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生命保険契約の失効条項の効力
x x x*
目 次
は じ め に
1.民法の原則により保険料支払義務を規律した場合
2.保険料支払義務の自己義務化と失効条項
3.失効条項適用上の問題 指摘される問題点
失効を望まない保険契約者に対する説明義務 口座振替による保険料支払の場合 4.失効条項と消費者契約法10条
失効条項に関する実務
消費者契約法10条からみた失効条項の効力 立 法 論
は じ め に
払込期月内に未払いの保険料が払込猶予期間内にも支払われないときは 生命保険契約が失効する旨の保険約款の条項(以下,失効条項という)は,消費者契約法10条により無効になり,この失効条項によって生命保険契約 が失効することはないと解する判決が現れた。東京高判平成 21・9・30 金 判1327号10頁・金法1882号82頁であり,これまでの生命保険実務における 一般の理解とは甚だ異なる見解を示している1)。その判旨の主要な点は次
* たけはま・xxx 立命館大学教授
1) 前提とされている保険料月払い(口座振替の方法)の生命保険約款の規定について,本判決は,次のようにまとめている。
「ア 第2回目以後の保険料は,月単位の契約応当日の属する月の初日から末日まで
(以下「払込期月」という。)の間に払い込む。
→
イ 第2回目以後の保険料の払込みについては,払込期月の翌日の初日から末日
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
のようである。
第一に,保険料の支払期限(民法412条1項)は,払込期月の末日では なく,払込猶予期間の末日であり,これを経過したときから保険契約者は 支払遅滞の責任を負うことになると解している。したがって,失効条項は,支払期限が経過した途端に直ちに無催告で生命保険契約が失効する旨を定 める規定であると理解されている。民法540条1項および541条によれば, 債権者は,相当期間を定めて債務の履行を催告し,それでも債務者が履行 をしないときにその契約を解除できるとされる任意規定と比べて,消費者 である保険契約者は権利を制限され,大きな不利益を受けているという。
第二に,長期にわたる生命保険契約や医療保険契約は,保険契約者側の生活を保障する目的を有し,その意に反して終了することになった場合の不利益は甚だ大きいとし,保険料が口座振替の方法によって支払われるときは,保険契約者のささいな不注意や口座振替の手続上の問題から保険契約が失効することがありうるので,民法の原則どおりに催告をする必要が
→
までを猶予期間とする。
ウ イの猶予期間内に保険料の払込みがないときは,保険契約は,猶予期間満了日の翌日から効力を失う。
エ イの猶予期間内に保険給付の支払事由が生じたときは,支払うべき保険給付の金額から未払保険料の金額を差し引く。
オ 保険料の払込みがないままイの猶予期間が過ぎた場合でも,払い込むべき保険料と利息の合計額が解約返戻金の額(当該保険料の払込みがあったものとして計算し,保険契約者に対する貸付けがある場合には,その元利金を差し引いた残額)を超えないときは,自動的に被控訴人(=保険者・筆者注)が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる。当該貸付けは猶予期間満了日にされたものとし,その利息は年8%以下の被控訴人所定の利率で計算したものとする。
カ 保険契約者は,保険契約が効力を失った日から起算して1年以内(本件医療保険契約の場合)又は3年以内(本件生命保険契約の場合)であれば,被控訴人の承諾を得て,保険契約を復活させることができる。この場合における被控訴人の責任開始期は,復活日とする。」
なお,本件で問題となったもう1件の医療保険契約には,解約返戻金の定めはないとされる。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
あるという。
第三に,第8次国民生活審議会消費者政策部会報告の提言に沿って,保険者が,実務上,書面による保険料支払いの督促をし,保険料の支払いがないまま払込猶予期間を過ぎると保険契約が失効することを明瞭に理解させるための措置を講じていたとしても,そして実際,本件で,保険料振替口座の残高不足による振替不能後,猶予期間内の支払督促と連続の不払いが契約失効になる旨の通知書が送付されていたとしても,無催告失効条項自体が消費者契約法10条により無効になるかどうかが問題であって,保険者が約款外でかかる実務対応をしていることは契約上の義務として行っているものでもなく,失効条項の有効性を判断する際に考慮すべき事情ではないという。
第四に,解約返戻金の範囲内で保険料自動振替貸付の制度があったとしても,十分な解約返戻金がなければ失効を防ぐ方法として十分ではなく,復活の制度も,復活請求時点での被保険者の健康状態等の告知を要し,復活前に発病している疾病等を原因とするものは保障されず,保険者が復活を承諾しなければその保険契約を復活させることができず,保険契約者の被る不利益は小さいとはいえないという。
第五に,無催告失効条項を無効とした場合,保険者の不利益は,多数の保険契約者を相手方としていることから,民法の原則に従って催告や解除の意思表示を要することになると,大量処理のための手間とコストがかかることが挙げられるが,実務上,保険料振替ができなかったことおよび猶予期間内の振替予定日にその振替を行うことの通知がなされており,民法の原則どおりに催告等をすることによる手間やコストはさしたる問題ではないことがうかがえるとし,催告等は,保険契約者が義務として届け出た住所に宛てて発し,それが到達すべき時点に到達したものとみなす約款規定を置くことができるはずであるという。
