ex. 憲法,刑法,行政法
平成20年度
豊田市包括外部監査結果報告書
「工事・委託を中心とした契約手続
及び契約締結後の契約変更について」
平成21年1月
豊田市包括外部監査人
弁護士 x x x x
目 | 次 | |
第1章 | 総論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
第1 | 監査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
1 | 監査期間 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
2 | 監査人 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
3 | 外部監査の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
4 | 選定した特定の事件 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 1 |
5 | 監査対象事件を選定した理由および監査事項 ・・・・・・・・・ | 1 |
6 | 監査の方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 3 |
7 | 利害関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 5 |
第2 | 報告書の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 6 |
1 | 本報告書の構成について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 6 |
2 | 監査結果・監査意見について ・・・・・・・・・・・・・・・・ | 6 |
第2章 | 契約と契約変更 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 7 |
第1 | 契約総論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 7 |
1 | 公法と私法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 7 |
2 | 契約とは何か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 8 |
3 | 契約の分類と本外部監査の対象 ・・・・・・・・・・・・・・・ | 9 |
4 | 契約自由の原則とその適否 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 12 |
第2 | 契約制度概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 16 |
1 | 契約締結方法の種類について ・・・・・・・・・・・・・・・・ | 16 |
2 | 一般競争入札 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 16 |
3 | 指名競争入札 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 21 |
4 | 随意契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 23 |
5 | せり売り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 26 |
6 | 契約締結類型ごとの特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 26 |
第3 | 契約制度の新たな風 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 27 |
1 | プロポーザル方式とコンペ方式 ・・・・・・・・・・・・・・・ | 27 |
2 | 低入札価格調査制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 28 |
3 | 最低制限価格制度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 31 |
第4 | 契約変更について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 33 |
1 | 契約変更総論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 33 |
2 | 法律上の定め ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 34 |
3 | xx市における契約変更の定め ・・・・・・・・・・・・・・・ | 35 |
4 | 契約変更の手順について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 39 |
5 | 当初契約上の定め ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 40 |
6 | 契約の種類による特殊性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 45 |
7 | 契約内容による特殊性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 46 |
第3章 | 監査のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 62 |
第1 | はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 62 |
第2 | 監査のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 62 |
1 | 当初契約について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 62 |
2 | 契約変更について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 66 |
第4章 | 事例検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 78 |
第1 | スマートインターチェンジに関する契約 ・・・・・・・・・・・ | 78 |
1 | スマートインターチェンジとは ・・・・・・・・・・・・・・・ | 78 |
2 | 鞍ケ池PAスマートIC ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 79 |
3 | 各契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 80 |
第2 | 香xx待月橋架替工事 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 109 |
1 | 契約の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 109 |
2 | 個々の契約内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 109 |
3 | 契約手続,契約変更手続についての検討 ・・・・・・・・・・・ | 110 |
4 | 契約全体について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 127 |
第3 | 取付管設置契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 130 |
1 | 取付管とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 130 |
2 | 取付管の設置手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 130 |
3 | 各契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 131 |
4 | 【結果】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 132 |
第4 | xx市xx公園温水プール建設工事契約及びその関連契約・・・・ | 138 |
1 | 監査対象とした理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 138 |
2 | xx市xx公園温水プール建設工事契約及びその関連契約とは・・ | 138 |
3 | xx公園温水プールの位置付け ・・・・・・・・・・・・・・・ | 139 |
4 | xx市xx公園温水プール建設工事契約及びその関連契約とその変 | |
更契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 139 | |
5 | 監査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 143 |
第5 | 香xx秋季交通対策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 153 |
1 | 香xx秋季交通対策とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 153 |
2 | 事業経緯のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 154 |
3 | 各契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 154 |
第6 | 道路台帳整備業務委託契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 166 |
1 | 監査対象とした理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 166 |
2 | 道路台帳整備業務委託契約とは ・・・・・・・・・・・・・・・ | 166 |
3 | 道路台帳の整備の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 167 |
4 | 道路台帳整備業務委託契約及び変更委託契約(平成18年度,19 | |
年度) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 168 | |
5 | 監査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 169 |
第7 | 東部給食センターPFIアドバイザリー等業務委託契約 ・・・・ | 179 |
1 | 監査対象とした理由 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 179 |
2 | 東部給食センターPFIアドバイザリー等業務委託契約とは・・・ | 179 |
3 | PFIアドバイザリー契約の効果 ・・・・・・・・・・・・・・ | 180 |
4 | 東部給食センターPFIアドバイザリー等業務委託契約及び変更委 | |
託契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 181 | |
5 | 監査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 182 |
第8 | エコドライブ推進事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 191 |
1 | エコドライブとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 191 |
2 | 各契約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 192 |
3 | エコドライブ事業の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | 192 |
第1章 総論
第1 監査の概要
1 監査期間
平成20年7月28日から平成21年1月29日まで
2 監査人 | ||||
豊田市包括外部監査人 | x | x | x | x(弁護士) |
同補助者 | x | x | x | x(弁護士) |
同補助者 | x | x | x(弁護士) | |
同補助者 | x | x | x | x(弁護士) |
同補助者 | xxx | x | x(弁護士) | |
同補助者 | x x | x | x(公認会計士・税理士) | |
同補助者 | x x | x | x(税理士) | |
同補助者 | x x | x(税理士) |
3 外部監査の種類
地方自治法第252条の37第1項に規定する包括外部監査契約に基づく監査
4 選定した特定の事件
工事・委託を中心とした契約手続及び契約締結後の契約変更について
5 監査対象事件を選定した理由および監査事項
平成20年度の包括外部監査の対象として上記事件を選定した理由は以下のとおりである。
⑴ 選定の視点
包括外部監査制度は,行政に対する住民の信頼性を確保するための制度であり,外部の専門家の視点から,適正に行政がなされているかを監査し,効率的な行政の実現も期待されているものである。
そのため,住民の関心があるもの,当該自治体の重点施策としているもの,あるいは,現在及び将来の行政課題となっているもののなかから,監査の必要が高いと思われる対象事件を選定した。
なお,包括外部監査のテーマについては,平成20年4月に,募集要項を広報誌及びホームページに掲載するなどして,市民からの提案を広
く募ったものの,市民からの提案はなかった。
⑵ 本件事件を選定した理由ア 契約課の重点項目
契約事務等については,平成15年度の包括外部監査の対象となっており,同報告書では,個別の問題について指摘するとともに,入札
・契約制度の改善に向けての意見が付されていた。
そして,契約課においては,入札・契約手続の適正化に関することが,毎年重点目標となっており,平成20年度においても,「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」や「公共工事の品質確保の促進に関する法律」等に基づき,公共工事の入札及び契約のより一層の適正化や価格と品質が優れた公共調達が求められており,物品・業務委託においても同様に事務の適正化・効率化が求められているため,電子入札と一般競争入札の拡大等を図るとして,「入札・契約事務の適正化と公共調達の品質確保の促進」を重点取組項目としている。
イ 市議会での指摘,市民の関心
しかし,一旦契約が成立した後に,契約変更がなされた場合に,もし,契約変更手続が適正になされないのであれば,当初契約を締結する段階で,たとえ,入札・契約事務の適正化が進められたとしても,結果としては,変更契約によって不適正な契約が締結されることになり,不適正・不相当な金額が支払われている可能性も否定できない。そして,平成19年6月の市議会において,契約手続に関する質問 の1つとして,契約変更があまりに多く,安易になされているのではないかとの指摘もなされており,新聞にも,この契約変更の問題が取
り上げられた。
そのため,契約変更の問題は,市民の関心事にもなっているといえる。
ウ 以上のような理由で,契約手続のなかでも,特に,契約変更手続が適正になされているかを監査する必要があると考え,予備調査を行ったところ,予想以上に多くの契約変更がなされている実態が明らかとなった。
そこで,契約のなかでも,工事,工事委託,その他委託契約について,契約変更による,増減率や増減金額の大きいものをいくつか取り上げて,監査するなかで,契約変更手続全体についての方向性を示す必要性が高いと考え,監査対象とすることにした。
6 監査の方法
契約に関することを所管している総務部契約課にヒアリングをし,資料提供を求めるとともに,具体的事例として監査する契約にいては,その契約を所管する担当課にもヒアリングをし,資料提供を求めるなどして,監査を行った。
⑴ 具体的な調査方法
監査対象としては,前記のとおり「工事契約」「工事委託契約」「その他委託契約」に限定し,平成14年度から平成19年度までの契約手続の状況と契約変更状況を調査することにしたが,そのなかでも,平成
15年度の包括外部監査と同様に,「工事契約」「工事委託契約」については,1000万円以上の契約を,「その他委託契約」については,
100万円以上の契約のみを対象とした。
そして,各年度の契約手続状況を調査したところ,その内容は,次頁の一覧表のとおりであり,そのうち,いずれの契約についても,その増減幅が100万円以上のもの,又は,当初契約金額の1割以上の増減があるものの内容の把握に努めた。
なお,上記調査について,各年度の契約数,上記基準によって契約変更がなされている契約数の関係を示すと次のとおりとなる。
(単位:件)
工事契約 | 工事委託契約 | その他委託 | |
変更/契約数(%) | 変更/契約数(%) | 変更/契約数(%) | |
平成14年度 | 185/299(61.8%) | 9/67(17.9%) | 12/287(4.1%) |
平成15年度 | 208/351(59.2%) | 10/71(13.4%) | 14/293(4.7%) |
平成16年度 | 208/383(54.3%) | 25/67(14.0%) | 13/296(4.1%) |
平成17年度 | 209/324(64.5%) | 32/71(37.3%) | 16/390(4.1%) |
平成18年度 | 216/352(61.3%) | 36/56(64.2%) | 28/455(6.1%) |
平成19年度 | 226/365(61.9%) | 30/63(47.6%) | 30/565(5.3%) |
※ 工事契約,工事委託契約については,
1000万円以上の契約件数のうち,増減額が100万円以上又は増減率1割以上の契約件数を表し,その割合を示す。
委託契約については
100万円以上の契約件数のうち,増減額が100万円以上又は増減率が1割以上の契約件数を表し,その割合を示す。
⑵ 監査対象
そこで,平成19年度の工事契約については,
① 増加率が100.2%と一番高い「鞍ケ池スマートインター整備工事」(なお,増額率が2番目に高いのも,鞍ケ池スマートインターに関連する「鞍ケ池ハイウェイオアシス周辺整備工事(社会実験)」契約の68.1%である)
② 前記①の鞍ケ池スマートインターに関係する工事を別にすれば,増加額が一番大きい「香xx待月橋架替工事その1」
③ 減少率が53.3%と一番高い「取付管設置工事その2」
④ 当初契約金額が一番大きいため,契約変更率は大きくないが,変更額が多額となっている「(仮称)xx市xx公園温水プール建設電気設備工事」(当初契約金額11億6550万円)
を具体的な監査対象事例とした。
同じく平成19年度のその他委託契約については,
⑤ 増加率が129.8%と一番高い「香xx秋季交通対策調査委託1」
⑥ 増加額が一番大きく(4731万9300円),変更率も71.5
%とかなり高い「市道xxxx広域線ほか xx市道路台帳整備業務委託」
⑦ 減少率が49.3%と2番目に高く,減少額が一番大きい「東部給食センターPFIアドバイザリー等業務委託」(減少額は2405万
0202円。なお,一番減少率が高いのは,減少率71.2%である
「準用河川xxx・五六川流域 街づくり活動支援委託」契約であるが,契約金額は164万0100円で,変更額も116万7600円にとどまるものであった)
