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知っておきたい
知的財産契約の基礎知識
目 次
1. 契約に関する基礎知識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(1)契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(2)契約書の作成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1)なぜ契約書を作成するのですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2)どのような契約書を、どの段階で作成すればよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
3)契約の交渉開始から契約締結までの工程はどうなりますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・7
4)契約書に記載すべき内容は決まっているのですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
5)契約書はどのように書けばよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
6)契約書の一般的な構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
7)契約書の表題はどのようにすればよいですか。また、契約書・協定書・覚書・ 合意書・確認書の表題で効力は違いますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
8)契約書に使われる用語について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
9)見出しはどのように書けばよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
10)なぜ契約書に押印しなければいけないのですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
11)印鑑の種類によって契約の効力に違いはありますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
12)印鑑は契約書のどこに押せばよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
13)契約書には収入印紙を貼る必要がありますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
14)契約書の雛形はどのように利用するのがよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
15)株式会社の場合、契約書の調印者や署名者は誰にすればよいですか ・・・・・・・・14
16)契約書に規定していない問題が発生したときは、どうすればよいですか ・・・・15
17)契約書の訂正方法について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
18)内容証明郵便の効力について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(3)契約期間中の問題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
1)契約はいつ成立しますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2)各当事者の調印日が違う場合は、どうなるのですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3)契約の解約と解除はどう違うのですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
4)契約不適合責任について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
5)契約を途中でやめることはできますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
6)すでに調印した契約の一部を変更する場合、どうすればよいですか ・・・・・・・・18
7)契約違反をした場合はどうなりますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
8)損害賠償の条項とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
9)契約終了後も契約書を保管しなければなりませんか。
また、契約書正本を紛失した場合、どうすればよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・19
10)契約の内容について当事者間で争いが起きた場合、どうすればよいですか ・・20
11)裁判管轄の合意とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
12)下請代金支払遅延等防止法(下請法)について教えてください ・・・・・・・・・・・・20
13)製造物責任法(PL法)について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
14)秘密保持契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
15)営業秘密と不正競争防止法の関係について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・23
16)電子契約について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
2. 知的財産の契約に関する基礎知識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
1)知的財産とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2)産業財産権とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
3)ノウハウとは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4)知的財産に関する契約の種類はどのようなものがありますか ・・・・・・・・・・・・・・29
5)産業財産権の譲渡契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
6)産業財産権の許諾契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
7)譲渡又は許諾の対象となるものにはどういうものがありますか ・・・・・・・・・・・・31
8)許諾契約におけるライセンサー/ライセンシーの
立場について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
9)産業財産権の実施について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
10)専用実施権と通常実施権の違いは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
11)仮専用実施権/仮通常実施権とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
12)通常実施権・仮通常実施権における独占的と非独占的の違いは何ですか ・・・・37
13)通常実施権者・仮通常実施権者がいるのにライセンサーが別の者に専用実施権・仮専用実施権を許諾した場合、通常実施権者・仮通常実施権者の立場はどう
なりますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
14)出願中と権利成立後では、権利はどうなりますか。
また、契約にあたっては何に留意すればよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
15)公開される前の産業財産権をライセンスする際の留意点を教えてください ・・38
16)オプション契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
17)不実施補償契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
18)サブライセンス(再実施権)と下請けの違いは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
19)ライセンス契約の対価の算定方法について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・40
20)最低実施料(ミニマムロイヤルティ)とはどういう意味ですか ・・・・・・・・・・・・41
21)正味販売価格(純販売価格)とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
22)ライセンス契約終了後に、契約に基づき開示されたノウハウを使用すると
どうなりますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
23)特許、実用新案、意匠の発明者、考案者、創作者(以下、発明者等)が
実施許諾をすることはできますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
24)社長が個人で所有している産業財産権(出願中を含む。)を会社が契約当事者
としてライセンス契約を締結する場合は、どうすればよいですか ・・・・・・・・・・43
25)ライセンサーが倒産した場合、許諾契約はどうなりますか ・・・・・・・・・・・・・・・・43
26)ライセンシーは、許諾契約において、製品をライセンサーの
了解を得ないで輸出できますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
27)産業財産権が共有とされている場合について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・44
28)譲渡条項について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
29)ライセンサーの担保責任とはどういうことですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
30)改良発明・改良技術とは何ですか。また取扱いはどうすればよいですか ・・・・46
31)不争条項とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
32)最恵待遇条項とは、どういうものですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
33)完全合意条項とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
34)共同研究契約とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
35)共同で研究開発する際の留意点を教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48
36)共同研究で生まれた成果物(発明等)の取扱いについて教えてください ・・・・48
37)産業財産権と独占禁止法の関係について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
38)ソフトウェアの使用に関する契約について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・49
39)知的財産権に関わる契約等を行う上での契約書の雛形及び参考となる
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3. 海外との契約の基礎知識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
1)国内契約と海外契約との違いはありますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
2)日本の会社等が海外から技術ライセンスを受ける場合、
どのような規制がありますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
2)-1 指定技術とは何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52
2)-2 事後報告の対象になるものと、その手続を教えてください ・・・・・・・・・・・53
3)日本の会社等が海外に技術ライセンスを行う場合、
どのような規制がありますか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4)米国の技術移転に係る法規制について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
5)中国の技術移転に係る法規制について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
6)韓国の技術移転に係る法規制について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
4. 知的財産の契約についての関連知識 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
1)ライセンス契約の交渉開始から契約締結までの工程はどうなりますか ・・・・・・58
2)TLO が、大学の所有する特許権等を第三者に実施許諾する場合、TLO の
大学からの事務委託についてどのような条文を作成すればよいですか ・・・・・・59
3)ライセンス契約と消費税について教えてください ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
4)ライセンシーが支払う対価をライセンサーは減価償却する必要が
ありますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60
5)特許ノウハウ実施許諾契約を作成するための留意点を教えてください ・・・・・・60
6)特許製品が第三者の特許権等を侵害した場合、
どのように対応すればよいですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62
7)特許ライセンス契約において独占禁止法上、気をつけなければならないことは 何ですか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62
5. 資料編 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
(1)法律用語の解説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63
(2)知的財産に関する用語の解説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
(3)知的財産権の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
(4)技術移転の流れと必要な契約の種類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
(5)特許権移転登録申請書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69
(6)実用新案権移転登録申請書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71 様式
(7)専用実施権設定登録申請書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
(8)仮専用実施権設定登録申請書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
1.契約に関する基礎知識
(1)契約とは何ですか
ポイント:契約とは簡単にいえば、きちんと守らなければならない約束のことです。日常生活においても約束は守らなければなりませんが、「契約」とは法的な拘束力 を持った相手との約束のことです。つまり、相手が契約を守らない場合は裁判所を通じて強制することができる、という意味を持っています。そして相手が契約違反をし
た場合は、契約の解除や損害賠償の請求ができます。
契約というと、難しくて特別なことのように思われるかもしれません。しかし、日用品を買うとき、電車に乗るとき、あるいはアプリをダウンロードするときなども相手と必ず契約をしているのです。そして、契約はその内容が反社会的でなければ、原則として自由な意思で結ぶことができます。これを「契約自由の原則」といいます。契約自由の原則とは、個人は自由な意思に基づく契約によって自己の生活関係を処
理することができ、国はみだりに干渉すべきではないという原則をいいます。
なお、これまで「契約自由の原則」に関して法律上の規定はありませんでしたが、民法改正(令和 2 年 4 月 1 日施行)により、民法第 521 条に明記されました。
(2)契約書の作成
1)なぜ契約書を作成するのですか
ポイント:トラブル防止や契約の証拠として契約書を作成します。
口約束でも契約は成立しますが、実際には契約書を作成することが重要です。なぜなら、口約束だけですと「契約した覚えはない」「そういう内容ではなかった」などトラブルになりやすいからです。
このようなトラブルを未然に防止するために、次の 3 つの観点から契約書を作成しておく必要があります。
①当事者を明確にする。 |
②取り決め内容を明確にする。 |
③後日の紛争を防止し、紛争が生じた場合の証拠とする。 |
なお、法律で契約書の作成が義務付けられている特別なケースがあります。
例えば、保証契約については、民法第 446 条第 2 項で「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」と定められています。
2)どのような契約書を、どの段階で作成すればよいですか
ポイント:まず始めに契約の目的を考え、その後で契約書の目次を作成してみましょ う。
どのような契約書を作成するかは、契約の目的を第一に考えることが大切です。
目的を決めた後で目次を作成すると、契約書全体が作りやすくなります。また、目次を作成することにより、項目の重複、遺漏がチェックできます。
そこから契約書案を相手方に提示し、交渉に入っていきます。契約書の内容が無事に合意されると、契約成立となります。
なお、どの段階でどのような契約書が必要になるかは、後記「5.(4)技術移転の流れと必要な契約の種類」(68 ページ)を参考にしてください。
いずれの場合でも、具体的な取引を行う前に契約書を作成及び締結することが原則です。
3)契約の交渉開始から契約締結までの工程はどうなりますか
ポイント:段階ごとに、交渉から締結までの次の工程概要を参考にしてください。 次の❝交渉開始~契約締結❞工程概要は、物品の売買契約を例にしたものです。購入
希望者と製造・販売企業の合意形成(申込と承諾)がなされるプロセスを示します。
❝ 交渉開始 ~ 契約締結 ❞ 工程概要
秘密情報の開示が伴う場合
↓
秘密保持契約書調印
物 品 の 売 買 契 約
営 業 活 動 [装置・材料の機能等の確認] (製造・販売企業) | |
見 積 依 頼 書 (購入希望者) | |
見 積 書 (製造・販売企業) | |
取 引 条 件 交 渉 (当事者双方) | |
条 件 合 意
取引基本契約書調印
注 文 書 (購入希望者) | |
