Contract
京都、昭59不10、昭59.12.21
命 令 書
申立人 全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部被申立人 株式会社ダン生コン
主 文
1 被申立人は、申立人の昭和59年7月17日付けの団体交渉申入書記載事項及び同月30日付けの要求記載事項について、申立人との団体交渉に応じなければならない。
2 被申立人は、下記内容の文章を縦1メートル、横1.5メートルの模造紙に墨書し、従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
株式会社ダン生コンは、全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部の団体交渉申入れに対し、これに応じなかったことは、不当労働行為であったことを認め、今後かかる行為はいたしません。
以上、京都府地方労働委員会の命令により誓約します。昭和 年 月 日
全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部執行委員長 A1 殿
株式会社ダン生コン代表取締役 B1
理 由
第1 認定した事実
1 当事者等
⑴ 被申立人株式会社ダン生コン(以下「会社」という)は、肩書地に所在し、生コンクリート(以下「生コン」という)及び各種コンクリート製品の製造及び販売並びにこれに付帯する一切の業務を営む会社である。
⑵ 申立人全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部(以下「組合」という)は、セメント・生コン産業及び運輸一般産業に働く労働者で組織する労働組合で、同組合のダン生コン分会(以下「分会」という)は、会社内で生コンの運搬業務に従事する運転手のうち、A2(以下「A2」という)、A3(以下「A3」という)、A4(以下「A4」という)の3名(以下「分会員」という)をもって、昭和59年7月16日(以下年号の昭和は省略する)に結成された。
⑶ 会社には、57年4月、同じく会社の運転手で結成された同盟交通労連関西地方本部生コン産業労働組合京都ダン生コン支部(以下「同盟支部」という)がある。同支部の支部長はC1(以下「C1」という)である。
なお、同盟支部は、同年10月10日、会社とユニオンショップ協定を締結した。
2 会社の概況
⑴ 会社は、生コンクリートミキサー車(以下「ミキサー車」という)17台を有し、生コンの運搬に当たっては、同盟支部に所属する「xx」と呼ばれる運転手(以下「xx」という)13名、いわゆる個人償却制(以下「償却制」という)によって乗務する運転手
(以下「償却制運転手」という。会社は償却制運転手のことを「建材店」と呼んでいる)である分会員とC2(以下「C2」という)、労働者供給事業を営む労働組合を通じて日々雇用する運転手及び外部の運送業者であるxx建材工業・丸生商事の運転手を従事させている。
⑵ xxは、通常の勤務形態の従業員で、その賃金は、各月の固定給、一時金等である。xxには、就業規則が適用されているが、償却制運転手には適用されていない。償却制運転手は、①所有者又は使用者の登録名義人が会社であるミキサー車を運搬に用い ②運搬量に一定単価を乗じて得た総水揚額のうちから諸経費(償却中はミキサー車の償却代金を含む)を控除した額を収入として得 ③ミキサー車の償却代金を完済してそれを自己の所有とする。諸経費としては、ミキサー車の代金である償却代金(会社では貸付金又は車両代金ともいう)・償却代金利息・保険料・税金・燃料代・昼食費等がある。
⑶ 丸共建材を営むC3(以下「C3」という)は、40年頃から建設骨材の販売をしているが、54年9月、会社が操業を開始した際、C3の得意先であるxx組の専務で会社の取締役を兼ねるB2(以下「B2専務」という)の紹介により、会社に砂利・砂を販売するようになり、同時に会社の生コンを販売する下請けを依頼されたが、運転手の手配がつかなかったため、A2、A3及びC1を会社に個別に紹介することとした。
