1を国が補助するという特別措置が講じられ、所有者からの申し出、承諾に 基づいて行われました。東日本大震災においても、平成23年5月2日、第 一次補正予算及び東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に 関する法律が成立、公布され、市町村が行う災害廃棄物の処理事業(県から 事務委託を受ける場合を含む)は、特例的措置として、補助率の嵩上げを実 施し、地方負担分の全額について、災害対策債により対処することとし、そ の元利償還金の100%について交付税措置がなされます(環境省HP...
2012/5/4 更新
震災法律相談Q&A
【目次】
第1 損害賠償、契約等
①-1 【瓦、ブロック塀等による損害賠償】
①-2 【建物内部の崩壊による怪我】
①-3 【失火】
①-4 【行政庁への責任追及】
①-5 【自力救済】
①-6 【救助要請の見過ごし】
①-7 【避難時の突倒し】
①-8 【ボランティア活動中の怪我】
①-9 【工場等からの有害物質】
①-10 【公共料金の支払】
①-11 【仕入品の扱い】
①-12 【売買契約と事情変更】
①-13 【輸送契約】
①-14 【通勤定期券の払戻し】
①-15 【倉庫契約】
①-16 【旅行契約のキャンセル】
①-17 【月謝等の扱い】
①-18 【悪徳商法全般】
①-19 【公示による意思表示】
①-20 【債務不履行】
第2 不動産(借地借家含む)
②-1 【所有建物の損壊に伴う建築業者に対する損害賠償請求】
②-2 【契約と異なる建築工事と建物の瑕疵】
②-3 【耐震強度偽装時の責任追及】
②-4 【住宅品質確保促進法上の瑕疵担保責任】
②-5 【隣家に対する損害賠償責任】
②-6 【倒壊建物の撤去】
②-7 【建築中の建物倒壊に伴う施工業者に対する請求】
②-8 【境界確定】
②-9 【不動産売買契約の処理】
②-10 【全壊建物の抵当権の帰趨】
②-11 【権利証の紛失】
②-12 【全壊していない分譲マンションの修理・再建手続】
②-13 【分譲マンションが全壊してしまった場合の再建手続】
②-14 【分譲マンションにおける水漏れトラブル】
②-15 【借家滅失と賃料支払義務】
②-16 【賃貸人からの明渡請求への対応(一部損壊の場合)】
②-17 【計画停電と賃料支払義務】
②-18 【引越しができない場合の賃料支払義務】
②-19 【敷金の返還】
②-20 【賃貸人に対する借家の補修請求】
②-21 【賃貸人が借家の補修をしない場合】
②-22 【賃貸人による貸家の補修】
②-23 【借家の再築請求】
②-24 【賃貸借契約の解除】
②-25 【罹災都市借地借家臨時処理法(総論)】
②-26 【借地上の建物が全壊した場合の借地契約の帰趨】
②-27 【借地上の建物が全壊した場合の再築】
②-28 【借地権の対抗力】
②-29 【地代支払義務】
②-30 【借地契約の期間】
第3 身分法(総則の失踪宣告等を含む)
③-1 【行方不明者の財産管理】
③-2 【行方不明者(安否不明を含む)の相続】
③-3 【死亡者の財産管理と相続】
③-4 【死亡の先後が分かる場合の相続】
③-5 【死亡の先後が不明の場合の相続】
③-6 【同時死亡の場合の遺言の効力】
③-7 【内縁の夫の財産】
③-8 【相続放棄の熟慮期間】
③-9 【遺言状を発見した場合】
③-10 【未xx者を残して両親が死亡した場合】
③-11 【xx後見人が死亡又は行方不明となった場合】
③-12 【離婚協議中の妻が行方不明となった場合】
③-13 【子の親権者である元妻が行方不明となった場合】
③-14 【失踪宣告後、生存が判明した場合】
③-15 【認定死亡後、生存が判明した場合】
第4 ローン・預金・自己破産
④-1 【住宅ローン支払義務】
④-2 【銀行の連絡先】
④-3 【遅延損害金】
④-4 【期限の利益喪失約款は適用されるか】
④-5 【担保目的物の消滅による追加担保の要否】
④-6 【担保目的物の消失による期限の利益喪失】
④-7 【建物修繕費用の融資制度】
④-8 【建物再築費用の融資制度】
④-9 【液状化現象による建物の損壊と融資制度】
④-10 【クレジットの支払いと遅延損害金】
④-11 【自動車ローン】
④-12 【自動車の所有権留保特約】
④-13 【リース物件の滅失】
④-14 【通帳や銀行カードの喪失】
④-15 【身分証明書の喪失の場合の本人確認】
④-16 【預金の第三者による無断引き下ろし】
④-17 【第三者によるクレジットカードの無断使用】
④-18 【被相続人・他の相続人の行方不明と銀行預金】
④-19 【債権者の行方不明】
④-20 【保証人の行方不明】
④-21 【ローンの支払い不能と手続の選択】
④-22 【破産手続と信用情報】
④-23 【管財費用の要否】
④-24 【生活再建支援金・義援金と破産手続き】
④-25 【義援金の寄付と破産】
④-26 【生活再建の為の買い物と破産手続】
④-27 【弁護士の介入後の借入行為】
④-28 【破産免責】
④-29 【民事再生手続】
④-30 【震災による再生計画の影響】
④-31 【民事法律扶助制度①】
④-32 【民事法律扶助制度②】
④-33 【裁判期日の不出頭】
④-34 【総量規制の緩和】
④-35 【被相続人の財産調査】
④-36 【個人債務者の私的整理に関するガイドラインとは】
④-37 【ガイドラインを利用する利点】
④-38 【ガイドラインを利用する利点②】
④-39 【ガイドラインを利用できる債務者】
④-40 【ガイドライン:弁済計画案に同意しない債権者がいる場合】
④-41 【ガイドライン:過払い金がある場合】
④-42 【ガイドライン:仮設住宅退去後に既存債務の弁済ができなくなる場合】
④-43 【ガイドライン:生活必需品を新たな借入れで購入せざるを得ない場合】
④-44 【ガイドライン:生活再建支援金、災害弔慰金・見舞金、義援金】
④-45 【ガイドライン:原発賠償金の受領が見込まれる場合】
④-46 【ガイドライン:震災前に期限の利益喪失事由がある場合】
④-47 【ガイドライン:免責不許可事由がある場合】
④-48 【ガイドラインに基づく債務整理の対象となる債権】
④-49 【ガイドライン:債務整理の開始】
④-50 【ガイドライン:債権者一覧表】
④-51 【ガイドライン:xxな価額】
④-52 【ガイドライン:債務整理の進行】
④-53 【ガイドライン:弁済計画案の内容・原則】
④-54 【ガイドライン:弁済計画案の内容・個人事業主の場合】
④-55 【ガイドライン:弁済計画案の内容・債務の減免を要請する場合】
④-56 【ガイドライン:弁済計画案の内容・保証債務がある場合】
第5 商事・倒産
⑤-1 【取引の明細がわからなくなった場合】
⑤-2 【取引先と連絡が取れなくなって支払ができない場合】
⑤-3 【取引先と連絡が取れなくなって納入の見込みがなくなった
場合】
⑤-4 【株券がなくなった場合】
⑤-5 【震災地域での飲食料品販売とJAS法】
⑤-6 【震災地域での飲食料品販売と食品衛生法】
⑤-7 【震災地域でのミネラルウォーター類の販売】
⑤-8 【震災地域への食料供給とJAS法及び食品衛生法】
⑤-9 【日本からの輸出品への諸外国での規制等】
⑤-10 【EU向けの輸出食品等】
⑤-11 【輸出物品の放射線検査機関】
⑤-12 【食品や飼料以外でも輸出規制】
⑤-13 【震災と貿易保険】
⑤-14 【罹災中小企業への金融支援】
⑤-15 【中小企業への仮設の店舗・工場等の施設整備支援】
⑤-16 【中小企業倒産防止共済制度の救済貸付(取引先振出しの手形不渡り)】
⑤-17 【中小企業経営承継円滑化法】
⑤-18 【中小企業電話相談ナビダイヤル】
⑤-19 【債務者が罹災した場合の金融機関の対応(金融検査マニュアル)】
⑤-20 【上場企業が罹災した場合の市場向け開示規制】
⑤-21 【金融商品取引法での有価証券報告書の提出期限】
⑤-22 【有価証券報告書の提出期限と上場廃止】
⑤-23 【定時株主総会の延期と証券取引所での配当落ち】
⑤-24 【震災と企業の決算(監査における留意事項)】
⑤-25 【取締役の死亡】
⑤-26 【株主名簿がなくなった場合】
⑤-27 【定時総会の開催と基準日】
⑤-28 【招集通知発送後の総会の日程の変更等】
⑤-29 【電子公告を行っているがサーバーがダウンした場合】
⑤-30 【登記の期限】
⑤-31 【同業者との震災の対策の相談と独禁法】
⑤-32 【親事業者が被災した場合の下請けからの受領の拒否】
⑤-33 【被災した下請事業者との関係】
⑤-34 【倒産防止のための制度】
⑤-35 【倒産についての特別規定】
⑤-36 【債務者の倒産の危険についての対応】
第6 労働
⑥-1 【内定取消の可否】
⑥-2 【震災の直接被害で全ての事業所の継続が困難な場合の解雇等の可否】
⑥-3 【震災の直接被害で支店のみ継続が困難な場合の解雇等の可否】
⑥-4 【事業縮小に伴う整理解雇の可否】
⑥-5 【震災の間接被害で全ての事業所の継続が困難な場合の解雇等の可否】
⑥-6 【解雇の時期的制限が存在する場合の解雇等の可否】
⑥-7 【事業所復旧に時間を要する場合の事業主の対処方法】
⑥-8 【震災の直接被害による操業停止中の場合の賃金等の請求の可否】
⑥-9 【震災の間接被害による操業停止中の場合の賃金等の請求の可否】
⑥-10 【内定者に自宅待機を命じた場合の賃金等の請求の可否】
⑥-11 【労働者が出勤不能な場合の賃金請求の可否】
⑥-12 【交通費の増加請求の可否】
⑥-13 【使用者による、一方的な有給取扱いの可否】
⑥-14 【震災等による就業規則等の変更の可否】
⑥-15 【未払給料確保の手段】
⑥-16 【給与の前倒し請求の可否】
⑥-17 【労働者行方不明時の賃金等の取り扱い】
⑥-18 【震災被害の復興のための残業等の命令の可否】
⑥-19 【震災被害に伴う変形労働時間制の労働時間の変更の可否】
⑥-20 【計画停電に伴う変形労働時間制の労働時間の変更の可否】
⑥-21 【会社を退職せずに失業保険を受けることの可否】
⑥-22 【休業手当と雇用調整助成金の関係】
⑥-23 【就業中の震災による怪我の場合の労災の肯否】
⑥-24 【同僚労働者の救助に伴い怪我をした場合の労災の肯否】
⑥-25 【通勤中の災害による怪我の場合の労災の肯否】
⑥-26 【避難場所への避難に伴う通勤災害の肯否】
⑥-27 【震災による行方不明の場合の遺族補償給付金請求の可否】
⑥-28 【アスベストによる企業の責任等】
⑥-29 【震災による労災の上積み補償の可否】
⑥-30 【計画停電中の休業手当請求の可否】
⑥-31 【計画停電時間外の休業手当請求の可否】
⑥-32 【派遣労働者による休業手当請求の可否】
⑥-33 【派遣先が操業短縮した場合の派遣料請求の可否】
⑥-34 【派遣契約を解約した場合の違約金等の支払いの要否】
⑥-35 【派遣元が震災を理由に解雇することの可否】
⑥-36 【液状化被害による事業の休業と休業手当請求の可否】
第7 保険
⑦-1 【生命保険】
⑦-2 【生命保険:災害関係保険金・災害関係給付金】
⑦-3 【生命保険:みなし入院等の特別取扱】
⑦-4 【生命保険:保険料の免責・猶予】
⑦-5 【生命保険:受取人死亡時の取扱い】
⑦-6 【火災保険】
⑦-7 【地震保険の保険金】
⑦-8 【地震保険と損壊状況の調査】
⑦-9 【地震保険と質権】
⑦-10 【傷害保険】
⑦-11 【自動車保険】
⑦-12 【自動車保険の免責の範囲】
⑦-13 【自動車保険と放射能汚染】
⑦-14 【自賠責保険と地震・津波、核燃料物質による事故】
⑦-15 【全損後の自動車保険料の支払義務】
⑦-16 【自動車保険の解約の当否】
⑦-17 【自動車保険:他人の自動車を借りて運転する場合】
第8 行政
⑧-1 【災害救助法】
⑧-2 【応急仮設住宅】
⑧-3 【応急仮設住宅入居後の食料等の供給】
⑧-4 【住宅の応急修理】
⑧-5 【罹災証明書とは】
⑧-6 【罹災証明書と応急危険度判定】
⑧-7 【被災証明書との違い】
⑧-8 【被害認定の基準】
⑧-9 【被害認定の判断基準】
⑧-10 【原発の避難指示と被害認定】
⑧-11 【液状化と被害認定】
⑧-12 【被災者生活再建支援法とは】
⑧-13 【被災者生活再建支援法の支援金】
⑧-14 【支援金の対象者】
⑧-15 【原発の避難区域と支援金】
⑧-16 【支援金と世帯数の認定】
⑧-17 【世帯主以外の申請】
⑧-18 【賃貸による加算支援金】
⑧-19 【支援金の申請方法】
⑧-20 【災害弔慰金等】
⑧-21 【許認可の期限 権利保全特別措置法】
⑧-22 【生活保護に関する通達等】
⑧-23 【避難先での生活保護】
⑧-24 【資産の認定】
⑧-25 【義援金等の受領と生活保護】
⑧-26 【被災者向けの支援制度】
⑧-27 【戸籍の消失】
⑧―28 【認定死亡、死亡届】
第9 税金・社会保険
⑨-1 【税務に関する法律相談心得一般】
⑨-2 【所得税の減免措置】
⑨-3 【資産損失の必要経費算入・欠損の繰越控除】
⑨-4 【法人税と減免措置・還付】
⑨-5 【相続税・贈与税と減免措置】
⑨-6 【災害による期限の猶予制度】
⑨-7 【納税の猶予】
⑨-8 【地方税と期限の猶予・納税の猶予】
⑨-9 【確定申告と期限の猶予】
⑨-10 【振替納税と期限の猶予】
⑨-11 【相続税と期限の猶予・準確定申告】
⑨-12 【自動車税と減免・猶予措置】
⑨-13 【自動車税・自動車重量税等と登録抹消】
⑨-14 【自動車重量税の減免】
⑨-15 【自動車の買換に関する特例】
⑨-16 【固定資産税の猶予措置等】
⑨-17 【住宅資金の贈与】
⑨-18 【自宅の建て替えと登録免許税】
⑨-19 【住宅ローン控除の特例】
⑨-20 【寄付金控除(個人の場合】
⑨-21 【寄付金控除(法人の場合】
⑨-22 【厚生年金保険料の特例】
⑨-23 【労働保険料の減免】
⑨-24 【健康保険料の減免】
第10 原発
⑩-1 【避難指示等の法的根拠】
⑩-2 【避難指示の違反】
⑩-3 【警戒区域】
⑩-4 【避難対象地からの家財等の持ち込み】
⑩-5 【避難対象地における借家の賃料支払義務】
⑩-6 【避難対象地の土地売買契約】
⑩-7 【原子力災害対策特別措置法】
⑩-8 【原子力損害賠償制度の概要、国家賠償との関係】
⑩-9 【原子力損害の内容及び相当因果関係の立証の程度】
⑩-10 【相当因果関係のある損害の範囲~その1 被曝や避難による生命・身体的損害】
⑩-11 【相当因果関係のある損害の範囲~その2 避難費用・検査費用、一時立入費用、帰宅費用】
⑩-12 【相当因果関係のある損害の範囲~その3 休業損害、営業損害、出荷制限、作付制限、航行危険区域設定及び飛行禁止区域設定による損害】
⑩-13 【相当因果関係のある損害の範囲~その4 風評被害・精神的損害・間接被害】
⑩-14 【相当因果関係のある損害の範囲~その5 汚染された不動産・動産等の財産価値の喪失又は減少、損益相殺】
⑩-15 【原子力事業者の補償能力、原子力損害賠償支援機構】
⑩-16 【原発を製造したメーカーの責任】
⑩-17 【「異常に巨大な天災地変」による免責】
⑩-18 【損害賠償請求の具体的な手続き】
⑩-19 【原子力損害賠償紛争審査会の役割・原子力損害紛争解決センターの設置】
⑩-20 【被災者生活再建支援法と補償、東京電力の仮払補償金、本払補償金、仮払い法】
⑩-21 【避難対象地域の休業手当請求の可否】
⑩-22 【避難対象区域の会社への不出勤による解雇の可否】
⑩-23 【被災地域への転勤拒否による解雇】
⑩-24 【原発と住宅ローン】
⑩-25 【放射能に汚染された食品の取扱い】
⑩-26 【中間指針、中間指針追補による損害項目一覧】
第10の2 原発(事例編)
<損害賠償請求の手続き・方法>
⑩の2-1 【損害賠償請求の方法】
⑩の2-2 【東京電力送付の請求書類】
⑩の2-3 【原子力損害賠償紛争解決センター】
⑩の2-4 【原子力損害賠償紛争解決センターへの申立と裁判との関係】
⑩の2-5 【仮払法に基づく仮払金】
⑩の2-6 【各解決手段のメリット、デメリット】
⑩の2-7 【定期金賠償】
⑩の2-8 【和解後に発生した損害の請求・消滅時効】
<各種制度と賠償金との関係、損益相殺>
⑩の2-9 【生活保護と賠償金との関係】
⑩の2-10 【災害弔慰金、義援金、被災者生活再建支援法による支援との関係】
⑩の2-11 【損益相殺】
<生命・身体的損害>
⑩の2-12 【避難後の身体的疾患と原発事故との因果関係】
⑩の2-13 【PTSD】
⑩の2-14 【うつ病悪化と原発事故との因果関係】
<精神的損害等>
⑩の2-15 【自主的避難者(xx県内に在住)の場合】
⑩の2-16 【自主的避難者(xx県外に在住)の場合】
⑩の2-17 【放射線量が比較的高い地域に残った場合の慰謝料と発病した場合の因果関係】
⑩の2-18 【妊娠中の場合】
⑩の2-19 【原発事故後のストレスとカウンセラー費用】
<避難区域内の営業損害、就労不能等の損害、風評被害>
⑩の2-20 【避難区域の営業損害等の終期と定期金賠償】
⑩の2-21 【商圏喪失による損害】
⑩の2-22 【緊急時避難区域解除と損害賠償】
⑩の2-23 【風評被害(報道機関やイベントの主催者に対し)】
⑩の2-24 【風評被害の終期】
<不動産や動産の喪失、減少による損害>
⑩の2-25 【 不動産の価値の喪失又は減少と判断できる時期】
⑩の2-26 【不動産の価値の評価方法】
⑩の2-27 【不動産の全損の賠償と避難費用、固定資産税との関係】
⑩の2-28 【動産の価値の評価方法】
⑩の2-29 【ペットの死亡】
<間接被害>
⑩の2-30 【未回収の売掛金の賠償請求】
<原発損害賠償と税務問題>
⑩の2-31 【損害賠償金に対する課税】
⑩の2-32 【必要経費を補填するための賠償金と課税】
⑩の2-33 【事業の減収分に対する賠償金と課税】
⑩の2-34 【給与等の減収分に対する賠償金と課税】
第11 外国人
⑪-1 【震災情報と言語】
⑪-2 【震災とパスポート期限経過】
⑪-3 【震災と途中帰国した留学生に対する特別措置】
⑪-4 【震災と在留期限延長の特例】
⑪-5 【震災と在留期限の特例・再入国許可】
⑪-6 【不法残留者の出国と震災】
⑪-7 【不法残留歴と再入国】
⑪-8 【外国人の出国と震災】
⑪-9 【外国人と雇用】
⑪―10 【外国人と雇用保険】
⑪-11 【外国人従業員と欠勤】
⑪-12 【外国人と国民健康保険】
⑪-13 【公的手当、東電の仮払い補償金と外国人】
⑪-14 【外国人と賃貸借】
⑪-15 【外国人と入居拒否】
⑪-16 【在留資格取得申請期間の延長】
⑪-17【外国人と相続】
第1 損害賠償、契約等
①-1【瓦、ブロック塀等による損害賠償】
Q 家の瓦、ブロック塀又はマンションの外壁が地震により崩れてしまい、隣家の自動車が破損しました。また、地震により墓が崩れ、隣の墓が傷つきました。修理代金の支払はどうなるのでしょうか?震度4の場合と震度7の場合で違いがありますか?
A
1 瓦やブロック塀による破損に関する相談が、非常に多くなっています。土地工作物責任(民法第717条第1項)が問題となり、従前、震度5以下の場合は損害賠償責任を免れず、震度6以上の場合は不可抗力に基づくものとして瑕疵が否定され損害賠償責任を免れると考えられてきました(以下「震度5・震度6基準」といいます。)。
この「震度5・震度6基準」は、「震度『五』程度の地震が仙台市近郊において通常発生することが予測可能な最大級の地震であったと考えるのが相当である」ことを前提に、「本件ブロック塀の設置につき瑕疵があったというためには、・・・本件ブロック塀が地盤、地質、施工状況等の諸事情に照して震度『五』の地震に耐え得る安全性を有していなかったことが明らかにされなければならないものといわなければならない」と判示した、xx県沖地震時におけるブロック塀倒壊事故に関する仙台地判昭56・5・8判時10
07・30、「本件宅地に耐震性の点からの瑕疵の存否は、従来発生した地震の回数、頻度、規模、程度のほか、時代ごとに法令上要求される地上地下構築物の所在場所、地質、地形、強度等の諸要素を考慮し、一般常識的見地から、少なくとも震度五程度の地震に対して安全性の有無を基準として判断するのが相当である」と判示した、xx県沖地震時における宅地造成工事に関する仙台地判平4・4・8判時1446・98等に基づき提唱されています。当該「震度5・震度6基準」に基づけば、震度4の場合は修理代金を支払わなければならない一方、震度7であれば支払を免れ得ることとなります。
2 もっとも、阪神・淡路大震災ほか、震度6以上の地震が散発している昨今、震度6以上の地震が予測不可能とはいえないとも考えられますので、「震度
5・震度6基準」が東日本大震災にも妥当するかどうかについては慎重な考慮が必要です。瑕疵があったか否か、すなわち、「当該瓦、ブロック塀、マンションの外壁又は墓が、その当時発生することが予想された地震動に耐え得る安全性を有していたか否か」を個別具体的に検討する必要があるでしょう。その際、建築基準法、宅地造成等規制法等の基準を充たしているかも確
認すべきです。
3 なお、今回の東日本大震災のために瓦、ブロック塀、マンションの外壁又は墓等が倒壊する危険が現実化していたにもかかわらず、それらを放置して二次被害が発生した場合には、工作物責任を問われてしまいますので、早めの補修をお勧めします。
また、②-1 【所有建物の損壊に伴う建築業者に対する損害賠償請求】の項も参照してください。
①-2【建物内部の崩壊による怪我】
Q スーパーで買い物をしていました。地震によりスーパーの天井や看板が落下し、全身打撲の怪我を負いました。損害賠償はできますか。
A
1 建物の中で怪我をした場合にも、上記①-1【瓦、ブロック塀等による破損】と同様、土地工作物責任(民法717条)の問題となります。上記「震度5・震度6基準」を参考にすれば、看板や天井が震度5に耐えられる安全性を有していたかどうかを、看板や天井の取付方法や管理方法等諸事情を総合的に考慮して決することとなります。その結果、看板や天井がその当時発生することが予想された地震動に耐え得る安全性を欠いていると判断される場合、損害賠償義務が発生します。もっとも、仮に震度6以上のため不可抗力として免責されるとしても、全身打撲の怪我に鑑み、スーパー側が自発的に補償をすることも考えられますので、まずは交渉してみてはいかがでしょうか。
2 スーパーが店舗建物を所有しているのではなく、賃借している場合には、スーパーは損壊した建物の占有者ということになります。従って、スーパーが損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたと認められる場合には責任を負わず(民法717条1項但書)、上記の請求は建物の賃貸人である所有者に対して行うことになります。
①-3【失火】
Q 私の自宅裏に設置していた灯油タンクが地震のために破損したため引火して、私の自宅だけでなく隣近所数軒に延焼し焼失させてしまいました。この場合、私は隣近所の方から損害賠償請求されるでしょうか。
A 隣近所の方から損害賠償請求される可能性があります。
民法717条の工作物責任と失火責任法との関係が問題となり、学説・裁
判例も分かれていて難しい問題点が含まれます。このような場合には、瑕疵ある工作物から直接生じた火災については民法717条の工作物責任が適用され、その火災から延焼した被害については、工作物の設置・保存の瑕疵が所有者の重過失による場合は失火責任法が適用されることになると考える説が有力ですので、灯油タンクに瑕疵があると認められる場合には、延焼について賠償責任が生じる可能性もあります。
①-4【行政庁への責任追及】
Q 県や市町村の災害救助の対応に遅れがあったために、私の家族は土砂崩れの現場から救出できず死亡してしまったと思うのですが、これを県や市町村に対して責任を追及できるでしょうか。
A 今回のような広範囲で大規模な災害が起こった場合、県や市町村の災害救助の対応部署自体が被災している場合もあり、被害の実態を把握するのに時間を要した場所も多かったと思われますので、行政の対応の問題を追及するのは、個々の具体的事情によると思います。たとえば、国が管理する崖等が予想される震度以下の地震で土砂崩れが起こった場合等は、国賠請求として責任追及のできる場合があります。
①-5【自力救済】
Q 大切にしていた高価な飾り物が、津波で流され他人の土地中の瓦礫の中にあります。自力で取り戻してもよいのでしょうか?
