知財高裁(1部)令和2年8月20日判決〔GUZZILL♙事件〕
2020.10月号
N o .46
特許侵害
特許権の共有者間で締結された共同出願契約の約定に従い、特許権の持分喪失が認められた事例
知財高裁(1部)令和2年8月20日判決〔結ばない靴ひも事件〕
特許取消決定に対する取消訴訟
知財高裁(1部)令和2年8月4日判決〔ウエハ検査装置事件〕
商標
商標権の分割の効果を主張して審決の取消しを求めることが手続上のxxx違反・権利濫用にあたると判断した事例
知財高裁(1部)令和2年8月20日判決〔GUZZILL♙事件〕
不正競争
大阪地裁(26部)令和2年8月27日判決〔京都芸術大学事件〕
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2020.10月号
N o. 46
特許侵害
特許権の共有者間で締結された共同出願契約の約定に従い、
知財高裁(1部)令和2年8月20日判決(令和2年(ネ)第10016号)裁判所ウェブサイト〔結ばない靴ひも事件〕
本件訴訟は、発明の名称を「チューブ状ひも本体を備えたひも」とする特許権(「本件特許権1」)及び「チューブ状ひも本体を備えた固定ひも」とする特許権(「本件特許権2」、本件特許権1と併せて「本件各特許権」)を有する控訴人Xが、本件各特許権の共有特許権者である被控訴人Y及びYが代表取締役を務める会社(Yと併せて「Yら」)に対し、Yらによる本件特許権1に係る発明の実施品であるYらの製品の製造・販売行為(「Y販売行為」)は、特許法73条2項所定の「別段の定」に違反するとして本件特許権1を侵害すると主張し、Yらが共同して日本におけるXの市場を不当に奪取したことは一般不法行為に当たるとして、 Yらに対し、特許法100条1項に基づくYらの製品の輸入販売等の差止め、民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償を求め、また、Yに対し、本件各特許権の剥奪について定めたX及びYほかとの間の共同出願契約に基づき、Yが本件各特許権の持分4分の1を有しないことの確認、同持分のXに対する移転登録手続及び同持分の権利抹消登録手続を求めた事案です。
原審は、Xの各請求をいずれも理由がないものとして棄却し、 Xがこれを不服として控訴していた(「本件控訴」)ところ、知財高裁は本件控訴を棄却しました。原審・知財高裁いずれも複数争点がありますが、①Yらの販売行為がXの本件特許権1を侵害するか、②Yが本件各特許権の持分権を喪失したかの2点に絞り、知財高裁で判示された内容をご紹介します。
前提事実として、X、Y、B及びC(B及びCは本訴訟の当事者となっていません。)は、平成25年4月15日付けで本件各特許権の出願及び実施品の販売に関して共同出願契約(「本件共同出願契約」)を締結していました。そして、本件共同出願契約2条において、本件各特許権及び同権利に係る特許を受ける権利はいずれも同4者の共有(持分各4分の1)であるとし、8条において、同4者は他の全ての当事者の同意を得なければ、本件各特許権を第三者に譲渡し、あるいは本件発明の実施を許諾し
てはならないとし、13条において、事前の協議・許可なく、本件各特許権を新たに取得し、又は生産・販売行為を行った場合、本件の各権利は剥奪される(13条を「本件定め」)と定められていました。
平成28年4月以降、Xは、Y、B及びCの許可を得ることなく、独自に本件各特許権を実施した製品を製造販売したところ、Yは当該販売行為(「X販売行為))が本件特許権1を侵害すると主張し、訴訟提起を行いました(「別件訴訟」)。別件訴訟において、知財高裁は、X販売行為が本件共同出願契約の本件定めに違反し、本件特許権1に係るYの持分権を侵害するという中間判決を言い渡しました。これを受けて、平成29年4月以降のY販売行為についてXが提起したのが本件訴訟となります。
【①について】
⮚ 特許法73条2項によれば、各共有者が自らする特許発明の実施については、他の共有者の同意を要しないことをもって原則とした上、共有者間の合意によってこれと異なる定めをすることができる。
⮚ 本件共同出願契約は、既に平成24年7月から共同事業が開始されている製品のほか、今後事業を行うものも含め、結ばない靴ひもの製造販売に関し、その権利関係等について取り決めるため締結されたものである。
⮚ 本件共同出願契約の約定のうち「本件発明の実施」との見出しを有する7条は、各共有者が協議の上で別途定めるとするものの、「違反行為」との見出しを有する13条が、事前の協議・許可なく、本件各特許権を実施して生産・販売行為を行った場合、その特許権が剥奪されるとしている(本件定め)。
