ローマ法「買い主注意せよ。」(caveat emptor)
2009 年 4 月 21 日
立命館大学法科大学院 情報法(第3回)
情報化社会における契約と情報財取引
弁護士・弁理士 x x x x
Ⅰ. 情報化社会における取引
1)情報の偏在・情報格差
・古典的・従来の取引
現物・可視物の売買
売 主
買 主
ローマ法「買い主注意せよ。」(caveat emptor)
・情報財に関する取引
金融商品、ある種の権利、情報財等の売主
無体物・不可視財の売買情報の偏在
消費者
情報格差
Ex.金融商品販売法 3 条
2)IT社会における電子商取引
一般契約法
特別法・業法
「情報」に関する法制度
IT/サイバー法
「あるべきものがないことに気付くのがプロの視点」(xxxxx)
民法、商法 | 特定商取引法、消費者契約法 | 電子消費者契約法 |
個人情報保護法 | 保険業法、古物営業法 | 電子署名法、プロバイダー法 |
刑法 | 知財法、児童ポルノ禁止法 | 法の適用に関する通則法 |
Ⅱ. 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(経済産業省)
1)経過
・平成 14 年 3 月 「電子商取引等に関する準則」策定
・平成 14 年 7 月 景品表示法に関する公取委からの発出通達の反映※等2項目
※不当表示の例示(すべてのウィルスソフトに100%対応)
・平成 15 年 6 月 リバースエンジニアリングの禁止に関する公取委の研究会報告の反映※等9項目 ※ソフトウェアのリバースエンジニアリングの禁止の不当性
・平成 16 年 6 月 仲裁法の施行に伴う仲裁合意の効果の反映※等14項目
※電磁的記録による仲裁合意も有効
・平成 18 年 2 月 民事訴訟法の施行に伴う管轄合意の効果の反映※等6項目
※電磁的記録による管轄合意も有効
・平成 18 年 6 月 第 9 回産業構造審議会情報経済分科会ルール整備小委員会
※ソフトウェア特許権の権利行使と権利濫用について審議
・平成 18 年 11 月 第 10 回産業構造審議会情報経済分科会ルール整備小委員会
※ワンクリック請求と契約の履行義務・越境取引などについて審議
・平成 18 年 12 月 第 11 回産業構造審議会情報経済分科会ルール整備小委員会
※肖像・著作物の写り込みやサムネイル画像と著作権などについて審議
・平成 19 年 3 月 「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」策定
xxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxx/00000000000/00000000000.xxxx
2)趣旨
「契約自由の原則」が支配する分野であるが、法的安定性(予測可能性)を担保するためには、何らかの解釈基準や指針が必要。
3)策定項目(目次)
Ⅰ 電子商取引
Ⅰ-1 契約手法に関する問題
Ⅰ-1-1 契約の成立時期(電子承諾通知の到達)
Ⅰ-1-2 ウェブサイトの利用規約の有効性
Ⅰ-1-3 価格誤表示と表意者の法的責任
Ⅰ-1-4 ワンクリック請求と契約の履行義務
Ⅰ-1-5 なりすましによる意思表示のなりすまされた本人への効果帰属
Ⅰ-1-6 なりすましを生じた場合の認証機関の責任
Ⅰ-1-7 未xx者による意思表示
Ⅰ-1-8 管轄合意条項の有効性
Ⅰ-1-9 仲裁合意条項の有効性
Ⅰ-2 電子商取引に特有の取引形態
Ⅰ-2-1 電子商店街(サイバーモール)運営者の責任
Ⅰ-2-2 インターネット・オークション
Ⅰ-2-2-1 オークション事業者の利用者に対する責任
Ⅰ-2-2-2 オークション利用者(出品者・落札者)間の法的関係
Ⅰ-2-2-3 インターネット・オークションにおける売買契約の成立時期
Ⅰ-2-2-4 「ノークレーム・ノーリターン」特約の効力
Ⅰ-2-2-5 インターネット・オークションと特定商取引法
Ⅰ-2-2-6 インターネット・オークションと景品表示法
Ⅰ-2-2-7 インターネット・オークションと電子契約法
