(i) 優越的地位の判断について
<問題となり得る取引事例>
① A製作会社がB局とドラマの製作委託契約を結び、A製作会社は、企画、撮影、製作、編集まで自社で行い、完全製作委託型番組の形でB局に納入した。
この場合、
①-1:当該契約の契約書はB局から十分な協議なく提示されており、契約書には「著作権については局に帰属する」と記載されている。製作委託契約の対価については、A製作会社側の見積りをもとにB局にて製作費を決定した額であり、契約書上も「当該委託業務の対価として支払う」とされており、著作権の譲渡に対する価格は明記されていない。その後、A製作会社が協議を求めたが、B局は十分に応じなかった。
①-2:完全製作委託型番組を製作するにあたり、撮影の過程で発生した「素材」についても、契約書上すべてB局に納入し、納入されたものに関する著作権、著作隣接権、所有権及び二次利用権の一切はB局に帰属するとされている。また、その対価に関する協議はない。
② C製作会社がD局と番組製作委託契約を結び、著作権については、C製作会社にある場合、特段の協議なく、契約書上「当該番組の利用に関する窓口業務をD局が優先的に行う」とされ、 C製作会社が窓口業務を行いたいと要望したが、受け入れられなかった。また、二次利用収入に関する配分についてもD局が一方的に配分を決めている。
(1) 事例①-1について
ア 下請法に関する留意点
本事例①-1の場合、B局は、B局とA製作会社の間で十分な協議をすることなく契約内容を決めている。また、A製作会社に対して支払われた製作委託費には著作権の対価が含まれていないと考えられる。つまり、著作権の対価分が製作委託費に含まれておらず、不当に低い下請代金が定められたと考えられることから、上記の運用基準の違反行為事例に照らして、B局の行為は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあると考えられる。
イ 独占禁止法に関する留意点
(i) 優越的地位の判断について
本事例の場合、まずB局が「優越的地位」にあるか否かの判断が必要となる。前述(7 頁)したように、一般に局は製作会社に対し、取引上優位にある可能性が高いといえるが、あくまで独占禁止法上の優越的地位にあるか否かの判断は、役務取引ガイドライン等で示された考え方に基づき、総合的に考慮し、個別に検討されるものである。そのため、本ガイドラインでは、取引上優越した地位にあると判断された場合の局を前提として考える。
(ii) 濫用の判断について
次に、優越的地位を「濫用」しているのか否かの判断が必要となる。
上記(4)に示した役務取引ガイドラインにあるように、受託者の行為が「成果物等に係る権利の譲渡等に対する対価が不当に低い場合」や「成果物等に係る権利の譲渡等を事実上強制する場合」などは、「受託者に対して不当に不利益を与える場合として、優越的地位の濫用として問題となる」とされている。
さらに独占禁止法上違法となる場合として以下の事例が挙げられている。
第2 委託者による優越的地位の濫用行為
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い
(2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不xxな取引方法に該当し、違法となる。
ア 情報成果物の権利の譲渡
① 受託者に権利が発生するにもかかわらず、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に当該成果物に係る著作権、特許xxの権利を委託者に譲渡させる場合
(出典)xx取引委員会「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成 23年6月23日)のうち「第2 委託者による優越的地位の濫用行為 7情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx.xxxx>
以上から、本事例のように、著作権の譲渡に対する対価に関する協議が十分に行われずに、一方的に「局に対する著作権の譲渡」に関する契約が締結されていることから、このような局の行為については、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となるおそれがある。
(2) 事例①-2について
ア 下請法に関する留意点
(i) 買いたたきについて
事例①-2についても、事例①-1の下請法適用に関する留意点と同様に考えられる。
下請法上の親事業者となる局が、製作を委託する放送番組の素材について、著作権も含めて局(親事業者)に譲渡させることとし、下請事業者とその対価にかかる十分な協議を行わず、局側が一方的に、通常の対価に比べて著しく低い下請代金の額を定める場合は、下請法上の「買いたたき」の問題となる。(「第2章取引価格の決定」参照)