注 文 請 書 (製造・販売企業) 個別契約成立 | |
契 約 履 行 (当事者双方) |
[注]一般的な継続契約においては、取引基本契約が存在します。
4)契約書に記載すべき内容は決まっているのですか
ポイント:原則当事者の自由ですが、通常は、題名・契約条項・日付・当事者を定め ます。
契約書に記載する内容は、当事者の自由です。メモ書きでも契約書となり得ます。し かし、契約書作成の目的の一つがトラブル防止にあるので、当事者の権利・義務のほか、履行の条件や契約違反があった場合などの措置について取り決めをしておくのが一般的 です。
契約書に記載する内容は、お互いに不利な条件を押し付けられないためにも、必ず全条項について当事者双方で確認することが大切です。
5)契約書はどのように書けばよいですか
ポイント:条文配列のコツを頭に入れて作成します。
①契約内容の法律上の意味を把握しましょう。 |
②取引の流れに従って条文の配列を考えましょう。 |
③重要な条文は先に、付随的な条文は後にしましょう。 |
④似たような条文は一つにまとめましょう。 |
⑤条文の整合性を取りましょう。 |
6)契約書の一般的な構成
契約書の一般的な構成は次の通りです。
○○契約書・・・表題
契約書の名称前文
本文
(契約条項)
後文
A株式会社(以下「甲」という。)とB株式会社(以下「乙」という。)
とは、〇〇・・・に関し、次の通り契約する。・・・前文第1条・・・約定事項(契約内容である本文)(中略)
第○条
本契約締結の証として、本契約書2通を作成し、甲乙これに記名押印のうえ各1通を保有する。・・・後文(末尾文言)
日付
当事者の署名・捺印又は
記名・押印
20××年○月○日・・・契約書の調印日東京都○区○町○丁目○番○号
甲 A株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
宮城県仙台市○区○町○丁目○番○号乙 B株式会社
代表取締役 ○○○○ 印
会社印
代表印
・・・契約当事者の表示と捺印又は押印
7)契約書の表題はどのようにすればよいですか。また、契約書・協定書・覚書・合意書・確認書の表題で効力は違いますか
ポイント:一見して契約内容が判断できるような表題が望ましいでしょう(例えば「物 品売買契約書」「共同研究開発契約書」「特許実施許諾契約書」など)。なお、異なる表題でも契約書の効力は変わりません。
契約書は、契約の内容を文章にしたものです。表題のつけ方に特別な決まりはありませんが、何の契約書であるか分かるように明確かつ簡潔に表現したものがよいでしょう。
「契約書」という名称のほかに、「覚書」・「念書」・「合意書」といった表題も使われます。これらは契約書に比べて、拘束力が弱いと誤解する人もいますが、表題によって効力に差 があるわけではありません。表題が違っても契約書に記載してある内容が法的な拘束力の ある約束であれば、その契約書は、「契約の内容を証明する書面」となりますので、表題に 関係なく契約の効力は変わりません。
8)契約書に使われる用語について教えてください
ポイント:あえて難しい言葉を使う必要はありません。しかし、用語1つで契約の解釈 に問題が生じる場合がありますので、注意してください。
契約書には、誰が読んでも誤解なく理解できるように的確な用語を使います。特に、法律用語には、日常用語より厳密に解釈されるものがあるので、必要に応じて専門家に相談した上で用いるのがよいでしょう。
また、契約書においてよく用いられる法律用語については 63 ページにまとめております。
【気をつけるべきこと・間違いやすい法律用語】
1.あいまいな表現はできるだけ避ける | ・例えば「重大な損害が生じるおそれがあるとき等は…」としたとき、人によって「重大な損害が生じるおそれ」の判断が異なる場合があるので、具体的にどのような場合なのかもできるだけ明記すべきです。 ・また、どのようなことまで「等」に含まれるのか争いになる ので、「等」の使用はできるだけ避けましょう。 |
2.「場合」・「とき」・「時」 | ・「場合」とひらがなの「とき」は仮定を表します。 ・「時」はある時点を表すために使います。 ・したがって、「とき」と「時」を置き換えてはいけません。 |
3.善意・悪意 | ・法律用語では、ある事情を知らないで何か行うことを「善意」といいます。 ・反対に、ある事情を知って何かを行うことを「悪意」といいます。 ・この善意・悪意は日常用語の使い方とまったく違うので注意 してください。 |
9)見出しはどのように書けばよいですか
ポイント:条文の内容を簡潔に表現し、各条文の上段又は左肩に括弧付で書きます。 契約の各条項に見出しをつけることによって、いちいち条文の内容を見なくても、ある
程度の内容が分かり便利です。見出しは、各条文の上段又は左肩に、条文内容を簡潔に表現してつけるのが一般的です。ただし、見出しの有無は、法的な意味はありません。
(期間)
第 7 条 この契約の有効期間は、この契約の締結の日から△年○月×日までとする。又は
第 7 条(期間)
この契約の有効期間は、この契約の締結の日から△年○月×日までとする。
10)なぜ契約書に押印しなければいけないのですか。
ポイント:契約書への押印は契約の成立に必須ではありません。
契約書を作成するにあたっては、各当事者が署名・捺印又は記名・押印するのが一般的です。これによって、当事者同士が契約書の内容を理解し、その内容を認めたことが表示されます。また、法律上の効果として文書の真正な成立が推定されます(民事訴訟法第 228 条)。
しかし、特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、署名や押印をしなくても、契約 の効力に影響は生じません。契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面 への署名や押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていないためです。
また、近年多く導入されている電子契約書では押印はされずに、電子署名とタイムスタンプでその成立を証明します。
電子契約については、後記「1.(3)16)電子契約について教えてください」(26 ページ)をご参照ください。
11)印鑑の種類によって契約の効力に違いはありますか。
ポイント:印鑑の種類により契約の法的な効果は変わりません。ただし、本人が押した ものかどうかの事実上の証明力が劣る印鑑もあります。
契約書を作成するにあたっては、各当事者が署名・捺印又は記名・押印するのが一般的です。これによって、当事者同士が契約書の内容を理解し、その内容を認めたことが表示されます。
印鑑は、実印とそれ以外の認め印に大きく分かれます。実印は、個人や会社の代表者の 印鑑であることを役所等に届けてある印鑑です。認め印は、実印以外の個人の印章をいい、いわゆる市販されている三文判のことで、日常でもっともよく使われます。契約の締結に 際し、実印又は認め印を押印することで、契約の法的な効力は変わりませんが、実印の押 された契約書は間違いなく本人が押したものと証明する力が強くなります。一方で、認め 印は、間違いなく本人が押したものかどうかという点では、その証明力が劣ります。
したがって、署名と実印がある場合は、後に「私はそんな契約をした覚えはない」ということはできなくなります。一方で、認め印の場合には、争いの余地を残します。
なお、認め印と認印(にんいん)とは違います。認印は、他人の作成した文書に一定の目的で押印することです。
また、会社に角印(○○株式会社印)と丸印(代表取締役印)と俗に言われているものがあります。契約書の押印の欄に、角印と丸印とがセットになって押印されていることが見受けられます。角印は、会社の飾りの印で契約の法的効力に影響を及ぼしません。丸印は、会社を代表する者の印鑑で、登録している実印ですから、契約の法的効力に影響を及ぼします。会社が角印を押印するかどうかは自由ですが、丸印は必ず必要です。
なお、インク内蔵印は、誰でも同じものを用い、個々人を証明することが難しくなるので、契約書の調印では使用を避けましょう。
12)印鑑は契約書のどこに押せばよいですか。
ポイント:印鑑は署名欄以外にも、契約書内の複数の場所に押されることが一般的です。
1.契印 | ・2枚以上の紙が1つの文書として連続していることを示し、落丁や差替えを防ぐために押す印のことです。 ・各ページにまたがって押印します。 |
2.割印 | ・2者契約の場合、契約書は2通作成され、1通ずつ各当事者が保管します。 ・この2つの契約書の同一性・関連性を証明するために、2つの文書に1個 の印を半分ずつ押す印のことです。 |
3.訂正印 | ・文書を訂正したことを証明するために、訂正箇所の欄外に押す印のこ とです。 |
4.止め印 | ・文書末尾に余白が生じたときに、余白の悪用を防止するため、「以下 余白」と記載する代わりに押す印のことです。 |
5.消印 | ・契約書に貼る収入印紙に契約当事者が押す印のことです。 |
6.捨印 | ・契約書等を作成する場合、記載の誤りを訂正する際の訂正印の代わりに契約書等の欄外に押印します。 ・本来は、微細な誤記、誤字、脱字程度の訂正を認めるための押印ですが、訂正の範囲は限定されていません。 ・捺印したことは、相手に契約内容を全て一任したことと同等と見なさ れるおそれがあるので、極力押印することは避けましょう。 |
収 入
印紙
契 約 書
第1条
割印→
←契印
第2条(削除)
第3条
2字削除 ・・・・・××・・・・・
1字加入 ・・・・・○・・・・・・・
令和 年 月 日
甲 ×× ××
乙 △△ △△
捨印
(1頁目) (最終頁)
頁見開き
該当頁表面
前頁裏面
13)契約書には収入印紙を貼る必要がありますか
ポイント:契約書には契約の種類と金額に応じて、印紙税法に定める収入印紙の貼付が 必要な場合があります。詳細は印紙税法を参照して確認してください。
収入印紙が貼られていない場合でも契約書の効力には影響しません。しかし、税金を納めていないことになり罰則の対象となります。
14)契約書の雛形はどのように利用するのがよいですか
ポイント:必ず全条項の内容を確認してください。また、自分にとって不利な内容にな っていないか確認してください。
契約書を自分たちが1から作成するのは大変な作業です。そのため、契約書の雛形(サンプル)を利用することがあります。
業務上の効率を考えた場合、契約書の雛形は、専門家が作成していることが多いので利用するには安心で能率的です。便利な半面、このような雛形を利用する場合は、次の点に留意しなければなりません。
雛形を利用する場合、契約内容を十分に吟味し、加筆・修正・削除等をして利用することが大切です。
1.必ず全条項について内容を確認すること | ・本来、契約内容は個々の状況などによって異なります。 ・雛形は、専門家が作ったものだから万全だと思いがちですが、個別の状況は考慮されていない場合もあります。 ・具体的な状況に照らし、契約書の内容を吟味し慎重に検討する ことが大切です。 |
2.どちらの立場で作成されたものであるか | ・契約は、当事者双方に平等な内容であることが原則です。 ・雛形を利用する場合、契約書の雛形を作成した人が当事者のどちらの立場に立って作成したかをよく認識しておくことが必要です。 |
15)株式会社の場合、契約書の調印者や署名者は誰にすればよいですか
ポイント:契約を締結できる当事者は、①自然人(個人)、又は②法人です。
個人と個人、又は個人と株式会社等の契約の場合で、個人が調印者となる場合は、法律に定められた要件に反しない限り、個人が契約書に調印をすることができます。
一方、個人と同様に、会社、社団法人、財団法人等の法人も独立して契約や取引をすることができます。例えば、会社が契約をするときは当該会社が契約当事者となり、その内部の営業部や工場などが契約当事者となるわけではありません。
しかし、会社自身がペンを持って署名し、印を押すことは物理的にできません。現実に 契約書に調印するのは、その会社の人間です。そして、会社を代表して会社の契約に調印 したり署名したりする権限を持っている人のことを、会社の代表者といいます。株式会社 では、代表取締役がこれにあたります。重要な契約(取引額の大きいもの等)については、会社の代表者が契約書に調印するのが原則です。
また、代表者以外の人に、会社を代表して契約する権限が与えられている場合があります。例えば、会社の内部規則により、部長や課長らに取引額の小さい契約の代表権限が与
えられており、その人の署名・捺印又は記名・押印で契約書を作成する場合も多くあります。
会社を代表する権限を持たない者と契約をした場合であっても、相手が善意無過失である場合には、契約は有効とされることがあります。
契約の相手方が会社の場合には、必ず契約書に調印する人の権限を確認しましょう。権限のない人との契約で調印した場合、後で、会社との取引とは認められないこともありますので、注意してください。
<会社が当事者の場合の表示方法>
○○株式会社
○○株式会社
代表取締役
どちらの場合も、契約の当事者は
知的財産部長
×× ×× 印
○○株式会社自体であることに
△△ △△ 印
変わりありません。
16)契約書に規定していない問題が発生したときは、どうすればよいですか
ポイント:双方の当事者が協議して解決します。
契約書に規定していない問題が発生したときや、契約の各条項の解釈に争いのあるときは、当事者が協議して解決します。これは当然のことと言えますが、あらかじめ契約書に以下のような規定外条項をおくのが一般的です。
ただし、このような規定があるからといって、契約書に記載されていないことが全て協議で解決できるとは限らず、契約書に記載されていなかったことが原因で争いが起きることもありますから、やはり契約書の記載内容は、万全を期すように心がけましょう。
契約条文の一例は次の通りです。
第○条(協議事項) この契約に定めのない事項又はこの契約の解釈並びに運用について疑義等が生じたときは、契約当事者は、誠意をもって協議し、円満に解決するものとする。 |
17)契約書の訂正方法について教えてください
ポイント:訂正箇所を 2 本線で抹消し、押印又は自分の名前のイニシャルサインをしま す。
訂正をするときには、元の文字が見えるように2本線で抹消します。塗りつぶしたり、消し去ったりしてしまうと、はじめに書かれていたことが不明になってしまいます。そして、訂正した行の左欄外に、削除・加入した字数を明記し、そのうえに当事者双方の押印
(場合によっては、当事者のイニシャルサイン)をします。双方が訂正内容に合意したことを示すために、必ず双方の印又はサインが必要です。
実務上は、調印者の印鑑又はサインは必ずしも必要ではありません。契約を訂正する権限がある契約当事者の双方の印鑑又はサインがあれば良いです。
【訂正の例】
4 月1 日
5 字削除 印
期限は 3 月 25 日までとする 4 字加入 印
18)内容証明郵便の効力について教えてください
ポイント:内容証明郵便は送付された文書の内容、差出人及び受取人、差し出した日の 日付が郵便局(日本郵便株式会社)により証明されるという効力があります。
一般の郵便物を投函してしまうと自分の手元には何も残っていないので「間違いなく投函した」、「内容はこういったことを書いた」と、いくら相手方に言っても証明するものがありません。
そこで、相手方にいつ、どのような内容の書簡を出したということを後々証明しなければならないようなときは内容証明郵便を利用すると良いでしょう。ただし、内容証明郵便は、文書の内容が法的に正当であることまでを証明するものではありません。
(3)契約期間中の問題
1)契約はいつ成立しますか
ポイント:契約の当事者の意思が合致したときに成立します。
契約は、ある取引(例えば売買など)について、当事者の意思が同じ内容で一致することによって成立します。ただし、意思は互いの心の中にあるものなので、それを表面に出して相手に伝えなければなりません。意思を表面に表すことを「意思表示」といいます。そして多くの契約は、当事者の一方からの「申込」の意思表示と、これに対する相手方の
「承諾」の意思表示が合致して契約が成立します。
例えば、Aカメラ店が「このカメラを売ってください」と申込の意思表示をして、Bさんが「このカメラを 1 万円で売ります」と承諾の意思表示をした場合、これによってA・ B間で売買契約が成立します。契約書の有無は契約成立の条件ではないので、口頭の約束でも契約は成立します。
2)各当事者の調印日が違う場合は、どうなるのですか
ポイント:通常、双方の当事者の署名が終わった日が契約の締結日となります。したが って、一方が先に署名し、これを他方の当事者に渡してその署名を取り付ける場合は、後に署名した日付が締結日となります。
契約の調印式を当事者がセレモニーとして行う場合は、その調印式の日にちが調印日となるのが一般的です。しかし、実際の調印の日とは異なる日を調印日とすることがありますが、当事者の合意によって決められたものですから有効です。
なお、契約によっては、契約書の調印日と異なる契約発効日が別に定められる場合がありますから留意してください。
3)契約の解約と解除はどう違うのですか
ポイント:解約は契約の効力を将来に向かって消滅させることであり、解除は最初から なかったことにするものです。
「契約のやめ方」には2つの方法があります。まず1つは、お互いが納得して「この契約はなしにしましょう。」というものであり、これを「解約」といいます。すなわち、契約の効力を将来に向かって消滅させることをいいます。
もう 1 つは、相手方が契約違反をした場合等で解除権を有することとなった当事者の一方が自分だけの意思表示によって、相手方に対して既に成立した契約をなしにすることを宣告する方法です。これを「契約の解除」といいます。すなわち、その契約が初めからなかったのと同じような法律上の効果を生じさせることをいいます。
契約の解除と解約の相違は、契約の解除では、解除権が行使されると、原状回復義務と損害賠償義務が発生しますが、契約の解約の場合は、原状回復義務が生じることはありません。
なお、契約実務において、解約と解除を厳格に使い分けている例は、少ないと思われます。
4)契約不適合責任について教えてください
ポイント:契約の目的に履行内容が合致しない場合に負う責任のことです。
売買契約では、売主は、対価を得て目的物を売っているのですから、その目的物には代金に見合う価値があることについて、買主に対して責任を持たなければなりません。もしそうでなければ、キズ物を買ってしまった買主が一方的に損をしてしまい、契約のバランスが崩れてしまいます。
そこで、契約目的を満たさなかったときは、買主は売主に対して契約内容のやり直しや代金減額や損害賠償の請求、解除をすることができるのです。
このような売り主の責任をこれまで「瑕疵担保責任」として民法に規定を設け、契約実務においても関連契約条項を定めるのが通常でしたが、民法の改正(令和 2 年 4 月 1 日から施行)により、従来「瑕疵担保責任」といわれていたものが「契約不適合責任」という考え方に変わりました。
「瑕疵」とは、「通常有すべき性質・性能」と理解されていました。「契約不適合」とは、
「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」を指すとされ(民法 562 条)、これまでの「瑕疵」もこれに包含されるものと理解されています。民法の条文から「瑕疵」という表現を削除し、売主の責任について債務不履行責任の一般原則を適用することを明らかにしました。
これからの契約実務では、上記のような場合「契約不適合責任」という用語が用いられ ることになります。既に締結している契約書における「瑕疵担保責任」の条項については、その内容が新しい民法の規定に対応しているかどうか確認し、必要に応じて契約の改定を 検討することが望ましいと思われます。
5)契約を途中でやめることはできますか
ポイント:解除・解約や相手との合意により契約を解消することができます。
一度結ばれた契約は、原則として守らなければなりません。しかし、契約締結当時には予想していなかったことが発生し、契約を解消したい状況になることもあり得ます。相手方が契約違反を行ったときには解除・解約ができます。しかし、相手方に責任がなくこちら側の事情で契約をやめたい場合は、相手方ときちんと協議しなければなりません。
なお、契約の相手方の一方が契約違反をした場合については、後記「1.(3)7)契約違反をした場合はどうなりますか」をご参照ください。
6)すでに調印した契約の一部を変更する場合、どうすればよいですか