最後に,「以上のような点を総合すると,本件無催告失効条項は,消費者である保険契約者側に重大な不利益を与えるおそれがあるのに対し,そ
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
の条項を無効にすることによって保険者である被控訴人が被る不利益はさしたるものではないのである(現実の実務の運用に比べて手間やコストが増大するという問題は約款の規定を整備することで十分に回避できる。)から,民法1条2項に規定する基本原則であるxxxxの原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるといわざるを得ない。
ア 以上によれば,本件無催告失効条項は,消費者契約法10条の規定により無効になるというべきであり,本件無催告失効条項によって本件各保険契約が失効することはないというべきである。」という。
本件は,保険金請求事件ではなく,保険契約者である控訴人が生命保険契約等の存在確認を求める事件である点にも特徴がある。本件判決は,失効条項を無効であるとするが,現行法の下で,そのように簡単に言い切れるのか疑問があると思う。本稿では,無催告失効条項の有効性について改めて検討する。
1.民法の原則により保険料支払義務を規律した場合
契約の一般原則によれば,契約当事者として生命保険契約を締結した以上,その契約に基づく債務として,保険契約者は,その定めどおりに,期限の到来した保険料債務をxx支払う義務を負う2)。保険契約者が保険料支払債務を怠れば,保険者は,毎回のその支払いを期限の到来ごとに訴求できる。一旦,生命保険契約を締結すれば,保険契約者がそれを自由にいつでも解除して,保険料支払義務を免れることはできない。したがって,保険者は,あくまで全額の保険料支払を求めてこれを強制することができ
2) もちろん,生命保険契約の締結時に,その契約により支払われるべき保険料の全額を一括支払済みの場合は,保険契約者は,保険料支払義務をすべて履行済みである。変額生命保険契約などでは,このような保険料支払がなされることもある。しかし,保険契約者が遺族の生活保障として締結する生命保険契約の場合,多くが保険料を月払いや年払いなどの形でxx支払われていることは周知の事実である。この場合,保険契約者は,契約所定の期日に毎回保険料を支払うこととなり,多くはそのとおり支払が行なわれている。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
る。保険料支払債務の履行遅滞があれば,保険者はそれによって生じた損害の賠償も請求できる。また,保険料支払が遅滞したときに,保険者は,相当期間を定めて催告をし,その支払を求めることができ,その期間内に支払がないときは,契約を解除することもできる(民法541条)。さらに,この場合,保険者は保険契約者に対して損害賠償も請求できることとなる
(民法545条3項)。
しかし,生命保険契約をもはや不要と考える,あるいは保険料を支払いきれない保険契約者に対して,民法のかかる規律により,保険料の支払を強制することは,保険契約者に無理を強いることとなる。長期にわたって継続する生命保険契約においては,経済的事情も含めて保険契約者の諸事情の変化がいろいろ考えられるからである。また,継続的契約においては,一定の条件の下に,契約期間の途中でその契約を解除することができる旨の規律があることが一般でもある(民法617条,618条, 626条~628条等)。
そこで,保険契約者にいつでも生命保険契約から離脱できるように,保険契約上,無条件の任意解除権(遡及効のない解除のため,従来,任意解約権といわれてきた)を与えるのが通常である3)。保険契約者は,これを自由に行使することにより,その後の保険料支払義務を免れ,不要となった保障を強制されることもなくなり,また,無理な経済的負担からも解放される。
2.保険料支払義務の自己義務化と失効条項
保険契約者に任意解除権が与えられることにより,保険者が保険料支払
3) 平成20年に成立した保険法は,生命保険契約について,保険契約者はいつでも生命保険契約を解除することができることを定めている(54条)。本規定は,任意規定である(xxx編『一問一答 保険法』83頁(商事法務 2009年))。損害保険契約および傷害疾病定額保険契約についても,保険契約者のこの任意解除権が定められている(同法27条,83条)。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
を訴求しようとしても,保険契約者によりいつでも契約を解除されるため,未払い保険料を強制的に取り立てることが困難となる。催告をして強制的 な取り立ての方法に及ぼうとしても,その段階で,解除されれば,保険料 徴収の準備をすることさえもが徒労に帰することとなる4)。一方,保険契 約者が保険契約を解除していない限り,保険者は,未払い保険料をいつま でも請求でき,後日何回分かまとめて訴求できるとすることにも問題があ ろう5)。たとえ保険者がこのようにして未払い保険料を訴求できるとして も,月払い保険料などの場合は,その保険料額は比較的少額であることが 多く,大量の生命保険契約を保有する保険者が,これにかなりの費用をか けて毎回の保険料不払に対応することには,大きな無駄となる場合が相当 にあることを考慮すると,生命保険事業の運営上の問題となる。このまま では,保険者は,生命保険契約を維持し,自ら保険料支払を確保する効果
4) 確かに,期限の到来している個々の少額の保険料については,どれほどの徴収費用がかかるかは別として,法的には保険者は取立てが可能であろう。しかし,その生命保険契約を不要と考えて,もはや保険料を払っていなかった保険契約者に対して,どこまでその保険料の支払を訴求すべきものかは,また別に考慮を要する問題である。