A 自分の所有物としてすぐに取り戻したい気持ちは分かりますが、他人の土地に勝手に入ることは、最悪の場合、住居侵入等(刑法130条前段)に該当する可能性も否定できません。また、弁護士としては、本当に相談者の所有物か不明であるにもかかわらず、取戻しを可能であると回答すると、窃盗
(刑法235条)に荷担することにもなりかねませんので、注意が必要です。ただ、放置しておくと紛失しかねないという状況であれば、本人の責任にお いて、念のため中立の第三者の立ち会いの下でその物を回収してきて、異議 が出ないかどうか様子を見るという方法が考えられます。
①-6【救助要請の見過ごし】
Q 地震による津波から逃れて避難所へ急ぐ途中、倒壊した塀の下敷きになった人から「助けてくれ。」と呼び止められました。助けてあげたいと思いな
がらも、津波が近くまで来ていたため、自分が逃げることで精一杯だったので、助けずに逃げてしまいました。私が助けてあげれば、その人は生きていたかもしれないと思うと、大変後悔しています。私は、刑事上、民事上、何らかの責任を負うのでしょうか。
A 基本的に、刑事上も民事上も法的に何らかの責任を負うことはありません。
ただし、救助を求めた人があなたと一定の関係のある人の場合には、刑事上・民事上の責任を負う可能性があります。たとえば、自分の子供については保護責任者遺棄致死罪が、自分の会社の従業員の場合には使用者として被用者に対する安全配慮義務に基づく損害賠償責任が成立する可能性があります。
①-7【避難時の突倒し】
Q 地震による津波が押し寄せてきたため、車で高台に避難している最中に、車の進路をふさぐように立っていた人がいたので、当たるとわかっていながら突き倒してしまいました。その人は、その事故のせいで亡くなったと後日聞きました。私は何らかの責任を負うのでしょうか。
A 刑事上・民事上の責任を負う可能性があります。
刑事上、車で人をはねて死亡させた場合、自動車運転過失致死罪(刑法2
11条2項)に問われますが、本件のような場合、緊急避難が成立して、刑事上の責任を免れるかが問題となります(②-5【隣家に対する損害賠償責任】参照)。ただ、緊急避難の要件はかなり厳しいため、緊急避難が成立する可能性は低いと言わざるを得ません。
仮に、刑事上、緊急避難が成立して刑事上の責任が免れたとしても、民事上、不法行為に基づく損害賠償請求がされることになります。ただし、被害者の過失の有無により過失相殺の可能性はあります。
①-8【ボランティア活動中の怪我】
Q ボランティア活動に参加し、リーダーの指示に基づき、地震で半壊した建物の中に入り、被災者から依頼されたアルバムを探していたところ、余震がきて、建物がさらに崩れて柱に手を挟まれて骨折してしまいました。ボランティア団体や指示をしていたリーダーに対して治療費等を請求することはできますか。アルバムを探して欲しいと依頼した被災者に対してはどうですか。
A ボランティアとボランティア団体の間には、ボランティアという労務を無償で提供する契約が締結されていることになります。裁判例は、直接契約関係にない場合でも事実上指揮監督を受けているときは安全配慮義務があるとしていますので(最判平3・4・11判時1391・3)、本件のような関係においても、ボランティア団体が、故意・過失により安全配慮義務を怠ったと認められる場合は、ボランティア団体に対して損害賠償請求ができると考えられます。
また、指示していたリーダーに対しても、リーダーの指示が故意又は過失によるものであった場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を追及できる可能性があります。
なお、被災者に対する請求は難しいと思われます。被災者との間には契約関係がありませんから、上記のような安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求はできません。また、被災者が建物の所有者であるということで、土地の工作物責任を追及することも考えられますが、本件については、既に半壊している建物であることを前提にボランティア活動を行っていますので、その建物の設置・保存についての瑕疵に基づく責任を認めるということは難しいと思われます。
①-9【工場等からの有害物質】
Q 今回の地震による津波によって近くの化学工場から有害物質が県道に流出してしまい自宅の庭にまで入ってきて残ってしまいました。どのような手段をとることが可能でしょうか。
A まず、有害物質の流出・残置に対して汚染除去を求めることが考えられます。ただ、妨害の原因が不可抗力である場合には物権的請求権は生じないとする判例がありますので(大判昭12・11・19民録16・1881)、不可抗力だと判断された場合などは汚染除去を求めることができない場合があります。ただ、そのような場合でも、特別法(水質汚濁法14の2、毒劇法16の2・22④、消防法16の3)によって、有害物質についての応急措置や行政への連絡が義務づけられていますので、地方自治体に相談し、汚染を除去するよう指導を求めてください。
また、自ら汚染除去費用を出したり、有害物質によって健康被害等の損害が生じた場合には、工場を操業している会社等に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できるかですが、これは、当該会社に対して工作物責任を問えるかの問題となりますので、損害賠償が認められるかはそれぞれの具体的事情によります。
①-10【公共料金の支払】
Q 地震によって、電気・ガス・水道が2週間以上ストップしてしまいました。その間の使っていなかった日数分については料金免除して欲しいです。また、現在、勤務していた会社の津波で流されて仕事が出来ないため収入がないの で、今後の支払についても待っていただきたいのですが、猶予してもらえる ものでしょうか。
A 電気料金(東京電力・東北電力)については、震災で被害を受け、災害救助法が適用された自治体やその周辺の地域を対象に、電気料金の支払いを延長するなどの措置をとっており、こうした地域の方々が他の地域に引っ越した場合にも、引越し先の電力会社で引き続き、特別措置を受けることができます。詳細については、各社のホームページ等から確認して下さい。
ガス料金についても、資源エネルギー庁が、災害救助法が適用された市町村において被災したガスの需要家等がそれぞれの供給区域内又は他の供給区域の公営住宅等に移転する場合等の特別措置の認可を行いましたので、これにより、被災者からの申請に応じて料金の支払い期限の延長、または免除などの措置がとられています。
水道料金については、各自治体によって、支払い期限の延長や減免の制度がとられていますので、各自治体に問い合せてください。
NTT東日本や携帯電話大手各社(NTTドコモ、ソフトバンク、AU) は、被災した人たちの料金の支払い期限を延長する措置をおこなっています。ただ、各社それぞれの対応ですので、それぞれの会社に問い合わせをして下 さい。
①-11【仕入品の扱い】
Q スポーツ用品店を経営しています。仕入れたスポーツ用品が店ごと津波で流されてしまいました。支払債務は免れないのでしょうか。ただ、仕入れ先とは今後も継続的に取引をしたいため、良好な関係を維持したいです。
A 当該スポーツ用品の仕入れに関する契約書に特別な規定がない場合には、スポーツ用品が仕入れられているため、給付が完了していますので、危険負担の問題にはならず、支払債務を免れることはできません。
しかし、今回の大震災の影響ということで、仕入れ先と支払の延期や分割払いについて交渉の余地はあると思われますので、協議をしてみてはいかがでしょうか。
①-12【売買契約と事情変更】
Q 震災前に船を購入する契約をしていました。震災がありましたが船は無事とのことでした。しかし、お金がなくなってしまったのでできれば売買契約を解除したいのですが、可能でしょうか。
A この場合、契約上に特別な規定がなければ、契約を解除する事由はないと思われます。(もし手付解除の規定があり、履行の着手前であれば、手付金を放棄することにはなりますが、解除して代金の支払いを免れることにはなるでしょう。)
あとは、事情変更による解除ができるかどうかが問題となります。同法理の一般的要件としては、①契約成立当時その基礎となっていた事情が変更すること、②契約締結後の事情の変更が、当事者にとって予見することができなかったこと、③事情変更が当事者の責めに帰することができない事由によって生じたものであること及び④事情変更の結果、当初の契約内容に当事者を拘束することが信義則上著しく不当と認められることが挙げられています
(谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)』(有斐閣、平成8年)
69頁、最判昭29・2・12民集8・2・448、最判平9・7・1民集
51・6・2452参照)。しかし、判例上、事情変更の原則自体は認められているものの、その適用には厳格な姿勢がとられています。このため、今回の大震災によったとしても、事情変更の原則が適用されない可能性が高いと言わざるを得ません。
事情変更の原則が適用されない場合、代金支払義務は免れません。もっとも、今回の震災の影響として資金繰りが困窮したことは売主にも理解してもらえるでしょうから、支払時期の延期、分割払い、一部減免等を交渉すべきでしょう。
①-13【輸送契約】
Q 運送会社を経営しているのですが、今回の地震によって、運送経路の道路が通行止めになり、依頼された商品の輸送ができませんでした。この場合の契約関係はどうなりますか。
A 今回の地震によって、北関東から東北地方にかけての高速道路や一般道が大きな被害を受け、一時期、物の輸送が完全に閉鎖されるような状況となっていました。このような場合、運送会社には予定していたルート以外のルートを探索して運送すべき義務があるといえますが、予定していたルートを利
用する場合と比較してあまりに多大な費用がかかる特別のルートを探索して利用しなければならない義務まではないと考えられます。従って、これによる輸送の遅滞は不可抗力によるものと解され、遅滞の責任を負うことはありません。この場合、道路が復旧してから商品を輸送し代金を支払ってもらうことになります。
ただし、商品の種類によっては復旧を待って輸送したのでは目的を達することができなくなり、履行不能と場合もあり得ます。この場合も、大震災という不可抗力による履行不能と解され、債務不履行による損害賠償責任は負わないと考えられますが、代金の支払いを請求することはできません(民法
526条)。
①-14【通勤定期券の払戻し】
Q 毎日、電車で通勤していましたが、今回の地震による津波で線路が流されて電車の運転の目途がたちません。今後は車通勤をするしかないのですが、地震の前日に6か月定期を購入したばかりですので、この定期券を払戻ししたいのですが、できるのでしょうか。
A 旅客と鉄道会社との間の契約関係は、各鉄道会社の「運送約款」に規定されており、その約款の内容に基づき払い戻すことができます。しかし、かかる約款がない場合でも、危険負担における債務者主義から、原則、震災によって電車等が運行不能になった場合には定期券の残りの期間に応じて払い戻してもらえると考えられます。
①-15【倉庫契約】
Q 港近くの倉庫業者に荷物を預けていたところ、今回の大地震による津波で荷物が倉庫もろとも流されてしまいました。倉庫業者に対して、何らかの責任を追及できるでしょうか。荷物が津波によって流されたのではなく、地震のために倉庫内に積み上げられていた荷物が崩れて内部が破損してしまった場合はどうでしょうか。
A 「標準倉庫寄託約款」40条1項では、地震(津波)によって生じた損害 については倉庫業者(受託者)は荷物等預けた人や会社(寄託者)に対して 責任は負わないと規定されていますので、原則として倉庫業者に対して損害 賠償等の請求はできません。この場合、荷物に地震保険がつけられていれば、保険金を請求することは可能です。
しかし、地震によって倉庫内の荷物の積み方に問題があったために崩れて
内部が破損してしまった場合のように、倉庫業者に荷物の保管について善管注意義務違反がある場合には、善管注意義務違反に基づく損害賠償請求ができます。商法617条では、倉庫業者側が注意義務を怠らなかったことを立証しない限り、預けた物の滅失・既存について損害を賠償する責任を負うことになっています。
①-16【旅行契約のキャンセル】
Q 宮城県に旅行に行く予定をしており、気仙沼市内のホテルに予約を入れていましたが、今回の地震でホテルが津波で流されてしまいました。ホテルの予約をキャンセルしたいと考えていますが、キャンセル料はかかるのでしょうか。旅行会社のツアーを予約していた場合はどうでしょうか。
A 国際観光ホテル整備法に基づく「標準宿泊約款」6条2項では、宿泊客がその責めに帰すべき事由により宿泊契約の全部又は一部を解除した場合に違約金(キャンセル料)が発生するとされています。そのため、当該ホテルが地震による津波の被害を受けたことが原因でキャンセルする場合には、宿泊客側の責任ではありませんので、違約金(キャンセル料)を支払う必要はありません。
旅行会社のツアー旅行の場合ですが、国土交通省観光庁長官が旅行業法に基づき定めた「標準旅行業約款」では、旅行者は、天災地変が生じた場合において、旅行の安全かつ円滑な実施が不可能となり、又は不可能となるおそれが極めて大きいときには旅行開始前に取消料を支払うことなく契約を解除することができると定められていますので、本件のような場合は、キャンセル料を支払わずにキャンセルすることができます(募集型企画旅行契約の部
16条2項3号)。
①-17【月謝等の扱い】
Q ダンス教室を経営しています。震災のため、やむなくレッスンを休みにしました。月謝は返却すべきでしょうか。
A 危険負担の問題となります。不可抗力によるレッスン休講の場合は、危険負担の債務者主義(民法536条)により、レッスンを行う債務を負担するダンス教室側が危険を負担することとなります。このため、受講生は休講に対応する分の月謝を支払う必要がありませんので、当該月謝の返還を請求された場合には、応じるべきでしょう。もっとも、実際には、レッスンの振替開催や別のサービスの提供を提案することにより対応するということも考え
られます。
①-18【悪徳商法全般】
Q 地震に便乗した悪徳商法にはどのような商法があるのでしょうか。また、このような悪徳商法には、どのように対応すればいいのでしょうか。
A
1 訪問販売による方法
震災による家屋の修繕や屋根瓦の葺き替えの役務の提供、震災によって品薄となっている生活必需品等を高額な代金で購入させるという方法も多く見られます。
また、消防署やガス会社、水道会社等の公共団体からきたと名乗って、無料点検をすると言って点検をした後で不必要な商品等を購入させるという方法が多く見られます。有名な公共団体や会社に類似もしくは関連するかのような紛らわしい名前を使用したりすることもあるので注意が必要です。
必ず相手に身分証明書等を提出させて身分を確認し、契約の前に当該会社や当該公的機関に点検や訪問販売の事実を確認したり、弁護士会や消費者センター、場合によったら最寄りの警察に相談するようにしましょう。
2 義捐金詐欺
報道等で名の知れた団体名等を使用して、自宅を訪問して義捐金を募るケースも多いです。また、自宅に電話を架けてきて寄付を募る場合もありますので、すぐに送金等をせずに、消費者センター等に相談して詐欺ではないとはっきりしてから振り込み等を行うようにすべきです。
3 今回の震災では、独立行政法人国民生活センターにより「震災に関する悪質商法110番」という相談窓口が開設されています。
(電話番号0120-214-888 毎日10時から16時まで)
①-19【公示による意思表示】
Q 郵便物を発送後に地震が発生して相手方に到達しない場合、その郵便物で主張した意思表示について効果は発生するのでしょうか。また、相手方が地震によって行方不明の場合の意思表示はどのようにすればよいのでしょうか。
A 意思表示の効力発生は原則として到達主義(民法97条)ですから、例外的に発信主義が適用される場合でない限り、郵便物が届かないとその効果が発生しません。
意思表示の相手方が行方不明の場合には、公示の方法による意思表示を行うことになります。具体的には、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従って裁判所の掲示板への掲示等を行います(民法98条)。
法定(もしくは約定)期間内に意思表示をする必要があるような場合で、地震等のために郵便事情が悪化して到達できないときに関するものとして、民法161条は、「時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と規定しています。その他手形法54条及び小切手法47条も参考にしてください。
①-20【債務不履行】
Q 今回の地震による津波により工場が全壊し、在庫商品もすべて流れてしまったため、納期に商品を納品することができません。この商品は他の工場や 他社でも一切製造していません。このような場合、債務不履行責任を負うの でしょうか。また、種類債権の調達義務はどのような場合でも生じますか。 A 工場で生産している商品ということなので、不特定物(種類債権)であると考えます。この場合、債務者は同種の商品を市場で調達できますから、債
務者に調達義務が生じ、履行不能とはなりません。
今回のような大震災の場合、債務者が被災したり、部品の調達に多額の費用を要する等履行すべき商品を調達することが著しく困難となることも多いと思われます。債務者やその地域一体が被災して取引活動ができなくなったような場合、履行の遅延が不可抗力によるものとして、履行遅滞の責を負わないと考えられます。また、道路や輸送手段の被災による物理的原因や、原発を理由とする行政上の措置による避難指示等により納品が不能又は著しく困難となった場合も同様に考えられます。
第2 不動産(借地借家含む)
②-1 【所有建物の損壊に伴う建築業者に対する損害賠償請求】
Q 私の所有している家が地震で倒壊してしまいました。周りの家は倒壊していないので建築に問題があったのではないかと思っています。建築業者に対して損害賠償請求できますか。
A 仙台地判平4・4・8判時1446・98は、昭和53年6月12日発生の宮城沖地震において、宅地造成工事に関する事件で、「本件宅地の耐震性の点からの瑕疵の存否は、従来発生した地震の回数、頻度、規模、程度のほか、時代ごとに法令上要求される地上地下構築物の所在場所、地質、地形、強度等の諸要素を考慮し、一般常識的見地から少なくとも震度5程度の地震に対して安全性の有無を基準として判断するのが相当である」としていますが、この地震発生当時、仙台市近郊において過去に発生した地震では震度6以上の例がありませんでした(宮城県沖地震も公表震度5でしたが、その後の調査により全般的に震度6とみなすのが妥当とされました)。
気象庁が発表する震度は、地表や低層建物の1階に設置した震度計による観測値にすぎず、揺れの大きさや周期、継続時間、地盤の状況等により被害の程度は異なる上、震度6を超える地震をいくつも経験し、建築基準法等の改正により耐震基準が強化されている現在においても、震度5程度を基準として安全性の有無を検討してよいかどうか疑問があるところです。ただ、少なくと も周りの家は倒壊していないところからすると、当該家屋は、震度
5程度の地震(棚の食器や本が落ち、固定していない家具が移動したり倒れる等の被害とされています)に耐えられない一般に要求される程度の安全性を持っておらず、瑕疵の存在を理由に建築業者に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。また、建築設計者に対する損害賠償も考えられます。
なお、ブロック塀等が倒壊した場合の工作物責任における「瑕疵」については、①-1を参照してください。また阪神・淡路大震災で賃貸マンションの1階部分が倒壊し、1階部分の賃借人が死亡した事故で、損害賠償額の算定にあたり、自然力の寄与度を5割認め、5割の限度で土地工作物責任を認めた裁判例(神戸地判平11・9・20判時1716・105)もありますので併せて参照してください。
民法の瑕疵担保責任の除斥期間は、普通工作物の引渡し後5年、石造・コンクリート造・金属等の工作物が10年とされ、注文者は滅失又は損傷から
1年以内に損害賠償請求をしなければならないとされています(民法638条)。もっとも、請負契約で、木造家屋は引渡し後1年、コンクリート等の
建物は2年、請負人に重過失ある瑕疵は、1年を5年、2年を10年とするとされているケースが多いと思われます。
また、平成12年4月1日以降の新築住宅の売買契約、請負契約には、
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が適用されます。瑕疵担保責任が引渡し後10年に延長され、取得者に不利な特約(期間の短縮等)を無効とし、損害賠償請求、瑕疵修補請求、売買契約で修補不能な場合には契約解除が認められています(品確法94条、95条)。品確法に基づく瑕疵担保責任については、②-4を参照してください。
②-2【契約と異なる建築工事と建物の瑕疵】
Q 今回の震災によって自宅マンションにひび割れ等が入ったため、家屋調査をしてもらったところ、当初の契約の内容と異なる色々な不具合があったことが判明しました。そこで、建物の売主や建築業者に瑕疵担保責任を追及するための「瑕疵」とは、どのようなものをいうのでしょうか。またどのように判断されるのでしょうか。「瑕疵」の有無を判断するには、どのような調査方法があるのでしょうか。
A 売買契約における「瑕疵」とは、売買の目的物がその種類のものとして通常有すべき品質・性能、あるいは契約上予定した性質を欠いていることをいいます。また、請負契約における「瑕疵」とは、完成された仕事が契約に定められたとおりに施行されておらず、使用価値や交換価値が減少したり、当事者が特に求めた点を欠くなど不完全な部分をもっていることをいいます。瑕疵の判断については、従来は、当該目的物が通常備える品質・性能を欠 く客観的な瑕疵を中心に捉えられてきました。しかし、最高裁判所(最判平
15・10・10判時1840・18)は、「本件事実関係によれば、太い 鉄骨を使用する約定をしたことは契約の重要な内容になっていたものという べきであり、この約定に違反して施行された工事には瑕疵があるというべき である」としており、たとえ、建築基準法の基準を満たしていても目的物が 契約に定められた性質を具備しない場合にも、請負業者の責任を認めている ので、瑕疵担保責任の適用の範囲は拡大されているようです。よって、契約 と異なる工事が施工されていた場合には、建築業者に対する瑕疵担保責任が 認められる可能性があります。また、売買契約の内容と異なる事実が判明し、その結果使用価値や交換価値を減じる事情が認められるのであれば、売主に 対する瑕疵担保責任も認められる余地があります。
上記瑕疵の判断基準に用いる資料としては、契約内容が契約書等(契約書、設計図書、品確法による住宅性能評価書)に明確に記載されていれば、その
契約書によって瑕疵を判断します。契約書等で統合不具合の原因に関する品 質や性能が不明確な場合は、何らかの客観的外部的基準(建築基準法等の法 令、住宅金融公庫の住宅工事共通仕様書、日本建築学界の各種構造設計基準)により契約内容を合理的に意思解釈して補完する必要があります。
②-3【耐震強度偽装時の責任追及】
Q 自宅の鉄筋コンクリート造りのマンションが今回の震災で半壊してしまいました。周辺のマンションは半壊するほどの被害を受けていなかったため、建築士に自宅マンションの調査をしてもらったところ、耐震強度に偽装があることがわかりました。このような場合、誰に対してどのような請求ができますでしょうか。また、紛争を解決するためにはどのような手続をとればよいのでしょうか。
A 耐震性及び契約内容に違反する点で、マンションの売主に対しては瑕疵担 保責任・不法行為責任を追及できます(②-1、②-2を参照してください)。また、構造設計者及び建設会社に対しては不法行為責任を追及できます。
その他、建築確認事務を行った指定確認検査機関に対する不法行為責任や、建築確認事務を行った機関(建築主事)が帰属する地方公共団体に対する国 家賠償責任の追及が考えられます。半田市のビジネルホテル耐震強度偽装損 害賠償請求事件の1審判決(名古屋地判平21・2・24判時2042・3
3)は、県に対し国家賠償責任を認めましたが、その控訴審の名古屋高判平
22・10・29判時2102・24は、県の責任を否定しました。建築基準関係規定に直接定める項目であれば、建築主事は職務上必要な注意義務をもって審査すべきであるが、右規定が直接定めない事項については、審査は原則不要であり、それらに関連して右規定に定める審査事項違反となるような重大な影響がもたらされることが明らかな場合において、故意又は重過失によって看過したときに注意義務違反となると判断し、結論として建築主事の注意義務違反を認めなかったものです。自治体又は指定確認検査機関の責任を否定した裁判例のほうが多いと指摘されていますが、責任を否定する理論構成は一様ではありません。
紛争を解決するための手続としては、当事者同士の示談交渉がありますが、交渉での話合いが困難であれば、第三者を介する弁護士会等の斡旋・仲裁、 裁判所の調停や裁判等の法的手続を取ることができます。建築士に見てもら って耐震偽装がわかったということですが、今後、示談交渉等を始めるにあ たって、建築物の構造問題の専門の建築士にマンションの調査及び構造計算 のチェック等をしてもらって、耐震偽装がマンション半壊の原因であるかど
うかを検証する必要があります。
②-4【住宅品質確保促進法上の瑕疵担保責任】
Q 私は、平成12年6月に自宅として新築建物の売買契約と請負契約を締結しました。平成12年4月1日以降に契約した場合、それより前に契約した場合と比べて、瑕疵担保責任に関して違いがあると聞いたのですが、どのように違うのでしょうか。
A 平成12年4月1日以降の新築住宅の売買契約、請負契約については、民法の瑕疵担保の特例として「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が適用されます。
「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の重要ポイントは、
① 瑕疵担保の権利行使期間-引渡し後10年で、かつ、請負人に対しては滅失・毀損時から1年以内、売主に対しては瑕疵を知った時から1年以内。
② 取得者に不利な特約は無効
③ 売買契約について瑕疵修補請求ができる。
ただし、瑕疵の立証責任は取得者で、「隠れた瑕疵」のみに限られ、中古物件を除きます。また、建築請負契約について解除は認められません。
④ 担保されるのは、「構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの」の瑕疵に限られます。
②-5 【隣家に対する損害賠償責任】
Q 隣家が私の家に倒れかかってきています。このままでは私の持ち家も壊れてしまいそうです。隣人が行方不明なのですが、隣家を勝手に壊してしまっても良いのでしょうか。
