契約書がないことによるトラブル(JIDA アンケート・2008 年より)
「デザインロイヤルティ契約のきほん」
日本弁理士会意匠委員会 代表xxxx弁理士
(K&T特許商標事務所)
ロイヤルティ契約書式のトリセツ
① はじめに
② ロイヤルティ契約書式-1 意匠実施許諾契約書
-創作者(デザイナー)意匠権所有型-
③ ロイヤルティ契約書式-2 デザイン業務委託契約書
-成果物の譲渡・イニシャルペイ型-
日本弁理士会 意匠委員会弁理士 xxxx
契約の究極の目的:
デザイナーとクライアントである企業(発注者)とが、お互いの立場を尊重し、よりよいデザイン成果を生み 出す土壌を形成すること
現状においては、デザイナーが自分の権利を自覚して主張すること、そして自分の身を守ることから始めなければならなりません。
出典:xxxxxにとってのデザイン契約
xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx/xx-xxxxxxx/xxxxxxx/0000/00/xxxxxxxxxxxxxxxxxxx00000000.xxx
契約書がないことによるトラブル(JIDA アンケート・2008 年より)
・予算が曖昧で仕事のクォリティーが落ちる
・対価の対象となる作業が不明確(プレゼン費用、予算以上の要求など)
・なかなか支払われない
・作業後の値引き要請 ・追加費用の発生が認められない
・撮影費、サンプル購入、出張費などの実費
・コンセプトの変更 ・作業の一方的な中止(確認への回答がない、ペンディング)
・知的財産の帰属 ・他の用途への転用
出典:デザイナーにとってのデザイン契約
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xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxx/xx-xxxxxxx/xxxxxxx/0000/00/xxxxxxxxxxxxxxxxxxx00000000.xxx
JIDA-JPAA
合同研究会
「デザイナーにとってのデザイン契約」(2015年3月公表) JIDA 職能委員会(プ◻フェッション委員会)
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日本弁理士会意匠委員会
本◻イヤルティ契約書式
「デザイナーにとってのデザイン契約」をベースに、合同研究会で、デザインの現場感覚と法律に基づき、
発注者である企業とフリーデザイナーとの間で取り交わされ
◻イヤルティ契約書式-1
意匠実施許諾契約書
デザイナーが意匠権を保有し、発注者側に実施許諾
-成果物の譲渡・イニシャルペイ型-
◻イヤルティ契約書式-2
デザイン業務委託契約書
デザイナーが「意匠登録を受ける権利」を企業に譲渡し、発注者側が意匠登録出願をし、意匠権を保有
著作権
デザイン画や設計図は著作権で保護され得る
プ◻ダクト製品の場合、原則として保護対象外
「販売後3年以内の他人の商品の形態を模倣してはならない」
不競法
2条1項3号
以下の要件を満たす必要がある
・自己の製品の販売開始から3年のみ
・実質的に同一の形態(デットコピー品)のみ
・依拠性(意図的な模倣であること)
→立証に手間と時間がかかるうえ、十分な保護が図れない
意匠権
・権利期間は出願から25年
・依拠性の立証不要(損害賠償時の過失の推定もあり)
・デットコピー品(同一の意匠)のみならず、類似の意匠にまで意匠権の効力が及ぶ
・後発品が容易に市場参入できてしまう
→発注者の製品が売れなくなる
事前調査にも限界がある
→実施料にも影響
・発注者側が安心して製品を販売できない場合も
→類似する他人の意匠権が既に存在するリスク
世界一と称される
日本の意匠審査官の審査品質
→意匠登録されれば、安心して製品を販売できる
例外はあるが
・出願中の意匠
・秘密意匠
・特許からの変更出願
自身の身を守るためにも、意匠登録の重要性を
発注者側に理解してもらえるよう説明することが大切
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書式活用ガイド
赤色:変更必要箇所
青色:解説該当箇所
青枠内:解説
実際の契約では、赤字以外の重要部分についても、発注者側から修正を求められることが少なくない
交渉力
経験
契約当事者であるデザイナー自身が変更内容の意味を理解し、自己の責任で変更に応じるかどうかを判断する必要があります
① 対価の取り決め
② デザイナーの責任
上記の内容を中心に、以下、重要な条項について解説していきます
出願中または登録済の意匠を特定
1項:通常実施権の場合もある
2項:不実施の場合の取り決め
対価
• 最低実施料
• 実施料の決め方
最低実施料
製品が売れなかった場合に備えて盛り込んでおくのが望ましい
対価
・「工場出荷額」:契約締結前にその額を把握しておくことが重要
→「工場出荷額が想定より低かった」といったトラブル防止につながる
→工場出荷額が低い場合は実施料率(%)で調整する場合もある
・実施料率(%)の決め方:
