DIYはdo it yourself の略語で、一般的には、専門業者に頼らず自らの手で補修や組み立て、日曜大工等を行うこととされていますが、この契約書式例は、 費用負担者が誰かに関わらず、借主の意向を反映して住宅の改修(設備や造作の取替え又は取付けを含む。以下同じ。)を行うことができる賃貸借契約を「DIY型賃貸借」と して定義しています。
平成28年4月
IY型賃貸借に関する契約書式例について
全国で空き家が増加する中、個人の所有する住宅について賃貸住宅としての流通を促進することを目的として、平成25年度に「個人住宅の賃貸流通を促進するための指針(ガイドライン)」が作成され、翌26年度にはDIY型賃貸借を活用するにあたっての資金調達の方法や協議・合意すべき内容についての考え方が整理され、とりまとめられています。
今般、契約当事者間の紛争を未然に防止しつつ、DIY型賃貸借の活用を促進する観点から、DIY型賃貸借に関する契約書式例を作成することとしました。
契約書式例の前提としている想定される契約スキーム
DIYはdo it yourself の略語で、一般的には、専門業者に頼らず自らの手で補修や組み立て、日曜大工等を行うこととされていますが、この契約書式例は、費用負担者が誰かに関わらず、借主の意向を反映して住宅の改修(設備や造作の取替え又は取付けを含む。以下同じ。)を行うことができる賃貸借契約を「DIY型賃貸借」として定義しています。
DIY型賃貸借の実施スキームは、費用負担者と改修の内容によって非常に多岐に渡るパターンが想定されます。関わる主体も、貸主と借主だけでなく、転貸人(サブリース事業者など)が含まれる場合があります。しかしながら、想定される実施スキームそれぞれに契約書式例を示すことは困難であるため、本契約書式例は、借主負担により壁紙の貼り替えや造作棚の設置など小規模な改修を行う場合を想定して作成されています。
本契約書式例は、実施される改修の内容が契約ごとに異なることから、実施される改修の内容を契約当事者がそれぞれ明確に認識し、明渡し時の収去や原状回復義務等について明確に合意することを主眼としています。このことは、改修の内容がより複雑になったり、契約当事者にサブリース事業者も関わったりするなど他の実施スキームにおいても必要な事項であると考えられるため、他の実施スキームの場合でも当事者間の十分な協議のもとで本契約書式例が活用できると考えられます。なお、他の実施スキームにおいて留意すべきと考えられる事項は、「7.その他」において記載しています。
契約書式例の構成と基本的な考え方
賃貸借契約書として、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」(以下「標準契約書」という。)を使用することを想定しています。
本契約書式例は、「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)と「合意書」で構成されています。
・ 標準契約書第8条第2項においては、「本物件の増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」(以下「増改築等」という。)に関して貸主の書面による承諾を要することとしています。このため、DIY型賃貸借において増改築等を行う場合についても、この項に基づき貸主の承諾を得るものとしており、承諾書として「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)を作成し、加えて、双方の権利義務を含む合意事項を明確にするため、「合意書」を作成することとしています。また、標準契約書第18条に、下記3.に例示するような特約事項を記載し、標準契約書と「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)及び「合意書」の関係を明確化することとしています。
つまり、DIY型賃貸借においては、「賃貸借契約書」、「増改築等の承諾についてのお願い」(申請書兼承諾書)、「合意書」の3種の書面を作成することとなります。
標準契約書第18条の特約条項に記載する内容の例
貸主と借主は下記特約事項を記載のうえ、双方記名、押印してください。
特約事項(案)
甲及び乙は、第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に関する修繕及び原状回復の取扱いについては、第9条及び第14条の規定にかかわらず、第8条第2項に基づく甲の承諾書及び甲及び乙が承諾書と併せて取り交わす合意書に記載された規定に従うものとする。工事部分に係る所有権の帰属及び費用の精算の取扱いについても、同様とする。