(ii) 不当な経済上の利益の提供要請について
事例①-2の場合のほか、例えば局と製作会社の契約の中に、情報成果物が番組のみであり、「素材」に関しては情報成果物ではなく、契約の対象外であった場合に、局が一方的に「素材」に関しても譲渡させるような行為については、以下の運用基準に記載されているような問題となるおそれがある。
7 不当な経済上の利益の提供要請
(4)情報成果物等の作成に関し、下請事業者の知的財産権が発生する場合において、親事業者が、委託した情報成果物等に加えて、無償で、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財
産権を親事業者に譲渡・許諾させることは、法第4条第2項第3号に該当する。
〈情報成果物作成委託における違反行為事例〉
7-8 委託内容にない情報成果物の提供要請
親事業者は、下請事業者にデザイン画の作成を委託し、下請事業者はCADシステムで作成したデザイン画を提出したが、後日、委託内容にないデザインの電磁的データについても、対価を支払わず、提出させた。
(出典)xx取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成28年12月14日)のうち「5買いたたき」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxxxxxxx/xxxxx.xxxx>
イ 独占禁止法に関する留意点
本事例では、撮影の過程で発生した「素材」についても、一方的にB局に著作権が帰属することとなっている。
役務取引ガイドラインでは、「情報成果物に係る権利等の一方的な取扱い」について、その考え方と、独占禁止法上問題となる場合として、以下のように解されている。
第2 委託者による優越的地位の濫用行為
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い
(1)考え方
(中略)
取引上優越した地位にある委託者が、受託者に対し、当該成果物が自己との委託取引の過程で得られたこと又は自己の費用負担により作成されたことを理由として、一方的に、これらの受託者の権利を自己に譲渡(許諾を含む。以下同じ。)させたり(略)する場合などには、不当に不利益を受託者に与えることとなりやすく、優越的地位の濫用として問題を生じやすい。
(2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不xxな取引方法に該当し、違法となる。
ア、イ(略)
ウ 受託者が情報成果物を作成する過程で発生した取引対象外の成果物等の権利の譲渡及び二次利用の制限等
受託者が取引対象である情報成果物を作成する過程で生じた当該成果物以外の成果物等について、受託者に権利が発生する場合において、委託者が上記ア(権利の譲渡)又はイ(二次利用の制限等)と同様の行為を行う場合
(出典)xx取引委員会「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成 23年6月23日)のうち「第2 委託者による優越的地位の濫用行為 7情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx.xxxx>
上記にかんがみると、本事例については以下のように考えられる。
・「取引対象の情報成果物」とは「完全製作委託型番組として完成し納入した
番組」であると考えられ、「素材」とは「その成果物を作成する過程で生じたもの」であると考えられること
・「素材」に関する特段の協議は行われずに、契約書だけで一方的にその譲渡が決められていること
以上のことから、本事例における局の行為について優越的地位の濫用に当たるおそれがあると解される。
(参考)「放送の利用許諾」
「放送番組の製作委託契約」ではなく、局が製作会社と放送番組の「放送の利用許諾契約」を結ぶ場合に留意すべき点について記述する。
契約の名目が、放送の利用許諾や放映xxの購入であっても、購入者側が番組内容等を指定している実態にあるときは、下請法上、「委託」に該当し、同法の規制対象となる点について、注意が必要である。
(参考)
○下請法 (親事業者の遵守事項)
第4条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(略)に掲げる行為をしてはならない。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあっては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
○独占禁止法第2条
