Contract
軽貨物自動車運送業の独立支援に係る契約の解除に関する紛争事件
報 告 書
平成21年3月
神奈川県消費者被害救済委員会
目 次
第1 紛争事件の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
1 当事者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2 紛争の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
3 審議経過及び解決内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第2 あっせんの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1 当事者の主張 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
2 当事者からの事情聴取 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
3 あっせんの経過 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
4 合意書の取り交わし ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
第3 紛争に関する考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
1 事業者の勧誘行為の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
2 あっせん案の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
3 法律上の観点から ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
第4 被害の再発防止に向けて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
1 事業者(同業者を含む。)に対して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
2 消費者に対して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
3 国(経済産業省)に対して・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
(資料)
・ 神奈川県消費者被害救済委員会の処理経過
・ 神奈川県消費者被害救済委員会(第 15 期)委員名簿
第1 紛争事件の概要
1 当事者
申立人(30 歳代 男性)
事業者(軽貨物自動車運送業の独立支援事業者)
2 紛争の概要(申立人の主張による。)
申立人は、「仕事は 100%紹介」、「月 40~50 万円以上可」などと書かれた、軽貨物自動 車での運送業の仕事を紹介する新聞の折り込み広告を見て説明会に出向いた。ペーパー ドライバーで運転に慣れていないことを担当者に伝えたところ、「仕事はたくさんある。」、
「自宅から 10~15 分の近い所へ配達する仕事から始め、徐々に配達先を増やしていけばよい。」、「配送ルートを覚えるまでのサポートとして、ドライバーの助手席に座り、道順を覚えてもらうので大丈夫。」などと説明され入会の契約をした。また、業務に必要であるといわれ、事業者が指定する軽貨物自動車の購入契約をした。
しかし、実際に紹介された仕事は、事業者の説明とは異なり、自宅から配達先が遠いもの、配達先が多数あるものなどばかりで、配送ルートを覚えるためのサポートもなかったため、ほとんど断ることとなってしまった。
収入もほとんどないのに、車庫代などを支払い続けることに納得がいかず、契約解除を申し出て、軽貨物自動車の購入代金を含めた既払い金の返金を求めたが、これに事業者が同意せず紛争となった。
○ 契約の概要
内 | 容 | ・軽貨物自動車運送業の独立支援に係る入会契約 ・軽貨物自動車の購入契約 ・自動車保険契約 | ||
契 | 約 年 月 | 日 | 平成 20 年1月 31 | 日ほか |
契 約 金 額 計 | 1 , 8 9 0 , 9 5 8 円 | (支払済額) | ||