ポイント:今ある契約書と関連付けて新たに覚書を作ることが効率的です。
契約を変更する場合、新たに契約書を作成することもありますが、契約の一部を変更する場合は、覚書を別に作ってどこが原契約(これまであった契約のこと)と違うかを関連付けて規定することが効率的です。
たとえば、「××年○月○日に締結した○○契約(以下原契約という。)について、原契約第○条に規定する契約金額を■円から▲円に変更する。」とし、「その他の条項は原契約通りとし、有効に存続するものとする。」として原契約との関連をつけて覚書を取り交わします。
なお、新しい契約書を作成する場合には、これまであった契約書を失効させる旨を記載することが必要です。
7)契約違反をした場合はどうなりますか
ポイント:損害賠償の責任を負ったり、契約を解除・解約されたりします。
契約の相手方が契約不履行や契約条項に違反した場合は、相手方は3つのことができます。
第1は履行の強制をすること |
第2は損害賠償を請求すること |
第3は契約の解除・解約を主張すること |
そして、損害賠償請求と解除・解約は、そのどちらかだけをすることも、両方することもできます。
これまで契約不履行となるのは、履行しない原因が相手方にある場合でした。これを専門用語でいうと、「帰責事由」(責めに帰すべき事由)がある場合でした。ここでの帰責事由とは、債務者の故意(わざと履行しない)又は過失(不注意)のことをいいます。
しかし、昨今の社会的事情を踏まえ、民法の改正(令和2 年4 月1 日から施行)により、次の改正がなされています。
〇債務不履行による解除一般について、債務者の責めに帰することができない事由に よるものであっても解除を可能なものとしています。(民法第541条・542条) |
〇不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合には、解除を認めるのは不公平な ので、解除はできないとしています。(民法第543条) |
なお、債務不履行等による契約違反が生じた場合で、契約書に損害賠償の規定がない場合においても、原則として、民法 415 条(債務不履行による損害賠償)に基づき、債務の不履行をした者に対して民法の定める範囲の損害賠償を請求できることになっています。
8)損害賠償の条項とは何ですか
ポイント:あらかじめ契約書に損害賠償の額又は範囲を規定しておくことです。
損害賠償の額をめぐって紛争がおきることがしばしばあります。このような紛争を避けるために、債務不履行がおきた場合の損害賠償額又は範囲を、あらかじめ当事者間で合意しておくことができます。これを損害賠償額の予定、あるいは違約金条項といいます。
これまでは、この合意がある場合は、債務者は、実際の損害額とは関係なくこの予定額を支払わなければなりませんでしたし、逆に、どんなに賠償額が予定賠償額よりより多かったとしても、やはり予定賠償額しか認められませんでした。
このようなことは、合理性を欠くものとして、民法の改正(令和2 年4 月1 日から施行)により、関連の規定が次のように削除されました。今後は、実情に応じて合理的に判断されることになります。
【改正前】民法第420条 | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額 を増減することができない。 |
【改正後】民法第420条 | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。(改正前の条文のアンダーライン部分 は削除) |
9)契約終了後も契約書を保管しなければなりませんか。また、契約書正本を紛失した場合、どうすればよいですか
ポイント:契約書は、法律で一定期間の保管が求められています。また、契約終了後で も、その契約について何か問題があったときに対処できるように、すぐに処分しないほうがよいです。重要な契約書は、原則永年保管とすることがよいでしょう。
法人税法上は、法人税の申告期限から起算して 7 年間の保管が求められています。会社
法上は、満期日・解約日から起算して 10 年間の保管が求められています。
また、契約書正本を紛失した場合、簡便な方法としては、相手方からコピーをもらうことです。この場合、コピーを提供する側の当事者は、必ず契約書の各ページの右下に自社の印鑑を押印するか、又は渡す人のイニシャルサインをして、コピーを受け取る側の当事者が改ざんしないように気をつける必要があります。
なお、場合によっては、当事者の合意で新たに契約を締結する方法もありますが、時間のロス等を考えるとあまり効率的ではありません。
10)契約の内容について当事者間で争いが起きた場合、どうすればよいですか ポイント:当事者同士で解決できない場合は、裁判、仲裁、調停等で解決することにな ります。
契約の当事者間に発生する契約の紛争は、当事者間の話し合い、裁判、仲裁、調停等により解決されます。紛争が生じた場合、最初の当事者の取るべき手段は協議ですが、協議によって円満に解決できない場合、一般的には裁判によりなされます。
裁判以外の紛争解決手段として仲裁又は調停があります。
仲裁は、当事者が現在又は将来の紛争についての判断を第三者である仲裁人に委ねて判断に服することです。仲裁判断は、裁判所の判決と同一の効力があります。
なお、裁判と仲裁の大きな違いは、裁判は一般的には公開主義ですが、仲裁は非公開が原則であることです。
調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。調停手続では、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ調停委員が、裁判官とともに、紛争の解決に当たっています。
11)裁判管轄の合意とは何ですか
ポイント:当事者間に争いが生じたとき公平で公正な解決をはかるために、当事者間であ らかじめ、争いが起きた場合に利用する裁判所を合意することです。
当事者間で争いが生じたとき、それぞれの当事者が自らにとって有利になると思われる裁判所に提訴しようとします。これでは公平で公正な解決にならないおそれがあります。
これを避けるために、当事者は、訴訟を提起する裁判所をあらかじめ合意することができます。これを裁判管轄の合意といいます。
合意管轄の制度は、民事訴訟法第 11 条第 1 項に、「当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。」として定められている法律上の制度です。
契約条文の一例は次の通りです。
第○条(紛争の解決) 本契約に関し発生する紛争又は解釈上に疑義を生じた場合には、当事者の協議により、円満に解決するものとする。 2 前項により解決することのできない紛争については、東京地方裁判所をもって第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 |
12)下請代金支払遅延等防止法(下請法)について教えてください
ポイント:下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のため、親事業者には 4 つの義 務と 11 の禁止行為が課されています。
中小企業、小規模事業者が親事業者から受注して取引を行う場合、下請事業者となる中小企業、小規模事業者は、親事業者から一方的に値下げや支払遅延を要求されることがあります。そこで、立場が弱い下請事業者を守るためにできた法律が「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)です。
公正取引委員会は、下請代金支払遅延等防止法の運用に当たり、違反行為を未然に防ぐ観点から「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成 28 年 12 月改正)を公表し
ています。以下に、親事業者の 4 つの義務と 11 の禁止行為を記します。(以下に記載されている条数は全て下請法における条数です。)
【親事業者の4つの義務】 | |
①書面の交付義務(第3条) | 発注の際は、原則として、直ちに、下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等を記載した書面を交付 すること |
②支払期日を定める義務 (第2条の2) | 下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること |
③書類の作成・保存義務 (第5条) | 下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること |
④遅延利息の支払義務 (第4条の2) | 支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと |
【親事業者の11の禁止行為】 | |
①受領拒否(第4条第1項第1号) | 注文した物品等の受領を拒むこと |
②下請代金の支払遅延(第4条第1 項第2号) | 下請代金を支払期日までに支払わないこと |
③下請代金の減額(第4条第1項第 3号) | あらかじめ定めた下請代金を減額すること |
④返品(第4条第1項第4号) | 受け取った物を返品すること |
⑤買いたたき(第4条第1項第5 号) | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金 を不当に定めること |
⑥購入・利用強制(第4条第1項第 6号) | 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること |
⑦報復措置(第4条第1項第7号) | 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不 利益な取扱いをすること |
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済(第4条第2項第1号) | 有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相 殺したり支払わせたりすること |
⑨割引困難な手形の交付(第4条 第2項第2号) | 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認 められる手形を交付すること |
⑩不当な経済上の利益の提供要請 (第4条第2項第3号) | 下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること |
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第4条第2項第4 号) | 費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること |
親事業者がこれらの義務又は禁止行為に違反した場合は、罰金や違反行為に対する勧告がなされます。ただし、下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模と取引の内容により異なりますので、不明な点は、弁護士や公正取引員会に問い合わせてください。
13)製造物責任法(PL法)について教えてください
ポイント:PL法によると、製造物(製品)に欠陥があり、それによって損害を受けた ことを被害者が証明できれば、メーカーから損害賠償を受けることができます。
例えば、Aさん宅にあるテレビが発火して家が火事になってしまったとします。この場合、どのようにしてAさんはメーカーに損害賠償を請求できるでしょうか。
ここで注意すべきことは、上述の債務不履行責任や契約不適合責任(17 ページ参照)は、契約関係にある当事者間においてのみ認められるということです。Aさんが売買契約を結 んだのは小売店であって、メーカーではないとすると、メーカーに契約不適合責任を問う ことはできません。
このような場合は、メーカーの「製造物責任」が問題となります。「製造物責任」とは、製造物に欠陥があり、それによって消費者が被害を受けた場合、メーカーが損害賠償責任を負うことをいいます。
製造物責任法(PL法)の下では、製品の「欠陥」を証明すればよいとされています。製造した企業に必ずしも過失が認められなくても、製品の欠陥(下記をご参照ください。)があれば責任を負わせるという考え方です。これを無過失責任といいます。
製造物責任法(PL法)の「欠陥」(同法第2条第2項) 当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造者等が当該製造物を引き渡した時期にその他当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。 |
14)秘密保持契約とは何ですか
ポイント:秘密保持契約は、秘密にしている情報などが漏洩されるのを防ぐための必要最小限の取り決めです。
秘密保持契約は、一方の当事者から相手方に対し又は両当事者が相互に、その保有する秘密情報を相手方に開示し、特定の目的に使用することを認めるとともに、当該情報が第三者に知られて財産的価値を失うことを回避するために締結するものです。
契約の形式としては、秘密保持契約書に両当事者が調印(サイン)する形の他、秘密保持の義務を負う当事者が、相手方に対して「念書」「誓約書」「確認書」等の書面を差し出す(提出する)形もあります。
秘密情報を保有し、これを開示しようとする情報開示者は、秘密保持を要する情報を開示することが分かっている場合はもちろん、情報受領者に対し詳細な説明を行うに際してどのような質問が出てくるか分かりませんので、詳細な説明を行うに際しては秘密保持を要する情報の開示の有無にかかわらず秘密保持契約を締結しておくことが必要です。
また、この場合の秘密保持契約は、情報受領者が情報開示者に対して一方的に義務を負う誓約書形式のものでもかまいませんが、取引が進展するにつれて、情報受領者における開示を受けた技術情報の活用目的や方法について言及することがありますので、最終的には、情報開示者と情報受領者とが同等の権利・義務を有する形式の契約とすることが多いといえます。
秘密保持契約書を作成するための留意点としては、例えば、次のものがあります。
①秘密保持の対象となる技術情報の特定 |
②技術情報の取扱い(秘密保持) |
③技術情報の使用目的の特定(目的外使用の禁止) |
④技術情報の使用結果の報告 |
⑤使用目的を達成した場合の次のステップへの移行 |
⑥秘密保持期間 |
⑦秘密保持期間終了後の技術情報の取扱い |
15)営業秘密と不正競争防止法の関係について教えてください
ポイント:営業秘密は、不正競争防止法に定められている知的財産です。
日本企業のグローバルな事業展開とともに、我が国に蓄積された重要な技術情報が海外に流出する事件が相次いだことを受け、企業における営業秘密管理の重要性が認識されるようになりました。このような背景の下で、不正競争防止法に営業秘密の関連規定が定められています。
経済産業省は、不正競争防止法を所管し、また TRIPS 協定など通商協定を所掌する行政の立場から、企業法務において課題となってきた営業秘密の定義等について、イノベーションの推進、海外の動向や国内外の裁判例等を踏まえて「営業秘密管理指針」(平成 15 年 1
月 30 日)を公表しています。
これに対応し、漏洩防止ないし漏洩時に推奨される包括的対策に関し、「秘密情報の保護ハンドブック」(平成 28 年 2 月)を公表しています。同ハンドブックに関しては、50 ページをご参照ください。
以下に、不正競争防止法と営業秘密について記します。
※「不正競争防止法」とは何ですか?
・不正競争防止法第1条は、「この法律は事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係わる損害賠償に関する措置等を講じ、もって、国民経済の健全な発展に寄与する事 を目的とする」と規定しています。 |
・知的財産である営業秘密を保護するのが、不正競争防止法です。不正競争防止法は、公正な競争秩序維持の見地から、競争秩序を破壊する行為を規制するも のです。 |
・同法第4条は、「故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。・・・・・・」と規 定しています。 |
・不正競争防止法(平成30年改正)において、商品として広く提供されるデータや、コンソーシアム内で共有されるデータなど、事業者等が取引等を通じて第三者に提供するデータを念頭に、「限定提供データ」が定義され、営業秘密と同様に「限定提供データ」に係る不正取得、使用、開示行為が不正競争として位置づけられたことを受け、経済産業省は、「限定提供データに関する指針」 (平成31年1月23日)を公表し、企業等に適正な管理を求めています。 |
※「営業秘密」とは何ですか?
・営業秘密とは、知的財産の1つです。秘密として管理されている生産方法、販売 方法、 その他の事業活動に有用な、技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいいます。 |
・営業秘密として扱っている技術情報は、主に、未公開特許情報、製造図面、製 品仕様書、実験データ、分析データ等です。 |
・営業秘密として扱っている営業情報は、顧客リスト、販売マニュアル、販売価 格等です。 |
※ 営業秘密として保護されるのには、どのような要件が必要ですか?
・ 不正競争防止法によって「営業秘密」が保護されるためには、対象となる営業秘密が、次の 3 つの要件をすべて備えている必要があります。
① 秘密として管理されていること | ・事業者が情報を秘密として管理しているだけでは不十分で、客観的に見て秘密として管理されていると認識できる状態であることが必要です。 ・秘密の客観的認識とは「極秘」「秘」「社外秘」等適切な秘密表示をした上で、守秘義務、使用制限義務を課すこと、従業者に指導し周知徹底すること、秘密情報を台帳管理すること等をいいます。 ・情報が秘密であることを認識できることが必要です。 |
② 事業活動に有効な技術上又は営業上の情報であること | ・情報が客観的に事業活動に使用され、又は使用されることによって、費用の節約や経営効率の改善等に、現在のみならず将来の事業にも役立つものであり、活用できる情報であることが必要です。 ・公序良俗に反する内容の情報は、有効性があるとは認められま せん。 |
③ 公然と知られていないこと | ・いくら企業が秘密として管理し、その情報が社会的意義をもっていたとしても、すでに社会で知られている情報であれば、保護するのは適当ではありません。 ・一般にアクセスし得る情報は、非公知とはいえません。 ・一般に入手不可能なものでなければなりません。 |
※ 営業秘密を管理する重要な課題はどのようなことですか?
①自社にとって重要な情報を大切にすること | ・自社で培った技術やノウハウが意図しないで流出してしまう事態やただ乗りして利益を上げるよう な他者の行為を防止する必要があります。 |
②自社の従業員が他社の営業秘密を侵害しないこと | ・自社の営業秘密を守ると同時に他社からの開示、提供を受けた他社営業秘密に対しても、侵害しな いように注意を払う必要があります。 |
③企業と従業員とが共通の認識を持って取り組むこ と | ・企業と従業員が協力して組織として営業秘密管理に対する共通の認識を持つことが重要です。 |
★営業秘密に係る不正な取得・使用開示行為を不正競争防止法では「不正競争」といいます。不正競争行為は次の 6 つのパターンに分けられます。
※ どのような行為が「不正競争行為」に該当しますか?
①窃盗、詐欺など不正な手段で営業秘密を取得する行為又はそれを使用、開示す る行為 |
②不正な手段で取得した者から直接又は間接的に営業秘密を取得する行為又はそ れを使用、開示する行為 |
③不正な手段で取得されたとは知らずに取得したが不正取得したと知った後もそ の営業秘密を使用又は開示する行為 |
④正当に営業秘密を取得した者でも、営業秘密の保持者と競争関係の事業を自ら行なったり、他人に行なわせたり、又損害を与えるような使用又は開示をする 行為 |
⑤不正開示行為又は不正開示行為が介在したことを知って、営業秘密を取得し、 それを使用又は開示する行為 |
⑥営業秘密を取得した後に、不正開示行為があったこと、又介在したことを知っ てからも、その営業秘密を使用又は開示する行為 |
※ 「営業秘密」の民事上の保護とは?
不正競争行為に対しては、差止め、損害賠償、信用回復措置の請求が可能です。