9 この法律において「不xxな取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、xxな競争を阻害するおそれがあるもののうち、xx取引委員会が指定するものをいう。
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
(3) 事例②について
本事例②の場合、D局は、D局とC製作会社の間で特段の協議をすることなく、窓口業務を決めており、C製作会社から要望したけれども受け入れられなかった。 D局の行為は、個別に判断されることになるが、親事業者のために下請事業者から利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害することは、下請法上の「不当な経済上の利益の提供要請」に該当するおそれがあると考えられる。また、役務取引ガイドラインでは、「情報成果物に係る権利等の一方的な取扱い」について、
その考え方と、独占禁止法上問題となる場合として、以下のように解されている。
〇下請法
(1) 法第4条第2項第3号で禁止される不当な経済上の利益の提供要請とは,親事業者が下請事業者に対して「自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させること」により,「下請事業者の利益を不当に害」することである。
(2) 「金銭,役務その他の経済上の利益」とは,協賛金,協力金等の名目のいかんを問わず,下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供,作業への労務の提供等を含むものである。
親事業者が下請事業者に「経済上の利益」の提供を要請する場合には,当該「経済上の利益」を提供することが製造委託等を受けた物品等の販売促進につながるなど下請事業者にとっても直接の利益となる場合もあり得る。「経済上の利益」が,その提供によって得ることとなる直接の利益の範囲内であるものとして,下請事業者の自由な意思により提供する場合には,「下請事業者の利益を不当に害」するものであるとはいえない。
他方,親事業者と下請事業者との間で,負担額及びその算出根拠,使途,提供の条件等について明確になっていない「経済上の利益」の提供等下請事業者の利益との関係が明らかでない場合,親事業者の決算対策等を理由とした協賛金等の要請等下請事業者の直接の利益とならない場合は,法第4条第2項第3号に該当する。
(3) 親事業者が,次のような方法で,下請事業者に経済上の利益の提供を要請することは,法第4条第2項第3号に該当するおそれがある。
ア 購買・外注担当者等下請取引に影響を及ぼすこととなる者が下請事業者に金銭,労働力等の提供を要請すること。
イ 下請事業者ごとに目標を定めて金銭,労働力等の提供を要請すること。
ウ 下請事業者に対して,要請に応じなければ不利益な取扱いをする旨示唆して金銭,労働力等の提供を要請すること。
エ 下請事業者が提供する意思がないと表明したにもかかわらず,又はその表明がなくとも明らかに提供する意思がないと認められるにもかかわらず,重ねて金銭,労働力等の提供を要請すること。
(4) 情報成果物等の作成に関し,下請事業者の知的財産権が発生する場合において,親事業者が,委託した情報成果物等に加えて,無償で,作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を親事業者に譲渡・許諾させることは,法第4条第2項第3号に該当する。
〈情報成果物作成委託における違反行為事例〉
7-6 協賛金の提供要請
鉄道業を営む親事業者は,自社の住宅販売部門が販売する住宅の設計図の作成を下請事業者に委託しているところ,広告宣伝のための費用を確保するため,下請事業者に対し,「協賛金」として,一定額を提供させた。
7-7 労務の提供要請
親事業者は,ソフトウェアの作成を委託している下請事業者の従業員を親事業者の事業所に常駐させ,実際には当該下請事業者への発注とは無関係の事務を行わせた。
7-8 委託内容にない情報成果物の提供要請
親事業者は,下請事業者にデザイン画の作成を委託し,下請事業者はCADシステムで作成したデザイン画を提出したが,後日,委託内容にないデザインの電磁的データについても,対価を支払わず,提出させた。
7-9 知的財産権の無償譲渡の要請
親事業者は,テレビ番組の制作を委託している下請事業者との契約により,下請事業者に発生した番組の知的財産権を譲渡させていたところ,それに加えて,番組で使用しなかった映像素材の知的財産権を無償で譲渡させた。