Ⅰ-2-2-8 インターネット・オークションと古物営業法
Ⅰ-2-3 ホスティングを伴う電子商取引事業者の違法情報媒介責任
Ⅰ-2-4 インターネット上で行われる懸賞企画の取扱い
Ⅰ-3 消費者保護
Ⅰ-3-1 消費者の操作ミスによる錯誤
Ⅰ-3-2 インターネット通販における分かりやすい申込画面の設定義務
Ⅰ-3-3 ウェブ上の広告表示の適正化
Ⅰ-3-3-1 景品表示法による規制
Ⅰ-3-3-2 特定商取引法による規制
Ⅰ-3-4 インターネットを通じた個人情報の取得
Ⅰ-4 越境取引
Ⅰ-4-1 当事者による法選択がない場合の準拠法
Ⅰ-4-2 越境取引における消費者保護法規
Ⅰ-4-3 インターネット上の不法行為と準拠法
Ⅱ 情報財取引
Ⅱ-1 ライセンス契約
Ⅱ-1-1 契約の成立とユーザーの返品の可否
Ⅱ-1-1-1 情報財が媒体を介して提供される場合
Ⅱ-1-1-2 情報財がオンラインで提供される場合
Ⅱ-1-2 重要事項不提供の効果
Ⅱ-1-3 契約中の不当条項
Ⅱ-1-4 ソフトウェアの使用許諾が及ぶ人的範囲
Ⅱ-1-5 契約終了時におけるユーザーが負う義務の内容
Ⅱ-1-6 契約終了の担保措置の効力
Ⅱ-1-7 ベンダーが負うプログラムの担保責任
Ⅱ-1-8 ユーザーの知的財産権譲受人への対抗
Ⅱ-2 知的財産
Ⅱ-2-1 ソフトウェア特許権の行使と権利濫用
Ⅱ-2-2 P2Pファイル交換ソフトウェアの提供者の責任
Ⅱ-2-3 ドメイン名の不正取得等
Ⅱ-2-4 インターネット上への商品情報の掲示と商標権侵害
Ⅱ-2-5 ID・パスワード等のインターネット上での提供
Ⅱ-2-6 データベースから取り出された情報・データの扱い
Ⅱ-2-7 肖像の写り込み
Ⅱ-2-8 著作物の写り込み
Ⅱ-2-9 インターネットサイトの情報の利用
Ⅱ-2-10 サムネイル画像と著作権
Ⅱ-2-11 他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点
Ⅱ-2-12 eラーニングにおける他人の著作物の利用
(Q) 下記 [問題 A]、[問題 B]について、答案構成を考えなさい。
[問題 A]I-1-2 ウェブサイトの利用規約の有効性
インターネット通販、インターネット・オークション、インターネット上での取引仲介・情報提供サービスなど様々なインターネット取引を行うウェブサイトには、利用規約、利用条件、利用契約等の取引条件を記載した文書(以下総称して「サイト利用規約」という)が掲載されていることが一般的であるが、サイト利用規約は利用者に対して法的な拘束力を持つのか。
[問題 B] Ⅱ-1-2 重要事項不提供の効果
情報財の提供に際してユーザーが代金を支払う際に、ベンダー又は販売店はどのような情報を提供する必要があるか。またそのような情報を提供しなかった場合はどうなるか。
(例)
消費者が店頭で代金を支払って、販売店からプログラムの引渡しを受けたが、プログラムが使用できるOS環境の情報を販売店から提供されていなかったため、実際にプログラムを使用できなかった。この場合、返品・返金は可能か。
論理展開(ロジック)の例
・ xxに原則論から説き起こし、理論的枠組みを示す。
・ 問題解決のための基準(規範)を示し、それに対するあてはめを行うというステップを踏まないと、単なる場当たり論となってしまう(客観性がなくなり、社会科学でなくなる)。
・ 空中戦(抽象論のみ)にならないように、地に足のついた説得的な議論を行うため具体例を挙げて論ずる。
・ 論述の深みを増すために、一本調子で無限定な必要性論のみでなく、両当事者の利益衡量や許容性(限界設定)等についても考えているという緻密な配慮も示す。
[問題 A]
(定義)「サイト利用規約」とは、、、、具体的な条項としては、、、
(問題提起) という取引とは異なり、サイト運営者(事業者)側が一方的に定めるものであり、また、契約書もなく、、、
(原則論) 民法上、契約自由の原則
(契約内容及びその形式を自由に決められる点について書く)
(例外)しかしながら、「同意ボタン」を押していない場合、あるいは、長文で難解な場合、、、