を具体的な監査対象事例とした。
そして,上記各契約に関連する契約も合わせて監査することにしており,工事委託契約については,すべての契約の増減幅が40数%の範囲にとどまっており,また,鞍ケ池スマートインターに関する道路詳細設計委託契約が27.8%の増額が認められるため,上記工事契約に関連するものを取り上げるにとどめた。
なお,上記契約のほか,xx市が推進しているエコドライブに関して,
97.1%と極めて高い増加率が認められた「エコドライブ普及促進業務委託契約」(⑧)も合わせて監査した。
7 利害関係
包括外部監査人及び補助者は,いずれも監査の対象事件について,地方自治法252条の29の規定による利害関係はない。
第2 報告書の構成
1 本報告書の構成について
本監査では,前記8件の契約とそれに関連する契約を監査することに重点をおいている。
ただ,個々の契約に対する監査では,いずれも過去の契約手続及び契約変更手続の問題点と,それを前提とする財務の執行の問題点について,監査結果,監査意見を付することになる。
そのため,本報告書では,これら具体的事例の監査結果を受けて,現在行われている契約手続・契約変更手続の問題点をまとめ,今後,不適正,不相当な契約変更手続がなされないような指針を示し,契約手続を適正に行い,適正な財務の執行に役立てようとするものである。
具体的な本報告書の構成としては,第2章で,契約手続・契約変更手続の説明をするとともに,第3章で,契約変更手続の問題点(監査のまとめ)をまとめることにし,具体的事例の監査は,第4章において,xx,監査結果をまとめていくことにした。
2 監査結果・監査意見について
本報告書においては,監査をしていくなかで,【結果】【意見】を分けて記載したが,違法不当な疑いがあり,是正措置が必要と考えるものについては,【結果】に,直ちに,是正措置が必要とまでは考えないが,是正措置の検討が望まれるものについては【意見】に記載した。
第2章 契約と契約変更
第1 契約総論
ここでは,本監査を理解するための基礎知識として,「契約」とは何かについて一般論を述べた上で,地方公共団体がその一方当事者となる場合にどのような変容が起るかについて概説する。
1 公法と私法
⑴ はじめに
法体系は,公法と私法に大きく分けることができる。
ここに公法とは,国(ないし地方公共団体)と個人との関係を規律する法律をいい,私法とは,個人と個人との関係を規律する法律をいう。
【公法と私法の分類】
法律
公法:国(ないし地方公共団体)と個人の関係を規律する法律
ex. 憲法,刑法,行政法
私法:私人間の関係を規律する法律
ex. 民法,商法
⑵ 国(ないし地方公共団体)と私法の適用
上記の原則に従えば,国(ないし地方公共団体)と個人の関係は公法により規律されることとなり,私法が適用される余地がないようにも思える。
しかし,例えば,市役所のある部署が文具商からボールペン5ダースを単純に購入する場合,当該市役所の部署の行為は,一般私企業が文具商からボールペン5ダースを買う場合と何ら異なることはなく,契約の一方当事者が市役所だということを理由として特別扱いをする理由は特に見いだせない。
そこで,一定の場合,国(ないし地方公共団体)が一方当事者となる場合であっても,公法ではなく私法が適用される場合が存在することとなる。この場合,国(ないし地方公共団体)は,原則として一般私人と同様の立場として扱われることとなるが,その公共的な性格の特殊性から一定の修正が加えられることもある。
本監査では,契約の場面において,地方公共団体が一方当事者となった場合を対象とするものであるから,本監査はこの一類型についての監査といえる。
2 契約とは何か
ここでは,地方公共団体が契約の一方当事者となった場合について論じる前提として,そもそも契約とはどのようなものか,その原則を確認する。
⑴ 契約の定義
契約とは,両当事者の互いに対立する2個以上の意思表示の合致によって成立する法律行為をいう。一般的には,申込みと承諾が合致することによって成立する。
例えば,Xが,自己の所有する甲土地をYに1000万円で売るという契約を締結する場合,Xの「甲土地を1000万円で買いませんか」という申込みと,Yの「甲土地を1000万円で買いましょう」という承諾が,「甲土地を1000万円で売買する」という意味で合致することにより,契約が成立するのである。
⑵ 契約の効果
ア 契約による正当化
契約が締結されることにより,各当事者には契約に基づく権利が基礎づけられる。先の例でいえば,Yは1000万円の支払と引き替えに甲土地の所有権を取得することになる。
イ 契約の拘束力(法的拘束力)
契約が締結されることにより,各当事者は,それに拘束され,その実現を強制されることとなる。先の例によれば,XはYに対し甲土地を引き渡すと共にその移転登記手続に協力しなければならず,反面YはXに対し1000万円の支払をしなければならないこととなる。これを契約の拘束力ないし法的拘束力という。
そして,法的拘束力は,最終的には国家権力による実現がなされることになり,例えば先の例でYから1000万円の支払が任意になされない場合,Xは最終的には裁判を経て1000万円の支払を命じる判決等(債務名義)を得て,Yの財産に対し強制執行を掛けることとなる。
【契約の効果】
契約の効果
契約による正当化⇒権利の取得
契約の拘束力⇒義務の負担
3 契約の分類と本外部監査の対象
ここでは,契約概念の分類を確認するとともに,本監査の対象となる「契約」の範囲を確定する。
⑴ 私法上の契約と公法上の契約
我々が,一般社会で契約という語を用いる場合,それは私法上の契約である場合が通常であるが,厳密な意味においては,契約は先に述べたように「両当事者の互いに対立する2個以上の意思表示の合致によって成立する法律行為」と定義されるものであるから,私法上の効果の発生のみならず公法上の効果の発生を目的とするものも契約概念に包摂されることとなる。かかる見地からすると,先に述べた定義によって確定される契約概念は,いわば「xxの契約」と呼ぶべき概念であって,これは下記の公法上の契約と私法上の契約を包摂する概念ということができる。
ア 公法上の契約
公法上の契約とは,公法上の効果の発生を目的とする複数の対等の当事者間の反対方向の意思の合致によって成立する公法行為である。公法上の契約は,法律上,特に明示的にこれを認めた場合に限って 成立しうるものと解されており,その成立範囲が狭い点に一つの特徴がある。また,公法上の契約はその公共的性格がゆえに,法律によって規制される範囲が広く,従って,契約によって自由に定めうる範囲
(いわゆる「私的自治の原則」の妥当する範囲)が比較的狭い点もまた大きな特徴の一つと解されている。
イ 私法上の契約(狭義の契約)
私法上の契約は公法上の契約と対置される概念であり,これは,私法上の効果の発生を目的とするすべての合意の総称として用いられ,xxの契約概念から公法上の契約を控除した概念という意味において,狭義の契約と呼ばれることもある。
【契約の分類】
契約
公法上の契約
私法上の契約
(狭義の契約)
:公法上の効果の発生を目的とする複数の対等
の当事者間の反対方向の意思の合致によって成立する公法行為
:私法上の効果の発生を目的とする複数の対等の当事者間の反対方向の意思の合致によって
成立する法律行為
⑵ 本外部監査の対象となる契約ア 私法上の契約
地方公共団体が契約主体となる場合においては,成立しうる「契約」概念としては,上述のように私法上の契約(狭義の契約)のみならず,公法上の契約にも及ぶこととなる。そして,本外部監査において対象とする契約は地方自治法第9章第6節にいう「契約」である。
さらに,地方自治法第234条第1項は「売買,賃借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」と規定するところ,かかる規定からすれば,地方自治法第9章第6節にいう「契約」は,公法上の契約を含まない私法上の契約(狭義の契約)を指していると解されている。したがって,本外部監査の対象はいわゆる公法上の契約を含まない
私法上の契約(狭義の契約)である。イ 本外部監査の対象とする契約類型
豊田市においても,xx市が契約の主体となる私法上の契約(狭義の契約)は多岐に及ぶものであるが,本外部監査においては,その契約金額が比較的高額に至りやすい①工事契約,②工事関係委託契約,
③その他委託契約の3類型に絞って監査の対象とするものである。 (ア) 工事請負契約
工事請負契約は,市が行うべき工事について,民間業者に発注してその工事を行ってもらう契約である。
工事請負契約は,契約類型としては請負契約として締結される。ここに請負契約とは,仕事の完成を目的とする有償契約であり, その内容は建物建築やデザイン・印刷物の制作等のように成果品の提供を目的とするものから,清掃・警備等のように役務の提供を目的とするものまで幅広く含まれ,工事もその中に包摂されるのであ
る。
(イ) 委託業務契約(工事関係委託契約とその他委託契約)
工事関係委託契約及びその他委託契約はいずれも委託契約に分類される。ここに委託業務契約とは,本来市が行うべき法律行為または事実行為を,契約という法形式により他人に依頼することである。
なお,委託契約事務の手引き(工事関係委託・その他委託双方)によればxx市における委託業務契約は,契約類型としては請負契約として締結されるものとされている。
もっとも,一般的には,委託契約の扱いについては必ずしも請負契約と解されるとは限らず,①請負契約として扱う場合,②準委任契約として扱う場合,③非典型契約としての委託契約として扱う場合の3態様が考えられよう。なお,①の請負契約と扱う場合については仕事の完成自体が契約の目的となるため,成果物等に不備がある場合,いわゆる瑕疵担保責任の問題が容易に生じる点が留意されなければならない。
工事請負契約
請 負 契 約
工事関係委託契約
準 委 x x 約
その他委託契約
委 託 契 約
(非典型契約)
(ウ) 工事関係委託業務とその他委託業務
豊田市においては,事務処理の便宜上,委託業務契約を工事関係委託とその他委託に分けてその事務処理を行っている。
ここに工事関係委託とは,文字通り工事に関係した委託であり,例えば道路工事に係る測量設計業務や建築工事の建築設計業務及びこれらに関係する調査業務などが含まれる。
これに対し,その他委託とは,委託業務全体から工事関係委託を控除した部分をいい,その範囲は非常に多岐にわたっている。
両者の典型例を列挙すると次の図のとおりとなる。
区分 | 工事関係委託 | その他委託 |
業務内容 | 測量業務物件調査地質調査 道路等設計業務建築設計業務 工事施工監理 道路台帳等の作成 その他工事に関連する調査 etc. | 運送(バス等運転業務,物品輸送等) 清掃(一般清掃,廃棄物処理,害虫駆除等)建物及び付属施設の管理 会場設営(イベント会場,パーティー会場)備品等保守監理 警備(機械警備,巡回警備,交通整理等)研修委託(講師派遣,研修企画等) 事務委託(各種大会,オペレーター等)制作委託(映画,システム開発等)相談業務 etc. |
4 契約自由の原則とその適否
⑴ 契約自由の原則
契約自由の原則とは,個人(ないし個人と同等の立場に立つ地方公共団体)は,契約によって自由に法律関係を形成できるという原則をいう。
私法においては,個人は,自らの意思によって自由に法律関係を形成できる自由を有しており(いわゆる私的自治の原則),他者に対しその自由を主張しうる権利として憲法上自己決定権が認められている(憲法第13条)。しかるに,かかる私的自治や自己決定権を強調すると,誰も他人の私的領域に立ち入ることができなくなるが,社会においては,他人を無視し自分だけの生活空間を形成することは不可能であるため,他人の同意を得ることによりお互いの生活空間の形成を可能にする制度が必要となり,かかる制度として契約制度が存在している。そして,契約自由とは,この契約制度を使う自由,すなわち,制度的自由をいうのである。
⑵ 契約自由の積極的側面と消極的側面
契約自由には,積極的側面と消極的側面の二つの側面がある。ア 契約の自由の積極的側面
契約の自由の積極的側面とは,国家によって契約を強制的に実現してもらう権利が存在することをいう。
具体的には,国家に対して契約の法的有効性の承認を求める権利であるところの契約の承認請求権と,裁判所を通じて契約の強制的実現を求める権利であるところの契約の実現請求権がその内容となる。
イ 契約の自由の消極的側面
契約の自由の消極的側面とは,契約をするかしないかについても禁止も命令もないという意味での自由をいう。これは,契約をするかしないかを決める自由それ自体が,契約によって自分の生活空間を主体的に形成する自由,つまり憲法上の自由である私的自治を具現化したものに他ならないことに由来する自由である。
そして,その具体的内容としては,契約締結の自由(契約を締結してもしなくてもよいという自由),相手方選択の自由(誰と契約をしてもよいという自由),内容形成の自由(どのような内容の契約をしてもよいという自由),方式の自由(どのような方式で契約をしてもよいという自由)がその内容と解されている。
⑶ 地方公共団体の私法契約における修正ア 原則
既述のとおり,地方自治法第9章第6節にいう「契約」は,地方公共団体が一方当事者となるものの,対立当事者である一般私人と対等の立場において締結される売買,賃貸,請負その他私法上の契約である。
したがって,その契約関係を規律する実体法は,公法ではなく,一般私人間の契約と同様に民法その他私法であって,その効力その他契約の実体については,地方公共団体もまた,私人同様にすべての私法の適用を受け,いわゆる契約自由の原則も適用されることとなる。
なお,政府契約の支払遅延防止等に関する法律(以下,「支払遅延防止法」という。)は国(地方公共団体)を当事者の一方とする契約で,国(地方公共団体)以外の者のなす工事の完成若しくは作業その他の役務の給付又は物件の納入に対し国(地方公共団体)が対価の支払をなすべきものについて規定した法律であるが,同法第14条が準用する同法3条は,「政府」(地方公共団体)「契約の当事者は,各々の対等な地位における合意に基づいてxxな契約を締結し,xxに従って誠実にこれを履践しなければならない」と定めている。また,建設業法第18条は地方公共団体が契約の一方当事者になる場合にも適用されると解されているところ,同条は「建築工事の請負契約の当事者は,各々の対等な立場における合意に基づいてxxな契約を締結し,xxに従って誠実にこれを履行しなければならない」とし支払遅延防止法と同趣旨の規定を設けている。これらの規定は,契約における地方公共団体と私人の関係が対等関係であることを具体的に示したものにほかならない。
x xx
ところで,上述した契約自由の原則の具体的内容は,両当事者が私人である純然たる私法の世界においては,貫徹されるべきものである。しかしながら,地方公共団体が私法契約の一方当事者となる場合においては,地方公共団体が公的性格を有することから,一定の修正を受けることとなる。
(ア) 契約自由の積極的側面
契約自由の積極的側面については,一方当事者が地方公共団体であることによって特に大きな変化はない。
(イ) 契約自由の消極的側面
契約自由の消極的側面は,一方当事者が地方公共団体であることによって大きく変容を受けることとなる。以下,具体的に述べる。 a 契約締結の自由
契約締結の自由については,一方当事者が地方公共団体であることによっても特に大きな変容はない。もっとも,地方公共団体の意思決定機関は,その公的使命に基づく限りにおいて契約締結についての自由な意思決定ができるに過ぎず,私人の場合の契約締結の自由と比してその自由の範囲は相対的に狭いものといわざるをえない。
b 相手方選択の自由
相手方の選択の自由については,契約の一方当事者が地方公共団体であることによって非常に大きな変容が存在している。
すなわち,地方公共団体が契約を締結する場合,原則として競争入札の方法によって契約の相手方を決定する必要があり,地方公共団体の意向に基づいて相手方を選択できる随意契約については,そのなし得る範囲について厳しい制限が加えられているのである。また,一般競争入札・指名競争入札についても,落札者と契約を締結することになるのであるから,結局,地方公共団体が一方当事者となる契約においては相手方選択の自由は極めて制限されているということができる。
c 内容形成の自由
契約内容の自由についても,契約の一方当事者が地方公共団体であることによって非常に大きな変容が存在している。
すなわち,上述のように,地方公共団体が契約を締結する場合,原則として競争入札の方法が採用されるため,契約内容は地方公共団体とその契約の相手方が自由に決定するものではなく,入札
に付された条件のうち最も地方公共団体にとって有利な内容(価格)での契約締結がなされることとなる。また,随意契約の方法によって契約を締結する場合においても,地方公共団体の意思決定機関は,その公的使命に基づく限りにおいて,相手方を定め契約内容を決定する必要があるから,この場合でも純然たる契約内容の自由は存在しないといってよい。
d 方式の自由
方式の自由についても,契約の一方当事者が地方公共団体であることによって,地方自治法その他法令で定める方式に依る必要がでてくるため,大きく変容を受けている。
【契約自由の原則の修正】
契約締結の自由 | ⇒ | 概ね妥当 |
相手方選択の自由 | ⇒ | 原則,競争入札 |
内容形成の自由 | ⇒ | 原則,入札で最も地方公共団体に有利な内容 |
方 式 の 自 由 | ⇒ | 法令の定める方式による |
第2 契約制度概要
1 契約締結方法の種類について
⑴ 地方自治法の定め
地方自治法は第2編第9章第6節に「契約」の節を置き,契約締結に関する第234条,契約の履行の確保に関する第234条の2,長期継続契約に関する第234条の3の計3箇条を置いている。
⑵ 対象となる「契約」と入札方法
地方自治法第234条第1項によれば,同法が第6節「契約」において対象とする契約は「売買,貸借,請負その他の契約」であり,これらは原則として地方公共団体が私人と同じ地位において締結する契約を指していると解されている。また,これらの契約の締結方法としては,①
「一般競争入札」,②「指名競争入札」,③「随意契約」,④「せり売り」の4種類が定められている(地方自治法第234条第1項)。そして,これら4種類の契約締結方法の関係について,法は,一般競争入札によることを原則(一般競争優先主義)とし,その余の3つの契約締結方式については地方自治法施行令で定める事由に該当する場合に限って利用可能とされている(地方自治法第234条第2項)。
以下,伝統的な整理に従って,①「一般競争入札」,②「指名競争入札」,③「随意契約」,④「せり売り」について概観する。
【契約の締結方法による区分】
競争型
入札
一般競争入札
せり売り
指名競争入札
随意契約
見積り合せ
特命随意契約
2 一般競争入札
⑴ 定義
一般競争入札とは,不特定多数の者の間で競争させ,契約主体にとって最も有利な条件を提供する者との間において契約を締結する方式をい
う。
上記定義から明らかなように,一般競争入札は,競争入札に付する入札案件の概要等を事前に公告によって示し,入札を希望するすべての者に競争させることによって落札者を決定する入札方式であり,その長所
・短所は下記のとおりとなる。
⑵ 一般競争入札の長所と短所ア 長所
一般競争入札は,契約締結における「xx性」「経済性」「均等な参加の機会の平等性」の点において優れた制度と解されており,結局,これが一般競争入札の長所といえる。
すなわち,一般競争入札は,①契約手続を公開して行われるため不正を防ぐ上で優れており,この点において「公共性」に優れ,②契約主体たる地方公共団体にとって最も有利な条件を提供する者と契約を締結するため,この点において「経済性」に優れ,更に,③広く誰でも入札に参加できるという意味で「均等な参加の機会の平等性」において優れているといえるのである。
イ 短所
一般競争入札の短所としては,①(特に随意契約などと比して)入札手続に時間がかかり経費の上昇を招く危険があること,②本来的に公開の下で行われるため不信用・不誠実な者が入札に参加してxxな競争が害されるおそれがあること,また③ダンピング受注が起きやすいこと④誰もが参加できる故に落札者の信用等の有無,契約履行可能性の有無の把握が困難であるため,契約不履行等によって地方公共団体が不測の損害を被るおそれがあること,等が挙げられる。
