A B
(第9,10回)第三者のためにする契約(その3)
明治学院大学名誉教授
xxx x
(その2,3)の復習
◼ 第三者のためにする契約の典型例はどのような契約か
◼ 自賠責保険契約を例にとるのがわかりやすい
◼ 第三者のためにする契約による債権譲渡・債務引受
◼ 従来の債権譲渡・債務引受との違い
◼ 第三者のためにする契約による契約上の地位の譲渡
民法,特別法,判例の適用可能領域
責任保険
(保険法8
条)
生命保険(保
険法42
条)
受益権の取得(信託法88 条)
運送 契約(商法583条)
第三者のためにする契約
(民法537条~539条)
供託
(民法494条~498条)
保険法
信託法
商法
債務引受
(大判大 6・11・1民録23輯 1715頁)
契約上の地位の譲渡(最二判昭46・ 4・23民集
25巻3号
388頁)
電信送金
(最一判昭43・12・ 5民集22巻13号 2876頁)
(大判昭 9・5・25民集13巻829
頁)
民法
特別法
判例法
イニシアティブをとるのは誰か?
◼ 債権者がイニシアティブをとる従来型の債権譲渡・債務引受
◼ 債務者がイニシアティブをとる
「第三者のためにする契約」による債権譲渡・債務引受
債権譲渡(民法466条以下)と 債務引受(民法470条以下)の区別
債権譲渡(始点が移動)
(債権者の交替ともいえる)
債務引受(終点が移動)
(債務者の交替ともいえる)
債権者
(譲受人)
債権
債権者
(譲渡人)
債
権
債務者
債権者
債権
債務者
債
権
第三
債務者
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
◼ 典型例(債権譲渡)
◼ 原因(対価)関係
補償関係
◼ 自働車の保有者が,
交通事故の被害者
(受益者)
対価関係
損害賠償請求権
当事者被保険者
(要約者)
交通事故の被害者に賠償するために,
◼ 当事者
◼ 被保険者(要約者)と保険会社
(諾約者)間の債権譲渡約束で,
◼ 効果
◼ 保険金請求権を被害者(受益者)が,保険会社に対して直接
保
険
抗 金
弁 請
求
権
当事者
第三者のためにする契約
に請求することができる。
保険会社
(諾約者)
◼ 債務引受
◼ 求償が生じない「債務」と,求償が生じる「保証」との区別が理解のポイントとなる。
◼ 1.並存的債務引受
◼ 従来の債務者(要約者)は債務を免れるが,連帯保証人の地位にとどまる。
◼ したがって,要約者が弁済をした場合には,諾約者に求償権を有する
◼ 第三債務者(諾約者)は,連帯債務者ではなく,単独で真の債務者となる。
◼ 2.免責的債務引受
◼ 従来の債務者(要約者)は,完全に債務を免れる。
◼ 第三債務者(諾約者)は,単独で真の債務者となる。したがって求償の問題は生じない。
◼ 第470条(併存的債務引受の要件及び効果)
◼ ①併存的債務引受の引受人〔例えば,第三債務者,自賠責保険の場合なら保険会社〕は,債務者〔=連帯保証人となる〕と連帯して〔真の債務者として〕,債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する〔債務者が二人になるわけではない。従来の債務者は連帯保証人となり,諾約者が,単独の債務者となる〕。
◼ ②併存的債務引受は,債権者と引受人となる者との契約によってすることができる〔例外的な場合〕。
◼ ③併存的債務引受は,債務者と引受人となる者との契約〔すなわち,第三者のためにする契約〕によってもすることができる〔これが原則。連帯債務や保証契約の場合,ほとんどの場合,債務者間で連帯とか保証委託がなされるから〕。この場合において,併存的債務引受は,債権者が引受人となる者に対して承諾〔受益の意思表示。ただし不要の場合が多い〕をした時に,その効力を生ずる。
◼ ④前項の規定によってする併存的債務引受は,第三者のためにする契約に関する規定に従う〔当然であり,不要の規定〕。
◼ 契約当事者の一方(諾約者)が,第三者(受益者)に対して直接債務を負担することを契約の相手方(要約者)に約束する契約(民法537条~ 539条)。