5) 保険契約者が解除していない限り,保険者が未払い保険料について,後日,まとめてそ れを訴求できるとすることは妥当ではないと考えられる。むしろ保険料が支払われていな い場合,保険契約者はその保険を不要と考えていることさえ十分に想定しうる。このため,保険契約者が自動振替貸付制度の適用を後に拒否して,保険料を未払いにした期月以降の 解約返戻金を請求できるという仕組みにされている場合がある。保険契約者の合理的な意 思を忖度すれば,保険料を支払っていない場合に,その未払い保険料を後から徴収される ことは予定していないといえよう。この観点からも,保険料支払義務は,自己義務化する ことが保険契約者にとっても合理的であるという面があることは否めない。加えて,保険 制度の観点によれば,多数の保険契約者が積み立てた基金から保険事故が発生した者に保 険給付が行われるのであり,事故が起こってから,保険料を徴収する方法は,正常な基金 準備を難しくする面がある。その意味でも,保険料を支払っていない保険契約者に対する 保険契約関係が存続することは妥当とは言いにくい。保険料支払債務の性格について,自 己義務化を述べるものとして,xxxx「生命保険契約における保険料債務の性格」xx xx = xxxx『生命保険契約法の諸問題』393頁以下(有斐閣 1958年),xxx『保険 料支払義務論』33頁以下(有斐閣 1971年),同「生命保険と保険料の払込」ジュリスト 759号84-85頁(1982年)等。実務も同種の理解をしていることについては,日本生命保険 生命保険研究会編『生命保険の法務と実務』213頁(金融財政事情研究会 2004年)参照。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
的な手段をもたないことになる。すなわち,保険契約者に任意解除権が与えられることおよび保険料債務の支払いが訴求しにくいことにより,保険契約者の保険料支払義務は,事実上,その履行が保険契約者の意思のみにかかる結果となるからである6)。保険料支払義務は,実質的に保険契約者の自己義務化しているということができよう。
そこで,保険者は,保険契約者の任意解除権に対して,保険契約者の保険料支払いを動機づけ,促進するとともに,保険料不払いに簡便かつ効果的に対処する方法が必要になる。それが連続した保険料不払いに対して自動的に契約を失効させる失効条項である7)。これによって,保険料不払いが連続すれば,保険契約者はその生命保険契約を失うこととなるため,適時の保険料支払いに間接的に弱い形で強制され,一方,保険者は,無用の催告・強制xxxの法的手続きを取らずに済ませることができる。失効条項がなければ,適時の保険料支払いがないのに保険契約関係が必要以上に存続し,保険者は対価を得ていないため,本来は保険保護の提供を行えないのに,保険事故が発生すれば,未払い保険料債務と保険金請求権の相殺
6) 継続的契約として,生命保険契約を不動産の賃貸借契約と同列に論じようとする考え方 があるかもしれない。しかし,不動産賃貸借,とくに家屋の賃貸借契約における賃借人の 賃料債務の支払いは,賃借人がその家屋に日々の生活の基盤があることも多く,賃料債務 を支払わないわけにはいかない面がある。同じ金銭債務であっても,それだけ支払いへの 動機づけが強く存在する。また,家屋の賃貸借契約が賃貸人から簡単に解除されえないの は,賃借人の日常的な生活の基盤を保護する意味があると考えられる。これに比べると, 生命保険契約の場合,保険契約者の保険料支払いへの動機づけは弱い。生命保険契約もx x取引の一種であり,保険契約者がそのニーズに合わせて,つねに経済生活の見直しの対 象として検討するものでもある。これらを同列に論ずることには,無理があると考えられる。
7) xxxx・判批・保険事例研究会レポート207号11頁(2006年)は,失効条項を任意解除権の付与に対する保険者の保険料支払確保の対処方法であるという理解を明示的に述べている。これに対して,xxx「生命保険契約における失効・復活制度の再検討」生命保険論集140号80頁(2002年)は,失効条項により保険者が求めているのは,保険契約関係の消滅ではなく,保険責任の消滅のみであるといわれ,保険責任さえ消滅させれば保険料支払への誘引が可能であるという立場である。しかし,これでは,保険契約者が任意に保険料支払を止めることが可能であり,この見解は,保険料支払へ保険契約者を強く動機づける要請が視野に入っていないと思われる。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
を主張されるような保険契約関係が残ることになりかねない。このような考慮から,失効条項は,相当期間を定めた催告を所定の払込猶予期間に定型化して解除の意思表示を不要とするものであり8),同時に,保険料支払いがなければ保障も提供されない,つまり適時に保険契約関係が消滅し,保険金支払義務も消滅するという基本的な対価関係を法的に明確化するものでもある。このように,保険契約者の任意解除権に対する保険者の失効条項は,保険者が保険契約における主たる給付の対価的均衡を図りつつ,保険料の支払いを確保するための合理的対処方法であると性格づけることができる。失効条項によって,保険料支払義務は,保険契約者の自己義務化がさらに進むことになる。すなわち,保険契約者は,その保険契約による保障を得るためにはこの支払義務の履行をしておく必要があるが,その保障を必要としなければ,支払義務を履行することを要せず,契約関係は終了するという関係になる。
