株式会社は、MGM Resorts International(合同会社日本MGMリゾーツの完全親 会社)とともに、IR事業用地において特定複合観光施設区域整備法(平成三十年法 律第八十号。以下「IR整備法」という。)2条3項に規定する事業を行おうとする 民間事業者として、IR整備法8条1項に基づき、大阪府が公募により選定したもの である。大阪IR株式会社、オリックス株式会社、MGM Resorts International及...
別紙1
1 請求の要旨
(1)監査請求の趣旨
ア 地方自治法 242 条1項の規定により、大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員による、下記事業用定期借地権設定契約(以下「本件借地権設定契約」という。)の締結の差止めその他の必要な措置を講ずることを求める。
記
賃貸借の目的 夢洲地区(大阪市此花区夢洲中1丁目1番1他)の一部(約 49 万㎡)(以下「IR事業用地」という。)
賃貸人 大阪市
賃借人 大阪IR株式会社
イ 地方自治法 242 条1項の規定により、大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員が本件借地権設定契約を締結するに当たり、大阪市が土地所有者の責任として大阪I R株式会社による事業のために必要な土壌汚染除去等の処理費用を負担する旨の合意の締結の差止めその他の必要な措置を講ずることを求める。
ウ 地方自治法 242 条4項の規定により、本件借地権設定契約ないし第2項の合意の締結の停止の勧告を求める。
(2)監査請求の理由ア 事案の概要
本件は、大阪府と大阪IR株式会社が実施する予定の大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画において、大阪IR株式会社が行うIR事業のための事業用地として、大阪市の所有する大阪・夢洲地区の一部(IR事業用地)の賃貸借契約(本件借地権設定契約)の締結が予定されているところ、当該契約に関して、大阪市が土地の所有者の責任として当該事業のために必要な土壌汚染除去等の処理費用を負担する旨の合意をすることが相当の確実さをもって予測されることから、監査請求人らが本件借地権設定契約等の締結の差止め等を求めた事案である。
イ 当事者
(ア)監査請求人
監査請求人らは大阪市の住民である。
(イ)大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員
本件監査請求で問題となる財務会計上の行為は、大阪市港営事業の管理者である大阪港湾局長が大阪市港営事業として行うものであり、その権限は大阪港湾局長に属するものと解されるが、監査請求人にとっては必ずしも明白ではないので、監査請求の対象は、広く本件監査請求の対象を大阪市長又は大阪港湾局長その他の大阪市の職員とし、以下においては「大阪港湾局長等」という。
(ウ)大阪IR株式会社
大阪IR株式会社は、カジノ施設の設置運営等を目的とする株式会社である。合同会社日本MGMリゾーツ及びオリックス株式会社が主要な株主である。オリックス
株式会社は、MGM Resorts International(合同会社日本MGMリゾーツの完全親 会社)とともに、IR事業用地において特定複合観光施設区域整備法(平成三十年法 律第八十号。以下「IR整備法」という。)2条3項に規定する事業を行おうとする 民間事業者として、IR整備法8条1項に基づき、大阪府が公募により選定したもの である。大阪IR株式会社、オリックス株式会社、MGM Resorts International及 び合同会社日本MGMリゾーツは、上記民間事業者及びその関係者であるので、以下、総称して本件事業者という。
ウ 大阪市港営事業
(ア)地方公営企業法、大阪市港営事業の設置等に関する条例等 A 大阪市港営事業の設置
地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)2条3項の規定により、地方公共団体は、条例で定めるところにより、その経営する企業にこの法律の規定の全部または一部を適用することができる。
大阪市は「地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)」の規定に基づき、公営事業の設置等に関し必要な事項を定めることを目的」として「大阪市港湾事業の設置等に関する条例(昭和 41 年 12 月 28 日条例第 58 条)」を制定した。
同条例2条は、大阪港において荷役機械及び上屋倉庫を提供することを目的とする港湾施設提供事業と大阪港水域を埋め立て港湾関連用地及び都市機能用地等を造成することを目的とする大阪港埋立事業を設置すると規定している。
さらに、同条例3条1項は、経営の基本として、「港湾施設提供事業及び大阪港埋立事業(以下「港営事業」という。)は、総合的かつ合理的な港湾荷役能力の確保を図り、また、港湾関連用地及び都市機能用地等を造成し、もつて本市の発展と市民の福祉を増進するとともに、事業の経済性を発揮するように運営されなければならない。」と規定している。
B 大阪港湾局長
これを大阪市の組織として見ると、大阪市事務分掌条例(昭和 38 年6月 27 日条例第 31 号)2条は、「港湾及び海岸に関する事項」に関する事務を分掌する組織等として大阪港湾局を置いている。
また、大阪市事務分掌規則(昭和 24 年9月 15 日規則第 133 号)は、局に局長等を置き(同規則2条1項)、大阪港湾局の各部及び各課の事務分掌を細別している(同規則 22 条)
以上のことから、地方公営企業である港営事業の管理者は、大阪港湾局長であると思われる。
(イ)独立採算制
地方公営企業法3条は次のとおり規定している。「(経営の基本原則)地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない。
したがって、地方公営企業法の適用を受ける大阪港湾局も、「常に企業の経済性を発揮」し、「その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければ
ならない。
(ウ)埋立地の分譲及び貸付事業 A 埋立地の分譲事業
大阪港湾局が令和4年3月入札について規定した「条件付一般競争入札による市有不動産の売払い実施要領【咲洲】」の「売払物件調書」には、「特記事項」の記載がある。ここでは、地中埋設物、砕石、ドレーン排水設備、地盤改良杭、雨水処理のための側溝、沈下板などの残存可能性(15 頁特記事項7)及び土壌汚染対策法に規定されている特定有害物質及び大阪府生活環境の保全等に関する条例に規定されている管理有害物質の指定基準を超過する土壌・地下水(基準値超過土)並びに油汚染対策ガイドラインに示されている油膜・油臭・TPH(全石油系炭化水素)が土壌・地下水に存在している可能性(16 頁特記事項8)を指摘しながら、「引渡しはすべて現状有姿で行い」「本市は契約不適合責任を一切負いません」(15 頁特記事項7)と規定している。
売買契約書(案)についても同様である(8条。28 頁)。
B 埋立地の貸付事業
