金融屋「ウジシマ君」(個人)は、貧乏でお金が⾜足りない苦学生 A(大阪在住)に対して、平成18年5月1日(返済期は5月末日)、金30万円を貸し付けた(利息の合意はしていない)。その際、A は、時効を主張しないことを約束させられた。
消費貸借契約・賃貸借契約
Case1
金融屋「xxxx君」(個人)は、貧乏でお金が⾜足りない苦学生 A(大阪在住)に対して、平成18年5月1日(返済期は5月末日)、金30万円を貸し付けた(利息の合意はしていない)。その際、A は、時効を主張しないことを約束させられた。
A は、xxxx君から、お金を借りた後、遠方に引っ越しをした。これが幸いし、以
後7年間⼀一度も貸金の返還を請求されなかった。
ところが、平成25年6月20⽇日、A は、大阪市西成区太子堂交差点において、xxxxxxばったり会ってしまった。
A 君が逃げようとしたものの、xxxx君に捕まってしまい、「おい。金30万円を
返せよ。利息も入れて42万円返しやがれ!」と軽く凄まれた。
A 君は、「すいませんでした。後、2週間だけ待ってくださいますか?」と述べたところ、xxxx君が「いいだろう。ちゃんと返せよ。」と述べ、去って行った。A 君 は、「やばいことになった。」と思い、廃ビルに姿を隠すことにした。
A 君は、その後、平成28年6⽉月20日まで姿をくらませたが、同日、xxxx君に見つかってしまい、「おい。何逃げてんだよ。利息も入れて50万円を払えや。」と再び凄まれ・・法律事務所に駆け込んだ。
Q:上記事例において、A 君は、xxxx君に対して⾦金50万円を返さないといけないか?A 君の弁護士の立場に立って考えましょう。
(ヒント)
・利息は、年間いくら払わないといけないか?
・A 君は、10年以上お⾦金の返還をしていないが、関連する制度はないか?
・平成25年6⽉月20⽇日の出来事は法的に意味を持つか?
・A は、契約時に時効を主張しないこととされているが、これは意味を持つか?
~answer 1つの考え方~ (まずは請求から考える)
本件事案のお題はズバリ「消滅時効」です。ついつい時効の問題に飛びつきたくなりますが・・、そもそも本件で金50万円の請求権自体発生しているのでしょうか?まずは、当事者が何をしたいのか?請求権(訴訟物)から考えていかないといけません。
(金50万円が請求されていますが・・)金50万円の内訳を考えてみましょう。
① 本件では、金30万円について消費貸借契約(587条)が締結されております。これに基づき、元本である30万円が請求されていることでしょう。
② 次に、残りの20万円ですが、これは利息ですね。利息の合意をしていないじゃないか?と言いたくなりますが、合意をしていなくても年5分の割合で利息が発⽣生します
(404条)。ですから、利息金支払請求権を行使していると考えられます。もっと も、利息は、元本を基準に年5%(年間1万5千円)しか発生しておりませんから、1
0年間で合計15万円しか生じません。 これらの事情からすると、平成28年6⽉月
20⽇日時点において、請求権は、約45万円(厳密に⾔言えば、利息は⽇日割りで発⽣生する)となります。ですから、50万円の請求をされておりますが、内5万円はそもそも発生すらしておりません。
そこで、45万円の請求の可否について以下で考えていきましょう。
(消滅時効を主張できないか?)
債権の消滅時効は、167条1項により10年とされています(民法改正で5年となるケースも出てきます)。そうすると、本件では、明らかに10年以上経過しており、167条1項の要件を満たすように思えます。
ここで忘れてはいけないのが、「援用」(145条)です。10年を経過すれば当然に消滅するのではないのです。10年を経過しても義理を通したい人もいらっしゃいます。ですから、時効は、当事者の意思に委ねられることにしたのです。援用することを忘れずに。
もっとも、時効に関して相手から反論がきそうですね。反論を検討してみましょう。
~教えて先生~ Q:消滅時効は、いつからカウントすればいいのでしょうか?
A:166条1項で「権利を行使できる時」からとされています。お金を返せといえる時から起算をするのですね。
Q:では、本件では、平成18年5月31日を1日目とカウントすればいいのですね?
