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市有財産の賃貸借契約の締結に関する住民監査請求の監査結果について、地方自治法(昭和22年4月17日法律第67号)第242条第4項の規定により監査したので、その結果を同項の規定により次のとおり公表します。
平成30年10月16 日
xx市監査委員 | x | x | x | x |
同 | x | x | x | x |
同 | x | x | x | x |
同 | x | x | x | x |
市有財産の賃貸借契約の締結に関する住民監査請求の監査結果について
第1 | 請求の受理 | |
1 | 請求人 | |
住所・氏名 | 省略 |
2 請求の受付
本件請求は、平成30年9月3日に受け付けた。
3 請求の要旨(原文)
別紙事実証明書( ① 学校法人xx学園理事長からxx市長あての平成
29年12月21日付の「専門職短期大学設置についてご協力のお願い」 写し、②xx市から同市議会に提出した資料「本計画の概要」写し、③ x x市から同市議会に提出した資料「年度別計画(予定)写し、④xx市か ら同市議会に提出した資料「xxテルサの再編整備実施計画(案)につい て」写し、⑤xx市産業振興課職員作成の「xxカレッジグループとの協 議(H29.1 2.8)」写し、⑥xx市産業振興課職員作成の「xxカ レッジグループとの協議(H30.1.12)」写し」)の記載によると、
xx市長その他の職員は、事実証明書①記載の学校法人xx学園からの依頼文書に基づいて、同法人の利益を図るためにxx市所有財産である「xxテルサ」の土地及び建物を貸し付ける違法又は不当な賃貸借契約を締結しようとしている事実が認められる。xx市所有財産を他人に貸し付ける契約を締結する場合には、地方自治法その他の法令の規定に従って適正な賃貸借契約を締結する必要があるにもかかわらず、xx市長らは、競争契約その他の適正な契約締結手続を怠り特定の法人の利益を図る目的のためにxx市に損害を与える違法又は不当な賃貸借契約を締結しようとしているのである。事実証明書②記載の貸付料「約1,500万円/年」とする賃貸借契約の締結は、地方自治法第242条第1項に規定する違法又は不当な契約の締結に該当するものである。
「 x x テ ル サ 」 は 、 事 実 証 明 書 ④ 記 載 の 通 り 建 物 延 床 x x
10,993.83平米を要する建物と敷地面積11,467.86平米を有するものであるが、本年8月31日に本件請求人の聴取した産業振興課職員の供述によると「貸付料」は建物分のみで土地の貸付料は徴収しないとしているが、xx市に損害を与える地代不徴収とする契約は地方自治法第242条第1項に規定する違法又は不当な契約といえる。
よって、本件請求人は、xx市監査委員が、本件事実証明書記載の「x xテルサ」の賃貸借契約の締結行為を差し止め、契約締結行為につき責任 を有する者に対して、損害の補填を求めるほか、関係職員に対する懲戒処 分その他の必要な措置をとるようxx市長に対して勧告することを求める。
4 請求の要件審査
本件監査請求は、地方自治法(昭和22年4月17日法律第6 7 号、以下「法」という。)第242条所定の要件を具備しているものと認め、受理した。
第2 個別外部監査契約に基づく監査請求とこれに対する措置
1 監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める理由(原文)
住民監査請求の分野においては、従来の監査委員の制度は、全く機能しておらず、信用できないので、個別外部監査契約に基づく監査を求める必要がある。
2 xx市(以下「市」という)長に法第252条の43第2項前段の規定による通知を行わなかった理由
本件請求の監査を行うに当たっては、監査委員に代わる外部の専門的知識を有する者を必要とするような特段の事情があるとは認められず、むしろ、監査委員の監査による方が適当であると判断したことによるものである。
第3 監査の実施
1 監査対象事項等
本件請求に係る監査対象事項は、市長その他の職員が、市所有財産である「xxテルサ」の土地・建物を、学校法人xx学園(以下「学園」という。)に対して、貸付料を減額して、貸し付ける賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を随意契約によって締結しようとしていることが違法又は不当な契約の締結に該当するか否かという事項である。
そして、その措置請求の内容は、本件賃貸借契約の締結行為を差し止め、その契約締結行為につき責任を有する者に対して損害を補填させるなどの 必要な措置をとるよう市長に対して勧告することを求めるというものであ る。
なお、監査委員は、法第242条第6項の規定に基づき、請求人に対して、平成30年9月27日に、証拠の提出及び陳述の機会を与えたが、請求人からは、新たな証拠の提出はなく、陳述もなされなかった。
2 監査対象部局
本件監査対象部局は、創造都市推進局産業振興課である。
第4 監査の結果
本件請求について、監査委員は、合議により次のとおり決定した。 本件請求は、措置請求に理由がないものと判断する。
以下、その理由を述べる。
1 監査により認められた事実
本件監査は、監査対象部局に事実照会するとともに、関係証拠書類の提出を受けて精査し、現場を見分した上、担当職員から事情聴取するなどの方法により実施し、その結果、次の各事実を認定した。
(1 ) 「xxテルサ」の創設とその運営経過の概要
テルサとは、「都市にある、働く人々のための、リラックスとリフレッシュを目的とした出会い広がる快適空間」を意味する英語表記の 各単語の頭文字を並べた造語であり、元労働省所管の特殊法人・雇用 促進事業団( 以下「事業団」という。) が、設置地の普通地方公共団 体とともに、勤労者の福祉の充実と勤労意欲の向上を図ることを目的 で創設した、勤労者の教養・文化・研修・スポーツ等の活動の場とし て提供する会議室、宿泊室、ホール、レストランなどを備える複合施 設である「勤労者総合福祉センター」の一般呼称として採用したもの であり、事業団は、設置都市とともに、平成4年7月から平成16年
4月までの間に、設置都市の名称を冠したテルサを全国12か所の都 市に設置しており、xxテルサは、全国で3番目に設置された四国唯 一の施設である。