大阪港湾局が令和2年2月入札について規定した「条件付一般競争入札による 市有不動産の貸付け実施要領」の「物件調書」には、「特記事項」の記載がある。そこでは「土壌汚染や埋設物について、本市は調査、対策を行いません。ガレキ、土砂、雑草等が残置していても本市は処分等を行いません。必要に応じて落札者 の負担で対応してください。なお、本市は瑕疵担保責任を一切負いません」と記 載されている(17 頁、26 頁、29 頁)。また、市xx賃貸借契約書(平面利用)に おいては、借主が借地の土壌汚染の状況を把握することに努め、土壌汚染が判明 した場合は、健康被害を防止する措置を講ずることを借主に義務付けており(23 条)、更に土壌汚染等に関する取扱いについて、「土壌汚染等に関する特記仕様 書」に詳細に規定している。
C 一般的な契約形態
以上の通りであり、大阪港湾局は、市xxの分譲・貸付事業において、一般的に、当該土地の引き渡しは現状有姿でなされ、契約不適合責任又は瑕疵担保責任を負担しない旨の合意を付して、買主又は借主と契約を締結しており、賃貸借の場合であっても、土壌汚染対策に関しては、明白に借主の責任としている。
エ 普通地方公共団体が所有する不動産の管理等の権限
(ア)憲法 94 条
憲法 94 条は、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し」と規定して財産を管理することが自治体の重要な事務の一つであることを明らかにしている。
(イ)行政財産と普通財産
普通地方公共団体が所有する財産のうち不動産は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)238 条1項に規定される「公有財産」である。公有財産は、行政財産と普通財産に分かれる。
行政財産は、その使用目的から、公用に供する財産である公用財産と、一般住民の用に供する公共用財産に分類される。公用財産の例は庁舎等の建物と敷地であり、
公共用財産の例は道路、病院、学校、公園、図書館等の建物と敷地である。
また、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいう(地方自治法 238 条4項)
行政財産は、地方自治法 238 条の4第2項から第4項までに定めるものを除き、交換、売払、譲与、出資若しくは信託等の処分又は貸付け若しくは私権の設定を行うことができない(同条1項)
これに対し、普通財産は、交換、売払、譲与、出資若しくは信託等の処分又は貸付け若しくは私権の設定を行うことができる(地方自治法 238 条の5第1項)。
(ウ)普通財産の貸付の権限
A 地方自治法 149 条6号(長の権限)
地方自治法 149 条6号は、普通地方公共団体の財産を取得し、管理し、処分する権限は、普通地方公共団体の長に属するものとしている。
ここで取得とは、その財産の購入、交換、寄付の受xxをいい、管理とは、財 産の移転・消滅を生じることなく使用、収益、維持、管理を行い、信託し、時効 を中断する等の法律上、事実上の行為をすることをいい、処分とは、売却、交換、贈与等の財産の権利移転のほか、消費、廃棄等の事実上の権利変更を含む。普通 財産である不動産の貸付(貸借)は、上記の管理行為の一つである。
もっとも、地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)9条7号及び 33 条1項は、企業用資産の取得、管理、処分は管理者の権限としている。また、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三十一年法律第百六十二号)21条2号は、教育財産の管理は教育委員会の権限とし(ただし、教育財産の取得及び処分は、長の権限である(同法 22 条4号))このように、法の特別の規定があるときは、普通財産の管理等は、普通地方公共団体の長ではなく地方公営企業の管理者等の権限となる。
B 地方自治法 96 条1項6号(議会の権限)
地方自治法 96 条1項6号は、条例で定める場合を除くほか、普通地方公共団体の財産の交換、出資、支払手段としての使用、適正な対価によらない譲渡・貸付けを議決事件と定めている。
また、普通地方公共団体の財産の管理等のうち普通地方公共団体の財産の交換、出資、支払手段としての使用、適正な対価によらない譲渡・貸付けについて、地 方自治法 237 条2項は、同法 238 条の 4 第1項の規定の適用がある場合を除き、条 例又は議会の議決による場合でなければ、これを禁止している。
地方自治法 96 条は、「普通地方公共団体の議決機関としての議会の権限に関する規定」であるとされ、本条の議決権(第1項の議決権は制限列挙主義)は「議会の権限中最も基本的であり、本質的なもの」で、「議決によって、普通地方公共団体としての意思が決定する」と説明される。
従って、普通地方公共団体の財産の管理等のうち地方自治法 96 条1項6号及び同法 237 条2項所定の適正な対価によらない貸付は、条例の定めがない場合には、当該普通地方公共団体の議会の権限となる。
C 契約締結の権限
地方自治法 149 条柱書は、「普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。」とし、同条2号に「予算を調製し、及びこれを執行すること」と定めている。
ここで予算の執行とは、「成立した予算に基づいて、歳入を収入し、地方債を起こし、契約の締結その他の支出負担行為をし、支出を命令し、あるいは債務負担行為(法二一四)に基づく債務負担をし、一時借入金を借り入れ、経費の流用をする等予算を実行するための一切の手続の執行をいう」とされる。
もっとも、「地方公営企業の予算については、管理者が予算xxxを有するというべきであって(地公企法八1・九Ⅷ~Ⅹ等参照)、普通地方公共団体の長の予算xxxの特例となっている」。
(エ)不動産の貸付の規制 A 地方自治法2条
地方自治法2条 14 項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」と定める。
同条項は、普通地方公共団体の事務処理に当たっての基本原則として、「最少経費最大効果」の原則が強く要請されることを規定している。
地方自治法2条 14 項は、普通地方公共団体が普通財産である不動産を貸し付ける契約を締結する場合にも適用される規制規範である。
B 地方財政法(昭和二十三年法律第百九号)4条1項
地方財政法4条1項は、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」と定めている。
本来、歳出予算は、執行機関に支払を可能ならしめ、かつ、支出の最高限度額として執行機関を拘束するものであって、支出額自体を定めるものではないところ、同項は、予算の執行において、執行機関がその目的達成のための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならないことを規定している。
地方財政法4条1項は、地方公共団体が普通財産である不動産を貸し付ける契約を締結する場合に経費の支出を伴う場合には、適用される規制規範である。
オ 大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画
(ア)IR整備法
IR整備法6条1項は、都道府県等による実施方針の策定を要件としている。ま た、同法9条は、特定複合観光施設区域(IR区域)を整備しようとするに当たって、国道交通大臣による区域整備計画の認定を要件としている。
そして、国土交通省観光庁のウェブページによれば、区域整備計画の認定申請の期間は「2021 年 10 月~2022 年4月」とされている。
(イ)大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画の認定申請に至る経緯 A 本件事業者の選定