A:違います。民法140条をみましょう。初日は0日と数えて翌日から1日とするようになっています。これを初日不算入の原則と言います。
(時効を援用しない約束)
これはそもそも有効なのでしょうか?実は有効ではありません。時効の利益は「あらかじめ」放棄することはできません(146条)。時効の援用を防ぐ方策として闇金等があらかじめ時効を言わないことにサインをさせることが相次ぎました。このように時効制度の適用を回避する悪い奴が現れたので時効の利益は事前に放棄することはできないとされました。ですから、146条により、時効を援用しない旨の約束は無効になります。
(時効の中断について)
もっとも、A 君は、返済を2週間待ってほしいと述べております。この行為は、自己が暗に債務を負うことを認めているものです。お金を借りてすらいなければ返済期も何もないですよね。そうすると、上記 A 君の発言は、自分がxxxx君からお金を借りたことを認める行為に他なりません。これを債務の承認といいます。これにより、時効が中断(147条)します。中断というのは、時効のカウントをリセットするものです。この時点まで7年間カウントしておりましたが、A 君がこの発言をした途端に0からのスタートとなりました。言葉の意味に注意しておきましょう。
なお、凄まれて上記発言が生じておりますが、凄まれ方によっては承認自体が強迫によりなされたものとして無効ないし取消うるものになることもあります。
(結論)
A 君は、消滅時効を主張したいところですが、本件では厳しいでしょう。したがって、約45万円を支払わないといけないケースであると思われます。
消費貸借・賃貸借契約
Case2
芸人であるxxxxxxは、芸があまり売れず、月額9万円の収入で生活を行っていた。
xxxxxxは、月額5万円で「ええハウス」からアパートを借りた。
ところが、xxxxxxの借りたアパートにはゴキブリがたくさんおり、ある日、排水菅から95匹の黒ゴキブリがワラワラと出てきた。
xxxxxxは、これはたまらないと思い、ええハウスに対して「もう賃料は払いま
せん。」と言った。
Q1 リョウチェルは、賃料5万円を支払わないといけないか?
Q2 仮に、xxxxxxが、黒ゴキブリを退治するために、排水菅の工事をした場合、工事代金10万円をええハウスに請求することができるか?
その後、xxxxxxは、部屋を綺麗にするために、奮発して①壁紙を20万円で張り替え、また、4万円出してトイレをウォッシュレットに変えた。
Q3 xxxxxxは、ええハウスに対して、壁紙代について20万円を請求した上 で、ウォッシュレット代である4万円も請求した。これらは認められるか?検討しましょう。
ヒント
・賃貸借契約において、双方どのような内容の債務を負っているのでしょうか?
・排水溝の工事は本来どちらがやるべきことでしょうか?
・壁紙等を張り替えた場合、賃貸借期間が過ぎた後、だれのものになるのでしょうか?
〜answer 1つの考え方〜
①貸主が目的物を使用収益させる債務
(賃料の支払い義務について)賃貸借契約は、
を負っている反面、②借主が目的
物の使用収益に対する対価を支払う債務を負う契約です(601)。
ここで、重要なのは、賃料は借りたものを使用できた対価だということです。
ですから、借主は、契約書に何と書いてあろうとも、賃貸借契約の本質として、目的物を使用収益できない状態であれば賃料の支払いを拒絶することができるのです。
そこで、Q1の回答になりますが、本件ではゴキブリが95匹も現れていますから、とてもじゃないですがアパートに住むことはできません。そうすると、本件では、xxxxxxは、ええハウスに対して、賃料5万円を支払わなくても良いことになります。賃料に支払いを拒絶するための根拠条文をあげるとすると、601条になるでしょう。
(排水溝を工事するのは誰の義務?)
本件では、xxxxxxが排水溝の工事をしていますが、これは本来誰がすべきことな
貸主です!!