A 隣人が、隣家の所有権を保有しているので、原則は、所有者の承諾なく隣家の解体を行うという自力救済は禁止され、不法行為に基づく損害賠償責任や建造物損壊罪(刑法260条、法定刑懲役5年以下)という犯罪にも該当します。
もっとも、隣家が倒れかかり、自分の家まで壊れそうな場合に隣家を壊すことは、緊急避難等として免責される可能性があります。刑法上の緊急避難は、①自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難が存在し、②これを避けるためやむを得ずした行為は、③侵害によって生じた害が
避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、免責するというものです(刑法37条)。民法上も緊急避難等が成立する場合には不法行為責任を負わない旨規定されています(民法720条)。
また、最判昭40・12・7民集19・9・2101も、自力救済について、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要な限度を超えない範囲内で、例外的に許される」としています。
緊急避難等として免責され、損害賠償責任(不法行為責任)を負わないか、建造物損壊罪とならないかは、上記の要件や特別の事情の存否の有無を、個別に判断することになります。
但し、損壊対象物に財産的価値がなくなっている場合には、損害ないし違法性がないとして、不法行為責任等を負わないケースもあると思われます。阪神・淡路大震災においては、廃棄物処理法の特例として、市町村の事業 として損壊した家屋、事業所等の解体・撤去費用を行い、その費用の2分の
1を国が補助するという特別措置が講じられ、所有者からの申し出、承諾に 基づいて行われました。東日本大震災においても、平成23年5月2日、第 一次補正予算及び東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に 関する法律が成立、公布され、市町村が行う災害廃棄物の処理事業(県から 事務委託を受ける場合を含む)は、特例的措置として、補助率の嵩上げを実 施し、地方負担分の全額について、災害対策債により対処することとし、そ の元利償還金の100%について交付税措置がなされます(環境省HP http://www.env.go.jp/jishin/haikibutsu-tokurei.html「東日本大震災に係 る災害等廃棄物処理事業及び廃棄物処理施設災害復旧事業について」)。個人 の所有財産である倒壊家屋の解体は所有者の責任で行うのが建前であるため、市町村の事業として行うには、所有者の承諾は必要とされますが、自力救済 に着手する前に、都道府県や市町村に申し入れをして、隣家の除去をお願い してみたほうがよいと思われます。
②-6 【倒壊建物の撤去】
Q 地震や津波によって周辺の建物等が倒壊してしまいました。瓦礫が私の敷地に残ってしまっているのですが、勝手に撤去しても良いでしょうか。撤去費用は私が負担しなければいけませんか。動産の場合はどうでしょうか。
A 所有者の承諾なく撤去・処分した場合には不法行為責任(民法709条)
に問われる可能性もありますので、原則として所有者の承諾を得るべきであると考えられます(②-5も参考にしてください)。
撤去費用については、民法上の物権的請求権の性質(行為請求権と捉えるか忍容請求権と捉えるか)をどのように解釈するかに関連するといわれています。裁判例の動向については、明確ではないものの、不可抗力の場合に相手方に費用負担させることには慎重な立場を取っていると一般的には解されています(「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)325頁)。よって、地震や津波等の不可抗力によって瓦礫が残ってしまった場合、相手方に費用負担させるのは難しいと考えられます(公費負担については②-5を参考にしてください。)。
今回の地震における取扱いは「東北地方太平洋沖地震における損壊家屋等の撤去等に関する指針」(http://www.env.go.jp/jishin/sisin110326.pdf)が示されていますので、参考にしてみてください。
倒壊して瓦礫状態になっている建物については、所有者等に連絡したり承諾を得ることなく撤去しても差し支えないことになっています。
貴金属その他の有価物及び金庫等については、一時保管し、所有者等が判明する場合には所有者等に連絡するよう努め、所有者等が引き渡しを求める場合には、引き渡す必要があります。引き渡すべき所有者等が明らかではない場合には、遺失物法によって処理する必要があるため、警察署に届け出る義務があります(遺失物法4条1項)。
自動車や船舶については、外形上から判断して、その効用をなさない状態にあると認められるものは撤去し、仮置場等に移動させて差し支えありません。所有者等が判明する場合には、所有者等に連絡するように努める必要があります(詳細は「東北地方太平洋沖地震により被災した自動車の処理について」を参考にしてください。
http://www.env.go.jp/jishin/attach/jidosha_shori.pdf
宮城県については、「被災自動車の処理方針について」も参考にしてみてく だ さ い 。 http://www.pref.miyagi.jp/sigen/jidoushya/syorihoushin.pdf)。
災害廃棄物に関する処理方針の概要については、「東日本大震災に係る災 害 廃 棄 物 の 処 理 指 針 ( マ ス タ ー プ ラ ン ) に つ い て http://www.env.go.jp/jishin/attach/haiki_masterplan.pdf」を参考にしてみてください。
②-7 【建築中の建物倒壊に伴う施工業者に対する請求】
Q 建築中の家が地震で倒壊してしまいました。最初からやり直してもらうことはできるのでしょうか。
最初からやり直してもらった場合、別途工事代金を支払わなければいけないのでしょうか。
A 請負人は、仕事を完成させる義務を負っています。よって、請負契約書に特段の定めがなければ、建物が未完成である以上、土地の形状の著しい変形等がなく工期が延長しても社会通念上建物の建て直しが可能であれば、最初からやり直してもらうことができ、発注者はやり直し工事費用を負担する必要はありません。
もっとも、建設業法19条6号は、請負契約の当事者は、契約締結の際、
「天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方 法に関する定め」を書面により明らかにしなければならないと規定しており、契約書に別の定めがなされているのが通常です。民間(旧四会)連合協定工 事請負契約約款には、不可抗力によって、工事の出来形部分、工事仮設物、 工事現場に搬入した工事材料、建築設備の危機又は施工用機器について損害 が生じた場合、請負者が発注者にすみやかに通知し、発注者と請負者、監理 者(監理業務を行う建築事務所等)が協議し、重大なものと認め、請負者が 善良な管理者としての注意をしたものと認められるものは、発注者が損害を 負担するという規定があります。当該工事請負契約書がこの約款を引用・準 拠している場合には、発注者が途中までの工事代金を支払わなければならず、しかも最初からやり直してもらえば、その工事代金を別に支払わなければな らないこともありえます。請負契約書の条項の確認が必要です。
②-8 【境界確定】
Q 地震と津波によって隣家との境界が全く分からなくなってしまいました。どうすればよいでしょうか。
A 隣家との話し合いで解決しない場合には、筆界特定制度、境界確定訴訟又は所有権確認訴訟、調停、弁護士会ADR、土地家屋調査士ADRを利用することが考えられます。
筆界とは、一筆の土地とこれに隣接する他の土地との間で、登記時に境を 構成するものとされた2以上の点及びこれらを結ぶ直線を言います(不動産 登記法123条1号)。筆界特定は、当事者の申請に基づき、学識経験者(土 地家屋調査士、弁護士、司法書士等)が筆界調査委員に指名されて必要な事 実調査(測量・実地調査、関係者からの事実聴取、登記記録、地図の調査等)を行って意見書を提出し、当事者の意見陳述等を踏まえ、筆界特定登記官が、
筆界を特定するものです。また、境界確定訴訟も提起することができ、筆界特定は、判決と抵触する範囲で効力を失います(不動産登記法148条)。裁判所は、筆界特定手続記録の送付を嘱託することができるので(不動産登記法147条)、筆界特定の結果は、境界を定める重要な証拠資料となります。
震災によって境界杭が移動し、土地の形状が変わっている等、容易に解決できないことも予想され、多額な測量費の負担も斟酌し、土地の価格によっては、境界杭の移動前後の間の土地(つまり紛争の土地)を買い取るという解決を検討したほうがよいケースもあります。
②-9 【不動産売買契約の処理】
Q 地震が起きる前に不動産を購入していましたが、いまだ代金を支払っていない状態です。土地が液状化し、価値がかなり低下してしまったため、決めていたとおりの売買代金を支払いたくありません。どのようにすればよいですか。
A 代金を未払いとのことですので、不動産の引渡し前と考えられます。全国宅地建物取引業協会連合会の標準的な売買契約書には、引渡し前に、天災地変等の売主、買主のいずれの責にも帰すことのできない事由によって物件が滅失した場合には、買主は契約を解除でき、毀損したときは、売主は、修復して買主に引き渡すものとするが、修復が著しく困難又は過大な費用を要するときは、売主が売買契約を解除することができ、買主は毀損によって契約の目的を達することができないときは、この契約を解除できるという規定が存在しています。このような規定が存在すれば、買主は、毀損によって契約の目的を達することができないのであれば契約を解除し、支払い済みの手付金の返還を求めることになります。土地の液状化により、売主・買主間で合意した売買契約の目的(例えば転売目的や居住目的等)を達することができないということができれば、買主は契約を解除できるということができると思われます。
こうした規定が存在しない場合には、特定物売買の場合には、危険負担の債権者主義(民法534条)が適用され、目的物の滅失又は損傷の場合、債権者の負担に帰するとされ、買主は、約定どおりの売買代金を支払わなければならず、あるいは売買契約書で定められた違約金(支払い済みの手付金を充当する)を支払って、売買契約を解除せざるを得ないことになりますが、不動産売買においては、代金支払いと引渡し、登記が引き換えになっているのが通例で、引渡し、登記のときまで債権者主義をとるべきではないという
見解も有力です。この見解によれば、売買代金を支払う義務がないと考えうることになります。
売主・買主間で売買契約を合意解約するか、価格の減額によって取引を維持できる場合には、売買代金額について再協議して解決することが多いと思われます。
②-10 【全壊建物の抵当権の帰趨】
Q 私の所有している家が地震で全壊してしまいました。家には抵当権がついていたのですが、どうなるのでしょうか。
A 抵当権の付いている建物が全壊した以上、抵当権の目的物がなくなったことになるため、抵当権は消滅するのが原則です。抵当権の効力は崩壊後の木材等には及びません。
しかし、通常、地震で全壊した場合には、期限の利益を喪失する或いは増 担保提供義務が生じるという特約が規定されていることが多いので注意が必 要です(もっとも、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震の際には、特例措置 が取られました。「災害対策マニュアル」(商事法務)86頁、「Q&A災害 時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)229頁。今回の地震においても、弁護士会等により特例措置の実施を促す動きがあります。今後の動向に注意 が必要です。)。
全壊か否か判断が難しい場合は注意が必要です。全壊していないのに勝手に取り壊してしまった場合、担保維持義務違反となり抵当権者から損害賠償請求(民法415条)される可能性もあります。
なお、地震保険に加入している場合には、保険金請求権に物上代位されてしまうこともあるため、注意が必要です(阪神・淡路大震災では、保険金が直接被災者に渡るような特例措置がありました。「地震に伴う法律問題Q& A」(商事法務)116頁)。なお、地震保険については⑦-9【地震保険と質権】も参照してください。
②-11【権利証の紛失】
Q 津波で権利証が流されてしまいました。所有権を失ってしまうでしょうか。
権利証を再発行してもらえるのでしょうか。
土地を売りたいです。権利証がなくても登記は可能でしょうか。
A 権利証(登記済証・登記識別情報通知書含む)を紛失しても所有権を失う
ことはありません(法務省民事局平成23年3月29日付報道発表も参考にしてください http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00058.html)。
紛失した権利証を再発行することはできません。
権利証がなくても登記をすることは可能です。「事前通知制度」或いは司法書士や弁護士等による「本人確認情報の提供制度」を利用してください。もっとも、「事前通知制度」では、登記申請時点で本受付がなされてしまいます。同時履行ができないというような実務上の問題点がありますので注意が必要です(なお、平成17年3月7日より「保証書」方式が廃止されました。)。
また、不正な登記を予防する方法として、不正登記防止申出制度があります。この制度は、(申出から3か月以内に)第三者から登記が申請された場合には、登記申請がなされたことを通知してもらえる制度です。知らない間に登記されることを防止することができます。
なお、登記事項証明書等の交付請求(オンライン交付請求は除く。)に関する手数料を免除する特例が出ております(平成23年5月13日付「東日本大震災の被災者等に係る登記事項証明書等の交付についての手数料の特例に関する政令」。http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00062.html)
②-12 【全壊していない分譲マンションの修理・再建手続】 Q 分譲マンションの共用部分が壊れてしまいました。
マンションの住人だけでも100人以上いるのですが、どのような手続を経れば修理することができますか。修理に関する特別決議の結果に反対の場合、どうすれば良いでしょうか。
A 「滅失」に至らない「損壊」の場合には、総会の普通決議によって行うことができます(区分所有法18条)。普通決議は、区分所有者の頭数と議決権の各過半数で決します(区分所有法39条1項)。修繕費用は、全ての区分所有者が共用部分の割合に従って負担することになります(区分所有法1
9条)(なお、区分所有のマンションの共用部分に対する応急修理について1世帯当たり52万円の範囲内で国庫負担の対象となる可能性があります。
(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001hkc0-att/2r9852000001hl 2y.pdf)
建物価格の2分の1以下に相当する部分が「滅失」した場合には、区分所有者及び議決権の各過半数による復旧決議により修理することが可能です
(区分所有法61条1項、3項、39条1項)。
建物価格の2分の1を超える部分が滅失した場合には、区分所有者及び議
決権の各4分の3以上の復旧決議により修理することが可能です(区分所有法61条1項、5項)。反対者には時価による買取請求権が認められています(区分所有法61条7項)。
マンションを建替えしたい場合には、区分所有者及び議決権各5分の4以 上の多数による復旧決議により行うことができます(区分所有法62条1項)。反対者には買取請求権が認められていないため、時価による売渡請求が行使 されることを待つしかありません(区分所有法63条4項)。マンションの 専有部分について抵当権者や賃借人などが関わっている場合には、自由に取 り壊しすることができないなど、さまざまな問題があるので注意が必要です
「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)54頁)。
なお、議決権の割合など一部の事項に限り、区分所有法と異なる規定が管理組合規約に定められている場合には、管理組合規約が優先するので注意が必要です(区分所有法30条)。
②-13 【分譲マンションが全壊してしまった場合の再建手続】
Q 分譲マンションが全壊してしまった場合、マンションを建て直すにはどうしたらよいのでしょうか。
A マンションが全壊してしまった場合には、建物が存在しなくなってしまったことになります。管理組合も消滅すると考えられます(民法682条)。要するに、敷地の共有関係だけが残ると考えられます。そのため、全員の同意がなければマンションを再建することはできないと考えるのが一般的です
(民法251条、反対説については「地震に伴う法律問題」(商事法務)14
1頁参照)。
なお、阪神・淡路大震災後に「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(いわゆる「被災マンション法」)が施行されましたが、今回の地震に被災マンション法が適用されないことが9月30日に決定しております。
(http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00208.html)
②-14【分譲マンションにおける水漏れトラブル】
Q マンションに住んでいます。地震によってパイプや水道管が破裂して水漏れしてしまったようです。下の階の住人から苦情がきているのですがどうすれば良いでしょうか。私が補修費用や損害賠償金を負担しないといけないでしょうか。共用部分から水漏れしたのか専有部分から水漏れしたのかによって違いはありますか。
A 民法709条または717条による損害賠償責任を負担する可能性があります。
震度5よりも大きい地震で壊れてしまった場合は、不可抗力として免責される可能性が高いです。そのような場合であっても、水漏れが発生していることを分かっていながら放置したため損害が生じてしまった場合には損害賠償責任を負う可能性があります。
なお、水道管や排水管自体は民法717条の工作物に当たりますが、建物内の水道管や排水管が民法717条の工作物に当たるか否かは裁判例が分かれています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)121頁)。
専有部分の水漏れの場合に区分所有者が責任を負わなければならないのに対して、共用部分の場合は原則として区分所有者全員の責任になります。
一般的には躯体と一体になっている部分が共用部分とされていることが多いようです(「災害対策マニュアル」(商事法務)152頁、なお、標準管理規約別表第2第2項においては、本管から各住戸メーターを含む部分までが共用部分とされています。)。
水道管等の水漏れ箇所が不明の場合には、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定されます(区分所有法9条)。
なお、実際に費用を支出する際には、損害保険を適用できるかどうかが重要な論点になります。約款を確認する必要があります。
また、保険契約における免責条項の効力について争われた裁判例にも注意する必要があります。例えば、東京都杉並区内(震度5強~5弱程度)のマンション漏水事故に関して平成23年10月23日東京地裁判決(以下「一審判決」といいます)は、「地震免責条項にいう地震とは、…戦争、噴火、津波、放射能汚染などと同じ程度において、巨大かつ異常な地震」などと判示した上で免責の効力を否定していました。しかし、平成24年3月19日東京高裁判決は、一審判決を取り消した上で、免責の効力を認めました。各紙報道によると、東京高裁は、「条項の文言上、地震をその強度や規模によって限定的に解釈することはできない」(平成24年3月19日付読売新聞)などと判示したとのことです。
②-15 【借家滅失と賃料支払義務】
Q 借家が津波で流されてしまいました。賃料を支払い続けないといけないのでしょうか。地震で壊れてしまった場合はどうでしょうか。
A 借家が津波で流されてしまった場合、賃借物の目的物が「滅失」し、賃貸借の趣旨が達成できなくなるので、賃貸借契約は当然に終了するといわれて
います(最判昭42・6・22民集21・6・1468、)。
賃貸借契約が終了する場合、賃貸人は使用収益させる義務がなくなり、賃借人は賃料支払義務を免れます。他方、一部が壊れたにすぎない場合には賃料支払義務が残ります。津波で流されてしまった場合には、明らかに「滅失」したといえるでしょうが、地震で壊れてしまった場合には「滅失」したといえるかどうか問題になることも多いでしょう。
そのため、建物が「滅失」したといえるかどうかが問題になります。
「滅失」についての判断基準は、大きく分けて①建物の損壊の程度と②経済的観点です。
①建物の損壊の程度は、賃貸借の目的となっている主要な部分が消失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したかどうかにより判断されることになります。
②経済的な観点は、通常の費用で修復可能か否かにより判断されます。裁判上は双方の観点を考慮に入れて判断されているものが多いようで、事案に沿って個別的に判断されることになります。罹災のままでは風雨をしのぐべくもなく、倒壊の危険さえあり、完全修復には多額の費用を要し建物全部を取り壊し新築する方が経済的であるときは、当該建物は滅失したものとする判例があります(前掲最判昭42・6・22)。
なお、地震保険の場合、「全損」の基準は、「主要構造部(土台、柱、壁、屋根等)の損害額が、時価の50%以上である損害、または焼失もしくは流失した部分の床面積が、その建物の延床面積の70%以上である損害」かどうかで判断します
( http://www.mof.go.jp/financial_system/earthquake_insurance/jisin.h tm 財務省ホームページ参照)。裁判上「滅失」とは言えない場合にも、保険会社が「全壊」と判断する可能性があることなどに注意が必要です。
※原発事故と賃料の関係については、⑩-5を参照してください。
②-16 【賃貸人からの明渡請求への対応(一部損壊の場合)】
Q 大家から退去・明渡しを要求されてしまいました。建物はそれほど壊れていないのでまだ使えると思うのですが、出ていかなければいけないでしょうか。
大家が修理したいので明渡してほしいと言っている場合はどうでしょうか。
明渡した場合、立退料を払ってもらえますか。
A ②-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借
契約は当然に終了します。そのため、明渡さなければなりません。基本的には立退料も支払ってもらえません。
逆に、借家が「滅失」に至っていない場合に明渡す必要はないのが原則です(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)17頁参照)。
もっとも、実際に物理的に全壊しているわけではない場合には、借家が
「滅失」に該当するかどうかは微妙な判断になります。②-15で前述したとおり、当該建物の損傷の程度、修繕の費用、建物の耐用年数、老朽度及び家賃の額等も含めて総合的に判断しなければなりません。
大家が借家の修繕をする場合、賃借人には協力義務があるため、修繕工事の状況によっては一時的に退去しなければならなくなる可能性もあります
(民法606条2項)。もっとも、賃貸借契約が終了しない限り、明渡す必要まではありません。
賃貸借契約期間終了の際に大家から更新拒絶をなされて明渡しを求められ る可能性もあるでしょうが、大家からの更新拒絶には「正当の事由」が必要 です(借地借家法28条、借家法1条の2)。また、期間の定めがない賃貸 借契約の場合には、大家は「正当の事由」がない限り、中途解約して明渡し を求めることができません。「正当の事由」の判断は、建物の使用を必要と する事情、建物賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況、立退料支払の有無等によって総合的に決します。判断の上で、立退料支払の 有無、金額の程度が非常に重要になりますので、立退料に関する交渉を検討 しても良いでしょう。
②-17 【計画停電と賃料支払義務】
Q ビルのテナントに入っているお店を経営しています。幸いビルは無事だったのですが、計画停電の影響で電気が通じず商売になりません。このような場合も賃料を全額支払わなければならないのでしょうか。
A 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで「滅失」したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができます(民法611条1項)。
しかし、計画停電によって地域全体の電気の供給が停止した場合には「滅失」にはあたらず、賃借人は賃料を支払わなければならないと一般的に解されています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)24頁)。
よって、原則として賃料を支払わなければならないということになります。もっとも、例えば電気代が賃料の中に含まれている場合には、使用できなか った時間に相当する電気代相当額の減額が認められるべきと思われますので、
賃料減額交渉ができないか契約書を十分に検討する必要があると思います。実際、交渉によって大家が賃料の減額に応じるというケースが散見されています。
なお、広域における計画停電(しかも停電が長期間継続的に行われる場合)という過去に想定されていなかった「経済事情の変動」があった以上、賃料減額請求権(借地借家法32条1項)の行使を検討することも可能です。
②-18 【引越しができない場合の賃料支払義務】
Q 4月からの赴任地が被災地でした。引越しできなくなってしまったため住んでいないのですが、賃料を支払わないといけないでしょうか。賃料相当分を引越し業者に請求することはできるでしょうか。
A 賃料の支払義務については、借家の状況によります。
借家が使用可能である場合には賃貸人の義務を果たしていることになりま すので、仮に引越しができないとしても、原則として賃料を支払わなければ なりませんが、実際は、賃貸人と交渉し、賃貸借契約の開始時期を遅らせて、被災地に引越すことができるようになってから賃貸借契約を開始しているケ ースが多いと思われます。
また、原則として、賃料相当分を業者に請求することはできません。
地震や原発事故が原因で引越運送ができない場合には、不可抗力として業者を免責する条項に該当すると考えられるからです(標準引越運送約款23条6項参照)。
②-19 【敷金の返還】
Q 借家が津波で流されてしまいました。或いは地震で全壊してしまいました。敷金は返してもらえますか。(不可抗力の際の)敷金不返還特約がある場合 や敷引特約がある場合はどうなるのでしょうか。