⑷ A3は、会社に入る前、三洋興業の下請けでダンプカーの乗務員をしたり、xx生コンにも勤務していた。C3は、xx生コンとも取引きがあり、そこでA3と知り合った。 A3は、54年10月頃、C3から会社のことを聞かされ、「償却制により新車のミキサー車で生コンを運搬しないか」「従乗員を希望するなら会社に口をきいてもよい」と言われた。その後、A3は、xx組xx営業所において会社のB1社長(以下「社長」という) 及びB2専務の面接を受けた。そこで、A3は、履歴書を提出し、社長から、「君は若いことだし、新しい車の方がいいんじゃないか。償却制でやってみないか。償却制がいやならいつでも給料制にしてやる」と言われ、償却費の一覧表を見せられ、償却条件を示された。更に、「優先配車する。走ったらそれだけ金になる」とも言われたので、A3は、
償却制で運搬業務に従事することに決め、54年10月頃からミキサー車に乗務した。
⑸ A2は、20数年前に住友セメントの下請業者である日新運輸にC3とともに勤務していた関係で同人の紹介により、55年3月21日、会社に入り償却制で中古のミキサー車に乗務することになった。
⑹ A4は、会社の前身である檀建設当時から生コンを運搬し、54年9月、会社組織の変更後も引き続き償却制によりミキサー車に乗務することになった。
3 商品委託販売契約締結の経過
⑴ A2、A3、A4、C2、C1他1名は、55年12月、運搬業務終了後、長岡京市のxx天神前にある料理屋「xx」で、社長、B3工場長(以下「B3工場長」という)から、商品委託販売契約(以下「契約」という)を締結するよう求められた。その場で社長から契約についての説明があり、「償却制がいやならいつでも給料制にする」と言われ
た。
⑵ 分会員は、55年12月5日付けで、それぞれ契約及び後記覚書に署名押印した。
⑶ 同日付けの契約及び覚書の内容は、次のとおりである。
「 商品委託販売契約書
甲(委託者) 株式会社ダン生コン乙(受託者) (個人名)
甲と乙との間に次のとおり商品委託販売契約を締結する。
(目的)
第1条 甲は乙に対して、以下の協定に従い継続的に自己の製造にかかる生コンクリートを販売することを委託し、乙はこれを受託する。
(個別契約)
第2条 この契約に基づく甲と乙との個別取引は、乙の買付注文に対して甲がこれを承認することによって行われるものとし、委託品の品名、数量、販売価格、引渡条件は個別取引の都度、甲乙間において別途協議して定める。
(所有権の帰属)
第3条 乙がこの契約に基づいて委託品を販売するため、保管中は委託品の所有権は甲に帰属するものとする。
(品質保証)
第4条 甲は品質管理、製品検査に万全を期し、完全な製品を納入し乙の信用を傷つけないよう努めなければならない。
(受託手数料)
第5条 乙が甲より支払を受ける受託手数料について別途甲乙間で協議して決定する。
(瑕庇責任)
第6条 甲は委託品につき、数量、規格、品質に関して瑕庇があり、そのため、乙が買主より損害賠償の請求を受ける等の苦情が発生したときは、これによって生じた乙の損害については、甲が一切責任を負い誠意をもって紛争解決に努めるものとする。但し乙の責に帰すべき瑕庇についてはこの限りでない。
(有効期間)
第7条 1.この契約の有効期間は、この契約書調印の日より満2年とする。
2.前項の期間満了3か月前までに当事者の一方、又は双方より書面による変更、又は解約の申し入れがない場合には、この契約は更に満1年自動的に更新されるものとし、爾後も又同様とする。
昭和 年 月 日
甲 株式会社ダン生コン代表取締役 B1
乙 (個人名)
」
「 覚書
株式会社ダン生コンを甲とし、(個人名)を乙として甲と乙とは次のとおり決める。
(委託手数料)
第1条 甲と乙とにおいて締結されている商品委託販売契約書に基づき甲が乙に支払う委託手数料を1㎥あたり次のように定める。