失効条項によって,保険契約者にも利点がある。生命保険契約の継続を 望まない保険契約者は,保険料を支払わないだけでよく,契約解除の意思 表示等の手数を省くことができる。不要となった保障について,保険者か ら催告を受け,保険料支払の履行を強制されたり,損害賠償請求をされる こともない。失効条項がなければ,解除しないままの状態で保険料未払い の保険契約が継続することになり,不要の保険契約の未払い保険料を後日,まとめて請求されるという事態も考えられる。また,現在の失効条項によ れば,月払い保険料については,保険料支払の期限である払込期月に加え て,通常1ヶ月の払込猶予期間が与えられ,それを徒過したときに,初め て契約が失効することになる。金銭債務の場合,支払期日に支払が行なわ れなければ,通常は,債務者の帰責事由のある履行遅滞であると解される
(民419条3項)が,保険者は,この支払遅滞期間(払込猶予期間)の利息
8) xxxx・判解・生命保険判例百選(増補版)139頁(1988年),xxxx「保険料の支払義務」xxx編『現代裁判法大系 25 生命保険・損害保険』64 頁(新日本法規出版 1998年)。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
を保険契約者に請求しないこと,さらに払込猶予期間中の保険事故についても保険保護を提供することとして優遇している。保険料支払債務の1ヶ月の猶予期間は,一般の金銭債権について催告により相当期間を設けて履行を求められる期間より長いといえる9)。
加えて,解約返戻金がある生命保険契約などでは,その解約返戻金額の範囲で,保険料の自動振替貸付制度により保険契約の失効が防止される。さらに,失効後,多くの場合,3年間は,保険契約者は,失効した契約の復活を請求することができ,その期間の保険料や利息等を支払い,告知義務を履行して,保険者が合意すれば,以前の生命保険契約を復活させることができる。ところが,保険者が失効を主張する場合にも,民法の規律により相当期間を定めた催告を要求すると,相当期間を定めた以上,保険者は,その期間の経過後,解除しないまま長期間放置することには問題が生じる。債権者が解除権を得ながら,長くこれを行使しないときは,相手方に解除権を行使しないものとの信頼を生じさせる事態になることも考えられ,その場合には,xxx上もはや解除権を行使できないと解されること
9) 本件東京高判平成 21・9・30 金判1327号10頁は,保険契約者が支払遅滞の責任を負うこととなる「期限の到来した時」(民法412条1項)について,この猶予期間の満了時をいうと解しているが,明らかな誤解である。保険者と保険契約者の合意は,口座振替扱いの月払い保険料の場合,約款規定によれば,毎月の振替指定日が当該月の保険料の支払日であり,その日の属する月末が支払期限であると解される。保険者は,この支払期限が到来すれば保険料の支払を請求できるのであり,その翌月末までの猶予期間を経過しないと請求できないというわけではないからである。猶予期間中の遅滞した保険料支払いについて遅延利息を付すことが求められていないのは,保険者が保険契約者に対して優遇しているものと解される。東京高判昭和 45・2・19 xx集21巻1・2号334頁は,「猶予期間なるものは保険料支払の期限の猶予ではなく,契約者の保険料支払債務の不履行により直ちに保険契約を失効するものとはせずにその失効という効果の発生を猶予したものと解すべきものである。従って,本件約款及び特約上保険料支払債務は特約第二条本文の支払期日の到来とともに遅滞に陥るが,保険契約はこれにより直ちに失効するものとはせず,右猶予期間を設け,保険者はその期間内に事故が発生したときはこれに対し責任を負うこととするとともにその期間内に保険料が払い込まれたときは保険契約は効力を失うことなく継続するものとされているものと認められるのである。」としている。この判決の前提となっている約款規定も現行の生命保険約款に類するものであり,この解釈が正当である。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
になるからである10)。したがって,保険者は催告後に保険料支払がなければ解除を迫られることになり,その解除が行なわれると,生命保険契約関係は最終的に終了してしまい,復活を請求することもできなくなる11)。
3.失効条項適用上の問題
1
指摘される問題点
上述のように,失効条項自体は合理的な規定であり,裁判例においても有効であると解されてきた12)が,継続的契約である生命保険契約関係において,保険契約者の対価的給付である保険料支払が滞った場合に,その生命保険契約が自動的に失効し,保険契約者が保障を全く失ってしまうことについて,保険契約者からみると,その不利益が大きすぎるのではないかという疑問が投げかけられることがある。そこで,以下では,この視点を踏まえて,失効条項の適用について問題がないかどうか検討する。
2
失効を望まない保険契約者に対する説明義務
生命保険契約関係から離脱したい保険契約者にとっては,失効条項は,簡便な処理であり,とくに問題となることはない。問題になるのは,失効を望んでいないが,保険料の支払が遅滞して,失効条項の適用によれば,
10) xxx『債権各論上巻(民法講義Ⅴ1)』168頁,185頁(岩波書店 1954年)。
11) 生命保険約款が定める失効は,独特の制度である。失効中の生命保険契約は,契約当事 者が生命保険契約関係を解除によって完全に終了させない限りは,保険契約者の解約返戻 金請求権と復活の請求ができる関係(復活申込み権とでもいうことができよう)が多くの 生命保険約款では3年間存続する状態である。契約当事者が解除をすると,このような失 効中の生命保険契約関係も含めて,完全にその契約関係を終了させることになり,もはや 復活の請求もできないこととなる。以上の法律関係については,xxx「生命保険契約の 失効と復活」xxxx先生追悼論集・保険法の現代的課題274頁以下(法律文化社 1993年),xxxx『生命保険契約における利害調整の法理』165頁以下(成文堂 2005年)参照。