⮚ 上記各約定を併せて読み、本件共同出願契約が締結された上記の経緯や、結ばない靴ひもの製造販売に関する共同事業の前提となる権利関係等を確認するための法的
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合意文書であるという契約書の性格にも照らせば、各共有者は、既に明示又は黙示的に合意されている事業形態
(商流)に沿って発明を実施することは、各共有者においてすることができる一方、それと異なる態様での自己実施については、別途の協議、すなわち、事前の協議・許可を要し、これをすることなく、既に取得された特許権の実施として製品の生産・販売行為をすることは許されないとして制約したものと解される。
⮚ また、本件定めの「剥奪される。」との文理からすると、他の共有者の事前の協議・許可を経由することなく、本件各特許権に係る発明を、自ら実施して、製品の生産又は販売をした共有者は、本件各特許権に係る自己の持分権を喪失するものと解するのが相当である。
⮚ Xは、平成28年4月以降、従前の事業形態(商流)とは異なり、独自に原告製品を日本で製造し販売している。そして、X販売行為について、他の共有者であるYほかとの事前の協議や許可はなされていないから、Xは本件定めに違反したものとして、本件各特許権の持分権を喪失したというべきである。
⮚ 以上より、Xは本件特許権1の持分権を喪失していることから、Y販売行為は本件特許権1を侵害しない。
【②について】
⮚ Yは、遅くとも平成29年4月から販売行為(Y販売行為)を行っているが、Y販売行為は他の共有者であるB及びCの許可を得たものである。他方、Y販売行為についてXが同意ないし許可をしたことはない。
⮚ しかしながら、本件定めにいう「事前の協議・許可」をすることできる法的地位、すなわち、他の共有者が特許発明を実施することについて事前の協議及び許可をすることのできる法的地位は、本件各特許権の共有持分権の内容を構成するものと解されるから、本件定めに違反し、持分権を喪失した共有者は、以後、他の共有者がする発明の実施について協議や許可に関与する余地はなくなるものと解される。
⮚ そして、Xは、Y販売行為の開始に先立つ平成28年4月以降、先述のとおりその共有持分権を喪失していることから、 Y販売行為についてXの同意ないし許可は要しないという
べきである。
⮚ 以上より、Yは本件各特許権の持分権を喪失しない。
本判決は特許法73条2項の「別段の定」を規定した際の帰結を判示したものであるところ、契約違反を理由として特許の持分を失う旨の本判決の判断については理論面も含裁め判例多は分こにちら議論の余地が残るものと思われ、今後の裁判例及び学説の展開が期待されます。
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特許取消決定に対する取消訴訟
進歩性の有無に関する特許庁・裁判所の判断が分かれた事例
知財高裁(1部)令和2年8月4日判決(令和元年(行ケ)第10124号)裁判所ウェブサイト〔ウエハ検査装置事件〕
1 事案の概要
本件は、発明の名称を「ウエハ検査装置」とする特許(特許第 6283760号「本件特許」)についての特許異議の申立てに対する特許取消決定(「本件決定」)に対し、特許権者が本件決定の取消しを求めた訴訟です。本件は、本件特許の進歩性を否定した特許庁の判断を裁判所が覆したことから、その判断部分をご紹介します。
2 本件特許と引用発明との相違点
本件特許の請求項1は、「ローダと整備空間との間に配置された複数の検査室であって、半導体デバイスが形成されたウエハの検査の際に用いられる被整備テストヘッドと、前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレールと、を備えた複数の検査室と、/ウエハを搬送先の検査室内に搬送する前記ローダと、を備え、/前記被整備テストヘッドを引き出す整備空間側と前記ウエハを搬送するローダ側とが前記複数の検査室が配置されたセルタワーの反対側であることを特徴とするウエハ検査装置。」(「本件発明」)というものです。本発明の目的は、メンテナンス等の際にテストヘッドを容易に引き出すことができるウエハ検査装置を提供することにあるとされています。
進歩性判断に際しては、本件発明と引用発明との一致点・相違点を認定し、相違点について当業者が容易想到できたか否かを検討することになります。
本件における引用例(再公表特許第2011/016096号)に係る発明(「引用発明」)との相違点は、次のとおりです(裁判所が本件決定を覆した相違点を紹介します。)。
相違点:本件発明は、「複数の検査室」が、「前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレール」を備え、