想定される契約手続きの考え方
入居時に改修を行いたい場合には、借主は、契約締結前に希望する改修が実施可能か貸主に確認します。実施可能な場合には、改修工事の内容や、明渡し時の取扱い(残置するか撤去するか、原状回復義務の有無など)、費用精算の有無などについて貸主と借主の間で協議・合意します。
借主は、貸主に対して、賃貸借契約書を提出するのに併せて、改修工事の内容等を記入した申請書及び合意書を提出します。
貸主及び借主は、賃貸借契約書及び合意書を取り交わし、貸主は、承諾書を借主に対して交付します。
既に本契約書式例を活用し賃貸借契約を締結している借主が、追加で改修の実施を希望する場合は、貸主との間で改修工事の内容等について協議・合意した上で、追加して実施する改修工事の内容等を記入した申請書及び合意書を貸主に提出します。貸主は承諾書を借主に交付し、併せて貸主及び借主の間で合意書を取り交わします。
5.契約書式例
平成 年 月 日
増改築等の承諾についてのお願い(申請書)
(貸主(甲)) 住所 〒
氏名 殿
(借主(乙)) 住所 〒
氏名 印
私が賃借している下記(1)の住宅の増改築等を、下記の通り行いたいため、別紙合意書を添付して申請しますので、承諾及び合意書の取り交わしをお願いします。なお、別紙合意書の合意事項を遵守します。
記
-
住宅
名 称
所 在 地
住戸番号
増改築等の概要
別表のとおり
承 諾 書
上記について、承諾いたします。
なお、別紙合意書の記載事項を遵守します。
平成 年 月 日
(貸主)住所 〒
氏名 印
増改築等の承諾についてのお願い 別表
【増改築等の概要】
増改築等の内容 |
施工方法・使用資材等 |
所有権の帰属 (甲又は乙) |
明渡し時の収去 (残置又は撤去) |
残置する場合の補修 (要又は不要) |
原状回復義務 (有又は無) |
明渡し時の精算等 (有又は無) |
図面等の添付 (有又は無) |
備考 |
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合 意 書
貸主(以下「甲」という。)及び借主(以下「乙」という。)は、契約書第8条第2項に基づき、平成 年 月 日に乙が申請した増改築等の実施に際し、以下の事項について合意する。
(施工及び施工状況の確認)
1 乙は、契約書第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」(以下「増改築等」という。)に際して、本物件(契約書第1条の「本物件」をいう。以下同じ。)及び第三者に損害を与えないように充分留意し、万一損害を与えたときは、その責任において問題の解決にあたらなければならない。
増改築等の実施前にその内容について甲と乙は十分に協議を行うとともに、実施前の原状の確認及び実施後の施工状況の確認のため、甲又は乙の一方が書面等による確認又は立ち会いを求めた場合、他方はそれに応じなければならない。
(所有権の帰属)
2 「増改築等の承諾についてのお願い 別表」(以下「概要表」という。)に記載された増改築等に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。以下「工事部分」という。)に係る契約期間中の所有権の帰属については、概要表に記載のとおりとする。
概要表において、乙の所有物とし、明渡し時に残置するとした工事部分については、乙は、明渡し時にその所有権を放棄し、又は甲に譲渡することとする。
(契約期間中の管理及び修繕)
3 契約書第9条の定めにかかわらず、契約期間中における工事部分に関する必要な管理及び修繕については、乙がその責任と負担で行わなければならない。
(明渡し時の収去等及び原状回復義務)
4 本物件の明渡しに際し、工事部分に係る残置又は撤去の別、残置する場合の補修の要不要及び契約書第14条に規定する乙の原状回復義務の有無については、概要表に記載のとおりとする。
残置する場合に補修を要するとされた工事部分については、明渡し時に工事部分の本来有する機能が失われている場合には、契約書別表第5の規定に準拠して乙が補修を行うこととする。
原状回復義務ありとされた工事部分については、乙の責任と負担で工事部分を原状回復し、又は乙が原状回復費用を負担しなければならない。
(明渡し時の精算等)
5 本物件の明渡しに際し、工事部分についての諸費用の精算又は買取り(以下「精算等」という。)の有無については、概要表に記載のとおりとする。
