Contract
実務対応報告公開草案第 19 号
有限責任事業組合及び合同会社に対する出資者の会計処理に関する実務上の取扱い(案)
平成 18 年 1 月 27 日企業会計基準委員会
目 的
平成 17 年 8 月 1 日から施行されている有限責任事業組合契約に関する法律(平成 17 年
法律第 40 号)(以下「有限責任事業組合法」という。)により、有限責任事業組合が定めら
れた。また、平成 17 年 7 月 26 日に公布された会社法(平成 17 年法律第 86 号)では、新たに合同会社に関する規定が設けられた。
有限責任事業組合や合同会社への会計処理は、他の事業体への出資と同様に、企業会計審議会から公表された「金融商品に係る会計基準」や「連結財務諸表原則」(以下「連結原則」という。)に基づいて行われることとなる。本実務対応報告では、現行の会計基準等に基づくこれらの事業体への出資の取扱いについて確認することとした。
会計処理
有限責任事業組合に対する出資者の会計処理
Q1 個別財務諸表上、有限責任事業組合への出資に関する会計処理はどのように行う
か?
A 有限責任事業組合は、有限責任事業組合契約によって成立する組合をいい(有限責任事業組合法第 2 条)、組合員の有限責任が法的に担保されている(有限責任事業組合
法第 15 条)など、民法上の組合を活用して事業活動を行うにあたっての限界に対応するために創設されたものである。すなわち、組合員の有限責任により組合財産の分配規制が設けられているものの、組合財産は民法第 668 条等の準用(有限責任事業組合
法第 56 条)により、組合員間の共有となり、民法上の組合と同様に、その持分及び持分から生じる損益は直接的に組合員に帰属すると考えられる。このため、現行の会計基準等のもとでは、当該有限責任事業組合への出資は、民法上の組合等への出資と同様に、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第 14 号「金融商品会計に関する実務指針」(平成 17 年 2 月 15 日最終改正)(以下「金融商品会計実務指針」という。)第 132項により会計処理を行うことが適当であると考えられる。
具体的には、有限責任事業組合の財産の持分相当額を出資金(意思決定及び業務執行に係る関与の度合いにより、証券取引法第 2 条第 2 項に基づいて有価証券とみなされるものについては有価証券)として計上し、当該有限責任事業組合の営業により獲得した損益の持分相当額を、有限責任の範囲内で、当期の損益として計上することになる。
ただし、有限責任事業組合への出資についても、他の組合等への出資と同様に、その契約内容の実態及び経営者の意図を考慮して、経済実態を適切に反映する会計処理及び表示を選択することとなる(金融商品会計実務指針第 308 項)。具体的には、有限責任事業組合は、出資の価額を限度とするものの、共同で営利を目的とする事業を営むための有限責任事業組合契約により組成され(有限責任事業組合法第 2 条及び第 3
条第 1 項)、原則として総組合員の同意により業務執行が決定される(有限責任事業組
合法第 12 条)ことから、経済実態を適切に反映するように、組合財産のうち持分割合に相当する部分を出資者の資産及び負債等として貸借対照表に計上し、損益計算書についても同様に処理することも考えられる。また、状況によっては貸借対照表について持分相当額を純額で、損益計算書については損益項目の持分相当額を計上する方法も認められるものと考えられる。
なお、組合員間の合意により出資比率と異なる損益分配を行うことを定めた場合(有限責任事業組合法第 33 条)には、当該損益分配の比率を考慮のうえ、損益の持分相当額を調整することになる。
また、Q2 にあるように、有限責任事業組合が出資者の子会社又は関連会社となる場合があるが、この場合においても、出資金又は有価証券として計上する場合には、個別財務諸表上、取得原価ではなく、持分相当額をもって貸借対照表価額とすることに留意する(この点については、日本公認会計士協会 会計制度委員会「金融商品会計に関するQ&A」(以下「金融商品会計Q&A」という。)Q71 の投資事業組合の処理を参照のこと)。
Q2 連結財務諸表上、有限責任事業組合への出資に関する会計処理はどのように行う
か?