A ②-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了します。そのため、敷金返還を請求できます。
もっとも、実際には、敷金に関する特約があるかないかによって変わります。
特約において不可抗力で契約が終了した場合には敷金は返還しないとなっている場合はどうでしょうか。借家人保護の見地から、不可抗力の場合に敷金を返還しないという特約は無効と解されるケースも少なくありません(消費者契約法10条)。延焼の事例ですが、特約の効力を否定して保証金の返
還請求権を認めた事例があります(大阪地裁昭52・11・29判事88
4・88)。
敷引特約の場合は注意が必要です。近時の最高裁において、敷引金の額が 高額に過ぎるものである場合には、賃料が相場に比して大幅に低額であるな ど特段の事情のない限り、消費者契約法10条により無効となるとした上で、
「本件敷引金の額は、上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて、上告人は、本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには、礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない」として敷引金の額が高額に過ぎるとは評価できず、有効とした判例があります(最高裁平23・3・24最高裁ホームページ)。事例判決ではあるものの敷引特約一般に大きな影響を与える可能性があるため、慎重に検討する必要があります。
②-20 【賃貸人に対する借家の補修請求】
Q 借家が地震で一部壊れてしまいました。補修してもらいたいのですが、大家に対する補修請求はできますか。借家人が補修費用を負担しなければなら ないという特約がある場合には、補修費用を負担しなければなりませんか。 A 賃貸人は、賃貸物の使用および収益に必要な修繕をなす義務を負っています(民法606条1項)。もっとも、「必要な」修繕でなければならないた
め、常に大家に修繕義務が生じるというわけではありません。
大家に修繕義務が生じるのは、賃借人の使用収益を妨げる程度の損壊がある場合です。具体的には、損壊の程度、賃借人が被る不利益、賃料の額、賃貸物の資産的価値などを総合考量して判断すると解されています(東京高判昭56・2・12判時1003・98参照)。特に、柱、屋根、壁及び躯体部分については、賃貸人に修繕義務が生じる可能性が高いです。
借家人が補修費用を負担しなければならないという特約がある場合には、原則として借家人が補修費用を負担しなければなりません。もっとも、消費者契約法10条などによって賃借人が保護される可能性は残ります。
裁判例にも、当該特約の趣旨を、何人も予想しなかった天災による大破損のときまで賃借人に修理義務を負わせるものではないと解釈して、賃借人を保護したものがいくつかあります(大判大10・9・26民録27・162
7、大判昭15・3・6法律新聞4551・12)。
②-21 【賃貸人が借家の補修をしない場合】
Q 借家が地震で一部壊れてしまいました。大家が補修しない場合、賃料減額してもらえますか。
大家が補修しない場合、借主が勝手に補修してしまっても良いのでしょうか。
借主が補修費用を支払った場合、家主に補修費用を請求できますか。補修費用を家賃と相殺できますか。
A 借家に使用不能の部分が生じている場合には、一部「滅失」したといえますから、民法611条に基づき賃料減額請求することも可能です。
大家が修繕義務を履行しないことによって賃借人に損害が生じている場合には、損害賠償請求の上、賃料請求権と相殺することも可能です(民法41
5条、505条)。
大家が修繕しない場合、賃貸借契約の目的に従った使用収益に必要な範囲内で、賃借人自ら修繕することが可能です。具体的には、老朽化した柱、梁の鉄柱による補強、屋根の葺替え、土台の入れ替えなどが可能です(東京高判昭56・9・22判時1021・106)。
大家が修繕義務を負っている部分について賃借人が修繕義務を履行した場合、修繕の際に遅滞なく通知することを条件として、直ちに大家に対して修繕費用を請求することができます(民法608条1項、615条)。賃料請求権と相殺することも可能です(民法505条)。
②-22 【賃貸人による貸家の補修】
Q 貸家が地震で一部壊れてしまいました。補修費用が多額になってしまったのですが、賃料増額を求めることができますか。
家に訪問してきた業者に補修を頼んだのですが、相場の5倍の値段だったことがわかりました。解除することが可能ですか。
A 借地借家法32条1項に基づき判断されることになります。
原則として、補修費用が多額になったという理由だけで賃料を増額することはできません。もっとも、歴史的な天災など不可抗力の場合に大規模修繕をしたのであれば、ある程度の賃料増額もやむをえないという見解もあるようです(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)27頁)。
訪問してきた業者が悪徳業者だった場合、契約条件を明確にした書面の交付から8日以内はクーリングオフすることができる可能性があります(特定商取引法9条1項)。悪徳業者が訪問した日から8日を経過していても、書面の交付がなかったり、書面の記載が不十分であればクーリングオフは可能です。
仮にクーリングオフができない場合であっても、虚偽の事実を告げて修繕契約を締結した場合は、虚偽の事実を知ってから6か月以内であれば、特定商取引法9条の3、消費者契約法4条1項1号により契約を取り消すことができます。その他民法95条の錯誤無効や、同法96条1項の詐欺取消しを主張できる場合もあります。
②-23 【借家の再築請求】
Q 借家が全壊してしまいました。
大家に対して建て直しを要求することができますか。
A ②-15で前述した通り、借家が「滅失」してしまった場合には、賃貸借契約は当然に終了します。そのため、大家に対して建て直しを要求することはできません。
②-24 【賃貸借契約の解除】
Q 借家が一部壊れてしまいました。修理すれば住めますが、引越したいです。賃貸借契約を解除することはできますか。
A
1 解除について
地震によって借家が一部壊れてしまったというだけでは賃貸借契約を解除することはできないのが原則です。損壊の程度により、以下のように区別して考えられます。
(1)借家としての機能に重大な損傷がある場合
この場合、大家に損壊部分の修理を請求し、その修理が行われた場合には解除はできません。大家が必要な修理を行わない場合には契約を解除するか、又は、自ら修理を行い必要費として大家に支払いを請求することもできます。
(2)借家としての機能には問題がない場合
この場合は解除出来ないと考えられます。ただし、損壊により借家の使用収益に影響がある場合には、大家に対して修理を請求することができ、これに応じない場合には自ら修理をしてその費用の支払いを請求することができます。
2 解除することができない場合の解約について
契約書に解約申入れに関する条項がなく、借家期間の定めがある場合には、原則として解約することはできません。
解約申入れに関する条項がないものの借家期間の定めがない場合には、解約申入れの日から3か月経過後に賃貸借契約は終了します(民法617条1項)。3カ月分の賃料を支払って賃貸借契約を終了させることも可能です。いずれの場合であっても、賃貸人と協議し、賃貸借契約を合意により解約
することは可能です。
②-25 【罹災都市借地借家臨時処理法(総論)】
Q 罹災都市借地借家臨時処理法は常に適用されるのですか。
A 罹災都市借地借家臨時処理法が適用される地区は法律及び政令によって定められることになっています(同法27条)。今回の地震においては、一旦は法務省が適用する方針を決めたとの新聞報道がなされた(平成23年3月
15日各紙報道)ものの、9月30日、同法を適用しないことを政府が決定致しました(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00107.html)。
日弁連では、平成22年10月、賃貸人に一方的に不利であるなどの理由から罹災都市借地借家臨時処理法の改正意見を提出しておりましたが(「罹災都市借地借家臨時処理法の改正に関する意見書」
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/101020
.pdf)、いまだ法改正はなされておりません。
そこで、平成23年5月26日、日弁連は、法改正なく東日本大震災の被災地に適用されないよう求める意見書を提出しておりました。このような批判が少なくなかったために、今回、適用が見送られたものと考えられます。なお、平成23年10月1日、罹災都市借地借家臨時処理法の被災地への 適用見送り方針等について、仙台弁護士会より会長談話が発表されていま
す。
②-26 【借地上の建物が全壊した場合の借地契約の帰趨】
Q 借地上に自分で家を建てていたのですが、全壊してしまいました。借地契約は終了してしまうのでしょうか。
地主が行方不明なので、地主の承諾を取らずに建て直しても良いでしょうか。再築禁止特約や増改築禁止特約がある場合も同様でしょうか。
A 建物が全壊したとしても土地が滅失したわけではありませんので、借地契約は終了しません。自然腐敗によるものではないため「朽廃」(借地法2条1項)にもあたらず、借地契約は終了しません。
もっとも、一時使用目的の借地権について、地震によって建物が滅失した
場合に借地権は消滅するという特約を設けておくことは有効ですので、この場合には、借地契約が終了します(Q&A「災害時の法律実務ハンドブック」
(新日本法規)90頁)。
また、借地人は、賃貸人の承諾なく、建物を再築することが可能です。 なお、再築禁止特約(借地の残存期間を超えて存続する建物の再築を禁止
する特約)は原則として無効と解されているため、再築禁止特約があっても建物を再築することが可能です(最判昭33・1・23判時140・14参照)。
しかし、増改築禁止特約は原則として有効と解されていますが、万が一増改築禁止特約違反をしてしまった場合であっても、土地の有効利用の範囲内の再築(さらには緊急時でもある)であれば、特約違反による解除までは認められない可能性が高いです(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)7頁、最判昭41・4・21民集20・4・720参照)。
もっとも、増改築禁止特約がある場合には、賃貸人の承諾や承諾に代わる裁判所の許可を取ることを視野に入れた方が安全です(借地借家法17条2項)。
②-27 【借地上の建物が全壊した場合の再築】
Q 借地上に自分で木造の家を建てていたのですが、全壊してしまいました。再築建物をコンクリート造にしても良いでしょうか。
再築が制限されている地域があるというのは本当ですか。
A 借地契約の内容に、木造建物に限定する旨の条件が定められていれば、当然コンクリート造の建物を建築してはいけません。もっとも、コンクリート造に再築した場合であっても、必ずしも地主からの解除が認められるわけではありません。
借地契約の内容に、木造建物に限定する旨の条件が定められていない場合であっても、借地法下で当初の契約が締結されていた場合には非堅固建物所有を目的とする借地契約であると推定されますので(借地法3条)、従来の建物が木造であれば、賃貸人の異議を無視してコンクリート造の建物を建築することは許されません。
もっとも、借地法下で当初の契約が締結されていた場合にコンクリート造建物の再築を完了してしまうと、地主からの異議がなければ、再築後の堅固建物所有を目的とした借地契約になると解されています(借地法7条、借地借家法7条2項参照。「Q&A災害時の法律実務ハンドブック」94頁、「地震に伴う法律問題」7頁等)。
東日本大震災においては、建築基準法84条1項2項に基づく被災市街地における建築制限が適用され、現行法上最長2ヶ月の5月11日まで延長されていました。
さらに、平成23年4月29日に公布・施行された「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制限の特例に関する法律」により、平成23年9月11日まで(特に必要があると認めるときは更に2か月を超えない範囲で延長できる)建築制限が適用されていました(同法1条1項、
2項、3項)。また、7月1日当時宮城県気仙沼市、名取市、東松島市、女 川町、南三陸町、山元町及び石巻市(7月1日より山元町が追加されました。石巻市は、特定行政庁として独自に建築制限を定めています。)の各該当区 域につき、9月11日まで建築制限が適用されていました。
その後、平成23年9月9日現在において、建築制限が再延長になった地域は次のとおりです。
気仙沼市、名取市、南三陸町、女川町については平成23年5月12日から同年11月10日までの間。
東松島市については、平成23年5月12日から同年10月31日までの間。
山元町については、平成23年7月1日から同年11月 10日までの間。石巻市の一部については、建築制限の指定の日から11月11日までの
間。
( 宮 城 県 ホ ー ム ペ ー ジ http://www.pref.miyagi.jp/kentaku/110311_earth/kenchikusidou/110905_ seigentokurei.html
石巻市ホームページ http://www.city.ishinomaki.lg.jp/hishokoho/sinsai/kentikuseigennoh
enkou.jsp http://www.city.ishinomaki.lg.jp/hishokoho/sinsai/kentikuseigennoh
enkou_2.jsp)。
そのため、制限地域においては、新築、改築、増築及び移転ができません
(制限地域においても、修繕、補修及びリフォームについては行うことができます)。
②-28 【借地権の対抗力】
Q 借地上の建物が全壊してしまいました。その後、土地が第三者に売られてしまったようです。土地をそのまま借り続けることができるのでしょうか。
罹災都市法の適用がない地域の場合、掲示をしておく必要があるでしょうか。
A 借地権の対抗力は、登記した建物が存在していることが要件です。そのため、建物が滅失してしまうと、登記が残っていても対抗力は消滅してしまいます。よって、土地をそのまま借り続けることができないのが原則です。
もっとも、借地上に看板などの掲示をしておけば、2年間は借地権を主張することができます(借地借家法10条2項)。看板の内容は、①建物を特定するための必要事項(最低でも所在と家屋番号の記載)②滅失の日付③建物を新たに建てる旨④借地権者の住所氏名が記載されていれば十分と解されています(「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務)10頁)。
②-29 【地代支払義務】
Q 借地上の建物が全壊してしまいました。
地代の支払いを拒否することはできるでしょうか。
地割れなどが発生していて土地を利用できない場合は地代の支払いを拒否できますか。
A 借地上の建物が全壊した場合、ただちに借地契約の目的を達成することができないとはいえないので、地代の支払いを拒否することはできません。
地代の減額のためには、地震災害により経済事情の変動があったとして地代減額請求(借地借家法11条1項)行うことの検討が必要です。
地割れが発生していて土地を一部利用できない状態になっている場合には、利用不能の割合に応じて地代減額請求ができます(民法611条1項)。残 存部分で借地契約の目的を達成することができない場合には、借地契約を解 除することもできます(民法611条2項)。
②-30 【借地契約の期間】
Q 借地権の存続期間が1年しかありません。建物を再築しても、再築が完了 したときには契約期間が終了して追い出されることになってしまいそうです。再築した方が良いでしょうか。
A 借地権の更新には、期間満了時に建物が存在しているかどうかが影響します。
契約期間満了前に再築が完了していれば、地主の更新拒絶に「正当事由」が認められない限り、借地権は更新されます(借地借家法5条及び6条、借地法4条及び6条)。
そのため、追い出されるということはありません。このような場合には再築した方が良いでしょう。
なお、借地上の建物を再築した場合、借地期間が延長されることがあります(借地法7条、借地借家法7条)。
延長に関する要件は借地法と借地借家法で異なるので注意が必要です。具体的には、借地契約の設定が平成4年8月1日前である場合(借地法適用)には、地主が「遅滞なく」異議を述べないときに当然に法定更新となり借地権が延長され、従前の建物が全壊した日から30年(鉄骨造などの堅固な建物を建てた場合)又は20年(木造などの非堅固な建物を建てた場合)になるのに対して、平成4年8月1日後である場合(借地借家法)には、賃貸人が新築を承諾した場合には、借地期間は承諾後20年間存続し、借地人が賃貸人に対し、事前に残存期間を超えて存続すべき建物を新築する旨の通知をし、賃貸人がその通知から「2ヶ月以内」に異議を述べないときは、20年間、借地権が延長されることになるなどです。異議が述べられた場合には、残存期間は元のままです。
定期借地権の場合には、借地期間への影響はありません。
第3 身分法(総則の失踪宣告等を含む)
③-1【行方不明者の財産管理】
Q 父が行方不明になりました。父の財産は誰が管理すればいいですか。
A 認定死亡や失踪宣告が未だないのであれば、財産管理人が父の財産を管理することになります。父があらかじめ財産管理人を選任していれば、その者がそのまま財産を管理することになります。財産管理人が選任されていない場合には、まず、家庭裁判所に財産管理人の選任を申し立てる必要があります(民法25条)。この選任の申立ては、「利害関係人」(又は検察官)が行う必要があります。推定相続人であれば、「利害関係人」として申立てを行うことができます。
なお、父の死亡が明らかになった場合や失踪宣告を申し立てて失踪宣告がなされた場合(民法30条)、認定死亡(戸籍法89条)になった場合には、相続人が相続分に応じて、父の財産を相続し、管理することになります(民法918条)。
財産管理人が選任されるまでも、事務管理(民法697条以下)として、財産管理を行うことはできますが、「本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができる」(民法700条)まで継続しなければなりません。
③-2【行方不明者(安否不明を含む)の相続】
Q 父が行方不明になりました。父の財産について相続は開始しますか。
A 相続が開始するには、家庭裁判所への申立てにより失踪宣告を受けるか
(民法30条)、認定死亡(戸籍法89条)を受ける必要があります。
認定死亡は、「取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告」をすることにより、本人の戸籍に死亡の記載が行われます(戸籍記載の日に死亡したことになります。ただし、死亡が推定されるにとどまります。)。これに対して、失踪宣告の場合は、危難が去ってから1年間行方不明の状態であれば申立てをすることができ、危難の日が死亡日になります
(推定ではなく、死亡したとみなされます)。
また、平成23年6月7日付法務省の発表では、東日本大震災で被災し、遺体が発見されていない行方不明者についても、死亡届を市区町村に提出できるようになりました。統一様式の届出人の申述書に、当該行方不明者の被災状況を現認した者の申述書や在勤(在学)証明書等を添付して提出し、市区町村が死亡の事実を認定できると判断した場合には、死亡届が受理されま
す。
(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00026.html)
③-3【死亡者の財産管理と相続】
Q 亡くなった方の財産管理や相続はどうなるのでしょうか。
A 死亡(認定死亡や失踪宣告も含む。)すれば、相続が開始します。相続人が存在すれば、その者が財産管理を行うことになります(民法918条)。
「相続人のあることが明らかでない」(民法951条以下)場合は、相続財産は法人となり、家庭裁判所の選任する相続財産管理人が財産管理を行うことになります。
③-4【死亡の先後が分かる場合の相続】
Q 夫が死亡した後、義父が死亡した場合、妻は義父の相続財産を受け取れますか。
A 妻は夫の相続人ですが、義父の相続人ではないので、義父の相続財産を受け取れません。
③-5【死亡の先後が不明の場合の相続】
Q 夫と義父が亡くなりましたが、どちらが先に死亡したか分かりません。この場合、妻は義父の相続財産を受け取れますか。
A 死亡の先後が不明の場合、同時に死亡したと推定されます(民法32条の
2)。この場合、同時死亡者相互間には相続関係は生じません。したがって、夫は義父を相続しないので、妻は義父の相続財産を受け取れません。
③-6【同時死亡の場合の遺言の効力】
Q 夫と義父が同時に亡くなりました。義父の「全財産を夫に相続させる」旨の遺言がありますが、この場合、妻は義父の相続財産を受け取れますか。
A 「相続させる」旨の遺言について最高裁は、「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に
遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」(最判平23・2・
22)と判示していますので、そのような「特段の事情」がない限り、妻は相続財産を受け取れないものと考えられます。
なお、遺贈に関しては民法に規定があり、同時死亡の場合は、「遺言者の死亡以前に死亡したとき」(民法994条)に含まれるので、遺言の効力は生じません。したがって、義父の夫に対する遺言は効力がないので、妻は相続財産を受け取れません。
③ -7【内縁の夫の財産】
Q 内縁の夫が亡くなりました。私も相続財産を受け取れますか。
A あなたは法律上の配偶者ではないので、相続人として相続財産を受け取ることはできません。ただし、以下の場合には、相続財産を受け取ることが可能です。
① 内縁の夫が遺言をしていた場合
ただし、内縁の夫に相続人がいれば、遺留分減殺請求(民法1031条)を受ける可能性はあります。
② 特別縁故者としての相続財産分与(民法958条の3)
内縁の夫からあなたへの遺言もなく、かつ、内縁の夫に相続人がいない場合には、内縁の夫の相続財産は国庫に帰属することになりますが、あなたが家庭裁判所に相続財産管理人選任を申立て、最終的に家庭裁判所が相当と認める場合には、相続財産の全部又は一部を受け取ることが可能です。
③ -8【相続放棄の熟慮期間】
Q 夫が死亡しましたが、多額の借金があるようです。相続放棄したいのですが、いつまでに何をすればよいですか。
A 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に相続放棄をする必要があります(民法915条)。したがって、相続放棄をするのであれば、家庭裁判所に申述する必要があります。
なお、一旦相続放棄をしてしまうと、撤回することはできません。したがって、相続財産をよく調査したうえで、放棄するかどうかを決めましょう。熟慮期間の起算時については、「相続人において相続開始の原因となる事 実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知ったときから3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったことが、相続財産が全く存在しな
いと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識したときまたは通常これを認識し得べかりし時から起算するのが相当である」(最判昭59・4・27民集38・6・698)とあるので、平成23年3月11日が起算点になる可能性が極めて高いですが、利害関係人の請求によって家庭裁判所で伸長することができます。
また、熟慮期間は、「死亡」の種類によっても起算点が異なると考えられているので、注意しましょう。すなわち、失踪宣告の場合には、失踪宣告時から、認定死亡の場合には、戸籍に記載された届出日から起算すると考えられています。
東日本大震災においては、被災者である相続人が、生活の混乱の中で限定承認、相続放棄等を行うことができないまま熟慮期間を徒過することにより不利益を被ることを防止する必要性が指摘されており、日弁連からも平成2
3年5月26日付で「相続放棄等の熟慮期間の伸長に関する意見書」が提出されました。その結果、「東日本大震災に伴う相続の承認又は放棄をすべき期間に係る民法の特例に関する法律」が成立し、同年6月21日に公布、施行されました。これにより、被災者(平成22年12月11日以後に自己のために相続の開始があったことを知ったものも含む)については、熟慮期間が平成23年11月30日まで延長されます。
(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00092.html)
③ -9【遺言状を発見した場合】
Q 父が亡くなったのですが、遺言状を発見しました。開けてしまってよいでしょうか。
A 遺言書が、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言のどれかにより扱い方が異なります。①と③の場合は、家庭裁判所の検認手続を経なければならず、封印されている場合には開封をしてはなりません。
②の場合は、検認は不要です。
③-10【未成年者を残して両親が死亡した場合】
Q 両親が死亡し、未成年の子だけが生き残りました。両親には財産がありましたが、この財産の処分はどうすればいいでしょうか。また、生命保険金や補償金を受領した場合、これらの財産の管理はどうでしょうか。
A 未成年者は両親の財産を相続することになりますが、親権を行う者が未成
年者の財産を管理し、その財産に関する法律行為についてその子を代表することになります(民法824条本文)。したがって、未成年者(婚姻している場合を除く。)が財産を管理したり、処分したりすることはできません。親権者である両親が死亡した場合、親権者が不在であるので、親権者が遺 言で未成年後見人を指定していれば、その未成年後見人が子の財産を管理することになります(民法839条)が、未成年後見人が指定されていない場合には、未成年者又はその親族等が家庭裁判所に未成年後見人の選任を請求
することになります(民法840条)。
また、親権者及び未成年後見人のいない未成年者について、「その福祉のため必要があるとき」は、児童相談所長は家庭裁判所に対し未成年後見人の選任を請求しなければならないことになっています(児童福祉法33条の
8)。
③-11【成年後見人が死亡又は行方不明となった場合】
Q 成年後見人が死亡又は行方不明となった場合、あるいは、けがや遠隔地に避難したため後見事務を行うことができなくなった場合、どうすればよいでしょうか。