このxxテルサは、事業団と市が、50億円に近い資金を投入して
( 市の負担部分の一部については、 香川県 ( 以下「 県」 という。)からの補助金7 億円が充てられている。) 、 市所有のxxxxxxxxxx0 0 0 0 x0 の宅地1 1 , 4 6 7 . 8 6 平方メートルの地上に、 事務室・ 会議室・ 宿泊室・ ホールなどの施設を備える建物を完成させた上、 平成5 年8 月1 日に開館したものであり、 その事業主体は事業団と市の共同であるが、 その管理・ 運営は、 当初から業務委託契約により財団法人xx勤労者総合福祉振興協会( 以下「 振興協会」という。)に委託して実施させてきた。
そして、平成11年10月1日に、その後制定された雇用・能力開
発機構法の附則第6 条第1 項の規定により、 事業主体の一員であった事業団の権利義務が、 元労働省所管の特殊法人である雇用・ 能力開発機構( 以下「 機構」 という。) に承継され、 事業団が所有していたxxxxxの財産や事務事業が機構に移転したことに伴い、 xxテルサの事業主体も、 事業団と市の2 者から機構と市の2 者の共同 に 代 わ り 、 さ ら に そ の 後 、 平 成 1 5 年 1 2 月 1 8 日 に 、 機 構が x x テ ル サ の 建 物 に つ い て 有 す る 共 有 持 分 全 部 を 市 に 代 金
2 0 , 6 0 6 , 2 5 0 円で譲渡して、 xxテルサの事業主体から離脱したため、爾後、xxテルサの事業主体は市の単独となった。
その後、市は、平成15年の法改正により、同法第244条の2 第
3 項が「 普通地方公共団体は、 公の施設の設置の目的を効果的に達 成するため必要があると認めるときは、 条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するものに、当該公の施設の管理を行わせることができる。」 と規定して、 指定 管理者制度を新設したことに伴い、 xxテルサの 管理・ 運営につい て、 従前の業務委託契約による方法を打ち切り、 指定管理者制度を 導入して、 指定管理者による管理・ 運営に委ねる方法を採用するこ と を 決 定 し 、 関 係 条 例 を 制 定 す る な ど し て 体 制 を 調 え た 上 、 平 成
1 6 年1 月1 日から従前の業務委託先であった振興協会をxxxxxの指定管理者に指名し、 指定管理者による管理・ 運営を実施し始め、 平成2 1 年度以降は、 公募により選定したxxエンタープライズ株式会社を指定管理者に指定して、 その管理・ 運営を担当させ、現在に至っている。
なお、この間、市は、xxテルサの施設が公共交通機関に恵まれず、立地条件が悪いため、 利用者の増加を図る上で障碍になっている状 況 を 打 開 す る べ く 、 平 成 1 2 年 5 月 2 2 日 に 、 資 x x 額 ( 約 3 億
円) を市が負担して、 xxテルサの敷地内に、 自動車2 3 0 台収納可能な駐車場建物を新築し、 これをxxテルサ利用者の用に供するなどして、施設の充実強化を図っている。
(2 ) xxxxxの事業内容とその業績
xxxxxは、勤労者の福祉の充実と勤労意欲の向上を図るため、 勤労者を主とする市民に対し、 教養・ 文化・ 研修・ スポーツ等の活 動の場を提供するとともに、 職業に関する相談や職業情報の提供な どの事業を行い、 その福祉の増進に寄与することを目的としており、具体的には次の各事業を実施している。
① 教養・文化・研修・スポーツ等の活動の場提供に関する事業 ア 講演会・音楽会・各種同好会などの文化交流事業
イ 各種会議、研修事業 ウ 健康増進事業
エ 宿泊、飲食等の提供に関する事業
② 自主企画事業
ア 教育文化の向上のための講座 イ 健康増進のための講座
ウ 文化振興のための事業
③ 施設の管理・運営に関する事業
ア 清掃、 警備、 機械・ 電気設備等運転管理、 保守点検業務などの委託による施設の適正管理
イ 施設の有効活用、組織の活性化などを図る事業
④ その他
ア xx市中小企業勤労者福祉共済事業
イ その他xxテルサの目的を達成するために必要な事業
xxxxxは、以上の各事業を行うため、その管理・運営を開設当初から平成1 5 年1 2 月3 1 日までは業務委託契約により委託先の振興協会に、 平成1 6 年1 月1 日以降は、 指定管理者制度により指定管理者の振興協会又はxxエンタープライズ株式会社に、 それぞれ実施させてきたが、 開設当初から現在まで、 事業収入では必要経費の約半分しか賄うことができず、 毎年、 その不足分を事業主体が負担しなければならない状況が続き、 市は、 その不足額相当の資金を業務委託料又は指定管理料として支払ってきたが、 その金額は、市と指定管理者との契約において市が負担することとなっている1
件当たり5 0 万円を超える金額の修繕費を含めると、 多い年度で年 額1 億数千万円、 少ない年度でも年額1 億円前後を下ることはなく、施設利用者の拡大による事業収入の増大を図る一方、 人件費や管理 費支出の需用費・ 役務費・ 委託費などの経費削減に努めてきたこと により、 市の負担が徐々に幾分か減少してきているものの、 その業 績は一向に好転せず、「 費用」 対「 効果」 の観点からみると、 それ を維持する価値が疑問視される状態で推移してきている。
因みに、平成20年度に、市の公の施設やその指定管理者の事務執行について、 包括外部監査が実施され、 その中でxxxxxに関する監査も実施されたが、 その結果において、 担当の包括外部監査人は、
「経費削減努力の結果をしても、収支のバランスをとるためには1億円程度の市税投入はやむをえない状況にあった。 民間企業が担当することにより、 さらなる経費削減効果があるにしても、 完全民営化するとなると、 施設の減価償却費、 少額修繕費以外の修繕費、 固定 資産税等が追加で必要となり、 民間であっても採算ベースに乗せて運営するのは不可能な施設であると感じた。 民間売却となると更地化して新たな建築物を建てるのであろうが、 その施設の規模から多額の解体費用が必要となり、 早急に、 譲渡先を見つけるのは困難な状況にあると考えられる。 いずれにせよ、 同様の施設運営を続けて い く の で あ れ ば 、 税 金 の 投 入 が 不 可 欠 な 施 設 で あ る と 考 え ら れる。」
