もっとも、アメリカでは契約譲渡の自由という観点から、一定の場合を除き、原則として自由に(したがって承諾なくして)契約上の地位の移転をなすことができる。契約上の 地位の移転が制限されるのは、①公益(public policy)の観点から移転が制限されている場合、②相手方が、(譲受人ではなく)当初の債務者(譲渡人)による履行について重大な利益を有している
倒産手続における事業譲渡に伴う契約上の地位の移転について(xx)
203
倒産手続における事業譲渡に伴う契約上の地位の移転について
x x x x
第 1 章 はじめに
第 2 章 アメリカにおける議論
第 1 節 アメリカにおける議論の焦点第 1 款 平時における規律
第 2 款 倒産時における規律 アメリカ連邦倒産法365条⒡⑴と⒞⑴第 3 款 双方の規律の対照
第 4 款 議論の焦点
第 2 節 裁判例における解釈論の展開第 1 款 365条⒞⑴の制限的な解釈第 2 款 365条⒞⑴の文理解釈
第 3 節 小括 アメリカにおける議論からの示唆第 1 款 議論のまとめ
第 2 款 制限的解釈の妥当性
第 3 款 「重大な人的要素」とそこに見る価値判断第 4 款 移転禁止特約が存在する場合の処理
第 3 章 わが国におけるあるべき解釈論 第 1 節 検討の前提 平時における規律
第 1 款 承諾なき地位の移転がxxで制限されている契約 賃貸借契約第 2 款 承諾なき地位の移転につき規定が存在しない契約 一般の契約第 3 款 承諾なき地位の移転がxxで認められている契約 特許ライセ
ンス契約
第 2 節 倒産時における規律のあり方
第 1 款 承諾なき地位の移転がxxで制限されている契約 賃貸借契約第 2 款 承諾なき地位の移転につき規定が存在しない契約 一般の契約第 3 款 承諾なき地位の移転がxxで認められている契約 特許ライセ
ンス契約第 4 章 おわりに
第 1 節 債権法改正の議論との関係第 2 節 今後の検討課題
第 1 章 はじめに
( 1 )
事業譲渡は、再建手法として採用されることが多い。これは、事業譲渡が他の手法にはない有用性を有しているためである。民事再生法を例に挙げれば、計画外での事業譲渡について特則が定められており、とりわけ債務超過
状態の株式会社については、裁判所の許可があれば、計画外での事業譲渡が
( 2 )
可能となる。再建に時間を要すればその分事業価値は劣化し、事業譲渡価格
が低下する可能性があるから、このように計画外で事業譲渡が迅速に遂行で
( 3 )
きれば、倒産財団の価値を劣化させることなく、むしろ最大化することがで
( 4 )
き、最終的な再建可能性を高めることができる。そこで、事業譲渡を通じた
再建をなす上では、事業譲渡をいかに迅速に遂行するかが大きなポイントとなる。
しかし、事業譲渡を裁判所の許可にかからしめるだけでは、迅速な事業譲渡が望めるとは限らない。なぜなら、平時において事業譲渡は特定承継とされており、この点は倒産時においても同様であると考えられるため、事業譲渡と同時に事業に関連する契約関係も当然に移転するとは言えず、契約ごとに、その契約上の地位を移転する必要があるためである。そして、契約上の地位の移転には債務引受の要素が存在するため、解釈上、相手方の承諾が必要とされている。したがって、例えば、譲渡対象事業の継続に原材料供給契約が不可欠である場合、当該供給契約上の地位を譲渡するには、契約相手で
ある供給業者の承諾が必要と解される。しかし、このような帰結が、事業譲渡の迅速性を害することは想像に難くない。例えば、事業に関する契約の相手方が多数に上る場合でも、個別的に相手方の承諾を得ることが必要とされれば、承諾の取り付けに時間を要することとなる。また、対象となる契約に移転禁止特約が付されている場合を考えてみると、当該特約の効力が常に有効とされれば、そもそも事業譲渡という手法を利用できなくなるし、特約を合意によって解除するにしても、その交渉には時間を要することとなる。
そこで、近時、この点についても新たに特則を設ける必要があるのではな
( 5 )
いかとの指摘がなされるに至っており、今後は、倒産手続においては相手方
の承諾なくして契約上の地位の移転を可能とする方向で、議論がなされてい
( 6 )
くことが予想される。これは、倒産時において、平時における規律を修整す
るものであると評価できるが、このような修整にあたっては、契約相手方の保護という視点が欠かせないはずである。なぜなら、仮に倒産財団の利益のために平時の規律を修整するとしても、そのような修整によって、相手方は当初契約していた者(倒産債務者=譲渡人)と異なる者(譲受人)から債務の履行を受けることになるから、これに伴い相手方に不利益が生じる可能性があるためである。したがって、この問題を検討する上では、倒産財団の利益と相手方の利益との調整を避けては通れない。
本稿は、以上のような問題意識を前提に、倒産手続における事業譲渡の場面で、承諾なくして契約上の地位の移転がなされうるのか、また、移転禁止特約が存在する場合にはその効力がいかなるものであるかについて、倒産財団の利益と契約相手方の利益の調整という観点から、検討するものである。この検討にあたっては、まず、平時において、契約上の地位の移転につき、いかなる規律が存在しているのかを確認することが必要であり、その上で、平時の規律が倒産時に修整されるのか、修整されるとすればどのように修整されるのかを検討しなければならない。そこで、本稿は、平時と倒産時の 2つの規律を対比しながら、検討を進めることとしたい。また、検討の対象に
ついて、問題となりうる契約類型は論理的に無限に存在すると考えられるところ、本稿では、平時における規律との関係から、以下のような類型化に基づき検討を進めたい。すなわち、契約上の地位の移転につき、平時において、①相手方の承諾がxx上要求されているもの(賃貸借契約)、②相手方の承諾の要否がxx上規定されていないもの(例えば、売買契約や業務委託契約、フランチャイズ契約等)、③相手方の承諾を要さないことがxx上認められているもの(特許ライセンス契約)である。
( 7 )
検討に際しては、アメリカにおける議論を参照する。これは、アメリカ連
邦倒産法が、契約上の地位の移転についてxx規定を有しており、裁判例•学説において、この規定を巡る議論が蓄積しているためである。アメリカにおいては、一定の要件を満たせば、倒産手続との関係では、原則としてあらゆる未履行契約を相手方の承諾なくして譲渡することができるとされている。しかし、この原則には例外が存在しており、また、規定の文言がxx矛盾しているように読めることから、裁判例•学説において、いかなる契約であれば承諾なき契約上の地位の移転が認められるのか、いかなる解釈によれば規定をより整合的に理解することができるのかが議論されている。このうち、後者に関する議論、すなわち、条文相互の整合性に関する議論については、アメリカ法における内在的な問題であるため、わが国に対して多くの示唆をもたらすとは思われない。しかし、前者の議論、すなわち、いかなる契約であれば承諾なき契約上の地位の移転が認められるかに関する議論においては、倒産財団の利益と契約相手方の利益との調整が意識されており、わが国の議論へ示唆を与えるように思われる。そこで、本稿では、倒産手続における契約上の地位の移転について、アメリカにおける議論を参考としながら、契約類型ごとに、わが国でのあるべき解釈論について検討することとしたい。以下では、第 2 章において、アメリカにおける議論を分析•検討する
こととし、この分析•検討から得られた示唆を基に、第 3 章において、わが国における解釈論について検討することとしたい。
第 2 章 アメリカにおける議論
第 1 節 アメリカにおける議論の焦点
第 1 款 平時における規律
アメリカの倒産時における規律を検討する前提として、平時における規律を確認しておくこととする。わが国と同様、アメリカにおいても、契約上の
( 8 )
地位の移転は、債権譲渡と債務引受を要素とするものであるとされている。
もっとも、アメリカでは契約譲渡の自由という観点から、一定の場合を除き、原則として自由に(したがって承諾なくして)契約上の地位の移転をなすことができる。契約上の地位の移転が制限されるのは、①公益(public policy)の観点から移転が制限されている場合、②相手方が、(譲受人ではなく)当初の債務者(譲渡人)による履行について重大な利益を有している
( 9 )
場合、③契約において移転を禁ずる旨が規定されている場合である。
まず、①公益の観点から移転が制限されている場合には、契約上の地位の移転は制限される。例えば、雇用契約や、連邦政府や州政府との間の契約に
(10)
ついては、その移転が制限される。次に、②相手方が、当初債務者による履
(11)
行につき、重大な利益を有している場合にも、契約上の地位の移転は制限さ
れる。これは、契約締結時に契約相手方が有していた、正当化されうる期待
(12)
(justifiable expectation)を保護する趣旨である。もっとも、契約上の地位
の移転の自由という観点からは、契約相手方が交代することをよしとしないという、単に感情的な理由で相手方を保護すべきではないし、また、契約上
(13)
の地位の移転がなされれば、相手方に影響が生ずることは避けられないが、
影響が軽微な場面においても契約上の地位の移転を制限することは妥当でない。そこで、相手方が正当化されうる期待を有していると考えられる場合に
(14)
限り、これを保護するという趣旨であろう。具体的にどのような場合に重大
な利益が認められるかは、個々の場面における解釈によらざるをえない。
しかし、一般的に、個人的役務提供契約(例えば、歌手の公演契約等)は、義務者の個人的な技能や特徴、裁量等によって、その履行の結果が大きく左右されるから、このような契約においては、当初債務者による履行につき相
(15)
手方は重大な利益を有していると考えられている。他方で、当初債務者が、
契約上の地位の移転後も、譲受人による履行につき監督する場合には、重大
(16)
な利益を有する場合とはされず、地位の移転が制限されないとされている。
なお、これは相手方保護のための規律であるから、相手方はこの保護を放棄することができる。すなわち、相手方が契約上の地位の移転を承諾すれば、当初債務者による履行につき重大な利益が存在していても、地位の移転が可
(17)
能となる。最後に、③当該契約において移転を禁ずる旨の特約が設けられて
いる場合にも、契約上の地位の移転は制限される。したがって、②の重大な利益が存在しない場合であっても、契約において移転禁止特約を設けておけ
(18)
ば、契約上の地位の移転を制限することができる。もっとも、この場合で
も、相手方が一度承諾してしまえば、当然ながら、特約にかかわらず地位の移転は可能であると解される。
これらの例外に該当しなければ、相手方の承諾なくして契約上の地位を移転することが可能となる。このような承諾なき移転を正面から認める規律を採用する場合、当然のことながら、相手方の保護が問題となる。そこで、相
手方は、譲受人に対して、保証の提供を要求することができるとされてい
(19)
る。加えて、契約上の地位を移転したとしても、それによって譲渡人は免責
(20)
されないとされている。これらの規律によって相手方は保護され、契約上の
地位の移転の自由が正当化される。
第 2 款 倒産時における規律 アメリカ連邦倒産法365条⒡⑴と⒞⑴
次に、アメリカの倒産時における規律を確認する。アメリカ連邦倒産法 365条⒡⑴(以下、断りのない限り、条数及び項数のみを示す。)によれば、同条⒝又は⒞の場合を除き、原則として、当該契約における特約又は適用あ
(21)
る法(applicable law)が契約上の地位の移転を禁止•制限していても、管
(22)
財人及び DIP は、未履行契約を譲渡(assign)することができる。したが
って、契約上の地位の移転は、平時と同様、原則として自由であるということになる。
このような規律は、財団価値の最大化のために設けられているとされてい
(23)
る。すなわち、契約上の地位の移転について、法律上の制限や契約条項によ
る制限が存在していても、財団価値を最大化させるために、それらの制限を倒産手続との関係で無効とするのである。平時においては「契約上の地位の移転の自由」が強調されていたが、倒産手続においては、単にそのような自由を尊重するだけでなく、「財団価値の最大化」が趣旨として付加されている点が注目される。以下では、より詳細に、倒産手続における契約上の地位の移転について見てみる。