精算等をありとする場合、本契約が終了したときは、甲は工事部分の残存価値又は時価を乙に対して支払わなければならない。
精算等をなしとする場合、工事部分の精算等に関しては、乙は甲に対し、その事由、名目の如何に関わらず一切の請求をすることはできない。
下記貸主(x)と借主(乙)は、本物件について上記のとおり合意したことを証するため、本合意書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自その1通を保有する。
以上
平成 年 月 日
貸主(甲) 住所 〒
氏名 印
借主(乙) 住所 〒
氏名 印
6.DIY型賃貸借に係る「増改築等の承諾についてのお願い」及び「合意書」作成にあたっての注意点
(1)「増改築等の承諾についてのお願い」関係
1)申請書兼承諾書関係
標準契約書第8条第2項は、貸主の所有物である賃貸住宅に関し、「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」について、所有者である貸主の承諾を得ることを規定し、「作成にあたっての注意点」の中に承諾書(例)として「増改築等承諾書(例)」が記載されています。
DIY型賃貸借に伴って実施される増改築等についても、この中に含まれると考えられることから、「増改築等承諾書(例)」をDIY型賃貸借に対応させたものが本書面です。
借主(乙)は、本承諾書の点線から上の部分を記入し、貸主(甲)に2通提出してください。
貸主は、承諾する場合には本承諾書の点線から下の部分を記入し、1通を借主に返還し、1通を保管してください。
「増改築等」とは、契約書第8条第2項に規定する「増築、改築、移転、改造若しくは模様替又は本物件の敷地内における工作物の設置」をいいます。また、増改築等に係る工事部分(設置した造作及び工作物を含む。)について、「工事部分」としています。「工事部分」は、温水洗浄便座や造作棚など容易に撤去が可能なものから、畳から変更したフローリングなど容易に撤去ができないものまで、全てのものが対象となります。
(1)の欄には、契約書頭書(1)を参考にして記入してください。
増改築等の内容を示した別表を添付する必要があります。別表の内容は契約書第18条の特約事項となりますので、貸主と借主が内容について事前に十分な協議を行い、実施後に齟齬が生じないようにする必要があります。
承諾に当たっての確認事項等があれば、承諾書の「なお、別紙合意書の記載事項を遵守します。」の後に記入してください。
2)申請書兼承諾書に添付する別表関係
① 増改築等の内容:
工事の内容について、簡潔に記入してください。
② 施工方法・使用資材等:
施工方法・使用資材等について具体的に記入してください。図面やカタログがある場合は、当該箇所を参照する旨を記入してください。
③ 所有権の帰属:
契約期間中の工事部分の所有権が貸主にある場合は「甲」、借主にある場合は「乙」と記入してください。
④ 明渡し時の収去:
住宅を明け渡すときに工事部分を残置する場合は「残置」、撤去する場合は「撤去」と記入してください。
⑤ 残置する場合の補修:
明渡し時に工事部分の本来有する機能が失われている場合において、補修を要する場合は「要」、補修を要しない場合は「不要」と記入してください。
⑥ 原状回復義務:
原状回復義務がある場合は「有」、義務がない場合は「無」と記入してください。
⑦ 明渡し時の精算等:
借主が住宅を明け渡す際に工事部分を残置するとき、増改築等に関する費用を借主が貸主に請求する場合や、工事部分の残存価値又は時価に対する金員等を貸主が借主に支払う場合は「有」、請求や支払いがない場合は「無」と記入してください。また、工事部分の所有権が借主にあり、住宅を明け渡す際に工事部分を撤去する場合も「無」と記入してください。
⑧ 図面等の添付:
工事部分に係る設計図書及びカタログ等があれば「有」、ない場合は「無」と記入してください。明渡し時にトラブルにならないように可能な限り設計図書及びカタログ等を添付してください。
⑨ 備考:
図面等の添付をありとした場合は、参照する図面等を記入してください。
原状回復義務がある場合について、回復すべき原状の具体的な状態について必要に
応じて記入してください。
工事部分を撤去する場合にどこまで原状回復させるかについては、住宅の明渡し後の使用方法によって異なってくることから、増改築等の前の状態まで回復する必要がない場合(あるいは原状回復自体が必要ない場合)も想定されるため、事前に取り決めを行い、備考欄に記入して明確にしておくことがトラブルを回避する観点から望ましいものと考えられます。