⑴ 乙の所有する車両を使用する場合小型車 1,900円
(乙が甲に対し車両の取得に係る債務を有する期間については、2,100円)
⑵ 甲の所有する車両を使用する場合大型車 900円
小型車 1,200円
(積荷が2㎥に満たない場合には満たない数量について1,000円)
(委託手数料の支払)
第2条 甲は乙に対する委託手数料を毎月20日に締切り計算し、その翌月5日に支払うものとする。
(保証金)
第3条 甲は乙に対し債権を有している場合には、当初債権額20%を限度として乙に対する委託手数料のうちから保証金として預かるものとする。
(車両の所有権)
第4条 車両番号(番号)の車両は甲の名義となっているが、その所有権は乙に属するものとする。
(車両の売却)
第5条 乙は第4条に掲げる車両を他に売却するについて甲の承諾は必要としない。
(経費の負担)
第6条 乙は第4条に掲げる車両に関する一切の費用及びその他作業に要する費用を負担する。
(その他)
第7条 甲と乙との間に締結されている商品委託販売契約は乙が第4条に掲げる車両の所有権を失なった時点において解約されるものとする。
以上の取決めを証して本書を作成し、甲乙各1通を手許におく。昭和 年 月 日
甲 株式会社ダン生コン代表取締役 B1
乙 (個人名) 」
⑷ 契約は、第7条により57年12月5日及び58年12月5日にそれぞれ自動更新された。その後、59年4月、会社は分会員に対し、契約の内容を一部変更した商品委託販売契約(以下「新契約」という)及び覚書を締結するよう申し入れた。
⑸ 59年4月、会社が締結を申し入れた新契約の内容は、次のとおりである。なお、覚書の内容は、55年12月5日付けのものと同一である。
「 商品委託販売契約書(抜粋)
甲(委託者)乙(受託者)
甲と乙との間に次のとおり商品委託販売契約を締結する。
(目的)甲とは株式会社ダン生コンと労働組合のことである。
第1条 甲は乙に対して、以下の約定に従い継続的に自己の製造にかかる生コンクリートを販売することを委託し、乙はこれを受託する。
第2条 (契約第2条に同じ)第3条 (契約第3条に同じ)第4条 (契約第4条に同じ)第5条 (契約第5条に同じ)第6条 (契約第6条に同じ)
第7条 1.車両に関しての一切の修理、事故、保険等の交渉、対処、残整理業務は乙自身の責任にて行い甲は一切関与しない。
2.車両の車種、型式、色彩等は乙の自由とする。
(有効期間)
第8条 1.この契約の有効期間は、この契約書調印の日より満1年とする。
2.(契約第7条第2項に同じ)昭和 年 月 日
甲
乙 」
第1条に規定する「労働組合」とは、同盟支部をいう。
4 分会員を含む償却制運転手の日常業務の実態
⑴ 出勤
会社における出勤時間は、通常午前8時とされているが、早出の場合は午前7時又は午前7時半である。
出勤時間は、償却制運転手とxxの区別なく、前日にタイムカードの横に並べてある名札によって指示される。名札は、償却制運転手とxxとの区別なく一諸に並べられている。
⑵ タイムカード
償却制運転手、xxとも出勤するとタイムカードを押し、休憩室で待機する。なお、償却制運転手は、退社時にタイムカードを押すよう指示されてはいなかったが、実際には押す慣わしであった。
⑶ 配車
会社の配車係が休憩室で待機している運転手に対し、マイクでミキサー車の車両番号を呼び運搬先を具体的に指示する。配車の順序は、原則として前日の最終運搬業務を終えて帰社した順となっている。なお、大きな現場に運搬する場合及び早出の場合には、償却制運転手がxxよりも優先扱いされているが、一度帰社した後二度目からは帰社した順番どおり配車されている。
⑷ 納品
生コンを納入先に運搬し、納品したときは、償却制運転手もxxも納入先の係員に納品伝票を渡し、受領書に印をもらう。伝票には、会社の名前が印刷され、運搬したミキサー車の車両番号・納入場所・納入時間・納入数量・生コンの配合具合等を記入するようになっている。連続した打設作業の場合は打設の都度運転手が受領書を受け取るので