( 1 )倒産手続における契約上の地位の移転の要件
倒産手続において契約上の地位の移転をなすためには、①当該契約を引き受けること、及び、②譲受人が将来の履行についての適切な保証を提供する
(24)
ことが必要となる。まず、契約上の地位の移転をなすためには、管財人又
は DIP が当該契約を引き受けておく必要がある。引受時に既に不履行が存在する場合、管財人又は DIP は、不履行を治癒し、又は、治癒のための適切な保証を提供しなければならず、かつ、当該不履行から相手方当事者に生じた金銭的な損失を補償しなければならず、加えて、将来の履行についても
(25)
適切な保証を提供しなければならない。365条⒡⑴の例外として掲げられる
同条⒝はこの旨を定めている(他方の同条⒞については後述する。)。次に、契約上の地位の移転のためには、譲受人が将来の履行について適切な保証
(adequate assurance of future performance)を提供することが必要とさ
(26)
れる。これは、倒産手続における契約上の地位の移転に固有の要件であり、
(27)
当該契約が不履行に陥っていない場合にも要求される。
以上のように、「適切な保証」には、財団から提供されるものと譲受人か
ら提供されるものの 2 種類が存在するが、双方について定義規定は存在しないため、適切な保証が提供されているか否かは、事例ごとの判断が必要とさ
(28)
れる。財団が提供する保証については、単に支払いを約するだけでは足り
ず、現金を預託したり、人的保証を提供したりすることが求められ、この要
(29)
件を充足するのは決して容易なものではないとされる。財団が保証を提供す
る必要があるのは、現に債務不履行が生じている場合に限られるが、そのような場合には財団による履行の可能性はすでに減じられているため、このような現金預託等の保証でなければ適切なものとは評価されないと考えられる。適切性の判断にあたって具体的に考慮される事由としては、例えば賃貸借契約を引き受ける場合、①債務者の弁済履歴、②人的保証の存在、③保証金(敷金)の存在、④収益性の証拠、⑤賃貸人のために金銭が分別管理
(earmark)されるか、⑥債務者の事業についての一般的な展望、⑦賃料が
(30)
市場価格と比較して同等のものであるか否かが挙げられる。他方で、譲受人
が保証を提供する場合には、契約のあらゆる事項について保証を提供する必要はなく、重大な(material)又は経済的に重要な(economically significant)
(31)
契約事項のみについて、保証を提供すれば足りるとされる。当該条項が、当
事者間において締結された取引にとって不可欠なものである場合には、その条項は重大なものであるとされ、当該条項の遵守が、当事者に対して、その取引の完全な利益を与えるものである場合には、経済的に重要なものである
(32)
とされる。
(33)
( 2 )倒産手続における契約上の地位の移転の効果
以上のように、契約上の地位の移転には契約の引受が前提とされるため、契約上の地位の移転には、必然的に引受の効果が伴うこととなる。契約の引受によって、財団は、当該契約に基づく債務者の地位を承継することとなる。すなわち、財団は相手方から当該契約の履行を受けることができ、他方で、財団は当該契約に基づく債務者の義務をすべて履行することになる。なお、契約を引き受ける場合、契約全体を引き受けなければならず、契約の一
部のみを引き受けたり、契約の一部を除外して引き受けたりすることはでき
(34)
ない。これは、契約相手方の正当な利益を保護しようとする趣旨による。そ
(35)
のため、財団にとって不利な条項も引き受ける必要がある。
このように財団が引き受けた契約関係が、契約上の地位の移転によって、譲受人に承継されることとなる。ここで留意すべきは、倒産手続における契約上の地位の移転は、免責的債務引受が前提とされている点である。すなわち、契約上の地位の移転がなされると、倒産財団は、譲渡後に生じる当該契
(36)
約の不履行について免責される。したがって、相手方は、財団に対して、x
(37)
受人の不履行に基づく損害賠償請求ができなくなるため、このリスクの担保
を目的として、前述のように譲受人による将来の履行についての適切な保証
(38)
が要件とされている。
契約上の地位の移転によって、財団は、契約の価値を実現することが可能となる。例えば、債務者がある物件を割安に賃借できている場合、財団は、賃借人たる地位を譲渡することで、その利益を金銭として取得することがで
(39)
きる。これは、わが国とアメリカとの契約観の相違と思われる点である。す
なわち、アメリカにおいては、契約上の地位それ自体に価値を認め、市場での価値を検討し、その価値を倒産手続において現実化させることを目指すのである。これに対して、わが国においてこのような感覚は、共有されていないように思われるところである。
第 3 款 双方の規律の対照
以上、アメリカにおける平時と倒産時との規律を概観してきたが、双方の規律を対照すれば、以下のことが言えよう、まず、平時においても倒産時においても、契約上の地位の移転は、原則として自由であるとされている。しかし、移転禁止特約の効力については、全く正反対の規律がなされている。すなわち、平時においては、特約さえあれば、自由な(=承諾なき)移転は否定されるが、倒産時には特約にかかわらず、自由な移転が可能とされる。
したがって、倒産時には、承諾なき移転が自由であるという原則が貫徹されやすくなっているのである。
次に、契約上の地位の移転の効果も、双方の規律では異なっている。すなわち、平時においては併存的債務引受が前提とされているのに対し、倒産時においては免責的債務引受が原則となっている。
以上のように、倒産時においては、規律が財団側に有利に修整されている。この根拠としては、単なる契約上の地位の移転の自由を尊重するということでは足りず、財団価値の最大化という側面が強調される。すなわち、倒産手続において契約上の地位の移転をなす場合、それは単に債務者の自由•利益のためになされるのではなく、倒産財団の利益のためになされるのであるから、これを正当化できると考えられるのである。
しかし、そのように財団側に有利に規律を変動させる場合、当然、契約相手方の保護は、平時におけるよりも問題となる。そこで、倒産時には、相手方の利益とのバランスという観点から、平時にはない規律が用意されている。すなわち、平時においては、相手方は譲受人に対して保証の提供を求めることが「できる」とされていたが、倒産時においては、現存する不履行が治癒されたうえで、管財人•XXX と譲受人からの保証の提供が「必要」とされるのである。
第 4 款 議論の焦点
しかしながら、財団の利益と相手方の利益との均衡を考慮に入れてもなお、契約上の地位の移転が制限されるべき場面が存在する。それが、365条⒞⑴による制限である。すなわち、適用ある法が、相手方が債務者又は DIP 以外の者からの履行を受けること、又は、その者に対する履行をなすことを免じている場合には、365条⒞⑴Aによって、契約上の地位の移転が禁じられる。したがって、365条⒞⑴は、同条⒡⑴の例外を構成していると
(40)
言える。
この例外にあたるとされる典型的な場面としては、第 1 に、連邦政府が相手方となる契約が挙げられる。平時においては、連邦政府が相手方となって
(41)
いる契約については、契約上の地位の移転が制限されており、これは、政府
に対する債権を取得することで政府への影響力を行使する者が出現しないようにし、もって政府が当初契約者とのみ取引をすることを可能とするための
(42)
規律であるとされている。この趣旨から、倒産手続との関係でも承諾なき移
(43)
転は制限される。このような公益的な理由に基づく移転禁止規定を、私的な
権利関係の調整を目的とした倒産手続において潜脱することができるとするのは適切ではないから、倒産手続との関係でも、連邦政府による契約について移転が禁止されることとなろう。第 2 に、歌手の公演契約のような個人的役務提供契約については、平時において契約上の地位の移転は認められておらず、倒産手続においてもこれは同様であると考えられる。
しかし、これらの場面以外においても365条⒞⑴が適用されるかは、後に見るように議論が存在している。すなわち、仮に契約において移転禁止特約が定められていても、その効力が同条⒡⑴によって否定される以上、承諾なき移転が制限されるか否かは、当該契約が同条⒞⑴に該当するか否かという問題に置き換えられることとなる。また、双方の規定には「適用ある法」という同一の文言が用いられていることもあり、両者の規定の関係及びその整合的な解釈について、裁判例•学説において議論がなされている。次節以降、この議論を裁判例の変遷を通じて検討してみたい。
第 2 節 裁判例における解釈論の展開
裁判例を概観する前に、365条⒞⑴についての立法趣旨について見ておくこととする。365条の立法にかかる委員会報告書によれば、契約において、適用ある法の下では引受が認められない債務が定められている場合、相手方の利益に反して、契約上の地位を引き受けることはできず、ひいては契約上
(44)
の地位の移転も制限されるとされていた。しかし、委員会は具体的にいかな
る契約がこれに該当するかは述べておらず、この点は解釈が必要となるた
(45)
め、以下に見るようにこの点について検討する裁判例が多数出現している。
裁判例においては、立法史を参照しつつ、例外である365条⒞⑴が適用される範囲について検討されており、いくつかの解釈論が提示されているが、中でも、本稿では主な 2 つの立場を取り上げる。すなわち、365条⒞⑴は、①特定の契約のみに適用されるとするもの、②法律上承諾なき譲渡が制限されている契約すべてに適用されるとするものである。本節では、それぞれの立場の代表的な裁判例をいくつか取り上げ、その解釈論の展開を素描する。
第 1 款 365条⒞⑴の制限的な解釈第 1 目 個人的役務提供契約理論
裁判例において、倒産手続における承諾なき地位の移転の許否を初めて取
(46) (47)
り扱ったのは、Taylor Manufacturing 事件であるとされる。この事件は、管財人が、賃貸借契約における賃借人の地位の譲渡を申し立てたところ、賃貸人からこれに異議が申し立てられたというものである。裁判所は、365条
⒞⑴は個人的役務提供契約にしか適用されないとし、本件の賃貸借契約は、債務者以外の者であっても履行でき、また、債務者以外の者によって履行さ
れた場合に相手方に生じる損害が明らかでないとして、賃借人たる地位の移
(48)
転を認めた。
本稿の目的との関係で重要なのは、Taylor Manufacturing 判決が、365条⒞⑴の適用対象は、個人的役務提供契約に限定されると解釈した点であ
(49)
る。すなわち、365条⒞⑴の立案にかかる委員会報告書は、「適用ある法の
下では引受が認められない債務(“duties nondelegable under applicable nonbankruptcy law”)」については、引受も移転も制限されるとしていた
(50)
ところ、本判決は、倒産手続との関係でも、移転が制限されるのは「個人的
役務提供契約」に限られるとしたのである(以下においては、この見解を
「個人的役務提供契約理論」という。)。
個人的役務提供契約に該当するか否かは、契約類型から一概に決することができない。例えば、フランチャイズ契約やライセンス契約は、通常、契約相手方に対する信頼を基礎として締結されるものであり、この意味で個人的役務提供契約と言えることが多いであろうが、具体的な契約内容によって
(51)
は、個人的役務提供契約該当性が否定されている。
(52)
第 2 目 重大な人的要素理論
上記の個人的役務提供契約理論が登場した後、365条⒞⑴を制限的に解釈するという立場には賛同しつつも、この理論では365条⒞⑴の適切な適用範囲が導かれないとして、新たな理論 重大な人的要素理論 を採用する裁判例群が出現した。これらの裁判例は、未履行の契約上の債務との関係で、債務者の人的要素が重要な条件とされている場合に限って、契約上の地位の承
(53)
諾なき移転を制限しようとするものである。すなわち、365条⒡⑴が、州法