A 後見人が欠けた場合、後見監督人が選任されていれば、その後見監督人が遅滞なく後見人の選任を家庭裁判所に請求することになります(民法851条)。後見監督人が選任されていなければ、家庭裁判所が成年被後見人又はその親族等の請求により又は職権で成年後見人を選任します(民法843条)。
後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます(民法844条)。それにより新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法845条)。
③-12【離婚協議中の妻が行方不明となった場合】
Q 離婚協議中の妻が行方不明となりました。妻と離婚するには、どのような手続が必要ですか。
A 協議離婚では、当事者が離婚に合意することが必要であるので、妻が行方不明であれば協議離婚を成立させることはできません。
協議離婚ができない場合、裁判上で離婚を求めていくことになりますが、裁判上の離婚をするには、調停前置主義が採用されており、まず、家庭裁判
所に離婚調停を申し立てる必要があります。しかし、この場合には妻が行方不明ということで、妻が調停に出頭する可能性はほとんどないと考えられますので、上申書等により事情を説明した上、調停を前置せずに家庭裁判所に対し離婚訴訟を提起することも検討することになります。なお、当然ながら離婚訴訟においては離婚事由(民法770条)を主張立証することが必要です。
また、離婚とは別に、妻が死亡(認定死亡、失踪宣告を含む。)すれば、婚姻状態は解消されます。その場合、再婚することが可能ですが、後に行方不明の妻の生存が判明すれば、失踪宣告の取消しによる身分関係への影響がある可能性があります。
③-13【子の親権者である元妻が行方不明となった場合】
Q 妻を子の親権者として離婚した後、元妻が災害で行方不明となりました。子の親権者を夫とするには、どのような手続が必要ですか。
A 親権者は元妻であるので、夫が親権を取得するには、家庭裁判所に子の親権者変更審判を申し立てる必要があります。そして、家庭裁判所において、子の利益のために必要があると認められれば、子の親権者を夫に変更するとの審判がなされます。
また、申立てから審判の効力が生ずるまでは時間がかかるので、その間、現親権者の職務執行を停止し、あなたを職務代行者として選任する審判(審判前の保全処分)を求めることができます。
③-14【失踪宣告後、生存が判明した場合】
Q 夫について失踪宣告を受けようと思います。もし、失踪宣告後に夫が生存していたことが判明した場合、何か手続は必要ですか。
A 失踪宣告後に夫の生存が判明したときは、本人又は利害関係人が家庭裁判所に請求して、失踪宣告の取消をしなければなりません(民法32条1項前段)。
失踪宣告が取り消されれば、相続は開始しなかったことになります。しかし、失踪宣告後その取消前に当事者全員が「善意」でした行為は有効であり、その行為の効力には影響を及ぼしません(同条1項後段)。また、失踪宣告によって財産を得た人がいれば、現存利益を返還しなければなりません(同条2項ただし書き)。
③-15【認定死亡後、生存が判明した場合】
Q 夫が認定死亡とされ、戸籍に死亡と書かれてしまいました。もし、夫が生存いた場合、何か手続は必要ですか。
A 認定死亡は、「取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告」をすることにより、本人の戸籍に死亡の記載が行われます(戸籍記載の日に死亡したことになります。)。ただし、死亡が推定されるにとどまるので、後に、生存していることが分かれば、戸籍の訂正を行うことが必要です。
認定死亡後その訂正前に行われた行為は、失踪宣告に準じると考えられています。
第4 ローン・預金・自己破産
④-1【住宅ローン支払義務】
Q 住宅ローン(借入金)がまだ残っているのに自宅(建物)が倒壊してしまいました。住宅ローンは払わなければいけないのでしょうか。
A 住宅ローンの支払義務は、金融機関との間の金銭消費貸借契約に基づくものです。建物が倒壊したとしても、当該支払義務は当然には消滅しません。住宅ローンは支払う必要があります。
ところで、被災者は自宅を建てなおすなど、生活再建のために新たな資金需要が生じるのですが、旧債務が残っているために十分な資金調達ができないという問題に直面します(いわゆる二重債務問題)。そこで、関係各機関が、二重債務問題の解消に向けて様々な政策提言を行っております。
政府も、このような二重債務問題に迅速に取り組むべく、「中小企業及び農林水産業等向け」、「個人住宅ローン向け」及び「金融機関向け」の対応策を示しています。
(http://www.cas.go.jp/jp/siryou/nijusaimu.html)
その中で、個人向けの私的整理のガイドラインの策定が求められ、この政府提案を受けて平成23年7月8日、「個人債務の私的整理に関するガイドライン研究会」が発足し、同月15日に、「個人債務の私的整理に関するガイドライン」が策定されました。
(http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news230735.pdf)
個人債務の私的整理に関するガイドラインの内容については、④-36以下で解説します。
④-2【銀行の連絡先】
Q ローンの支払いについて交渉したいので、現地銀行の電話番号を教えてください。
A ローンの支払猶予を交渉したいが、銀行の電話番号がわからないという相談が多くなっています。各銀行の窓口の電話番号については、一弁HPに掲載されている「復興のための暮らしの手引き~ここから/KOKO-KARA~」「連絡先一覧」「金融機関一覧」の欄をご参照ください。
http://www.ichiben.or.jp/shinsai/kokokara/09renrakusaki.html
④-3【遅延損害金】
Q 震災の影響で、ローン(借入金)の支払いが期日に間に合いませんでした。遅延損害金を支払う必要があるでしょうか。
A 「震災の影響」というものが、いわゆる不可抗力(取引上要求される注意を払っても防止しえない外部的な事情)に該当したとしても、民法419条第3項により、ローンなどの金銭債務に関する損害賠償には不可抗力の抗弁が排除されていますので、遅延損害金の支払いを免れることはできません。したがって、法律上は遅延損害金を支払う義務があります。
もっとも、最近になって、いわゆる二重債務問題(Q1参照)の解消に向け、関係各機関がさまざまな政策提言をするようになりました。そして、このほど、個人債務の私的整理に関するガイドラインが策定され、このガイドラインに基づき金融機関と交渉することが可能となりました。
個人債務の私的整理に関するガイドラインの内容については、④-36以下で解説します。
④-4【期限の利益喪失約款は適用されるか】
Q 震災の影響で、ローン(借入金)の支払いが期日に間に合いませんでした。契約書では、ローンの支払いを1回でも遅らせると残額を一括で払わなければならないとされています(期限の利益の喪失約款)。地震の影響でローンを支払えなかった場合でも、この条項は適用されるでしょうか。
A 期限の利益喪失約款がある以上、不可抗力による支払の遅れであっても期限の利益を喪失するのが原則です。
しかし、例えば、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震において、住宅金融公庫をはじめ、一般に、金融機関において、期限の利益を喪失させるという運用をとっていないことが多かったようです。最近になって、いわゆる二重債務問題(Q1参照)の解消に向けた様々な提言がされるようになりました。そして、このほど、個人債務の私的整理に関するガイドラインが策定され、このガイドラインに基づき金融機関と交渉することが可能となりました。
個人債務の私的整理に関するガイドラインの内容については、④-36以下で解説します。
④-5【担保目的物の消滅による追加担保の要否】
Q 借金の担保に入れていた自宅(建物)が倒壊してしまいました。契約書では、担保が滅失した場合には追加担保を立てなければいけないとされています(増担保請求)。震災で自宅が倒壊した場合でも、追加担保をしなければ
ならないのでしょうか。
A 債務者の責に帰すことのできない事由に基づく抵当建物の滅失であっても、特約がある場合には、追加担保を設定する義務が発生します。ただし、地震 による抵当建物喪失の場合でかつ債務者に増担保として提供すべき財産がな いときに、抵当権者が特約により期限の利益の喪失を求めることは権限濫用 に当たり許されないという見解もあります。
阪神大震災の際には、大手都市銀行は追加担保を求めない旨の特別措置をとる方針をとったとのことです。最近になって、いわゆる二重債務問題(Q1参照)の解消に向けた様々な提言がされるようになりました。そして、このほど、個人債務の私的整理に関するガイドラインが策定され、このガイドラインに基づき金融機関と交渉することが可能となりました。
個人債務の私的整理に関するガイドラインの内容については、④-36以下で解説します。
④-6【担保目的物の消失による期限の利益喪失】
Q 借金の担保に入れていた自宅(建物)が倒壊してしまいました。契約書では、担保の価値が著しく減少した場合には残金を一括で払わなければならないとされています(期限の利益喪失約款)。震災で建物が倒壊した場合でも、この条項は適用されるのでしょうか。
A 特約上、債務者の責めに帰さない事情による担保価値の減少の場合であっても期限の利益の喪失事由条項がある場合には、震災による担保価値の減少のケースでも期限の利益を喪失すると考えられます。したがって、今回のケースでは、期限の利益喪失約款が適用されて、期限の利益を喪失することになるのが原則です。
しかし、阪神大震災や新潟県中越地震の際には、住宅金融支援機構(当時住宅金融公庫)をはじめとする金融機関は、期限の利益を喪失させるという運用をとっていないことが多かったようです。最近になって、いわゆる二重債務問題(Q1参照)の解消に向けた様々な提言がされるようになりました。そして、このほど、個人債務の私的整理に関するガイドラインが策定され、このガイドラインに基づき金融機関と交渉することが可能となりました。
個人債務の私的整理に関するガイドラインの内容については、④-36以下で解説します。
なお、担保目的物の消失による抵当権の消滅については、②-10を参照してください。
④-7【建物修繕費用の融資制度】
Q 地震で自宅(建物)が損壊してしまったので修理しようと思います。修理代金を融資してくれる制度はありますか。
A
(1)国・自治体からの融資
「災害援護資金」「生活福祉資金」「母子寡婦福祉資金」の融資制度があり、国や自治体から低利の融資を受けることができます。但し、被害の程度により限度額があり、所得制限もあります(内閣府「被災者支援に関する各種制度の概要(東日本大震災編)」参照)
(http://www.bousai.go.jp/fukkou/kakusyuseido.pdf)。
(2)住宅金融支援機構の融資
①被災した住宅の補修・再建に関する、無料の診断及び相談を実施、②被災した住宅の補修・再建資金に対し、低利の融資の実施を行うという支援が準備されています。
融資を受けるには、「罹災証明」の提出など、手続がありますので、詳しくは住宅金融支援機構に問い合わせてみてください。
問合せ先(災害専用ダイヤル):0120-086-353
(3)独立行政法人住宅金融支援機構の融資
独立行政法人住宅金融支援機構の定める基準を満たしている場合には、融資の日から 1 年間の元金据置期間の認められた融資を受けることができます。
(4)給付型の支援
融資制度以外にも、一定の要件を満たす場合には、被災者生活再建支援制度など給付型の支援制度もありますので利用を検討してみてはいかがでしょうか。例えば、被災者生活再建支援法に基づく制度を利用すれば、自宅が全壊した場合には100万円の被災者生活再建支援金を受給できます。
④-8【建物再築費用の融資制度】
Q 地震で自宅(建物)が全壊してしまったので、再築しようと思います。新築代金を融資してくれる制度はありますか。
A
(1)災害復興住宅融資
独立行政法人住宅金融支援機構の定める基準を満たしている場合には、融資の日から 1 年間の元金据置期間の認められた融資を受けることができま
す。
(2)住宅金融支援機構の融資
①被災した住宅の補修・再建に関する、無料の診断及び相談を実施、②被災した住宅の補修・再建資金に対し、低利の融資の実施を行うという支援を準備されています。
融資を受けるには、「罹災証明」の提出など、手続がありますので、詳しくは住宅金融支援機構に問い合わせてみてください。
問合せ先(災害専用ダイヤル):0120-086-353
(3)給付型の支援
被災者生活再建支援法に基づく制度を利用すれば、自宅の再建方法(建設・購入、補修、賃借)に応じ、50万円から200万円の被災者生活再建支援金を受給できます。
④-9【液状化現象による建物の損壊と融資制度】
Q 今回の地震に起因する地盤の液状化現象で、自宅(建物)が傾いてしまいました。自宅を修理または新築したいと思うのですが、その代金を融資してくれる制度はありますか。
A 住宅金融支援機構は、今回の東日本大震災に関しては、液状化現象による住宅の損壊についても融資の対象にするとのことです(0120-086-
353の回答)。
融資の対象になるのは、あくまでも建物の損壊であることに注意してください。液状化現象によって土地が損壊しても、建物の損壊が無い場合には、融資の対象にはなりません。
国や自治体による融資制度に関しても液状化現象による被害が支援の対象になるか否かに関しては、各都道府県市区町村に問い合わせてください。
なお、液状化による建物の損壊と罹災証明については、⑧-11を参照してください。
④-10【クレジットの支払いと遅延損害金】
Q 今回の地震で銀行が閉鎖され、クレジットの支払ができませんでした。このような場合でも遅延損害金は支払わなければならないのでしょうか。
A「地震で銀行が閉鎖」はいわゆる不可抗力(取引上要求される注意を払っても防止しえない外部的な事情)に該当すると思われますが、民法419条第
3項により、ローンなどの金銭債務に関する損害賠償には不可抗力の抗弁が
排除されていますので、遅延損害金の支払いを免れることはできません。したがって、法律上は遅延損害金を支払う義務があります。
もっとも、平成23年3月14日、経済産業省は、東日本大震災で被災した中小企業の債務のうち、地震発生後に返済期日を迎えたものについて、遅延損害金を免除するとの発表をしました。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫など政府系金融機関が返済期日にさかのぼった上で条件変更に対応する措置を導入することで、中小企業は政府系金融機関に対しては遅延損害金の支払を免れることとなりました
( http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/110314TohokuEarthquake
.htm)。このように金融機関によっては、震災の影響に配慮した特別措置を執るところもあると思われますので、問い合わせてみてください。
④-11【自動車ローン】
Q 津波で自動車が流されてしまいました(滅失)。この自動車のローンがまだ残っているのですが、払い続けなければならないでしょうか。
A ローンの支払義務は、金融機関との間の金銭消費貸借契約に基づくものです。建物が倒壊したとしても、当該支払義務は当然には消滅しません。したがって、原則として自動車ローンを支払わなければなりません。
ただし、阪神大震災の際には、政府系金融機関をはじめ、民間の各金融機関でも据置期間の延長や一定期間の支払の猶予、弁済ないし償還期間の延長などの軽減措置を打ち出しました。今回の震災に関しても同様の軽減措置を各金融機関が行う可能性はありますので、ご利用の金融機関に連絡をとり、率直に被災状況と窮状を説明することが大切だと思われます。
④-12【自動車の所有権留保特約】
Q 大震災の混乱で、自動車が盗まれました。自動車には所有権留保が付されていたので、これを実行してもらうことで自動車ローンを清算できないでしょうか。
A 所有権留保を実行するかどうかは、債権者の判断によります。債務者の側で所有権留保の行使を請求することはできません。
自動車が盗難されてしまったのであれば、債権者は所有権留保を実行するという判断はしないでしょう。
自動車の盗難保険の支払を受けることができるのであれば、それを返済に充てるのが良いと思われます。
④-13【リース物件の滅失】
Q リースで借り入れていた冷蔵庫や什器が津波で流されてしまいました。リース残代金の支払い義務はありますか。また、新たな物件を提供するよう請求ができますか。
A まずは契約書を御確認下さい。特約がある場合が多いためです。
危険負担の債務者主義を定める民法536条からは、リース物件が不可抗力 の震災により消失あるいは損壊した場合、当該リース物件を使用収益させる 債務を負担するリース業者が危険を負担することが原則です。この債務者主 義の原則に基づけば、リース料を支払う必要はないこととなります。また、 賃貸借について定める民法611条からは、滅失部分に応じたリース料の減 額請求及び残存部分のみでは目的が達成できない場合における解除が認めら れることとなります。しかし、リース契約では、これらの民法の規定を排除 する特約が定められていることが通常です。すなわち、リース期間中にリー ス物件が不可抗力により滅失又は毀損した場合、ユーザーに契約解約権はな く、約定の損害金を直ちに支払う義務を負うとされていることが多いのです。また、滅失部分に応じたリース料の減額及び残存部分のみでは目的が達成で きない場合における解除も排除されていることが多いです。そして、新たな リース物件の請求権は認められていません。
もっとも、現実には、今般の大震災の状況に鑑み、リース料が減免されたり、支払延期等の余地があるので、急な支払は避け、まずは交渉すべきでしょう。
④-14【通帳や銀行カードの喪失】
Q 銀行預金通帳や銀行カードなど、すべて津波で流されて紛失しました。このような場合でも銀行預金を引き出せますか。
A 今回の震災の規模と被害の大きさに鑑みて、金融庁は、金融機関に対して、柔軟な取扱いをするようにと、以下の要請を出しました(金融庁ホームペー ジ)
(http://www.fsa.go.jp/ordinary/earthquake201103/deposit.html)。
・預金証書、通帳を紛失した場合でも預金者であることを確認して払戻しに応ずること。
・届出の印鑑のない場合には、拇印にて応ずること。
したがって、本人確認のために運転免許証、保険証、身分証明証等を用意し
て金融機関に行き手続をするとよいでしょう。
④-15【身分証明書の喪失の場合の本人確認】
Q 運転免許証や保険証などの身分証明書が、すべて津波で流されてしまいました(紛失)。このような場合でも銀行預金を引き出せますか。
A そのような場合でも、金融機関は、Q④-14の金融庁の要請を踏まえて、杓子定規ではなく、個別事情を考慮した対応をとってくれると考えられます ので、問い合わせてみてください。
もっとも、金融機関には、預金者との同一性を十分に確認すること無く、 預金者以外の者に払い戻してしまった場合には、金融機関が責任を負います。したがって、震災という事情があっても、金融機関としては、出来るだけ本 人確認を厳密に行いたいと考えるのが普通です。
出来る限り本人確認に役立つ資料を準備することが良いでしょう。
総務省は、東日本大震災で身分証明書などをなくした住民が住民票の写しの交付を求めてきた場合でも、本人確認ができれば交付することが可能とする通知を地方自治体に出しており、同省は身分証明書によらない本人確認方法として、(1)同一世帯の住民基本台帳の記載事項を口頭で述べさせる(2)職員が交付の請求者と面識がある-といった方法を挙げています。したがって、これを利用して住民票を取得することが本人確認の資料になると考えられます。
④-16【預金の第三者による無断引き下ろし】
Q 震災後、私の知らないところで銀行預金が第三者に引き出されたようです。私の銀行預金は返してもらえるでしょうか。
A 銀行が第三者に対して行った払い戻しは、弁済受領権限の無い者に対する弁済ですので、本来であれば無効であり、相談者は預金の支払いを求められるはずです。
もっとも、銀行の第三者に対する払い戻しが、銀行に過失がなく、準占有者に対する弁済にあたるときは、預金の払い戻しは認められません(民法4
78条)。まずは、今回の銀行預金の払い戻しが、どのような状況でなされたかを、銀行に問い合わせて確認してください。
④-17【第三者によるクレジットカードの無断使用】
Q 震災でクレジットカードを紛失してしまいましたが、後に第三者がこのカードを使ったようです。私はこの使われた分を支払わなければいけないのでしょうか。
A 相談者が責任を負うか否かは、「会員規約」の内容によります。多くの会員規約(UCカード等)は、原則として会員の責任としつつ、会員が速やかに紛失・盗難の事実を警察署とカード会社に届け出ていた場合には、届出を受理した日の60日前以降に発生した支払については、会員の支払を免除するという内容になっています。したがって、紛失届を出来るだけ早急に提出することが重要となります。
また、多くの場合にはカード盗難保険によって損害が填補されるという仕組みにもなっているようです。
このように、クレジットカードの不正利用に合った場合でも、救済される方法がありますので、カード会社に事情を説明して相談してみてください。
④-18【被相続人・他の相続人の行方不明と銀行預金】
Q 銀行預金の名義人である父が震災で死亡しました。母と兄妹も行方不明になっています。私は父の預金を引き出すことができるのでしょうか。
A 銀行実務では、相続人全員の同意書や遺産分割協議書の提出がなければ相続人1人からの払戻請求には応じていないのが実情です。したがって、本来であれば、母や兄妹の同意書等がなければ父の預金を引き出すことはできません。
しかし、今回の震災については、銀行は、被災者の当面の生活資金を目的として、払戻請求について、柔軟な対応をするようです(全国銀行協会ホームページ
http://www.zenginkyo.or.jp/news/2011/04/07200000.html http://www.zenginkyo.or.jp/news/entryitems/news230437.pdf 参照)。具体的には、銀行職員が親族と面談の上、「預金者本人の氏名・生年月日
等」「預金者との関係」等を確認することで払戻に応じるという運用をするようです。
したがって、銀行に問い合わせてみてください。
また、行方不明者の財産管理については③-1を参照してください。
④-19【債権者の行方不明】
Q 知人から借金をしていて、これを返したいのですが、震災以来この知人と
連絡がとれません。どうしたらよいでしょうか。
A 仮にその知人が死亡していた場合、その債権は相続人に相続されます。死亡が確認されず行方不明のままであっても認定死亡(戸籍法89条)又は失踪宣告(民法30条2項)がなされ、債権が相続される可能性があります(③
-2参照)。これらの場合には、借金は相続人に返済することになります。ただし、知人が死亡しているのか、相続人は誰なのか、失踪宣告等はなさ れるのか、といった事実関係を確認するまでは時間がかかることも予測されますので、その間の遅延損害金の発生を避けるために、供託(民法494
条:債権者不確知)を検討するのが良いと思います。
④-20【保証人の行方不明】
Q 保証人を立てて借金をしたのですが、震災後、この保証人と連絡がとれません。どうしたらよいでしょうか。
A 保証人が死亡している場合には、相続人に保証債務が相続されます。行方不明の場合には、認定死亡(戸籍法89条)又は失踪宣告(民法30条)がなされると相続人に保証債務が相続されます(③-2参照)。この相続人が行為能力者でありかつ弁済をする資力を有する場合には、主たる債務者にとって特段の問題はありません。
相続人が行為能力者ではなかったり、弁済する資力が無かったりすると、主たる債務者は、民法450条2項により、改めて保証人を立てる義務を負う可能性があります。この義務があるか否かは、当該借金に際して、債権者との間で、あなたが保証人を立てる義務を負うという内容の契約を締結していたか否かによります。
仮に、改めて保証人を立てる義務を負う場合でも、今回の震災に対しては、各金融機関が特別の措置を認める場合がありますので、各金融機関に問い合 わせてください。
④-21【ローンの支払い不能と手続の選択】
Q 大震災で勤務先の会社が倒産して、失業してしまい、もうローンを返すことができません。どうしたらよいでしょうか。
A ローンの支払い義務は地震によって消滅しません。ただし、今回の震災に より支払ができなくなった場合に、貸主である金融機関が直ちに強硬な取立 手段をとるとは考えにくいと言えます。当面金融機関に支払ができなくなっ た事情を連絡した上で、御自分の現在の財産と将来の収入見込みを把握して、
返済計画を立案するか、債務整理して倒産処理するかを検討するべきです。家屋の倒壊の場合の地震保険等、保険によりカバーされているものがないかどうか確認して下さい。
また、このほど、個人債務者の私的整理に関するガイドラインが策定されましたので、これを用いることができるケースであれば、法的措置をとらずに大幅な債務整理ができる可能性もあります。個人債務者は、債務整理を行う方法として、破産や個人再生等といった法的措置に加え、この私的整理ガイドラインを利用することもでき、手続選択の幅が広がったことから、個人債務者の状況に合った手続を各々選択していく必要があります。
私的整理ガイドラインについては④-36以下で詳しく解説しますが、ガイドライン第7項(2)①ロのいわゆる将来弁済型は小規模個人再生に、同ハのいわゆる清算型は破産に、各々類似した私的整理手続といえます。担保権の対象となっている資産については、将来弁済型の場合は清算価値相当額を分割弁済、清算型の場合は処分または公正な価額によるいわゆる買戻しをして担保権者に優先弁済することとなります。将来弁済型においては、担保権付資産を清算価値で評価して弁済すればよい点が、住宅ローンを原則として従前の条件で支払っていく個人再生に比べて個人債務者に利用しやすいものとなっています。また、保証人に対して保証履行を求めるか否かにつき、保証履行を求めることが相当と認められる場合を除き保証履行を求めないとされている点、ガイドラインを利用してもいわゆる金融機関のブラックリスト(信用情報)に載らないとされている点、清算型では担保権付資産のいわゆる買戻しが認められている点もガイドラインの特徴といえます。
ガイドラインの利点については、④-37も併せてご参照ください。
④-22【破産手続と信用情報】
Q 地震を理由に破産申立てをしても、いわゆる金融機関のブラックリスト
(信用情報)に載りますか。
A 今回の震災を受けて、信用情報機関である株式会社日本信用情報機関、C IC、一般社団法人全国銀行協会は、「遅延情報」の取り扱いについて特別措置を設けています。すなわち、信用情報機関の加盟会員が被災地域の顧客に対して返済又は支払を猶予した場合には、遅延情報の登録基準(入金予定日から3カ月以上何ら入金がないこと。)に該当した場合であっても、遅延情報として登録しないという運用をするとのことです。