解 申 | 除 返 出 | 金 日 | 平成 20 年5月 26 日 |
※ 契約から解除返金申出までに申立人が得た収入は、合計で 48,000 円
3 審議経過及び解決内容
平成 20 年 10 月 15 日付けで、この紛争の解決を神奈川県知事から付託された神奈川県消費者被害救済委員会は、速やかな紛争解決を図るため、同日付であっせん部会を設け、審議・あっせんを開始した。
以降、3回にわたり同部会で審議するとともに、あっせんを行った結果、平成 21 年3
月 6 日付けで、申立人と事業者との契約の解除を確認し、事業者は、申立人からの受領
済みの金額のうち 516,830 円を返還するというあっせん内容で両当事者が合意し、解決した。
第2 あっせんの概要
1 当事者の主張
(1) 申立人の主張
事業者は、仕事に慣れるまで助手席に乗り道順を覚える「横乗り」のサポートや、自宅から近い場所の仕事を紹介するなどと説明したが、実際にはそのような支援はなかった。事業者の勧誘時の説明には問題があり、契約を解除し支払済額の全額を返金してもらいたい。
(2) 事業者の主張
申立人の意向に沿う仕事を極力探したが、申立人の運転技術の問題などにより、結果的に紹介できる仕事が限定されてしまったものであり、会社の対応には問題はない。
2 当事者からの事情聴取
○ 平成 20 年 10 月 15 日
第 1 回あっせん部会を開催し、申立人からの事情聴取を実施した。
○ 平成 20 年 11 月6日
第2回あっせん部会を開催し、事業者からの事情聴取を実施した。
○申立人と事業者の発言概要
x x x | 事 業 者 |
○ 運転技術について 最初の説明会で、ペーパードライバーであることを担当者へ告げており、自分の運転技術で仕事が勤まるのか不安があった。 ○ 横乗りのサポートについて 事業者から、「最初は助手席に座りxxを覚えてもらう(横乗り)サポートがある。」と説明された。 ○ 自宅から近い仕事の紹介について 事業者から、「仕事はたくさんある。 最初は、自宅から 10 分から 15 分程度の場所から1箇所だけ荷物を届ける仕事から始め、徐々に仕事の件数は増えていく。」と説明され、これなら自分でもできると思い契約した。 | ○ 申立人が運転に自信がないことは、勧誘時から認識していたが、教習所に通うなど意欲的であったことから、開業手続きが終わる頃(約1か月後)には、運送業を行うことが可能であろうと判断し契約に至った。 ○ 「横乗り」は、通常、仕事の初日~1週間に運転手の助手席に座り、搬送ルートを覚えるために行うものであるが、申立人は、仕事を断ってしまったため、横乗りをするまで至らなかった。 ○ 該当する仕事は、実際にたくさんあるが、申立人の運転技術の問題により、荷主との信頼関係を損ねるおそれがあり、紹介できなかった。 |
3 あっせんの経過
○ 平成 21 年1月 21 日
第 3 回あっせん部会を開催し、審議の結果、事業者に対し申立人の支払済額(1,890,958円)から、入会契約に伴い購入した自動車の売却代金(420,000 円)を除いた金額
(1,470,958 円)の返金を求めるあっせん当初案を決定し、事業者に対し提示した。
○ 平成 21 年2月 20 日
事業者から、あっせん当初案から自動車の購入費用を除いた金額(516,830 円)を申立人へ返金することにより合意に応じる旨の回答があった。
○ 平成 21 年2月 23 日
自動車は売却済みであり解除に伴う返還ができないことを考慮し、事業者の回答どおりの金額をあっせん修正案とし、申立人へ提示したところ、申立人から受諾する旨の回答があった。
4 合意書の取り交わし
平成 21 年3月6日付けで、申立人と事業者の間で合意書が取り交わされた。概要は次のとおりである。
(1) 申立人と事業者との間で締結された入会契約が、平成 21 年3月6日付けで解除されたことを確認し、事業者は申立人に対して、申立人から受領済みの金 516,830 円を返還する。
(2) 事業者は申立人に対し、516,830 円を申立人の指定する申立人名義の金融機関口座に、平成 21 年3月 10 日までに全額を一括で振り込む方法により支払う。(振込手数料は事業者負担) ※返金があったことを申立人に確認済み。
(3) 申立人と事業者との間には、本件に関し、本合意書に定めた事項以外には、相互に何らの債権・債務がないことを確認する。
第3 紛争に関する考察
1 事業者の勧誘行為の問題点
特定商取引法の業務提供誘引販売取引であることを認識していない。