「被整備テストヘッド」を引き出すものであるのに対し、引用発
明は、「複数の収容室のそれぞれには、」「メンテナンスカバーが設けられ、当該メンテナンスカバーの外側には、前記プローブカードを引き出した場合に当該プローブカードを支持するガイドレールが設けられ」、「プローブカード」を引き出しているものの、
「テストヘッド」を引き出すものではなく、「テストヘッド」を「整備空間側に引き出すスライドレール」も備えていない点。
3 裁判所の判断
裁判所は、特許庁が本件決定にて相違点が容易想到であると判断した根拠である周知技術を基礎づける甲2文献(特開平 5-175290号公報)のほか、本件訴訟にて被告(特許庁)が新たに提出した周知技術を証するための文献(乙1~3)には、「相違点に係る構成(検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え、テストヘッドを引き出す構成)の記載はなく、証拠上、他に上記構成が記載された文献はない。…引用発明に甲2文献及び乙1~3に記載された事項を組み合わせても、本件発明の構成には到らない。」として、本件決定の判断に誤りがあるとして、本件決定を取り消しました。
裁判所は、被告(特許庁)の主張を排斥するにあたり、以下の点を指摘しています。
① 引用例及び甲2文献には、プローブ装置において、メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイドレールに沿って引き出す構成とすることの記載がある。しかし、本件原出願の当時、テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ、テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違することから、プローブカードに関する上記記載から、テストヘッドを含むメンテナンスの対象物一般について、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、また、その際に、スライドレールにより引き出す構成とすることがx
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知技術であったということはできない。
② 乙1~3には、検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておらず、テストヘッドを引き出すものではない。
③ 引用発明においては、テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開けて行うものとされ、背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているのであるから、検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え、テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない。
4 コメント
特許庁は、甲2文献によれば、メンテナンス対象物を引き出してメンテナンスを行うことやスライドレールにより引き出すことは周知技術であると認定し、相違点について容易想到であると判断しました。しかしながら、裁判所は、相違点の容易想到性を判断するにあたり、甲2文献及び乙1~3において、本件発明における①検査室に収容されたテストヘッド、②検査室から整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレール、③テストヘッドを引き出すとの各構成が開示されているかを緻密に検討し、開示がされていないとして本件決定を取り消しました。本件は事例判断ではありますが、容易想到性判断にあたり、相違点に係る構成に相当する構成が副引例・周知技術を基礎づける甲2文献・乙1~3に開示されていることを要求するか否かによって判断が分かれた点(裁判所は開示を要求した点)は実務上の参考となるものと思料します。
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商標
商標権の分割の効果を主張して審決の取消しを求めることが手続上のxxx違反・権利濫用にあたると判断した事例
知財高裁(1部)令和2年8月20日判決(令和元年(行ケ)第10167号)裁判所ウェブサイト〔GUZZILL♙事件〕
1 事案の概要
本件商標