はなく、その作業の最後に当たった運転手が一括して受領印をもらうことになっている。
⑸ 日報
退社する際には、償却制運転手もxxも同じ様式の日報を会社に提出する。日報には、運転手氏名・車両番号・現場名・運搬量・所要時間等を記入する。
⑹ 休日・休暇
会社の休日は、日曜・祭日及び第1・第3土曜日とされている 償却制運転手についてもxxと同じ扱いになっている。有給休暇は償却制運転手には与えられていない。償却制運転手が仕事を休む場合及び早退する場合は、事前に配車係に連絡する。
⑺ 勤務時間
償却制運転手についてはxxと異なり、勤務時間の定めはない。従って、償却制運転手は退社時間を指示されることもない。しかし、追加の仕事がある場合は、待機する必要があるので、追加の仕事があるか否かがはっきりするまで帰宅することはできない。xxの退社時間が午後4時となっているので、償却制運転手もこれに合わせている。
⑻ 仕事上の指示
就業中の指示は毎週月曜日の朝礼で行われ、帽子・ヘルメットの着用といった具体的注意もされている。また、運搬中は無線を使って指示されている。これらの指示・注意はxxと区別されずに行われている。
5 本件契約による償却制の実態
⑴ 会社の生コンの運搬に従事している運転手のうち、分会員を含む4名は契約による償却制運転手である。契約第2条は、分会員が会社に委託販売品の買付注文をして、両者でその品名・数量・販売価格・引渡条件を個別契約において取り決めることを規定している。しかし、分会員が会社に対し買付注文をしたこと及び運搬数量・販売価格について交渉したことはなく、更に、販売先を自らさがしたこと及び会社以外で生コンを運搬したことはない。
⑵ 覚書第1条の委託手数料は、値上げ改定されたことがあり、本件申立時のそれは、償却制運転手がミキサー車を所有する場合、運搬する生コン1立方メートル当たり2,500円である。委託手数料の改定の交渉は、C3がA2、A3の依頼を受けて社長と行っていた。
⑶ 償却制運転手は、毎月20日までに請求書を会社に提出する。会社はこれを確認し、総務部長が作成する支払明細書に基づき控除額を算出したうえ、支払明細書を付けて手取り額を償却制運転手に渡す。償却制運転手は、会社に総水揚額についての領収書を提出する。xxは、給料制であるので給与明細書が渡されている。
xxには、早出の場合も時間外手当が支給されるが、償却制運転手には支給されない。償却制運転手には、夏・冬の一時金及び退職金は支給されない。
⑷ 生コン業界においては、生コンの品質の保証及び製造責任の所在の明確化のため、生コン会社を識別する必要があるので、各生コン会社の系列ごとにミキサー車等の車体、セメントサイロ等の着装色が統一されており、その色のことをセメントカラーと称している。会社のセメントカラーは、濃淡はあるものの宇部セメント系列を示す青色であり、会社が所有者又は使用者となっているミキサー車はいずれも青色に塗られている。
ミキサー車のキャビンには、「ダン生コン」という社名及びミキサー車の車両番号が会
社によって書かれている。A3が運転するミキサー車のキャビンには、会社によって「A3」という苗字も書かれている。また、ドラムには、「宇部セメント」又は「ダン生コン」と書かれている。
⑸ 給油については、会社内のスタンドでxxと同様に行っている。会社は償却制運転手に対し、会社のスタンドを使用するようとの指定はしていない。価格は市価より安いということはない。
⑹ 車検については、特に会社からの指示はないが、A3は、会社の指定工場で車検を受けている。なお、会社の車両係から車検の日を指定されたことがあった。
⑺ 修理については、償却制運転手は工場の指定はされていない。
⑻ 自動車保険については、強制保険・任意保険とも会社が契約者となっている。その保険料は、償却制運転手が負担している。
⑼ 制服については、xxと同様、会社名の入ったものが無料で支給されている。
