による土地建物売買契約書の見直しについての基本的な考え方
まずはじめに、民法改正による「土地建物売買契約書の見直し」についての基本的な考え方に触れておきたいと思います。
民法改正により「契約不適合責任」という新しいルールに変更になりました が、改正民法の定めは基本的に「任意規定」であるため、改正民法による新しい契約不適合責任のルールを適用することが自己にとって不都合である場合には、改正民法の内容とは異なる合意をすることにより、改正民法のルールの適用を排除することができます。これに対して、当事者間の合意によっても変更することができない法律の定めを「強行規定」といいます。例えば、宅地建物取引業法第 40 条では、売主が宅地建物取引業者で、買主が非業者である場合
には、契約不適合責任を負う期間を引渡し時から 2 年以上とする特約を除き、民法の規定よりも買主に不利な特約は無効とされます。売主が宅地建物取引業者で、買主が非業者である場合の土地建物売買契約においては、当事者の合意によっても宅地建物取引業法第 40 条の適用を排除することができません。
このように、改正後の内容が「任意規定」と「強行規定」のどちらに該当するのかを意識して、土地建物売買契約の見直しを行うことが大切です。
2 民法改正による不動産取引の変更点 5 つ
次に今回の民法改正による「不動産取引の変更点」を 5 つみていきます。
2.1 瑕疵担保責任から契約不適合責任に名称が変更
最初のポイントは、民法改正により、これまでの「瑕疵担保責任」は、「契約不適合責任」という名称に変更されたということです。改正民法の「契約不適合」の意味は、これまでの瑕疵担保責任の「瑕疵」の意味と基本的に同じで す。ただし、今後、不動産売買契約書を作成する場合において、これまで「瑕疵担保責任」と記載していた点については、契約書内での用語を変更しておくことが必要になります。
2.2 買主が知っていた瑕疵も責任の対象になる
2 つ目のポイントは、改正民法では、「買主が契約時に知っていた瑕疵についても売主の責任の対象となる可能性があるという点」です。今後、買主が知っていた瑕疵は、売主が実際に損害賠償責任を負うかどうかや、賠償額をいくらにするかの算定において、考慮されることになります。
2.3 瑕疵があった場合に買主は修補請求や代金減額請求が可能になる
改正前民法では、購入した不動産に瑕疵があった場合、買主がとれる手段は、
「契約解除」と「損害賠償の請求」の 2 つのみでした。改正により、買主は、購入した不動産に契約不適合(瑕疵)があった場合に、契約不適合責任の内容の 1 つとして、売主に対して修理の請求ができることになりました。
さらに、売主が修補請求に応じないときは、購入代金を減額するという「代金減額請求」をすることもできることになりました。
2.4 売主が瑕疵を知って売った場合などは売主の責任期間が延長になる
不動産に瑕疵があった場合の売主の契約不適合責任の期間については、原則として個人間売買の場合には民法第 566 条本文により、買主が契約不適合を知っ
た時から 1 年間とされ、会社間売買の場合は商法第 526 条第 2 項により、引渡
しから 6 か月間となっています。ただし、改正民法第 566 条第 1 項但書によ り、売主が契約不適合を知っていたかあるいは知らないことについて重大な過失があった場合は、上記の期間制限は適用されないことになりました。その結果、売主が契約不適合を知っていたかあるいは知らないことについて重大な過
失があった場合の、売主の責任期間は一般的な消滅時効の期間と同じ 5 年となります。それぞれ期間に違いがあることを注意しておきましょう。
2.5 手付に関する契約条項の書き方の見直し
手付は、相手方が契約の履行に着手するまでは、売主は手付の倍額の支払い、買主は手付の放棄と引き換えに契約を解除できるという制度です。この点は、民法改正でも変更はありませんが、民法改正前は、手付解除ができる期限について、民法第 557 条第 1 項にて、「当事者の一方が契約の履行に着手するま で」と記載されていました。今回の民法改正で条文上「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と記載されていた表記が「相手方が契約の履行に着手するまで」と変更されたことによって、契約を解除しようとする側が契約の履行に着手していても手付解除が可能であることが条文上明らかになりました。
3 改正点をふまえて、不動産売買契約書で見直すべき条項
これらの改正点をふまえて、主に売主の立場から不動産売買契約書で見直すべき条項 6 つを解説します。
3.1 契約の目的に関する条項
「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変化されたことにより、引き渡された不動産の種類、品質又は数量が「契約の内容に適合」しているかどうかが重要となります。 具体的には、売買の目的、経緯および動機といった事項が重視されます。担保責任に関するトラブルを減らすために、下記の記載例のように売買の目的を契約書に記載したり、説明したりすることが必要です。