のでしょうか? 使用収益させる債務を負っているのは、貸主ですよね。
その一環として使用収益させられる状態にするため目的物を修繕する義務を負い、仮に借主が修繕をした場合、それに要した費用いわゆる「必要費」(608条1項)を支払う義務があります。この料金は不当に高くない限り貸主に請求することができます。
本件では、排水xの工事として10万円を支払っておりますが、これは不当に高いとは言い難いと思えますから、必要費として608条1項に基づき直ちに請求できるでしょ う。
(目的物の価値を上げた場合は??)
上記ケースに加えて、借主が目的物に改良を加えて価値を高めることが考えられます。この場合、有益費として、608条2項に基づき価値の増額分を請求することができま す。必要費との違いは、目的物の使用に不可欠なものであるかどうかです。例えば雨漏りをしたので工事をするのは必要費ですが、ドアを自動ドアに変えるのは有益費です。
この場合、賃貸借契約終了時に、608条2項に基づき、出した壁紙代金を請求することができます。
では、xxxxxxxxはどうでしょうか?先ほどの有益費に該当するといえそうですが・・実は有益費償還請求ではなく造作買取請求権という借地借家法の制度で買取を迫ることができます。しかも、造作買取請求権は、形成権ですから権利行使された側は拒絶できません。ですから、本件で貸主は4万円を支払って、ウォッシュレットを買い取らないといけないことになります。
〜教えろ先生〜
Q 有益費償還請求権と造作買取請求権をどう使い分ければ良いのですか?
A 取り外しが容易かどうかで区別します。クーラー・ウォッシュレット・コンロ等容易に取り外すことができるものが造作、土地をコンクリートにする等取り外しが不可能に近いものを有益費として区別します。
Q 今度家を貸そうと思っていますが、黄金製のウォッシュレットを付けられて造作買取を請求されたら・・破産してしまいます。恐ろしいのですが、どうすれば良いですか?
A 造作買取請求xxは、契約で排除することができます。契約書に「造作物を付けてはならず、造作買取請求権は認めない。仮に付着した場合でも退去時に全て借主の費用で撤去する。」ことを明示しておけば大丈夫です。
ファーストフード店での悲劇
A 君は、小腹が空いたのでハンバーガーでも食べようと思い人気ファーストフード店「進撃のダンソン」に入店した。
A 君は、今日はテリヤキバーガーを食べようと思っていたところ、「テリヤキチキンバーガーとスマイルを下さい。」と言ってしまった。店員 B は、「テリヤキチキンバーガーですね。」と述べ、テリヤキチキンバーガーを提供した。B は、スマイルの注文については華麗にスルーした。
<料金表>
テリヤキバーガー 290円テリヤキチキンバーガー 270円スマイル 0円
Q1 テリヤキバーガーの売買契約は成立しているか?
Q2 テリヤキチキンバーガーの売買契約は成立しているか? Q3 スマイルをする契約は成立しているか?
Case1
売買契約について第1 契約の成立
(思考ポイント)
① 契約はどのような要件が備われば成立するのか?
② 内心(心の中)と表示(外形)に齟齬(ズレ)がある場合、本来であればいずれを重視すべきなのか?
③ ②で答えた回答を重視しすぎた場合に何か不都合は生じないか?
〜1つの解答〜
契約は、申し込みと承諾があって初めて成立します。申し込みと承諾が一致することを意思表示の合致といいます。
契約は、いわばペナルティ付きの約束です。契約が成立した以上、義務を果たさなければ債務(お仕事のことを債務といいます)不履行といって損害賠償しなければなりません
(415条参照)。このように重い責任を負うのですから、本人が納得いかない限り契約は成立しません。
ですから、当事者の心を基準にして意思の合致があるかを見るべきです。すなわち、当事者が真に売ろうと思っている物と真に買おうと思っているものが一致しない限り本来契約は成立しないはずです。内心を基準に意思表示の合致を見るのが理想である、これをひとまず押さえましょう。
もっとも、内心は外から見ることは出来ません。
出来たら・・私は外を歩けません笑。内心を基準にすると相手方の地位が非常に不安定になります。本件でいうと店員 B は、A が「テリヤキチキンバーガーが欲しい」と信じるですから、後から「いや。内心はテリヤキバーガーが欲しいと思っていたのだ!」と言われても・・そんなの知るか、と言いたくなります。このように言い間違いなどをされた場合、内心を基準にすると相手に迷惑を掛けてしまいます。
そこで、意思表示が合致しているかは、一般的に表示(外形)から考えるとされています。本件では、テリヤキチキンバーガーを290円で買います、という申し込みに対し て、テリヤキチキンバーガーを290円で売ります、という承諾がなされていると見て、意思表示の合致が認められるのですね。
これに対して、xxxxxxxxについては、申し込みすらされていません。ですから、意思表示の合致などあり得ませんよね。
では、スマイルについてはどうでしょうか。A 君がスマイルをくださいと申し込みをしました。しかしながら、店員 B は、スルーしています。ですから、承諾は存在せず、意思表示の合致はありません。
よって、テリヤキチキンバーガーのみ契約が成立しています。では、A 君は、290円を払わないといけないのでしょうか??