等の制限にかかわらず、原則として自由な移転を認めているとすれば、人的要素の重大性の判断のためには、州法による制限の単なる存否ではなく、制限が設けられている場合にはその根拠を検討することが必要であるとし、人的要素の重大性は、当事者の意思及び契約の性質によって判断されるとする。
(54)
このような見解を採用するものとして、Magness 事件における Guy 裁判
官の反対意見が挙げられる。この事件では、倒産手続においてゴルフクラブ会員権が譲渡できるのかが問題となったところ、多数意見は、オハイオ州法によってゴルフクラブ会員契約の移転は禁止されており、同法は365条⒞⑴にいう「適用ある法」に該当すると言え、ゴルフクラブ会員契約を承諾なく
(55)
して移転することはできないとした。これは後述する365条⒞⑴を文理解釈
する見解であるが、Guy 裁判官は、多数意見の結論には賛同したものの、その理由づけについては、承諾なき契約上の地位の移転の許否は、適用ある法が、債務者以外の者による履行を拒絶するという相手方の権利を是認する
(56)
か否かによるとして、反対した。そして、倒産手続において、当該会員たる
地位を、ゴルフクラブの承諾なくして移転することはできないと結論付ける
にあたって、単にオハイオ州法の規定が、ゴルフクラブ会員契約について承諾なき地位の移転を禁止している点ではなく、オハイオ州の判例が、相手方の人的要素が重要とされる契約については、承諾なくして契約上の地位を移転することができないとしており、当該ゴルフ会員契約は相手方の人的要素
(57)
が問題となる契約であるという点を理由とした。また、Schick 事件では、
パートナーシップ契約の移転が問題となったところ、ニューヨーク州法は組合員選択の法理(delectus personarum)を前提としており、パートナーシップ契約においては契約当事者の人的要素が重要であるため、承諾なき契約上の地位の移転は認められないとされた。
ゴルフクラブ会員契約のような、「個人的」とは評価されにくい契約については、個人的役務提供契約理論では、承諾なき移転を制限することが難しいとも思われるが、重大な人的要素理論によれば、この場合にも承諾なき移
転を制限することが可能となる。そのため、重大な人的要素理論を採用した
(58)
裁判例群は、個人的役務提供契約理論を採用した裁判例群と対立するのでは
(59)
なく、むしろその理論を補完するものと言えよう。
第 2 款 365条⒞⑴の文理解釈
以上のような365条⒞⑴を制限的に解釈する裁判例に対して、同規定の文言を文理解釈し、適用ある法において契約上の地位の移転が禁じられている場合にはすべて、契約上の地位の移転を認めないとする見解を採用する裁判
(60)
例群も存在する。すなわち、同条⒞⑴は、契約上の地位の移転が制限される
場面を個人的役務提供契約や人的要素が重要となる契約に限ってはいないというのである。立法時の委員会報告書では、「賃貸借」との文言は存在せ
(61)
ず、むしろ「個人的役務提供契約」という表現がなされていたが、実際に立
(62)
法されたのは現行の文言であったことに加え、仮に議会が365条⒞⑴の制限
的な解釈を意図していたならば、立法時にはより明確な文言を採用したであろうから、同条⒞⑴の適用範囲を限定的に解することは妥当ではないとす
(63)
る。
また、フランチャイズ契約上のフランチャイジーたる地位の移転が争点と
(64)
なった Pioneer Ford Sales 事件でも、適用ある法によって契約上の地位の
移転が制限されている場合にはすべて、365条⒞⑴によって承諾なき移転は
(65)
認められないとされた。以上のような文理解釈は、Sunterra 事件や XMH
(66)
事件においても採用されている。すなわち、Sunterra 事件では、連邦の著
作xxにおいては、承諾なき契約上の地位の移転が制限されているため、著作権ライセンス契約には365条⒞⑴の適用があり、承諾なくしてはライセンシーたる DIP が当該契約を引き受けることすらできないとされた。また、 XMH 事件においても同様に、少なくとも商標法についての普遍的なルールにおいては、商標の使用権者たる地位の承諾なき移転は、これを明示的に許容する契約上の定めがない限り認められないため、365条⒞⑴により、倒産手続においても承諾なき移転は認められないとされた。以上のように、フランチャイズ契約や知的財産ライセンス契約に関しては、365条⒞⑴を文理解釈することで、承諾なき移転を制限しようとする裁判例が存在している。
第 3 節 小括 アメリカにおける議論からの示唆
本節では、上記のアメリカにおける議論を小括し、わが国の議論への示唆を導くこととしたい。
第 1 款 議論のまとめ
第 1 に、アメリカにおいては、平時において契約上の地位の移転に相手方の承諾が要求されていても、倒産時には平時の規律が修整され、原則として承諾なき地位の移転が認められる。これは倒産手続の目的である財団価値の最大化という観点から正当化されるものであり、365条⒡⑴は、この理を明らかにしている。また、倒産手続における契約上の地位の移転では、平時とは異なり、免責的債務引受が前提とされている。以上のような規律の変容は
契約相手方にとって不利益であることから、倒産手続おいては、相手方のために「保証」の提供をなすことが、契約上の地位の移転の要件とされている。第 2 に、移転の対象となる契約が、365条⒞⑴に該当する、すなわち
「適用ある法」によって移転が制限される場合には、同条⒡⑴は適用されない。したがって、契約において移転禁止特約が存在する場合には、その効力が認められ、承諾なき移転は制限される。
そこで、この365条⒞⑴の適用範囲が問題となる。前述したように、連邦政府が相手方となる契約や、個人的役務提供契約については、倒産時においても、承諾なき契約上の地位の移転は認められない。しかし、それ以外の場面においても365条⒞⑴が適用されるのかについては議論があり、大きく分けて 2 つの立場が存在している。すなわち、①これを制限的に解する立場と、②これを文理解釈することにより、制限を設けないとする立場である。これらの立場はそれぞれ、立法の過程を論拠としており、その立法史的な正当性はいずれにあるのか、あるいは、現在の365条の文言においていずれの解釈を取りうるかは、アメリカ法の内在的な議論であるといえよう。本稿は、あくまでアメリカにおける議論を参照するにとどまるものであるから、この議論に決着をつけることを想定していないし、またそれは筆者の能力を超えるものである。したがって、この点については本稿では立ち入った検討を行わない。むしろ、本稿では、どのような場面であれば承諾なき移転が認められるのかについての価値判断を、2 つの見解の対立から導くこととしたい。
第 2 款 制限的解釈の妥当性
xxでは、制限的解釈と文理解釈とで結論が異なる場面について検討し、いずれの見解が妥当であるのかを明らかにする。まず、制限的な解釈には、個人的役務提供契約理論と、重大な人的要素理論とが存在していたが、制限的な解釈としては後者の重大な人的要素理論のみを検討すれば足りるように思われる。なぜなら、後者は前者を補完するものであり、前者によって移転
が制限される場面では、後者においても移転が制限されると考えられるためである。
制限的な解釈によれば、仮に法令によって承諾なき移転が制限されている場合であっても、当該法令が、人的要素の観点から承諾なき移転を制限するものでない限りは、倒産時においてその規律を修整し、承諾なき移転を認めるものである。他方で、365条⒞⑴を文理解釈する見解は、その文言が「重大な人的要素」に限定されていないことから、承諾なき移転を制限するいかなる法令をも倒産時において尊重するという立場である。
以上に鑑みれば、文理解釈する見解の方が、平時と倒産時との齟齬を生じ
(67)
にくいと言える。しかし、この点については多数の見解が述べるように、
365条の解釈としては、制限的な解釈が妥当と思われる。同条⒡⑴は、適用ある法によって制限されている場合であっても、承諾なき移転を肯定する場面が存在することを前提としている。ここで、文理解釈によれば、適用ある法が承諾なき移転を制限している場合には、すべて承諾なき移転は認められないこととなるが、これは同条⒡⑴を骨抜きにしているのと同義である。そもそも、同条⒡⑴が原則とされているのは、未履行契約それ自体に経済的価値が存在することに着目し、これを金銭化することで債権者への配当を増加
(68)
させることにある。平時実体法の規律は、財団価値の最大化が要求されると
いう倒産時の状況を考慮して設定されているとは限らないのであるから、無
(69)
批判に平時の規律に従うことは適切とは言えず、このような解釈を採用する
ことは、妥当でない。
他方で、法令による制限が課されている場合でも、承諾なき移転を認めることは、倒産時に平時とは異なる規律を採用することとなる。ここで問題となるのは、平時においては承諾なき移転を受忍する地位になかった相手方の保護である。365条⒞⑴が、同条⒡⑴という原則に対する例外として存在していることに鑑みれば、同条⒞⑴の目的は、当初契約した当事者以外の者によって契約が履行されることによって、契約相手方の利益が害されることを
(70)
避けるという点に存在するものと思われる。しかしながら、債務の履行それ
自体は、財団及び譲受人から提供される「保証」によって、確実なものとなっているはずであるから、このような「保証」を超えて、さらには財団価値の最大化の要請にも優越して、倒産手続において契約相手方が保護されることは、平時における保護を超えて、相手方を保護するに等しい。このように、倒産時において、結果として平時よりも手厚い保護がもたらされること
(71)
は、適切ではないはずである。
以上の検討によれば、重大な人的要素理論は、財団価値の最大化と相手方の利益との調整を図るものと言えよう。すなわち、365条⒡⑴は、法令や契約の定めにかかわらず承諾なき移転を認めることで、財団価値の最大化を意図しているが、承諾なき移転を認めれば、相手方に不利益を与えることは避けられない。したがって、承諾なき移転の許否は、財団価値の最大化と、相
(72)
手方の利益との調整の上で判断がなされなければならない。重大な人的要素
理論では、人的要素が問題とならない場合には、相手方の利益よりも財団価値の最大化が優先され、承諾なき移転が認められる。他方で、人的要素が重要な場合には、財団価値の最大化よりも相手方の利益が優先され、承諾なき移転が否定されるのである。
第 3 款 「重大な人的要素」とそこに見る価値判断
重大な人的要素理論によれば、「重大な人的要素」こそが、承諾なき地位の移転の許否を決する概念とされるが、学説•裁判例において、「重大な人的要素」の精確な定義付けがなされているとは言い難い。これは、一つには、ある程度抽象的な概念を設けることで、事案に応じた柔軟な解決を図るという実践的な意図が存在するのであろう。しかし、本稿の目的との関係では、その意義を一定程度明らかにすることが必要である。
有力な学説は、具体的に重大な人的要素が認められる場面について、以下
(73)
のように述べる。すなわち、契約上の地位の承諾なき移転の許否は、相手方
当事者が、それが何であれ、地位の移転を阻止する絶対的な権利を有しているかどうかによって決される。そして、この絶対的な権利が認められるのは、個人的役務提供契約、連邦政府との契約、及び、特許•著作権ライセンス契約である、と。
しかし、裁判例においては、このような類型に応じた分析ではなく、より柔軟に重大な人的要素が判断されていると言えよう。例えば、先に見たように、Magness 事件における Guy 裁判官は、ゴルフクラブ会員契約を、人的要素が重大な契約であるとしていた。xx、ゴルフクラブ会員契約に関しては、人的要素は問題となりえないようにも考えられるが、重大な人的要素理論においては、契約類型だけでなく、具体的な事案における契約条項及び契約の性質を加味して人的要素の重大性が判断される。Magness 事件におけるゴルフクラブは、いわゆる権利能力なき社団であり、会員規約においては承諾なき会員たる地位の移転を制限する旨が記載されており、仮に承諾なくして会員たる地位の移転を認めれば、個人的な関係に依拠して運営されているゴルフクラブを、まったく見知らぬ者が利用できることとなってしまう。これはゴルフクラブにとっても、他の会員にとっても不利益と言える。なぜなら、そのように会員の資格を制限するからこそ、当該ゴルフクラブは、クラブとしての「格」を維持しながら会員を勧誘することができるのであり、また、会員としても、そのようにゴルフクラブが会員資格を制限するからこそ、自らの会員権の価値を保つことができると思われるからである。以上から、当該会員契約では、人的要素が重大であると評価できよう。また、パートナーシップ契約においても、他のパートナーがどのような者であるかは、各パートナーにとって重大な意味を有していると言える。各パートナーは、企業形態としてあえてパートナーシップを選択しているのであり、パートナーシップ契約の締結にあたっては、通常、その者がパートナーとしての資質を有するか、既存のパートナーたちが有する経営方針に賛同できる者であるか等を検討するはずである。それにもかかわらず、一部のパートナーが、倒
