Contract
よくわかる契約書の見方,書き方
弁護士 xxxx
1 契約とは何か
(1)契約の意義
契約当事者間の申込みと承諾という意思表示の合致をいう。
売主
買主
売って下さい(申込)売りましょう(承諾)
(2)契約の効果
権利・義務の発生。
買主は、商品を受け取る権利と、代金を支払う義務 売主は、商品を引き渡す義務と、代金を受け取る権利
(3)民法上の契約
下記については、契約に定めがない場合には、原則として、民法の規定による。ただし、弱者保護の観点から借地借家法等によって契約では変更できない事項もあることに注意。
①贈与
②売買 商人間の売買は商法に特則あり。
③交換
④消費貸借 利息制限法、出資法に注意。
⑤使用貸借
⑥賃貸借 借地借家法に注意。
⑦雇用 労働法に注意。
⑧請負 建設業法等に注意。
⑨委任 商法等関係法令に注意。
⑩寄託
⑪組合
⑫終身定期金
⑬和解
※業務委託契約は? →一定の仕事の完成が目的であれば請負、事務処理が目的であれば委任に類似する契約。
( 4) その他の主たる契約
①M&Aにかかわる合併、買収、株式又は持分譲渡、事業譲渡契約
②著作権、xxxx、特許等のライセンス契約
③個人情報や営業秘密に関する契約
④フランチャイズ契約等、特殊な契約
2 契約と契約書
( 1) 契約と契約書の違い
(2)契約書を作成する理由
→後日の紛争防止
①相手が契約内容を忘れたり、誤解している場合
②相手の関係者が退職、転勤するなどした場合
(3)契約書等の文書を作らなければならない場合
①農地の賃貸借契約
②建築工事請負契約
③割賦販売法に定める指定商品についての月賦販売契約
④訪問販売、連鎖販売、特定継続的役務提供等の取引
⑤存続期間を50年以上とする定期借地権設定契約
⑥事業用定期借地権設定契約( xx証書による必要)
⑦更新のない定期建物賃貸借契約
⑧取壊予定の建物の賃貸借契約
(4)契約書の保管
後の立証のために必要。コピーは必ずとっておく。
契約が終了してから、思わぬ請求をされることもあるので、終了後も最低2年間くらいは保存しておくのが望ましい。
3 契約と法律の関係
(1)契約自由の原則
①契約締結の自由
②相手方選択の自由
③内容決定の自由
④方式決定の自由
(2)契約自由の原則の具体例
ア 法律の規定と異なる契約をした場合
→原則として契約が優先
※会社同士の商品の売買を例に
①商品の引き渡し場所
商法516条1項で買い主の営業所が原則。契約で異なる取り決め可能。
②代金の支払い時期。
民法573条で商品の引き渡しと同時が原則。契約で異なる取り決め可能。
③瑕疵担保責任
直ちに発見されない瑕疵は受領後6 か月以内に発見した場合は請求可能(商法526条2項)。
契約で異なる取り決め可能。
④期限の利益喪失
債務者の破産手続開始決定、担保の滅失・損傷・減少、担保の不提供
(民法137条)。
契約で異なる取り決め可能。
⑤管轄裁判所
被告の所在地、義務履行地等( 民訴法4条、5条)。契約で異なる取り決め可能。
イ 契約自由の原則の例外
①公序良俗違反
②借地借家法の契約期間や契約更新の規定、利息制限法の規定は強行法規であり、これに反する取り決めは無効。
③独禁法、下請法、景品表示法などの事業活動に関する法律も強行規定が多く含まれており、これに反する取り決めは無効。
4 契約締結の権限のある者
( 1) 誰が契約の締結者か
会社の場合は、会社を代表する者又は会社を代表する者から契約締結について代理権を与えられている者。
例: ①会社を代表する者 代表取締役
②代理権を与えられている者 担当取締役 担当部長など
※契約締結権限のない者がした場合
→外観上、権限がある者が締結した場合( 内部で営業第一課に権限がある事項について、営業第2課長が契約など) は、民法110条で、善意
・無過失の第三者に無効を主張できない。