①差止請求権 (3条) | 営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれが生じた場合に、侵害の停止又は予防に必要な行為を請求する ことができます。 |
②損害賠償請求権 (4条) | 「故意又は過失」により営業上の利益が侵害された場 合、損害賠償を請求することができます。 |
③信用回復措置請求権 (14条) | 「故意又は過失」により信用を害された場合には、謝罪広告等の営業上の信用回復上、必要な措置を求めること ができます。 |
※ 「営業秘密」の刑事上の適用とは?
①悪質な行為は刑事罰の対象 | ・営業秘密の不正な取得・使用・開示のうち悪質な行為を行った者は刑事罰の対象となり ます。 |
②国外犯も刑事罰の対象 | ・日本国内で管理されている営業秘密を、海 外で不正な使用、開示する行為も刑事罰の対象となります。 |
③法人も処罰の対象 | ・営業秘密の不正な取得・使用・開示行為についてそれを行なった行為者のみならず、その者が所属する法人も処罰の対象となりま す。 |
16)電子契約について教えてください
ポイント:書面の作成と押印に代わり、電子署名とタイムスタンプを用いて締結される契約です。
一般の慣行では、当事者間で契約における合意内容を証明する目的で契約書が作成され、署名・捺印又は記名・押印が行われます。
電子契約は、書面での契約書に代わり、電子データに電子署名することで、これまでの契約書と同様の証拠能力が認められる契約です。
近年、押印廃止の流れから電子契約が普及していますが、電子契約を用いるには電子契約サービスを提供するシステムを利用するケースがほとんどです。各システムにより使用方法や契約締結方法が異なりますので、利用する際にはよく検討・確認することが必要です。
また、契約の相手方から電子契約の利用を要請された際もよく説明を受け、自社の方針と異なると感じた際には従来通り書面での契約締結を提案してみてください。
関連の法律上の規定を記します。
民事訴訟法第228条 第1項 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。 第4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。 電子署名及び認証業務に関する法律第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの・・・は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名・・・が行われているときは、真 正に成立したものと推定する。 |
2.知的財産の契約に関する基礎知識
1)知的財産とは何ですか
ポイント:知的財産とは、知的創造活動から生み出された、経済的・社会的に価値のあ る無形の成果物のことをいいます。
技術面での発明・考案・意匠、営業上識別の面での商標、文化面での著作物等がその例です。最近では、無形の情報を包含する有体物も重要視されてきています。
1980 年代の後半から、科学技術の発展と産業のグローバル化とともにコンピュータ・ソフトウェア、データ・ベース、半導体回路配置、植物の新品種等の新しい価値情報、事業活動を支える技術ノウハウ・営業上の重要情報等への保護が叫ばれるようになり、これらも含めて経済社会における知的財産の重要性が認識されるようになりました。
我が国政府は「知的財産立国」の実現を目指し、知的財産の創造・保護・活用を図るための知的財産権制度を整備し、様々な施策を進めています。
【知的財産立国】 「知的財産立国」とは、発明・創作を尊重するという国の方向を明らかにし、ものづくりに加えて、技術、デザイン、ブランドや音楽・映画等のコンテンツといった価値ある「情報づくり」、すなわち無形資産の創造を産業の基盤に据えることにより、我が国経済・社会の再活性化を図るというビジョンに裏打ちされた国家戦略であるとされています。(平成14年7月「知的財産戦略大綱」) |
知的財産又は知的財産権についての法律上の考え方については、知的財産基本法(平成 15 年 3 月 1 日施行)をご参照ください。
2)産業財産権とは何ですか
ポイント:知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権の 4 つを「産業財産権」といいます。
産業財産権制度は、新しい技術、新しいデザイン、ネーミングなどについて独占権を与え、模倣防止のために保護し、研究開発へのインセンティブを付与したり、取引上の信用を維持したりすることによって、産業の発展を図ることを目的にしています。これらの権利は、出願し登録されることによって、一定期間、独占的に実施(使用)できる権利となります。
知的財産権のうち産業財産権は、特許庁が所管しています。著作権は、文化庁が所管しています。
3)ノウハウとは何ですか
ポイント:秘密に管理されている情報や手法のことをいいます。
主として産業上の技術に係わる秘密性を有する知識・経験に基づくもので、経済的価値を持つものです。
技術的知識・経験・秘訣・個人的熟練や秘密方式等多様な例が示されています。ノウハウは、ライセンス契約の対象になります。
特許は、特許庁に出願し一定の手続を経て登録されれば、特許権として成立し排他的な権利として発明の実施を専有することができますが、発明の内容が公開されるため模倣されやすいこと、権利期間が一定であること、多額の費用を要することなどがあります。
一方、ノウハウは、その成立に特段の手続や費用がいらず、秘密として管理されている限り保護期間に定めはありません。しかし、同じものを他者が独自に開発した場合には権利主張はできず、また他者により特許化されると実施に一定の制限を受けることになります。
このように、特許とノウハウには一長一短があるので、発明を保護する場合には、その内容、将来性、費用等を勘案して、特許出願するかあるいはノウハウとして管理するか、ケースバイケースで判断する必要があります。
4)知的財産に関する契約の種類はどのようなものがありますか
ポイント:主に以下のものが存在しています。
なお、ここでは産業財産権を念頭に置いており、著作権等に関わる契約(著作物利用許諾契約、著作権譲渡契約他)は、含まれておりません。
契約の種類 | 定 義 |
秘密保持契約 | ・情報交換・技術評価等の目的のため、未公開発明・技術ノウハウ等を開示するに当たり、その内容を第三者に開示・ 漏洩してはならないことを取り決める契約をいう。 |
サンプル提供契約 | ・ライセンサーが製造・販売している製品のサンプルを第三者に見せることにより、サンプルを見せられた第三者がライセンスを受けるか否かを検討できるようにするための契 約をいう。 |
試作品の製作契約 | ・第三者に産業財産権に基づく試作品の製作を委託する契約をいう。 ・また、開示を受けた側が自己又は第三者を介して評価する ために試作品を製作するための契約をいう。 |
原料・部品・製品等の 供給契約 | ・産業財産権を使用している原料・部品・製品等を供給する 契約をいう。 |
オプション契約 | ・当事者の一方が相手方に対し、ある技術(特許等)の企業化の評価・検討に必要な情報、資料等を提供・使用させるとともに、オプション行使の期間内に当該技術につき実施許諾を受けるか否か、また相手方と共同研究を受けるか否 かの選択権(オプション)を与える契約をいう。 |
共同研究・開発契約、研究委託契約 | ・当事者双方が共同で新技術の研究開発をすることを目的とする契約をいう。 ・また、当事者の一方が相手方に対して、新技術の研究開発 を委託する契約をいう。 |
技術指導契約 | ・当事者の一方が相手方に対して、ある技術の実施に必要な助言・指示・検討・相談・技術者の訓練などの役務を提供 する契約をいう。 |
実施許諾契約 (ライセンス契約) | ・当事者の一方が相手方に対して保有する産業財産権(出願 中を含む。)を実施許諾(ライセンス)する契約をいう。 |
譲渡契約 | ・権利者の産業財産権(出願中を含む。)を第三者に有償又は 無償で移転することを目的とする契約をいう。 |
OEM契約 | ・自社で生産した製品に相手方商標(ブランド)をつけて相 手方に供給する契約をいう。 |
クロスライセンス契約 | ・複数の権利者の保有する産業財産権をお互いに等価とみな し、相手方の産業財産権を使用できる契約をいう。 |
ノウハウ契約 | ・産業財産権ではなく、ノウハウを実施許諾(ライセンス) の対象とする契約をいう。 |
共同出願契約 | ・産業財産権を受ける権利の共有者が共同で出願を行うこと を約する契約をいう。 |
不実施補償契約 (共有特許実施契約) | ・共有特許において、一方の当事者が産業財産権を実施する場合に、実施しない他方の当事者に対価を支払う契約をい う。 |
5)産業財産権の譲渡契約とは何ですか
ポイント:産業財産権の権利を持つ者が、権利そのものを有償又は無償で相手方に譲る 契約です。
産業財産権は、それぞれ権利を他人に原則として譲渡することができます。産業財産権 を譲り受けた相手方は、原則として、自由に産業財産権を利用することができます。また、権利が成立したもののみではなく、出願中の産業財産権を譲り受けることもできます。
各産業財産権を譲り受けるにあたっては、以下の点に注意することが必要です。
①譲り受ける産業財産権を正しく特定しているか
契約書に各産業財産権につき以下の内容を明記し、譲渡対象となる産業財産権を双方の認識の誤りがないよう特定しましょう。契約書別紙として特許庁より発行されている各産業財産権の公報の写しを添付することも有効です。
特許権・実用新案権 | ・出願中のものは出願番号・出願日・出願人・発明の名称等 ・権利化後のものは登録番号・出願日・出願人・発明の名称等 |
意匠権 | ・出願中のものは出願番号・出願日・出願人・意匠にかかる物品等 ・権利化後のものは登録番号・出願日・意匠権者・意匠にかかる 物品等 |
商標権 | ・出願中のものは出願番号・出願日・出願人・商標等 ・権利化後のものは登録番号・登録日・権利者・存続期間満了日・商標等 |
②譲渡人は産業財産権の真の権利所有者であるか
当初産業財産権の権利者であっても、他人に譲渡済みであったり、権利が失効しているにもかかわらず、自身が権利者であるように装って権利の譲渡契約を結んだりするケースも想定されます。
契約締結前に公報等を調査することと併せて、契約書に「産業財産権の譲渡人は、産業財産権の真の権利者であることを保証する」等の条文を追記しましょう。
6)産業財産権の許諾契約とは何ですか
ポイント:産業財産権の権利を持つ者が相手方に産業財産権の実施又は使用を許諾(ラ イセンス)する契約のことです。
各産業財産権は、権利者自身によって実施されるだけでなく、他人に実施又は使用(特許・実用新案・意匠に関しては「実施」、商標に関しては「使用」を用います。以下、総称して「実施」といいます。)を認めることによっても利用されます。そのような実施の許諾を「ライセンス」ともいいます。そして、ライセンス契約とは、権利者(ライセンサー)が相手方(ライセンシー)に対して、産業財産権の実施を許諾する契約をいいます。
ライセンス契約を結ぶことによって、権利者(ライセンサー)は、相手方から実施料を得ることもできます。一方、実施権者(ライセンシー)は、自社の技術やデザイン等を補完し、研究開発の費用や時間を節約することができます。
なお、ライセンス契約の内容や条件は、原則として両者が自由に決められますが、契約内容が不公正な取引(販売価格の制限など)に該当する場合は、独占禁止法違反となるお
それがあるので注意してください。
特許の実施許諾契約(ライセンス契約)の例を下図に示します。
7)譲渡又は許諾の対象となるものにはどういうものがありますか
ポイント:次に掲げる 3 つが対象となります。
①権利化後の産業財産権 |
②出願中の産業財産権 |
③ノウハウ(産業上の技術に係わる秘密性を有する知識・経験に基づくもの) |
8)許諾契約におけるライセンサー/ライセンシーの立場について教えてください
ポイント:公平な契約が原則です。
ライセンサーとライセンシーのいずれにとっても、契約を締結するためには公平が原則であることは言うまでもありませんが、立場によって契約内容が変わってくることがあります。
ライセンサーの立場で契約書を作成する場合とライセンシーの立場で契約書を作成する場合の2通りがありますが、結局、当事者同士の交渉・合意により契約が調印されます。
したがって、それぞれの立場を考慮の上、各契約の案を検討して、納得の行く契約を締結してください。
公正取引委員会は、技術の利用に係る制限行為に関して、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成 19 年 9 月 28 日公表、平成 28 年 1 月 21 日最終改正)を公表していますので、ご参照ください。
例えば、この指針(ガイドライン)に従わず、ライセンサーが強い立場でライセンシー
に対して不当な制限を課した場合には、独占禁止法に違反することとなり、処罰もあり得ますので、注意を要します。
9)産業財産権の実施について教えてください
ポイント:各産業財産権によって、法律で定める「実施」の定義が異なります。
各産業財産権につき、それぞれ下表【産業財産権の「実施」・「使用」の定義】のように実施の定義が定められています。
ここでいう実施を包括的にみれば、ライセンシーが自らのビジネスに各産業財産権に基づく発明等を活用することということができます。
実施許諾契約(ライセンス契約)によって、ライセンシーは、実施許諾(ライセンス)された産業財産権を実施できる権利をもちます。これにより、自らのビジネスに活用することができます。この権利を「実施権」といいます。
実施許諾契約(ライセンス)を締結するにあたり、ライセンサーがライセンシーに対して実施権を許諾する場合の実施権の態様が下表【産業財産権の「実施」・「使用」の定義】の実施又は使用のどれかに該当することになります。
ここで注意していただきたいのは、物の製造・販売に関するライセンスにおいて、ライセンサーがライセンシーに製造権のみ、あるいは販売権のみを実施許諾する例が見受けられますが、製造・使用・販売はセットで実施許諾するのが一般的であるということです。すなわち、製造権のみを実施許諾されているライセンシーは、物を製造できても販売はできません。物の製造と販売が一体となって許諾された実施権が生きるわけです。
実施権の範囲を製造(Make)、使用(Use)又は販売(Sell)のいずれか1つに限定していないか
実施権の範囲はセットで許諾!!
*製造(Make)+使用(Use)
*製造(Make)+販売(Sell)
【産業財産権の「実施」・「使用」の定義】
【特許法】…特許法第2条3項各号に以下の定めがある。 「実施」とは、次に掲げる行為をいう。 (1)物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。)をする行為 (2)方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為 (3)物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為 |
【実用新案法】…実用新案法第2条3項に以下の定めがある。 「実施」とは、考案に係る物品を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸出し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をする行為をいう。 |
【意匠法】…第2条2項に以下の定めがある。 「実施」とは、次に掲げる行為をいう。 (1)意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為 (2)意匠に係る建築物の建築、使用、譲渡若しくは貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申 出をする行為 (3)意匠に係る画像(その画像を表示する機能を有するプログラム等を含む。以下同じ。)について行う次のいずれかに該当する行為 イ 意匠に係る画像の作成、使用又は電気通信回線を通じた提供若しくはその申出 (提供のための展示を含む。以下同じ。)をする行為 ロ 意匠に係る画像を記録した記録媒体又は内蔵する機器の譲渡、貸渡し、輸出若し くは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為 |
【商標法】…商標法第2条3項に以下の定めがある。 また、商標は実施ではなく、使用と定義される。 「使用」とは、次に掲げる行為をいう。 (1)商品又は商品の包装に標章を付する行為 (2)商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為 (3)役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為 (4)役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為 (5)役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為 (6)役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為 (7)電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為 (8)商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為 (9)音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為 (10)前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為 |
10)専用実施権と通常実施権の違いは何ですか
ポイント:ライセンサーも実施できるかどうかという点で違いがあります。
ライセンサーは、ライセンシーに対して、その保有する産業財産権の対象となる知的財産(特許発明・実用新案・意匠・商標を指します。以下「発明等」と略します。)の実施権を許諾(ライセンス)します。専用実施権と通常実施権は、このライセンスの形態を表しています。なお、商標については、「専用実施権」「通常実施権」ではなく「専用使用権」
「通常使用権」といういいかたをしますが、ここでは便宜上産業財産権をまとめて「専用実施権」「通常実施権」と表記します。
専用実施権は、発明等を専用実施権者が独占排他的に実施できる権利のことをいい、特許庁への設定登録が必要です。設定された実施の範囲内において権利者自身も実施できなくなります。
専用実施権者は、実施許諾を受けた範囲内において無権限の他者が発明等を実施した場 合には、差止請求や損害賠償請求を行うことができます。専用実施権設定後に、発明等が 他者に譲渡されても、ライセンスを継続して受け続けることができます(第三者対抗要件)。
他方、通常実施権は、専用実施権のような独占的排他的権利でなく、対象となった発明等を単に実施することができる権利のことをいいます。
通常実施権者は、専用実施権者と異なり、許諾を受けた範囲内において無権限の他者が発明等を実施した場合であっても、差止請求や損害賠償請求を行うことはできません。
なお、産業財産権のうち特許・実用新案・意匠に関して、特許法等の改正(平成 23 年)前には、通常実施権者が第三者対抗要件を備えるためには、特許庁への設定登録が必要でしたが、当該改正により、通常実施権の当然対抗制度が導入され、通常実施権について特許庁へ設定登録をしなくても第三者対抗要件を備えることになりましたので、特許庁への設定登録の必要がなくなりました。もっとも、商標に関しては、現在でも、第三者対抗要件を備えるためには、特許庁への設定登録が必要です。
【第三者対抗要件】 第三者対抗要件とは、すでに効力の生じている権利関係の変動などを第三者に主張するための要件のことをいいます。第三者対抗要件を備えていれば、産業財産権をライセンスされているライセンシーは、例えライセンサーがその権利を他者に譲渡等を行ったことにより、ライセンサーが別の権利者に変わった場合でも、引き続き発明等の実施を続けることができます。 通常実施権の当然対抗制度について、後記「2.13)通常実施権者・仮通常実施権者がいるのにライセンサーが別の者に専用実施権・仮専用実施権を許諾した場合、通常実施権者・仮通常実施権者の立場はどうなりますか」(37ページ)をご参照くだ さい。 |