具体的計画が必要
想定される販売数量と工場出荷額と販売年数に基づいて試算し、
どの期間でどの対価額に到達すればよいかを十分に検討して決定する
・最低実施料が小さい場合や、最低実施料を受け取らない場合は、実施料率を段階的に変更する方法もある。
(例)最初の3年間:7%、4~5年目:5%、それ以降:3%
・実施料方式
→製品が売れなかった場合に妥当な対価を得られないリスクがある。
「工場出荷額が低く販売数量も多くを見込めない製品」等の場合、
実施料方式にこだわらず、一括払いで受け取る方法を検討するのも一案
詳細は第2部で
・実施料について、売上高とは関係なく、
年に○○○円、月に○○○円と定める定額方式もある。 14
以下のような保証条項が課されているものがある。
「第三者の知的財産権を侵害しないことを保証する」
①デザイナーが権利侵害の成否について法律的知識に基づいて判断すること
②権利侵害に基づく損害をデザイナーが負担すること
を意味する
弁理士も侵害の有無に関する鑑定などで
意見を示すことはあるが、「保証」はしない(できない)
デザイナーが一律にこれを保証することは避けた方が良い
①保証を避けた方が望ましいもの
・産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)
→侵害の成否について、法的な評価が必要となるため、デザイナーが判断することは困難と思われる。
・不正競争防止法2条1項1号、2号
「他人の有名な商標や商品の商品等表示(商品の形態や模様など)と混同のおそれのあるものを使ってはいけない」
→他人の商品の形態などが有名であるか、混同する恐れがあるかなどの評価が必要なので、デザイナーが判断することは困難と思われる。
・著作権
・不正競争防止法2条1項3号
→他人の著作物や製品を見て、それを模倣することが侵害の要件
(偶然同じようなものができても侵害とならない)
→模倣したかどうかはデザイナー自身が一番知っていること
→他人の著作物や製品を模倣していない、ということであれば著作権侵害や不正競争防止法2条1項3号違反はない
・不正競争防止法2条1項3号
留意点
・無意識のうちに他人の著作物に近いものを創作してしまうこともあり得る
・他人の著作物からどのくらい離れれば侵害にならないか、という判断も困難
→著作権や不正競争防止法2条1項3号についても、
保証する場合は「私の合理的に知り得る限り」というような留保をつけることが望ましい。
どうしても保証が必要な場合、損害額の上限を設定する、保険に加入する、といった方法も検討する。
その他、「模倣していない」ことの立証のために、デザイン過程を示す資料
(デザイン開発ノート等)を作成し、日付を記載して保管しておくことが望ましい。
契約有効期間
契約書の表紙や裏表紙の製本テープなどに
「契印」を押すとより安全
→文書の抜き取り・差し替え防止
・イニシャルフィーあり
・最低実施料あり
・デザイン制作業務と知的財産に関する
権利譲渡の対価を分けて規定する場合もある。
検収終了後の修正作業(第1項)
・無償で修正に応じる場合は、修正の回数を決めておくのも一案。
・修正が有償であることや、無償修正回数の取り決めについては、見積書に記載する方法もある。
業務中止の場合の対価(第4項)
・業務中止となった場合に「ここまで作業した」ことをどう説明するかが重要
・業務に要した時間を記録しておく、途中で発生する資料に日時を記録する、要した材料等について伝票を保存しておくこと等の方法が有効
・ステップごとの確認や「デザイン開発ノート」も有効
• 発注者がデザイナーの承諾なしに仕様変更可能とする場合
→その範囲(例えば量産適合のための微修正のみ可能など)や、
デザイン変更後の対象物について、デザイナーのチェックが必要である旨を予め合意しておく方が良い。
• どこまでが「第1条に定めるデザイン制作業務」に含まれるかについて、発注者とデザイナーとで見解が異なる場合もあるので、
第1条「契約の目的」において明確に記載する
・契約に明記しにくい場合は、「見積書」において契約の対価は採用案のみに対するものであることを記載する方法もある。
・採用時の条件を明確化した上で「不採用案は発注者のもの」と定める場合もある。
→発注者が「不採用案」を採用(商品化)するときの条件
(採用する旨の連絡義務、追加の対価の取り決め等)を予め契約で定めるのが望ましい。
・一定の期間を定めて、期限までに採用しない場合には
デザイナーの調査義務
・単に「権利を保証しない」とするだけでは発注者側の理解を得られない可能性がある
・無責任との印象を与える可能性も
「権利は保証できないけど、これだけのことはやります」との姿勢を発注者側に示すことが大切!
・従業員や外注先に対する義務も負う
コンセプト、モデル、不採用デザイン案、 ノウハウ、営業秘密等
・発注者に対しても、デザイナーから提供する情報に秘密保持義務を課すべき。
・デザイナーから発注者に対して提供する情報について、
その提出物に「○秘」、作成者の署名、作成年月日を記載、電子データにパスワードを設定するなどの方法が有効。