※代理人署名の場合は委任状を添付しておく。
例:「委任状 私は、○○を代理人と定め、次の事項を委任します。 一 私と△△との間で、大阪市○○番の宅地○平方メートルの土地について売買契約を結ぶこと、その代金の受領等及びそれに関連する件
平成○年○月 大阪市△番 xxxx 印」
この場合、契約書には、「xxxx代理人○○ 印( ○○の印)」と表記。
( 2) 契約の当事者の表示
①住所又は所在地 xxxxxxx0-0-0
②会社名 株式会社○○
③資格 氏名 押印
例:「代表取締役社長 xxxx 印」
※ 直近の商業登記を必ず確認する。
※ 押印は法律上は認印でもいいが、トラブル防止の観点からは代表印が望ましい。
※「株式会社 xxxx」という記述は×。代理資格の記載がなく、個人ととられる可能性。
「株式会社○○ 印」も×。誰が押印したのか分からない。
※ 法人以外の団体の場合は
「○○自治会 代表者理事長 ○○ 印」
この場合は、個人の財産は充てにできないので、個人保証をとる必要あり。
※組合との契約→業務xxxをもっている組合員が署名。ただし、全員に署名してもらうのが望ましい。
「○○商店組合 組合員 ○○ 印 組合員○○ 印」
※日常の業務、営業の取引の場合は使用人( 営業部長、支配人)でも代理権ある場合あるが、例えば不動産など高額な取引については代表者の記名、押印をもらうべき。
5 契約書について
(1)名称
契約書、覚書、協定書、協約書、約定書といずれの名称を用いても、法的には同じ。片方の当事者が提出する念書、差入書、誓約書、借用書も契約文書であり、相手方の押印がなくとも効力はある。
( 2) 収入印紙 ア 課税文書
継続的取引の基本となる契約書(4000円)、不動産等の譲渡、消費貸借、請負契約書等は契約金額により異なる。契約金額の記載がないものは200円、契約金額が1万円以下のものは非課税。
イ 印紙を貼り忘れた場合の効力
契約そのものの効力には影響がない。
ただし、過怠税が課されて合計3倍の負担となることもあり得る。
( 3) 契約書上の押印方法ア 契約
認印でもよいが、通常は代表印。証拠力という意味では、発行後3箇月以内の印鑑証明書、会社の登記事項証明書を付ける場合あり。
社印は無意味。イ 割印
契約書が数頁ある場合は必要。ウ 消印
収入印紙と契約書にまたがって押印。サインでもよいし、当事者の一方だけでもよい。
エ 訂正印
契約印と同じ印。オ 捨印
後日無断で改変可能なので、原則すべきではない。
(4)前書き
当事者と、契約の主たる目的を記載する。
例:「xxxx(以下「甲」という。)と、xxxx(以下「乙」という。)は、甲所有の土地につき、次のとおり賃貸借契約を締結する。」
( 5) 目的条項
通常、第2条に、契約の目的を各。
例:「甲は乙に対し、甲所有の後期土地を期間10年に限り賃貸することを約した。」
(6)作成年月日
絶対に必要な記載事項。年月日のすべてを記載しないと欠陥あり。
( 7) 物件目録
不動産の売買、賃借等では本文の最後に物件の明細(土地の場合、所在、地番、地目、地積) を書く。
※ 直近の登記の内容を必ず確認する。
( 8) 作成通数
当事者の数だけ原本を作成して、それぞれに署名、押印。xx、副本という記載にはあまり意味がなく、契約書それぞれに印紙必要。単なる写し(署名なし)であれば不要。
6 ミスのない記載をするために
( 1) 期間の計算について
初日不参入の原則=契約の当日から何日と定めた倍、その日が完全に2
4時間残っていないときは、その日は勘定に入れず、翌日を数え始めの日とする(民法140条)。
①「本日( 9月1日) より10日間」→9月2日から数えるので、9月1
1日が末日。
②「9月1日(本日でない場合) より10日間」→9月10日が末日。
(2)形式面のチェック事項
①署名・押印欄で、甲、乙が逆になっていないか?