という意見を述べ、 その監査時点で、 近い将来に問題となるのは、老朽化に伴う施設の大改修工事費についてであり、 財政状況 がx x x市においては、 それに要する資金調達方法を検討しておかなければならない時期にあるという懸念を指摘している。
(3 ) 「xxテルサ」の土地・建物の概要とその現況
xxxxxは、その事業運営のために次の土地・建物を使用しているが、 その所有者は、 全て市であり、 後記① の土地と② の建物のアの物件については、 不動産登記記録にも市が所有権者として記録さ
れているが、②の建物のイの物件は未登記である。
① 土地の部
所在 xxxxxxxxxx0 0 0 0 x0地目 宅地
地積 1 1 4 6 7 . 8 6 ㎡( 以下「 本件土地」 という。)
② 建物の部
ア 所在 xxxxxxxxxx0000x0 xxxx 0000x0
種類 旅館・集会所・劇場
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付4階建 床面積 1階 3890.04㎡
2階 2382.04㎡
3階 2158.12㎡
4階 1174.96㎡ 地下1階 1291.16㎡
(以下「本体建物」という。) イ 所在 xxxxxxxxxx0000x0
家屋番号 未登記のため未定 種類 車庫
構造 鉄骨造陸屋根3階建
床面積 1階 1932.96㎡
2階 1884.21㎡
3階 38.71 ㎡
(以下「車庫建物」という。) 前記本体建物は、平成5年3月31日に50億円弱の資金を投入し
て新築したものであり、
1 階には、 ロビー、 フロント、 事務室、 固定席5 0 6 席・ 車椅子席
5 席のホールとリハーサル室、 控室、 展示ホール、 トレーニング室、情報提供コーナー、レストランなど、
2 階には、 O A 研修室、 文化教養室、 和室、 エクササイズ室、 控室
など、
3階には、会議室、研修室、視聴覚室など、
4階には、定員47名の宿泊室
地下1 階には、 従業員休憩室、 中央監視室、 機械室、 電気室、 倉庫などを設置している。
また前記車庫建物は、平成12年5月22日に約3億円の資金を投入して新築した2 層3 段自走式の自動車駐車場であり、 収容台数は
230台である。
(4 ) 市の公共施設再編整備計画(案)1次における「xxテルサ」に関する施策
市は、予て公共施設は地域ごとに必要とされる機能や、地域で果たすべき役割等を考慮して、 総量や規模、 配置の適正化を考えることが 重 要 で あ り 、 そ の 再 編 整 備 に 当 た っ て は 、 多 核 連 携 型 コ ン パ クト・ エコシティ推進計画や地域行政組織再編計画など との整合を図るなど、 市の将来のまちづくりの方向性を見据えた対応が求められる と いう観点から、 施設分類ごとに公共施設再編整備計画( 案) の策定を進め、 平成2 8 年度策定分を1 次とし、 その方向性が纏まったものから案の段階で公表し、 パブリックコメントや市民説明会を実施し、 そこで出た意見を参考に必要な修正を行いながら、 計画の進捗を図る方針を打ち出し、 xxxxxについてもその公共施設再編整備計画(案)1次の対象施設の一つとして計画策定を行った。
そして、市は、このxxテルサの公共施設再編整備計画(案)1 次
( 以下「 再編整備計画( 案) 」 という。) を作成するに当たり、 平成2 0 年度に実施された包括外部監査の監査結果に付されていた前記監査人の意見等を基に、 広く有識者などから意見を聴取し、 その意見を反映させて、 xxテルサの施設については、「 平成3 4 年度末までに売却を含めた廃止を検討する。」 という総合評価を決め、平成2 8 年6 月に、 これを再編整備計画( 案) として公表した上、この案について、 同年の7 月と8 月の2 か月間で、 パブリックコメン トを実 施したり、 同年の8 月から1 0 月の3 か月間かけて地域ご
とに市民説明会を開催して、 一般市民に同案を説明して意向を打診するなどの手続をとったが、 公表したxxテルサ施設の再編整備計画( 案) については、 市民からの僅少の反対意見は出たものの、 基本的に大方の市民の賛同を得たものと認識した。
また、この間、市は、平成28年7月に、xxテルサの持続可能な運営・ 既存の枠にとらわれない利活用方法など幅広い事業アイデアの提案や官民連携による様々な可能性を調査・ 把握するため、「 xx テ ル サ の 有 効 活 用 に 向 け て の サ ウ ン デ ィ ン グ 型 x x x 査 ( 対 話式) 」 も実施し、 公募に応じた民間事業者3 者と対話式で虚心に意見交換したが、 いずれの民間事業者も、 xxxxxの施設は立地が悪いため、 その活用は著しく難しいことを強く指 摘し、 市が相当多額の資金を拠出しない限り、 その利活用はできないという消極的な見解を明らかにし、 独立採算による運営関与に積極的な意向は一切出ず、 xxテルサ施設の有効活用に民間事業者の力を活用することは期待困難であり、 これを売却することも容易ではない状況にあることが判明し、 具体案の策定は暗礁に乗り上げた状態で頓挫し、 市の政策目的等に合致する施設の有効な転用策が見出せない状態で推移した。
(5 ) 市が学園と本件賃貸借契約の締結交渉をするに至った経緯
こうした最中の平成29年12月21日、市は、学園から「専門職短 期大学設置についてご協力のお願い」 と題する書面( 以下「 協力要請書」という。)を受け取った。
学園は、この書面によって、市に対し、平成29年の学校教育法改 正により新たな高等教育機関として専門職大学や専門職短期大学の 設立が認められるようになり、 学園としては平成3 2 年4 月xx予 定で観光系学科を有する専門職短期大学を設立すべく準備中であり、平成3 4 年度をもって廃止の方向性が報道されている市所有のxx テルサの土地・ 建物がxx構想中の校舎・ 校庭として望ましいと考 えているという見解を明らかにした上、 その施設を学園の要請に応 じて貸し付けてほしいと願い出てきたものである。