【一般競争入札の長所・短所】
長 所 | 短 所 |
・公共性に優れる ・経済性に優れる ・機会の平等性に優れる | ・手続に時間がかかり経費の増加を招くおそれがある ・不信用・不誠実な者が入札に参加する可能性がある ・ダンピング受注が起きやすい ・債務不履行等の発生する危険性が高い |
⑶ 一般競争競争入札の流れ
工事等契約を例にとると,一般競争入札から工事完成までの流れは下記の図のとおりとなる。
者
業
技術管理課
x x 課
x 約 課
工事担当課
予算担当課
【xx市における一般競争入札から工事完成までの流れ】*出納室と特記なき場合は請負業者
x x 室*
工事施工依頼
設計書作成
予算執行伺作成
(監督員任命)
予算担当課長合議
財政課の合議
契約課受理
金抜設計書
入札公告 業者受理
現場説明等
業者積算
予定価格作成
入札執行 入札参加
《業者決定》
建設リサイクル法律関連書類
入札結果調書 落札業者
支出負担行為決議
入札結果調書(写)受理
確認
契約書案作成
契約締結決定書作成
契約保証届出書
契約締結 請負業者
契約締結
契約書他 契約保証金納付書
受理 一件書類 等
一件書類保管
工事着工
届出書受理
契約課確認
請負業者届出書
・着手届
・現場代理人等届
・工事内訳書等
・工程表
受理 工事材料使用承認
願
承認 承認通知
受理 工事施行設計書
承認 承認通知
契約課確認
受理 下請承認願
承認 承認通知
契約課確認
前払金請求受理
前払金請求
・前払金請求書
・前払金保証書
支払命令書作成
・前払契約約款
【出納室】
内容確認
業者支払
(工事施行)
工事完成
完成届受理 完成届
検査依頼書 検査依頼受理
(工事成績xx表)
完成検査
検査結果通知受理
契約課確認
検査結果通知
(検査調書)
検査結果通知受理
契約保証金返却
請求書受理 請求書提出
支払命令書作成 支払命令書作成
【出納室】
内容確認
業者支払
一連書類整理
書類保管
3 指名競争入札
⑴ 定義
指名競争入札とは,多数の者の間で競争させ,契約主体にとって最も有利な条件を提供する者との間において契約を締結する方式のうち,契約主体が予め指名した競争参加者のみにより競争を行う方法をいう。
上記定義から明らかなように,指名競争入札は,発注者が予め競争参加希望者の資格審査を実施しておき,具体的に発注案件が生じた段階で,その有資格業者の中から当該案件に適すると認められる業者を指名し,その指名した業者間で競争させる入札方式である。
なお,xx市ではかつては,指名競争入札の方法を広く採用していたが,現在では,工事契約については原則として一般競争入札の方法を採ることとされている。
⑵ 指名競争入札の長所と短所
指名競争入札は,前述した一般競争入札と後述する随意契約の長所を取り入れた契約方式といわれているが,同時に,短所についても一般競争入札・随意契約双方と重なる部分がある。
ア 指名競争入札の長所
指名競争入札の長所としては,①参加業者が特定しているため(特に一般競争入札と比して),不信用,不誠実な者を排除しやすいこと,
②一般競争入札に比して手続が比較的簡単であること,などがあげられる。
イ 指名競争入札の短所
指名競争入札の短所としては,①契約主体が参加業者の範囲を決定するため,当該参加者決定にあたって参加者が一部の者に固定化し偏重するおそれがあること,②一般競争入札に比して談合が容易であること,などがあげられる。
【指名競争入札の長所・短所】
長 所 | 短 所 |
・不信用・不誠実な者を排除し易い ・手続が比較的簡単 ・機会の平等性に優れる | ・入札参加者が固定化・偏重するおそれがある ・一般競争入札に比して談合がし易い |
⑶ 指名競争入札の流れ
指名競争入札の流れも概ね上述の一般競争入札に準じるが,違いを図示すると下記のとおりになる。
【xx市における一般競争入札と指名競争入札の手続きの相違】
同左
同左
同左
同左
同左
同左
同左
同左
同左
同左
以下,共通
入札執行→業者決定
⑩
・現場説明等→予定価格作成
・業者受理→業者積算
⑨
入札公告
⑧
指名審査会【契約課】
b
指名審査会による参加資格の審査
金抜設計書
⑦
指名業者案作成【契約課】
a
契約課受理
⑥
財政課合議
⑤
予算担当課長合議
④
予算執行伺作成
(監督員任命)
③
設計書作成
②
工事施工依頼
①
指名競争入札
一般競争入札
なお,xx市においては,一般競争入札,指名競争入札いずれについても,手続的な煩雑さとしては大差がない。
4 随意契約
⑴ 定義
随意契約とは,競争の方法によらないで,特定の相手方を任意に選択して契約を締結する方法をいう。
⑵ 随意契約の長所と短所
伝統的な随意契約概念(いわゆる特命随意契約,なお内容は後述)を前提とすると,随意契約には下記のような長所と短所があると解されている。
ア 随意契約の長所
随意契約の長所としては,①各競争入札の方法に比して手続が簡略であって経費も低廉で済むこと,②競争入札(特に一般競争入札)ではその全てを満たすことが出来ないような資力,信用,技術,経験等を備えた相手方をその能力を熟知した上で選定できること,などがあげられる。
イ 随意契約の短所
随意契約の短所としては,一旦運用を誤ると相手方が固定化し,契約自体が恣意・情実に左右され,xxな取引が行えなくなるおそれがあることなどがあげられる。
【随意契約の長所・短所】
長 所 | 短 所 |
・手続が簡略で経費が低廉に抑えられる ・能力を熟知して相手方を選定でき る | ・恣意・情実が混入し易い |
⑶ 随意契約の流れ
随意契約の流れを一般競争入札と対比して図示すると以下の通りとなる。
【随意契約の流れ】
一般競争入札 随意契約
① 工事施工依頼 同左
② 設計書作成 同左
③ 予算執行伺作成 同左
(監督員任命)
④ 予算担当課長合議 同左
⑤ 財政課合議 同左
⑥ 契約課受理 同左
⑦ 金抜設計書 同左
⑧ 入札公告
⑨ ・現場説明等→予定価格作成
・業者受理→業者積算
⑩ 入札執行→業者決定 a 業者選定内申決定書作成【契約課】
b 業者選定理由書【契約課】
c 指名審査会による随意契約理由の審査
d 見積書入手
以下,共通
上記図から業者選定についてのaないしdの手続が付加されることが
わかる。もっとも,実際の時間的には入札の場合より1~2週間程度は早く契約を締結することができるのが一般的である。
⑷ 地方自治法施行令第167条の2第1項とxx市における運用ア 地方自治法施行令第167条の2第1項の定め
随意契約については,締結できる場合が地方自治法施行令第167条の2第1項各号の場合に限られている。
そして,同項によれば,随意契約できる場合は,①予定価格が施行令に定める額の範囲内で,地方公共団体の規則で定める額を超えないとき,②その性質または目的が競争入札に適しないものをするとき,
③福祉関係施設等で制作された物品の買い入れやシルバー人材センター等から役務の提供を地方公共団体の規則で定める手続により契約をするとき,④認証を受けたベンチャー企業が生産する新商品を地方公共団体の規則で定める手続により買い入れる契約をするとき,⑤緊急の必要により競争入札に付することができないとき,⑥競争入札に付することが不利と認められるとき,⑦時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき,⑧競争入札に付し入札がないとき,又は再度の入札に付し落札者がないとき,⑨落札者が契約を締結しないとき,の9つに限られている。
イ xx市における運用
豊田市においては,地方自治法施行令の定めを受けて,xx市契約規則を定めている。同規則第27条本文によれば,「契約担当者は,随意契約によろうとするときは,なるべく2人以上の者から見積り書又はこれに類する書面を徴さなければならない。」とされており,随意契約においても入札に準じて競争的手法を取り入れた扱いとされている。また,同規則第28条本文によれば「契約担当者は,随意契約によろうとするときは,あらかじめ第15条の規定に準じて予定価格を定めなければならない。」と規定して随意契約の場合といえども予定価格を事前に定めなければならない旨定めており,この点からも可及的に随意契約においても妥当な価格出契約が締結できるような方策が採用されている。
また,特に委託業務については「業務委託における随意契約のガイドライン(適正な運用について)」(平成20年11月)を定め,随意契約が締結できる場合について適正な運用が行われるような制度的仕組みを置いている。
しかしながら,xx市における従前の扱いは,上記の各定めに反し
て2人以上の者から見積書又はこれに類する書面を徴しないことが事実上原則的な取扱いとされてしまっていた。したがって,この点については事実上の扱いが制度上の原則と乖離しないよう努め,適正な運用を心がけることが望まれる。
5 せり売り
⑴ 定義
せり売りとは,入札の方法によらないで,不特定多数の者を口頭または挙手によって競争させる契約締結方法をいう。
⑵ 本報告書における扱い
せり売りの方法は,動産の売り払いで,例えば遺失物等の売り払いのようなその契約が売り払いに適しているものをする場合に限られているため,本報告書では,以下,基本的に割愛することとする。
6 契約締結類型ごとの特徴
契約締結類型ごとの特徴をまとめると下記のとおりとなる。
【契約締結類型ごとの特徴】
xx性 | 経済性 | 機会均等性 | 手続の簡明さ | 業者信頼度 | |
一般競争入札 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ |
指名競争入札 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
随 意 契 約 | △ | △ | △ | ◎ | ◎ |
第3 契約制度の新たな風
1 プロポーザル方式とコンペ方式
⑴ プロポーザル方式とコンペ方式の活用
既に述べたように,地方公共団体における契約の締結方法は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法によるものとされており(地方自治法第234条第1項),入札による価格競争によるべきことが原則とされているです。
しかし,価格競争のみによる決定は,業務の内容によっては質の低下を招く危険も否めない。しかし,地方公共団体の締結する契約について,安ければ質は問わないということはできず,結局質の確保も大きな課題といえる。
そのような要請のもと,透明性・xx性・競争性を確保しつつ,多種多様な契約方法が求められ,従来,主として建築設計等の分野(「工事関係委託」)で活用されてきたプロポーザル方式・コンペ方式が,業務のアウトソーシングが進む中で,斬新なアイデア,xxかつ高度な知識,豊かな経験等を必要とする業務に対応する方法として注目されている。
⑵ プロポーザル方式とコンペ方式の法律上の位置付け
プロポーザル方式・コンペ方式も,随意契約の一形態である。プロポーザル又はコンペにより選定された設計者との契約は,地方自治法施行令第167条の2第1項第2号(不動産の買入れ又は借入れ,普通地方公共団体が必要とする物品の製造,修理,加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払い,その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき)に該当するとされており,したがって,プロポーザル方式・コンペ方式による契約締結は地方自治施行令第167条の2第1項第2号に基づく随意契約に法律上は分類されることになる。
⑶ プロポーザル方式・コンペ方式の長所・短所
プロポーザル方式・コンペ方式は,質の確保に対しては非常に有効であるという長所を有するが,反面,設計案等を比較検討するためには相当の時間を要するという短所がある。また,発注者側からすれば具体的な設計案等を検討したうえで契約の相手方を決められる点で非常に有利であるが,反面,プロポーザルやコンペに参加する業者からすると,参加のためには具体的な設計案等を作成しなければならず負担が大きいという問題がある。
⑷ プロポーザル方式とコンペ方式の違いア プロポーザル方式
最適な「設計者」を選ぶために,設計者自身の創造力,技術力,問題解決能力,経験等
を評価する方式をいい,この点から技術提案方式とも呼ばれる。
提出を求める「技術提案」は構想図程度にとどめておき,ヒヤリングなどを通して,設計者の当該業務への適性を総合的に判断することとなる。
したがって,コンペ方式と異なり,提案自体に厳格に拘束されるものではなく,場合によっては変更も認められ得る。
イ コンペ方式
最適な「設計案」を選ぶために,設計案の優劣を具体的に判断する必要方式であり,このことから設計競争方式とも呼ばれる。
設計案を選ぶための競争方式であるから,必然的に,完成予想図や立面図・平面図などの提出を求めることとなる。
また選定された設計案が,原則として,そのまま実現されることとなる点においてもプロポーザル方式と異なる。
⑸ xx市における運用
豊田市においては,委託業務プロポーザル・コンペの手引き(その他委託)が作成され,これに基づいてその他委託において必要に応じて活用されている。また,プロポーザル方式・コンペ方式の有効性はその他委託にとどまるものではないことから,工事関係委託においてもこの手引きを準用するなどしてプロポーザル方式・コンペ方式の活用が試みられている。
2 低入札価格調査制度
⑴ 定義
低入札価格調査制度とは,地方自治法施行令第167条の10第1項の規定に基づき,工事又は製造その他についての請負の契約の入札において,予め設定した低入札価格調査基準を下回る入札があった場合に,適正な工事の施工その他契約の履行が可能かどうか疑義が生じ,または不当なダンピングにより入札の適切性が害されるおそれがあると認められるため,市が入札者の積算根拠等について調査を行う制度をいう。
【地方自治法施行令第167条の10第1項】
普通地方公共団体の長は,一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において,予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもつて申込みをした者の当該申込みに係る価格によつてはその者により当該契約の内容
に適合した履行がされないおそれがあると認めるとき,又はその者と契約を締結する
ことがxxな取引の秩序を乱すこととなるおそれがあつて著しく不適当であると認めるときは,その者を落札者とせず,予定価格の制限の範囲内の価格をもつて申込みを
した他の者のうち,最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。
⑵ 制度趣旨
低入札価格調査制度の制度趣旨は,①履行確保と②ダンピング防止の
2つである。以下,細述する。ア 履行確保
既述のとおり,地方公共団体の契約については,税金として住民から集めた資金をより有効かつ適切に使用するため,原則として一般競争入札の方法によって契約を締結すべきこととされている。
しかし,一般競争入札においては,誰もが参加できる故に落札者の信用等の有無,契約履行可能性の有無の把握が困難であるため,契約不履行等によって地方公共団体が不測の損害を被るおそれがあるという短所があり,特に,地方公共団体において当初予想していた落札金額を大きく下回る場合において,そのリスクは最大化するといってよい。そこで,工事の施工その他契約の履行が可能か疑義を生じるほど低額での入札がなされた場合において,契約の履行可能性を調査し,履行可能性がない場合には当該入札を無効とし,地方公共団体が債務不履行によって不測の損害を被ることを未然に防止しようとするのが低入札価格調査制度の制度趣旨の一柱である。
イ ダンピング防止
ダンピング(不当廉売)は,いうまでもなく不正な取引方法であるところ,一般競争入札においてもダンピングが行われる可能性が存在している。
特に,ある入札者が独自規格等を用いている場合,当初契約で黒字が出なくてもその後のメンテナンスの委託や消耗品の販売が当該業者以外から受けられないような場合,ダンピングを行ってまで入札を取りに行くことが類型的に予測されるところ,このような取引を是としては一般競争入札のxx性確保はおぼつかない。
そこで,このような場合に備え,低入札価格調査制度においては,ダンピングと認められる場合においても当該入札を無効とすることができるとされている。
そして,xxxxxを防止することによって一般競争入札のxx性を確保しようとするのがもう一つの制度趣旨である。
⑶ 低入札価格調査の流れ
低入札価格調査の流れをフローで図示すると下記の通りとなる。
【低入札価格調査の流れ】
NO→
YES
当該入札の落札を留保
低入札価格者に対する調査
①履行可能な金額での入札か
NO
(履行不能)
YES(履行可能)
②不当なダンピング価格でないか
NO
(ダンピング)
YES(ダンピングではない)
当該落札を無効とし,
次に安い入札で落札で落札とする。
当該入札を有効な入札として扱う
低入札価格調査基準を下回る入札があるか
調査なし
⑷ xx市における低価格調査制度の導入範囲
豊田市低価格入札調査等実施要綱第3条第1項に基づいて,原則として設計金額が4000万円以上の工事請負契約について低入札価格調査制度が導入されている。
なお,同要綱3条3項に基づき,契約担当課長が必要と認めるときには,上記原則にとらわれず適用対象を変更することができるとされている。
3 最低制限価格制度
⑴ 定義
最低制限価格制度とは,地方自治法施行令第167条の10第2項の規定に基づき,工事又は製造その他についての請負の契約の入札において,契約内容に適合した履行を確保するため,予め最低制限価格を設けて,予定価格の範囲内で最低の価格をもって入札した者であっても,最低制限価格を下回る場合には,これを落札者とせず最低制限価格以上で最低の価格をもって入札した者を落札者とする制度である。
【地方自治法施行令第167条の10第2項】
普通地方公共団体の長は,一般競争入札により工事又は製造その他についての請負の契約を締結しようとする場合において,当該契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるときは,あらかじめ最低制限価格を設けて,予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもつて申込みをした者を落札者とせず,予定価格の制限の範囲内の価格で最低制限価格以上の価格をもつて申込みをした者のうち最低の価格
をもつて申込みをした者を落札者とすることができる。
⑵ 制度趣旨
最低制限価格の制度趣旨は,①履行確保と②ダンピング防止,及び③時間・費用の節減の3つである。以下,細述する。
ア 履行確保とダンピング防止
既述のとおり,地方公共団低入札価格調査制度の項で述べたとおり,一般競争入札においては①履行確保を担保する制度の必要性が高く,
②ダンピング防止の要請も強い。
そして最低制限価格制度は,低入札価格調査制度と同じく,これらの要請に応える制度として位置付けられている。
イ 時間・費用の節減
低廉な価格での入札がなされた場合であっても,①②の要請に応えることができるのであれば,それ自体は歓迎すべきことといえる。かかる観点からすると,低入札価格調査制度は,その要請に最もよく応えることができる制度と言えよう。しかし,低入札価格調査は,価格についての調査を行うため,それ自体に時間と費用を費やす必要があり,もともと低額な入札の場合,逆に低入札価格調査を行うこと自体が不経済であることも否めない。
そこで,低入札価格調査を行うことが不経済であるような低額な入札については,最低制限価格を定めこれを下回る入札については一律
失格とすることで対応することとし,調査に要する時間と費用の節減を図ることを趣旨とするのが,最低制限価格制度の3つめの制度趣旨である。
⑶ xx市における最低制限価格制度の導入範囲
xx指定入札価格調査等実施要綱第3条第2項に基づいて,原則として設計金額4000万円未満の工事請負契約に最低制限価格制度が導入されている。