産したとはいえ、他のパートナーの承諾なしに、その地位を移転することが認められてしまえば、パートナーとしての資質を有さない者や、既存のパートナーの経営方針にそぐわない者が、パートナーとして経営に参加することとなってしまう。これでは、既存のパートナーには重大な不利益が生じると言えよう。
以上のように、重大な人的要素がどのような場面において認められるの
か、すなわち、重大な人的要素の判断基準を、具体的な基準として抽出する
(74)
ことは困難である。しかし、以下のような分析はなお有用であると思われ
る。すなわち、365条⒞⑴の制限的な解釈においては、当初債務者だからこそ契約が締結されたというだけではなくて、当初債務者によって契約が履行されなければ相手方が重大な不利益を被る場面が想定されている。ところが、承諾なくして契約上の地位の移転がなされたとしても、倒産手続上は、履行について「保証」が提供されているはずであるから、債務の履行可能性に問題はないはずである。すると、このような重大な不利益とされるものの中には、契約上の地位の移転に伴って債務の履行可能性が変動(減少)することを、判断要素として加味する必要はないと言える。それゆえに、この概念は債務の履行可能性とは独立して捉えられなければならない。すると、問題とすべきは、債務の履行可能性以外の不利益である。逆に言えば、人的要素が重要な場合には、まさに当該債務者による履行こそが重要なのであり、それゆえに、当該債務者以外の者(譲受人)による「適切な保証」が観念されえないのである。例えば、ライセンス契約においてライセンサーは、自らの保有する知的財産権の秘密性•価値を守りつつ、当該知的財産権から収益を上げることを目的としていると思われるが、ライセンシーたる地位が自らの承諾なしに移転するとすれば、譲受人からのロイヤリティー収入を得ることができたとしても、自らの知的財産の秘密性•価値は失われてしまい、ライセンサーに重大な不利益が生じると思われる。そして、そのような不利益は、当初ライセンシー以外の者によって保証されえない。したがって、この
ような重大な不利益が生じる場面こそが、人的要素が重大となる場面であると言えよう。
また、相手方に重大な不利益が生じる場面において承諾なき移転を認めてしまえば、相手方に不利益を課すことのみによって、財団の増殖が図られることとなる。確かに、財団財産の価値が増加することは財団にとって利益であろうが、相手方の重大な利益を奪ってまでその価値を追求すべきとは言い難い。この意味で、相手方に重大な不利益を与えながらも財団価値を最大化するという価値判断は、妥当でないと考えられる。アメリカにおける裁判例•学説では、以上のような「価値判断」がなされていると解される。
第 4 款 移転禁止特約が存在する場合の処理
アメリカにおける議論の分析•検討を閉じるにあたって、移転禁止特約について触れておきたい。平時においては、特約を設けておけば、契約上の地位の移転を常に制限でき、承諾なき移転がなされた場合、相手方は契約を解除できるため、契約において、契約上の地位の承諾なき移転を禁じる特約が設けられている可能性がある。しかし、前述したように、倒産手続において移転禁止特約は、365条⒡⑴によって原則として無効とされる。したがって、特約の存在は、契約上の地位の移転の許否の判断を左右しない。もっとも、人的要素の重大性を判断する際には、様々な契約条項も考慮要素となりうるので、移転禁止特約の存在は、この判断における考慮要素の一つとして位置づけられるであろうが、それにとどまると思われる。
以上、本章において検討してきたことから、わが国への示唆をまとめれば、
①財団価値の最大化という観点から、倒産時には平時の規律が修整され、法令や契約条項にかかわらず、承諾なき地位の移転が認められうる。②しかし、契約条項及び契約の性質に鑑み、契約において人的要素が重要である場合には、相手方に不当な不利益を課すことで財団価値を最大化することは妥
当ではないため、承諾なき移転は認められない、という点が抽出されよう。
第 3 章 わが国におけるあるべき解釈論
第 1 節 検討の前提 平時における規律
本節においては、わが国の倒産時における解釈論を検討するにあたり、その前提となる平時における規律について、契約類型ごとに確認しておくこと
(75)
とする。
第 1 款 承諾なき地位の移転がxxで制限されている契約 賃貸借契約 まず、契約上の地位の移転につき、xx上、相手方の承諾が必要とされて
いる契約類型について、平時の規律を確認する。具体的には、賃借人の地位
(76)
を移転する場面が挙げられる。民法612条 1 項によれば、賃借人たる地位の
(77)
移転には、賃貸人の承諾が要求されている。賃貸借契約は、人的な信頼を基
礎としたものであるため、賃貸人の承諾なき賃借権の移転は、当然に解除権
(78)
を発生させると考えられているのである。したがって、xxで承諾が要求さ
れている類型では、平時において承諾なき地位の移転は認められず、また、承諾なき地位の移転を制限する旨の特約も、平時においては当然に有効であると考えられる。しかし、賃貸借契約の場合、信頼関係破壊の法理により、仮に無断で賃借人の地位の移転がなされても、賃貸人との間の信頼関係が破壊されるに至っていないと評価できる場合には、賃貸人の意思にかかわらず、賃借人たる地位が移転するとされ、判例は、このような利益調整可能な
(79)
概念を媒介することで、具体的妥当性を確保しようとしている。そのため、
xx規定があるという一事を以て、常に承諾なき移転が制限されるとまでは言えず、承諾なき地位の移転は原則として認められてはいないものの、信頼関係破壊の法理を媒介として、例外的にこれが許容される場面もあると言えよう。このような理解に基づけば、信頼関係が破壊されたか否かの判断において、移転禁止特約の存在は、考慮要素の 1 つとして勘案される余地があろ
う。
第 2 款 承諾なき地位の移転につき規定が存在しない契約 一般の契約 次に、承諾なき地位の移転につき制限規定がxx上存在しない場合につい
て、平時の規律を確認する。契約上の地位の移転については、民法上規定は
存在しないものの、債務引受の要素が存在する以上、相手方の承諾が必要と
(80)
される。また、移転禁止特約が存在する場合には、当然にその効力は有効と
解される。
以上のような通説的見解によれば、常に相手方の承諾が必要と解されることとなるが、承諾なくして債務引受や契約上の地位の移転を認めるべきとの提言も有力になされている。その理由としては、契約上の地位はそれ自体に財産的な価値が存在するし、事業譲渡の場面等、社会•経済上、契約上の地位の移転についての需要が存在する場面が認められる点が挙げられる。例えば、xxxxは、契約当事者の人的要素が問題とならない、特定の財産の移転に伴う契約上の地位の移転については、相手方の承諾が不要であると主張
(81)
する。また、契約の特性と各当事者の保護されるべき利益によっては、契約
上の地位の承諾なき移転が認められるべき場面が存在するとの指摘も存在し
(82)
ている。これらの有力説によれば、相手方の承諾が必要とされない場面も存
在することとなろう。
第 3 款 承諾なき地位の移転がxxで認められている契約 特許ライセンス契約
最後に、特殊な類型として、承諾なき地位の移転がxxによって許容されている場合を取り上げる。具体的には、特許ライセンス契約において、ライセンシーたる地位が移転される場合がこれにあたる。特許法94条 1 項は、
「実施の事業とともにする場合」には、通常実施権を移転することができると定めており、この場合、特許権者(ライセンサー)の承諾が不要と解され
る。この趣旨は、常に特許権者等の承諾を必要とすると、承諾を得ることができない場合には、事業を移転してもライセンスされた技術を用いた事業を実施できない事態に陥ることとなるが、国民経済上の観点からそのような事態を防ぐため、特許権者等の承諾を要件とせず、移転を認めたものであると
(83)
されている。したがって、特許法においては、承諾なきライセンシーたる地
(84)
位の移転が正面から認められていることになる。
しかし、ライセンス契約においては、ライセンサーは、どのような者がライセンシーになるかについて、重大な利害関係を有している。例えば、ライセンサーと競合している企業がライセンシーとなった場合には、ライセンサーの被る不利益は甚大なものとなろう。そこで、一般には、特許法94条 1 項
(85)
を任意規定と解し、承諾なき移転を制限する旨の条項を当事者間で締結して
おき、通常はこの条項の効力によって、承諾なき地位の移転を制限してい
(86)
る。もっとも、特許法94条 1 項の公益的な趣旨に鑑み、これを強行法規と解
する立場からは、このような条項を設けても無効であると解されるとの指摘
(87)
もあり、通常実施権の承諾なき移転を常に制限できるとまでは言うことがで
(88)
きない状況にある。
第 2 節 倒産時における規律のあり方
以上、平時における契約上の地位の移転にかかる規律を確認したが、本節においては、アメリカにおける議論からの示唆をもとに、倒産時における規律のあり方について検討することとする。倒産手続においては、原則として平時の規律が尊重されるが、場合によっては平時の規律が修整されることが
(89)
ある。この点は、第 2 章で見たように、アメリカにおける法制度と同様であ
る。本節においても、前節と同様、契約類型ごとに検討を加えていくこととする。
第 1 款 承諾なき地位の移転がxxで制限されている契約 賃貸借契約 前節で確認したように、賃貸借契約については、承諾なき賃借権の移転を
制限するxx規定が存在しているが、その規律は絶対的なものではなく、判例には、信頼関係破壊の法理を利益調整の道具として用いることで、各事例における結論の妥当性を確保しようとする傾向が見られる。また、契約上の地位に財産的価値が存在するという観点は、わが国においても、積極的に捉
(90)
えられているところである。したがって、xx規定が存在すると言っても、
倒産時においても常にxx規定通りの法的効果が導かれるとは限らない。平時における規律において利益調整の余地が認められている以上、倒産時において平時の規律が尊重されるかは改めて検討されなければならないと言えよう。
このように、倒産時における利益の調整を検討する上で、アメリカにおける議論は参考になると言える。なぜなら、そこでは、まさに財団の利益と相手方の利益との調整が検討されていたためである。アメリカにおける議論では、承諾なき移転を禁じる平時の規律が、人的要素を理由として設けられている場合には、相手方の不利益を考慮して、その規律を尊重する必要があるとの価値判断がなされていた。このような価値判断は、わが国においても説得力を有すると言えよう。なぜなら、平時の規律が人的要素を考慮して設けられているにもかかわらず、倒産時において承諾なき移転を認めるとすれば、契約相手方の利益が著しく損なわれることは想像に難くなく、そのような相手方の著しい不利益の上に、財団の価値を最大化することは不当と評価され、このような価値評価はわが国においても是認されると考えられるためである。したがって、人的要素を考慮して平時の規律が設けられている場合、その規律を倒産時に修整することは妥当でない。
もっとも、賃貸借契約と一口に言っても、居住用の借地を個人的な縁で賃貸しているとか、事業用の建物を仲介業者を通じて賃貸している等、その契約の態様、契約当事者間の関係等は様々なものがありうる。そのため、賃貸借契約の中にも、人的要素が考慮されているものもあれば、そうでないものもあると考えられる。したがって、一律に賃貸借契約だからと言って、人的