記載例第●条
売主及び買主は、買主が本物件を●●●●●●として使用する目的で、本物件を買い受けるべく、本契約を締結するものであることを確認する。
3.2 売主の表明保証条項
表明保証とは、一方当事者が相手方当事者に対して、一定の時点において、一定の事項が正確かつxxであることを表明し、保証する旨の条項をいいます。表明保証条項が定められているときは、売主の担保責任との関係が明確である
かを確認するようにしましょう。売主としては、表明保証条項を定める場合 は、仮に、表明保証条項に反するものであっても、担保責任を追及されないように定めることが大切です。
3.3 売主の担保責任に関する条項
不動産売買では、目的物である不動産は、修理や代替物の引渡しなどによって履行を追完することが困難であるという性質があります。売主と買主のいずれの立場であっても、どんな責任を売主が負うのか、いつまで責任を負うのかについて、民法のルールに比べて自己に不利な内容になっていないかという点を確認する必要があります。
3.4 危険負担条項
売主としては、目的物である不動産を納入した以上、代金を支払ってもらえなければ不利益です。 そこで、基本的には、「引渡しをもって危険負担が移転する」という民法の原則的なルールを採用しましょう。
引渡し前に、目的物である不動産が損傷した場合は、どのように取り扱ったらよいのか、という点については、民法の危険負担のルールだけでは不明確で す。そこで、引渡し前に、契約当事者のいずれの帰責性なく目的物である不動産が損傷したときは、売主としては、まずは修補することとし、修補できなかった場合に、買主からの代金の減額や契約の解除に応じる、と定めることが考えられます。
3.5 解除条項
改正民法は、債務者の帰責事由を法定解除の要件から削除したことから、この点では、改正民法は債務者にとって不利な変更といえます。そこで、債務者である売主としては、改正前民法と同様、債務者の帰責事由に基づく契約違反があった場合に初めて解除することができる旨定めておくことが大切です。
3.6 「手付ルールの明確化」について契約書文言の変更
今回、民法改正によって、手付による解除をするときの期限について「当事者の一方が契約の履行に着手したとき」とする規定を、「相手方が契約の履行に着手したとき」に改正されました。
そのため、同様に、不動産売買契約の条文でも、「当事者の一方」とされている部分については「相手方」と明記するようにしましょう。
4 その他確認しておきたい点について
4.1 契約の内容を明確にするために、契約書に契約の目的を記載する
契約不適合責任は、「契約の目的に適合しない」内容が責任の対象になるとされています。そして、「容認事項」として契約書に記載された事項は、基本的に契約不適合責任の対象から除外されます。
したがって、契約不適合責任に関するトラブルを防止するためには、売買契約の締結により最終的に買主が実現したい目的を踏まえて、容認事項の内容を決定する必要があります。
4.2 不動産に関する事情や調査をした内容を契約書に記載することによって、不動産の状態を明確にする
インスペクションや土壌汚染調査と呼ばれる事前調査等によって、土地や建物の客観的状況や不動産に関する事情を明らかにして、その調査結果を契約書に明記することが契約不適合責任を回避する方法となります。
4.3 自然損耗等に関する責任についても記載することによって、契約の内容をより明確にする
建物の自然損耗や経年劣化に関しては、金銭的又は物理的制約のため、上記の調査対象外となることがあります。そこで、これらの事項に関する責任の所在を明確にすべく、売主としては、本件建物に自然損耗や経年劣化が生じていること及びその可能性があることを買主に容認してもらう旨定めておくことが大切です。
5 まとめ
不動産の取引は、対象となる不動産の価値が高く、取引額が大きくなりがちであるため、1 つのミスが、大きな損失、負担につながるおそれがあります。改正民法下では、契約書の条項に具体的な記載を入れるなど、詳細な作り込みが
重要になりますので、媒介業者や法律専門家等と十分な打ち合わせを行った上で契約書等を作成することをおすすめします。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士による、契約に関するご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもご相談ください。
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(代表弁護士:xxxx)
※本稿の内容は、2023 年 5 月現在の法令・情報等に基づいています。
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