また、通常実施権には実務上、独占的通常実施権と非独占的通常実施権があります。これは、法律上の区分ではなく、契約実務上使用する用語です。独占的通常実施権が許諾された場合、ライセンサー及びライセンシーしか実施することはできませんが、非独占的通常実施権の場合、権利者は、更に別の者にも実施許諾することができ、複数のライセンシーが実施することができます。
専用実施権と通常実施権の内容を比較すると以下の表の通りとなります。
専用実施権と通常実施権の対比表
視点 | 専用実施権 | 通常実施権 |
ライセンサー (実施権を与えることができる者) | ・権利者のみが専用実施権をライセンスできる。 | ・権利者・専用実施権者いずれも通常実施権をライセンスできる。ただし、専用実施権者による場合 は、権利者の承諾が必要となる。 |
原簿への設定登録 (登録免許税が必要) | ・設定登録により専用実施権と第三者対抗要件の効力が発生する。 | ・特許・実用新案・意匠については設定登録をしなくても第三者へ対抗できる(法定)。 ・商標については設定登録により第 三者対抗要件の効力が発生する。 |
第三者への請求 | ・差止請求や損害賠償請求を行うことができる。 | ・差止請求や損害賠償請求を行うことができない。(なお、独占的通常実施権者は、損害賠償請求権が認 められる。) |
ライセンサーの 自己実施権の留保 | ・ライセンサーは、専用実施権の 設定範囲については実施ができない。 | ・ライセンサーは、実施権設定後も自身で実施ができる。 |
ライセンスの重複の可否 | <設定登録前> ・通常実施権を誰かにライセンスした後に、専用実施権を新たにライセンスすることはできる。 <設定登録後> ・専用実施権の設定後、その設定範囲については、専用実施権と通常実施権の別にかかわらず、ライセンスすることはできない。 | ・権利者は、非独占的通常実施権の許諾後、その許諾の範囲についても、専用実施権又は通常実施権をライセンスできる。 |
サブライセンス (再実施権) | ・権利者の承諾が必要となる。 | ・権利者の承諾が必要となる。 ・専用実施権についての通常実施権 にあっては、権利者及び専用実施権者の承諾も必要となる。 |
企業間のビジネスにおいては、短期間で契約交渉や契約締結後の柔軟な事業戦略の観点などから、手続きの煩雑さが伴う専用実施権の設定という方法を採らない傾向にあるといわれています。それに代わり、「独占的」又は「非独占的」という契約上のカテゴリーにより、契約条件を定めることが多いといわれており、この場合には、独占的通常実施権又は非独占的通常実施権の用語により契約条項を規定することになります。
専用実施権の設定登録登状況については、下表をご参照ください。
【専用実施権の設定登録状況】(特許行政年次報告書 2021 年版) |
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
特許権 | 112 | 129 | 170 |
実用新案権 | 2 | 3 | 2 |
意匠権 | 18 | 8 | 3 |
商標権 | 193 | 141 | 276 |
海外との英文契約において、「Exclusive License to use the Technology to manufacture and sale the Products」のように、単に独占的実施権を許諾する意味で表現することがありますが、わが国の専用実施権と解する人もいますから、ライセンサーも実施できる場合は、契約書にその旨を明確に規定することにより、将来のトラブルを避ける必要があります。
11)仮専用実施権/仮通常実施権とは何ですか
ポイント:出願中の産業財産権(特許・実用新案・意匠)も実施権の設定ができる権利 のことです。ただし、仮専用実施権が認められているのは特許権のみです。
特許法等の改正(平成 21 年)がなされる前は、特許権として権利が確定している場合のみ専用実施権/通常実施権の特許庁への設定登録が認められ、特許権として権利が確定していない出願中の段階では、設定登録が認められていませんでした。
しかし、企業間のビジネスにおいて、出願中の段階でも特許を受ける権利について第三者にライセンスを行うニーズがあることから、同改正により、出願中であっても特許を受ける権利を第三者にライセンスすることができるように、仮専用実施権/仮通常実施権の設定登録制度が創設されました。これにより出願中の特許を受ける権利も第三者に対抗できる制度が確立され、ライセンシーの保護がはかれるようになりました。
その後、特許法等の改正(平成 23 年)により、特許を受ける権利に加えて実用新案登録を受ける権利と意匠登録を受ける権利についても仮通常実施権の制度が導入されました
(商標登録を受ける権利は、含まれていません。)。なお、実用新案登録を受ける権利と意匠登録を受ける権利については、仮専用実施権の制度は設けられませんでした。
更に、特許法等の改正(平成 23 年)においては、通常実施権と同様に仮通常実施権につ
いても当然対抗制度が導入されましたので、特許法等の改正(平成 23 年)以降は、いずれの場合も仮通常実施権設定登録申請を行う必要がなくなりました。
当然対抗制度及び第三者対抗要件については、上記「2.10)専用実施権と通常実施権の違いは何ですか」(34 ページ)及び後記「2.13)通常実施権者・仮通常実施権者がいるのにライセンサーが別の者に専用実施権・仮専用実施権を許諾した場合、通常実施権者・仮通常実施権者の立場はどうなりますか」(37 ページ)をご参照ください。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
特許を受ける権利 | 39 | 43 | 24 |
仮専用実施権の設定登録登状況については、下表をご参照ください。
【仮専用実施権の設定登録状況】(特許行政年次報告書 2021 年版) |
12)通常実施権・仮通常実施権における独占的と非独占的の違いは何ですか
ポイント:複数の者に通常実施権を許諾できるかどうかという点で違いがあります。 通常実施権・仮通常実施権に関しては、契約において、ライセンサーがライセンシーに
対して独占的又は非独占的通常実施権の形態でライセンスすることがあります。これは法律上の定めではなく実務上の取り決めです。
独占的通常実施権者・独占的仮通常実施権者となるのは、ライセンシーが自分以外にライセンスをされては困る場合等に、ライセンサーに対し、ライセンサーが他の者にライセンスしないことを約束させ、自分だけがただ一つの通常実施権・仮通常実施権のライセンスを受けることとなるライセンシーです。この場合、ライセンサーが自己の実施権を留保するケースとしないケースとがあります。
そして、これ以外の通常実施権・仮通常実施権のライセンスを受けることとなるライセンシーを非独占的通常実施権者・非独占的仮通常実施権者といいます。非独占的通常実施権・非独占的仮通常実施権の場合は、ライセンサーがライセンシーによる産業財産権に基づく実施を承認するだけで、ライセンサーが自ら実施することも他に複数のライセンシーにライセンスすることも何ら制限されるものではありません。
一般に、契約書で特約がなく通常実施権・仮通常実施権と規定があれば、非独占的通常実施権・非独占的仮通常実施権を意味するものと理解されます。
実施権相互の関係については、次の「実施権の関係図」をご参照ください。
【実施権の関係図】 専用実施権 独占的通常実施権 ライセンス (実施権) 通常実施権 非独占的通常実施権 |
13)通常実施権者・仮通常実施権者がいるのにライセンサーが別の者に専用実施権・仮専用実施権を許諾した場合、通常実施権者・仮通常実施権者の立場はどうなりますか
ポイント:特許・実用新案・意匠に関しては、通常実施権・仮通常実施権について当然 対抗制度が導入されましたので、通常実施権者・仮通常実施権者は引き続き発明等を実施することができます。商標に関しては、設定登録していなければ使用できません。特許法等の改正(平成 23 年)により特許・実用新案・意匠に係る通常実施権・仮通常実
施権について当然対抗制度が導入されましたので、通常実施権者・仮通常実施権者は、それまでライセンスされていた権利に基づき発明等の実施を続けることができます。
【通常実施権・仮通常実施権の当然対抗制度】 通常実施権・仮通常実施権の当然対抗制度とは、通常実施権者・仮通常実施権者が特許庁に設定登録申請を行うことなく、通常実施権・仮通常実施権の存在を立証することにより、その通常実施権・仮通常実施権について第三者対抗要件を備えることができるとする制度です。第三者対抗要件については、34ページをご参照くだ さい。 |
商標は、当然対抗制度が導入されていませんので、ライセンシーが第三者に対して対抗
するためには、通常使用権・仮通常使用権の特許庁への設定登録が必要となります。
なお、専用実施権・通常実施権については、上記「2.10)専用実施権と通常実施権の違いは何ですか」(34 ページ)をご参照ください。
また、仮専用実施権・仮通常実施権については、「2.11)仮専用実施権/仮通常実施権とは何ですか」(36 ページ)をご参照ください。
14)出願中と権利成立後では、権利はどうなりますか。また、契約にあたっては何に留意すればよいですか
ポイント:出願中と権利成立後では権利の範囲が変わることがあります。出願中と権利 成立後の実施権の許諾では、契約条件が変わることがありますが、基本的には同等の扱いと考えてよいでしょう。
出願中の権利として法律上規定されるものとして次のものがあげられます。
特許について、出願者は、出願公開された後、特許権設定登録までに、当該発明を無断で実施している者に対して警告をしておくことにより、特許権設定登録後に、補償金請求権を行使することができます。
商標について、出願者は、商標登録出願後、当該商標を無断で使用している者に対して警告することにより、商標権設定登録後に、金銭的請求権を行使することができます。
出願中の段階で契約条件を検討する際には、権利範囲(特許請求の範囲等)が確定していない状況であることから、契約対象範囲等について想定と異なる場合があることも考慮に入れて検討することが必要です。
また、出願中には、公開される前の段階と公開された後の段階とがある点も考慮に入れる必要があります。公開前についての留意点については、次の「15」公開される前の産業財産権をライセンスする際の留意点を教えてください」をご参照ください。
なお、産業財産権のうち、特許と商標については出願公開制度がありますが、実用新案と意匠については、出願公開制度はありませんので、留意してください。
15)公開される前の産業財産権をライセンスする際の留意点を教えてください ポイント:公開前の産業財産権も実施許諾の対象となります。秘密保持に特別の考慮を払う必要があります。
公開前の産業財産権は、権利範囲が確定していない状態であり、かつ、出願の内容は公開されていない状態にあります。
このような状況において、ライセンス希望者に発明等の内容を説明又は開示する場合には、ライセンス希望者に秘密保持義務を負わせる必要があります。
また、出願書類は秘密性のある資料として位置付けられるので、その内容を開示し使用を許諾する場合には、ノウハウ契約の対象として扱う必要があります。
ただし、公開された後は出願書類が秘密性のある資料から秘密性がない資料としての位置付けになりますので、秘密保持条項にその旨の配慮が必要となります。
16)オプション契約とは何ですか
ポイント:予約契約のことです。
当事者の一方が、相手方に、自分の持っている技術情報・図面等を開示・提供して、相手方に事業化の可能性について評価させて、オプション期間内に実施許諾等を受けるか否かの選択権(オプション)を与える契約をいいます。
相手方は、オプション期間内に限り、上記技術情報・図面等を上記目的のみに使用する権利を有し、オプション期間経過後は、原則としてその権利を失います。
オプション契約は、その締結時点で、将来締結することとなるライセンス契約(本契約ともいいます。)の内容が確定している場合と確定していない場合とがあります。
契約内容が確定している場合は、当該オプション契約書にライセンス契約書(本契約書)が添付され、相手方がオプションを行使すれば直ちにライセンス契約(本契約)が成立し ます。
契約内容が確定していない場合は、オプションの行使にあわせ、ライセンス契約(本契約)の内容について当事者間で協議し、確定しなければなりません。
17)不実施補償契約とは何ですか
ポイント:共有特許において、実施しない当事者に対価を補償する契約のことです。 不実施補償契約とは、共有特許において、一方の当事者のみが実施をする場合に、実施
しない当事者に対価の支払い等を補償する契約をいいます。例えば、大学と企業が共同発明をして 1 つの特許権を共有しているときに、企業側のみが特許の実施をする場合が該当します。また、企業同士の共同発明でも、発明を実施し製品を製造するメーカー企業と製造された製品を利用するユーザー企業との共同発明の場合でも同様の事態が生じます。
いずれの場合も、共同して完成した研究成果のメリットを一方の当事者のみが得る結果になっているので、共有者の合意により、他の共有者に対して対価を払うことにより、両者の利益を均衡させるために不実施補償契約が締結されるのです。
なお、不実施補償として授受される対価は、例えば、持分割合が均等の場合は、一般に第三者にライセンスする場合に採用される実施料に不実施者の持分割合の1/2 を乗じた金額を不実施補償料とする例などがあります。
近年、契約当事者間の共有特許を効果的に活用する観点から、不実施補償契約の対価は、これまで多く用いられた金銭補償に限定せずに、契約当事者間の権利義務を総合的に考慮 して決定する方向にあります。
不実施補償契約の対価検討の要素として、次のものがあげられます。
①金銭補償 ②権利持分の譲渡 ③独占的通常実施権の許諾 ④通常実施権の許諾 ⑤再実施権の許諾 ⑥優先的交渉権の供与 ⑦出資 ⑧これらの組合せ |
また、共有特許実施契約という形で契約することもあります。
さらに、公的研究機関においては企業との連携、成果の普及を加速するため、共有知財の取扱い方針を見直し、不実施補償を廃止したところもあります。
18)サブライセンス(再実施権)と下請けの違いは何ですか
ポイント:実施権者は、権利者の実施許諾がなければ、第三者にサブライセンスをする ことができませんが、一定の条件の下での下請けは、実施権者の実施行為と認められ、権利者の許諾を必要としないとされています。
サブライセンス(再実施権)とは、許諾者が実施権者と締結した契約(主契約)において、実施権者が第三者に主契約の範囲内において、実施権を許諾する権利をいいます。
実施権者が子会社に実施させる場合も、再実施権のないときは、実施させることはできません。
一方、下請けは次の要件を全部備えている場合は、許諾者の承諾がなくても、実施権者は、特許製品の全部または一部を第三者に実施できるとされています。
この場合の製造を特に下請製造といいます。
① 実施権者が下請製造業者に工賃を支払うこと |
② 実施権者が原材料の購入、品質管理等について下請製造業者を指揮、監督すること |
③ 実施権者が下請製造業者から製品の全部を引き取ること |
以上のように、下請製造業者は、実施権者の一機関として許諾特許を実施するに過ぎませんが、再実施権者は実施者とは別個独立の責任において許諾特許を実施する点で、大きな違いがあります。
19)ライセンス契約の対価の算定方法について教えてください
ポイント:無償の実施許諾を除き、権利者(ライセンサー)は実施権者(ライセンシー) から何らかの対価を得るわけですが、その方式は様々なものがあります。
対価(ロイヤルティ)をいくらにし、どのような方法で支払うのかはライセンス契約に おいて重要なことです。しかし、対価の決め方については確立した算定方法はありません。
最終的には、権利者(ライセンサー)と実施権者(ライセンシー)の力関係や交渉力によるといわれていますが、産業界の場合、販売価格の3~5%を対価として実施権者(ライセンシー)が支払うのが平均的のようです。
以下に支払方法を例示します。
① 実績を考慮しない対価( 定額実施料 Fixed Sum Royalty) | ・ライセンスの実績に関係なく決まる固定額を一定の対価として払うものをいいます。 ・頭金(Initial Payment又はDown Payment)、一時金、一括金(Lump Sum)、定額実施料(Fixed Sum Royalty)等様々な名称で呼ばれています。 |
② 実績を考慮した対価 ( 経 常 実 施 料 Running Royalty) | ・ライセンスの実績に比例した額を支払うもので、実施料率に基づいて一定の対価を支払うものです。 ・販売価格の○%相当額を支払う方式(料率法)と、製品 1個あたり○円を支払うという方式(従量法)の2つがあります。 ・また、経常実施料(ランニングロイヤルティ)の前払金としてあらかじめ一定額を支払っておき、実績が上がるたびに前払金から差し引いていく前払実施料方式があり ます。 |
特許権のロイヤルティ料率に関して、下表をご参照ください。
【特許権のロイヤルティ料率の平均値】
(出典)「知的財産の価値を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書
~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~本編 平成 22 年 3 月 帝国データバンク」 要約 vii ページ
平成 21 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書
20)最低実施料(ミニマムロイヤルティ)とはどういう意味ですか
ポイント:ライセンサーがロイヤルティとして受け取る最低実施料のことです。
実施許諾契約等において、ある期間中に発生する実績実施料が契約で定めた実施料額に達しないときには、ライセンサーは、その差額をライセンシーに保証してもらうことを決めることになります。これを最低実施料(ミニマムロイヤルティ)といいます。
ライセンサーの立場としては、せっかく実施許諾契約等をしたのですから、最低保証となる金額を要求することになりますが、ライセンシーとしては、契約で定めた実施料額に達しない場合は、差額を保証しなければなりませんので、お互いに納得した形でミニマム条項を設けるかどうかを判断することが大切です。
21)正味販売価格(純販売価格)とは何ですか
ポイント:総販売価格から運賃、保険料、梱包費などを控除した価格のことです。
特許製品の売上げなどに比例して実施料を支払う場合(ランニングロイヤルティ)、簡単に販売価格の何%を実施料と決めることがあります。しかし、何の販売価格をベースにするのかによって実施料の額が変わることに注意してください。一般的には、正味販売価格
(純販売価格)の 3~5%を実施料として支払うことが多いようです。
特許権のロイヤルティ料率について、上記「2.19)ライセンス契約の対価の算定方法について教えてください」(40 ページ)をご参照ください。
正味販売価格(純販売価格)とは、総販売価格から運賃や保険料、梱包費などの経費を控除した販売価格のことです。控除できるものは一律には決まっていないので、契約交渉において、販売価格から控除するものを明確に決めておく必要があります。販売価格から控除できる経費が多ければ、実施料の額は少なくなります。
控除すべき諸経費として、運賃・保険料・梱包費・関税・代理店手数料などがあげられます。
22)ライセンス契約終了後に、契約に基づき開示されたノウハウを使用するとどうなりますか
ポイント:特約がない場合、契約終了後にノウハウを使用することは契約違反となり、 損害賠償等を請求される可能性があります。
ノウハウは、秘密性を有している限り、契約終了後においてもライセンシーは秘密保持の義務を負うとされています。実際の契約では、契約終了後にノウハウの使用を無期限又は一定期間禁止するのが普通です。このため、契約終了後にノウハウを使用した場合は、契約違反として損害賠償等を請求されることがあります。
なお、契約書の中には終了後のノウハウ使用の取扱いについて規定がない場合でも、契約終了後のノウハウは使用できないとする学説が主流を占めています。
開発途上国とのライセンス契約においては、契約終了後は自由に使用できるという法制度を採っている国もありますので、外国へのライセンス契約においては、十分に注意してください。
23)特許、実用新案、意匠の発明者、考案者、創作者(以下、発明者等)が実施許諾をすることはできますか
ポイント:発明者等が権利を他人に譲渡した場合は、実施許諾することはできません。権利者になるのは出願人であって、発明者等ではありません。発明者等が特許を受ける