令和元年 11 月 21 日、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備 実施方針
(案)」が公表され、同年 12 月 24 日、大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業事業者公募(RFP)が実施された。
令和3年3月 19 日、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備 実施方針」が確定し、「大阪・夢洲地区特定複合観光施設設置運営事業 募集要項」の修正を経て、同年9月 28 日、オリックス株式会社とMGM Resorts International が大阪・夢洲地区においてIR整備法2条3項に規定する事業を行おうとする民間事業者として、IR整備法8条1項に基づき、大阪府により選定された。
B 大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書
大阪府、大阪市及び大阪IR株式会社は、令和4年2月 15 日、大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域整備等基本協定書(以下「基本協定書」という。)を締結した。
C 大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画の申請
大阪府は、令和4年4月末頃、IR整備法9条1項に基づき、大阪・夢洲地区 特定複合観光施設区域の整備に関する計画(以下「本件区域整備計画」という。)の認定を申請した。
(ウ)本件区域整備計画申請後の経緯
基本協定書別紙2事業日程によると、本件区域整備計画が令和4年秋頃に国土交通大臣に認定された場合、大阪府と大阪IR株式会社とは、同年冬頃、国土交通大臣に対し、IR整備法 13 条所定の実施協定の認可申請及び締結を行い、大阪府、大阪市及び大阪IR株式会社は、立地協定の締結を行い、大阪市と大阪IR株式会社は、事業用定期借地権設定契約(本件借地権設定契約)の締結を行う予定である。
カ IR事業用地の土壌汚染
(ア)土壌汚染の存在
A 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)
土壌汚染対策法は、土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により、土壌汚染対策の実施を図り、もって国民の健康を保護することを目的とする
(同法1条)。
土壌汚染対策法は、土壌汚染を構成する物質のうち、人の健康被害を生ずる恐れがあるものに限り、「特定有害物質」として法の対象としている。
土壌汚染対策法施行令1条においては、汚染土壌中に含まれる有害物質の摂取の経路のうち、①汚染土壌の直接摂取、②地下水の飲用等による摂取に着目し、 26 物質を特定有害物質に指定している。
26 の特定有害物質は、土壌汚染対策法施行規則において 12 項目の「第一種特定有害物質」(揮発性有機化合物)、9項目の「第二種特定有害物質」(重金属等)、5項目の「第三種特定有害物質」(農薬・PCB等)の3種類に分類されている。
これは、その化学的性質、土壌中での挙動、健康被害の発生経路等が異なることから分類しているものであり、土壌汚染の調査や措置の方法に違いが生ずることとなる(同施行規則6条1項)。
この 26 物質はいずれも地下水に溶出し、これを飲用等することにより健康被害の恐れがある。また、そのうち重金属を中心とする9物質(カドミウム、六価ク
ロム、シアン、水銀、セレン、鉛、砒素、ふっ素及びほう素)(第二種特定有害物質)は、汚染土壌の直接接種による健康被害のおそれもある。
B 土壌汚染の存在
令和3年1月、夢洲地区、IR事業用地における土壌汚染対策法上の土壌汚染の存在が公式に認められた。
すなわち、大阪市の北港テクノポート線建設事業において、大阪市環境評価条例に基づく事後調査報告書(R2.7~R3.3)(以下「北港テクノポート線建設事後調査報告書」という。)が公表された。その中で、IR事業用地のうち特定の1地点のボーリング調査によって得られた土壌試料について土壌分析が実施されたところ、土壌汚染対策法上の特定有害物質のうちの重金属等(第二種特定有害物質)である鉛及びその化合物(施行令第1条 20 号)、砒素及びその化合物
(施行令第1条 21 号)、について、鉛及びその化合物については地表面からの深さ10 メートル、17 メートルについて土壌汚染対策法施行規則(平成14 年環境省令 第 29 号)別表第4)に基づく基準値(溶出量)を超過しており、不適合であった。
(イ)形質変更xx届出区域の指定 A 土壌汚染状況調査
(A)土壌汚染状況調査とは
土壌汚染対策法1条の「土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置」とは、一定の機会をとらえて土壌汚染の状況を調査し、その結果、一定の基準を超える汚染が判明した土地の区域を指定する一連の措置のことを言い、具体的には、土壌汚染状況調査(土壌汚染対策法3~5)、区域の指定
(同法6・11・14)及び台帳の調製・保管(同法 15)を指す。
土壌汚染対策法は、3条、4条又は5条に基づき行われる土壌汚染の調査を
「土壌汚染状況調査」と定義している。したがって、それ以外の場合の土壌汚 染の調査(環境管理の一環として、又は土地取引時に自主的に行われる調査等)は、「土壌汚染状況調査」には該当しない。
もっとも、同法 14 条では、本法に基づかない自主的な調査の結果、汚染があると考えるときは、都道府県知事等に対して区域指定を申請することができ、都道府県知事等がその自主的な調査がxxに、かつ、同法3条1項の環境省令
(施行規則2~15 条)で定める方法により行われたものであると認めるときは、区域指定を行うことができると定めているが、この場合、その自主的な調査は
「土壌汚染状況調査」とみなされる(土壌汚染対策法 14 条3項)。
(B)土壌汚染状況を実施する者
土壌汚染状況調査を実施する者は、土壌汚染対策法3条、4条及び5条の調査においては、環境大臣又は都道府県知事が指定する指定調査機関である。
土壌汚染の調査は、試料の採取地点の選定、試料の採取方法などにより結果が大きく左右されることから、調査結果の信頼性を確保するためには、調査を行う者に調査の実施についての適切な技術的能力が求められる。このため、調査を行う技術的能力を有する者を行政が指定する指定調査機関の制度を設けられている。
もっとも、法 14 条1項に基づく土地所有者等の申請に係る調査の実施者は、指定調査機関であるとは限らない。当該調査が土壌汚染状況調査とみなされるためには、当該調査がxxに、かつ、法3条1項の環境省令で定める方法(施行規則2~15 条)により行われたものであると都道府県知事等が認めるときでなければならない。
(C)調査の方法
調査の方法については、同一の土地の調査結果に差が生じないようにする観点から、土壌等の試料の採取の地点、測定の方法等が詳細に定められている
(施行規則2~15 条)
土地の面積に応じた数の試料採取地点において土壌試料を採取し、各試料について、試料採取等対象物質の水への溶出量を測定するとともに、直接摂取による健康被害のおそれのある試料採取等対象物質については含有量を測定する旨が定められている。また、第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)については、揮発性が高い性質を利用して、まずは土壌ガス中の濃度を測定し、これをもとに土壌資料の採取地点を選定することとされている。