なお,同要綱3条3項に基づき,契約担当課長が必要と認めるときには,上記原則にとらわれず適用対象を変更することができるとされている。
第4 契約変更について
1 契約変更総論
⑴ 定義,意義
契約変更とは,給付の内容,契約金額,契約当事者,危険負担,違約金額その他当初契約によって定められていた契約内容を変更することをいう。
⑵ 契約変更の位置付け―法的拘束力と不可変更性の関係ア 契約の不可変更性と契約変更
契約には既に述べたとおり法的拘束力がある。したがって,一旦契約が成立した以上,成立した契約は遵守されるべきとのドグマが導かれ,ここから一方当事者の意思のみによってこれを変更することができないという「契約の不可変更性」が導かれる。
したがって,一旦成立した契約については,これを変更できないの が原則であり,契約変更それ自体は例外的な処理ということができる。もっとも,一般私人間の契約においては,地方公共団体のような公
共的要請が働かないことから,変更契約自体がそもそも契約自由の原則の適用を受けることとなるため,両当事者の合意が得られるのであれば,結局,その限りで自由に契約変更をなし得ることとなる。
イ 地方公共団体との関係
契約の不可変更性については,当然に地方公共団体にも及ぶこととなる。したがって,ひとたび地方公共団体が契約当事者となって契約が締結されてしまった場合には,たとえそれが当該地方公共団体にとって不利な内容であったとしても当該内容が公序良俗等に反する等特段の事情がない限り原則としてその契約内容を遵守しなければならないこととなる。
加えて,地方公共団体の契約締結方法については,上記に述べたように,競争入札の方法が原則とされており,契約の各条件は当該入札
(随意契約の場合は見積り作成)の前提となっているため,新たな合意をもって契約を変更することは,結局その価格算定の前提となった条件を覆し,競争を原則とする契約締結方法を採用した法の趣旨を没却することになるから,一般私人間の場合と異なり,原則的に許されない。すなわち,地方公共団体が一方当事者となる契約においては,変更契約についての契約締結の自由が極めて制限される結果,契約の不可変更性が一層強調される結果となるのである。
そのため,地方公共団体において契約締結をする際には,原則とし
てその契約は変更できないとの認識のもと,慎重な手続きに基づく意思決定を経た上で契約の締結がなされなければならない。
⑶ 民法の定めと契約自由の原則
上述のように一旦契約が成立した以上,その効果として不可変更性が導かれるが,これに対し民法は,第513条において更改の条文を置いている。もっとも,本監査において問題とする契約変更は,民法第51
3条に規定する契約に要素の変更がある場合に限らず,契約の要素以外の変更,すなわち,規格,数量,請負代金等の変更を広く含むものであるから,単にこれを民法第513条の問題として解消することはできない。
ところで,翻ってみると,上述の契約変更のいずれについても,私法の大原則たる契約自由の原則から言えば,当事者の合意さえ存在するのであればこれを変更することが出来ることは自明であって,かかる理は契約の一方当事者が地方公共団体の場合においても妥当するものである。しかしながら,契約当事者が私人のみによって構成されている場合はともかく,地方公共団体が契約の当事者となる場合には,その公共的性格に鑑み各種の制約が存在しており,これらの規定の範囲内においてのみ契約の変更が許されるにとどまることとなるのである。また,法律
・条例等によって定められた諸般の規定は,地方公共団体の不利益とならないように公の利益を擁護することを目的として定められるものであるから,契約変更が当初の契約に比べて地方公共団体に有利な結果をもたらす場合はともかく,地方公共団体にとって不利な結果となるような契約変更は原則として許されない。
2 法律上の定め
⑴ 地方自治法の定め
既述のように,地方自治法は第2編第9章第6節に「契約」の節を置くが,その中においては契約変更について何ら定められていない。
⑵ 独占禁止法
ア 地方公共団体に対する独占禁止法の適用の有無
私的独占の禁止及びxx取引の確保に関する法律(いわゆる「独占禁止法」)は,地方公共団体が事業を行う場合,すなわち,私法上の契約を締結する場合においても適用があると解されている。
イ 優越的地位の濫用の危険性
取引上,優越的地位にある業者が,取引先に対し不当に不利益を与える行為を行うこと(いわゆる「優越的地位の濫用」と呼ばれる行為
である。)は,独占禁止法第19条(不xxな取引方法の禁止)及び一般指定第14号(優越的地位の濫用)に該当すると解されている。そして,地方公共団体と相手方事業者の関係を考えた場合,①経済 規模において地方公共団体が相手方事業者より優位に立つのが通常と考えられること,②公共事業においては地方公共団体は発注者の立場に立ち,相手方事業者は受注者の立場に立つこと,③公共事業の受注を受けられなければ企業存続がなしえない事業者が現実に相当数存在すること,などからすると,地方公共団体は多くの場合において,取
引上優越的地位にある事業者に該当するものと考えられる。
ところで,地方公共団体が契約変更を行う場合について考察すると,既述のように地方公共団体の性質からして,地方公共団体の不利益になる契約変更をすることは原則として許されないこととされている。そうすると,二項対立的な考え方に立って極論すれば,地方公共団体が当事者となっている契約において契約変更をなしうる場合は,原則として当該地方公共団体にとって有利な契約変更がなされる場合に限られることとなるが,それは裏を返すと契約の相手方にとって不利益な契約変更が原則としてなされることに他ならない。そして,その不利益の程度が「不当な」程度に至った場合,当該契約変更は当該地方公共団体による独占禁止法違反のそしりを免れ得ないこととなるのである。
もとより,すべての事象を二項対立で割り切ることは出来ず,当該契約変更が当該公共団体にとっても,相手方にとっても有利な場合があること自体は否めないが,安易な契約変更を行うことは地方公共団体による独占禁止法違反の違法行為を構成する場合があることを念頭に置いて,当該契約変更が相手方事業者にとって不当に不利益なものとならないかが常に検討された上で契約変更が行われなければならない。
3 xx市における契約変更の定め
⑴ 条例等の定め
豊田市においては,xx市契約規則が存在しており,下記記載のとおりその第42条において契約変更について規定されている。
【xx市契約規則第42条】
契約担当者は,技術,予算その他やむを得ない理由があるときは,契約者と協議して契約の内容を変更し,
又は契約の履行を一時中止させることができる。
2 契約担当者は,工事の請負契約で設計変更に基づき契約金額を変更するときは,変更設計工費に当初の契約金額と原設計工費との比率を乗じて算出(ただし,千円未満の金額は切り捨てるものとする。)しなければならない。この場合における計算は,前乗後除の方法によるものとする。
3 契約担当者は,第1項の規定により契約期間を変更する必要があるときは,契約者と協議して書面によりこれを定めるものとする。
4 契約担当者は,契約内容の変更協議が整ったときは,第31条又は第34条第2項の規定により遅滞なく変
更契約書(様式第8号),変更請書(様式第9号)等を作成しなければならない。
⑵ 要領等
ア 工事請負契約,工事関係委託
(ア) 工事請負契約及び工事関係委託については,「設計変更事務取扱要領」が定められている。
【設計変更事務取扱要領】
(目的)第1条
この要領は,法令その他別に定めるものを除くほか,工事の請負契約,工事に係る委託契約等設計内容の変更及びこれに伴う契約変更の取扱いについて必要な事項を定め,もって事務の合理化を図ることを目的とする。
(定義)第2条
この要領において「設計変更」とは,xx市契約規則(昭和39年規則第28号)第42条第1項の規定による契約内容の変更により元設計を変更することをいい,本要領第5条の規定により,契約変更の手続きの前に当該変更の内容をあらかじめめ契約者に協議することを含むものとする。
(設計変更できる範囲)第3条
設計変更できる範囲は,次に掲げる理由により,やむを得ず元設計を変更する必要が生じた場合とする。
⑴ 発注後に発生した外的条件に基づくものア 自然現象その他不可抗力による場合 イ 他事業及び施工上検討に関連する場合ウ 地元調整等の処理による場合
⑵ 発注時において確認困難な要因に基づくもの
ア 推定岩盤線の確認に基づく場合イ 地盤支持力の確認に基づく場合ウ 土質の確認に基づく場合
エ 地下埋設物位置の確認に基づく場合
オ その他確認困難な要因及び誤測等でやむを得ない場合
⑶ 予算処理に基づくもの
⑷ 許認可等の処理に伴うもの
(設計変更による契約変更の範囲)第4条
設計変更により契約変更できる範囲は,次の各号のいずれかに該当する場合とする。
⑴ 設計変更による増加額が当初契約金額の20%以内の場合ただし,別件発注するのが妥当な場合は除くものとする
⑵ 前号以外で,増加額が20%の範囲を超えるものについては,現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難な場合に限る。
⑶ 設計変更により減額する場合
(設計変更の手続)第5条
監督員は,設計変更をしようとするときは,事前に当該変更の内容を掌握し,予算の範囲内で処理できることを確認したうえで,設計変更協議書(様式第1号)により,次の表に掲げるところにより決定及び合議を受け,契約者に協議しなければならない。
決定・権限事項 | 決定者 | 合議 | ||||||
部長 | 調整監 | 専門監 | 課長 | 契約課 | 財政課 | 技術管理課 | ||
設計変更協議 書 | 増減額( 累計額) が当初契約金額の20 %を超える場合 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
元設計が9, 0 0 0 万円以上 | 元設計が3, 0 0 0 万円以 上9 , 000万 円未満 | 元設計が1, 0 0 0 万円以上3,000万 円未満 | 元設計が1, 0 0 0 万円未満 | ( 小規模工事は除く) | ( 小規模工事は除く) | (小規模工事は除く) | ||
増減額( 累計額)が当初契約金額の10 % 以上20%以内の場合 | ○ | ○ | ○ | |||||
元設計が3, 00 0 万円以上 | 元設計が1, 00 0 万円以上3,000万 円未満 | 元設計が1, 0 0 0 万円未満 | ||||||
増減額( 累計額)が | ○ |
当初契約金額の10 %未満の場合 | 全て | |||||||
・当該契約変更の増減額が1,500万円を超える場合は総務部調整監等の承認を受ける。 ・議会議決案件で増減額が1,500万円を超える場合については,市長の承認を受ける。 |
2 監督員は,突発事故等工事の進捗に支障を来す場合にあっては,前項の規定による設計変更の協議を行う前に,指示書(様式第2号)により契約者に工事の変更を指示することができる。
3 監督員は,変更設計書に設計変更調査表(様式第3号)を添付するものとする。
(契約変更の手続)第6条
設計変更に伴う契約変更の手続は,その必要が生じた場合に遅滞なく行うものとする。ただし,契約条件等を著しく変更することとならないものは,工期の末(債務負担行為に基づく工事にあっては各会計年度末)までに行うことができるものと
する。
本要領は,同第3条に定めるような各種事由の発生により,設計変更を余儀なくされる可能性が工事請負に内在しているため,そのような可能性が現実化した際に対処する必要性があることから,定められたものである。その具体的内容については,「7 契約内容による特殊性」において後述する。
(イ) 期末における一括処理
上述のように,工事請負契約,工事関係委託についてはいわゆる
20%枠が存在するが,xx市においては,国の通達(昭和44・
3・31建設省xxx発31の2)に基づいて,軽微な設計変更については期末にまとめて契約変更をするという手法を採用している
(以下,かかる手法を「期末一括処理」という。)。
これは,軽微な変更がある度に全て契約変更手続きをとらなければならないとすると事務手続きが極めて煩雑になることを回避する必要から行われている行為である。
イ その他委託契約
その他委託契約についてはxx市委託業務事務要綱等が存在しているものの,原則として契約変更は認められていない。
これは,その他委託契約が締結される際には,その契約の性質上,設計変更事務取扱要領第3条に定めるような事由が発生する可能性が
極めて低いこと,また各種事情の変更についても基本的には予測した上で見積りないし入札をすべきこと等から,原則として契約変更が認められないとされたのである。
なお,その他委託契約の契約変更が原則許されないとの扱いは従前からとられていたが,その旨を明確化すべく,平成20年11月改訂の「委託契約事務の手引き(工事関係委託を除く)第6版」においては,その48頁において「その他委託業務では,原則として契約の変更は認めていません」との記述が明記された。
4 契約変更の手順について契約変更の手順
工事等契約及び委託契約についてそれぞれ典型的な契約変更の手順を図示すると下記のとおりとなる。
【工事等請負の契約変更の手順(設計変更の場合)】
契約変更の必要
設計変更協議
設計変更協議
予算担当課合議
契約課合議
技術管理課合議
設計変更協議書作成
設計変更協議書作成
x x 室*
者
業
技術管理課
x x 課
x 約 課
工事担当課
予算担当課
委託担当課
契約課
その他
YES
NO
契約変更
・契約変更協議書
・変更積算書作成
・金抜き変更積算書等(2部)
・予算執行伺書《変更》作成
NO
財政課合議
支出負担行為決議
変更契約事務
NO
変更契約締結
変更契約締結
着手
期間延長協議
NO
契約課合議
YES
期間延長協議
(承諾書)
小規模委託業務等?
委託先が公共的
団体か?
YES
契約期間の延長のみ?
【委託業務契約の契約変更の手順】
50万円以下? | |
YES |
5 当初契約上の定め
豊田市においては,契約締結に際し,工事請負契約約款,xx市工事関係業務委託契約約款,業務委託契約約款等が用いられることが通常であり,その約款中に契約変更についての定めがなされている。
その一例を挙げると下記のようなものがある。
【xx市工事請負契約約款(抜粋)】
(条件変更等)第18条
乙は工事の施工に当たり,次の各号のいずれかに該当する事実を発見したときは,その旨を直ちに監督員に通知し,その確認を請求しなければならない。
⑴ 設計図書の内容が一致しないこと(設計図書の優先順位が定められている場合を除く。)。
⑵ 設計図書に誤びゅう又は脱漏があること。
⑶ 設計図書の表示が明確でないこと。
⑷ 工事現場の形状,地質,湧水等の状態,施工上の制約等設計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工事現場が一致しないこと。
⑸ 設計図書に明示されていない施工条件について予期することができない特別な状態が生じたこと。
2 監督員は,前項の規定による確認を請求されたとき,又は自ら前項各号に掲げる事実を発見したときは,乙の立会いの上,直ちに調査を行わなければならない。ただし,乙が立会いに応じない場合には,乙の立会いを得ずに行うことができる。
3 甲は,乙の意見を聴いて,調査の結果(これに対してとるべき措置を指示する必要があるときは,当該指示を含む。)をとりまとめ,調査の終了後14日以内に,その結果を乙に通知しなければならない。ただし,その期間内に通知できないやむを得ない理由があるときは,あらかじめ乙の意見を聴いた上,当該期間を延長することができる。
4 前項の調査の結果において第1項の事実が確認された場合において,必要があると認められるときは,次に掲げるところにより,設計図書の訂正又は変更を行わなければならない。
⑴ 第1項第1号から第3号までのいずれかに該当し設計図書を訂正する必要があるものについては,甲が行う。
⑵ 第1項第4号又は第5号に該当し設計図書を変更する場合で工事目的物の変更を伴うものについては,甲が行う。
⑶ 第1項第4号又は第5号に該当し設計図書を変更する場合で工事目的物の変更を伴わないものについては,甲乙協議して甲が行う。
5 前項の規定により設計図書の訂正又は変更が行われた場合において,甲は,必要があると認められるときは工期若しくは契約金額を変更し,又は乙に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
(設計図書の変更)
第19条
甲は,前条第4項の規定によるほか,必要があると認められるときは,設計図書の変更内容を乙に通知して,設計図書を変更することができる。この場合において,甲は,必要があると認められるときは工期若しくは契約金額を変更し,又は乙に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
(工事の中止)第20条
工事用地等の確保ができない等のため又は暴風,豪雨,洪水,高潮,地震,地すべり,落盤,火災,騒乱,暴動その他の自然的又は人為的な事象(以下「天災等」という。)であって乙の責めに帰すことができないものにより工事目的物等に損害を生じ,若しくは工事現場の状態が変動したため,乙が工事を施工できないと認められるときは,甲は,工事の中止内容を直ちに乙に通知して,工事の全部又は一部の施工を一時中止させなければならない。
2 甲は,前項の規定によるほか,必要があると認めるときは,工事の中止内容を乙に通知して,工事の全部又は一部の施工を一時中止させることができる。
3 甲は,前2項の規定により工事の施工を一時中止させた場合において,必要があると認められるときは工期若しくは契約金額を変更し,又は乙が工事の続行に備え工事現場を維持し,若しくは労働者,建設機械器具等を保持するための費用その他の工事の施工の一時中止に伴う増加費用を必要とし,若しくは乙に損害を及ぼしたときは,必要な費用を負担しなければならない。
(乙の請求による工期の延長)第21条
乙は,天候の不良,天災等又は第2条の規定に基づく関連工事の調整への協力その他乙の責めに帰すことができない事由により工期内に工事を完成することができないときは,その理由を明示した書面により,甲に工期の延長変更を請求することができる。
(甲の請求による工期の短縮等)第22条
甲は,特別の理由により工期を短縮する必要があるときは,工期の短縮変更を乙に請求することができる。
2 甲は,この約款の他の条項の規定により工期を延長すべき場合において,特別の理由があるときは,通常必要とされる工期に満たない工期への変更を請求することができる。
3 甲は,前2項の場合において,必要があると認められるときは契約金額を変更し,又は乙に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
(工期の変更方法)
第23条
工期の変更については,甲乙協議して定める。ただし,協議開始の日から14日以内に協議が整わない場合には,甲が定め,乙に通知する。
2 前項の協議開始の日については,甲が乙の意見を聴いて定め,乙に通知するものとする。ただし,甲が工期の変更事由が生じた日(第21条の場合にあっては,甲が工期変更の請求を受けた日,前条の場合にあっては,乙が工期変更の請求を受けた日)から7日以内に協議開始の日を通知しない場合には,乙は,協議開始の日を定め,甲に通知することができる。
(契約金額の変更方法等)第24条
契約金額の変更については,甲乙協議して定める。ただし,協議開始の日から1
4日以内に協議が整わない場合には,甲が定め,乙に通知する。
2 前項の協議開始の日については,甲が乙の意見を聴いて定め,乙に通知するものとする。ただし,契約金額の変更事由が生じた日から7日以内に協議開始の日を通知しない場合には,乙は,協議開始の日を定め,甲に通知することができる。
3 この約款の規定により,乙が増加費用を必要とした場合又は損害を受けた場合に甲が負担する必要な費用の額については,甲乙協議して定める。
(賃金又は物価の変動に基づく契約金額の変更)第25条