⑽ 所得税、社会保険料については、償却制運転手は、会社から得る収入から源泉徴収されていない。
⑾ 定期健康診断については、xxと同様、1年に1回会社の費用で受けている。
6 会社とxx建材工業及び丸生商事との取引
⑴ 会社が「建材店」と呼ぶものには、償却制運転手である分会員及びC2のほかに、xx建材工業及び丸生商事がある。
⑵ xx建材工業は、58年から会社と取引きを始め、現在、5台のミキサー車を所有している。ミキサー車には、xx建材工業の経営者であるC4本人及び4名の労働者が乗務している。59年3月、生コン納入先でxx建材工業のミキサー車が運搬した生コンの品質をめぐってトラブルが生じたため、ミキサー車5台のうち3台は、その車体を青色に塗り変えて、会社の生コンの運搬専用としている。残りの2台は白っぽい色のままで、他の生コン会社で運搬に使われている。ミキサー車には、会社と連絡をとるための無線装置はつけられていない。
⑶ 丸生商事は、C3によって設立され、59年9月から会社の生コンの運搬を始め、現在、 C3が登録名義人のミキサー車10台及び償却制の運転手所有のミキサー車1台を使っている。ミキサー車の車体は青色で、キャビンに、「丸生商事」と書かれている。
会社と連絡をとる無線装置は、会社から買いとったミキサー車には会社のものが貸与されてつけられているが、その余のミキサー車にはつけられていない。
⑷ xx建材工業及び丸生商事は、当日、会社に対して、時間・場所・数量を指定して、買付注文を行うことがある。
7 分会結成と結成以降の会社との交渉の経緯
⑴ A3は、59年1月25日(以下年はいずれも59年である)、生コン運搬中にミキサー車を横転させる事故を起こした。事故の責任の所在及び修理代金の負担方法をめぐって、会社とA3は話し合いを続けたが結着がつかず、A3は、償却制のままでは多額の修理代を今後負担することになると悩み、3月31日、事故の処理方法を組合のA5執行委員(以下「A5」という)に相談した。A5は、A3から、「xxと償却制運転手とでは賃金額の差が相当あり、償却制運転手はxxと同様な社会保険の適用は受けておらず、償却制の運転手が他に3名いる」旨を聞き、他の償却制運転手とも相談のうえ、会社と話し合
いをするよう助言した。
4月、A3は、A2、A4とともに会社に対し、xxと同じ扱いをするよう申し入れた。会社は、4月及び7月に上記申入れに対し、①会社名義になっているA3らの乗務するミキサー車について登録名義人を運転手本人に変えること、②新契約を締結すること、を求め、また、ミキサー車の車体の色を自由に塗り変えてよい、と言った。A3らは、会社がこのようなことを言うのは初めてのことであり、非常に不安に思い、個々に対応するよりも集団で交渉できるようにするため、7月16日分会を結成し、分会長にA2を選出した。
⑵ 7月17日、A5、組合のA6執行委員(以下「A6」という)ほか2名は、会社に、
「労働組合加入通知書」「組合結成にあたって」「団体交渉申入書」(以下「三文書」という)を持参して、償却制運転手のうち、A2、A3、A4が労働組合を結成したこと、同月26日に下記の内容を要求する団体交渉(以下「団交」という)をもつこと、を申し入れた。
「① 会社は、従業員に対し、組合員であること、組合に加入しようとすることを理由に解雇、その他不利益な取扱いを行ったり、正当な理由なく団体交渉を拒否したり、その他労働組合法第7条にいう「不当労働行為」は一切行わないこと。
② 会社は、組合に対し、掲示板、組合事務所の設備、連絡のための電話の使用取次ぎ、会議等の場合の会社施設及び什器の使用などを常識的範囲において認めること。
③ 組合員の身分、賃金、労働条件等の問題については、会社は、事前に組合と協議し、労使双方同意のうえ円満にこれを実施すること。」
上記申し入れの場には、社長及びB3工場長が出席し、途中からC1が加わった。会社は、「分会員は、建材店の経営者であり、会社と雇用関係にはない。契約上の商談はするが、団交には応じられない」と回答し、三文書の受取りを拒否した。