(出典)xx取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成28年12月14日)のうち「7 不当な経済上の利益の提供要請」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xxxxxxxx/xxxxxxxxxxx/xxxxx.xxxx>
〇独占禁止法
第2 委託者による優越的地位の濫用行為
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い
(2)独占禁止法上問題となる場合
情報成果物が取引対象となる役務の委託取引において、取引上優越した地位にある委託者が、当該成果物を作成した受託者に対し、次のような行為を行う場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を受託者に与えることとなり、不xxな取引方法に該当し、違法となる。
イ 情報成果物の二次利用の制限等
(1) 受託者に権利が発生し、委託者には権利が発生しないにもかかわらず、委託者が、自らに又は自らにも権利が発生すると主張しこれを前提として、受託者との間で、一方的に当該成果物の二次利用の収益配分などの取引条件を取り決める場合、又は二次利用を制限する場合
(2) 受託者に権利が発生する場合において、委託者が、当該成果物が委託者との委託取引の過程で得られたこと又は委託者の費用負担により作成されたことを理由として、受託者に対し、一方的に当該成果物の二次利用の収益配分などの取引条件を取り決める場合、又は二次利用を制限する場合
(3) 受託者に権利が発生する場合において、受託者が、委託者が提示する成果物作成の対価に加えて、当該成果物の二次利用による収益配分の条件も考慮して当該成果物の作成を受託したにもかかわらず、二次利用の管理を行なう委託者が受託者からの二次利用の要請・提案に対して、合理的な理由がないのに応じない場合
(出典)xx取引委員会「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成 23年6月23日)のうち「第2 委託者による優越的地位の濫用行為 7情報成果物に係る権利等の一方的取扱い」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx.xxxx>
<望ましいと考えられる事例>
本項で掲げる事例のうち、著作権の帰属の取扱いについては、必ずしも下請法及び独占禁止法上の範囲に属するものではないが、局と製作会社間で行われる望ましいと考えられるものについては、事例として掲げている。
(1) 著作権の帰属
① A局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、「発意と責任」が製作会社にあれば、基本的には、製作会社に著作権が帰属する。「企画の発案者、製作実態」により著作権の帰属を決めるが、基本的には製作主体を尊重しながら権利の帰属を考えている。
② B局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、一律製作会社に著作権が帰属するようにしている。
③ C局では、局側のプロデューサーに最終的な内容決定権限があるなど、製作会社と責任を共有して製作に当たる場合、著作権を共有することとしてい
る。この場合、二次利用で著作権使用料を得たときには、局と製作会社の間で、権利収入を分配し合う率を予め決める契約を結んでいる。
(解説)なお、この事例③の場合、局と製作会社双方に権利が帰属する場合であり、役務取引ガイドライン(※)にもあるとおり、優越的地位の濫用以外にも一般指定第5項(事業者団体における差別取扱い等)に留意し、権利配分等の取決め内容について、局と製作会社間で著しく均衡を失し、これにより製作会社が不当に不利益を受けることとならないよう留意すべきである。
(※)役務取引ガイドライン
第2 委託者による優越的地位の濫用行為
7 情報成果物に係る権利等の一方的取扱い
(注15)(略)また、委託者が技術、人員等を提供するなどにより、情報成果物を受託者と共同で作成したとみることができる場合においては、当該成果物に係る権利の譲渡、二次利用及び労務、費用等の負担に係る取決め内容について、委託者と受託者の間で著しく均衡を失し、これによって受託者が不当に不利益を受けることとなるときには、優越的地位の濫用又は共同行為における差別的取扱い(一般指定第5項(※2))として問題となる。
※2 一般指定第5項(事業者団体における差別取扱い等)
5 事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し、又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取り扱い、その事業者の事業活動を困難にさせること。