工事部分の所有者と工事実施者又は発注者が異なる場合は、必要に応じて工事実施者又は発注者を記入してください。
なお、「所有権の帰属」、「明渡し時の収去」、「原状回復義務」、「明渡し時の精算等」の組み合わせについては、代表的なものとして以下の例1~8の8通りが考えられます。
【想定される組み合わせ】
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所有権の帰属 |
明渡し時の収去 |
原状回復義務 |
明渡し時の精算等 |
【例1】 |
甲 |
撤去 |
有 |
無 |
【例2】 |
甲 |
撤去 |
無 |
無 |
【例3】 |
甲 |
残置 |
無 |
有 |
【例4】 |
甲 |
残置 |
無 |
無 |
【例5】 |
乙 |
撤去 |
有 |
無 |
【例6】 |
乙 |
撤去 |
無 |
無 |
【例7】 |
乙 |
残置 |
無 |
有 |
【例8】 |
乙 |
残置 |
無 |
無 |
また、例8をもとに別表の記入例を示すと、以下のようになります。
【増改築等の概要の記入例】
増改築等の内容 |
施工方法・使用資材等 |
所有権の帰属 (甲又は乙) |
明渡し時の収去 (残置又は撤去) |
残置する場合の補修 (要又は不要) |
原状回復義務 (有又は無) |
明渡し時の精算等 (有又は無) |
図面等の添付 (有又は無) |
備考 |
造作棚を壁に設置 |
リビング南側壁面に造作棚を固定ビスにより固定 |
乙 |
残置 |
不要 |
無 |
無 |
有 |
・造作棚は添付図面(図面番号○番)を参照。 ・設置位置は添付図面(図面番号○番)を参照。 |
(2)「合意書」関係
DIY型賃貸借においては、増改築等の実施やその後の居住に係る借主の義務だけでなく、費用等の精算などの貸主の義務が生じることもあることから、増改築等の承諾書と別途に書面を作成することにより、合意内容に関する見落としを防止し、理解を深める必要があります。
【第1項(施工及び施工状況の確認)関係】
工事部分の内容によっては、増改築等の際に住宅本体や第三者に損害を与える可能性があることから、その責任の所在を明確化するものであり、工事実施者又は発注者である借主の責任と記載しています。
立ち会いについては、「増改築等の承諾についてのお願い 別表」(以下「概要表」という。)並びに添付した設計図書及びカタログ等の内容と増改築等の前の原状や増改築等の後の施工状況との確認を行うことにより、住宅の明渡しのときのトラブルを回避する観点から、定めておくことが望ましいものと考えられます。増改築等の実施後の立ち会いにおいて事前の協議内容との齟齬が生じた場合は、協議により申請書兼承諾書、概要表、合意書の内容について修正を行うことも考えられます。
また、トラブルを回避する観点から、借主は、設計図書及びカタログ、領収書、施工業者との契約書などの関連書類を保管しておくことが望ましいものと考えられます。
【第2項(所有権の帰属)関係】
契約期間中及び明渡し時における工事部分の所有権の帰属を明確化するものです。増改築等の実施前に貸主と借主のどちらが所有権を有するものとするか協議により決める必要があります。ただし、住宅と一体となり、分離することができない工事部分については、民法第242条の規定により、所有権は貸主が取得することとなります。分離することができない工事部分として想定される例としては、壁にペンキを塗った場合などが考えられます。
また、双方の合意により借主の所有とした工事部分を明渡し時に残置する場合、借主は、住宅の明渡しに際し、その所有権を放棄又は貸主に譲渡することとしています。従って、分離することが可能な工事部分については、借主負担で行われるものであることなどを考慮すると、契約期間中は借主の所有とし、明渡し時に所有権を放棄又は貸主に譲渡するとして協議・合意する方が分かりやすいと考えられます。
【第3項(契約期間中の管理及び修繕)関係】
工事部分の管理及び修繕の責任と負担の所在を明確にするものです。
入居期間中については、工事を行った者が管理及び修繕を行うことが適当であると考えられることから、工事実施者又は発注者である借主が管理及び修繕をすることとしています。
【第4項(明渡し時の収去等及び原状回復義務)関係】
工事部分の残置又は撤去の別、残置する場合の補修の要不要及び原状回復義務の有無について明確にするものです。ここでいう原状とは増改築等の前の状態としています。