12) 東京地判昭和 48・12・25 判タ307号244頁,東京地判昭和 53・8・29 文研生命保険判例集2巻210頁,神戸地判平成8・5・13 生命保険判例集8巻498頁,東京地判平成9・12・ 22 判時1662号109頁,この控訴審・東京高判平成 11・2・3判時1704号71頁等。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
その保障を失ってしまう保険契約者である。ある程度の期間,継続してきた生命保険契約について,連続2回の月払い保険料の支払遅滞が生じると,通常,その契約は失効することになる(解約返戻金を自動的に貸付けて契約を維持する自動振替貸付制度が適用されない場合を想定する)。保険契約者は,保険による保障を失ってしまうことになり,連続2回の支払遅滞による効果としては,不利益が大きすぎるのではないかともいわれる。
そこで,保険者が失効を主張するには,相当期間を定めた催告を要する と解して,保険契約者のこの不利益に対処すべきであるという考え方が生 ずる。相当期間を定めた催告により保険契約者に対して保険料の未払いを 自覚させ,その上で,生命保険契約を維持するのか否かを保険契約者に明 確に判断させることが目的であると考えられる13)。なるほど,失効条項は,保険者が無催告解除を行なうに等しい。しかし,一般に,無催告解除の合 意は有効と認められること14),そしてその無催告解除の合意が一方の当事 者に著しい不利益を与える場合には,それを考慮して合意の効力が考えら れるべきものであるが,上述のように,生命保険契約の失効条項が相応に 合理的な規律であることからすれば,この場面で,催告を要求し,相当期 間を定めた催告がなければ生命保険契約は失効しないとする解釈は,正当 ではない15)。これでは,催告を要せず保険契約を失効させることにした当 事者の合意に反するし,保険者が失効条項を設けた意味を半ば失わせるこ ととなるからである。
13) xx・前掲注8)67頁。
14) 最判昭和 40・7・2民集19巻5号1153頁(土地賃借人の賃料延滞の場合の無催告解除特約),最判昭和 43・11・21 民集22巻12号2741頁(家屋賃貸借契約において1箇月分の賃料の遅滞を理由に無催告解除できる旨の特約条項は,無催告でも不合理でない事情が存する場合には無催告解除が認められる約定として有効)。
15) 催告による解除を要求する2007年ドイツ保険契約法38条(片面的強行規定)のような立法例もあるが,この趣旨の強行規定のないわが国の解釈論として保険者の催告義務を認めることはできず,失効条項は有効と解するのが通説である。xxxx『保険法第三版』 105頁(悠々社 1998年),xxxx『生命保険法入門』138頁(有斐閣 2006年)等。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
もっとも,事の重大さに必ずしも自覚的でない保険契約者が相当に想定 されるとすれば,失効によるその不利益が大きいという面については,保 険者は,別途,配慮する必要があると考えられる。保険契約者にとって, 一般に,第2回目以降の保険料支払を怠ると,契約失効により保険保護を 失う効果が厳しく意外な面を有するとすれば,その効果について保険者は,保険契約者の利益を保護すべく適切な説明を要すると解すべきであろう。 一般の保険契約者は,必ずしも保険契約上の法律関係に詳しくなく,誤っ た対応をして自身の権利を失うおそれがあるからである。その意味では, 専門家として優越的な立場にある保険者は,保険契約者が誤った行動に よって不利益を被らないように説明・教示するxxx上の義務があると解 することができよう16)。一方,保険契約者がその法的効果を知りながら, なお保険料の支払を怠るときは,失効条項どおりの効果が生じても,その ことの不利益は甘受されて然るべきである。
契約締結時の保険者の重要事項の説明は,「相当の方法,態様,程度により,通常の常識をもった保険契約者等(保険申込者)に右事項を認識,理解させうるものであって,右認識,理解のもとに当該本件契約者(申込者)が契約につき任意の意思決定ができるものであれば足りる」といわれ17),このことは,契約締結後に保険契約者が誤った行動をして不利益を受ける場合の保険者の説明・教示にも当てはまると解される。保険者は,一般に,生命保険約款を保険契約者に交付しているし,保険契約上の重要事項の説明を保険約款に付帯する文書によって行なっている。それによって,第2回目以降の保険料の支払が行なわれない場合の効果についても説
16) xxxxx・判批・保険事例研究会レポート191号7頁(2004年)は,一般には,失効約款に合理性が認められる以上,保険者は約款どおりの扱いをすれば足りるが,契約内容に通じていない一般の保険契約者に対して,具体的な事情によっては,保険者にxxx上の注意義務ないし助言義務が生じる場合がありうるという。わが国における保険者の教示・説明義務については,xxx「『保険者の教示義務』試論」xxxx先生還暦記念・商法・経済法の諸問題373頁以下(商事法務研究会 1994年)参照。
17) 東京高判平成3・6・6判タ767号236頁。本件は,その後,上告棄却により確定している。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