そして、学園としては、この専門職短期大学設立の目的の中に、県内出身者の入学者を確保し、 若者の県外流出を抑制することによる 地域活性化を担う人材を輩出すること を挙げ、 xxが実現すれば、 若者の流入や学生の消費活動など、 その経済波及効果は非常に大き く、 地域の活性化や、 人口減少抑止に貢献できるものと考えており、xx後の短期大学の運営においては、 同短大として使用しない期間 は、 当該施設のホールや会議xxを勤労者の職業教育や研修等を始 め、 市民の教養・ 文化・ 交流等の活動に開放して活用できるように 配慮し、 市における勤労者福祉や文化芸術等の振興・ 発展に寄与す る方針であることを付言している。
(6 ) 学園の概要と学園によるxxテルサ施設の利活用計画
学園は、平成3年4月10日に、教育基本法(昭和22年3月3 1日 法 律 第 2 5 号 ) 及 び 学 校 教 育 法 ( 昭 和 2 2 年 3 月 3 1 日 法 律 第
2 6 号) に従い専修学校教育を行うことを目的として、 学校教育法に基づき設立された学校法人であり、 現在はxxxxxxxx0 0x0 0 xに主たる事務所を置き、 xxコンピュータカレッジ・ xxビジネスカレッジなどの各種専門学校やxx医療大学校等の専修学校を数多く設置・ 運営しており、 学校経営には相応の実績を挙げている。
学園は、市がxxテルサ施設に関する再編整備計画(案)を公表し た後、 同施設の有効活用について、 市に対して具体的提案と汲み取 れる協力要請をしてきた唯一の民間事業者であり、 市は、 その要請 を重く受けとめ、 慎重に検討して、 積極的に対応することとし、 学 園側の担当者と直接に面談し、 学園がxxを予定している専門職短 期大学の目的や設置構想・ 運営指針などについて詳細な説明を受け、学園が協力要請書に掲げている目的・ 構想及び指針が堅実な検討を 重 ねて策定されていて実行性が強いものと認められ、 市がxxテル サ施設の再編整備計画( 案) を策定したファシリティマネジメント 施策や、「 xxxxx生総合戦略」 に掲げる「 若者から選ばれるま ちを創る」 施策としての「 大学等の魅力向上への取組」 などにも合
致し、 xxテルサの施設の有効な転用策として、 真剣に検討するに値するものであると評価できたので、 市も、 その協力要請を積極的に受け止め、 交渉により貸付条件等について合意が得られれば、 市議会や関係機関の承認など必要手続を経た上、 学園側の貸付要請を前向きに受け入れる基本方針を決めた。
(7 ) 市と学園の本件賃貸借契約の締結見込及びその内容
市は、平成30年1月12日以降、学園側と積極的にその方法やx xについて協議を重ね、 同年7 月には、 学園側と概ね次の各事項に ついて合意が成立し、 xxテルサ施設に関する再編整備計画( 案) より具体的な施設の利活用の計画を提示した公共施設再編整備実施 計画( 案) やその実施に必要な施設賃貸借契約の基本的な骨子が固 まったので、 市議会による承認や関係機関の承認を得る手続に移り、その承認や同意が得られれば、 契約締結できる状況となったので、 その契約締結行為がなされることが相当の確実さをもって予測され る状態になった。
ア 貸付開始までに市が措置すべき事務
貸付対象物件が、いずれも現在は市の行政財産としてxxテルサの 用に供され、 平成3 1 年3 月3 1 日までを指定期間とする指定管理 者によって管理・ 運用されており、 その状態のままでは貸し付けで きないため、 市は、 その期間の満了をもってxxテルサの運営を打 ち切り、 同日をもって、 xxテルサの土地・ 建物など全ての施設の 行政財産としての用途を廃止して、 普通財産に移行させる措置をし、xxテルサに関する条例も廃止する手続を完了させる。
イ 貸付けの始期
xxテルサの施設を貸し付ける始期は、学園が前記専門職短期大学をxxさせる準備を行う必要があることを考慮し、 学園希望の平成
31年4月1日からとする。 ウ 貸付けの期間
xxテルサの施設の貸付期間について、学園側は、20年間を希望したが、 市の公有財産事務取扱規則で5 年間を超える期間の貸付け
を行うことはできないとされているため、 当初の賃貸借契約では上 限の5 年間とするが、 学園側が専門職短期大学設立の認可を受ける ためには、 同大学の用に供する土地・ 建物を自ら所有するか、 それ を2 0 年間以上使 用できる権限を有することを保証するものが必要 であるところから、 市と学園の間で、 当初の賃貸借契約とは別個に、その契約期間満了時ごとに新たな同種契約を締結して、 市が学園に 対して2 0 年間は貸付けを継続する合意が成立している旨の 確 認書 を交わすこととする。
エ 貸付料の金額
市が、 路線価及び固定資産税課税上の評価金額を基に、本件土地・建物の適正賃料額を算定した結果、
本件土地は、年額15,057,586円 本体建物は、年額49,147,327円 車庫建物は、年額 2,375,322円 合計金 年額66,580,235円
となったことを相互に確認した上、 次の負担付きで、 全体の貸付料 の金額を本件土地貸付料相当額の年額1 5 , 0 5 7 , 5 8 6 円とし、本体建物貸付料相当額の年額4 9 , 1 4 7 , 3 2 7 円と車庫建物貸 付 料 相 当 額 の 年 額 2 , 3 7 5 , 3 2 2 円 の 合 計 金
51,522,649円を減額する。
市は、本体建物が築後25年と古く、全体的に老朽化のため随所に損傷が発生しており、 近年は1 件当たり5 0 万円以上の費用を要する市費用負担による修繕・ 補修だけでも年平均2 , 0 0 0 万円程度の工事を余儀なくされて、 部分的な応急修繕・ 補修で対応してきているが、 近時、 建築以来改修ができていない外壁の経年劣化が進行して、 安全確保に必要な対策を講じる必要が生じ始めるとともに、吊 り 天 井 に つ い て は 、 平 成 2 6 年 の 建 築 基 準 法 ( 昭 和 2 5 年 5 月
2 4 日法律第2 0 1 号) の改正により既存不適格となり、 大規模改修を行う際には、 天井の改修も実施しなければならないことになっているため、 その建物を学園に貸し付ける交渉を進めるのに合わせ