権利を他人に譲渡しその譲受人が出願した場合には、発明者等は、出願人になることはで きません(発明者等自身が出願人として出願した場合には、発明者等が出願人となります)。
したがって、出願人ではない発明者等は、その特許発明を実施することも、第三者に実施許諾をすることもできません。
発明者等の中には、譲渡した後もその発明を自由に実施できると誤解している人もいます。特に「職務発明」の適用を受ける企業や大学・研究機関の発明者等は、原則として、権利がありませんので、こうした者との契約においては、出願人であるかどうかの確認が必要です。
なお、特許法等の改正(平成 27 年)により、職務発明制度が改正され、使用者等の職務発明を原始的に所属機関に帰属させることができるようになっています。発明者等の所属機関の発明規程等に原始帰属の定めがある場合には、特に注意が必要です。
24)社長が個人で所有している産業財産権(出願中を含む。) を会社が契約当事者としてライセンス契約を締結する場合は、どうすればよいですか
ポイント:実施許諾対象の産業財産権の許諾権限を会社が持つことです。
社長が個人でなした発明については、自己が社長を務める会社への権利譲渡の手続きが煩雑なため、個人名義のままで権利化及びその維持を行っているケースがしばしば見受けられます。このような状況にある産業財産権(出願中を含む。)を、会社を契約当事者としてライセンス契約を締結する場合には、当該会社が当該産業財産権について実施許諾権限を有していることが必要となります。
会社が許諾対象の産業財産権について実施許諾権限を持つ方法としては、大別して、次の 2 つの方法が考えられます。
(2)個人(権利者)と会社とで契約を締結し、許諾対象の産業財産権の許諾権限を付与してもらう。
*専用実施権の許諾を受けると共に、第三者に対する通常実施権を許諾することについての承諾を得る。
*再実施許諾権限付の通常実施権の許諾を受ける。
(1)許諾対象の産業財産権について権利の譲渡を受ける。
いずれの形態にするかについては、実施許諾対象の産業財産権に係る事業の今後の展開及びライセンス先の意向等を勘案の上、権利者自らが決定する必要があります。また、いずれの形態においても、社長個人からの権利取得については、社内の取締役会における決議等の手続が必要となりますので留意が必要です。
25)ライセンサーが倒産した場合、許諾契約はどうなりますか
ポイント:特許・実用新案・意匠に関しては、ライセンサーが倒産してもライセンス契 約を継続できます。商標に関しては、設定登録がなければ継続は困難です。
産業財産権に関するライセンス契約の当事者であるライセンサーが破産した場合、破産管財人がライセンサーとライセンシー間の契約を解除すると、ライセンシーは大きな不利益を被ることになります。
破産法は「賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約」について、対抗要件を備えている場合には、上記の解除等の規定(破産法 53 条 1 項 2 項)は適用しな
いと定めています(破産法 56 条)。これにライセンス契約が含まれます。そして専用実施
権については設定登録により対抗要件を備えていますし、特許法等の改正(平成 23 年)により、特許・実用新案・意匠に関しては、通常実施権についても当然対抗制度が導入されましたので、ライセンサーの倒産に伴い破産管財人からライセンス契約を一方的に解除されるおそれがなくなりました。
しかし、破産手続きが進み破産管財人によってライセンス対象となる権利が売却されることが予想されますので、新たな法律関係に留意が必要です。
商標に関しては、当然対抗制度はありませんので、通常使用権に関しては、特許庁への設定登録がなされなければ、破産管財人からライセンス契約を一方的に解除されるおそれが生じます。
なお、ライセンサーが破産した場合で、許諾を受けているノウハウの場合は、上記の保護はありませんので留意してください。
26)ライセンシーは、許諾契約において、製品をライセンサーの了解を得ないで輸出できますか
ポイント:輸出権があるかどうかの将来のトラブルを回避するため、契約書に輸出権の 有無、独占、非独占の区別を明確にしておくことです。
ライセンシーがライセンス契約の下で製造した製品を輸出する行為は、産業財産権の実施になります。上記「2.9)産業財産権の実施について教えてください。」(32 ページ)をご参照ください。
したがって、ライセンシーが当該製品をライセンサーの事前の了解なしに輸出することはできません。ライセンシーが輸出するためには、ライセンサーから輸出権を得ることが必要となります。
なお、ライセンサーがライセンシーに対し、当該技術を用いた製品を輸出することを禁 止する行為は、独占禁止法上原則として不公正な取引方法に該当しないとされていますが、ライセンサーの指定する事業者を通じて輸出する義務や、ライセンサーによる輸出数量の 制限あるいは価格制限は、独占禁止法上の問題も生じますので公正取引委員会に照会して ください。
27)産業財産権が共有とされている場合について教えてください
ポイント:共有者の一方は、他方の共有者の同意を得ないでも発明等を自由に実施できます。第三者へのライセンスには、共有者の同意が必要です。
共有特許の場合、共有者のいずれも、原則として他の共有者の承諾を得ないで特許発明 を実施できると特許法 73 条第 2 項に規定してあります。この条文は、実用新案法、意匠法、商標法でも準用されていますので、他の産業財産権でも同様の扱いとなります。
他方、共有の産業財産権を第三者にライセンスしようとする場合には、他の共有者の同意を得ないでこれを行うことはできません。
なお、共有者の一方が企業倒産した場合には、裁判所が関与する形での特別清算や破産手続きが進められます。共有の産業財産権の持ち分は、主体となる会社が存在しない訳ですから、清算人や破産管財人が管理することになります。清算人や破産管財人は、この産業財産権の持ち分を未清算の財産や残余財産として裁判所に申し立てて清算や残余財産の分配をすることになります。この手続きを完了して、初めて他の共有者が第三者に実施許諾する準備ができます。
この場合、他の共有者としては、当該特許権の持ち分を放棄してもらうか自らに譲渡してもらうことが望ましいでしょう。
いずれにしても、裁判所への申し立て費用等はかなりの金額がかかることに留意してください。
28)譲渡条項について教えてください
ポイント:ライセンサーによる譲渡とライセンシーによる譲渡について取り決めるのが一般的です。
ライセンサーによる譲渡は、①対象の産業財産権の譲渡 ②契約の譲渡 ③契約に規定されている権利義務の譲渡、に分けることができます。
ライセンシーによる譲渡は、①契約の譲渡 ②契約に規定されている権利義務の譲渡、に分けることができます。
ライセンサーは、ライセンシーの承諾を得ないで対象の産業財産権を自由に第三者に譲渡できますが、ライセンサーが対象の産業財産権を譲渡する場合には、ライセンシーの承諾なしに第三者に譲渡した場合のライセンシーと第三者間のトラブルなども想定されますので、ライセンシーに譲渡の受諾の意向を確認する規定を設けることが考えられます。
また、ライセンサーによる第三者への契約の譲渡は、相続、合併のような一般承継の場合をのぞいて、ライセンシーの承諾が必要となります。
ライセンサーは、契約に規定されている義務を第三者に譲渡することは、原則として、できません。ライセンサーが契約に規定されている義務を第三者に譲渡しようとする場合は、ライセンシーの承諾が必要です。
一方、ライセンシーにおいても、第三者への契約の譲渡は、相続、合併のような一般承継の場合をのぞいて、ライセンサーの承諾が必要となります。
ライセンシーも、契約に規定されている義務を第三者に譲渡することは、原則として、できません。ライセンシーが契約に規定されている義務を第三者に譲渡しようとする場合は、ライセンサーの承諾が必要です。
なお、一般承継に関して、相続については民法 896 条を、合併・分割については会社法 2
条 27 号~30 号を、特許権の移転については特許法 98 条をご参照ください。
一般には、上記の点等を踏まえて、ライセンス契約書に次のような譲渡禁止条項を加えます。
第○○条(譲渡禁止) 甲及び乙は、本契約から生じる権利若しくは義務の全部又は一部を、相手方の書面による事前の承諾なしに、第三者に譲渡し又は担保に供してはならない。 |
29)ライセンサーの担保責任とはどういうことですか
ポイント:契約時点ですでに存在する対象の産業財産権に欠陥があるためにライセンシ ーが対象特許等を実施できない場合のライセンサーの責任をいいます。
ライセンサーの知らない無効事由のために、産業財産権の全部又は一部が消滅した場合で契約書に規定がない場合には、ライセンシーは、ライセンサーに対して契約を解約する権利とロイヤルティの減額を請求できます。また、ライセンサーが無効理由を知りながらライセンシーに告げなかった場合には、損害賠償も請求できます。
従来、上記の責任は、「瑕疵担保責任」として扱われてきましたが、民法の改正(令和 2
年 4 月 1 日から施行)により、「契約不適合責任」という考え方に代わりました。
「契約不適合責任」については、前記「1.(3)4)契約不適合責任について教えてく
ださい」(17 ページ)をご参照ください。
なお、実務上では、ライセンスの対象となった産業財産権が第三者の権利を侵害しないものであることを保証するか否かの局面で、次の例のように「担保責任」の用語を用いることもあります。
第〇条(第三者の権利侵害に関する担保責任) 甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用若しくは販売が第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。 |
上記の担保責任を含めて、ライセンサーの保証責任というとらえ方もあります。
【ライセンサーの保証責任】 ①産業財産権の有効性の保証(正当な権利者であること、欠陥がないことの保証) ②第三者知的財産権の非侵害の保証 ③技術的効果の保証(製品などの成果物の保証、生産される量などの性能の保証) |
30)改良発明・改良技術とは何ですか。また取扱いはどうすればよいですか
ポイント:ライセンサー、ライセンシーが対象特許等に基づいてなした改良発明・改良 技術のことです。取扱いが不公平にならないようにします。
ライセンスの対象となった特許等に基づく製品や製造プロセスについての改良発明・改良技術のことをいいます。新規発明・新技術との区分けが必要となりますので、何に関する改良発明・改良技術かを特定することが大切です。
一般的には契約期間中に発生した改良発明・改良技術をライセンサー、ライセンシーのいずれの当事者も相手方に開示する義務はありませんが、実際の契約では、自分のなした改良発明・改良技術を相手方に開示し、実施させる取り決めが一般的です。
ライセンサーとライセンシーが相互に改良発明・改良技術を開示し合うことで、ライセンス契約の中で実質的に共同研究・共同開発を行う意味合いもあります。
ライセンシーのみがライセンサーに改良発明・改良技術を開示する義務を負うケースも有りますが、①ライセンサー又はライセンサーの指定する事業者に無償でその権利を帰属させる場合や、②ライセンサーに無償で独占的ライセンスをさせるような場合などは、ライセンサーとライセンシーとの間で改良発明・改良技術の取扱いについて不公平が生じ、独占禁止法上問題となりますので十分気をつける必要があります。
31)不争条項とは何ですか
ポイント:ライセンサーの産業財産権の効力を争わない旨を取り決めることです。
不争条項とは、直接、間接とを問わず、ライセンシーは、ライセンサーから許諾を受けている産業財産権についての効力を争ってはならないとの義務を課す条項のことです。
ライセンサーがライセンシーに対して、ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務を課す行為は、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する場合もあるとされています。
なお、ライセンシーがライセンスを受けた権利の有効性を争った場合に、当該権利の対
象となっている技術についてのライセンス契約を解除する旨を定めることは、原則として不公正な取引方法に該当しないとされています(公正取引委員会「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」)。ただし、外国の法制度においては、不争条項は、必ずしも当然に合法的とは考えられていませんので、留意してください。
32)最恵待遇条項とは、どういうものですか
ポイント:ライセンサーが他のライセンシーに対し、先のライセンシーよりも有利な条 件でライセンスした場合、先のライセンシーにも有利な条件を享受できるようにする条項のことです。
非独占の実施許諾契約において、ライセンサーは、非独占の実施権を許諾した後にも第三者に同一の産業財産権につき、当該第三者にとって、より有利な条件で実施権を許諾することがあります。
このように、ライセンサーが他のライセンシーに対し、先のライセンシーよりも有利な条件でライセンス契約を締結した場合、先のライセンシーは、後のライセンシーよりも不利でない条件で競争できるように、ライセンサーに対し同等以上の待遇を申し入れ、これにライセンサーが応じる旨の規定を、あらかじめ先のライセンス契約で規定することがあります。これを最恵待遇条項といいます。
国内契約においては、最恵待遇条項を設けることは少ないように思われます。
33)完全合意条項とは何ですか
ポイント:契約締結前に取り交わした文書が無効になり、契約書が当事者の意思を解釈 する唯一の資料であることを取り決める条項のことです。
ライセンス契約等を締結する前に当事者間において取り交わした文書、メモ(口頭を含む。)が、ライセンス契約等を締結する際に、当該ライセンス契約書等に反映されなかった場合には、以前当事者で交わした文書等が無効になり、当該ライセンス契約等が当事者の意思を解釈する唯一の資料であることを取り決める条項をいいます。
国内契約においては、完全合意条項を設けることは少ないように思われます。
34)共同研究契約とは何ですか
ポイント:共同研究契約とは、特定の技術や製品の研究開発を他の企業等と共同で行う 場合に締結する契約をいいます。
技術の高度化に伴い、1 社だけの技術力や資金力では研究開発が難しくなってきていることから、他の企業・大学・研究機関と共同で研究開発を行うケースが増えています。共同研究を行う際に、不測の事態を避けるため、事前に双方の権利義務を定めておくための契約です。
規定する項目としては、研究目的、研究内容、研究分担、研究費用の分担、知的財産権等があげられます。
企業間での共同研究の相手方としては、次の型が考えられます。
〇水平型→同種の企業(半導体機器メーカー等) |
〇垂直型→原料メーカーとそのユーザー(化学合成/医薬品) 部品メーカーと完成品メーカー(電気部品/自動車) |
35)共同で研究開発する際の留意点を教えてください
ポイント:必ず書面で、万一に備え詳細に契約することです。
共同で研究開発を行う場合、単に口約束の下で行われたり、契約の内容が大まかで、成果物の帰属や産業財産権・ノウハウ情報の提供、守秘義務等の詳細が書面で定められていなかったりする場合もあります。トラブルが生じてから、あるいは不仲になってからでは遅いので、事前にできるだけ詳細に契約書に盛り込んでおくことが、紛争防止の観点から望まれます。
事業化を目指した最終製品に近い段階での共同研究開発では、当該研究開発が終了した後のマーケット対応も含めて、当事者間の権利義務を明確にすることが重要です。
36)共同研究で生まれた成果物(発明等)の取扱いについて教えてください
ポイント:当事者間で前もって明確に決めておく必要があります。
共同研究の成果をどちらに帰属させるかについて当事者同士の利害が対立し、争いになってしまうことがあります。このようなトラブルを未然に防ぐために、できるだけ明確な取り決めを共同研究契約書に規定しておくことが重要です。
例えば、次のような取り決めが考えられます。
・当事者が共同で作業して得られたものは、共有とする。 |
・相手方からもらった情報を利用して得られたものは共有とする。 |
・研究成果への各当事者の貢献を基に、共有持分を定める。 |
・発明等の維持管理費用の負担及び発明等利用対価の分配は、共有持分に基づき定 める。 |
・一方の当事者のみが共有特許を実施する場合は、実施しない当事者に補償金を支 払う。 |
・当事者は、相手方のみに帰属することになった成果を無償で実施できる。 |
共同研究によって得られた成果である特許等については、共同出願するのが一般的です。なお、共有特許等は、特別の約束がない限り、共有者が自由にその発明を実施できます。
その際、発明を実施しない企業・機関(大学、公的研究機関等)と発明を実施する企業との共有特許については、実施する企業が、不実施企業・機関に補償金を支払うことが少なくありません。
不実施企業・機関への対応に関しては、「2.17)不実施補償契約とは何ですか」(39ページ)をご参照ください。
また、第三者に実施許諾する場合は他の共有者の同意が必要となることに注意してください。これに関しては、「2.27)産業財産権が共有とされている場合について教えてください」(44 ページ)をご参照ください。
37)産業財産権と独占禁止法の関係について教えてください
ポイント:産業財産権を含む知的財産権の行使は、独占禁止法の適用除外になると考え られています。
独占禁止法第 21 条は、次の通り規定しています。
独占禁止法第21条 この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。 |
公正取引委員会は、この規定の下に、企業等の事業活動に伴う独占禁止法違反を未然に防止する観点から各種のガイドライン等を作成・公表しています。
知的財産との関係については、不公正な取引方法等関係のガイドライン等の一部として、次の 3 つのものがあります。
「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月20日公表) |
「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日公表) |
「標準化に伴うパテントプールの形成等に関する独占禁止法上の指針」 (平成17年6月29日公表) |
38)ソフトウェアの使用に関する契約について教えてください
ポイント:ソフトウェア(コンピュータプログラム及びそれを用いたシステム)に関す る権利を有している者が第三者に対し、当該権利に基づき、当該ソフトウェアの使用を許諾する契約のことをいいます。
ソフトウェア(コンピュータプログラム及びそれを用いたシステム)は、著作権による保護とともに特許権によっても保護されています。著作権はプログラムの表現を保護し、特許権はプログラムのアルゴリズムを保護するといわれています。
ソフトウェア使用許諾契約は、ソフトウェアに関する著作権や特許権を有している者が、第三者に対し、当該権利に基づき、当該ソフトウェアの使用を許諾する契約です。
ソフトウェア使用許諾契約の形式は、権利に基づく使用を許諾することに重点を置いた形の契約が一般的です。他方で、パッケージソフトのような場合に、ソフトウェアを体現する媒体(CD等)に重点をおいて、この媒体を製品と呼び、ソフトウェア譲渡契約の形式をとるものもあります。
契約に規定する項目としては、使用許諾契約の形式の場合、ソフトウェアの特定、使用の形態、製品の提供、対価、著作権者/特許権者、保証・免責等があげられます。譲渡契約の形式の場合、製品の引渡し・納入、契約不適合責任、複製の禁止等も規定されることもあります。
また、ソフトウェアの維持管理・バージョンアップ対応等の規定を盛り込むこともあります。
39)知的財産権に関わる契約等を行う上での契約書の雛形及び参考となる WEB サイトを紹介してください
ポイント:ここで紹介する契約書等はサンプルにすぎません。自己にとって適切かどう かという点を含め、必ず全条項の内容を確認してください。
ライセンス契約等を行う上で参考となる WEB サイトを紹介します。ただし、契約書の条項の内容は、個別具体的事情によって異なります。したがって、これらはあくまでサンプル(一例)に過ぎないことを十分に理解していただくとともに、全条項について、自らが契約の一方の当事者になる場合に適切な内容になっているかどうかを必ず確認してください。