(出典)xx取引委員会「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」(平成
23年6月23日)のうち「第2 委託者による優越的地位の濫用行為」より
<xxxxx://xxx.xxxx.xx.xx/xx/xxxxxxxxx/xxxxxxxxxx/xxxxxxxxxxxxx.xxxx>
④ D局では、権利の共有など製作委託取引の際の権利帰属について、企画募集に先立って明示し、受託側が取引条件を十分理解した上で企画応募できるようにしている。
⑤ E局では、完全製作委託型番組の製作委託の場合、素材の著作権については製作会社に帰属するようにしている(当該素材は、製作会社が局とは関係なく自由に利用できる。)。
⑥ G局では、著作権の帰属について、事前の協議を行っている。完全製作委託型番組の契約書を作成する際、著作権の帰属についての協議においては製作会社の希望を聞く。権利の帰属は①製作会社に著作権が帰属、②製作会社と局で著作権を共有、③局に著作権が帰属する場合がある。
⑦ H局では、完全製作委託型番組の著作権の帰属は、個別契約書に記載されている。個別契約の内容は、オンエアの 10 日前までに製作会社に提示することになっている。番組製作会社の法務担当に確認し、確認時間を十分取るようにしている。法務担当がいない製作会社の場合は、責任者に確認してもらっている。
(2) 著作権の対価
① A局では、企画公募を行っており、その枠の番組については、局は「放送利用許諾契約」を結んでおり、著作権は製作会社に帰属する。その場合、製作会社が著作権を局に譲渡する場合には、局は製作会社に対し、「著作権の対価」に係る部分を、製作委託費とは別に明示して支払っている。
② B局では、3条書面の協議事項として、「納入物の一部に製作会社に原始的に著作権が発生する場合、発注金額には製作委託費とは別に、局に権利を譲渡する対価も含まれる」としている。なお、素材も譲渡を受ける場合には、
「別途、相当の対価を支払う」旨を明記している。
③ C局では、製作会社に帰属する著作権や素材について局が譲渡を受ける場合、3条書面に明記するとともに、譲渡について適切に対価に反映されているのかきちんと認識し、必ず対価を発生させるようにしている。局に一方的に譲渡させることがないようにしている。
(参考)「素材」の取扱い等について
第2章 25において述べたように、放送番組の製作委託契約により発生した
「素材」について、著作権を譲渡させる場合は合理的な対価を支払うべきであると考えられる。また、製作会社が素材を利用することについて制限する場合は、局の利益を害する場合など合理的範囲にとどめるべきである。さらに、制限する場合には合理的な対価を支払うことが望ましい。「素材」の利用については様々な場合が想定され、例えば、A局の番組なので出演したという者から、当該局以外で使用されることについて指摘がある場合等、局と製作会社で十分協議等を行っていくのが望ましい。
④ D局では、製作取引に関する契約書ひな型に価格や著作権の帰属等を記載する必要があり、製作会社と協議して決めないと社内承認が得られない仕組みになっている。
(3) 窓口業務
① 以下に掲げる事例(⑥を除く)は、「完全製作委託型番組」のうち、製作会社に発意と責任があり、著作権が製作会社に帰属する場合、又は、局と製作会社において著作権を共有する場合の事例である。A局では、二次利用の窓口業務については、局側が原則として窓口業務を担うとされている場合であっても、製作会社から窓口業務について意思が示された場合はそれを認めている。また二次利用による収益は、協議し配分している。
② B局では、窓口業務を行う側は、二次利用を行う場合には必ず事前に相手方に連絡し、権利処理方法、配分などについて協議して決定する。合意が得られなければ当該利用はできず、両者の意向が十分反映されていると認識し
25 22 頁「第2章 取引価格の決定」参照。
ている。
③ C局では、二次利用については協議事項で別途覚書締結となっており、条項としては「二次利用の機会を拡大した者が当該利用の窓口となることを原則する」こととなっており、契約書上も明確に製作会社も二次利用の窓口となり得る。局に著作権が帰属する場合でも、二次利用で収益がある場合は、製作会社にも配分する。
④ D局では、窓口業務については局と製作会社の間で双方の意向を十分確認し合い、決めている。
⑤ E局では、局と製作会社で著作権を共有する場合、二次利用の許諾については、「局と製作会社が共有し、重大な支障がない限り互いに異議なく応じる」旨契約書に明記しており、二次利用の意欲と可能性のある方が権利を行使する形をとっている。
⑥ F局では、自社に著作権が帰属する場合であっても、二次利用料は製作会社に配分している。配分のパーセンテージも協議を行い、原則として利益を折半している。