⑶ 7月19日、分会員は、重ねて上記内容の団交に応じるよう求めた。
⑷ 同月23日、会社は、分会員のタイムカードをはずした。
⑸ 同月24日、A2、A3は、B3工場長に団交を申し入れたが、同人は社長に相談する、と答え、団交申入書は受け取らなかった。分会は、会社に対し、同日、三文書及び同日付けの「団交申入」を配達証明郵便で送付し、別途、団交拒否に対する抗議文書を郵送した。
⑹ 同月26日、A6は、団交日時の設定のため会社に出向いたところ、社長は、分会が同月24日に送付した文書をA6につき返した。
⑺ 同月30日、分会は、「要求書」を会社に内容証明郵便で送付した。要求内容は、①年次有給休暇を与えること ②雇用保険制度を適用すること ③総水揚額の1か月の最低保障は60万円とすること ④時間外作業に賃金を支給すること、である。
⑻ 8月3日、会社は、分会員及びC2の名札の表示を各人の苗字からそれぞれ建材店名に書き直した。
⑼ 同月10日、組合は、団交の応諾を求めて当委員会に不当労働行為救済申立てを行った。
8 本件申立以降の会社の対応
⑴ 8月22日、同盟支部は、「意見書」を公表し、その中で同盟支部は、分会員は建材店主である、と理解していること、組合に対し節度ある態度をとるよう求めていること、を
明らかにした。
⑵ 同月27日、社長は、A2及びA4に対し、ミキサー車の登録名義人を個人名義に変えるよう求め、応じない場合には、車両登録を抹消する、と言った。これに対し、分会は、同月30日、この通告は車両だけの問題ではなく、分会員の身分をおびやかすものである、として、会社に対し、抗議文書を内容証明郵便で送付した。
⑶ 9月7日、分会員は、会社のB4営業部長から長岡京市にある料理旅館「松月」に呼ばれ、「会社は、京都生コンクリート工業組合を抜けてこれから仕事をとっていかなくてはいけない。会社に二つの労働組合ができると取引関係から疑念をもたれ仕事を取りにくくなる。君たちの要求は会社にすべてのますから組合を結成するのをやめてくれないか」という趣旨の話しをされた。
⑷ 従来、分会員に対し、会社からxxと同じように会社のネーム入りの制服(夏服及び冬服)が無料で支給されていたが、分会員は、同月27日、B3工場長から、今後は制服を買い取るよう言われた。なお、この制服には会社のネームが入っていない。
第2 判断
1 組合の主張
組合は、分会員は支配従属の関係にある労務の実態からみて、会社との間に雇用関係を有していることは明らかであり、従って、会社が使用者に当たらないとして組合との団交に応じないことは労働組合法(以下「労組法」という)第7条第2号に該当する不当労働行為である、として次のように主張する。
⑴ 契約及び覚書は、本来雇用の一形態と認めるべき償却制をおおい隠すためのものであり、その内容は労働の実態に反したもので、会社と分会員との間に契約及び覚書の内容についてxx意思の合致があったか否か疑問である。
⑵ 分会員は、xx建材工業・丸生商事と異なり、会社以外の生コン業者から生コンを運搬したことはなく、また、セメントカラーの異なる他社で生コンを運搬するのは不可能であって、会社と専属的な関係を有している。
⑶ 分会員は、業務の内容・方法について会社と交渉した事実はなく、会社の指示どおりに運搬するしかないのであり、諾否の自由はない。
⑷ 分会員は、xxと同様に服務上及び業務遂行上の指示を会社から受け、また、業務に伴う事柄についてもxxと同様に取り扱われている。
⑸ 分会員は、実質的にみてミキサー車を所有しているとはいえない。
⑹ 分会員が受け取る委託手数料は、労務提供に対応した出来高払い賃金である。
⑺ 分会員は、xx建材工業・丸生商事と異なり、独立自営業者としての実体を有していない。
2 会社の主張
会社は、会社と「建材店」とは下請取引関係にあり、会社は「建材店」の使用者には当たらないから組合との団交に応じなくても不当労働行為ではない、として次のように主張する。
