特定商取引法などで最も重要な規律は、クーリング・オフ権で、契約後に冷静に再考する機会を与えるもので、cooling-off(頭を冷やす)という言葉で表現されま す。契約書に署名した段階では(書面交付が業者に義務づけられています)、本当の意味での契約意思がなかったと主張できる、という考え方とも言えますが、法律的には、申 込みの撤回(契約未成立の場合)もしくは契約の無理由解除(契約成立後)と構成されます。クーリング
省略した第6回講義分の補足
2006/10/20
基本的発想
◎消費者契約
消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報の質・量ならびに交渉力の格差に鑑みて、対等・平等な者の間で適用される民法では足りないところを補う消費者契約関係の一般実体私法規定です(消契 1 条参照)。従来の特定商取引法や割賦販売法などは、クーリング・オフ制度や損害賠償額の制限など実体私法規定を含み、何度かの改正を通じてそれを拡大してきました。しかし、これらの法律は、基本的には行政による事前規制法
・業者取締法という性格を有していました。消費者契約法は、規制緩和の流れに沿って、むしろ消費者契約紛争を事後的・司法的に解決することに重点を置いています。
特定商取引法などで最も重要な規律は、クーリング・オフ権で、契約後に冷静に再考する機会を与えるもので、cooling-off(頭を冷やす)という言葉で表現されます。契約書に署名した段階では(書面交付が業者に義務づけられています)、本当の意味での契約意思がなかったと主張できる、という考え方とも言えますが、法律的には、申込みの撤回(契約未成立の場合)もしくは契約の無理由解除(契約成立後)と構成されます。クーリング
・オフは、債務不履行解除とは異なり、撤回や解除に理由は不要で、一定期間内にその意思表示をすれば良いのです(しかも、業者の言い逃れを避けるため、その意思表示は発信主義によります)。効果としても、消費者保護の観点から遡及効が徹底され、消費者は一切の契約責任を免れるほか、原状回復義務についても、返還不能部分の価値による返還義務も負いません。
設例 Case 06-01 の解説
①訪問販売に当たるため、Yは、クーリング・オフができ、一切の契約責任を負いません。既払い代金は全額返還請求ができます。
②契約締結時から 8 日を経過していますが、もし法定の書面をYが受け取っていなければ、なおクーリング・オフができます。受け取っていれば、クーリング・オフはできません。消費者契約法による消費者取消権や民法上の詐欺・強迫を理由にする取消権は、なお行使できますが、設例ではその要件が充たされているかどうかは不明です。
③訪問販売には当たらない場合が多く、クーリング・オフは使えません。その他の取消権も、この事例の事情だけでは困難でしょう。しかし、地方公共団体の条例では、この種のデート商法(設例と異なり、衣料品などを買わせるケースが多いですが)に対しては、厳しい規制を置き、業者名の公表などの制裁措置を背景に、一種の行政指導により、業者に契約の合意解除を認めさせようとする傾向があります(実質的には、クーリング・オフの拡張)。
④この事例では、クーリング・オフは法定書面が交付されていれば不可能ですが、Yには、Xの困惑行為(準監禁)を理由とする消費者取消権を行使できる可能性があります。
⑤Yから出かけて契約を結んでいるので、訪問販売には当たりません。Xに誤認行為・困惑行為もないようですから、消費者取消権の行使も難しいでしょう。しかし、英会話レッスン受講契約は、特定継続的役務提供契約に該当しますので、Yは、将来に向かって契約を中途解約することができ(既履行分に関しては契約の効力を失わせることはできません)、解約に伴ってXが請求できる損害賠償や違約金の額は、法による制限に服します。
◎不動産取引・継続的売買契約・特殊目的での財産権移転を内容とする契約等
宅地建物取引業法(略称:xx業法)では、行政的事前規制を基本として、レジュメのような実体法的な規律がなされていること、とりわけ、重要事項説明義務として情報提供義務が法定されていることが重要です。これ以外の個所のほとんどは、詳しく民法第2部で勉強されるか(担保目的での財産権移転契約)、ざっと条文や教科書を一読していただければ良い程度ですので、以下の点のみを簡単に補足しておきます。
買戻特約について
買戻特約は、売買契約に付随する解除権留保特約と解されます。担保目的の買戻特約が付いた売買契約は、再売買の予約と同様、売渡担保として、xxの譲渡担保に含めることができます。ただ、担保目的以外の買戻特約も存在します。無断転売を防ぐため、公団などがマンション分譲契約に付随して、無断転売の場合に買い戻せるとする特約を入れる場合などがこれに当たります。
いずれにせよ、民法の買戻しの規律は、要件・効果とも厳格なので(条文は必ず一読してください)、あまり使われていないと言われています。
信託について
信託はxx法に由来する制度で、xx法では、契約とは別だとされていますが、日本法では、信託契約として契約の一種と理解するのが通常です。xx法の講義で取り扱われます。信託法という特別法(現在改正作業中)により詳しく規律され、独特の法理が妥当します。正確な理解には、多大な時間を要し、『信託法』という独立した体系書があり、通常、債権各論では議論されませんので、学部レベルでは、そういう制度があると認識していただく程度で足りるでしょう。
第三者のための契約について
司法試験の短答式問題などでも頻出されており、条文と教科書の説明をよく読んでおくことが、必要でしょう。第三者のための契約は、独立した契約類型ではなく、あらゆる契約に用いうる特約と考えて良いでしょう。要するに、契約上の履行請求権(および不履行の場合の損害賠償請求権)を、契約当事者以外の第三者に与えるという特約です。契約者以外を受取人として指定した保険契約が、最もイメージしやすいのですが、保険契約の場合には、受取人の変更や保険給付内容の変更が受取人(=第三者)の同意なくして可能であるという点で、民法上の第三者のための契約の一般ルールとは異なっている点が要注意です。
民法のルールが妥当する例としては、売買契約で代金を売主以外の第三者に支払うように定めた場合(例A)や、物の運送契約で送付を依頼した契約当事者以外を受取人と指定する場合(例B)を挙げることができます。
重要な点は、第三者(受益者とも呼びます)には履行請求権が与えられるだけで、契約関係はあくまで要約者と諾約者の間にしか存在しないことです。したがって、①諾約者は、要約者に対する抗弁権を受益者にも対抗できます。たとえば、上記の例Aでは、諾約者である買主は、売主が売買目的物を引き渡すまで、受益者に代金を支払わないという同時履行の抗弁権を主張できます。②諾約者が履行しない場合に、契約を解除できるのは、反対給付を免れる利益のある要約者のみであって、受益者は解除ができません。
また、第三者に権利を与える理由は、要約者が受益者に対して何らかの債務を負っているからであるというのが普通です。例Aでは、売主は受益者に対する債務を弁済するつもりで、買主に対し、受益者に直接支払ってくれと頼んでいるのでしょうし、例Bでは、売買契約や修理契約によって、目的物を受益者に引き渡す債務の履行として、送付を運送業者に依頼しているのでしょう。要約者と受益者の関係を対価関係と呼びますが、対価関係に当たる契約が不存在だったり無効だったとしても、第三者のための契約(特約)は、必ずしも当然には無効となりません。