A 企業会計審議会から平成 9 年 6 月に公表されている「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」第二部 二 1 では、子会社及び関連会社の範囲には、会社のほか、会社に準ずる事業体が含まれるものとされ、また、平成 10 年 10 月に公表されている「連結財務諸表制度における子会社及び関連会社の範囲の見直しに係る具体的な取扱い」一及び二では、その範囲を「会社、組合その他これらに準ずる事業体(外国の法令に準拠して設立されたものを含む。)」としている。
このように、組合は、子会社及び関連会社の範囲に含まれ、これまでも例えば、投資事業有限責任組合は、会社及び組合その他これらに準ずる事業体に含まれると解さ
れていることから、有限責任事業組合についても同様に、子会社及び関連会社の範囲に含まれる事業体に該当すると考えられる。
また、民法上の組合の財務諸表に基づいて当該組合への出資等に対応する数値が個別財務諸表に反映されている場合でも、子会社又は関連会社に該当するかどうかについては、支配力基準又は影響力基準によって判定するものと解されている。有限責任事業組合では、共同の事業を営むことを約するため、組合員が 1 人の組成は認められておらず、また、原則として総組合員の同意により財務及び営業又は事業の方針が決定されることから、複数の連結会社が同一の有限責任事業組合に出資する場合などを除き、ある出資者の子会社には該当しないことが多いと思われるが、有限責任事業組合についても民法上の組合と同様に、支配力基準又は影響力基準によって判定することが適当であると考えられる。(この点については、日本公認会計士協会 監査委員会
「連結財務諸表における子会社等の範囲の決定に関するQ&A」Q12 を参照のこと。また、有限責任事業組合が子会社又は関連会社となった場合における連結上の取扱いについては、金融商品会計Q&A Q71 の投資事業組合の処理を参照のこと。)
なお、有限責任事業組合の組成が、独立企業要件、契約要件、対価要件及びその他の支配要件のすべてを満たし、当該有限責任事業組合が共同支配企業(「企業結合に係る会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)二 6)に該当する場合(企業会計基準適用指針第 10 号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」
(以下「結合分離会計適用指針」という。)第 175 項)、当該組合に対する共同支配投
資企業は、持分法に準じた処理方法を適用する(結合分離会計適用指針第 190 項)。
また、有限責任事業組合法第 33 条の規定により、組合員間の合意により出資比率と異なる損益分配を行うことを定めた場合には、個別財務諸表上の会計処理を行う場合と同様に、当該損益分配の比率を考慮のうえ、損益の持分相当額を調整することに留意する。
合同会社に対する出資者の会計処理
Q3 個別財務諸表上、合同会社への出資に関する会計処理はどのように行うか?
A 合同会社への出資については、これまでの有限会社への出資に準じ、個別財務諸表上は出資金として、取得原価をもって貸借対照表価額とし、当該合同会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときには、相当の減額を行い、当該評価差額は当期の損失として処理(減損処理)することが適当と考えられる。
なお、本実務対応報告の検討においては、内部自治が徹底している合同会社への出資は組合的出資の色彩が強いことを考慮し、当該出資の会計処理については、有限責任事業組合への出資と同様に、当該出資者の持分割合に相当する部分を出資金に反映
し、合同会社の営業により獲得した損益を当期の損益として計上することも認められるべきではないかという考え方もみられた。
しかし、合同会社は法人格を有しており、資産を保有し負債を負っている。また、合同会社は、存続期間を定める必要もなく、他の会社形態への組織変更も認められていることなど、事業の永続性や安定性が考慮されている。このように、その法的性質は必ずしも有限責任事業組合のそれと同一ではなく、組合よりもむしろ株式会社に近い部分もある。したがって、子会社株式の会計処理を含む現行の会計基準等における体系の下では、上記のような考え方を採ることは困難であると考えられる。
ただし、子会社株式の会計処理を含む現行の会計基準等における体系が変わる場合などにおいては、実際に利用される合同会社の状況なども考慮し、今後、会計処理を見直すことはあり得るものと考えられる。
Q4 連結財務諸表上、合同会社への出資に関する会計処理はどのように行うか?
A 合同会社は、他の持分会社と同様に、会社法第 2 条第 1 号に定める会社であり、子会社又は関連会社に該当するかどうかについては、支配力基準又は影響力基準によって判定することとなる。この際、合同会社については、出資者である社員自らが財務及び営業又は事業の方針を決定し、また、当該決定は社員の過半数をもって行われるとされているが、定款に別段の定めがある場合には、その定めによることとなる(会社法第 590 条)。したがって、例えば、定款における別段の定め(会社法第 591 条)により他に業務を執行する社員がおらず、ある出資者によって財務及び営業又は事業の方針が決定される場合には、合同会社の全体の出資者に占める当該出資者の比率にかかわらず、当該出資者が合同会社を支配しているものと考えられる。
なお、合同会社が共同支配企業(企業結合会計基準 二 6)に該当する場合、当該会社に対する共同支配投資企業は、持分法に準じた処理方法を適用する(結合分離会計適用指針第 190 項)。
また、連結上の会計処理は、連結原則に従って行われることとなるが、出資比率と異なる損益分配を行うことを定めた場合(会社法第 622 条)には、有限責任事業組合の場合と同様に、当該損益分配の比率を考慮のうえ、損益の持分相当額を調整することに留意する。
適用時期
Q5 本実務対応報告はいつから適用されるか?
A 本実務対応報告のうち、有限責任事業組合に関する取扱い(Q1 及びQ2)については、公表日以後終了する中間連結会計期間及び中間会計期間並びに連結会計年度及び事業年度から適用し、合同会社に関する取扱い(Q3 及びQ4)については、会社法施行日以後終了する中間連結会計期間及び中間会計期間並びに連結会計年度及び事業年度から適用する。
以 上