事業者は、業務経験がなく業務内容等を熟知しない申立人に対し、事業者が有償で紹介する軽貨物自動車運送業の仕事を行うことによって収入を得ることができると誘引し、申立人と軽貨物自動車の購入や入会金等の特定負担を伴う取引を行ったものである。これは特定商取引法第 51 条第 1 項に規定する業務提供誘引販売取引に該当し、事業者は、クーリング・オフができる旨を規定した契約書面を交付しなければならないなどの同法の規制を受けると考えられるが、事業者はこのことを認めていない。
2 あっせん案の考え方
(1) 基本的な考え方
上記1 のとおり、本件紛争が発生した主な原因は、軽貨物自動車運送業務の経験がない申立人が、業務内容や契約内容を熟知しないまま事業者と契約を締結し、その後も考え直す機会も与えられなかったことにあると考えられる。
また、事業者が申立人に対し行った取引行為は、特定商取引法第 51 条第1項に規定する「業務提供誘引販売取引」に該当し、かつ、申立人は、同法第 58 条第1項の規定に基づき、契約を解除することができると判断し、事業者に対し、申立人が契約に伴い負担した次の費用に相当する金額を、申立人に返金するあっせん当初案を事業者へ提示した。
なお、本件における業務提供誘引販売取引の該当性に係る当委員会の判断については、同法を所管する経済産業省に照会を行い、その回答を踏まえたものである。
* 申立人への返金額
項 目 | 金 額 ( 代金支払時の振込手数料を含む。) | |||
① 入会契約( 入会金・諸費用等) | 407,420 | |||
② | 軽貨物自動車購入契約 | 954,128 | ※ | |
③ | 自動車保険契約 | 109,410 | ||
あっせん当初案 | ①+②+③ | 1,470,958 | ||
あっせん修正案 ( あっせん成立) | ①+③ | 516,830 |
※ ②は、自動車購入代金( 1,374,128 円) から自動車売却代金
( 420,000 円) を除いた申立人の実質的な負担額を記載
(2) あっせん修正案に至る経緯
あっせん当初案を決定するにあたり、軽貨物自動車購入契約に係る返金については、当該契約を解除することとなった場合、申立人は事業者からの返金を受けるとともに、当該自動車を返還しなければならないが、申立人は、既に中古車買取り業者に売却しているため、返還することができないことについて検討した。
この結果、申立人にとって事業継続を断念した時点で当該自動車は不要であり、維持費もかかることから、売却はやむを得なかったと考えられること、また、入会契約書にクーリング・オフについて規定されていたならば、申立人は当該自動車の代金の支払い前に契約を解除することが可能であったことの二点
を考慮し、申立人が支払った当該自動車購入代金から売却代金を差し引いた実質的な負担額に相当する額を事業者の返金すべき額としたものである。
しかし、事業者は上記あっせん当初案( 1,470,958 円)に対し、軽貨物自動車購入契約に係る金額( 954,128 円)を除いた金額( 516,830 円)を返金する意向を示したため、再検討した結果、当該自動車の返還ができない点は考慮せざるを得ないと判断し、申立人に事業者の意向を伝えたところ、申立人が同意し、合意に至ったものである。
3 法律上の観点から
(1) 本件は、事業者が「仕事は 100%紹介」「月現況収入例 40~50 万円以上可」などと書かれた折り込み広告で広告し、その折り込み広告を見て説明会に赴いた申立人に対し、同人が車両運転の経験がほとんどなく、当然車両運転に関する業務に就いたこともないにもかかわらず、仕事はたくさんあること、自宅に近い場所の仕事の紹介から始められること、運転に不安があるとしても助手席に乗り道順を覚えるサポート(横乗り)などから紹介できる旨の説明を行い、事業者の行う軽貨物自動車独立支援に関わる会への入会契約及び軽貨物自動車購入契約、自動車保険契約等の一連の契約を締結させた事案である。
しかし、実際には、当初の説明と事業者から紹介された仕事の内容は大きくかけ離れており、仕事に慣れるまでのサポートはなく、申立人の運転技術では困難なものか、コストに見合う収入が見込めない仕事ばかりで、収入もほとんど無いとして、申立人が上記契約の解除を求めて、紛争になったものである。
(2) 従前、収入が得られることを勧誘文言で、商品等を購入させる、いわゆる内職・モニター商法について、特定商取引法(旧訪問販売法)には、上記取引を直接規定するものはなかった。この商法は次の問題点を内包していた。