具体的な調査方法の概要は以下のとおりである。
a 調査の対象となる物質
調査の対象となる物質は、使用が廃止された有害物質使用特定施設において使用等されていた特定有害物質の種類及びその分解により生成するおそれのある特定有害物質の種類(分解生成物)だけではない。
その土地の過去の土壌汚染に関する調査結果や特定有害物質の埋設、使用及び貯蔵等の履歴を踏まえ、汚染の恐おそれがあると思料される特定有害物質の種類について調査を行う必要がある。なお、この汚染のおそれがあると思料される特定有害物質の種類には、分解生成物も含まれる。
b 汚染のおそれの由来に応じた調査
調査の対象となる土地について、汚染のおそれのある特定有害物質ごとに、汚染のおそれの由来に応じた試料採取等を行う区画の選定等を行うことにな る。具体的には、汚染のおそれのある特定有害物質ごとに、自然由来の汚染 のおそれがある土地、水面埋立て土砂由来の汚染のおそれがある土地、人為 等由来(自然由来と水面埋立て土砂由来以外)の汚染のおそれがある土地に 区分し、それぞれ、自然由来汚染調査(施行規則10 条の2)、水面埋立て土 砂由来汚染調査(施行規則10 条の3)、人為等由来汚染調査(施行規則3条 の2~10 条)を行うこととなる。
c 人為等由来汚染調査、自然由来汚染調査、水面埋立て土砂由来汚染調査
(a)試料採取の密度
人為等由来汚染調査においては、調査の対象となる土地も、場所ごとに土壌汚染のおそれの程度は様々であることから、測定を行うための土壌等の試料の採取は、土壌汚染のおそれの大きい場所は詳しく、おそれの小さい場所はより大まかに行うことになる。
具体的には、調査の対象となる土地を、特定有害物質の使用状況等から
「土地汚染のおそれがない土地」「土壌汚染のおそれが少ない土地」「そ れ以外の土地(土壌汚染のおそれがある土地)」の3種類に区分し、それ ぞれについて、「土壌等の採取を行わない」「30m格子に1点」「10m格 子に1点」の割合で土壌等の試料を採取し、それぞれについて測定を行う。
自然由来汚染調査においては、「900m格子ごとに 900m格子内の最も離れた2つの 30m格子に1点ずつ」、水面埋立て土砂由来汚染調査においては、「30m格子に1点」の割合で土壌等の試料を採取し、それぞれについて測定を行う。
なお、土地の形質の変更を契機として行う土壌汚染状況調査(本条8項、
4条2項、4条3項に係る調査)では、単位区画における最も深い位置の土地の形質変更の深さ(以下「最大形質変更深さ」)より1mを超える深さにのみ汚染のおそれが存在する場合は、その単位区画については試料採取等の対象としないことができること等を定めている。
(b)試料採取等対象物質の種類ごとの測定方法
第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)については、揮発性の高い性質を利用して土壌ガス調査を行う。土壌ガス調査で特定有害物質が検出された場合には、土壌溶出量調査を行う。
第二種特定有害物質(重金属等)については、地下水を経由した摂取と汚染土壌の直接摂取の双方の観点からの健康被害のおそれがあるため、土壌溶出量調査と土壌含有量調査を行う。
第三種特定有害物質(農薬等)については、地下水を経由した摂取による健康被害のおそれのみがあるため、土壌溶出量調査を行う。
(c)試料採取及び測定の省略
調査の効率化及び調査費用の低減の観点から、土地の所有者等が土壌汚染がある土地とみなしてよいと考える場合には、土壌汚染状況調査の全部又は一部の過程を省略できることとしている。
また、自然由来及び水面埋立て土砂由来の調査対象地については、その調査方法が通常の調査方法と異なることから、別に省略の仕組みを定めている。
B 区域指定
既に述べた通り、土壌汚染対策法1条の「土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置」とは、一定の機会をとらえて土壌汚染の状況を調査し、その結果、一定の基準を超える汚染が判明した土地の区域を指定する一連の措置のことを言い、具体的には、土壌汚染状況調査(法3~5)、区域の指定(法6・11・14)及び台帳の調製・保管(法 15)を指す。
区域の指定のうち、の要措置区域(土壌汚染対策法6条1項)は、土壌汚染対策法6条1項1号に該当し(汚染があるが)、かつ、同項2号に該当する場合
(健康被害のおそれがない)に都道府県知事及び政令で定める市(特別区を含む。)の長(以下「都道府県知事等」という。)によってなされるものであり、形質変更時用届出区域(土壌汚染対策法 11 条1項)は、土壌汚染対策法6条1項
1号に該当するが(汚染があるが)、同項2号に該当しない場合(健康被害のおそれがない)に「都道府県知事等」によってなされるものである(以下「形質変更xx届出区域」と「要措置区域」を併せて単に「区域」という。)。土壌汚染対策法 14 条3項に基づき、指定される区域も「要措置区域」か「形質変更xx届出区域」かのいずれかである。要措置区域の指定と形質変更xx届出区域の指定の違いは、前者においては、土地の形質の変更が規制されるとともに、汚染の除去等の措置を講ずる必要があるとされ、後者については、土地の形質の変更のみが規制されるという点である。
C 大阪市による形質変更xx届出区域(埋立地特例区域)の指定
前記(ア)Bの土壌分析を受けて、大阪市は、土壌汚染対策法 11 条1項、同法 64、同法施行令 10 条に基づき、IR事業用地(約 49 万㎡)を含む夢洲2、3、4区(1,152,127 ㎡。以下「本件区域」という。)について形質変更xx届出区域
(分類:埋立地特例区域)に指定し、令和3年1月 22 日、これを公示した。
当該指定(以下「本件区域指定」という。)においては、北港テクノポート線建設事後調査報告書で報告された、不適合物質が「ふっ素及びその化合物」、
「砒素及びその化合物」に加えて、同じく重金属等である「鉛及びその化合物」
(施行令1条 20 号)(第二種特定有害物質)が加えられていた。
また、夢洲4区の一部は、揮発性有機化合物である「クロロエチレン(別名塩化ビニル又は塩化ビニルモノマー)」(施行令1条3号)「1,1-ジクロロエチレン(別名塩化ビニリデン)」(施行令1条9号)、「1,1,1-トリクロロエタン」(施行令1条 17 号)及び「べンゼン」(施行令1条 23 号)(第一種特定有害物質)、重金属等である「鉛及びその化合物」、「砒素及びその化合物」及び
「ふっ素及びその化合物」(第二種特定有害物質)、農薬・PCB等である「ポリ塩化ビフェニル(別名PCB)」(第三種特定有害物質)に汚染された土壌であるとして、一般管理区域に指定され、令和3年5月 21 日、公示された。
D 汚染状態が未確定であること
本件区域について区域指定が行われたものの、IR事業用地について土壌汚染 対策法3条、4条又は5条に基づく土壌汚染状況調査が行われたかは不明である。
公開情報には、法3条、4条又は5条に基づく土壌汚染状況調査は行われた事実は見当たらず、IR事業用地に係る土壌汚染に関する調査結果は、北港テクノポート線建設事後調査報告書しか存在しない。当該調査自体は、上記の土壌汚染状況調査ではない。
そうすると、IR事業用地については、土壌汚染対策法 14 条1項の申請に係る 区域指定がなされたと思われる。その場合、一定の要件を満たせば、大阪市によ る調査が土壌汚染対策法 14 条3項に基づき土壌汚染状況調査として取り扱われる。