甲又は乙は,工期内で請負契約締結の日から12か月を経過した後に日本国内における賃金水準又は物価水準の変動により契約金額が不適当となったと認めたときは,相手方に対して契約金額の変更を請求することができる。
2 甲又は乙は,前項の規定による請求があったときは,変動前残工事代金額(契約金額から当該請求時の出来形部分に相応する契約金額を控除した額をいう。以下同じ。)と変動後残工事代金額(変動後の賃金又は物価を基礎として算出した変動前残工事代金額に相応する額をいう。以下同じ。)との差額のうち変動前残工事代金額の
1000分の15を超える額につき,契約金額の変更に応じなければならない。
3 変動前残工事代金額及び変動後残工事代金額は,請求のあった日を基準とし,物価指数等に基づき甲乙協議して定める。
ただし,協議開始の日から14日以内に協議が整わない場合にあっては,甲が定め,乙に通知する。
4 第1項の規定による請求は,この条の規定により契約金額の変更を行った後再度行うことができる。この場合においては,第1項中「請負契約締結の日」とあるのは,「直前のこの条に基づく契約金額の変更の基準とした日」とするものとする。
5 特別な要因により工期内に主要な工事材料の日本国内における価格に著しい変動を生じ,契約金額が不適当となったときは,甲又は乙は,前各項の規定によるほか,
契約金額の変更を請求することができる。
6 予期することができない特別の事情により,工期内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ,契約金額が著しく不適当となったときは,甲又は乙は,前各項の規定にかかわらず,契約金額の変更を請求することができる。
7 前2項の場合において,契約金額の変更額については,甲乙協議して定める。ただし,協議開始の日から14日以内に協議が整わない場合にあっては,甲が定め,乙に通知する。
8 第3項及び前項の協議開始の日については,甲が乙の意見を聴いて定め,乙に通知するものとする。ただし,甲が第1項,第5項又は第6項の請求を行った日又は受けた日から7日以内に協議開始の日を通知しない場合には,乙は,協議開始の日
を定め,甲に通知することができる。
【xx市工事関係委託契約約款(抜粋)】
(契約変更又は一時中止)第11条
甲は,必要がある場合には乙と協議して業務の内容を変更し,又は業務を一時中止し,若しくは打ち切ることができる。この場合において,契約金額又は契約期間を変更する必要があるときは,甲乙協議して書面によりこれを定めるものとする。
2 甲は,前項の場合において乙に損害が生じたときは,その損害を賠償するものとし,賠償額は甲乙協議して定める。
3 乙は,天災地変等乙の責に帰することができない正当な理由により契約期間内に業務を完了することができないときは,甲に対して遅滞なくその理由を付し契約期間廷長願により契約期間の延長を申し出ることができる。
4 甲は,前項の規定による申出があったときは,事実を調査し,やむを得ない理由が
あるときは,相当の期間に限り契約期間の延長を認めることができる。
【xx市業務委託契約約款(抜粋)】
(契約変更又は一時中止)第10条
甲は,必要がある場合には乙と協議して業務の内容を変更し,又は業務を一時中止し,若しくはこれを打ち切ることができる。この場合において契約金額又は契約期間を変更する必要があるときは,甲乙協議して書面によりこれを定めるものとす
る。
2 前項の場合において乙に損害が生じたときは,甲はその損害を賠償するものとし,賠償額は甲乙協議して定める。
3 乙は,天災地変等乙の責に帰することができない正当な理由により,契約期間内に業務を完了することができないときは,甲に対して遅滞なくその理由を付し契約期間延長願により,契約期間の延長を申し出ることができる。
4 甲は,前項の申出があったときは,事実を調査し,やむを得ない理由があるとき
は,相当の期間に限り,契約期間の延長を認めることができる。
6 契約の種類による特殊性
契約変更は,合理的必要性に基づいて行われる限りやむを得ない部分もある。
⑴ 一般競争入札
一般競争入札は,不特定多数の人数の参加を求め,入札の方法によって競争を行わせることで,地方公共団体に最も有利な価格で契約が締結できるようにする仕組みであるから,かかる入札方法を採った場合においては,契約変更(特に価格についての契約変更)については特に慎重さが求められる。
すなわち,一般競争入札において例えば不相当に低廉な価格をもって入札をし,契約締結後,当該入札価格での工事実施が不可能であることを理由として価格についての契約変更が認められるのであれば,一般競争入札制度の趣旨が失われ画餅と化してしまう。
また,そもそも,契約内容のすべての事項は,入札の金額算定の根拠となっているものであり,これらを変更することは,入札に付した当初の目的,趣旨に反し,また,これら変更部分を当初から仕様書に加えて入札等を行っていれば,他にもっと有利な入札を者があったかもしれない等,入札制度の根底を覆すことになりかねないからである。
⑵ 指名競争入札
指名競争入札は,その参加者こそ地方公共団体が指名した範囲に限られるものの,やはり多数の人数の参加を求め入札の方法によって競争を行わせることによって,地方公共団体に最も有利な価格で契約が締結できるようにする仕組みである点において何ら異なることはないから,かかる入札方法を採った場合においても,契約の変更(特に価格についての契約変更)については特に慎重さが求められる。すなわち,先に一般競争入札において述べた理由は,指名競争入札においても同様にあてはまるのである。
また,指名競争入札においては,入札参加者が地方公共団体が指名し
た者に限られるため,当該入札参加者と地方公共団体の間に何らか既存の関係が存在する場合も少なくないと思われるところ,契約変更を余り安易に行うと当該業者との癒着を疑われることにもなりかねず,客観的なxxさはもちろん,市民の目からみた「xxらしさ」を確保する観点からも,契約変更においては慎重さが求められる契約類型といえる。
⑶ 随意契約
随意契約については,既述のように一旦運用を誤るとxxな取引の実を失うおそれがあることなどから,締結できる場合が地方自治法施行令第167条の2第1項各号の場合に限られている。
また,特に特命随意契約の場合はその性質上,もともと特定の者との間で締結される契約であるため,入札制度の趣旨を潜脱するような事態は基本的にはない。もっとも,随意契約による場合といえども,見積合せにより極力価格競争をさせるべきとされており,その限りにおいては入札の場合と同様の要請が働く。またそもそも地方公共団体が契約の一方当事者となり,その費用を公の財産から支出する以上,その価格は合理的なものである必要があるのは当然のことである。また,上述の指名競争入札の場合以上に,「xxらしさ」を保つ必要が高い契約類型ともいえ,これらの事情を加味すれば,随意契約もまた慎重さが求められる契約類型といえる。
7 契約内容による特殊性
⑴ 工事請負の場合
ア 客観的基準の有無
工事請負の場合においては,基本的に愛知県の基準を準用する形で設計価格を算出するなどしており,変更部分の単価算出方法が客観的に類型化されていることから,後述する委託類型の場合よりは客観的な基準が存在しやすい特殊性がある。
イ 設計変更事務取扱要領に基づく変更基準
工事請負の場合,工事現場の地形的状況や天候等の諸条件の結果,当初の契約内容どおりの履行をなしえず,履行条件を変えざるを得ない状況が発生しやすい性質を有している。
かかる事情を前提に,工事については,軽微な契約変更をその都度行うとすれば事務処理の負担が増大し,合理性を欠くことから,xx市においては上述のように昭和44・3・31建設省xxx発31の
2をもとに策定された建設変更事務取扱要領に基づき,一定範囲での設計変更並びにそれに伴う契約変更が認められている。
ウ 設計変更できる範囲 (ア) 設計変更できる範囲
設計変更できる範囲については,設計変更事務取扱要領第3条に規定が存在している。具体的に設計変更できる範囲としては,①発注後に発生した外的条件によるもの(同1号),②発注時において確認困難な要因に基づくもの(同2号),③予算措置に基づくもの
(同3号),④認可条件等の処理に伴うもの(同4号)の4つに大別され,更に①1号の場合についてはその具体的場合として○ア 自然現象その他不可抗力による場合(同号ア),○イ 他事業及び施工条件等に関連する場合(同号イ),○ウ 地元調整等による場合(同号ウ)が,また②2号の場合については○ア 推定岩盤線の確認に基づく場合
(同号ア),○イ 地盤支持力の確認に基づく場合(同号イ),○ウ 土質の確認に基づく場合(同号ウ),○エ 地下埋設物位置の確認に基づく場合(同号エ),○オ その他確認困難な要因及び誤測等でやむを得ない場合(同号オ)がそれぞれ列挙されている。
(イ) 1号に基づく場合について
1号は,発注後に発生した外的条件による契約変更について規定したものである。
発注がなされた後,後発的に発生した事由のうち,外的条件に基づくものについては,xx市・契約業者いずれの責に帰すべき事由ともいえないが,係る事由の存在があるために契約変更をしなければならない事態が予想されることから規定されたものである。
その意味において,1号の存在自体は合理的なものといえるが,その具体例についてどの範囲で認めるかについては更に厳密な検討が必要と考えられる。
a 自然現象その他不可抗力によるもの
この場合の具体例としては,例えば地震発生にともない契約変更を余儀なくされる場合等が考えられる。
この場合については,まさに外的条件に基づく不可抗力であり契約締結時においてその発生の蓋然性が高いことを予見し,又は容易に予見し得た等特段の事情のない限り,基本的に契約変更の合理性を基礎づける事由と評価することができる。
b 他事業及び施工条件等に関連する場合
この場合の具体例としては,例えばA地点まで市道路を引き県道と繋げる予定であったところ,県道の延長工事がなされるため B地点で県道と繋げたほうが市にとって有利であるため,接続地
点をA地点からB地点へ変更することとし,それに併せて契約変更を行う場合等が考えられる。
この場合についても,契約との関係では外的条件と考えられるため,不可抗力的色彩が強いものと考えられる。
もっとも,自然現象と異なり,関係各所への事前調査等によって当初契約締結以前に判明する場合もあると考えられることから,事前の調査を十分に行うべきことは言うまでもない。
c 地元調整等の処理による場合
これについては,地元の要望がある等の一事をもって直ちに設計変更事務取扱要領第3条第1項の外的条件にあたると判断すべきでない類型といえる。
すなわち,地元との調整については,本来的には契約締結以前に済ませておくべき事であり,この手続を十分行わなかった場合,そもそも本来なしえないはずの契約変更を肯定するだけの合理的根拠と認めることはできない。
したがって,1号のうちウの場合として契約変更をするためには,①契約締結以前に十分な地元調整が行われていたが結果的に再度の調整の必要が発生した場合といえるか,②地元調整の必要が後発的に発生したことにつき,xx市・契約業者いずれの責に帰すこともできないと認めるに足りる特段の事情が存在することが必要であり,かかる事由が存在しないにもかかわらず単に地元調整等の処理の必要性が生じたことの一事をもって契約変更を行うことは許されないというべきである。
(ウ) 2号に基づく場合について
2号は,発注時に確認した事項について,工事を進めてみたところ,当初の予想と異なるとなる事実が判明した場合についての規定である。
1号との違いは,1号が外的条件に基づくものであり,発注時において基本的に予測不可能な事由を前提としているのに対し,2号が規定する各事項は,本来的に契約発注時までに十分調査・吟味され発注の基礎となっていた事項である点に求められる。
無論,2号のアないしオに規定する各事項については,現在の技術水準をもっても完全な予測をすることはなし得ないことであり,不幸にも予測が外れてしまった場合に対処する規定として2号の存在は十分合理性の認められるものといえる。
ただ,2号の各事由を理由として契約変更を行う場合においては,
予測が外れたという結果から逆算する限り,発注に先立って行われた調査が果たして十分なものであったのか否かという問題が不可避的に発生し,それがxx市側の責任に基づくのか,或いは調査業者の責任に基づくのか,或いはそのいずれの責めに帰すこともできない事由に基づくものなのかという点が問題として浮かび上がる点である。
かかる点を考慮した上で,場合によっては損害賠償請求をするか否かが検討されなければならない。
a アないしエの場合
これらの場合については,対象の違いこそあれ,いずれも土中等の事情であり,十分な調査を行ってもなお実際の状況を把握しきれない事由である。
したがって,これらの事由を理由として契約変更をすることは十分正当化されうるものであるが,それと別に損害賠償請求の可能性はないか検討しなければならないことは既述のとおりである。
b オについて
オについては前段と後段で全く別の事由を規定しているため,本来的に2項目に分けて書かれるべきものといえる。
エ 設計変更による契約変更の範囲 (ア) 増減率と契約変更
設計変更による契約変更の範囲については,設計変更事務取扱要領第4条に規定があり,これによれば,増額変更の場合については,
①設計変更による増加額が当初契約の20%以内の場合は,別件発注が妥当な場合を除き契約変更ができるとされており(同条第1号),②設計変更による増加額が当初契約の20%を超える場合には,現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難な場合に限るとされている(同条第2号)。これに対し,減額変更の場合については,特に変更率に制限なくなし得ることとされている(同条第1号)。
(イ) 「当初契約金額」の解釈
設計変更事務取扱要領第4条の増減額算定基準となる「当初契約金額」については,その解釈が定められる必要がある。
すなわち,契約変更が1度しか行われない場合においては当初契約金額と解しうる金額はxx的に明らかであるが,契約変更が複数回わたって行われた場合,どの段階の金額をもって当初契約金額と
解するかについて解釈の余地があり,この点を確定する必要がある。具体例をあげれば,最初に締結した契約が1億円であり,その後,
第1回目の契約変更において1000万円の増額を行った場合において,再度,増額の契約変更の必要が生じたような場合,第2回目の契約変更の可否を論ずるにあたって基準とすべき「当初契約金額」をまさに一番最初の金額であった1億円と見るべきか,それとも第
2回目の契約変更との関係で変更前金額である1億1000万円とみるかによって,その変更できる範囲が変わるため,そのいずれと見るべきかを確定する必要があるのである。
この点については,①そもそも契約変更は例外的な場合であり原則として許されないものであることからすれば,なし得る契約変更の金額も極力抑制的に解されるべきであること,②条文上「変更前の金額」ではなく「当初契約金額」という語が用いられており,「当初」の語が「物事の初め」という意を有していること,また③仮に
2度目の契約変更に際し「当初契約金額」が一度目の契約変更後の金額を指すとすれば契約変更を複数回に分けることにより容易に設計変更事務取扱要領第4条第1号の規定を潜脱することが可能であること等からすれば,「当初契約金額」とは問題となっている契約変更がなされる直前の金額の意ではなく,当該契約ついて一番最初に締結された際の契約金額であると解するのが相当である。
したがって,先に挙げた1億円の例において,設計変更事務取扱要領第4条第1号の規定にしたがって変更を行う場合,2回目の契約変更については,1回目の変更で当初契約金額の10%にあたる
1000万円の変更を行ってしまっている以上,2回目の契約変更として変更なし得る額は2200万円ではなく1000万円と解すべきこととなるのである。
(ウ) 増加額と減少額の関係
複数回の契約変更が行われる場合の問題点として,減額の契約変更がなされた後に,増額の契約変更が行われる場合が考えられる。これは,減額の契約変更があった場合,その減額分を考慮するか否かの問題である。
例えば,当初1億円で契約した工事について考えると,1度目の契約変更で500万円を減じた場合,設計変更事務取扱要領第4条第1号に基づいて2度目の契約変更を行う場合,増額しうる限度額が2000万円増の1億1500万円までか,それとも,2500万円増額の1億2000万円かという問題として顕出することとな
る。
この点,①そもそも契約変更は例外的な場合であり原則として許されないものであることからすれば,なし得る契約変更の金額も極力抑制的に解されるべきであること,②設計変更事務取扱要領第4条においては減額分を増額に当たって考慮しうることを推知する記載が一切なされていないこと,③仮に減額分を考慮しうるとすると,当初金額の20%を超える金額でも減額分が加味されている限り認められることとなるがこれは同条第1号の記載に明確に反すると解されること,また,④仮に減額分の考慮を認めると,設計変更事務取扱要領第4条第1号ただし書の制限に抵触しない限り,同条1号本文に基づいて増額変更と減額変更を繰り返すことが出来ることとなるが,これを認めれば結果的に当初契約との間で概そ同一性が認められないような結果を招来する危険がある。係る点を考慮すれば,例えば,増加工事と不可分一体になって発生する減額工事が存在するなど特段の事情が存在する場合を除いて,減額分を考慮すべきでないと解するのが相当である。
したがって,先に挙げた1億円の具体例を前提とすれば,一旦5
00万円の減額をしたとしても,設計変更事務取扱要領第4条第1号に基づく増額可能金額は累計として2000万円に限られるため,2度目の契約変更で2500万円の増額変更をすることは認められないこととなる。なお,先に述べた特段の事情が存する場合の具体例としては,例えばA材という材料(100万円)にBという加工(30万円)を行う予定であったところ,材料をC材という材料(150万円)に変えたところB加工が不要となった場合,これはB加工の消滅はAからCへの変更との関係で不可分一体のものと評価すべきであるから,この場合は,材料としての50万円の増加
(=150万円-100万円)と捉えるのではなく,B加工が不要となった部分も加味し20万円の増加(=150万円-100万円
-30万円)として扱うことが考えられる。オ 契約変更の留意点
(ア) 最終調整としての契約変更について
豊田市においては,工事請負契約に基づいて工事がなされた場合,通常最終段階において軽微な変更点も含め実際の工事内容に合致するよう変更契約を締結する扱いが事実上採られている。
確かに,工事請負契約の場合においては,上記のように,地形的条件や気候的条件等の関係上,履行内容が当初契約時と若干変更さ
れることが当然に予想されることとなることからすればやむを得ない一面があることは否めない。また,最終調整として行われる契約変更は,工事価格の増加ばかりでなく工事価格の減少をもたらす場合もあり,一概にxx市にとって不利と言い切れない面も存在している。
しかし,このことは一般私企業間での工事請負契約においても同様のことであり,また,請負契約の見積りに当たっては軽微な変更が発生することは通常織り込んだ上で請負価格の見積りを行うことが通常であること,そもそも請負契約という契約類型自体が本来的に仕事の「完成」に対し対価を支払う契約類型であって「過程」に対し対価を支払う契約類型ではないこと等からすれば,地方公共団体が一方当事者となっている工事請負契約においても,一般取引通念上,当初請負契約において吸収することが予定されている程度の軽微な変更については,必要な設計変更等を行うことは問題ないとしても,安易に価格に反映させるべきではない。そもそも,契約については,一旦それが締結された以上は契約変更を行い得ないのが原則であり,契約変更を行いうるのは本来例外的な場合に限られているのである。
かかる点からすれば,実際の運用レベルにおいても,契約については変更ができないことが原則である点が今以上に周知される必要があり,それを前提にしてなおどのような場合に最終調整としての契約変更が必要かについて今一度検討する必要があるというべきである。
(イ) いわゆる期末一括処理について