第2 錯誤無効
Case2-1
ヤフーオークションでパソコンを購入してみたよ事件
C さんは、ヤフーオークションにおいて MacBook を入札し購入することにした。C さんは、入札価格として「50,000円」と打ち込もうとしたが、途中で機器がフリーズし、その際0キーを連打し入札ボタンを押したところ、突如フリーズが解除され、「5,000,000円」のまま入札ボタンを押してしまった。
出品者 D は破格の値段をつけていた C さんに落札することを決め、結局 C さんは、MacBook を「5,000,000円」で購入することになった。
Q1 契約は成立しているか?
Q2 C さんは、5,000,000円を支払わないといけないか?
Case2-2
思ったより量が少なかったよ事件
E さんは、お腹がすごく空いていた。そこで、お腹いっぱいになる分量が入っていると期待して、牛丼屋「すきやねん」に入り、牛丼特盛を頼んだ。しかしながら、牛丼特盛には期待するほどの分量はなかった。
Q3 E さんは、支払ったお金を返してもらうことができるか?
(思考ポイント case2-1)
C さんは、5,000,000円を支払うつもりはない。そこで、C さんが、代金支払いを拒絶するために、民法総則の条文を使用することはできないでしょうか?よくわからない問題が出た場合、必ず、条文を見ることが大切です。
(思考ポイント case2-2)
E さんは、牛丼特盛を食べたいと思って、牛丼特盛を下さいと言っています。この事案で、錯誤は存在するのか?この点を考えることが大切です。
〜1つの解答〜
case2-1
本件において、MacBook を「5,000,000円」で購入する旨の意思表示の合致がありますね。ですから、この内容の契約が存在することに疑いはありません。
もっとも、C さんは、誤って5,000,000円という値をつけてしまったので、何とか支払いを拒絶したいと思うでしょう。
そこで、民法95条をみましょう。「法律行為の要素に錯誤がある場合」契約を無効にできる条文です。契約を無効にする・・とは、文字通り「なかったこと」にできます。当然、お金を支払う必要もありません。
では、本件は「法律行為の要素に錯誤がある場合」にあたるでしょうか。まず、物を買うことは法律行為にあたることに疑う余地はありません。また、「要素」とは、法律行為の重要部分であり、この部分に錯誤がなければ本人だけではなく一般人の観点からしても意思表示をしなかったであろうと認められることをいいます。本人だけではなく誰でもこの値段や内容では買わないだろうと思われることが必要なんですね。本件では、「要素」にあたることに疑いはありませんね。
では、「錯誤」にあたるでしょうか?錯誤とは、内心的効果意思と表示行為との間に不一致があることをいいます。表示はあるのに心が空っぽの状態です。本件では、MacBookを「5,000,000円」で買いたいとの表示があります。ですが、C さんは、そんなこと思っていません。ですから、表示に対応する心は全くありません。したがって、内心的効果意思と表示行為の間に不一致があるとして錯誤が存在します。
よって、95条本文の要件を満たしますね。
もっとも、C さんに重大な過失がある場合、ペナルティとして無効主張することができなくなります。そこで、C さんに重過失があるかどうかをみます。過失とはうっかりのことです。朝起きたら「12時だった」、というのは過失。電車が遅延して遅刻した、というのは「無過失」です。本件は機械の誤作動によるものですから、C さんのミスとはいえません。入札する前に確認しろよ、と言いたくなった方、非常に良いところに目をつけていますね。機械の誤作動を原因に5,000,000円の文字を入力し、そこで機械が止まったならば、入札を阻止できます。このケースであるならば、C さんに過失はありますが、重過失とまではいいにくいと思います。ですから、いずれにせよ、契約を無効にできるでしょう。
Case2-2
このケースでは、内心と表示に齟齬はありません。内容はどうであれ牛丼特盛がほしくて牛丼特盛を頼んでいます。ですから、錯誤はないと思われます。
しかしながら、E さんは、牛丼特盛の分量を期待して購入しようとしています。お腹いっぱいになりたい気持ちが「特盛を食べたい」と思わせています。