明がされている。また,保険者は,具体的に,毎回の保険料の支払がなかった場合には支払期限に支払がなかったこと,および猶予期間満了までにその支払がないときは保険契約が失効することがある旨を通知し,意外な結果が生じないように,適宜,保険契約者の不利益に注意喚起の対応をしているのが通常である。そうであれば,保険者は,一般に必要とされる説明・教示を行なっているといえよう。
以上のように,保険者が保険料支払を遅滞した保険契約者に対して必要な説明を適宜行なっている限り,失効条項が適用されても,そのことによって被る不利益につき保険契約者の自覚が及んでいないことについてまで保険者が責任を負うものではないと解される18)。かかる場合には,失効条項は,文言どおり適用されてよい19)。
3
口座振替による保険料支払の場合
現在,生命保険契約において普及している保険料支払の口座振替扱いの
18) 前掲東京高判平成 11・2・3判時1704号71頁は,「生命保険契約の加入,継続,解約など契約の管理は,もとより(契約の失効防止も含めて)契約当事者の自己責任が原則であることは論をまたない。特に本件契約の場合,Aは自動貸付による保険料立替制度を利用しその立替金の累積額はかなりの額に達していたから,早晩立替ができずそのままにしておくと保険が失効する危険性があることはある程度予想ができたというべきである。しかも,Aを被保険者とする多種多額の生命保険契約に加入し,その維持に腐心していたAやその家族であるXとしては,近い将来にそうした生命保険契約の失効という事態が生じないよう細心の注意を払うべき立場にあった。」とし,保険契約者側が自動振替貸付を受けている状態で,これ以上保険料の支払がなければ失効する旨の通知を受けており,失効することを知りうる状態にあったことから,保険者の失効の主張を認めている。
19) xxxx「保険料の不払と保険会社による保険免責の主張の可否」ほうむ49号68-69頁
(xx火災 2003年)は,失効条項の催告を要しない点にのみ注目するのではなく,保険料未払いの場合に,郵便による通知等の実務対応が行なわれていること,猶予期間の定めがあること,無催告解除の特約も認められることなどから,無効とはまではいえないという。xxxx『保険法』342-343頁(有斐閣 2005年)も,催告を要求することが立法論としては望ましいが,保険者が適宜に保険料未払いを保険契約者に知らせ,失効防止のいろいろな措置が講じられていることから,失効条項は無効とはいえないとする。xxxx
『生命保険契約におけるxxxxの原則――消費者契約法の視点をとおして――』212頁
(文xx 2002年)も,以上の見解とほぼ同趣旨と見られる。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
場合,保険契約者が銀行口座からの引落xx利便性を享受できる一方で,当該口座の預金残高管理の不注意により保険料の引落ができず,失効し易くなるおそれもある。このような不注意が月払い保険料の振替について2度連続すると,その1度目の未収時に上記のような保険料未収の通知が発出され,生命保険契約が失効することになる。
口座振替による保険料支払の場合,指定日(振替日)に保険料が引き落とせるだけの預金残高があれば,保険契約者は弁済の提供をしていたと解され,自己の義務を果していたというべきである20)。それを引き落とすのは,口座振替扱いのシステム上,保険者側の責任であり,保険契約者に履行遅滞の責任は問えないと解される。保険契約者は,所定の預金口座の残高管理をして,保険料の引落が可能な状態にしておけば十分であるから,これが不足していたときは,保険契約者の責に帰すべき事由による履行遅滞になる。この不足状態が振替指定日の属する支払期月と翌月の支払猶予期間中の2度連続するときに,失効条項によれば,支払猶予期間の満了をもって自動的に生命保険契約が失効する。
かかる連続残高不足の場合に,支払猶予期間の満了をもって自動的に契約が失効するのは,保険契約者の債務不履行の程度に比して,重大すぎるのではないかともいわれる。契約の消滅という結果に見合う重大な債務不履行の存在が必要ではないかとも指摘される。振替システム上,保険者が保険料未収を知るのは,翌月初旬となり,その後に保険者から保険契約者に保険料未収であった旨の通知が行なわれるので,払込猶予期間満了まで
1ヶ月に満たないことになる。1ヶ月程度の支払遅滞で,生命保険契約が失効するのは,不意打ちとなるおそれがあるともいわれる。このため,保険者は,保険契約者に対して払込猶予期間の満了の一定期間前に未払い保険料の払込みの具体的催告を要すると解すべきであるという見解も唱えら
20) xxxx『現代の保険事業』228頁(同文館 1992年),xxxx・判解・商法(保険・海商)判例百選(第二版)113頁(有斐閣 1993年),xxxx『生命保険の財産法的側面』115頁(商事法務 2003年)等。
れている21)。
立命館法学 2009 年 5・6 号(327・328号)
なるほど保険契約者の残高管理の不注意により保険料の振替が1回なされなかっただけで生命保険契約が失効するというのであれば,確かに問題のある失効条項といえるであろう。しかし,次回振替指定日に向けて,連続の保険料未収の場合にはその保険契約が失効することがある旨の通知がなされ,残高管理を促されている場合にも保険契約者にとって不意打ちといえるであろうか。この場合,保険者からの説明・教示は相当に行われている。しかも月払い保険料の場合,多くは必ずしも高額の振替が行われるわけではない。最近では,保険者は,支払猶予期間中の振替指定日に残高不足で振替が行なわれなかった場合に備えて,たとえば,コンビニエンス・ストアからの保険料振込の用紙をも保険契約者に送付し,保険料の未払いの不利益が及ばない措置が講じられ,振込を容易にする工夫が行なわれていることもある。保険者にとっても簡単に生命保険契約が失効することは決して好ましくないからである。むしろ通常は保険者は生命保険契約の失効を防止する努力をする動機のほうが大きいといえよう。保険料支払は,保険契約者が保険による保障を受けるための対価的な主たる給付であり,この履行遅滞が連続することが重大でないとはいえない。