すなわち、あたかも十分な収入が得られるかのような誇大な広告や勧誘について、実際にそのような仕事が与えられるかどうかということは、契約締結時に消費者に与えられる限定的な情報では分かり得ないため、被害に遭いやすい。
さらに、収入が得られるとの広告と商品等の購入との関連性が、曖昧になりやすい。そのため、実際に勧誘どおりの仕事が与えられなくても、結局消費者が負担した商品代金等の金銭負担のみが明確な債務として残されてしまい、事業者の責任を回避させてしまうことが少なくなかった。
そして、収入を得られるとの勧誘が、契約締結の最も大きな理由であることから、「営業」行為であるとの事業者側の抗弁の余地を与え、消費者被害としての救済に解釈上の問題点が残されていた。
(3) 判例
軽貨物運送業に関しての内職商法被害に対しては、従来、民法の規定を用いて、被害者の救済が図られていた。判例としては次のようなものがある。
ア 大阪地方裁判所平成 12 年 3 月 31 日判決(消費者法ニュース 45 号 68 頁)
協会に加盟すれば、軽貨物運送業の独立開業希望者として、年齢、性別を問わず豊富な仕事を紹介してもらえて、これをこなせば月 40 万円以上の売上を上げることができるとの事業者による広告がなされた。これを見て、応募した者に対し、事業者側担当者は、広告に沿う説明を行った上、仕事の紹介を受けるには、協会の用意する軽トラックを購入する必要がある旨、あるいは自己所有の軽トラックを持ち込む場合には、入会金の他、その軽トラックに協会仕様の架装をするための費用を支払う必要がある旨説明した。この説明により、応募した者は、軽貨物運送業者の独立開業者として月額 40 万円以上の売上を上げるためには、本件軽トラックが必要と考えて、軽トラックを購入し、入会金を支払った。ところが、実際に紹介された仕事には本件軽トラックを使用しない仕事が相当数含まれていたことが推認され、紹介されたすべての仕事が加盟者の希望する条件に合致するものでもないから、継続的に月額 40 万円以上の売上を確保できる、各加盟者に適した、本件軽トラックを使用する仕事を継続的に紹介することができたとは考えがたい状況であったという事案である。
これについて、事業者側担当者は、実際には、購入した本件軽トラックを用いて行う仕事で、月額 40 万円の売上を確保するだけの仕事を紹介することができないことを認識しながら、上記売上を確保するだけの仕事を紹介する旨の虚偽の内容を含む本件広告を配布・掲載し、これに応募してきた者にこれに沿う説明をした上、本件軽トラックを販売し、あるいは入会金と架装費用を徴収したものと認められるとして、不法行為(詐欺)を認めた。
イ 東京地方裁判所平成 13 年 7 月 31 日判決(消費者法ニュース 49 号 90 頁)
失業中の被害者に対して、「月額 65 万円以上の売上」を保証し、かつ実際の売上明
細を見せるなどして信用させ、契約に際しては、車などのローンを含めて総額 250 万円を支払わせた。しかし実際には、売上から「営業管理費」を 18%天引き徴収し、「緊急便対応のための 24 時間待機」を代理店に強要するものの、現実には月に数件の仕事しか委託がなかった事案。
判決は、「代理店募集業者」には、希望者に対する説明義務があり、仕事量・収入という「契約関係に入るかどうかを決定するについて最も重要な」事項につき事実に即して説明すべき義務を怠ったと認定し、たとえ契約書に「売上や成功の保証はしない旨の条項が存在」しても、「明確に事実に反する説明を断言している」以上、注意義務違反を免れないとして、過失相殺のない不法行為を認めた。
本件についても、「仕事は 100%紹介」、「月現況収入例 40~50 万円以上可」などと記載する広告で勧誘し、入会契約や軽貨物自動車購入契約等を締結させるなどの点、当初の説明と事業者から紹介された仕事の内容が異なっている旨の申出内容などからすれば、類似点もあり、上記民法による問題点を検討する余地も考えられる。
(4) 特定商取引法と業務提供誘引販売
しかし、このような問題点がある内職・モニター商法について、平成 12 年 11 月 17日に、特定商取引法の中に、消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型である 「業務提供誘引販売取引」として、章が設けられ、平成 13 年 6 月 1 日に施行されており、上