要素の重大性が認められるわけではなく、個別具体的な契約ごとに、人的要素が問題となるか否かを検討しなければならない。この際には、賃貸借の目的(居住用か事業用か)、賃貸借契約締結に至る経緯(仲介業者を介しているのか)、契約当事者の特質(個人か企業か、あるいは個人事業主か等)等
(91)
が、考慮されなければならないであろう。これらの事情を考慮し、人的要素
の重大性が認められる場合には、倒産手続との関係でも承諾なき地位の移転は認められないが、そうでない場合、すなわち、人的要素が契約において重要でない場合には、承諾なき地位の移転が認められると考える。
第 2 款 承諾なき地位の移転につき規定が存在しない契約 一般の契約
( 1 )議論状況
一般の契約については、承諾なき地位の移転につき規定が存在しないが、解釈上、平時では地位の移転について相手方の承諾が必要とされる。しかし、契約上の地位それ自体に認められる財産的価値を重視する論者からは、このような平時の規律を緩和することが提案されている。すなわち、特定の財産の移転とともになされる契約上の地位の移転については、承諾を不要と解する見解や、当事者間の利害関係を考慮して、場合によっては承諾なき移
(92)
転を認めるという見解である。
また、わが国の裁判例の中には、倒産手続において事業譲渡が許可された場合には、承諾なき地位の移転が許されるとした裁判例も存在する。東京地
(93)
判平成15年12月 5 日(金法1711号43頁)は、債務者企業Yと相手方Xとの間
で、請負契約類似の業務委託契約が締結されており、その契約上の地位を相手方の承諾なくして移転することはできない旨(譲渡禁止特約)が合意されていたところ、民事再生手続内の事業譲渡において、再生債務者Yによって、請負人たる地位が相手方の承諾なくして移転された事案である。裁判所は、「本件譲渡禁止特約の趣旨は、Yが無断でその契約上の地位を譲渡することによって、Xに不測の損害を与えることを防ぐことにあると解される」
とした上で、「民事再生手続の中で行われる営業譲渡は、事業の再生のために必要な場合に、かつその譲渡が適正であることが確認されたうえで行われるものであるから、むしろ、営業譲渡によって契約相手方に関するリスクは減少し、事業継続にかかるXの期待ないし利益もより保護されると考えられるから、本件営業譲渡は、本件譲渡禁止特約の趣旨に反しないということができる。」としている。このような解釈を敷衍すれば、一般に民事再生手続における事業譲渡の際には、譲渡禁止特約(=移転禁止特約)は無力化され、相手方の承諾なき地位の移転が可能になると解する余地もあろう。
( 2 )検 討
このように、平時•倒産時のいずれの場面においても、例外的に承諾なき移転が許容される場面が存在することが、有力に主張されている状況にあるが、これについて検討するにあたっても、第 2 章において分析•検討したアメリカにおける議論が参考となろう。アメリカにおいては、契約上の地位の移転に際して適切な保証の提供が要件とされているため、債務の履行可能性は、契約上の地位の移転の前後で変動しないこととなる。したがって、相手方が承諾をしないとすれば、それは履行可能性以外の理由によるはずである。そして、その理由が妥当と評価され、相手方が保護されなければならないのは、契約において人的要素が重大なものであり、契約上の地位が移転された場合、その不利益を相手方が負うこととなるという場面に限られることとなる。
わが国における有力説においても、同様の指摘はなされている。すなわち、契約上の地位の移転の際に要求される承諾には、免責的債務引受のために必要とされる承諾と、一定の契約類型においては地位の移転が禁止されて
おり、この禁止を解除するために必要とされる承諾の 2 種類が存在し、少な
(94)
くとも理論的にはこれらを区別すべきとの指摘である。後者に該当するの
が、「当事者の人的資質」が問題となる場面であり、この場合には相手方の
(95)
承諾が常に必要とされるというのである。この見解によれば、賃借人たる地
位の移転、継続的契約における契約上の地位の移転、フランチャイズ契約に
(96)
おけるフランチャイジーたる地位の移転については、承諾が必要とされるこ
ととなる。このように、わが国の有力説で採用されている「人的資質」の概念は、まさにアメリカにおける議論で指摘されていた「人的要素」という概念と類似するものではないかと考えられ、そうであれば、わが国において承諾なき契約上の地位の移転が許容される場面を画する上でも、アメリカにおける議論は参考となるのではないかと思われる。
ここで、(1)で取り上げた裁判例は、①民事再生手続における事業譲渡の目的及び手続の正当性、②本件譲渡禁止特約の効力を認めれば、事業譲渡を通じた再建が実現できず、多数の利害関係者の利益を損なうこととなるが、このような事態は、多数の利害関係人の利益を調整しながら適正な手続によって事業の再生を図ろうとする民事再生法の趣旨に著しく反することの 2 点を挙げつつ、業務委託契約における承諾なき地位の移転を認めるものである。確かに、いずれの理由も一定の説得力を有している。すなわち、①について、民事再生手続で事業譲渡をなす場合、裁判所による許可が必要とされ、裁判所は、事業の再生のために必要であると認める場合に限り、この許可をすることができる(民再42条 1 項)。そして、許可にあたっては、再生
債権者や労働組合等の意見聴取が要求されている(民再42条 2 項、 3 項)。したがって、事業譲渡先の選定過程や事業譲渡契約の内容が精査され、かつ、利害関係人の意見聴取も行われた上で、事業譲渡は許可されるのであるから、いわば手続的な正当性によって、その事業譲渡の実体的な正当性も担保されるとも言いうる。次に、②については、契約相手方も利害関係人の一員であり、多数の利害関係人の利益を調整するという意味では、契約相手方の利益もその調整の対象となるのであるから、契約相手方の利益のみを優先することはできないとの趣旨と読み替えることで、その説得力が増すと言えよう。
しかし、上記の裁判例については、賛同しえない点が含まれている。すな
わち、前述のとおり、業務委託契約における相手方の人的要素は、Xにとっ
(97)
て死活問題である。本件業務委託契約においては、X•Yの協議により作成
された製品標準書に基づき、Yが商品を製造することとなっており、また、 XはYに対して製造のための機械を貸与することとされていた等の事情に鑑みれば、Xの競合企業がYの地位を承継した場合、商品の製造技術•方法が競合企業の手に渡ってしまうこととなり、Xが被る損失は甚大なものとなる可能性がある。また、譲受人が競合企業でなくとも、当該譲受人による債務の履行が、Xが当初Yに期待していた水準でなされるのかは不確実である。上記裁判例は、譲受人が競合企業であるか否か、譲受人にどの程度の履行を期待することができるのかといったことまでを、事業譲渡の許可手続において検討しているというのであろうか。これらの点について検討した上で、当該契約において人的要素が重要なものであるか否か判断し、これが肯定される場合には、倒産手続との関係でも、Yの承諾なくしては契約上の地位を移
(98)
転することができないと解すべきである。
以上のような検討に基づけば、人的要素が重要となる契約において要求される承諾は、どのような場合であっても必要とされることとなろう。その反面、免責的債務引受の趣旨で要求される承諾については、その絶対性は揺らいでいると言うことができ、このような承諾が常に要求されると解することは妥当でない。もっとも、わが国においては、平時においても倒産時においても、契約上の地位の移転について、履行確保のために担保を提供することは要求されておらず、アメリカとは前提となる制度に差異が存在する。そのため、アメリカと同様の規律をわが国において直截に導入するということは困難とも言えよう。しかし、わが国においても、倒産手続における事業譲渡の許可の場面では、譲受人の資力が考慮されうると言える。すなわち、上記裁判例が、民事再生手続における事業譲渡は、「事業の再生のために必要な場合、かつその譲渡が適正であることが確認されたうえで行われるものであるから……(事業譲渡によって)契約相手方に関するリスクは減少し」と判
示していることからすれば、上記裁判例は、事業譲渡の許可の場面において、譲受人の資力についても判断し、その資力が十分である場合に事業譲渡の許可をなすということを前提としているように思われる。すると、わが国でも、倒産手続との関係では、承諾なき契約上の地位の移転の許可の際には、譲受人の資力が検討されうると言えよう。
しかし、上記裁判例が譲受人の資力について考慮していても、それだけで承諾なき地位の移転を正当化するものとは言い切れない。なぜなら、事業譲渡の許可の時点で資力が十分であったとしても、それが将来において継続するかは不確実であるからである。アメリカにおいては、承諾なき地位の移転の際には、「適切な保証」の提供が必要とされており、状況が大きく異なると言えよう。「適切な保証」、すなわち「担保」が提供されれば、譲受人の将来の資力にかかわらず、相手方は確実に自らの債権を回収することができる。これと対比すれば、わが国においても、以下のような解釈論が採用されるべきである。すなわち、人的要素が問題とならない場面でも、資力が十分であるというだけでは承諾なき移転が認められるべきではなく、担保の提供までが要求されるべきで、具体的には、譲受人からの担保提供を条件として
事業譲渡を許可するというような、「条件付許可」とも言うべき許可がなさ
(99)
れるべきである。この担保の提供は、譲受人が無資力となり、当該契約を履
行することができなくなった場合に備えるためのものであるから、当然、具
(100)
体的な事情に応じて提供されるべき担保は異なることとなる。例えば、買主
たる地位の移転の場合には、当該代金債務の額を基準として担保が提供されるべきであるし、人的要素が問題とならない賃貸借契約(事業用の不動産賃貸借契約等)における賃借人たる地位の移転の際には、残存賃貸借期間における賃料の総額を基準として、提供されるべき担保が算定されるべきである。
( 3 )小 括
わが国においても、当初債務者による履行こそが重要な場合には、「人的資質」という概念を用いた説明がなされており、これはアメリカにおける
「人的要素」と類似する概念であると思われる。したがって、わが国においても、この人的資質が問題となるか否かが、承諾なき移転の許否を決するメルクマールであると思われる。
以上を前提とすれば、平時において、地位の移転についてのxx規定を有さない類型の契約については、倒産手続においては、以下のような処理がなされるべきである。すなわち、債務者の人的要素が問題となる場合は、平時の規律は修整されず、相手方の承諾なくして契約上の地位を移転することが
できない。そうでない場合には、平時の規律は修整され、譲受人からの担保
(101)
提供があれば、承諾なき移転が認められる。
また、特約が存在する場合、その効力は全面的に認められるわけではなく、(「特約の存在」という事実自体は人的要素の重大性の検討の際に考慮されるべきではあるものの)承諾なき地位の移転が認められる限度で否定されるべきである。債務者企業は倒産状態に陥っているところ、その契約上の地位に財産的価値が認められる場合には、その価値を実現することが、倒産財団にとって利益である。アメリカにおいては、契約上の地位に財産的価値を認め、それを手続内で積極的に実現するとの価値判断がなされていたが、この点はわが国においても参考となる。もっとも、契約において人的要素の重要性が認められる場合に承諾なき移転を認めてしまえば、相手方へ不当な不利益を課すことによって、財団の価値が増殖することとなるが、これは価値判断として妥当ではなく、この場合には承諾なき地位の移転は認められないと考える。他方で、人的要素が重要ではない契約においても、特約の存在のみによって相手方を保護するということは、免責的債務引受のために相手方の承諾が必要とされているに過ぎない場面で、譲受人からの担保提供により履行可能性も確保されているにもかかわらず、相手方を保護するということを意味する。しかし、人的要素が問題とならない契約において、相手方にとって重要なのは履行可能性のみであって、これ以外に保護されるべき利益が存在するとは考えられない。したがって、このような場合、相手方にとって