②金額や期限が間違っていないか。消費税は含まれているのか?
③各条項で、甲、乙が逆になっていないか?
④引用条文(本契約第○条に述べた・・・) が正確か?
⑤契約作成日欄が空白ではないか?
⑥代表者の記載があるか?
⑦契印が押されているか?
⑧収入印紙が必要ではないか?
(3)内容面のチェック事項
①定義していない語を用いていないか? 例:「検収する」
②主語や相手方のない記載がないか?
③違約金の定めがあるとき、額は適正か?
④サービス提供がいくつかあり、報酬の支払い時期も複数に分かれているような場合、どの報酬がどのサービスの対価か特定できているか?
⑤期限の利益喪失条項が存在するか?
⑥解除権が一方当事者のみに認められていないか?
⑦契約が解除等によって終了した場合の精算について記載は必要ないか?
⑧秘密保持義務の定めは必要ないか?
⑨連帯保証人を定める必要はないか?
⑩合意管轄は都合の良い裁判所になっているか?
(4)トラブルを防ぐために盛り込むべき事項
①履行期限・存続期間
例:「本契約は、当事者双方が本契約書に調印した日から効力を生じ、本件機械の据付けが完了した日から1年間存続する。なお、この賃貸期間の更新は・・・」(動産賃貸借)
「乙は元金を平成○ 年○月○ 日までに甲方に持参もしくは送金して、甲に弁済しければならない。」(金銭消費貸借)
②解除・解約
契約不履行のほか、手形不渡り、破産申立てなどを加えるとよい。
例:「甲又は乙が本契約にもとづく債務につき不履行をなしたときは、相手方は催告のうえ、本契約を解除することができる。」
「乙が本契約の各約定に違反したときは、甲は何らの催告も要せずに、直ちに本契約を解除することができる。」
③損害賠償(遅延利息・賠償額の予定)具体的な定めが必要。
例:「本契約にもとづく乙の債務につき、乙が履行期限を徒過したときは、乙は日歩○銭の遅延損害金を甲に支払わなければならない。」
「甲または乙に本契約上の債務不履行があり、それによって契約が解除された場合には、甲または乙は、不履行をした相手方に対し、金○円の支払いを定めることができる。」
④保証・連帯保証
契約当事者が個人会社などの場合には代表者個人にも連帯保証させる。例:「連帯保証人○○は、将来乙が本契約に基づき甲に対して負担する
一切の債務(遅延損害金を含む) につき、保証し、乙と連帯して履行の責を負う。」
⑤危険負担
不動産、動産の売買でみられる規定。
例:「甲または乙の責に帰すことのできない事由により本件建物が滅失または毀損したとは、一切の負担は甲( 売主)に帰するものとし、下記のとおり処理するものとする。(契約解除と手付金返還、代金減額などを規定)。」
⑥担保責任
売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合。期間や責任の内容など民法と異なる内容を特約できる。
例:「甲は乙に対し、後記表示の○○について、本契約締結の日から半年間だけ瑕疵担保の責任を負うものとし、同期間経過後は一切の責を負わない。」
⑦諸費用の負担
取引によってかかる租税や諸費用の負担は定めておくべき。
例:「所有権移転登記に必要な登録免許税、登記申請に要する諸費用は乙の負担とする。」
⑧期限の利益
金銭貸借や継続的商取引の場合には絶対に必要。列挙するのは債務不履行、手形・小切手の不渡り、破産・会社更生・特別清算・民事再生・競売の申立てを受けたとき、他の債務につき保全処分又は強制執行を受けたとき、国税徴収法による差押え処分を受けたとき、通知せずに住所又は本店所在地を移転したとき。