記判例は同法の施行前の事案であることから、本件については、まずは特定商取引法の適用を検討することにした。
本件で適用を検討している、特定商取引法は、消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、トラブル防止のルールを定め、事業者による不xxな勧誘行為等を取り締まることにより、消費者取引のxxを確保するための法律である。その特定商取引法が定める特定の取引類型である「業務提供誘引販売」は、仕事を提供するので収入が得られると誘引し、仕事のために必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引であり、次の①から③の要件に当てはまる。
すなわち、
① 本件は、軽貨物自動車を事業者の指定する業者から指定の価格で購入するものとされた点、物品の販売(そのあっせんを含む。)の事業であり、またさらに本件では入会金などを支払わせたものであり、この点については、有償で行う役務の提供に当たること。
② 「仕事は 100%紹介」「月現況収入例 40~50 万円以上可」などと、販売の目的物たる軽貨物自動車を利用する運送業務に従事することにより高い利益を得られるかのような広告がなされたことは、その販売商品を利用する業務に従事することにより得られる利益を収受しうることをもってなされた誘引に該当すること。
③ これらの軽貨物自動車の購入及び入会金などの支払いは特定負担を伴う取引であること。
このように、本件は、特定商取引法第 51 条第 1 項の「業務提供誘引販売業」に該当すると言わざるを得ないと判断した。
なお、本件では、本件契約後に官庁に運送業の届け出をしている申立人の事業者性も問題となるが、申立人が本件契約を勧誘された時点はもちろん、締結した時点においても、届け出がなされていたわけではなく、契約後に事業者のイニシアティブにより届け出たものであること、申立人は自宅の他に「業務を行うことを目的とし、相当程度の永続性を有する施設」である「事業所等」も有していないことから、その行為は「その業務提供誘引販売業に関して提供され、又はあっせんされる業務を事業所等によらないで行う個人」に該当し、同法の適用を妨げるものではない。
従って、本件事案については、特定商取引法第 58 条第1項のクーリング・オフの適用が可能な事案であると判断した。
また、事業者が申立人に交付した契約書面には、クーリング・オフできる旨が記載されていないなど重要な事項が記載されていないため、特定商取引法第 55 条第2項に規定する相手方に交付しなければならない書面とは認められず、クーリング・オフの起算日が留保されていることになる。
なお、クーリング・オフを適用し契約の解除が行われる場合、特定負担が伴った取引全てに関して解除されることになるため、本件事案においては、入会契約、軽貨物自動車購入契約及び自動車保険契約の全てが解除の対象となる。
ただし、民法第 545 条第1項の規定により、解除に伴い各当事者は相手方に対して現状回復義務を負うこととなるため、申立人がすでに当該自動車を売却している本件事案では、当該自動車購入契約についての解除が困難であると考えられるため、事業者の提
示した自動車購入契約を除いた契約に係る支払金の返金による解決は、やむを得ないと判断した。
第 4 被害の再発防止に向けて
1 事業者(同業者を含む。)に対して
以前から、本件事業者に限らず、軽貨物自動車運送業の仕事紹介事業者に対しては、高収入をうたった広告内容や「仕事はたくさんある。」などとの勧誘時の説明を信じ契約したものの、希望する内容の仕事が紹介されない、仕事の紹介そのものが少ない、紹介された仕事をこなしてもガソリン代や購入した車のローンなどの経費を払うとほとんど残らないなどの苦情を消費生活センターに申し出るケースが少なくない。
これに対し事業者側は、相手方との契約は、自営業者として独立する以上事業者同士の取引である、仕事は紹介しており、収入が上がるかどうかは自営業者としての自己責任の範囲であると主張し紛争となることが多いと聞いており、本件もこれに類するものであった。
この事業者側の主張は、もっともなようでもあるが、問題なのは、相手方の多くは、本件も含め、運送業の経験がなく業務の実態を知らない初心者であることである。自営業者として独立することは、プロとして自立する以上、場合によっては赤字になることすらあり得ることも覚悟しなければならず、このことを相手方が十分理解しないまま、安易に契約がなされていることが、これらの紛争の背景にあると考えられる。