軽微な変更について適用される期末一括処理の運用については,問題点も多いため,その運用に当たっては注意が必要である。
a 設計変更による契約変更の範囲
設計変更による契約変更の範囲は,期末一括処理に基づく一括変更を行う場合であっても,設計変更事務取扱要領第4条の適用を受けることとなる。
そのため,累計増額が20%以内の場合については,設計変更事務取扱要領第3条のいずれかの場合に該当する限りは,同要領第4条第1号ただし書に触れる場合を除き,同号本文に基づき比較的緩やかな基準(「1号基準」という。)に基づいて契約変更をなし得るのに対し,20%を超えた瞬間に一括処理される契約変更全体が同条第2号の厳しい基準(「2号基準」という。)の
適用を受けることとなる。
そのため,一括処理を行うつもりで20%以内の部分については緩やかな1号基準で判断していたものの,結果的に20%を超えてしまった場合,全体に2号基準の適用を受け,一括変更がなしえなくなることが考えられるのである。
b 決定者及び合議の要否について
設計変更事務取扱要領第5条第1項によれば,増減額が10%未満の場合,10%以上20%以内の場合,20%を超える場合の3類型でそれぞれ決定者や合議の要否が変わることとされている。
この点については上で述べた契約変更の実体的基準に比べれば問題は少ないものの,決定者如何や合議の有無によって判断結果に差が生じる可能性もあり,同様の問題をはらんでいるというべきである。
c 期末一括処理における増加額と減少額の関係
期末一括処理に基づく一括変更の場合であっても,便宜上,契約変更手続きを1回で処理しうるにすぎないことから,先に述べた数次にわたって契約変更が行われる場合同様,20%の算出にあたっては,増加工事と不可分一体になって発生する減額工事が存在するなど特段の事情が存在する場合を除いて,減額分を考慮すべきでないと解するのが相当である。
⑵ 工事関係委託
ア 客観的基準の有無
工事関係委託の場合,その性質上業務内容が非定型的であることから,工事請負契約のような客観的基準は存在していない。
イ 20%基準について
設計変更事務取扱要領第1条に規定する限り,すなわち「工事に係る委託契約等設計内容の変更及びこれに伴う契約変更」に関する限りは,設計変更事務取扱要領が適用され,いわゆる期末一括処理に基づく契約変更を行うことができるとされている。
⑶ その他委託の場合の場合ア 客観的基準の有無
工事関係委託,その他委託のいずれにおいても,委託契約はその性質が非定型的であることから,工事請負のような客観的基準は存在していない。
イ 期末一括処理について
その他委託においては,工事請負の20%基準に対応する制度は存在していない。
ウ その他
(ア) その他委託契約においては,契約変更が原則許されないとの扱いは従前からとられていたが,その旨を明確化すべく,平成20年1
1月改訂の「委託契約事務の手引き(工事関係委託を除く)第6版」においては,その48頁において「その他委託業務では,原則として契約の変更は認めていません」との記述が明記された。
(イ) 工事関係委託については,上記のような記述は手引きにおいてなされていないが,原則として契約の変更を認めないとするその他委託契約における取扱いは工事関係業務委託についても同様に妥当する。
第3章 監査のまとめ第1 はじめに
「第2章 契約と制約変更」においても,契約手続,契約変更手続の問題について触れたが,本章では,「第4章 事例検討」において,個々の契約を監査するなかで認められた契約手続,契約変更手続の問題点をまとめる。
つまり,「第4章 事例検討」は,個々の契約の監査をしたもので,事実上,別冊的なものと捉え,本章で一応の意見を示すものである。
第2 監査のまとめ
1 当初契約について
⑴ 紐付き入札
ア 今回監査した事例のなかには,関連する2件の契約のうち,1件目の契約については,入札により契約者(業者)を選定するが,2件目の契約については,1件目の契約を締結したのと同じ業者との間で契約することが,最初から予定されているものがあった。
1つの例としては,エコドライブに関する「エコドライブ社会実験等業務委託契約」と「エコドライブ社会実験に関する広報等業務委託契約」のように,本来,1個の契約であるべきものを,国等からの補助の関係で,その補助対象を明らかにするよう求められて,その部分を切り離して,2個の契約としたものである。
そして,もう1つの例としては,xx公園プールでみられたような,設計業務委託契約と監理業務委託契約の関係である。つまり,民間の場合であると,設計業務と監理業務とを別の業者に発注する場合もあるが,一緒に契約する例も多い。この点,xx市の場合には,設計業務委託契約と監理業務委託契約は別の契約とするが,設計業務委託契約については,入札等で業者を選び,監理業務委託については,設計業者として選定された者との間で,特命随意契約を締結するとのことである。
イ しかし,いずれの形であれ,紐付き入札は,認めるべきでない。 なぜなら,紐付き入札の場合は,当初契約において,入札手続によ
って,価格競争がなされたとしても,結局,2番目の契約を特命随意
契約で締結することにより,価格競争をした意味を潜脱することになるからである。
【意見】
エコドライブの事例は,本来,1個の契約を予定していたところ,補助対象を明確にするために,2件の契約とせざるをえず,2番目の契約については随意契約で締結することが入札時点で告知されていたものである。
そのため,あくまで,xx市としては,補助対象を別契約にするためにやむを得ず,行ったものとのことであるが,
① 時期的な問題もあり,本件では無理であったかもしれないが,
2つに区分できるものであれ,各々に付いて入札手続による
② 本件では無理であったとのことであるが,両方合わせた1つの契約として入札を行い,補助対象は,あくまで,入札によって決まった価格を,xx市の予定価格算出にあたっての割合に応じて,補助対象部分の金額を明らかにする方法をとる
③ あくまで,補助対象の価格が特定きできるようにするとのことであれば,プロポーザル方式を活用して,各々の範囲の金額を提示してもらったうえ,総合的に判断する方法をとる
等によるべきであって,たとえ,補助対象を明らかにするためであっても紐付き入札は行うべきではないと考える。
【結果】
設計業務と監理業務については,設計業務と監理業務を同一業者に行ってもらうことにするメリット(設計内容を把握している者による監理等),あるいは,設計業務と監理業務を別の者とするメリット(監理業務の第三者性を重視等)のどちらを重視するかによって,同一業者に発注するかの問題はあるが,設計監理を同一業者に発注するのであれば,設計監理業務委託契約全体について入札手続によって契約相手,契約金額を決めるべきであるし,別々に契約をするのであれば(設計業者を入札に参加させるか否かは別として),各々について入札手続によって契約相手,契約金額を決すべきである。
特に,本件の場合であると,設計業者が監理業務を請けることがほぼ確定しているにもかかわらず,そのことを明らかにしないまま,設計業務委託契約の入札手続を行い,それによって確定した業者との間で,特命随意契約にて,監理契約を締結するのはあまりに不適切な契
約手続といわざるを得ず,設計業務,監理業務に関する契約手続については早急に改善すべきものである。
⑵ 指名業者の妥当性
地方自治法第234条においては,一般競争入札が原則であることは明らかであるが,xx市においては,従前,多くの契約について,指名競争入札手続をとっていた。
そして,指名競争入札における,指名業者の選定は,指名審査会において審査しているが,指名業者の指名運用基準については,「xx市工事等競争入札参加者の資格審査及び指名等に関する要綱」のなかの別表
5において,「不誠実な行為の有無」「経営状況」「工事成績」「地理的条件」「指名回数の均衡」「手持ち工事等の状況」「技術的適性」「安全管理及び労働福祉の状況」の8項目が記されている。
そのなかの「不誠実な行為の有無」のなかには,xx市指名停止要綱に基づく指名停止期間中であること」のほかに,「『契約書に基づく関係者に関する措置要求に契約者が従わないこと等,契約の履行が不誠実であること』等に該当し,当該状況が継続していることから,契約者として不適当であると認められること」等も規定されている。
そして,「手持ち工事等の状況」の項目においては,「手持ち工事等の件数,金額,進捗状況等からみて,当該工事等を施工する能力があるかどうかを総合的に勘案すること」が記されている。
ところで,取付管設置契約のなかで,契約時に予定された取付管施工個所数を大幅に下回る施工実績しか認められないため,53.25%もの減額による変更契約がなされた例がある。
この減額理由が,実際に,取付管設置の申請数が少ないのであれば,何の問題もないところであるが,実際には,受注業者側の事情により,取付管設置の申請がなされたのに対応できなかったことが,大幅な減額となった理由であった。
このような場合,単なる減額による契約変更で足りるというより,むしろ,債務不履行責任を追及すべきケースにも思われるが,このような事情があるにもかかわらず,その事情が指名審査会等に伝わっていないため,結局,この業者は,その後の取付管設置契約においても,指名業者に指定されているところである。
【結果】
契約履行に問題があった業者については,その情報が確実に指名審査
会に伝わるシステムを構築し,不誠実な業者が入札に参加することのないようにすべきである。
⑶ 特命随意契約
地方自治法施行令第167条の2第1項には,随意契約を締結できる場合が規定されているが,そのなかでも,特命随意契約の締結には,慎重を要する必要があり,各号の判断は厳格に行うべきである。
しかも,随意契約が認められたとしても,随意契約はあくまで例外的に認められるにすぎず,競争という方法をとらないので,特に,価格のxxと適正を図る必要がある。
そのため,xx市規則においても,
第27条(見積書の徴収)
契約担当者は,随意契約によろうとするときは,なるべく2人以上の者から見積書
(様式第3号)又はこれに類する書類を徴さなければならない。ただし,法令によっ
て価格の定められているものその他市長が特に認めたものは,見積書の徴収を省略することができる。
と規定されている。
そして,同条の規定は,条文上,随意契約一般について規定したことは明らかであるが,随意契約のうち,特命随意契約については,同条項の適用をしておらず,特命随意契約以外の場合にのみ,見積合わせをしている。
しかし,前記のとおり,随意契約の場合には競争がなく契約が締結されるため,価格のxxと適正を競争以外の方法で確保する必要がある。
【意見】
実際,要件を充たす業者が1社しかない場合には,同規則第27条の規定にしたがって,見積合わせをすることもできないともいえるが,価格のxxさと適正さを確保するためには,同様類似の業務を扱う業者から参考見積を徴したり,あるいは,随意契約を締結しようとする業者の取引実績等を明らかにすることを求めたりする必要があると考える。 たとえば,第27条第2項を設けて,
2 前項本文の規定にかかわらず,契約対象の性質から,2人以上の者から見積書等を
徴することができない場合においても,類似業者からの見積書や,契約相手の取引実
績に関する書類を徴するなどして,価格の適正を図らなければならい。
のような規定を設けることも考えてよいであろう。
2 契約変更について
⑴ 一旦,契約を成立させた以上,契約の拘束力が認められ,これを変更できないのが原則であり,契約変更それ自体,例外的な処理といえる。しかし,今回,監査の対象とした「工事請負契約」「工事関係業務委 託」「その他業務委託」の3類型のうち,前2者については,極めて多くの契約において,変更契約がなされており,果たして,適正な契約変
更がなされているかが問題となる。
そして,契約に関する規定としては,xx市契約規則に
第42条(契約の変更又は一時中止)
契約担当者は,技術,予算その他やむをえない理由があるときは,契約者と協議して契約の内容を変更し,又は契約の履行を一時中止させることができる。
2 契約担当者は,工事の請負契約で設計変更に基づき契約金額を変更するときは,変更設計工費に当初の契約金額と原設計工費との比率を乗じて算出(ただし,千円未満の金額は切り捨てるものとする。)しなければならない。この場合における計算は,前乗後除の方法によるものとする。
3 契約担当者は,第1項の規定により契約期間を変更する必要があるときは,契約者と協議して書面によりこれを定めるものとする。
4 契約担当者は,契約内容の変更協議が整ったときは,第31条又は第34条第2項の規定により遅滞なく変更契約書(様式第8号),変更請書(様式第9号)等を作成
しなければならない。
が規定されており,工事請負契約,工事関係業務委託契約については,
「xx市工事等契約事務細則」「設計変更事務取扱要領」が,その他委託契約については,「xx市委託業務事務要綱」が規定されている。
ところで,実際の契約変更手続については,「増額幅(累計額)が当初契約金額の20%を超える場合」には,契約課,財政課,技術管理課の合議が必要となるが,それ以外の場合は,担当部署において,契約相手と変更協議書を取り交わし,そして,契約期間満了あるいは年度末近くに,予算執行伺書(変更)を作成し,変更契約書を取り交わすことになる。
この点,上記xx市契約規則第42条第4項の規定によれば,変更協議が整ったときは,遅滞なく契約変更書等を作成することになっているが,設計変更事務取扱要領第6条には,
第6条(契約変更の手続)
契約変更に伴う契約変更の手続は,その必要が生じた場合に遅滞なく行うものとする。ただし,契約条件等を著しく変更することとならないものは,工期の末(債務負担行為に基づく工事にあっては各会計年度末)までに行うことができるものとする。
と規定がなされており,同規定に基づき,工期の末までに行うことにしており,いくつかの変更協議をへて,これらを合わせて,変更契約の内容としているものである。
以下,変更契約について,詳論する。
⑵ 契約の種類による契約変更に関する考え方ア 工事契約,工事委託契約
工事契約,工事委託契約については,設計変更事務取扱要領第3条において,「設計変更ができる範囲」として,設計変更ができる事由が記されており,第4条において,「設計変更による契約変更の範囲」として,第3条の事由が認められる場合においても,変更が増額となる場合か,減額となる場合か,また,増加の場合でも,その増加額が
20%を超えるか否かで判断基準を異にしている。イ その他委託契約
平成20年11月版の手引きにおいて,「その他委託業務では,原則として契約変更は認めていません。追加等の契約をする場合は,軽微なものを除き,原則として新たな競争入札または随意契約とし,別途契約をしてください。」と明記している。そして,その理由としても,「なぜなら契約のすべての事項は入札や見積合せの条件となったものであるため,軽微なものは別としてこれらを契約締結後に変更することは,入札等に付した当初の目的,趣旨に反し,また,これら変更部分を当初から仕様書に加えて入札を行っていれば,他にもっと有利な入札をした者があったかもしれない等,市に対して不利益となる恐れがあるからです。」としている。
ウ したがって,工事契約,工事委託契約についても,契約変更は例外的に認められるべきものであるが,その他委託契約については,原則
として,変更を認め手歩ことが明記され,工事契約,工事委託業務に比して,契約変更を認める要件は極めて厳しくなっている。
⑶ 契約変更か否か
契約変更として契約しているものの中にも,本来,当初契約との関係からみて,契約変更でなく,別契約と捉えるべきものがある。
この点,設計事務取扱要領第4条の規定が参考になると思われる。つまり,同規定では,
第4条(設計変更による契約変更の範囲)
設計変更により契約変更のできる範囲は,次の各号のいずれかに該当する場合とする。
⑴ 設計変更による増加額が当初契約金額の20%以内の場合ただし,別件発注するのが妥当な場合は除くものとする。
⑵ 前号以外で,増加額が20%の範囲を超えるものについては,現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難な場合に限る。
⑶ 設計変更により減額する場合
と規定しており,基本的に別発注するのが妥当なものは,いずれの場合でも,契約変更を認めないとしており,つまり,現在受注している契約内容と,区別できるものについては,そもそも,契約変更の対象とならないものである。
【意見】
契約変更の対象となるか,別契約と捉えるかについては,当初契約の内容と追加内容との関係によるが,それは,同一性・関連性が認められるかを実質的に判断すべきであり,
① 別発注できるものか否か
② 契約内容の数量的変更にとどまるか否か
③ 契約対象にどの程度の関連性があるか否か
等の要素から,実質的に同一性が認められるか否かによって,判断すべきである。
⑷ 契約変更手続による区別
当初契約が,随意契約で締結されたものか,指名競争入札,一般競争入札で契約がなされたものかによって,契約変更が許容される範囲は異
なってくると考える。
【意見】
当初契約が競争入札によってなされている場合には,変更契約を許容することによって,実質的には,競争によって,当初契約の内容(契約金額,契約相手等)を決めた意味を没却してしまう恐れが強いため,変更契約の要件は厳格に解する必要がある。
それに対し,随意契約の場合には,当初から,契約相手が特定されているため,追加する業務内容についても,当初契約と同様,随意契約を締結することができるものである場合には,当初業務と追加業務との間に一定の関連性が認められれば,敢えて,別契約の締結を求める必要はなく,契約変更手続を許容することができる場合があるといえる。
ただ,前記のとおり,随意契約の場合に契約金額のxxさ,適正さをどのように図るかの問題があるが,随意契約の内容を変更する場合にも,変更金額のxxさ,適正さを担保するため,他者の参考見積を徴したり,場合によっては,契約相手の他での取引実績等によって,価格の適正を維持するようにすべきである。
⑸ 設計変更事務取扱要領
工事契約,工事関係委託契約については,設計変更事務取扱要領第3条において,
第3条(設計変更のできる範囲)
設計変更のできる範囲は,次に掲げる理由により,やむを得ず元設計を変更する必要が生じた場合とする。
⑴ 発注後に発生した外的条件によるもの ア 自然現象その他不可抗力による場合 イ 他事業及び施工条件等に関連する場合ウ 地元調整等の処理による場合
⑵ 発注時において確認困難な要因に基づくものア 推定岩盤線の確認に基づく場合
イ 地盤支持力の確認に基づく場合ウ 土質の確認に基づく場合
エ 地下埋設物位置の確認に基づく場合
オ その他確認困難な要因及び誤測等でやむを得ない場合
⑶ 予算処置に基づくもの
⑷ 認可条件等の処理に伴うもの
と規定されている。
そして,各条項についての解釈については,すでに記述したところである。
ただ,今回の事例検討を行うなかで,「地元調整等の処理による場合」に該当するとして契約変更を認めているケースがかなり認められた。
しかし,「地元調整等の処理等」といっても,あくまで,条文上(要領第3条第1号),発注後に発生した外的条件と捉えられるときに限り,契約変更が認められるのであって,発注時に,地元調整ができている場合は勿論のこと,発注時に地元住民との協議が可能であり,あるいは,その意向を推認できる場合には,契約変更は認めることはできない。
特に,xxx待月橋架替工事について,この理由による変更契約が認められているが,工事をするにあたっての搬入路が地元商店街に影響を及ぼすか否か等は,あらかじめ,協議をすれば明らかになるところと思われ,あまりに容易に,契約変更を認めているとしか思われず,却って,実務上契約変更が容易に認められているために,事前に十分な地元との協議等がなされていないのではないかとも疑われる。
また,岩盤線の問題については,実際に調査等をしないと判断できないとの側面もあるが,スマートインターの関係では,変更契約分と新たな追加工事契約分を合わせて,契約当初予算に比して合計3億円もの費用を要することになったのであり,そもそも,事業計画自体の是非にまで,影響するとも思われる。
【意見】