交通事故の
対価関係
当事者
◼ 典型例(債務引受)
◼ 原因(対価)関係
◼ 自働車の保有者が,交通事故の被害者に
被保害険者金限度 損害賠償請求権
(受益者)
被保険者
(要約者)
補償関係
保
賠償するために,
◼ 当事者
◼ 被保険者(要約者)と保険会社
(諾約者)間の並存的債務引受の約束で,
◼ 効果
険料支払
当事者
第三者
のためにする契約
◼ 保険金の限度で被害者(受益者)は,保険会社に対して直接に損害賠償請求をすることがで
保険会社
(諾約者)
◼第471条(併存的債務引受における引受人の抗弁等)
◼ ①引受人は,併存的債務引受により負担した自己の債務について,その効力が生じた時に債務者が〔債権者に対して〕主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
◼ ②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは,引受人は,これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において,債権者に対して債務の履行を拒むことができる
〔履行拒絶の抗弁〕。
◼ 第472条(免責的債務引受の要件及び効果)
◼ ①免責的債務引受の引受人〔例えば,第三債務者〕は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し〔すなわち,単独の債務者 となり〕,債務者は自己の債務を免れる。
◼ ②免責的債務引受は,債権者と引受人となる者〔例えば,第三債務者〕との契約によってすることができる。この場合において,免責的債務引受は,債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知〔債権譲渡の対抗要件の場合と同様に通知〕した時に,その効力を生ずる。
◼ ③免責的債務引受は,債務者と引受人となる者〔例えば,第三債務者〕が契約をし,債権者が引受人となる者に対して承諾〔債権譲渡の対抗要件の場合と同様の承諾〕をすることによってもすることができる。
◼第472条の3(免責的債務引受における引受人の求償権)
◼ 免責的債務引受の引受人は,債務者に対して求償権〔この点は,並存的債務引受の場合とは異なる〕を取得しない。
◼上記の条文によれば,免責的債務引受人は,債務者に対して求償権を取得しないという。
◼それでは,反対に,併存的債務引受人が,債務者に対して求償権を取得するのはなぜか?
弁済によって債権が消滅する場合と消滅せずに移転する場合との区別
◼ 債務者が弁済した場合 ◼ 保証人が弁済した場合
110000万万円円
保証人
弁済
債権者
債務者
債権者
保証人
債務者
弁済
債務は消滅し,保証責任も付従性によって消滅する。
(求償権は発生しない。)
保証人の求償権を確保するために,
債務は消滅せず,保証人へと法定移転する。
(求償権が発生する。)
◼ 新設された民法539条の2を賃貸借契約の移転を例として理解する。
◼ 理解のコツは,契約の移転の例を,旧賃貸人と新賃貸人との間の契約として構成することである。
◼ 新設された民法539条の2
◼ 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者に移転する。
同一当事者間の契約で権利と義務を同時に移転する方法の解明
旧賃貸人が権利を譲渡
(通常の債権譲渡によることで可能)
新賃貸人が債務を引受け
(第三者のためにする契約によることで可能)
賃借人
(債務者)
賃料債権
債権譲渡通知
賃貸人
(債権者)
抗弁
債権譲渡
契約
新賃貸人
(譲受人)
対価関係
賃借人
(受益者)
使使用用収収益益
賃貸人
(要約者)
抗弁
債務
引受契約
(補償
関係)
新賃貸人
(諾約者)
最二判昭46・4・23民集25巻3号388頁
