RETIO. NO.123 2021 年秋号
RETIO. NO.123 2021 年秋号
最近の裁判例から
⒁−定期建物賃貸借契約−
店舗賃貸借にも良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特措法附則3条が適用されるとの主張が棄却された事例
(東京地判 令 2・12・24 ウエストロー・ジャパン) xx x
xx10年に締結した建物賃貸借契約を終了させ、新たに定期建物賃貸借契約を締結した店舗賃貸借に関し、賃貸人が契約の終了及び建物の明け渡しを求めたのに対し、賃借人が
「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特措法附則3条」の趣旨は、賃借人が自己に不利益なことを理解せぬままに定期賃貸借に移行することの防止にあり、店舗賃貸借にも同条が適用されると主張した事案において、同条は、事業用の賃貸借契約には適用又は類推適用されないとして、賃貸人の請求が認容された事例(東京地裁 令和2年12月24日判決ウエストロー・ジャパン)
1 事案の概要
平成10年2月17日、海鮮丼店を営む法人Y
(被告)は、a場外市場に存する建物の所有者Bから賃借している法人A(訴外)との間で、普通建物賃貸借契約を締結し、その後、平成17年3月頃には、「店舗一時賃貸借契約書」と題する書面に、平成28年2月には「定期建物賃貸借契約書」と題する書面に記名押印し契約を締結し、その後、1年ごとに同様のひな型の契約書を締結した。
平成31年2月、Yは、Aとの間で、以下の約定により、本件建物の定期建物賃貸借契約
(本契約)を締結し、また、Aと、Yの実質的な経営者Y1(被告)との間で、Y1が本契約から生じるYの一切の債務を連帯保証する旨の契約が書面により締結された。
期間:平成31年2月18日から1年間
賃料:月額28万円(除消費税) 契約の更新をしないことの合意:
AとYは、a市場の移転計画があったことから、本件建物を定期建物賃貸借の目的とし、期間満了をもって賃貸借契約が終了し、契約の更新をしないことを合意した。
通知期間:Aは、期間満了の6か月前までに、Yに対し、期間満了により賃貸借契約が終了する旨を書面により通知する。ただし、Aが通知期間の経過後、期間満了により賃貸借が終了する旨の通知をした場合は、その通知日から6か月を経過した日に賃貸借契約は終了する。
損害金:Yが明渡しを遅滞した場合、賃貸借契約が解除され又は消滅した日の翌日から賃料倍額相当の損害金を支払う。
なお、Aは、Yに対し、契約書とは別に、契約を更新をしない旨を記載した説明書(別個書面)を交付して説明した。
令和元年11月、X(原告)は、本件建物を Aから譲り受け、賃貸人の地位を承継した。同年12月25日、Xは、Yに対し、本契約を 更新せず、令和2年6月末日をもって終了する旨を書面により通知し、その後、令和2年
6月末日を経過したため、Xは、Yに対し、本件建物の明渡しを求めるとともに、Yに対し不法行為(不法占有)に基づく損害賠償として、Y1に対し連帯保証契約に基づく保証債務の履行として、本契約終了日の翌日(令和2年7月1日)から本件建物の明渡済みま
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で約定による56万円/月の割合による損害金を連帯して支払うことを求めた。
Yは、Xの請求に対し次のとおり主張した。
① 平成17年の店舗一時賃貸借契約も、平成 28年の定期建物賃貸借契約書も、普通賃貸借契約が更新されたものであり、解約申入れに必要な正当事由はないから、賃貸借契約は終了していない。
② 良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則3条(特措法附則3条)で、平成12年3月1日より前の住居用賃貸借契約には借地借家法38条の規定が適用されないとの趣旨は、賃借人が自己に不利益なことを理解せぬままに定期賃貸借に移行することの防止にある。
本件での契約書の記名押印者は、実質的な経営者でない形式的な代表者にすぎないから、双方が契約内容を十分に理解していなかったというべきであり、特措法附則3条により、借地借家法38条は適用されない。
Yの主張に対し、Xが裁判を提起した。
2 判決の要旨
裁判所は、次のように判示し、Xの請求を認容した。
Yらは、本契約が契約の更新をしないことの合意を欠く普通賃貸借契約であると主張するが、本契約においては、契約書において契約の更新がないこととする旨が定められており、かつ、別個書面にも期間満了により契約が終了すること及び更新がないことが明記されており、Yはその説明を受けて理解し承諾する旨の「受領書・承諾書」を賃貸人側に差し入れている。
これら各書証上の記載は、更新がないことが容易に理解できるものであって、借地借家法38条の方式に欠けるところはないから、契約の更新をしないことの合意に効力がないと
のYらの主張は採用できない。
そして、賃貸人側の説明内容は、結果として再契約がされてきたなどの過去の契約の経過や、Y側の押印者が法的知識に乏しかった可能性があることを前提としても、事業者であるYに対する説明として十分なものであったと認められる。また、Yらは、特措法附則 3条を根拠に、本契約には借地借家法38条が適用されない旨を主張するが、同条は、「居住の用に供する建物の賃貸借」に関する規定であって、商用スペースである本件建物に関する賃貸借契約に適用又は類推適用されるものではなく、Yらの主張は独自の見解をいうもので採用できない。
以上によれば、Xの請求はいずれも理由がある。
3 まとめ
普通建物賃貸借契約のうち、良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則3条の適用により、借地借家法第38条(定期建物賃貸借)が適用されない契約は、同条の施行日(平成12年3月1日)より前に締結された住居用建物の賃貸借契約であり、本裁判で、賃借人の主張は独自の見解として採用できないとされたものである
他方、住居用の賃貸借契約においては、賃貸人が、賃借人と立退き交渉を行い、隣接する貸主所有建物に転居して貰った上で、定期建物賃貸借契約を交わしたとして、賃借人に建物明渡しを求めた事案において、定期賃貸借契約とは言えないとして請求が棄却された事例(東京地裁 H26・11・20 RETIO100-136)もあるので、参考とされたい。
(調査研究部調査役)
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