21) xx・前掲注8)67頁,xxxx・判批・保険事例研究会レポート225号7頁(生命保険文化センター 2008年)。xxxx「保険料支払遅滞と保険者の責任」xxx = xxxx
= xxxxx『保険法改正の論点 xxxx先生喜寿記念論文集』57頁(法律文化社 2009年)も失効条項は問題ではないかと疑問を投げかけ,保険契約者の利益保護を考えれば,保険者に催告を義務づけることが必要であるが,実務上催告方式はとられておらず,普通郵便で督促通知を発するという取扱いがなされており,その妥当性は認められているという。おそらく督促通知が行なわれている限り,失効条項は無効とまではいえないという立場ではないかと思われる。また,xxxx・判批・保険事例研究会レポート226号 16-17頁は,失効条項の有効性を承認したうえで,失効通知の有無はその効力をxxx上制限しうる考慮要因の一つとし,自動振替貸付制度がない契約の場合などには,保険者に求めるxxxの内容として払込猶予期間を伸長するような解釈が模索されるべきではないかという。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
4.失効条項と消費者契約法10条
1
失効条項に関する実務
現在の失効条項に関する生命保険実務は,通常,払込期月に保険料未収であったときには,払込猶予期間の初旬に,保険契約者に対して保険料未収であることおよび払込猶予期間にも連続して振替不能となれば契約失効がある旨の通知を行い,さらに口座振替以外の方法でも保険料振込を行なうことによって生命保険契約を存続させる方法があることを知らせたり,電話等の方法で,保険料の支払を確保する対応などが行われる。実態的には,保険者が単純に相当期間を定めた催告をして生命保険契約を解除する方法よりも丁寧ともいえる対処が行なわれている。
2
消費者契約法10条から見た失効条項の効力
消費者契約法10条は,民法,商法その他の法律の任意規定の適用による 場合に比べ,消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する特約で,その程度が民法1条2項が定めるxxxに反するものを無効とする。
失効条項については,民法541条の任意規定に反し,「消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する」ものであり,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」「消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するのではないかが問題となる。
上述のとおり,失効条項が民法541条よりも消費者である保険契約者の権利を制限するまたは義務を加重する面をもつものであることは認識されている。問題は,その内容が民法1条2項にいうxxxに反する程度に至っているといえるか,さらには,消費者の利益を一方的に害するものとまでいえるかという点である。
xxxに反するか否かについて,消費者契約法の制定前からの裁判例は,当該事案における一切の個別事情を考慮し,契約内容が一方当事者に不当
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に不利であるかどうかによって判断されてきた22)。同法10条においても,xxx違反は,「消費者の利益を一方的に害するもの」との要件とも連動して,判断されることになると考えられ,その際には,当該消費者契約の締結時を基準として,その時点までの一切の事情が考慮される。「消費者の利益を一方的に害する」かどうかは,諸般の事情を総合的に考慮すべきものとされ,当該条項が消費者に不利益な規定であっても,他の条項でその不利益が実質的に補完されていることがあれば,総合的に判断して,
「消費者の利益を一方的に害する」とはいえないとされる23)。
失効条項については,それ自体のみでは,確かに民法541条に比べて, 消費者である保険契約者の権利を制限し,義務を加重する面があり,消費 者の利益を害する部分がみられる。しかし,それを補う保険料未収の通知 やその他の対応が行われており,保険者は,消費者としての保険契約者の 権利・利益を保護する対処を行っている。したがって,このことを含めて,失効条項の適用を考えるときは,xxxに反して消費者たる保険契約者の 利益を一方的に害しているとはいえず,失効条項を無効ということはでき ないと解される。
ちなみに,簡易生命保険法48条は,生命保険会社の失効条項と同種の規定を有し,復活についても失効後1年以内の復活の申込みを認めていた
(同法71条,72条)。これについて,とくに不当な規定であるとはいわれていない。
消費者契約法10条により無効とされる可能性のある条項の例として,
「事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項」が挙げられ,「正当な理 由なく事業者が消費者の債務不履行の場合に相当な期間の催告なしに解除 することができるとする条項については,無効とすべきものと考えられる。
22) 内閣府国民生活局消費者企画課編『逐条解説 消費者契約法[新版]』202頁(商事法務 2007年)。