は履行可能性が確保されれば必要にして十分であり、特約の存在のみから相手方の保護のために承諾なき移転を制限することは、価値判断として導かれえない。すなわち、利害対立関係がより先鋭化した倒産手続において、一方当事者の利益のみを考慮して契約上の地位の移転を制限するのは妥当でない。例えば、フランチャイズ契約において、フランチャイジーは事業のために様々に資本を投下していると思われるが、フランチャイザーの承諾が得られないから、あるいは、移転禁止特約が存在するから、このような投下資本の回収が認められないとすることは、フランチャイジーの正当な利益を害す
(102)
る、との指摘が存在する。この指摘に見られるように、財団価値の最大化と
いう観点、及び、他の利害関係人との間の利害の調整という観点からは、特約の存在のみによって承諾なき地位の移転を制限することは妥当でないと思われる。
第 3 款 承諾なき地位の移転がxxで認められている契約 特許ライセンス契約
アメリカにおける議論では、ライセンス契約におけるライセンシーの地位は、倒産手続との関係でも、相手方の承諾なくしてこれを移転することができないとされていた。しかし、前節第 3 款で見たように、わが国では、特許権ライセンスについて、xx規定を以て、承諾なき実施権の移転が認められているため、この点でアメリカとわが国とでは前提が大きく異なっている。わが国においては、上記のようなxx規定が存在する以上、移転禁止特約 が存在しない場合には、通常実施権の承諾なき移転が、倒産手続との関係で
も認められることになると考えられる。実際、裁判例においてもこの結論を
(103)
採用するものが存在しており、事業譲渡に伴う通常実施権の移転は、平時に
おいても、倒産時においてもこれが是認される。しかし、特許ライセンス契約においては、そのような契約上の地位の承諾なき移転を制限する旨の条項
(104)
が存在することが多いとされ、特約が存在する場合の処理が問題となる。と
ころが、接しえた限りでは、この特約の効力が争点となった事件は存在しな
(105)
い。そこで、本稿の分析を敷衍して考察すれば、以下のようになろう。
まず、特許法94条 1 項は、国民経済上の理由により実施権の承諾なき移転を認めるものであるが、この趣旨は確かに制定当時であれば説得力を有していたものの、現代においてはむしろ、承諾なき移転が認められることによる
(106)
弊害の方が大きいと指摘されているところである。また、特許ライセンス契
約が承諾なくして移転されれば、相手方であるライセンサーは著しい不利益を被ることとなるため、ライセンス契約は、債務者の人的要素が重要となる契約と解され、地位の移転の際に要求される承諾は、免責的債務引受の趣旨から要求されるのではなく、人的要素の重大性ゆえに要求されるものと言える。これまでの本稿の検討によれば、このような人的要素が重大である場面において、承諾なき移転が認められることは、本来的には是認されるべきものではない。そこで、特許法94条 1 項を任意規定と解し、当事者間で移転禁止特約が締結されれば、承諾なき移転を制限できると解すべきである。すなわち、特許ライセンス契約は、本来的には承諾なき移転が認められない契約であるが、特許ライセンス契約を締結する当事者の専門性に鑑みれば、当事者が移転の禁止を明示しない場合には、国民経済上の理由が優先され、移転が許容される。他方で、当事者間で移転が禁止されていれば、国民経済上の理由よりも当事者の意思が優先され、実施権が承諾なくして移転しないこととなると解される。
平時の規律を以上のように理解できるのであれば、倒産時においては以下のような帰結が導かれよう。すなわち、倒産時においても、特約が存在しなければ、人的要素が問題となる契約ではあるものの、特許法94条 1 項によって、承諾なき移転が認められる。他方で、特約が存在する場合には、そのような任意規定は排除されるのであるから、特許ライセンス契約は人的要素が問題となる契約である以上、承諾なき移転は制限されると解される。
第 4 章 おわりに
本稿においては、倒産手続における事業譲渡に伴う契約上の地位の移転について検討を試みたが、最後に、本稿での検討に関連する点をいくつか記すこととする。
(107)
第 1 節 債権法改正の議論との関係
まず、現在進められている債権法改正において、契約上の地位の移転に関する規定が設けられることが検討されている。中でも議論されているのが、契約上の地位の移転には原則として相手方の承諾が必要とされるところ、例外的にどのような場面であれば、相手方の承諾が不要とされるのかという点である。
本稿の検討結果によれば、以下のような帰結が導かれよう。債務者の人的要素が重要な契約においては、契約上の地位の移転につき、相手方の承諾が必要とされる。これに対し、人的要素が重要ではない契約においては、譲受人からの担保提供を条件として、承諾なき移転が認められると解される。債権法改正にかかる議論では、事実上相手方の承諾を得ることが困難な契約を
念頭において、「契約の性質上」承諾なき移転が認められる場面が存在する
(108)
ことを明文化する方向性が検討されていたようである。これについては、承
諾なき移転が認められる例外的場面は賃貸人や使用者の交替等に限られるのであるから、一般的なルールを定める必要はなく、それぞれの箇所で例外的
(109)
な取扱いをすればよいだけである、との反論がなされた。その後、「法令に
特別の定めがある場合」は承諾なき移転を認めるとの規定が検討されたが、結局は例外を定める但書自体を規定せず、承諾なくして移転できる場面につ
(110)
いては、解釈に委ねられることとなったようである。
しかし、本稿で検討したように、本来的に相手方の承諾については 2 つの種類が存在し、人的要素が問題とならない場面では、承諾は、単に免責的債
務引受の趣旨で要求されているに過ぎないのである。このような承諾が必要とされる場面では、単に債務の履行可能性しか問題にならないのであるから、解釈上相手方の承諾が不要とされる余地が存在するはずである。したがって、債権法改正の議論においては、免責的債務引受の趣旨で承諾が要求される場面では、単に相手方に担保を請求する権利を認めておけばそれで十分ではないかと考えられる。さらに言えば、債権法改正に限らず、それを受け
(111)
て議論の活性化が予想される倒産法改正との関係でも、契約上の地位の移転
の際に担保を提供することを要件とすることも、検討に値するのではないかと考える。
第 2 節 今後の検討課題
本稿では、平時における規律が倒産時において修整されるのはどのような場面であるかについて、アメリカ法を比較の対象としながら、分析•検討を試みた。契約上の地位の移転については、平時において解釈上相手方の承諾が必要とされており、また、実務においては承諾なき移転を制限する旨の特約が付されることもありうる。そのため、xxすると、平時の規律は常に倒産時においても尊重されるようにも思われるし、契約当事者もそのことを前提にして契約締結に至っていると思われるところである。
しかし、倒産手続との関係では、平時の規律が尊重される場面と、修整される場面とが存在することは周知の通りである。その境界が不明確であれば、契約締結時点(平時)において、倒産時の当該契約の処遇を予測することは困難となるから、このような境界の検討は、円滑な経済活動にとっても意義のある作業であるといえよう。そのため、たとえ平時において承諾が必要とされていても、また、当事者が承諾なき契約上の地位の移転を禁止する旨の合意をしており、これが平時において尊重されるとしても、そのような平時の規律が倒産手続との関係で修整されるか否かは、改めて検討がなされなければならない。このような観点からすれば、本稿は、平時における規律
が尊重される場面と、修整されうる場面とを、人的要素の重大性という観点から切り分け、契約上の地位の移転という平時の規律の一側面について、境界の検討を試みたと言えよう。今後は、この人的要素の重大性の意義をより具体化し、その判断基準を一層明確化していくことが必要である。
また、本稿の検討の過程においては、他の倒産法上の議論にも参考となりうる点がいくつか存在した。例えば、アメリカにおいては、財団価値の最大化という観点は、倒産手続において単に重視すべき考慮要素とされているだけでなく、財団価値最大化義務として、管財人や DIP に対して課される義務でもあるところ、この財団価値の最大化をもってしても、相手方に対して重大な不利益を与えることはできない、換言すれば、相手方の重大な不利益の上に、財団が利することがあってはならないという価値判断が存在することが明らかとなった。
翻って、わが国においても、財団価値の最大化や再建の必要性と、相手方の不利益との関係とを意識する必要があるように思われる。事業譲渡によって再建を目指す場合、事業譲渡価格によって再建可能性や債権者への弁済額は左右されることとなるため、事業譲渡にあたっては、財団価値(=譲渡価格)の最大化という観点が重視されなければならない。しかし、事業譲渡に伴い影響を受ける契約相手方•債務者会社の従業員等から、平時において有している利益を奪うことで、財団価値(=譲渡価格)の最大化を図ることが、妥当なのかが意識されなければならない。
さらには、わが国では、例えば、担保権消滅請求や、否認権、双方未履行
双務契約についての選択権のように、平時の規律の修整を正面から認める制度が存在しているところであるが、このような修整は、財団価値の最大化の
(112)
ために存在しているとも考えられる。そうであれば、これらの制度との関係
でも、相手方が平時であれば保持していた利益を財団価値の最大化のために 奪うことを、どのように正当化することができるのか、という点も問題となる。今後は、本稿の検討を通じて得られた以上のような示唆を基に、わが国倒
産手続における財団価値の最大化と、契約相手方の保護との調整のあり方についても、研究を進めていきたいと考えている。
( 1 )民事再生手続に関してではあるが、近時の実証的研究において、再建手法として事業譲渡が採用される割合が高いことが明らかにされている。xxxx「再生手続における倒産処理スキーム」xxxx=xxx編『民事再生法の実証的研究』 154頁(商事法務、2014)、xxxx「再生手続における事業譲渡、会社の分割•合併」同書251頁参照。
( 2 )民事再生法42条•43条参照。なお、有力な再建手法の 1 つである会社分割については、民事再生法を含めた倒産法において、これを計画外で認める旨の特則は存在していないところである(計画内での会社分割については、会社更生法182条• 182条の 2 が定められている。)。そのため、計画外で会社分割をする場合、会社法の手続を履践する必要がある。
( 3 )本稿にいう「財団」には、再生債務者財産を含むものとする。
( 4 )財団価値の最大化は、少なくとも 2 通りに解釈することができると思われる。すなわち、債権者への弁済額の最大化と企業(事業)価値の最大化である。双方の差異は、債権者以外の者(典型的には株主)に対して利益配分を認めるのか否かという点において、顕在化するように思われる。しかし、本稿では、さしあたり、手続開始時に財団に所属する財産を最も高い価格で売却するという意味で、この語を用いることとする。
( 5 )xxxx「事業譲渡の迅速化」東京弁護士会倒産法部編『倒産法改正展望』239頁(商事法務、2012)は、倒産手続における事業譲渡にあたって、相手方が異議を申し出る期間を設け、この期間内に異議を申し出なかった相手方については、承諾を要さずに、契約上の地位の移転を認めるとの法改正案を提案している。また、具体的な改正提案までに踏み込むものではないが、xxxx「債権法改正に伴う倒産法の改正について」xxxx=事業再生研究機構編『債権法改正と事業再生』 25-27頁(商事法務、2011)も、契約上の地位の移転についての民法及び倒産法の改正の必要性について言及する。
( 6 )xx•前掲注( 5 )239頁はこのような方向性へ議論を進めようとするものである。
( 7 )なお、フランス倒産法においては、裁判所の許可により、契約上の地位を強制的に移転するという強力な効果が認められている。これについては、xxxx「営
業譲渡による倒産処理」xxx先生古稀記念『現代社会における民事手続法の展開下巻』603頁(商事法務、2002)参照。
( 8 )See U.C.C. § 2-210(4) (2002).