しかし、破産など「債務整理」の情報に関する特別措置の有無は現時点では不明です。
④-23【管財費用の要否】
Q 不動産を所有していると、破産を申し立てる際に管財費用(予納金)が必要と言われました。震災の影響で、自宅(家屋)の基礎が崩れ、家が傾いてしまいましたが、このような場合でも管財費用を支払わなければならないのでしょうか。
A 不動産を所有していると、原則として、管財費用が必要となる管財事件となります。その理由は、一般に不動産は資産価値が高く、これを換価することで破産財産を増殖することができる可能性があると考えられているためです。
震災の影響で、自宅の基礎が崩れ、家が傾いたとのことですが、それがどの程度深刻なものであるかにより、資産価値の有無が判断されます。仮に資産として評価できない程深刻な損傷であれば、そのことを破産申立ての際に疎明することで、管財費用を必要としない同時廃止手続を利用することも可能となります。
④-24【生活再建支援金・義援金と破産手続き】
Q 破産申立てを考えているのですが、急場の生活再建をしなければならず、生活再建支援金や義援金を受領しようと思うのですが、注意するべき点はないでしょうか。
A 従来の考え方では、これらは通常の現預金とみなされます。
しかし、平成23年8月30日に義援金等特別法(「災害弔慰金の支給等に関する法律及び被災者生活再建支援法の一部を改正する法律」及び「東日本大震災関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」)が施行され、災害弔慰金、災害障害見舞金、生活再建支援金、義援金(交付を受けた金銭を含む)は、差押禁止財産となりました。詳しくは、法務省ホームページをご覧ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00104.html
したがって、義援金等を受領して破産申立てをする場合、義援金等は法定の自由財産となります。資産状況にもよりますが、義援金等を受領したとしても、同時廃止事案となる可能性もあります。
④-25【義援金の寄付と破産】
Q 破産を予定しています。手元にいくらかの現金がありますが、これを義援
金として寄付することに問題はありますか。
A 破産法160条3項は、「破産者が支払の停止等があった後又はその前6 カ月以内にした無償行為」は破産手続開始後に否認することができると規定 しています。義援金の寄付は無償行為ですので、支払停止(例えば手形の不 渡りや夜逃げ等)後や、その6カ月前に寄付をすると無償行為否認の対象と なります。そうすると破産手続開始後に破産管財人により否認権が行使され、寄付の相手方に対して寄付金相当額の返還請求することになります。
また、破産法252条1項は、債権者を害する目的で財産の隠匿や債権者に不利益な処分をする行為(1号)、浪費によって著しく財産を減少させる行為(4号)を免責不許可事由として規定しています。義援金の寄付が直ちにこれらの免責不許可事由に該当するわけではありませんが、寄付の額や支払われた状況によっては財産の隠匿が疑われるおそれがあります。また、寄付した義援金の額によっては浪費等による財産減少行為と評価されるおそれがあります。
④-26【生活再建の為の買い物と破産手続】
Q 弁護士に債務整理(破産申立て)を依頼していた最中に、震災に遭ってしまいました。生活再建のために高額な買い物せざるを得ないのですが、問題はないでしょうか。
A せっかく購入した物が破産財団に属してしまうと換価されるので購入した意味が無くなってしまいます。購入する物は、その物が破産財団に属しない自由財産(破産34条3項)と判断されるであろう物に限るべきでしょう。具体的には、差押禁止動産(民執131条)に該当する物に限って購入するのが安全です。「生活再建のための高額な買い物」が例えば漁業を営む者の漁網など、業務に欠くことのできない器具に当たる場合(民事執行法131条5号6号)には、その後破産手続が開始しても破産財団に属さないという扱いがなされると思われます。
また、高額な買い物をする為に、ローンを組む場合には、相手に対して
「詐術」(破産原因があるにもかかわらず無いと信じさせること)を行わないように気をつけてください。免責不許可事由に該当します(破産252条5号)。
④-27【弁護士の介入後の借入行為】
Q 弁護士に債務整理(破産申立て)を依頼していた最中に、震災に遭ってし
まいました。介入通知も出しています。生活再建のために各種の融資制度を受けたいのですが、問題はないでしょうか。
A 介入通知を出したことにより、信用情報機関の登録がなされますので、その信用情報機関に加入している業者は、貸出を控えるのが普通です。ですので、融資を受けるのは難しいかもしれませんが各金融機関に問い合わせてみてください。
なお、破産を検討していることを秘して融資を申し込むことは「詐術」(破産原因があるにもかかわらず無いと信じさせること)に該当すると考えられます。これは破産手続きとの関係では免責不許可事由(破産252条1項5号)に該当する危険があります。
今回の地震に関しては、国や県などによる「被災者生活再建支援金」などの支給型の支援制度が準備されています。これらを積極的に利用して生活再建を図るのが良いでしょう。これらの支援制度は今後具体化されていくものですので、市役所等に問い合わせるなどして情報を収集してみてはいかがでしょうか。または、生活保護の申請を検討するのが良いでしょう。
④-28【破産免責】
Q 大震災で財産をすべて失ってしまい、借金を返せません。破産申立てをしようと考えているのですが、実は7年前にも破産申立てをして、免責許可決定が確定しています。今回、破産申立てをして、再び免責を得ることができるでしょうか。
A 免責許可の決定が確定した日から7年以内の破産申立ては、免責不許可事由とされています(破産法252条1項10号イ)。しかし、今回のような大規模震災を原因に財産を失い、破産したという場合には、裁判所の裁量で免責がされる可能性が高いと思われます(破産法252条2項)。
なお、免責許可の決定が確定した日から7年以内に破産申立てをする場合、免責許可を出すべきかどうか調査するため、管財事件となって相当額の管財 費用の負担を命じられる可能性があります。もっとも、破産に至る事情を詳 細に疎明できれば、状況により、同時廃止事件になる可能性がまったくない とはいえません。
④-29【民事再生手続】
Q 大震災で会社が倒産して、失業してしまいました。なんとか再就職をすることができましたが、給料はこれまでよりも下がりそうです。残っている住
宅ローンとその他のローンを今までどおり返済していくのは難しそうですが、どうしたらいいでしょうか。
A このような場合でも、原則として住宅ローンは支払わなければなりません。仮に、住宅ローンの支払いが負担で生活の維持が困難になっているというの であれば、破産もやむを得ないかもしれません。
他方、住宅ローンのほかに債務があって、その債務の支払いが軽減されれば住宅ローンの支払いが可能となるのであれば、任意整理ないし民事再生手続きをとることにより、自宅を維持できる可能性があります。
具体的には、住宅ローン以外の債務について、一時的な支払い猶予や利息 カット等で支払いを継続できるのであれば、特に法的手続きをとることなく、各債権者と任意に交渉することで解決できる場合があります(任意整理)。
また、一時的な支払い猶予や利息カット等で対応しきれないのであれば、民事再生手続きを利用して、残債務額の大幅な免除を得ることも考えられます。この住宅資金貸付債権に関する特則(民事再生法196条以下)の利用により、自宅を維持できる可能性があります。住宅ローン自体の支払いは免除されませんが、場合によっては住宅ローン支払いの一時猶予等も実現できる可能性があります。
④-30【震災による再生計画の影響】
Q 私は地震前に民事再生を申立て、再生計画が認可され、計画どおりの返済を続けていたところだったのですが、地震によって財産を失ってしまい、再生計画どおりの返済が難しくなりました。どうしたらよいでしょうか。
A まず、再生計画の変更が考えられます。民事再生法187条1項は、再生計画認可の決定があったあとでも、やむを得ない事情で再生計画の遂行が困難となった場合は、裁判所に申し立てることで再生計画の変更を認めています。再生計画の変更が認められれば、再生計画で定められた弁済率や弁済期間を調整することが可能となります。地震によって財産を失ってもなお、弁済率や返済期間の調整により再生手続を継続することが可能なのであれば、再生計画の変更を検討することが適切でしょう。
④-31【民事法律扶助制度①】
Q 地震で財産をすべて失ってしまい、弁護士に相談して破産しようと思うのですが、弁護士費用を用意できません。どうしたらよいでしょうか。
A 法テラスの民事法律扶助制度のご利用が考えられます。 民事法律扶助制
度とは、経済的に困窮している方の弁護士費用を立替えるという制度です。この制度を利用できれば、弁護士へ支払う着手金、実費等の立替えを受けられますので、現時点において財産をすべて失っていても、破産手続を進めることが可能となります。
法テラスの代表電話番号を記載します。法律相談に訪れる弁護士は、現地の電話番号を事前に確認しておくと良いでしょう。
「法的トラブルでお困りの方は」・・・0570-078374(お悩み無し) (PHS・IP 電話からは 03-6745-5600)
「犯罪被害にあわれた方は」・・・0570-079714(泣くことないよ) (PHS・IP 電話からは 03-6745-5601)
平日の 9:00~21:00、土曜日の 9:00 から 17:00 (日曜祝祭日・年末年始休業)
④-32【民事法律扶助制度②】
Q 地震で財産をすべて失ってしまい、破産しようと弁護士に相談したところ、私が破産する場合は管財費用(予納金)が必要と言われました。しかし、地 震で財産をすべて失ってしまい、予納金を準備できません。どうしたらよい でしょうか。
A 管財費用が必要となった場合、その支払い方法としては、法テラスの利用が考えられます。法テラスが管財費用の援助をするには、「生活保護受給者」であることが要件になりますので、生活保護受給の条件を満たすのであればその申請を検討するのが良いと思われます。
生活保護については、⑧-22以下を参照してください。
④-33【裁判期日の不出頭】
Q 債権者から訴えられ、裁判所から第1回口頭弁論の期日の通知が来ていましたが、震災の影響で裁判所に出頭できませんでした。裁判はどうなってしまうのでしょうか。
A 原則論は、下記のとおりです。なお、最高裁判所は、平成23年3月13日付で、各高等裁判所長官宛に、①期日の変更については一律に期日変更申請書の提出を求めるなどの対応を取ることなく、事情に応じて職権による期日変更を行うなど柔軟な対応をとるべきこと、②当事者、代理人等が期日に出頭しない場合も、その不出頭の事由等を十分考慮し、これらの当事者等に
対し、不当な不利益を負わせることのないように配慮することを求めています。
(http://www.courts.go.jp/about/bousai/pdf/11_03_13_tetuzuki.pdf)
(1)当事者双方の欠席
当該期日については、裁判所は期日の終了の宣言をしたうえで、職権による次回期日の指定を行うか、当事者による期日指定の申立てを待って、次回期日の指定を行うという流れになると思われます。裁判所に対して問い合わせて、対応して下さい。
(2)相談者のみの欠席
ア 答弁書を提出している場合
答弁書を陳述したと扱われ(擬制陳述、民訴158条)、次回期日が指定されると思われます。
イ 答弁書を提出していない場合
制度上は「欠席判決」もあり得るのですが、震災の影響を考慮して、普通は欠席判決をしないと思います。裁判所としては、次回期日を指定して期日を続行するか、期日を延期するという措置を執ると思います。裁判所に問い合わせてみてください。
④-34【総量規制の緩和】
Q 貸金業法の総量規制(年収の3分の1)以上の借入をすでにしてしまっています。今回の地震で何かと入用なのですが、もう融資を受けることはできないでしょうか。
A いわゆる総量規制(貸金業法13条の2)は、「当該個人顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約として内閣府令で定めるもの」については例外として適用がないとされ、社会通念上緊急に必要と認められる費用を支払うための貸付や事業を営む個人顧客に対する貸付けに係る契約(同条第1項第4号)などであって、一定の条件を満たすものはこれにあたるとされています(貸金業法施行規則10条の23)。
もっとも、これらの例外の適用をみるためには、契約内容や貸金業者に対して提出する書面に関し特別の規程が設けられています。政府はこのほど、貸金業法施行規則を改正し、平成23年10月31日までの時限措置(その後、時限措置の期限は平成24年3月末まで延長)として、今回の震災に関し災害救助法が適用された地域に住所または居所を有する者についてこれらの規制を緩和する措置をとりました。具体的には、①「社会通念上緊急に必要と認められる費用」の借入手続、②個人事業主の借入手続、③配偶者の
年収と合算して年収を算出する場合の借入手続、④極度額方式によるキャッシング(総量規制の枠内貸付け)の借入手続の弾力化が図られています。
(http://www.fsa.go.jp/news/22/kinyu/20110428-8.html)
時限措置を平成24年3月末まで延長することについては金融庁のHPをご参照ください。
http://www.fsa.go.jp/news/23/kinyu/20111028-1.html
④-35【被相続人の財産調査】
Q 父が今回の震災で死亡しました。相続のため、父の財産を調査したいのですが、自宅が津波で流されてしまい、父がどの銀行と取引があったのか分かりません。どうしたらよいでしょうか。
A 全国銀行協会はこのほど、今回の震災の遺族を対象に、被相続人の口座の 有無を一括して照会できる窓口を設けました(被災者預金口座照会センター。電話0120-751557。受付時間は平日の午前9時から午後5時まで。 http://www.zenginkyo.or.jp/topic/account_inquiry/index.html)。この窓口を 利用すれば、原則、国内に本支店を有する銀行、農林中央金庫、信用金庫、信用組合、農業協同組合(含む連合会)、漁業協同組合(含む連合会)、商工 組合中央金庫のほとんどの金融機関に口座があるかどうかを確認できます。この窓口を通じて口座が見つかった場合、口座のある金融機関から連絡が入 るとのことですので、利用を検討してみてください。
④-36【個人債務者の私的整理に関するガイドラインとは】
Q このほど策定された私的整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)とは、どのようなものですか。
A これは、平成23年6月、政府が「二重債務問題への対応方針」を取りまとめたことを受け、金融機関等が、個人である債務者に対して、破産手続等の法的倒産手続によらず、私的な債務整理により債務免除を行うことによって、債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援するため、個人である債務者の私的整理に関する金融機関関係団体の自主的自律的な準則として、策定されたものです。
東日本大震災の影響によって、住宅ローンや事業性ローン等の既往債務を弁済できなくなった個人の債務者であって、破産手続等の法的倒産手続の要件に該当することになった債務者について、このような法的倒産手続によらずに、債権者(主として金融債務に係る債権者)と債務者の合意に基づき、
債務の全部又は一部を減免すること等を内容とする債務整理を公正かつ迅速に行うための準則を定めることにより、債務者の債務整理を円滑に進め、もって、債務者の自助努力による生活や事業の再建を支援し、ひいては被災地の復興・再活性化に資することを目的としています。
ガイドラインには法的拘束力はありませんが、金融機関等である対象債権者、債務者並びにその他の利害関係人によって、自発的に尊重され遵守されること が期待されているものであり、金融機関等はこの準則による債務整理に誠実に 協力することが求められ、債権者と債務者は、債務整理の過程において、共有 した情報について相互に守秘義務を負うとされています。
ガイドラインの内容は、個人版私的整理ガイドライン運営委員会のHPをご参照ください。
http://www.kgl.or.jp/guideline/pdf/guideline.pdf
このガイドラインの運用については、個人の私的整理に関するガイドライン研究会からQ&A(以下「Q&A」といいます。)が発表されています。
http://www.kgl.or.jp/guideline/pdf/qa.pdf
また、有志による私的整理ガイドライン検討チームが作成した「個人版私的整理ガイドライン利用マニュアル」もご参照ください。
http://www.ancl.biz/guidelinesmanual.html
④-37【ガイドラインを利用する利点】
Q ガイドラインに基づく債務整理の利点は何ですか。
A ガイドラインに基づく債務整理は、あくまで私的整理ですから、破産や民事再生のような法的整理とは異なり、弾力的運用が可能、簡易・迅速・廉価な処理が可能、債務整理による影響を最小限に限定しうること、といった私的整理手続きについて一般に認められている有用性があると考えられます。
また、ガイドラインでは、このガイドラインによる債務整理を行った債務者について、対象債権者は、当該債務者が債務整理を行った事実その他債務整理に関連する情報(代位弁済に関する情報を含む。)を、信用情報登録機関に報告、登録しないこととしております。このため、このガイドラインに基づく債務整理を利用すれば、債務者の信用が守られるといえそうです。
さらに、ガイドラインに基づく債務整理手続きが始まると、対象債権者は、一時停止が開始した日(以下「一時停止の開始日」という。)における「与信残高」を維持し、他の対象債権者との関係における債務者に対する相対的地位を改善してはならず、弁済を受け、相殺権を行使するなどの債務消滅に関する
行為をなし、追加の物的人的担保の供与を求め、担保権を実行し、強制執行や仮差押え・仮処分や法的倒産手続開始の申立てをしてはならないとされます。
④-38【ガイドラインを利用する利点②】
Q ガイドラインによる債務整理を積極的に検討すべきなのは、どのような場合ですか。
A
1 平成23年6月17日に政府は「二重債務問題への対応方針」を発表し、いわゆる二重ローン問題について、個人向けの「私的整理ガイドライン」という債務整理の枠組みを打ち出すことを発表しました。
個人事業主の方の場合には、事業用のローンが残っているにもかかわらず、震災からの復興のためにはあらたな事業用ローンを組まなければならなくなる、個人で家を失った方の場合には住宅ローンが残っているにもかかわらず、生活再建のためにはあらたな住宅ローンを組まなければならなくなるというように、二重のローンの負担から個人事業主や個人の方を解放するとともに、金融機関には無税償却を認めることで、解決の方向性を示したのです。
これを受けて、全国銀行協会を事務局とする研究会が発足し、私的整理ガイドラインが策定されたのです。
2 このガイドラインは以上のように二重ローン問題を解決するための枠組みであり、以下のような方法で個人や個人事業主の方の再生を図っていきます。
① 弁済型
個人再生類似の方法で、減免を受けた負債額を 5 年以内の分割で返済して行くというものです。
② 清算型
破産類似の方法で、財産を換価し配当をした上で、残債務については免除を受けるという方法です
③ 事業再建型
個人事業主の方が、減免を受けた負債を将来の事業の収益でもって弁済していくという方法です
3 積極的に活用すべき場合
① まず再建のためには新たな借入が必要な場合です。
これはいわゆる二重ローン問題解消のために考案された制度ですので、生活や事業の再建のためには新たな借り入れが不可欠という場合には積極的に活用すべきです。
通常の破産手続などで従前の債務を整理した場合には、信用情報(いわゆ
るブラックリスト)に登録されてしまい、再建のための借入ができなくなってしまいます。しかし、このガイドラインによった場合には信用情報に掲載されないというメリットがあります。
したがいまして、再建のための借入が必要な場合には積極的な活用が検討されるべきです。
② 次に保証人に迷惑がかけられない場合です。
このガイドラインの場合には、保証人への請求は「相当と認められる場合」にしか認められません。
通常ですと、主債務者が破産をすると、保証人に一括弁済の請求がいきます。しかし、保証人も被災しており保証人に迷惑をかけることがためらわれる場合もあるかと思います。
このガイドラインでは保証人への請求が制限されていますので、保証人に迷惑がかけられない場合には、ガイドラインの活用が検討されるべきです。
④-39【ガイドラインを利用できる債務者】
Q ガイドラインに基づく債務整理は、どのような者であれば活用できますか。 A ガイドラインでは、このガイドラインによる債務整理を申し出ることがで
きる債務者を、以下の要件のすべてに該当する者としております。
(1) 住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが東日本大震災の影響を受けたことによって、住宅ローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。
(2) 弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む。)を対象債権者に対して適正に開示していること。
(3) 東日本大震災が発生する以前に、対象債権者に対して負っている債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。ただし、当該対象債権者の同意がある場合はこの限りでない。
(4) このガイドラインによる債務整理を行った場合に、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。
(5) 債務者が事業の再建・継続を図ろうとする事業者の場合は、その事業に事業価値があり、対象債権者の支援により再建の可能性があること。
(6) 反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと。
(7) 破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由がないこと。
④-40【ガイドライン:弁済計画案に同意しない債権者がいる場合】
Q ある債権者が弁済計画案に同意しないことが見込まれる場合も、ガイドラインによる債務整理をすることができますか。
A 個人再生手続の場合に、一律反対の意見を出す金融機関もあり、今回のガイドラインによった場合でも同様の対応をすることが懸念される機関もあります。
全債権者の同意のもとに再建を図っていく手続きであり、反対する債権者があってはこのガイドラインによる解決が困難です。そのような場合には、債権者への事前の打診等をしておくことが必要です。
④-41【ガイドライン:過払い金がある場合】
Q 貸金業者に対して過払い金があることが見込まれる場合も、ガイドラインによる債務整理をすることができますか。
A 過払い金の概算見込み額すら未判明のままにガイドラインの利用をすることは控えるべきです。
ガイドラインは二重ローン問題を迅速に解決するための枠組みですので、最大でも6ヶ月(事業再建型では7ヶ月)で弁済計画案を取りまとめなければなりません。弁済計画案は財産の清算価値を踏まえたものになりますので、過払い金の額(少なくとも概算見込み額)が未判明ですと、弁済計画案の取りまとめに支障をきたします。
確かに過払い金をめぐる近時の情勢では、財務状況の悪化している消費者金融もあり、そういったところは任意の返済では回収が先になり、かといって判決をとって執行をしても十二分な回収ができないということもあり、相当に回収が先になってしまうケースもままあります。
ただ、そのような相手であっても、事前に受任通知を出し、少なくとも概算見込み額や回収可能性までは明らかにしておくことが必要です。
弁済計画案提出時に過払い金の回収が未了の場合の取り扱いには不透明な部分があり、今後の運用によるところがありますが、少なくとも受任通知を出して過払い金の概算見込み額や回収可能性までは明らかにしてからガイドラインに基づく申し立てをすべきです。
④-42【ガイドライン:仮設住宅退去後に既存債務の弁済ができなくなる場
合】
Q 今は仮設住宅に居住しているため、既存の債務を弁済できていますが、近い将来、アパートを借りることによって家賃が発生して、既存債務の弁済ができなくなることが確実である場合、ガイドラインによる債務整理をすることができますか。
A ガイドラインによる債務整理を申し出るための要件としては、「住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが東日本大震災の影響を受けたことによって、住宅ローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済す ることができないことが確実と見込まれること。」が必要とされています(第
3項(1)後段)。
「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは、現時点では約定どおりの返済ができているものの、債務者が資力を欠いているために、近い将来、特定の債務だけでなく、その他の債務全般について返済できなくなることが、確実に見込まれる状態をいい、民事再生手続における「支払不能のおそれ」に相当する状態を指します。上記の状態かどうかは、債務者の財産や収入、信用、債務総額、返済期間、利率といった支払条件、家計の状況等を総合的に考慮して判断されますが、例えば、収入が途絶えて、就労の見通しが立たず、債務全般の返済ができなくなった場合や、就業していても、収入が減少し、地域における一般的な生計費等を考慮した家計収支の状況等から、債務全般の返済ができなくなった場合等は
「既往債務を弁済することができない」場合に該当し、これらの場合で、貯蓄等により当面は約定どおりの返済が可能であっても、近い将来に返済ができなくなることが明らかである場合は、「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」場合に該当するものと考えられます(「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」Q&A 9頁)。したがって、本件のように今は仮設住宅に居住しているため、既存の債務 を弁済できていますが、近い将来、アパートを借りることによって家賃が発生すると、既存債務の弁済ができなくなることが確実であるといえるのであ