て 、 外壁の改修工事に着手することを決め、 その予算措置を講じ、間もなく着工する予定であるほか、 吊り天井についても改修を検討することとしているが、 本体建物は、 今後、 内部の壁や造作のみならず、 機械設備や各種施設などの修繕・ 補修や維持管理を要することがxx発生することが予測され、 これを賃貸することになれば、通 常 、 賃貸借契約において、 賃貸物件の修繕義務は、 特約のない限り貸主側にあるとされているものの、 それら修繕・ 補修は現に施設を使用する借主に任せ、 借主において適宜・ 適切な対応をしてもらい、 それに要する費用を貸付料の減額で調整する方法を採ることも合理的であり、 xxの観点に照らしても相当であると判断し、 学園が、 貸付物件を市の施策に沿う事業のために使用し、 市 や市民に多大な貢献をもたらす有用な事業を実施するものであることも勘案して、 借主側の学園が自らの費用負担と責任において修繕・ 補修をすることの負担付きで、 前記のとおり市算定の貸付料を減額することとし、 減額の程度は、 これらの事情を総合的に考慮して前記金額を決定した。
因みに、 この交渉の途中で本体建物の現況を点検して把握された借主 負 担 予 定 の 要 修 繕 ・ 補 修 箇 所 の 修 繕 等 費 用 概 算 見 積 金 額 は 、約2 億3 , 0 0 0 万円であり、 その工事を賃貸借契約予定期間の5年間で均等に分割して施工するものと仮定すると、 その費用は、 年間 x x約4 , 6 0 0 万円となり、 その間、 修繕・ 補修箇所は、 増えこそすれ、 減ることはないと予測されることを考慮すると、 その金額は、 貸付料を減額する5 1 , 5 2 2 , 6 4 9 円にほぼ見合う金額になり、 本件賃貸借契約が実現すれば、 市は、 貸付料として年間約
1 , 5 0 0 万円の収入を期待できるばかりでなく、 これまで市が負担してきた本体建物の年間平均修繕費約2 , 0 0 0 万円や指定管理者に支払ってきた指定管理料約8 , 5 0 0 万円の各支払が不用になる大きい利益を受けることになり、 市は、 本件賃貸借契約の貸付料を前述のとおり減額しても、 市が何ら損害を被る ものではないと認識している。
オ 賃貸借契約の締結方式
本件賃貸借契約は、検討当初からの経緯、その契約の目的・内容などの事情を総合的に勘案すると、 その締結について競争入札の方法を採るなどの競争原理を導入することには馴染まず、 随意契約の方法を採る以外に実現可能な方法はないと判断し、 随意契約で対応することとする。
本件賃貸借契約は、既に詳述しているとおり、市が、平成28年度において、 再編整備計画( 案) を検討する中で、 平成2 0 年度の包括外部監査人の監査意見を基に、 検討すべき施設の一つとしてxxテルサの施設を挙げ、 広く有識者などの意見を聴取するなどして決めた総合評価を再編整備計画( 案) として公表した上、 パブリックコメントや対話式のサウンディング型市場調査、 市民説明会等を実施して、 広く有識者や民間事業者などの市民から意見・ 提案を求めてきたが、 施設の立地条件が悪いことを指摘して、 その利活用は難しいと消極的な意見が述べられるだけで、 市の政策目的等に合致する施設の有効な転用策が見出せない状態で推移していた最中に、 学園からxx構想している専門職短期大学の施設として貸し付けられたいとの申出がなされ、 それを機に検討されてきたもので あり、 その相手方が学校法人という公共的団体であること、 その申出が短期大学の用に供する施設の貸借であり、 貸借に係る施設は短期大学の教育という公共的活動のために使用されること、 学園がxxテルサ
の施設を利用してxxを構想している専門職短期大学の目的 の中に、 県内出身者の入学者を確保し、 若者の県外流出を抑制することによ
り地域活性化を担う人材を輩出すること を挙げ、 xxが実現すれば、若者の流入や学生の消費活動などによる地域の活性化や人口減少抑 止に貢献が期待でき、 市の施策に合致するものであること、 xxテ ルサが担ってきたM I C E の機能についても、 学園が大学活動に支 障が生じない範囲で借り受けた施設の一部を一般市民に開放し、 存 続させる方針であることなどの事実が認められ、 その企画が市の政 策目的等に沿うものであると判断できたので、 その実現に向けて市
と学園が鋭意協議を重ねて立案したものであり、 その賃貸借契約を締結するに至った経緯やその契約の目的・ 内容・ 効用・ 効果などを総合して考えると、 本件賃貸借契約の締結は、 一般競争入札や指名競争入札などの方法には馴染まず、 随意契約の方式を採ること以外は考えられず、 随意契約によってこそ実現可能であると判 断し、 随意契約の方式による契約締結を選択している。
カ 賃貸建物の一部民間開放によるMICE機能の存続
学園は、専門職短期大学xx後も、同大学運営に支障のない範囲で、本体建物のホールや会議室の一部及び車庫建物の一部を市民に貸付開 放することとし、その貸付条件などは学園が検討して定め、事前に公 表する。
キ 本体建物の外壁と吊り天井の改修工事
市は、その責任と費用負担により、学園が構想している専門職短期大学のxx時までに、 本体建物の外壁改修工事を完了させる ほ か 、 吊り天井についても今後改修を検討する。
(8 ) 本件賃貸借契約締結の適法性・妥当性に関する市の認識とその事務の現状
市は、本件賃貸借契約の締結に随意契約の方式を採用し、その契約 内容において一部貸付料を減額することで対応することについては、前述のとおり、 いずれも法令に適い、 何ら違背するものはなく、 そ の手続も、 法令に則り適正に執行しているので、 適法かつ妥当なも のであると認識しており、 前述のとおり、 学園との交渉により、 す でに本件土地・ 建物を学園に賃貸する賃貸借契約の骨子について学 園側との合意も成立している。 なお、 契約締結に備えて、 次の措置 を講じている。
法第96条第1項は、「普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。」と規定し、その第6号に「条例で定 める場合を除くほか、財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払 手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、若しくは 貸し付けること。」を挙げており、市が本件賃貸借契約により本件土