例:「下記の場合には、乙は甲からの通知催告がなくとも当然に期限の利益を失い、ただちに残債務を一時に弁済しなければならない。」
⑨規定外事項についての協議あまり意味はない。
例:「本契約に規定のない事項または本契約の規定に関して生じた疑義については甲乙協議のうえ解決する。」
⑩裁判管轄
必ず定めをしておいた方がよい。
例:「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合には、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を第xxの管轄裁判所とする。」
⑪xx証書強制執行認x
xx証書で契約し、執行認諾約款をつければすぐに強制執行可能。例:「本契約は、強制執行認諾約款付きのxx証書とする。」
xx証書の記載→「乙は、xxx証書記載の金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」
(5)記載してはならない有害無益な条項
①罰金を受ける契約事項
例:「利息は日歩15銭とし、乙は毎月末日限り当月分を甲方に持参もしくは送金して支払わなければならない。」
→貸金業者が業として日歩8銭(年利29.2%) 以上に利息を定めた場合は、5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金( 出資法5条2項)
②公序良俗に違反して無効の条項
例:「借家人において出産をした場合には、貸主は6か月以上の猶予期間を定めた上で、本件家屋の賃貸借契約を解約することができる。」
③強行法規に違反して無効の条項
例:「本件土地賃貸借は、甲( 賃貸人) において1年前の予告により契約を解除することができる。」
→借地借家法の契約期間や更新の規定は強行法規であり、違反する特約をしても無効。
④あいまいで危険な条項
ⅰ「借主は貸主に対し年率○% の利息を支払う。」
→利息の支払い時期が不明確。月払いか年払いかなどを区別し、「いつ」支払うかもはっきり記載する。
ⅱ「著しくこの履行が遅延したときは、甲は、本契約を解除することが
できる。」
→「著しく遅延したとき」「本格的に稼働したとき」などはっきり決められない条件を入れてはならない。
ⅲ「本件土地にマンションを建築するに際し、周辺住民の反対により建築が妨げられたときは、甲乙協議の上、残代金の支払時期を定める。」
→住民の反対の程度、建設が困難かどうかの認定、どのような協議をするのかなどが不明。少なくとも協議が成立しない場合どうするかを定めておくべき。
7 契約書を作成するときの視点
(1)利益の確保ができているか。
→ビジネス上の視点。
売買の場合であれば、引渡場所、引渡方法、品質保証条件、代金支払時期・方法などによって売主の利益は変わる。利益確保の点からは、契約書の納入義務に見合った納入価格になっているかが重要。買主は、支払義務に見合った権益を確保しているか。
※こちらに有利な条項を入れるときのテクニック。
法律上、当然に負うようなこちらの義務も明確に記載しておく。
例:「乙は、本契約1条に基づく事務処理については、善良な管理者としての注意義務をもって、誠実にその処理を行う。」「乙は、甲の請求に応じて、定期的に事務処理の進捗状況について説明を行う。」など。
(2)リスク回避ができているか。
→トラブルを想定。