( 9 )債権譲渡に関する規定として、id. § 2-210(2); Restatement (Second) of Cont- racts § 317 (1981)。債務引受に関する規定として、U.C.C. § 2-210⑴ (2002); Res- tatement (Second) of Contracts § 318 (1981)。
(10)xxxx『アメリカ契約法〔第 2 版〕アメリカ法ベーシックス1』334頁(弘文堂、2008)参照。なお、雇用契約については、労働者保護のために、州法の規定によって賃金債権の移転が禁止されるため、賃金債権を含めた雇用契約全体を移転することができないとされる。
(11)なお、「重大な」との語について、債権譲渡の場面では“material”という語が用いられており (See U.C.C. § 2-210(2) (2002); Restatement (Second) of Contracts
§ 317 (1981))、債務引受の場面では“substantial”という語が用いられているが (See
U.C.C. § 2-210(1) (2002); Restatement (Second) of Contracts § 318 (1981))、 両者は同様の意義を有していると解することができることについて、xx•前掲注
(10)340頁参照。
(12)See 3 E. Xxxxx Xxxxxxxxxx, Xxxxxxxxxx on Contracts 80 (3d ed. 2004).
(13)xx•前掲注(10)335頁参照。
(14)See 3 Xxxxxxxxxx, supra note 12, at 80, 133.
(15)3 id. at 130. 個人的役務提供契約とは、その契約に基づく各債務が非常に特殊 (unique) なため、債権者が、当初債務者による履行及び当該契約を委任できないものとすることに「重要な利益(substantial interest)」を有する契約であるとされている(Xxxxxxxx Xxxxxx Xxxxx et al., Debtors Beware: The Expanding Universe of Non-Assumable/Non-Assignable Contracts in Bankruptcy, 13 AM. BANKR. INST. L. REV. 187, 205-06 (2005))。
(16)3 Xxxxxxxxxx, supra note 12, at 132.
(17)3 id. at 130.
(18)もっとも、債権譲渡との関係では、移転禁止特約の効力が制限的に解釈される可能性がある。例えば、Restatement (Second) of Contracts § 322⑴ (1981) は、
「契約」の譲渡を禁ずる旨の特約は、原則として「債務引受」を禁ずる旨の特約と解釈されるとしており、「契約」の譲渡を禁ずる旨の定めがあっても、承諾なくして債権譲渡がなされる余地が生じる。また、3 Xxxxxxxxxx, supra note 12, at 88
は、裁判例においては、相手方が譲渡につき、不合理に又は悪意(bad faith)で承諾しない場合には、移転禁止特約の効果が及ばない(=承諾なくして譲渡が可能である)とされているとする。
(19)U.C.C. § 2-210⑸ (2002). See id. § 2-609.
(20)Id. § 2-210⑴ .
(21)この適用ある法とは、契約について適用されうる、倒産法以外のあらゆる法のことを意味する(3 COLLIER ON BANKRUPTCy ¶ 365.07[1] n.4a (Xxxx X. Xxxxxxx & Xxxxx X. Xxxxxx eds., 16th ed. 2014); In re XMH Corp., 647 F.3d 695 (7th Cir. 2011)).
(22)xx上は管財人のみが記されているが、DIP は管財人と同様の地位を有するとされるので(See 11 U.S.C. § 1107(a) (2014))、本条の適用においても、DIP は管財人と同視される。
(23)See Xxxxx Xxxxxxx, Assigning a Franchise Agreement over the Franchisor’s Objection: Bankruptcy May Make It Possible, 32 Franchise L.J. 71, 72 (2012).
(24)See 11 U.S.C. § 365(f)(2) (2014).
(25)Id. § 365⒝⑴A-C. もっとも、同条⒝⑵によれば、債務者の支払不能や資産状況、倒産手続の開始等の一定の事由に基づく不履行については、これを治癒する必要はないとされている。
(26)Id. § 365⒡⑵B .
(27)Id.
(28)See 3 COLLIER ON BANKRUPTCy, supra note 21,¶ 365.06[3][a].
(29)ジェフ•xxxxxxxxxxx•J•xxxxx(米国倒産法研究会訳)『アメリカ倒産法(下巻)』16頁(レクシスネクシス•ジャパン、2012)参照。
(30)3 COLLIER ON BANKRUPTCy, supra note 21,¶ 365.06[3][a]; In re M. Fine Lumber Co., 383 B.R. 565, 573 (Bankr. E.D.N.Y. 2008).
(31)3 COLLIER ON BANKRUPTCy, supra note 21,¶ 365.09[1].
(32)In re Fleming Coms., 499 F.3d 300, 306 (3d Cir. 2007).
(33) この点についての記述は、XXXXXXX XXXXXX XXXX, THE LAW OF BANKRUPTCy,
845-47, 862-63 (2d ed. 2009) を参考とした。
(34)Nat’l Labor Relations Bd. v. Bildisco & Bildisco, 465 U.S. 513, 531-32 (1984)は、債務者は“cum onere”(負担付)で引き受けなければならないとする。
(35)この例外がいわゆる倒産解除条項(ipso facto clause)であり、365条⒝⑵及び
同条⒠⑴によってその効力が制限される。
(36)11 U.S.C. § 365(k) (2014).
(37)これと異なる定めを設けても、365条⒡⑴によって無効とされる(Tabb, supra note 33, at 863)。
(38)11 U.S.C. § 365⒡⑵B (2014).
(39)なお、「譲渡」は「転貸」とは異なるとされている。転貸の場合は365条⒡⑵が適用されないから、転借人は、将来の履行についての適切な保証を提供する必要がない。この点は、引受の際に不履行があれば、財団(賃借人•転貸人)が保証を提供するのとは対照的である(See id. § 365⒝⑴C ; Tabb, supra note 33, at 863- 64)。また、365条⒦が適用されないため、財団は責任を免れない。さらに、移転禁止条項を無効とする365条⒡⑴の適用もないから、賃貸借契約における転貸禁止条項も無効とされないと考えられる(Tabb, supra note 33, at 864)。
(40)In re Grove Rich Realty Corp., 200 B.R. 502, 506-07 (Bankr. E.D.N.Y. 1996); Xxxxx X. Binford, Bankruptcy and Assignment of Franchise Agreements over Franchisor’s Objection: Response, 33 Franchise L.J. 93, 94 (2013).
(41)41 U.S.C. § 6305(a) (2014).
(42)See Xxxxx et al., supra note 15, at 224-25.
(43)同旨を述べる裁判例として、例えば In re West Elec., Inc., 852 F.2d 79 (3d Cir.
1988) が挙げられる。
(44)X.X. Doc. No. 93-137 Part I, at 199 (93d Cong. 1st Sess. 1973), reprinted in B COLLIER ON BANKRUPTCy, App. Pt 4(c) (Xxxx X. Xxxxxxx & Xxxxx X. Xxxxxx eds., 16th ed. 2014).
(45)この点が争点となる訴訟が提起されるのは、典型的には以下のような場面である。すなわち、管財人•DIP が相手方の承諾なくして引受•譲渡を申し立てたところ、これに対して相手方が異議を申し立てるという場面である。
(46)In re Xxxxxx Xxx., Inc., 6 B.R. 370 (Bankr. N.D. Ga. 1980).
(47)Xxxxxxx X. Xxxxx, Recognizing the Breadth of Non-assignable Contracts in Bankruptcy: Enforcement of Nonbankruptcy Law as Bankruptcy Policy, 16 AM. BANKR. INST. L. REV. 321, 324 (2008).
(48)See In re Xxxxxx Xxx, 6 B.R. at 372.
(49)Id. at 372 n.2では、この点につき、立法段階における下院の委員会報告書(X.X. Doc. No. 93-137 Part I, at 199 (93d Cong. 1st Sess. 1973))が引用されている。
(50)X.X. Doc. No. 93-137 Part I, at 199 (93d Cong. 1st Sess. 1973), reprinted in B COLLIER ON BANKRUPTCy, App. Pt 4(c) (Xxxx X. Xxxxxxx & Xxxxx X. Xxxxxx eds., 16th ed. 2014).
(51)フランチャイズ契約について、個人的役務提供契約でないとしたものとして、例えば、In re Tom Stimus Chrysler-Plymouth, Inc., 134 B.R. 676 (Bankr. M.D. Fla. 1991) がある。また、In re Rooster, Inc., 100 B.R. 228 (Bankr. E.D. Pa. 1989)においては、当該事件における商標ライセンス契約では、ライセンサーがライセンシーを監督しているから、ライセンシーの債務の履行は、特別の個人的な関係、知識、特殊な技能、又は才能に依拠しないと言え、当該契約は個人的役務提供契約でないとした。
(52)この呼称は Xxxxx, supra note 47, at 327による。
(53)See In re Xxxxxxxxx, 148 B.R. 443 (D. Md. 1992).
(54)In re Magness, 972 F.2d 689 (6th Cir. 1992).
(55)See id. at 696.
(56)See id. at 700 (Xxx, X., concurring).
(57)In re Schick, 235 B.R. 318 (Bankr. S.D.N.Y. 1999).
(58)重大な人的要素理論を採用するものとして、例えば、In re Catapult Entm’t, Inc., 165 F.3d 747 (9th Cir. 1999); C.O.P. Coal Dev. Co. v. C.W. Mining Co. (In re
C.W. Mining Co.), 422 B.R. 746 (B.A.P. 10th Cir. 2010) がある。また、In re ANC Rental Corp., 278 B.R. 714, 721 (Bankr. D. Del. 2002) も参照のこと。
(59)例えば、Tabb, supra note 33, at 867-70は、裁判例の展開の記述において両者の理論を区別しておらず、Xxxxx, supra note 47, at 328-29でも、個人的役務提供契約理論との類似性が指摘されている。
(60)このような立場を採用する代表的なものとして、Pension Benefit Guar. Corp.
v. Braniff Airways, Inc. (In re Braniff Airways, Inc.), 700 F.2d 935, 943 (5th Cir. 1983) がある。
(61)X.X. Doc. No. 93-137 Part II, at 158 (93d Cong. 1st Sess. 1973), reprinted in B COLLIER ON BANKRUPTCy, App. Pt 4(c) (Xxxx X. Xxxxxxx & Xxxxx X. Xxxxxx eds., 16th ed. 2014).
(62)Xxxxx, supra note 47, at 326.
(63)Xxxxx et al., supra note 15, at 204-05.
(64)In re Pioneer Ford Sales, Inc., 729 F.2d 27 (1st Cir. 1984).
(65)RCI Tech. Corp. v. Sunterra Corp. (In re Sunterra Corp.), 361 F.3d 257 (4th Cir. 2004).
(66)In re XMH, 647 F.3d at 690.
(67)365条⒞⑴が適用されるのは、適用ある法が、当該契約にとって契約当事者の人的要素が極めて重要なものであることを規定している場合、又は、公共の安全
(public safety)が問題になることが法令(statute)から明らかである場合であるとする。学説としては、3 COLLIER ON BANKRUPTCy, supra note 21, ¶ 365.07[1][c]; Xxxxxxx, supra note 40, at 96が挙げられる。
(68)See In re Grove Rich Realty Corp., 200 B.R. at 507.
(69)もっとも、ライセンス契約の場面のように、相手方の不利益や契約の目的について考慮した上で、平時における規律が設定されている場合も存在する。
(70)See In re Grove Rich Realty Corp., 200 B.R. at 507.