⑴ 会社が「建材店」と締結した契約は、双方が対等の立場で協議した結果であり、契約第2条に基づく個別契約は、その都度締結されてはいないとしても会社と大手建設業者等との契約に対応して包括的に処理されている。
⑵ 「建材店」が会社とのみ取引きをしているのは、契約に基づくものではなく、「建材店」自らが選択した結果である。
⑶ 「建材店」には、契約上の履行義務があるだけで支配従属関係としての拘束はない。タイムレコーダーの一時使用は、事務処理のためであり、名札は、作業開始時間を周知徹底させる手段であり、配車係の指示は、「建材店」とxxとのトラブルを避け生コン積込作業を順調に進めるためであり、走行道順の指示は、地元住民の安全と健康を守るためである。出退勤・勤務時間についても「建材店」を拘束したことはない。
⑷ 「建材店」が割賦支払を終えるまでミキサー車の所有者名義が販売会社(ディーラー)となり、使用者名義が会社となっているのは、「建材店」が購入しやすいよう会社が便宜を図ったためである。最終的には、ミキサー車は「建材店」の所有となる。また、ミキサー車の名義変更に関して会社が「建材店」を拘束したことはない。ただ、「建材店」が名義変更に応じなかっただけである。
⑸ 「建材店」は、販売実績に基づく手数料から諸経費を差引いて会社と決済する償却制という方法をとっている。このように償却制は、給料制とは異質なものであり、その差異は、出来高払制と給料制との差異とはxx的に異なるものである。
3 当委員会の判断
⑴ 償却制の運転手を用いることは、企業にとっては、一般に、その仕事量を弾力的に調整することによって市況の変動に対応することができ、また、事故等による責任負担を免れることができるなどのメリットがある。運転手にとっては、仕事量がある限りはより多くの収入が期待でき、また、車両をxx自己所有とすることによって自ら他の運転手を雇用する独立自営業者に発展できる可能性がないわけではなく、更に、源泉徴収される給与所得に比べて税金の面での事実上の利点があるといわれている。その半面、景気の変動に左右され、また、病気や事故等の場合の危険を負担しなければならない、という不利益を伴うものである。
分会員は、会社でミキサー車に乗務する以前から生コン業界においてミキサー車運転の業務に携わっており、償却制のもつこれらの利点や問題点について知識を有していたと認められ、また、前記第1の2⑷で認定のとおり、会社から説明を受け、xxと償却制との選択の余地をも与えられていたことが認められる。分会員がxxとしての勤務に固執せず、償却制運転手として従事していたのは、上記償却制のメリットをも認識したうえでのことと認められる。そのことは、A3の事故による車両修理費負担の危険が現実化したことがひとつの契機となって紛争に発展したことからも推測することができる。しかしながら、以上の事実は、分会員が労組法上の労働者であるか否かを判断するに 際しては無関係ではないにしても決定的な事実ではない。重要なことは、分会員がどのような条件の下において運搬業務に従事しているか、その条件がxxのそれとどのように実質的な差異を有しているか、であり、単に契約の文言あるいは車両の所有権や登録名義、分会員の得る収入の計算方法といった形式面によって決せられるべきものではな
い。
以下においては、このような観点から分会員のおかれた実質的な状況に基づき、労組法上の労働者性及び使用者性の有無について判断する。
⑵ 分会員の専属性について
前記第1の5⑴で認定のとおり、分会員は、xx建材工業とは異なり会社以外の生コン業者に出入りしたり、他社の生コンを運搬した形跡はない。また、前記第1の5⑷、
6⑵で認定のとおり、xxと同様会社のセメントカラーシステムにxxxまれており、xx建材工業のミキサー車が納入先でトラブルをおこしたことにより車体の色が青色に塗り変えられたことからも推認されるように、他社の生コンを運搬することは困難な状況にある。よって、分会員と会社とは、契約の文言上はともかく、事実上専属的な関係にあると認められる。