れば、ガイドラインによる債務整理をすることができると考えられます。 なお、報道によると、全国銀行協会などが、東日本大震災の被災者の二重
ローン対策として作った「個人版私的整理ガイドライン(指針)」の運用を見直すことを決めたとのことです(平成23年10月24日付日本経済新聞電子版等)。具体的には、債務免除の条件を一部緩和し、仮設住宅に入居しているが、今後民間の住宅に移った際にローンが払えなくなると想定される被災者も対象に加えて、仮設住宅居住者については、将来民間に移り住んで以降
に発生すると予想される住居費も考慮し、債務免除の是非を判断するよう運用を改める方針です。
④-43【ガイドライン:自動車などの生活必需品を新たな借入れで購入したい場合、またはこれを所有し続けたい場合】
Q
1 今は仮設住宅に居住しているため、既存の債務を弁済できていますが、津波で流されてしまった生活必需品たる自動車を、近い将来新たな借入れで購入せざるを得ず、既存債務の弁済ができなくなることが確実である場合、ガイドラインによる債務整理をすることができますか。
2 震災前に購入した自動車(ローン付き)を、ガイドラインによる債務整理の申出後も所有して使用し続けることはできますか。
3 ガイドラインによる債務整理の申出後に、生活に必要となって自動車を購入しました。これを所有して使用し続けることはできますか。
A
1 ガイドラインによる債務整理を申し出るための要件としては、「住居、勤務先等の生活基盤や事業所、事業設備、取引先等の事業基盤などが東日本大震災の影響を受けたことによって、住宅ローン、事業性ローンその他の既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。」が必要とされています(第
3項(1)後段)。
「近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは、現時点では約定どおりの返済ができているものの、債務者が資力を欠いているために、近い将来、特定の債務だけでなく、その他の債務全般について返済できなくなることが、確実に見込まれる状態をいい、民事再生手続における「支払不能のおそれ」に相当する状態を指します。上記の状態かどうかは、債務者の財産や収入、信用、債務総額、返済期間、利率といった支払条件、家計の状況等を総合的に考慮して判断されます(「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」Q&A 9頁)。
本件のように 今は仮設住宅に居住しているため、既存の債務を弁済できていますが、津波で流されてしまった生活必需品たる自動車を、近い将来新たな借入れで購入せざるを得ず、既存債務の弁済ができなくなることが確実である場合は、購入する自動車の価格等にもよりますが、一般にはガイドラインによる債務整理をすることができると考えられます。なお自動車以外に
も、今後、生活や事業の再建のために、不動産、運転資金の借入れ等を予定している場合は、本ガイドラインの利用を積極的に検討すべきであるといえます。
2
(1)ガイドラインによる債務整理を申し出ると、この申出があった時点から、対象債権者のいずれかから書面による異議が述べられることを解除条件として、一時停止の期間が開始することになります(5項(3))。
この一時停止の期間中は、全ての対象債権者は、一時停止が開始した日
(一時停止の開始日)における「与信残高」を維持し、他の対象債権者との関係における債務者に対する相対的地位を改善してはならないものとされています。具体的には、対象債権者は、弁済を受けることのほか、相殺権を行使するなどの債務消滅に関する行為をなしたり、追加の物的人的担保の供与を求めたり、または担保権を実行し、強制執行や仮差押え・仮処分や法的倒産手続開始の申立てをしてはならないものとされています
(6項(1)③)。
本件のようにローン付き自動車については、所有権が債権者に留保されていることも多いと考えられますが、債権者が、この担保権を実行して自動車を処分することはできないことになります。
(2)この自動車を保有するときの弁済計画案の内容ですが、その債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある場合は、当該自動車を含む債務者の資産等を考慮した生活実態等を踏まえた弁済内容とすることが求められます。
一方、債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがない場合は、対象債権者に対して債務の減免を要請するに際し、ガイドラインの申出の時点において保有する全ての資産(本件の自動車を含みます)を処分・換価、または処分・換価の代わりに、「公正な価額」に相当する額を弁済して、当該処分・換価により得られた金銭をもって、担保権者その他の優先権を有する債権者に対する優先弁済を行い、その後全ての対象債権者に対して、それぞれの債権の額の割合に応じて弁済を行い、その余の債務について免除を受けるという内容とすることになります。したがって、本件自動車を保有したい場合は、その公正な価額に相当する額を弁済すべきことになります。
3 ガイドラインによる債務整理の申出後に、生活に必要となる自動車を購入した場合は、その後もこれを使用し続けることはできます。ただしその購入に際してローンを利用した場合、東日本大震災の影響によって弁済できなくなった「既往債務」には当たらないため、債務の減免対象とならず、全額の
支払いをすることが必要となります。
この自動車は、ガイドラインによる債務整理の申出時点において保有する
「資産」には含まれないため、弁済計画策定における処分・換価(または処分・換価の代わりになされる、「公正な価額」に相当する額の弁済)をすべき対象とはなりません。
④-44【ガイドライン:自由財産の範囲、生活再建支援金、災害弔慰金・見舞金、義援金】
Q 債務者の返済能力を判断する場合、生活再建支援金、災害弔慰金・見舞金、義援金も債務者の資産に含めて判断しなければなりませんか。すでに受け取って現預金として保管している場合はどうですか。
A 本ガイドラインを利用する場合も、債務者は、破産手続において「自由財産」と扱われる財産を手元に残すことが可能です(第7項(2)①ハ)。具体的には、例えば、①債務整理の申出後に、新たに取得した財産、② 差押禁止財産(生活に欠くことのできない家財道具等)、現金(上限があります)、
④ 破産法34条4項に基づく自由財産の拡張に係る裁判所の実務運用に従い、通常、自由財産とされる財産は「自由財産」に該当します。
自由財産の範囲について、ガイドライン運営委員会は、平成24年1月2
3日、次のとおり発表しました。
・ 現預金について、法定の99万円を含めて合計500万円を目安として拡張すること。
・ 現預金以外の法定の自由財産は、法律の定めに従い、自由財産として取扱うこと。
・ 地震保険中に家財(差押禁止財産)部分がある場合には、状況によって柔軟に対応すること。
・ 既に返済したローンの弁済金は、今回の拡張により自由財産になるとしても返還しないこと。
同日の発表内容の詳細はガイドライン運営委員会のホームページをご覧ください。
http://www.kgl.or.jp/news/20120125.html
生活再建支援金、災害弔慰金・見舞金、義援金については、②の差押禁止財産ですので(Q④-24)、既に受け取って現預金として保管している場合も含めて、自由財産とされる財産に該当するものとして、債務者の手元に残すことが可能です。
④-45【ガイドライン:原発賠償金の受領が見込まれる場合】
Q 住宅ローンを被担保債権とする抵当権が設定されている所有不動産につき、東京電力から原子力損害にかかる賠償金を受領することが見込まれる場合も、ガイドラインによる債務整理をすることができますか。
A はい。東京電力に対して損害賠償請求権を有するような場合にも本ガイドラインを利用することは原則として可能です。
「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」Q&A3-1には、「なお、「東日本大震災の影響」には、福島原子力発電所事故や長野県北部地震等の続発地震による影響も含まれると考えます。」との記載があります。ですので、福島原子力発電所事故による影響を受けた人の中には被害者として東京電力に損害賠償請求権を潜在的に有している人が適用対象者として予定されていると考えます。
この場合の損害賠償請求権(現在および将来の請求権)の取扱いについては、いわゆる破産手続での自由財産(倒産実務上拡張が認められている自由財産を含みます。)として認められる範囲、およびガイドライン運営委員会が自由財産として取扱う財産(Q④-44)であれば、自由財産として取り扱われますが、これを超えるものについては、当該ガイドラインの弁済計画案において、対象債権者に対する弁済原資になるものと考えられます。
一方、既に債務者が東京電力との間で合意書等の調印にいたっており、前述の自由財産の範囲を超える損害賠償の支払いが近日中に行われることが明らかであるような場合は、「既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないと確実に見込まれること」の要件を満たさないとして、本ガイドラインが利用できないことがありうるとも思われます。
④-46【ガイドライン:震災前に期限の利益喪失事由がある場合】
Q 震災前に期限の利益喪失事由が発生したことがあるケースであっても、ガイドラインによる債務整理をすることができる場合がありますか。
A はい。対象債権者の同意を得られた場合には、震災前に期限の利益喪失事由がある場合でも本ガイドラインを利用できます。
本ガイドライン第3項(3)但書では、「当該対象債権者の同意がある場合はこの限りではない」としています。
したがって、代理人としては期限の利益の喪失事由があった債務者の場合には、対象債権者の同意が得られるよう事前に折衝を行うこととなります。
期限の利益の喪失事由があった後の弁済に関する対象債権者と債務者との間のやりとりについて積極的に事情を聴取しましょう。
④-47【ガイドライン:免責不許可事由がある場合】
Q 破産法上の免責不許可事由があるのですが、ガイドラインによる債務整理をすることができる場合がありますか。
A ガイドライン上は免責不許可事由がある場合には利用できないとされていますが(ガイドライン第3項(7))、現状の破産実務上解釈されている免責不許可事由の存否と同様に考えるべきものと思われます。
本ガイドライン第3項(7)では「破産法第252 条第1項(第10 号を除く。)に規定される免責不許可事由がないこと。」として、債務者となる要件をあげています。
しかし、本ガイドラインはそもそも震災によって被災者の方々が債務を不合理にも負担し続けなければならない状況を解消し、再スタートを切る事を目的として策定されているのですから、破産実務より厳格に当該事由の存否を解釈すべき理由はないと考えます。また、本ガイドラインが清算型だけではなく、再建型をも含んでいることからしても、個人民事再生にない要件を付しただけでなく、さらに破産法の実務よりも厳しく運用するのではあまりにも不均衡です。
私的整理ガイドライン検討チームによる「個人版私的整理ガイドライン利用マニュアル」にも、「本要件の該当性は、ガイドラインによる債務整理を認めることによって震災の影響によって傾いた生活や事業等の債権を認めることが妥当でない場合を排除するという趣旨から判断することが必要になります。」として、「実際的には、単に免責不許可事由に該当しそうな事実があるというだけではなく、それが破産実務上も裁量免責とすることも妥当でないような特別の場合を排除するための要件として解釈することが妥当と思われます」としています。
したがって、破産実務で裁量免責が受けられそうな場合については、債権者や運営委員会に主張し、本ガイドラインの適用を求めることになると考えられます。
④-48【ガイドラインに基づく債務整理の対象となる債権】
Q ガイドラインに基づく債務整理は、どのような債権でも可能ですか。
A 「対象債権者」(弁済計画が成立したとすれば、それにより権利を変更さ
れることが予定されている債権者をいう。)は、このガイドラインによる債務整理に誠実に協力するとされております。
Q&Aによれば、この「対象債権者」は、主として金融機関等の債権者である銀行・信用金庫・信用組合・労働金庫・農業協同組合・漁業協同組合・政府系金融機関・信用保証協会・農業信用基金協会等及びその他の保証会社・貸金業者(貸金業法第43条によって貸金業者とみなされる、みなし貸金業者も含まれます。)・リース会社並びにクレジット会社のほか、既存の債権者から債権の譲渡を受けた債権回収会社(サービサー)なども含みます。
また、『このガイドラインに定める場合』及び『その他相当と認められるとき』は、金融機関等以外の債権者も含みます。なお、『このガイドラインに定める場合』とは、債務整理の申出の時点において保有する自由財産を除く全ての資産を換価・処分して弁済に充てる内容の弁済計画案を作成する場合を指します。また、『その他相当と認められるとき』とは、債権額等により対象債権者に含めることが妥当である場合等が考えられ、そうした場合、例えば、住宅貸付を行う共済組合や、取引債権者等も含まれます(但し、これらに限られません。)。
④-49【ガイドライン:債務整理の開始】
Q ガイドラインによる債務整理は、どのように開始するのですか。
A 債務者が、すべての対象債権者に対し、このガイドラインによる債務整理を書面により同日に申し出ることにより始めます。そして、債務者は、この申出後、直ちに、すべての対象債権者に対して、財産目録、債権者一覧表その他申出に必要な書類を提出します。
この申出と必要書類の提出は、個人版私的整理ガイドライン運営委員会を経由して行うことができます。
債務整理の申出に必要な書類は、①住民票の写し(ただし、本籍地の記載があるもの)、②陳述書及び添付資料(給与明細書・源泉徴収票・課税証明書の写し等)、③財産目録及び添付資料(預貯金通帳・証書の写し等)、④債権者一覧表、⑤家計収支表(直近2カ月)、⑥事業収支実績表(直近6カ月、事業者の場合)、⑦罹災証明書、被災証明書等です。②陳述書には、所定の書式によって、債務者が、その職業・収入の状況や、債務整理の申出をするに至った事情(債務の返済ができない理由について、震災に伴う被災の状況等の説明)のほか、「対象となり得る債務者」に係る要件への適合性に関する事項(期限の利益喪失事由に該当する行為の有無等)などを記載します。
④-50【ガイドライン:債権者一覧表】
Q ガイドライン申立にあたり、津波により書類等が流されて債権者や債権額が把握できなかったり、債権者の協力が得られずに債権調査に時間を要する等の理由で、申立に必要な債権者一覧表が正確に記載できない場合は、どのようにすればよいですか。
A 債権調査にあたっては、できる限り債権者名、債権額についての正確な情報を提出することが望ましいことは言うまでもありません。しかしながら、正確を期すあまり債権調査に時間を要すると、申立者の資産状況、債務の把握状況によっては、申立者の意に反して延滞が発生し、信用情報機関等にその旨登録される不利益が発生する可能性もあります。一方で、速やかに申立てを行うことは債権者側の利益にもかないますから、申立てはある程度速やかに行うべきです。
そこで、十分な調査を行っても申立段階で完全な情報を記載することはできない場合には、概算額や見込額、他の情報から債務を負っている見込みのある債権者名を記載して申立を行うこととし、申立後、正確な情報が判明次第、適宜訂正し、また、新たに債権者が確認できた場合には、訂正後の債権者に対して速やかに通知することにより、事後的に要件を満たせば足りると考えます。
④-51【ガイドライン:公正な価額】
Q ガイドライン第7項(2)①ハの「公正な価額」の金額の判断に際して、たとえば津波による塩の害を受けた土地や、原子力損害により当分戻れない場所にある不動産等の「公正な価額」はどのように判断すべきですか。
A 「公正な価額」は、債務整理の申出時に、財産を処分するものとして評価され、法的倒産手続における処分価額と同等とされます(「個人債務者の私的整理に関するガイドライン」Q&A参照)。
したがって、震災の影響(原発事故の影響も含む。)により、処分価額自体に客観的に評価しうる減価が発生している場合には、「公正な価額」とは、震災前ではなく、現在の減価後の価額として評価することになります(具体的な減価の算定については、Q⑩の2-26を参照)。
なお、震災・原発事故に関連して、例えば、東京電力から補償金を受領するような場合には、補償金も弁済原資に含まれることになります。不動産等に対する補償基準、補償時期にはまだ不明な点が多いため、早急に弁済の原資に充てることは実際には困難であると思われます。このため、主要な財産
が被害を受けており、かつ、補償対象であるような場合には、債権者との間で補償金の取扱いについて事前調整を行うことが望ましいでしょう。
④-52【ガイドライン:債務整理の進行】
Q ガイドラインによる債務整理の申出をした後、手続きはどのように進みますか。
A 債務者は、原則として申出から3カ月以内(ガイドライン第7項(2)②に定めるいわゆる事業再建型の場合は申出から4カ月以内)に、弁済計画案を作成の上、すべての対象債権者にこれを提出します。
また、債務者は、ガイドラインの手続きを利害関係のない中立かつ公正な立場から的確かつ円滑に実施するための第三者機関である個人版私的整理ガイドライン運営委員会が作成した報告書を、弁済計画案の提出と同日に、すべての対象債権者に提出します。
債務者は、上記の弁済計画案と報告書の提出を、個人版私的整理ガイドライン運営委員会を経由して行うことができます。
債務者は、弁済計画案及び報告書の提出後、すべての対象債権者に対して、 弁済計画案及び報告書の説明、質疑応答並びに意見交換を同日中に行います。対象債権者は、この説明等がなされた日から1カ月以内に弁済計画案に対す る同意・不同意の意見を表明します。
対象債権者のすべてが、弁済計画案について同意し、その旨を書面により確認した時点で弁済計画は成立し、債務者は以後、その弁済計画に従って支払い等をすることになります。
④-53【ガイドライン:弁済計画案の内容・原則】
Q 弁済計画案には、原則として、どのような事項を記載するべきですか。 A ガイドラインでは、①債務の弁済ができなくなった理由(東日本大震災に
よる影響の内容を含む。)、②財産の状況(財産の評定は、債務者の自己申告による財産について、原則として、財産を処分するものとして行う。)、
③債務弁済計画(原則5年以内)、④資産の換価・処分の方針、⑤対象債権者に対して債務の減免、期限の猶予その他の権利変更を要請する場合はその内容を、原則として弁済計画案に記載しなければならないとしています(ガイドライン第7項(2)①イ、同②イ本文参照。)。
弁済計画案における権利関係の調整は、債権者間で平等でなければならなりません。ただし、債権者の間に差を設けても衡平を害しない場合は、この限り
ではありません。
また、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある債務者が、対象債権者に対して、分割払いの方法による期限の猶予とともに債務の減免を要請する場合には、対象債権者に対する弁済計画に基づく弁済の総額は、債務者の収入、資産等を考慮した生活実態等を踏まえた弁済能力により定めるものとし、また、破産手続による回収の見込みよりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できる内容としなければなりません。
将来において継続的にも反復しても収入を得る見込みがない債務者が対象 債権者に対して債務の減免を要請する場合には、債務整理の申出をした時点において保有する全ての資産(破産法第34条第3項その他の法令により破産財団に属しないとされる財産(いわゆる「自由財産」)、同条第4項に基づく自由財産の拡張に係る裁判所の実務運用に従い、通常、自由財産とされる財産、ガイドライン運営委員会が自由財産として取扱う財産(Q④-44)を除く。)を処分・換価して(処分・換価の代わりに、「公正な価額」に相当する額を弁済する場合を含む。)、当該処分・換価により得られた金銭をもって、担保権者その他の優先権を有する債権者に対する優先弁済の後に、全ての対象債権者に対して、それぞれの債権の額の割合に応じて弁済を行い、その余の債務について免除を受ける内容とするものとすることが求められています(ただし、債権額20万円以上(ただし、この金額は、その変更後に対象債権者となる全ての債権者の合意により変更することができる。)の全ての債権者を対象債権者とする場合に限る。)。なお、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みのある債務者が同様の内容とすることは妨げられません。
④-54【ガイドライン:弁済計画案の内容・個人事業主の場合】
Q 債務者が事業から生ずる将来の収益による弁済により事業の再建・継続を図ろうとする個人事業主の場合、弁済計画案にはどのようなことを記載しなければならないですか。
A ④-53で述べた内容に加え、①事業見通し(売上・原価・経費)、②収支計画、③東日本大震災発生以前においても、既に事業利益が赤字であったときは、赤字の原因とその解消の方策を記載するとともに、弁済計画成立日の属する年の翌年から概ね5年以内を目途に黒字に転換することを内容としなければなりません。ただし、これを超える合理的な期間とすることを妨げません。
また、破産手続による回収の見込みよりも多くの回収を得られる見込みがあ
るなど、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できることを内容としなければなりません。
④-55【ガイドライン:弁済計画案の内容・債務の減免を要請する場合】
Q ガイドラインに基づく債務整理で、対象債権者に債務の減免を求める場合、どのような弁済計画案にするべきですか。
A ガイドラインでは、①弁済計画案作成日現在において、財産目録に記載の財産以外に、時価20万円以上の資産又は債権者一覧表にない負債を有していないことを誓約することと、②弁済計画に従った弁済期間中に、このガイドラインを利用できる債務者たる要件のいずれかを充足しないことが判明した場合(ガイドライン第3項参照。ただし第3項(4)と(5)の要件は欠けても良いとされています。)または、①の誓約に反する事実が判明した場合は、債務者の責めに帰することができない事由が認められる場合を除き、債務免除及び期限の猶予の合意が錯誤により無効となり、債務免除の効果が遡及的に消滅することに予め同意すること、を弁済計画案の内容にすることを求めています。
④-56【ガイドライン:弁済計画案の内容・保証債務がある場合】
Q 保証債務がある場合、弁済計画案の作成にあたって注意することはありますか。
A 債務者の対象債権者に対する債務を主たる債務とする保証債務がある場合、主たる債務者が通常想定される範囲を超えた災害の影響により主たる債務を 弁済できないことを踏まえて、①保証契約を締結するに至った経緯、主たる 債務者と保証人の関係、保証による利益・利得を得たか否か等を考慮した保 証人の責任の度合い、②保証人の収入、資産、震災による影響の有無等を考 慮した保証人の生活実態等の事情を考慮して、保証履行を求めることが相当 と認められる場合を除き、保証人(ただし、個人に限る。以下同じ。)に対 する保証履行は求めないこととされています。
そして、保証人に対して保証履行を求めることが相当と認められる場合には、当該保証人についても、主たる債務者とともに弁済計画案を作成し、合理的な 範囲で弁済の負担を定めるものとされています。
第5 商事・倒産
⑤ -1【取引の明細がわからなくなった場合】
Q 取引の明細がわからなくなり、いくら払ったらいいのかわからないのですが、どうすればいいですか。
A できる限りの資料から内容を復元してみて下さい。資料が何もなければ記憶から再現してみて下さい。その上で相手と連絡をして、協議するということが最善の手段と思われます。
⑤ -2【取引先と連絡が取れなくなって支払ができない場合】
Q 取引先が被災し、連絡が取れません。支払うべきものがあるのですが、どうすればいいですか。
A 取引先に連絡をするべく最大限の努力をして(取引先の旧所在地にはり紙 をする、代表者や担当者の個人連絡先が分かれば連絡する等)、その努力を 記録として残し、支払うべき金額は、民法494条の規定により供託するか、別勘定でプールしておくという方法が最善の手段と思われます。
⑤ -3【取引先と連絡が取れなくなって納入の見込みがなくなった場合】
Q 取引先が被災し、連絡が取れません。商品の納入の見込みはないと思うのですが、成立した契約はなくなったと思っていいのでしょうか。
A 以下「連絡不能」を前提として回答しますが、連絡のための最善の努力を尽くすことは前提になります。連絡の上で合意解約するか、契約条件の変更をすることが最善の方法です。
そもそも「被災した売主が売買の目的物を納入できない状態」をどう評価するかについては、事案に応じた具体的判断になりますが、机上の想定としては、目的物が不特定物の場合は履行自体可能なので債務不履行とすべき場合が多いと思います(不特定物であっても履行不能と評価すべき場合もあり得るとも思います。)。目的物が特定物であり又は既に特定している場合は履行不能であって、売主に帰責性のない場合は危険負担の問題に、帰責性のある場合は債務不履行の問題になる場合が多いと思います。
債務不履行の問題として処理する場合は、相手方に解除の意思表示をして契約を終了させることとなりますが、前提が「連絡不能」なので、意思表示もできないことになります。相手の元本社や代表者自宅に貼り紙をするとかの方法をとってそれを記録に残しておいてください。万全を期すのであれば
公示による意思表示の方法(民法98条)もあります。なお、債務不履行の場合損害賠償の請求も可能です(民法415条)。
危険負担の問題になる場合は、契約上危険負担の定めがある場合もあると思われますので契約書を確認してください。その上で、債務者主義(民法5
36条)の適用になる場合は、双方の債務が終了したとして相手方と契約の終了を確認することになりますが、やはり「連絡不能」が前提なので、上記のような「連絡の最善の努力」の方法をとってください。
危険負担の債権者主義(民法534条等)の適用になる場合は、理論上代金の支払を免れないことになりますが、代金債務の問題は別として契約が終了すること自体は同じですので、上記の方法で契約の終了を確認してください。債権者主義の適用の場合でも、連絡ができる場合には合意による解約の処理ができる場合が多いと思います。本件は「連絡不能」が前提なので、「合意による解約」を求める文書を、上記の方法により送付する(努力をする)ということになります。
⑤ -4【株券がなくなった場合】
Q 株券がなくなってしまいましたが、どうすればいいですか。