(いくつかの具体例を想定する)
(規範定立)そこで、 、、、の場合、、、、、という場合には、意思表示の合致があるものとして、、、と考えるべきであるが、、、、、という場合には、、、、、、、。
(あてはめ)例えば、、、、という場合には、、、、、に該当するものとして、、、、
(緻密な配慮)さらに、、、、、という場合で、、、、というような条項が存する場合には、、、、特別法たる消費者契約法が適用される場合もあり、、、、
もっとも、、、、
(結論)
[問題 B]
(定義)情報財の取引とは、例えば、音楽や映像などのデジタルコンテンツ、あるいはデータベースサービスの提供なども考えられるが、ここでは、パソコンショップにおいて、消費者がワープロや表計算のパッケージソフトウェア(プログラム)を購入する場合について検討する。
(問題提起)例えば、Windows 用ソフトであったにもかかわらず、Mac ユーザーが勘違いして、、、あるいは、ソフトをインストールするためには、ハードディスク
容量が800MB必要であったにもかかわらず、、、、
(原則論) 民法上、原則的には、その製品(パッケージ)を買うという意思表示が認められれば、、、
(なぜそう解するべきなのかについても書く)
(例外)しかしながら、ソフトウェアは、ハードウェアに使用環境に大きく依存する商品であり、、、、情報の格差、、、専門的知識、、、、購入前には、、、、
(規範定立)そこで、 、、、の場合、、、、、という場合には、重要事項の提供がないものとして、、、(民法上の根拠条文も示す)
(結論)したがって、、、、という情報が提供されるべきである。
以上のような情報が提供されるべきであるが、それらの情報が提供されなかった場合には、、、、返品・返金、、、、
(緻密な配慮)ただ、消費者が箱を開けてしまっていた場合には、、、、に、、、、という損害が生じ、、、、ということになる。しかし、、、、であるから、やむを得ないものと考える。
(規範定立)もっとも、具体的に、どこまで詳細に動作環境等について記載されるべきであるかについては問題であるが、、、と考える。
(あてはめ)よって、少なくとも、、、、、の場合には、、、
(結論)
(Q) 下記 [問題 C]について、問題点を検討しなさい。
[問題 C] Ⅱ-1-5 契約終了時におけるユーザーが負う義務の内容
ライセンス契約の解除等により、ライセンス契約が終了した場合には、ユーザーは具体的にどのような義務を負うのか。
(例)
ユーザーがライセンス契約を解除した後も、ユーザーは情報財を手元に残しておいて何ら責任を問われないのか。
1) ライセンス契約の成立
・ライセンサー(ベンダー)がライセンシー(ユーザー)に対して、情報財を一定範囲で使用収益させることを約し、ライセンシーがこれに同意することによって成立する契約をいう。
2) 契約終了時のユーザーの義務
・ベンダーの履行遅滞(民法 541 条)ないし履行不能(民法 543 条)によって、契約解除
を行う場合、そもそも無体物である情報財は返還(占有移転)を観念することができないとも考えられるため、民法第 545 条の原状回復義務の具体的内容が問題となる。
・ライセンス契約解除に伴う原状回復義務として、ユーザーは情報財の使用を停止しなければならず、これを担保するために、xxxxはユーザーに対して情報財を消去するよう求めることができると解するのが合理的である。
Cf.著作xx第 47 条の 2 第 2 項「プログラムの複製物の所有者が当該複製物について所有権を有しなくなった後には、その者はその他の複製物を保存してはならない」
・不当利得の点に関しては、ベンダーには損失がないと考えられる可能性もある。
「民法第 703 条の不当利得返還義務そのものの内容に当たらない場合は、少なくとも同条を類推適用して、・・・ベンダーはユーザーに対して、当該情報財を全て消去(削除)するよう求めることができると解するのが合理的である。」
Ⅲ.次回の課題
xx卿自書建xx身帖事件(最高裁昭 59 年 1 月 20 日、判時 1107 号 127 頁)を参考に、所有権と情報(無体物)との関係につき検討しなさい。
以 上