同種の事例でどのようなトラブルが過去に発生したか、将来発生し得るかといったことを事前に想定して、それに対処する条項を入れることが重要。相手方の責任で損害が発生したときに損害賠償を求めることができる規定になっているか。
(3)違法な条項はないか。
→各種法律の知識が必要。特に独禁法、下請法、利息制限法、借地借家法、会社法、金商法、各種業法、消費者契約法、著作xx、個人情報保護法etc。
8 xx証書について
(1)原則
契約書を作ったのみでは、それに違反しても、すぐに相手の財産を差し押さえたり、競売はできない。
契約書を証拠に訴訟を起こし、勝訴の判決を得た上で、更に強制執行の手続きをしていく必要がある。
(2)xx証書を作成することの効果
①訴訟を経ずに、直ちに強制執行が可能になる。
②真正に成立した公文書との推定を受けるので、強い証拠力を持つ。
③xx証書は原本が公証役場に保存されているので、必要に応じて請求すれば謄本が手に入る。
④事業用定期借地権設定契約はxx証書での契約が必要。
⑤定期借地権で更新しない旨の特約はxx証書等書面での定めが必要。
⑥定期建物賃貸借契約はxx証書等書面での定めが必要。
(3)どのような場合にxx証書にするか
→金銭の取り立てを目的とした契約
手形、株券といった有価証券の給付を目的とするものでも強制執行可能。
(4)xx証書作成のときに注意すべき要件
①金銭額が一定していること
→「乙が、将来、xに対して負担する買掛金」等といった記載ではダメ
②執行受諾条項の記載
( 5) xx証書の作成方法
最寄りの公証役場で作成。実印、印鑑証明、法人の場合登記簿謄本を用意し、本人又は代理人が出頭。
委任状には、「別紙契約書掲載の契約条項にもとづき強制執行認諾約款
つきのxx証書を作成することに関する一切の件」と記載する必要。
(6)手数料
目的物の価額による。100万円までは5000円。以上、一定の区切りで増額して、5000万円を超え、1億円までは4万3000円。
9 契約が成立していない場合における責任
〔設問〕AとBがA所有の甲土地の売買の交渉をし、代金額、支払方法、支払時期、登記手続、引渡方法などにつき細部まで協議が成立し、契約書案も作成された。ただ、契約書調印は、2 日後が大安なので、その日に行うことにした。 Bは、当日、資金を準備して、約束の場所に赴いたが、そこにAから電話が入り、売るのはやめたと通告された。なお、AとBは、交渉の初期の段階で、それぞれ「売渡承諾書」「買付証明書」という書面に記名押印し、これを交換している。
ⅰ AB間に売買契約は成立しているのか?
ⅱ もし、契約が成立していないとすると、BはAに対し何か請求ができるか。
ⅲ BがAに対して、甲土地の所有権移転登記手続及び引渡しを求める訴えを提起し、売買契約の成立を証明する証拠として、上記各書面のほか、両名名義の押印のある「売買契約書」を提出したが、Aが同文書は偽造されたものであると主張した場合、どのような問題が生ずるか。
( 1) 契約の成立についてア 各段階の細分化
①甲土地の売買高所の開始の段階
②売渡承諾書と買付証明書を交換した段階
③細部にxxx協議が成立した段階
④契約書案を作成した段階
⑤契約書調印の日時場所を取り決めた段階
⑥調印予定日の出来事があった段階イ 契約は申込みと承諾の一致。
ただし、方式( 口頭か書面か)、交渉があるか否か、取引の性格(高額なものか否か等)、継続的なものか単発か、契約の主体が企業か個人かなどによって様々。
ウ 不動産売買契約について
確定的な意思表示がなされるまで契約は成立しない(判例)。
→確定性とは?