賃貸人の地位の譲渡の場合,新所有者に義務の承継を認めることが賃借人にとって有利であるから,賃借人の承諾を必要とせず,旧所有者と新所有者間の契約をもってこれをなすことができる。
◼契約の例を賃貸借契約,そして,契約上の地位の移転の当事者を賃貸人と新賃貸人とするとよい。
◼民法539条の2〔契約上の地位の移転〕
◼契約〔賃貸借契約〕の当事者の一方〔賃貸人〕が第三者〔新賃貸人〕との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方〔賃借人〕がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者〔新賃貸人〕に移転する。
◼ 第三者のためにする契約の位置づけ
◼ 第三者のためにする契約の典型例(生命保険契約,責任保険契約)
◼ 第三者のためにする契約の条文の理解
クレジット契約
◼ 売買契約
◼ 割賦販売契約
◼ ローン提携販売
◼ クレジット販売契約
包括信用購入あっせん
(クレジットカード取引)
(2条3項)
個別信用購入あっせん
立替払い・クレジット販売
(2条4項)
(自社)割賦販売
(2条1項)
ローン提携販売
(2条2項)
信用購入あっせん
(2月以上なら1回払でも可)
販売信用
二当事者
特殊の売買→準消費貸借
(民法588条)
自社割賦販売
ローン提携販売
売買と金銭消費貸借の結合→
三当事者(銀行の介入) 債権売買,売主の資力担保必須
(民法569条2項)
三当事者(クレジット会社)
一括立替払いの委託→
債権売買,売主の資力担保不要
(民法569条1項)
クレジット販売
→クレジット販売; →ローン提携販売
目的物
目的物
目的物
通常の売買契約 割賦販売の基本ユニット
売主
A
①
代 代代金 金xx 債債払 xx
い
売
買
契約
引
渡 請
求 権
買主
B
売主
②
割 割 賦 賦代代 代金金 金債支 債権払 権
い
A
割
賦販売
契約
引 所
x x
請 x
x 留
x x
抗
弁
買主
B
目的物
①引渡し
①引渡し
Simultaneous performance Buy now, pay later.
割賦販売の基本ユニットの応用(1/5)ローン提携販売(1)割賦販売? →基本
②保証人
◼ 従来の考え方によると,ローン提携販売は,経済的には,割賦販売と同じ効果を生じるが,法律的には,売買と消費貸借契約との組み合わせに過ぎないとしてきた。
目的物
金融機関
C
④貸金の
履行請求
売主
A
売
買代金
債権
③
一括
弁済
売
買
契約
引
渡 請
求 権
所
有権
留保
抗
弁
買主
B
目的物
①引渡し
◆ しかし,これでは,金を借りて,売買契約をしたのと
同じであり,これを割賦販売として扱うことは困難である。
割賦販売の基本ユニットの応用(2/5)クレジット販売(三当事者契約)→基本
③債権売買代金
信販会社
C
②債権売買
売主
A
割
賦割代賦金代債金
権
割
賦販売
契約
引
渡 請
求 権
所
有権
留保
抗
弁
買主
B
目的物
◼ この契約形態は,割賦販売の一
目的物
種と考えることが容易である。
①引渡し
◼ しかし,割賦販 売と債権売買が別々の契約とみなされ,抗弁の切断を正当化するおそれがある。
◼ 最高裁も,特別
法が適用されない場合に,抗弁の切断を認めている(最三判平 2・2・20判タ731
号91頁,判時
1354号76頁)。
割賦販売の基本ユニットの応用(3/5)クレジット販売(第三者のためにする契約)→基本
③債権売買代金支払
(受益の意思表示)
信販会社
C
売主
A
割割賦賦代代金金債債
権権
②
債権譲渡
契約
①
割賦販売
契約
引
渡 請
求 権
所
有権
留保
抗
弁
買主
B
目的物
◼ 同じ契約でも,
目的物
「第三者のためにする契約」の構成によると,状
況が変わってくる。
①引渡し
◼ 第1に,割賦販売も債権売買も同一当事者間の契約となる。
◼ 第2に,信販会社
は,契約当事者ではなくなる。
◼ 第3に,xxの規
定によって,信販会社は,抗弁の対抗を受けることになる(最高裁判決の克服)。