23) xxxx『消費者契約法』149-153頁(有斐閣 2001年)。内閣府国民生活局消費者企画
課編・前掲注22)203頁も同趣旨をいうものとみられる。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
条項が無効となった結果,事業者は,解除権を行使するには,民法第540条,第541条の規定に従い,相当の期間を定めてその履行を催告し,消費者に対する意思表示により行使しなければならない。」24)といわれる。これは,問題類型の一つの範型を示したものにすぎず,無効とされる前提として,その約定がxxxに反して消費者の利益を一方的に害する諸事情の存在が必要であることはいうまでもない。
3
立 法 論
立法論としては,無催告解除に相当する失効条項よりは,民法540条, 541条に準じた形で,相当期間を定めた催告を要求し,その上で,保険者 が生命保険契約を解除する方法が規定されることも有力に主張されている。外国の最近の立法例では,ドイツの2007年保険契約法38条が,2週間を下 らない支払期間を定めた催告をした後に,保険者が保険契約を解除できる 旨を定めている。同規定は,2007年改正前の保険契約法39条と実質的にほ ぼ同じである。わが国でも,同様の考え方とみられる立法論が提案されて
いた25)。この方向の立法論は,保険契約者の保護を強化するものと考えられる26)。
24) 内閣府国民生活局消費者企画課編・前掲注22)205頁。
25) 生命保険法制研究会(第二次)「生命保険契約法改正試案(2005年確定版)」679条の3
(責任開始後の保険料の不払)。同条は,8項からなり,そのうち,ここでとくに重要な規定は,1項と2項であり,次のような規定である。「① 保険契約者が第2回以後の保険料をその支払時期までに支払わない場合において,保険者が保険契約者に対して[14]日以内に支払うべき旨の書面による催告をし,保険契約者がその期間内に保険料を支払わなかったときは,その期間が経過した時に,保険契約は将来に向かって解除されたものとみなす。
② 保険者が前項に定める催告を通常の取扱いによる郵便によって発送した場合には,その催告は,通常到達すべきであった時に到達したものと推定する。」この方向を支持する見解として,xxxx「保険・金融関連の契約条項の現状と問題点」消費者契約における不当条項研究会『消費者契約における不当条項の実態分析』別冊 NBL 92号71頁(商事法務 2004年)参照。
→
26) 前掲注25)の「生命保険契約法改正試案(2005年)」679条の3第1項の理由説明は,次
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しかし,2008年に成立した保険法は,法制審議会保険法部会において失効条項に関しても議論があり,催告を義務づける方向の意見もあったが,この考え方を採用した規定を設けてはいない。催告を要せず失効するという現行の失効条項について無効であるという意見はなく,現行法の解釈に委ねられたという見方もできようが,一応,現在の保険実務を是認する態度を採ったものと考えられる27)。いずれにしても,外国の立法例でも,相当期間を定めて催告をし,その上で生命保険契約を解除するという方法が強制されるのは,そのような立法が行われている場合である28)。わが国には,そのような規定はない。現行法および保険法の下でも,失効条項は有効であると解すべきであろう。ただし,保険者は,保険契約者の不利益に配慮し,失効条項を適用するには,通常は,必要な通知,説明等を行う必要があると解される。
〔追記〕本稿は,生保金融法制研究会(座長・xxxx教授)において報告した
→
のように言う。「このような個人生命保険契約で通例となっている定めについては,比較的長い猶予期間があるものの,払込遅滞となった場合に,保険者が保険契約者に対して払込を催告することが失効の要件となっておらず,保険契約者保護上問題があるとの批判があるが,催告をすることを保険者の義務とする場合には,保険者において催告を発しそれが保険契約者に到達したことの立証をすることが困難であるという問題があり,約款上,催告をなすことはいまだ規定されておらず,ただ保険実務において,普通郵便で督促通知を発するという取扱いが行われるにとどまっている(書留郵便ないし配達証明付内容証明郵便を利用すれば立証は可能となるが,コスト面の問題などから実際的ではないし,保険契約者全体の利益にもならない)。
しかし,立法論としては,保険料の支払遅滞の場合に,保険契約の効力が消滅すること となるためには,保険契約者に対して催告をなすことを保険者に対して義務づけることが,民法の一般原則に従うものとして,望ましいというべきである。そこで,本条では,後述 のように本条2項により保険者が催告を発しそれが保険契約者に到達したことの立証の問 題に対処することとし,それを前提として,本条1項において,保険者が書面により催告 をなしてはじめて保険契約の効力を消滅させることができることとしている。」(生命保険 法制研究会(第二次)『生命保険契約法改正試案(2005年確定版)理由書 疾病保険契約 法試案理由書(2005年確定版)理由書』110-111頁((社)生命保険協会 2005年)。
27) 法制審議会保険法部会第2回会議(平成18年11月22日)議事録20-24頁。
28) たとえば,フランス保険法典 L. 113-3条参照。
生命保険契約の失効条項の効力(xx)
ものに相当の加筆修正したものである。なお,本稿の校正段階でxxxx「生命保険契約における継続保険料不払いと無催告失効条項の効力」金法1889号12頁以下(2010年)およびxxxx「生命保険約款における無催告失効条項に対する消費者契約法10条の適用」同誌同号21頁以下に接した。