本件は、指定商品を第7類「鉱山機械器具、土木機械器具、荷役機械器具、農業用機械器具、廃棄物圧縮装置、廃棄物破砕装置」として、登録された本件商標について、被告Yが無効審判の請求をしたところ、商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標)に該当するとして、本件商標の登録を無効とする審決がされたことから、原告Xがその取消しを求めた審決取消訴訟です。
本件訴訟に至る経緯は以下のとおりです。
① Yが本件商標について、商標登録無効審判を請求し、
「GODZILL♙」との文字から成る商標を引用して、商標法 4条1項15号等に該当する旨主張したところ、特許庁は、請求不成立の審決をした(第1次審決)。
② Yが第1次審決の取消しを求める訴えを提起し、知財高裁は、第1次審決を取り消す旨の判決(第1次判決)をし、同判決は、上告不受理決定により確定した。
③ 特許庁は、無効審判について更に審理を行い、本件商標の登録を無効とする旨の本件審決をした。
④ Xは、本件商標に係る商標権を、令和元年12月12日受付の申請により、本件商標2(指定商品を第7類「パワーショベル用の破砕機・切断機・掴み機・穿孔機等のアタッチメント」とするもの)と本件商標1(本件商標の指定商品から本件商標2の指定商品を除いた残余のもの)に分割し、その登録を受けた。
⑤ Xは、令和元年12月12日、本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。
なお、Xは、本件商標2と商標及び指定商品を同じくする別の商標(別件商標)の設定登録を受けています(令和元年5月10日登録)。
Xは、本件審決の取消事由として、分割後の本件商標2は、商標法4条1項15 号に該当しないから、本件商標2を含めて同規定に該当するとの判断をした本件審決には、取り消されるべきであると主張しましたが、知財高裁は、以下のとおり判示して、Xの請求を棄却しました。
2 知財高裁の判断
(1)商標権の分割の効果について
商標権の分割は、登録しなければ、その効力を生じず(商標法35条、特許法98条1項1号)、登録によって生じる分割の効果が遡及することを定めた規定はないから、分割の効果は、登録の時点から将来に向かって生じるものと解するのが相当である。
(2)Xの主張について
商標権の分割の効果は、登録の時点から将来に向かって生じること、複数の指定商品についてされた1件の審決は、分割後のそれぞれの指定商品についてされたものと解すべきことからすれば、Xが商標権の分割をしたことそれ自体は、本件審決の効力を左右するものではなく、その登録以前にされた本件審決の判断の当否に影響することはない。
また、以下に述べるとおり、Xが本件訴訟において商標権の分割の効果を主張して、審決の取消しを求めることは、許されない。
⮚ 商標法が、商標権の移転を伴わない場合も含めて、商標権を分割することを認めている趣旨は、異議申立てや無効審判の請求がされた場合に、問題のない商品又は役務に関する商標権を分離して、権利行使を容易にすることがで
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きるというメリットを生かすことにある。そうであるとすれば、商標権の無効が主張され、異議申立てや無効審判の請求がされたときは、商標権者において商標権の分割を遅滞なく行うことを期待しても、商標権者に酷であるとは解されない。他方で、商標権者において商標権の分割がされないまま、異議申立てや無効審判の手続が進行すればするほど、商標登録の無効を主張した相手方には、商標権の分割がされることはないものとの信頼が生じる。
⮚ 商標登録無効審決後に商標権が分割された場合に、分割後の指定商品ごとに無効理由を判断し、審決の違法性を判断すべきものとすると、商標権を分割すれば実質的に特許庁や裁判所の判断を繰り返し求めることが可能になり、分割の回数を増やすことにより、紛争解決を引き延ばすことになる。
⮚ 特に本件においては、無効審判の手続が進行して請求不成立審決がされ、これを取り消す旨の第1次判決がされ、Xの上訴を経て第1次判決が確定し、無効審判の審理が更にされて本件商標の登録を無効とする旨の本件審決がされた後に、商標権の分割がされている。また、Xは、第1次判決後に別件商標の出願をして、既にその商標登録を得ていることに照らせば、遅くとも別件商標の出願時には本件商標の分割をすることができた。さらに、本件商標2の指定商品は、本件商標の指定商品のうち、「土木機械器具」に含まれるとされる「パワーショベル」を用途とするアタッチメントと解されるが、「化学機械器具」に含まれるとされる「破砕機」や「金属加工機械器具」に含まれるとされる
「切断機」等も例示するものであって、このように細分化され、本件商標の指定商品に含まれるか否かが直ちに明らかとはいえないものを含む商品への分割は、予測し難い。これらの事情に鑑みると、本件商標について上記のような商標権の分割がされることはないとのYの信頼の程度は大きい。