その要件の一つは、大阪市による調査が土壌汚染対策法3条1項の環境省令
(施行規則2~15 条)で定める方法により行われたものであることである。
IR事業用地の汚染は、水面埋立て土砂由来と思われるので、大阪市による調査が行われたとすれば、水面埋立て土砂由来汚染調査の方法による調査が行われたはずである。
水面埋立て土砂由来汚染調査の場合、「30m格子に1点」の割合で土壌等の試料を採取し、それぞれについて測定を行うこととされているが、実際には、調査対象の区域全体が土壌汚染の状態であるとみなすことによって、一連の調査を省略することも制度上可能である。
すなわち、IR事業用地に限っても、約 49 万㎡について「30m格子に1点」の割合(約 544 箇所)で土壌等の試料を採取し、それぞれについて測定を行わなければ、汚染状態が判明しないが、本件区域に関しては、北港テクノポート線建設事後調査報告書におけるおよそ1地点の土壌汚染(「鉛及びその化合物」、「砒素及びその化合物」、「ふっ素及びその化合物」による土壌汚染)をもとに、本件区域全部が汚染されているとみなされている可能性がある。
2022 年2月付「事業者との協議経過の概要」(以下「協議概要」という。)において、大阪市は、事業者に対し、2020 年 12 月、「大阪港湾局(北港テクノポート線建設事業)による土壌等調査結果(IR事業用地隣接で土壌汚染が判明)」と説明している。これ以外の土壌調査についての言及は、協議概要にないことからすると、これ以外の土壌調査はなく、IR事業用地内では試料採取を伴う土壌調査は行われておらず、IR事業用地の全部の汚染状態が不明であり、未確定であるということになる。
現在、大阪市は、IR事業用地における残土・汚泥処理について、合計 300 万の残土・汚泥(うち残土:約 190 万㎥、汚泥:約 110 万㎥)が発生するものとして、これを夢洲及びフェニックス等に搬出・処理することとし、それについての市概算負担額を約 360 億円と見積もっている。IR事業用地の面積は約 49 万㎡であるので、平均すると深さ約6m を掘り返すことになる。夢洲の埋立て前の水深が約 17mであることからすると、埋立て分の約3分の1の深さである。
これら残土・汚泥は、既に述べた通り、汚染土壌とみなされることから、搬出、処理に当たっても、土壌汚染対策法に定められた方法に従って、汚染土壌として、搬出・処理されなければならない。
この点、大阪市は、IR事業者に対して、IR事業用地における土壌汚染の説明を行った際に、「指定区域内の土壌は汚染土として処理する必要」があることを認めている。
すなわち、大阪市の計画によると、IR事業用地の汚染状態が未確定なまま、約 300 万㎥という大量の土壌が汚染状態であるとみなされ搬出・処理される可能性が強い。
この大阪市の汚染土壌の搬出等計画には、次のような問題がある。
(A)土壌汚染対策法の趣旨の潜脱
既に述べた通り、IR事業用地に関する土壌汚染に関する調査は、北港テクノポート線建設事後調査報告書に現れた隣接地の1地点の調査しか存在しない可能性が強い。
水面埋立て土砂由来調査においては、調査の省略が認められているとはい え、全体の面積を考慮すると、試料採取等の甚だしい省略であるうえ、調査 地点の客観的妥当性も不明である。IR事業用地についての大阪市の調査は、
著しく不十分であると言わざるを得ない。
この点、既に指摘した通り、夢洲の一部地区は、クロロエチレン等の揮発 性有機化合物(第一種特定有害物質)や農薬・PCB等であるポリ塩化ビフ ェニル(第三種特定有害物質)によって汚染されていることが判明しており、また、本件区域においても、北港テクノポート線建設事後調査報告書におい ては報告されていなかった重金属等であるふっ素及びその化合物(第一種特 定有害物質)の汚染が本件区域指定時には判明している。
このように、本件区域の汚染状況は、大阪市にとっても、市民にとっても正確に把握されていない。もともと、IR事業用地については、土壌汚染がないものとされていたのであり、2020 年 12 月の上記の大阪市説明に対し、本件事業者は、「土壌汚染の判明・対応について、なぜ今の段階となったのか。」と問いただしている。これに対する大阪市の釈明は不明であるが、大阪市が特に隠蔽していたのでなければ、そもそも本件区域の汚染状況の調査を行なっておらず、大阪市自身も薄々勘付いていながら、放置していたものと思われる。本件区域は、厳密な調査が行われれば、今後、新たな特定有害物質による更なる土壌汚染が発見される可能性が十分にある。
このような汚染のおそれのある大量の土壌を、汚染状態が未確定なまま、 大量に掘り起こし、搬出・処理することは、掘削現場、搬出経路、搬入先に おいて、予測不可能な健康被害をもたらすおそれが強いと言わざるを得ない。
制度上、汚染状態が未確定であっても、みなし規定を適用して汚染土壌として取り扱うのであれば、土壌の搬出は許容されているが、実際の汚染状況を客観的に担保する調査が著しく不十分な場合、当該調査結果をもとに、みなし規定が適用されると、みなし汚染と実際の汚染状況との間に大きな乖離が生じる。 このような場合、みなされた汚染に対応した土壌の搬出・処理がなされたとしても、当該搬出・処理は、国民の健康被害の防止には意味をなさないのであって、土壌汚染対策法の趣旨を潜脱する違法な搬出・処理と言わざるを得ない。
このように、大阪市の搬出等計画は、土壌汚染対策法の趣旨を潜脱する違法な汚染土壌の搬出・処理を企図しているものである。
(B)大阪市の費用の積算は、汚染の実態に即した金額ではない。
汚染土壌の搬出・処理費用は、非常に高単価であり、その金額も特定有害物質の種類・数によって変動するとされている。
汚染状態の実態が分からなければ、正確な搬出・処理費用を積算することはできない。汚染土壌の搬出費用は、立米当たり5~10 万円と言われているが、その金額は、特定有害物質の種類、数によって上下する。
約 300 万㎥の土壌の搬出であれば、ざっと 1,500 億円から 3,000 億円である。
従って、大阪市の積算は、みなし汚染の制度を適用した、あくまでも仮定の数値であって、実際の汚染状態に即した積算ではない。
IR事業用地の土地履歴や隣接地の汚染状況からすると、汚染状態を確定
した場合、更なる特定有害物質による土壌汚染が発見される可能性が強く、その場合には、汚染土壌の搬出・処理費用は上昇することになるが、その上昇額すら予測不能である。
キ 違法な財務会計上の行為
(ア)問題となる財務会計上の行為
大阪府、大阪市及び大阪IR株式会社との間で締結された基本協定書 13 条の2は、次のとおり、規定している(【】内は請求人注)。
第 13 条の2(土地課題対策の実施及び当該対策費用の負担)
1 SPC【大阪IR株式会社。以下同じ】は、本件IR施設の建設及び整備に当たり、本件土地に係る地中障害物の撤去、土壌汚染対策及び液状化対策
(以下「土地課題対策」という。)を自ら実施するものとし、市は、当該土地課題対策の実施に実務上合理的な範囲内において最大限協力するものとする。
2 市は、前項の土地課題対策に要する費用の負担について 2022 年2月及び3月開催の市会による債務負担行為の議決が行われることを条件として、市が合理的に判断する範囲で当該費用を負担するものとする。