工事等をするにあたっては,十分な準備・計画のもとに行われるべきであり,契約時から予測できるような事由については,十分な調査をすべきである。
そして,工事をする前提として,調査委託,設計委託等をしている例がほとんどと思われるが,調査,設計段階での協議・調査等が十分でないことにより,変更契約をせざるをえず,余分な支出が伴う場合には,調査業者,設計業者に対する損害賠償の余地もでてくるものと思われる。
⑸ 設計変更の20%基準ア 変更不可の原則
設計事務取扱要領においては,第3条で設計変更ができる事由を規
定するともに,第4条で,設計変更の増額か減額か,増額の場合,その増加率が20%以内か否かによって,要件を異にしている。
まず,減額のなかでも,増額を伴わない単なる減額のみの場合には,実質的には一部解除と認められるもの,数量が当初予定より少なかったもの等であり,特に,変更を認めても問題はない。
ただ,増加率20%以内の追加であり,契約変更事由が認められる場合においても,別発注が相当であれば,そもそも,契約変更を認めるべきでなく,あくまで,原則は,契約の変更は認められないものである。
そのため,同規定の基準が相当か否かの問題はあるにしても,増加率20%以内の場合は,あたかも,変更が原則として認められるかのようにも捉えられるため,原則と例外を逆にすべきである。
【意見】
設計変更事務取扱要領第4条については,
第4条
前条により,元設計を変更する必要が生じた場合においても,当初契約の変更手続を行えるのは次の場合に限る。
⑴ 設計変更による増加額が当初金額の20%以内の場合には,別契約で発注するのが相当でないとき
⑵ 設計変更による増加額が当初金額の20%を超える場合には,現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難なとき
⑶ 設計変更により減額するとき
のような規定にすべきである。
イ 何回も設計変更を重ねた契約変更
設計変更を何回か重ねた場合にも,その都度,変更契約書を作成せず,変更契約書は,契約終了間近か,契約年度終了間近にまとめて,締結するのが通例となっていることは,前記のとおりである。
そして,契約規則第42条第4項では,契約内容の変更協議が整った場合には,遅滞なく,変更契約書等を作成しなければならないことになっているが,変更協議ができた都度,変更契約書を作成するのは煩雑にすぎる場合もあり,前記要領第6条にも例外規定が設けられており,このような運用も止むを得ない面もある。
ただ,香xx待月橋架替工事の「架替工事その1」で意見を付したように,たとえば,契約変更をすることにより,契約金額が1億50
00万円以上になり,契約締結に議会の議決が必要となるような場合には(施行令第121条の2第1項,別表第3),その要件を具備した時点で,速やかに仮変更契約書を締結したうえ,議会の議決を求めるべきである。
同様に,増加額が当初契約の20%を超えるような場合にも,20
%を超えた時点で,速やかに,20%超過の要件での契約変更の是非を判断すべきである。
【意見】
契約変更により,当初契約の要件が加重される場合には,その時点で速やかに,当該要件の具備を求めるべきである。
ウ 変更契約を何回か重ねた場合
変更契約を繰り返す場合,現在のxx市の運用は,変更契約で増減した金額を基準にして,変更幅が20%を超えるか否かを判断している。
しかし,このような運用は,実際には,当初契約から20%増額の場合であれ,変更事由を分けることによって,20%基準を超えないことになって不都合といえる。つまり,当初契約との比較で,5%,
7%,10%の変更協議(増額)がxxあった場合,各変更契約で増額した金額を基準にして増額を考えると,20%の増額にならないが,
3回の変更分をトータルすると,20%を超えることになり,変更契約をどのようにするかで,適用される基準が異なるのは相当でない。また,要領第4条も「当初金額の20%以内」と規定されており,
当初契約との比較で増額幅を考えるべきものと考える。
【意見】
設計変更事務取扱要領第4条については,変更契約が何回なされたとしても,あくまで,当初契約から20%を超えるか否かを基準に判断すべきである。
エ 追加と削減
契約変更には,追加(増額)と削減(減額)の両方がある。
ただ,契約の拘束力から考えれば,追加(増額)するのも,削減(減
額)するのも,あくまで,例外的に許されるべきものである。
そのため,増額分と減額分があることによって,その差額の増額分だけを捉えて,変更の是非を考えるべきでない。
ただし,たとえば,同じ作業をするのに,従前予定していた素材を,単価の高い他の素材に変更したような場合には,一体の関係にあるので,増額分と減額分の差額を変更額と捉えればよい。
【意見】
契約変更の是非を考えるときに,追加(増額)と削減(減額)がある場合には,両者が一体の関係にある場合は格別,そのような関係にない場合には,増額分については,増額分のみを捉えて,契約変更の是非を考えるべきである。
オ 20%以外の基準
設計変更事務取扱要領第4条は,20%の基準によって,区別しているが,実際には,
① 変更事由の必要性
② 変更額の多寡,変更率の大小
③ 当初契約と追加(削減)部分との関連性
④ 別契約を締結することの相当性
等を総合的に判断すべきであって,現在の要領のような画一的な規定が望ましいかには疑問がある。
【意見】
20%基準によって,変更契約の是非を判断する場合においても,
① 変更事由の必要性
② 変更額,変更率の大小
③ 当初契約と追加(削減)部分との関連性
④ 別契約を締結することの相当性
等を総合的に判断すべきであって,20%を超えるか否かの1つの基準にだけとらわれる必要はないと考える。
⑹ 見せかけの減額
当初予定した部分の一部を履行せずに,その一部を,今後の契約に委ねる場合がある。
その場合,実際には,追加があるのに,減額分を合わせて計算するこ
とにより,変更幅が過小評価されることもある。
これは,上記20%基準を判断するときの「追加分(増額)と削減分
(減額)」で記述したのと同じ問題を含んでいることになる。
⑺ 契約年度と契約変更
上記見せかけの減額と同様,ある年度で履行できない部分について,当初契約については減額等の形で,契約を終了させることがあり,その残った部分について,別途,契約手続をとることになる。
たとえば,「市道スマートインター線測量調査設計委託契約」においては,当初契約した詳細設計について,一部概略設計をする必要が生じたため,その段階で,一旦契約を終了させても,当然,当該概略設計に基づいて詳細設計をする必要が残る事案であった。
ところが,この契約について,残った詳細設計については,翌年度に,入札手続によって契約を成立させており,結果として,同一業者が落札したが,当初契約の内容が詳細設計であることを考えると,年度をまたいだとはいえ,このような,当初契約に本来含まれていたものを,別契約として,入札手続によって契約した扱いが相当であったかには疑問がある。
むしろ,概略設計は追加分として契約変更をし,詳細設計については,内容に変更があるとしても,それは変更契約で是認できる範囲であり,年度を越える部分については,繰越明許費の形で翌年度に引き継がせる等の方法によるべきでないかと考える。
また,概略設計をしていれば,同一業者が詳細設計を行うのが,効率的とも思われ,しかも,当初契約が随意契約であったことを考えると,敢えて,入札手続によったことには疑問がある。
【意見】
契約を締結した以上,契約の拘束力を受けるのであって,その後の事由で,追加業務が加わり,従前業務の一部が,年度を越えて積み残しとなった場合においては,繰越明許費等の形で,翌年度に繰り越すことを考えるべきであって,年度で契約を打ち切ることが相当とは考えない。
⑻ 契約変更と変更後の金額
請負契約について,契約変更がなされ,契約金額を変更する場合には,変更設計工費に当初の契約金額と原設計工費との比率を乗じて算出した金額をもって,変更金額とすることになっており(xx市契約規則第4
2条第2項),その他委託契約についても,xx市委託業務事務要綱第
21条第4項に同様な算出方法が規定されている。
確かに,このような算出方法は,契約内容の一部が削減される場合や,追加(増額)の場合であっても,当初契約の内容と数量的変更にとどまる場合には,何の問題もない。
しかし,追加される内容が,当初契約の内容と関連するが異なる内容を含んでいる場合,上記規定は,当初契約の予定価格に対する請負率と,追加部分の追加予定価格に対する請負率が同一ないしほぼ同一であることを前提としているが,果たして,そのようにいえるかには疑問がある。
あるいは,契約規則では,このような請負率が同一としてよい範囲のものしか契約変更を認めない趣旨であるのかもしれない。
しかし,いずれにしても,第42条第2項の算出方法は明確であり,妥当するケースも多いとは思われるが,例外なくこの基準で変更契約金額を確定するには疑問があり,第42条第2項には,ただし書で例外規定を設けるのが相当と考える。
【意見】
xx市契約規則第42条第2項の規定はあまりに硬直的すぎると思われるため,
2 契約担当者は,工事の請負契約で設計変更に基づき契約金額を変更するときは,変更設計工費に当初の契約金額と原設計工費との比率を乗じて算出(ただし,千円未満の金額は切り捨てるものとする。)しなければならず,この場合における計算は,前乗後除の方法によるものとする。ただし,原設計内容に含まれていない内容の内容を追加するなど,この方法による算出が相当でないと判断される場合には,その
限りでない。
などの形でただし書を設け,そのただし書に該当する場合の金額算出方法(他社の見積書を徴する等)を細則に設けるなどするのが望ましいと思われる。
⑼ 契約変更と効率性(担当課の裁量)
ア 契約変更については,原則禁止であり,特に,その他委託契約については,手引きにおいてもその旨明記されたものである。
しかし,契約の拘束力があるとはいえ,工事契約,工事委託契約の場合には,設計変更事務取扱要領第3条に示されるように,その前提
事実が違ってくる場合もあって,一定の範囲で契約変更を認める必要もある。
ただ,現場サイドで,担当課が契約相手と変更協議をすることにより,契約課の監視がないまま,本来,別契約で行うべきものについても,変更契約が行われてしまう危険もあり,従前にも,そのような例があったとのことである。
【意見】
従来,工事契約,工事関係委託契約の場合には,設計変更事務取り扱い要領第5条において,請負増減額(累計額)が当初契約の20%を超える場合には,契約課,財政課,技術管理課の合議をとることになっているが,
その段階の以前に,一定の場合に,契約課に報告する手続を認めるべきではないかと考える。
たとえば,設計変更事務取扱要領第5条第1項にただし書を付して,
監督員は,設計変更をしようとするときは,事前に当該契約の内容を掌握し,予算の範囲内で処理できることを確認したうえで,設計変更協議書(様式第1号)により,次表に掲げるところにより決定及び合議を受け,契約者に協議しなければならない。ただし,増減額(累計額)が当初契約金額の●%を超える場合,又は,契約変更の是非に疑義が生じる場合には,設計変更協議書により,決定及び合議を受ける前に,契約課に,変更内容を報告するものとし,契約課において,異議がある場合には,速や
かに,監督員にその旨伝えるものとする。
のような規定に改正してはどうかと考える。
なお,●は,市で相当と思われる数値を設定する(以下,同様)。
イ また,その他委託契約については,委託内容が追加されない限り,本来,変更が予定されてない契約類型であって,平成20年11月版の手引きで,設計変更の原則禁止がうたわれた。
そのため,これについても,要領等で明記すべきものと考える。たとえば
●条(契約変更の禁止)
xx市が行う委託業務(工事関係委託委託を除く)については,次の場合を除くほか,契約変更を認めない。ただし,あらかじめ,契約課の承認手続をとった場合
は除く。
⑴ 委託業務の一部を中止して,減額する場合
⑵ 当初契約の数量的変更にとどまり,その変更額も,当初契約金額の●%未満のもの
のような規定を設けるべきである。
第4章 事例検討
第1 スマートインターチェンジに関する契約
~建設部 幹線道路推進課~
1 スマートインターチェンジとは
スマートインターチェンジとは,既存の高速道路の有効活用や地域経済の活性化等を推進するため,高速道路の本線やサービスエリア,パーキングエリア,バスストップから乗り降りできるように設置されたインターチェンジであり,通行可能な車両(料金支払方法)を,ETCを搭載した車両としている。このように,利用車両が限定されており,サービスエリア等を利用することにより,簡易な料金所の設置で済み,料金徴収員が不要なため,従来のインターチェンジに比して,低コストで導入できるとされる。
国土交通省は,スマートインターチェンジの円滑な導入を図るため,整備箇所における効果及び整備,運営上の課題等の把握を目的として,平成
16年度より地方公共団体等と共同で,社会実験を実施し,その実績を踏まえて,平成18年7月10日に,「スマートインターチェンジ(スマートIC)[SA・PA接続型]制度実施要綱」が策定された。その結果,従前,社会実験を行ってきた箇所については,同要綱に定める条件が整ったところから,本格導入がなされることになった。一方,新たに,スマートインターチェンジの設置を要望する地域では,同要綱に基づき,地方公共団体が主体となって発意することになった。
そして,社会実験の費用負担については,社会実験の手引きにおいて定められており,国は,SA,PA等のスマートIC専用出入口の設置に伴う土木工事費,スマートIC専用のETC機器で構成される設備(スマートIC設備)及び料金収受機械の整備費等を負担し,高速道路区域境から市町村道等までの区間の道路の整備費等を各々負担することになっている。
そして,平成16年度から平成18年度までの間に整備したスマートインターチェンジは37箇所で,これにかかった,国の負担する,スマート IC設備等整備事業費は44億6200万円余りであり,この37箇所のスマートICは,平成18年10月に18箇所,平成19年4月に13箇所が本格導入となったが,残り6箇所のうち,4箇所については社会実験終了後撤去しており,また,残り2箇所については,平成19年4月現在,
社会実験を実施中である。
なお,東海三県では,平成19年4月1日から,東名阪自動車道において,三重県のxxPAスマートICが本格導入となっている。
2 鞍ケ池PAスマートIC
上り線 下り線
鞍ケ池PAスマートICについては,平成18年7月に,国土交通省において示された上記要綱を受けて,その設置計画をスタートさせた。
そこで,平成19年度当初予算においては,鞍ケ池PAスマートICの事業費として,
① | 社会実験用工事費 | 1億5000万円 |
② | 大型車対応本格運用委託費 | 2600万円(調査委託,施工管 |
理) | ||
③ | 大型車対応本格運用用地費 | 2億3100万円 |
④ | 大型車対応本格運用工事費 | 5億2400万円 |
⑤ | その他委託費 | 1億6300万円 |
(ETC機器受託,広報等)
の合計10億9400万円の予算が組まれた。
ただ,前記のとおり,社会実験の手引きにおいて規定されているとおり,スマートIC専用出入口の設置に伴う土木工事費,スマートIC設備及び料金収受機械の整備費等は,国が負担することになっており,上記⑤(その他委託費)のうち,ETC機器設置にかかる1億5000万円及び社会実験運営費(上記①~⑤に含まれない)は,国の負担である。
なお,上記予算において,社会実験工事費のほかに,「大型車対応本格運用」に関する予算が組まれている。これは,社会実験は,高速道路区域境と市道との間の道路として,従前ある工事道路の幅員・傾斜に手を加えて利用するが,同道路では,傾斜・カーブがきつくて,大型車両が通行で
きないため,社会実験用の道路とは別に,本格運用のための道路を新たに開設するためである。
そして,平成20年2月10日から社会実験が開始され,平成20年度の重点項目として,平成20年8月に,鞍ケ池PAスマートICの社会実験の評価を実施し,公表することになっていたが,結局,社会実験を継続することになり,まだ,評価,公表はなされていない。
3 各契約
鞍ケ池PAスマートICに関する契約は,次頁の表のとおり,現時点で,
① 平成18年度
委託契約2件,工事請負契約1件
② 平成19年度
委託契約3件,工事請負契約4件
③ 平成20年度
委託契約4件,工事請負契約2件
となっており,委託契約9件,工事請負契約7件の合計16件の契約がなされている。
以下,各契約の内容とその変更契約の内容をxx監査していくが,最初に,委託契約(工事委託)をまとめて監査する。ただ,平成20年度契約分については,まだ,年度途中でもあり,契約締結までの監査にとどめ,変更契約については,何ら触れないこととする。
なお,各契約における記述のうち,入札等の契約手続に関する箇所においては,税抜の金額を記載し,その後の契約金額等については,税込みの金額を記述してある。
着 手 x x 了 後
⑴ 鞍ケ池ハイウェイオアシス周辺整備用地調査委託契約ア 契約内容
x 約 日 平成18年11月30日
契約相手 愛徳コンサルタント株式会社契約金額 393万7500円
契約期間 平成18年12月1日から平成19年2月28日
契約対象 鞍ケ池PAスマートIC設置の基礎調査としての,社会実験線周辺の用地測量調査(地権者調査含む,土地境界の確定等)。なお,地質調査,岩盤調査等は含まない。
イ 契約手続
指名競争入札(6社)
入札執行結果は,382万9000円(税抜)の予定価格に対し,
375万円,379万円,380万円,384万円,385万円,4
00万円の入札があり,375万円を入札した愛徳コンサルタント株式会社が落札。
落札率は,97.94%と極めて高い。ウ 契約変更
変更契約日 平成19年2月21日
変 更 額 393万7500円→769万5450円
(375万7950円増,95.4%増)変更概要・変更理由
関係機関(愛知県警本部,国土交通省,NEXCO等)との設計協議を進めるなか,事業採択に向けて,早急に社会実験ルート案の図面作成,その道路詳細設計を行う必要が生じ,そのため路線測量作業が必要となった。
また,用地調査範囲の追加(地図転写等が4万40
00㎡→9万5000㎡,境界確認等が1万1000
㎡→4万100㎡)も行った。前提となる変更協議
平成19年1月10日付変更協議変更金額概算 374万円増(約95%増)
エ 監査
本件変更契約の理由としては,早期に社会実験案を作成する必要があるとのことであるが,スマートインターの導入については,平成1
8年に国土交通省で策定された「スマートインターチェンジ(スマートIC)[SA・PA接続型]制度実施要綱」を受けてのものであって,特に,いつまでに行わなければならないという期限もなく,本来であれば,許されない契約変更が許されるほどの緊急性は認められない。この点,担当課の説明では,平成19年夏ころから社会実験をすることのアナウンスを同年1月に行っていたとのことであるが,本件変更協議が平成19年1月10日になされていることから考えても,追加作業が必要となったのがそれ以降といえるかも疑問である。いずれにしても,そもそも,アナウンス後であったとしても,設計変更事務取扱要領で許容される範囲でしか契約変更は認められるべきでない。
しかも,今回の変更内容のうち,用地調査範囲の増大については,当初契約との関連性がかなり認められるものの,新たに加えられた路線調査は,従前の用地調査と密接に関連する業務とは思われない。
つまり,今回,新たに追加した路線測量は,当初契約の対象業務と密接な関連を有するものとはいえず,別契約として発注すべきものである。しかも,入札手続,あるいは随意契約で別途契約を締結する時
間をあえて省くほどの追加業務の緊急性も認められない。
しかも,当初契約との比較で考えれば,その増額幅は,375万7
950円であって,当初契約に比すれば,95.4%の増加率になる,大幅な変更であることからも,変更契約として許容できる範囲とはいえない。
【結果】
本件契約は,工事関係委託であり,設計変更事務取扱要領第3条,第4条に該当するかが問題となる。この点,本件で行われた契約変更は,関係機関との協議によって,早期に社会実験をする必要性があったとの理由にとどまり,同要領第3条に定める事由には該当しないと思われる。