ⅰ給付内容の確定性
対象不動産と代金額が確定しているか。
ⅱ合意の終局性
不動産売買の場合、相当期間の交渉が想定される。基本的な合意があっても、調査、検討、内部手続などを進めつつ、細部をつめる交渉が続く。その場合はいまだ契約は成立していないとみるべき。
また、取引慣行から、「買付証明書」「売渡承諾書」が交付されただけでは、契約成立とみないのが通例。
売買契約書の作成及び手付金等の授受が、不動産売買契約の成立と認めるのが決定的要因とされている。
エ 設問について
少なくとも③の段階まででは、契約成立していないとみるべき。
それ以後に成立したかどうかは、契約の主体や、特に調印日を大安の日にした趣旨(縁起をかついだだけか、そのときまでなお調査等を続けるつもりか) 等によって考慮するが、判断の分かれ得るところ。
手付金を渡していたり、登記に必要な書類を引き渡すなどの履行に着手した事実があれば契約成立とみられる。
また、商人間( 会社はすべて商人)で、通常取引が行われている相手から注文が来たときには、返事をしない場合でも、契約が成立したものとみなされる。ただ、不動産のような場合には継続的取引があることは想定し難いであろう。
(2)契約交渉の破棄による責任ア 契約締結上の過失責任
契約準備交渉段階に入った当事者間の関係は、そうでない場合よりも緊
密であるから、相手方に損害を被らせないようにするxxx上の義務を負い、自らの責めに帰すべき事由によりその義務に違反して損害を生じさせた場合は、損害賠償責任を負う( 通説)。
なお、xxxとは、人の信頼は裏切ってはならないという原則のこと。イ 損害賠償の範囲
xxxxか履行利益か。
契約が成立すると思って支出した費用に限られるのか、土地の値上がり益等の契約が成立していたであれば得られたであろう利益も含むのか。
通説は信頼利益に限られる。
ウ 本件では、Bが契約書調印準備のために支出した調査費用等の実費や、銀行から資金借入利息に限られよう。
(3)裁判での立証についてア 立証方法
書証(一番重要)、証人尋問、当事者尋問など。
イ 契約書の署名、押印がその人のものであれば、契約書はその人の意思に基づいて成立したと推定される。だから、その人の印章であることがいえれば良いので、印鑑証明をつけてもらって実印を押してもらっておけば立証が楽。筆跡鑑定は難しい。
→推定が認められると、争う側が自分の意思ではないことを立証しなければならない。印鑑が勝手に持ち出されたとか、筆跡が明らかに違うとか。
(4)契約交渉段階で注意しておくべき点
①お互いの態度を明確化すること
どの条件が一致し、どの条件が不一致か明示して確認しあうこと。
②条件はつり上げないこと
市況の変化が生じて当初の代金が不相当になった場合には交渉をいったん打ち切る。
③相手の返事が遅れていて、そのまま契約が成立すると困るときにもいったん打ち切りの意思表示をしておくこと
④交渉経過を記録しておくこと
議事録にして、互いに記名捺印して保存しておく。
⑤交渉中に言ってはならないこと
ⅰ承諾したということをは言わない。
ⅱ「絶対に○○です。」とは言わない。進むも退くもこちらの選択肢を残しておく。
ⅲ「最終回答」という表現はできるだけ避ける。
ⅳ打ち切るときには含みを残さず、断言する。ただし、相手は非難しない。後で、もめそうなときには、内容証明郵便を出して、契約の交渉を打ち切る旨通知しておく。
10 契約締結課程での情報提供義務
〔説例〕XらはYからマンションの各部屋を購入したが、まもなく隣接地に高層マンションが建設されたため、日照、通風、眺望が著しく阻害されるに至った。そこで、隣接地でのマンション建設についてYはXらに告知すべき義務があったのに怠ったとして、損害賠償を求めたが、これは認められるか。
(1)情報提供義務
契約の価額が高額で、当事者間の情報や専門的知識に大きなアンバランスがある場合、契約の締結過程において、一方当事者から他方当事者に対して、xxx上、情報提供の義務が課されることがある。
①不動産売買で専門業者が売主となる場合
→本件のような事例では、情報提供義務がある。
②フランチャイズ契約
→フランチャイズ契約は、フランチャイズチェーンの本部機能を有する事業者(フランチャイザー)が、他の事業者( フランチャイジー)に、一定の地域内で、自己の商標、サービス・マーク、トレード・ネームその他の営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする契約であるが、フランチャイザーにとっては、フランチャイジーの資金や人材を利用して事業を拡大することができ、フランチャイザーがフランチャイジーを指導、援助することが、フランチャイズ契約の重要な要素の一つとなっている。