ただし、上記6.(1)2)⑨備考に記載のとおり、原状の内容は、必ずしも増改築等の前の状態とする必要がない場合もあるため、原状回復義務ありとする場合には、その内容を双方で確認し、合意することがトラブルを回避する観点から望ましいものと考えられます。
なお、本契約書式例は借主負担により小規模な改修を行う場合を想定していることを考慮すると、工事部分に関する退去時の借主の原状回復義務はなし(残置)として合意し、その一方で、借主は工事部分に関する費用償還請求権や造作買取請求権を放棄するものとして協議・合意することが分かりやすいと考えられます。
また、工事部分を残置するが、明渡し時に通常損耗や経年変化以外の事由により工事部分の補修が必要になっているなど、工事部分の本来有する機能が失われている場合において、標準契約書別表第5(国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の内容を規定)に準拠して補修を行う必要があるかどうかを増改築等の前に合意しておくことがトラブルを回避する観点から必要と言えます。このため、概要表において、残置する場合の補修の要不要について記載することとしています。
【第5項(明渡し時の精算等)関係】
工事部分に対して、民法の費用償還請求権又は借地借家法の造作買取請求権を行使するかどうかを定めています。行使しない場合は当該請求権の放棄の特約となります。
借主に所有権がない場合は費用(必要費や有益費)の精算の有無について協議・合意し、借主に所有権がある場合は買取(造作買取)の有無について協議・合意することがトラブルを回避する観点から必要と考えられます。ただし、当該請求権の放棄を前提に、賃貸借契約書において契約期間満期に渡る賃料を低廉に設定すること等も想定されるため、当該請求権を放棄するものとする場合においても、契約期間の満了前に本契約を解約した場合の精算の有無について、併せて協議し、合意しておくことが望ましいものと考えられます。
また、精算を行う場合は、残存価値の算定方法について、トラブルにならないようにあらかじめ貸主と借主で合意しておくことが望ましいものと考えられます。
さらに、費用負担者が借主の場合で、その費用負担を勘案せずに賃貸借契約書において契約期間中の賃料を設定するときには、費用償還請求権や造作買取請求権を放棄しないとして協議・合意することも考えられ、概要表の内容だけではなく、契約で取り決める賃料と増改築等の費用の関係も考慮して、当事者の一方が著しく不利にならないように協議・合意することが望ましいものと考えられます。
7.その他
(1)大規模な改修を伴うDIY型賃貸借に係る留意点について
大規模な改修を伴うDIY型賃貸借を実施する場合、概要表や合意書に定める事項のほか、以下の点にも留意する必要があります。
1)改修に関する詳細な協議・取り決め
改修内容の詳細について十分な協議を行い、契約当事者間で合意形成することが望ましいと考えられます。
具体的には、どの程度まで改修するか、建築確認など行政への申請手続きを誰が行うか、資金調達はどうするかなど、専門業者と連携し取り組むことがトラブル回避の観点から有効です。
2)公租公課
建物評価額が増加し固定資産税等の公租公課が増加することも想定されます。専門家への十分な確認のもと、工事部分の公租公課の負担者をあらかじめ取り決めておくことが望ましいと考えられます。
3)連帯保証人への通知
改修の実施により、貸主に損害を与えることとなった場合、連帯保証人も損害賠償債務を負うことから、改修の実施に関する承諾書の写しを借主から連帯保証人に送付することなどにより、連帯保証人に改修の実施について知らせておくことが後のトラブル回避の観点からは望ましいと考えられます。
4)契約期間中の解約に関する精算
契約期間の満了前に契約を解約することとなった場合、借主が支払った費用を契約期間中の低廉な賃料で回収できなくなることから借主の費用負担が当初想定したものより大きくなる可能性があるため、契約期間満了前の解約時の精算や精算方法について決めておくことが望ましいと考えられます。
(2)借主以外の費用負担による改修
借主以外の者(貸主やサブリース事業者など)が借主の意向を反映して改修を行う場合、貸主(又は転貸人)による改修であることから、貸主の承諾を得るものとは異なる形の契約内容になると考えられます。借主の意向を反映することの担保として、改修内容を契約書に反映させることや、契約書とは別に合意書を取り交わすことも考えられます。
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