業務に就いた以後は、プロとしてある程度厳しく扱うことはやむを得ないが、契約までの導入部分は、相手方との情報の質及び量並びに交渉力の格差が歴然としており、この点において、事業者は、原則として消費者である相手方と取引を行っていることを認識し、勧誘・契約行為において、「独立開業」についてのメリット・デメリット等について、相手方が理解できる説明や情報提供の実施に努めていただきたい。
さらに、本件の解決を機として、これまでの取引行為を見直し、特定商取引法の業務提供誘引販売取引の該当性について、冷静かつ慎重に検討をされ、早急に必要と思われる措置を自主的に講じていただきたい。
2 消費者に対して
独立開業するということは、その労務の対価としての収入を得るということであるから、当然ながら、開業のためには周到な準備が必要であり、このことは軽貨物自動車運送業においても同様である。
消費者は、このことを念頭に置いたうえで、事業者から十分な説明を受け、経費負担を考慮した採算の見込みなど詳細に検討を重ねたうえで、契約には慎重に臨んでいただきたい。本件のような紛争になった場合、時間的にも金銭的にも損害を被るのは自分自身であることを忘れないでいただきたい。
3 国(経済産業省)に対して
本件紛争の解決にあたって、特定商取引法による業務提供誘引販売取引の該当性等についての当委員会の照会に対する回答に感謝する。なお、軽貨物自動車運送業の仕事紹介業については、事業者と車両販売会社が異なるもの、指定車両を購入させる場合とそうでない場合など多様な形態があり、それぞれの業務提供誘引販売取引の該当性等について明らかでない部分があるため、通達等で明確に示していただきたい。
おわりに
本件紛争は、当委員会のあっせんにより、申立人及び事業者が歩み寄り、幸運にも双方の合意を得ることができた。しかし、昨今の厳しい経済情勢により転職を余儀なくされ、その中で軽貨物運送業の独立開業を目指す人が増えることも予想され、今後、同種の紛争が繰り返される懸念がある。
当委員会による本件紛争の解決事例が、今後の同種紛争の解決に資するものであることを期待するとともに、このような紛争が繰り返されないためにも、事業者、業界、消費者及び行政に対して当委員会が要望した事項が実現されることを切に望むものである。
(資 料)
○ 神奈川県消費者被害救済委員会の処理経過
年 月 日 | 事 項 | 内 容 等 |
平成20年10月15日 | 神奈川県消費者被害救済委員会 (第15期第1回) の開催 | ・紛争処理を知事から付託 ・あっせん部会の設置 |
平成20年10月15日 | 第1回あっせん部会の開催 | ・申立人からの事情聴取 ・事情聴取後の検討 |
平成20年11月6日 | 第2回あっせん部会の開催 | ・事業者からの事情聴取 ・事情聴取後の検討 |
平成21年1月21日 | 第3回あっせん部会の開催 | ・あっせん案の検討・決定 ・事業者へあっせん当初案を提示 ※平成21年2月20日 事業者からあっせん当初案に対する回答を受理 |
平成21年2月23日 | あっせん修正案を検討・決定し申立人へ提示 | ※平成21年2月23日 申立人からあっせん修正案に対する回答を受理 |
平成21年3月6日 | 合意書の取り交わし | ※指定口座に返金があったことを、申立人に確認済 |
平成21年3月12日 | 神奈川県消費者被害救済委員会 (第15期第2回)の開催 | 神奈川県知事へあっせん終了の報告 |
○ 神奈川県消費者被害救済委員会(第 15 期)委員名簿
(資 料)
平成 21 年3月 12 日現在
委 員 (9名 うち本件あっせん部会委員は4名)
区分 | 氏 | 名 | 現 職 | 備 考 |
学識経験者委員 | 浦川 | 道太郎 | 早稲田大学大学院法務研究科教授 | ・会長 ・本件あっせん部会長 |
清野 | 幾久子 | 明治大学法科大学院教授 | ・会長代行 | |
松尾 | 弘 | 慶應義塾大学法科大学院教授 | ||
北田 | 幸三 | 弁護士 | ||
芳野 | 直子 | 弁護士 | ・本件あっせん部会委員 | |
消費者委員 | 大手 | 恭子 | 神奈川県消費者団体連絡会幹事 | |
荻野 | 節子 | 特定非営利活動法人 神奈川県消費者の会連絡会理事 | ・本件あっせん部会委員 | |
事業者委員 | 東 | 利之 | 神奈川県商工会連合会専務理事 | ・本件あっせん部会委員 |
佐野 | 博行 | 神奈川県中小企業団体中央会事務局長 |