【参考となる WEB サイト】
●知的財産取引検討会報告書 (経済産業省 中小企業庁)報告書のP61 以降に契約書雛形が掲載されています。
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/chizaitorihiki/2021/210331chizaito rihiki_report.pdf
●オープンイノベーションポータルサイト(経済産業省 特許庁)サイト上に各種モデル契約書が掲載されています。
https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html
●秘密情報の保護ハンドブック(経済産業省)
ハンドブックの参考資料 2 として「業務提携の検討における秘密保持契約書の例」が掲載されています。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/full.pdf
●秘密保持契約書(NDA)雛形(東北大学)
日本語及び英語の秘密保持契約書雛形が掲載されています。 https://www.rpip.tohoku.ac.jp/jp/information/himitsu
3.海外との契約の基礎知識
1)国内契約と海外契約との違いはありますか
ポイント:海外契約は一般に、国内契約と比べ、記載内容が詳細で分量も多いです。 国内契約では、契約は信義則にしたがって、契約に規定されてない事項については互譲
の精神に基づき話し合いで解決する旨を規定する「協議」条項が一般に設けられています。この条項は、あまり法的意味はなく、国内契約における独特の条項といえるでしょう。
一方、海外契約においては、契約書に記載した事項が契約当事者を拘束する主なものであることから、契約書の枚数も国内契約と比べ多くなり、契約書が数百ページに及ぶものもあります。
海外契約は、外国当事者との間の国、地域を越える取引ですから、契約書にも国内契約には見受けられない特有の条項がありますので、留意してください。
契約書の作成言語としては、日本語ではなく、英語が多く使われています。日本語と外国語の両方を契約書正文の言語とすることもありますが、この場合には、言語の整合性を図ることが重要となります。両言語で相違が生じた場合には、どちらの言語の契約書を優先するのかを規定しておくことを予め契約書に規定しておく必要があります。
また、海外契約では、契約の効力、解釈等に関して、どこの国、地域の法律で解釈するか(この法律を「準拠法」といいます)を予め取り決める必要があります。
更に、海外との契約でトラブルが生じた場合、裁判で解決するのか、仲裁で解決するのか等の取り決めも必要です。海外での紛争解決の場合、仲裁が多く採用されています。多くの国が「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)に加盟しているため、外国の仲裁判断であっても、他の国で当該仲裁判断を承認・執行してもらい、被告の財産を差し押さえること等が可能となっています。
また、海外とのライセンス契約では、使用料の受け払いについては、その対価を源泉することが義務づけられています。この場合にも二国間の二重課税防止条約に基づいて、税務当局に租税条約に基づく二重課税防止に関する届出書を予め提出する必要があります。使用料の料率は国によって異なりますので、税務当局又は税理士等にお問い合わせください。なお、米国と日本では、使用料に対しては源泉する必要はありません(一定の手続きが必要となります)。
海外企業との取引に関する外国の法規制に関する情報については、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)から公表される資料等を参考にしてください。
2)日本の会社等が海外から技術ライセンスを受ける場合、どのような規制がありますか
ポイント:外国為替及び外国貿易法(外為法)によって、対外取引に対して管理が行わ れています。
手続きが不要な技術導入に該当するものを除いて、財務大臣及び事業所管大臣に、事後報告(契約締結・変更後に報告すること)か事前届出(契約締結・変更前に届け出ること)をする必要があります。
手続きが不要な技術導入:
①非居住者の本邦にある支店・工場・その他の営業所が独自に開発した技術導入契約 の締結等 |
②事業の経営に関する技術の指導に係る技術導入契約の締結等 |
③指定技術(下記2)-1参照)以外の技術に係る技術導入契約の締結等 |
2)-1.指定技術とは何ですか
ポイント:対内直接投資等に関する命令(直投命令)に掲げる以下の 5 つの技術をいい ます。
①航空機に関する技術 | 1.航空機の設計、製造又は使用に関するもの 2.航空機の部品若しくは付属装置の設計、製造又は使用に関するもの |
②武器に関する技術 | 1.武器の設計、製造又は使用に関するもの 2.武器の部分品若しくは付属品の設計、製造又は使用に関するもの 3.軍事用電子機器の製造に関するもの |
③火薬類の製造に関する技 術 | |
④原子力に関する技術 | 1.原子炉(核融合炉を含む。)若しくはその部分品、付属装置若しくは構成材又は原子力用タービン若しくは原子力用発電機の設計、製造又は使用に関するもの 2.核燃料の設計、製造、使用若しくは再処理又はこれらに用いる装置の設計若しくは製造に関するもの 3.放射線発生装置の設計、製造若しくは利用又は放射性物質の利用、処理若しくはこれらに用いる装置の設計若しくは製造に関するもの 4.原子炉によらない核反応の利用に関するもの |
⑤宇宙開発に関する技術 | 1.宇宙飛しょう体(気象観測用ロケットを除く。)若しくは宇宙飛しょう体の打上げ、誘導制御、追跡若しくは利用のために特に設計された装置又はこれらの部分品、付属装置若しくは材料の設計、製造又は使用に関するもの 2.宇宙飛しょう体開発のために特に設計された試験装置又はその部分品、付属装置若しくは材料の設計、製造又は使用に関するもの 3.宇宙飛しょう体の推力源の設計、製造又は使用に関す るもの |
指定技術:国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全保護に支障を来すおそれがある技術導入契約の締結等に係る技術として直投命令に定められています。
2)-2.事後報告の対象になるものと、その手続を教えてください
ポイント:ほとんどが事後報告となっています。指定技術に係る新規の技術導入契約の 締結で、条件に該当するものと、既に締結した指定技術に係る契約の条項変更(※1)で、条件に該当しないものが事後報告の対象となります。
非居住者の本邦にある支店・工場・その他の営業所が独自に開発した技術を導入する場合は報告不要となっています。
新規契約で事後報告が必要なもの
①技術導入契約の確定対価が 1 億円以下のもの
②地位の承継(※2)で、契約条項の変更を伴わないもの
契約条項の変更で事後報告が必要なもの
①次の(1)・(2)のいずれにも該当しないもの
(1)対価が 1 億円以上または不確定(クロスライセンス契約(※3)・親子間ライセンス契約(※4)を含む。)の指定技術の導入契約に新たに「指定技術」を追加するもの
(2)「対価 1 億円以下の指定技術」に係る対価の変更であって、対価が 1 億円以上となるもの
※1:契約条項の変更の対象となるのは、既に提出している報告書または届出書の次の項目に係る変更です。
①技術の種類、②契約期間、③技術導入の対価、④契約条項の概要、⑤技術の内容
※2:地位の承継とは、技術の提供側・導入側を問わず、契約当事者の一方が、合併や権利の譲渡等により変更されることをいいます。
※3:契約当事者が相互に自分の所有する技術の実施権を供与しあう契約をいいます。
※4:総議決権の 50%以上を保有する海外の親会社から技術を導入する契約をいいます。
報告書の提出時期・部数
契約締結・変更日から起算して 45 日以内に、「技術導入契約の締結・変更に関する報告書」を、日本銀行を経由して財務大臣および事業所管大臣宛に提出する方法によって行います。
提出部数は、1 通です。
3)日本の会社等が海外に技術ライセンスを行う場合、どのような規制がありますか
ポイント:外国為替及び外国貿易法(外為法)によって、海外への技術の提供に対して も輸出管理規制が行われています。
輸出管理規制
(1)総説
外為法等によって、「貨物の輸出」と「技術の提供」のいずれについても、輸出管理の対象とされています(有償・無償に関わりません。)。
「技術の提供」には、①技術を外国に提供することを目的とする取引、②技術を居住者 から非居住者へ提供することを目的とする取引(日本国内での提供も対象となりえます。)、
③USB メモリ等を持ち出したり、電子データを外国へ送信したりする行為などが含まれます。
外国に提供しようとする技術が、後述する「リスト規制」又は「キャッチオール規制」
に該当することが判明した場合は、経済産業省に許可の申請を行う必要があります。経済産業省は、輸出者等から許可の申請を受理した後、安全保障の観点から審査を行い、「許可」、「条件付き許可」又は「不許可」を判断します。
【リスト規制・キャッチオール規制】
(出典)経済産業省「安全保障貿易管理ガイダンス[入門編]」6 ページ
(2)リスト規制
軍事転用が可能な特定性能を持つ製品及び技術の輸出は禁じられています。
例:武器及びその部分品、大量破壊兵器関連資機材(原子力関係・化学兵器関係・生物兵器関係・ミサイル関係)、通常兵器関連汎用品(先端材料・材料加工・エレクトロニクス・コンピュータ・通信関連・航法関連・海洋関連・機微品目・その他)
(3)キャッチオール規制
大量破壊兵器の開発等に試用されるおそれがあることを、 ①経済産業省から輸出企業に通知があった場合(インフォーム要件) ②輸出する製品の用途審査や需要者審査から明らかとなった場合(客観要件) |
リスト規制の対象にない一般製品・技術でも、軍事転用されるおそれがある場合は、経済産業大臣の許可が必要になります。
したがって、輸出企業は原則として全ての輸出品の用途や取引相手について、軍事転用されるおそれがないかを自社で審査する必要があります。
ただし、食料品や木材など、およそ兵器開発とは関係がないと考えられる製品は除かれます。
(4)罰則
規制に違反して許可なく輸出した場合は、次のような刑事罰等が科されます。
〇刑事罰 | ・10年以下の懲役 最大 ・10億円以下の罰金(法人の場合) ・3千万円以下の罰金(個人の場合 ただし、当該違反行為の目的物の価格の5倍が上記罰金額を超える場合、当該価格の5倍以下の罰金 |
〇行政制裁 | ・3年以内の、物の輸出・技術の提供の禁止 ・別会社の担当役員等への就任禁止 |
〇警告 | ・経済産業省からの違反企業に対する警告(原則公表) |
〇経緯書・報告書の提出 | ・違反原因の究明と再発防止に重点をおいた経緯書又は 報告書の提出を求める対応(原則非公表) |
輸出管理規制の内容及び輸出手続等の詳細については、安全保障貿易管理ウェブサイト
(経済産業省)をご参照ください。||METI||安全保障貿易管理**Export Control***
4)米国の技術移転に係る法規制について教えてください
ポイント:米国でなされた発明及び研究成果を日本等(国に限らず、米国に在住の米国 籍を持たない外国人)に開示することに対して、米国では様々な法規制が関連します。例えば、ⅰ経済スパイ法 ⅱ輸出管理規則 ⅲ特許法などがあります。
それぞれの要点は、次の通りです。
ⅰ経済スパイ法 | ・米国内で、外国人や外国企業の利益のために、営業上若しくは技術上の秘密情報を漏洩又は利用し、米国内の所有者 の利益を害した者に対し、刑事罰を科する。 |
ⅱ輸出管理規則 | ・規制対象技術には、①米国が出所である技術、及び②米国が出所である技術又はソフトウェアによる外国製直接生産物がある。 ・「国家安全保障上の懸念がある外国企業のリスト」 (Entity List)に掲載された企業に対し、米国企業が規制対象技術を輸出・再輸出することを禁止。 ・規制対象技術を米国保有者から外国籍保有者に開示することは、外国籍保有者の母国への輸出とみなされる。 ・違反者には、制裁金及び刑事罰を科する。 |
ⅲ特許法 | ・米国内でなされた発明について、米国特許商標庁(USPTO)へ出願後6か月を経ないうちにUSPTOの許可を受けずに外国出願をしたり、秘密保持命令を無視し外国出願をした者に対し、刑事罰を科する。また、その者による米国での特許 出願は拒絶され、又は無効とされる。 |
5)中国の技術移転に係る法規制について教えてください
ポイント:対外貿易法及び技術輸出入管理条例に基づき、技術の輸出入が管理されてい ます。
技術の輸出入は、法律、行政法規に別途定めがある場合を除き、自由です。「禁止類」リストに含まれる技術の輸出入は禁止です。「制限類」リストに含まれる技術の輸出入にあたっては、事前の許可を取得することが必要です。それ以外の技術の輸出入は、契約の届出だけでよいとされています(ただし、届出には、中国語版の契約書が必要です)。
技術の輸出入とは、特許権の譲渡、特許実施の許可、ノウハウの譲渡、技術サービスとその他の技術移転を含みます。
技術輸出入管理条例の主な概要は、以下の通りです。
①権利保証:ライセンサーは、自らがその供与する技術の合法的な所有者又は譲渡若しくは許諾の権利を有する者であることを保証しなければならない。(ただし、技術輸出入管理条例の2019年改正により、「ライセンシーが提供された技術を契約に従って使用し、第三者の合法的権益を侵害した場合、ライセンサーが責 任を負担する。」という規定は削除された。) |
②技術保証:ライセンサーは、その供与する技術が完全で、瑕疵がなく、有効であ り、契約に定めた技術目標を達成できることを保証しなければならない。 |
③技術輸出入管理条例の平成31年改正により、「契約に規定してはならない内容」 (原材料購入先や輸出ルートの不合理な制限等)は削除された。 |
④技術輸出入管理条例の2019年改正により、「改良技術の成果は改良した当事者に 帰属する」という規定は削除された。 |
6)韓国の技術移転に係る法規制について教えてください
ポイント:外国人投資促進法と独占禁止法及び公正取引法等の関連法規が適用になりま す。
韓国の大統領が定めている技術導入契約に該当せず、契約期間が 1 年以下であれば、原則として、自由とされています。
大統領令で定める技術導入契約を締結した場合は、産業通商資源部長官に申告が必要で す。申告した技術導入契約内容を変更した時にも同様です。(外国人投資促進法第 25 条)。
不公正取引行為に該当する主な項目は、以下の通りです。
①原材料、部品、製造設備などの購入先の制限 |
②販売地域、輸出地域の制限 |
③取引相手方、取引数量の制限 |
④取引方式の制限及び販売(再販売)価格の制限 |
⑤並行輸入の妨害 |
⑥特許権等の権利消滅後の使用 |
⑦技術改良の制限及び研究開発の制限 |
⑧契約製品以外の製品へのロイヤルティの賦課および抱き合わせ |
⑨改良技術の譲渡 |
⑩広告、宣伝費などの義務を課すこと |
⑪ロイヤルティの算定及びミニマムの支払い義務を課すこと |
⑫契約解約又は紛争時の規定 |
⑬不争義務の制限 |
4.知的財産契約の関連知識
1)ライセンス契約の交渉開始から契約締結までの工程はどうなりますか
ポイント:段階ごとに、交渉から締結までの次の工程概要を参考にしてください。
次の❝交渉開始~契約締結❞工程概要は、特許・技術を念頭に置いたライセンス契約を例にしたものです。ライセンサーとライセンシーの合意形成(申込と承諾)がなされるプロセスを示します。
❝ 交渉開始 ~ 契約締結 ❞ 工程概要
ラ イ セ ン ス 契 約
マ ッ チ ン グ 活 動 [特許・技術の内容等の確認] (権利者・技術所有者) | |
ライセンス許諾申入れ (特許・技術導入希望者) | |
契約条件骨子 or契約書(案)の提示 (権利者・技術所有者) | |
実 施 条 件 交 渉 (当事者双方) | |
条 件 合 意
契 約 書 作 成 (当事者のいずれか一方) | |
契 約 書 調 印 (当事者双方) | |
契 約 履 行 (当事者双方) |
2)TLO が、大学の所有する特許権等を第三者に実施許諾する場合、TLO の大学からの事務委託についてどのような条文を作成すればよいですか
ポイント:前文にその事実を明記することです。
TLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関)が契約締結権限を有しているかどうかを確認できる委任状等を必要に応じ添付しましょう。
前文としては、次のような文言が考えられます。
○○大学(以下「甲」という。)が所有する特許権の実施許諾について、△△TLO
(以下「乙」という。)は、契約締結の事務の委託を受けており、乙は、甲の所有する特許権等を実施許諾することについて、甲から授権されている。
したがって、乙は、××株式会社(以下「丙」という)と次の通り契約を締結する。
3)ライセンス契約と消費税について教えてください
ポイント:ライセンス契約において、ライセンシーからライセンサーに支払うライセン スの対価については消費税がかかります。
消費税とは、特定の物品やサービスに課税する個別間接税とは異なり、消費者に広く公平に負担を求める間接税です。
消費税の課税対象は、国内において事業者が事業として対価を得て行なう①資産の譲渡、
②資産の貸付け及び③役務の提供と外国貨物の輸入です。
この消費税は、生産及び流通のそれぞれの段階で商品などが販売される都度、その販売価格に上乗せされてかかりますが、最終的に税を負担するのは消費者となります。
①資産の譲渡 | ・「資産の譲渡」とは売買契約により、資産の同一性を保持しつつ他人に移転することをいいます。 ・したがって、特許権や商標権などの無体財産権の譲渡も資産 の譲渡に含まれます。 |
②資産の貸付け | ・「資産の貸付け」とは資産に係る権利の設定など他のものに資産を使用させる一切の行為をいいます。 ・なお、無体財産権の実施権や使用権を設定する行為も資産の 貸付に含まれます。 |
③役務の提供 | ・教官、医師、弁護士、公認会計士、税理士などによるその専門的知識、技能等に基づく役務の提供をいいます。 ・ライセンス契約の技術援助(技術指導、技術訓練)もこれに 含まれます。 |
上記①~③により、ライセンスの対価は、
イニシャル(頭金、契約金、一時金、ランプサムなど)・実施料(ロイヤルティ)・技術援助費(訓練費など)が消費税の対象となります。
なお、ライセンサーが個人であり、事業を行っていない場合は、消費税は課税されません。
4)ライセンシーが支払う対価をライセンサーは減価償却する必要がありますか
ポイント:特許・ノウハウの買取りやイニシャル等の一時金は償却する必要があります。特許等の産業財産権は無形固定資産なので、法定耐用年数に基づいて償却しなければな
りません。特許権の場合は、8 年で均等償却です。
またノウハウについては、原則 5 年で償却することになっています。
ただし、実施料(ロイヤルティ)については、特許・ノウハウの実施許諾に対する対価なので、償却の対象にはなりません(損金扱いで経理処理できます。)。
なお、特許権とノウハウが混在している場合で仕分けが難しい場合は、5 年で償却することになります。
5)特許ノウハウ実施許諾契約を作成するための留意点を教えてください
ポイント:以下のチェックポイントを参考にして、契約書を作成してください。
主な項目 | チェックポイント |
〇実施権の種類を特定します。 | (1)特許等が出願中であれば、「仮専用実施権」か「仮通常実施権(独占・非独占の区別)」かを決めます。 (2)特許権等の場合は、「専用実施権」か「通常実施権(独占・非独占の区別)」かを決めます。 (3)技術情報等のノウハウの場合は、「独占的実施権」か「非独占 的実施権」かを決めます。 |
〇実施権の範囲 (契約期間・地域・内容)を特定します。 | (1)契約期間 契約書では、状況に応じて契約の始期と終期を明確にすることが重要です。 始期の種類 ①調印日 ②合意日 ③発効日 |
終期の種類 ①将来の特定の日 ②一定期間 ③権利存続期間 | |
(2)地域 対象製品の製造・販売の地域を特定します。 特許権等の属地性により、対象製品を輸出できるかどうかは特許庁の設定登録事項ではありませんが、実施範囲としては地域を決定することが重要です。 | |
(3)内容 適用分野・数量制限・顧客制限等があれば明記し、制限がない場合には「範囲全部」と記載します。 | |