⮚ よって、Xが本件訴訟において商標権の分割の効果を主張して、本件審決の取消しを求めることは、XY間の手続上のxxxに反し、又は権利を濫用するものとして許されない。
3 本判決について
の本判決は、商標権の分割には遡及効がなく、Xが商標権の分割をしたことそれ自体は、分割前の登録商標についてなされた無効審決の効力を左右しないことを判示しつつ、商標権の分割の効力を主張して無効審決の取消を求めることは手続上のxxx違反・権利濫用となり得ることを判示しています。は手こ続ちら上のxxx違反・権利濫用の成立について、本件訴訟の事情の下における判断ではありますが、商標登録無効審判への対応方針等を検討するにあたって実務上参考になると考え、ご紹介する次第です。
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不正競争
大学名称の使用について不正競争行為該当性を否定した事例
大阪地裁(26部)令和2年8月27日判決(令和元年(ワ)第7786号)裁判所ウェブサイト〔京都芸術大学事件〕
本件は、京都市立芸術大学を設置する公立大学法人Xが、名称を京都造形芸術大学から京都芸術大学へと変更した大学を設置する学校法人Yに対し、Yによる「京都芸術大学」(本件表示)の使用が不正競争行為に該当するとして、使用差止を求めた事案です。大阪地裁は、以下のとおり、不正競争防止法2条1項1号に関しXの大学名称等の著名性を否定し、また、同2号に関しXの大学名略称については周知性を否定し、大学名称については周知性を肯定しましたが類似性を否定する判断を示しました。
1. 原告表示(Xの商品等表示)
XはX自身の商品等表示として、①京都市立芸術大学、②京都芸術大学、③京都芸大、④京芸、⑤Kyoto City University of
♙rtsを主張した(順に、原告表示1、原告表示2…といい、原告表示と総称する。)。
2. 不正競争防止法2条1項1号
原告表示は経歴等に用いられているところ、芸術家の活動の際には、当該芸術家の名や作品名等が大きく表示され、経歴等はこれらと同程度又はより小さな記載により付記される程度にとどまることが通常であり、殊更に注目を惹く形で表示される場合は限られる。こうした活動に接する側の鑑賞者も、研究者その他の特に関心の深い者でなければ、当該活動それ自体や当該芸術家の他の活動等に関心を持つことはあっても、当該芸術家の経歴等にまで興味を持つとは必ずしもいえない。したがって、原告表示に著名性は認められない。
3. 不正競争防止法2条1項2号
(1)周知性
原告表示1については、大学の歴史、芸術教育活動の実施、
卒業者の活躍、京都府及びその近隣府県の範囲における交通や新聞等による報道の実情等に鑑みると、京都府及びその近隣府県に居住する一般の者が、原告表示1を目にする機会は相当に多いものと合理的に推認される。したがって、原告表示1について周知性が認められる。
他方、原告表示2~5については、使用頻度、使用態様等に鑑みれば、周知性は認められない。
(2)類似性
原告表示1の要部は、その全体である「京都市立芸術大学」と把握するのが相当であり、殊更に「京都」と「芸術」の間にある
「市立」の文言を無視して「京都芸術大学」部分を要部とすることは相当ではない。他方、本件表示の要部については、「京都」、「芸術」及び「大学」のいずれの部分も自他識別機能又は出所表示機能が乏しいことから、これらを組み合わせた全体をもって要部と把握するのが適当である。
原告表示1と本件表示とは、その要部を中心に離隔的に観察すると、「市立」の有無によりその外観及び称呼を異にすることは明らかである。観念についても、「市立」の部分により設置主体が京都市であることを想起させるか否かという点で、原告表示1と本件表示とは異なる。取引の実情としても、需要者は、複数の大学の名称が一部でも異なる場合、これらを異なる大学として識別するために、当該相違部分を特徴的な部分と捉えてこれを軽視しない。したがって、原告表示1と本件表示とは、類似するものということはできない。
本件判決は、大学名称の使用可否が争われ、社会的に耳目を集めた事例として、紹介いたします。
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執 筆 情 報 のご 案 内
株式会社有斐閣
日本工業所有xx学会年報第43号『意匠法改正の検討』
「営業秘密の刑事上の保護といくつかの問題について」
著者 xxxx
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