⑶ 日常勤務の実態について
分会員の出退勤の扱いについては、前記第1の4⑴、⑵で認定のとおり、xxとほとんど区別がないこと、休日・休暇・勤務時間については、前記第1の4⑹、⑺の認定からみれば、分会員は事実xxxに合わせざるを得ないことが認められる。
更に、日常業務の遂行に当たっては、前記第1の4⑶、⑷、⑸、⑻に認定のとおり、配車の方法、伝票及び日報の処理、無線の設置により分会員はxxと同じ方法で同じ内容の指示を受けており、分会員が会社の指揮命令下にあることは明らかである。
これらのことは、会社とその納入先との取引の実行の際に、会社が円滑に配車をするためには償却制とxxとの区別なく一体として会社組織にxxxみ、業務を遂行させる必要があることの表われであって、分会員の日常業務は契約の文言が示すような商品委託販売の実行といえるものではない。
⑷ 「個別契約」の成否について
会社が、前記第2の2⑶の主張においていう契約上の履行義務の具体的内容は、契約第2条による個別契約によって定めるものと認められる。しかし、前記第1の5⑴で認定のとおり、個別契約が会社と分会員との間で何らかの個別取引きの都度締結された事実はなく、また、個別契約が会社と納入先(大手建設業者等)との契約をうけて一定期間包括的に処理されているという点についての立証もない。
⑸ 分会員の手取収入について
分会員の手取収入額は、前記第1の2⑵で認定した償却制によって計算される。これによれば、この計算の基礎となるのは、契約第5条にいう「受託手数料」(委託手数料と同旨と解せられる)であり、その単価は、覚書第1条で具体的に定められているところである。
ところで、委託手数料が発生するためには、個別契約がその前提となるが、前記⑷の判断のとおり個別契約の存在が認められない以上、分会員の収入を委託手数料とみることはできず、かえって、前記⑵、⑶の判断からすると、これは、運搬労働に対する具体的対価にほかならない。
⑹ ミキサー車の所有について
分会員は、少なくとも車両代金を払い終った後は、ミキサー車を自己の所有とすることとなるが、その自由な使用収益は、前記⑵で判断のとおり事実上制限されており、独立自営業者として所有するものとはいえない。よって、ミキサー車を所有していることを理由に分会員が独立自営業者であるとする会社の主張は、肯認することができない。なお、xx建材工業のミキサー車のうち3台については、分会員と同様に、前記第1 の6⑵で認定のとおり、車体が青く塗られ会社のセメントカラーシステムにxxxまれ
ており、xx建材工業がそれを自由に使用収益することは制限されていると認められる。しかし、xx建材工業は、会社以外に出入りできるミキサー車を他に2xxしているので、xx建材工業としては、会社専用のミキサー車があるからといって独立自営業者としての性格がそれにより損われるわけではなく、分会員と同様に論じることはできない。
⑺ 結論
以上総合すれば、分会員は、会社との専属関係の中でxxと同様の服務上・仕事上の指示を会社から受けて会社の業務を遂行しており、分会員には独立自営業者としての性格が欠けていることが認められる。
これを会社の側から見れば、前記第1の2⑴で認定のとおり、同じ業務に従事するxxと分会員とに会社が及ぼす支配拘束の方法・程度において多少異なる部分があるとしても、会社は、双方とも会社組織にxxxんでその労働力の構成要素としていることに変わりはなく、会社経営上及び労務対策上の便宜のためその差異を設けているにすぎないと判断できるのである。そうだとすれば、分会員は、会社との関係において労組法第
7条第2号にいう労働者と認めざるを得ない。従って、会社が分会員の使用者でないとして組合との団交を拒否したのは、同条第2号に該当する不当労働行為に当たる。
よって、当委員会は、労組法第27条、労働委員会規則第43条により主文のとおり命令する。
昭和59年12月21日
京都府地方労働委員会 会長 x x x x