3 前項に定める費用は、府及びSPCとの間において実施協定が締結された後、本件士地の引渡し並びに本件IR施設の建設及び整備の着工が行われた場合に、債務負担行為として予算に定めた事項、期間及び限度額の範囲内で、立地協定、事業用定期借地権設定契約又は市及びSPCが別途締結する書面に定める各支払期日において、実施協定が有効に存続していることを条件として、市が合理的に判断する範囲で市によって支払われるものであり、市及びSPCは、立地協定、事業用定期借地権設定契約又は市及びSPCが別途締結する書面のいずれかにおいて、その詳細を規定するものとする。
基本協定 13 条の2第1項は、大阪IR株式会社は、本件IR施設の建設及び整備に当たり、本件土地に係る地中障害物の撤去、土壌汚染対策及び液状化対策
(以下「土地課題対策」という。)を自ら実施するものとしているが、その一方で、市は、当該土地課題対策の実施に実務上合理的な範囲内において最大限協力する義務を負う。
大阪市の最大限協力義務の内容は、同条2項で定められている。すなわち、土地課題対策に要する費用の負担について 2022 年2月及び3月開催の市会による偵務負担行為の議決が行われることを条件として、市が合理的に判断する範囲で当該費用を負担することである。同条第1項の最大限協力義務の内容は、上記の土地課題対策費用に限られるものではないと文言上解されるが、その主要なものが第2項の土地課題対策費の負担となると思われる。
そして、上記の土地課題対策費用の負担について詳細な内容は、大阪市と大阪 IR株式会社との間で、立地協定、事業用定期借地権設定契約又は市及びSPCが別途締結する書面のいずれかにおいて規定される。土地課題対策費の支払いの
条件としては、本件士地の引渡し並びに本件IR施設の建設及び整備の着工が行われた場合であること、実施協定が有効であること、その金額が債務負担行為として予算に定めた事項、期間及び限度額の範囲内であることとされている(基本協定書 13 条の2)
B 土地所有者の責任
土地課題対策費について、立地協定、事業用定期借地権設定契約又は市及びS PCが別途締結する書面のいずれかにおいて規定される予定の合意は、形式上、事業用定期借地権設定契約(本件借地権設定契約)においてなされるとは限らないが、本件借地権設定契約の目的である土地の瑕疵に係るものであるので、立地協定や別途書面において合意されるか否かを問わず、本件借地権設定契約の内容を構成する契約であり、かっ、本件借地権設定契約の締結があって初めて当事者間を法的に拘束するものであると解される。
大阪市は、事業者との協議において、地中障害物撤去費、土壌汚染対策費、液 状化対策費について、事業者に対して、これら費用を「土地所有者の責任」とし て負担することを言明した。地中障害物撤去費、土壌汚染対策費については、令 和3年2月に公表され、その後液状化対策費についても令和3年6月に公表され た。大阪市は、これらの責任を「土地所有者の責任」であると内外に向けて位置 付けている。土地課題対策費について、立地協定、事業用定期借地権設定契約又 は市及びSPCが別途締結する書面のいずれかにおいて規定される予定の合意は、かかる協議を前提としている。
そこで、土地課題対策費を大阪市が負担する旨の合意を、土地所有者責任の合意という。
C 責任の上限がないこと
基本協定書 13 条の2は、土地課題対策について大阪市は、「当該土地課題対策の実施に実務上合理的な範囲内において最大限協力する義務を負う」旨規定した上、最大限協力義務の内容として「土地課題対策に要する費用の負担について 2022 年2月及び3月開催の市会による偵務負担行為の議決が行われることを条件として、市が合理的に判断する範囲で当該費用を負担すること」を定めている。
ここでいう合理性であるが、土地課題対策の実施に必要な合理性という意味に解される。従って、土地課題対策の実施において必要な限り、その必要性に合理性があれば、金額の多寡は問わない。
その一方で、基本協定書 13 条の2第3項は、2項の合意の支払いの上限を、大阪市が債務負担行為として予算に定めた事項、期間及び限度額の範囲内としているので、xxすると、同項の合意には、一定の上限があるかのように見える。
しかしながら、基本協定書は、土地課題対策費が第2項の債務負担行為で定めた限度額を超えた場合の大阪市の免責には全く言及していない。
しかも、同条3項にいう上限は、第2項に基づく土地所有者責任の合意について限定したものに過ぎず、同条1項の最大限協力義務を制限するものではない。
従って、本件借地権設定契約が締結された後、土地課題対策費が第2項の債務負担行為で定めた限度額を超えた場合、大阪IR株式会社は、大阪市に対して、
最大限協力義務の履行として、追加の債務負担行為と支出を求めることができる。また、この最大限協力義務は、単なる努力義務であると解することはできない。その理由として、基本協定書 19 条がある。同条を引用すると、次の通りである
(【】内は請求人注)
第 19 条(本基本協定の解除)
1 府及び市は、以下の事由が生じた場合(但し、市については、第1号乃至第 7 号、第 11 号又は第 12 号の事由が生じた場合に限られるものとする。)には、SPCに対する通知をもって直ちに本基本協定を解除することができる。但し、第6条第9項又は第 10 項に基づいて府若しくは市又は府及び市とSPCが誠実に協議していると合理的に認められる期間内において、府及び市は第4号又は第6号に基づいて本基本協定を解除しない。また、府とSPCは、以下の事由が生じた場合においても、当該通知に先立ち、設置運営事業【大阪・夢洲地区におけるIR整備法2条3項に規定する事業。以下同じ】の遂行の可否・方法について誠実に協議を行うものとする。
(1)~(12) 省略
2 省略
3 府又は市が本基本協定上の重大な義務に違反し、SPCが書面による通知により当該違反の是正を求めたにもかかわらず、当該是正に必要な合理的期間
(但し、当該期間は 60 日以上とする。)内にこれが是正されず、それにより、本基本協定の目的が達成されないと合理的に認められる場合には、SPCは府及び市に対する通知をもって本基本協定を解除することができる。但し、主として府又は市の責めに帰すべき事由による場合に限るものとする。
4 SPCは、IR整備法第9条第 11 項に基づく国土交通大臣による区域整備 計画の認定が得られた日から 30 日を経過した日(以下「判断基準日」という。)
(但し、府、市及びSPCの合意により、その期日を延長できるものとする。)において、以下の(1)乃至(7)の条件(以下「本条件」という。)のうち、いずれかが成就していないと判断する場合には、判断基準日から 60 日以内(但 し、府、市及びSPCの合意により、その期日を延長できるものとする。)に、府及び市に対し、その旨及び理由を通知するものとし、この場合、第 22 条にか かわらず、府及び市に対する当該通知をもって本基本協定を解除することがで きるものとする。発効日から判断基準日の前日までの期間において、判断基準 日において本条件のいずれかが成就しないことが確実に見込まれていると判断 する場合も同様とし、当該判断をした日から5営業日(土曜日、日曜日及びそ の他法令等により日本において銀行が休業することを認められ、若しくは義務 付けられている日以外の日をいう。)以内に、府及び市に対し、その旨及び理 由を通知するものとし、当該通知をもって、本基本協定を解除することができ るものとする。なお、判断基準日において本条件のいずれかが成就していない か否か及び判断基準日において本条件のいずれかが成就しないことが確実に見 込まれているか否かの判断は、SPCが、本条件の成就のために府及び市と相