A 会社に対して、株券喪失登録請求(会社法223条、同規則47条)をしてください。喪失登録をした株券が無効になるのは、株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日ですが(会社法228条1項)、震災の特例が定められる可能性があるので注意してください。
⑤ -5【震災地域での飲食料品販売とJAS法】
Q 被災地での物品販売につきJAS法との関連で留意すべきことはありますか。
A JAS法、つまり、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律
(昭和25年法律175号)は、販売される飲食料品を同法の表示義務の対象とし、無償供与の飲食料品(販売以外で授与される飲食料品)は同法の表示義務の対象とされていません。また、震災地域で販売される飲食料品については、震災地域への食料の円滑な供給を最優先するため、当分の間、JA S法の表示義務の対象としての取締の対象としないとされていました(平成
23年3月14日付、農林水産省消費・安全局表示・規格課長公表文。農水省HP掲載)。(情報:平成23年5月8日現在)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/soumu/saigai/pdf/110314_jas_tuuti.p
(消費者庁HP掲載の「食品事業者のみなさまへ(~東日本大震災を受けた食品表示の運用について~)」の「JAS法の運用について」参照。情報:平成23年5月8日現在。)
http://www.caa.go.jp/jisin/110318syokuhin.html
しかし、平成23年7月15日付消費者庁食品表示課長及び農林水産省消費・安全局表示・規格課長「東日本大震災に伴う JAS 法の運用に係る通知の取扱いについて」により、上記の特例は廃止されていますので注意が必要です。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/syouhi/jas.html
⑤ -6【震災地域での飲食料品販売と食品衛生法】
Q 食品衛生法に基づく表示基準はどのようになっていますか。
A 食品衛生法では、販売・授与する食品について、公衆衛生上の見地から表示義務を課していますが、消費者庁によれば、震災地域で販売・授与される食品については、当分の間、取締りを行わないとされていました。
(消費者庁HP掲載の「食品事業者のみなさまへ(~東日本大震災を受けた食品表示の運用について~)」の「食品衛生法に基づく表示基準の運用について」参照。情報:平成23年5月8日現在。)
http://www.caa.go.jp/jisin/110318syokuhin.html
しかし、平成23年7月15日付消費者庁食品表示課長「東日本大震災に伴う食品衛生法の運用に係る通知の取扱いについて」により、上記の特例は廃止されていますので注意が必要です。
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin676.pdf
⑤ -7【震災地域でのミネラルウォーター類の販売】
Q 容器入り飲料水(ミネラルウォーター類)の販売に関する規制はどのようになっていますか。
A 消費者庁によれば、容器入り飲料水(ミネラルウォーター類)について、
(1)消費者の誤認を招くような表示をしておらず、
(2)殺菌又は除菌を行わないものにあってはその旨等を、製品に近接したP OPや掲示により消費者が知ることができるようにしているもの
(3)表示責任者(製造業者、輸入業者等の名称・住所)、原産国(輸入品の
場合)等を、製品に近接したPOPや掲示により商品選択の際に消費者が知ることができるようにしているもの
については、義務表示事項が表示されていなくとも、当分の間、取締りを行わないこととなっていました。
消費者庁HP掲載の「食品事業者のみなさまへ(~東日本大震災を受けた食品表示の運用について~)」「容器入り飲料水(ミネラルウォーター類)にかかる表示の運用について」参照。情報:平成23年5月8日現在。)
http://www.caa.go.jp/jisin/110318syokuhin.html
しかし、平成23年7月15日付消費者庁食品表示課長「東日本大震災に伴う食品衛生法の運用に係る通知の取扱いについて」により、上記の特例は廃止されていますので注意が必要です。
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin676.pdf
⑤ -8【震災地域への食料供給とJAS法及び食品衛生法】
Q 震災地域への食料供給を行う事業者は、JAS法及び食品衛生法に基づく規制について配慮すべきことはありますか。
A 震災地域に相当量を供給している食品であって、今般の地震によりやむを得ない理由で当該製品の原材料を緊急に変更せざるを得ないものについて、震災地域への供給増等により震災地域以外で販売する際の包材の変更が一時的に追いつかない場合、
(1)当該製品の一括表示欄の原材料の記載順違いなど消費者の誤認を招かない軽微な違いであって(JAS法)、
(2)調味料の配合割合の変更に伴う例示すべき調味料の名称の違いなど、消費者の誤認を招かず、かつ、公衆衛生の見地から問題が生じない軽微な違いであって(食品衛生法)、
(3)製品に近接したPOPや掲示により、本来表示すべき内容を消費者が知ることができるようにしているもの
については、当分の間、取締りの対象としないこととなっていました。
(以上、①消費者庁HP掲載の「食品事業者のみなさまへ(~東日本大震災を受けた食品表示の運用について~)」「震災地域への食料供給に協力いただいている事業者に対するJAS法及び食品衛生法に基づく表示基準」、 http://www.caa.go.jp/jisin/110318syokuhin.html、②農林水産省プレスリリース「東北地方太平洋沖地震に伴う加工食品に係るJAS法の運用について」http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/hyoji/110329.html、参照。情
報:平成23年5月8日現在。)
しかし、上記⑤-5ないし⑤-8記載の各通知により、上記の特例は廃止されていますので注意が必要です。
⑤ -9【日本からの輸出品への諸外国での規制等】
Q 今回の震災について輸出入で配慮すべきことはありますか。
A 福島第一原子力発電所の事故の後、日本からの輸入に際し放射線関連の検査を行う等、規制を強化する措置を取る国・地域があります。
外務省によれば、(8月12日まで判明分で)約15の諸外国が何らかの輸入規制・放射能検査証明などの措置を行っています。
外務省、農水省、JETROの以下の各HP掲載資料。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/saigai/pdfs/yusyutunyuu_soti.pdf(外務
省関連)(東日本大震災主要国・地域の輸出入等関連措置(8月12日まで判明分)参照。)
http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/hukushima_kakukokukensa.html
(農水省関連)(「諸外国・地域の規制措置(8月19日現在)参照。」 http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/(JETRO関連)
詳細が必要な場合、農水省に問い合わせが可能です。
農水省大臣官房国際部国際経済課貿易関税チーム輸出促進室( Tel: 03-3502-3408 又は代表 03-3502-8111(内線 3501)
⑤ -10【EU向けの輸出食品等】
Q EU向けの輸出食品等について配慮すべきことはありますか。
A 日本からEUに輸出される食品及び飼料(本年3月28日以降発送分)につき、輸出国(日本)の管轄当局が発行する証明書を求めるとされました(欧州委員会実施規則 No. 297/2011:Commission Implementing Regulation (E U) No. 297/2011)。これをうけ、当分の間、各都道府県の農林担当部局にて(ただし、水産物については、水産庁にて)証明書を発行することとなっております(農水省大臣官房総括審議官(国際)によるH23年3月27日付各都道府県知事宛通知、農水省国際部貿易関税チームH23年3月28日付「欧州連合(EU)の日本産食品等の輸入に対する規制強化について」)。 http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/eu-no-nihosyoku-tou-yunyuu
証明内容は以下のとおりです。ただし、EUの放射性物質基準適合性の証明は、国内の検査機器台数が限られ、当分の間困難と考えられております。
対象 | 証明すべき内容 |
本年3月11日より前に収穫(生鮮食 品)又は加工(加工食品)されたもの | 収穫・加工の時期 |
12都県(福島、群馬、茨城、栃木、宮城、山形、新潟、長野、山梨、埼玉、 東京、千葉)で算出した食品等 | EUの放射性物質基準に適合することの証明 |
12都県以外で算出した食品等 | 産出した道府県 |
⑤ -11【輸出物品の放射線検査機関】
Q 日本から輸出される物品の放射線検査機関はどこですか。そこでは何をしてくれますか。
A JETROがこれまで確認した放射線検査機関については、JETROのホームページ「国内の放射線検査機関(全国対応)について」(8月18日更新)参照。)http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110318_11.html ただし、「非被曝証明」ではなく、測定値の結果を出すものです。また、個々の機関の取扱分野、サービス内容・料金等については各機関へお問い合わせ下さい。
⑤ -12【食品や飼料以外でも輸出規制】
Q 食品や飼料以外でも輸出に際し配慮すべきことはありますか。
A 鉱工業製品についても、我が国からの輸出品について、諸外国から放射線検査の実施、又は放射線量に関する証明書の添付を要求される事例があります(経産省HP)(http://www.meti.go.jp/earthquake/smb/index.html)。詳しくは、経済産業省 貿易経済協力局 貿易振興課又はJETRO貿易投資相談課。
⑤ -13【震災と貿易保険】
Q 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)の貿易保険は、この震災によりどのような扱いになりますか。
A 日本貿易保険(NEXI)は、被災者支援として、平成23年4月14日
付けにて、罹災した中小企業を対象とした①保険契約諸手続きの猶予、②被保険者義務の猶予・減免、③被保険者の経済的負担の減免を発表しています。
(http://nexi.go.jp/topics/newsrelease/003597.html)
「対象企業」は、東日本大震災により被害を受けた全国の中小企業者で、事業所、工場、作業所、倉庫等の主要な事業用資産について、倒壊・火災等の直接的な被害を受けた旨の罹災証明を、被害を受けた事業所の所在地の市区町村等から受けたものです。
また、放射能汚染を理由とした貨物の輸入制限・禁止等による損失について貿易保険で損失がカバーされる可能性もあります。東日本大震災を受けた貿易取引等に関する相談窓口は、「震災復興支援ダイヤル」 0120-670-094(フリーダイヤル)です。
また、NEXIのホームページ上にQ&A集が掲載されていますのでご参照下さい。
http://nexi.go.jp/topics/to_1100420.pdf
⑤ -14【罹災中小企業への金融支援】
Q 罹災した中小企業への金融(貸付・保証・利子の減免等)支援はありますか。
A 中小企業庁では、借入金の返済猶予、事業債権の保証・融資・転廃業の相談を受付けています。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/index.html
その他、政府・関係金融機関からの中小企業向けの支援策の内容は、経済産業省の平成23年5月2日付け「中有小企業向け支援策ガイドブック ver.
3」の「政府で用意している支援策などの概要です。」に一括してまとめてあります。http://www.meti.go.jp/earthquake/smb/guide03.pdf
⑤ -15【中小企業への仮設の店舗・工場等の施設整備支援】
Q 罹災した中小企業への仮設店舗、仮設工場等の施設整備に関する支援はありますか。
A 東日本大震災により被害を受けた地域において、独立行政法人中小企業基盤整備機構により、仮設店舗、仮設工場等の施設を整備することを決定しております。連絡先:上記中小企業復興支援センターの仙台・盛岡・福島にな
ります。経済産業省「(独)中小企業基盤整備機構による仮設店舗、仮設工場等の整備について」参照。
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110411001/20110411001.html
⑤ -16【中小企業倒産防止共済制度の救済貸付(取引先振出しの手形不渡り)】 Q 中小企業倒産防止共済制度に加入する共済契約者ですが、取引先企業が振
り出した手形が「災害による不渡り」となりました。中小企業倒産防止共済制度での救済貸付は利用できますか。
A 中小企業倒産防止共済制度は、中小企業倒産防止共済法に基づく共済制度であり、これに加入する共済契約者は約30万社あります。中小企業倒産防止共済法施行規則がこのたび改正され、これまでの①法的整理手続、②手形取引停止処分、③私的整理に加え、取引先企業が振り出した手形が「災害による不渡り」となった場合も、共済事由と改正されました。この結果、「災害による不渡り」となった手形・小切手等を所持する共済契約者等が共済金を貸付請求できることとなり、これによって、売掛金債権等の回収ができない共済契約者の資金繰りが支援されます。
経済産業省「中小企業の連鎖倒産を防ぐための共済制度の運用を改善します~中小企業倒産防止共済法施行規則の一部改正について~」参照。
http://www.meti.go.jp/press/2011/04/20110408003/20110408003.html
⑤ -17【中小企業経営承継円滑化法】
Q 中小企業経営承継円滑化法に基づく申請書・報告書の期限が迫っています。震災で期限延長を申請できますか。
A 中小企業経営承継円滑化法に基づく申請書・報告書の期限を延長(東北地方太平洋沖地震による多大な被害を受けたことにより、中小企業経営承継円滑化法に基づく以下の申請書・報告書が提出期限内に提出できない場合、一定期間期限が延長されます(詳細については連絡先:東北経済産業局産業部中小企業課(仙台合同庁舎内)(Tel: 022-263-1111(代表) 022-221-4922
(直通)又は最寄りの経済産業局等にお問い合わせ下さい)。
①非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の前提となる認定申請、
②同認定に係る年次報告、随時報告、臨時報告、合併報告、株式交換等報告、
③同認定に係る贈与者が死亡した場合の確認申請
等
また、地震により多大な被害を受けた中小企業経営者につき、同法での要件の緩和など更なる見直しを中小企業庁にて検討中です(H23.3.31現在)。
中小企業庁「東北地方太平洋沖地震により中小企業経営承継円滑化法に基づく申請書・報告書が期限内に提出できない方へ」
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/110331ShokeiReportExte nsion.htm
⑤ -18【中小企業電話相談ナビダイヤル】
Q 中小企業について、その他の相談はどこへ連絡すれば良いでしょうか。 A 中小企業に関するその他の相談は、中小企業電話相談ナビダイヤル(Tel:
0570-064-350)へ。経済産業省HP「中小企業者対策」 http://www.meti.go.jp/earthquake/smb/chirashi.pdf
⑤ -19【債務者が罹災した場合の金融機関の対応(金融検査マニュアル)】 Q 金融機関は、地震又は津波で債務者が被災してしまった場合、債務者の実態把握が難しいのですが、この点、監督当局からの監督に際しどう対応すべ
きでしょうか。
A 被災地の債務者と一時的に連絡が取れない場合等、金融機関として債務者の実態把握や担保物件の確認ができない場合、計画停電や、原材料の調達難等から財務状況が一時的に悪化した場合、貸し付け条件の変更等に経営再建計画を策定できない債務者がいる場合を踏まえ、金融検査マニュアルで、
「資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト」の別表を金融庁検査局長が公表しました(平成23年3月31日)。(下記金融庁HP参照)
http://www.fsa.go.jp/ordinary/earthquake201103/20110331-1.html
これにより、(1)金融機関は、債務者・担保物件・保証人の状況等を合理的に判断できる範囲内で可能な限り自己査定に反映させ、それが困難な資産は、その旨注記することで対応することも妨げないこととされました。
(2)債務者が震災の影響を受けた場合において、震災による赤字・延滞が一過性と判断できる場合、金融機関は、債務者区分の引き下げは行わなくてもよいことが明確化されました。貸倒引当金の貸倒実績率等の算定につき、震災の影響による貸倒等の実績値は震災の影響がない貸出金の貸倒実績率等に算入しないことでよいことが明確化されました。(3)債務者が、震災の
影響により直ちに経営再建計画の策定が困難と判断される場合、①中小企業に限って貸出条件変更時の経営再建計画の策定を最長1年間猶予するとの現行での取扱を中小企業以外にも適用することとし、併せて、既に貸出条件変更に応じた中小企業の経営再建計画の策定猶予期間の再延長も可とされました。また、②中小企業以外は、経営再建計画の計画期間を概ね3年、中小企業は原則5年という現行の措置を、合理的な期間の延長が可能とされました。
金融庁平成23年3月31日付け「平成23年東北地方太平洋沖地震による災害についての金融検査マニュアル・監督指針の特例措置及び運用の明確化について」参照。
http://www.fsa.go.jp/ordinary/earthquake201103/20110331-1/01.pdf
⑤ -20【上場企業が罹災した場合の市場向け開示規制】
Q 震災で罹災した上場企業は、証券取引所において、被災状況や、決算発表を行う際に、どのような点に留意すべきでしょうか。
A 東京証券取引所上場企業の場合、速やかなる被災状況と事業活動への影響の開示が求められます。また、決算発表は決算から時期にとらわれず、45日以内でなくとも決算内容が確定した時に開示すべきものとされます。
被災の状況及び事業活動等に与える影響:
東京証券取引所に上場する企業の場合、被災地域に本社機能及び事業拠点を有する上場会社につき、被災の状況及び事業活動等に与える影響につき、速やかに情報開示を行うことが要請されています。(平成23年3月14日付け東証「東日本大震災に係る被災状況等の適切な開示等に係るお願い」)。
http://www.tse.or.jp/news/07/110314_e.html決算発表:
本震災により速やかに決算の内容(通期の決算及び四半期の決算)の把握・開示が困難な場合、時期(「45日以内」など)にとらわれず、決算内容が確定時に開示すればよいとされています 。ただし、震災により決算発表が大幅に遅れる場合には、その旨(開示時期の見込みが立つようであればあわせてその旨)開示すべきとされます。また、決算短信では、通例、業績見通しの公表が要請されますが、震災により業績の見通しを立てることが困難な場合、決算短信・四半期決算短信において、業績予想の開示は必要ありません 。
(平成23年3月18日付け東証「東日本大震災を踏まえた決算発表等に関する取扱いについて」)。http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html
⑤ -21【金融商品取引法での有価証券報告書の提出期限】
Q 上場企業が震災で罹災し、有価証券報告書を金融商品取引法で要請される期限までに提出できない場合、どうしたらよいでしょうか。
A 金融商品取引法に基づき有価証券報告書等の提出を受け付ける財務局のE DINETシステムHPにおいて、有価証券報告書等の提出期限に係る特例措置が以下の通り公表されています(平成23年5月8日現在)。以上、財務局設営のEDINETシステム参照 http://info.edinet-fsa.go.jp/
① 有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書について
東北地方太平洋沖地震が、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」2条1項に規定する特定非常災害に指定されたことを受け、東日本大震災により本来の提出期限までに提出されなかった場合であっても一定期限まで(平成23年6月30日まで)に提出された場合には、行政上及び刑事上の責任を問われないこととなります。
また、3月決算企業等の場合は、平成23年9月末までに提出すればよいこととする方向で、今後、政令の整備が予定されています。
これらの書類について、同災害により提出期限までに提出できないおそれがある場合には、開示書類の提出先財務局にご相談下さい。
(注)上記の対応は、「東日本大震災により」本来の提出期限までに開示書類が提出されなかった場合にのみ適用され、それ以外の理由による遅延には適用されません。ここに「東日本大震災により」とは、本社が被災した場合のみならず、支店・工場や重要な取引先の被災により決算作業が困難となった場合など、間接的な影響によるものを含むとされます。
② 臨時報告書について
東日本大震災という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合 には、そのような事情が解消した後、可及的速やかにご提出いただくことで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなります。
なお、臨時報告書そのものの作成は可能な状態にあるが、被災資産の帳簿価額の算定等ができない場合には、①まずは重要な災害が発生した旨の臨時報告書を提出し、②概算額ないし見込額を算定した段階で、その額等を記載した訂正臨時報告書を提出いただくことで差し支えありません。
ご不明な点は、開示書類の提出先財務局にご相談下さい。財務局の連絡先は、以下を参照。
http://www.mof.go.jp/about_mof/zaimu/zaimu.htm
⑤ -22【有価証券報告書の提出期限と上場廃止】
Q 有価証券報告書を金融商品取引法で定める提出期限までに提出しない場合、証券取引所での上場廃止になりますか。
A 東京証券取引所では、原則として、上場会社が有価証券報告書等の提出を遅延した場合に、監理銘柄に指定し、上場廃止基準に該当するか否か確認することとしておりますが、本震災により有価証券報告書等を本来の提出期限までに提出できない場合において、政令での特別措置が適用されるときは、政令で定める期限を有価証券報告書等の提出期限とみなして、上記上場廃止基準を適用するとされています。
東京証券取引所「東日本大震災を踏まえた決算発表等に関する取扱いについて」参照。 http://www.tse.or.jp/news/07/110318_e.html
⑤ -23【定時株主総会の延期と証券取引所での配当落ち】
Q 今回の震災の影響のため、上場企業が、定時株主総会を平成23年6月中に開催できない場合、3月末の配当落ちの取り扱いはどうなりますか。
A 法務省は、東北地方太平洋沖地震に鑑み、定時株主総会は年度末から3ヶ月以内に開催しない場合のあり得ることを公表しています(「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて」参照。)
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0012.html
そこで、3月期決算の上場会社が本年6月末までに定時株主総会を開催せず、今3月期の配当等の基準日を本年4月1日以降に変更した場合、東京証券取引所では、本年3月29日(火)以降変更後の権利付最終日までの間において当該銘柄を売却した場合は、配当その他の権利が付与されないと公表しています。
⑤ -24【震災と企業の決算(監査における留意事項)】
Q 本年3月11日以後に決算日を迎える会社の監査において留意すべきことはありますか。3月11日前にすでに決算日を迎えていた場合はどうなりますか。
A 震災を踏まえ、日本公認会計士協会は平成23年3月30日付けにて会長通牒「東北地方太平洋沖地震による災害に関する監査対応について」を公表し、罹災した企業の監査に際し、現行の会計基準及び監査基準を踏まえた監
査上の留意事項をとりまとめて公表しています。 http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/main/post_1490.html
上記会長通牒によれば、平成23年3月11日以降に決算期を迎える企業につき、以下①~⑦の「直接・間接に発生する損失」について、監査上の留意事項をとりまとめています。
① 固定資産(建物等の有形固定資産、ソフトウェア等の無形固定資産、投資不動産等)や棚卸資産(商品等)の滅失損失
② 災害により損壊した資産の点検費、撤去費用等(以下「災害により損壊した資産の撤去費用等」という。)
③ 災害資産の原状回復に要する費用、価値の減少を防止するための費用等
④ 災害による工場・店舗等の移転費用等
⑤ 災害による操業・営業休止期間中の固定費
⑥ 被災した代理店、特約店等の取引先に対する見舞金、復旧支援費用
(債権の免除損を含む。)
⑦ 被災した従業員、役員等に対する見舞金、ホテルの宿泊代等の復旧支援費用
また、上記の他、関連する会計・監査事象として、①繰延税金資産の回収 可能性の判断、②取引先の財政状態の悪化等、③保有有価証券の時価の下落、
④固定資産の減損判定等についても監査上の留意事項を示しています。
以上に対し、平成23年3月11日前に決算期を迎えた企業については、震災による影響は、開示後発事象として取り扱うとしています。
⑤ -25【取締役の死亡】
Q 取締役が死亡して法定の人数が欠けたのですが、どうすればいいでしょう。
A 取締役は株主総会で選任するので、株主総会を開催して後任の取締役を選任すべきことになります。事実上総会を開催できない場合には、生存取締役で経営にあたるしかありません。裁判所に、一時取締役の選任を請求することもできます(会社法346条2項、3項)。代表者が死亡した場合は、生存取締役で取締役会を開催して代表者を選任してください。なお、死亡した取締役が一定の株主の利益の代表的色彩があった場合には、後日の紛争を回避するよう留意してください。