地・建物を学園に貸し付けるに当たっては、その貸付料が適正な対価 でなければ、市議会の議決を得なければならないこととなっているが、 市は、本件賃貸借契約に係る貸付料の減額について、平成30年9月 開会の第4回xx市議会定例会に、議案第96号「財産の減額貸付け について」を提出し、同年9月26日に同市議会定例会はこれを承認 する議決をしており、同議案は成立している。
2 監査委員の判断
市が、本件賃貸借契約について、随意契約の方法により貸付料を減額して契約を締結しようとしていることは、「監査により認められた事実」の (5 )ないし(7 )で詳述しているところから明らかであり、概ね請求人が指 摘するとおり事実であると思料されるので(ただし、請求人が「貸付料は 建物分のみで土地の貸付料は徴収しない」としている点は、後述の事実に 照らして明らかに誤りであり、事実に反している。)、以下、専らそれら の適法性・妥当性について検討する。
(1 ) 随意契約による本件賃貸借契約締結の適法性・妥当性について
ア 本件土地・建物は、貴重な市所有の財産であり、「監査により認められた事実」の(1 )ないし(4 )で明らかなとおり、平成5年8月1日 以降、xxxxxが勤労者の総合福祉活動を営むための公共施設とし て供用してきたものであるが、事業開始当初から現在に至るまで、事 業収入では実用経費の約半分しか賄えないため、毎年、その不足分を 事業主体である市が負担しなければならない状態が続き、毎年、市が 業務委託料又は指定管理料の支払や市の費用負担で施工した修繕費の 支払等で1億円を超える財政負担を行ってきており、「費用」対「効 果」の観点から、それを維持することが疑問視され、平成28年度策 定の市の再編整備計画(案)で、xxxxxの施設は「平成34年度 末までに売却を含めた廃止を検討する」 という総合評価がなされ、様々な機会を設けて、市民や民間事業者等の意見や提案を求めたもの の、大方の民間事業者から同施設の立地条件が悪いという指摘がなさ れただけで、その利活用についての積極的な意見や提案はなく、具体
案の策定は暗礁に乗り上げた状態で頓挫し、その政策目的等に合致す る有効な転用策が見出せない状態で推移していたところ、たまたま、 平成29年の学校教育法改正により新たな高等教育機関として専門職 大学や専門職短期大学の設立が認められるようになったことを覚知し た学園が、市内に観光系学科を有する専門職短期大学を設立すること を企画し、予て市がxxテルサ施設の利活用に関する提案等を求めて いたことを想起し、設立計画中の専門職短期大学の校舎・校庭として 活用できればと考え、同年12月21日に、市に対し、その旨の協力 要請書を提出したことが本件賃貸借契約交渉の端緒となった経緯が認 められる。
イ 市は、再編整備計画(案)において、xxxxxの施設については、
「平成34年度末までに売却を含めた廃止を検討する」という総合評 価がなされており、売却も含めて検討していたものの、その施設の立 地条件が悪く、その規模から見ても容易に売却できるものとは考えて おらず、主としてその利活用を中心に検討していたが、その方法とし て売却や賃貸の方法を採るとしても、本件土地・建物を商業ベースで、 誰がどのような用途に使用しようか構わず、経済的利益を多くもたら す相手方であれば誰にでも、売却や賃貸の処分をする考えは毛頭なく、 如何なる処分も、それが市の政策目的に合致し、市及び市民のために 有為に活用されるものでなければ、貴重な市有財産を処分せず、その 処分の目的や性質・内容・用途等を十分勘案して処分を決定する方針 であったため、その処分に競争入札等の競争原理を働かせるのは適切 でなく、その処分は随意契約の方法によってのみ実現できると考えて いたので、学園側の要請を受けた後、その計画内容等を慎重に検討し、 その計画が市の政策目的等に合致し、その処分が相当であると評価で きれば、その要請に応じることとした。
市の調査・検討の結果は、「監査により認められた事実」の(5 )及び( 6 ) で明らかなとおり、 賃貸を要請してきた学園は営利を目的とする団体ではなく、 各種専修学校を数多く経営する実績を有し、 学校教育という公共的活動を営んでいる学校法人であり、 xxテルサ
施設の有効活用に関して、 市に対して具体的提案と汲み取れる協力要請をしてきた唯一の民間事業者であるところから高い実効性が期待でき、 交渉するに値する相手であると評価し、 慎重に交渉を開始した。
ウ 学園は、この交渉において、新規短期大学設立の目的や運営方針の中に、県内出身の入学者を確保し、若者の県外流出を抑制することに
よる地域活性化を担う人材を輩出することを挙げ、xxが実現すれば、 若者の流入や学生の消費活動など、その経済波及効果は非常に大きく、 地域の活性化や、人口減少抑止に貢献できるというものであることを 明らかにし、市が目指すまちづくりの政策目的に合致しており、xx 後の短期大学の運営においても、短大の使用に支障がない範囲内で当 該施設のホールや会議xxを勤労者の職業教育や研修等を始め、市民 の教養・文化・交流等の活動に開放して活用できるように配慮し、市 における勤労者福祉や文化芸術等の振興・発展に寄与する方針である ことも表明しており、市としては、学園による本件施設の利用は、市 や市民にとっても極めて有効な転用策であると判断し、そのための賃 貸借契約締結に関する交渉を開始し、大筋の合意を形成したものであ り、その結果に基づく賃貸借契約を締結する方法として随意契約によ ることとしたことには合理的な理由が認められ、その方法をとること について、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用のあったものとは到底考 えられず、適正かつ妥当なものであると思料する。