しかも,本件は,95.4%もの増額であって,たとえ,変更理由が認められたとしても,第4条第2号に定める「現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難である」ことが要件となっており,同号が基準とする20%を遥かに超える増額であることを考えれば,その要件も厳格に解釈する必要があろう。
ただ,実際には,前記のとおり,用地調査範囲の拡大は,当初契約の内容と密接に関連するといえるが,路線調査は,当初契約の対象業務である用地調査と密接に関連するとは到底いえない。
よって,契約変更を行う場合には,設計変更事務取扱要領を充足するかを検討すべきであって,特に,本件のように,95.4%もの増額を招く契約変更の要件を考えるには,より厳格に行うべきであり,それに違反する形で契約変更がなされている場合には,その契約に基づいて支出された追加工事代金は適正なものとはいえない。
⑵ 鞍ケ池ハイウェイオアシス周辺整備測量設計委託契約ア 契約内容
x 約 日 平成19年2月1日
契約相手 株式会社愛龍設計事務所契約金額 556万5000円
契約期間 平成19年2月2日から同年3月15日
契約対象 スマートインターを設置するための基礎資料作成を目的とする測量(残土の処分先の測量設計業務も含む)
イ 契約手続
指名競争入札(6社)
入札執行結果は,547万7000円(税抜)の予定価格に対し,
530万円,540万円,550万円(3社),590万円の入札により,530万円を入札した株式会社愛龍設計事務所が落札。
落札率は,96.77%と極めて高い。
ウ 契約変更なし
⑶ 鞍ケ池スマートインター道路詳細設計委託契約
ア | 契約内容 | |
契 約 日 | 平成19年6月13日 | |
契約金額 | 1459万5000円 | |
契約相手 | 中日本建設コンサルタント株式会社 | |
契約期間 | 平成19年6月14日から平成20年3月31日 | |
契約対象 | スマートインターを設置するための設計業務 |
イ 契約手続
随意契約
~施行令第167条の2第1項第2号(性質又は目的が競争入札に適しないもの)
ウ 変更契約
変更契約日 平成20年3月24日
変 更 額 1459万5000円→1861万7550円
(402万2550円増,27.6%増)
変更理由・概要
① 鞍ケ池スマートIC社会実験整備工事において予想されていなかった硬岩が広範囲にわたって出現して,これにより時間及び施工費用を要することになったため,本格ルートについても,硬岩の発生が想定されるため,土質調査を行う(変更協議①)。
② 土質調査を行った結果,当初予定していた本格運用ルート区域においても,広い範囲で硬岩が発生することが確認されたため,
本格運用ルートの見直しを行う。
→ 本格運用ルートの詳細設計の一部を撤回し,概略設計としたもの(変更協議②)
前提となる変更協議
変更協議①(平成19年10月25日)
変更金額(概算) 600万円増(約41%増)変更協議②(平成19年12月5日)
変更金額(概算) 200万円減(約14%減)
エ 監査
(ア) 契約手続について
中日本建設コンサルタントと随意契約を締結した理由は,
① 下記委託契約を受注してきており,鞍ケ池ハイウェイオアシス地域に対する理解が深いこと
記
平成14年度の鞍ケ池SA修正詳細設計委託
平成15年度のハイウェイオアシス詳細設計委託平成18年度の鞍ケ池地区渋滞調査設計委託
② 事例が少ない新規事業であるスマートIC事業の経験者であること
③ 従前の委託業務のなかで,公安協議等,関係機関等との協議資料の作成を行ってきており,各関係機関との経緯,調整内容も熟知していること
であるとする。
しかし,平成15年度のハイウェイオアシス詳細設計委託契約,平成18年度鞍ケ池地区渋滞調査設計委託契約についても,特命随意契約である。この点,平成14年度の修正詳細設計は,あくまで,国土交通省の策定したサービスエリア計画をハイウェイオアシスに変更する修正設計であり,それを受けて,平成15年度のハイウェイオアシス詳細設計委託を随意契約で締結したことには一応理解できるものの,本件契約を含め,その後の契約について,特命随意契約をとらざるをえなかった理由は必ずしも十分とはいえない。
つまり,地方自治法施行令第167条の2第1項第2号に定める
「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するとまでいえるかは疑問がある。
スマートインター自体の理解が必要なのは当然の前提ではある
が,契約の相手方となりうるものが,中日本建設コンサルタント株式会社一社とは考えられず,専門的な提案を求めるなかで,業者を選定するのであれば,プロポーザル方式によって,業者選定するなどの方法によるべきであったと考えられる。
(イ) 変更契約について
本件の場合,社会実験ルートの工事において,硬岩の存在が発覚して,工事に時間・費用を要したため,本格運用ルートにおいても,その危険性を考えて,土質調査を行ったのは,当然のことであり,望ましいことと思われ,本契約期間中には,詳細設計をできる段階でもなく,概略設計をし直すことになったことも理解できるところである。
そして,設計変更については,設計変更事務取扱要領第3条第2号ア及び第4条第2号によるものであるが,その点,果たして「推定岩盤線の確認に基づく場合」が発注時に確認できていなかったとしても,十分予見でき,確認困難といえないのではないかとの疑問もあるとはいえ,変更理由としては,一応,認められるところである。
しかし,もともと,特命随意契約によって,契約を締結しているものであり(その理由にも前記のとおり若干疑問はある),あえて,特命随意契約で詳細設計を受けている中日本建設コンサルタント株式会社が,地質調査を受ける必要性は乏しいと思われる。この点,担当課の説明では,地質調査におけるボーリング位置の選定にあたり,適格な選定が可能なために変更契約で対応したとのことである。
しかし,要領第4条第2号においては,増加額が20%を超えるものについて,「現在施工中の工事と分離して施工することが著しく困難な場合」に限って契約変更ができるとしているのであり,
① 地質調査が設計業務の前提にはなるが,そのことが分離発注できない事由とはいえないこと
② 当初契約が随意契約であって,もともと,価格面での競争がなく契約されている点を考えれば,変更内容について,随意契約で締結することが許容できるものについては,変更契約は認められるものの,それ以外のものについては,別途,入札手続等によって契約を締結すべきであること
等から,地質調査を変更契約で行ったことを適正であると評価することはできない。
次に,地質調査の結果,詳細設計はできず,改めて,本格運用ルートの見直しをするため,概略設計をすることについては理解できるものである。
そして,当初契約を随意契約で行っているため,変更後の契約についても,随意契約によって締結できる内容であり,かつ,当初契約との関連性が認められる場合には,契約変更手続によることは許容できると考える(本件については,前記のとおり,当初契約を随意契約で締結できるかの問題があるが,当初契約を随意契約で締結できるとすれば,変更後の概略設計も随意契約の要件を具備するものと考えらちれる)。
ただ,変更契約の対象となる業務が,当初契約の契約金額算出の単価によっては算出できない場合には,新たに随意契約を締結すると同程度に,設計金額の積算をすることは勿論のこと,場合によっては,他業者の見積りを徴する等して,価格のxxさを担保する手段を講じる必要はあると考える。
【意見】
a 特命随意契約を安易に認めるべきでない。
事業内容に高度の専門性を求める場合においても,プロポーザル方式によるなどして,契約相手を選定すべきである。
b 随意契約で当初契約がなされている場合には,追加する業務内容についても,当初契約と同様,随意契約を締結することができるものである場合には,当初業務との間に一定の関連性があれば,契約変更手続を許容することができるものと考える。
ただ,その場合においても,増加額が適正なものである必要はあり,場合によっては,他業者から参考見積りを徴することなども検討すべきものと思われる。
⑷ 鞍ヶ池PAスマートIC 社会実験開始記念式典委託契約ア 契約内容
x 約 日 平成20年1月31日契約相手 株式会社モダン装美
契約金額 163万8000円(税込)
契約期間 平成20年2月1日から同月22日
契約対象 平成20年2月16日の鞍ヶ池スマートIC社会実験
開始記念式典に伴い,式典の設営及び運営の委託業務を行うもの
イ 契約手続
指名競争入札(5社)
入札執行結果は,159万円の予定価格のところ,156万円,1
62万5000円,172万円,186万円,一社無効(記載確認不能)により,156万円を入札した,株式会社モダン装美が落札。
落札率は,98.11%と極めて高い。
ウ 契約変更なし
⑸ 鞍ヶ池PAスマートIC 社会実験交通誘導委託契約社会実験交通誘導委託契約については
① 平成19年度「鞍ヶ池PAスマートIC 社会実験交通誘導委託」 (以下,平成19年度交通誘導委託契約という)
② 平成20年度「鞍ヶ池PAスマートIC 社会実験交通誘導委託」 (以下,平成20年度交通誘導委託契約⑴という)
③ 平成20年度「鞍ヶ池PAスマートIC 社会実験交通誘導委託その2」 (以下,平成20年度交通誘導委託契約⑵という)
の各契約がある。
⑸-1 平成19年度交通誘導委託契約ア 契約内容
x 約 日 平成20年2月15日契約相手 豊警備保障株式会社 契約金額 346万5000円
契約期間 平成20年2月17日から同年3月31日
契約対象 県道xxxx線との交差点に交通誘導員を配置するもの
イ 契約手続
随意契約
~施行令第167条の2第1項第8号(再度の入札に落札者がいな
いとき)
平成20年1月29日に,4社による指名競争入札がなされたが,第1回目,第2回目とも,入札不調となり(なお,2回目の最低入札価格は335万円),最終的には,最低入札価格者(335万円の入札)であり,また,社会実験記念式典においても警備にあたる豊警備保障株式会社との間で330万円に消費税を加算した346万500
0円で契約をした。
⑸-2 平成20年度交通誘導委託契約⑴ア 契約内容
x 約 日 平成20年4月22日契約相手 豊警備保障株式会社 契約金額 1016万0640円
契約期間 平成20年4月25日~同年8月15日
契約対象 県道xxxx線との交差点に交通誘導員を配置するもの
イ 契約手続
指名競争入札(6社)
入札執行結果は,予定価格967万6800円のところ,967万
6800円,975万円,982万5000円,998万円,105
0万円,一社辞退の入札があり,予定価格と同一金額で入札した豊警備保障が契約をしている。
ウ 契約変更
変更契約日 平成20年9月16日
変 更 金 額 1016万0640円→1246万0560円
(229万9920円増。22.6%増)
契約期間については,平成20年8月8日の合意により,平成20年9月16日まで延長
変更理由・概要
当初,社会実験を平成20年8月15日で終了する予定でいたところ,社会実験の期間を年内一杯まで延長することになったことから,次期契約ができるまでの間,変更契約を締結したとのことである。
なお,変更契約における増額の算出は,下記計算式によっている。
記
交通誘導員費用 単価/日×追加日数ガードマンボックス管理費用 単価/月×追加月数
⑸-3 平成20年度交通誘導委託契約⑵ア 契約内容
x 約 日 平成20年9月9日契約相手 豊警備保障株式会社契約金額 794万3040円
契約期間 平成20年9月12日から同年12月31日
契約対象 県道xxxx線との交差点に交通誘導員を配置するもの
イ 契約手続
指名競争入札(6社)
入札執行結果は,予定価格756万4800円のところ,756万
4800円,787万5200円,788万円,805万6000円,
810万円,832万9156円の入札があり,予定価格と同一金額で入札した豊警備保障が契約をしている。
⑸-4 監査
ア 平成20年度の2回にわたる入札において,同じ業者が予定価格と同額で落札している点については,入札手続のxxさに疑問をもたざるをえない。平成19年2月の時点で,入札が不調に終わっており,契約締結に困難が生ずる可能性がないわけではないが,平成20年8月15日までの警備に関する単価と,同年12月31日までの警備に関する単価も異なっており,豊警備保障株式会社において,予定価格を知りうる状態であった可能性が高い。
イ この点,担当課の方では,本件契約においては,人工賃(単価×時間数)と警備員用のプレハブ小屋使用料(レンタル料)であり,容易に予定価格を算出できるかのような回答もあったが,実際には,各契
約についての入札をする前提で,豊警備保障株式会社に,参考見積書を提出させて,その価格をもって設計金額として,特に歩切等をせず,その金額をもって予定価格としていたとのことである。
そして,担当課においては,このような価格で設計金額を算出し,それが予定価格となっていたとしても,それより低い金額で入札する業者がいれば,その業者と契約を締結するのであって,適正さに問題がないとの認識であった。
しかし,設計金額算出のための参考見積りを出した場合に,通常は,その見積書を参考にして,設計金額,予定価格が算出されるため,設計金額算出のための参考見積書を提出した業者においては,その金額より低い金額で入札するのが一般的である。ところが,本件においては,豊警備保障株式会社は,参考見積書の金額(=予定価格)と同一金額で入札しているのは,予定価格をある程度,予想していたと思われる。
この点,前記のとおり,豊警備保障株式会社の参考見積書の金額をもって,予定価格としても,その金額より低額で入札をした業者がいれば,同社と契約する以上,入札の適正さに問題はないとの考えもそれなりの理由がないわけではないが,予定価格が特定の入札業者にわかるような 形でなされた入札手続にxxさが欠けるのは明らかであろう。
特に,本件の場合平成20年4月の入札において,予定価格と同一金額で,豊警備保障株式会社が入札をしたことがわかっている以上,担当課としても,同年9月の入札手続においては,特に,予定価格の算出には注意を払うべきであったといえる。
【結果】
入札手続を行う場合には,入札業者に予定価格が分かることのないよう,注意を払う必要があり,入札業者に予定価格が分かるような状況でなされた入札手続は,適正さを欠くものと言わざるを得ない。
⑹ 市道鞍ケ池スマートインター線 物件調査委託ア 契約内容
x 約 日 平成20年5月19日
契約相手 愛徳コンサルタント株式会社契約金額 38万8500円(税込み)
契約期間 平成20年5月19日から同年6月30日
契約対象 鞍ヶ池PAスマートICの本格運用路線建設に先立ち,隣接している庭園の物件調査を行うもの(平成19年6月13日付詳細設計委託で設定したルートに日本庭園があり,移転の可能性を探るもの)
イ 契約手続
随意契約
~施行令第167条の2第1項第1号(軽微な契約)
本件は,予定価格50万円以下の委託業務であり,xx市委託業務事務要綱第2条に基づき,小規模委託業務として,随意契約が締結されている。
なお,物件調査積算業務を行う3社に見積者を決定し,その見積りに基づいて,愛徳コンサルタントと間で随意契約を締結している。
⑺ 鞍ヶ池PAスマートIC利用促進業務委託契約ア 契約内容
x 約 日 平成20年5月29日
契約相手 xxxエンジニアリング株式会社(名古屋支店)契約金額 924万円(税込)
契約期間 平成20年5月30日から同年12月25日
契約対象 鞍ヶ池PAスマートICの利用促進のために,PR手法として通勤モニター企画を立ち上げ,実施し,利用台数の調査をするものである。なお,合わせて,通勤時間帯の主要幹線道路における渋滞緩和状況も調査するもの。
イ 契約手続
指名競争入札(6社)
入札執行結果は,予定価格891万円のところ,880万円,92
0万円,930万円,950万円,1146万円,1300万円の入札があり,880万円の金額で入札したxxxエンジニアリング株式会社(名古屋支店)が落札。落札率は,98.77%と極めて高い。
⑻ 市道鞍ケ池スマートインター線測量調査設計委託契約
ア 契約内容
x 約 日 平成20年7月3日
契約相手 中日本建設コンサルタント株式会社契約金額 2730万円
契約期間 平成20年7月4日から平成21年3月25日
契約対象 外回り大型車対応本格運用及び県道の詳細設計,計画路線の測量,用地調査,工事倉庫等の物件調査(平成1
9年6月13日付道路詳細設計委託契約で概略設計に変更した部分の詳細設計)
イ 契約手続
電子入札手続。
入札執行結果は,予定価格2847万5000円のところ,260
0万円,2660万円,2680万円,2730万円,2750万円,
2770万円,2850万円,2880万円の合計8社の入札があり,
2600万円を入札した中日本建設コンサルタントが落札。落札率は,約91.3%である。
ウ 監査
本件は,平成19年6月13日に道路詳細設計委託契約において,硬岩調査が必要となって,同委託契約で予定していた詳細設計を概略設計にしたことから,その詳細設計に関する契約をしたものである。そして,平成19年6月13日付契約においては,中日本建設コン
サルタント株式会社との間で,特命随意契約を締結しているのに対し,同契約のうちの留保した部分の契約をすることになった,本件契約では,電子入札によっている。
概略設計ができているため,それに基づいて設計するのは,中日本建設コンサルタント株式会社しかできない業務ではないとの理由も考えられないわけではないが,そもそも,平成19年6月13日付契約を特命随意契約で行った理由がなかったともいえる。また,特命随意契約を前提とするなら,一旦,概略設計を作成する必要が生じたとしても,概略設計に基づいて詳細設計をする必要があるため,詳細設計をそのまま行って,翌年度に繰り越すこともできたのではないのであろうか。
また,平成19年6月13日付詳細設計委託契約が当初金額145
9万5000円であったところ,本契約が2730万円とかなり高額となっている理由も見出しにくい。
実際,今まで,何ら関与していない業者が2650万円で入札しているのに対し,本件設計にかかわってきた中日本建設コンサルタント株式会社の入札金額が2600万円である点についても,一般に考えれば,より大きな開きが生じてもよいようにも思われ,概略設計を受けての業務として考えれば,より低額での契約が相当であるようにも思われる。
【意見】
発注後に発覚した事由等で,当初契約した詳細設計について,一部概略設計をする必要が生じて,契約変更をする場合においても,当該,概略設計に基づいて,詳細設計をする必要は残るものである。
そうであれば,詳細設計が当初契約の内容に含まれている以上,工法等にxx的な違いがない限り,年度末までに完了できないとしても,契約変更をして概略設計を含めたうえで,繰越明許費等の形で,そのまま,翌年度に引き継がせるべきものと思われる。この点,打ち切った工事の再起工,現に契約履行中の工事又は物品の買い入れに直接関連する契約を現に履行中の契約者以外の者に履行させることが不利であるとき等には,施行令第167条の2第1項第6号の「競争入札に付することが不利と認められる場合」に該当するとされているため,本契約についても,同様に,随意契約をもって契約する方法も考えられたと思われる。今回は,道路詳細設計契約(19年6月13日)を締結した中日本建設コンサルタント株式会社が,本契約でも落札しているが,もし,ほかの業者が落札していれば,前契約で,中日本建設コンサルタントとの間で締結した詳細設計契約の拘束力をあまりに軽視するものと考えられる。
また,今回は,電子入札手続で,その適正さを担保していると思われるが,上記のとおり,前契約での拘束力が及ぶと考えると,今回の予定価格が,概略設計に何ら関与していない業者が詳細設計等をする前提となっているため,当初から同一業者が設計する前提で金額を確定するとすれば,より低額で契約を締結できると思われる点からも,一旦,変更契約で取りやめられた業務を改めて入札手続に付するのが必ずしも適切であったとはいえないと思われる。