ローン提携販売(2)(三者契約)→基本
目的物
③買主経由
売主への融資
②保証人
金融機関
C
②債権売買
資力担保
履行請求
売主
A
割
賦割代賦金代債金
権
割
賦販売
契約
引
渡 請
求 権
所
有権
留保
抗
弁
買主
B
目的物
①引渡し
◼ ローン提携販売を実質的な売主への融資と考え,債権売買として構成すると,割 賦販売の一種と考えることが容 易である。
◼ しかし,割賦販 売と債権売買が別々の契約とみなされ,抗弁の切断を正当化するおそれがある。
ローン提携販売(3)(第三者のためにする契約)→基本
目的物
③債権売買
代金支払い
②将来資力
の担保
金融機関
C
履行請求
売主
A
割
賦割代賦金代債金
権
債
権譲渡
契約
割
賦販売
契約
引
渡
請
求 x
x
所
有権
留保
抗
弁
買主
B
目的物
◼ ローン提携販売を実質的な売主への融資と考え,かつ,「第三者のためにする契約」のとして構成することができる。
◼ 第1に,割賦販売も債
①引渡し
権売買も同一当事者間の契約となる。
◼ 第2に,xxの規定に
よって,金融機関は,抗弁の対抗を受けることになる。
◼ 第3に,金融機関は,契約当事者ではないが,買主に対する直接
の権利と売主に対して,債権売買の担保責任 を追及できる。
◼ プペイドカード
◼ 銀行振込み
◼ クレジットカード取引
売主
プリペイド・カードの結成の仕組みについては,右の図のほかに,カード発行会社が債務引受をしているとの説もある。
代金 代債金権債権
債権譲渡
カード利用者買主
預預託
託金 ①
金返 預
返還 託
還請 金
請求 支
求権 払
権
カード発行会社
(諾約者)
第三者のためにする契約の応用例銀行振込みの構造
受益者
(振込受取人)
対価関係
債務者
(振込指図人)
預
金
債権
振込
委託
(債権譲渡)
抗
弁
諾約者
(被仕向銀行)
振込金支払委託
(債務引受)
要約者
(支払指図人)
(仕向銀行)
クレジットカード国際ブランド
(Visa, MasterCard, etc.)
メンバー契約 メンバー契約
受益者・債権者
(アクワイアラー)
(Aeon Credit)
② 加盟店
代 契約
金 (対価
支 関係)
払
要約者
③債権売買
④代金支払
新債権者
(イシュアー)
(三井住友カード)
⑤
カード 代
会員 金
契約 支
払
諾約者
(加盟店)売主
代金 代債金権債権
①債権売買
(カード利用者)買主
第三者のためにする契約
◼ 今回の講義「第三者のためにする契約」は,今回の講義の中で,もっとも難解なテーマです。
◼ 皆さんに「分かりましたか?」と聞いても,頼りない答えしか返ってこないことが予想されるため,以下の方法で,皆さんが分からないと感じた点を明らかにして,理解を深める方法を採用します。
◼ 受講者をランダムに3人ずつ,4つのグループに編成します。これから10分間,講義を聴いてわからなかった点をそれぞれのグループで討議し,その結果を報告してください。
◼ 10分はすぐに過ぎます。以下の順序で要領よくグループ討議をしてください。
1. ブレイクアウトルームに入ったら,簡単に自己紹介をしましょう(3分以内)。
2. 10分後に,そのグループの代表者がわからなかった点を報告しなければなりません。その代表者を決て下さい。毎回,代表者は変わるので,自発的にでも,じゃんけんでもよいので,代表者を決めて下さい。(1分以内)
3. 講義を聴いてわからなかった点をみんなで話し合ってください。代表者がそれをメモして下さい(2分×3(人)=6分)。
4. 10分後に終了の合図をしますので,皆さん,メインルームに戻ってください。
◼ 各グループの報告を受けて,講師がそれらの質問について,コメントを行います(5分)。
◼ 解除の要件(民法540条~543条)
◼ 催告による解除
◼ 催告によらない解除
◼ 債権者の責めに帰すべき事由による場合
◼ 解除の効果(民法544条~546条)
◼ 解除権の消滅(民法547条~548条)の復習をしておいてください。