エ そして、市などの地方公共団体が契約を締結する方法については、法第234条第1項が「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争 入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するも のとする。」と規定して、 四つの方法によることとされており、その うち一般競争入札を除く三つの方法については、同条第2項が「前項 の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当 するときに限り、これによることができる。」と規定して随意契約に よることができる場合を限定し、同規定を受けて制定されている地方 自治法施行令(昭和22年5月3 日政令第16号、以下「政令」とい
う。)第167条の2第1項第2号は、法第234条第2項の規定に より随意契約によることができる場合の一つとして、「不動産買入れ 又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工 又は納入に使用されるため必要な物品の売払いその他の契約でその性 質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」を挙げている。 オ 市は、本件賃貸借契約の締結について、前述のとおり、随意契約によることを選択し、契約の相手方である学園との間で、本件賃貸借契 約を随意契約の方法によって締結することを合意しているが、それは 前 項 で 詳 述 し た 事 情 ・ 理 由 に よ る も の で あ り 、 正 に 前 記 x x 第
1 6 7 条の2 第1 項第2 号が随意契約によることができる場合の一つとして規定する「 その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき。」 に該当し、 是認できるものであると判断することができ、 何ら違法・ 不当な点はないものと言わなければならない。
カ 請求人は、本件賃貸借契約が違法・不当なものであると主張する理由の一つとして、その契約を競争入札によらず随意契約の方法により 締結しようとしていることを挙げ、それは、市が学園の要請を受け、 学園の利益を図る目的で対処しようとしているからであると言わんば かりの主張をしているが、本件賃貸借契約が成立し、学園が願い出た とおり本件土地・建物を借り受けることができれば、学園としては、 自らの希望が叶い、それを新設予定の短期大学の運営に使用できるこ とになる利益に繋がり、相応の利益を得ることになるとは言えるもの の、それ以上の意味はなく、「監査により認められた事実」の(7 )のエで明らかなとおり、市が意図的に学園の利益を図るために対処した 結果ではない。
本件賃貸借契約自体は、相互の利害をお互いに調整しながら、 通常
の商取引と同様の商業ベースで、各自の損得勘定により交渉しており、 市は専ら市及び市民の利益と地域の活性化などの施策目的に照らして 対応し、学園も営利を目的とする団体ではなく、各種専修学校を運営 する公共的団体として、公共的活動をしているものであるという観点
から対処しているものにすぎず、その手続・内容から見て、市が特に 学園側の利益を図って対処したことを窺わせる事情や証拠は全く存在 せず、違法・不当な点は一切見当たらないので、この点に関する請求 人の主張も到底是認することができないものであると判断する。
(2 ) 本件賃貸借契約における貸付料減額の適法性・妥当性について
ア 市は、「監査により認められた事実」の(7 )のエで明らかなとおり、協力要請を申し出てきた学園との間で、本件賃貸借契約に関する交渉 をする中で、重要な契約要素の一つである貸付料の金額を決定する必 要があったため、貸付交渉対象物件の路線価及び固定資産税課税上の 評価金額を基に貸付料金額を算出する一般的な算定方法により、その 計 算 を し た 結 果 、 貸 付 交 渉 対 象 物 件 の う ち 、 本 件 土 地 分 は 年 額
1 5 , 0 5 7 , 5 8 6 円、 本体建物分は年額4 9 , 1 4 7 , 3 2 7円 、 車 庫 建 物 分 は 年 額 2 , 3 7 5 , 3 2 2 円 で 、 そ の 総 額 は 年 額
6 6 , 5 8 0 , 2 3 5 円という金額が相当であることが分かり、 その結果を借主側の学園に示したところ、 学園側はそれに特に 異 議を申し立てず、 契約当事者双方がその評価金額を前提として、 賃貸借契約で約定する現実の貸付料の金額を幾らに決定するかという交渉に移ったが、 それに関連して貸付交渉対象物件の改修・ 補修の問題が俎上に昇り、 これを貸付料金額決定の問題と合わせて交渉することになり、 その改修・ 補修工事の費用負担の区分と貸付料減額を関連させた合意形成が図られた経緯が認められ、 貸付料の 評価方法、評価金額及び契約貸付料決定交渉の方法については、 契約予定当事者双方が十分に納得しており、 適正かつ妥当なものであると思料する。
イ 而して、本件貸付交渉対象物件のうち本体建物は、「監査により認められた事実」 の( 2 )、( 3 ) 及 び( 7 ) のエで明らかなとおり、 築後
2 5 年が経過しているため老朽化が激しく、 全体的に随所に損傷が発生しており、 近年は1 件当たり5 0 万円以上の費用を要する市費用負担による修繕・ 補修だけでも年平均2 , 0 0 0 万円程度の費用を要する工事を余儀なくされ、 部分的な応急修繕・ 補修で対応して
き ているものの、 建築以来改修ができていない外壁は経年劣化が進 行して、 安全確保に必要な対策を講じる必要が生じ始めるとともに、吊り天井については、 平成2 6 年の建築基準法の改正により既存不 適格とされ、 大規模改修を行う際には、 天井の改修も実施しなけれ ばならない状況にあるほか、 建物内部の壁面・ 天井、 間仕切り、 造 作・ 機械設備・ 各種施設なども随所に本格的な改修・ 補修を行わな ければならない現状にあることが認められ、 その修繕・ 補修につい ては、 現行民法( 明治2 9 年4 月2 7 日法律第8 9 号) 第6 0 6 条 第1 項が「 賃貸人は、 賃貸物の使用及 び収益に必要な修繕をするx xを負う。」 と規定していることから明らかなとおり、 一般的には、貸主側が、 その修繕を担う責務があり、 その責任と費用負担により 修繕すべきものとされており、 本体建物の基幹的部分である外壁と 吊り天井の改修・ 補修については、 安全確保と維持管理の要請から、本件賃貸借契約の成否にかかわらず、 早期に改修・ 補修の工事をx xしなければならないと考えていたので、 本件賃貸借契約の交渉を 機に、 市の責任と費用負担により施工することを意思表明し、 学園 側もそれを了承した。