お腹いっぱいになりたいという動機が、特盛を食べたいという心を生んでいます。このように、心は存在しますが、動機の部分と現実に不一致があるケースがよくあります。
違う例ををあげましょう。この子は優しいに違いないと思い、お付き合いをしたいと思い、告白をした、しかしながら、彼女は優しくなかった・・。このようなケースはありますよね。このケースでは、目の前のこの子とお付き合いをしたいとの心があり、付き合ってくださいという表示があります。ですから、内心と表示に不一致はありません。もっとも、付き合いたいと思った原因たる動機に勘違いがありました。このような動機の部分に勘違いがあるケースを動機の錯誤事例といいます。
動機の錯誤事例では、動機を相手方に明示または黙示にでも表示していない限り、無効主張できないとされています。動機が表示されてさえいれば相手方は、「この人勘違いしているな。」と気付けるので無効とされてもやむを得ないといえるのです。
本件では、動機が明示または黙示に表示されているとはいえません。したがって、無効主張するのは難しいと思います。
〜アドバイス〜
動機の錯誤に関して、明示または黙示に表示されていない限り、無効とすることはできないとされています。ですから、契約をする際には、なぜそのものを買うのかを相手に伝えておくことが大切です。メール等ができるのであれば相手に「何々だから買うことにしたよ。」と証拠を残しておくことが大切です。もちろん、口頭でも伝えておくことが非常に大切です。
第3 瑕疵担保責任
幽霊が出る物件を買っちゃったよ。
F くんは、神戸駅ハーバーランド近くにあるタワーマンションの1室を購入した。 F くんは、金額7000万円を出して料金を支払った。
しかしながら、X xxの購入したマンションには、長い髪の女性の幽霊がとり憑いていた。夜な夜なシャワーの蛇口から水が流れ出す、ドアが勝手に開く、鏡に幽霊が写り込むなど・・怪奇現象が相次いだ。
Q1 F くんは相手方に対して、契約を解除してお金を返せということができるか?
Q2 F くんは相手方に対して、損害賠償請求をすることができるか?できるとして金額はいくらか?
Case3
(思考ポイント)
本件は錯誤が問題になる事案です。ただ、他の主張はできないのでしょうか?後ろの方の条文に目をやってみましょう。欠陥品を提供された場合に救済する条文があります。
〜1つの解答〜
本件では、いわゆる欠陥品を購入してしまっています。通常有する性質性能を欠く(契約上要求される性質性能を欠く)ことを「瑕疵」といいます。
瑕疵があり、しかも、通常の判断能力では気づくのが容易でない場合(「隠れた」ものである場合)、相手に対して、570条・566条に基づいて、損害賠償請求ができま す。
また、瑕疵があるがゆえに契約目的を達成できない場合、契約を解除することができます。解除とは契約を初めからなかったことにすることです。
本件では、幽霊が出るという通常の物件ならばあり得ない瑕疵が存在します。また、幽霊が出るかは住んでみないと判別できませんから、「隠れた」といえるでしょう。居住するという目的が達成できないことは言うまでもありません。
そこで、F さんとしては、契約を解除して支払った7000万円を返してもらうことができます。
また、家を維持したままで相手に損害賠償請求することを選択した場合、7000万円と現在の家の時価(幽霊が出る家の金額)の差を損害賠償請求できます。
もっとも、瑕疵担保責任は、思いもかけずに欠陥品を買ってしまった人を保護するものですから、欠陥の存在を気づいていたり気づけたといえるケースでは保護されません。
他に、追及できるものとして相手方に対して説明義務違反を理由とする損害賠償請求をすることが考えられます。
第4 詐欺取消
点数が絶対にあがる英語教材
ピンポーン。家のインターホンが鳴った。
G さんは、おもむろに扉を開けると、巨漢のビゲ面のおっさんが立っていた。
おっさんは、G に対して、「あなた、英語15点なんでしょ?お花畑みたいな点数ね。大惨事。」と罵ってきた。
続けて、おっさんは、「そんなあなたに良い教材があるわ。これよ。」と言って英会話教材を差し、「これを使えば100点満点を採れるわ。100人実験して全員が満点だったのと。うふふ。」と述べ不気味に笑っていた。
G さんは、100点採れると信じ込み、本件英会話教材を購入した。
Q1 G さんはお金を返してもらうことができるか?具体的にどのようにすれば良いか?