このように、フランチャイズシステムにおいて、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分でない個人が、本部による指導や援助を期待してフランチャイズ契約を締結することが予定されていることに鑑みると、フランチャイザーは、フランチャイジーの募集に当たって、契約締結に当たっての客観的な判断材料になる正確な情報を提供するxxx上の義務を負っていると解すべきである。
③投資・投機的正確を持つ取引について、証券会社や保険会社等に情報提供義務あり。
④医師の説明義務
※対等当事者間では、契約に際して必要な情報を集めるのは互いの責任であるから、特に定めがない限りは情報提供義務は必ずしも認められない。例: ライブドアオート事件
M&Aで、買主側の財務状況について情報提供義務がないとされた裁判例。
( 2) 助言義務
情報の提供を超えて助言する義務まで認められる場合。
→専門的な金融取引、医療契約、弁護士との委任契約。
11 弁護士に契約書についてご相談いただくときのお願い
(1)前提の事実関係を説明していただきたい。例えば、土地賃貸借契約であっても、それは近くに病院が建つことを前提としているとか、その計画はどの程度のものであるのかなど。
(2)相手方とのこれまでの関係、交渉段階での言動等から、想定されるトラブルを出来る限り広い範囲で想定しておいてください。また、上司や同僚の方から、これまで同種の契約で何かトラブルが生じたことがないか、情報を事前に集めてください。
(3)全体を満遍なく相談するよりも、ポイントを絞っていただいた方が適切なアドバイスができます。
(4)必ず契約書を締結してしまう前に、ある程度の余裕をもってご相談に来て下さい。交渉段階で、まだ契約書案を相手方に示す前が望ましいです。
(5 )当社の責任を軽減する条項やお客様の義務を規定する条項などについて、お客様にクレームを言われないように、曖昧に書いて分かりにくいように誤魔化したい、という考えをもしお持ちの方がおられれば、それは目の前のことにとらわれすぎており、後々トラブルになったときに大いに問題になります。裁判所はこちらに有利に解釈してくれるとは限りません。
(6)ケアレスミス、形式事項のチェックは事前に済ませていただくようお願いいたします。そこに目が行ってしまい、重要な点を重点的に見る時間が少なくなってしまいます。
◇契約書チェック表
1 形式面~案を作成した後に最低2回、締結する数日前までに最低1回の、最低でも合計3回以上は通して読むこと。一度は、声に出して読むとよい。
①契約の締結者は、権限がある者か。
②締結者の住所、会社名、代理人等の表示は、登記簿謄本等と照らして間違っていないか。
③契約書の表題や頭書は、内容と合致しているか。
④物件目録等の記載は、登記簿謄本等と照らして間違っていないか。
⑤当事者の数だけ原本を作成しているか。
⑥署名・押印欄で、甲、乙が逆になっていないか。
⑦金額や期限が間違っていないか。消費税は含まれているのか。 各条項で、甲、乙が逆になっていないか。
⑨引用条文(本契約第○条に述べた・・・)が正確か。
⑩契約作成日欄が空白ではないか。
⑪代表者の記載があるか。
⑫契印が押されているか。
⑬収入印紙が必要ではないか。
2 内容面~うまくいく場合ではなく、トラブルがある場合を想定すること。
①定義していない語を用いていないか。
②主語や相手方のない記載がないか。
③違約金の定めがあるとき、額は適正か。
④サービス複数、報酬の支払時期複数の場合、サービスと報酬の結びつきを特定しておく必要がある。
⑤期限の利益喪失条項が存在するか。
⑥解除権が一方当事者のみに認められていないか。
⑦解除等によって契約が途中で終了した場合の精算について規定しておく必要がないか。
秘密保持義務の定めは必要ないか。
⑨連帯保証人を定める必要はないか。
⑩合意管轄は都合の良い裁判所になっているか。
⑪損害賠償(遅延利息・賠償額の予定) の規定が必要ではないか。
⑫危険負担の定めは必要ないか。
⑬担保責任の定めは必要ないかか。
⑭諸費用の負担の定めは必要ないか。
⑮xx証書強制執行認諾は必要ないか。
⑯利息等に違法な記載がないか。
⑰関係規制法令に照らして違法なものはないか。
⑱多義的であいまいな条項はないか。