ウ しかし、市としては、建物内部の改修・ 補修の工事は、市側で施工するよりは、貸付けを受けて現に使用する学園が、自らの使い勝手等 を考え、設立する短期大学の運営に支障が少ない時期を選んで随時x xする対応をとることが合理的であり、それに要する費用負担を貸付 料の減額で賄う方法で調整すれば、xxにも適うものと考え、これを 学園側に提案したところ、学園側もそれに同意し、その旨の合意が成 立した。
エ この間、市は、その交渉時点で本体建物内部の現況を点検して、改修・ 補修を要する箇所を把握し、 その工事に係る費用を 概算で見 積 もったところ、その金額は、 約2億3,00 0万円となり、その工事を本件賃貸借契約で予定されている貸付期間の5年間で均等に分割し て施工するものと仮定すると、 その費用の年間平均は 約4 , 6 0 0万 円 と な り 、 貸 付 対 象 の 本 体 建 物 の 貸 付 料 評 価 金 額
49,147,327円と車庫建物の同評価金額2,375,32 2円 の 合 計 金 5 1 , 5 2 2 , 6 4 9 円 と 比 較 す る と 、 そ の 差 は 、 約
550万円となり、その貸付料相当額がその改修・補修見積金額より同金額分多いことになるが、経験則に照らして、その貸付予定期間内 に修繕・補修箇所が増えることはあっても減ることはないものと予測 され、 それに 伴って前記改修・補修費用の金額が高額になることが 高い確率で想定されることや、本件賃貸借契約が実現すれば、市は、 貸付料として年間約1 , 5 0 0 万円の収入が確実に期待できるばかり か 、 こ れ ま で 市 が 負 担 し て き た 本 体 建 物 の 年 間 平 均 x x x 約
2 , 0 0 0 万 円 や x x x x 者 に 支 払 っ て き た x x x x 料 年 額 約
8,500万円の各支払が不用になるという大きい利益を受けることの諸事情を考慮すれば、市が、本件賃貸借契約における貸付料の全額 を本件土地分の年額15,057,586円とし、学園がその責任と 費用負担において本体建物分と車庫建物分の貸付料評価額の合計金
5 1 , 5 2 2 , 6 4 9 円相当額を減額しても、 市にとっては、 総体
もたら
的に何らの損害も被らないばかりか、 相応の利益を 齎 す事が期待で
きると判断し、 本体建物内部改修の費用負担とそれに見合う貸付料 減額の提案をし、 学園側の同意を得て、 合意形成に至っており、 そ の方法・ 手続及び内容において、 何ら違法・ 不当な点は見当たらず、適正かつ妥当なものと判断する。
オ こ の 貸 付 料 減 額 に よ る 本 件 賃 貸 借 契 約 の 締 結 に 関 し て は 、 法 第
2 3 7 条第2 項は、「 第2 3 8 条の4 第1 項の適用がある場合を除き、 普通地方公共団体の財産は、 条例又は議会の議決による場合でなければこれを交換し、 出資の目的とし、 若しくは支払の手段として使用し、 又は適正な対価なくしてこれを譲渡し、 若しくは貸し付けてはならない。」 と規定しており、 本件賃貸借契約によって市所有の本件土地・ 建物を学園に貸し付けるに当たり、 適正な対価がない場合は、 条例又は議会の議決によることが必要であるとされている。
市は、 前項で詳述しているとおり、 本件賃貸借契約の 中で、 借主
側は、 貸付料の減額を受けることの反対給付的措置として、 ほぼそ の減額に見合う改修・ 補修の工事費用を負担することの約定がなさ れることになっており、 その反対給付的措置に係る費用負担と貸付 料の減額が正確に見合うものであれば、 減額した貸付料は適正な対 価とみることもでき、 前記減額をした貸付料で貸し付けることにつ いて、 議会の議決による必要はないと言えなくもないという解釈が 妥当するかもしれないが、 市は、 反対給付的措置としてとは言え、 貸付料の減額をして貸付けを行う以上、 その適正性・ 妥当性を確保 する必要があると判断し、 法第9 6 条第1 項第6 号の規定に基づき、平 成 3 0 年 9 月 x x の 第 4 回 x x 市 議 会 定 例 会 に 、 議 案 第 9 6 号
「 財 産 の 減 額 貸 付 け に つ い て 」 と し て 、 貸 付 料 を 減 額 し て 本 件 土地・ 建物を学園に貸し付ける本件賃貸借契約を締結することにつき議決を求める議案を提出し、 同月2 6 日に、 これを承認する議会の議決を得ており、 本件賃貸借契約の締結に備えて、 適正かつ妥当な事務処理をしているので、 その手続においても、 何ら違法又は不当な点は見当たらず、適正かつ妥当であると判断する。
カ 請求人は、本件賃貸借契約が違法・不当なものであると主張する理
由の一つとして、この貸付料の減額を挙げ、市は学園の要請を受けて、 学園の利益を図る目的で、本件賃貸借契約を締結しようとしていると 主張しているが、「監査により認められた事実」の(7 )のオで明らか なとおり、それは、競争入札によらず随意契約の方法によって対処し ようとしている目的の不当性を指摘する請求人の主張に対する理由と 同様、市が、学園の利益を図る目的で対処した結果でないことは明白 であり、その主張が失当であることは明らかであり、この点に関する 請求人の主張も到底是認できるものではないと判断する。
(3 ) むすび
請求人は、本件賃貸借契約が違法又は不当であると主張し、その理由として、 市が、 学園の利益を図るために、 競争入札などの競争原理によらず随意契約の方法により契約締結をしようとしている事実と、 貸付料の減額を行っている事実の二つの具体的事由を挙げてお
り、 いずれの事実も、 その存在自体は認められるものの、 前項までの検討で明らかなとおり、 それらの事実は、 いずれも適法かつ妥当なものと認められ、 何ら違法又は不当な点はなく、 請求人の主張以外 にも違法又は不当とする事由は一切見当たらず、 請求人の主張が失当であることは明らかと言わざるを得ないと判断する。
よって、本件措置請求には理由がないものと判断する。
以上