Case4
(思考のポイント)
詐欺をされて物を購入してしまっています。そこで、詐欺された人を救済する条文を探してみましょう。
〜1つの解答〜
本件では、詐欺されて物を買わされています。詐欺され騙され物を購入させられたケースにおいて契約を取り消すことができることに疑いはありません(民法96条1項)。
ここで取り消しという言葉がでてきました。取り消しとは、文字通り、契約をなかったことにすることです。裏を返すと、取り消すまでは「有効」なんです。取り消しは、ゲームでいうリセットボタンのようなものですね。リセットボタンを押すまでは有効にプレーできます。最初からやり直したいと思う時にリセットボタンを押せばいいんです。
ここで皆さんに覚えておいてほしいのは、詐欺されたとしても契約は「有効」だということです。必ず、「取り消し」の手続きをしなければいけません。
では、どうするか?
通常は、相手に対して契約を取り消す旨の文書を送ります。内容証明郵便という特殊なものが存在するのですが、数千円かかります。そこで、通常のレターでも構いませんか ら、契約を取り消すので振り込んだ金銭を返してほしい旨記載してください。
この文書が相手に到達した時、有無をいわさず契約は最初からなかったことになりま す。このように、相手に有無をいわせずに効力を発揮する権利を「形成権」といい、最初に遡ってなかったことにすることを「遡及」的消滅といいます。
『練習問題』
A(18歳)は、神戸 S 高校に入学し、「簿記論」の授業を履修した。簿記論の授業では、「誰でもわかる簿記の本」が教科書指定された。
A は、少しでも教科書を安く買いたいと思い、ヤフオクを使って安く購入することを試みた。
A は、商品を購入する際、落札価格のところに「1980円」と入力した(まだ、落札ボタンはされていない)。
その直後、A は、尿意を催したのでトイレに向かった。このとき、A の飼い猫である
「モリモリ」が、A の PC の上に乗り肉球でキーボードを可愛く操作してしまった。これにより落札価格は「19800円」と入力された状態になった。
トイレから帰ってきた A は、数値が変化したことに気づかずに、Enter キーを押し、そのまま落札ボタンを押した(この時点ではまだ A は落札していない)。
直後、出品者である B から「ありがとうございます。あなたは成年者ですか?この価格を払えるのですか?」とのメッセージがきた。これに対して、A は「どうでしょうか?でも、最近はお酒が美味しい季節ですね。この前、競馬(20歳以上しかできない)で当てたのでお金は大丈夫ですよ。」と返信した。
B は(・・うーん、わざとらしい。きっと未成年者だな。でも、お金を払ってもらえるならいいわ。)と考え、「わかりました。あなたに売ります。」と、オークションを早期に締め切り、A を落札者に決定した(この時点で売買契約が成立)。
Q:A は、B に対して、19800円を支払わないといけないか?A としてどのような法的主張をすることができるか(結果的にできなくても構わない)。検討しよう。
* 本件は習ったことと習っていないことが混在しています。
* 未成年者は契約を取り消すことができます。ですが、相手は未成年であることを見抜いていますね。これを踏まえて本件事案を考えてみよう。