〇対価(有償か無償か)を明記します。 | ・有償の場合は、次のいずれかを規定します。 ①一括払い(ランプサム) ②イニシャル(頭金)+ロイヤルティ(実施料) ③実施料のみ ・なお、実施料には、料率性(販売価格等に比例して支払う方法 |
(例:○○%))と従量制(生産数量に等に比例して支払う方法(例:○○円/個))があります。 ・また、専用実施権の許諾あるいは独占的通常実施権の許諾の場合は、ある期間におけるロイヤルティ(実施料)の累計が最低実施料(ミニマムロイヤルティ)に達しなかった場合には、ライセンシーは最低実施料を支払うという規定を設けることがあ ります。 | |
〇支払い方法と支払時期 | ・実施料方式の場合、支払い方法と支払い時期を規定する必要があります。 ・会社の決算時期に合わせて年1回又は年2回の支払いが一般的のようです。 ・なお、ライセンシーの販売実績等が無い場合でも、ライセンサーの管理の立場から、実績が無い旨の実施報告書を定められている期間内にライセンシーから報告してもらう規定が必 要です。 |
〇ノウハウの取扱 い | ・ノウハウの内容として、技術資料等のノウハウのほかに技術指 導の有無を確認してください。 |
〇改良技術・改良発明 | ・契約期間中、ライセンシーが改良技術・改良発明をなした場合には、ライセンサーに通知することや、その取扱いについて予め規定することが必要です。 ・この場合、改良技術・改良発明の定義を明確にすることが重要です。 ・改良技術・改良発明については、上記のようにライセンシーがなした場合に加えて、ライセンサーがなした場合に、当該改良技術・改良発明に関しライセンサーからライセンシーに通知することや、その扱いについてもあらかじめ規定する例もあります。 ・なお、この取扱いが不平等の場合には独占禁止法に違反するおそれもあるので、公正取引委員会が公表した「知的財産の利用 に関する独占禁止法上の指針」をご参照ください。 |
〇第三者の特許等の侵害 | ・対象製品が第三者所有の特許権等を侵害した場合の取り決めが必要となります。 ・ライセンサーの力関係により侵害保証をされない場合もありますが、ライセンシーとして、特許紛争が生じた場合には、ライセンサーの協力を求めることができるようにしておくことが必 要でしょう。 |
〇契約終了後の措置 | ・ライセンサーの立場から規定されることが一般的ですが、規制の厳しい規定は独占禁止法の問題も生じることがあるので、独占禁止法上問題があるかどうか検討してください。 ・終了後の制限としては、類似競合品の製造・販売の制限、技術 情報等の返還義務、秘密保持等があげられます。 |
〇外為法上の措置 | ・技術資料等及び実施許諾に基づく対象製品が海外に輸出される場合であって外為法(正式名称:外国為替及び外国貿易法)による輸出許可を要する技術/製品の場合には、ライセンシーが自己の責任でもって法律上の手続きを取ることを明記する必要があります。 ・なお、輸出する技術/製品が外為法に違反するおそれがあるか どうかは経済産業省に相談してください。 |
6)特許製品が第三者の特許権等を侵害した場合、どのように対応すればよいですか
ポイント:特許実施許諾契約締結に際し、事前に先行技術の調査を行うことが重要です。 万一の侵害が発生した場合の取扱いについて規定しておくことが重要です。
第三者の特許等を侵害し、又は侵害するおそれがある場合は、ライセンサー、ライセンシーが共同で解決する旨を取り決めることが一般的です。
ライセンシーの救済手段として、ライセンサーに対して次の方法等が考えられます。
①ロイヤルティの免除又は減額の請求 |
②契約の解除 |
③損害賠償の請求 |
侵害のおそれがあるかどうかの判断は、弁護士・弁理士等の専門家にご相談ください。
7)特許ライセンス契約において独占禁止法上、気をつけなければならないことは何ですか
ポイント:不公正な取引をしないことです。
特許ライセンス契約を締結する場合、特許法、民法等の法律が関係しますが、そのほか独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)にも注意する必要があります。
独占禁止法第 21 条(知的財産権の行使行為) この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。 |
独占禁止法第 21 条(知的財産権の行使行為)には、特許法に基づく権利の行使と認められる行為には同法の規定を適用しない旨、明記されています。
これは、裏を返せば、特許法等に基づく権利の行使と認められない行為は独占禁止法の規定が適用されるということに他なりません。
不公正な取引に関しては、ガイドラインとして「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成 28 年 1 月 21 日改正)があります。
公正取引委員会においても事前相談を行っていますから、所定の様式及び資料を添えて公正取引委員会事務総局宛に提出してください。
なお、契約条項で条項のいずれかが独占禁止法に違反する場合でも、契約全体が無効になるわけではありませんから、その点留意ください。
契約書は、公正取引委員会に届出をする必要はありません。ガイドラインにしたがって、契約条項を検討してください。契約書作成においてあるいは契約交渉において、契約書の 全条項が白条項(不公正な取引に該当しない条項)であれば、何ら問題なく当事者が合意 すれば契約書に調印することができます。
なお、産業財産権と独占禁止法の関係については、前記「2.37)産業財産権と独占禁止法の関係について教えてください」(49 ページ)をご参照ください。
5.資料編
(1)法律用語の解説
よく使われる法律用語を紹介します。
用語 | 意 味 |
持分 | ・共有関係において、各共有者が有している権利又は共有物に占める 各共有者の権利の割合をいう。 |
故意 | ・わざと行うこと |
過失 | ・不注意のこと |
重過失 | ・重大な過失の意味で不注意ないし注意義務違反の程度がはなはだし い場合をいう。 |
履行 | ・契約上の約束を果たすこと |
双務契約 | ・売買契約、特許実施許諾契約のように、当事者同士に債権債務があ る契約 |
片務契約 | ・贈与契約のように、当事者の片方にだけ債務がある契約 |
善意 | ・ある事情を知らないこと |
悪意 | ・ある事情を知っていること |
善意無過失 | ・不注意もなく、知らなかったこと |
不法行為責任 | ・故意又は過失によって他人に損害を与えた場合、その損害を賠償させること(民法709条) ・例えば、交通事故で加害者が被害者に治療費等を支払うこと |
不当利得 | ・法律上の原因なしに他人の財産又は労務によって利益を得て他人に 損害を与える行為のこと(民法703~704条) |
公序良俗 | ・社会の秩序や一般的な倫理のこと ・民法90条により、公序良俗に反する契約は、無効 |
契約不適合責任 | ・売買契約や請負契約の目的物が種類・品質・数量に関して契約内容 に適合していないと判断された場合、売主や請負人が相手方に対して負うこととなる責任のこと |
帰責事由 | ・契約当事者のいずれかの一方が責任を負うべき事由のこと ・「責めに帰すべき事由」ともいわれます。 ・一般的には、債務者の故意(わざと履行しない)又は過失(不注意により履行しない)になります。 ・帰責事由の有無は、契約及び社会通念によって判断されます。 |
留保 | ・権利・義務の移転等に対し、一定の条件を付けて効力の一部を制限 する、又は権利・義務の一部を残して保持すること |
1)契約の無効と取消はどう違うのですか
ポイント:無効とははじめから契約の効力がないことです。これに対して、取消は契約 の効力を当事者の意思で消滅させることです。
用語 | 意 味 |
無効 | ・契約は申込と承諾によって成立しますが、全ての契約が法で保護されるべき「きちんとした契約」であるわけではありません。 ・たとえば、賭博で負けたらお金を払うという反社会的な契約は無効となります。 ・法的保護に値することを、契約が「有効である」といいます。 ・裁判所を通じて契約内容を実現できるのは、原則として有効な契約に限ります。 ・反対に、申込と承諾が合致して契約は成立しているけれど、法的保護に値しない場合は、その契約は「無効である」といいます。 ・無効な契約とは、外形上は契約が成立しているようにみえても、最初から全く効力が発生しないものであって、お互いに権利も義務もない契約のことをいいます。 ・当事者以外のだれからでも、また、いつでも無効を主張することができます。 ・無効な契約の例としては、麻薬売買契約など公序良俗(社会倫理) に反する契約があります。 |
取消 | ・契約の取消は、一応有効な契約として扱われますが、契約当事者の一方の意思表示によって、その契約ははじめにさかのぼって無効となります。 ・無効と取消は、結果的に見て、どちらも無効になることは同じですが、取消の意思表示をしない限り有効である点に両者の違いがあります。 ・また、無効と違って取消をできるのは、取消をする権限のある人 (取消権者)に限られ、期間制限もあります。 ・取消の方法は、相手方に対して「この契約を取消します」という一方的な意思表示でよいので、相手がそれは困るといっても取消すことができます。 ・しかし、どんな契約も取消ができるのではありません。取消ができるのは、未成年者が親の同意を得ないで契約をした場合、詐欺にあって契約した場合など法で規定されている場合に限ります。 ・従来、契約の重要な点について当事者の「錯誤」がある場合は、無 効とされていましたが、民法の改正(令和2年4月1日施行)により、「取消」の対象になりました。 |
(2)知的財産に関する用語の解説
知的財産の分野における特有の用語を紹介します。
用語 | 意 味 |
帰属 | ・知的財産やそれに係る権利が特定の個人や機関のものになること ・法律用語としても用いられます。例えば、以下の通りです。 「従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。」。 ・会社・大学・研究機関などにおける規程にも用いられます。 ・契約用語としても用いられます。 ・〔例〕特許法第35条第3項 |
抵触 | ・同一の対象物について二つの権利が併存し、独占排他権が重複する関係にあること ・特許権と意匠権、特許権と商標権の間で生じます。 ・特許法第72条に他人の特許発明等との関係について次のように規定されています。 「第72条 特許権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その特許発明がその特許出願の日前の出願に係る他人の特許発明、登録実用新案若しくは登録意匠若しくはこれに類似する意匠を利用するものであるとき、又はその特許権がその特許出願の日前の出願に係る他 人の意匠権若しくは商標権と抵触するときは、業としてその特許発明の実施をすることができない。」 ・実務上は、他者の行為が自らの権利を侵害しているおそれがあるか否か、又は自らの事業が他者の権利を侵害している否かについて外部の専門家に検討・評価を依頼する際に、「権利に抵触しているか 否か」といういいかたをする例も見受けられます。 |
IP | ・Intellectual Property の略語 ・知的財産を意味します。IPR(Intellectual Property Right の略語)と表記されることもあります。 |
弁理士 | ・国家資格を有する知的財産に関する専門家のこと ・弁理士法に次のように規定されています。 「(弁理士の使命) 第1条 弁理士は、知的財産に関する専門家として、知的財産権の適正な保護及び利用の促進その他の知的財産に係る制度の適正な運用に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを使命とす る。」 |
知財ミックス | ・知的財産を多面的に活用する戦略の一つ ・特許権、意匠権、商標権などのそれぞれの知的財産権の強みを組合せて権利化することにより、事業者自らの製品又はサービスを知的財産権で多面的に保護する知財戦略といわれています。 |
サブライセンス | ・ライセンスの一つの形態でライセンシーがライセンスされた特許権や商標権を更に第三者にライセンスすること ・ライセンサー(実施許諾者)がライセンシー(実施権者)と締結した契約(主契約)において、ライセンシー(実施権者)が第三者に主契約の範囲内において、ライセンス(実施権の許諾)を認めることをいいます。 ・ライセンシー(実施権者)が子会社に実施させる場合も、ライセン |
サー(実施権者)からのサブライセンス(再実施権の許諾)がないときは、実施させることはできないのが一般的です。 ・なお、サブライセンス契約は、一般に、主契約が終了すると自動的に終了することに留意する必要があります。また、下請実施と再実 施は異なることに留意する必要があります。 | |
消尽(用尽) | ・特許権者から正当に購入した特許製品を第三者に販売を行っても特許権の侵害にはならないことを説明する理論 ・物が適法に製造され、流通におかれた場合には、当該物に化体された特許権は、用い尽くされたもの(消尽説又は用尽説といわれています。)と解釈され、物を購入した者がこれを第三者に販売しても 特許権の侵害に問われることはないとされています。 |
早期審査制度 | ・所定の要件を満たす特許等の出願については、出願人の申し出によ って、通常の出願よりも優先して審査をする制度 |
(3)知的財産権の種類
知的財産権の種類 | 存続期間 |
特許法 | 出願の日から 20 年 |
実用新案法 | 出願の日から 10 年 |
意匠法 | 出願の日から 25 年 |
商標法 | 登録の日から 10 年(ただし、更新可能) |
半導体集積回路の 回路配置に関する法律 | 登録の日から 10 年 |
種苗法 | 平成 17 年 6 月 17 日以降に登録されたものについては、 品種登録の日から 25 年(木本性の植物については 30 年) 平成 10 年 12 月 24 日から平成 17 年 6 月 16 日の間に登録された品種 の育成者権の存続期間は 20 年(木本性の植物については 25 年) 平成 10 年 12 月 24 日前に登録されたものについては、育成者権の存 続期間 15 年(木本性の植物については 18 年) |
著作権法 | 著作者の死後 70 年 法人著作物は公表後 70 年 (ただし、創作後 70 年以内に公表されなかったときは、創作後 70年) 映画の著作権は公表後 70 年 |
不正競争防止法 | 不正競争行為がある限り無期限(ただし、時効あり) |
不法行為・契約違反等がある限り無期限(ただし、時効あり) | |
秘密情報記録物の窃取・横領、電磁的記録の不正使用等がある限り無期限 |
(4)技術移転の流れと必要な契約の種類
様式見本
(5)特許権移転登録申請書
収 入
印 紙
特許印紙ではありません割印はしないでください
(15 ,000円)
特許権移転登録申請書
令和 年 月 日
特許庁長官 殿
1.特許番号 第○○○○○○○号
2.登録の目的 本特許権の移転
3.申請人(登録権利者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代表者)
※℡: - - (担当者名: )
4.申請人(登録義務者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代表者)
※℡: - - (担当者名: )
5.添付書面の目録
( 1) 譲渡証書 1通
((2) 譲渡人の印鑑証明書 1通)
収入印紙
円
(割印)
記載例
譲 渡 証 書
令和 年 月 日
譲受人
住所( 居所)氏名( 名称)
( 代表者) 殿
特許番号 第 号
上記特許権は、私(弊社) 所有のところ、今般、これを貴殿( 貴社) に譲渡したことに相違ありません。
譲渡人
住所( 居所)氏名( 名称)
( 代表者) ○印
様式見本
(6)実用新案権移転登録申請書
収 入
印 紙
特許印紙ではありません割印はしないでください
(9 ,000円)
実用新案権移転登録申請書
令和 年 月 日
特許庁長官 殿
1.実用新案登録番号 第○○○○○○○号
2.登録の目的 本実用新案権の移転
3.申請人(登録権利者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代表者)
※℡: - - (担当者名: )
4.申請人(登録義務者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代表者)
※℡: - - (担当者名: )
5.添付書面の目録
( 1) 譲渡証書 1通
((2) 譲渡人の印鑑証明書 1通)
収入印
(割印)
円
記載例
紙
譲 渡 証 書
令和 年 月 日
譲受人
住所( 居所)氏名( 名称)
( 代表者) 殿
実用新案登録番号 第 号
上記実用新案権は、私( 弊社) 所有のところ、今般、これを貴殿( 貴社) に譲渡したことに相違ありません。
譲渡人
住所( 居所)氏名( 名称)
( 代表者) ○印
様式見本
(7)専用実施権設定登録申請書
収 入
印 紙
特許印紙ではありません割印はしないでください
(15 ,000円)
専用実施権設定登録申請書
令和 年 月 日
特許庁長官 殿
1.特許番号 第 号
2.専用実施権の範囲
地域期間内容
3.登録の目的 専用実施権の設定
4.申請人(登録権利者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代 表 者)
※℡: - - (担当者名: )
5.申請人(登録義務者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代 表 者)
※℡: - - (担当者名: )
6.添付書面の目録
(1) 専用実施権設定契約証書 1通
((2 ) 特許権者の印鑑証明書 1通)
記載例
専用実施権設定契約証書
令和 年 月 日
特許番号 第 号
上記特許権について、下記の専用実施権を設定することを契約します。
記
専用実施権の範囲
地 域
期 間
内 容
専用実施権者 住所( 居所)氏名( 名称)
(代 表 者)
特許権者
住所( 居所)
氏名( 名称) ○印
(代 表 者)
様式見本
(8)仮専用実施権設定登録申請書
収 入
印 紙
(15 ,000円)
特許印紙ではありません 割印はしないでください
仮専用実施権設定登録申請書
令和 年 月 日
特許庁長官 殿
1.特許出願の表示
2.仮専用実施権の範囲
地域期間内容
3.登録の目的 仮専用実施権の設定
( 4. 特許法第34条の2第5項ただし書に規定する別段の定め「有」)
5.申請人(登録権利者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代 表 者)
※℡: - - (担当者名: )
6.申請人(登録義務者)住所( 居所)
氏名( 名称)
(代 表 者)
※℡: - - (担当者名: )
7.添付書面の目録
(1) 仮専用実施権設定契約証書 1通
((2) 特許を受ける権利を有する者の印鑑証明書 1通)
記載例
仮専用実施権設定契約証書
令和 年 月 日
特許出願番号 特願0000-000000
上記特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権について、下記の仮専用実施権を設定することを契約します。
記
仮専用実施権の範囲
地 域
期 間
内 容
仮専用実施権者住所( 居所)氏名( 名称)
(代 表 者)
特許を受ける権利を有する者住所( 居所)
氏名( 名称) ○印
(代 表 者)
注:( 特許法第34条の2第5項ただし書に規定する別段の定め「有」)
注: 特許出願の分割があったとき、職権登録されることを望まない場合は、特許法第34条の2第5項ただし書に規定する別段の定め「有」と記載してください。
知っておきたい知的財産契約の基礎知識
2004年6月15日発行(「中小企業のための特許契約の手引き」)
2004年10 月1日改訂増補(「知っておきたい特許契約の基礎知識」と改称)
2005年6月20日改訂
2006年6月2日改訂
2007年6月6日改訂
2008年8月27日改訂
2010年1月20日改訂
2010年9月21日改訂
2022年3月30日改訂(「知っておきたい知的財産契約の基礎知識」と改称)
監修
遠藤 誠
BLJ法律事務所 弁護士・博士(法学)
改訂・執筆
金﨑 雄三郎
前独立行政法人工業所有権情報・研修館専門調査員元新日本製鐵株式会社知的財産部専門部長
企画・編集・発行
独立行政法人工業所有権情報・研修館