互に緊密に協力・連携するとともに合理的に可能な範囲で努力を行った上で、誠実かつ合理的な裁量により行うものとし、また、判断基準日において全ての条件を一定程度充足しているものの各条件の充足度を総合的に考慮すると設置運営事業の実施が困難であるとSPCが判断基準日において誠実かつ合理的な裁量により判断する場合には、本条件の不成就とみなす。
(1)~(3) 省略
(4)開発
設置運営事業の開発に関して、以下の①乃至③の条件の全てを充足すること。
① 設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれらに限らない。)が生じていないこと、又は、生じるおそれがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者は、当該事象による悪影響の発生の防止を確実とするよう設置運営事業予定者と協力し、一定の適切な措置を講じること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な対策の費用の負担も含むものとする(但し、設置運営事業予定者が作成した設置運営事業に係る事業計画において設置運営事業予定者の負担として計画している工事費等は除く。)。)。
② 公共インフラ整備等による本件工事に対する制限が、設置運営事業の投資リターンに著しい悪影響を与えるおそれがないこと。
③ 上記①及び②を含む予見不可能な事象の発生により本件IR施設の全部開業までに要する総費用が1兆円から著し<増加することが判明した場合には、本事業関連施設の一部や設置運営事業に関するコンテンツの開発を将来に延期(段階的な開発を含む。)できることが合理的に見込まれること。
(以下略)
大阪IR株式会社は、基本協定書 19 条4項の判断基準日(IR整備法第9条第 11 項に基づく国土交通大臣による区域整備計画の認定が得られた日から 30 日を経過した日)において、同項1号から7号の条件が成就していなければ、本協定を解除することができる。
判断基準日は、実施協定、立地協定、本件借地権設定契約等の締結に先立っており、判断基準日において上記条件が成就していると大阪IR株式会社が判断したときには、基本協定 19 条4項の解除権は行使されず、その他の事由で基本協定が終了する場合を除き、基本協定は存続して実施協定、立地協定、本件借地権設定契約等が締結される。すなわち、本件借地権設定契約が締結される時点では、上記条件が成就していることになる。
上記条件のうち4号の条件(以下「4号開発条件」という。)の①は、設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌
に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係 る事象を含むがこれらに限らない。)が生じていないことと述べるが、これら事 象は既に存在が判明しているので、4号開発条件の①の内容は、結局「本件土地 の所有者は、当該事象【本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれらに限らな い。)】による【設置運営事業の実現、運営、投資リターンに与える】悪影響の 発生の防止を確実とするよう設置運営事業予定者と協力し、一定の適切な措置を 講じること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な 対策の費用の負担も含むものとする(但し、設置運営事業予定者が作成した設置 運営事業に係る事業計画において設置運営事業予定者の負担として計画している 工事要等は除く。))」に尽きる。この4号開発条件の①が判断基準日において 成就しているというのは、大阪IR株式会社が設置運営事業を実施するために必 要な土壌汚染除去等の処理費用を、大阪市が土地所有者責任として負担すること を法的義務として受け入れているということを意味している。
そうすると、大阪市の土地所有者責任の内容は、基本協定書 13 条の 2 第3項に
いう債務負担行為の範囲内に限られてはいない。
基本協定書 13 条の2の上限は、同条の2第2項の支払いの上限であって、基本協定書 13 条の2及び同 19 条4項によれば、大阪市の土地所有者としての責任は、上限のないものにならざるを得ない。
債務負担行為は、あくまでも大阪市の予算であり、大阪市が土地所有者責任としての義務に違反して大阪IR株式会社が損害を被った場合には、大阪市の予算如何に関わらず、大阪市は私法上の債務を負うことになる。
その意味では、同条の2第2項の支出につき債務負担行為を上限としても、大阪市が土地所有者責任として負担する金額全部に契約上の上限(超過額の免責)を設けなければ意味がない。
D 土地所有者責任と本件借地権設定契約との関係(監査請求の関係)
土地所有者責任の合意と本件借地権設定契約とは、形式上、別個の合意に区別することができるが、土地所有者責任の合意は、本件借地権契約における目的物の瑕疵に関して賃貸人の責任の内容を規定するものであり、当該契約の本質的な要素として本件借地権設定契約と密接不可分の関係にある。
従って、監査請求人は、監査請求の趣旨としては、本件借地権設定契約の締結 の差止等を求めるが(監査請求の趣旨1)、土地所有者責任の合意が本件借地権 設定契約と別個の契約として取り扱われる可能性があるので、所有者責任の合意 の締結の差止等を求めることを明確にするため監査請求の趣旨2を追加している。
(イ)費用負担の見込み A 土壌汚染対策費用
既に述べた通り、大阪市の計画は、IR事業用地の汚染状態が未確定なまま、約 300 万㎥という大量の土壌を、汚染状態であるとみなして、搬出・処理するということを前提に約 360 億円の費用を見積もっている。
しかしながら、IR事業用地は、汚染状態が未確定である。そのため、汚染状
態の実態が分からず、現時点では、正確な搬出・処理費用を積算することはできない。
大阪市の積算は、みなし汚染の制度を適用した、あくまでも仮定の数値であって、実際の汚染状態に即した積算ではない。
汚染状態の実態が分からなければ、正確な搬出・処理費用を積算することはできない。既に述べたとおり、汚染土壌の搬出費用は、立米当たり5~10 万円と言われているが、その金額は、特定有害物質の種類、数によって上下する。約 300 万
㎥の土壌の搬出であれば、ざっと 1,500 億円から 3,000 億円である。
IR事業用地に土地履歴や隣接地(1区は、廃棄物処理場である。)の汚染状況からすると、汚染状態を確定した場合、更なる特定有害物質による土壌汚染が発見される可能性が強く、その場合には、汚染土壌の搬出・処理費用は上昇することになるが、その上昇額すら予測不能である。
B 液状化対策費用
大阪市は液状化対策費用として約 410 億円を見積もっているが、事業者試算であ り、その正確性には疑問が残ると言わざるを得ない。また、最終的な支出がその 金額の範囲内で収まるかについて確実な見通しはない。IR事業用地を含む夢洲 第3区は、埋立てがなお続いている土地であり、その地盤の軟弱さは報道でも指 摘されている通りである。大阪市の液状化対策の内容は、IR施設として整備予 定の建築物の直下 25mとその周囲 12.5mの埋め立て層のみに限定されている。し かし事業者(SPC)が「夢洲での大規模開発は、支持基盤(洪積層)が長期に 沈下する極めて稀な地盤条件下での施設建設となるため、地盤沈下対策だけで複 雑かつ高難易度の技術検討や建物の安全性確保に多額の対応費用の必要性が生じ ている。このような地盤条件下で、さらに液状化が生じた場合の建物影響は技術 的にもxxであり、地盤沈下・液状化の複合影響を建物構造側で抑止・抑制する 方法(杭補強等)だけでは、確実な安全性は担保できない。」「万全な液状化対 策が必要であり、大阪市で敷地全体の地盤改良を行った上で土地を引き渡す必要」と大阪市との協議において述べているように大阪市の液状化対策は事業者が期 待・想定している改良内容と相違し、今後事業者が求めてくる可能性が高い沖積 層の圧密促進や洪積層の沈下対策などを考慮すればその事業費は 410 億円に収まる ものでなく青天井に増髙することは必至であり、最終的な支出がその金額の範囲 内で収まるかについて確実な見通しはない。