(71)See X.X. Doc. No. 93-137 Part II, at 156-57 (93d Cong. 1st Sess. 1973), reprinted in B COLLIER ON BANKRUPTCy, App. Pt 4⒞ (Xxxx X. Xxxxxxx & Xxxxx X. Xxxxxx eds., 16th ed. 2014). もっとも、給料債権のように、倒産時に平時よりも手厚い保護が与えられるものも存在するが、これはあくまで政策的な理由に基づくものであり、双方未履行契約の相手方一般に、倒産時に平時以上の保護を与えるべき理由は存在しないと思われる。
(72)この意味でも、利益調整の余地を有さない文理解釈は妥当ではないと言える。
(73)Tabb, supra note 33, at 869-70. See also Xxxxxx X. Bussel & Xxxxxx X. Xxxxxxxx, The Limits on Assuming and Assigning Executory Contracts, 74 Am Bankr. L.J 321, 334-36 (2000).
(74)重大な人的要素の具体的な意義、またその判断基準については他日を期したい。
(75)なお、承諾なき移転の効果については議論がある。例えば、xxxx『叢書民法総合判例研究 債務引受•契約上の地位の移転』209頁(一粒社、2001)は、原則無効とし、後の承諾によって例外的に追完されえ、この場合は譲渡の時に遡って有効となるとする。他方で、xxx『民法Ⅱ 債権各論〔第 3 版〕』222頁(東京大学出版会、2011)は、借地権の無断譲渡を、当事者間では有効と解している。
(76)賃借権の譲渡は、賃借人たる地位の譲渡であると解するのが通説であるとされているため(xx•前掲注(75)177頁)、本稿もこのような立場を前提として論を進めることとする。
(77)なお、借地権者たる地位の移転に関しては、土地の賃貸人の承諾が得られなく
とも、裁判所がこの承諾に代えて許可をすることができる(借地借家法19条、20条参照)。
(78)xxx=xxxx編『新版 注釈民法(15) 債権( 6 )〔増補版〕』270頁〔xxxx〕(有斐閣、1996)参照。
(79)判例は、無断転貸や賃借権の無断譲渡がなされても、常に契約の解除を認めるわけではなく、信頼関係破壊の法理によって、個々の事案における具体的な妥当性を図っているものと思われる。すなわち、背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、民法612条に基づく契約解除が否定されるとし(最判昭28• 9 •25民集 7 巻 9 号979頁参照)、個人営業をしていた賃借人が、これを株式会社化した場合、経営者や従業員、また、営業形態、不動産の使用状況等も、実質的に何ら従前と変更がないときには、賃借権の無断譲渡自体は認定されるものの、賃貸人との間の信頼関係が破壊されているとは言えないとして、民法612条に基づく解除権の発生を否定している(最判昭39•11•19民集18巻 9 号1900頁参照)。なお、最
判平 8 •10•14民集50巻 9 号2431頁も参照のこと。
(80)xxxほか『xx•xxコンメンタール民法 総則•物権•債権 〔第 3 版〕』 877-880頁(日本評論社、2013)参照。また、民法(債権法)改正検討委員会編
『詳解•債権法改正の基本方針Ⅲ-契約および債権一般( 2 )』330-331頁(商事法務、2009)においても、契約上の地位の移転に相手方の承諾が必要とされる点には、争いがないとされている。
(81)xxxx「当事者の交代」xxx=xxxx編『新•法律学の争点シリーズ 1民法の争点』171頁(有斐閣、2007)、同『契約譲渡の研究』301頁(弘文堂、2002)。
(82)xxxx『債権総論〔第 3 版〕』584頁(岩波書店、2013)参照。
(83)xxxx=xxxx編『新•注解 特許法(上巻)』1330頁〔xxxx〕(青林書院、2011)。
(84)xxxxxxほか「事業再編がライセンス契約に与える影響と検討の視点(上)」 NBL861号29頁(2007)参照。
(85)早稲田ほか•前掲注(84)29頁は、「少なくとも現在においては任意規定と取り扱われる可能性ないし必要性は高いように思われる」とする。
(86)xx=xx•前掲注(83)1330頁〔xxxx〕。
(87)xxxx『新訂特許法詳説』279頁(帝国地方行政学会、1971)。
(88)実務では、立法的な解決にまで踏み込んだ主張がなされている。例えば、知的財産研究所「企業再編における特許xxの取扱いに関する調査研究報告書」85頁
〔xxxx=xxxxx〕(2009)
(xxxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxxx/xxxxxxx/xxxxxx/xxx/xxxxxxxxx/000000xxx.xxx
(最終閲覧日2014年11月21日))がある。
(89)xxx『破産法•民事再生法〔第 3 版〕』326-329頁(有斐閣、2014)は、破産管財人の法的地位という観点からこの点を述べる。
(90)xxx『新訂 債権総論(民法講義Ⅳ)』581頁(岩波書店、1964)は、「経済取引が客観化し、契約は債権者•債務者の個人よりも、その契約の生じた経済的な基礎に着目されるようになったときには、その契約上の地位も、相手方に不当な不利益を与えない限り、自由に移転しうるというべきであり、その不当な不利益を防止する手段としては、相手方の承認で足りる」とする。
(91)この検討にあたっては、信頼関係破壊の法理も参考になろう。例えば、実質的には旧賃借人と新賃借人とが同視されるような場合には、信頼関係が破壊されていないと評価されるのであるから、人的要素の重大性も存在しないという判断が導かれることとなろう。
(92)xx•前掲注(75)201頁、xx•前掲注(82)584頁参照。
(93)なお、控訴審は東京高判平17• 9 •29
(xxxx://xxx.xxxxxx.xx.xx/xxx/xxxxxx_xx/xxxxxx0?xxx0(最終閲覧日2014年11月 26日))である。もっとも、控訴審は、Xが事業譲渡の許可手続において特段異議を述べなかったこと、Xが事業譲渡が有効になされたことを前提として行動していたこと等に鑑みて、譲渡禁止特約違反を理由とするXによる解除権行使はxxxに反するものとして、これを認めなかった。
(94)xx•前掲注(75)198頁は、契約の譲渡制限を解除するための相手方の承諾と、その契約の債務者の交替に対する相手方の承諾とは明確に区別されなければならないとする。xxxxx『法律学全集20 債権総論〔新版〕』334頁(有斐閣、 1972)、xxxx『債権総論〔増補版〕』480-481頁(悠々社、1992)も参照のこと。
(95)xx•前掲注(81)契約譲渡の研究365-366頁。
(96)フランチャイズ契約について、例えば、xxx判平 8 • 9 •19判タ939号172頁参照。
(97)現に、この裁判例も、「Xは、Yが自らが販売する商品を製造するという共同事業者としてふさわしい相手かどうかを様々な要素で判断した上で本件契約を締結し、かつ……巨額の先行投資を行っているのであるから、契約の相手方が誰かについての利害関係は大きく、仮に、その契約上の地位が無断で第三者に譲渡される
と、その第三者が、事業継続のために必要な設備、人員、技術、資力、信用を欠く場合に、製造商品供給に関する履行が不安定になったり、先行投資が無駄になるなどリスクを背負うことになる。そのような契約の相手方に関するリスクを回避し、事業継続にかかる X の期待ないし利益を保護するために、本件譲渡禁止特約を設けていると解される」と判示しており、その意図するところはアメリカにおける議論やわが国の有力説と同様と思われる。
(98)したがって、人的要素の重大性は、移転の対象となる契約の内容のみからは、これを決することができない。当初債務者以外の者による履行が、相手方に(履行可能性以外の)重大な不利益をもたらすか否かを検討しなければ、人的要素の重大性を判断できないからである。
(99)なお、当然ながら、倒産債権となる部分についての契約上の地位を移転することは、手続外での権利行使を制限されている倒産債権者に対して、手続外での完全な権利行使を可能にすることに等しいため、債権者平等原則の観点から問題が指摘されている(xx•前掲注( 5 )249頁)。そのため、例えば、1000個の部品を 1 回で納品するというような契約であれば、1000個分の代金が倒産債権となってしまうため、この契約を移転することはできない。しかし、当該契約において 4 回に分割
して納品するということが規定されており、 1 回目の履行後に倒産手続が開始した
場合には、残部の 3 回(750個)分については、履行選択をした上で、契約上の地位を移転すれば、上記の問題は発生しないであろう。本稿ではこのような契約を検討の対象としている。
(100)アメリカにおいても、適切な保証が提供されているか否かについては、事例ごとの判断が必要とされている。See 3 COLLIER ON BANKRUPTCy, supra note 21,¶ 365.06[3][a].
(101)以上のような処理を実現するためには、倒産裁判所が、事業譲渡の際の意見聴取において、契約相手方の意見を聴取しておくことが考えられる(破産法78条 4
項、民事再生法42条 3 項、会社更生法46条 3 項 3 号参照)。
(102)xxxx「フランチャイズシステムをめぐる倒産処理手続上の諸問題」判タ 926号90頁 (1997)、xxxほか編『フランチャイズ契約の法律相談〔第 3 版〕 新•青林法律相談11』350頁〔xxx〕(青林書院、2013)。これらの論者は、フランチャイザーは、地位の移転につき、不合理に承諾を拒んではならないとする。
(103)神戸地判平 9 • 5 •21(LEX/DB 文献番号28052713)は、実質的に破綻状態にある企業から、平時において事業譲渡がなされた事案であるが、事業譲渡に伴う
通常実施権の移転を認めている。また、名古屋地判平 3 • 7 •31判タ771号240頁も、破産手続の過程でなされた事業譲渡に伴い、通常実施権が移転することを認めている。
(104)早稲田ほか•前掲注(84)29頁によれば、ライセンス契約において、契約当事者の事業再編が契約解除事由として定められることは少なくなく、ライセンサーの防衛策としては一般的なものであるとされている。
(105)前掲注(103)で触れた 2 つの裁判例において移転が認められた通常実施権は、先使用に基づく通常実施権であり、契約により付与された実施権ではないため、特約違反の主張はなされえなかったところである。
(106)知的財産研究所•前掲注(88)85頁〔xxxx=xxxxx〕。
(107)本稿は、2014年10月段階での議論を前提としている。また、以下で引用する議事録については、法務省のインターネットサイト(xxxx://xxx.xxx.xx.xx/xxxxxx0/ shingikai_saiken.html(最終閲覧日2015年 1 月 7 日))で入手できるものを参照している。
(108)法制審議会民法(債権関係)部会第46回会議議事録33-34頁〔xxxx関係官発言〕、法制審議会民法(債権関係)部会第 2 分科会第 4 回会議議事録56頁〔xxx委員発言〕。
(109)とりわけ、xxxx弁護士がこのような主張をしておられる。法制審議会民法
(債権関係)部会第 2 分科会第 4 回会議議事録55-56頁〔xxxx委員発言〕。
(110)例外を規定しないとしても、いかなる契約においても承諾が常に必要であるとの態度決定がなされたわけではないことに留意する必要がある(法制審議会民法
(債権関係)部会第66回会議議事録39-40頁〔xxxx幹事発言〕、法制審議会民法
(債権関係)部会第70回会議議事録48頁〔xxxxxx発言〕参照)。xxxx「民法改正要綱仮案原案の解説」金法1999号56頁(2014)によれば、承諾が不要である場合に関する一般準則を立てることが断念されたに過ぎないと解される。
(111)xx•前掲注( 5 )15頁参照。
(112)例えば、双方未履行双務契約にかかる規律について、xx•前掲注(89)351頁以下は、破産管財人に解除権を付与した点に意義があるとし、これにより破産管財人は、従来の契約上の地位より有利な法的地位を与えられるとしており、これは、まさに財団価値という観点から、各契約を精査し、有利なもののみ履行すればよく、不利なものは解除すればよいという価値判断を正面から認めるものであると言えよう。