C 地中障害対策費用
大阪市は地中障害対策費用として約 20 億円を見積もっているが、事業者試算であり、その正確性には疑問が残ると言わざるを得ない。また、最終的な支出がその金額の範囲内で収まるかについて確実な見通しはない。
D その他の土地課題対策費用
4号開発条件の①には、「設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれらに限らない。)」と
記されている。
基本協定書 13 条の2第1項で指摘されている地中障害物、土壌汚染、液状化にさらに地盤沈下、残土・汚泥処分が例示として加得られており、これの追加例示は地中障害物、土壌汚染、液状化と意味において重なる部分もあるが、完全にそれに含まれるわけではなく、要は地盤条件に係る事象のすべてである。
基本協定書 13 条の2第1項で指摘されている地中障害物、土壌汚染、液状化は、土地課題対策費と総称されていること、同条の趣旨が設置運営事業の実現、運営、投資リターンへの悪影響を防止することになることにあること、大阪市がその防 止の責任を土地所有者責任と説明していることからすると、4号開発条件にいう 地盤条件のすべてが大阪市の責任の対象となると言わざるを得ない。
そうすると、土地課題対策費用の対象となる項目についても、土壌汚染対策を 残土・汚泥処分対策と同視して取り扱ったが、それに限られる保障はなく、また、液状化、地中障害物以外の項目が追加されない保障もない。
そうすると、本件IR施設の建設及び整備の着工が行われた場合に、土地課題対策費用の責任項目が更に追加される可能性が十分にあると言える。
(ウ)違法性
A 現状有姿の取扱いではないこと
既に述べた通り、大阪市港営事業においては、造成された土地の分譲・貸付については、現状有姿の取り扱いとしており、土地の瑕疵については一切の責任を負担していない。
この取り扱いは、公有企業が独立採算制を採用していること、造成された土地が埋立地であり土地の瑕疵についての責任を無制限に負うことは事業の財政の健全性を損なうおそれがあること、特定の民間企業に限って条件を優遇することは地方公共団体として平等原則(憲法 14 条)に反することなどから、大阪市港営事業にとっては特に要請される合理的な原則であると解される。
しかしながら、本件借地権設定契約に伴い締結される土地所有者責任の合意は、この原則に反していることは明らかであり、かかる例外が許容されるためには相 当な合理性が認められる必要がある。
B 既に巨額の支出負担を伴うことが予想されていること
しかしながら、大阪市の積算においても、大阪市港営事業が土地所有者責任として負担する予定の土地課題対策費は、約 790 億円となる。これだけでもすでに 1,414 億円の未処理欠損金(令和2年度末)を抱えている大阪市港営事業会計にとって財政の健全性に著しい影響を与える負担となることは明らかである。
これに対し、大阪市は、30 年間にわたる大阪IR株式会社からの将来の賃料収入(880 億円)を引き合いに採算性を主張するが、これは 30 年間IR事業が継続することを前提としない限り成立しないという極めて楽観的な見通しである。
この採算性の見通しは、大阪IR株式会社の事業からの撤退リスクを適正に評価していると言えるものではなく、土地課題対策費が事業開始前に支出されるものであることを考えると、支出の回収が全くできない場合もありうると言うべき
である。
C 地方自治法2条、地方財政法4条1項、地方公営企業法3条等
本件借地権設定契約に伴い締結される土地所有者責任の合意は、大阪市が土地所有者の責任として大阪IR株式会社による事業のために必要な土壌汚染除去等の処理費用を負担することを趣旨としており、その金額は現在の見通しでも約 790億円に及んでいる。
更に本件借地権設定契約の締結には、次のとおり、問題がある。
(A)土地課題対策費用の負担の増大が見込まれること
既に述べた通り、土地所有者責任の合意は、大阪市がIR事業用地の瑕疵について大阪IR株式会社に対して無制限に事業に必要な土地課題対策費を負担せざるを得ない内容となっている。
他方、既に述べた通り、大阪市の積算する土地課題対策費は、合理的な積算根拠が明らかにされていない。
とりわけ、土壌汚染についての合理的な調査及び当該調査に基づいた汚染除去等の処理費用の積算が行われていない。
大阪市自身でさえ最終的な土地課題対策費の予測を立てることができていないと思われる。
それにも関わらず、大阪市が本件借地権設定契約に伴い、土地所有者責任の合意を締結することは、著しく合理性に反している。
(B)土地課題対策の実施内容を大阪市が直接に管理できないこと
基本協定書 13 条の2第1項は、大阪IR株式会社は、本件IR施設の建設及び整備に当たり、本件土地に係る地中障害物の撤去、土壌汚染対策及び液状化対策(土地課題対策」)を自ら実施するものとしている。
すなわち、土地所有者責任の合意においては、大阪市は土地課題対策の実施内容を直接に管理できない。そのため、大阪IR株式会社の支出する実施費用がそのまま土地課題対策費として大阪市の負担となるおそれが強い。
これは大阪市にとっては、極めて不利な条件であり、大阪市が本件借地権設 定契約に伴い土地所有者責任の合意を締結ことは、著しく合理性に反している。
以上の通りであり、大阪港湾局長等が本件借地権設定契約に伴い土地所有者責任の合意を締結することは、地方自治法2条、地方財政法4条1項、地方公営企業法3条等に違反しており、違法である。
(エ)本件借地権設定契約ないし土地所有者責任の合意の締結が相当な確実性をもって見込まれること
基本協定書別紙2事業日程によれば、本件借地権設定契約は、2022 年冬頃締結される予定と記載されており、これに伴い土地所有者責任の合意も締結される。本件借地権設定契約ないし土地所有者責任の合意の締結は、相当な確実性をもって見込まれる。
ク 本件借地権設定契約等の締結の停止が勧告されるべきであること
本件借地権設定契約等の締結の時期は、2022 年冬頃とされており、そうなった場合、大阪市は、著しく不利な条件で際限のない負担を負うことになる。
すなわち、大阪市に生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要がある。
また、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれはない。
そうすると、監査委員は、地方自治法 242 条4項に基づく本件借地権設定契約等の締結の停止の勧告を行うべきである。
ケ まとめ
以上の通りであり、大阪港湾局長等が本件借地権設定契約ないし土地所有者責任の合意を、大阪IR株式会社と締結することは、違法な財務会計上の行為であるので、大阪市の住民である監査請求人らは、監査請求の趣旨の通り、本件借地権設定契約の締結の差止めをその他の必要な措置を講ずること及び停止の勧告を求める。